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知的財産訴訟検討会(第8回) 議事録

(司法制度改革推進本部事務局)



1 日 時
平成15年5月20日(火) 13:30 〜17:00

2 場 所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)
伊藤 眞(座長)、阿部一正、飯村敏明、小野瀬 厚、加藤 恒、小林昭寛、櫻井敬子、沢山博史、末吉 亙、中山信弘(敬称略)
(知的財産訴訟外国法制研究会研究員)
大渕哲也東京大学教授、杉山悦子一橋大学助手、茶園成樹大阪大学教授、菱田雄郷東北大学助教授、平嶋竜太筑波大学助教授
(事務局)
古口 章事務局次長、近藤昌昭参事官、吉村真幸企画官
(関係省庁・団体)
法務省、最高裁判所、特許庁、日本弁護士連合会、日本弁理士会

4 議題等
(1)知的財産訴訟外国法制研究会の研究結果の報告
(2)その他

5 議 事

【開会、知的財産訴訟外国法制研究会研究員紹介】

○伊藤座長 それでは、定刻でございますので、第8回「知的財産訴訟検討会」を開催させていただきます。お忙しいところどうもありがとうございます。
 今回は「知的財産訴訟外国法制研究会」の研究員の皆様にお越しいただいて、各研究員から研究結果の報告をしていただきたいと思います。
 この知的財産訴訟外国法制研究会は、国際競争力の強化という観点から、我が国の知的財産関連訴訟制度と諸外国の制度との比較を行うことによって、この検討会における検討をより充実したものとするために、昨年の12月に立ち上げられたものでございます。昨年12月から今月にかけまして、5回にわたり集中的に開催され、研究結果がとりまとめられております。
 研究員の方々は、日々の研究活動等で御多忙の中にもかかわらず、これまで各論点の調査事項につきまして、精力的に調査をしていただくとともに、報告書の作成に御尽力いただきました。この場をお借りしまして、厚くお礼を申し上げます。
 それでは、事務局から研究員の方々を御紹介いただけますでしょうか。

○近藤参事官 それでは、お名前の順に御紹介させていただきますので、研究員の皆様には一言ずつご挨拶をいただければと存じます。
 まず、外国法制研究会の座長をお務めいただき、ドイツ及びEUの知的財産法を中心にご担当いただきました大渕哲也研究員です。

○大渕研究員 東京大学の大渕でございます。5月1日付で駒場にあります先端科学技術研究センターの知的財産権大部門というところから、本郷の法学部の方に学内で内部異動になりました。よろしくお願いいたします。

○近藤参事官 次にドイツ、フランス、ベルギーの民事訴訟法を中心に御担当いただきました杉山悦子研究員です。

○杉山研究員 一橋大学の杉山と申します。専攻は民事訴訟法でございます。よろしくお願いいたします。

○近藤参事官 イングランドの知的財産法を中心に御担当いただきました茶園成樹研究員です。

○茶園研究員 大阪大学の茶園成樹と申します。知的財産法を専攻しております。よろしくお願いいたします。

○近藤参事官 アメリカ及びイングランドの民事訴訟法を中心に御担当いただきました菱田雄郷研究員です。

○菱田研究員 東北大学の菱田と申します。民事訴訟法を専攻しております。どうぞよろしくお願いいたします。

○近藤参事官 アメリカの知的財産法を中心に御担当いただきました平嶋竜太研究員です。

○平嶋研究員 筑波大学の平嶋と申します。知的財産法を専攻しております。よろしくお願いいたします。

○伊藤座長 それでは、本研究会の報告を受ける前に、事務局からお手元の資料の確認をお願いします。

○近藤参事官 資料1といたしまして、「知的財産訴訟外国法研究会報告書」。早くも正誤表が付いていて申し訳ないのですが、ちょっと分厚いものですが、用意させていただきました。
 それから、NBLの759 号、760 号の抜き刷りでございます。
 更に、席上で「外国法制研究会報告書に関する質問」ということで、日本弁理士会から御提出がありました。
 なお、このNBLの抜き刷りは、韓国弁理士で元韓国特許庁審判長の権泰福氏が書かれた論文です。ここには、韓国における知的財産訴訟の実情として、現在、当研究会で検討している第2論点に相当する知的財産関連訴訟における専門家による裁判官のサポート制度と、第1論点に相当する特許侵害訴訟における無効の判断と無効審判の関係に関する内容が書かれておりますので、御参照いただければと思います。

○伊藤座長 どうもありがとうございました。それでは、各研究員の研究結果の報告に移りたいと思いますけれども、報告の進行につきましては、外国法制研究会の大渕研究員にお願いしたいと存じますので、どうぞよろしくお願いいたします。

【知的財産訴訟外国法制研究会の研究結果の報告】

○大渕研究員 承知いたしました。それでは、これからの報告につきまして、進行役を務めさせていただきます。
 報告の順番ですけれども、お手元にあります報告書の最初にある目次の記載に合わせまして、まず、第2論点に相当します各国の裁判機関及び専門家の参加制度について報告し、次に第3論点に相当します証拠収集手続と秘密保護について報告いたしまして、最後に第1論点であります特許侵害訴訟と特許無効手続の関係について報告するという順番にいたしたいと思います。
 そして、今申し上げました各論点ごとに、国別といたしましては、アメリカ、イングランド、ドイツその他の順に発表し、質疑応答につきましては、各論点の報告終了時にまとめて行いたいと思います。
 それでは、まず第1の点ですけれども、各国の裁判機関及び専門家の参加制度につきまして、先ほどの順番で、アメリカ、イングランド、ドイツ、EUに関する研究結果の報告をいたします。
 説明時間は各研究員につきまして、各10分程度で、全体で60分を予定しております。
 それでは、まず始めにアメリカの民事訴訟一般を担当されました菱田研究員にお願いしたいと思います。

【専門家が裁判官をサポートするための訴訟手続への新たな参加制度 〜アメリカの民事訴訟一般〜】

○菱田研究員 私の方からはアメリカの連邦レベルの通常民事訴訟において、専門家がどのように関与するかという点についてお話をさせていただきたいと存じます。報告書自体はかなり大部なものになっておりますので、11ページにございます表の方を参照しながら聞いていただければ幸いかと思います。
 アメリカでは伝統的に当事者が申請する専門家証人がトライアルにおいて、専門的な知識について証言するというのが、専門的知識を裁判所に導入する主要なルートでございました。ただ、近時は次のような理由でこのような構造に変化が生じてきております。
 1つは、裁判所による事件管理の必要性が強調されてきたという理由でございます。伝統的なアメリカの民事訴訟というのは、当事者間で情報のやりとりを行い、争点を形成していき、裁判所は公平に聞くという形で行われてまいりましたが、近時はそれでは争点形成も和解も十分に進まないから、裁判官が積極的にトライアルの前でも事件を管理せよということが強調されるようになったわけでございます。
 そうなると、裁判官も事前に事件の内容を把握していなければなりませんが、専門性の高い事件については、事件を把握することも容易ではございません。
 そこで、裁判官が自らのイニシアチブで専門家の助力を得られないかという問題意識が生じてくることになったわけでございます。
 もう一つ、より重要な理由としては、1990年代の連邦最高裁の判例によって、当事者の申請する専門家証人、証言の信頼性を、裁判官が判断しなければならないとされた点が挙げられます。
 当事者が申請する専門家証人といいますのは、当事者にとって都合のよいことしか証言しませんから、中には十分な科学的な方法論に基づいていない証言が含まれることは避けられません。
 しかしながら、最終的に事実認定の権限を握る陪審は、素人でございますから、余り信頼の置けない証言に惑わされるのではないかというふうな疑いが生じてまいります。そこで連邦最高裁は、裁判官に対して、余りに信頼性のない専門家証人は陪審の前で証言をする前に排除するという役割を課したのでございます。
 しかし、裁判官の側も多くは素人でございます。アメリカでは、最近は多くの議論がございますけれども、特別裁判所を建てることも、専門的な裁判官を養成することにも消極的であったという長い歴史がございます。そこで、最高裁から課された任務を果たすためにも、やはり外部の専門家の助力を得るという必要が生じてくることになったわけでございます。
 ただ、裁判所のイニシアチブで専門家の助力を得る必要が高まったと申しましても、そのような伝統はそもそもなかったわけですから、そのための実定法上の根拠というものは余りありません。1つございますのは、連邦証拠規則706 条というものでありまして、これは裁判所が必要に応じてアドホックに自ら専門家を選任するということを認めておりますけれども、この条文はトライアルで証言する専門家の任命を念頭に置いた規定でありまして、トライアルの前に裁判官がさまざまな知識を得るために専門家を任命するということにつきましては、全く沈黙しております。
 もう一つの実定法上の根拠であります連邦民事訴訟規則53条も、使い勝手はそれほどよくありません。この条文は外部の専門家をやはりアドホックにスペシャルマスターに任命し、訴訟に関与させることを認めるものでございますけれども、念頭に置かれておりますのは、本案の争点について、報告書を作成することのみでありまして、しかもその報告書の内容というのは、明白な誤りがない限り裁判所を拘束するという強い効力が与えられているものですから、任命される場合も極めて限定されております。
 以上のように、使い勝手のよい実定規定というのは余り多くないのでございますけれども、裁判実務におきましては、以上の規定を拡張し、あるいは専門家の助力及び本質的な権限が裁判所には当然に備わっているのだと主張することで、実定規定にとらわれない専門家の利用の仕方が開拓されているところでございます。
 連邦証拠規則706 条、又は本質的権限を根拠に、陪審の前で証言をする専門家だけではなくて、トライアル前において裁判官に専門知識について教育を施す、あるいはディスカバリーの範囲に関する争いや、和解手続に関与する専門家の任命まで行われておりますし、同様に、連邦民訴規則53条、又は本質的権限に基づいて任命されるスペシャルマスターにも、裁判官に対する一般的な情報提供、あるいはディスカバリーや和解手続の監督などという役割が課されているところでございます。
 ただ、このように専門家の関与が拡大していくに伴い、当然その規律が問題になってくるわけでございますけれども、ここでも現行の規定というのは余り役に立ちません。連邦証拠規則706 条は、専門家を裁判官が任命するに際しては、両当事者に通知しなければならないとしており、また、両当事者に反対尋問の機会を付与するなど、専門家の公平性や信頼性の担保に努めておりますけれども、トライアル前に裁判官に情報提供するのみの専門家を任命した場合については、反対尋問というのは全く意味がありませんし、任命の際に当事者に任命するということを知らせると言いましても、ただ知らせるだけでありまして、知らされた専門家が中立的であることを担保するような詳細な規定というのは置いておりません。
 連邦民訴規則53条に基づくスペシャルマスターについても、状況はほぼ同じでございます。作成された報告書については、その基礎となった証拠とともに当事者の閲覧に供するなど、当事者に対する透明性の確保をねらった規定はございますけれども、中立的な専門家を確保するための方策などは全く規定されておりませんし、報告書を作成するのではなく、裁判官への情報提供そのものを職務とする場合など、トライアル前のさまざまな職務を委ねられるという場合には、ほとんど機能しない規定となってございます。
 もちろん、このような状況はアメリカでも問題視されておりまして、各裁判所は中立性と透明性を確保するための工夫をさまざま行っているところでございます。
 例えば透明性を確保するためには、専門家が当事者が存在しないところで裁判官と議論したという場合には、その内容を当事者に知らせなければならないとか、これは中立性とも関わりますけれども、専門家が当事者の一方のみと接して情報収集をすることを禁じるなどの規律を採用している裁判所も少なからず存在しているところでございます。
 また、中立性を確保する方策といたしましても、裁判官が自分の知り合いの専門家に依頼するというのではなくて、両当事者が合意できる専門家のリストから選任するとか、有力な専門家の団体から専門家を推薦してもらうという運用を行っている裁判所もございます。
 以上のような規律は現在のところは裁判所ごと、裁判官ごとの工夫というレベルでございまして、連邦裁判所としての組織的対応というふうには言い難いわけですけれども、近時はフェデラル・ジュディシャル・センターといったような組織が、専門的訴訟における裁判官用のマニュアルを公表したり、あるいは有力な専門家団体と協力して、中立的な専門家を迅速に調達するスキームを創設したりという組織的な動きも活発になっているところでございます。
 私の方からの報告は以上です。

○大渕研究員 菱田研究員、ありがとうございました。
 続きまして、アメリカの知的財産法を担当されました平嶋研究員にお願いいたします。

【専門家が裁判官をサポートするための訴訟手続への新たな参加制度 〜アメリカの知的財産関連訴訟〜】

○平嶋研究員 私の方からは、民事訴訟における専門家参加ということのうち、特に知的財産関連訴訟という側面に着目した場合の特徴という点について御報告させていただきたいと思います。
 まず、専門家参加ということの前提といたしまして、アメリカにおける知的財産関連訴訟における1つの大きな特徴でございます、裁判組織上の特色ということについて御説明したいと思います。図面としましては、本報告書7ページの図面を使わせていただきたいと思います。
 アメリカにおいては、基本的に知的財産権の関連訴訟を審理するための組織といたしましては、連邦地方裁判所がまず第一審としてあるということでございます。ここで申します知的財産権という言葉の定義でございますが、これにつきましては、特許権、著作権、それから植物新品種、連邦法の下での商標権、マスクワーク権、船体デザイン権保護に係る排他権等を包含する、日本における知的財産権とほぼ概念的には同一のものと考えられるということでありますけれども、これにつきましては、連邦地方裁判所が専属的に審理をするということでございます。
 控訴審のレベルにおきましては、これについては連邦巡回控訴裁判所、以下、CAFCというふうに申させていただきますけれども、CAFCの排他的管轄という形で、知的財産権関連の控訴審として機能しているものであります。
 CAFCというものが、ある意味では、いわゆる特許裁判所とか、知的財産権の専門訴訟を担当する裁判所というふうに認識されているということも多いかと思いますけれども、このCAFCについて若干敷衍させていただきたいと思います。
 CAFCは今から約20年前の1982年に設立ということになったわけなんですけれども、この設立の背景につきましては、もともとアメリカは連邦制ということですので、連邦内を巡回区という管轄に分けて、それぞれごとに連邦地方裁判所、連邦控訴裁判所という構成で判例法が蓄積されてきたという状況ですけれども、この巡回区ごとに法解釈をめぐって解釈が分かれる、要は抵触する状態が生じていた。とりわけこの抵触の問題というのは、巡回区ごとによって異なるということがあったということですので、実務的にはそれを利用しまして、各当事者が自らに都合のいい法解釈を採用している裁判所に対して提訴をする、いわゆるフォーラム・ショッピングと言われるものがよく行われているという事態があったので、こういった判例のばらつき、法解釈の抵触という問題は統一しようではないかという観点、それから、一般的抵触を本来解消すべき機能として期待されています連邦最高裁に審理が集中するということを緩和させるということから、CAFCというのが成立されたということであります。
 CAFCの設立の経緯については、報告書の方を御覧いただくといたしまして、とりわけこのCAFCの中で、なぜ特許の事件について特に、専属的に扱うという形になったかという点につきましては、これはさまざまな事件のうち、特にフォーラム・ショッピングという問題が顕在化していた分野、税法の分野と知的財産分野、とりわけ特許の分野というものが特にフォーラム・ショッピングという問題があったということが背景にはあるわけです。
 しかしながら、CAFC全体で扱っている事件全体から占める特許事件の割合、知的財産権関連の事件の割合は、それほど多いものではないということでありまして、設立時から現状に至りましても、大体3割程度ということでございますので、特許裁判所とか知的財産権の専門の裁判所という機能ではない、CAFCというのは必ずしもそういう役割ではないというのが実情ではないかと思われます。
 そのCAFCにおいては、確かに知的財産権の控訴審レベルでの審理を扱うということから、裁判官12名おりますうちに、確かに技術系のバックグラウンドを持った裁判官がいるということであります。
 しかしながら、組織上とりわけこういった知的財産権関連の事件を扱うための専門家参加ということに、他の控訴裁判所に比べて特段の組織上の特徴があるということでは必ずしもないということでありまして、主として専門知識というのは、裁判所の組織という中ではいわゆるロークラークと言われるもの、それから、スタッフアトーニーという法律の専門家が原則としているわけですけれども、こういった法律の専門家のうちに、バックグラウンドとして、科学系の分野、技術系の分野というものを持った者がいると。そういったスタッフによって実質的にサポートされているということが、組織上の構成としては言えるかと思います。
 それから、訴訟におきます専門的知見の導入、専門家参加という側面でとらえますと、これにつきましては、知的財産権の分野の訴訟だからと申しましても、特に専門的知識がある訴訟ということで、特段、訴訟の手続上の専門家参加というものについての方策があるというわけではございませんで、その他の自然科学系の専門分野が必要となってくる事件、例えば医療過誤訴訟でありますとか、製造物責任訴訟、それから環境問題の訴訟、会計に関する訴訟といったものと同様に、言わば一般の民事事件における専門的知見が必要な事件の扱いと同様に専門家参加というものが行われているということが言えるかと思います。具体的に申しますと、これにつきましては、先ほど菱田研究員の方から御説明いただきましたような形での、連邦証拠規則706 条及び連邦民事訴訟規則53条の、裁判所の選任する専門家とか、そういったもののうち特段テクニカルアドバイザーというふうに呼称されて、任用されている専門家。それから、スペシャルマスターという形の、トライアル前の、主として事実認定というものについての協力を主としてする者の選任といった形で対応がなされていると言えるかと思います。
 知的財産権の関連訴訟における専門家参加に具体的にどういう事例があるかということを見ますと、確かに、報告書でも取り上げておきましたように、過去数年の事案でも幾つか、知的財産権、特に特許権侵害訴訟等で技術的な専門知識が要る事件につきましては、テクニカルアドバイザー等を任用して、実際、専門的知識を導入しているという例も見られますけれども、全体の事件としましては、それほど大きな割合を占めるものではない。必ずしも特許事件だからと言って、直ちにテクニカルアドバイザーが任用されて、専門的知識が導入されているということではないと思います。
 もちろん幾つか挙げておいた事件というのは、網羅的とは必ずしも言えませんけれども、ただ、実際テクニカルアドバイザー等を任用して、専門的知識を導入した事案というのはそれほど多くはないように見受けられるわけであります。
 そのほか、専門家任用のための試みとしましては、これも先ほど御紹介がありましたように、ケースプロジェクトというものがございまして、ただ、これにつきましても、あくまで科学者の団体と裁判所との間の連携という形での、ある意味で試みということであります。98年からの5年間の試みということでありますので、まだ、試行段階にあるものということが言えるかと思います。
 現在、CAFCということで、いわゆる控訴審レベルでは、確かにこういった専属的管轄を持って、それから自然科学系のバックグラウンドをある程度持った裁判官がいるところで審理されるわけですけれども、むしろ実際は、連邦地方裁判所レベルでの事実認定の問題というところにおいて、事実認定のレベルにおいては、これは各巡回区、各地方裁判所ごとの扱いということになりますので、その点で各巡回区ごと、裁判所ごとの違いが出てくるということがありまして、結局のところ、専門家参加という、CAFCレベルでのある程度の対応があっても、連邦地方裁判所レベルでの専門家参加というのが必ずしもうまくいかなければ、結論として、先ほどの議論のフォーラム・ショッピング、裁判所ごとの判決の違い、ばらつきというものがなかなか解消されないという問題提起もなされておりまして、アメリカにおいても多少、そういう意味では特許裁判所というものの必要性についての議論はされているところではあります。
 しかしながら、専門裁判所に対しては肯定的ではない、むしろネガティブな対応というものの方がかなり多いというのが実情かと思われまして、この点、また最近近況としては議論になっている問題ではないかということかと思います。
 以上、知的財産権の訴訟の専門家参加及び組織の特徴について説明させていただきました。

