「沖縄経済振興21世紀プラン」

中間報告の概要

平成11年6月

T.プランの基本的構成

第一部沖縄経済の現状と課題
 1.厳しい沖縄経済の現状
 2.依存型経済の現状
 3.沖縄経済の自立化に向けての展望と課題

第二部政策の理念と基本方向
 1.政策の基本的理念
 2.政策の展開に当たっての基本的考え方

第三部政策の具体化の方向と今後の課題
 1.主要分野における産業振興
 (1)加工交易型産業の振興
 (2)観光・リゾート産業の新たな展開
 (3)国際的なネットワークを目指す情報通信産業の育成
 (4)農林水産業の新たな展開
 2.産業振興のための横断的な取組
 (1)新規事業の創出支援体制の充実
 (2)研究開発と国際交流の促進
 (3)人材の育成と雇用の確保
 (4)環境共生型地域の形成
 (5)産業活動を支えるインフラ等の整備
 3.今後の検討課題


U.プランの概要

第一部沖縄経済の現状と課題

1.厳しい沖縄経済の現状
 本土の2倍の失業率に示されるように、沖縄経済の現状は極めて厳しい。

(1)雇用情勢

○復帰後、全国を大幅に上回る就業機会の拡大を実現(昭和47年→平成10年:全国26%増、沖縄54%増)したが、全国を上回る大幅な労働力人口の伸び(同全国30%増、沖縄62%増)に十分対応できない状況。

○失業率の動向(平成10年)
全体若年労働者世帯主
7.7%
(4.1%)
15〜19歳
20〜24歳
25.0%(10.6%)
15.9%(7.1%)
4.0%
(2.9%)

※()書きは、全国平均の失業率。

○有効求人倍率の動向
 平成10年の有効求人倍率は0.19倍(cf.全国0.53倍)と本土復帰時点に逆戻り。

○新規学卒者就職決定率(平成11年3月卒)
 高卒者の就職決定率は67.2%で、全国最下位。(cf.全国93.6%)

(2)産業構造

○産業構造
 第3次産業の比重が突出して高く、建設業も相対的に高くなっている反面、製造業の比重が極めて低い構造。第3次産業の中でも、特に、政府サービスや観光・リゾート産業を含むサービス業の構成比が高い。

○観光・リゾート産業
 昭和47年に約44万人であった入域観光客数が平成10年には約413万人となっており、右肩上がりの増加傾向。今後とも他業種の成長を牽引するリーディング産業としての一層の飛躍を期待。

○情報通信産業
 県の戦略的産業として位置づけられており、地域における情報化の推進に寄与するとともに、地域振興と雇用創出の新しい担い手として期待。

2.依存型経済の現状
 基地経済への依存は低下してきたものの、財政依存はむしろ拡大。経済自立化への道は険しい。

○基地経済への依存度の推移
昭和47年度 平成8年度
15.6%4.9%

※ただし、こうした統計には、基地周辺整備事業費や市町村等への交付金等は含まれておらず、これを加えると、約7%と推計され、沖縄の民間住宅投資とほぼ同率となり、低い水準とはいえない。

○財政依存度の推移
昭和47年度 平成8年度
23.5%32.7%

※全国平均(平成8年度)で17.7%であり、沖縄県は2倍近い。

3.沖縄経済の自立化に向けての展望と課題
 現状のまま推移すると、長期的にも高失業率及び財政依存型経済は改善されない。

○依存型経済の推移
<現状推移ケース>
 2020年には沖縄県の経済成長率は1.5%、失業率6%、財政依存度35%と、現状よりむしろ悪化することが見込まれる。

<戦略産業振興ケース>
 2020年の沖縄県の経済成長率は2.2%、失業率3%台、財政依存度31%という分析結果なっている。

 上記のとおり、産業連関表を用いたシミュレーションの結果をみると、問題の改善に相当の努力が必要であることを示唆している。

第二部政策の理念と基本方向

1.政策の基本的理念

(1)自立型経済の構築に向けて
 経済自立化は閉鎖的経済ではなく、開放体制の中で、なおかつ持続的成長を可能とする成長の原動力を地域経済自らが持つことを意味するものであること。

(2)我が国経済社会に貢献する地域としての沖縄
 「我が国経済社会に貢献する地域」としての沖縄の位置づけは、沖縄の「特殊事情」への的確な認識とともに、今後の沖縄振興策の推進に当たって併せ求められる政策理念であること。

(3)アジア・太平洋地域の交流拠点としての発展
 新全総でも示されたとおり、沖縄がアジア・太平洋地域における人、物、情報の結節点として発展することが期待されること。

(4)経済振興と基地問題とのバランスある解決
 経済振興と基地問題の両者を見据えた総合的な視野の下に、両者のバランスある解決を図ることが重要であること。 2.政策の展開に当たっての基本的考え方

