第2回配布資料一覧

日弁連配付資料---資料6

弁護士のあり方について

2001年1月23日

日本弁護士連合会


−目  次−

第1 弁護士制度改革総論

1 弁護士制度改革の意義

2 前回のプレゼンテーション(2000年8月29日)以降の取り組み

3 今後の課題

第2 弁護士制度改革各論

1 弁護士制度の改革
 (1)公益性に基づく社会的責務の実践等
  ○弁護士の公益性に基づく活動を促進・担保するための具体的方策
 (2)弁護士の活動領域の拡大 15
  ○弁護士法第30条による兼職等の制限(同条第1項による公務就任の制限及び同条第3項の営業等の許可制)の自由化のあり方
 (3)弁護士倫理の強化と弁護士自治
  ア 弁護士会による弁護士及びその職務の質に関する指導・監督の強化、指導・監督その他の事務を実効的かつ国民に開かれた透明性の高い形で遂行するために必要な具体的措置
  イ 弁護士会運営への国民参加など国民の意見を一層反映させ、これに対する説明責任を果たすために必要な具体的方策
  ウ 倫理教育の実効性を確保する方策
  エ 綱紀・懲戒制度及び関連する諸制度の改革

2 弁護士へのアクセスの拡充
 (1)法律相談活動等の充実
  ○法律相談センターや公設事務所の設置(目的、運営主体、運営方法等の在り方、法律扶助制度や被疑者・被告人の公的弁護制度等との関係など)の在り方
 (2)弁護士費用(報酬)の透明化、合理化
  ○弁護士報酬規程についてこれが競争制限的に作用するおそれのないよう十分留意しつつ、弁護士報酬を透明化、合理化するための方策
  ○弁護士の依頼者に対する報酬説明を充実、徹底する方策
 (3)弁護士情報の公開
  ○第三者評価の導入の要否を含め、弁護士の専門分野や実績等についても広告対象とするための具体的方策
  ○弁護士に関わる情報の開示(専門分野の情報提供等)を一層強化するための方策

3 法的サービスの内容の充実
 (1)弁護士業務の質の向上、執務態勢の強化
  ○法律事務所の共同化・法人化、専門性の強化等を実効的に推進するための方策
  ○複数事務所の設置禁止(弁護士法第20条第3項)の見直しの在り方
  ○弁護士会による研修の義務化を含め、継続教育の一層の充実・実効化等に必要な具体的方策
 (2)隣接法律専門職種との関係/企業法務などとの関係
  ○隣接法律専門職種に、訴訟手続への関与を含む一定の範囲・態様の法律事務の取扱を認めることについて
  ○弁護士と隣接法律専門職種その他の専門資格者による協働について、ワンストップサービス(総合法律経済事務所)を積極的に推進し、その実効を上げるための措置
  ○弁護士法第72条の規制(いわゆる法律事務の独占)についての今後の在り方
 (3)弁護士の国際化/外国法事務弁護士等との関係
  ア 弁護士の国際交流の推進、隣接法律専門職種や外国法事務弁護士等との提携・協働を進めるための方策
  イ 外国法事務弁護士等に関する制度及びその運用の見直しの在り方
  ウ アジア等の発展途上国の法整備支援を推進するための方策

第1 弁護士制度改革総論

1 弁護士制度改革の意義

 司法制度改革審議会は、昨年11月20日、それまでの調査審議の結果を踏まえ、「中間報告」を取りまとめ、発表した。「中間報告」は、一昨年発表された「論点整理」をさらに発展させ、日本国憲法の下における司法部門を、政治部門と並んで「公共性の空間」を支える柱として位置づけた。
 「中間報告」は、政治部門と対比される司法部門の特徴について、すべての国民を平等、対等の地位に置き、公平な第三者が適正な手続を経て公正かつ透明な法的ルール、原理に基づいて判断を示すこと、ただ一人の声であっても真摯に語られる正義の言葉には、真剣に耳が傾けられなければならないことなどを挙げ、それらを法の支配の理念、個人の尊重の原理に基礎を置くものとした。
 司法部門は、人権を擁護し、正義を実現し、民主主義社会を支えることをその役割としており、憲法は、弁護士をこの司法部門にあって、これを担う存在として位置づけている。弁護士は、国民の傍らにあって、まさに「頼もしい権利の護り手」であるとともに、「信頼しうる正義の担い手」として、その役割を果たすことが求められている。
 「中間報告」は、弁護士制度の改革を「主要かつ基底的な課題」として位置づけた。真の意味で国民生活に根付いた司法を築き、司法が、その本来の役割を十全に果たすことができるようにするためには、何よりも弁護士がそれにふさわしい存在でなければならないからである。
 弁護士が、自らをより一層身近で、親しみやすく、頼りがいがあって信頼できる存在として脱皮させ、国民に対する責務に応えるためには、現状に安住することなく、弛みなき自己点検を重ね、自己改革を遂げていかなければならない。
 本書面は、以上のような観点から、1999年12月8日、法曹三者に対する総括的ヒアリングに応えて行ったプレゼンテーションおよび2000年8月29日に行われた弁護士制度改革に関するヒアリングに応えて行ったプレゼンテーションに引き続き、それ以後の弁護士制度改革の成果を補足し、さらにこれらを敷衍して今後の弁護士制度改革の方向性を明らかにするために取りまとめたものである。
 なお、本書面には、今後の検討課題に言及する部分がある。これらは何れも日本弁護士連合会の機関決定を経ていないが、今後会内での議論によって合意形成をめざすものであることを付言する。

2 前回のプレゼンテーション(2000年8月29日)以降の取り組み

(1)法曹人口と法科大学院に関する日弁連臨時総会決議
 法曹人口の大幅な増加を図ることは喫緊の課題である。「中間報告」が述べるように、いかなる制度もそれを活かすものは人であり、いかに理想的な制度ないし仕組みを描いたとしても、それを実際に担う人的基盤の拡充を伴わなければその機能を十分に果たすことはできない。
 また、人的基盤を整備するためには、質、量ともに豊かな法曹を養成することができる法曹養成制度の構築が必要である。
 1.日弁連は、法曹一元制度の制度的基盤を確立し、「大きな司法」、「市民の司法」を実現する観点から、臨時総会を2000年11月1日に開催し、要旨以下のような決議を採択した。
 2.司法制度改革審議会に対し、法曹一元制の実現の方向を打ち出すこと及び陪審制度を早期に実現することを要望する。
 3.法曹人口については、法曹一元制の実現を期して、「法の支配」を社会の隅々にまでゆきわたらせ、社会のさまざまな分野における法的需要を満たすために、国民が必要とする数を、質を維持しながら確保するよう努める。
  公平性・開放性・多様性を基本理念とし、実務教育も適切に行うことができる新たな法曹養成制度として「法科大学院」を全国に適正配置し、新たな司法試験及び法曹三者が対等な立場で運営する実務修習を行うこととし、弁護士会はこれらに主体的かつ積極的に関与し、その円滑な運営に協力する。
 この臨時総会決議は、第一に、法曹三者協議において司法試験合格者の数を決することによりわが国の法曹人口増加の速度をコントロールするという方式を前提とする従前の日弁連総会決議の内容を転換して、国民の必要とする数と質との法曹を確保する旨の方針を確立し、第二に、法曹養成制度について、現在の法学部教育及び司法試験と司法修習では十全なものとはいえないとの認識に立って法科大学院を中核とする新たな法曹養成制度の導入とその構築に弁護士が総体としてより一層主体的かつ積極的に参画するとの方針を採択したものである。

(2)弁護士へのアクセス改善に関する方策の施行
 弁護士へのアクセス改善に関する方策は、以下のとおり実施された。
 1.弁護士広告の原則自由化に関する日弁連会規の改正(2000年10月1日施行)
 2.民事法律扶助法の施行(2000年10月1日)
 3.日弁連と損害保険会社が提携した権利保護保険のスタート(2000年10月)
 4.弁護士過疎対策―「日弁連ひまわり基金」・公設事務所
 日弁連は、弁護士過疎対策として会員から特別会費を徴収して、「日弁連ひまわり基金」を創設し、公設事務所の設置と弁護士過疎地における開業支援に一定の費用を支出することを決定した(1999年12月16日臨時総会決議)。
 この基金を利用して2000年4月には長崎県対馬に、6月には島根県石見に、10月には岩手県遠野にそれぞれ公設事務所が設置され、さらに5か所において公設事務所の開設準備が具体的に進められている。

(3)弁護士・弁護士会の社会的役割の拡充
 昨年4月に施行された「住宅の品質確保の促進に関する法律」に基づく指定住宅紛争処理機関として、全国の各弁護士会が指定された。日弁連および弁護士会は、従前より裁判外紛争処理機関の拡充に力を注いできたところであるが、このような形で弁護士会が法律の指定する紛争処理機関として位置づけられたことの意義はきわめて大きい。
 既に各弁護士会においては紛争処理手続に関する規定を備え、紛争処理委員となる弁護士や事務職員に対する全国的規模での研修も終えている。今後も各方面にわたり、弁護士、弁護士会の役割を拡充していく必要がある。

(4)弁護士の職務体制の強化

 ア 「弁護士法72条問題に関する基本指針」の採択(2000年9月14日理事会決議)
 弁護士と隣接業種との関係については、各業種のそれぞれの取り扱い分野に関する法律事務を、一定の要件を満たした者が、一定の範囲で行うことにより、弁護士の増員によって市民の需要に応える体制ができるまでの過渡的措置として市民のニーズに応える、との構想が昨年9月の理事会において採択された。

 イ 法律事務所の法人化
 従来、弁護士が法人組織によって法律事務を取り扱うことは認められていなかったが、日弁連は法律事務所の法人化問題に関する基本方針を理事会において採択し、総会に付議することを決定した。
 2001年1月以降に開催される通常国会において法律事務所の法人化を可能とする法案が提出される見通しとなっているが、法案策定の最終段階の作業を踏まえて、日弁連としても本年2月9日に臨時総会を開催し、法人化に対する基本方針を決定する予定である。これによって多様かつ高度に専門化した質の高い法律事務を提供することが可能となるなど、弁護士の職務体制がより一層強化されることが期待される。

3 今後の課題


 以上紹介した取り組みは、基本的に前回、昨年8月29日の日弁連プレゼンテーションに際して紹介した取り組みの延長線上にある。
 上記プレゼンテーションにおいては、これらを踏まえて今後の課題として、要旨以下のような課題を掲げた。
 1.弁護士の質の確保・向上により大きな役割と責任を負い、弁護士の資質・能力の向上を果たすこと
 2.弁護士の社会的役割の拡充すること
 3.弁護士会の弁護士に関する行政事務について国民に情報を公開し、国民に対する説明責任を負うこと
 これらは、いずれも弁護士が、「中間報告」の述べる「頼もしい権利の護り手」、「信頼し得る正義の担い手」、「国民の社会生活上の医師」であること、自ら提供する役務を有用で高い倫理に裏打ちされたものとすること、そして身近な存在であることを、将来にわたって主体的、自律的に確保しようとするものである。
 弁護士そして法曹は、自立的(自律的)存在であることを期待されている。捜査官憲により身柄拘束されようとしている者に弁護人依頼権を保障した憲法第34条、刑事被告人に弁護人依頼権を保障した憲法第37条第3項はその理由を象徴的に示している。弁護士の存在と活動が保障されていない社会に自由と民主主義はない。民主的統治体制をとる世界各国において、程度の差こそあれ弁護士が自治的組織を有する自律的存在であることが承認されているのは、このためである。
 現行弁護士法が、強制加入を前提とする自治を認めているのも、弁護士の自立(自律)をもって日本社会における自由と民主主義を確保しようとするものである。その目的のために弁護士は自律的機能を行使しながら、「法律実務の専門家として国民に奉仕する存在」、「統治主体としての国民の社会生活上の諸活動の伴侶」(「中間報告」)として司法を担い、社会の各分野に進出して権利の擁護のための果敢な活動を展開し、これらを通じて正義の実現に献身することが求められている。
 弁護士に対する社会の期待がかくも高まってきたことは、わが国の近・現代史上かつてなかったことである。われわれは、これらの期待に応えるため、弁護士の総量を増やし、その質を高めていく決意を固めている。
 一方、急速で多方面にわたる改革を前にして、会内に逡巡があることも事実である。しかし、審議会が21世紀日本社会における司法と弁護士のあり方を的確に示し、未来を切りひらく改革の姿を明確に打ち出せば、多数の弁護士は必ずやこれに共鳴し、改革の担い手としての一歩を勇躍踏み出すことは間違いない。
 われわれ弁護士は、自らの使命を深く自覚しつつ、さらなる改革に邁進する所存である。


第2 弁護士制度改革各論

1 弁護士制度の改革

(1)公益性に基づく社会的責務の実践等

○ 弁護士の公益性に基づく活動を促進・担保するための具体的方策
 ア 弁護士の公益的責務
 「中間報告」は、弁護士の公益性に基づく社会的責務について、以下のとおり述べている。
 「弁護士は、『信頼し得る正義の担い手』としての公益的役割に由来する社会的な責務を負っている。弁護士の公益性は、当事者主義訴訟構造の下で『頼もしい権利の護り手』としての精力的な訴訟活動を通じて正義の実現を図ることをもって具現化するのみならず、法廷外の諸種の職務活動にも及ぶ。公益性に基づく弁護士の社会的な責務は、弁護士が『公共性の空間』において正義の実現に責任を負うことであり(弁護士法第1条第1項)、その責務の具体的な内容やその実践の態様には様々なものがあり得る。
 社会における弁護士の役割と機能が重くなればなるほど、弁護士が公益性に基づく社会的責務を果たすことへの社会的な期待も大きくなり、この期待に十分に応えることが弁護士に対する国民の信頼の源泉でもある。したがって、弁護士制度改革の主要な課題の一つとして、弁護士の公益的側面の機能の充実・強化を図る必要がある。」

 イ 弁護士の公益的責務の内容
 弁護士の「公益活動」は、
  1.憲法第32条の裁判を受ける権利、正義へのアクセスの権利を保障する責務が弁護士にはあること
  2.弁護士は「社会正義の実現」(弁護士法第1条第1項)を使命とするものであること
の2点から基礎づけられており、前者からは、経済的理由で正義へのアクセスの権利を行使できない人々を放置することなく、必要に応じて、無償または通常の報酬より相当程度低額な報酬(したがって、いずれも実質的には持ち出しとなる)で「法律事務」を行う責務が、後者からは、いわゆる公務に就任する責務が導かれる。
 前者の意味の「公益活動」の例としては、プロボノ活動やリーガル・エイドへの参加が、後者の意味の「公益活動」の例としては、裁判官やADRの主宰者などへの就任などが想定される。
 さらに、法曹の後継者の養成も、公益的責務の一環として高く位置づける必要がある。

 (ア)社会と地域住民(公衆)への奉仕(公益的な業務行為・活動)
 弁護士は、国選弁護・当番弁護士、各種法律相談、法律扶助、官公署から委嘱された事項(弁護士法第24条参照)、民間の団体等から委嘱された事項、弁護士会から委嘱された事項(同参照)を通じて公衆に奉仕する責務を負う。
 現在、一部の弁護士会において、いわゆるプロボノ規定として上記の公益的な業務行為・活動を会員に義務として課する会則等が存在する。しかし、これらの規定の多くは、公益的活動を努力義務として定めているにすぎない。上記のように公益的活動を弁護士の基本的責務として位置づける以上、単なる努力義務ではなく、会員の行為義務として明確に位置づけるとともに、公益的活動を支援する体制を整備する方向を目指すべきである。
 この場合の公益的活動の範囲をどの範囲のものにするのかについては、なお検討を要する。
 さらに、義務を履行しない会員に対してどのように臨むのか、役務提供に代えて金銭の提供をすることを認めるのかという検討課題もある。
 諸外国における公益的活動義務化の例としては、以下のようなものがある。
 アメリカにおいては、ABA(American Bar Association)弁護士模範業務規則第6・1条が、弁護士は「公益のための無償奉仕(Pro Bono Publico Service)」に、少なくとも年50時間従事すべきであると定め、プロボノ活動が弁護士の責務であることを宣明している。各州の弁護士会のうち、ニュージャージー州弁護士会を除いてプロボノ活動を強制を伴う義務としている州はないが、各州においては、さまざまな方策でプロボノ活動を推奨している。特筆すべきプロボノ活動をした弁護士に賞を授与する制度や、弁護士にプロボノ活動を行った時間数を報告させる「プロボノ報告制度(Pro Bono Reporting System)」などが、その例として挙げられる。プロボノ報告制度は現在、13州で導入されている。
 また、フロリダ州(The Frorida Bar)においては、1993年6月に、弁護士は年間20時間のプロボノ活動への従事または年間350ドルの寄付により責務を果たすべきことが定められ、全米ヒスパニック系弁護士会(The Hispanic National Bar Association)においては、1997年8月に、弁護士は少なくとも年間50時間のプロボノ活動への従事または少なくとも年間200ドルの寄付により責務を果たすべきことが定められている。
 韓国においては、2000年にプロボノ活動を義務とする弁護士法の改正が行われ、年間30時間のプロボノ活動をしない場合は、1時間につき一定金額の納付をすることが定められた。

 (イ)公務への就任
 弁護士は、公益的な性格を有する個別の業務を通じて公益的責務を果たすだけでなく、継続して公益的な業務・活動を行う公務に就任し、公務を通じて公益的責務を果たすことが期待されている。裁判官・法科大学院教官・公設事務所所属弁護士への就任や法律専門家として国または地方公共団体の公務に就任することなどがその中心である。弁護士会からの推薦を受けてこれらの公務につくことは、弁護士にとって名誉ある責務ということができる。
 弁護士から裁判官への就任を確保するための方策および後継者養成のために弁護士が役割を果たすための方策については、特に重要であるので項を改めて触れる。