○大渕研究員 平嶋研究員、どうもありがとうございました。
 続きまして、イングランドの民事訴訟を担当されました菱田研究員に再度お願いいたします。

【専門家が裁判官をサポートするための訴訟手続への新たな参加制度 〜イングランドの民事訴訟一般〜】

○菱田研究員 これについては13ページの表を御覧いただきながら御説明をお聞きいただければ幸いと存じます。
 イングランドでもアメリカと同様、専門的知識を裁判所に提出する主たるグループというのは、長い間、当事者の申請する専門家証人でございました。もちろん、裁判所がイニシアチブを取って、専門家の助力を得るための制度というのは、かなり以前から用意されてはいたのですけれども、こちらも使い勝手が悪いということで余り利用されていなかったということであります。
 しかし、このような状況も、1990年代になりますと、問題視されるようになります。当事者が申請する専門家証人に任せておくと、互いに両極端の主張をするのみで、争点整理や和解交渉が進まず、費用がかさむ一方になるというのが主たる問題提起でございます。アメリカでは陪審による事実認定を正確にするという問題意識の方が強調されておりましたけれども、陪審審理を必ずしも前提としないイングランドでは、問題意識のレベルで若干の差があったということになります。
 その結果イングランドでは、当事者が申請した専門家証人間の議論の中から真実を発見するというアドバーサリーシステム、当事者対立主義と訳させていただきますけれども、この基本理念をかなりの程度放棄するという途に向かいました。当事者対立主義を維持しながら、裁判所が選任する専門家によって、その弊害を緩和するという方向を採ったアメリカとは異なる途を選択したということになるわけです。
 もちろん、このような根本的な方針転換につきましては、当事者対立主義によってこそ真実が発見されるのだという批判もございましたけれども、専門的な争点に関しては、当事者対立主義をかたくなに貫くと、いずれにせよ疑わしい両極端の主張の二者択一になるのみであるということで、改革は断行されたわけであります。
 そこで、次に改革によってもたらされた現行法の内容について御説明申し上げたいと存じます。
 現行法の最大のポイントは、当事者による専門家証人の申請権限を制限し、裁判所の権限を大幅に強めたという点にございます。これによって専門家証人の位置づけというのは、従来の当事者の主張の代弁者というものから裁判所に対する専門的知識の提供者というものに大きくシフトしたということになるわけです。事実、現行法には、専門家証人は当事者よりも裁判所に対して義務を負うということが明記されております。
 このようなシフトが最も色濃く表れているのがジョイント・エキスパート、共同専門家と訳させていただきましたけれども、このジョイント・エキスパートというものでございます。
 それは両当事者がそれぞれ専門家証人を申請するというのではなく、互いに合意できる専門家を一人だけ申請することを要求し、また、合意ができなければ、裁判所が別の方法で一人の専門家を選任するということになります。そういう制度でございます。
 このように、選任された共同専門家が党派性を有せず、客観的な意見を提示することが可能であるということを特徴としているわけでございますから、彼が提出する報告書というのは、拘束力こそありませんけれども、事実認定者たる裁判所に対して一定の重みを持つことになります。
 そこでこの共同専門家の中立性なり透明性なりを担保する制度が要求されるということになるわけでございますけれども、イングランドの現行法は次のような規律を有しております。
 第1は、先述いたしましたとおり、任命に際しては当事者の合意が尊重されるということ。
 第2に、当事者の一方が専門家に対して提供した情報は、相手方に対しても通知しなければならないということ。
 第3に、専門家と裁判所との間のコミュニケーションは原則として文書の形でなすこととして、専門家と裁判所との関係を透明にすること、この3つでございます。
 ところで、イングランドにおきましては、裁判所へ専門知識を導入する際のルートとして、もう一つ、アセッサー、評価員と訳させていただきましたけれども、こういう制度もございます。こちらも必要があるたびに裁判所によってアドホックに選任されるという点では共同専門家と共通しておりますけれども、共同専門家以上に裁判所に対する助言者という性格を色濃く有するという点に特徴がございます。
 共同専門家については、あくまで専門家証人でございますから、当事者による証人尋問の対象にもなるわけですけれども、評価人は裁判所に対して報告書を提出したり、トライアルにおいて裁判官に助言したりするのみでありまして、証人尋問の対象にはなりません。そのため、評価人の中立性審査に関する規律はかなり厳格なものとなっております。
 選任に際しましては、評価人の氏名、評価人に期待される役割、評価人の資格を当事者に対して通知して、当事者による評価人の個人的な適格ないし資格についての異議を受け付ける必要があるとされておりますし、これは明文規定があるわけではないのですけれども、運用上は評価人が一方当事者と直接コンタクトを取ることは望ましくないというふうに理解されているようでございます。
 ただ、イングランドにおきましては、この評価人という制度は余り利用されることはないようでございます。その理由は定かではございませんけれども、歴史的に長い間利用されてこなかった上、機能的に見ても、ほぼ共同専門家によって代替可能になってしまった以上は、余り慣れない評価人を使う理由も存在しないということが主たる理由なのではないかと考えられるところでございます。
 私の方の御説明は以上とさせていただきます。

○大渕研究員 菱田研究員、どうもありがとうございました。
 続きまして、同じイングランドの知的財産法を担当されました茶園研究員、お願いいたします。

【専門家が裁判官をサポートするための訴訟手続への新たな参加制度 〜イングランドの知的財産関連訴訟〜】

○茶園研究員 イングランドの知的財産訴訟に関しまして、御報告させていただきます。 まず、8ページの図を御覧いただきたいのですけれども、裁判組織について御報告させていただきます。
 まず、イングランドの民事第一審裁判所は、右側の高等法院、ハイ・コートと、カウンティ・コートというものがございます。高等法院の中に、知的財産専門の一部門として、パテンツ・コートというものが設立されております。パテンツ・コートの裁判官は、現在のところ5名のようでして、この裁判官は、形式的には技術的な知識を持つということは要件にされてはおらないのですけれども、実際に任命されている者は、すべて、主として特許訴訟の実務に携わっていたことによって、技術に関する知識を持っているということでございます。
 もう一つ、カウンティ・コートにおきましても、知的財産を専門的に取り扱うパテンツ・カウンティ・コートというものが設立されております。このパテンツ・カウンティ・コートの裁判官は、現在1名でして、この裁判官も技術的な知識を持っている者が任命されているのでございます。
 パテンツ・コートとパテンツ・カウンティ・コートというのは、特許事件に関しましては、競合管轄を有しておりまして、当事者がいずれかを選択することができるとされておるわけですけれども、特許庁の決定に対する上訴、アピールはパテンツ・コートだけが取り扱います。侵害訴訟は先ほど申しましたように、パテンツ・コートとパテンツ・カウンティ・コートが競合管轄を持つということになっております。
 専門家の参加に関してですけれども、知的財産訴訟におきまして、専門的知識を導入するために、いろいろな手段がありますけれども、先ほど菱田研究員から専門家証人、また評価人、アセッサーということが説明されたと思いますけれども、知的財産関係訴訟に特有の専門家といたしまして、サイエンティフィック・アドバイザー、科学的補佐人と訳しましたが、サイエンティフィック・アドバイザーと、特許庁というものがございます。これに関しましては、13ページの表を御覧いただきたいと思います。
 科学的補佐人に関しましては、最高法院法70条3項、及び4項において、特許法に基づく手続において裁判所は科学的補佐人を任命することができると規定されております。
 実は、この科学的補佐人というものが実際にどういう職務を持っているのかということには、明確な詳しい規定はございませんで、恐らくイングランドでは、評価人とほぼ同じように取り扱われていると考えられるのでございます。ですから、実際の役割といたしましては、評価人と同じように、報告書を作成する、それからトライアルに出席するということのようでございます。
 評価人と科学的補佐人の違いというのが具体的にどういうところにあるのかというのは、法令の規定上は必ずしも明らかでないのですけれども、唯一はっきりしている違いと申しますのは、報酬に関しまして、評価人につきましては、裁判の手続費用となるに対しまして、科学的補佐人につきましては、国会が提供する金銭から支払われるという違いがございます。
 科学的補佐人が任命された事例と申しますのは、報告書ですと63ページを御覧いただきたいのですけれども、13事件の判決を挙げております。実はこれくらいしかなさそうでございます。
 科学的補佐人は余り用いられてはいないということでございまして、なぜそうなのかということに関しましては、文献等によりますと、科学的補佐人自身は裁判所に対して専門的な技術的知識を提供するものとして、積極的に評価はされているのですけれども、先ほど申しましたように、パテンツ・コートに関しましては、その裁判官というのは、科学的な知識を持っている、そういうバックグラウンドがあるということでございまして、特に科学的補佐人を必要とすることはなく、それゆえに科学的補佐人が実際に任命されることが少ないというように説明されております。
 例は少ないのですけれども、実際に科学的補佐人としてどういう者が任命されているかにつきましては、65ページを御覧いただきますと、文書で書いてあるのでわかりにくいですけれども、真ん中くらいの(3)のところで、例えばカラーテレビに関する特許侵害訴訟でしたら、BBCに勤めていた技術者、あるいは元勤めていた技術者とか、あるいは13事件、貴族院の事件ですけれども、そういうところでは大学の教授、大学で技術を教えている者たちが科学的補佐人として任命されているということでございます。
 この65ページの一番最後の3行のところに書いてあるのですけれども、これは判決文からは必ずしも明らかではないんですけれども、PCME事件というものにおきましては、恐らくは特許庁の審査官が補佐人になったのではないかと思われます。
 科学的補佐人が裁判所に対して補助をするわけですけれども、実際にどういう補助をしているのかというのは、判決文自体からは必ずしも明らかではございません。補助の態様というのは明確に記載されてはいないのですけれども、学説によりますと、補佐人というのは、出廷する以外には実際の手続には関与しないけれども、うちうちに、言わば裁判官に対して、外部から見えないようなところで裁判官に助言を与えたり、また、判決文の中での技術的なことを説明する部分を記載したりするのであって、当事者は、科学的補佐人が実際にどういう補助をしているのかというのは、必ずしもわからないということのようでございます。
 もう一つ、科学的補佐人とは別に、イギリスの特許法では、特許庁が裁判所に対して専門的な知識を提供することができるとする規定が設けられております。これに関しましては、67ページに書いてあるのですけれども、パテンツ・コートなりが特許庁に対して、技術あるいは意見に関する問題について、調査、報告するように命ずることができるという規定がございます。
 ただし、実際にこれが求められた例というものはないようでございます。これを提供するためには、裁判所の規則を定める必要があるわけですけれども、その規則自身もいまだ定められてはいないということでございます。
 これとほぼ同様に、欧州特許条約25条につきましても、裁判所は欧州特許庁に対して意見を求めることができるという規定があるのですけれども、この規定に基づいて実際に欧州特許庁に対してイギリスの国内裁判所が意見を求めたということもないようでございます。
 これで報告を終わらせていただきます。

○大渕研究員 茶園研究員ありがとうございました。
 続きまして、今度はドイツの民事訴訟一般を担当されました杉山研究員、お願いいたします。

【専門家が裁判官をサポートするための訴訟手続への新たな参加制度 〜ドイツの民事訴訟一般〜】

○杉山研究員 それでは、ドイツの民事訴訟において、一般的にどのような形で専門家が利用されているかという点について報告させていただきます。
 一覧につきましては、報告書の15ページの方を、詳細につきましては、69ページ以下の報告書を御覧ください。
 まず、報告書の冒頭にありましたように、ドイツの裁判所は扱う事件に応じて5つの系列に分かれておりまして、この中の職業裁判官以外にも、当該部門に精通している者を名誉職裁判官として参加させる参審制を採用している裁判所もございます。その限りにおきまして、裁判所の専門分化が進んでいると言うことは可能であります。
 しかしなから、通常裁判所のうち、一般の民事事件に関しましては、原則として職業裁判官が裁判をすることとなっており、また、扱う事件が多種多様であるため、専門的な知見を要する訴訟においては、第三者である専門家の判断を得る必要性は高いということがあります。
 本報告におきましては、通常裁判所において民事事件を扱う場合において、専門家がどのように利用されているかについて御説明させていただきます。
 民事事件において専門家の専門知識が必要となった場合におきましては、鑑定という証拠調べが行われます。まず、鑑定の特色について、簡単に御説明させていただきますと、鑑定と言いますのは、第1に、裁判官に対して専門的な経験則を報告すること、第2に、裁判所が示した事実に対して、経験則を適用して、自ら推論を行った結果を示すこと、第3といたしまして、専門的な知識を要する事実調査を自ら行うことを目的として行われます。
 日本法と大きく異なる点は、鑑定を職権で行うことが可能である点でありますが、それ以外の点におきましては、日本法と類似しております。
 例えば鑑定人の任命は裁判所が行いますし、鑑定人には裁判官と同様に中立性が求められ、それが忌避制度によって担保されております。
 また、鑑定意見は裁判所に対する拘束力を有しておらず、裁判所が鑑定意見を自由に評価して、その採否を判断することが可能であります。
 しかしなから、裁判所が高度に専門化した鑑定意見を理解し、その内容を検討することができないという問題は、日本法と同様、ドイツにおいても生じているようであります。 なお付言いたしますと、1990年の司法簡素化法によって、詳細な手続規定が置かれております。詳細につきましては、報告書を御参照いただければ幸いでありますが、例えば鑑定事項の決定場面などにおいて、裁判所と鑑定人が緊密に意見交換をすることなどが求められ、手続を通して裁判官と鑑定人が協力をすることが促されております。他方で、当事者に対しても、裁判所と鑑定人の意見交換の内容を知る機会を与えたり、あるいは鑑定作業に当事者が立会権を有することを確認するなどして、手続の透明性を強化していると言うことが可能であります。
 以上を前提といたしまして、鑑定の特色を再び確認するとともに、それ以外の例外的な制度について、説明させていただきます。
 第1に、鑑定は証拠調べの方法でありますが、それを行う時期につきましては、期日の準備段階においても行うことが可能でありますし、また、訴訟の係属前におきましても、独立的証拠調べという形で行うことが可能であります。
 また、鑑定人は証拠方法でありますが、日本法の裁判所調査官あるいは専門委員のような、助言者的な立場で専門家を利用する制度は、ドイツでは用意されておりません。
 今日におきましては、鑑定手続よりも、より簡単な方法によって専門家の知識を導入する必要性、及び裁判所による鑑定意見の理解を補助する必要性から、このような助言者としての専門家を利用することを提唱する論者がありますが、実現はされておりません。
 その理由はさまざまでありますが、専門家が裁判所に対して専門知識を提供する過程、具体的には専門家の中立性や専門知識の妥当性などの問題が当事者から見て不透明であることが最大の理由であると言うことが可能であります。
 第2点目といたしまして、鑑定人は自然人であることが前提とされております。日本法におきましては、鑑定嘱託という制度が用意されておりますが、これに対応する規定はドイツの民事訴訟法には存在しておりません。しかしながら、官公庁を含め公的な団体に対して鑑定義務を課す特別規定が存在していること、及びこれらの団体による鑑定には、中立性、あるいは専門性の点において高い信憑性があるという観点から、解釈上、これらの団体に鑑定を委ねることは認められております。
 第3点目といたしまして、鑑定は証拠調べの方法ではありますが、職権で行うことができ、また、裁判官自身が鑑定人を任命することから、裁判所が主導となって専門家の知識を入手する方法であると評価でき、鑑定人は裁判官の補助者であると言うことが可能であります。
 もちろん、当事者も自ら専門家に鑑定を委託し、その結果を裁判所に提出することが可能であります。これを私鑑定と言いますが、私鑑定は一方当事者の委託に基づいて作成されるため、中立性が欠けるという点で大きな問題を有しております。そのため、裁判所の鑑定と同じような評価を受けておらず、最近の裁判例や学説を見ますと、私鑑定は当事者の主張の1つにすぎないとして、裁判所の鑑定意見の信憑性を覆して、裁判所が第二鑑定を行うきっかけにはなるものの、裁判所の鑑定意見と私鑑定が並存している場合において、私鑑定をそのまま採用して判決の基礎とすることに対しては否定的な姿勢が示されております。
 要するに、原則として、当事者主導で専門知識を導入する英米法とは逆に、ドイツ法、これは大陸法では一般的にそうなのでありますが、ドイツ法におきましては、裁判所が主導となって専門家の知識を入手していると言うことができ、当事者の役割は、それを限定、監督することにあると言うことが可能であります。
 最後に、報告の冒頭でも触れました参審制につきまして、若干補足させていただきたいと思います。
 参審制が採用された目的はさまざまでありますが、広い意味での専門家の専門知識を導入することを目的とした制度もございます。例えば一般の民事事件におきましては、商事部において商人の専門知識を利用することを目的として参審制が採用されております。しかしながら、その実情を見てみますと、実際には商事裁判官が紛争解決に必要な専門知識を有していない場合が多く、また、商工会議所の鑑定人リストのようなものが存在しており、容易に鑑定人を入手することが可能であることも影響して、実際には、商事裁判官の専門知識を利用するというよりは、鑑定を行って第三者である専門家の知識を利用しているようであります。
 最後に、先にも述べました鑑定意見の理解を裁判所がすることができないという問題などを解決するために、既存の制度以外にも、専門家を名誉職裁判官として裁判体に参加させる専門参審制を導入することも立法論として主張されてきております。
 しかしながら、専門助言者に対する批判と同様に、専門家が裁判官に対して専門知識を提供する過程が不透明となり、提供した専門知識の妥当性について、当事者が監督することができないという理由により、否定的な見方も少なくありません。
 以上でございます。