(1)政策目的と政策手法
 自立型経済の構築に向けた取組の主役は、産業界や県民であり、その自主性を尊重しつつ、「創業」の支援や「人材」の育成など民間活力を引き出すための条件整備が政策の役割として期待されていること。

(2)「優位性」の重視と「不利性」の克服
 「不利性」の克服中心のアプローチから、今後は「優位性」重視と「不利性」克服を車の両輪とする前向きの戦略的取組が求められること。

(3)産業分野別の評価
 基幹産業としての観光・リゾート産業、新リーディングインダストリーとしての情報通信産業の発展と他産業への波及、製造業や農林水産業における分野別の優位性の発揮が期待されること。

(4)県土の均衡ある発展
 政策の具体的推進の中で、米軍施設・区域が存在しない市町村を含め、地域の特性とともに、地域間のバランスや公平性に留意した展開が求められること。

(5)政策評価の重要性
 いかなる政策手法が経済波及効果において最も効果的かといった「政策評価」の観点が、今後、ますます重要となること。

第三部政策の具体化の方向と今後の課題

1.主要分野における産業振興

(1)加工交易型産業の振興
ア.基本的視点
 沖縄の製造業が今後発展していく上で、県内需要のみにとらわれない積極的な対外的販路開拓の取組が求められる。遠隔の離島としての沖縄のハンディキャップを踏まえ、企業立地面の条件整備に向けての諸施策に取り組む。

イ.政策具体化の方向
@特別自由貿易地域への立地促進のための受皿施設の整備
A特別自由貿易地域管理運営主体の在り方等に関する検討
B自由貿易地域那覇地区の規模拡大に向けた県の取組への支援
C特別自由貿易地域中城湾港新港地区及び自由貿易地域那覇地区への企業誘致の促進
D沖縄貿易等振興事業の推進
E特別自由貿易地域等に立地する企業の活動を支援するためのインフラ整備
F沖縄振興開発金融公庫の自由貿易地域等特定地域振興資金等の活用

(2)観光・リゾート産業の新たな展開

ア.基本的視点
 沖縄における基幹産業としてのダイナミックな発展が、県経済全体を牽引していくことを期待し、通年型観光地へのシフト等の課題に取り組む。

イ.政策具体化の方向
@航空運賃の引下げに係る追加措置
A沖縄自動車道の通行料金の割引
B査証手続等の緩和措置
C寄港地上陸の許可に係る行動範囲の拡大
D観光情報提供体制等の整備
E国際会議の誘致等
F国営沖縄記念公園首里城地区の整備推進
G琉球歴史回廊の形成等
H地域観光資源を活用した滞在型・参加型観光の促進
Iエコツーリズムの推進
Jグリーン・ツーリズム、ブルー・ツーリズムの推進
K観光振興地域制度を活用した観光拠点の重点的整備の促進
L国際ショッピングモール構想の推進
M国際交流拠点等の整備の推進
N国営沖縄記念公園海洋博覧会地区の整備推進
O沖縄米軍基地所在市町村活性化特別事業の活用
P観光地のアメニティを高めるための公共インフラの重点的整備
Q観光地のネットワーク化を促進する観光基盤施設の整備推進

(3)国際的なネットワークを目指す情報通信産業の育成

ア.基本的視点
 沖縄は、その地理的条件、インフラ整備の諸計画等からみて、世界の情報通信ハブ基地として発展する可能性を秘めている。国際的なネットワーク展開の中での沖縄における情報通信産業の発展を目指す。

イ.政策具体化の方向
@情報通信関連産業の支援策としての通信コストの低減化
A「沖縄国際情報特区」構想の推進
B情報通信関連産業のさらなる誘致のためのインキュベート施設の整備
Cマルチメディアコンテンツ開発及び流通ネットワーク整備の促進
D先進的アプリケーションの開発による集積の促進
Eデジタル映像ライブラリー及びデジタル映像制作・編集センターの整備
F地上デジタル放送研究開発用共同利用施設の整備
G情報関連人材の育成
H沖縄総合行政情報通信ネットワークの構築とワンストップ行政サービス実験の実施
I学校における複合アクセス網活用型インターネットに関する研究開発(先進的教育用ネットワークモデル地域事業)の実施
J北部地域における難視聴解消事業の実施

(4)農林水産業の新たな展開

ア.基本的視点
 他の都道府県にない沖縄の優位性を活かして戦略的な取組を行い、市場競争力を持った特色ある農林水産物の供給産地を目指す。

イ.政策具体化の方向
@亜熱帯性気候を活かした特色ある農産物供給基地の形成の推進
A高品質で安全な畜産物供給の推進
B農業生産基盤の整備の推進等
C地理的・自然的特性を活かした漁業生産基盤の整備等
D森林の公益的機能の強化と県土の緑化の推進
E農林水産業と観光・リゾート産業との連携
F食品産業と農林水産業との連携強化による新製品開発・販路拡大等の推進
G地域農林水産物の高付加価値化
H農林水産業を担う後継者等の養成の推進

