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裁判員制度・刑事検討会(第19回) 議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり

1 日時
平成15年5月30日(金)13:30〜17:20

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)
池田修、井上正仁、大出良知、酒巻匡、四宮啓、井康行、土屋美明、樋口建史、平良木登規男、本田守弘(敬称略)
(事務局)
大野恒太郎事務局次長、辻裕教参事官

4 議題
「刑事裁判の充実・迅速化」について

5 配布資料
資料1 刑事裁判の充実・迅速化について(その1)
資料2 裁判員制度・刑事検討会開催予定

6 議事

 配布資料1「刑事裁判の充実・迅速化について(その1)」(以下「たたき台」という。)に沿って、刑事裁判の充実・迅速化について議論が行われた。
 議論の概要は、以下のとおりである。

(1) 準備手続の目的等
 たたき台の「1 準備手続の目的等」に関し、主として、以下のような意見が述べられた。

ア 準備手続の決定について(たたき台1(1)の関係)

・ 第1回公判期日前の新たな準備手続は必要である。

・ 新たな準備手続は、憲法の公開原則の対象となる対審ではないと考えるが、現在公判手続で行われているやり取りが準備手続で行われるようになる。しかし、そこでの経過と結果が公判期日に顕出されることになるから、特に問題ない。

・ 現行の準備手続は第1回公判期日前に行うことはできないとされているが、新たな準備手続は、これを第1回公判期日前に行っても、予断排除の原則に反するわけではないということを確認しておく必要がある。

・ 準備手続一切が非公開であるということではなく、準備手続の中で何をやるのかということとの関係で公開・非公開を考えるのが相当である。

イ 準備手続の目的について(たたき台1(2)の関係)

・ 現在の刑事訴訟規則第194条第2項と同様に、新たな準備手続の目的を明らかにしておく必要がある。

・ 充実した審理が行われるようにすることも目的に加えるべきである。

・ 刑事裁判の充実・迅速化を図る方策の一つとして、新たな準備手続を創設するのであるから、充実した審理の実現を目的に加えることは考慮に値する。

ウ 裁判員制度対象事件における必要的準備手続について(たたき台1(3)の関係)

・ 裁判員制度対象事件では、公判前に具体的な審理計画を立てて審理に要する見込み時間をはっきりさせることが不可欠であるから、第1回公判期日前の準備手続を必要的なものとする必要がある。事実関係に争いのない自白事件でも、どのような情状関係の立証をするのかという点について予定が立っていないと困るから、裁判員制度対象事件では準備手続を必要的なものとすべきである。

・ 裁判員制度対象事件については、第1回公判期日前の準備手続を必要的なものとすべきであり、これは自白事件についても変わらない。

・ 犯罪事実に争いがなくても、犯行の計画性、犯意の発生時期・強さ、自分の役割等量刑に関する事実について争いがある場合があるから、準備手続を行う必要性がある。量刑に関する事実について争いがなくても、審理に要する時間を把握し、公判期日での審理予定を立てるため、準備手続において更生のための家庭環境の整備、被害者との示談交渉、身柄を受ける家族・雇い主等の情状証人の有無等の事実を事前に把握しておく必要がある。

・ 被害者の宥恕の意思等情状事実についての証拠開示もあり得るから、公訴事実に争いのない事件についても準備手続を行うことは、手続的なメリットがある。

・ これまで、犯罪事実に争いのない事件については、裁判所書記官が訴訟進行管理事務として行ってきた事務であるが、裁判員制度対象事件は重大な犯罪なので、慎重を期して、そのような事務を裁判所が主宰する準備手続で行おうというのは意味があり、裁判員制度対象事件においては第1回公判期日前の準備手続を必要的なものとするのが相当である。

エ 準備手続の主宰者について(たたき台1(4)の関係)

・ 争点を絞ってそこに集中して審理するために準備手続を行うのだから、公判で争点について訴訟指揮をし、心証形成をすべき立場にある受訴裁判所の裁判官が準備手続を行うのは当然である。また、証拠能力の有無の判断によって有罪無罪が左右される事件もあるのだから、準備手続で証拠能力の有無の判断を行うのであれば、準備手続を主宰する裁判所と受訴裁判所を別とするのは妥当でない。よって、A案が妥当である。