【専門家が裁判官をサポートするための訴訟手続への新たな参加制度 〜ドイツの知的財産関連訴訟〜】

○大渕研究員 杉山研究員どうもありがとうございました。
 続きまして、ドイツとEU関係の知的財産法を担当いたしました私の方から御報告したいと思います。
 EUは、いわゆる超国家的な存在でありまして、ドイツ、アメリカ、イギリス等の国の場合とは、大きく異なるところがあります。また、ドイツ、アメリカ、イギリス等は、いずれも裁判制度につきまして長い歴史を持っているのですが、EU関係の制度は、今、制度ができつつあるというか、動きつつある状態でありますので、EUの方は説明がしにくい面もあります。したがって、ドイツについては専門家の参加ということで最初の専門家参加のところでペーパーをまとめてあるのに対して、EUの関係は、一番最後の侵害と無効の関係のところで、まとめて専門家の参加の点と、侵害と無効の関係を併せて論じております。報告書といたしましては、前半のドイツの専門家の参加の関係が本日の報告書の82ページ以下、88ページまでありまして、それからEUの関係は、最後の234 ページ以下という構成になっております。このようになっておりますのは、こういう形にした方が書きやすく、かつ読みやすいという観点からこうなっているのですが、口頭の説明ではまとめて、専門家の参加ということでドイツの点とEUの点を御説明した方がわかりやすいかと思いますので、そういう形でさせていただきます。その関係で、それぞれ10分ずつ時間をいただいているのですが、前半の方にEUの関係を移すこともありまして、若干、前半の方を長くさせていただいて、後半の方を短めにしたいと思っております。
 それでは、早速本題に入らせていただきます。先ほど申し上げました報告書の82ページ以下を御覧ください。
 この報告書では、知的財産関係訴訟ということですが、特許関係を中心といたしまして、87ページ以下にその他の実用新案、意匠、商標等も説明してありますが、こちらの方は付随的なものでありますので説明は省略いたします。
 早速82ページの特許関係に入りたいと思いますが、まず「(1)序」という辺りは、先ほど杉山研究員から御説明があった一般的な制度に関わっているところですので、時間の関係もありまして、説明を省略させていただいて、83ページの、「(2)侵害訴訟」、「(3)無効手続、抗告手続」という辺りに入らせていただきます。
 ここでは文章で書いてありますが、9ページにあります図表を御覧いただいた方が説明がしやすいのではないかと思いますので、本文と図表を一遍に見るのは難しいかもしれませんが、両方御覧になりながらお聞きいただければと思います。
 まず、図表の方を御覧いただきますと、ドイツの制度というのは、このように非常に複雑な形になっております。
 一番上にあるのが連邦通常最高裁判所であります。これが、BGHと呼ばれているものであり、審級的には各手続の一番最後にくるものです。このBGHを中心に御覧いただきますと、大きく分けますと、左側の系統と右側の系統に分かれます。左側の系統というのは、侵害訴訟の系統でありまして、第一審が地方裁判所、控訴審が上級地方裁判所、それから上告審が連邦通常最高裁判所になるという、通常の民事訴訟の形になっております。
 これに対して、右側の系統の方が少しわかりにくいのですけれども、細かいところを省いて、この表に沿って説明いたします。まず、特許庁があります。ドイツ特許商標庁というのが正式名称ですが、特許法上は特許庁と呼ばれていますので、以下、特許庁と呼ばせていただきます。この特許庁での出願拒絶決定、あるいは異議申立ての決定に対する不服申立てとしての抗告が上がってくるのが、この連邦特許裁判所と書いてあるところの左側の、抗告部というところであります。そして、この抗告部での決定に対する法律抗告が、BGHに上がってくるということであります。
 これが右側の系統の左側にあります抗告部の手続の関係であります。これに対して、今度はその右側に、連邦特許裁判所の無効部というのがあります。こちらの方はわかりやすく言うと、我が国の無効審判にほぼ対応する機能だと思いますが、特許無効を扱うところであります。この無効手続においては、連邦特許裁判所が第一審で、連邦通常最高裁判所が第二審(控訴審)という審級関係になっています。
 このように、連邦通常最高裁判所は、特許関係におきましては3つの使命を有しております。まず通常の、左側の系統にありますような侵害訴訟における上告審、それから右側の系統の左側というか、この表で言うと真ん中辺りにある抗告部の手続における法律抗告審であります。法律抗告というのは、文字どおり法律問題だけを理由とする抗告でありまして、それも上がってくる。上告審も法律抗告審も、いわゆる法律審でありまして、法律問題のみを扱うというのが原則であります。また、連邦通常最高裁判所は、無効手続における控訴審でもあります。
 若干わかりにくいのですが、無効手続では連邦特許裁判所が第一審ですが、無効手続において最高裁の右に控訴審と書いてあるのは、何で上告ではなくて控訴審だと思われる方が多いのではないかと思います。その疑問はまさしく正当でありまして、これは文字どおり、ドイツの裁判制度の中でも例外的なのですが、最高裁が控訴を扱っているのです。普通は最高裁というのは法律問題しか扱わないのに、この連邦通常最高裁判所における無効手続におきましては、控訴審として最高裁なのに事実問題も扱うという特殊な制度になっています。
 以上の説明が、報告書本文の83ページから84ページの(b)という辺りまでの説明に対応するものであります。これに関連いたしまして、84ページの真ん中辺りに(b)と書いてあるところが歴史的経緯で、これは話し出すと非常に長くなってしまいますので、できるだけ圧縮した結果、ここにあるような形になっているわけです。連邦特許裁判所という特殊な制度については、特別な歴史的背景があるという話が84ページ付近のところに書いてあります。
 この9ページの図にありますのは、現行制度、すなわち、1961年に制度改正があった後の制度でありますが、その1961年の制度改正前には、この抗告部と無効部というのが、連邦特許裁判所ではなくして、特許庁の中にありました。
 そして、1961年の改正前の制度では、これは戦前から引き継いだ制度ですけれども、特許庁の出願拒絶決定その他の決定に対する不服申立てについては、特許庁抗告部が、この報告書にありますとおり、最終審でありました。しかるに、戦後はボン基本法の関係で、公権力による権利の侵害に対する裁判所の不服申立てを保障するという規定として、ボン基本法−−これは憲法に相当するわけですが−−19条4項というのがありまして、その関係で問題になりました。当時は特許庁の中にある抗告部と無効部というのは、実質的には裁判所的な存在なので、その関係でボン基本法19条4項の点はクリアーされる。すなわち、最終的に抗告部が裁判所であれば19条4項の点はクリアーされるという前提の下に、先ほどのような特許庁の抗告部が最終審という制度となっていたわけであります。これに対して、連邦行政最高裁判所の1959年の判決では、ドイツ特許庁はボン基本法における裁判所には当たらず、この抗告部の決定は、裁判ではなく、行政行為であって、行政裁判所によって取り消し得るとされたわけであります。
 そして、この判決のとおりであれば、抗告部の決定に対しては、行政裁判所の地裁、高裁、最高裁というふうに審級が更に上に3つ重なるという問題などがあったことから、結局、1961年にそのボン基本法の改正、−−これは連邦裁判所をつくるためにはボン基本法を改正しなければいけないから、その改正が必要だったのですが、−−それも伴った上で、連邦特許裁判所という新たな連邦裁判所を創設しまして、そこに従前は特許庁にあった抗告部と無効部を移管したという形になっているわけです。
 我々には耳慣れない以上のような制度にはこういう歴史的背景があったということを念頭に置く必要があります。
 以上で、84ページから85ページのところは説明を終わりまして、それから85ページの専門家の参加のところに入りたいと思います。
 まず、侵害訴訟におきましては、85ページの2.(1)にありますとおり、職業裁判官のみによって審理判断されまして、名誉職裁判官の関与はありませんし、それから先ほどの連邦特許裁判所の抗告部や無効部のような、技術系構成員の関与もありません。その上、我が国における工業所有権関係の裁判所調査官制度のような専門的補助職の制度もないということであります。
 では、専門的知見の補充が必要とされるときにはどうするのかというと、民事訴訟法上の鑑定という制度が用いられるわけでありまして、この点では他の民事訴訟の場合とは特に異なるわけではありません。
 この侵害訴訟において鑑定が用いられる頻度というのは、裁判体によってかなり違いがあるようであります。なお、ドイツにおいて、若干の管轄集中がなされている点は、時間の関係で省略いたします。
 今のが侵害訴訟でありまして、次に無効手続、抗告手続に入りたいと思います。ここにおける専門家の参加、専門性の確保等について、御説明いたします。86ページの(2)の「(a)無効手続」でありますが、ここについては、先ほど説明しましたように、無効手続は第一審が連邦特許裁判所無効部でありまして、そこでは2名の法律系構成員と3名の技術系構成員の双方から成る合議体によって審理、判断がなされます。法律系構成員のうちの1名が裁判長となります。
 法律系構成員はどういう人がなるのかという話につきましては、そこに書いてありますとおり、ドイツ裁判官法による裁判官職の資格を有する者が裁判官になるというのが法律系構成員です。
 他方技術系構成員はどうかというのは、ここに書いてあるとおりで、ちょっと長いですが、技術分野において専門知識を有する者でなければならず、国家又は大学の最終試験に合格した者でなければならないことを条件として、特許法26条2項が準用されると書いてあるように、このような技術系の人が技術系構成員になるということであります。
 以上が無効手続の第1審の連邦特許裁判所の話であります。同じ無効手続でも、第2審の最高裁(連邦通常最高裁判所)の方はどうかということになりますと、これは最高裁が無効手続の控訴審をになっており、通常の控訴審と同じであります。特徴的なのは、普通は最高裁は法律審なのに、ここでは事実審である控訴審であるということで、実際問題として、新たな無効事由が提出されたり、新たな事実・証拠が提出されることも稀ではないとされています。
 ただ、それにもかかわらず、ここでも、我が国におけるような工業所有権関係の裁判所調査官制度のような専門的な補助制度はなくて、専門的知見の補充の必要が認められる場合には、民事訴訟上の鑑定が用いられるにとどまるということになっています。
 以上が無効手続でありまして、その次の「(b)抗告手続」に入りますと、これは複雑でいろいろ場合がありますけれども、一部法律系構成員のみで合議体が組まれるものがありますが、それ以外の場合には、法律系構成員と技術系構成員の双方によって成る合議体によって審理判断されております。

【専門家が裁判官をサポートするための訴訟手続への新たな参加制度 〜EUの知的財産関連訴訟〜】

○大渕研究員 駆け足でありますが、以上が前半のドイツ関係であります。次に報告書の234 ページ以下を御覧いただきたいと思いますが、ここがまた欧州法でわかりにくい面があります。できるだけわかりやすく御説明したいと思います。条約から話が始まっているのですが、今ではEU関係の法令が重要性を増しておりますので、そういう関係もあって、条約に限定されないという趣旨で、欧州法ということにしております。以下、順を追って説明させていただきます。
 まず、現行制度というか、発効している制度といたしまして重要なのは、皆様、聞かれたことがある方も多いかと思いますが、欧州特許条約という条約です。これは1973年にミュンヘンで署名された条約であります。
 この条約によって欧州特許という特許が付与されます。これはどういうものかというと、指定国を幾つか指定すると、欧州特許が付与された場合、それらの指定国の国内特許の「束」となるという制度であります。基本的には欧州特許条約自体は欧州特許の付与までを対象としております。
 したがいまして、付与後の欧州特許の行使や無効等については、原則として対象外であって、加盟国国内法に委ねられております。そのためもあって、注58にありますとおり、正式名称も欧州特許の付与に関する条約となっております。
 この例外として異議などがありますが、そういう例外を除くと、付与までを対象にしております。
 欧州特許というのは、加盟国国内特許法に基づく国内特許と並存し得るものであります。欧州特許庁内でも抗告という不服申立てがありますが、その関係が235 ページの3.の直前くらいに書いてあるところです。細かいところはお読みいただくことにして、技術系構成員が加わる合議体によるものと、法律系構成員だけの合議体による場合とがありますが、このような構成で、抗告について審理判断しております。
 以上が欧州特許です。先ほど申し上げましたとおり、欧州特許条約というのは付与までを対象とするのが原則です。侵害訴訟ないし特許権行使や無効等については、共同体特許条約という条約が対象にしておりますが、これは、未発効であって、発効の見通しは立っておりません。
 共同体特許に関して重要なのは、ここにありますとおり、単一で共通の共同体特許、すなわち共同体域内全域で効力を有するような共同体特許を生ずるという点でありまして、この点で欧州特許とは大きく異なっております。
 この共同体特許条約自体は発効の見通しは立っていないのですが、共同体特許につきましては、そのニーズはありまして、その後も、235 ページの4.(1)のところにありますとおり、共同体特許制度それ自体としても議論されていますし、あるいは先ほどの欧州特許の訴訟議定書−−あるいは最近は議定書ではなく協定と呼ばれているようですけれども−−そういうような形で、共同体特許裁判制度、ないしはそれに近いようなものの実現の努力がなされてきております。
 その中で大きな動きといたしましては、236 ページにありますとおり、2003年3月3日に欧州連合の理事会で共同体特許についての基本的な政治的合意に達したとされている点があります。この合意につきましては、共同体特許のための裁判制度だけではなく、言語その他のいろいろな点が含まれているのですが、本研究会で関係のあります裁判制度につきましては、237 ページ以下にあるような骨子となっております。
 @のところに、基本的な原則が掲げられておりまして、Aのところに、司法裁判所の管轄権が書いてありますが、重要なのは無効又は侵害に係る訴えということが挙げられていることです。そのほかに、無効の反訴とか、制限(減縮)とかいろいろありますが、そこは御覧いただければと思います。
 それから、次に238 ページのBで合議体について、いろいろ細かいことが書いてありまして、それからCが裁判官関係のことについて書いてありますけれども、時間も押してきたので重要な点に絞りますと、裁判官の候補者は、特許法についての高度の法的な専門的知見を有する者でなければならないというのがパラグラフの1.5 にありまして、その上で、パラグラフ1.6では、「事件の処理の全過程を通じて、技術的専門家が裁判官を補助する」という形になっております。
 D、Eはお読みいただければと思います。
 239 ページに入りまして、(2)は、3月3日の合意の前の作業文書の関係ですので、説明は省略いたします。(3)は、先ほど、共同体特許自身ではなくて、欧州特許の訴訟議定書ないし協定の動きもあるという話をした関係ですが、その1つとして、2002年の11月に訴訟ワーキング・パーティーというところで示された協定草案が239 ページから240 ページにあります。ここでのポイントとしては、@とAとがありまして、@では侵害訴訟と取消しの反訴につき、管轄権を有するということを言っておりまして、それから、Aでは欧州特許裁判所では法律系と技術系の裁判官から成るというようなものになっておりました。
 ちなみに、この11月の草案の後、240 ページの注88にありますとおり、2003年4月24日には、修正案も出ているようであります。
 以上、御説明したところが欧州関係の裁判制度の概略ですけれども、先ほども申し上げましたとおり、もともとが欧州特許庁という超国家的な特許庁によって付与された特許についての共同体特許裁判所ないしは欧州特許裁判所という、これまた超国家的な裁判所による裁判制度の構想でありまして、国内特許庁である日本国特許庁によって付与された国内特許についての、国内裁判所である日本国裁判所による訴訟とは、そもそも、国内法的制度と超国家的な制度ということで様相を異にしておりますので、この点は御注意いただければと思います。
 ドイツ法関係と欧州法関係については、とりあえず以上であります。

 それでは、以上で、最初の部分である各国裁判制度とそれから専門家の点についての報告が一応終わりました。それでは質疑応答に移りたいと思いますが、ここからは伊藤座長お願いいたします。

【専門家が裁判官をサポートするための訴訟手続への新たな参加制度 〜質疑応答〜】

○伊藤座長 大渕研究員、ありがとうございました。
 それでは、今のそれぞれの御報告についての質疑応答に移りたいと思います。どなたからでも、あるいはどの部分からでも結構でございますので、どうぞ御発言をお願いいたします。

