首相官邸 首相官邸 トップページ
首相官邸
 トップ 会議等一覧知的財産戦略本部医療関連行為の特許保護専門調査会 [印刷用(PDF)]


第1回 医療関連行為の特許保護の在り方に関する専門調査会 議事録


1.日 時:15年10月31日(金)10:00〜12:18
2.場 所:知的財産戦略推進事務局 会議室
3.出席者:
【委 員】井村会長、秋元委員、上田委員、北村委員、見城委員、澤委員、田村委員、広井委員、森下委員
【参考人】岩尾医政局長、小野特許技監
【事務局】荒井事務局長
4.議 事:
(1) 開会
(2) 会長の選任
(3) 専門調査会の運営について
(4) 今後の進め方について
(5) 先端医療技術を巡る現状と課題について
(6) 自由討議
(7) 閉会


○荒井事務局長 それでは、時間でございますので始めさせていただきます。
 ただいまから「医療関連行為の特許保護の在り方に関する専門調査会」の第1回会合を開催させていただきます。
 本日は、御多忙のところ御参集いただき、誠にありがとうございます。
 私は、内閣官房知的財産戦略推進事務局長の荒井でございます。
 後ほど、委員の互選により、この専門調査会の会長をお決めいただきますが、それまでの間、議事の進行を務めさせていただきます。
 まず、本調査会の設置に至りました経緯等につきましては、お手元にお配りした資料1の通りでございます。お手元に資料はございますでしょうか。
 知的財産戦略本部は、本年3月1日に発足し、5回の本部会合と、2回の有識者本部員会合を経まして、7月8日に、お配りしてあります「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」を決定いたしました。
 本専門調査会の課題であります、医療関連行為の特許保護の在り方につきましても、資料2にございますとおり、推進計画において記載されております。
 また、資料3でございますが、7月8日の本部会合では「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」に係る重要政策課題の調査のために、本専門調査会を設置することも決定されました。本専門調査会につきましては、1.の(1)に記載されたとおりでございますので、よろしく御審議のほどお願いしたいと思います。
 本日は、初顔合せの会合でございますので、最初に委員の方々の御紹介をさせていただきます。資料4の名簿をごらんいただきたいと思います。
 御紹介させていただきます。
 秋元浩委員でいらっしゃいます。
 井村裕夫委員でいらっしゃいます。
 上田実委員でいらっしゃいます。
 片山英二委員は、本日は御欠席です。
 北村惣一郎委員でいらっしゃいます。
 見城美枝子委員でいらっしゃいます。
 澤倫太郎委員でいらっしゃいます。
 田村善之委員でいらっしゃいます。
 平田正委員は、本日は御欠席です。
 広井良典委員でいらっしゃいます。
 森下竜一委員は、10分ほど遅れていらっしゃいます。
 ありがとうございます。
 それでは、次に、会長の選任をしていただきたいと思います。資料3にお戻りいただきたいと思います。
 資料3の3.にございますように、専門調査会の会長は、委員の皆様の互選によりお願いすることとなっております。どなたか御推薦お願いできますでしょうか。

○北村委員 大変僣越ではございますが、会長には、本課題は医療関連行為の特許ということの問題でございますので、総合科学技術会議の代議員を務められ、またライフサイエンスの部のとりまとめを行っておられます、御造詣の大変深い井村先生が適任者ではないかと考えておりますので、御推薦を申し上げたいと思います。

○荒井事務局長 ただいま井村委員という御推薦がございましたが、皆様いかがでしょうか。

(「異議なし」と声あり)

○荒井事務局長 それでは、井村委員が会長と決定いたしました。これからの議事の進行は井村会長にお願いいたします。

○井村会長 井村でございます。皆様の御意向でもありますので、行き届かないかも知れませんが、会長を務めさせていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
 実は、医療関連行為の特許につきましては、昨年、総合科学技術会議の知的財産専門調査会でもいろいろ御議論をいただきました。この中にもそのとき委員をお務めいただいた方、あるいは参考人として御意見をいただいた方がおいでになります。
 しかし、結局結論が出ておりませんので、これから皆様方とともに、医療関連行為の特許の範囲について、是非まとめをしていきたいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは、議論に入ります前に、本専門調査会の運営について定めたいと思います。運営につきましては、資料3の6.にありますとおり、会長が定めることになっております。 そこで、具体的な運営についてでありますけれども、資料5をごらんください。ここにありますように、議事は原則公開とすること、会議終了後は、発言者名を付した議事録及び配布資料を公開すること、専門調査会の審議に必要があると認めるときは、参考人を招致すること、その他必要な事項は会長が定めさせていただくということになっております。また、本専門調査会の公開手続については、資料6のとおり定めさせていただきたいと思います。
 この会議の議論をより実多いものとするという観点から、事務局からも適宜、発言、説明をしていただくということにしたいと思いますので、この点、御了承をいただきたいと思います。
 それでは、よろしゅうございますか、議事に入らせていただきます。
 まず、専門調査会の進め方につきましては、事務局から説明をしていただきます。

