インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループ
(第6回)

 
平成22年4月20日(火)
13:00〜15:00
於:知的財産戦略推進事務局会議室
議 事 次 第

 

1.中間取りまとめ(案)について
2.その他の課題について

(配布資料)
【資料1】知的財産推進計画2010骨子
【資料2】今後のスケジュールについて
【資料3】その他の課題に関する整理(素案)
【資料4】各論点に関する補足資料

(参考1)れまで寄せられた主な意見について
(参考2)日本弁理士会 配付資料
(参考3)参考条文
午後1時00分 開会
○土肥座長
 ただいまからインターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループ、第6回の会合を開催させていただきます。
 本日はご多忙のところご参集いただきまして、まことにありがとうございます。
 本日は國領二郎委員にもご出席をいただいております。ありがとうございます。
 それでは、最初に近藤事務局長からごあいさつをお願いいたします。
○近藤局長
 これまで5回にわたりまして非常に詳細な議論をしていただきまして、本当にありがとうございます。
 おかげさまで、中間取りまとめとして整理していただいた事項を推進計画の骨子の中に取り入れさせていただいたわけでございます。この短期間の間に集中的にご議論いただいたことに改めて感謝を申し上げる次第でございます。
 引き続き、今まで以上にまた駆け足が続くわけでございますが、この私どもの知的財産推進計画2010は5月末に策定を考えております。5月末でございますので、4月末からの連休といったところも頭に入れますと、非常に短い間にさらに集中的にご議論をいただいて、最終的に取りまとめたい、こんなふうに思っているわけでございます。
 今日もまた非常に専門的な議論を集中してやっていただいて、それを知財計画に結びつけていきたい、相当厳しい日程を委員の先生方にお願いしていることを改めてお詫びを申し上げながら、引き続きのご指導をよろしくお願いいたします。
 今日もどうかよろしくご審議のほどをお願いいたします。
○土肥座長
 それでは、本日は残る論点について議論を行いたいと思いますけれども、まずは事務局から、先月30日に取りまとめられました知的財産推進計画2010の骨子、及び本ワーキンググループの今後の進め方について説明をいただきたいと思います。
○奈良参事官
 それでは、ご説明申し上げます。
 まず、配付資料の確認でございますけれども、資料1が知的財産推進計画2010(骨子)でございます。その次に、資料1の骨子の概要ということでポンチ絵をつけてございます。それから、資料2が今後のスケジュールについての案でございます。資料3が、その他の課題に関する整理(素案)でございます。資料4が、各論点に関する補足資料でございます。
 その他、参考1といたしまして、インターネット上の反復的な著作権侵害行為への対策について、関係団体等からの提出意見でございます。参考2が、いわゆるスリーストライク法についての日本弁理士会における検討の経緯を記したものでございます。参考3は、参考条文でございます。
 その他、先生のお手元には、法定賠償制度に関するこれまでの議論でありますとか、間接侵害に関する議論、あるいは諸外国における関係法令の動きなどの資料を配付してございますので、適宜ご参照いただければと思います。
 それでは、骨子についてのご報告、それから今後の進め方につきまして、ご説明を申し上げます。
 まず、資料1をごらんいただきたいと思います。
 去る3月30日に、鳩山総理を本部長といたします知的財産推進戦略本部におきまして2010の骨子、新たな知財計画の骨子が定められたところでございます。
 資料1の概要のほうでご説明させていただきたいと思います。恐縮ですが、横長の表をごらんいただきたいと思います。
 今回のポイントといたしましては、総合的なマネジメントを駆使した国際競争の時代にあって、それに対応した知財戦略を戦略的に展開するというところがポイントでございます。重点戦略につきましては3本柱から成っておりまして、1つは、特定戦略分野における国際標準の獲得を通じた競争力強化。2つ目といたしまして、伸び悩む国内市場あるいは構造変化による生産基盤弱体化、電子化の流れに乗り遅れている、そういった課題を背景にして、コンテンツ強化を核とした成長戦略の推進というものが定められているところでございます。この中に、インターネット上の違法対策も盛り込んでいるところでございます。そして最後、戦略3でございますけれども、知的財産の産業横断的な強化策ということを柱にしてございます。
 今後の進め方でございますけれども、今、骨子の段階でございますけれども、これを本年5月に知的財産推進計画2010ということで決定したいと思っておりまして、その計画には、その着実な実施を担保するための具体的な取り組みのスケジュール、あるいは担当府省を明記した工程表を含むことにしてございます。
 1枚めくっていただきまして、戦略1につきましては、国際標準の獲得・知的財産を活用した競争力強化でございます。
 もう一枚めくっていただきまして戦略2が、特に関連の深い、コンテンツ強化を核とした成長戦略の推進でございます。
 海外展開を促進し、海外から利益が入る仕組みを構築する。また、人材が集まる魅力的な本場を形成する。併せて、コンテンツの普及を妨げておりますアジア諸国の規制撤廃を働きかける、それと同時に、インターネットの著作権侵害対策にも取り組むということにしてございます。海外展開のところでは、コンテンツの海外展開等を支援いたしますファンドの形成、税制のあり方の検討、人材育成のところでは、コンテンツ版COEの形成など、人材育成についても重点を当てたところが大きなポイントでございます。
 また、インターネット上の著作権侵害対策につきましては、このワーキンググループで議論いただきましたように、プロバイダによる侵害対策措置の実施を促す仕組みの導入、あるいはアクセスコントロール回避規制の強化を内容とするものを盛り込んでおりまして、改革案について、2010年度中に策定することにしているところでございます。
 詳細につきましては、本体は資料1のほうでございますので後ほどごらんいただければと思います。施策の詳細につきましては、後ろのほうに横書きの表で関係の施策一覧を整理しているところでございますけれども、特にこのワーキンググループでご議論いただいた内容につきましては、別添の3ページ、施策番号で言いますと34番、アクセスコントロールの回避規制の強化というところで、規制強化を図るということ、このため、法技術的観点を踏まえた具体的な制度改革案を2010年度にまとめるということで盛り込ませていただいているところでございます。
 また、4ページに参りまして、施策番号35番でございますけれども、プロバイダによる侵害対策措置の促進ということで、プロバイダと権利者が協働して、新たな対策措置を図る実効的な仕組みを2010年度中に構築する。併せて実効性を担保するための制度改正の必要性について検討するということを織り込んでいるところでございます。
 先ほど近藤局長からもお話がございましたけれども、先生方には短期間で精力的にご議論をいただきまして、このような形で知財計画の方向性を打ち出すことができました。まことに感謝申し上げます。
 続きまして、資料2をごらんいただきたいと思います。今後のスケジュールでございます。
 5月に知財計画本体をまとめる関係で、4月に1回、5月に1回、先生のお時間をいただいているところでございますけれども、残りの2回につきまして、以下の3つの重要な課題につきまして、ご意見を伺いたいと思っておりまして、2回という短い期間ではございますけれども、可能な範囲で問題点を整理していただければと思っているところでございます。
 1つは、インターネット上の反復的な著作権侵害行為への対策でございます。これにつきましては、最近、各国でスリーストライク法案といったものが議論あるいは導入されているところでございますけれども、これまで議論がされてこなかったということもございますので、この機会に課題を整理したいと考えているところでございます。
 2つ目が、リーチサイトによる著作権侵害への対策ということで、著作権侵害の上で重要な役割、あるいは著作権侵害を助長しているリーチサイトにつきまして、その規制についての法的な位置づけを明確にする必要があるということで、ご議論いただきたいと思っております。
 最後は、存在賠償額の算定を容易にする方策について。これは以前からも議論されてきたことではございますけれども、特に最近、ファイル共有ソフトを通じた侵害が後を絶たないということもございまして、損害賠償額の算定の必要性が以前以上に増しているのではないかといった問題意識で、改めてご議論いただければと思っております。
 第6回が本日、それから第7回、5月18日ということで、残り2回でこれらについてご議論いただきたいと思っているところでございます。
○土肥座長
 ただいまのご説明につきまして、ご質問等ございましたらお願いいたします。
 特にございませんね。よろしゅうございますか。
 それでは、本日の検討課題でございますが、その他の論点に入りたいと思います。
 事務局から説明をお願いいたします。
○奈良参事官
 資料3と4でご説明を申し上げたいと思います。
 まず、資料4で周辺的な状況についてご説明させていただきたいと思います。
 課題の1つ目、インターネット上の反復的な著作権侵害行為についての諸外国における対策の概要でございます。
 まずフランスでございますけれども、この1月に法律が施行されてございまして、これにつきましては、2回侵害の警告を受けた個人が再度侵害を行った場合、裁判所が罰金またはインターネットのアクセスの切断を命ずることができるという制度でございまして、独立した行政機関が処罰対象リストを作成しておりまして、他のプロバイダへの乗り換えはできないことになってございます。
 また、この独立した行政機関が収集した情報をもとに、裁判所が2カ月から1年のインターネットの切断を命ずることができるという制度でございます。
 なお、警告でございますけれども、これは独立した行政機関が個人に対して行うものだということでございます。
 韓国でございますけれども、昨年7月に包括的な著作権法の改正が施行されておりまして、その一環として、警告を与えて切断するという仕組みが盛り込まれているところでございます。
 これにつきましては、3回以上侵害の警告を受けた個人が再度侵害を行った場合、文化体育観光部長官がサービス提供者のインターネットアカウントについて、最大6カ月の停止を命ずることができるという制度でございます。これにつきましては、文化体育観光部長官が韓国著作権委員会と審議の上、判断するということで、アカウントの停止をプロバイダに対して命ずることができる制度でございます。
 なお、これはインターネットのアカウントのみを停止するものでございますので、メールサービスあるいは検索サービスは利用できることになってございますし、処罰対象者リストが作成されておりませんので、他のプロパイダに乗り換えることにつきましては、特に制限されていないとのことでございます。
 なお、警告につきましては、文化体育観光部長官がプロバイダに対して、侵害者に警告を送るよう命令。いわゆる警告を転送するような仕組みかと存じます。
 それから、台湾でございますけれども、昨年5月に著作権法が改正されているということで、ノーティス&テイクダウンの原則が導入されるとともに、ISPに対して以下の措置が義務づけられておりまして、権利侵害が3回になった場合、切断あるいはアカウントの削除など、そういうことをする権利があるんだということを告知することが義務づけられております。
 イギリスでございますけれども、この4月にデジタルエコノミー法が成立しておりまして、権利者から侵害の報告があった場合、当該利用者への通知をプロパイダに義務づけることが第1段階。そしてまた、侵害状況の記録を作成し、権利者が訴訟を起こす際に利用できるようにすることをプロバイダに義務づけるということ。さらに、そのような状況を実施しても侵害状況の改善が不十分だと判断されるような場合には、アクセスを制限する技術的義務を課すことができるとされております。その内容には、帯域制限でありますとか、あるいはブロードバンドへの接続の一時的な停止も考慮し得るということが定められております。