・ 準備手続が心証形成過程そのものではなく、心証形成過程へのつなぎであっても、その事件で何が問題でそれがどの程度の比重を占めるかについて、同じ受訴裁判所の中の裁判官のみが情報を持っているのは妥当でない。裁判官と裁判員は対等の権限を有しているのだから、対等の心証形成を行い得る条件が保障されなければならず、両者に情報格差があってはいけない。B案が妥当である。

・ 準備手続において証拠能力について判断するにしても、裁判官が証拠の中身を見るわけではないから、心証形成なされるわけではない。事件の複雑さや規模、審理の流れやそれに要する期間について一定の考え方が形成されるということと事件の実体について心証形成がなされるということとは区別されなければならない。

・ 証拠調べの必要性を判断するためには、何を証明しようとしているかを知る必要があるから、証人が証言しようとする内容を当事者から一部聞く必要がある。しかし、だからといって予断を抱くわけではない。

・ 昭和30年代前半の民事訴訟法の改正によって準備的口頭弁論が設けられたことを受けて、主張整理と証拠調べとを裁判所の別々の部で行うという運用を行ったことがあったが、証拠調べを担当する裁判官がその整理をしたわけではないため、再度、整理をやり直さなければならないことがあり、うまくいかなかった。やはり、事件を最後まで担当する裁判官がどこをどういうふうに調べるかを準備できる制度でないといけない。A案が妥当である。

・ B案は、あらかじめ、十分に争点整理をすることにより、裁判の充実・迅速化を実現することが最も必要とされる裁判員制度対象事件について、本来その公判を担当をしなければならない裁判所以外の裁判所がその準備手続を行うものであり、効果的でなく、およそ適切でない。A案が妥当である。
 また、準備手続で証拠に接することから直ちに予断を抱くということにはならない。裁判員制度対象事件については、受訴裁判所を構成する裁判官が準備手続を行えば証拠にも触れることになるから、裁判員との間に情報の格差が生じるが、だからといって、それによって重大な弊害が生じるわけではない。とすれば、B案は、受訴裁判所とは別の裁判所が行うことによる非効率、不合理というデメリットを上回るメリットがある案ではない。

・ 裁判官と裁判員にはただでさえ証拠の見方についての知識、能力に差があるにもかかわらず、これに加えて、裁判官があらかじめ証拠に触れ、既に一定の考え方を持っていると裁判員が知っているとすれば、評議において裁判官の意見に対抗することは非常に難しい。

・ 弊害があるかどうかは別として、裁判官と裁判員は評議において対等とされているのだから、評決における同じ1票というだけでなく、同じ裁判を担当する者として事件の実質について与えられる情報も差がないと見える制度とすることが、対等性への信頼を担保する上で必要である。
 また、インカメラ手続の中で調書の中身を見たり、証人の話を聞くこともある。再鑑定の必要性の判断を鑑定書を読まずに行うのは無理ではないか。少なくとも、そのような場合は受訴裁判所とは別の裁判体に行わせる必要があるのではないか。そうすることが、裁判官と裁判員の対等性への信頼を担保するために必要である。

・ 受訴裁判所以外の裁判所が準備手続を行うと、その別裁判所が、争点の所在や証拠調べ決定の理由を受訴裁判所に詳細に引き継がない限り、公判期日での訴訟指揮がうまくいかない。裁判官と裁判員の情報格差については、事実認定と量定を行う裁判員とこれら以外に訴訟手続上の判断等も行う裁判官とは役割が違うのだから、あって当然である。しかし、事実認定と量刑は、いずれも公判廷で取り調べた証拠に基づいて判断するのだから、そのような情報格差があっても、何ら不都合はない。情報の格差を敢えて埋めようとするのであれば、準備手続の経過と結果を詳細に公判期日で顕出して裁判員に伝えるとよい。よって、A案が妥当である。

・ 供述の任意性の立証は信用性の立証と非常に密接に結び付いているから、任意性の判断を準備手続で行うとすれば、受訴裁判所とは別の裁判体が行う必要がある。また、公判の途中で鑑定を行うと、その間、期日を空けて裁判員を待たせておくことになるので妥当でない。とすれば、鑑定は準備手続の段階で終えておく必要があるから、準備手続において再鑑定の要否を判断すべきことになるが、その判断は心証形成に踏み込むことになるので、受訴裁判所とは別の裁判体に準備手続を行わせる必要がある。