 (ウ)弁護士任官の意義と現状

  a 意義
 「中間報告」は、「21世紀日本社会における司法を担う高い質の裁判官を獲得し、これに独立性をもって司法権を行使させるため、これを実現するにふさわしい、各種様々な方策を構築」する一環として、裁判官の任用制度の改革を提起した。弁護士任官は、裁判官制度ことにその任用制度の改革の中に位置づけられる。
 「高い質の裁判官」の確保は、「21世紀日本社会における司法」が国民から期待される機能を果たす上での必須の要件であり、外でもなく日本社会全体が自らの主体的な課題として取り組むべきものである。もとより日弁連も「高い質の裁判官」を得ることを自らの義務としてとらえ、その観点から、「知識、経験等の多様化を制度的に担保する仕組み」(「中間報告」)の一つとして、弁護士任官の制度を抜本的に拡充する所存である。
 「高い質の裁判官」を獲得する仕組みとしての弁護士任官は、弁護士会が、その資質・能力において裁判官としての高い適格性を有することが客観的に裏付けられている者を市民に開かれた信頼性の高い方法で選考し、その任官の意思を受けた上で、いわゆる「裁判官推薦委員会」(日弁連の構想は別の機会に示す)に対して、指名候補になりうべき者としてこれを推挙する制度である。
 これまで弁護士の任官が個々の弁護士の意向・判断任せになりがちであったのを改め、今後は、弁護士任官を、弁護士会が主導性と責任をもって運営する、いわば「裁判官になってもらいたい人に、なってもらう」制度へと発展させるものである。
 他方、裁判官に就任することは、弁護士の公益的な責務の中でも特に重要な意義を有する。「信義に従い、誠実かつ公正に職務を行い」(弁護士倫理第4条)ながら、裁かれる側で豊かな経験を積み、その資質・能力において試され済みの者が裁判官に就任することは、裁判の質を市民的なものに転換し、「司法制度の健全な発展に寄与する」(弁護士倫理第3条)ものであることはいうまでもない。一人一人の弁護士にとって、社会の要請に応えて裁判官の職務に就くことは、誰かの責務ではなく、まさに自らの社会に対するリーガル・プロフェッションとしての責務である。

  b  現状
 従来の弁護士任官制度は十分に所期の目的を達成してきたとはいい難い。「中間報告」は、「判事補のほとんどがそのまま判事になって判事補が判事の主要な給源となり、しかも、従来、弁護士からの任官が進まないなど、これを是正する有効な方策を見いだすことも困難であった」(「中間報告」)と指摘している。これまで「弁護士からの任官が進まない」状況があったことは事実である。
 現状においては、適格者たる弁護士たちが、進んで裁判官の職務に就こうとしているわけでは必ずしもない。弁護士が裁判官の職務に就くことを単なる転職の次元で捉える限り、それにも無理からぬところがある。しかるべき経験と実績を積み、主観的にも客観的にも充実した弁護士生活をおくっている弁護士にとって、裁判官への転身を躊躇させる事由はあまりにも多いからである。
 第1に、根本的には、現行のキャリア・システム下での裁判官のあり方の魅力の乏しさである。キャリア・システムと法曹一元とでは、裁判官の社会的存在意義・独立性・裁判官生活のあり方などの点で、裁判官像に大きな違いが見られる。しかもわが国の制度は他のキャリア・システムの諸国のそれと比較しても、官僚主義的色彩がより濃厚である。任用過程も人事制度も不透明さが顕著である。遺憾ながら、理由の明らかでない裁判官不採用の事例が見られたことも、任官を抑止する効果を生みだしている。法曹一元になれば任官するとアンケートで回答する弁護士が多数存在することは、キャリア・システム自体の抜本的改革が喫緊の課題であることを示している。
 第2に、弁護士は、依頼者・顧問先・事務員をかかえて仕事をしており、任官する際には、個人として職務を変えるということだけでは済まない問題が生ずる。個人事務所から任官する場合、事務所閉鎖に伴う事務員の失職や再就職の問題、事件や顧問先の引き継ぎの問題、申請書の提出後は新規事件を事実上受任できないことによる収入の途絶の問題等がそれである。
 第3に、制度面の整備も不十分である。現在の裁判官の関連制度は、キャリアシステムを前提に国家公務員と同様に作られてきたため、弁護士任官では不利益を生じる面もある。たとえば、年金は17年在任を要するため、途中任官では在任期間が足りないケースもある。
 しかし、そもそも弁護士任官は、裁判所がよりよい質の裁判官を獲得して国民の利益を増進するための制度である。弁護士の利益を図るための制度ではない。裁判官制度改革の一環として、国民によりよい裁判所・司法を提供するために弁護士会には義務、そして個々の弁護士には責務という、いわば重荷を課するものである。
 したがって、弁護士が裁判官の職務に就くことを単なる転職の次元で捉えるわけにはいかない。あるべき弁護士任官は、適格者が、国民のためによりよい裁判所を作る責務を自覚し使命感をもって裁判官の職務に就く制度なのである。個々の弁護士には、リーガル・プロフェッションとしての使命にこたえるだけの信念と気概が求められる。
 その観点からいえば、弁護士任官不振の主要な原因の一つは、個々の弁護士としても、弁護士会としても、裁判官制度改革の中での弁護士任官の位置づけが十分でなかったことにあるといえよう。市民に開かれた信頼性の高い方法で適格者を選考する努力が不十分であったこと、任官の意思の形成に向けて適格者の使命感に迫る弁護士会の努力も、適格者自身の内的な闘争も不十分であったことを素直に指摘せざるをえない。要は、日本の弁護士の多くは、自らの課題として裁判所を担うことについて、真の意味で問われていなかったのである。

  c 弁護士任官の再構築
 弁護士任官の再構築に当たり、われわれは改めて日本の弁護士のプロフェッショナリズムに対する信頼から出発する。日本の弁護士のプロフェッショナリズムは、なお健全である。日本の弁護士は、正しく働きかければ必ず真摯にこれを受けとめる。市民に開かれた信頼性の高い方法で適格者として選考された者に、その事実と誠意と情熱を持ってそのプロフェッショナリズムに働きかければ、彼らは必ず真摯に内心の闘争をはじめるだろう。そして彼らのうちの少なくない者が、さまざまな障害を乗り越えて任官の決意をするであろう。
 任官する者に不合理かつ過重な負担をかけない手立てを講ずることは当然である。客観的に見て、その者にその負担を強いることが明らかに不合理な事由については、仮に本人がそれをになうつもりであっても、弁護士任官の健全な発展のために、その他の弁護士・弁護士会が進んでこれを分かち合うべきである。この観点から、弁護士会側でのバックアップ体制の強化が必要である。

  d 弁護士から裁判官への就任を制度的に確立するための方策
 弁護士任官を抜本的に拡充するためには、弁護士任官を促進するための制度改善と、弁護士会側でのバックアップ体制の強化が必要である。
   (a) 弁護士任官推進基本計画の策定と実施
 弁護士会として一定数の裁判官候補者を獲得していくためには、全会をあげての総合的で継続的な取り組みが必要である。そのための基本計画と体制を定め、各年度ごとまたは数年度にわたる任官者目標数を設定して具体的な活動を展開する。
   (b) 適格者選考委員会(仮称)の設立
 弁護士任官を抜本的に拡充するためには、豊かな経験と十分な能力を有する弁護士(適格者)を、市民に開かれた信頼性の高い方法で探し出す制度の整備が決定的に重要である。市民が参加する適格者選考委員会制度がそれである。
 適格者選考委員会で選考されたことが一つの名誉となるように、それゆえ、選考された者が、弁護士会からの任官への働きかけを受けたときに、リーガル・プロフェッションの使命との関係でこれを深く受けとめることのできるような重みを持つように、同委員会における資質・能力の審査は、高度の信頼性、正当性、アカウンタビリティを満たすものでなければならない。すでに近畿弁護士会連合会では、市民委員とともに「下級裁判所裁判官候補者調査評価に関する協議会」を設け、第三者を加えて調査評価したうえで推薦していく制度を発足させている。
   (c) 弁護士会としての義務、弁護士としての名誉ある責務
 弁護士任官者の確保は、弁護士会としての義務であり、弁護士個人にとっては、推薦されれば主体的かつ積極的にこれを受けとめるという責務、すなわち「名誉ある責務」である。この旨を弁護士会会則を改正して明記するとともに、法曹養成・継続教育の全過程を通じて徹底し確立する。
   (d) 弁護士会としてのバックアップ体制
    i 事務所問題
 任官により事務所の閉鎖を余儀なくされる場合等に備え、弁護士会として、事務局職員に新規独立する会員や公設事務所の事務局等の再就職先を紹介するなどの体制の整備をすることを検討する。
 事件引き継ぎについては、任官者が経済的負担なく引き継ぐことのできる制度(後述の任官支援事務所制度や依頼されて引き継ぐ会員への援助制度)等を検討する。
 共同事務所で事務所の中堅に「穴」があくことに対しては、裁判官の身分を離れて弁護士になる者(再度判事として任官しようとする者も含む)を紹介することや、新規に弁護士登録する者に事務所を推薦することなどを積極的に行う。

    ii 経済的問題
 申請後任官までに事件の新規受任を事実上断ることや、事務員が退職する場合の退職金を準備することなどによる経済的負担を少しでも少なくするために、任官奨励基金を作ることなどを検討する。現在、東京弁護士会では、基金要綱を策定中である。

   (e) 基盤整備
 前述した日弁連臨時総会決議が「国民が必要とする数」を確保するとした法曹人口の増員は、弁護士任官を確立するための最も重要な基盤整備である。
 その他の具体的な方策案を、以下に列記する。

    i 公設事務所(特に都市型)の設置や、任官展望事務所の検討
 都市型の複数所員による公設事務所は、任官者の安定的供給の基礎となる。しかも、任官者の退官後の受け皿としても有用である。
 また、ある程度の弁護士経験を経てからの任官を考える者に対して、「任官展望事務所」として、予め所員の任官を予定した体制を組む事務所を作ることも検討する。
 法律事務所の法人化により、このような取り組みを具体化することができる。

    ii 任官支援事務所 
 任官者の事件を引き継いだり、任官前の一時的受け入れ先や退官後の受け入れ先になるなど、任官を支援する役割を果たす事務所を募集し、数多く設けることも検討する。

 (エ)後継者の養成
 後継者を養成するために必要な職務に従事することは、弁護士の重要な公益的責務である。

  a 法科大学院設立・運営に対する協力体制の確立
 前記日弁連臨時総会決議は、公平性・開放性・多様性を基本理念とし、実務教育も適切に行うことができる新たな法曹養成制度として『法科大学院』を全国に適正配置し、新たな司法試験及び法曹三者が対等な立場で運営する実務修習を行うこととし、弁護士会はこれらに主体的かつ積極的に関与し、その円滑な運営に協力するとしている。この決議の方針を具体化するため、日弁連は、2000年12月、「法科大学院設立・運営協力センター」を新たに設置した。
 同センターの目的及び任務は、以下のとおりである。
  1.法科大学院設置を目指す大学等(以下「大学等」という)と単位弁護士会との協議の推進及び援助
  2.大学等と協働して行う、法科大学院の実務家教員養成、教員推薦の在り方の検討及び研究者教員の実務研修
  3.大学等と協働して行う、実務教育推進のためのカリキュラム策定、教材の開発及び教育方法の研究並びに提言
  4.法科大学院と新司法試験制度との関係及び新司法試験制度運営に関する検討並びに提言
  5.法科大学院と新しい司法修習制度との関係及び新しい司法修習制度運営に関する検討並びに提言
  6.法科大学院設立基準、認可手続、第三者評価及び財政支援等に関する検討並びに提言
  7.法科大学院の設置・運営等に関する関係諸機関との協議・折衝
  8.その他、法科大学院を発展・充実させるための諸活動

  b 法科大学院における教育
 法科大学院は、「司法が21世紀の我が国社会において期待される役割を十全に果たすための人的基盤を確立することを目的とし、司法試験、司法修習と連携した基幹的な高度専門教育機関」(「中間報告」)である。そこでは、法曹養成に特化した実践的な教育が行われる。
 それは、「実務上生起する問題の合理的解決を念頭においた法理論教育を中心としつつ、実務教育の導入部分(たとえば、要件事実や事実認定に関する基礎的部分)をも併せて実施することとし、体系的な理論を基調として実務との架橋を強く意識した教育」(同)であるべきである。
 法科大学院は、法曹となる者を養成するためのプロフェッショナルスクールであり、「社会生活上の医師」としての弁護士の養成を中心として、理論と臨床の融合された教育を行う場となる。

  c 実務家教員の必要性
 法科大学院はプロフェッショナルスクールであるから、その中では純粋な法理論教育のみを行うのではなく、問題の実務的処理を念頭に置いた法理論教育が行われることになる。そこで、実際の社会に生起する様々な問題に日常接している実務家が相当数教員となる必要がある。
 実務家教員は、単に法情報の調査・法律相談の方法や尋問技術などの法技術論や法曹倫理のみを教えるのではなく、実際の問題に法を当てはめ解決方法を探るという法的思考法、訴訟運営方法、それらを法的な文書により表現する方法等の教育も担当する。すなわち実務家教員は、研究者教員とともに理論に裏づけられた実務教育、実務を背景とした理論教育を担当するのである。

  d カリキュラムの作成
 「法科大学院設立・運営協力センター」は、法科大学院のコア・カリキュラムのモデル案の策定を準備している。策定にあたっては、学識経験者にも協力を求め、同案には科目や単位数にとどまらず、当該科目において最低限教育されなければならない項目などを盛り込む。

  e 実務家教員研修
 すぐれた実務家でありすぐれた教育者である者が法科大学院に存在しなければ、すぐれた法曹は生まれてこない。そのためには、法科大学院の教員となろうとする実務家に教育者としての研修を行う必要がある。
 法科大学院は、大学制度上の大学院として構想されていることから、実務家教員には、大学院で教鞭を執ることのできる資格が必要となる。これまで研究者養成の大学院が主体であったことから、この資格も研究中心のものになっている。法科大学院の教員資格については、教育を主目的とするプロフェッショナルスクールにふさわしく教育能力と教育実績を重視したものに変更されるべきである。文部省の基準が教育中心のものとして変わることもあり、日弁連の行う研修も、新たに設定されるこの資格を取得できる水準のものを想定することになる。また、「法科大学院設立・運営協力センター」において、実務家教員のための教材を開発し、実務科目を中心として法科大学院での教育方法を確立する必要がある。

  f 研究者教員研修
 法科大学院においては、これまで大学法学部あるいは大学院の法学研究科で教鞭を執っていた者も講義を担当することになる。これまでの大学院の教官であった教員は、研究中心の基準で選考された「マル合のM」と呼ばれる資格を有する者であった。しかし、法理論の研究実績があるだけでは、プロフェッショナルスクールとしての法科大学院の教員としては懸念すべき点がないとはいえない。研究者教員が実務の実際を体得するため「法科大学院設立・運営協力センター」において研究者教員向けの研修も行うことを検討している。

  g 実務家教員の採用方式
 実務家教員の採用方式としては、@名簿登載推薦方式、A推薦方式、B法科大学院側に選任を委ねる方式の3つが考えられる。
  1.名簿登載推薦方式とは、日弁連の実施する実務家教員研修を修了した者を名簿に登載した上で、その名簿を各法科大学院に提供し、その名簿内から法科大学院が適当と考える教員を採用する方法である。
  2.推薦方式とは、やはり日弁連の実施する実務家教員研修を修了した者のうちから日弁連が適当と考える教員を各法科大学院に推薦し、各法科大学院はその者を採用する方法である。
  3.法科大学院側に選任を委ねる方式は、実務家のうちから各法科大学院が適当と考える教員を個別に採用する方法である。
 日弁連は、高い質の実務家教員を安定的に輩出するとともに、法科大学院側のニーズに応えるための方式を法科大学院側と協議しつつ策定していきたい。

 (オ)弁護士の意識改革

  a 公益的責務に関する意識改革
 「中間報告」は、弁護士に対し、「信頼しうる正義の担い手」としての社会的責務を一層主体的に担うための意識改革を押し進めることを求めている。
 司法を担い、「司法の独立を擁護し、司法制度の健全な発展に寄与する」(弁護士倫理第3条)意識を不断に深化させることは、弁護士制度改革の最も根元的な課題である。日弁連は、前述した昨年11月の臨時総会決議により、その歴史的一歩を踏み出した。今後ともその歩みをより着実に進め、「公衆への奉仕」・「公務への就任」・「法曹(弁護士)養成への主体的関与」などを主柱とする公益的責務を担うにふさわしい量と質を備え、これを十分に自覚した法曹を生み出していきたい。
 公益的責務についての意識改革は終わりのない課題であることを自覚し、そのための試みを絶え間なく続けていく所存である。

  b 「頼もしい権利の護り手」であるための意識改革
 一方、「頼もしい権利の護り手」であるための意識改革も、枢要な課題である。
 専門家と市民の関係については、医師と患者の関係についての議論が参考になる。医療の分野では、すでに患者の自己決定権とインフォームド・コンセント、カルテの開示等の議論が進んでいる。
 依頼者である市民の自己決定権を尊重しつつ、専門的判断に裏打ちされた高度の法的サービスを提供する存在であるためには、市民に対し、弁護士・弁護士会が積極的に情報を開示・発信すること、また市民からの訴えに的確かつ丁寧に対応し、納得のいく説明をすることが求められる。
 そのような観点からみると、日常業務において依頼者に対し、権威的でパターナリスティックな対応をすることを戒めるのと同時に、制度的には、既に実現した広告の原則自由化に加え、弁護士会の広報の充実、市民窓口など苦情処理体制の充実などが求められる。請求者の納得のいく手続と内容になっているかという観点から、綱紀・懲戒手続の綿密な検討が必要である。さらに弁護士へのアクセスを阻害する要因の解消、弁護士の活動領域の拡大、隣接法律専門職種との協働なども、すべてこれに関連する課題である。