 なお、これにつきましては法律が定まったところでございまして、具体的な政令等の詳細につきましては、これから定められると伺っております。
 ニュージーランドでは、この1月に著作権法の改正案が公表されておりまして、これにつきましては3回事前に通知をして、それでもさらに侵害があるような場合には、権利者は地方裁判所に訴えることができる。地方裁判所はプロパイダに対しまして、最大6カ月間、契約者のインターネットアカウントの停止を命ずることができるというような仕組みの案が公表されていると伺っております。
 次は、フランスと韓国を特に比較したものでございます。
 4ページに参りまして、リーチサイトの問題でございます。
 リーチサイトについては世界じゅう、さまざまなサーバーに著作権侵害コンテンツが蔵置されているわけでございますけれども、そこへのアクセスを容易にするためのリンクをまとめて掲載するというリーチサイトが数多く存在して、侵害を助長しているような状況でございます。リンクの対応といたしましては、リンクがトップページに飛ぶもの、あるいは違法データ群に飛ぶもの、また、直接に違法なデータに飛ぶものといったケースがございます。
 また、具体的な態様の例としては、一見、動画共有サイトと変わらないが別の動画共有サイトを直接リンクしているような場合、あるいは、同一人物と思われる方が違法データのファイルをアップロードしまして、同時にサイトにリンクを張り付けて、そこに誘導するといった事例もあると伺っているところでございます。
 以上、その他の課題に関する周辺的な情報をご説明申し上げました。
 それでは、資料3をお願いします。
 その他の課題に関する整理といたしまして、それぞれの先生方に個別にお話しさせていただいたことなどをもとに事務局のほうで素案を作成いたしましたので、これに基づきましてご議論いただければと思っております。
 まず1点目の大きな問題でございます、インターネット上の反復的な著作権侵害行為の対策についてでございます。
 問題の所在につきましては、P2Pによる違法アップロード・ダウンロードの被害が深刻化しているといったことがございまして、特に侵害を繰り返す悪質なユーザーへの対策として、抑止を図る観点から、インターネットへのアクセスの利用行為を停止する制度の導入が近年、盛んに議論あるいは導入されているという状況がございます。
 こういった状況のもと、制裁的な措置あるいは将来予想される侵害行為の差し止め的な措置といたしまして、アカウントあるいはインターネットの利用行為の停止の導入につきまして、どのように考えるかというのが問題でございます。
 現行制度でございますけれども、現行法の中では、個別の著作権侵害の差止請求を超えまして、将来に向けたすべてのインターネットの利用行為の停止という差止請求は、必要最小限度の措置とは言い難いことから、一般には難しいと考えられてございます。
 また、電気通信事業法等におきまして、プロバイダに対してユーザーの利用行為の停止を命令する仕組みはない状況でございます。
 なお、プロバイダと権利者が協働して行っている協議会が立ち上げられてございますけれども、類似の警告を無視した場合にどのように対処するかというところにつきましては、現時点ではスキームが固まっていない状況でございます。
 また、一部のプロバイダでは、アカウントの停止を行う旨の規約を整備しているところもございますけれども、2ページに参りまして、その許容範囲は必ずしも明確になっていないところでございます。
 (3)の国際的動向は、先ほどご説明したとおりでございますけれども、EC指令の中には、接続を遮断する場合には公正かつ公平な手続を事前に実施しなければならない旨が定められているところでございます。
 (4)問題の整理についてでございます。
 3ページに参りまして、まず、法的構成の面から検討してはいかがかと思っております。
 制裁措置としての可能性でございますが、我が国におきましては、刑事罰の適用、すなわち警察の取り締まりが一定程度行われているということでございまして、さらなる抑止効果として、制度上どこまでの措置がどのような根拠により求められるべきかが問題となるわけでございます。
 我が国におきましては、抑止効果としては第1に刑罰がございまして、刑罰として一定程度執行されているということで、さらに取り締まりを強化すれば足るということで、刑罰として導入する必然性は必ずしも高くないという指摘もございます。
 仮に制裁的措置として制度を構築する場合には、我が国において執行されております警察による取り締まりや現行の刑罰では実効性が期待できず、新たな制裁措置が必要とするに足る相当の理由があるかどうかという観点から検討する必要があると考えられます。
 また、民事的措置の可能性ということで、将来に向けた一種の差し止め的な行為としてどこまで認められるかという観点でございますけれども、これにつきましては、例えばユーザーに対して行政命令、あるいは裁判所命令、それから接続プロバイダに対して行政命令、あるいは裁判所命令というものが考えられるのではないかと考えられます。
 まず、ユーザーに対する命令につきましては、私人の行為を広く制限するという行為でございますので、行政機関による命令は困難であると考えられ、少なくとも裁判所による判断に委ねられるべきではないかと考えられます。
 また、将来の著作権侵害を差し止めるという観点から、インターネット利用行為の停止が正当化されるためには必要最小限度であることが求められます。この点、著作権侵害以外のすべての行為ができないということになると、一般的には過剰とならざるを得ないということに留意する必要があると考えられます。
 4ページでございます。接続プロバイダに対して命令を発することにした場合どうかという観点でございますけれども、この場合は、まず、プロバイダに何らかの義務が課せられていることが前提となると考えられますけれども、仮に制度化するといたしましても、法的には、プロバイダが協力義務を負うというような構成になるのではないかと考えられます。
 2点目の視点といたしましては、実効性の確保の観点でございます。仮に、あるプロバイダによって接続が遮断されましても、他のプロバイダとの新たな契約、あるいはインターネットカフェ等を利用してインターネット接続を行うことは、実態としては容易にできるということでございます。これらを防止しようとすれば、ブラックリストを作成することが必要になると考えられるわけでございますけれども、一般には、プロバイダ間でそのようなものを作成するというインセンティブは働きにくいのではないかと考えられます。
 また、仮にブラックリストを作成いたしましても、成り済ましは容易であり、完全に遮断することは、少なくとも現時点では事実上、なかなか困難ではないかと考えられます。
 それから、これはかなり慎重な手続が必要とされることから、頻繁にインターネット利用を遮断するということではなくて、実際には謙抑的に対応せざるを得ないのではないかと考えられます。
 3番目に、社会的なコスト負担についても検討する必要があろうかと思っております。
 完全に遮断するということにつきましては、言論の自由との関係で慎重な判断が必要となりますので、公的な機関によって一元的に情報収集し、慎重に判断することが求められるわけでございます。そうしますと、それに対する一定の負担、コストがかかってくるということで、これについて社会的に一定のコスト負担が必要となるということについて、実効性の問題と関係いたしまして、どの程度のコスト負担が必要となるのかについても検討する必要があると思っております。
 以上、これらを総合的に考察いたしますと、まず、P2Pによる著作権侵害に係る被害が深刻化している中で、常習的な悪質侵害者に対して社会全体として実効的な措置を図っていくことは、やはり重要な課題であるととらえられます。
 また、仮にインターネット利用行為を停止する制度を設けたといたしましても、現実的に、完全に停止することは少なくとも現時点では困難であり、インターネット乗り越えるコストを強いるにすぎない可能性もあるということで、どこまでの抑制効果を持つのか、あるいは実効性を有するのか、それから現行の刑罰と比較してどこまで高い実効性があるのかといった観点から、検討すべき課題が多いととらえられます。
 このため、現時点での導入は時期尚早であると考えられますけれども、今後の著作権侵害じきの深刻度合い、あるいは現在実施している対策の実効性、それから諸外国における実施状況、これもまだ具体的には制度ができたばかりでございまして、実施状況、その効果を見きわめながら、今後も引き続き検討していくべき課題であると考えられます。
 こういった法制度による構築の可能性のほかに、このワーキンググループにおきまして議論していただきましたとおり、民間における自主的な取り組みとしての侵害対策措置の具体的なオプションとして、警告メールの転送を行う、それと併せまして、反復的な侵害があった場合にアカウントを削除するための規約を整備して、それを的確に実施するということも考えられるのではないかと思われます。
 しかしながら、どこまでが許容されるのか、その許容範囲が必ずしも明確になっておりませんので、今後、ガイドラインの策定を促進していく場合には、許容範囲の明確化、あるいは必要な手続も含めた検討が必要であろうと思われます。
 続きまして、大きな2点目の課題でございますが、リーチサイトによる著作権侵害の対策でございます。
 (1)問題の所在についてでございます。
 先ほど幾つかの事例をご紹介いたしましたけれども、違法コンテンツのリンクを集めて、そこに誘導するようなリーチサイトが数多く存在し、閲覧あるいはダウンロードを助長しているという状況がございます。リンクの様態としては、先ほどご説明したとおり、さまざまな形態があるということでございます。
 6ページに参りまして、このような侵害コンテンツを蔵置したサーバーが存在することは明らかでありますけれども、こうしたサイトは通常海外に置かれてございまして、世界じゅうで大量に分散している、かつ外部から発見されにくいといったことでございまして、実質的にこれらを取り締まることは難しいのが現状でございます。
 一方、リンク行為自体につきましても、自らその情報を複製あるいは送信していると認められないので、一般的には著作権侵害に該当し難いと考えられております。このため、リーチサイトは事実上、野放し状態になっているという現状がございます。
 こうした現状にかんがみまして、現行制度の実効性を検証しながら論点を整理する必要があるというのが問題意識でございます。
 (2)現行制度についてでございますけれども、我が国の著作権法上、一般的にはこうした行為が直接的な著作権侵害に該当するとは考え難いと考えられております。ただ、ケースによっては著作権侵害の幇助あるいは間接侵害に該当し得ると考えられますけれども、必ずしもその範囲は明確になっていないということでございます。
 それから、プロバイダ責任制限法の運用上、その削除対象は事実上、直接的な著作権侵害コンテンツに限られているということで、リンク行為については、一般にはその対象となっていないと解されております。
 しかしながら、少なくともこのようなリンク行為が民法第709条に基づく一般不法行為には該当する可能性があるということで、最近では、一部権利者からプロバイダに対して削除要求が行われまして、一部のプロバイダでは削除に応じていると聞いているところでございます。
 7ページ、(4)問題の整理についてでございます。
 こうした一定のリンク行為につきましては、著作権侵害に大きな役割を果たしていることも少なくないということでございまして、著作権侵害となるケースもあり得ると考えられますけれども、その範囲が明確でないことから、その明確化を図っていくことが必要ではないかと考えられます。
 他方、こうした個人がリンクを張りつける行為というものは、一般的によく行われています。また、リンク先がたまたま著作権侵害コンテンツとなっている可能性もありますことから、こうした一般利用の萎縮を招かないようにするという逆の観点からも、著作権侵害となる行為を限定あるいは明確化していくことが重要であると考えられます。