○荒木事務局長 資料7に沿いまして、進め方を説明させていただきます。
 検討課題は、医療関連行為の特許保護の在り方についてでございます。
 2番は、当面の日程と議論の進め方でございますが、本日、10月31日は、第1回専門調査会ということで、検討課題の確認をしていただき、先端医療技術を巡る現状と課題について御議論をしていただきたいと思っております。
 12月5日の第2回専門調査会におきましても、その続きをしていただく。
 12月18日の第3回専門調査会についても、その続きの議論をしていただきたいと思っております。
 2ページに参りまして、来年の1月以降は、年内の議論及び諸外国の状況等を踏まえまして、医療関連行為の特許保護の在り方について検討を行い、来春を目途にとりまとめを行っていただいたらどうかと思っております。
 なお、議論の進捗状況等によりまして、上記スケジュールの変更があり得るものと思っております。
 3番にその他ということでございますが、厚生労働省医政局長及び経済産業省特許庁長官については、参考人として、専門調査会への毎回の出席をお願いしてはどうかと思っていまして、別途、必要に応じ、参考人の出席を求めたらいかがかと思っております。
 以上でございます。

○井村会長 今の説明つきましては、何か御意見、御質問等ございますでしょうか。
 特になければ、資料7に沿って今後進めたいと思います。
 それでは、参考人を御紹介いたします。
 どうぞ前の席にお座りください。
 岩尾總一郎医政局長でいらっしゃいます。
 もう一人は、今井康夫特許庁長官ですが、本日は公務により都合がつきませんでしたので、小野新次郎特許技監に出席をしていただいております。
 両参考人からも適宜発言、あるいは説明等をしていただくことになると思いますので、御了承をいただきたいと思います。
 それでは、初めに本専門調査会の検討課題について、その背景、経緯等を事務局から説明していただきたいと思います。