○櫻井委員 大変勉強になりましたけれども、外国法というのは難しくて、付け焼き刃で勉強してもよくわからないし、突っ込んで勉強するとますますわからないというところがあろうかと思うのですけれども、少し質問させていただきたいと思います。
 まず、質問と言うかコメントとしましては、アメリカのCAFCに関しては、排他性の問題であるとか、専門性の問題というのが、これはかなりここで議論をされているので、スローガンとして言われているよりは、ずっと限定的なものであるという御指摘だったかと思いますが、有益な御指摘だったのではないかと思っております。
 それから、ドイツの職業裁判官と参審制の話で、これは事前に御質問を出させていただきましたが、名誉職裁判官のお話もございましたが、これも少しスローガンとして言われ過ぎているところがあって、ドイツの文脈を必ずしも正しく捉えていないのではないかというのが私の印象でございます。
 全般的な質問としましては、各国をなぜ取り上げたかということを教えていただきたいということであります。
 特にEUの話などが出てきますと、どうしてフランスの話がほとんどないのかというのが気になるところであります。
 アメリカは何で取り上げるかというのは大体わかるし、ドイツも法律家からすると非常にわかりやすいですし、我が国との関連性も非常に強いということはわかるのですけれども、イギリスをなぜ取り上げるのだろうかというのが余りよくわからないので、教えていただきたいということでございます。

○伊藤座長 それでは、一般的なことだけ私が申しまして、具体的なことは大渕さんをはじめほかの方にと思います。
 どの国ということにつきましては、これは中山さんとも御相談をしたのですけれども、知的財産関係の訴訟についての研究をする上で、言わば定評があるという国ということで一応決めさせていただきました。国際競争力を高める知的財産訴訟制度の設計という観点から見たときということでございますが、それはあくまで一般論でありまして、今の櫻井委員の御質問はもうちょっと具体的なことですので、フランスとかそういったことについて、もし大渕さんから何か御説明いただければ幸いです。

○大渕研究員 一般論は先ほど伊藤座長からあったとおりでありますが、具体的な点を付け加えさせていただきます。まず、何ゆえフランスを取り上げていないかという点です。本研究会のテーマとしては、特許関係が中心になっております。そして、特許関係としては、フランスは余り比較法研究の対象国にされていないことが多いのです。その最大の理由というのは、特許法の基本原則の1つに審査主義と無審査主義というのがあって、特許付与に当たって実体審査を行った上で付与するか、実体審査を経ずに付与するかというところで大きく違っておりますが、フランスは特殊な制度を採っておりまして、基本的には無審査主義なのです。したがって、この点で、フランスは、比較法研究の対象としては、特に本研究会のテーマのような手続関係では、あまり適切とは言い難い面があります。そのために、フランスは落ちているものと思います。
 それから、EUの関係は、先ほど申し上げたとおり、もともとが国内制度ではない超国家的なものなので、それは国内の制度設計の上では単純に比較できないというのは、まさしくそのとおりなのですが、この点を十分に念頭に置いた上であれば、欧州レヴェルでは影響も大きいために、これも合わせて検討会での検討の前提資料として参考となり得るのではないかということで、これも含めているのだと思います。

○櫻井委員 行政法の世界ですと、本当にドイツ対フランスで文化の衝突みたいになっていまして、連戦連敗でドイツは負けています。フランス型の制度が生きているのですけれども、知財の世界だと基本的にドイツ的な発想で、一元的にできつつあるという理解でよろしいでしょうか。

○中山委員 先ほどの理由で、無審査主義が世界で主流ではなくなった。知財の学者でもほとんどフランスに留学する人はいない。フランスに対する研究も、この問題に限らず、知財一般についていないということで、行政法、民法とはかなり違っています。

○櫻井委員 そうすると、フランスの国内法がどういうふうに今後変わっていくのかというのは非常に興味がある素材ではあるということなんでしょうか。

○中山委員 それは恐らく、フランスが変わるというよりも、ヨーロッパが変わってくるから。

○櫻井委員 そちらにいくと。

○中山委員 そうです。

○櫻井委員 どうもありがとうございました。

○菱田研究員 イングランドをなぜ取り上げたかという点ですけれども、民事訴訟法の研究者として申し上げるならば、イングランドというのは英米法ということで、アメリカと起源を同じくしているわけですが、ヨーロッパ大陸の近くにございますので、かなりアメリカとは違った制度設計と言いますか、アメリカとヨーロッパ法の中間くらいの位置にあるような制度設計になっておりまして、それで同様にアメリカとヨーロッパの影響を強く受けております日本といたしましても、いきなりアメリカを見るよりは、イングランドを見た方が具体的な制度設計としては参考になるということは非常に多いのではないかというふうに考えております。

○大渕研究員 付け加えますと、イギリスが何ゆえに対象になっているかという点につきましては、特許の世界ではイギリスというのは非常に重要な国でありまして、制度としてももちろん審査主義を取っておりまして、そういう点から特許法ないしは特許訴訟の研究としては非常に重要な国という関係で入っているのだと思います。

○櫻井委員 どうもありがとうございました。

○阿部委員 アメリカのケースですけれども、巡回控訴裁判所というのと、連邦巡回控訴裁判所というのと2つあるのですけれども、両方とも侵害訴訟を受け付けるのですか。

○平嶋研究員 これは前提となっている事件によるというところがあるのです。先ほど言いましたように特許中心の、そのほかもいろいろございますが、特許の侵害訴訟の控訴審レベルについてはCAFCで、CAFCのみで扱うという形になります。ただ、著作権につきましては、CAFC以外の巡回控訴裁判所でも扱うという形になります。特許につきましては、CAFCという形の、侵害訴訟の地裁から上がってくる控訴審レベルはCAFCで審議するという形になります。その点、著作権と特許では違う。知的財産権でも管轄が必ずしも同じということではないということがあるかと思います。

○阿部委員 著作権の方は巡回控訴裁判所でも事実審はあるのですか。

○平嶋研究員 著作権の方は、控訴審レベルということですが、控訴審は原則は法律審という形になると思うんですけれども、控訴審レベルで事実認定という問題で、場合によっては事実認定についての再審理という形で扱う場合もあり得ますが、基本的には法律審ということではあると思うんですけれども。

○阿部委員 CAFCの方は法律審という御説明ですね。

○平嶋研究員 原則は控訴審レベルということですので、同じ世界の法律審ということです。

○阿部委員 両方とも原則として法律審ということなんですか。

○平嶋研究員 はい。

○阿部委員 日本だと高等裁判所でも事実審がありますね。そこがアメリカは違うということなんですか。実際、裁判の中でこれが事実審なのか法律審なのかよくわからないところがあって、かなり我々の感じだとCAFCでも事実に関していろいろやってもらっているような気がしているのですけれども、どういう感覚で法律審、事実審というのが分けられているのか。技術のレビューはやるのですよね。

○平嶋研究員 レビューはやるという形になると思うのです。ただ、審理する問題が事実問題か法律問題かという切り分けの問題というのが確かにあると思うのです。それで例えば特許のクレーム解釈のような問題についても、具体的に言うとこれは事実問題なのか法律問題なのかということで、もともと議論があって、クレーム解釈のような問題も、これは考えようによっては事実認定の問題ではないかというとらえ方も可能という側面もあるかもしれないんですけれども、これについては基本的に法律問題であるという前提で、法律問題であるという判断に至った形になりましたので、それで控訴審レベルという形で、いわゆる法律問題として扱うという形になっているわけですので、クレーム解釈については、CAFCでもやるということです。これは一見事実問題じゃないかととらえられると、これは事実問題を控訴審で扱っているのではないかというふうに一見印象として受けてしまうという場合ももちろん、あるのではないかと思うんですけれども。

○阿部委員 技術裁判官というのは、日本で考えた場合に、どういう位置づけでもって置くべきかというのを考えるよすがに、何かヒントがあるのかなということでいろいろ聞いているんですけれども。日本の高等裁判所と実質的には余り差はないという感じなんでしょうか。

○近藤参事官 日本の場合に事実審と言った場合に、証拠として書証を新たに提出したり、証人尋問したりというのは、当然事実審ですから、やるわけですけれども、このCAFCだとか巡回控訴裁判所で、新たな書証の提出とか、事実認定のための新たな証拠を提出するというようなことはあり得るのでしょうか。

○大渕研究員 まず先ほどの御質問に関連して、法律問題か、事実問題かというのが平嶋委員の方から出ていましたけれども、その切り分け自体の基本的概念が日本とアメリカと違っていまして、そういう意味で同じ用語を使って議論が齟齬しないかという問題があります。そして、いみじくも今、新証拠提出の点が出ましたけれども、その点から言うと、事実審か法律審かとして切るよりも、アメリカ法を正しく理解するのでしたら、トライアルのレヴェルかアピールのレヴェル(appellate level)かというところで切れているのが基本的な仕切りであります。つまり、日本だと地裁と高裁が事実審で最高裁が法律審という切れ方になっているのに対して、アメリカの場合には、基本的には地裁がトライアルのレヴェルで、Court of AppealsとSupreme Courtがアピールのレヴェルということで、切れておりまして、基本的にはアピールのレヴェルでは新証拠は出せないというのが大原則です。この意味では、トライアル・レヴェルでやった事実認定がいいかどうかをレヴューすることはできても、新しい証拠等の提出を認めて、もう一回事実認定をやり直すという形ではできません。そういう意味では法律審、事実審という言葉で描写しても、そもそも制度の組み方が基本的に違っておりますので、注意が必要です。

○阿部委員 事実を議論しないということではないわけですね。

○飯村委員 アメリカのCAFCが扱っている事件の種類ですけれども、36ページに関連して、専属的に管轄を持っているものが特許事件とか、ITCの再審理とか、国際特許裁判所の控訴事件「等々」が排他的管轄を有しているということで、それ以外の事件というのは、例えばどういうものなのか。
 それから、排他的管轄でなく扱っているようなものがあるのかどうかという点についてお伺いしたいですけれども。

○平嶋研究員 これはその他ということについては、34ページの方で、さっきも触れたかもしれませんが、これは立法上の経緯ということなんですけれども、このほかのものとしては、ここにちょっと挙げましたけれども、更に細かなものがありますけれども、農務省、商務省等の行政組織における、ある種の行政処分のようなものになるかと思うんですけれども、そういったものについての再審理の管轄等、こういったものもCAFCの方で、言わば排他的に管轄権を持っているという形になっているかと思います。
 あとはもう一つについては、一般的なCAFCがその他の管轄も持っているかどうかという、排他的でない部分を持っているかどうかという御質問だったと思うんですけれども、基本的にCAFCというのは、設立の経緯という点からしても、2つのもともと違う裁判所があったということで、クレーム裁判所と言われるものと、関税特許裁判所と言われるもの、この2つを併合する形でつくったという経緯がありますので、基本的にはこれらの管轄をそのまま引き継ぐという形、成立の経緯の方から御説明した方がよかったかもしれませんが、そういった従来もともとあった裁判所で扱っていたものについての管轄を有するということでありますので、ほかの連邦控訴裁判所の扱っている排他的でないという、その他も管轄を持っているものについては、基本的には、ほかの巡回区で扱うと。あくまで特別なカテゴリーの事件についての専属管轄を有するものとしてCAFCが位置づけられているということが言えるかと思います。

○飯村委員 立法過程、制度をつくる過程で、裁判官がゼネラリストであるべきだというような観点から、特別な種類の事件だけを扱うのではなく、ほかの事件をまぜるとか、そういう考慮というのはあったのでしょうか。

○平嶋研究員 ゼネラリストという意味では、恐らく全体の基となっている裁判所の扱っている事件全体で、特に知的財産だけを扱うということではなくて、ほかの事件についても扱うという意味での判断はあったと思うのですけれども、それ以外の他の巡回区の控訴裁判所で扱っている事件もまぜるということは、どうも結論としてはCAFCの設立に際しては、その点は含まれなかったということだと思うのです。あくまで基本となっている裁判所がある程度特別な事件を扱っていたものという位置づけにあるかと思うので、いわゆる通常事件、他の巡回区での控訴裁判所の事件も含めるということにはならなかった。構成上はなっていないということかと思います。

○近藤参事官 今の追加ですが、たしかここでは違う種類の事件ということで、退役軍人の年金に関する事件などもCAFCで扱っている。

○平嶋研究員 非常にマイナーな事件も扱っていますけれども、条文上、年金とか、商務省、農務省の特別な行政処分を扱うということですね。

○加藤委員 1点だけ確認の質問で、大したことではございませんけれども、イングランドのコートの仕組みの中で、パテンツ・カウンティ・コートは、ハイ・コートとの間で競合管轄があるということですけれども、私の理解では、パテンツ・カウンティ・コートは利用度が余り高くないという認識ですけれども、現状でもそういう認識でよろしいですか。もし、そうならば、実務的なハイ・コートの仕組みの方を見ておいた方がいいという点からの質問でございます。

○茶園研究員 パテンツ・カウンティ・コートが設立された経緯が、高等法院での手続が非常に時間がかかり、費用がかかる、もっと安価で迅速に審理してくれる裁判所が必要だと、とりわけ中小企業にとって必要だろうということで、パテンツ・カウンティ・コートができたのですけれども、その趣旨がどれくらい実現しているかということですけれども、一般は大成功というわけではなさそうでして、それは1つは、恐らくパテンツ・カウンティ・コートができた当時というのは、パテンツ・コートと差が非常に大きかったと思うのですけれども、それが大きかったがゆえにパテンツ・カウンティ・コートを設立する意味があったわけですけれども、その後、ハイ・コート、高等法院の方も手続の改革を行いまして、差がそれほど大きくなくなってきた。今でもカウンティ・コートの方が安いということがあると思いますけれども、それほど数が多いというわけではなさそうです。失敗ではないでしょうけれども、大成功とまではいえないように思われます。

○加藤委員 失敗か成功かは別として、利用度の問題として現実性は低いという認識でよろしいということでいいですか。

○茶園研究員 先ほどの失敗、成功というのは、予想されたものとの関係ということです。数はちょっとわからないです。おっしゃっているのは数ですね。

○加藤委員 というのは、我々としては、余り利用度が高くないのであれば、パテンツ・カウンティ・コートの仕組みを見ても余り参考にはならなくて、リファーするならば、イングランドについてはハイ・コートを見ていればいいのではないかという点からも質問させていただいているところですが。

○茶園研究員 現在のところ、手続は余り違いはなくて、取りわけ重要な違いと言いますのは、パテンツ・コートでしたら代理人は弁護士ですけれども、パテンツ・カウンティ・コートであれば弁理士も代理人となれるという違いはまだ残っております。

○沢山委員 2つ質問があるのですが、まず37ページのアメリカの訴訟制度についての説明で、CAFCで、自然科学系のバッググラウンドを有する判事が多いとか、多様なバックグラウンドを有する判事が多いという記載があるのですが、これはアメリカのロースクールに来る者のバックグラウンドが多様だということを言っているにすぎず、CAFC特有の特徴ではないですね。

○平嶋研究員 はい。これはそういうことです。

○沢山委員 だから、州裁判所だって、どこだって、ある断面でとらえたら、日本と比べたらみんなこういう状況になっているという理解でいいですね。

○平嶋研究員 恐らくアメリカの司法制度そのものの特徴から出ているということです。

○沢山委員 もう一つは、イギリスの今のハイ・コートの、59ページのところで、非常に高度な科学的学識を備えて、技術的に相当な経験を有するというのは、要するに経験が長くて、判事としていろんな事件を取り扱う過程で身に付けられたということを言っているだけのことですね。当初からこういう素養のある人を選んでという配慮は働いていないわけでしょう。

○茶園研究員 実は今、先生がおっしゃった両方があると思うのですけれども、後のことと言いますのは、パテンツ・コートに裁判官を任命するのは、これは文献上は明確に書いていないですけれども、それは特許事件をずっと取り扱った弁護士なりの集団、パテント・バーというものが。

○沢山委員 母集団があるんですか。

○茶園研究員 確立した組織というものではないと思うのですけれども、そういう中から選びますので、ですから、選ぶ対象というのが、ずっと特許事件に携わっていた弁護士であり、実務経験から技術的な知識を得ているということです。

○沢山委員 わかりました。

○近藤参事官 今の関係で補足ですけれども、裁判官制度というのはキャリア・システムと、それから、法曹一元という対立的なものがあって、イギリスやアメリカなどはまず、バーに受かってから弁護士になって、弁護士から、特にイギリスなどだと、この弁護士は非常に優秀だというように裁判所とか、いろんなロード・チャンセラー・デパートメントいろいろインタビューをするらしいのですけれども、そういうことを収集して、その人を裁判官にしていく。まず弁護士になってから裁判官になるという形なのです。
 日本の場合は、司法試験を通ってから、裁判官になるか検察官になるか弁護士になるかということをそこで選んでいく。基本的なシステムが全然違うということです。

○沢山委員 アメリカでも最優秀なロースクールの学生は、ロークラークというところにいきますね。調査官みたいなところにね。

○近藤参事官 ロークラークへ行っても、でも、通常はそこからまた弁護士活動をして、それから検事になったりという形です。

○伊藤座長 それでは、また、関連する御質問もあるかと思いますが、一応時間の関係がありますので、次の論点に移りたいと思いますので、大渕さん、どうぞよろしくお願いいたします。

【侵害行為の立証の容易化のための方策】

○大渕研究員 それでは、次に各国の証拠収集手続と秘密保護につきまして、アメリカ、イングランド、ドイツ、フランス、ベルギーに関する研究結果の報告を行います。説明時間は先ほどと同じように各国10分程度、全体で40分程度を予定しております。
 それでは、まず最初にアメリカとイングランドを担当されました菱田研究員に、合わせて20分ということでお願いします。