 8ページに参りまして、以上を踏まえて、著作権侵害として認められるべき要件のイメージとして、例えば違法サイトへの誘導を目的としていることがサイトの文面、あるいは著作権侵害コンテンツへのリンクが多くを占めているような状態から客観的に明らかである、あるいは違法であることを認識していると認められる、さらには直接的にリンクしている場合、また、収入を得るなどによって業として実施していると認められる場合は、さらに認められやすくなると考えますけれども、こういった要件を立てまして、限定的にこういったリンク行為を規制することにつきまして、検討する必要があるのではないかと考えているところでございます。
 したがいまして、著作権侵害、例えば著作権の間接侵害という議論におきましては、これまでその要件化、差し止め請求権化について議論されてきているところでございますけれども、この議論の中で位置づけを整理できないか、あるいは、特に悪質なものに絞り込んだ上で、直接的な著作権侵害行為として位置づけることができないか、さらにはプロバイダ責任制限法のガイドラインにも位置づけることができないかということにつきまして、ご議論いただければと思っております。
 最後でございますけれども、損害賠償額の算定を容易にする方策ということでございます。
 問題の所在につきましては、特にP2P経由でコンテンツが違法に流通した場合は、現実的には把握が困難であることが多いということで、特にその被害は、依然として収束の兆しが見えないということでございます。
 このように、賠償額の算定が困難を極めることに加えまして、裁判官のほうでも賠償額を判断することが客観的に難しいと言われております。
 9ページに参りまして、こうしたことから、原告側の立証負担の軽減のみならず効率的な訴訟進行という観点から、現行の著作権法の推定規定に加えまして、損害の定額を選択することも可能とする制度を導入すべきという議論について、どう考えるかというのが問題でございます。
 (2)現行制度についてでございますけれども、現行の著作権法におきまして推定規定を設けている、また、第114条の5におきまして、客観的に事実認定が困難であったといたしましても、裁判所による認定の道を開いているところでございます。
 (3)国際的動向についてでございますけれども、アメリカ、カナダ等におきましては、法定損害賠償制度が設けられているところでございます。
 (4)問題の整理についてでございますけれども、インターネット上のデジタルコンテンツの特性に鑑みまして、受信数が不明ということで、その正確上、大きな困難を伴うことが現状であり、その被害の特質に鑑み、何らかの方策を検討する必要があるのではないか。
 10ページに参りまして、現行法の規定があるわけではございますけれども、少なくともその算定根拠を整理していくことが必要で、引き続き立証負担の問題は実務上、存在している。また、このことがある程度、訴訟提起のハードルになっているということも指摘されているところでございます。
 また、効率的な訴訟の観点だけではなくて、単に違法となる可能性だけでは抑止効果が低いわけでございますけれども、具体的な金額があらかじめ明らかになっているということで、一定の抑止効果が働きやすくなるというような指摘もあるわけでございます。
 以上のようなことから、インターネット上のデジタルコンテンツの侵害のケースに限定した上で、原告側が訴訟提起に当たりまして定額の賠償を選択することを可能とし、被告側の反証を得た上で最終的に裁判所が判断できる制度の構築につきましては、さまざまな課題はありますけれども、一定の合理性は認められ、今後とも引き続き検討すべき課題であると言えるのではないかと思われます。
 また、このような制度化に至らないことに、実質的なアプローチについても検討する必要があるのではないかと思われます。
 例えば、権利者の業界単位で客観的な調査を行って、どの程度それが拡散しているか、あるいは販売額への影響度合いについて平均的な数字を算出し、裁判の判例を通じて総額案を形成していく、そのような自主的な取り組みも重要ではないかと考えられます。
 以上、先生方のご意見をお伺いできればと思っております。
○土肥座長
 それでは、早速意見交換に入りたいと思います。
 まずはインターネット上の反復的な著作権侵害行為への対策について、委員の皆様のご意見をお伺いしたいと思います。どうぞご意見をいただければと思います。
 北川委員、早速ですけれども、いかがでしょうか。
○北川委員
 ご指名いただきまして、ありがとうございます。
 現在、先般から一応ここでもご紹介させていただいておりますCCIFというところで、権利者団体、大手4団体、それからISP大手4団体を中心としたコンソーシアムで、違法アップロードに対する警告メール送付のガイドラインが設定されて、始まりました。もう権利者団体のほうから新たに申し込みが幾つか入ってきております。これらは基本的に、カバレージで言うと相当カバーしていて、ISPでも多分8割9割カバーしておりますし、新たに入ってきた著作権団体を見ても、例えばレコード協会みたいなところがあって、それは恐らくマーケットの8割9割を押さえておられるようなところがあって、カバレージとしてはかなり高まっているというのが実態でございます。
 ただし、現行のガイドラインで実施しているのは、あくまでも著作権側が著作権侵害を確認した上でISP側に通告を行って、それに対して、その情報をもとにISP側が当該者に対して警告メールを1回出すという、ここまでで完全に止まっております。その先をどうするかについては全く進む見通しが、プランはあるんですが、具体的には立っておりません。その検討するワーキンググループはあるんですが、そこは何せ各団体の法務担当者の方々が集まっておられるところで、極めて慎重です。
 ですから、現状としましては、ガイドラインはできました、確かに動きは広がりつつありますが、その1回の警告メールの効果がどうであったか、例えば返信が来たのか、効果があったかどうか。実は、本当に配信したかどうかもわからない状況でありまして、例えばスリーストライクに関して言いますと、2回同じ人が違反行為を犯したかどうか、同定する手段は今、全く講じられていない状態です。そこにはいろいろな法的なバリアとISP側の恐れがありまして、その1回行ったものが著作権側にリターンされるところまで、今、来ていません。ましてや2回目の紐づけが行われるところは、まだ全く具体的な対策としては進む兆しが見えないのが実態でございますので、ぜひともここでそれが進むような対策を講じないと、これ以上実効性のある─アカウント停止に向けて進むことは非常に難しいと私は思います。
 そこにはISP側のいろいろな方々が来ておられるんですけれども、一つの非常に大きなコンセンサスは、ですから今、できることは、1回の警告メールを出すことと、あとは警察による逮捕があります。実際に行えるのはこの2つなんですね。ですから、ユーザー側から見たときに、もう警告か逮捕かという状況であって、その間に、警告を2回3回受けたのでアカウントが一定期間停止されるとか、そういう中間段階的な措置がないがために、警告か逮捕かという両極端だけが今、ポンとそこにある状態で、やはりその間を埋めるような何らかの、逆に言えば、逮捕される前にもう少し警告をきちっとしてもらえれば逮捕に至らなかったのにといったことがユーザー側から見ると起こるような、非常に違和感のある状況に今、なっているというのが実態でございます。
○土肥座長
 今、北川委員から貴重なご意見をちょうだいしたところですけれども、この点についてさらに、今、おっしゃったところの第1回目の警告、その後は中間的なところがないということですけれども、こうしたことについては、今後、総務省あたりでガイドライン、そういったものも含めて検討いただくのかもしれませんが、今の時点で何かご意見なり情報なりございますか。
 先ほどの事務局からの説明の中では、ISPと当事者との間では当然契約関係が存在するわけでありますので、まずもって契約関係の問題として考えてみてはどうか、そういう説明だったかなと思いますけれども、前田委員、この問題については実務上、お詳しいのではないかと思いますけれども。
○前田委員
 スリーストライク制度と言われるものについて、確かにプロバイダに対して行政機関がアカウント停止を命ずるといった措置までは直ちには難しいんだろうなと、この事務局のペーパーのとおりだと思うんですけれども、資料3の5ページの、2つ目の○の3行目以降に書かれている「反復侵害者に対して警告メールの転送を行うとともに、警告メールを無視してもなお反復の侵害があった場合、権利者側からの申出によってアカウントを削除するための規約を整備して的確に実施すること」は、ぜひ実現していただく必要があるのではないかと思います。
 今、北川先生からのお話ですと、まだそこまではCCIFの取り組みでも到達していないということですので、それを改善して、このペーパーで「考えられるのではないか」とされている措置の実現に向けて、いろいろな問題点を考えていく必要があるのではないかと思います。
 前々回でしたでしょうか、警告メールを送ることについて、通信の秘密との関係でどうなのかという議論があり、この資料3でも、IPアドレス情報とアカウント情報との照合が通信の秘密に該当し得るのか検討が必要だと書いていただいているんですけれども、私としては、ある時点からある時点まで、ある人物に特定のIPアドレスを割り当てていたという事実は、通信そのものでなく、それによって通信の内容等を推知させるものでもありませんので、この情報を他の情報と照合して利用することについては、通信の秘密との関係での問題は生じないと思います。
○北川委員
 今のお話に関しまして、ISP側で通信の秘密というのは非常に重く、深刻に受け止められていて、裁判やったら勝てないのではないかという空気が支配しているわけです。そこで、今、一番ネックになるところは、ワンストライクからツーストライクに行くところなんですね。結局、今のIPアドレスとアカウントを結びつける話は、ISP側で著作権者側の要請に基づいてやることにはなっていて、実際やられているんですね。
 ところが、ツーストライクをとろうと思ったときに、その1回目と2回目、単独ではできるんですが、紐づけしようと思ったときに、いわば著作権側へのある種の情報のフィードバックをしなければいけない。それで紐づけてツーストライクだと認定しなければいけない。そこのところでISP側がそういった情報を、実は1回目と2回目と同一人物ですよという情報を著作権者側にフィードバックすることができないという状況が今、あります。そこでISP側が非常に怖がっているというのが実態で、今、スリーストライクへ行く前のツーストライクがとれていない状態なんです。行きっ放しで、著作権者側は「それは多分やってくれただろう」という信頼関係のもとで抑止効果があるというところまでしか来ていないんですね。ワンストライクからツーストライクのところへ行けていないというのが今の実態で、そこに一つの壁があるのが実態です。
○前田委員
 実態はよくわかりました。
 ただ、私としては、ワンストライクからツーストライクに行くことが通信の秘密との関係で直接問題になるのだろうかと、今、北川先生のお話を伺って思うのですが、ある人物に対して1回警告メールを出したという事実や、今度は2回目だという事実、これは過去に警告メールを何回出したかということと照合することにより分かるんでしょうけれども、それらの事実は、プロバイダが警告メールを発した履歴であって、ユーザーによる個別の通信との関係性はないと思うので、通信の秘密の問題にはならないのではないか。
 それから、個人情報の開示という点ではどうかという点なんですけれども、過去に何度警告をしたか、その回数を回答するという段階では、その情報は、まだ特定の個人を識別するに足りる情報、あるいは他の情報と容易に照合することにより特定の個人を識別することができる情報とは言えませんので、そのカウント回数を回答することは個人情報保護の関係で特に問題にはならないのでは、という疑問を私としては持ちました。
○北川委員
 実は私、これはプロセスによって非常に詳細に検討されておりまして、実はプロセスが13ぐらいあるんですけれども、その一つ一つについて、課題が何であって関連する法規は何だというリストが実はあるんですね。これはとりあえず部外情報になっているので公開の場には出せないんですけれども、その当該部分を読みますと、ISPは、警告メール送付リストの作成及び著作権者から警告メール送付の要請があったIPアドレスとの照合を行うことが可能か、ここのところで、その照合ですよね。その照合のところで、今、非常に怖がっているという実態があります。