 (2)弁護士の活動領域の拡大

  ○ 弁護士法第30条による兼職等の制限(同条第1項による公務就任の制限及び   同条第3項の営業等の許可制)の自由化のあり方
 「中間報告」は、弁護士の活動領域の拡大について、以下のように述べている。
 「法の支配の理念の下、弁護士が社会の隅々に進出し、個人や法人の代理人、弁護人としての活動にとどまらず、公的機関、国際機関、非営利団体(NPO)、そして民間企業、労働組合などに所属して多様な機能を発揮し、その健全な運営に貢献することは、これからの我が国社会の在り方として望ましいものと考える。それは、単に利用者のニーズを充足するにとどまらず、これらの様々な領域で、法の求めるところのものが実効性をもって機能するようになる(「法の血肉化」)という積極的な意義を有するものである。このような弁護士の活動領域の拡大を進める見地から、弁護士法第30条による兼職等の制限についてはこれを自由化する方向で同条の見直しを行うべきである。」
 この「中間報告」の指摘にあるように、弁護士が社会のさまざまな分野に積極的に関与して、社会正義の実現と基本的人権の擁護のために実効性のある活動を旺盛に展開できるよう、弁護士法第30条の規制を緩和する方向で考えるべきである。
 まず、弁護士法第30条第1項により制限されている公務への就任については届出制に切り替えて自由化すべきである。
 他方、弁護士法第30条第3項については、届出制の採用に慎重な意見もあることに鑑み、届出制に改めることも含め、さらに検討を進めることとしたい。その際に公務員など組織内で勤務する弁護士、社内弁護士の倫理規定を検討することも重要である。
 公務員弁護士、社内弁護士等の組織内で働く弁護士倫理の内容としては、以下のような点が検討対象となる。
  1.品位・信用の保持(品位を害する会社の営業・業務を中止・指導する義務)
  2.経済的危険の防止(保証などをしないこと)
  3.独立性の保持(法的知識と経験に基づいて弁護士業務を公正に遂行すること)
  4.利益相反・双方代理の回避のための特別の配慮(関連会社間の問題や自己の地位確保のための諸問題を起こさないようにすること)
  5.外部弁護士の利用(職務の公正・的確さを担保するために外部の弁護士を適切に利用する配慮)
  6.転職の場合の配慮(移籍に伴って守秘義務違反等の問題を起こさないような配慮)

 (3)弁護士倫理の強化と弁護士自治

 ア 弁護士会による弁護士及びその職務の質に関する指導・監督の強化、指導・監督その他の事務を実効的かつ国民に開かれた透明性の高い形で遂行するために必要な具体的措置
 2000年8月29日の第28回審議会における日弁連会長プレゼンテーションにおいて、日弁連は、「弁護士に対する信頼を維持し向上させるために、個々の弁護士が倫理を自覚し、自らの行動を規律するとともに、日弁連および弁護士会は、所属弁護士の指導・監督(弁護士法31条および45条により各弁護士会および日弁連は所属弁護士の指導・監督ができる)を適正に実施できるような態勢を整えなければならない。」、「日弁連は『弁護士倫理』(1990年3月2日、日弁連総会決議。1994年11月22日、日弁連臨時総会決議)を定め、弁護士の倫理向上に努めてきたが、弁護士の社会的な役割が一層増大していくことを考えるとき、弁護士の業務の複雑化・多様化に応じて、弁護士倫理をさらに徹底しその向上をはかるための努力が必要であると考える。」と述べ、倫理研修の在り方及びその実施状況について言及した。
 「中間報告」では、この点について、「弁護士倫理の強化その他弁護士の職務の質の確保・向上のため、弁護士会の自律的権能を厳正に行使し、弁護士自治を一層実効あらしめる見地から、弁護士会による弁護士及びその職務の質に関する指導・監督を強化し、指導・監督その他の事務を実効的かつ国民に開かれた透明性の高い形で遂行するために必要な具体的な措置を講じるべきである。」と指摘している。

  (ア)倫理研修の充実・強化

  a 弁護士倫理研修の位置づけ
 弁護士倫理は、「基本的人権の擁護と社会的正義の実現」(弁護士法第1条第1項)、「誠実な職務の遂行による社会秩序の維持と法律制度改善への努力」(弁護士法第1条第2項)という弁護士の使命に基づき、弁護士の職責と職務に関し、その行動を自ら規律するための規範である。
 弁護士倫理は、弁護士の使命・職責等に関する「一般規律」にとどまらず、「依頼者との関係における規律」、「事件の相手方との関係における規律」、「裁判関係における規律」、「官公庁との関係における規律」、「弁護士会との関係における規律」等の現実の弁護士業務の中で繰り返し問われる、弁護士業務のすぐれて実践的な課題に関する具体的な行動規範を含んでいる。同時に、弁護士という存在の本質に深く根ざした規範である。
 したがって、弁護士倫理は、まず法曹養成過程において枢要なものとして位置づけられるとともに、十分な時間をとって繰り返し教育される必要がある。また、弁護士として登録し業務を開始するにあたって倫理研修等を実施するとともに、弁護士として一定の経験を経た後も、倫理研修等によって弁護士倫理を保持し高める機会を制度的に確保することが必要である。

  b 倫理研修の実施状況
 倫理研修の実効性を確保するために、日弁連は、1997年にこれを義務化し、前記各登録後年数に応じ、受講義務者は、該当する年度内に倫理研修を受講しなければならないこととされている。
 平成11(1999)年度における倫理研修対象者の受講状況は、以下のとおりである。     登録1年目研修   対象者674名   受講率 98.4%     登録後満5年    対象者461名   受講率 93.9%     登録後満10年    対象者403名   受講率 94.3%     登録後満20年    対象者352名   受講率 92.3%     登録後満30年    対象者344名   受講率 91.3%
 なお、2000年10月に開始された新規登録弁護士研修は、司法研修所53期修了者597名及び最近の登録者が対象とされ、53期修了の登録者605名のうち、98.7%の者が受講した。
 どうしても受講できなかった者には、翌年度の受講が認められる。ほとんどの受講対象者が倫理研修を受けており、倫理研修の義務化は所期の目的をほぼ達成している。今後、受講対象者の100%受講を達成するための手立てを講じていきたい。

  c 弁護士会による集合倫理研修の充実
 倫理研修を充実させるため、日弁連及び各弁護士会において、小人数による討論形式、事例問題によるケーススタディ方式、綱紀・懲戒委員長経験者等による懲戒事例を踏まえた講義等が行われている。
 日弁連は、講師養成や倫理研修のプログラム、教材等をより充実化させる作業を継続して行っている。
 また、日弁連及び各弁護士会において、倫理教育(研修)を行うための体制の整備が図られている。従来から、研修委員会が綱紀委員会と協力するなどして研修を実施してきたが、1999年以降、東京、大阪、第二東京、京都の各弁護士会が「倫理委員会」を設置し、会員弁護士の倫理問題を専門的にとりあげ、研修その他の対策を講じるようになってきている。
 日弁連は、かかる体制をさらに拡充する所存である。

  d 弁護士業務を通じての倫理研修
 弁護士倫理の多くが弁護士業務に直結しているため、集合研修のほかに、実際の弁護士業務を通じた倫理研修を行っていく必要がある。各弁護士会では、新規登録弁護士について、当番弁護士や弁護士会の行う法律相談などで指導弁護士を選任して指導にあたらせる制度が作られてきている。事件活動や相談活動と弁護士会の倫理研修システムとの結合を日弁連としても検討したい。

 (イ)弁護士の職務の質に関わるその他の方策

  a 弁護士と依頼者との関係における契約関係の明確化のための方策
 各弁護士会の会則や規則により、「弁護士が事件等を受任したときは、委任契約書を作成するよう努めなければならない。」とされている。また、各弁護士会が行う法律相談から事件等を受任する場合には契約書を作成することが定式化されている。さらに各弁護士会は契約書のモデルを作成するなどして弁護士と依頼者との間の委任関係、報酬額等が明確になるよう努力してきた。近年では、事件等を受任する場合に契約書を作成することが相当の割合で行われるようになってきている。
 弁護士が事件等を受任する場合に、その契約関係を明確にすることは、弁護士の受任業務の範囲と弁護士の責任を明確にし、弁護士に依頼する人に報酬額についての具体的な予測を可能ならしめるなど重要な意義を有する。
 日弁連としては、弁護士の受任業務の範囲や弁護士の責任を明確化するため、各弁護士会が契約書のマニュアル(定型)を整備し、その利用を弁護士にも、弁護士に依頼する人にも促すよう具体的な方策を講じたい。

  b 受任弁護士の報告・説明義務の明確化
 「弁護士倫理」においては、「弁護士は、依頼者に対し、事件の経過及びその帰趨に影響を及ぼす事項を必要に応じ報告し、事件の結果を遅滞なく報告しなければならない。」(弁護士倫理第31条)と定められている。その趣旨をさらに徹底するため、事件を受任したときには事件等を受任した弁護士が記録を作成すること、業務上の預り金を専用の銀行預金口座に預金して保管すること、これらの内容について依頼者への報告を義務づけること、依頼者などから弁護士会を通じて調査を行うことができるようにすることなどを検討したい。すでに、業務上の預り金について、いくつかの弁護士会(東京弁護士会、大阪弁護士会、第二東京弁護士会)において上記のような制度が実施されている。

  c 弁護士会による指導・監督のための調査とこれに協力すべきことの明確化
 事件等の依頼者などからの要請に基づいて弁護士会が行う調査に対し、各弁護士が協力しなければならないことを、日弁連や各弁護士会の会則・規則等で明確にし、また、事件等の依頼者からの申し出を受けて弁護士会からその弁護士に対して改善の勧告等を行う制度も検討したい。

  d 公的相談業務から外すなどの措置
 各弁護士会において、懲戒処分を受けた弁護士等を弁護士会の行う法律相談業務の担当や国選弁護人に推薦する対象となる弁護士から除外する取扱いが事実上行われている。これを制度化することも検討したい。

 イ 弁護士会運営への国民参加など国民の意見を一層反映させ、これに対する説明  責任を果たすために必要な具体的方策
 「中間報告」は、弁護士会運営への国民参加、説明責任について、以下のとおり述べる。
 「国民と司法の接点を担う弁護士の職務の質を確保、向上させることは、弁護士の職務の質に対する国民の信頼を強化し、ひいては司法(法曹)全体に対する国民の信頼を確固たるものにするために必要であり、これにより国民がより充実した法的サービスを享受できるようになると考える。このためには、弁護士倫理、弁護士倫理に関する教育、弁護士に関する苦情の処理、綱紀・懲戒に関する諸手続など、弁護士の職務の質に関する指導・監督その他の事務に係る弁護士会の自律的権能が実効的かつ厳正に行使されなければならず、このことは、弁護士会の国民に対する責務と言うべきである。
 さらに、これらの弁護士会の諸権能を自律的に行使する上で、手続の透明化、国民に対する説明責任の実行、それらの運営・運用への国民参加など国民の意思を反映させ、国民の信頼に応える必要があると言える。」

 (ア)弁護士会運営の制度と現状

  a 弁護士会の運営機関
 弁護士会の運営は、弁護士法、日弁連及び各弁護士会の会則に従って行われる。総会を最高の意思決定機関とし、会員の選挙によって選任される会長、副会長その他の機関がこれを執行する。会長及び副会長は、法令によって公務に従事する職員とされている(弁護士法第33条、第35条)。
 日弁連の役員は、現在、会長1名、副会長12名、理事71名、監事5名とされている(日弁連会則第56条)。会長は弁護士である会員の投票によって、弁護士である会員の中から選任される(日弁連会則第61条第1項)。副会長、理事及び監事は、各弁護士会が選任した代議員(各弁護士会で、3名に会員数50名までごとに1名を加えた員数)によって構成される代議員会において選任される(日弁連会則第61条の4)。
 日弁連は、会長が代表する。会長は会務を統理し(日弁連会則第57条第1項)、理事会は「運営に関する重要事項」(日弁連会則第59条第1号)等を審議し、常務理事会は「運営に関する事項」(日弁連会則第59条の第3、第1号)等を審議する。

  b 弁護士会運営の概要

 (a)弁護士会の諸機関とその活動
 日弁連の機関には、会長以下の役員、総会、代議員会のほかに、各種の委員会、事務局がある。各種委員会は会員である弁護士がその活動に参加し、委員会ごとの所管事項に関して研究・検討・決定・実行等を行う。事務局は、弁護士である職員と一般職員から構成され、日弁連の会務全般にわたって、各部局ごとに職務を遂行する。
 各弁護士会の機関も概ね、日弁連の制度に準拠しているが、会長・副会長・監事が役員とされ、総会のほか日常的な事項を審議する常議員会が設けられているとともに、各種委員会と弁護士会事務局が設置されている。
 日弁連、各弁護士会とも、役員・代議員(常議員)・委員会委員は原則として無報酬でその活動を行っており(日弁連会長については実経費相当額程度を支給)、弁護士である職員と一般職員は有給である。

 (b)弁護士会の財政
 弁護士会の維持・運営のための財政は、基本的に弁護士である会員からの会費によって賄われており、国あるいは地方自治体等からの補助金、援助金などはない。弁護士会の活動の多くが、無報酬である役員や委員会委員によって担われているため、弁護士会の財政は、全体としてきわめて小規模である。日弁連の平成11年度一般会計決算は約30億6000万円、財政規模において最大の弁護士会である東京弁護士会は、同約16億2000万円、最小の弁護士会である鳥取県弁護士会は、同約1470万円となっている。弁護士である会員の会費は日弁連会費、各弁護士会の会費、支部・地区会費等からなっている。東京弁護士会の一般会員の会費は、日弁連会費を含め月額約3万5000円、横浜弁護士会の一般会員の会費は、弁護士会館維持運営資金を除き月額約3万7000円、山口県山口地区の一般会員の会費は、日弁連会費、山口県弁護士会会費、山口地区会会費、弁護士会館関係特別会費を含め月額約11万円などとなっている。
 昨年9月以降、「住宅の品質管理の促進に関する法律」に基づく指定紛争処理機関として各弁護士会が指定されたため、紛争処理機関としての業務に関して、業務委託に伴う助成金が給付される扱いとなった。

 (イ)弁護士会の運営に第三者の意見を反映させる方策
 日弁連及び弁護士会は、従前から会務運営に第三者の意見を反映させる方策をとってきた。
 たとえば、日弁連においては1979年に日本弁護士連合会懇話会規則を制定し、毎年2回以上これに基づく懇話会を開催し、日弁連会長が委嘱した外部の学識経験者に対して会務運営の状況について報告し、これに関する意見を受けてきた。
 また、弁護士法及び日弁連の会則上、外部委員(参与員)参加が規定さ れている委員会は、以下のとおりである。
 1.資格審査会  弁護士委員のほかに裁判官・検察官・学識経験者各1名
 2.懲戒委員会  弁護士委員のほかに裁判官・検察官各2名、学識経験者3名
 3.綱紀委員会  弁護士委員のほかに裁判官・検察官・学識経験者各若干名
 その他、マスコミ関係者とも、各社論説委員・解説委員との懇談会、司法記者クラブ・法務省記者クラブとの懇談会を随時開催し、マスコミ各関係者の意見を承ってきた。
 各弁護士会においても、たとえば、市民モニター制度など外部の意見を聞く制度を有しているところが多い。
 さらに、たとえば、報酬等基準規程の改正など、市民に直接関係する分野の重要な会規の改正をするにあたっては市民代表の意見を承るなどの工夫も行ってきた。
 弁護士会が担う役割の重要性からみて、会務運営が独善に陥らないよう市民の意見を反映させることはきわめて重要であり、上記のような制度の運用を充実させることに加え、さらに制度の改善に努めていきたい。
 弁護士会の運営を国民に開かれたものとするための具体的な課題としては、以下のようなものが挙げられる。
 第1には、国民の利害に直接結びつく「弁護士の職務の質の確保、向上」に関する分野への参加である。たとえば、弁護士倫理、弁護士報酬を見直すための委員会に市民代表の参加を得ることなどが検討課題となる。
 第2には、個別具体的な事件性をもった市民と弁護士との広い意味での紛争を取り扱う分野への参加である。たとえば、弁護士会への市民からの苦情処理を扱う委員会、紛議調停委員会、綱紀委員会、懲戒委員会などに広く市民代表の参加を得ていくべきである。
 また、弁護士会が弁護士の登録・懲戒などの行政事務を担っている以上、これについて国民に対する説明責任(アカウンタビリティ)や情報公開の責任がある。日弁連としては、情報公開請求に対し的確に対応するための会規の制定、事務局体制の整備などを早急に行いたいと考えている。

 ウ 倫理教育の実効性を確保する方策

 (ア)これまでの審議経過と日弁連の意見
 第28回審議会において、日弁連は、「弁護士倫理の多くは現実の弁護士業務の中で繰り返し問われる問題であり、弁護士業務上のすぐれて実践的な課題である。」、「法曹養成制度の中で弁護士倫理に関する教育プログラムを実施し、『一般規律』、『依頼者との関係における規律』、『事件の相手方との関係における規律』、『裁判関係における規律』、『官公庁との関係における規律』、『弁護士会との関係における規律』等各場面について具体的かつ実践的な教育を十分な時間をとって行う制度を実現する必要がある。」と述べた。
 「中間報告」においても、「法曹養成及び継続教育において倫理教育を重視することとし、その実効性を確保する方策を検討すべきである。」と指摘されている。