【侵害行為の立証の容易化のための方策 〜アメリカ〜】

○菱田研究員 証拠収集手続の概要につきましては、97ページに一覧表がありますので、適宜御参照いただければ幸いかと存じます。
 アメリカの訴訟における情報収集制度、ディスカバリーという言葉で言われまして、非常に有名ですけれども、これは証言録取、あるいは質問書など、さまざまな制度の集合体でございまして、これを逐一説明するのは時間の関係上無理ですから、ここではもっとも頻繁に使われ、かつ問題も多いであろう文書提出要求を念頭に置いてお話を進めたいと思います。
 アメリカの訴訟というのは、原告と被告双方の訴状、答弁書の交換で始まりますが、この交換が終わりますと、当事者はお互いの手持ちの情報を迅速に開示するという過程に移ります。これをイニシアル・ディスクロージャー、あるいは初期開示と訳させていただきましたけれども、こういうふうに申します。
 ただ、このイニシアル・ディスクロージャーでは、自分の情報を基礎づけるのに必要な情報のみを開示すれば足り、自分に不利な情報、あるいは自分に不利な文書の所在を開示する必要はないとされていることに注意が必要でございます。
 このイニシアル・ディスクロージャーが終わりますと、原被告は互いに必要な情報の開示を求めることになります。これがいわゆるディスカバリーでございまして、文書提出要求などもこの過程で行われることになります。
 相手方の開示要求、このディスカバリーの要求に応じなければならないのは、すべての当事者がクレーム又はディフェンス、これは日本法で言えば主張又は防御と言っていいと思いますけれども、それに関連する情報であります。ここでは、自己に不利な情報についても開示に応じなければいけません。
 そして、開示義務の範囲内であれば原則として情報開示を要求できるのでございますけれども、アメリカではその要求の仕方にも特徴がございます。つまり、相手方、又は第三者から文書提出を要求する際には、文書を一つひとつ特定する必要はなくて、カテゴリーで特定すればよいというふうになっているのです。何々に関する文書という形で要求すればいいということになっているわけです。
 このようなおおざっぱな文書提出要求も許されておりまして、しかも、それに違反した場合の制裁というのは、裁判所侮辱を含めたかなり重いものであるために、膨大な文書が当事者間、あるいは第三者と当事者間で移動するという現象も生じることになるわけでございます。
 このようなおおざっぱな文書要求、文書の特定でよいとされている理由としては、いろいろ考えられるわけでございますけれども、制度的な要因としては、イニシアル・ディスクロージャーの構造が理由として挙げられるかと思います。
 この制度が試験的に導入されたのもようやく1993年でございますし、この制度についても、自己に不利な文書の所在まで開示することについては強い反対があったために、2000年の改正では、冒頭に申し上げましたように、自己に不利な文書まではイニシアル・ディスクロージャーの段階では開示しなくてよいとされたわけでございます。
 その結果、両方当事者は相手方の手持ち文書について詳細に知ることができませんから、概括的な文書要求を許さざるを得ないという状況が生じたというわけでございます。
 ともあれ、アメリカでは広い範囲で情報を開示せざるを得ないということになっておりますので、その中で秘密をどう保護するかということが重要な問題としてクローズアップされてまいります。
 そのための主たる手段というのは、これも皆様御承知のとおりだと思いますけれども、秘匿特権、それからプロテクティブ・オーダー、保護命令と訳させていただきましたけれども、プロテクティブ・オーダー、それからトライアル非公開という3つの手段がございます。
 秘匿特権というのは、社会におけるコミュニケーションを円滑にするために、一定の情報について開示義務を完全に免除するという手段でございます。
 しかし、開示義務を完全に免除してその限度で真実発見という要請を犠牲にするものでございますから、その対象は極めて限られてはいます。中でも著名なのは、弁護士、依頼者間のコミュニケーションに関する秘匿特権でございますけれども、裁判所内におきましては、それをほかの法律に関わる専門家、例えばパテント・エージェント、これと依頼者との間におけるコミュニケーションに拡張することに関しては、極めて謙抑的であるという傾向も見えてまいります。
 したがいまして、多くの情報は秘匿特権の対象とならず、開示義務を負うということになるわけでありますけれども、その中には、営業秘密のように開示によって開示者に重大な損害が生ずるような情報もございます。
 そこで開示による損害を可能な限り低く押さえるための制度として、保護命令、プロテクティブ・オーダーというものが用意されているわけであります。
 この保護命令の内容ですけれども、これは事案ごとに裁判官が裁量で決めるということになっておりまして、固定的な内容は持っておりません。営業秘密関係について出される保護命令につきましては、開示を受ける人的範囲を限定し、開示を受けた者に守秘義務を課したり、あるいは交付された文書を破棄する義務を課したりして、そして、このような義務違反に対しては裁判所侮辱というもので対応すると大体相場が決まっているのでございますけれども、開示を受ける人的な範囲とか、課される守秘義務の期間、あるいは内容については、事案ごとに差異がございます。
 どの程度手厚い保護命令が得られるのかというのは、保護命令が発令されなかった場合の開示者の不利益と保護命令が発令された場合の開示要求者の不利益等を比較衡量しながら決めるというのが基本でございますけれども、情報の開示を得られなくなる訴外第三者の不利益も利益衡量に際しては含めるというのが裁判例の有力な傾向となっております。
 そのため両当事者が保護命令発令に合意をしたとしても、それのみで保護命令を発令することはできないという裁判例も少なからず存在するというところであります。
 また、ディスカバリーで獲得した情報が証拠としてトライアルに提出される段階に至りますと、この秘密保護のためのハードルというのは一層高くなります。
 アメリカにおいてトライアルの公開と言いますのは、司法の活動に関する国民の知る権利の重要な一内容として、特に憲法上保障されているという議論が支配的でありまして、トライアル自体を非公開とすることはやむにやまれぬ政府の利益を守るために必要な限度でしか正当化できないのであると考えられているからであります。
 そのため、トライアルで証拠として用いられた文書を封印いたしまして、閲覧禁止にするという保護命令を出すことに関しても、同様に厳しい制限が課されると考えられているようでございます。
 ただ、何が非公開を正当化する理由に当たるかと考えられているかと言いますと、判例においては営業秘密のような財産権の保護というのもそのような利益に当たると解されているようでありまして、公開原則を過度に強調して、不当な帰結をもたらしているというわけではないようであります。この意味ではアメリカにおいても、営業秘密というものについても、それなりのプライオリティーが与えられているというふうにとらえることができると思われます。
 アメリカについては以上ですけれども、続けてイングランドについても説明をいたしたいと思います。

【侵害行為の立証の容易化のための方策 〜イングランド〜】

○菱田研究員 イングランドにつきましては、一覧表が98ページの方に書いてございますので、適宜参照いただければ幸いでございます。イングランドにおける情報収集というのもアメリカと似た構造を持っているわけでありますけれども、若干異なった点もございます。そこに力点を置いて簡単に説明をしたいと思います。
 イングランドでも訴訟は原告と被告の間で訴状・答弁書の交換が行われるということで始まりますけれども、それが終わりますとディスクロージャーの段階に入り、両当事者とも手持ちの文書リストを開示するということが要求されることになります。
 ここでどこまで開示しなければならないのかということについては、裁判官が決定権限を持っているわけなんですけれども、通常は次のように開示義務が定められます。
 つまり、自己の主張を助けることになる可能性のある文書、それから、自己の主張と矛盾する可能性のある文書、それから、相手方の主張を助けることになる可能性のある文書、これらが開示義務の対象になります。自己にとって不利な文書の所在まで開示しなければならないという点でアメリカ法と若干というか、相当異なった規律を持っているということになるわけであります。
 以上の開示義務に違反した場合には、開示をしなかった文書を証拠として提出することが禁じられたり、当該文書によって支えられている主張を却下されたり、あるいは裁判所侮辱の手続が始まったりというような、さまざまな制裁が用意されておりますし、文書の所在は不明であるという主張が厳しく制限されておりますので、実際にはこの開示義務を無視することが極めて困難だと理解されております。
 このディスクロージャーの過程において情報の所在が明らかになったら、両当事者が実際に情報にアクセスするという段階に入ります。ディスクロージャーの段階でその所在が開示された文書については、秘匿特権の対象にならない限り、当事者は文書所持者に対して閲覧又は複写を要求することが認められるということになるわけであります。ここはアメリカとほぼ同じでございます。
 ただ、閲覧又は複写を要求する側は、個々の文書を特定しなければならないとされております。アメリカのようにカテゴリーのみで概括的に文書を指定するということは認められないということになっているわけです。もっとも常に文書の所在はディスクロージャーの過程で開示されておりますから、このような規律でも余り問題はないと考えられているようでございます。
 適法な文書閲覧又は複写要求に対して理由なく応じないという場合には、やはり前述したようなさまざまな制裁というものが用意されております。
 次に、秘密保護手続について御説明をいたしたいと思います。
 イングランドにおきましても、相手方に情報を提供する義務というのは、相当広範でございますから、秘密保護の手続を用意しなければなりません。その裁判の手段はアメリカと同様に秘匿特権、それから保護命令という言葉は使いませんけれども、保護命令類似の制度、それからトライアル非公開の3つということになります。
 秘匿特権の対象となる情報というのは、アメリカ同様、極めて限定的でございます。ただ、制定法において、パテント・エージェントと依頼者との間のコミュニケーションについても、明示的に秘匿特権が認められているという点では、アメリカと異なるということになっております。
 営業秘密に関しては、それだけで直ちに秘匿特権の対象になるというふうには考えられておりません。ただ、情報開示者に著しい損害が生ずることを回避するために、裁判所は開示を受ける者の人的範囲を限定して、開示を受けた者に対して守秘義務を課すという、アメリカと類似の措置を執ることもしばしば見られるところでございます。
 次にトライアル公開の制限についてでございますけれども、イングランドにおきましては、裁判は全共同体のためになされている以上、共同体の構成員はそれを知る権利があるというふうに、アメリカと同様の考え方でございますけれども、そういうふうに考えられておりまして、トライアルは簡単に非公開にできるというものではございません。ただ、判例においては、同時に、公開によって裁判そのものが不可能になるという場合には、トライアルの非公開も正当化されるというふうに考えられておりまして、その典型例としては、公開によって価値が失われてしまう営業秘密が挙げられております。
 したがいまして、営業秘密を台なしにしてまで公開原則を貫徹するという制度はイングランドでは採られていないというふうに考えられるのではないかと思います。
 私の方からの説明は以上でございます。

○大渕研究員 続きまして、ドイツとフランス、ベルギーを担当された杉山研究員に、3か国まとめてで恐縮ですけれども、20分程度でお願いしたいと思います。

【侵害行為の立証の容易化のための方策 〜ドイツ〜】

○杉山研究員 それでは、ドイツの民事手続における情報収集制度と裁判の公開制度、及び両者における秘密保護の在り方などについて報告させていただきます。
 一覧表と報告書の136 ページ以下を御参照ください。まずは、情報収集制度の方から御説明させていただきます。
 個別の制度の紹介に入るに先立ち、ドイツの情報収集制度の特色から説明いたしますと、ドイツにおきましては、基本的に相手方に対して不利な証拠を提出する義務はないという原則を出発点としており、英米法のディスカバリーに対応するような制度が用意されておりません。したがいまして、訴訟上の情報収集制度と言いますのは必ずしも十分とは言えませんが、その不備につきましては、実体法上の情報請求権を発展させることによって対処がなされていると言うことが可能であります。
 今日におきましては、より積極的な形で、訴訟法上、一般的に相手方に対して情報を提供する義務があり、情報を提供しなかった場合には、例えば立証責任を転換するなど、直接的な訴訟上の効果を導き出すことを肯定する論者もございますが、そこまでの極論を唱える論者は少なく、通説的な見解は、不利な証拠を提出する義務はないという原則をそのまま承認すること自体は否定しながらも、実体法上の情報請求権などを発展させることによって、個別に原則に修正を加えて、例外を拡大していこうという傾向がうかがわれると思われます。
 以上を前提といたしまして、具体的な制度について順に述べさせていただきます。
 まず、訴訟法上の制度といたしまして、文書の所持者に対して文書の提出を命ずる文書提出命令の制度がございます。しかしながら、日本法の場合と異なり、証拠調べの場面では文書提出義務は一般的な義務とはなっておりません。実体法上の情報請求権が認められる場合と、当事者が当該文書を引用した場合に限って提出義務が認められております。
 しかも、当該文書に営業秘密などが含まれている場合の取扱いについても証拠調べの場面では規定は存在しておらず、証言拒絶権に関する規定を類推適用することによって提出を拒むことができるか否か、学説が分かれているところであります。
 いずれにいたしましても、提出命令に従わなかった場合におきましては、文書の内容などに関する挙証者の主張を立証されたものとみなすことができるという効果が用意されております。
 同様に、訴訟法上の制度といたしまして、独立的証拠調べの制度を挙げることが可能であると思われます。これは1990年の司法簡素化法によって導入された制度でありまして、訴訟の係属前であっても、法的利益があれば、すなわち訴訟の回避に役立つ可能性があれば、書面による鑑定を行うことを認める制度であります。
 独立的証拠調べの結果に基づいて当事者間で和解が成立することもございますが、仮にその後訴えが提起された場合におきましても、その結果、そのまま証拠調べの結果として利用することは可能であります。
 独立的証拠調べという制度は、相手方や第三者が所有する証拠や情報を強制的に入手、獲得する方法ではございませんが、紛争の初期の段階におきまして、早期に事案を解明して、和解を促進することを目的として、英米法のディスカバリーなどを参考にして導入された制度であると立法理由書等では説明されております。
 次に、前にも出てきました実体法の情報請求権について説明させていただきます。
 実体法上の情報請求権と言いますのは、先にも述べましたように、文書提出義務の要件ともなっております。多くの場合、この実体法上の情報請求権と言いますのは、民事法典や商事法典の中で個別に規定が置かれておりますが、今日におきましては、このような規定がない場合であっても、信義則などに基づいて広く認められているようであります。
 したがいまして、知的財産訴訟の関連を見てみますと、特許権侵害を理由に損害賠償請求を行う場合に、その準備のために必要な情報を請求する権利が判例などによって認められてきております。
 実体法上の情報請求権と言いますのは、もちろん、それのみを根拠に訴えを提起したり執行することも可能でありますが、本案である損害賠償請求権と併合し、かつ実体法上の情報請求権の存否から順に審理をするという段階訴訟という制度も用意されております。
 また、実務におきましては、この実体法上の情報請求権を行使する際の営業秘密の保護の方法といたしまして、例えば会計帳簿を入手する必要がある場合において、その中の顧客名などの秘密については、公認会計士のみに開示して、相手方には開示しないという方法が採られてきているようであります。
 なお、今日におきましては、実体法上の情報請求権が更に拡大され、例えば特許法140 b条の特則のように、損害賠償請求権の行使とは無関係に、第三者情報を入手することを可能とする規定も置かれております。
 続きまして、ドイツの裁判の公開原則と秘密保護の手続について紹介をいたします。
 ドイツにおきましては、裁判の公開原則は重要な原則であると考えられてはおりますが、憲法、すなわち基本法上の原則とはされておらず、裁判所構成法に定めが置かれております。この裁判所構成法によりますと、受訴裁判所の審理、及び判決決定の言渡しは原則として公開されます。しかしながら、一定の場合におきましては、非公開で審理をすることが認められております。例えば裁判所構成法172 条2号によりますと、重要な営業上の秘密、生産上の秘密、発明の秘密などが問題となる場合におきましては、審理を非公開とすることが可能となっております。
 しかも、それらの秘密が関係する場合におきましては、判決理由の全部又は一部について非公開で言い渡すことも認められております。
 非公開審理について補足いたしますと、この非公開審理を行うに先立って、非公開審理をすべきか否かについても審理が行われます。この審理は当事者あるいは参加人の申立てに基づいて、又は職権で開始されます。この審理自体は非公開で行われ、裁判所は当事者らの意見を聞いた上で、裁判を公開することによって保護すべき利益が害されないかを考慮して、公開の可否や非公開にする部分の期間などを決定いたします。
 この決定自体は原則として公開法廷で示されなければならず、非公開審理を行う場合においては、その理由を明記しなければなりません。
 非公開審理について説明いたしますと、この非公開審理には当事者や裁判所の許可を得たものは立ち会うことが可能であります。特に当事者の立会いは、これは基本法上の法的審問請求権、あるいは民事訴訟法の当事者公開主義の原則の現れとして、重視されております。しかしなから、裁判所は決定によって、非公開審理の在廷者に対して、審理やそれに関する文書から知り得る事実について秘密保持義務を課すことが可能であります。
 この義務を課された場合には、審理に欠席した者に対して秘密の対象となる事実を報告することを禁じられ、この義務に違反した場合には、通常の刑事手続によって刑罰が科される可能性がございます。
 以上から、当事者であっても、非公開審理に立ち会うことができて、仮に秘密保持命令が課された場合でありましても、第三者に対して秘密の開示をすることが禁じられるにすぎず、個人で私的に利用すること自体は禁じられませんので、秘密の保護という観点から、必ずしも十分な制度ではないとして、当事者の立会いも排除した秘密手続の可否が問題となっております。
 そのような秘密手続の適法性につきましては、裁判例及び学説は分かれておりまして、適法説は秘密の保護を重視するものであり、不適法説は当事者公開主義の原則を重視しているのでありますが、最近の学説などを見ますと、両者の要請を調整すべく、当事者の立会いを否定しながらも、裁判所が選任した代理人を立ち会わせることによって当事者の権利を保護すべきであるという展開が有力となっているようであります。
 以上がドイツの制度の仕組みであります。