 これはある程度、公開しないという前提であれば、この資料をお出しして検討課題に乗せてもらったほうがいいような気がするんですけれども。私、CCIFのほうには了解とりますので。全面公開となるとちょっとまずいかもしれませんが、この中での検討の素材としてということであれば可能であると思いますので。
○土肥座長
 ありがとうございます。
○平野委員
 今、通信の秘密の話に入ってきたんですが、これはまさに資料3の5ページの2番目の○の最後3行にございますように、ガイドラインの策定等を通じて今後、詰めていくということになっていますよね。
 私、前から非常に懸念して申し上げているのは、これは憲法問題であり、正当業務行為というのは刑法問題なんですね。私も含めまして、ここに憲法の先生もいませんし、ましてや刑法の先生もいないということで、果たしてここで余り細かい論議をするのはどうかと。それが方向性を決めてしまうということを私、非常に懸念していまして、それはやはり次のステージ、具体的には総務省さんで宿題になっていることを詰めていくところで、刑法、憲法の先生も入れて詰めていくというのが、やはり正しい知見を入れた上でのバランスのとれた結果を導くのではないか、このように思っています。
 プラス、これも前から申し上げていますが、皆さんにはちょっと耳が痛いかもしれませんが、著作権侵害だけを考えてルールはつくれないんですね。通信の秘密というのは非常にいろいろな問題があって、今までどうやってきたかということとのバランス、それから時代の変化というものも入れなければいけないという必要性、そういったようなものも考えなければいけないので、これはやはりもう少し違う専門家も入れたところで議論したほうがよろしいのではないかと思っています。
 ただ、ここの議論でこういう要請があるということをお伺いするのは、今後の専門的なさらなる検討に資するので、論点を挙げていただくことは非常にいいことだと思っています。
○土肥座長
 まさにそういう趣旨で、このワーキンググループの本日の議論はやっておるんだろうと思っております。つまり、ここでの議論を次に引き継いでもらう、そういう意図でやっておりますので。
○山本委員
 スリーストライクルールの件は、整理していただいているように、制裁的には刑事掲載のアプローチ、あるいは民事制裁のアプローチがあります。刑事制裁において、刑罰に付加するものとして、アカウントの削除といったことはあり得ると思うのですが、民事的な措置としての可能性は、かなり問題があるのではないか。
 何よりも実効性においてなんですけれども、これは3回やった、別に4回でも2回でも構いませんけれども、要は、裁判所によって判断しないといけない。ということは、恐らく原告側になるのは権利者であり、被告になるのは個人ですから、そもそも個人が特定できていないといけませんし、権利者である特定の人物が、その特定の被告が3回やったということをどうやって知れるのかということもあります。つまり、そもそも侵害者がだれかは特定できない。前回まで議論しておりましたとおり、侵害者個人が特定できないというのが根本的にネックとしてあって、それを乗り越えられないのに、侵害が3回あったことを特定できることを前提にした民事的な制裁として、裁判所にアカウント削除を求めるような手続がとれるはずもないので、そういう意味で、これは実効性がないと思います。
 したがって、根本的には、やはり個人の特定を、先ほどご指摘ありましたように通信の秘密との関係で、どこまでやっていいのか、そのことを詰める、また、個人の特定を可能にするための手続をどういうふうに工夫していくのか、そのことを今後、検討していく、そのことが必要なのではないか。つまり、単純にスリーストライクルールを入れればいいといった問題ではなしに、入れて役立つような基盤づくりをすることが大事なのではないか、そういう議論をこの後に続けていっていただきたいと私は思います。
○土肥座長
 ご発言いただいた各委員のご意見を伺っておりましても、要は、世界を見たときに、現実にスリーストライクルールというものが幾つかやり始められている。これが今、おっしゃった民事法上、実効性のある制度かどうか、あるいは刑罰の問題、憲法上の問題、こういったことについては我々のワーキンググループで、例えば本日、結論が出る、そういう問題では決してないわけでありまして、今後、この後のステージで議論していただくときに申し送りたいといいますか、お願いしておきたい、そういうまとめ方になっておろうかと思います。
 したがいまして、先ほど事務局からの説明にございましたように、特に4ページの終わりから5ページにかけて、こういう問題を今後、別のステージ、ガイドライン等の検討においてどういう問題があるのかをまず検討していただく、その先の話として議論していただければと思っておるところでございます。
○森田委員
 その先のステージということの意味合いなのですが、このペーパーの最後の○では、「民間における自主的な取り組みとしての侵害対策措置の具体的なオプションとして」ということが書かれています。この点は、スリー・ストライクというのをどういうものとして理解するかということに関わることですが、自主的な取り組みでスリー・ストライクまで行くかというと、やはりそこまでは行かないわけです。先ほどの、スリー・ストライクを導入するとした場合にその手続をどうするかという議論がありましたが、そのような議論をする前提として、そもそもスリー・ストライクというものを法的にどのようなものとしてとらえるのかという点をまずはっきりさせた上で、そのような措置を実際に行うには、どういう手続が考えられるのか、そういう順序で議論をすべきではないかと思います。
 今日のペーパーでは、3ページ以下で、「法的構成について」という見出しのもとで、スリー・ストライクと言うけれども、それは法的に見るといったい何をすることなのかをもう少しはっきりさせるべきではないかという観点から議論の整理がなされていますが、この点は重要な指摘ではないかと思います。
 スリー・ストライクについて検討する場合には、まず前提として、プロバイダにもいろいろなタイプがあるわけであって、例えば、動画投稿サービスを提供しているプロバイダがある利用者に対して当該サービスを利用させなくするとか、あるいは、掲示板の管理者がある利用者のアカウントを停止するといったように、個別のサービスを提供しているプロバイダが特定の利用者に対して当該サービスの利用を停止する措置を講ずるという場合の「利用停止」と、それから、P2Pのような場合を念頭に置いて、接続プロバイダが特定の利用者に対して利用停止措置を講ずるという、要するにインターネットに対するアクセスそのものをさせないようにする場合の「利用停止」とでは、同じく「利用停止」といってもその性質は全く違うものでありますので、まずそこをはっきり分けて議論をする必要があると思います。
 諸外国の法制度についても、その点を踏まえた整理が必要であって、今日のペーパーでもそういう観点からの整理がなされていたと思いますけれども、やはり問題となるのは接続プロバイダのほうであります。 接続プロバイダが特定の利用者に対してインターネットの利用を停止させることがそもそも可能なのか。ある接続プロバイダが利用を停止させたとしても、この利用者が他の接続プロバイダでアカウントをとって別の方法でインターネットを利用することがいくらでも可能であるということになれば、利用停止措置には全く実効性がないわけでありますので、他の接続プロバイダと契約をしてインターネットにアクセスすることまで止めないと、あまり意味がないわけであります。そうなると、利用停止措置というのは、すべての国民に対して、一定の著作権侵害行為をした者についてはおよそインターネットを利用してはいけないという法的なサンクションを科すことを意味することになるわけですが、それが法的にはどのような形で可能なのか、仮に可能であるとして、その手続はどういうふうに組むべきなのか、そういった問題の整理になろうかと思います。 そうしますと、スリー・ストライクの法的な構成としては、3ページ以下にありますように、いくつかの選択肢がありえます。 このうち、まず民事的な制裁措置として構成するときには、著作権に基づく差止請求の一種として、著作権侵害を繰り返した者に対してそもそもインターネットを利用してはいけないという請求をすることになりますが、そのような差止請求が著作権に基づく民事的な請求として成り立つのかといえば、著作権侵害に基づく差止請求というのは、著作権侵害行為をしてはいけないという請求は可能ですが、それを超えておよそインターネットを利用してはいけないことまで著作権侵害に基づく請求として可能であるのかといえば、立法論を含めて考えても、それは不可能だろうと思います。
 そうなりますと、これは一種の刑事罰として、私人の自由を一般的に制約するというある種の付加刑的なものとしてデザインすることにならざるを得ないのではないか。そうなると、そういう刑事罰としての利用停止措置を科すためのスリー・ストライクとして法的にどのような手続を組むことが必要になるのか、そういう順序で議論を整理することが必要になってくるのではないかと思います。ただ、刑事罰として考えた場合にも、そもそも一定期間インターネットを利用させないという刑事罰を我が国で導入することが可能かどうかという点についてもまだ答えが見えていないわけでありますので、そのあたりから検討を始めることが必要であります。そうした点を空欄にしたまま、自主的な取り組みでどこまでできるかという議論をすることができるかというと、それは困難であろうと思います。結局、そのような刑事制裁措置に向けた自主的な取り組みというのはなくて、スリー・ストライクとは切り離された、別の意味での自主的な取り組みを検討することにならざるを得ないのではないかと思います。
○北川委員
 関連でございますけれども、スリーストライク以外に、これは何度もここでご紹介しましたように、警察署主導のセキュリティ総合会議の結論に基づいて、そのコンソーシアムがつくられたというストーリーなんですけれども、そのときの結論として、警告メールが1で、次がアカウント停止というのがあったんですね。あとは、逮捕以外に民事訴訟、裁判をするというのがあった。
 それをやろうとしても、先ほどから山本委員が言われているように、どうしても一つのネックとしてISP側が─これ、裁判を起こすのは著作権者ですよね。原告になるのは。その原告側の請求に基づいて、いわゆる発信者情報開示を行わなければいけないというシーンが当然出てくるということで、そのことはできる可能性があるんです。スリーストライクとはちょっと離れた場合に、刑事罰を導入するかどうかは別として、もう著作権者が訴訟をする。そして、例えば何回かもう著作権を侵害していることは明らかである、例えば3回。それはISP側には情報があるが、その情報をISP側が著作権者に開示するための要件というのは、法的にはどう解釈されるんでしょうか。
 すみません、質問になってしまいましたが。
○土肥座長
 どなたにお答えいただいたらいいでしょうか、今のご質問。
○北川委員
 ……ということも重要な課題として上がっているということです。
○土肥座長
 確かに、細かな点についてはたくさん問題があろうかと思うんですけれども、本ワーキンググループの取りまとめとして、どこぐらいまでまとめておくか。つまり、既に本日の事務局の説明の中で、問題点というのはかなりうまく整理されておるわけでありますので、このうまく整理されている問題点と本日いただいたご意見を踏まえて、次回、最終的な取りまとめのときにごらんに入れる、そういう形でこの点についてはまとめておきたいと思いますけれども、よろしいでしょうか。
○宮川委員
 今日言ったことでまとめられるということなら、私も少し発言しておかないと不本意だと思いますので。
 この整理(素案)の1の部分を見まして、問題点を丁寧にまとめてくださっているというのは土肥先生のおっしゃるとおりだと思うんですが、でも、どうしたいというか、このために何かやれるようなことを考えてみよう、そういう「意気込み」というのは変ですけれども、何もなくて、「検討すべき課題が多い」とか「謙抑的になる」とか「慎重な判断が求められる」とか「課題が多い」というのが続きまして、最終的には民間の方々のガイドラインというようなまとめになっていくのを見ますと、果たしてそういうまとめ方でいいのか、せっかく違法コンテンツ対策について検討している以上、もっとはっきりと、何かできるような方向で検討するという、方向性みたいなものがもう少し出たらなという気がしております。
