少子化への対応を考える有識者会議
働き方分科会報告書
平成10年10月30日
少子化への対応を考える有識者会議
働き方分科会
働き方分科会報告書概要
●少子化は、労働力減少や高齢者比率の上昇を通じて、経済・社会に深刻な影響を及ぼす。
●少子化は、必ずしも人々が喜んで希望した結果ではなく、子育てと両親の就労継続との両立の困難さなど、結婚や子どもを持つことに伴う様々な制約によるものである。
●したがって、政府や社会全体の取組としては、これらの制約要因を除去し、子どもを産み育てる喜びや楽しさを多くの人が味わいやすい環境を整備することが必要。
●近年の出生率低下の主な要因は未婚率の上昇であるが、これは女性の社会的地位が低いままで経済的地位が向上し、人生設計の選択肢が大幅に広がったことと関連している。
●日本的雇用慣行は、男女の固定的な性別役割分業を前提としており、
@就業を継続する女性にとっては、職場優先の企業風土の中での男性並みの働き方を求められる一方で、育児負担は女性に重く、育児と仕事の両立には困難が伴う。
A結婚・出産を機に女性が退職した場合には、再就業に困難が伴う。
このように、女性にとっては結婚で失うものが大きく、就業した女性が結婚をためらう度合いが強くなっている。このことが、未婚率の上昇の大きな要因となっている。
●既婚者についても、日本的雇用慣行の下では、多くの場合、女性の就労継続と育児を両立させていくことに様々な困難があり、出生率の上昇を期待できない。
●農村地域の未婚率上昇は、農村において女性が置かれている状況が影響している。
●多様な働き方が可能な社会は、子育てと就業の両立が容易で、子育てのある人生に夢を持ちやすい社会である。そして、そのような社会の実現が、社会に新たな活力をもたらすことも期待できる。
(1)男女の性別役割分業を前提とした職場優先の企業風土の見直し
- 日本的雇用慣行を支えている男女の固定的な性別役割分業の見直しが必要。特に男性の意識と行動の変革を。
- 子育てをする男性の美しさの広報啓発を。
- 女性のみを対象とする総合職・一般職制度の撤廃を。
- 農村部での家族経営協定(家族間での役割分担等の取り決め)の締結促進を。
- 性別役割分業を前提とした制度・慣行を家族の就業形態に中立的なものへ。
- 企業トップ等の研修実施、先駆的取組を行う企業が結集してのキャンペーン実施を 等。
(2)職場における仕事と育児の両立支援への取組
- 残業削減目標の設定や会議等の意思決定過程の見直しなど、仕事の合理化(能率アップ)による就業時間削減を。
- 在宅勤務、弾力的勤務時間など時間的に融通の効く就業形態の推進、短時間勤務などによる育児時間の確保を。
- 父親の育児休業取得義務付けや育児休業取得者の代替要員等についての工夫など、育児休業の取得促進を。
- 住宅手当の世帯主以外への支給を行うとともに、職住近接の実現を。
- 年功・生活給ではなく能力や仕事内容に応じた賃金制度、公平・公正な業績評価を 等。
(3)出産・育児を機に退職しても過度に不利になることなく再就業できるような労働市場の実現
- 中途採用の拡充、個人の賃金制度の選択肢を増やすなど、雇用の流動化に対応した措置を。
- 人生設計の考察機会の提供の充実、再就業について情報提供や公的助成を 等。
(4)職場における取組を支える社会の仕組みづくり
- 企業の育児支援の取組について、表彰の実施、ISO(国際標準化機構の認証制度)への位置付けや公認マークの付与、第三者機関による格付けなど、企業の取組を勧奨・評価監視する仕組みを。
- 保育所の整備、延長保育・休日保育・夜間保育など保育時間の弾力化、放課後児童クラブの対象者や事業実施時間等の拡充など、保育サービスの充実と利便性向上を。
- 空き教室などを育児中の親のフリースペースに活用、子育て情報の提供・交換促進を 等。
(5)その他
- 育児に係る経済的負担軽減措置については、現金給付について、必要との意見と優先順位としては低いとの意見があった。また、子育て減税や保育費用の所得控除などを実施すべきとの意見があった。
- 子育ての楽しさの広報、不妊治療(人工授精等)等への医療保険適用を 等。
働き方分科会報告書
平成10年10月30日 少子化への対応を考える有識者会議 働き方分科会 |
はじめに
過去20年以上続いている少子化の進行には、日本で広く行われてきた雇用慣行が深く関わっている。結論から言えば、日本では男女の働き方を見直していかなければ出生率の上昇を期待することは極めて困難であるといっても過言ではない。
働き方分科会においては、少子化への対応を考える有識者会議から示された検討事項を踏まえ、少子化はなぜ問題なのか、働き方と少子化はどのような関係にあるのか、といった基本的な論点について意見交換を行った上で、今後、働き方についてどのような見直しを行うべきか、各参加者の直接間接の経験と考察に基づき、可能な限り具体的な提案を行うことを目指して討議を重ねてきた。
討議時間の制約から、掘り下げた検討を加えるにいたっていない部分も少なくないし、事柄の性質上、提案内容の実際の効果を事前に実証的に示すことには困難な面もある。しかし、ここでは、個々の提案の効果について精緻な議論を行うよりも、ある程度合理的であると考えられる方策であれば積極的に実践していくことが求められるのではないかという考え方に立って、あえて議論を絞り込むことなく、幅広く報告書に盛り込むこととした。これは、第一に、少なくとも子育てと両親の就労の両立を現在ほど「しんどい」ものでなくしていき、共に働きながら子どもを育てる喜びと責任も担っていきたいと願う男女が、その希望を実現しやすい世の中にしていくことは、それ自体望ましいことであると考えるためである。また、第二に、このまま急激な人口減少が継続した場合には長期的に取り返しのつかない深刻な事態につながり、現在まだ間に合う限りにおいて少子化の進行を緩和する可能性のある環境整備に努めることは現在生きている私たちの将来の世代に対する責務であると考えるためである。
この報告書を有識者会議として具体的な提言を行っていくためのさらなる検討に際し最大限活用いただくことを願うとともに、政府及び雇用主をはじめとする関係各方面においても、少子化対策の重要性に鑑み、可能なものから速やかに実行していくよう検討を開始することを望むものである。
1 少子化はなぜ問題か。
個別の議論に入る前に、まず、少子化はなぜ問題か、という基本的な論点について大づかみに整理しておきたい。
- ●少子化が進み、人口減少社会になろうとしている。
- 日本の出生率は、戦後の第一次ベビーブームの時期を過ぎた1950年頃から急速に低下し、1950年代半ばに合計特殊出生率は2.0をやや超えるくらいまで下がった後、20年間ほどは、概ねその水準で推移していた。しかし、その後再び低下を始め、現在にいたる過去20数年ほどの間は基本的に低下し続けており、1997年には1.39と、人口を維持するのに必要な水準である2.08を大幅に割り込んでいる。