【侵害行為の立証の容易化のための方策 〜フランス〜】

○杉山研究員 引き続き、フランスの民事訴訟における情報収集制度と裁判の公開原則及びベルギーの裁判公開原則について説明させていただきます。
 まずはフランスの情報収集制度から紹介いたします。
 その前提といたしまして、フランスの民事手続上の情報収集制度の特色について御説明いたしますと、旧民事訴訟法におきましては、フランスでは、相手方に対して自己に不利益な証拠を与える義務を課されないという原則が重視されておりましたが、今日におきましては、民法の10条におきまして、国民が真実発見のために司法に協力する義務を負うことが規定され、また、新民事訴訟法典の11条におきましても、当事者が証拠調べに協力することを義務を負うこと、更に当事者や第三者に対して証拠の提出を強制することができることが規定されたため、先に述べました相手方に不利な証拠を与える義務を課されないという原則は、新法の下においては転換されていると評価することが可能であります。
 この原則が具体化された制度の1つが、文書提出命令であります。フランスの民事訴訟におきましては、書証が重視されていることもあり、この提出命令は非常に重要な意味を有しております。提出命令の手続を見ますと、これは当事者が申し立て、裁判所が文書の必要性などを判断した場合に発令されますが、第三者に対しては、正当な障害が存在する場合には発令することができません。この正当な障害の意味につきましては、解釈に委ねられているのでありますが、これは余りに広く解してしまうと、新法で先の原則の転換を行った意味がなくなってしまうため、実際には職業上の秘密と私生活の秘密に関係する場合に限定されているようであります。
 企業秘密のようなものは、私生活の秘密に含まれ、一応提出を拒むことが可能であると考えられているようであります。
 これに対して訴訟当事者は、規定の上では正当な障害を理由に拒むことは原則として認められておりません。なお、提出命令に従わない場合におきましては、間接強制をすることが認められております。
 また、情報を収集することを直接の目的とした制度ではございませんが、紛争の初期段階において事案を解明することを可能とする制度といたしまして、鑑定レフェレの制度が挙げられます。
 鑑定レフェレと言いますのは、訴訟の係属前に紛争解決に資する証拠の保全や立証する正当な理由が存在する場合において、両当事者を審尋した上で鑑定を命ずる旨の仮の裁判であります。
 通常の仮処分であるレフェレと異なり、この場合緊急性の要件は必要とされてはおりませんが、正当な理由の存在が必要となっております。
 相手方の営業秘密を開示する結果をもたらす場合にも、正当な理由が認められるかという点については、裁判例は分かれているようであります。
 更に知的財産法に目を向けますと、知的財産権の侵害を立証するために必要な情報を収集する侵害物の差押えという制度が用意されております。これは、侵害訴訟の係属前に裁判所長の命令によって、執行官が侵害物や侵害方法を確認したり、侵害物や侵害に関係する文書などを差し押さえることを認める制度であります。
 これは立証に必要な文書であれば、営業秘密などを含む文書であっても差押えの対象となるため、侵害事実の立証という目的を超えて、単に営業秘密の取得のみを目的としてこの制度が利用される危険性がありますが、以下のような形で濫用には歯止めがかけられています。
 例えば秘密文書の閲覧をしたい場合には、専門家を作業の補助者として任命し、秘密を遵守するという条件の下で文書を閲覧させ、立証に必要な文書であるかを判断させるということも可能であります。
 また、この手続を申請したものは、差押えから2週間以内に本案訴訟を提起しなければ差押えは無効となります。
 更に、秘密取得のみを目的として行われた場合など、濫用目的で行われた場合には、申請者は損害賠償責任を負う可能性があります。
 以上が情報収集制度の説明であります。
 次にフランスの民事訴訟における裁判の公開制度について説明いたします。
 フランスにおきましては、古くは裁判の公開原則は憲法上の原則でありましたが、今日の憲法におきましては、裁判の公開を定める規定は存在しておりません。しかしながら、この原則は民事訴訟法典の中に置かれており、これによりますと、弁論や証拠調べは原則として公開の手続で行われますが、非訟事件や、訴訟事件のうち法律の定めがある場合には例外的には非公開の評議部というところで審理が行われます。
 また、裁判官は、私生活の秘密を害する場合や、両当事者が求めた場合、更には裁判の平穏を乱す混乱が起こる場合には、決定によって評議部での審理を命ずることが可能であります。営業秘密も私生活の秘密の秘匿権に含まれると解されているようであります。
 また、先にも述べましたように、フランスでは、証拠調べといたしまして書証が多く行われているため、そのような場合は、証拠調べの性質上、裁判の公開はなされないようであります。
 裁判の一般公開と並んで、当事者公開について若干補足いたしますと、フランスでは当事者公開の原則が非常に重要な原則であるとされていて、例えば審理における当事者の立会権を保障するなどの形で表れております。もっとも営業秘密が関係する場合にまでは、厳格にはこの原則は貫かれていないようであります。このことは、フランスの民事訴訟で多く行われており、当事者公開原則が適用されると考えられている鑑定手続を見ましても、営業秘密に関係する場合には当事者の立会権を否定していることにも表れているということが可能であると思います。

【侵害行為の立証の容易化のための方策 〜ベルギー〜】

○杉山研究員 最後になりますが、ベルギーの民事手続における裁判の公開原則について簡単に説明させていただきます。
 ベルギーの憲法は日本の憲法と同様に、148 条において、審理を公開すること。公の秩序や風俗を害する場合においては、決定で非公開審理を命ずることが可能であることが規定されております。
 149 条において判決の言渡しは公開されます。
 裁判所法を見ますと、法律に定めがある場合を除いて、口頭弁論や判決を公開することが定められております。営業秘密を理由に非公開審理をすることを認める法律は存在しておらず、また、憲法解釈としてこのようなことが可能であるかについて論じた裁判例や学説等は見当たりませんが、営業秘密と若干関連があると思われる私生活の秘密や職業上の秘密を理由に非公開審理をする裁判例は若干見られます。
 このうち、私生活の秘密について見ますと、このような秘密を理由とする非公開審理を認めた欧州人権条約の6条をそのまま適用して、非公開審理を認めているようでありますし、他方で職業上の秘密が関係する場合においては、憲法の公序の意味を広く解することによって非公開審理をしているようであります。
 したがいまして、営業秘密につきましても、私生活の秘密として条約の要件を直接適用するか、あるいは憲法上の公序を柔軟的に解釈することによって、保護される可能性もあるように考えられます。
 以上で報告を終えさせていただきます。

○大渕研究員 杉山研究員、ありがとうございました。それでは、質疑応答に移りたいと思いますが、ここからは伊藤座長お願いいたします。

【侵害行為の立証の容易化のための方策 〜質疑応答〜】

○伊藤座長 ただいまのそれぞれの報告につきまして、これも先ほどと同様にどなたからでも、どの点でも結構でありますけれども、御質問をお願いいたします。
 日本弁理士会の村木さんから質問書が提出されておりますけれども、よろしければどうぞ。

○村木氏(日本弁理士会) 村木でございます。質問書を提出しておりますので、これに従いながら話をさせていただきたいと思います。
 菱田研究員のアメリカにおける情報収集と秘密保護における秘匿特権の部分について質問させていただきます。
 報告書では114 ページに秘匿特権について書いてあります。下から8行目から、次のページの1行目にかけて、我が国の弁理士と依頼者との間のコミュニケーションが弁護士と依頼者との間のコミュニケーションと同様、秘匿特権の対象となるか否かについて書かれています。
 その次の116 ページ、上の方でございますが、弁護士資格を有さない特許代理人、パテント・エージェントについては、秘匿特権を認めないという判例が多数である。こういう報告がされております。
 それから、117 ページの上の方に、それに対し秘匿特権を認めたらしき裁判例もあるが、事案の詳細は明らかでない。連邦法が適用される場合に、我が国の弁理士と依頼者との間のコミュニケーションについて、秘匿特権が認められるか否か、認められるとして、いかなる範囲で認められるのか、いまだ明らかではない。こういうふうに報告されています。
 一方で、今日の質問書に書いてございますけれども、昨年4月17日に法律第25号「弁理士法の一部を改正する法律」により弁理士法に第6条の2が加わり、弁理士は第15条の2第1項に規定する特定侵害訴訟代理業務試験に合格し、かつ、第27条の3第1項の規定によりその旨の付記を受けたときは、特定侵害訴訟に関して、弁護士が同一の依頼者から受任している事件に限り、その訴訟代理人となることができる。こういう規定があり、現在、研修を行って、来年の始めにはそのような訴訟代理人としての弁理士が出る予定であります。
 そういう状態において、ここに報告されております、パテント・エージェントについて特許権が認められないという判例が多数であるとされていますけれども、新しく侵害訴訟代理権を持つ弁理士というのは、アメリカで言うパテントアトーニー、秘匿特権を認められる代理人というふうに解釈されるであろうかという質問です。

○伊藤座長 村木さん、これはアメリカの裁判所でそう解釈されるであろうかという御趣旨ですね。

○村木氏 はい。

○伊藤座長 菱田さん、今の点について御説明ありましたらお願いします。

○菱田研究員 この問題につきましては、重要な問題だと思いまして、たくさん調べてまいりましたけれども、申し訳ないのですが、結論としてはわからないと言うしかないかと思われます。
 アメリカのパテントエージェントについては認められない、パテントアトーニーについては認められるというような判例になっているかと思うのですが、恐らく日本の弁理士については、その中間に当たるような存在だろうと思うんです。それについて、連邦裁判所がどのような判断をするかというのは、今の段階では予想がつかないとお答えをするしかないと考えます。申し訳ございません。これでよろしいでしょうか。

○村木氏 先ほどの御報告の中で、イングランドの場合には、パテントエージェントについて具体的な規定を設けて、秘匿特権を認めるようにしたという御報告でしたけれども、それの経緯について、何か御存じですか。

○菱田研究員 その経緯については、詳しくはわからないですけれども、イングランドにつきましては、そもそも法廷で弁論をしないソリシタにつきましても秘匿特権が認められているという状況がありますから、パテントエージェントについても、秘匿特権を認めるという方向についてはそれほど抵抗がなかったのではないかと推測しております。それに対してアメリカでは状況が違いますから、また別の議論がなされるであろうという感じがいたしております。

○村木氏 米国の判例を見ていきますと、パテントアトーニーと言いましょうか、アトーニー・アット・ローと言われる場合には、コミティーに基づいて認めるとか、そういうように判例に書いてありますけれども、一般的なことなのでしょうか。

○菱田研究員 御質問の趣旨がうまくのみこめなかったのですけれども。

○村木氏 日本の弁護士に秘匿特権を認める場合には、コミティーによって認めるというふうに書かれていて、そのコミティーがどの程度信頼できるものか。要するに、それに問題があれば日本の弁護士にも同じような問題が起こるのではないかというふうに理解をしています。もし何かコメントがあればということです。なければ結構です。

○菱田研究員 連邦裁判所がコミティーという言葉を出すのは、どこの法律が適用されるのかという抵触法の問題として出しているわけです。それで日本法が適用されるということになれば、特段の支障がなければ日本法で処理されるということになるわけです。これでお答えになっているかどうかわかりませんが。

○阿部委員 ドイツ、フランスの件でちょっと聞きたいのですけれども、ドイツでは独立的証拠調べ、フランスでは鑑定レフェレということで、訴訟前にこの制度を使っていろいろ情報の開示を求めるということが制度としてある。これはフランスの例ですと、紛争を和解で解決するためのインセンティブだということのようですけれども、実際にそうなっているんでしょうか。

○杉山研究員 実際にフランスでは鑑定に協力して、和解が成立する場合が少なくないという実態があります。
 ドイツにおきましても、独立的証拠調べと言いますのは、鑑定レフェレの制度にならっているというところもありまして、一応訴訟を可及的に回避するため、早い段階で事案を解明して和解を促進するための制度でもあるので、一応両者は似ているということができます。

○阿部委員 制度としてね。実態的にもそういう機能は十分果たしているということでしょうか。

○杉山研究員 具体的な数等を示すことはできないのですけれども、このような制度が利用された場合に、訴訟に持ち込まれるというよりは、和解が成立する場合が多い等のことは指摘されております。

○阿部委員 今のことで、それを定量的に資料で調べるとか、そういうことはできますか。何件あって、何件和解があったとか。

○杉山研究員 定量的な調査につきましては、私の方ではお答えしかねます。

○近藤参事官 提訴前のことですし、件数的なものというのはなかなかわかりづらいのではないかと思いますけれども、何かものの本の紹介などでは、今、杉山研究員がおっしゃったように和解などで解決することが多い。ただ、解決しない場合、訴訟でも使えるという説明の仕方をされていると思います。それ以上の調査は、ちょっと難しいのではないかというところです。
 今の点で、小野瀬委員に御質問ですが、提訴前の証拠収集ということで、今回民訴法改正が幾つかあるわけですが、その中で、もともとがこの独立証拠調べという発想の下に導入された制度もあると伺っているんですが、そこのところを若干御説明していただけますでしょうか。

○小野瀬委員 司法制度改革審議会の意見書では、提訴前の証拠収集手続の拡充ということで、その際には、ドイツの独立証拠調べというものも含めて、新たな方策を検討するということがうたわれていたわけであります。
 最終的に今回の改正の内容は、証拠調べとしての性格を持つものではありませんので、そういう点では性質的には大分違ったものになっているのかもしれませんけれども、専門家の専門的知見に基づく意見を事前に聴くという点では、同様の制度を設けておりまして、これは提訴前におきまして、そういう専門家の意見の陳述を裁判所が嘱託する制度でございます。
 そういう点で、専門的な事項が論点になるようなものにつきましては、そういった制度も使えるというふうに考えられます。
 ただ、余りにも高度な鑑定にわたるような、非常に難しい事項まで今回の制度でカバーできるかどうかと言いますと、なかなかそれは提訴前という制度的な性質上、難しいのではないかと考えております。

○伊藤座長 ありがとうございました。
 それでは、ここで10分程度休憩を取りたいと思います

(休  憩)

【侵害訴訟における無効の判断と無効審判との関係】

○伊藤座長 それでは、時間になりましたので、再開させていただきます。次の論点についての発表に移りたいと思いますので、大渕研究員の方でよろしくお願いいたします。

○大渕研究員 それでは、最後の論点になりましたが、各国の特許侵害訴訟と特許無効の関係について、アメリカ、イングランド、ドイツ、それからEUに関する研究結果の報告を行います。説明時間は先ほどと同様、各研究員10分程度、全体で30分程度を予定しております。
 では、まず初めにアメリカを担当されました平嶋研究員、お願いいたします。

