4.会議の模様
(1)小渕内閣総理大臣から挨拶
(2)出席者の紹介
(3)運営要領及び本懇談会の進め方について竹島内閣内政審議室長から説明
(4)座長を唐津委員に選任した。
(5)各委員からのコメント概要
○ 米国では1980年代にヤング・レポートが出されてから、MITがMade in Americaを出し、マルコム・ボルドリッジ賞まで行った。ここでは大統領が直接、賞を企業に対して手渡す。今回の懇談会においても日本版ヤングレポートのようなものを発出することを考えたら良いのではないかと思う。最近起きた3つの事件は相互に全く関係が無いが、世間は関係があると思っている。これを契機に、日本人がものづくりを大切に考える空気を作り出すように利用して行けば良い。その意味においてチャンスであると考える。
○ ものづくりを考える際には、デザイン・感性の問題、現場における作業者の問題、プロジェクト・マネジメントの問題について検討する必要がある。特に、最後のプロジェクト・マネジメントについては、今回の一連の不祥事は情報の交換・共有の不備が最大の問題であるとする見解もあり、情報流通環境を如何に整備するかが今後の課題である。また、デザインにおいても情報技術を如何に活用していくかが重要な課題である。いい意味での日本の伝統的なものづくりを尊重しつつ、情報共有や情報交換の面で情報技術を活用していくことが大事となる。
○ 日本の技術は縄文時代における土器を作っていた時期から素晴らしいものがあり、これが旋盤工の技術につながっている。こうした技術の素晴らしさは日本の文化とも言い得るものであり、技術がすたれているということは、日本文化の根幹を揺らすものであると言わざるを得ない。ものづくりをする人間の教養がもっとも重要であり、徹底的なものづくりの人間教育をしなければならない。
技能は頭脳と肉体が連携して発展してきた。現下のものづくりを軽視する風潮の中で技能が肉体から離れていくのはゆゆしき問題である。
○ 「ものづくり」は、技術開発と製造工程における品質のつくり込みの2点にわけられる。技術論については、いかに創造的なクリエイティブな人をつくるかが課題になるが、品質のつくり込みについて申し上げたい。
どんなに素晴らしい半導体製造装置であれ、コンピューターであれ所詮、人間の作ったものである。発展途上国に最新鋭の機械を入れても我が国と同様の製品が作れる訳ではない。ここに「ものづくり」のノウハウとそれを支える人の問題があると思う。品質は、製造工程中で「つくり込む」ことが重要である。欧米では最終工程で検査したりしており、こういった体制がかつては主流であったと思うが、これでは、いつまでたってもいいものは出来ない。ものづくりを教える人と教わる人が一緒に製造ラインに立ち、汗を流すことが重要であるが、最近、そうしたものがなくなりつつある。マネーゲームやインターネットビジネスの普及の中で汗を流して忍耐力を持ってお金を稼ぐということが欠如してきているのは誠に嘆かわしいことである。ものづくりの本質は人であり、責任、こだわり、妥協しないことが必要である。教育の現場における改革が重要である。
○ 日本の品質の高さは世界に残すべきものであるが、最近、根底のところで深刻な問題が起きている。これまでの日本の技術力の強みは、大卒のエンジニアと高卒の熟練工のチームワークがうまくいったこと、大企業と中小企業の連携がうまくいったことにあるが、最近は、現場における技術力が衰えてきているとともに、中小企業と大企業の連携がうまくいかなくなってきている。これまでうまくいったのは、まず文化的には我が国には「ものづくりの精神」が根付いているということである。先日、韓国の学者と話しをする機会があったが、彼が言うには、韓国の産業の最近の発展は目覚ましいが、どうしても日本のようには作れないという。韓国は日本の製品と同じように外見を美しくできるが、目に見えないところまでは立派には出来ない。日本の製品は外見のみならず、目に見えないところまで立派であるというのである。最近、こうした風潮を支えた「ものづくりの精神」が失われかけている。また、制度的には長期雇用の慣習や金より技術を大切にする考え方がうまく機能してきた。ところが、最近は「お金至上主義」の考え方や、「日本の過剰品質は問題である」という指摘が横行し、長期雇用の傾向も壊れつつあり、制度的基盤も崩れつつある。
国内では若い技術者も居なくなっている。先日、シンガポールの工場を見学したが、そこではプラスチックの金型を作っていた。日本では、手で最後の感触を確認しなければならないような精緻な金型を作れる人は60代の人のみであり若い人にはおらず、シンガポールの人に頼むしかないんだそうである。産業の空洞化が進展し技術の空洞化の危険があるのではなく、既に、シンガポールでしか作れる人がいないのでシンガポールに出ていっているというのが現状である。
○ 85年を境に元気な中小企業は居なくなった。40代より下の世代において、まともな技能工は育っていない。工業高校の位置付けが低い。偏差値でも下の方であるし、卒業しても製造業に就職するのは2割位である。中にはフリーターになってしまう者も居る。この辺のことをどう考えるかは深刻な課題である。
○ 国全体が「ものづくり」に対して軽蔑の眼差しである。学生が研究室を覗いたとき、きれいな研究室を好む傾向にあり、油にまみれたような研究室は選択しない。ものをつくるという大切さが分かっていない。
最近は、ものづくりを行おうとする中小企業が倒産している。総理から是非、こうした中小企業が元気を出せるように号令をかけて欲しい。