このような趨勢を踏まえて行われた国立社会保障・人口問題研究所の最新の人口推計(1997年1月)によれば、2007年頃をピークに日本の人口は減り始め、わずか50年程度で現在より2500万人程少ない約1億人となり、さらに100年後には現在の約半分の6千数百万人になる。また、その間、人口の年齢構成を見ると、高齢層の比率が急速に高まっていき、2050年には65歳以上の比率は32.3%に達すると見込まれている。総人口の急減と高齢化が並行して進行していく人口減少社会が現実のものになろうとしているのである。
- ●少子化は経済・社会に深刻な影響を及ぼす。
- 人口規模が日本より小さい国は多数あることを考えれば少子化で人口が減っても特に困らないのではないか、むしろ国民一人当たりの空間は今よりも広くなるのでゆとりが生まれるのではないか、日本でも過去を振り返れば人口規模の小さな時代もあったではないか、といった言説も時に見受けられる。しかし、日本でこのまま少子化が続いた場合に確実に進む人口減少の全体としての基本的な問題は、日本が人口規模の小さな国になること自体ではなく、人口が減少する過程で様々な経済・社会的な問題が生じてくることである。現在の豊かな生活水準を維持したままで人口規模だけが小さくなり、大都市の混雑が避けられる、といった都合のよいことにはならないのである。
経済面の問題は、まず、労働力人口が相当な規模で減少し、かつその年齢分布の比重が高齢側に変化することが、国民経済全体の成長にとって基本的にマイナスに働くことである。また、人口減少は市場規模の縮小要因でもある。一方、高齢者比率の増加は、現行の諸制度を前提にすれば、社会保障給付費の増加要因であり、現役世代の負担増につながる。これが低成長とあいまって、結果として現役世代の手取り所得が減少するとともに世代間の公平性が著しく損なわれることとなる可能性がある。また、低成長は勤労所得の相対的な減少と資産所得の増加など所得格差の拡大をもたらす要因となる。もとより所得の増大がすべてではないが、戦後の経済成長は、親の世代よりも子どもの世代の方がより豊かになれるという将来への希望を生むとともに、社会階層間の流動性を高めるなど、活力ある社会を生み出す原動力であった。現在の社会制度のままで、少子・高齢化が急速に進展すれば、企業の投資活動が停滞し、個人が働いても報われない、停滞した社会になっていく危険がある。
社会面では、全国各地で過疎化・高齢化が進行し、市町村によっては住民に対する基礎的なサービスの提供が困難になる懸念や、子ども数の減少により子どもの社会性が育まれにくくなるのではないかとの懸念などがある。また、子ども一人当たりに期待と手間をかけすぎ、かえって育児ノイローゼや子どもの負担過重につながりやすいのではないかという指摘もある。人口減少により環境への負荷は減るのではないかとの見方もあるが、環境配慮にも経済力を要することを考えれば、どれだけ期待できるか疑問である。
- ●少子化は必ずしも人々が喜んで希望した結果ではない。
- 出生率の低下は、国民一人一人の結婚や出産という極めて私的な事柄に関する自由な選択の積み重ねの結果であり、仮に少子化の進行が社会経済全体に前述のような深刻な悪影響をもたらすとしてもやむをえないし、あくまでも私的な事柄であるので政府や社会全体があれこれ介入すべきではない、との見方もある。
しかし、私たちは、現在進行している少子化には、必ずしも人々が喜んで希望した結果ではなく、むしろ、現在の様々な社会的な歪みのために人々の本能的で根源的な希望の実現が損なわれているという側面があると考えている。後述するように現在の少子化の最大の要因は未婚率の上昇であるが、各種の意識調査結果などを見ても、生涯独身を望む若い人が顕著に増えてきた訳ではない。また、夫婦の子どもの数については、その点に関する意識調査が初めて行われた20数年前から最近まで一貫して、理想とする子ども数の平均は実際に産まれた子ども数の平均よりも多いというデータもある。それにもかかわらず現実には出生率が低下し続けているということは、それが人々が望んだ結果であるというよりも、結婚や子どもを持つことにともなう様々な制約の高まり、特に子育てと両親の就労継続との両立の困難さや、住宅の制約、教育に関する懸念及びとくに農村地域においては低い女性の社会的地位等の社会経済的な要因によって生じた面も大きいと考えられる。
- ●政府や社会が少子化への対応に関わる際の基本姿勢は、環境整備である。
- 以上述べてきたように、現在の少子化の流れに歯止めがかからない場合、結果として社会経済全体には大きな悪影響があると考えられるが、だからといって人々の結婚年齢や出産数について社会全体として目標をたて、子どもを持つことを希望しながら様々な事情で持てないでいる人や、子どもを持たないことを信念としている人も含め、国民に対し圧力を加えるようなことは、わが国においては決して行われることがないようにすべきであると考える。
- しかし、これも前述のとおり、日本の少子化には、人々の本来の希望が社会経済的な要因により妨げられている結果の現象であるという面があると考えられる。そうであれば、政府や社会全体がそれらの制約要因を除去し、子どもを産み育てる喜びや楽しさを多くの人が味わいやすい環境を整備するよう努めることは、第一に人々の人間的な希望を実現しやすい世の中を築くという意味でそれ自体望ましいことであり、また第二にそれによって現状維持の場合よりは出生率の回復が期待できるようになることにより、結果として社会全体にとっても少子化の悪影響を緩和する可能性が生まれるという意味で望ましいことである。私たちは、このような考え方にたって、環境整備の方策を検討した。
- なお、少子化への対応を考える有識者会議からは、以上の意味での環境整備の方策とあわせて、「人口成長を前提として組み立てられてきたこれまでの社会の枠組みを人口減少社会に適合するものに転換していく方策について、男女共同参画の視点も含めた幅広い観点から検討する」ことも求められている。この点については、私たちは、以下に報告する子どもを産み育てやすい環境整備としての働き方の見直しの提案が、男女の就労と子育ての両立支援や多様な働き方ができるようにすることなどを中心としているものであることから、同時に女性や高齢者などがこれまで以上に働きやすい世の中を築いていくことにつながり、人口減少による労働力減少に対する緩和策としても機能するものでもあると考えている。
2 少子化の要因と日本の働き方の関係
働き方分科会では、少子化への対応として働き方に関わる事項を中心に提案を行うが、その前提として、少子化の要因と日本の働き方の関係について考察を加えた。
- ●近年の出生率低下の要因としては、既婚者の出生率低下よりも、未婚率上昇の影響の方がはるかに大きい。