○荒井事務局長 お手元に資料8をお配りしてありますので、資料8に沿いまして説明させていただきます。
 1ページは、「1.医療技術の進歩と医療水準の向上」でございます。
 医療行為や医薬品・医療機器の進歩が、医療水準の向上に重要な役割を担ってまいりました。
 1960年以前には、ペニシリン、ストレプトマイシンなどの抗生物質の発明により、感染症対策が大きく前進しました。輸血や麻酔手術の技術進歩は緊急時の救命や、外科手術などに貢献しています。
 1960年以降、自動生化学分析装置等発明により大量の検査処理を可能にしました。その結果、検査データに基づいた医療や検査診断が一般化しました。
 1970年代以降は、X線CTなどの画像診断装置や、薬物送達システムなど種々の医療技術が開発され、医療水準の向上に大いに貢献しています。
 2ページは「2.期待に応える選択医療技術」であります。
 患者の期待といたしまして、不治の病気の治療、切開・切断の回避、副作用の軽減などがあります。
 医師の期待として、先端技術による治療、個々の患者の体質に合わせた治療などがあります。
 遺伝子・細胞治療や再生医療などの先端医療技術は、これらの期待に応え得るものと考えられます。
 3ページは「3.医療分野の技術力格差」であります。
 国内市場における新薬は海外製品が過半であります。
 医薬品企業の輸出額は輸入額の約半分であります。
 医薬品企業の研究開発は、アメリカの約五分の一であります。
 日本の医薬品の特許件数は、アメリカの半分以下であります。
 日本の医療機器の特許件数は、アメリカの約半分であります。
 4ページは「4.特許保護の対象(日米欧比較)」であります。
 日本では、黄色の部分が特許法の対象となっております。
 欧州では、黄色の部分に加え、緑色の部分が特許になります。緑色の部分にあるX線検査方法など、医療機器を特許するとともに、その医療機器を使用した検査方法について特許されることがあります。アメリカでは、これらに加えいろいろの部分すべてが特許になります。
 備考欄にありますように、特許になるのは、種々の要件を満たす必要があります。例えば、緑色の部分にあるX線検査方法は、ありきたりの方法ではなく、高い精度の検査方法が特許されます。
 5ページは「特許保護のもたらす効果」であります。3つの側面があります。
 1つ目は、開発の促進です。一定期間独占的に実施できることにより、他者に模倣されることなく、実用化に向けた研究開発を進めることができます。
 2つ目は、他者の研究活動への波及です。発明が公開されることにより、研究開発投資の重複が回避され、それを乗り越えようとする技術の創造と研究が促されます。
 3つ目は、技術の普及です。技術が公開され、実用化やライセンスされます。一定期間後は、他者も自由に利用することができるので、世の中に広く技術が普及されます。
 6ページは「6.これまでの検討経緯」であります。
 2002年7月3日に、知的財産戦略大綱で、再生医療、遺伝子治療関連技術の特許法における取り扱いを明確化すべく法改正及び審査基準改定の必要性について検討し、結論を得ると定められました。
 2002年12月6日には、バイオテクノロジー戦略大綱で医療関連技術の特許法における取り扱いの明確化について検討を急ぎ、早急に結論を得るべきと提言されました。
 2002年12月25日には、総合科学技術会議において、先端医療技術に係る発明については、直ちに具体的な措置、すなわち、審査基準改定と、法改正の準備が講じられるべきであると提言されました。
 これらを受け、2003年6月3日の産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会の報告により、2003年8月7日に特許審査基準が改定されました。
 新基準では、遺伝子組換え製剤などの医薬品及び培養皮膚シート等の医療機器を製造するための方法は、同一人に戻すことを前提としている場合であっても特許の対象とすることが明示されました。
 7ページは「7.知的財産推進計画」であります。2003年7月8日に定められました。 第2章保護分野。Iの3.(1)において、医療関連行為の特許保護の在り方を検討すると定めています。知的財産推進計画を受けて、本専門調査会が開催されます。
 8ページは「8.専門調査会における検討」であります。
 推進計画に示されている検討の視点は、国民の保健医療水準の向上に資する有用で安全な医療技術の進歩を促進するということであります。
 配慮事項は、患者と医師の信頼関係の下で等しく行われるべき医療行為等の悪影響を及ぼさないということであります。
 主な審議事項は、医療関連行為の特許保護の必要性、
 医療関連行為を特許保護する場合の影響、
 医療関連行為の特許法上の取り扱いであります。
 2004年度中の早い時期に結論を得るべく審議を行うこととされております。
 以上でございます。


○井村会長 ありがとうございました。本日は、初回でもございますので、この専門調査会の検討課題につきまして、今、事務局から説明がありましたが、いろいろ御意見もあろうかと思いますので、順次意見を述べていただきたいというふうに思います。
 「あいうえお」順で、まず秋元委員から順番に回っていただきたいと思いますが、上田委員と、森下委員は後で御発言をいただきますので、その中で述べていただくということにして、それ以外の方々から5分以内ぐらい御意見をいただければ大変ありがたいと思います。

○秋元委員 それでは、最初に私の考えていることを述べさせていただきます。
 今回は、初回でございますので、具体的な議論はちょっと避けまして、どういうような観点からこれを考えているかということでございますが、私は、日本製薬工業協会、それからバイオインダストリー協会、いずれも知的財産に関することを担当させていただいております。
 そのような観点から、ライフサイエンスの立場として、やはり基本的には国民の健康福祉の向上であるとか、あるいは最もいい治療が日本において安価にできるというような観点から産業界として提言させていただきいというふうに思っております。
 それと併せまして、やはり日本のライフサイエンスの産業をアメリカ並みの競争力を持ったような産業にしていくにはどうしたらいいかというようなことで、産業界の立場といたしまして、私見も交えて提言させていただければというふうに考えております。
 以上でございます。