・ A案でよい。理由はこれまで述べられたとおりである。

・ 準備手続である程度までは鑑定を行うこともできるだろうが、原鑑定が信用できるかどうか微妙であり、証拠を調べてみないと再鑑定の要否の判断がつかないという場合は、どうしても公判に持ち越さざるを得ないのではないか。実体の心証形成に踏み込まざるを得ない場合は公判で行うしかない。仮に、受訴裁判所とは別の裁判体が、準備手続で再鑑定の要否を判断するものとしても、その判断のためには事実調べ等の調査が必要となろうが、その後、受訴裁判所は、準備手続で別の裁判体が行った判断とは別の判断を行うこともあり得るから、準備手続での調査等が無駄になってしまう。

・ 無駄という以上に、本来公判で受訴裁判所が行うべき重要な判断を別の裁判所に行わせること自体が適切ではないのではないか。

・ 連日的開廷を実現するため、鑑定についても準備手続でできるだけ決着を付けておくべきであり、そのための方策を準備手続に施しておくべきである。

・ いろいろな場合が想定できるので、機動性を確保する観点から、証拠決定等裁判所として行うべき判断を除き、現行刑事訴訟規則第194条の4のように準備手続を受命裁判官が行うことができる余地を残しておくべきである。

・ 事柄によっては一人でできるようにしておかなければならないものもあるから、準備手続を受命裁判官が行うことができる余地は残しておくべきである。

・ 現行の第1回公判期日前の事前準備に関しても、刑事訴訟規則第178条の10により、合議体の構成員に行わせることができることとしており、新たな準備手続も、これと同様にして、機動的に対応できるようにするのがよい。

(2) 準備手続の方法等

 たたき台の「2 準備手続の方法等」に関し、主として、以下のような意見が述べられた。

ア 準備手続の方法について(たたき台2(1)の関係)

・ 裁判員制度対象事件が重大な犯罪であることを考えると、たたき台2(1)アについては、出頭を原則とし、書面を例外とする現行刑事訴訟規則第194条の2の定め方に倣うべきである。

・ 裁判員制度対象事件以外の、必ずしも重くない事件も準備手続の対象となり得るから、出頭と書面を原則例外の関係とするのではなく、どちらでもできるという定め方でよいのではないか。

・ 裁判員制度対象事件であっても、常に訴訟関係人が出頭するのではなく、場合によっては書面でなされることも想定されるので、両方できる定め方をしておくのが妥当である。

・ 裁判所が定めた書面の提出期限を守らない場合にサンクションを設けるのはいかがかと思うが、従来の実務のままだと、だらだらと長引くことも懸念される。

・ 準備手続で争点整理をし公判手続を集中して行って全体として手続が早く進むというのが理想であり、準備手続をだらだらやって全体として現在より長くかかっては意味がない。そのためにも、できる限り早期に終結するための努力義務(たたき台2(5))が必要で、これがあれば当事者は協力するし、裁判所もそれを念頭に準備手続を進めていくものと思う。

・ 直接のサンクションは難しいかもしれないが、期限を守らない場合は準備手続自体が進まなくなるのであるから、国選弁護人であれば解任するなどの措置を考えざるを得ないのではないか。

イ 準備手続の出席者について(たたき台2(2)の関係)

・ 被告人を必要的出席者にすると、被告人が出席しないと準備手続を進めることができなくなってしまうし、必要な場合に被告人の出席を求めることができるのであれば、実質において特段の問題はない。たたき台の案で妥当である。

・ 同意見である。

・ 同意見である。

ウ 準備手続の内容について(たたき台2(3)の関係)

・ 専ら証拠能力の判断のためであっても事実の取調べ(たたき台2(3)キ)は、本来公判期日で行うべきと考えるが、準備手続で行うとしても、証人尋問などは公開の法廷で行うべきである。証人尋問は公開で行うというのが常識的であり、また、その取調べの結果いかんによって有罪無罪が決定的となる場合もあるので、非公開で行うのは違和感がある。