 (イ)法曹養成過程における倫理教育
 法曹養成過程においては、理論と臨床の融合された教育を行う必要があるが、とりわけ弁護士倫理教育は、理論的な教育として行われるとともに、臨床的に、具体的な課題・ケースごとに、本人、依頼された弁護士、相手方、相手方の弁護士、裁判官、検察官、官公署、その他の関係者等多面的な視点に立って、どのような行動をとるべきか、どのような判断をすべきかを修得させるものでなければならない。そのためには、年間のカリキュラムを組んで繰り返し行われること、現実に発生した問題やケースから具体的に学ぶことができるものであること、司法制度のみならず社会的・道義的な観点と深く関連づけて修得できるようなものであることが必要である。
 法曹養成過程における倫理教育の充実をはかるために、日弁連としては、弁護士として十分な経験と弁護士倫理に精通した弁護士が教員として選任されるように、教員となりうる弁護士の養成等に最大限の努力を傾注する所存である。

 (ウ)継続教育における倫理教育
 弁護士登録をした後に行われる継続教育は、主として日弁連及び各弁護士会の実施する倫理研修によって行われている。倫理研修をさらに充実していくとともに、法務研究財団等による弁護士倫理に関する研究と教育を行うことを検討したい。

 エ 綱紀・懲戒制度及び関連する諸制度の改革

 (ア) 改革の基本方向

  a 三つの柱
 日弁連は、今次の司法制度改革の趣旨に鑑み、以下の三つの柱を骨子として、苦情解決制度を含む綱紀・懲戒制度の改革を行う。
 第1に、苦情案件と懲戒案件の統合と個性化を図ること。
 すなわち、依頼者・弁護士間の紛争に基づく苦情案件への対応と懲戒案件への対応とを有機的に連携(統合)させながら、それぞれの手続についてその固有の性格を踏まえた適正化・実効化を図る(個性化)こと。
 第2に、依頼者指向性・依頼者保護を強化すること。
 すなわち、苦情案件について、それに含まれている懲戒案件としての要素を適正に把握しつつ、依頼者指向・依頼者保護の理念に立って依頼者と弁護士間の紛争の解決を図るための諸制度を整備すること。
 第3に、厳格で適正かつ説明責任(accountability)にかなう懲戒制度とすること。
 すなわち、懲戒案件につき、それに含まれている苦情案件としての要素に適正に対応しながら、懲戒制度が、弁護士会の会員弁護士に対する指導監督上の紀律を維持するためのものであることを踏まえながら、一方で、高い質の弁護士業務への国民の強い要望に応えるべく、その厳格性を高めるとともに(調査の実効化、手続の迅速化、手続への懲戒請求者の参加)、他方で、より十全な依頼者の権利擁護活動を確保する観点から弁護活動の独立性・自律性を保障すべく、手続の適正性を強化し(適正手続、手続への懲戒請求者の参加)、加えて、その運用に対する国民の信頼を強化すべく、これをより説明責任にかなうものとするために(公開、市民参加)、懲戒制度を全般的に見直して、これを改革すること。

  b 苦情案件と懲戒案件の統合と個別化
 一般に、懲戒案件も依頼者と弁護士間の軋轢・紛争として生ずることが多い。依頼者から発せられる弁護士に対するさまざまな苦情の中には、@ 弁護士の職務行為に対する不満、A 弁護士と依頼者間の民事紛争に発展する要素、B 懲戒案件に発展する要素の全部または一部が含まれている。
 大半の苦情は、何らかの理由(説明不足や連絡の不備あるいは誤解など)によるコミュニケーションの不全に起因する、依頼者の弁護士の職務行為に対する不満(上記の@)を主体たる内容とするものであり、民事紛争に発展する要素(上記のA)も、懲戒案件に発展する要素(上記のB)も含まれていない。
 しかし、仮にその苦情が依頼者の弁護士の職務行為に対する単なる不満であったとしても、弁護士の依頼者への対応のあり方について改善を要する問題が含まれている可能性がある以上は、決して軽視することはできない。まして、民事紛争に発展する要素や、懲戒案件に発展する要素が含まれているときに、これらを看過して適切な対応をする機を逸することによって生ずる弊害は甚大である。苦情案件に対するスクリーニング体制を整備し、民事紛争に発展する要素や、懲戒案件に発展する要素を見逃さないようにしなければならない。
 他方、当初から懲戒案件として持ち込まれるものも、その多くは懲戒事由を明らかに含んでいない。しかし、それが懲戒案件たる実質を備えていないとしても、依頼者の弁護士の職務行為に対する不満や民事紛争に発展する要素が内包されていることも少なくなく、これらに対する適切な対応を怠れば、依頼者の弁護士・弁護士会に対する不信や不満を醸成する結果にもなりかねない。
 もちろん懲戒は、依頼者・弁護士間の紛争の解決いかんに左右される問題ではないから、苦情案件への対応と懲戒案件への対応とは一方で他方を解消しうる関係にはない。苦情案件の解決手続と懲戒案件の処理手続とはそれぞれの固有の性格に応じて適正化・実効化されなければならない。
 こうして依頼者・弁護士間の紛争に基づく苦情案件への対応と懲戒案件への対応とを有機的に連携(統合)させながら、それぞれの手続についてその固有の性格を踏まえた適正化・実効化を図る(個性化)ことが必要である。

  c 依頼者指向性・依頼者保護の強化
 苦情案件は依頼者・弁護士間の紛争がその本体をなしており、それに対してこれまでにも増して依頼者指向・依頼者保護の理念に立って対応する必要がある。窓口の対応のあり方を含め苦情案件への対応のあり方が全面的に見直される必要がある。
 もとより苦情案件には懲戒案件としての要素が含まれている可能性があり、この要素を看過して問題を苦情案件への対応に解消してはならない。依頼者指向性・依頼者保護の強化は、弁護士会の会員弁護士に対する指導監督上の紀律の維持という、依頼者保護とは別個の理念に基づいて懲戒案件を処理することと矛盾するものでない。むしろそれぞれをその固有の性質に応じて強化することが、それぞれの制度を健全に発展させるとともに、全体として社会と国民の期待に応え、弁護士と国民間の信頼関係を醸成することにつながるのである。この点を踏まえつつ、依頼者と弁護士間の紛争の解決を図るための諸制度を、依頼者指向・依頼者保護の理念に立って、整備することが必要である。

  d 厳格で適正かつ説明責任にかなう懲戒
 懲戒案件につき、第1に、それに含まれている苦情案件としての要素に適正に対応することが必要である。懲戒委員会の決定に対する不服申立手続の双方向性が問題になるのも、依頼者・弁護士間の紛争(苦情案件)の解決が行われていないことへの不満が、懲戒処分がされなかったことに対する不満という形で現れているものと解される。上述のとおり、依頼者・弁護士間の紛争を依頼者指向・依頼者保護の理念に立って解決することが、懲戒案件を厳正に処理することにつながるのである。
 その上で、第2に、懲戒制度が、弁護士会の会員弁護士に対する指導監督上の紀律を維持するためのものであることを踏まえ、その機能を拡充・強化する必要がある。
 一方で、高い質の弁護士業務への国民の強い要望に応えるべく、その厳格性を高める必要がある(調査の実効化、手続の迅速化、手続への懲戒請求者の参加)。
 他方で、より十全な依頼者の権利擁護活動を確保する観点から弁護活動の独立性・自律性を保障すべく、手続の適正性を強化しなければならない(適正手続、手続への懲戒請求者の参加)。
 そして、「中間報告」が指摘するように、懲戒制度の運用に対する国民の信頼を強化すべく、これをより説明責任にかなうものとするために(公開・透明化、市民参加)、懲戒制度を全般的に見直して、これを改革することが必要である。

 (イ) 弁護士会の苦情処理の適正化のための方策

  a これまでの審議経過と日弁連の意見
 第28回審議会において、日弁連は、「弁護士の業務のあり方、報酬制度をより透明性の高いものにし、弁護士に依頼する市民の立場から利用しやすく納得の得られるものにするために努力するとともに、弁護士に対する苦情に弁護士会として適切に対応できるように体制等を整備する。」ことを述べ、そのための具体的な方策として、
  1.苦情を受けつけ、適切な対応をなしうる体制を全国の弁護士会で整備すること
  2.弁護士への苦情がある市民に苦情相談・懲戒申立等の手続をとることができることを広く知らせるための広報を充実させること
  3.苦情相談、紛議調停、懲戒等のデータとその内容を(プライバシーに配慮しつつ)公表すること
  4.苦情により判明した事実から弁護士会の指導監督を迅速に行えるよう体制を整備すること
の4点を検討課題としてあげた。
 審議会の「中間報告」は、「弁護士に関する苦情の処理」の実効的かつ厳正な行使が「弁護士会の国民に対する責務と言うべきである。」とし、「弁護士会が苦情処理を適正化するための具体的な方策を講じるべきである。」と指摘している。

  b 今後の取り組み
 日弁連は、弁護士に対する弁護士会への苦情に適切に対応するために、以下の方策を検討し、可能なものから速やかに実行に移していく所存である。
  1.各弁護士会と日弁連の会則・規則に苦情相談窓口に関する規定を設け、制度上、苦情相談を受ける体制を整備し、また、紛議調停や綱紀・懲戒制度との結合をはかる。また、苦情相談窓口を適切に運営するために苦情相談窓口運営委員会を設け、弁護士以外の委員(外部委員)の参加を得て苦情内容、苦情処理のあり方等を検討し、その結果を弁護士会の運営に生かしうるようにする。
  2.苦情相談を受けて適切に処理することができるようにするため、相談窓口で常時相談の申し出を受けられるよう、事務局等の体制を整備する。また、相談に十分に応じられるように、相談担当者を確保すること、相談担当者や窓口となる職員の研修を継続的に行うこと、相談マニュアルや相談に応じるための情報を整備することを各弁護士会および日弁連が行う。
  3.苦情相談の受付件数や相談結果、懲戒請求・紛議調停申立に移行した件数、それらの内容等を集計して公表することを制度化する。
  4.苦情相談窓口、紛議調停制度、懲戒請求制度等について、パンフレット、インターネットのホームページ等で広く知らせ、利用者、市民からの苦情相談等を受ける制度に関する情報を提供する。
  5.苦情により判明した事実から弁護士に対する弁護士会の指導監督が必要と思われるケースについては、迅速にこれを行うことができるよう、会則・規則上及び体制上必要な整備を行う。

  c 関連する諸制度の改革

  (a) 弁護過誤による被害を救済する制度等の充実
 弁護過誤訴訟には躊躇なく対応し、その活性化を図る必要があることはいうまでもない。
 しかし、弁護過誤訴訟は、医療過誤訴訟と同様、専門的判断の適否や、弁護過誤として争われる業務内容の立証、損害額の立証などに難しさがある。弁護士に事件等を依頼した人からの訴えを容易にするためには、証拠開示制度の拡充など一般的な訴訟制度の改革も必要である。訴訟制度の改革とともに、弁護士と依頼者との委任契約の文書化等により弁護士の責任の有無およびその範囲の明確化を図るとともに、一定の事項についての記録の作成やその報告を弁護士の業務上の義務とすることなどが必要である。
 日弁連としては、上記の弁護士の業務上の責任の有無およびその範囲の明確化をはかるための方策を検討したい。
 また、訴訟による救済のみならず、ADRを通じての救済、弁護士会の手続を通じての救済を容易にするための施策を具体化する必要がある。
 弁護士法上、弁護士会には、紛議調停委員会を設ける必要があり、全国の弁護士会に紛議調停委員会が設けられている(弁護士法41条)。この制度は、弁護過誤のほか広く弁護士の職務に関する紛議案件を扱うものとされており、弁護過誤による被害救済の制度としても役割を果たしている。弁護士会の役員経験者等が調停を行い、弁護士に金銭の給付を勧告し、支払わせることも行われている。日弁連としては、紛議調停制度が国民から信頼される制度として一層活用されるように、調停委員に市民の参加を得ることも含め必要な方策を講じることを検討したい。
 弁護士会以外のADRでは、裁判所の民事調停制度を利用するケースもあると思われるが、その詳細を把握していない。

  (b) 弁護士賠償責任保険の普及
 弁護過誤について、弁護士賠償責任保険の制度があり、現在でも多くの弁護士がこれに加入している。ただし、現在の賠償保険は、弁護士の故意または重過失による過誤について保険の対象外としたり、保険金額が少ないものがあるなど、弁護過誤による被害を填補する制度としては十分なものとはいえない。
 弁護士賠償責任保険への加入を促進するとともに、保険制度の改善をはかる必要があり、日弁連としても、これに取り組みたい。

 (ウ) 綱紀・懲戒手続の改革

  a 綱紀・懲戒手続の一層の透明化、迅速化、実効化のために、国民参加の拡充など、これら制度及び運用の見直しの在り方

  (a) これまでの審議経過と日弁連の意見
 第28回の審議会において、日弁連は、「弁護士会が会員である弁護士に対する懲戒権を適正に行使することは、弁護士の職務の独立を保障しつつ弁護士の職務の公正を確保するものであり、弁護士会の最も重要な責務の一つである。」とし、綱紀・懲戒手続を一層透明化、迅速化し、実効あらしめるために、以下の諸点につき改善の検討課題として述べた。
  1.綱紀委員会の外部の参与員、懲戒委員会の外部委員に関し、裁判官・検察官・学識経験者だけでなくユーザーサイドの意見を代弁する参与員・委員を入れること。
  2.綱紀委員会の調査、懲戒委員会の審査の適正・迅速化を進めるために、綱紀・懲戒手続における調査・審査にあたって懲戒請求を受けた弁護士が弁護士会による調査・審査に協力すべきことを明記すること。
  3.綱紀・懲戒手続において懲戒請求者が実質的に手続に参加することができるようにすること。
  4.懲戒委員会の決定につき懲戒委員会の少数意見を掲げることができるようにすること。
  5.懲戒に関する先例の充実化を図ること。
  6.現在でも懲戒処分の結果は公表されているが、懲戒処分以前の段階で公表することを制度化すること。
 「中間報告」は、「綱紀・懲戒に関する諸手続など」「弁護士会の自律的権能が実効的かつ厳正に行使されなければならず、このことは、弁護士会の国民に対する責務と言うべきである。」「弁護士会による綱紀・懲戒手続の一層の透明化、迅速化、実効化のために、国民参加の拡充など、これら制度及び運用の見直しを行うべきである。」と指摘している。

  (b) 綱紀・懲戒制度の改革に関する日弁連の基本的視点
 現行弁護士法(1949年)の施行に至るまで、わが国における弁護士に対する監督権は、検事あるいは、地方検察庁の長である検事正のもとに置かれた。弁護士に対する懲戒権は、裁判官による懲戒(代言人規則 1877年・明治9年)、検事長からの懲戒訴追に基づく控訴院裁判所による懲戒(旧々弁護士法 1893年・明治26年)、司法大臣の認可を得てする検事長の懲戒申立に基づく控訴院裁判所による懲戒(旧弁護士法 1933年・昭和8年)、と変遷しているものの、弁護士に対する監督・懲戒権限が国家権力のもとに置かれていた点で一貫している。現行弁護士法が弁護士に対する監督・懲戒権限を弁護士会に委ねたのは、弁護士として国民の基本的人権を擁護し、社会正義を実現する使命(弁護士法第1条)を全うせしめるためである。国家権力による弁護士の監督・懲戒というそれまでの構造を断ち切った点で、現行弁護士法は画期的なものであった。そのことの意義は、今日においても変わっていない。
 現行弁護士法において、弁護士に対する弁護士会の監督・懲戒権の行使は、弁護士会の役員や綱紀・懲戒委員が「法令によって公務に従事する職員」(弁護士法第35条第2項、第69条、第71条、第54条第2項)とされ、弁護士会による懲戒処分が行政不服審査法による審査請求の対象とされている点(弁護士法第59条)に見られるように、弁護士会による行政処分として位置付けられている。
 日弁連は、弁護士に対する懲戒権限が、国民から付託されたものであり、その厳正・的確・迅速な行使は、何よりも国民に対する責務であると考えている。今日、行政の国民に対する責任が改めて問いなおされ、その一層の透明化や国民に対する説明責任(アカウンタビリティー)が求められ、これに対する国民の主体的参加が強く要請されている。「国民の社会生活上の医師」としての役割を担う法曹、とりわけ、国民にとって頼もしい権利の護り手であるとともに信頼しうる正義の担い手である弁護士に対する懲戒権限の行使は、他の行政手続にも増してこれらの要請にこたえるものでなくてはならない。
 日弁連は、従来から、弁護士に対する監督・懲戒権限について、厳正・的確・迅速な行使に心がけてきた。弁護士登録を審査する資格審査会や懲戒委員会に外部委員制度を導入したこと、懲戒処分の内容及び処分理由の要旨を公表する制度を導入したこと、倫理研修を義務化し継続的に弁護士倫理を研修する制度としたこと、一部の弁護士会で弁護士の業務上の預り金の保管方法に関する義務を明確にしたことなどは、その具体的なあらわれである。しかしながら、社会状況の変化や弁護士の活動領域の拡大に伴って、弁護士が直面する業務上・倫理上の問題も多方面にわたり、かつ複雑化していることに鑑み、上記のような弁護士会の責務を全うするためには、弁護士会による監督・懲戒権限やその行使のあり方について、改めて見直す必要がある。
 日弁連としては、審議会のこれまでの審議の中で指摘された諸点、日弁連や各弁護士会に寄せられた弁護士に対する監督・懲戒に関する意見を真摯に受けて、弁護士会の綱紀・懲戒のあり方、指導・監督権限のあり方を再度問い直し、その制度と運用を改革するための方策を検討し、実施して行く所存である。
 以下に述べるのは、今日の状況の下で日弁連として検討している事項である。

  (c) 綱紀・懲戒手続の一層の透明化、迅速化、実効化のために、日弁連が考える課題と検討の方向
 綱紀・懲戒手続の一層の透明化、迅速化、実効化のために、日弁連が考える課題と検討の方向は以下のとおりである。