【侵害訴訟における無効の判断と無効審判との関係 〜アメリカ〜】

○平嶋研究員 アメリカにおける特許侵害訴訟と特許無効手続の関係ということでありますけれども、これにつきまして、相当項目としては細かくなっておりますので、10分間で報告書の概要すべてを説明しておりますと、全体が非常に見にくくなるということがありますので、要点について、かいつまんで説明するという形を取らせていただきたいと思います。
 基本的な項目としましては、こちらの報告書でまとめております「まとめ」という177 ページから178 ページに書かれているうち、1から4までの事項、この点が主としてアメリカにおける第1論点についての主な内容ということが言えるかと思います。
 まず、特許権侵害訴訟と無効手続の前提ということで、まず特許付与の手続、それから特許権というものの法的性質についての簡単な説明をさせていただきますと、報告書の方では、特許が付与されるまでの手続の流れを簡単にまとめております。
 アメリカにおきましても、日本と同様に、特許庁、アメリカにおきますとアメリカ特許商標庁、U.S.PTOと呼んでおりますが、こちらへの特許出願が行われる。特許出願に基づいて、特許商標庁における審査官による審査がなされまして、最終的に一部補正等の手続、ここら辺は特許法における特許付与手続に対応するものに当たりますけれども、最終的には特許査定に基づく特許付与が行われるという形になっているということです。
 特許付与の過程で拒絶という判断、査定がされますと、これに対する不服申立てという形で、審決に対応するものがアメリカにおきましても用意されておりますし、また、審決の結論に対しても、更に不服申立てという形で、先ほどので申しますと、連邦巡回控訴裁判所CAFC、もしくはコロンビア地区の連邦地裁に対するシビルアクションを提出するという形で救済が図られているという形になっているということです。
 特許付与の手続の性質全体ですけれども、この点につきましては、基本的に特許が一旦アメリカ特許商標庁において付与されると、特許権につきましては基本的に有効なものであるというふうに推定すると、アメリカ特許法における明文上の規定が設けられているという点が特徴的かと思います。
 したがいまして、アメリカの特許権においては、特許商標庁において与えられた特許権というのは基本的には有効であるというふうに扱うということでありまして、この点について、有効として推定するということをどうとらえるかという問題については、これは学説上も議論のあるところでありまして、特許庁における手続的性質というものをある程度強調する形で、有効性については一旦推定して有効なものとして扱うということです。 それから、後は特許商標庁における手続を1つの証拠として、非常に強い証拠、有効性を支える強力な証拠としてとらえるということであって、したがって、その有効性を争うについては、非常に強い証拠、すなわち明確かつ確信できる、クリアー・アンド・コンビンシングと言われるのでございますけれども、そういう証拠による裏付けがなければ、基本的に有効性が付与されないという考え方が根底にあるということであります。
 したがいまして、アメリカにおいては特許商標庁における手続において一旦特許が付与されますと、基本的には有効な特許権として扱われる。したがって、それ以降特許の有効性については、これは原則として特許商標庁においてはその有効性の判断については、扱わないという形を取っています。この点が大きな特徴でありまして、したがいまして、一旦付与された後の特許権の有効性判断というものは、特許商標庁では、以下に述べます場合の手続についての例外を除いては、基本的に有効性については特許商標庁では判断しない。その有効性判断は裁判所において行うという形を取るということです。 ただし、例外がありまして、一旦付与された後の特許権について関われる場合の類型が4つほどあるということになります。その点が190 ページにありますように、抵触審判、再審査、再発行、放棄、訂正証明、それから一旦特許料の不払いによって失効した特許権の復活という特別な類型があります。
 このように幾つか類型があるのですけれども、ここでのテーマに関連する問題としては、再審査と再発行という手続が特に重要なものということになるかと思います。この再審査と再発行に関連しては、付与後の特許権についても、特許商標庁が関わることができる。再審査について簡単に説明いたしますと、これについては一旦付与された特許権の有効性について、とりわけ既に発行された特許権でありますとか、それから、刊行されている出版物といったものに関連して、一旦発行された特許の有効性に疑義があるという場合について、再度特許商標庁につきまして、その特許付与についての審査を請求することができるという形で、請求に基づいて特許商標庁が再審査を行うという形で、再度当該特許の審査を行うという形の手続が再審査手続ということになるわけです。
 それから、再発行というのは、これは一旦付与された特許のクレームが一部無効の事由、つまり特許が与えられた条件を充足していないというものについて、その一部を補正という形で中身を縮小する、まあ拡大する場合もありますけれども、一部変更を加えて、再度特許要件の充足を維持するという形で、その際に特許商標庁において、当該特許についての審査を行って、変更を加えられた後の特許を、改めて再発行という形で特許を付与するという仕組みという形になっています。
 原則としては、裁判所において有効・無効を判断するということですけれども、この有効性判断も厳密には侵害訴訟と確認訴訟という2つの局面で有効性の判断がなされる場合があるということであります。ここでは侵害訴訟における有効性判断ですけれども、この点については原則としては、侵害裁判所において特許の有効性を争うという形になっているわけですけれども、これは1つの事件である特許が有効性について争われて、無効という判断が出た場合に、それ以降の異なる当事者が、無効という判断に基づいて当該特許が無効であるということを主張できるかどうかという問題が出てくるわけです。
 この点について、最高裁の判例がございまして、手続上、実質上、証拠上の適正な機会がないという特別の場合以外については、原則としてある1つの侵害訴訟においてその有効性について、特許は無効という判断になったら、基本的にはその無効ということについて争えない。以降第三者であっても争えないという形に変わってきたということになるわけです。
 したがいまして、特許権侵害訴訟で一旦無効という形になった場合について、基本的には多くの場合については、別の当事者が再度特許についての侵害訴訟の局面において、当該特許は既に無効になっているということを主張するということが可能になっているということであります。
 手続的には、一旦無効という判断がなされた場合については、特許商標庁との間で、アメリカ特許法の209 条の中に、通知という規定がありまして、訴訟の開始に伴って、特許商標庁に通知がなされるということです。それから、裁判所の判断が示された場合についても、その通知がなされるということですので、第三者であっても、当該特許のファイルを見ることで、既に侵害訴訟等で無効になっていることがわかるという仕組みになっているということであります。
 それから、特許の有効無効を争うという形のときの手段として、再審査、再発行という手続があるということであります。これは例えば侵害訴訟が先ほど言ったように無効ということの主張がなされた場合の、相手側の特許権者側の対応という局面で使われるということなんですけれども、当然、無効と言われたことに対して、例えば場合によっては再審査という手続を特許権者の方で行って、再度、当該特許が有効であるということを明らかにすると。あるいは、場合によっては、クレームも一部変更を加えて、有効性を維持する形で再発行がなされる形で、当該特許というものの有効性を維持するという対応が考えられるわけです。
 そうしますと、再審査とか再発行という場合に、特許商標庁における手続と、先ほどの侵害訴訟が同時に係属する、同時に走る可能性がある。並行的に審理がされるということも当然考えられるという形になるわけですが、この点について、では、制度上どのような対応があるかということでありまして、制度上については、これは訴訟進行手続、例えば再審査の手続が係属しているときに、特許侵害訴訟が進行しているという場合については、停止、ステイという言い方がされていますけれども、こういう手続が一般的に行われるということであります。
 ただ、このステイというのも、制度上の根拠として、明文上明確に規定されているというのは、非常に限られた場合に、特定の再審査の場合に限られてステイについての規定があるわけですが、原則的にはそのステイの明文上の規定というのは余り、一般的な特許侵害訴訟と、再審査、再発行といったところにおいては、それほど明確な規定はありませんで、根拠としては、あくまでも裁判所の訴訟手続についての権限に基づいてステイを行うという形になっているということでありまして、判断基準につきましても、それほど明確なものがあるということではないようであります。どちらかというと、裁判所が関連する係属手続の状況等、あるいは進行状況等を踏まえて判断するということが実務上取られているということです。
 逆に侵害訴訟等が既に係属している状況で特許商標庁に再審査でありますとか、再発行の出願というものがなされた場合についても、これも特許商標庁の実務としては、一般に再審査の手続の方を止めるという形で対応するということにはなっていたんですけれども、この点についてもあくまで制度上、それほど再審査手続というものが、必要的に特許商標庁が止めるということではむしろ許されないということになりまして、現在ではこの点については、場合によっては同時並行的に進行するいうこともあるということになっているようであります。
 そのような形でありまして、両者の手続の調整という意味では、裁判所の権限として必要であれば停止を行うことにはなっているのですが、ただ、ルールとしてさほど明確なものが用意されているということでもないようでありますし、特許商標庁としても、それを明確に必ず止めなければいけないということについての重要性をそれほど強く認識されているということでもない。
 一般的に特許商標庁における手続と裁判所における審理とを調整することの重要性というのは、それほど大きな認識というのはなさそうであると言えるかと思います。
 むしろこの訴訟に関する問題としては、どちらかというと、合理的解決ということで、もちろん、必要であれば実際行っているということではあるのですが、特別に何かルール化を行わなければいけないといった議論については、それほど現状で大きなものが出ているということはないかと思います。
 むしろ付与される特許の質の改善とか、裁判外の紛争解決制度といった部分で侵害訴訟の合理的解決ということを目指すという議論の方が、最近では多いのではないかということであります。
 ちょっと長くなりましたけれども、以上で簡単な説明とさせていただきます。

○大渕研究員 平嶋研究員、どうもありがとうございました。
 続きまして、イングランドを担当されました茶園研究員、お願いします。

【侵害訴訟における無効の判断と無効審判との関係 〜イングランド〜】

○茶園研究員 ではイングランドについて報告いたします。
 まず、報告書の215 ページを御覧いただきたいのですけれども、真ん中辺りに(a)(b)(c)(d)(e)というのがございます。特許法第74条第2項には、付与された特許の有効性を争うとして、この5つが挙げられております。その5つ以外では、特許の有効性は争えないということになっております。
 その最初の(a)ですけれども、これは侵害に関する手続です。これは後でもう少し詳しく申しますけれども、裁判所のみならず特許庁でも行うことができます。
 (b)の根拠のない侵害手続の警告に関する救済。権利侵害警告などにかかるものなんですけれども、これは裁判所だけで行われます。
 (c)の非侵害の宣言ですが、日本で言うと差止請求権、損害賠償請求権の存在確認というものでしょうけれども、これは裁判所のみならず、特許庁でも行われます。
 (d)が特許の取消しですけれども、これも裁判所のみならず特許庁、逆に言うと特許庁のみならず裁判所でも行われます。
 (e)国王の使用に関する紛争の言及、これは国家による使用、強制ライセンスですけれども、これは裁判所のみで行われます。事務局の方でつくっていただいた表、183 ページを御覧いただきますと、イギリスにつきまして、侵害裁判所において特許の有効性の手続と、侵害裁判所以外の特許の有効手続の関係で、2つに分けて記載されています。実はこれはほかの国との関係でこういうふうに分けていただいたのですけれども、これはイギリスにおいては正確ではなくて、特許取消と侵害、非侵害の3つだけを挙げていただいているのですけれども、先ほど言いましたように、あと2つあります。ですが、それらは余り重要ではないので、私の報告書の中でも余り言及しておりません。
 上の侵害裁判所における特許の有効性を争う手続、これは裁判所で行うものということです。その下の侵害裁判所以外というのは、特許庁で行うということを表しております。
 まず、一番上の、ア)特許の取消のところからですけれども、先ほど言いましたように、日本のイメージからすると特許庁が行うということなんですけれども、むしろイギリスでは裁判所で行われるということになります。現行法が1977年特許法なんですけれども、旧法の1949年特許法においては、裁判所が一般的に特許の取消しを行うことができる。これに対して、特許庁における特許の取消事由は、裁判所よりも狭くて、しかも、時間制限というのが設けられていました。
 それを現行法では特許庁の取消権限を裁判所と同じように拡大したということになります。
 2つ目の特許侵害手続に関してですけれども、これも先ほど言いましたように、裁判所のみならず、特許庁でも行うことができるということであります。特許庁で手続を行う場合には、当事者の合意が必要です。当事者の合意がないと、特許庁では侵害手続を行うことができないということになります。
 1949年法では、同じように侵害手続は特許庁においては当事者の合意が必要だし、また、損害賠償については、1000ポンド以下という制限が加えられていました。現行法制定に当たり大きな影響を与えたバンクス委員会の報告書というものがあるのですけれども、そのバンクス委員会報告書では、特許庁での手続はやめるべきだという勧告があったのですけれども、むしろ現行法は特許庁での手続の権限を拡大しまして、先ほど言った損害賠償の上限というものを廃止したということになります。
 ただ、旧法と同じように現行法でも、特許庁が下す救済は、損害賠償等に限られておりまして、差止命令というのは裁判所しか出すことができない。特許庁は出せないということになっております。
 3番目の非侵害の宣言を求める手続ですけれども、これは旧法では裁判所だけが行えるということだったのですけれども、現行法では特許庁も行うことができるというように拡大されました。
 無効の争い、特許の有効性が争われる場合には、訂正というのも問題になりますけれども、訂正も、有効性が争われる手続の中で、裁判所及び特許庁において、その訂正を行うことができるとされております。
 有効性を争う手続がなされていない場合、つまり特許権者が自発的に行う場合は、特許庁だけが行える。特許権者は自発的に訂正を求める場合には特許庁に提出をするということになっております。
 先ほど申しましたように、有効性を争うことのできる手続が幾つかあって、しかもそれが特許庁と裁判所のいずれにも提起することができるとされておりますので、複数の手続が同時に走るという可能性がございます。
 例えば特許権者の方が裁判所に特許侵害訴訟を提起をし、一方でそれに対する防御として、侵害だと主張される方が非侵害の宣言を求めるとか、あるいは特許の取消しを求める。こういう複数の手続が走るという可能性があります。それが同じところ、すなわち裁判所、あるいは特許庁、いずれか1つだけで行われる場合には、それは手続を併合すれば処理できるわけですけれども、1つの手続は裁判所に、1つの手続は特許庁に行った場合にどうするかということですけれども、イギリス特許法は幾つかの場合について調整規定を設けております。
 219 ページを御覧いただきたいのですけれども、「複数の手続の関係」というのが記載しております。どうなるかですけれども、次の220 ページの3行目に書いてありますけれども、第74条第7項というのは、特許の有効性を争うときには、裁判所に係属をしている場合には、特許庁における手続は行うことができない。裁判所の許可があれば別ですけれども、それを行うことができないということになります。逆に特許庁での手続が走っていて、その後、裁判所に侵害訴訟なりが提起された場合にどうなるかということですけれども、これは裁判所がケース・バイ・ケースで停止するかどうかを決める。そうやって調整をするということになっております。
 例えば1つの事件として、次のHawker Siddeleyという事件が挙がっておりますけれども、これは被告というか、侵害と称された方が特許庁において取消手続、それから非侵害宣言を求めて手続を開始し、その後に特許権者の方が侵害訴訟を提起したという事案です。この事件では裁判所は訴訟の停止というのを認めました。
 反対に次のFerro事件というのは、同じような事実関係の下において、この事件では、停止を認めなかった。訴訟もそのまま進行することを認めた。こういう結果になっております。
 また、ある手続において、有効性に関する判断がなされる。その判断がその後に有効性が争われるとした場合に、有効性が争われることができないとされる場合がございます。それが221 ページに書いてある「請求原因禁反言」というところですけれども、先の手続において判断された事項を請求原因が同じで同一当事者間で再び争うことができない。請求原因禁反言というのはそういう原則でございます。
 この原則によって、先の手続で特許の有効性が争われ、同じ特許の有効性が後の手続で争うことができないとされた事案というのもございます。
 先ほど、有効性に関しては、特許庁と裁判所のいずれでも争うことができると言いましたけれども、実は判断の効力に若干の違いがございます。これは今申し上げた、後の手続での争いを封じるかどうかという点につきまして、特許庁の判断は後の手続で争うことを妨げることができないということになっております。222 ページの第2パラグラフ「他方」と書いてあるところですけれども、72条5項は、特許取消に関する規定なんですけれども、取消しに関して特許庁が決定を下した、この決定というものは、民事訴訟においては、その後の民事事件において特許の有効性を争うということを妨げない。後で再び蒸し返されるということがあり得るということになります。
 それでは、特許権者としては、何度も争われるということになるわけですけれども、1つ特許権者が使えるものといたしましては、前の221 ページのところですけれども、一旦特許の有効性が争われた場合には、特許の有効権者は特許の有効性の確認書というのを得ることができるとされています。この確認書を得れば、後でまた特許の有効性が争われた場合に、その特許の有効性の確認書を使って、自らにとって有利な判断がなされた場合には、費用を償還することができるとなっております。
 ですから、また再び後で特許の有効性を争う人間は、負けた場合に、費用負担が重くなる。そういうリスクを負わされる。そのために、特許権者としては、そんなにたくさん蒸し返されることはないだろうと、事実上そういうことを期待することができるようになっております。
 最近の動きとして、223 ページに挙げたところですけれども、昨年の11月に特許法改正に関するコンサルテーション・ペーパーというものがイギリス特許庁から公表されております。これは主として、2000年に改正されました欧州特許条約に対応するためのものですけれども、ここで報告したことに関して、幾つか関わるような改正提案がなされております。特に重要だと思いますのは、223 ページのCに書きましたが、特許庁での侵害手続に関してですけれども、特許庁において侵害手続をする場合には当事者の合意が必要だとなっております。このコンサルテーション・ペーパーによりますと、−−裁判所手続に関して、特許庁の手続というのは、時間も余りかからないし、費用も安い。そういうふうに認識されているようでございまして、−−当事者の合意が必要だということによって、例えば弱小の特許権者、余りお金のない特許権者は、特許庁の手続を使いたいんだけれども、大企業がそれがいやだと言って、裁判所でやらざるを得ないという戦略を取ることができるようになっているのではないか。だから、そういう合意がなくても、特許庁で侵害手続をすることができるようにすべきではないか。こういうような提案がなされております。
 コンサルテーション・ペーパーは多方面からコメントを求めておりまして、そのコメントの提出時期が既に済んでおりまして、恐らくレスポンスをまとめたものが特許庁から公表されると思いますけれども、昨日の段階でまだ公表されておりませんでした。唯一私が見ましたイギリスの弁理士会がどういう意見を提出したかということに関しましては、今申し上げた特許庁での侵害手続に関しましては、イギリスの弁理士会はこれに反対しまして、特許庁での侵害手続をやりやすくするよりも、パテンツ・カウンティ・コートを更に発展させて、ここでの利用を促進する方がよりいいのではないかという意見を述べております。
 ちょっと長くなりましたが、以上でございます。

【侵害訴訟における無効の判断と無効審判との関係 〜ドイツ〜】

○大渕研究員 茶園研究員、どうもありがとうございました。最後にドイツとEU関係につきまして、私の方から御報告いたします。
 まず、報告書225 ページを御覧下さい。複雑でいろいろあるのですが、時間も押しておりますし、皆様お疲れではないかと思いますので、できるだけ手短に、かつ、わかりやすく御説明したいと思います。
 225 ページを御覧いただきますと、「ドイツ法における特許侵害訴訟と特許無効」というのが第1となっておりますけれども、一番最初に「特許付与手続の概要」につきまとめております。ドイツにおける特許には、ドイツ国内特許とドイツを指定国とする欧州特許の2種類があります。
 (2)に国内特許についての手続が書いてありますが、これは基本的には細かい点を除きますと、日本の制度に似ておりまして、時間の関係もございますので、説明は省略させていただきます。
 なお、一番最後にありますとおり、特許付与につきましては、行政行為であると解されております。
 226 ページの2.は先ほど御説明いたしましたので、次は、「3.無効手続(無効訴訟)についての概要」ですが、これにつきましては、論じ出すと非常に細かくて、わかりにくくなりますので、ポイントだけ御説明いたします。
 特許の有効性を争う手続としましては、ドイツの場合に2つあります。異議申立期間内であれば特許庁の特許部に申立てをすることができますが、他方、異議申立期間経過後は異議手続が係属中でない限り、連邦特許裁判所に対して無効手続を請求することができます。
 その無効手続につきましては、227 ページの(1)にありますとおり、原告適格につきましては、原則として何人も原告適格を有するということになっております。
 その次に、「(2)請求原因=無効事由」というのがありますが、ここが特徴的な点でありまして、ドイツの無効手続、これは無効訴訟と呼んでもいいかと思いますが、これにつきましては、228 ページにABCDEと5つ挙げておりますとおり、この5つが無効事由でありまして、かつ、これが無効訴訟において請求原因を成すと一般に理解されております。これは基本的には異議の条項を無効でも準用して、結局、トータルで5つになっておりまして、無効事由が法律の条項ごとに区切られている点がポイントだと思います。
 228 ページの「(3)決定の効力」というのがありますが、無効宣言の決定(Entscheidung)が確定いたしますと、特許を遡及効をもって、かつ、対世効をもって無効とするということになっております。他方、逆に請求棄却の決定が確定いたしますと、先ほどの対世効と異なりまして、当事者間に限り、かつ、先ほどの無効事由=請求原因との関係でのみ実質的確定力(既判力)が認められるということになっております。その他の説明は細かいので省略いたします。
 今、エッセンスだけ御説明いたしましたが、そのような無効手続を前提として、230 ページの「4.ドイツ法における特許侵害訴訟と特許無効との関係」というところに入っていきたいと思います。
 (1)のところですが、一旦付与された特許については、異議によって取り消され、又は、無効手続において無効とされるまでは、有効として取り扱われるのであって、侵害裁判所といたしましては、当該特許の有効性については判断できないというのが、法律上の規定はないのですが、一般的に認知された大原則とされております。
 これは言い換えますと、特許の無効や取消しにつきましては、無効手続、異議手続の排他的管轄に係るものでありまして、侵害訴訟における、いわゆる特許無効の抗弁というのは認められておりません。
 ただ、特許の有効性について侵害裁判所は判断することはできないのですが、クレームの解釈は行うことができるということになっております。
 その次のパラグラフですが、そうは言いましても、特許無効手続において、当該特許が無効とされる蓋然性が高い場合には、侵害裁判所の裁量によりまして、侵害訴訟手続の中止が行われるということになっております。ただ、一般に侵害裁判所は中止については慎重であるとされております。
 その他は省略いたしまして、次に(2)に入りますが、いわゆる「自由技術水準の抗弁」というのは、ドイツの通説・判例の立場では、均等侵害の場合においてだけ認められて、文言侵害の場合には認められないという立場を取っております。
 我が国のキルビー最判で認められましたような、無効理由の存在が明らかな場合における権利濫用の抗弁というものも、ドイツでは特に認められていないようであります。
 そういう意味から言いますと、ドイツ法における方が、我が国よりも侵害訴訟手続と無効手続の二元性、言い換えますと、無効手続の排他的管轄性というものがより厳格な形となっていると言えるかと思います。
 以上、御説明しましたのがドイツの現行法制でありまして、これについてはいろいろ議論があるようですけれども、その議論というのは、後に述べますような欧州法における手続的なハーモナイゼーションの文脈の中で行われることが多いようであります。