・ 他の手続上の障害事由の存否に争いがある場合にも、証人尋問が行われる場合がある。それとの違いはあるのだろうか。

・ 公判中心主義に照らすと、違法収集証拠の判断など有罪無罪が決まるような手続的事項は、公判廷で行うべきである。

・ 有罪無罪が決まるかどうかという基準により公開か否かを区別するというのは、法制として無理ではないか。専ら証拠能力の判断のための事実の取調べを準備手続で行うと定めたとしても、それを準備手続で必ずやらなければならないということではないのだから、公判廷で行うべき場合は公判で行うというように、運用で対応していけばよい。

・ 訴訟関係者から公開の提案があり、裁判所がそれを適当と認めたときは、専ら証拠能力の判断のための事実の取調べでも公開できる余地を残しておくべきである。

・ 現行法で通常は非公開で行われる手続でも、その制度の趣旨に反しない限り、運用により公開で行うことは可能なのだから、この場合だけ公開でできると規定するのは適当でない。また、違法収集証拠の判断のための事実の取調べは、裁判員制度対象事件では実体にも絡んでくる場合が多いので、専ら証拠能力の判断のための事実の取調べとしてのみ行われるとは想定し難い。とすれば、形式的な証拠能力の有無の判断を準備手続でできるようにしておいた方がよいから、たたき台2(3)キのような定めを置いておいた方がいい。

・ 当事者としては、公開について何らかの定めがあった方が裁判所が受け入れてくれやすくなって都合がよい。

・ 証人尋問の部分だけを公開するのは、奇妙な感じがする。

・ 専ら証拠能力の判断のための事実の取調べを公開できる余地を残しておくべきことに賛成であり、工夫すべきである。

・ その証拠が証拠能力を認められるか否かによって事件の結論が変わるというわけではない証拠について、違法収集証拠であるとして争いが生じる場合もあり得るので、常に公開の必要性があるとまではいえない。

・ 準備手続で、訴因変更決定も行い得るものとすべきである。

・ 新たな準備手続では、現在公判期日で行っていることを前倒しで行うこととなるから、訴因変更決定を準備手続で行うことも可能であろう。

・ たたき台に掲げられている事項はかなり網羅的であるし、制限列挙でないのだから問題はないのではないか。

・ 裁判所が再鑑定を行うかどうかは、弁護人が検察官請求の鑑定書に不同意の場合に問題になるのだろうが、その場合、弁護人が独自に鑑定を行い、その鑑定書を証拠請求すればよいのではないか。そして、検察官がその鑑定書を不同意とすれば、公判期日で双方が鑑定人を証人請求するしかないだろう。裁判官が敢えて鑑定書の中身を見て再鑑定の要否を判断する場合は想定する必要はないのではないか。

・ 弁護人が独自に鑑定を行うことは多くなるだろうが、公判段階で裁判所が鑑定を決定せざるを得ない場合はあるだろう。ただ、鑑定に要する時間を短縮する必要がある。特に精神鑑定については、時間がかからない鑑定方法を工夫していく必要がある。

・ 裁判員の立場を考えると、鑑定の間、裁判員を待たせることはできる限り避けなければならない。とすると、準備手続において、当事者による鑑定の活用のほか、場合によっては、裁判所が鑑定を行うなど可能な限りの手段を講じておく必要がある。その際、裁判所が鑑定を行う必要性を判断するためには、当事者が証拠調べ請求した鑑定書の中身を読む必要がある。

・ ドイツで行われているようであるが、裁判員制度対象事件については、鑑定人に公判手続に出席してもらった上、そこでのやり取りを見聞きしてもらい、それを踏まえた判断ともともとの判断に差が生じていないかどうかを聴取する制度を創設することによって、再鑑定を要しない事件も出てくるのではないか。

・ 例えば精神鑑定では、鑑定資料の違いによって鑑定の結果が異なってくる場合が随分あるので、鑑定資料がどの程度まとまった段階で鑑定を行うのかを工夫する必要がある。

・ 補充裁判員の数をどのくらいにするかも準備手続で協議することになるだろう。また、一般的な刑事裁判の諸原則等のほかに、個々の事件についての争点等について裁判官が裁判員に教示を行うのであれば、準備手続でその内容を協議しておく必要があるだろう。