   @ 綱紀・懲戒手続をより一層透明化するための課題と方策

   (i) 綱紀委員会・懲戒委員会の委員構成
 現在、各弁護士会の綱紀委員会は、外部の参与員制度が採用され、裁判官・検察官・学識経験者が参与員として綱紀委員会の会議に出席し、懲戒請求された各案件について意見を述べることができることとされている。ただし、参与員は議決権限がないため、懲戒委員会の審査に付するかどうかの表決などには参加できない。綱紀委員会の委員構成につき、資格審査会、懲戒委員会と同様、外部委員制度を設けることを検討する。
 また、懲戒委員会等の外部委員(弁護士でない委員)に裁判官、検察官、学識経験者以外の者を加えること、外部委員の選任を弁護士会以外の組織によって行い選任過程の透明性を一層高めることを検討し、具体化したい。
 「国家権力と国民の基本的人権が衝突する場面では、弁護士がその使命と職責を全うするため国家権力と対決することが必然的に生ずる。弁護士が裁判所や法務大臣の監督に服する制度の下では、弁護士がその使命と職責を全うすることが困難であり、これがひいては国民の基本的人権に対する侵害にもつながるとの認識のもとに、現行弁護士法(1949年)の制定に伴い、自治的監督制度が設けられた」(第28回審議会への日弁連意見)ことから、弁護士に対する懲戒処分は、弁護士会による自治的監督制度の中心機能を担うものとして位置づけられてきた。他の先進諸国においても、弁護士に対する懲戒処分は、弁護士ないし弁護士を中心とする機関によって行われている。
 上記の理由から、弁護士に対する懲戒を決定する懲戒委員会等は、弁護士が中心となって行うことが適当であり、懲戒委員会(及び綱紀委員会)は弁護士である委員がその過半を占めることが適当とされてきた。
 日弁連は、弁護士に対する綱紀・懲戒制度について、上記の趣旨を踏まえつつ、より一層の透明化、迅速化、実効化を進める観点から懲戒権の適正な運用に努める所存である。

   (ii) 懲戒手続における懲戒請求者の不服への配慮
 懲戒請求がなされ、弁護士会が懲戒処分をした場合、懲戒処分を受けた弁護士は、日弁連に行政不服審査法による審査請求をし(弁護士法第59条)、審査請求を却下若しくは棄却された弁護士は、東京高等裁判所にその取消しの訴えを提起することができる(弁護士法第62条)。
 他方で、懲戒請求に対し弁護士会が懲戒しない決定をした場合、現行制度上は、不服申立の手段として日弁連への異議申出のみが認められている(弁護士法第61条第1項)。日弁連が懲戒しない決定をした場合に、懲戒請求者がその取消しを求めたり、懲戒することを求めて訴訟を提起することは、認められていない。
 この点について、日弁連は、制度の運用がおおむね適正に行われており、日弁連への異議申出に対し、不当に処分しない事例はないと考えている。弁護士会の業務に関して、弁護士会の役員に就任しただけで懲戒請求されるなど懲戒請求の中には少なからず「乱訴」が見られる実情もある。また、この問題は、前述した苦情案件に対する対応の充実化との関係でとらえられるべき面が大きい。
 日弁連としては、弁護士の職務の独立を保障する要請などを踏まえつつ、手続の透明性を高めるために、各弁護士会の綱紀委員会の議決に対する異議申出について、これを棄却・却下する日弁連の決定に対して、不服がある場合に市民代表により構成する組織、たとえば「懲戒審査会」の審査を受ける機会を与える制度を検討したい。懲戒審査会は、日弁連の決定について是正勧告を行うことができるものとし、是正勧告がなされた場合には、その旨を公表するとともに日弁連の懲戒委員会において、再度調査することなどが考えられる。

   ii 綱紀・懲戒手続の迅速・適正化のための方策

   (i) 綱紀委員会・懲戒委員会の機能強化のための制度改正等
 日弁連懲戒委員会や会員数の多い弁護士会の綱紀委員会では、すでに審査件数の増大に十分に対応できない事態が見られるようになってきている。そこで懲戒委員会が全体として一つの審査体を構成し審査・議決しなければならない現行の制度を改め、懲戒委員会の審査を、別の案件について複数の審査体が同時に審査できるように改めることを検討する。綱紀委員会の議決に関しても同様である。
 また、弁護士が綱紀・懲戒手続における調査・審査に協力すべきことを明記する、綱紀委員会が自らの判断に基づいて調査を行うことができるようにする、などの制度改正により調査・審査の適正と迅速化をはかる方向で制度の改革を検討したい。
 綱紀委員会、懲戒委員会の機能を実質的に強化するために、現在日弁連懲戒委員会に設けられている調査員制度を日弁連及び各弁護士会の綱紀委員会・懲戒委員会に導入するなどして調査機能の強化を図りたい。
   (ii) 懲戒請求者等の綱紀・懲戒手続への参加
 懲戒請求は何人でもできる制度であるが、綱紀委員会の調査手続や懲戒委員会の審査手続において、実質的に被害者または懲戒請求事案の当事者である懲戒請求者が意見陳述など手続に参加することを制度的に保障することを検討したい。
   (iii) 綱紀委員会・懲戒委員会の委員への報酬の制度化
 綱紀委員会及び懲戒委員会の委員は、すべて無給で職務を行っている。弁護士以外の委員及び参与員については多少の「お車代」等が支給されている程度である。そうした事情から、頻繁に審査・調査等を行うことが事実上不可能となっている。綱紀委員会・懲戒委員会の機能を強化し、集中・継続した審査等を可能にするために、委員への報酬を制度的に保障することを検討したい。報酬額の決定が弁護士会の恣意的な扱いにならないよう、金額の決定等が公正に行われる制度とする。

   iii 綱紀・懲戒手続の実効化を図るための方策

   (i) 懲戒処分の結果等の公表制度の充実
 懲戒処分については,現在、懲戒処分を受けた弁護士名、懲戒処分の内容、懲戒処分事由の概要が公表されている。その他、クレ・サラ事件で整理屋と提携した「非弁提携」事案において懲戒処分の結論を待っていては被害の増大を招く恐れがある場合などについて、一部の弁護士会では、懲戒処分が行われる以前に、その事実を公表する制度を導入している(1999年以降、東京弁護士会、大阪弁護士会、第二東京弁護士会など)。懲戒案件に関する公表制度をさらに充実し、官報や弁護士会のホームページに掲載することなどを検討したい。

   (ii) 度重なる懲戒処分対象者の責任の加重
 懲戒処分を一度受けたにもかかわらず、二度、三度と懲戒処分を受ける弁護士がおり、このことが弁護士に対する国民の信頼を大きく傷つける要因となっている。現在は、かつて懲戒処分を受けた事実は情状として考慮されるにとどまっているが、累犯加重による重い懲戒処分を行うよう日弁連及び各弁護士会の懲戒制度を整備することを検討する。

   (iii) 弁護士業務の「仮停止」制度
 懲戒請求された弁護士であっても、弁護士会の懲戒処分を受けるまでは、弁護士業務を引き続き行うことができる。懲戒処分を受けるまでは「無罪」の推定がはたらくといえるが、弁護士としての業務を続けることによって、その弁護士に依頼した人の利益が損なわれる危険もある。そこで、一定の場合に、懲戒請求された弁護士の弁護士としての業務を制限する業務の「仮停止」の制度を検討する。

2 弁護士へのアクセスの拡充

(1)法律相談活動等の充実

 ○ 法律相談センターや公設事務所の設置(目的、運営主体、運営方法等の在り方、 法律扶助制度や被疑者・被告人の公的弁護制度等との関係など)の在り方

 ア 司法サービスの全国地域への展開をめざして
 日弁連は、司法改革の一環として「いつでも、どこでも、だれでも良質な司法サービスを受けられる社会」の実現をめざし、各弁護士会及び全国の会員の参加と協力の下に、弁護士過疎地域における法律相談センターの設置、当番弁護士の全国での実施、公設事務所の開設など各地域の実情に応じて積極的な取り組みを行ってきた。その成果として、すでに法律相談センター及び当番弁護士制度は、不可欠な司法制度として各地域に定着している。日弁連は、これらの公益活動を推進するために、1995年から「当番弁護士特別基金」として会員一人あたり月額2200円を徴収しているが、さらに1999年、日弁連50周年記念事業の一環として、東京弁護士会の司法改革支援金1億円を基金に「日弁連ひまわり基金」を設置し、会員の特別会費月額1000円、5年間の徴収を決めた。これは直接的には過疎地の財政支援を目的にしたものであるが、さらに当該弁護士過疎地からの情報提供を受け、弁護士全員が弁護士活動のあり方を考え、これを行動の指針とすることにもその意義がある。このように、日弁連は、全会員の特別会費により公益活動を自ら支え、その社会的責務を果たすため日夜懸命な努力を続けている。
 日弁連は、当面の過疎地対策として次の課題に取り組んでいる。
  1.日弁連は、すべてのゼロワン支部に法律相談センタ−を設置する。
  2.日弁連は、当面全国10か所に公設事務所を設置する。
  3.日弁連はゼロワン支部に弁護士が定着するような開業支援対策をとる。

 イ 法律相談センターの設置
 法律相談センターは、市民に対する法律相談及び弁護士紹介、事件受任等法的サービスの提供を目的にして弁護士会が運営する組織である。
 1980年代から市民への法的サービス提供の方策として、弁護士会の法律相談事業が進み始めた。1990年、1994年の司法改革宣言により、日弁連は、「市民に身近で、利用しやすく、納得のできる司法」をめざして全国各地に法律相談と事件受任の体制を整え、当番弁護士活動の充実を図り、過疎地域への弁護士の定着をめざし全力をかたむけてきた。1996年、日弁連は「弁護士過疎地における法律相談体制の確立に関する宣言」(名古屋宣言)により、市民の法的需要に応えるべく弁護士会の決意を示した。
 さらに日弁連は、小規模弁護士会の助成金制度、過疎地への法律相談センター設置の援助金制度等の対策を整えた。特に弁護士が1人もいない石見地区(島根県)に1995年、石見法律相談センターを開設し、次いで萩(山口県)、五島列島福江(長崎県)、石垣(沖縄県)等への日弁連共催の法律相談センター設置等の人的・財政的援助を行い、過疎地へ弁護士を誘導する施策としてきた。
 石見法律相談センターでは、1999年度相談件数791件となり、周辺地域の出張相談もするようになり、地域の住民にとって心強い存在となっている。石見地域の全自治体も運営費を負担するようになり、自治体との連携・協力体制も進んできた。日弁連のこのような財政的・人的な努力により、253か所の地裁本庁及び支部所在地(うち、ゼロワン支部は昨年8月時点で71か所であったところ、現在68か所に減少した。)のうち182か所に法律相談センターが設置され、法律相談センターも公設事務所も未設置のゼロワン支部は21か所となった。近隣の法律相談センターで十分カバーできる2支部を除くと、実質未措置の支部は19か所である。この未措置の19か所については、2001年5月を目標に、地域の実情に即して法律相談センターあるいは公設事務所の設置を具体的に検討し、最終的には過疎地域への弁護士の定着をめざしたい。
 さらに、弁護士ゼロワン地域のみでなく、弁護士2人ないし3人という過疎地域においても地域の実情にあった法律相談センターを設置することや、必要に応じて相談回数を増加したり、受任体制を整備することに取り組んでいる。
 また、専門相談の充実、弁護士の質の向上のための研修制度など法律相談センターの機能の充実も進める必要がある。
 法律扶助制度により、相談登録弁護士制度が開始されている。法律扶助協会に登録された全国約5000名の弁護士が各法律事務所において、扶助相談を実施する制度である。法律相談センターと連携して、各法律事務所において資力基準の仕分けにより有料法律相談を実施することも検討すべき課題であり、これによって全国5000か所を法律相談所としていくことも可能となる。

 ウ 弁護士過疎地と公設事務所
 公設事務所とは、市民の弁護士へのアクセスが不十分な過疎地域等において、当面弁護士会の援助で市民のための法的サ−ビスを提供することを目的とする法律事務所である。

 (ア)当面の弁護士過疎・偏在のための公設事務所
 全国津々浦々に弁護士が定着することが困難な状況において、日弁連は前記の「日弁連ひまわり基金」を活用し、公設事務所の設置に着手した。
 当面の公設事務所の形態は、「弁護士が常駐する型」、「法律相談センターにチーム制で日常的に弁護士を派遣する型」、「弁護士が開業する際に援助する型」を構想しているが、地域の実情に合わせて当該弁護士会と協議して決めることにしている。
 公設事務所では、地域住民の法律相談及び事件の受任・当番弁護士・刑事被疑者弁護・国選弁護・法律扶助相談及び事件の受任等を行うこととし、加えて地域への法的情報の提供・法的知識の普及等司法の浸透に協力することをその目的としている。

 (イ)公設事務所の設立
 日弁連は、1999年12月の臨時総会において、当面10か所程度の公設事務所を設置することを決めた。
 2000年4月、公設事務所第1号として、日弁連と九州弁護士会連合会が資金を負担する形で「ひまわり基金・九弁連対馬弁護士センター」を設立した。対馬は交通不便な島であり、当面弁護士が独立して開業しうる経済的基盤が厳しいとの判断の下に、長崎県弁護士会及び福岡県弁護士会が中心となり、11名の弁護士がチームを組んで週3日常駐するという、法律相談センターを拡充する形で発足した。ところが、予想を上回り、相談に訪れる住民はひきもきらず、事件受任・当番弁護士・国選弁護もすべてこなす法律相談所として、住民には好意的に受けとめられている。
 2000年6月には、第2号の「石見ひまわり基金法律事務所」が設立された。石見地域には、すでに石見法律相談センターが設置されていた。さらに、常駐の弁護士により地域司法過疎を解消しようと、「日弁連ひまわり基金」により浜田市に常駐する弁護士を公募した。京都から応募した弁護士は、登録を換えて島根県弁護士会の会員となり、地域住民の法律相談・事件受任のほか、当番弁護士・国選弁護・法律扶助事件等の公益業務を積極的に取り扱う公設事務所を開設した。日弁連は、一定額の所得・維持運営費を保障することとしている。この公設事務所は、地元の地方自治体、マスコミにも積極的に受けとめられている。開設してから1か月で68件の相談、8件の事件を受任し、そのほかにも国選弁護、破産管財人など裁判所からも依頼があり、多くの地域住民が利用している状況にある。
 第3号は、岩手県の遠野に設置され、さらに2001年4月には北海道紋別市、沖縄県石垣市にも設置される予定となっている。今後もこのような施策を推進し、前記総会で課題として掲げた当面の全国10か所の公設事務所設置を2001年度中に達成したい。

 (ウ)弁護士開業支援
 弁護士のゼロワン地域のうち、人口10万人以上のゼロワン地域が未だ44か所もあり、その解消は遅れている。弁護士人口の増加があっても、それだけではゼロワン地域の解消は困難である。
 日弁連は、弁護士過疎地における弁護士の定着をめざした「日弁連ひまわり基金」による弁護士開業の援助により、弁護士ゼロワン地域等の過疎地に弁護士が定着するような開業支援をさらにすすめ、弁護士の全国的な適正配置を図っていく所存である。
 日弁連は、2000年中に、仙台、長崎、秋田の各弁護士会の3名の会員に対し、「日弁連ひまわり基金」による開業支援を行った。
 さらに日弁連から、会員への地方の業務情報の提供も推進していきたい。
 2000年、ゼロワン地域に新規登録した弁護士は、4月に弁護士登録した52期578名のうち、秋田県能代市に1名、10月登録の53期607名のうち、秋田県横手市に1名の2名であった。当初から、新人弁護士が1人で過疎地域に独立開業するには困難が伴うのは当然のことであり、現在、日弁連では、後述するような協力事務所を設置し、何年かの養成期間を経て過疎地へ派遣する制度をすすめている。
 将来、法科大学院が全国的に地域に密着した形で設立されれば、その地域に定着する弁護士が多くなることが予測される。さらに、アメリカのように公益的活動を中心にする弁護士には法科大学院の奨学金を減免するなどの施策により過疎地の開業を促進することも検討すべき課題である。
 離島や産業が少ない地域は、現実には弁護士の開業は困難である。このような地域には公設事務所の設置を推進して過疎地を解消する努力が必要である。

 (エ)開業支援のための協力事務所
 日弁連は、以上のように公設事務所への財政的援助、人的共助を実施したが、さらに、公設事務所に弁護士を派遣する弁護士育成事務所及び任期満了後復帰するための協力事務所への支援策も検討している。新人弁護士の募集の条件に「弁護士過疎地への派遣」を明記して、1年間、基本的な実務教育を実施してから公設事務所に派遣する計画を有する協力事務所もあらわれ、第二東京弁護士会も支援の施策を進めている。

 エ 各種法律相談の拡充とネットワーク化

 (ア)各種法律相談のネットワーク化
 日弁連は、弁護士会以外の各種機関の運営する各種相談と弁護士会法律相談センターとのネットワーク化を図るとともに、法律相談の質の充実に努める所存である。
 わが国には、弁護士会が運営する法律相談センターのほかに、自治体の行政サービスとしての法律相談、社会福祉協議会の「心配ごと相談」、警察の「困りごと相談」、郵便貯金振興会の「暮らしの相談」、商工会議所の相談などさまざまな無料相談が実施されており、市民サービスとして機能している。弁護士会はこれらの相談制度のほとんどに多くの弁護士を派遣している。
 一方、警察の困りごと相談のように、年間34万件(平成12年は60万件と推定)の相談を受けているにもかかわらず、相談員は弁護士ではなく、弁護士会とは連携のない制度もある。警察庁の調査では、法律問題の相談は年間2万1000件と推計されている。香川県では、防犯協会連合会を迷惑行為防止センターに指定し、同センターへの補助金と弁護士会の協力を得て弁護士による相談業務を行っている。警察庁では、今後全国的に弁護士会の法律相談センターとのネットワーク化を検討しており、日弁連とも協議を行っている。
 今後、各種無料相談所と弁護士会の法律相談センターとのネットワークを構築し、相談から事件受任への連携システムを構築し、市民の便宜を図っていきたい。