- 出生率低下は、未婚率の上昇と既婚者の出生率の低下という二つの要因に大別することができるが、特に1980年以降は、未婚率の上昇による影響が大きく、特に20歳代から30歳代前半層の未婚率が上昇したことにより出生率が大きく低下してきている。
- ●未婚率上昇は、女性の経済的地位の向上と関連している。
- 近年の未婚率上昇は、女性の経済的地位の向上と関連していると考えられる。女性の進学率が高まり、高い収入を得られる就業機会が増えると、結婚して夫の被扶養者になる道以外の人生設計の選択肢が大幅に広がり、それが未婚率の上昇をもたらしている。女性の経済的地位の向上自体は逆もどりさせるべき事柄ではないことはいうまでもないし、これが結果として晩婚化だけでなく生涯の未婚率の上昇につながることは、おそらく先進国に共通した現象であると考えられる。
- なお、日本の場合、女性就業の進展のひとつの指標として4年制大学への進学率をとると、その上昇率は最近になるほど加速しており、男女間の格差は急速に縮小している。また、女性の大学での専攻分野が、女性が伝統的に集中していた文学部や教育学部から、法律や経済、理工、医学部など、より収入の高い就業機会と結びつきやすい分野へのシフトが生じていることも大きな特徴である。
- また、女性の大学進学率には、教育費を負担する家族の所得水準が影響すると考えられるが、これに加えて家族当たりの子ども数も重要である。兄弟姉妹が多かった時代には、男の子は4年制大学に、女の子は短大に、というパターンが多く見られたが、子どもの数が1〜2人であれば、男女にかかわりなく4年制大学へということになり易いと考えられる。このように、仮に少子化が女性の高い進学率につながり、それが未婚率上昇・出生率低下につながれば、少子化と女性の進学率上昇との間に循環的な関係が見られるという見方もある。
- ●日本では、固定的な雇用慣行がもたらす職場優先の企業風土などが、未婚率上昇の助長要因となっている。
- 日本の場合には、雇用を長期的に保障する固定的な雇用慣行が存在することによって、女性の経済的地位の向上が、欧米以上に、未婚率上昇につながっていると考えられる。
- 日本的雇用慣行の大きな特徴は、職場や家庭での男女の固定的な役割分担と密接に結びついていることなどである。この点については後述するが、このような雇用慣行の下では、とりわけ女性は結婚により失うものが大きいこととなり、結婚をためらう度合いが強くなると考えられる。
- 具体的には、日本では結婚は出産につながるものという認識が強い一方、性別役割分業の下で育児負担は女性に重くかかる。また、就労継続しようにも長時間労働や転勤の強制など、「内助の功」付きの男性並みの職場優先の働き方を求められ育児との両立は困難である。しかし、だからといっていったん退職するとそれ自体収入減となり、また、再就職は賃金の相当な低下を伴うパートタイム的形態しか期待しにくい。税制や社会保険などの諸制度も、配偶者の就労収入の一定以上の増加に対して抑制的に機能する場合がある。なお、これら諸制度の下で収入を一定以下に抑えたい主婦は、企業から見れば、一方ではパートタイマーとして、社会保険料雇用主負担なしでリストラ等に際しても活用できる安い労働力であり、他方では企業の基幹的労働力である夫を支える存在でもある好都合な存在とも言える。
- このような現実を見通した場合、就職しており自活の道がある女性が結婚をためらう度合いが強まるのは不自然ではない。少なくとも、すでにある程度の収入と生きがいを得られる仕事に就いている女性にとっては、よほど条件の良い相手でもなければ、結婚自体を躊躇させ、結果的に未婚率の上昇につながっていることは否定できないと考えられる。
- 独身者の意識調査(注)でも、結婚相手の条件として、男女とも第一は「人柄」であるが、第二は女性では「経済力」であるのに対し、男性では「容姿」であり、男性が結婚相手の女性の経済力を重視する比率が低くなっている。これは、女性には男性よりも打算的な人が多いと解釈すべき統計ではなく、男性は結婚により自らの勤労収入を自分だけで自由に使うことは制約されるとしても、収入水準自体にマイナスの影響が出ることはほとんどないが、女性は先々退職せざるを得ない確率が高いという現状があるため、将来にわたる自らの勤労収入を失うことを埋め合わせるほどの高い経済力がある男性であるか否かを重視する傾向にあるのではないかと考えられる。
(注)第11回出生動向基本調査「結婚と出産に関する全国調査」独身者調査の結果概要(平成10年10月国立社会保障・人口問題研究所)。なお、この意識調査では、25〜34歳の男女の独身の理由(三つまでの複数回答)に占める「自由や気楽さを失いたくない」と「必要性を感じない」の割合(男性3割程度、女性3〜4割)が微増しており結婚観の変化などもうかがわれる。しかし、最も多い理由は、「適当な相手にめぐり会わない」(男性46%、女性52%)であり、この背景には、本文で述べているような働き方との関係があると考えられる。
- ●日本的雇用慣行は、性別役割分業を前提とし、職場優先の風土を助長しており、また中途退職後の再就職を困難にしている。
- 日本では、企業が、新規学卒者を一括採用し、長期雇用を前提として、雇用者が若年の時は賃金を上回る貢献をしながら、企業内訓練により中高年期になって蓄積された教育・訓練への対価として、貢献度を上回る賃金を支払うことにより、企業固有の技術を持つ熟練労働者を長期に確保する仕組みが広く行われてきた。この日本的雇用慣行は、企業の投資意欲を促進する人口の増加と高度経済成長という経済環境の下で、企業と雇用者の双方に利点のあるものとして、戦後の日本の企業に広く普及し、定着した。
- 日本的雇用慣行は、男性は仕事に専念し、女性は出産・育児期は退職して育児等に専念するという性別役割分業を暗黙の前提としてきた、男性中心の企業風土と言ってもよい。この慣行の下で、基本的には男性は基幹労働、女性は補助労働と位置付けられ、配置・配置転換、職場での教育訓練、賃金水準、昇進などにつき大きな差異があった。男女雇用機会均等法の施行により女性の職域拡大や管理職への登用は進みつつあるが、なお男女間格差が見られる状況にある。賃金体系における配偶者手当、税制における配偶者控除、年金制度における第3号被保険者、医療保険制度における被扶養配偶者の位置付けなど、様々な制度・慣行も、夫が働き妻はいわゆる専業主婦となる家庭が多数存在することを前提とし、これを支える機能を有しているものが少なくない。