【侵害訴訟における無効の判断と無効審判との関係 〜EU〜】

○大渕研究員 以上、ドイツ国内について説明を終わりまして、先ほど一部御説明いたしましたが、234 ページ以下の欧州関係の説明に入りたいと思います。
 先ほど御説明しましたように、欧州特許条約は原則として付与後を対象としておりませんので、これは飛ばしまして、また、「3.共同体特許条約」も未発効なので省略いたしまして、「4.共同体特許のその後の動向」というところを、一部繰り返しになりますが、御説明したいと思います。
 この点は、先ほども若干お話しいたしましたが、非常に現在動いている状態にありまして、日々変わっているとは言いませんけれども、週単位くらいで、新しいペーパーが出てきたりしておりまして、今後もいろいろ動きがあるのではないかと思います。当然のことですが、あくまでこれは現在までに入手できた資料に基づいて、その状況を御説明しているだけですので、今後、また、どうなるかはだれもわからないということかと思います。
 先ほど御説明しました2003年3月3日の理事会での政治的合意、これが重要な点かと思いますが、その内容につきましては、237 ページ以下にあって、無効と侵害との関係は、Aのところでありまして、こういうような司法裁判所の管轄ということになっております。
 239 ページの(2)は飛ばして、(3)については、もう1つの流れであります欧州特許の裁判制度に関しまして、先ほど御説明したように、240 ページの@にありますとおり、欧州特許第一審裁判所が、このように侵害訴訟と取消の反訴につき、管轄権を有するというペーパーとなっております。
 それから、5.で共同体商標制度と意匠制度についても若干触れておりますが、時間の関係もありますので、説明は省略したいと思います。
 以上で報告は終わりましたので、質疑応答に移りたいと思いますが、ここからは伊藤座長お願いいたします。

【侵害訴訟における無効の判断と無効審判との関係 〜質疑応答〜】

○伊藤座長 どうもありがとうございました。
 それでは、ただいまのそれぞれの報告についての質疑応答をお願いしたいと思います。どの点からでも結構でございます。

○加藤委員 大渕さんにお伺いしますが、232 ページ、ドイツにおける侵害訴訟と無効判断の関係でございますけれども、232 ページ上段の方に、我が国との比較で「無効手続(我が国では、無効審判・審決取消訴訟手続)の遅延等の問題に関する差異にも起因するもののように見受けられている」という記述でございますが、簡単に言いますと、ドイツは連邦特許裁判所での無効審理がかなりスピーディーであるという文脈ととらえてよろしいんですね。私の理解でも相当早いものだというふうに伺っているのですが、そういうことでございますか。

○大渕研究員 一言で言いますと、そういうことであります。もちろん、個々の事件ごとに早い遅いはありますが、基本的には侵害訴訟の第一審の判決が出る前に、無効手続の第一審の判断が出ているというのが通常のケースなので、そういう立場からしますと、このような厳格な形の二元的構成で特に問題は生じないということで、厳格な形で二元的手続の制度として運用されているということだと思います。

○加藤委員 そうした場合、231 ページで、侵害裁判所の方では、中止に対して非常に慎重であるという御説明をいただいたのですが、そうしますと、連邦特許裁判所で無効審理が進行しているにもかかわらず、一方、侵害裁判所の方ではできるだけ中止はしないで、やれる手続は進めておくという意味合いということで理解してよろしいですか。もし無効審理の方がかなり早いのであれば、中止したとしても中止の期間は短くて済みますね。そうではなくて、中止を余りしないで、できるだけ侵害の審理も進めておくという方がドイツでは一般的であるという理解をしてよろしいのでしょうか。

○大渕研究員 これまた個々の事案ごとに違うことだと思いますが、多いケースとしてはそういうことだと思います。

○櫻井委員 今の点ですけれども、232 ページのところですが、これは、この検討会の問題と関係していると思うのです。日本のキルビー判決の抗弁の話というのは、これは権利濫用ですから、一般法理ですね。ですから、制度とは直接は関係していないので、ドイツの場合であっても、実際的な弊害が生じている生じていないにかかわらず、ドイツでも同じような理論構成を取る可能性というのは当然あるのではないかと思うのですが、いかがですか。

○大渕研究員 これはまさしくキルビー最判の理解の仕方によるかと思うのですが、権利濫用の抗弁という一般条項であるという点自体から言えば、そのとおりではないかとも思います。すなわち、一般法理という点自体からすると、事案次第では認められる可能性はどの制度についても理論上は否定し難いわけであります。ただ、キルビー最判で問題となっているのは、無効理由の存在が明らかな場合における権利濫用の抗弁でありまして、このようなものは、ドイツでは認められてはいません。

○櫻井委員 遅延の程度が違うのではないかということですが、それは統計的にはどのくらいという数字があるのですか。

○大渕研究員 無効手続の方は連邦特許裁判所で取り扱われているわけですけれども、侵害訴訟は各地の地裁で取り扱われていますので、統計的なデータを示すことは困難です。文献によると、先ほど申し上げた傾向が示されておりますが、全体的な統計を示すことは難しいところがあります。

○櫻井委員 私が申し上げたいのは、遅延の話も確かにあるかもわからないですけれども、とにかく制度そのものに対する理解とか受け止め方とか、そういうところに違いがあるのではないかというのが私の理解なのですけれども。

○大渕研究員 キルビー抗弁、ないしはそれに近い抗弁が我が国において肯定されることの背景の1つに無効手続の遅延の問題があると考えられますが、その点はドイツの場合は顕在化していないということです。もちろん、これはあくまで背景の1つにすぎません。

○小林委員 アメリカについて2点、イギリスについて1点質問をさせていただこうと思います。
 本文にもありましたが、まとめのところでCAFCでは有効性の推定を覆すには明確かつ確信できる証拠がなければならないということで、アメリカの特許法にそう書いてあるんだと思うのですけれども、その点は、CAFCだけのようにも書かれているのですが、いわゆる侵害訴訟における地裁の無効判断でも同じ形になっているのか、更に言えば特許庁でも再審査という形で有効性の判断をするわけでして、それは特許付与後の手続ですから、同様に適用があってもいいのではないかという気もするのですが、そこのところはどうでしょう。
 すなわち、CAFCに特有な形なのか、規定から見る限りそういうふうに書かれていないようなんです。それが1点目。
 2点目として、「まとめ」の方の(4)に、再審査手続と訴訟手続との調整のことで、て、先ほどの御説明を聞きますと、Aについて主に御説明があって、本文の方でも@Aと書かれておりまし主にそのことだけが書かれていて、裁判所が訴訟当事者に対して再審査請求をしたらどうかということを勧める、又は要求するということが@に書かれていますが、この点についての御説明がなかったのですけれども、これはほとんどないと考えてよろしいのかどうか、その2点でございます。
 それから、イギリスについて1点だけ御質問させていただきたいのですけれども、先ほど、禁反言ないしは既判力の問題なのかもしれませんが、特許が有効と判断されたときの効果の問題は御説明があったかと思いますけれども、逆に特許が無効とされたときの、対世効ないしは既判力で処理するのもしれませんが、そういった問題について、イギリスではどう取り扱われているのか。それは多分、特許の取消訴訟の場合と、侵害訴訟中の無効判断の場合とで違うのではないかと思うのですけれども、この点について教えていただければと思います。

○伊藤座長 ではアメリカからお願いします。

○平嶋研究員 1点目の方ですけれども、クリアー・アンド・コンビンシングな証拠については、確かにCAFCがこういった立場を採っているということではあるのですが、では、下級審の地裁レベルではどうかというお話ですが、この点は実は多少裁判所によって違いがあるということのようですけれども、CAFCが開設された以降については、割合にクリアー・アンド・コンビンシングという基準に従うという形になりつつあるのではないかということが言われているようであります。
 それから、特許商標庁における再審査の基準ですけれども、これは恐らく、先ほど申しましたように、特許商標庁における特許付与手続というものの解釈と、それから有効性、特許要件を満たすかという判断と、裁判所の判断というのはあくまで独立に判断するということになっているようでありますが、この点は、特許商標庁でこのクリアー・アンド・コンビンシングという基準をとっているということはなく、またとるべきという議論もあまりないということかと思います。
 178 ページの(4)の@も、先ほど時間の関係で十分に説明ができなかったかもしれませんが、実際、これは再審査について、報告書の本文の方の203 ページの注50でも触れましたように、確かに、有効性が争われるという場合について、裁判所の方が積極的に再審査の手続を請求するように勧めるという形で、実際に有効性について多少疑義があるという場合については勧めるということが行われているようであります。ですので、実際は先ほどのように、権利者側の方からというよりは、むしろ裁判所の方で、もう一回有効性について再審査をやってくださいという形になるというものもかなりあるということかと思われます。

○茶園研究員 無効の判断がどうかということですけれども、報告書の中でもありましたように、確かに取消手続の中で、無効事由があるということになると、それは対世効がありますから、それで特許登録簿から消滅して、それで終わりということになります。
 おっしゃいましたように、侵害事件で無効が抗弁されて、そこで無効判断されたらどうなるかと言いますと、恐らくそれは法的には当事者間だけにしか効力は働きませんので、それで登録簿から抹消されるということはないというのは明らかですけれども、事実上どうなるかというのはわかりません。恐らく当事者間だけですので、その後、同じ当事者間で争われる場合には、禁反言が働いて、特許権者の方は有効だという主張ができないということになると思いますけれども、当事者が異なった場合には、禁反言の効力は働きませんので、特許権者は自らの特許が有効だということを主張できると思います。
 その場合に、前の手続で無効だと判断されたことが影響しないのかという点に関しましては、明確ではないのですけれども、223 ページの第二パラグラフ、先に異なる当事者間の手続におけるというところですけれども、この引用しました文献によりますと、ある手続で何らかの判断が出された場合には、異なる当事者間でありましても、通常はその判断に従うということになっております。
 無効の判断を出された場合には、特に特許権者の方がそれを覆すような新しい証拠を出さない限りは、事実の問題としてそのまま維持されてくるのではないかと思います。
 御質問は法的にどうなるかということだと思うのですけれども、それはおそらくは、法的には何の影響もないということだと思います。

○村木氏 数の問題が多分影響してくるので、是非これに出願件数、裁判官の関与、それから、裁判の件数、もし、それがこれに付いておれば全体の制度としての設計の理解が早いので、何かそういう統計も付けていただければと思って、お願いでございます。

○伊藤座長 どうもありがとうございました。ほかにいかがでしょう。

○櫻井委員 前の方に戻ってもよろしいでしょうか。
 これは事前に質問が行っているのではないかと思いますが、大渕先生にせっかくの機会ですのでお伺いしたいのですが、この資料ですと84ページになりますが、先ほど1959年の判決に、制度改正前の特許庁の抗告部が裁判所かどうかという話があったかと思いますけれども、判決を自分で読めばいいのかもしれませんが、要するに、この抗告部は裁判所であるのか行政庁であるのかということが問題になっていると思うのです。特にその点につきまして、判決と言いますか、ドイツの議論の状況として、裁判所と行政庁をどう区別するのかという基準ですとか、あるいは司法権を行使して、残りは行政権を行使しているのかとか、その点についての議論があれば教えていただきたいということ。
 それから、この資料そのものではございませんけれども、御著書の方で同じ問題について触れておられまして、結局、特許裁判所になった後でも審理範囲が変わらなかったということを書かれておられますけれども、これは理論的に言うと変わった方がよかったわけで、変わらなかったという点については、むしろどういうふうに理解したらいいのかという点について教えていただきたいということです。

○大渕研究員 今の点につきましては、拙著『特許審決取消訴訟基本構造論』の22ページ以下に比較的詳細に論じてありますので、御一読いただければと思います。一言で今申し上げるとすれば、最初に御質問になった点の一番のポイントになるのは、担当の職員というか、制度改正後は裁判官になるわけですけれども、その職権の独立性がボン基本法(憲法)で裁判所として要求されているものに達していないという点であり、そのために、1961年の改正前の特許庁内にあった抗告部は裁判所とみなすことはできないということとなり、よって、その決定に対する行政訴訟の提起を認めなければならないということになったわけです。

○櫻井委員 そうすると、判断権者が職権行使の独立性があるかどうかという話だけで司法権か行政権か、行政庁か裁判所かとなるわけですか。

○大渕研究員 この判決はいろいろ論じていますが、今申し上げた、職権の独立性の欠如の点が、裁判所に当たることを否定する一番のポイントです。なお、付加的に、ボン基本法上は連邦裁判所というのはボン基本法に掲げられたものしか裁判所として設立できないということになっていて、特許庁抗告部が裁判所だとしたら、ラントの裁判所と思う人はいないでしょうから、連邦裁判所でなければならないでしょうけれども、ボン基本法には連邦裁判所のリストとして特許庁というのは挙がっていないという点も、理由の一つとして述べております。

○櫻井委員 多分、分析していくと、司法権のとらえ方というのは非常に日本の場合リジットで、これは最高裁の見解がおかしいと思いますけれとも、ヨーロッパの方がずっと広いし、かつ、もう少し無定型な感じだと私自身は理解しているのですけれども、そういうヒントになるような話があるといいなと思ってお伺いした次第でございます。

○阿部委員 裁判所で有効、無効が判断されるケースにおいて、どの国でもあれですけれども、職権探知とか、そういう動きというのはどういうふうになっているのでしょうか。当事者主義を貫いているのか。

○大渕研究員 ドイツの場合には、先ほどのように、無効というのは侵害裁判所では判断できず、無効手続で判断されておりますが、無効手続においては、職権探知主義が採られています。

○茶園研究員 イギリスもいろいろ文献を見ますと、特にその問題が特殊なこととは書いておりませんで、一般民事事件のように解されていますので、恐らく職権探知とかいうことではないのではないかと思いますが、申し訳ございませんが、十分に確認しておりません。

○菱田研究員 アメリカも恐らく、先ほど言ったように裁判所で有効・無効を判断するということになりまして、これも侵害訴訟か確認訴訟かという違いはありますけれども、基本的には民事訴訟の原則の中でということですので、あくまで民事訴訟の原則の、当事者主義の立場ということになるかと思います。

○近藤参事官 イギリスの場合の特許庁の手続の場合はどうでしょうか。

○茶園研究員 手続の規定だけを見ていますと、当事者主義が貫かれて、特許庁が当事者が主張していないことまで調べるという規定はなかったように思いますが、この点も、申し訳ございませんが、十分に研究しておりません。

○伊藤座長 この論点に限らず、本日の報告全体について、何か御質問等ございましたらお願いします。
 よろしいでしょうか。それでは、なお、御質問等があるかもしれませんが、予定の時間を過ぎておりますので、報告書全体に対する質疑応答、それから各論点についての質疑応答、この辺りでとどめたいと思います。今後、本検討会におきましては、国際的比較の視点に立って、知的財産訴訟の在り方を検討するにつきまして、この研究会の成果は、検討に大変大きな役割を果たすものと考える次第でございます。
 大渕研究員を始め研究員の方々におかれましては、御多忙にもかかわらず、大変精力的に調査研究をしていただきまして、また、その成果として報告書の作成に御尽力いただきまして、このことにつきまして、厚くお礼を申し上げます。
 最後になりますが、大渕研究員、今回の外国法制研究会を担当していただいた感想、それから研究会をやっていただいた立場から、本検討会に期待するものなどにつきまして、何か御発言いただければありがたいと思います。

○大渕研究員 ただ今、伊藤座長の方から非常にありがたいお言葉をいただきまして、一同を代表いたしまして、感謝申し上げます。
 先ほど伊藤座長のお話のあった点に関連いたしますけれども、この外国法制研究会というのは、知的財産訴訟の在り方を検討するに当たって必要となる、正確で客観的な比較法的資料を提供することを任務としているものと考えております。そのために、知的財産法の研究者のほかに、民事訴訟法研究者にも御参加いただきました。
 また、調査対象国といたしましても、米国、英国、ドイツというような特許法関係の中心的な国のほかに、超国家的な存在ではありますが、EU(欧州連合)も対象としておりますし、更にそのほかの若干の国も対象としております。
 このような総合的な比較法調査の体制というのは、今までになかったものではないかと思います。
 司法制度ないし裁判制度につきましては、各国間の歴史的、文化的な背景の差異もございまして、各国ごとの差異は非常に大きく、他の国の制度を理解するのはなかなか容易ではありませんし、また、時間の制約もございましたが、集中的で総合的な調査の結果、ようやくこのような報告書という形で結実することができました。
 知的財産訴訟検討会におかれましては、これを御活用いただいて、しっかりとした、真の意味で良い知的財産制度の構築の実現に向けて御努力いただければと思います。
 簡単ですが、以上です。

【次回の予定等、閉会】

○伊藤座長 大渕座長、研究員の皆さん、大変どうもありがとうございました。
 それでは、これをもちまして、第8回の検討会を閉会させていただきます。次回の本検討会の日程につきまして、事務局から連絡をお願いします。

○近藤参事官 次回、第9回の本検討会は6月23日月曜日、午後1時30分から5時まで、同じくこの会議室での開催を予定しております。
 次回はいわゆる第1論点である侵害訴訟における無効の判断と無効審判の関係等について2巡目の検討を行う予定ですので、よろしく御参集ください。

○伊藤座長 それでは、どうも長時間ありがとうございました。

(以 上)