 (イ)自治体の法律相談事業への弁護士派遣
 東京弁護士会法友会の調査(1993年「自治体法律相談アンケート分析をもとに」)によると、全国3386の市町村のうち、住民のための法律相談を実施しているのは、68.9%(町では65.6%、村では48.4%)である。実施回数は月1回が一番多く、月2回、週1回、年1、2回と続く。人口規模の大きいところほど法律相談実施の比率も実施回数も高くなる。
 法律相談を実施していない自治体、回数を増やせない自治体は、相談担当弁護士を確保できないこと、予算の制約を理由としている。
 日弁連は、自治体の相談事業に全面的に協力する所存であり、全国津々浦々の市町村に相談担当弁護士を派遣する体制を早急に整備していきたい。

 (ウ)法律相談の質の充実
 日弁連では、量の拡充ばかりでなく、法律相談センターの弁護士の質の充実を図るため、すでに法律相談面談技術研究会を開催したり、弁護士の専門性を高めるための各種相談業務の研修を実施している。多くの弁護士会では、クレジット・サラ金(クレサラ)、労働、離婚、医療、障害者、セクシャルハラスメント、ドメスティックバイオレンス(DV)、犯罪被害者、外国人などの特別相談を実施している。また別途クレサラ相談センター、高齢者、障害者等相談センターを設置している弁護士会もある。
 全国の地方裁判所の司法統計によると、1999年の通常訴訟事件数は15万2678件、破産事件数11万1067件(1998年は通常訴訟事件数14万6588件、破産事件数7万6032件)、17の地裁本庁と113の地裁支部において、すでに破産事件が通常訴訟事件を上回っており、この傾向はさらに進むことが予測される。東京では、霞が関とは別に四ツ谷と神田にクレサラ相談センターを設置しており、大阪、横浜等各地の弁護士会でもすでにこれを実施したり企画している。

 (エ)仲裁センターとの連携
 弁護士会は、相談業務の延長として、13か所であっせん・仲裁・調停センターを設置している。受理件数は、全国で平成11年度で747件(平成10年度528件)であるが年々増加している。東京三会は、銀行協会からの委託により銀行の苦情窓口の調整事件の調停も行い、業務の拡大を図っている。
 従来は大規模の弁護士会中心に進められてきた制度であるが、2000年10月から石見法律相談センターにも仲裁センターが設立された。訴訟に比べて費用が安く、時間もかからないことがその利点であり、同センターでは、当事者間で問題が解決できない人に活用してもらうように働きかけている。これが小規模の法律相談センターでも仲裁業務を実施できる先例となり、他の中小の弁護士会でも実施の検討を始めている。
 2000年10月には、各弁護士会が住宅品質確保促進法に基づき建設大臣の指定を受けて住宅紛争審査会を設置し(現在、50審査会設置)、注文主と建築業者間、売主と買主間の紛争解決を図る機関として簡易迅速な紛争処理を行うことになり、市民の便宜が図られることになった。

 オ 将来の公設事務所の構想
 日弁連は、さらに、次のような新しい公設事務所の設置を検討している。

 (ア)都市型公設事務所の設置

  a 第二東京弁護士会の設置する公設事務所
 第二東京弁護士会では、専門特化型、公益型、人材供給型公設事務所としての公設事務所に対し財政支援をする制度を構築し、2000年度内に開設することにした。
 債務整理、刑事等一定の分野の事件を専門的に取り扱い、さらに法律扶助事件、国選弁護事件等の一定の公益性のある事件を扱い、弁護士過疎地の公設事務所への人材派遣、弁護士過疎地で開業しようとする弁護士を育成・供給することを目的とする公設事務所と位置づけている。弁護士会は所長弁護士に対して、開設援助金、運営経費援助金の交付等により公設事務所の経営を財政的に支援する。新人弁護士は1年以上の実務経験を経た上で弁護士過疎地へ赴任する。資金は弁護士会の法律相談センター特別会計から計上している。

  b 大阪弁護士会の設置する公設事務所
 大阪弁護士会では、すでに所長弁護士を選任し、大阪公設法律事務所を2000年度内に設置することを決定した。
 取り扱い業務は少額事件、高齢者・障害者事件、子どもの権利事件、社会福祉分野事件、精神保健分野事件、外国人事件、少年事件、当番弁護士事件、国選弁護事件、クレサラ事件、消費者被害事件、情報公開等の行政事件、公害環境事件等一定の公益事件を中心にするが、個人事件の処理も容認する。大阪弁護士会は年間運営費の不足分を資金援助していく。

 (イ)専門公設事務所
 すでに、東京には、四ツ谷、神田にクレサラ相談センターを設置している。東京三弁護士会が運営しているが、年間1万2000名の相談者が訪れ、1000名の弁護士が当番制で担当、その7割を事件受任している。東京という弁護士の多い地域であり、専従制でなく、当番制で運営している。

 (ウ)法律扶助協会の公益事務所
 法律扶助協会東京都支部は、霞ヶ関のほかに、立川、八王子、新宿に援助センターを設置し、法律扶助相談、事件受任を行っている。平成13年4月には上野にも開設を予定しており、東京に5つの公益活動をする事務所ができることになる。扶助専門センターとして、当番制で弁護士が対応している。将来は、弁護士会の公設事務所と共催することも検討している。

 カ 国及び地方自治体への協力の要請
 日弁連は、会員の会費による「日弁連ひまわり基金」をもとに、当面自己改革の一環として、過疎地を中心に法律相談センター及び公設事務所の設置、開業弁護士の支援を開始した。
 弁護士過疎地は司法過疎地である。裁判所の物的・人的容量を押さえた「小さな司法」の結果である。1988年以来の簡易裁判所及び地・家裁支部の統廃合、1992年ころから都市部への裁判官集中に伴い、地方の裁判官の減員、裁判官が常駐しない支部が増加し、国民の裁判を受ける権利は阻害され、「身近な司法」にはほど遠い現実となっている。
 石見をかかえる島根県は、本庁以外の地・家裁支部(出雲、浜田、益田、西郷)には裁判官は常駐せず、すべて本庁ないし他の支部と兼務している。これらの支部は週に2、3日、1人の裁判官が出張し、民事、刑事、家事等すべての事件を処理し、その他司法行政事務も処理している。証人尋問の途中に、調停が成立すれば、証人尋問を中断して調停に駆けつけ、途中で令状請求がくれば、その処理を行うというありさまで、関係者はいつも待たされている。調停の手続においては、裁判官の同席はなく、調査官もいないため、事件は調停委員に任される。裁判官の能力や努力とは関係なく、結果的に「市民に身近な司法」とは到底いいがたい結果となっている。市民は、司法を身近なもの、利用しうるものとは考えられない。それは司法による解決を予めあきらめさせているに等しい。
 自営業である弁護士が司法過疎地において自立して開業することには、大変な困難が伴う。しかし、公益的側面を有し、かつ社会にとって不可欠なサービスを目的としながら、その経済的存立基盤を私的に築かなければならないのは矛盾であり、日弁連が自己資金で負担するには限界がある。
 法律相談事業及び公設事務所は、憲法によって保障された裁判を受ける権利の具現である。公共の目的に奉仕するための制度として、これに対する公的な資金の投入があってしかるべきものと考える。

 キ 公設事務所の運営主体
 公的資金の補助を受けて、公設事務所を全国的に展開していく場合、弁護士の業務について、その主体性、独立性が損なわれないよう配慮した上で、自立した第三者的な組織がその設置・運営を担っていくことを検討する必要がある。
 その第三者的組織としては、たとえば、法律扶助協会も適切な運営主体の一つとなりうる。法律扶助協会の目的・組織・意向等も十分検討した上で、将来的課題として決定していかなければならない。この点については現在会内で活発な討議を重ねているところである。

(2) 弁護士費用(報酬)の透明化、合理化
 ○ 弁護士報酬規程についてこれが競争制限的に作用するおそれのないよう十分留 意しつつ、弁護士報酬を透明化、合理化するための方策

 ア 弁護士報酬の合理化・透明化

 (ア)弁護士報酬基準を定める視点
 「弁護士に依頼するときにいくらかかるかわからない。弁護士に高額の報酬を請求されるのではないか。」という不安は、弁護士に対するアクセス障害の大きな要因であると古くから指摘されてきた。
 たとえば、同種事件は同額とするなど、すべての報酬を定額化すればわかりやすいものにはなる。しかし同種事件(たとえば、建物の明渡請求など)でも、当事者や諸般の事情により、解決への道のりがまったく違うなど、一般に、事件はきわめて個性が強い。また地域の経済的事情にも差が存する。個々の弁護士は、依頼者の置かれている経済的状況その他の諸般の事情を考慮して、規定の範囲内で適切な弁護士費用を定めてきたのが実情である。したがって、すべての報酬を全国一律に定額化することは、かえって、報酬基準としての合理性を失わしめる結果となる。
 弁護士報酬基準を定めるにあたっては、利用者の予測可能性を満たすために、明確化・透明化を図るとともに、個別事情に応じた適切な報酬を定めうる柔軟性を兼ね備えた規定となるよう二つの要請のバランスをとる必要がある。
 日弁連としては、今後もこれら二つの要請が程良く調和するように、報酬規定をより一層透明化・合理化すべきであると考える。

 (イ)報酬基準の改定の経緯
 日弁連では、これまでも弁護士報酬に関する規定をわかりやすいものにするため、数回にわたり報酬等基準規程の改正を行ってきたが、1995年には、消費者団体、経営者、学者、マスコミなどの意見を聞いた上で、報酬等基準規程を全面的に改定した。

 1995年の改正(参考)
 1.弁護士へのアクセスを容易にする主な改正点
 (ア)初回市民法律相談料規定(全弁護士会で30分ごとに5000円)を設定した。それまでは、30分以内5000円以上と規定されていたものを、明確にした。
 (イ)民事・調停・示談交渉事件につき、着手金と成功報酬を1:2の割合にした。それまで着手金と成功報酬は同額とされていたものを、利用しやすくするために、着手金を低くおさえた。
 2.わかりやすくするための主な改正点
 (ア)民事事件の着手金報酬金の逓減率を4段階にした。それまでは、逓減率が細かく細分化され複雑だったものを簡略化したもの。
 (イ)離婚・境界に関する事件の弁護士費用額を明示した。
 (ウ)契約締結交渉等民事事件の算定率の引用を避け、個別の算定率を設定した。
 3.報酬の予測をしやすくするための主な改正点
 (ア)報酬説明義務と、依頼者の申し出のある場合の報酬説明書交付義務を規定した。
 (イ)事件が上級審に進行する場合及び、依頼者、弁護士が複数の場合の報酬請求権を明確化した。
 (ウ)依頼事件が途中で終了した場合の報酬の精算関係を明確化した。
 (ウ)事例別弁護士報酬の目安の提示
 弁護士会では、利用者に事案別に弁護士報酬の目安を提供するため、これまでも「弁護士の頼み方Q&A」(日弁連編、第22回審議会で配布)などの書籍や、「弁護士の費用」(東京弁護士会編)などの冊子、ホームページ(第二東京弁護士会)などの媒体を通じて、代表的な事例につき、弁護士費用の目安を示してきた。今後もさらに充実した事例集を作成していく。
 (エ)タイムチャージ(時間制弁護士報酬)
 顧問料を除く弁護士報酬については時間制(タイムチャージ)でも定めることができるようになっている。時間制の弁護士報酬は1時間1万円以上で、弁護士と協議して定めた額に事件処理に必要な時間を乗じた額とされている。
 (オ)報酬規定と独禁法
 弁護士報酬規定が独禁法第8条第1項第1号(事業者団体は一定の取引分野における競争を実質的に制限してはならない)に違反するのではないかとの指摘もあるが、報酬規定は独禁法に反するものではない。
 その理由としては、第1に、わが国の弁護士報酬規定はあくまで目安であって、実際にも具体的事案に応じて弁護士が依頼者と個別に相談の上報酬額を決定しており、競争を制限するようには作用していないこと、第2に、弁護士法(第33条第2項第8号)では、会則に弁護士の報酬に関する標準を示す規定を置くように定められており、法律上も報酬規定を置くことが義務づけられていること、などがあげられる。
 (カ)報酬規定廃止論について
 弁護士報酬規定を廃止し、自由な競争に任せてはどうかという指摘もある。しかし、報酬規定は報酬の予測可能性を確保するために不可欠である。弁護士の提供するサービスは案件に応じて多様であり、案件に応じた報酬の目安を示すことは、利用者にとって大きな便益である。報酬規定を廃止すると費用の予測が困難になり、かえって利用者にとって利用しにくい結果となってしまう。
 (キ)弁護士報酬規定の策定にあたっての国民参加
 弁護士報酬規定の策定過程の透明化をはかるため、今後、報酬規定の改正に際しては、消費者団体、労働組合、行政庁、経営者、報道関係、学者などの各界代表者の参加を得てこれを行う必要がある。たとえば、先に紹介した1995年改正における初回市民法律相談料(30分5000)円の導入は、学者からの提言を取り入れたものである。

 イ 今後の弁護士報酬について
 弁護士会は、今後もさらに利用しやすい弁護士報酬とするために、一層の改善を行っていく。具体的には、昨今のIT革命によりインターネットなどで情報をとるケースも増えることを踏まえ、事例別・類型別の弁護士報酬標準額をホームページに載せるなど、利用者が弁護士費用を予想できる方法を拡充するとともに、弁護士費用(報酬)の透明化・明確化の観点から、国民が利用しやすい弁護士費用(報酬)制度の整備にさらに努力していきたい。

 ○ 弁護士の依頼者に対する報酬説明を充実、徹底する方策
 「中間報告」は、「弁護士の依頼者に対する報酬説明を充実、徹底する方策を検討すべきである」としている。前述した一般的な弁護士報酬についての広報とともに、個別事案の弁護士報酬について依頼者の予測可能性を高めることも重要である。
 具体的な検討対象としては、次のようなものがある。
  1.説明義務(現行報酬規程では努力義務にすぎないが、これを必要的義務に強化する)
  2.書面交付義務(現行報酬規程では、依頼者の求めがある場合に限って交付する義務があるが、その求めがなくとも必ず報酬契約の内容を記した書面を交付することを義務づけることにする)
  3.全体見積もり交付努力義務(現行報酬規程には定めがなく、また実務的には困難を伴うこともあるが、予測可能性を高めるために努力義務として新たに設ける趣旨である)
 これらは、従前、ややもすると不明確、不透明との批判や誤解を招く余地を残していた規程を大きく改革するものであり、弁護士報酬のあり方の透明性を高めるためにも充分に検討していきたい。
 これらの報酬規程の改正が実現するならば、弁護士の依頼者に対する報酬に関する説明を充実・徹底させるために大きな効果を発揮できると期待できる。
 また、こうした説明義務を徹底し、また弁護士人口が大幅に増加していけば、報酬規程が競争制限的に機能することはなく、逆に報酬規程が法外な報酬を規制する基準となることが予想される(現に法外な報酬請求を理由に懲戒処分をした例があるが、そうした基準がなくなるならば、かえって国民の利益を害することになる)。

(3)弁護士情報の公開

 ○ 第三者評価の導入の要否を含め、弁護士の専門分野や実績等についても広告対 象とするための具体的方策
 従来、日弁連会則上、広告は原則禁止されていたが、これを原則自由化へと改めた。改正された会則は、昨年10月1日施行された。
 施行後、日は浅いが、既に弁護士の業務広告は活発に行われている。多くの弁護士が様々な媒体を利用して広告をしており、インターネットなどを通じた弁護士に関する情報提供も豊富に存在している。このような広告によって、市民に身近な形で弁護士情報が提供されるようになってきており、その効果が徐々にではあるが現れつつある。
 ただし、現在の会則の下でも、得意分野の表示、専門分野の表示は、原則として認められていない。市民との間に情報格差があることを直視すると、安易な全面解禁には慎重であるべきだが、一方で従来から弁護士の専門分野がわからない、報酬がわからないとの指摘が市民から寄せられていることに対して、しかるべき対応が必要である。
 広告による情報内容の充実、すなわち専門表示、報酬を伴った広告へと内容を成熟させる必要があり、そのためにも、後記の専門認定制度を早急に検討すべきである。

 ○ 弁護士に関わる情報の開示(専門分野の情報提供等)を一層強化するための方 策
 弁護士の意識改革や一定の競争は、広告が一定程度普及してはじめて期待することができる。しかし広告するかどうかは弁護士の任意にまかされている。それゆえ単に広告を自由化したのみではアクセス障害の解消にはならない。弁護士個人の広告のほかに、弁護士会の広報、弁護士会による弁護士情報の開示が必要である。
 前記の会則改正では、弁護士会の広報活動の責務を拡充・強化することも同時にうたわれている。
 東京弁護士会は、弁護士情報提供制度を2000年に新設し、その中で取扱業務を一般業務と要経験分野とに分け、要経験分野として申告をするためには、裁判またはADR3件以上、著作1冊以上、論文・論稿5本以上などといった要件のいずれかを満たさなければならないものとして、情報を提供している(規則は2000年4月承認、細則は同年6月承認、同年10月からインターネットに公開。)。このほか、第二東京弁護士会も弁護士情報の提供制度を設けており、「主たる取扱業務」等の情報を提供するものとしている(規則は2000年4月承認。同年10月からインターネットに公開)。
 ただ、これらは必ずしも「専門」としての表示までを認めるものではない。また、マイナス情報についての開示については、まだ十分な検討が行われているわけではない。
 そこで、次のような方策が検討されるべきである。