- また、このような妻の内助の功に支えられた夫を主たる対象として、同一企業内で長期雇用を保障し、間接的にその家族の生活を安定させる雇用慣行は、職場での仕事を家庭生活に優先させる企業風土を強固なものにしている。欧米の企業と比べ、日本企業では、雇用者は、長期の雇用保障の見返りに、その仕事の内容や働き方に関する選択の自由度を相当程度失っており、頻繁な配置転換や家族ぐるみの転勤、あるいは家族が別居しなければならない単身赴任なども拒否しにくい。また、企業は、不況時における解雇等による雇用調整を極力避けるため、好況時の生産増等に対応するための手段として、雇用者の増加よりも残業時間の増加を選好する傾向にあり、これが比較的長時間の残業につながっているという面もある。年功賃金や配偶者手当・社宅等の周辺的な給付は、男性が妻子を扶養するための「生活給」の考え方に基づいている。
- この固定的な雇用慣行の下では、結婚後も就業を継続する女性にとっては、長時間労働や転勤の強制など、「内助の功」付きの男性並みの働き方を続けなければならない。また、正規社員の中途採用は限定されているため、仮に育児等のため、いったん退職した場合には、生涯パートタイム就業者となるなど従前の就業条件を維持することが著しく困難な場合が多く、生涯所得の逸失額はきわめて大きなものとなる(平成9年度「国民生活白書」によれば、正規社員として就労継続した場合と比べた出産退職・再就職者の所得格差は、一定の前提の下で6千万円に相当するという試算もある)。従って、企業で働く女性の選択肢は、結婚せずに就業を続けるか、それともいったん退職して専業主婦として子育てをするかという、極めて限られたものが中心となるという状況につながっている。
- こうした日本的雇用慣行の下で子育てと就業とを両立させることの困難さは、結婚前から周知の事実である。このため、前述したとおり、就業している女性が結婚をためらうことは不自然ではなく、結果的に未婚率を高めることの大きな要因となっているのである。
- ●既婚者の出生率も、日本的雇用慣行の下では上昇を期待できない。
- 既婚者についても、日本的雇用慣行の下では、実家の祖父母の支援を得られる場合はまだしも、共働きの夫婦だけで両親の就労継続と育児を両立させていくことには様々な困難がある。このため、子どもを持つことをためらう、あるいは一人目までは何とか就労継続と両立しえた場合であっても、二人目以降の出産をためらうという動機には強いものがあると考えられる。また、既婚者の出生率は、結婚年齢の高まりとともに次第に低下する傾向がある。これは体力的な要因だけでなく、働いている女性の場合、勤続年数の長期化にともなう仕事責任の高まりから、育児休業後の就業と子育てとの両立がいっそう困難となることが考えられる。この意味で、企業のなかで、従来の「内助の功」付き男性を前提とした長時間労働から、個人の働き方についての裁量度を高め、時間当たりの生産性を高める方向への改革は、未婚者・既婚者を問わず、必要とされている。
- ●農村地域における未婚率上昇は、農村において女性が置かれている状況が影響している。
- 農村の女性は、農業就業人口の6割を占め、農業・農村の重要な担い手として活躍しているが、農業労働に従事しながら、家事・育児・介護等に加え地域の諸行事にも参画するなど過重な負担があり、ゆとりが持てない状況にあるのが実態である。一方、農村の男性は結婚してもこれらの負担は女性と比べ圧倒的に少ないままである場合が多い。
- このような実態が女性が農村を敬遠する原因となっており、農業・農村が女性にとって魅力あるものとなるよう、農村地域に残る古い因習や固定的な性別役割分業意識の改革と、農家労働の改善などを進めることが必要とされている。また、こうした点を改善するためには、農家における共同経営者としての女性の地位を確立するため、農村女性の農業経営参画の促進と自立支援の一層の充実が求められている。
- ●多様な働き方が可能な社会の実現は、子育てと就業の両立を容易にするだけでなく、社会に新たな活力をもたらすことも期待できる。
- 近年、情報化の進展に伴い、パソコン等の情報通信機器等を利用して在宅等で仕事を行うテレワークなど、時間や場所の制約を受けない働き方が注目を集めている。日本的雇用慣行が見直され、またこのような新しい働き方も普及した、多様な働き方が可能な社会は、育児も織り込んだ人生設計を立てやすい、子育てと就業の両立がこれまでよりも容易な社会にほかならない。
- また、子どもを育てることは、多くの大人たちにとって、働くための「はり」をもたらすことでもある。子どもたちにとっても、大人が、家庭や地域での生活に積極的に参画しながら、生き生きと働いている姿を見ることは、将来の自立した人生の希望にもつながるのではないか。
- このように考えれば、多様な働き方が可能な社会は、子育てのある人生に夢を持ちやすい社会であると言えるのではないか。
- さらに、日本的雇用慣行の下で個人の生活よりも仕事を優先してきた人々が、個人の生活に従前よりも目を向けるようになり、社会の意識や慣行により就労機会や報酬の面で不本意な状況しか選択できなかった人々も、個々人の状況に応じた仕事に就けるようになれば、そこに新しい社会経済活動分野が生まれる。そして、いわば職場と家庭・地域との垣根が低くなり、これまで特定の分野にしか活かされてこなかった様々なものの考え方や手法などが、より広範な分野で活用されるようにもなり、社会経済活動を活性化することも期待できるのではないか。
- なお、多様な働き方が、不当な低賃金や不安定雇用とならないよう、最低賃金、雇用保険、労災、社会保険等、社会的なセーフティ・ネットは同時に確立されなければならない。
3 少子化への対応としての働き方の見直し
日本の大企業や官庁に典型的に見られる固定的な雇用慣行は、雇用の安定と労働者の熟練形成に大きな貢献を果たして来た。しかし、経済環境の変化や女性の経済的地位が高まる一方で、雇用慣行はとりわけ女性にとって結婚・出産により失うところが大きいものとなっていることが、日本における近年の出生率低下を助長している要因と考えられる。このような状況の中で、ときに、出生率回復のためには、女性が男性のように仕事第一の生活ではなく、家庭に戻ることを生きがいとすべきである、という考え方に立つ対応方策が提案されることがある。しかし、女性の就業を抑制する方向での政策は、男女共同参画の視点からも、また日本の労働力供給が数年後には減少に向かうことが明らかになっている中で、女性の就業率はいずれにしても高まらざるを得ないという現実から見ても、不適当であると言わざるをえない。働きたいと願う女性を、子どもがいるということで「コストがかかる」とみなし、不況時の解雇対象とするようなことは、長期的には企業や社会の発展にとって損失である。
したがって、対応の方向は、女性の就業を前提とした上で、男女ともに仕事と家庭と地域の責任と喜びを両立することが容易になるよう支援することを基本としていく必要がある。このため、これらの両立を妨げる結果となっている制度慣行は見直していくとともに、両立支援のために必要な仕組みを強化していくことが求められる。
また、その際に、企業経営者にとって「女性はやはりお荷物だ」ということとならないよう、両立支援は、「次世代を担う人達のために取り組むべき社会全体の問題」であるとともに「企業の経営戦略上も重要な問題」であり、また「男女従業員にとって大切な問題」であるという基本認識について社会的な合意形成を図っていく必要がある。