○井村会長 それでは、北村委員どうぞ。

○北村委員 私は、この会議におきましては、医者としての考え方もありますが、先ほど配られました、4ページの特許の日米欧比較という表がよく表わしているんではないかと思いますが、黄色の部分は我が国でも既に問題はないと考えていますが、問題は欧州で認められているところ、それから米国でのところなんですが、米国の場合からいいますと、一番左端にある手術方法とかそういった部門は、これは医師の裁量権といいますか、医師が患者に対して行う行為においては、米国では訴訟問題もあったこともあったようですけれども、実質的には特許によってある医療行為が行われないということはありません。
 もう一つ、真ん中のNMRの検査方法。これは画像処理なんかのソフトの部分は、必ずや特許にしなければいけない部門だと思いますし、現在、私の所属しております国立循環器病センターにおいても、画像処理のソフトということには、かなり一生懸命やっておりまして、ペット、あるいはNMRからのところでは、既に国内、一部国外の特許の申請をしております。
 こうした検査方法のソフト部門の開発は非常に重要な特許で、黄緑部分は早急に我が国もやるべきことではないかと思います。
 その上の診断方法ですか、方法の行為そのものに特許をかけるのはなかなか難しい。例えば、内視鏡検査というものと方法が、それが医療関連行為として米国の手術方法と関連づけてやりますと、患者というのは一人ひとり個体差があるために、同じ技術を用いたといいましても結果は変わってくる。しかも、より大事なのは、それを行う術者の技能ということが大きく出てまいりまして、ある特許を取られた行為を行うに当たっても患者に出てくる結果は、その行う人の技術によっても大きく変わってまいります。
 こういうところの特許は、現在、医療関連行為の技術には、人の名前が与えられまして、例えばだれだれの手術とか、そういった名前での敬意は払われておりますけれども、特許としては実際行われておりません。
 しかしながら、内視鏡とか、遺伝子のものの試薬、あるいは器具に関しては、医療機器、医薬品と同様に特許が取られるべきものでありまして、体外で行われる新しい検査方法の技術には、私はやはり特許を取るべきだろうと思いますし、それを開発する人たちのためにも、それを認めるべきだと思います。
 一番難しいのは、今申しましたような米国型にまで進めるかどうかという点です。これは米国で医師の医療行為を阻害しないと改められています。医療機器でも2種類出てきますと、1つのいいところと、他のいいところと両者を合わせる機械を特許侵害してつくることができましたらベストの機械ができるんです。
 ところが、実際は、どっちかのマイナスのところを補えないままになっておりまして、特許があるがために、よりスピーディーな患者のための良い機器開発、進歩が阻害される部分が確かにございますので、そこらの兼ね合いのところが大事だと思います。それはあくまで医療行為がある産業として結び付くことにおいてのみ、特許というものを認めていくのが筋ではないかというふうに思っています。
 ですから、人工心臓には特許が入ります。しかし、心臓移植という技術には特許は入れないと。これは常にモディフィケーションが行われて、違う患者に対しては違う方法が行われて、認めるべき変革が行われたときにはモディファイドの方法、だれだれの方法という名前が与えられてはいますけれども、それを特許化するというのは、私は反対と考えます。

○井村会長 それでは、見城委員お願いします。

○見城委員 見城です。本当に、私は、この中で医療に関しましても全くの素人ですので、逆に診ていただく立場、利用させていただく立場として、やはり人命は尊重していただきたいし、それからよく耳にする海外に行かないと手術ができないというようなことが、どういうことだったのかというのが、これでだんだんわかってまいりましたので、できればアジアの中の日本ということを考えましても、できるだけ高度な最先端の医療が医療行為として行っていただけるような国になってほしいと思っております。
 それから、次の若い世代の方たちが、もし特許というものがいい形で浸透していきまして、それが逆に刺激になって、若い研究者の方たちが参加する意欲というんでしょうか、世界が舞台になるということで、いい意味での参加意欲がいい研究に結び付いてくれるようになればと、そういう観点から審議に参加させていただきたいと思っています。
 よろしくお願いします。