 ア 弁護士の専門認定制度
 弁護士の専門分野の客観的な表示を促進するため、たとえば、一つのアイデアとして、次のような「専門認定」の制度を設けることも検討されるべきである。
 アメリカの制度を参考に、その内容は次のようなものにする。
  1.認定制度を設ける専門領域には、従前の広告規制にあった「取り扱う業務に関する取扱要綱」を参考に、不動産、建築紛争、交通事故、医療事故、公害、消費者問題、サラ金被害、企業法務、金融、倒産、家事、離婚、相続、刑事弁護、行政、労働、無体財産、渉外、国際取引などが考えられる。
  2.個々の弁護士に対して専門認定を与える機関は、日弁連の認定を受けるものとする。日弁連法務研究財団などが、個別の弁護士に対する専門認定付与機関として考えられる。
  3.専門認定を与えられる場合、3年から5年程度の有効期間を設け、更新を要するものとする。更新の際には資格があることを証明することを要するものとする。
  4.専門認定を与えられるには、次の要件のいずれかを満たすことを要求する。
 (ア)その領域の業務について、一定期間内に一定件数以上の取扱いをしたことを基準にして、3年以上の経験があること(なお、米国においては執務時間の25%以上を費やした期間を基準に3年以上の経験があることといった基準もある)。
 (イ)その領域の業務に関する学会、研究会に所属して、実質的な活動をしているものと認められること。
 (ウ)弁護士会の研修制度に一定頻度で参加していること
 (エ)その領域に関する著書または論文があること。

 イ 弁護士のマイナス情報の開示
 弁護士の懲戒歴等マイナス情報の開示についても市民のニーズがある。従来、日弁連、弁護士会は過去の懲戒歴については開示しない取扱いをしてきたが、情報公開の趣旨等に鑑み、原則として開示する方向で、その開示の範囲、開示方法についての具体的な基準を含め、さらに検討を進めたい。

3 法的サービスの内容の充実

(1)弁護士業務の質の向上、執務態勢の強化

 ○ 法律事務所の共同化・法人化、専門性の強化等を実効的に推進するための方策
 「中間報告」は、「弁護士の職務の質の向上とその執務態勢の強化を図るため、法律事務所の共同化・法人化、専門性の強化、協働化、総合事務所化等が積極的に進められなければならない。審議会は、法律事務所の法人化に関し、既往の閣議決定等を踏まえ、平成12年度中に所要の立法措置が行われることを期待する」と述べている。

 ア 法人化への取り組みの現状
 昨年8月29日の日弁連プレゼンテーションの際、詳細に紹介したとおり、1994年1月の弁護士業務対策委員会あて会長諮問以来、鋭意会内における検討を進めたきた結果、2000年12月15日、法人化に関する臨時総会決議案を承認する理事会決議が行われた。
 日弁連は、2000年2月9日に、臨時総会を開催し、法人化に関する基本方針を審議する。これを受けて、法案が次期通常国会に提出される予定である。

 イ 法人化に期待されるもの
  1.法人化の目的
 弁護士が法人組織によって法律事務を取り扱うことができる途を開き、弁護士をめぐる法律関係を明確化するとともに、業務の継続性を確保することにより、多様かつ高度に専門化した質の高い法律事務を提供することを可能にし、社会の複雑化・多様化・国際化等の時代の要請に対応し、国民に利用しやすい法律制度の実現に寄与することを目的とする。
  2.法人にすることによる法律関係の明確化


 3.法人としての永続性
 4.業務、経営基盤の強化
 1.、2.の効果として、規模拡大、福利厚生制度整備、経理の峻別
 5.業務上期待される質の向上
 6.複数事務所設置による弁護士へのアクセスポイントの増大
 なお、従たる事務所には、弁護士の常駐が要件となるが、過疎地については、従たる事務所所在地の弁護士会が承認する場合、常駐義務は課さない方針で検討されている。この制度が実現されれば、より有効な過疎地対策になるものと期待される。

 ウ 弁護士の専門性強化の方策について
 弁護士の増加により、弁護士の専門化は進みつつある。今後の法曹の大幅増員やロースクールの充実によって、弁護士の専門化はさらに加速するものと予想される。
 そもそも弁護士の専門性の強化は、本来、自由業である各弁護士の自主的な取り組みによって進めるべきものであるが、日弁連、弁護士会としても弁護士業務委員会などを設けて弁護士の専門化の課題に取り組んでおり、さらに次のような方策を検討している。

 (ア)弁護士会によるバックアップ
 各弁護士会などにおける「専門研修部門」「専門研究会」の組織を拡充し、その活動をより社会にアピールできるようにバックアップする。たとえば、ホームページ開設、出版物発行などに便宜を図ったり、各種研修プログラム参加者の名簿の開示(たとえば、すでに一部で行われているように、破産管財人実務研修の参加者名簿を裁判所に提出し、管財人選任の参考資料として利用できる方法)、資金援助、奨励表彰プログラムを創設したりする方法などが考えられる。

 (イ)法人化、共同化、協働化の推進
 弁護士事務所の法人化・共同化・協働化を推進する。その中で隣接法律専門職種の専門知識などとも有機的に結合した専門的なサービス提供組織を形成していくことができるように検討する。

 (ウ)専門性の広告、表示等
 弁護士が一定の事件を専門的に取り扱うことができる機会を大きくするために、弁護士の専門性をできる限り広告・表示できるようにする。またその表示に客観性を持たせるために、前記専門認定表示の制度化などを検討する。とりわけ、日本全国のどこにいても一定の専門性をもった弁護士にアクセスしやすくなるように、インターネットなどの利用によって弁護士会における弁護士情報の開示を推進し、地方へも一定の専門性をもった弁護士を派遣できるような体制をめざす。

 (エ)専門官庁や企業における専門的知見を獲得する機会の確保
 専門官庁や企業における実務経験を積んだ弁護士が多数輩出できるように、官庁・企業が弁護士を積極的に登用し、また弁護士もそうした領域に進出できるように人事交流を図る。

 ○ 複数事務所の設置禁止(弁護士法第20条第3項)の見直しの在り方

(1) 弁護士法第20条第3項
 弁護士が複数の事務所を設置することは、弁護士法第20条第3項により禁止されている。弁護士法制定当時、わが国において圧倒的多数を占めていた弁護士個人による単独事務所の形態を前提とすると、弁護士が複数の事務所を設置した場合、これらを常時直接の指揮監督下に置くことはむずかしい。そうなると当時もその存在が問題とされていた「非弁」(「弁護士でない者」)の活動の温床となるおそれがあり、そのような事態を防止するには複数事務所の設置を禁止した方がよいというのがその立法理由であった。

(2) 法人化された事務所における従たる事務所の設置
 2001年2月9日に開催する日弁連臨時総会において審議予定の「法人化に関する基本方針案」によると、法人たる法律事務所については、下記の要件で従たる事務所を設置することが認められることとされている。
  1.従たる事務所にも弁護士が常駐すること
  2.上記の常駐弁護士は、従たる事務所所在地の弁護士会の会員でなくてはならない。
 弁護士法第20条第3項の趣旨を生かしながら、法人化された法律事務所が広く地域展開できる可能性を開く方針であり、これによって法人化された事務所には複数事務所設置が許されることとなった。

(3) 今後の検討課題
 法人化していない法律事務所にも複数事務所設置を認めるか否かについては、「非弁」の活動の温床とならないようにするにはどうすればよいか、事務所の責任体制をどのように確保するかなどの課題を踏まえつつ、さらには法人化による複数事務所設置の実績を見ながら、積極的な方向で検討を進めていきたい。

 ○ 弁護士会による研修の義務化を含め、継続教育の一層の充実・実効化等に必要 な具体的方策

 ア これまでの審議経過と日弁連の意見
 第28回審議会において、日弁連は、弁護士の専門性を強化するために、各弁護士会などにおける「専門研修部門」「専門研究会」の組織の拡充その他の施策を検討すること、あわせて、専門分野の表示、弁護士の専門認定制度等を検討することを表明した。また、研修制度の充実を図っていくことをあわせて述べた。
 「中間報告」においては、「弁護士は、その職務活動の質が、これからの我が国社会の変化、発展に相応しながら、利用者たる国民の求めるところを十分に満たし、かつ不断に向上していくように、自ら最大限の努力を傾注することが期待されている。」、「弁護士は、社会の多様化、複雑化する法的需要に応えるため、自らその専門性を強化すべきであり、これを促進する観点から、弁護士の意識改革を図るとともに、弁護士会による研修の義務化を含め、弁護士の継続教育の一層の充実・実効化等に必要な具体的方策を検討すべきである。」と指摘されている。

 イ 弁護士会による継続研修
 司法試験合格後の修習期間が2年から1年半に短縮されたことなどから、弁護士登録した後に行われる研修を充実する必要性が痛感されるところであり、すでに日弁連及び一部の弁護士会では、新規登録弁護士研修を義務化し、倫理研修を含む研修を実施している。
 日弁連としては、新規登録弁護士研修を全国的に制度化し、新規登録弁護士全員が研修を受けるよう取り組みたい。新規登録弁護士研修については、集合研修だけでなく、当番弁護士や各弁護士会の行う法律相談において指導弁護士を配して行う個別的な業務研修も、いくつかの弁護士会では実施されるようになってきている。弁護士の相談・事件活動を通じた研修制度の整備をすすめたい。
 登録後一定期間経過した弁護士に対する倫理研修はすでに義務化されているが、業務研修を義務化することも積極的に検討していきたい。

 ウ 専門研修の充実・強化
 専門研修は各分野ごとに弁護士会の研修として行われており、各専門領域において知識・技能を修得する機会として活用されている。また、財団法人日弁連法務研究財団における研修においても専門研修が行われている。
 日弁連としては、より充実した専門研修を全国的かつ日常的に行う体制を整備し、専門認定制度の検討と合わせて制度の充実を目ざしたいと考えている。

(2)隣接法律専門職種との関係/企業法務などとの関係

 ○ 隣接法律専門職種に、訴訟手続への関与を含む一定の範囲・態様の法律事務の 取扱を認めることについて
 日本においては、行政事務を補完する役割を持って、特定分野の申請業務を中心とした法律事務を扱う隣接法律専門職種が存在している。これらの業務も弁護士が扱いうる業務であるが、現状においてはその多くをこれらの隣接法律専門職種が遂行している。
 弁護士過疎の地域が生じていること、専門弁護士が不足している分野があることなど、国民の権利擁護に十全でない状況があることは否めない。
 日弁連は、弁護士人口の大幅な増加と専門性の強化、法律相談センター・公設法律事務所等の発展によりこれを克服するよう努めている。これが基本的な解決策であるが、これによっても増員の過程ではなお国民の権利擁護に不十分な事態が直ちに解消しないおそれがある。
 そこで、日弁連は2000年9月14日開催の理事会において「弁護士法72条問題に関する基本指針」として、以下のような過渡期の措置を定めた。以下の隣接法律専門職種にこれらの権限が認められることで、当面の国民の需要に応えられると考える。

 ア 司法書士について
  1.簡裁事物管轄の範囲内の通常民事訴訟事件について、業として補佐人となること(民事調停・家事調停・即決和解の代理権を含まない。執行手続の代理権を含まない)。
  2.補佐人を務めることができる範囲における法律相談を行うこと。
を承認する。司法書士法第2条の改正、同第10条の改正による。
 その理由は以下のとおりである。
 第1に、司法書士について簡裁事件の補佐人の地位を認めることは、現状における弁護士の地域的過疎と少額事件に対する受任弁護士不足を補うために有効な方策であり、現在、司法書士が行っている本人訴訟における書面作成業務の延長線上に自然に位置づけることができる。
 第2に、しかし、能力的な担保という面から見て、本人が出廷しない手続になる訴訟代理権を付与することには問題がある。病気や身体障害などの場合などは代理権を認めないと不都合ではないかとの意見もあるが、弁護士人口を大幅に増加する方策をとることでもあり、ごく例外的な事態を理由として制度の根幹を変えるべきではない。
 さらに、訴額の限定がなく、複雑な法律判断を要することになる可能性が多い民事調停や家事事件、即決和解、執行事件の代理権・補佐人権限を付与することは適当でない。
 第3に、司法書士においては、大臣認定により資格を取得した「特認」が国家試験制度実施後も3分の1程度おり、地方では「特認」の割合が高い。地域限定の「紳士協定」で認可することがあるといわれている(1978年改正法審議における香川民事局長答弁)。「特認」の対象者は、「裁判所事務官、裁判所書記官、法務事務官又は検察事務官としてその職務に従事した期間が通算して10年以上になる者jはこれと同等以上の法律に関する知識及び実務の経験を有する者であって、法務大臣が司法書士の業務を行うのに必要な知識及び能力を有すると認めたもの(司法書士法第3条第2項)」である。具体的には、副検事、警察官、簡易裁判所判事、村役場の職員などがあげられている(前記香川民事局長答弁)。
 第4に、業務内容は、不動産登記が90%を占めており、不動産登記実務以外の法分野での専門性は高いとはいえない。司法書士の裁判事務取扱事件数はそれほど多いわけではない(1991年以降は年4万件台)。家事事件や執行事件を含めて裁判事務を取り扱ったことのある司法書士は4500人で、司法書士全体の25%である(加藤俊明「司法書士のリーガルマインドとは何か」『日本の司法書士』197頁)。司法書士のすべてが裁判事務を行う意思や能力をもっているわけではないと推測されるのであり、このような実態に応じた対応が必要である。

 イ 弁理士について
 1.特許等の侵害事件における訴訟・紛争において、弁護士とともに共同代理を行う権限を認めること。
 2.上記に関する法律相談を行うことを認めること。
 新弁理士法第5条の改正による。
 その理由は以下のとおりである。
 弁理士は、特許法という特定分野の実務家であり、試験科目も工業所有権法中心である。民商法の知識は担保されておらず、もちろん訴訟法の試験・研修もない。侵害訴訟は複雑な法律知識を要するものであり、訴訟代理権を認めるとしても単独で訴訟を担当することには問題がある。
 弁理士は各国に存在するが、申請手続代理を基本としている。アメリカの弁理士は訴訟代理権はもたない。ドイツの弁理士は、審決取消訴訟の代理権はあるが、侵害訴訟は弁護士と共同で代理できるのみである。フランスでも、弁理士は侵害訴訟の代理権をもっていない。

 ウ 税理士について
 税務訴訟において弁護士が受任している場合の出廷陳述権(裁判所の許可を要しない補佐人の権限のうち陳述権のみ。)を承認する。

 エ 隣接法律専門職種に法律事務の取扱いを認める場合の要件
 前各項の権限付与は、各隣接法律専門職種の業法の改正によるべきである。また、前述したように、現時において当該隣接法律専門職種にある者は、必ずしも資格試験の合格者に限られず、また実体法・訴訟法の知識・経験の保障もないという実情に照らすと、これらの資格を有する者すべてに前項の各権限を認めるときは、国民に不測の不利益を与えるおそれがある。そこで、各隣接法律専門職種ごとに資格内試験を実施し、これに合格した者に一定の研修を課し、これを修了した者に限って所定の権限を認めるべきである。この資格内試験及び研修の実施主体には弁護士会の関与が必要である。

 オ 社会保険労務士および行政書士
 社会保険労務士、行政書士については、それぞれが要求しているような法律事務の取扱権限を付与することは相当ではない。両資格とも試験の合格者に限られず、また一般的な法律知識とりわけ訴訟法などの知識・経験に欠けているため、国民に不測の不利益を与えるおそれがあるからである。

 ○ 弁護士と隣接法律専門職種その他の専門資格者による協働について、ワンスト ップサービス(総合法律経済事務所)を積極的に推進し、その実効を上げるた めの措置
 隣接法律専門職種との提携
 日弁連の基本的な方針は以下のとおりであるが、弁護士人口の増員と広告の解禁という環境の下では、ワンストップサービスが本当に国民に支持されるのであれば、特別な誘導策をとらずとも共同化が進むことが期待される。
 8月29日のプレゼンテーションで述べたように、弁護士の隣接法律専門職種との提携をさらに推進し、国民のニーズに応える予定である。
 日弁連ではすでに、1997年と1999年に行った弁護士業務対策シンポジウムにおいて、隣接法律専門職種との連携の強化を打ち出している。
 総合法律事務所については、弁護士と弁理士、司法書士、税理士、海事補佐人との間で、経費共同の事務所を設立することを推進する。
 また、弁護士と公認会計士との共同事務所は認めるべきではない。

 ○ 弁護士法第72条の規制(いわゆる法律事務の独占)についての今後の在り方

 ア 法曹資格の意義
 弁護士はすべての法律事務を行うことができる(弁護士法第3条)。
 法律事務は、本来的に弁護士が行うべきものであり、現行法においても、弁護士のみが法律事務をなしうるとの原則が宣明されている(弁護士法第72条)。
 これは、最高裁大法廷昭和46年7月14日判決がいうように、@弁護士には厳格な資格要件が課され、これによって提供されるリーガルサービスの質が維持されること、A弁護士は弁護士会の自治的な規律に服することにより依頼者の利益のために働くことが担保できること、などによる。
 弁護士として法律事務を取り扱うためには、各国において高度の試験と研修が課せられるのが例であり、弁護士による法律事務の独占は―例外はあるが―アメリカ、ドイツ、フランスにおいて認められている。特に通常裁判所の訴訟については、弁護士にのみ代理権を与えるのが各国でも基本的な原則になっており、現行法もそれを明記している(民事訴訟法第54条)。これらは今後も基本的に維持されるべきものである。
 医療や法律事件処理などの専門的能力の有無は、一般利用者が直ちに判断するのは困難である。利用者の保護と正義の適切な実現のために資格制度が設けられ、能力の最低限が保障されている。医療行為を自由化して無資格の者の診療行為を認めようという意見がないのと同様に、法律事務についても資格制度の必要性は動かしがたい。
 弁護士会は、弁護士の大幅増員に歩を進めつつある。相当数の増員の後は、手続申請業務を除き法律関連業務は弁護士に一元化することになろう。例外規定を多く設けて一元化への途を阻害するようなことにならないことを期待したい。