このような考え方に立って、以下、(1)男女の性別役割分業を前提とした職場優先の企業風土の見直し、(2)職場における仕事と育児の両立支援の取組、(3)出産・育児を機に退職しても過度に不利になることなく再就業できるような労働市場の実現、(4)職場における取組を支える社会の仕組みづくり、(5)その他の5つの分野に大別して具体的な提案を行うこととする。
(1) 男女の性別役割分業を前提とした職場優先の企業風土の見直し
- @男女の性別役割分業の見直し
- 働き方を見直していくためには、まずは、日本的雇用慣行を支えている男女の性別役割分業を隅々まで見直していくことが必要。また、その際には、特に男性の意識と行動を変革していくことが重要ではないか。
- 子育てをする男性の美しさ、母親とそれ以外の者が育てることに差がないことなどについて更に広報啓発することが必要ではないか。また、男性の育児等への参画状況を調査し、明らかにすることが必要ではないか。
- 育児休業を取得している者がほとんど女性である現状を改めるため、男性の育児休業取得を推奨したり、更には男性の短期間の育児休業取得の義務付けが必要ではないか。
- 女性のみを対象とする総合職・一般職制度は、現実には行われている採用時の男女差別、あるいは結婚・出産等を理由に退職を勧奨する風土を助長しているとともに、また、一旦総合職から一般職に変わった場合にその後総合職に戻る道はない場合が多いなどの問題もあり、撤廃することが必要ではないか。
- 特に農村部では、子育てに関する学級への夫婦での参加促進などを通じた男性の意識改革と、家族間において就業条件や経営の役割分担、収益配分などについて文書で取り決めを交わす家族経営協定の締結を促進することが必要ではないか。
- 税制における配偶者控除、年金における第3号被保険者、医療制度における被扶養者など性別役割分業を前提とした様々な制度・慣行を、家族の就業形態に中立的にすることが必要ではないか。また、これらの制度については、被扶養配偶者が子育て中である場合に適用を限るべきではないかとの意見もあった。なお、厚生年金の給付設計など世帯単位の年金制度も、世帯主である夫に扶養される妻という性別役割分業を前提としており、個人単位化が必要ではないか。
- 企業の福利厚生も配偶者手当や世帯主のみに与えられる社宅など、性別役割分担に基づく世帯単位のものが多いが、これを個人単位に改めていくという考え方を広く導入すべきではないか。また、被扶養者でない配偶者の利用を排除する福利厚生制度は、結果的に被扶養の配偶者を優遇しており、廃止すべきではないかとの意見もあった。
- 職場における旧姓使用を認めなかったり社内結婚時に夫婦いずれかの退職への圧力があるような不文律を解消すべきではないか。
- 管理職・専門職の一定比率は女性とするという目標を設定することも有効ではないか。
- シングルマザーに対する社会的差別感を払拭していくことが必要ではないか。
- 学校における男女混合名簿については未だ実施率が低いところもあり、男女共同参画の観点の教育を一層充実することが必要ではないか。
- 既存の企業風土の中で働いている世代の意識・行動の変革には困難な面があるが、少なくとも今後社会人となる若い世代には、「男も女も仕事も家庭も」という新しい考え方を様々な場を通じ教育していくことが必要ではないか。
- A企業風土の見直し
-
- 性別役割分業を前提とした職場優先の企業風土の見直しには、企業のトップの意識の在り方が非常に重要であり、女性が出産後も継続就労を選ぶことは特別な例外ではないという前提に立ち、育児と仕事の両立がしやすい職場の在り方についての企業の経営者の研修を行うことが必要ではないか。また、職場全体の雰囲気づくりを進めるためには、子育て関連制度の利用促進について管理職、中間管理職、社員がともに受ける研修が必要ではないか。
- 先駆的取組を行う企業が結集してのキャンペーン実施など、好事例を広報啓発していくことで企業全体の意識改革を進める工夫を行うべきではないか。
(2) 職場における仕事と育児の両立支援の取組
- @就業者全体の職場への拘束時間の削減
- 子育て期だけを対象とした残業規制ではなく、社会全体として残業が前提となっている働き方を見直すことが必要。
●仕事の合理化(能率アップ)による就業時間の削減
- 時間当たりの仕事の効率性を評価する仕組みを開発することが有効ではないか。
- 残業削減や有給取得目標を設定するとともに、その達成度により管理者を評価することが必要ではないか。また、目標の内外への宣言が有効ではないか。
- 残業禁止を企業方針とすることにより時間当たり生産性の向上が図れるのではないか。
- 残業削減や残業禁止の推進に当たっては、残業するがそれを申告できないといういわゆるサービス残業の防止措置の充実が不可欠である。
- 残業抑制に際しては、残業に対しては残業時間に応じ課税するという強い抑制策を講じるべきではないか、あるいは残業手当を無くした方が働き手本人の意識を変えられるのではないか、また残業時間の上限引き上げについては、労使協定制ではなく、公的機関の承認制に改める規制強化を行うべきではないかとの意見があった。その一方で、むしろ残業したい人が先進国並の高い割増率で残業する自由を尊重し、過度に規制しないよう留意することが必要ではないかという考え方もあった。
- 管理職について、業務効率化や育児と仕事の両立という観点の管理能力の向上のための研修を実施するとともに、当該管理能力を評価することが必要ではないか。
- 稟議制の見直し、下位担当者の裁量範囲拡大など、意思決定過程の無駄を排除することが必要ではないか。
- 会議については、所要時間の短縮やその勤務時間内開催を徹底することが必要ではないか。また、保育所への送迎に必要な時間も考慮した会議開催時間などのガイドラインを作成することが有効ではないか。
- 大量の資料のコピーを防ぐなどペーパーレス化が有効であり、そのための基本的技術の徹底が必要ではないか。
- ●時間的に融通の効く就業形態
- 在宅勤務やSOHO(ソーホー:スモールオフィス、ホームオフィス:自宅や小さな事業所でパソコンやインターネットを駆使して仕事をする人たちの仕事場)の推進が有効ではないか。また、そのためには、成果報酬型賃金制度の推進や情報通信基盤の更なる整備、通信機密確保のためのガイドラインの整備が必要ではないか。
- 地域の中で仕事を起こし、地域に根ざした生活の中で、男女ともに、仕事と家庭と地域のいずれについても、その責任と喜びを全うしていけるような働き方、生き方を推奨していくことも必要ではないか。
- 時間差勤務や日勤・夜勤の当番制など、業務に最適な勤務時間を設定することが有効な場合があるのではないか。ただし、保育時間とのミスマッチ拡大を懸念する意見もあった。