 特に今回いただいた資料の中では、以前はフランス、韓国だけでスリーストライク制が行われたと伺っていましたし、フランスでは違憲判決まで出たということで、スリーストライク制は難しいなというようなご説明もいろいろなところで伺ってはいましたが、今回の資料を見ますと、いろいろな国でもう実施が始まったり、あるいは検討が進んでいたりする。このような状況を踏まえて、やはり「謙抑的である」とか「問題が多い」とかいって「あとはガイドラインを」というようなところで止まっていては、何か物足りないという考えを持っておりますので、その点もできるだけ反映していただきたいと思っております。
○大谷委員
 私の意見はまた別にあるんですけれども、今、宮川委員がおっしゃったことですね、その反復的な著作権侵害行為に対する対応として前向きな検討をということなんですが、最終的に目標としたいのは、やはり反復的な著作権侵害行為を止めるとか、それに対する抑止効果をもたらしたいということなので、必ずしもスリーストライク制に限ったものではなく、実効性のある対応が確保できればいいわけで、スリーストライク制を何とか可能にすることが唯一の手段ではないと思いますので、現在、事務局のほうで取りまとめてくださっている課題を一つ一つ丁寧に、慎重に検討していくというアプローチは極めて正しいと私は思っているところです。
 前向き感を出すというよりは、実効性を確保するためにクリアしなければいけないものを積み上げていくことが、今の時点では非常に重要ではないかと思っているところです。
 私自身の意見は、非常に細かい論点ではありますが、資料3の4ページで実効性の確保について、ブラックリストの共有という点について言及されていて、その例として多重債務者に関する消費者金融の点を述べられています。ここでは消費者金融会社におけるインセンティブのことが取り上げられておりますけれども、もともとは、借り手の保護。本来、返済能力を確認してから貸し出しを行うべきであるところを、それを十分に確認しないでやっているというところに問題があって、情報の共有によって借り手自身を保護することができるということで、こういう情報共有が初めて正当化されているものですので、結論として謙抑的な対応というのは全く同感ではあるんですけれども、インセンティブが働くか働かないかはそこで判断するものではなくて、それが実際にブラックリストとして共有される人のプライバシーとか、情報にとってどんな影響があるか、そしてまた、それに伴うリスクといったものを考えるとどうなるのかといったことから検討すべきではないかと思いまして、最終的な整理の段階では、もう少し丁寧に書いていただくことを期待したいと思います。
 また、先ほど平野先生からもご意見がありましたけれども、やはりこのスリーストライク制について議論を詰めていくと、著作権侵害だけではなくて、さまざまな違法行為について考えてはどうかということがいずれ俎上に乗ってくるのではないかと思うんですが、やはり今の時点では、著作権侵害だけを特別視する特段の理由が見つからないというのが現状ではないかと思います。
○北山委員
 そんなに変わった意見ではなくて、今、おっしゃっているようなことなんですが、要は、インターネットへのアクセスの利用行為の停止を命ずる機関がだれなのかが、まず一番大事なんだと思うんですね。それによって、ストライク制というのは意味があるのか、ないのかということになるんだと思うんです。
 今、言った停止命令を裁判所が出すということを前提にした場合は、裁判所が中に介在するわけですから、今までおっしゃっている通信の秘密とか表現の自由とか、そういう憲法上の重要な問題も全部クリアできるということで、それほど心配は要らないのではないか。主体がプロバイダだということになると、それは非常に実効性があるのかもわからないけれども、非常に危険な面もあるということで、そこまで飛び越えていくというのは、現時点ではなかなか難しいかなというのがこのまとめの基礎にあるのではないかと思うんですね。
 諸外国の例を見ても、やはり大半は裁判所が入っているわけですね。そうすると、日本の場合、先ほど問題が出たように逮捕か警告か、真ん中がない、こういうことなんですが、これはやはり裁判所の差止命令が十分に機能していないことになるのではないかと思うんですね。
 そこで、中に裁判所を入れる、そして裁判所は差止請求を十分に機能させる。その機能させる手段として、今、皆さんおっしゃっているように、プロバイダと利用者との間での規約を明確にする、あるいはブラックリストを作成する、そういう趣旨のいろいろな取り組みがあれば、そういうものをもとにして、裁判所は非常に差止命令を出しやすくなる。もっと利用者に利用してもらえば、裁判所もいろいろ事件を重ねることによって出しやすくなる、そういうことで十分に機能するのではないかと私は思います。
○山本委員
 この形でまとまるということを考えると、資料3の4ページ、実効性の確保について1点だけ申し上げておきたいとおもいます。というのは、ブラックリストは権利者に共有されない限り民事的な制裁に結びつけることは不可能なので、余り意味はないのではないかとまず思います。民事的な措置としてとり得るためには、個人が権利者にとって特定できるというアクセスの問題と、そもそもプロバイダが匿名での発信者を受け付けているために発信者を特定できないという問題がある、そこがこの実効性確保の最大の問題だと思いますので、この点は入れていただきたいと思います。
○土肥座長
 それでは、本ワーキンググループとしては、既に侵害対策措置について一定のメッセージは出しておりますので、まずその取り組みを見て、こういう非常に重要な仕組みについてはその後の話だと認識しておるところでございます。
 本日のご指摘については、事務局の説明に基づいてさらにそういうご意見を組み込んだものを、次回お示しすることにさせていただければと思います。
 それでは、リーチサイトによる著作権侵害対策措置についてのご意見をいただきたいと思います。この点についてはいかがでございましょうか。
 このワーキンググループの中で、いろいろ実態についてのご紹介をいただいたりしたと思いますけれども、いかがでしょうか。
 前田委員、どうですか。
○前田委員
 資料についての単純な質問をよろしいでしょうか。
 資料3の6ページ、(2)の1つ目の○で、著作権法上、リンク行為は一般的には直接的な侵害行為に該当するとは考え難いという記述があって、他方、7ページの(4)では、一定のリンク行為については直接的にせよ間接的にせよ著作権侵害となるケースもあり得るとして、直接的な侵害行為に該当すると言えるケースもあるというご説明があるんですけれども、直接的な侵害行為に該当する可能性があるとすると、最初に申し上げたところで「直接的な侵害行為に該当するとは考え難い」としているところが、ちょっと整合しないのかなという印象を受けたんですけれども。
○土肥座長
 「一般的には」というのがついているんですけどね。(笑)
 事務局への質問になっておりますので、お願いいたします。
○奈良参事官
 前半のところは、まさに「一般的には」ということでありますけれども、個別の具体的な例のところでは、ここについては直接侵害になるものもあると思いますし、また、規定上、今、明確ではないけれども、間接侵害の範囲の中で対象にできるものもあるのではないかというように、両方含んだような形になっているので、「例えば」と挙げているところについては少し、認められるのではないかという可能性も含めて言及しているということで、ご理解いただければと思います。
○前田委員
 ちなみに、私としては、一定の場合には直接侵害と見られるケースもあり得ると思います。
○土肥座長
 その上で、何かご意見ございませんか。
○前田委員
 意見としては、最初のほうで「直接的な侵害行為に該当することは考え難い」とするのはどうかなと思います。
○平野委員
 事前にご説明いただいたときに、奈良さんに私もちょっとアメリカを調べてみますとお約束したので、この場でちょっと感触を。
 まさに今の直接侵害かどうかということについて、アメリカの判例を見ますと、さっき3つぐらい分類があるというふうにまとめたポンチ絵がありましたね。資料4の最後のカラーのポンチ絵。一番下が、まさに侵害者が自分の別のサーバーにファイルをアップロードして、自分のもう一つのサーバーからリンクを張るみたいな、まさにこういうことをやると、いわゆる直接侵害に近くなるのではないか。でも、そうではなくて、真ん中ぐらいですかね、他人のサイトにただリンクを張る。この辺になると、ちょっと直接侵害とは言えないのではないか。
 「サーバー・テスト」という判例を見ますと、「PERFECT 10対Amazon.com」事件みたいなものがございまして、そういうような一つの方向性が─ただ、最高裁までは行っていませんけれども、そういう裁判例もございます。
 ですから、普通はこの真ん中の対応、今のポンチ絵の、単にリンクを張っているという場合は間接侵害でいかざるを得ないのではないか。これは事務局さんもうまくまとめていただいたように、やはりリンクというのは非常に重要な機能ですから、萎縮してはいけない。それから、画像サイト、画像検索とかね、「ケリー対アリバ・ソフト」事件という有名な事件がありますけれども、そういうものの技術進歩も萎縮させてはいけない。この辺の配慮がインターネットには非常にございますから、そうすると、原則はやはり間接侵害になってきて、どういう場合に、事務局さんがまとめていただいたように、侵害に成るのかの要件を詰めていく。アメリカ法的にいきますと、「コントリビュートリー・インフリンジメント」とか、「ヴィカーリアス・インフリンジメント」とか、それから「グロックスター」事件などが出てくると、今度は「インデュースメント」みたいな言葉も出てくる。
 ところが、学説によりますと、インディースメントというのはDMCAの後だから、DMCAがカバーしていないとか、しているとか、これが分かれてしまう。それで判例がその辺ははっきりしないとかね。この辺もぜひとも、今後これは詰めていただくことになると思うので、ご研究されて、整理していただきたいと思います。
○森田委員
 いまのご発言を受けて、前田委員に確認したいのですが、直接侵害が成り立つ場合というのは、いま平野委員が挙げられたような場合のことを念頭に置いておられるのか、それ以外にもあり得るというお話なのか、もしご意見があれば。
○前田委員
 資料3の中にもありますけれども、見る人からすると、当該サイトで視聴しているように見えるけれども、そのサイトの見せ方は、実は他のところにあるコンテンツにリンクを張って、電気信号的には他のサイトから流れてくるんですけれども、見る人からすると当該サイトで見ているように見えるものがあって、それについては、当該サイトでユーザーにコンテンツを見せているという行為についての主体は誰なのかというと、見せているサイトの開設者であると言える場合があるのではないかと思います。
○森田委員
 それは間接侵害ではなくて、ということですか。つまり、いずれのサイトもその同じ人がサーバーを管理している場合はともかく、コンテンツがアップされているサーバーは別の人が管理していて、それにリンクを張って見せているだけであるけれども、それを自らの送信行為として行っていると評価できるという間接侵害ではないのですか。
○前田委員
 間接侵害の条文があればその間接侵害の中に取り込むべき問題かもしれませんが、著作権について間接侵害の規定のない現行法では、侵害主体か幇助か教唆かの、どれかに入れる必要があり、どれに入れるべきかというと、侵害主体の中に入れるべき類型があるのではないかと思います。
 ただ、それが将来、間接侵害の立法化がされたときに、それは間接侵害の範疇に入れるべきだというご議論は、当然あるのではないかと思います。
○中山委員
 前田委員の言うとおりだと思うのですけれども、今、間接侵害か直接侵害かという議論をしても、余り意味がないと思います。間接侵害の規定ができれば別ですが。しかし仮に間接侵害の規定ができたとしても、現に特許法などではあるんですけれども、他の者を手足として使う、道具として使う、あるいは機関として使う場合には間接侵害ではなくて直接侵害になる場合もありうるわけで、効果は同じわけですから、特にこの段階で直接か間接かを議論しても余り意味がない。それよりも、侵害にすべきであるかどうかが問題ではないかと思います。
○土肥座長