 イ 弁護士法第72条の将来
 弁護士法第72条の改正は不要である。
 同条は、以上のように法律事務は有資格者が行うとの大原則を明らかにする意義があり、これは今後も維持すべきである。例外を認めるべき領域が生じる場合、見直しは個別立法として行うことができ、かつそれで足りる。現在、主張されている隣接職種の法律事務は、各業法で規定することができ、かつそれが適切である。仲裁人の資格については、仲裁法で弁護士以外の者を許容する立法が可能である。
 当面の措置として承認した隣接士業の訴訟への関与部分は、将来的には大幅に増員した弁護士がこれを担うことになる。隣接職種は従来どおり申請手続代理業務とそれに関連した法律相談を行うものとして存続することとなる。

 ウ 企業法務等が行う法律事務の位置づけ

 (ア)企業従業員に当該企業の訴訟代理権を付与することの可否
 企業従業員に当該企業の訴訟代理権を認めるべきではない。
 会社従業員が自社の社内法務を処理することは、弁護士法に違反するものではない。しかし、関連企業といえども他社の法務を有償で処理することは、弁護士法に違反する。弁護士が抜本的に増員されることに伴い、自社法務についてもコンプライアンスの強化のため、弁護士を採用することを検討すべきである。資格を持つ者には独立性があり、このような者であってこそ「会社のため」に社内の違法行為を阻止することがよりよくできるものと考えられる。
 前述のように、訴訟は、諸外国においても弁護士により担われるべきものとされている。本来、訴訟事件の代理業務は弁護士が行うべきものである。弁護士によるいわゆる法律事務独占を見直すべきだと主張する学者も、この点については、「訴訟代理業務は、専門家が行わなければ相手方や裁判所にも迷惑をかける。代理人に専門能力がなくても、依頼者が損するだけというわけにはいかない。」と述べている(阿部泰隆「弁護士などの業務独占の見直し」ジュリスト1172号162頁)。また、訴訟代理人には依頼人からの独立性と法的専門性が必要である。企業法務従事者は、法的専門性の保障がないのみならず、独立性がなく、当該企業の利益にのみ忠実義務を負っているのである。
 自然人について本人訴訟が認められているイギリスにおいても、訴訟当事者が法人である場合にはソリシタによる訴訟代理が強制されている(住吉博『司法書士訴訟の展望』(テイハン、1985年)131頁)。
 債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)第11条第2項は、債権回収会社においても、訴訟は弁護士によってのみなしうることを確認している。
 弁護士人口の大幅な増加により、企業法務の充実を図ることが本筋であり、ロースクールの発展により、企業法務出身者がロースクールを修了して弁護士資格を取る途も生まれるであろう。

 (イ)企業法務出身者に弁護士資格を与えることの可否
 企業法務の経験はそれのみで弁護士資格の基礎となるものではない。そのような制度を認めている国はない。弁護士法第5条第3号は学者であるがゆえの例外で、これは各国にも例がある。
 司法試験合格後、企業法務に従事していた者に弁護士資格を与えることができるかという問題は、弁護士法第5条第2号と同様の特例を認めるか否かの問題である。司法修習に代替できる内容か、他の例示職種に匹敵するような法律専門職といえるか否かの判断になる。現状の企業法務部は千差万別で、直ちに肯定はできない。

 エ 特任検事、副検事、簡裁判事の経験者の位置づけ
 特任検事、副検事、簡裁判事については、これらの職種にある者に法曹資格を与える必要と相当性がどのような意味であるのか、慎重な吟味が必要である。
 簡裁判事は、大半は元書記官であるが、定年が70歳なので、その後の資格を認める必要性に乏しい。かつ、司法書士に任用されるケースがあり、そうすれば、前記のとおり、今後、簡裁の訴訟事件において補佐人となることも可能となる。

 オ 行政訴訟の指定代理人制度のこれからの在り方
 国や官公庁を相手とする裁判における指定代理人の制度は、弁護士増員に伴い廃止すべきものである。同制度は、弁護士業務の中核である訴訟代理そのものについて、民事訴訟法第54条の弁護士代理の例外を認めるもので、臨時司法制度調査会の際にも検討事項とされていた経過(臨時司法制度調査会意見書、第2編、第6章、「3訟務制度」)がある。
 すなわち、臨時司法制度調査会においても、「国及び地方公共団体等の代理人たる役割を法曹有資格者に限定することとする方向自体が望ましいものであるとする点においては意見の一致を見たが、現段階においてこのような施策を採ることに踏み切るには、なお問題点があると思われた」のである。上記意見書から30年が経過し、弁護士の力量は質量ともに大幅に向上している。弁護士が行政訴訟に数多く関与することで、行政訴訟が活性化していくことも期待される。
 以上の理由から可及的速やかに指定代理人制度は廃止されるべきである。

(3)弁護士の国際化/外国法事務弁護士等との関係

 ア 弁護士の国際交流の推進、隣接法律専門職種や外国法事務弁護士等との提携・ 協働を進めるための方策
 法律業務や経済の国際化に伴い、すでにわが国の弁護士の国際化も進んでいる。特に若手弁護士を中心に、国際的な分野を手がける弁護士の数は飛躍的に増加しつつある。弁護士の増加や事務所の法人化等による弁護士事務所の体制整備等により、事務所規模が拡大するに伴い、弁護士の国際的な専門化は加速し、また新たに創設される法科大学院の充実(たとえば、外国語、外国法あるいは国際法務などの科目の充実など)により、国際化はさらに進むことが予想される。
 また、法律事務所の大規模化や弁護士の国際交流が進むことにより、日本の法律事務所が海外に進出する例も増えていくことが予想される。
 弁護士の国際的事案に対応する能力は向上しつつある。国際関係業務に携わる弁護士を中心に、多くの弁護士が海外のロースクール等への留学や海外の法律事務所でのインターンシップ等を通じ、自己研鑽に努めている。しかし、今後、国際的法律事務の増加が予想されることを踏まえると、現状は到底十分なものとはいえない。弁護士の国際化を一層推進するために、より多くの日本の弁護士が海外での実務・研修等の経験を積むことができるようにすることが必要である。そうした見地から、弁護士会としても各地の実情に応じて環境整備を図っており、日弁連は国際室を設置し、国際交流を活発化させるなど、国際化の課題に組織的に取り組んでいる。
 日弁連は現在、ニューヨーク大学ロースクール並びに、カリフォルニア大学バークレー校「法と社会研究センター」との間で、日弁連の推薦する弁護士をビジティング・スカラー(客員研究員)として受け入れる制度を発足させているが、このような制度の拡充を図っていきたい。
 日弁連には、国際関係を取り扱う機関として、嘱託弁護士を擁する国際室をはじめ、国際交流委員会、国際人権問題委員会、外国弁護士及び国際法律業務委員会、国際活動に関する協議会、国際仲裁連絡協議会、拷問禁止条約に関する協議会等、多種多様の組織があり、それぞれの機関とも活発に活動している。今後これらの機関の活動の一層の充実・拡大を図り、国際化に貢献する所存である。
 また、弁護士会の会務活動やさまざまな公益活動に外国の弁護士が幅広く参加することは日本の司法の国際化に有用であると考えられる。日弁連、各弁護士会としても外国法事務弁護士の会務活動を受け入れる体制を積極的に整備していく必要がある。従来、国際関係の分野にとどまらず、幅広い分野における外国法事務弁護士の公益活動に対して、必ずしも十分に門戸が開かれていたとはいえない。今後はこれを幅広く推進・奨励して、わが国の弁護士会における外国法事務弁護士の活躍を期待したい。
 国連の諸機関や国際的紛争処理機関(国際紛争後の紛争処理機関を含む)から、日本の法曹ないし弁護士に対し、人材を派遣してほしいとの声がある。「中間報告」も、「国際的ルールの形成、運用に様々な形で関わっていく必要性は大きい」との指摘をしている。
 これらの要請に日本の弁護士が十分に応えられるよう、質・量両面での充実が必要である。
 日弁連は、関係機関の協力も得て、たとえば、政府機関へのジュニア・プロフェッショナル・オフィサー派遣制度に弁護士が参加するなど、若手弁護士が国際機関や国際社会での経験・研鑽をつむ機会を多く持てるよう、制度改革を進めていきたい。

 イ 外国法事務弁護士等に関する制度及びその運用の見直しのあり方

 (ア)GATSの下における弁護士の国際化
 1995年1月1日からは弁護士業務もサービス貿易の一種として世界貿易機関(WTO)体制下に置かれ、わが国も国際条約であるサービス貿易に関する貿易一般協定(GATS)を遵守すべき義務を負っている。GATSの下における弁護士の国際化としては、越境取引(第1モード)、国外消費(第2モード)、業務上の拠点(第3モード)及び人の異動(第4モード)の態様の弁護士活動が、国境を越えてイン・バウンド(外国の弁護士が日本国内に向けて)とアウト・バウンド(日本の弁護士が外国に向けて)のいずれの側面からも、自由にできる状態にすることであるといえる。

 (イ)わが国における弁護士の国際化の進行度
 わが国については、上記第1、2及び4モードについてはなんらの問題もない。わが国の制度で規制緩和が求められているのは、上記第3モードの態様の自由化のみであり、今後これに適切な対応をすることが必要である。諸外国においては、まだ外弁制度を有していないヲが多く(WTO加盟国136か国のうち外国弁護士制度を有する国は14か国のみ)、かつ連邦制を採る国においては一部の州のみしか有しておらず(たとえば、米国は51州のうち開放州は24州のみ)、わが国の制度は世界の主要国の制度と比較しても最先端のものであるといっても過言ではない。したがって、わが国の弁護士の国際化のためには、今後WTOの多国間交渉等によりこれらの諸外国におけるわが国の弁護士の自由な活動を確保すべきである。

 (ウ)GATSと弁護士業務の特性
 GATSの目的は、加盟国間のサービス貿易の自由化を促進することにあるが、加盟国の各々が主権を有し、かつサービス業の発展の程度に差があるうえ、特に弁護士業は、単なる貿易の問題ではなく、各々の加盟国の司法制度の問題でもあり、各国の法律、歴史、文化、言語、風俗等と密接に関係していることから種々の例外規定があり、一定の限度で規制することが許容されている。

 (エ)今後の国際化の展望
 このような観点からすれば、外国法事務弁護士による日本弁護士の雇用や両者の共同経営等の自由化等については、慎重に対応すべきであり、この点に関しては、外国法事務弁護士と隣接法律専門職種間の雇用・共同事業も同様である。現状では諸外国とわが国の法律事務所等の規模等に大きな差があることから、当面はわが国の弁護士等の体力の増強にエネルギーを傾注すべきである。さしあたり、現在の外国法事務弁護士と弁護士による特定共同事業の発展を見守りつつ、また外国法事務弁護士のわが国における公益活動の実績等も勘案してわが国における弁護士の国際化が展望されるべきである。上記の自由化は、弁護士の大幅増員や専門性・国際性が強化された暁に、国際的動向を勘案しながら、将来的な検討課題とされるべきものである。

 (オ)日弁連の活動
 日弁連は、三極法曹会議(アメリカ法曹協会[ABA]、欧州弁護士会連合会[CCBE]及び日弁連の会合)等の活動を通じて隣接異業種団体、CCBE、ABA、国際法曹協会(IBA)等の内外の法曹諸団体とも協力して、弁護士制度に関する国際的なルール作りに積極的に参加していく所存である。

 ウ アジア等の発展途上国の法整備支援を推進するための方策
 (ア)アジア諸国に対する法整備支援
 日弁連では、これまでアジアでの法整備支援に長年関与してきた。以下、その概要を述べる。

  a アジア弁護士会会長会議
 アジアにおける各国の弁護士会の会長会議が毎年開かれており、11回の開催を重ねている。第1回および第10回の会議は日弁連が主催し、2001年以降は同会議の事務局的役割を日弁連が担うこととなった。
 同会議においては、アジアで起こっている法曹界全体の問題について幅広く討議が行われており、日弁連が法整備支援を実施する上での情報収集および人的交流の場ともなっている。

  b カンボディア王国
 日弁連の司法支援活動の歴史において、カンボディア王国に関係する活動が最も長い歴史を有している。また、その支援形態も、国際協力事業団(JICA)のODAプロジェクトに参画するケース、日弁連独自の活動、弁護士(特に国際交流委員会の委員および幹事)がNGOを設立し、当該NGOを通じて司法支援活動を行うケースおよびわが国の弁護士が個人として当該活動に参加するケースの等多様なものがある。また、その支援内容も、カンボディア王国の立法作業、裁判官、検察官、弁護士等の研修(トレーニング)、クメール語文献の資材供与等司法支援全般にわたる。したがって、カンボディア王国への司法支援活動は、日弁連にとって一つのモデルケースとなりうるものである。
 以下、具体的活動を簡潔に説明する。

  (a)JICAプロジェクト(ODA Project)への参画
 日弁連は、1995年から毎年、国際協力事業団(JICA)が主催するカンボディア法律家に対するわが国での研修に講師を派遣し、また、研修旅行を行う等の協力をしてきた。既にこれまで約50名のカンボディア法律家が研修に参加している。また、1999年3月からJICAの重要政策中枢支援の一つである法整備支援プロジェクトが開始され、同国の民法および民事訴訟法の起草に協力している。同プロジェクトの国内支援委員会および事務局には日弁連から弁護士が派遣されており、カンボディア司法省に対しては、2名の弁護士がJICAの短期専門家として事前調査等に参加し、1999年10月からは1名の弁護士がJICA長期専門家として同省に赴任している。

  (b) 弁護士会への協力
 日弁連は、長年のカンボディアとの人的関係をもとに、2000年5月にカンボディア王国弁護士会と友好協定を締結した。法律の運用面でカンボディアの市民社会の中で活動している弁護士に対して協力することは、「法の支配」の形成・確立という点で重要である。
 日弁連では、最初の試みとして2000年10月にJICAのプロジェクトとしてカンボディアの弁護士に対する「民事紛争における弁護士の役割」、「法律扶助」、「弁護士倫理」、「刑事弁護士の研修」をテーマとするセミナーを開催した。
 さらに、2001年度は、JICAの小規模パートナーシップ事業の認定を受けて、カンボディア王国弁護士会に対して年間4回のセミナーの開催、弁護士養成への協力、法律扶助制度の構築協力を実施する予定である。

  (c) 弁護士有志設立のNGOによる活動
 日本カンボディア法律家の会(JJリーグ)は、1992年以来、カンボディアに対して独自の支援活動をしてきたが、1998年から日本の刑法基本書をクメール語に訳して製本し、大学、裁判所へ寄贈している。2000年末には民法基本書も同様にクメール語翻訳版を作成し、寄贈する予定である。また、JILD(Japanese Institute for Legal Development)は、2000年からカンボディア司法省に対して、女性および子どもの人身売買禁止法の制定に向けた立法作業への助言を開始している。

  (d)弁護士個人による活動
 1992年カンボディア暫定統治機構(UNTAC)の人権担当官として赴任した弁護士がおり、1997年から98年にかけて同国の国連人権センターが実施する裁判官に対するメンター・プログラム(Judicial Mentor Programme)にコンサルタントとして参加した弁護士もいる。また、1998年同国で実施された総選挙に国際監視団の一員として参加した弁護士もおり、2000年8月からUNICEFが同国で実施している子どもの人権プロジェクトに参画している弁護士がいる。

  c ベトナム
 ベトナムの法制度整備に関するJICAの重要中枢技術支援活動でも、日弁連は、国内支援委員会に委員を派遣し、JICA現地専門家としてこれまで4年にわたり合計2名の弁護士が勤務している。
 また同国でのJICAセミナーに多くの弁護士が講師として参加してきた。

  d その他
 その他、日弁連は、日本国内でのアジア開発銀行セミナー、法務総合研修所からの要請によるラオスなどの研修に講師を派遣してきた。
 また、これまで日弁連会員が、International Development Legal Instituteのマニラオフィスで職員として勤務したこともある。

 (イ)司法支援活動弁護士登録制度
 日本の国際的役割が益々期待されていく中で、開発途上国に対する立法・法曹養成援助、選挙監視などの法律施行管理、国際機関への人材派遣、大学などへの法学教育援助など、国および民間のいずれのレベルでも今後さらに弁護士が国際的な司法支援活動に参加することが求められており、それに関する外部からの問い合わせも増えている。
 そこで、このような弁護士による国際的は司法支援活動に関する情報の基地(ハブ)として日弁連が自らの役割を高め、情報を迅速に提供し、また意見交換の場を設けるなど、弁護士によるより充実した国際司法支援活動ができるようにする必要がある。日弁連は、1999年に司法支援活動弁護士登録制度を設け、この分野に興味のある弁護士のデータベースを構築し、現在約80名ほどの弁護士が登録している。これまで、この登録制度を利用して、JICA、法務総合研究所などの国内機関、国連開発計画(UNDP)、ユニセフなどの海外機関からの人材派遣要請に応えてきた。
 昨年、この司法支援活動弁護士登録制度の利用に関し、日弁連は、JICAとの間でガイドラインを策定した。今後ますます同制度の役割が期待されるところである。

 (ウ)今後の日弁連の法整備支援活動の方向性
 今後の日弁連の法整備支援活動の方向性につき、以下の4点を掲げておきたい。
 1.人材派遣活動―国際司法支援活動弁護士登録制度の充実
 国際司法支援活動弁護士登録制度を充実させ、内外からの人材派遣要請に対して、適材適所となる専門家を迅速に派遣できる体制を一層整備する。
 2.弁護士会をカウンターパートとする支援活動
 アジア弁護士会会長会議(POLA)での協力活動、カンボディア王国弁護士会への協力プロジェクトの実施を先鞭に、さらに他のアジア諸国の弁護士制度その他の法整備に協力する。
 3.多様な活動の支援
 日弁連自身の支援活動と弁護士グループおよび弁護士個人の活動を有機的に連携させ、効果的な支援を実施していきたい。
 4.資金の確保
 継続的な活動のために資金の確保が不可欠であるが、日弁連の独自財源は限られており、この点で他の機関との協力を模索していきたい。