- 交替制勤務を、就業者間の公平を確保しつつ推進する上で、深夜割増賃金率を引き上げる制度が有効ではないか。ただし、労働時間抑制に働くか疑問との意見もあった。
- 裁量労働制については、投入時間にとらわれない弾力的な働き方を可能とすることで、子育てとの両立にとってプラスになる面もあるのではないか。ただし、長時間労働を是とする風潮と管理職意識の是正がなされなければむしろ長時間労働を助長する懸念があり、管理職の評価能力と本人の裁量活用能力を養う研修を行うとともに、利用者の判断による運用がなされているかという点について、企業内で評価する仕組みや公による監視が必要ではないか。
- 派遣労働については、登録型ではなく常用型にするとともに、職種を限定することが必要ではないか。
- ●効率的な人員配置
- 企業全体を見渡せば、効率的な人員配置により、特定の部署について残業が多い状況を解消できるのではないか。
- ●時短促進を図る賃金制度
- 企業に時短促進への動機を付与するため、残業割増賃金率の引上げを図ってはどうか。ただし、労働時間抑制に働くか疑問との意見もあった。
- A特に育児期間にある者の職場への拘束時間の削減
- ●育児休業の取得促進
- 育児休業取得率が一定以上である企業について、表彰や報奨金支給などの支援措置を実施することが有効ではないか。
- 育児休業取得者の新たな部署への配置転換を前提に元のポストに代替要員を充てるなど、人事ローテーション上の工夫ができるのではないか。ただし、配置転換先が昇進の望めないポストとなる恐れが大きいとの意見もあった。
- 育児休業後に原職に戻れる保障がないと育児休業取得をためらう人もあり、本人が配置転換を希望しない場合には、原職に復帰させることを義務付けるべきとの意見があった。また、育児休業後の一定期間は、本人が希望した場合には、休業前の原職にではなく仕事の負荷のより少ない部署に配属し、その後、希望に応じ再び負荷の大きい部署に復帰する機会を設けるという仕組みも有効ではないかとの意見もあった。
- 育児休業中の代替要員については、正社員を充てるよりも臨時社員で対応した方が、本人の復職時の職場確保に資する面があり、派遣社員や既に退職した者の活用など、代替要員の確保に柔軟に取り組んではどうか。特に中小企業については、自力では代替要員確保が困難であり、派遣社員での対応を促し、その費用を一部助成するなど公的支援を行うことにより、従業員が育児休業を取得しやすくなるのではないか。
- 育児休業取得者の代替要員の補充がない場合には、部署内の他の就業者に仕事負担増に見合った給与面の配慮をすることも考えられるのではないか。なお、その場合の費用は、企業全体で負担することが適当と考えられる。
- 育児休業給付金は、現在、休業開始時賃金の25%を上限として支給されているが、これを就業時所得の60%程度に引き上げることが必要ではないか。
- 男性の育児休業取得が極めて少ないことから、ポジティブ・アクションとして父親にも1月程度の育児休業取得を義務付けたり、交替で両親とも育児休業を取得(ひとり親の場合はその親のみで両親とみなす)した場合の育児休業給付金の額の上乗せにより取得を誘導することが必要ではないか。ただし、両親とも取得した場合を母親のみ取得した場合よりも高い給付金とすることについては、平等に反し、誘導策としてとるべき手段ではないとの意見もあった。
- パートタイム労働者が育児休業をとりやすくするようにしていくことが必要ではないか。また、期間を定めて雇用される場合でも育児休業をとれるよう制度改正するべきではないか。
- 育児休業後に復職する者を支援することは企業にとっても利益になるものであり、復帰のための研修や職場情報の提供、多様な復職先の準備などが必要ではないか。
- 育児休業を取りやすくするため、育児休業期間中の社会保険料は事業主負担分も免除することが必要ではないか。
- ●育児時間を確保しつつ働ける職場の実現
- 短時間勤務、週休4日、弾力的勤務時間など育児者が活用しやすい就業形態を導入することが必要ではないか。
- 雇用主にメリットを付与することが重要であり、フルタイムで働く者との公平も考慮すると、短時間勤務制度は勤務時間に応じた給与の引き下げを伴うこととすることが、短時間勤務の実施促進と定着に有効ではないか。また、その方が気兼ねがなく、周囲の理解も得やすいという当事者の声もある。ただし、懲罰感を強くし逆効果であり、減給方式に反対するとの意見もあった。
- 当人の希望に応じ、子どもが小学生くらいまでは、残業の少ない部署や職種へ異動することを可能とすべきではないか。
- 育児休業法上は、事業主は、1歳に満たない子を養育する労働者について、短時間勤務制度、フレックスタイム制、所定外労働をさせない制度、事業所内託児施設の設置運営などいずれかの方法を講じることとされているが、育児のための短時間勤務制度の実施は事業主に義務付けることとした上で、他の方法の中から少なくとも一つは短時間勤務と併せて講じることを努力義務とするべきではないか。ただし、個人の状況に応じた弾力的な選択肢が必要との意見もあった。
- たとえ3歳児がいても、家族に深夜勤務のない16歳以上の者がいれば深夜勤務が免除されないという現行制度は、育児と仕事の両立の妨げとなるものであり、改正されるべきではないか。
- 一日または半日単位でしか休暇を取れない企業が多いが、例えば、国家公務員のように、一時間単位で休暇が取れれば、育児と両立しやすいのではないか。
- ●職住近接の実現
- 職場に近い社宅や大都市中心部にある公営住宅(保育サービス付きが望ましい)への子育て世帯の優先入居が考えられるのではないか。ただし、社宅等の賃金以外のフリンジ・ベネフィットについては、賃金のみで同一価値労働・同一賃金の原則を貫く方が雇用の流動性向上に寄与するので、全廃すべきではないかとの意見もあった。
- 住宅手当を世帯主以外の者にも支給することにより、世帯主以外の者が職場に近い住宅への転居を世帯主に働きかけることができるようになるのではないか。
- ●育児休業の取得や育児時間の確保を支える賃金制度や業績評価の仕組み
- 年功的な賃金制度を、能力や仕事内容に応じたものとし、「何をしていくら」という企業と個人の関係を明確にしていくことが必要ではないか。
- 就業時間に過度に左右されない業績・能力評価、育休・育児時短に対する懲罰評価の是正など、公平・公正な業績評価がなされることが必要ではないか。なお、実質的に働いていないことに相応した評価がなされることを働き手も理解することが必要との意見があった。
- 適正な賃金体系を検討するに当たっては、固定給と出来高給の適正配分という観点が有効ではないか。