・ 補充裁判員の数は三者で話し合うという性格の事柄なのかは、現行法における補充裁判官の数等に関する判断の性格との関係からも検討する必要がある。

・ 調書の作り方が今と同じであることを前提とすると、膨大な調書が証拠として出てくるので、裁判員裁判では準備手続の内容としてここに掲げられた事項のみで公判がうまく回っていくのか漠然とした不安がある。

・ 両当事者とも証拠を厳選し、ポイントを絞って立証していく必要がある。そういう意識で両当事者が訴訟活動を行えば、準備手続の内容としてはここに掲げられている事項でよい。両当事者がこのような考慮をして訴訟活動を行えば、裁判所のやることは少なくなるであろう。

エ 準備手続結果の顕出について(たたき台2(4)の関係)

・ 新しい準備手続においては、特に争いのある事件では、現在公判手続で行われているような主張・反論が行われるようになるから、公判中心主義あるいは裁判公開原則の趣旨を踏まえると、現行刑事訴訟規則第194条の7の準備手続の「結果」に加えて「経過」も顕出することとしているたたき台の案は妥当である。

・ 準備手続の終結の仕方について規定を置く必要があるのではないか。

・ 当事者がまだ不満で続けようというときに裁判官が終結したり、当事者がもう終わりにしようというときに裁判官が続行することは、想定し難い。よって、裁判官の判断で終結すればよい。

・ 第1回公判期日における、準備手続結果の顕出と冒頭手続との先後関係については、準備手続の結果には証拠調べの請求や決定がその内容に含まれるから、公判手続では冒頭手続が先行することになろうが、冒頭陳述との先後については更に検討する必要がある。

・ 内容によって異なるのではないか。訴因又は罰条を明確にすることなどは先にやることになるのだろう。

・ 準備手続結果の顕出には、公開に対する考慮と、裁判員制度対象事件では裁判員との関係での考慮が必要である。

・ 準備手続でまとまったとおりに公判手続を進めていけばそれが顕出になる。異なった進行があったときにはその段階で準備手続でまとまったことを顕出すればよい。

・ 裁判員の立場からすると、冒頭の段階で準備手続の経過を逐一詳細に説明する必要はないのではないか。むしろ、できるだけ明解である必要がある。

・ 被告人が虚偽の主張を行ったり、不合理に主張を変遷した場合には、そのことが事実認定の一つの資料になる。特に情況証拠の積み重ねによって公訴事実を立証せざるを得ない事案では、それを材料として被告人の供述の信用性全体を弾劾することが重要な意味を持つことになる。準備手続において、被告人の主張が変遷するなどした場合も同様であり、準備手続の経過として公判に顕出し、事実認定の資料とすべきである。事実認定に必要な資料が示されないことは事案の真相を解明する上で適当でない。裁判員が混乱するような顕出の方法をすべきでないが、整理した上で事実認定に必要な資料を顕出すべきである。

・ 公判手続において供述が変遷したことが心証形成の資料となることは、そのとおりであるが、準備手続において主張や請求証拠に変遷があった場合に同様に考えていいのか。準備手続では、場合によっては裁判官が釈明したり当事者が主張の撤回・追加を行うなどフレキシブルなやり取りが行われるからこそ準備の実が上がるのではないか。現行刑事訴訟規則第194条の7が「結果」としか定めていないのは、そうしたことを踏まえているのではないか。準備手続の経過が逐一公判手続に現れるようになると、争点中心の円滑で充実した審理を行うための準備手続の実効が上がるのか疑問である。また、事細かに準備手続におけるやり取りを示すことは、裁判員に対して明確な争点と証拠を整理して示すという準備手続の目的に違うのではないか。むしろできあがったものを明確に裁判員に示すことが必要であり、本来は冒頭陳述の役割である。よって、制度づくりの基本的な考え方としては、フレキシブルな準備をし、審理すべき争点と証拠を決めて、裁判員が何を判断するかを冒頭陳述で示して、証拠調べが始まるという制度とすべきである。