 前田委員がおっしゃっているのは、幇助に当たるかどうか、共同不法行為に当たるかどうかという、そういう著作権侵害のレベルでない話という、そういう意味ではないんですか。
○前田委員
 幇助や教唆だと差止請求の対象にはならない、侵害主体だと差止請求の対象になるという、その枠組み自体が正しいかどうか議論はありますけれども、その枠組みのもとでは、差止請求が認められるべき範疇に入れるべきものがあるのではないかという考えです。
○山本委員
 私の意見を申し上げる前に、今の論点について一言言わせていただくと、平野委員がご指摘のとおり、アメリカではそうなんです。けれども、では、日本でも同じアプローチをとるかというと必ずしもそうではないと思います。前田委員の考えられるような解釈は十分にあり得ると思います。日本法では公衆送信権で、だから送信したのがだれかというとらえ方をしたとき、必ずしも自分のサーバーにコピーを持っているかどうかが基準にはならないと思いますので、それについてはどちらの解釈も、日本法ではあり得る話ではないか。
 ですから、その議論は両方あり得るという前提でまとめていただいたらいい話だと思います。リーチサイトの著作権侵害対策についてのアプローチなんですけれども、ここに「こういう考えではどうか」と書いていただいているんですが、これは著作権侵害の一般的な問題、間接侵害をどう取り扱うのかという、まさにその単純な応用問題で、それと切り離してリーチサイトの問題だけ間接侵害とは別の理論的な枠組みをつけるべきかというと、その根拠は何もないのではないか。
 つまり、今、間接侵害の問題については文化審議会で議論されていますので、そちらの議論を待つべきではないかというのが私の意見です。
○北川委員
 これは私、すごく恐ろしい感じがするんですけれども、要は、リンクというのはインターネットのエッセンスであって、これを法的に規制したときの、もちろんその限定の仕方にもよると思いますが、萎縮効果は非常に大きい感じがします。
 よく議論にあるのは、例えば今、日経新聞さんがWEB版をつくって上げてきて、リンク禁止と言っているんですね。そのときに「じゃ、Googleはどうなの」という話が必ず出てくるんですよ。Googleというのは、いわばリンク集であって、その中に、違法であろうがなかろうが全部まとまってしまっているわけで、でも「Googleは除く」みたいな話をしているわけですね。
 ですから、このリンクを何らかの形で法的に制限するときというのは、非常に萎縮効果が高くなる可能性があるので、非常に慎重になるべきであるというのが、通常ネットを当たり前に使っている人たちの感触からすると異様な感じがするんですね。「リンク禁止です」とか何とかそういう類のことを言われると、「じゃ、Googleはどうなの」「いや、Googleはいいんだよ」みたいな話になってしまって、何か都合のいいことを言っているなという感じになってしまうので。
 ただし、さっき言われたように、まとめサイトというのは必ずあるんですね。例えばマジコンの違法ダウンロードをどこからするかというと、ほとんどまとめサイトから入っていることは間違いないので、そういうものを見事に特定して切り分けられるのであれば、そういうものに限って違法であると、差止請求が働くような仕組みがうまくできれば、そこの切り分けがうまくできれば、これはありかな、実効性はあるかなという感じがします。
 ただ、一般論として、リンク禁止みたいなことにしてしまうと萎縮効果が莫大になってしまうので、非常に慎重に行ったほうがいい気がします。
○平野委員
 まさに今、北川先生がおっしゃったように、釈迦に説法ですけれども、インターネットの定義、ワールド・ワイド・ウェブはリンクがあってワールド・ワイド・ウェブで、そして我々の世界が豊かになってきて、知る自由というのが充実してきたということなので、リンクを規制─だから言葉の使い方だと思うんですね─「リンクを規制」ではなくて、全体としての、よくありますグロックスターみたいなもの、要するにP2Pを促進させて商売して、それはけしからんではないかと、「全体の行為として」それは違法だという最高裁判決が下ったというね。
 だから、リンクが違法ではないんですよ。「リンクが違法」と言うとどうもちょっと語弊があるので、どうもアメリカの論文などを見ると、こういうサイトは「ゲリラ・ビデオ・ネット」とか、「インデックシング・ウェブサイト」といった言い方をしますけれども、やはり全体としてね、報告書をまとめられるときにはリンクは悪くないというイメージを出したほうが、やはりサイバー法だとかインターネットを使ってきた人たちの立場からすると、やさしいのかなという気がいたします。
○土肥座長
 平野委員に質問なんですけれども、リンク自体は悪くない、それはそうなんですけれども、ここで言う一定の、あるまとめサイトとおっしゃいましたか、とにかく一定のリンクをさせる、そういうサイトについては著作権侵害を、それも極めて大きな著作権侵害を起こす役割を果たしているという側面は確かですよね。そういうところをとらえて何らかの対応を考えなくてはならんのではないかということをここで言っているんですけれども、平野委員は、その場合であってもとおっしゃるのか、それとも、やはりそういう一定のリンク行為については考えるべきではないかということになるのか、どちらでしょうか。
○平野委員
 私、まさにこのまとめていただいたものは全体として、もう事前にご説明いただいたし、賛成なんですね。このスタンスというのは。萎縮効果に気をつけるべきであると。プラス、今、北川先生がおっしゃったように、そもそも萎縮効果ということの前に、ワールド・ワイド・ウェブというのはリンクがあってワールド・ワイド・ウェブで、それを活用して世の中で豊かになって、みんないいよと思っているのを、「リンクがいけない」という言葉を使い出すと、要するにラッタイド運動みたいに、この技術、インターネットそのものがいけない─一一時あったんですよ。ちょっと説き起こすとサイバースペース法ができたときに、アメリカでは通信品位法などというものができて、インターネット・サイバー法の学者が、いろいろな人が大反対運動をした。
 それ、即ち通信品位法に代表されるようなインターネットという媒体・技術自体を非難・規制する動きが出た理由はなぜかというと、わいせつ図画が増えてけしからんという理由だったんです。それを言い出したらば、釈迦に説法ですけれども、活版印刷で新約聖書が印刷されたと我々は高校で学んでいるけれども、学者が調べると、新約聖書の前にわいせつ図画が流行ったんです。活版印刷で。人間というのはそういう性(さが)を持っていますが、ところが、だんだんいいことに使っていって良書が普及してということに使われていく。だから、メディアというか、技術を攻撃していけはいけないということが、すごく古典的にサイバー法では言われている。
 このリンクというのもまさに同じで、ワールド・ワイド・ウェブというすばらしい発明があり、これでよりインターネットが豊かになり、そのリンクというものを否定するようなことが起きると、ワールド・ワイド・ウェブを否定することになってしまうので、ここで問題になっているのは「リンクがけしからん」ではなくて、リンクを悪用して著作権侵害をすごい、何というんでしょうね、そういうものばかり集めて、侵害サイトのリンクを集めてそれを助長したり、その周りに宣伝広告を打って利益を得たり、こういった「全体としての行為」は、これはやはり違法ではないか。そういうニュアンスを言葉として出すようにしたほうがいいのではないか、こういう意見でございます。
○森田委員
 先ほどから出ている意見は、結局は先ほどの山本委員の意見に収斂していくように思いますけれども、リーチサイトというのを特別に取り出して、それを違法とするというよりは、著作権の間接侵害に関する一般原則に照らして、間接侵害に当たる場合であれば、それはリンク行為であっても違法ということになるし、そうでなければ違法とはならないだけのことであって、一般原則に照らして適法であるのに、その中から何か特別な場合を取り出して立法によって違法にするといったことはすべきではないということになるのだと思います。その意味で、リンクであっても他のいかなる行為であっても、一般原則どおり違法なものは違法で、そうでないものはそうでないというだけのことではないかと思います。
○山本委員
 そうなんです。ここに書かれている内容も、別にリンク自身が悪いとか、そんなことは書いていないように思います。また、余り逆にとらえてリンク自体でそれが免責になるような、そういうことでも困ります。ここに書いてあるのは、リンクをまとめてどうのこうのするのが著作権侵害のコンテンツの閲覧やダウンロードを助長している、というように、助長行為とかそういう点を問題にしています。リンク自体がけしからんとか言っているわけではありませんから、別に「リンク」という言葉を削れみたいなことを言う必要はないのではないかと思います。
○土肥座長
 それはおっしゃるとおりだと私も認識しておったんですけれども、いずれにしても、多くの委員がご指摘のように、現在、法制処理の中のワーキンググループの中で、間接侵害の問題についてはかなり時間をかけて集中的に議論がされておるところでありますので、その成果を待ちたいと思います。
 このまとめ方としても、そういうまとめ方ではないかと思っておりますので……。
○森田委員
 8ページの2つ目の○のところに、「プロバイダ責任制限法に基づく運用上」と出てきますけれども、削除というのは差止請求ですね。差止請求については、プロバイダ責任制限法は直接に何も規定していないわけですので、間接侵害として著作権法に基づく差止請求の対象となるかどうかという問題であって、プロバイダ責任制限法とは切り離して考えるべきでしょうし、そうならざるを得ないと思います。この「運用上の削除対象」という概念がやや不正確ではないかということだけ申し上げておきたいと思います。
○土肥座長
 ありがとうございました。
 それでは、3番目の問題なんですけれども、損害賠償額の算定を容易にする方策について、これも昔から議論のあるところでございますが、この点についてご意見をいただければと思います。
○中山委員
 法定賠償については特に悪い制度であるとは思っておりませんし、今回は出てきませんけれども、常に出てくるのは3倍賠償あるいは懲罰賠償の問題で、それ自体も別に悪い法律だとは思えないのですけれども、問題は、日本の法体系の中でどうかということ。
 例えば、法定賠償をつくれば独禁法違反、たとえばカルテルにおける私人の損害などはなかなか計算できないので、すぐ法定賠償をつくれという議論が出てきます。あるいは懲罰賠償でしたら、すぐPLだとかそういうところに必ず飛び火する。したがって、日本の法体系全体を考えて入れるべきだという方針をまず出さないと、著作権法だけでやるというのは難しいのではないか、常に横のバランスというものを考える必要があるのではないかと思います。
○土肥座長
 他にいかがでございましょうか。
 日本の法体系といいましょうか、そもそもインターネット上のデータのコンテンツに関する著作権侵害についての損害賠償額の算定が極めて難しいのかどうか、そのあたりは北山委員に伺ったほうがいいのかもしれないなと思っておるんですけれども、そういう問題意識のもとにこの説明は成り立っておろうかと思いますが、北山委員、この点で何かご意見ございますか。
○北山委員
 いや、もう全く、中山先生がおっしゃったことがまず大前提で、私も全く同意見ですし、ここにも私が言ったことと大体同じようなことが書いてありますので、特に自分自身の意見はないんですが、今、独禁法上の損害額の算定の例が出ましたが、あれも実際、自分でやってみると非常に─そういうときは大体「認定」と言わなくて「算定」と言っているんですが、損害額の算定は非常に難しい。
 それから著作権法上も、第114の5でしたかに、相当な損害額を認定することができるといいう規定があるんですけれども、その相当な額を算定するのも裁判官としては非常に難しいと思いますね。
 そういうときに業者間の取り組みによって、例えば当事者間で1回幾らといったガイドラインみたいなものができておれば、そのガイドラインが特に不都合であるという特段の事情のない限りは、裁判所はそれを基礎にして算定する。もちろん、個別的な事件の特殊性は当然勘案しますから、そのとおりの額を認定するとは限りませんが、そのガイドラインを尊重しながら算定できるというメリットがあると思うんですね。一番わかりやすいのは、例えば交通事故に基づく損害賠償のときに、例えば通院1カ月何ぼだというようなものができていると、裁判官は原則として、それに従って認定していって、原告と被告との間の特別の事情を斟酌すればいいということですから、何もない場合に比べると、やはり裁判官としては少し助けになるかなと思います。