- パートタイムとフルタイムの賃金や福利厚生上の待遇の格差は、実態として男女を差別する結果につながる場合が多く、男女共同参画基本法に間接的な男女差別をも禁止する旨を規定するなどにより、賃金格差などを是正することが必要ではないか。また、いかなる職種・レベル・部門でもパート労働について、労働時間の長短にかかわらず平等に取り扱うことを企業に義務付ける制度も有効ではないか。さらに、派遣労働者に関しても同様の対応が必要ではないか。
- B時間外での育児者への配慮
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- 育児期間中の転勤は、地域で築いた子育てネットワークを失わせたり、単身赴任により育児負担が母親に集中する事態を招きかねない。このため、住居の移動を伴う転勤の必要がない地域限定職の導入、転勤のない職種への転換と元の職種への復帰の仕組みづくり、当人の希望に応じ小学生以下の子どもを持つ夫婦の転勤の原則禁止など、転勤しないという選択を可能にすべきではないか。
- 妻の出産に当たっては出産日及び退院後1週間は、夫も現行法上、育児休暇を取得できることとされているが、この休暇を実際に取るよう奨励すべきではないか。
- 子どもの看護のための休暇の制度化が必要ではないか。
- Cその他
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- 育児と仕事の両立の観点から社則を見直すことが必要ではないか。
- アウトソーシング先の労働条件(働く時間など)も考慮すべきではないか。
(3) 出産・育児を機に退職しても過度に不利になることなく再就業できるような労働市場の実現
- @採用方式の多様化など、雇用の流動性を高めるための政策
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- 新規学卒者一括採用を中心とする採用方式を改め、不定期採用の機会を拡充することが必要ではないか。
- 一度退職した者を育児休業職員の代替要員として活用したり、専門職など中途採用を容易にする職制を導入するなど、中途採用を拡充することが必要ではないか。
- 能力主義による賃金制度(年俸制)、退職金前払制度など、雇用流動性を高める賃金制度の選択肢を増やすべきではないか。
- 再就職を容易にするには、従前のキャリアが評価される仕組みを確立するとともに、一定年齢以上の者は採用しないといった年齢差別を見直していくことも必要ではないか。
- 雇用調整助成金など雇用継続を政策的に助長する助成を縮小すべきではないか。
- A個人の能力の向上
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- 雇用流動化が加速していく中で、若い世代に対して人生設計考察の機会や情報提供を充実することにより、人生設計選択の支援をすることが必要ではないか。
- 母子家庭の母親の再就業支援の充実が必要ではないか。
- 様々な教育機会をとらえての職業教育・労働教育の充実と受講奨励が必要ではないか。また、再就職のための研修奨励金の個人給付も考えられるのではないか。
- 再就職や起業などについての情報提供等の支援を充実することが必要ではないか。
- 雇用保険などによりキャリアアップのための研修・留学等を公的に一層助成することも考えられるのではないか。
(4) 職場における取組を支える社会の仕組みづくり
- @企業における取組を勧奨又は評価監視する仕組みづくり
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- 育児支援に積極的に取り組む企業について、国、経済団体、労働組合等が権威のある表彰を行う制度、年1回表彰された企業をテレビやプレスを通じて大々的に顕彰する広報体制、例えば育児支援担当者の人件費補助を含め公的助成や法人税減税などにより、企業に動機を付与することが必要ではないか。
- 企業の育児支援対応をISO(国際標準化機構の認証制度)に位置付けることも考えられるのではないか。
- 固定的な性別役割分業の見直しや家庭と仕事の両立支援に積極的な職場に、一定の認定基準を上回る場合に公認マーク(例えば Family Friendly Company マーク)を付与する仕組みも有効ではないか。
- 企業の育児支援策や人事制度などについて、外部機関が評価格付けをすることが有効ではないか。
- サービス残業の調査勧告、育児休業を取得しない理由書の提出(義務)を受けてその適正を審査する第三者機関を設置すべきではないか。
- 男女雇用機会均等法の効果を評価監視する資料として、働く女性の現状等に関する調査・統計を充実することが必要ではないか。
- これら育児支援優良企業の格付けやサービス残業の調査勧告などを行う第三者機関としては、「男女共同参画オンブズパーソン」のような名称の市民活用型の権威ある独立した機関とすることが有効ではないか。
- 働く女性の生涯にわたる健康管理情報など、産業保健分野の情報、ノウハウを収集・蓄積する信頼性の高いセンターを設ける必要があるのではないか。
- A保育サービス等の育児支援措置
- ●保育所の充実や利便性向上
- 待機児童の解消に向けた保育所の整備が急務ではないか。
- 延長保育、休日保育、夜間保育など、保育時間の弾力化を図ることにより、利便性の向上を図るべきではないか。ただし、その際、朝夕の保育が手薄になるといったサービス水準の低下につながらないよう、経営努力だけではなく、保育の体制強化が必要との意見もあった。
- 保育の質が重要であり、安易にボランティア等に頼るのではなく、様々な面で保母の水準を上げることが必要ではないか。
- 保育所の多様化を進め、保育方針などを見て選択することを可能とすべきではないか。
- 夜間勤務せざるを得ない両親の子どものために夜間保育などの充実が図られるべきであるが、子どもの健やかな育ちのためには、夜型の働き方が増えることは避けるべきではないか。
- 小児科医と連携するなどによる病児保育への対応も必要ではないか。
- 現在は昼間保護者のいない家庭の小学校低学年児童を対象としている放課後児童クラブの対象者を小学校高学年までにするとともに、実施箇所の増や、事業実施時間の延長、夏休みなど実施期間の拡充を図ることが必要ではないか。
- 産休明け保育の実施や入所基準の弾力化など、入所対象者の拡大を図ることが必要ではないか。なお、その際には、入所受入枠をあわせて拡大し、待機児が生じないようにする必要がある。
- 障害児保育、放課後児童クラブにおける障害児への対応も進めることが必要ではないか。
- 大都市の認可保育所では、年度途中からの入所が困難な場合が多いが、随時入所できるようにすることが必要ではないか。
- 育児休業中は保育所に入所できない一方、入所に当たり当初は「慣らし期間」ということで保育時間が短く、育児休業明けのフルタイム勤務に困難が生じている。このような育児休業と保育の制度の隔たりは解消するべきではないか。