・ 現在でも当事者の主張などは準備手続調書に記録されており、調書は期日ごとに作成されるから、主張の変遷などは調書を見ればわかる。そして、現行の規則も、準備手続調書に残ったものをすべて顕出せよという趣旨であり、調書に残ったものはすべて「結果」として顕出される。そういう意味では、「経過」を加えなくとも顕出の範囲は変わらないと思われる。

・ たたき台は、最終的にどういう整理をしたかをまとめたものを顕出するのではなく、期日ごとに作成される準備手続調書を顕出するという趣旨を明確にする意味がある。

・ 準備手続はフレキシブルにやるので、そこでの供述の変遷は顕出しないというのは、実質的な理由になっていない。準備手続においても両当事者は真剣に主張をするわけであり、現在公判段階での準備手続についても公判に顕出されているが、それを前倒しするだけである。前倒しするが故に公判手続に顕出されないというのは、理由にならない。

・ 準備手続は、争点を絞って公判手続を合理的に迅速に進めるための準備であるので、準備手続で得られた情報を公判段階での心証形成のための材料に用いることを前提としてはいけない。裁判官と裁判員の情報格差の問題は、心証形成の有り様との関係での問題でもあるから、準備手続で得られた情報を心証形成のための材料に用いることがあってはならない。

・ 新たな準備手続は何回も行われるだろうから、その調書は膨大であろう。その調書を裁判員が読むことはおそらく不可能である。とすると、それに基づいて準備手続の経過が頭に入りやすいものを作成せざるを得ない。これが「要旨の告知」に該当することになるだろう。

・ 問題は二つある。一つは、準備手続の結果を公判廷につなぐ手続の要否と必要だとした場合にどの程度の内容を顕出すればよいかという問題である。もう一つは、準備手続の中での主張の変遷を公判廷における当事者の主張や陳述の信用性を判断したり、弾劾する材料として使えるかどうかという問題である。この二つの問題は分けて考えなければならない。

・ 準備手続で主張の変遷があったという事実は、証拠の評価や主張の信用性に対する評価の材料として公判廷で使えなければ、それらの評価が正しく行われないことになるから、使えることとすべきである。公判手続で主張した事実と異なる事実を準備手続で主張していたことを弾劾の根拠とできるのは当然である。

・ 準備手続で行われたこと自体が公判手続で心証形成や弾劾の材料として利用できるのであれば、裁判官と裁判員の情報格差につながることになり、準備手続に裁判員を入れる必要があるということになりかねない。

・ 相互に主張を交換して争点を詰めていくという現在公判期日で行われている過程が準備手続で行われるようになる。それにもかかわらず、公判期日での主張の変遷は事実認定の判断材料になるのに、準備手続で前倒しで行った場合には判断材料とできなくなるというのはおかしい。

・ 公判前に他のところで異なったことを言っていたということは弾劾に用いることが出来るのに、準備手続に限って、公判期日とは異なる主張ないし供述をしていたという事実は使えないという理屈があるのかという問題である。

・ 捜査段階での供述や友人に対する言動を弾劾に使えるのは当然であり、なぜ準備手続での供述のみ用いることができないのか疑問である。

・ 新たな準備手続では主張の交換や証拠決定など重要な事柄が行われるようになるから、その過程・結果を公判廷に顕出するのは裁判公開原則や公判中心主義の趣旨から不可欠であるが、それが訴訟法上どのように性格付けられるのかを理論上の問題として考えておく必要がある。

オ 準備手続の充実について(たたき台2(5)の関係)

・ 準備手続においては、争点中心の円滑で充実した審理を実現するという目的のため、十分な準備が行われることが不可欠である。その目的達成のため、また、現行刑事訴訟規則第178条の4の趣旨を踏まえ、訴訟関係人の訴訟の準備が十分に行われるという点に力点を置いて制度設計する必要がある。

・ 両当事者には十分な準備をしてもらわなければならないことは当然であるが、往々にして当事者の要望により準備が進まないことがあり、このたたき台のような規定を置いて当事者に迅速な準備を促すことは必要である。特に被告人が拘束されている場合に第1回公判まで何か月もかかるのは避けなければならないから、このような規定は必要である。

(3) 次回以降の予定

 次回(6月13日)は、引き続き、刑事裁判の充実・迅速化に関する検討を行う予定である。

(以上)