2.産業振興のための横断的な取組

(1)新規事業の創出支援体制の充実

ア.基本的視点
 今後、沖縄経済が21世紀に向けて中長期的に自立的に発展していくためには、良質の雇用機会が若年層にも開かれるような新規産業の成長が必須の課題であり、新規事業創出を積極的に推進する必要がある。

イ.政策具体化の方向
@ソフトな機能を持つ産業振興のための拠点整備
A沖縄振興開発金融公庫の創業支援体制の整備
B沖縄米軍基地所在市町村活性化特別事業等を通じたインキュベート事業の促進
Cロールモデルの積極活用
Dベンチャー企業へのインターン派遣の促進
E新規事業創出支援体制の総合的検討

(2)研究開発と国際交流の促進

ア.基本的視点
 自立型経済の構築に向けて、技術革新の果たす役割が一層高まっており、研究開発について、前向きで、なおかつ地域の特性を活かした着実な取組が期待される。
 また、国際交流については、科学技術分野のみならず、学術文化、スポーツ、医療等を含めて、幅広い交流が期待される。

イ.政策具体化の方向
<亜熱帯特性等に注目した研究開発活動の総合的推進>
@亜熱帯研究の総合的推進
A産学官共同研究活動の促進
Bサンゴ礁海域生態系の観測研究の推進
C海洋深層水研究の推進
D工業技術院ネットワークの活用

<アジア・太平洋の交流拠点としての発展>
E沖縄・ハワイ協力の推進
F国際セミナー等の知的交流事業の推進
G国立組踊劇場(仮称)の設立
H「琉球王国のグスク及び関連遺跡群」の世界遺産への登録
Iスポーツ交流の促進
J国際医療協力の推進

(3)人材の育成と雇用の確保

ア.基本的視点
 国際的には高い賃金水準の下で、競争力のある産業の振興を図るためには、産業の高付加価値化が必要であり、そのために優秀な人材の確保が求められる。
 また、厳しい雇用情勢に対応するため、雇用の確保に資する諸施策を強力に推進する必要がある。

イ.政策具体化の方向
@国立高等専門学校の創設
A大学機能の充実強化
B職業能力開発の推進
C沖縄特別雇用開発推進事業の推進
D高等教育機関間の情報通信ネットワークの推進
E中小企業大学校「沖縄振興コース」の拡充
F人材の育成に向けたインターンシップの総合的促進
G国際化等に対応した人材の育成
H地域に密着した「人づくり」の推進
I駐留軍従業員の雇用対策の充実

(4)環境共生型地域の形成

ア.基本的視点
 沖縄において環境共生型地域としてモデル的な発展を追求することは、観光・リゾートの振興、新規ビジネスの創業等の観点から有意義な試みであるといえる。

イ.政策具体化の方向
@国際サンゴ礁研究・モニタリングセンターの設置とその活動の推進
Aやんばる野生生物保護センター等の活動の推進
B地域振興に配慮したやんばる地域の国立公園化の検討
C観光・リゾート地としての魅力を高める環境保全・環境創造型事業の推進
D自然エネルギーの導入等環境負荷の小さい地域を実現する技術導入の促進
E「ゼロエミッション・アイランド沖縄」構想の推進

(5)産業活動を支えるインフラ等の整備

ア.基本的視点
 社会資本整備に対する基本的ニーズを踏まえつつ、今後とも、産業インフラの効果的・効率的な整備に引き続き努める。

イ.政策具体化の方向
@那覇空港の整備
A那覇港の整備及び那覇港国際流通港湾計画調査に対する支援
B総合交通体系の整備の推進
C水資源開発の推進

3.本プランの位置づけと今後の取扱い

 この「沖縄経済振興21世紀プラン」は、

 「沖縄経済の自立的成長をいかに図るか」という視点を中心に、その環境整備に向けての政策の理念や基本方向及び具体的な方向を、可能な限り示そうとするもの。

 今後の個別の沖縄振興策の検討・実施に指針的役割を果たすとともに、沖縄振興策全体の論議の場となる、いわゆる「ポスト三次振計」の検討の場において、経済振興面に関して十分活かしていくこととする。

 今回の中間報告においては、できる限り最終報告に近いレベルにまで検討を進めたものの、「沖縄国際情報特区」構想や「ゼロエミッション・アイランド沖縄」構想の具体化、「新規事業創出支援体制の総合的検討」等については、今後、政府と県とが連携して検討を進め、最終報告としてとりまとめることとしたい。