○中山委員
 北山先生に伺いたいのですが、著作権法第114条の5をつくるときは、何回ダウンロードしたかといったことはよくわからない、そういうときに使えるということでつくったはずなんですけれども、実際、裁判官としてはこれは使いにくいんでしょうか、それとも、これがあると非常に使いやすいんでしょうか。
○北山委員
 正直に言いますと、「相当な額を認定する」と言われたときは、非常に使いにくいですね。何もないときには。多分そうだと思います。それは慰謝料を算定するのと同じだと思いますね、いえば。慰謝料も、確定的なものは何もないわけで、例えば交通事故の場合、わかりやすい例で言いますと、通院の日数とか障害の程度とかいろいろ言いますけれども、しかし「その他、諸般の事情を考慮して」ということにならざるを得ないわけで、そうすると結局、いえばどんぶり勘定みたいになってしまうわけですよね。
 だから、こういう「相当な損害額」他にもこれと同種の規定がありますか、民訴法でも、今度、できていますから同じ規定がありますけれども、それは実際、裁判をやる場面では、裁判官としては非常に使い勝手は悪い。しかし、今、言いましたように、独禁法上の場合もそうなんですが、認定自体ができない場合があるから、そういう「相当な額を算定できる」となっていれば、それに基づいて、慰謝料を確定するのと同じような作業で算定していけるかなと思いますね。
○中山委員
 特許法ですけれども、「職務発明の相当な対価」と言うときには、裁判官はかなりエイヤッとやって、1億円から600億円までいろいろ出ているわけですけれども、あれなどを見ていると、かなりできるのではないかという気はするんですけれども、そんなこと本当はないんですか。(笑)
○北山委員
 やはり職務発明などの場合は、相当裁判所の事例が積み重なってきていますよね。だから、そこから余り外れないところでだんだん落ち着いていく、それはやはり判例法的なものができていくからではないですかね。
 その中でも、やはり今まで裁判所が認めたことのないような、何百億などという額を算定する裁判官が出る場合もありますけれども、そういうものは非常に少ないというように思います。
○土肥座長
 ここでのヒアリングの中では、関係団体のある団体は、一定額というものをおっしゃっていましたね。それはそんなに、10万円ぐらいとおっしゃっておられたかと思いますけれども、そういう定額の法定損害賠償制度がもしあれば、北山委員が今、おっしゃったところからするとどうなんでしょうかね。これこそまさにやりやすいのではないかと思うんですけれども。
○北山委員
 やりやすいといえばやりやすいけれども、でも、それはもうその個別事件の特殊性は全部シャットアウトして、それだけで決めようということですから、裁判官としては、自分の判断を拘束されているような感じがすることはする。
○中山委員
 最低額ではないのですか。定額ですか、、そうではなく最低額でしょう。
○土肥座長
 いえ、定額と言われておりましたけれども。
○中山委員
 ネットで侵害したら全部10万円ですか。
○土肥座長
 実損を立証できれば、また別なんでしょうけれども。でも、インターネットにアップしただけのような状態のときに、何回ダウンロードされたかといったことはわからないわけですよね。
○中山委員
 つまり、立証できないときは10万円。それは最低額という意味でしょう。
○土肥座長
 最低というか、それを請求できる。
○北山委員
 結局「侵害した場合は10万円とする」という本文を置いておいて、「ただし、原告においてそれ以上の額を立証した場合には、この限りでない」というただし書きを置くことになるんでしょうね。
○北川委員
 現実に、訴訟を起こす著作権者側から言いますと、今、何が起こっているかといいますと、何かわけのわからない人たちが200万人ぐらいいます、その人たちがWinnyやらCabosやらLimeWireやらShareやら、いろいろなソフトウェアを使ってアップロードをしています。その中のWinnyだけ、今、補足できるのはWinnyだけで、一部Shareがありますけれども、そのたまたま捕まった特定の─というのは、悪質ではない人です。ほぼ善良な市民なんですけれども、その人を捕まえてやっと立証ができる。ただ、その人がどれだけの損害を発生させたかは、ほとんど問題ではなくて、損害賠償能力はまずないに決まっているわけですね。
 ですから、彼らが欲しいのは、訴訟する人を特定して損害額の算定をきちっとして訴訟できる状態ではなく、抑止することこそが彼らが欲しているエッセンスであるわけですね。
 実際には、この損害賠償額を算定するのは非常に難しいことは事実でありまして、現実に、例えばここに来られたアックスなどというところは、これは今、手元にあるんですけれども、毎年物すごい調査をやっているんですね、自分の手で。しかしながら、それは全体としての確たる被害算定もできなくて、例えば、ここへ来て5,000億円のマジコンによる損害がありましたというと、5,000億円という数字が世の中でひとり歩きするんですね。実際、アックスに日経新聞が取材に行ったときに3,000億円と言うと、また3,000億円がひとり歩きする。それぐらいの幅があるので、裁判所に出ていったときに「これは5,000億円です」「3,000億円です」
 これはWinnyのときに実際あったんですね。どれぐらいP2Pで被害が出ているかというときに、では違法侵害がどれだけですかというパーセンテージが、最初は6割と言っていたのが5割になり、4割になった。裁判官のほうも全くこれは損害の査定がいい加減であって、信頼できないということが負けてしまった理由の1つになっているという実態がありまして、非常にコストがかかるし、わからない上に、実は実効性がほとんどないということで、であるよりは、何でもいいから10万円の罰金にしてもらって、みんなが「あ、10万円罰金取られるのか」ということになったほうがはるかに抑止効果は高い。そういう意味での実効性は高いという意味合いにおいて、こういう意見が出てくるのだということだと思います。
 ですから、必ずしもきちんと算定して裁判を起こして、勝訴して取れるかといったら、取れない人がほとんどだと思うんですね。これ、いろいろな調査がありますけれども、自分でお金を払うんだったらダウンロードしますかといえば、「しません」という人ばかり、ただだからこそやっているだけで、実際損害は与えているんですけれども、損害賠償能力も何もないような人たちが100万人単位で著作権侵害を全体として犯しているというのが実態なので、では、どうしようといったときに、「Winnyの開発者を逮捕しましょうか」ぐらいしか手だてがないというのが実態ですので、何らかの意味合いにおいて、ありとあらゆるチャンネルで抑止を高めていく以外、実質的に取り締まるというか、著作権侵害を減らすことは非常に難しいということが趣旨だと私は思います。
○山本委員
 まず、10万円とかいう定額といいますか、最低金額の話は、そういうことを提案される意図は物すごくよくわかるんですね。実際に訴訟をやった場合に、原告の側も被告の側も、弁護士を立ててやると10万円とかではなく桁の違う、100万円以上の金をかけないとできません。だから、10万円取ったからといって何の足しになるわけでもありません。そういうものを定めたいというのは、一般の零細なユーザーが違法な使用をするのに対しての抑止効果が抜群にあるだろうと。10万円取られるとかいうと、自分がわずかな侵害をするときに、それとの見合いで考えますので、そういうものを抑えることができる。そういう意味で抑止効果抜群だとは思いますが、問題は、損害賠償請求権は抑止を目的にした制度ではありませんので、そういう目的に使っていいのかどうかという思い切りですね、それがなかなか難しいかなと。
 抑止効果があるというのは、今度は逆に、わずかに1回、物すごく気の小さなというか、零細なユーザーが1回侵害した。たまたまその侵害を知った人間が「自分は権利者だ」とかいって要求したときに10万円取られる、今、よく行われているような詐欺みたいなことだって起こり得る。10万円だったら詐欺の対象にもなり得ると思いますので、そういうことだって考えられる。とすると、10万円といった最低損害賠償額を定めるのがいいのかどうか、なかなか難しいような気がいたします。気持ちはよくわかるんですが。
 損害賠償額についてのアイデアなんですけれども、私は、法定賠償とか懲罰的賠償とかいう額の問題ではなく、損害額の推定というやり方があり得るのではないかと。
 といいますのは、ライセンスを受けて使った場合には、大体そのライセンス契約の中で監査条項を入れておいて、どれだけ使ったか報告書をもらう。そして報告について裏をとるために、帳簿を閲覧して謄写するような権利を契約書の中で定めます。したがって、かなりの程度、実際に使われた数量を把握することができます。裁判になっても、その帳簿閲覧請求権がありますので、相手方から記録を出させることも可能になりまして、把握率は極めて高くなるわけです。
 ところが、そういう契約関係も何もない相手方に対しては帳簿閲覧請求権も何もありませんので、すべて権利者側で立証しないといけない。つまり、把握率がライセンス契約のある場合よりもはるかに小さくなります。他方、とれるレートのほうは、通常のライセンス料と同じレートになりますので、侵害したほうがライセンスを受けるより得だという結果が発生してしまいます。これはなぜかというと、侵害訴訟の場合には権利者側で全部立証しないといけない。しかも、立証する手段が限られています。そのことを考えると、立証の負担の公平という観点から、権利者側が100の侵害数量を立証したら、実際、侵害された数量は200と推定して、200ではなしに100なんだ、あるいは150なんだというのは侵害者側で立証するといった2倍推定のやり方で、権利者側の立証責任を軽減するという制度も考えられるのではないかというのが私のアイデアです。
○土肥座長
 わかりました。アイデアとしては承るということなんですけれども、最高の侵害数量から覆滅していくのではなくて、倍になるわけですよね、山本委員がおっしゃっているのは。
○山本委員
 権利者側が立証できたのが100だったら、200とする。
○北川委員
 物すごく厳密な話題から外れてしまうかもしれませんが、これは実際、アックスというところが中心になって調査をやっています。この人たちはかなり手広く調査をやっているんですが、彼らが望むことは何かというと、いわゆるインターネットに関する国勢調査的なものが日本にはないと言うんですね。例えば韓国とか中国だと、割とそういうことがしっかり─言論統制の兼ね合いもあるのかしっかりやられていて、例えばネット中毒なんて非常に話題になっているわけです、韓国とか中国では。それはセンサスがあるので、割と全体を把握しているのでそういう話があるんですが、日本では割と全方位的な─インターネットというのは全体としての効果が非常に大きくて、個別に捉えようとしてもなかなか難しいところがありますが、そういった調査をぜひやってほしいという要望があって、これは総務省が国勢調査の中に入れ込んでやるぐらいのことをやったほうが、今どきですからいいのではないか、それぐらいの規模でやらないと、全体的な把握はできないではないかと。
 具体的な質問項目等は、彼らも非常によく練り込んでおりますので、そういうものを日本国全体の規模でやるとかなり全体の様相が把握できて、いろいろな対策も立てやすくなるのではないかという意味のことを言っておりました。そういったことは著作権侵害だけでなく、いろいろなインターネット上の社会的な事件もありますし、中毒の問題もありますし、そういった意味で、やるべきではないかという意見があったことを一応コメントさせていただきます。
○土肥座長
 これまでいろいろご発言をいただいているところからすると、平野委員は今のご意見について何かございますか。特にございませんか。
○平野委員
 先ほど2倍というのはおもしろいなと思って、何が2倍か─あ、今のお話ですね。すみません。
 確かに非常にこれ、事実の把握が難しい中で、どうルールをつくっていくのかという根源的な問題で、すみません、答えが抽象的になるんですが……
○土肥座長