最近の学生は数学を暗記して勉強するらしい。ものごとを覚えるだけで回答することとしていく。自分の頭で考えることは出来ない。これは偏差値教育の結果だが困ったものだ。米国では、偏差値とは別に、人間の能力を開発・評価するエイジェントがある。ノウハウを教示してもらおうとしたら、そんな大切なものを出せるかと言われた。それ位、米国では偏差値以外のことを重視しているのである。他方、我が国では偏差値教育がつきまとい、実力評価は社会が行っていない。偏差値を鵜呑みにしている。親日家のビル・トッテン氏ですら、日本の新制教育を受けた者は創造的な仕事をした人が出ていないということをはっきりと言っている。
大学の先生でも実験をやったことの無い者が最近は沢山いる。硫酸と水を混ぜる場合には、水に硫酸を加えるのが常識であるが、硫酸に水を加えて行くという信じられないことを行う者がいる。また、最近、若者に任せろ、若ければよいということを言う人がいるが、自分の実力を知らない若者が増えている。自己主張が強くなるが、中身が伴わない。そういう人達が勝手に手順書を書き換え、それでいながら問題があれば逃げてしまう。日本人全体が社会に対する責任感を失っている。
○ 事故が発生すると犯人探しに没頭し、原因の究明に努めようとしない。この点、米国では司法取引を通じて原因を正確に把握しようとしている。また、効率化の流れの中で、マニュアル作りが浸透しており、技術を俯瞰する者がいない。技術を俯瞰する人が現場に戻ることが重要である。技術を俯瞰する人が居て始めて異常時に対応できる。また、現場のトップがものづくりの現場に対する実状を知らなすぎる。現場におけるプレイング・マネージャーが必要だ。
また、日本には、品質管理に関する賞が、デミング賞、日本経営品質賞等4つあり、品質管理に関する学会は7つある。これらの団体と政府が連携できれば、現状の品質管理における問題をなんとかする方法があるはず。
ヤングレポートは、毎年出している。日本は、そんな例はない。何かあると犯人探しをしてお終いである。犯人探しではなく、原因究明をすることが重要。アメリカで航空機事故が減ったのは、司法取引をして、原因を突き止めたからだ。
○ 皆が「問題だ、問題だ」と言い過ぎるのは良くない。技術者を叩きすぎ自身喪失に陥るのは良くない。実際のところ、現場の技術力は素晴らしい。我が国は、米国のように金を右から左へ移せば良いという風にはいかない。モノを作っても駄目だから株でも買うかという風潮に陥ってはいけない。
こうした事故が契機となってマニュアルを変えてはいけないという思想が行渡ることは問題である。技術者にとってみればマニュアルを壊すのが重要なのである。マニュアルを壊し変えていくことこそ技術者の行うことなのである。本懇談会では暗いことばかりではなく明るいことも言ってもらわなければ困る。
○ 私は金型産業を営んでいるが、こうした技能工のノウハウを情報技術を用いてマニュアル化した。このマニュアル自体は大卒の者が作ったものであるが、このマニュアルによりフリーターを雇用して教育したところ、1ヶ月で金型を作れるようになった。「技能」は人に身に付くものであるのに対し、「技術」は再現性のあるもの。「技能」を科学的に分析すれば、これを情報技術により「技術」に変換していくことは可能である。日本の職人の平均年齢は52.5歳だ。早急にこうした者の「技能」を保存していくことを考えないといけない。更に、最近の大企業では、携帯電話でも自動車でも開発のリードタイムを短縮しようという傾向にあり、こうしたマニュアル化はこうした開発期間の短縮にも役立っている。
本会議の運営について一言すれば、こうした議論の概要は是非、インターネット等でリアルタイムで公開するようにして欲しい。
○ 私は、かつてピアノ工場で働いたことがあるが、為替で苦労した。現在の日本の現状に鑑みると円高が問題になる。1ドル=100円では製造業者の従業員に魅力ある賃金を払えるとは思えない。ゼロ金利で円高というのは貿易黒字が原因にある。一層の市場開放を行って貿易黒字が減少すれば円高も止まるのではないか。現在の日本は70年代のドイツに似ている。ドイツでは、70年代以前においてはカメラ産業も繁栄していたが、マルク高で全滅した。日本の高い技術力を持った製造業が海外へ追いやられ、国内に保護された競争力の無い産業のみが残ってしまうというのは問題である。一生懸命やっても円高でやられてしまうのでは仕方が無い。
アメリカの製造業の競争力は弱いというが、米国は日本よりは裾野が広いのではないかと思っている。日本では試作品のアイデアを持っていても、それを作ってくれるところが無く、どのように探したら良いかも分からない。米国の場合は、ガレージ、工具等を備えた工房を持っている者が多数存在し、飛行機でもつくってしまう。アップル・コンピューターもシリコン・バレーもガレージから生まれた。我が国でも良いアイデアを持って行けば直ぐに試作品を作るような工房を整備するような施策を出すことが必要である。
(5)スケジュールについて唐津座長から説明
次回の日程等については、各委員の日程を調整した上で、事務局から連絡する。
(別紙)
第1回ものづくり懇談会出席者(政府側)
小渕 恵三 内閣総理大臣(主宰) 額賀 福志郎 内閣官房副長官(政務・衆) 松谷 蒼一郎 内閣官房副長官(政務・参) 古川 貞二郎 内閣官房副長官(事務) (委員)
唐津 一 座長、東海大学教授 秋草 直之 富士通株式会社社長 梅原 猛 国際日本文化研究センター顧問 奥田 碩 トヨタ自動車株式会社会長 加護野 忠男 神戸大学大学院経営学研究科長 関 満博 一橋大学商学部教授 西澤 潤一 岩手県立大学長 前田 又兵衞 社団法人日本品質管理学会会長 牧野 昇 株式会社三菱総合研究所相談役 山田 眞次郎 株式会社インクス社長 リチャード・クー 株式会社野村総合研究所主席研究員