- ●地域活動など保育所以外による支援の充実
- 時間にとらわれない働き方を選択できる人を増やし、様々な人が参加する地域づくりを進めるべきではないか。
- 子育て経験を有する高齢者が、地域の子どもの世話をする場所を設けたり、家庭で子どもの世話をする仕組みをつくることが有効ではないか。
- 学校、幼稚園、保育所等の施設を地域に開放し、空き教室などを育児中の親のフリースペースとして活用することが考えられるのではないか。若い世代が子どもに接する機会も得られる。
- 子育て情報を得ることができる地域拠点の活動を充実させていくことが必要ではないか。
- 世代、子どもの有無、就業形態別に結婚や育児に関する生の声を収集し、冊子にして紹介するなど、多様な働き方をする男女がお互いを理解し合える情報交換の機会を充実することが必要ではないか。
- 保育所、ベビーシッターなどの情報提供・紹介制度の充実が必要ではないか。
- 夜間開業の小児科医情報など、真に必要な情報を入手しやすくすることが重要ではないか。
- 乳児健診等は、親が仕事を休まずに済む時間、方法とすることが適当ではないか。
- 事業所設置の託児所については、都市部での複数社での共同設置、共同運営を促進すべきとの意見と、事業所設置では、対象者が限られたり、事業運営の影響を受ける等から、利用者個人への助成が勝るとの意見があった。
- 企業の福利厚生事業における子育て支援関係の比重を高めるとともに、従業員が多様な福利厚生のメニューから選択して利用するカフェテリアプランを推進すべきではないか。
- その他異年齢の子どもが集える地域の遊び場の整備、ボランティア参加の奨励、当面の緊急措置としての民間ベビーシッターや出張保父母センターに対する補助、産前の両親、祖父母等の学級の推進、子ども健康手帳や父親・母親手帳といったものの配布、育児を積極的に担う男性が女性中心の保育関係の地域活動などから疎外されない工夫の必要性などについての意見があった。
(5) その他
- @育児に係る経済的負担軽減措置
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- 子どもの人数を考慮した個人への現金給付が必要ではないかとの意見がある一方で、現金給付だけでは出生率向上につながらないので、優先順位としては低いとの意見があった。
- 子育て時期の経済的負担が少子化の直接的な原因であるとは言えないが、子育てには時間的にも経済的にもゆとりを持った生活が必要であることから、子育てに伴う経済的負担軽減を図るべきとの意見があった。具体的には、7歳未満の乳幼児を対象とした「子育て減税」や保育費用の所得控除など税に関する優遇措置を実施すべきとの意見や、児童手当の支給期間を義務教育終了までとし金額は当面倍額とするような現金給付の拡充を実施するべきとの意見があった。一方で、現金給付や税の控除ではなく、様々な育児支援サービスに利用者側の選択で組み合わせて使えるバウチャーのようなものを子どもに給付する制度を設けてはどうかとの意見もあった。また、祖父母が子育てに従事する場合にも、主婦が子育てしている場合と同様の税制、社会保険、企業の手当等の恩典を与えるべきではないかとの意見や、ベビーシッターの費用を助成したり、税額控除の対象とすることも必要ではないかとの意見もあった。
- 税制、年金制度などの政策は、現在は高齢者世代に重点が置かれているが、今後は、より子育て世代を重視すべきではないか。なお、高齢者世代から子育て世代へ政策の重点を移すのではなく、高齢者世代も重視しつつ、人生全体を見据えての政策とすべきとの意見もあった。
- 経済的措置を検討するに当たっては、経済的負担が何子目の出生により大きな影響を及ぼしているか分析し、第一子目と第二子目以上とで差を付けるべきかを検討することも必要ではないか。
- 妊娠・出産、母子健診、乳児医療(6歳まで)の無料化や保育料の引き下げを図るべきではないか。
- Aその他
-
- 子育ては、父親にとっても母親にとっても自分自身を成長させる機会でもあるという認識の広報啓発
- 子育ての楽しさや利用可能な制度に関する広報、情報提供の促進、制度利用手続の簡略化
- 妊娠初期の通勤ラッシュ回避のための母体保護措置の普及促進
- 不妊治療(人工授精等)や妊婦健診への医療保険適用と職場の理解の促進
- 結婚しなくても子どもが持てる制度
- 学校教育における選択幅の拡大、自ら学び自ら考える力を育てる教育や、保育を体験する教育の充実
- 子育て支援にかかる行政、関係団体の助成等の重複、無駄の排除
- 関係審議会への女性・若手・実践者の登用
- バリアフリーな社会づくり
- 職人など多様な働き方を推奨する教育
- 子どもの受験期など個人のライフサイクル上のニーズに応じて職場と家庭との間を自由に往復できるような、多様な選択肢を拡げる必要性
おわりに
少子化は、主として家族行動の変化に起因しているが、その背後には、企業や政府が経済社会環境の大きな変容のなかで、これまで必要な改革を怠っていたことから生じている面も大きい。少子化の基本的な要因である未婚率の高まりは、女性の、経済的地位の向上に追いつけない、企業や家庭内での社会的地位の低さの反映である。また、男性中心・職場優先の企業風土は、父親不在の家庭や地域社会の問題にもつながっている。しかし、企業の行動は、経済活動の国際化と従業員の高年齢化の進展のなかで急速に変化しつつある。労働力の減少が基調となる今後の社会では、少子化対策は、企業の社会的な義務として行うだけでなく、むしろ有能な社員を確保するために必要な経営戦略でもある。家族的責任を担う男女にとって働き易い環境を整備することは、高齢者や若手社員にとっても同様な効果を持つ場合が多い。
日本の出生率回復のための家族政策の基本は、子どもを持つことを単に個人や家族の私的な責任としてではなく、社会全体の責任ととらえる考え方に立って、子どもを社会的に扶養する制度を確立することである。このためには、生涯学習等を通じこの考え方を普及していくことも重要である。
高齢者の生活保障も、かつては基本的に家族の責任であり、家族による扶養義務が強調された時代があった。しかし現在では、すでに公的年金や老人保健制度によって、高齢者を社会的に扶養する制度が確立している。これと同様に、子育てを社会的に支援していく政策が必要である。
女性就業の高まりは先進国に共通した現象であるが、それは不可避的に出生率の低下と結びつくわけではない。むしろOECD諸国の平均的な関係から見れば逆に男女の就業機会の平等な「男女共同参画社会」の実現している国ほど、出生率も高いという関係にある。こうした諸外国の経験を見ても、結婚・出産に中立的に機能するような社会政策や、継続就業との両立を可能とするような方向への雇用環境の変化を促すことで、今後、出生率が回復し、子どもを産み育てる喜びや楽しさをより多くの人が享受することは十分に可能である。