 いや、インターネット上でそういう、平野委員はどちらかというと、できるだけ規制を加えるべきではないというご意見を一貫しておっしゃっていたかと思いますので、インターネットにおける国勢調査のようなことをご提案いただいたわけですけれども、何かご意見があればと思ったんですが。
 もしなければ、総務省が今、おいでになりますので、何か感想があればおっしゃっていただいてもいいんですけれども。
○平野委員
 私、総務省の代理人ではなくて……。
 センサスの話ですね。センサスの話は、ただちょっと、先ほどおっしゃっていたように言論統制があるような国だからかもしれないし、可能かどうかは総務省さんに聞いていただいたほうがいいかもしれません。
○土肥座長
 ですから、総務省さんにおいでいただいておりますので、もしご意見があれば。二宮課長、いかがですか。
○中山委員
 インターネットの国勢調査というのは、具体的には何をやるのでしょうか。
○土肥座長
 それでは、韓国の事情についてご紹介いただきます。
○北川委員
 ここにはいろいろなことが書いてあって、これは著作権侵害に限定された調査なんですけれども、例えば「あなたはファイル共有ソフトを使ったことがありますか」とか「違法ダウンロードをしたことがありますか」とか、そういうことは、驚くべきことに結構みんな正直に答えているんですね。ここではいろいろなソフトウェアのユーザーさんごとに、また絞り込んでいろいろな質問をする。
 これは私、ちょっと関連で申し上げたいんですけれども、この驚くべき共通点は、そういった違法行為に一切の罪の意識がないということです。違法ダウンロードをやめるタイミングというのがありまして、それはどういうときかというと、ハードディスクの容量がいっぱいになってしまったときにやめる。そして、ダウンロードしたらどんどん捨てる。罪の意識は全くない。友達にもどんどん勧める。私はここが非常に問題だと思っておりまして、これだけ違法行為があり、法令をつくって、著作権者の方が困っているのに、実際のユーザーさんたちはほとんど何の罪の意識もなく、当たり前に、物理的制約のみによって歯どめがかかっている。しかも、こういうアンケートに正直に答えているという非常におもしろい現象があります。
 しかもこれは非常に限定された中の調査なので、そういったことを国レベルでやってほしいということを─これも非常にお金がかかるわけですね、ヒアリングをしたりアンケートをとったりというのは1件幾らでやるわけですから。アンケートも、10人ぐらい集めてヒアリングをやったりしているんですけれども、やはりコストの問題が非常に大きいと思います。ですから実態で、よくありますよね、メディアの。実際テレビはどれだけ見ている、ラジオはどれだけ聞いている、CDはどれだけ買っているというのと同じように、インターネットはどう使って違法ダウンロードはどれだけしているみたいなことも正直に答えてもらうのであれば、それは今すぐ広く調べてもらうと非常に参考になりますと、このようなニュアンスでございました。
○土肥座長
 そういう調査の中から、損害額といったものもわかるのではないか、そういうこと……
○北川委員
 確率的にわかってくると思います。要するに、ダウンロードしてどれだけ使っているか、そういう人がどれぐらいいて……。そのほうが確率が高いですね。ランダムに少しでサンプリングして推定するよりも、「全体でこれぐらいの人が使っていて、これぐらいの違法ダウンロードをしているので、全体でこれぐらいでしょう」のほうが、まだ信頼度が高いのではないか、そういう報告があるということです。
○土肥座長
 二宮課長、何かありますか。
○二宮課長(総務省)
 特にこの時点でのコメントはございません。ご意見として伺いたいと思います。
○森田委員
 先ほどからお伺いしていますと、法定損害賠償とか、損害賠償額の算定を容易化するといった議論が何をねらっているのかというと、大きく2つの方向があって、1つは、実損害の立証が難しいのでそれを何とかしてほしいというのと、もう1つは、仮に実損害について損害賠償が認められたとしても低額になってしまって訴訟をするだけのインセンティブが働かないので、抑止的な意味をもつ損害額を法定してほしいというのと、2つのニーズがあるように思えます。
 このうち、前者については、現在の法制度でも、民訴248条もそうですし、著作権法上もその特則が用意されていて、著作権侵害がある、つまり、権利侵害によって何らかの損害が発生したことは明らかだけれどもその損害額が立証できない場合には、裁判所は相当な額を認定できるという規定があるわけです。そうした規定のもとで、実際に訴訟を提起したけれども、損害額の立証が十分でないので請求を棄却するという判決がたくさん出ているかというと、そうではないように思いますので、法制度としては既に手当てがなされているのであって、あとは当事者がどのように工夫してそれに乗せて主張していくかというところの努力をするかどうかという問題ではないかと思います。
 これに対し、後者の議論というのは、要するに、実損がないけれども実損を超えるところで損害賠償額を法定しようという、ある種の懲罰的な損害賠償を導入すべきかという問題になりますので、これは最初からハードルが高いというか、法定損害賠償と言った途端に「それは我が国の法体系のもとでは認められない」という答えが返ってくることを予想しながら主張していることになりますので、余り筋がよい主張ではないのではないかと私は思います。
 そうしますと、どちらを本当にねらっているのか。損害額の立証の負担が重いということであれば、それを改善するということになるわけですけれども、今まで導入された手当てがそれでは不十分であって、現実に訴訟を起こしたけれども立証負担が原告に重く課されていて、裁判所が相当な損害額を認定してくれないという具体的な問題があることが明らかになってくれば、それに対してどういう対応をとるかという具体的な処方箋を検討することが可能になってくると思うのですけれども、そもそもそこにまで行かなくて、訴え提起そのものをシュリンクしてしまう、損害賠償が認められてもその額が低額なのが問題であるということになるとすれば、それはまた全然別の問題なのであって、その点をはっきり区別して論ずべきではないかと思います。
 いまの観点からひとこと付言しますと、10ページの「無断駐車の場合には1万円申し受けます」と明示することで抑止効果が働くというように書かれていますが、これは、法律的に言うと全く意味がないものであります。これを素人が誤解して無断駐車をすると1万円を支払わなければならないのでそれが抑止になると受けとめるとすれば、むしろそのほうが問題であります。ここではそのような「指摘がある」とだけ書いてありますと、このような一方的な意思表示に法的な効力があるとこの報告書で書かれてあるように誤解を招きかねないと思いますので、このようなものは法的には全く意味がないということをきちんと書くか、あるいは何も書かずこの括弧内は削除するか、どちらかにすべきだろうと思います。
○北山委員
 損害賠償において裁判所が十分機能していない、つまり実損に当たるものの填補を命じていないという現実はあると思うんですね。私が初めて工業所有権関係の事件をやったときに思ったんですが、やはりやり得なんですよね。新しい製品が出たときに、それを真似してつくって売ってしまったら、それによって得た利益の数分の1程度しか、実際の裁判においては損害賠償が命じられない、これはもう現実の姿だったと思うんですね。
 それは私、昭和50年代の初めごろに初めてやったんですが、その時代に比べると、今、著作権法でも、この第1・2・3項とか第114条の5とかいろいろ条文改正していただいて、そういう点では非常によくなっていると思います。しかし、しょせん裁判官の習性として、どうしても控え目認定をしてしまうんですね。もっとあるのではないかと思っても、やはり自分が地裁でやっていると高裁を意識するし、高裁でやっていると最高裁を意識するんです。つまり、自分の出した判決が、控訴、上告されたときに絶対に破られたくないという気持ちは裁判官は非常に強いと思いますね。これはすべての裁判官が持っていると思います。
 そうしますと、例えば100万円だったら、少なくとも70万円だったら絶対大丈夫だというところにいってしまう、そういう傾向が大半、99%以上の裁判官がそうだと思いますね。たまにそうでない人がいて、例えば何百億円という損害賠償が命ぜられるような裁判例が出てしまう場合があるんですが、それは非常に特異な例ですから、普通の裁判官の心理としては、いいか悪いかは別にして、はっきり言いますと、そういう控え目認定になってしまう。
 私、今、弁護士を少しやっているんですけれども、弁護士の立場から見ると、もっと思い切って踏み込んでいったらいいのではないかと思いますが、しかし、実際、自分が裁判官の席に立つと、やはりそうはできないだろうなという感じはしますね。
○平野委員
 思いつきで申しわけないんですが、今の先生のお話を伺ったら、たしか日本では名誉毀損の損害賠償額が非常に低くて、インセンティブが働かない、週刊誌はもうやり得だということで、これを上げようと。イギリスはすごく高いといったこともあり、変わってきたという話を聞いたことがあるんですが、その点の経験をこちらでも生かすといったことは難しいんでしょうか。
○北山委員
 名誉毀損の場合、慰謝料ですよね。それはやりやすいんです。要するに、裁判所の裁判というのは世間常識、良識に従っていないといけないので、世の中の流れが変わってくると、やはり裁判官もそれに乗っかっていくということはあるんです。だから、マスコミ関係の慰謝料の算定額が非常に高くなってきていることは、もう皆さんご存じのとおりなんですが、それは周りがそういうことになってきているから、それを裁判官が受け入れているんだと思うんですね。
 その慰謝料の算定と、こういう財産的な損害額の算定というのはちょっと違うんですが、先ほど私も言いましたように「相当な損害額を認定することができる」こういう条文をつくっていただくと、これは慰謝料の算定に非常に近くなってくるかなと思いますね。
○土肥座長
 ありがとうございました。
 ネット上の著作権侵害という場面において、侵害を受けた権利者が適正に受けた損害を回復することが現状においてできるかというと、これは確かに極めて難しいわけであります。こういう状態について何らかの手当てとして、1つは、今、法定損害賠償制度というようなものが仮に上がっておるわけですけれども、それがいいのか、あるいは何らかの損害賠償の推定規定のようなものを考えるのか。
 いずれにしても、この現状に対して何かの検討をすること自体については、本ワーキンググループとしてもとり得るところだと認識しておりますので、まずはこういうネット上の著作権侵害問題についての損害の回復の仕組みについて検討していただくということを、ワーキンググループとしては問題点の指摘としてとどめたいと思います。1つには、権利者がこのような事案において裁判でどういう対応しているか、事例は─必ずしも多くないと思うんですね、例えば今回、違法ダウンロードが著作権侵害になりましたけれども、そういう場合について、権利者が個々のユーザーに対して違法にダウンロードしたものに対してどういう権利行使をするのかという例は、まだないだろうと思います。
 ですから、北山委員おっしゃったような実績、そういうものの積み上げも見る必要がある。どちらが先かはよくわかりませんけれども、いずれにしても、この問題はやむを得ないものとして放置するのではなしに、ワーキンググループとしては、この問題を解決するために検討してほしいというような方向性を書かせていただいて、具体的に何をやるかということになるわけですけれども、これは非常に難しいことで、我々の限界というか、2回しか検討できない、その限界として受け止めたいと思っております。
 時間が参りましたので、本日の委員会としてはこれで終わりたいと思いますけれども、いただいたご意見は事務局の説明資料にさらに盛り込んで、次回にお示しできればと思っております。
 何かご意見ございますか。よろしゅうございますか。
 それでは、本日の委員会はこれで閉会したいと思います。
○奈良参事官
 次回は5月18日火曜日の15時からでございますので、よろしくお願いします。
 今日のご意見を踏まえまして資料を修正したいと思いますけれども、個別に先生方にご相談させていただきたく思っておりますので、またよろしくお願いいたします。
○土肥座長
 どうもありがとうございました。これで閉会いたします。
午後3時00分 閉会