○井村会長 ありがとうございました。それでは、澤委員お願いします。

○澤委員 私は、医師会を代表して来ております。前年度、産業構造審議会におきましても、かなり保守派としてさまざまな先生といろいろと論争をしてきたわけでございます。今、資料の8をざっと見ていましても、ちょっと思うのは、例えば2ページ目の患者の期待というのがあるんですけれども、昨年、どういう医療を患者さんが求めているんだろうか、国民はどういう医療を求めているんだろうかを医師会が調査をいたしました。私はこういう先端医療技術を使った医療というのが1位に来るんだろうと間違いなく思っていたんですが、一番最初に来るのは、やはり安全で安心な医療をまずやってくれというのが、非常に国民の高い希求でございました。そこで、安全性というものと特許、これはいろいろな議論がまだある。中には全くこれは関係ないものだというものもありますし、実は最高裁では以前に、フランスの核燃料のアイデアを日本に持ち込んだ際に、これは安全でないので産業とは言わずという司法判断も出ている。だから、その辺が非常に難しいところだと思います。
 特に、先端医療といいましても、まず患者さんにやって効果があるかどうか、安全性に関してはどうやってクリアーしていくのかという、そういう面で非常に難しいところがあるんだろうなというように考えます。
 また、先ほど北村先生もおっしゃいましたけれども「4.特許保護の対象」で日米欧の比較がここにございますけれども、例えばX線の検査の方法は、東芝や島津製作所もヨーロッパ特許庁の方に出願しているのは事実ですが、いずれも実は「もの」があってのことなんです。
 要するに日本でいうと、医療機器自体、医療機器の製造方法というのでも取れるんですけれども、ヨーロッパの特許庁に出すときには、原理自体も一緒に出すということで、今ここに入っているんだろうと考えています。決して原理だけで、例えば頭の中のアイデアだけで、特許対象になるのではない、やはり何かしらの「もの」があって、これが認められるというのは欧州の特徴でもある。私は今の日本でも、これも実は現状の特許制度でもクリアーできるんではないかということ。
 あと、加えて申し上げますとこれは直接診断方法ではなくて、例えばCTスキャンのガントリーに患者を位置センサーを設置して、一番照射の少ない方法でやろうというような、むしろ診断の精度を上げる工夫であるとか、患者負荷を減らしてあげる、診断方法そのものではなくて、その診断の中で一番有効な診断方法、精度を上げたり、安全性を高めたりというところが、今、欧州というところの色の中に入っているものなんだろうと考えます。いずれにせよさまざま難しい問題があるであろうかと思います。
 以上でございます。

○井村会長 それでは、田村委員お願いします。

○田村委員 私は、北大で知的財産法を勉強しているものですから、知的財産法の立場から若干大まかなことを申し上げたいと思います。
 今日、御説明いただきましたとおり、資料8の5.にありますとおり、特許権はなぜ認められるのかといいますと、やはり模倣を防がないためには技術の進歩が図られない場合があるということでございまして、基本的には技術進歩のために権利を与えるというところが、特許権の特徴であります。
 これは実は、他の皆さんがよく御存じの所有権になるとちょっと違うところがありまして、権利を与えることが自己目的化しているんではなくて、技術の進歩のために権利を与えるというところが大変重要であります。
 そういう意味では、特許権があることによって、逆に国民が困ることがあってはいけないので、そういう公益的な側面もあるということです。
 医療関連行為につきましては、やはり一定の模倣行為から防ぐ必要があるということで、この間、審査基準等で次第に拡大してきているわけでありますが、何分にも大きな変更となりますと、法律的に見ますと、審査基準の改定というのは限界もございますので、そろそろ法律での明確化が必要ではないかなと、長い間この点に関しては思っていました。
 ただ、今申し上げたとおりでありまして、財産権といっても、財産を保護すること自体が目的化した権利ではございませんので、必要があるところは勿論権利を認めていくべきですが、それがかえって権利があることによって、例えば、現場のところで患者さんの生命、身体に直接携わっている現場の方々が特許という財産権によって何か制約を受けてはいけないと思いますので、そういった形で落としどころを探っていく必要があると思います。
 ただ、落としどころを実現するには、いろんな大変細かい法技術がありますが、今日は多分、そのような話をする場ではないと思いますので、この辺で私の話は終わりにしたいと思っております。

○井村会長 それでは、広井委員お願いします。

○広井委員 私は、医療政策あるいは科学技術政策といった視点から述べさせていただければと思いますけれども、医療政策という点から見た場合に、一般論になりますけれども、これまでの日本の医療政策というのは、主として国民皆保険を中心に、医療保険政策というようなことを中心に行われてきたわけで、余り医療技術の研究開発とか、医療技術政策と呼べるようなものは、余りなかったわけで、そういった意味で、今後の課題としまして、こういった医療技術の開発促進、研究開発政策を強化していくということが非常に大きな課題であると、これまず基本論としてあると思っております。
 ただ、医療行為の特許法ということに関しては、やはりかなりいろんな面からの慎重な吟味が必要かと思っております。
 2点挙げさせていただければと思うんですけれども、1つは、医療システム全体の費用対効果といいますか、そういったシステム全体という視点が重要ではないかと思っております。
 例えば、やや極論かもしれませんけれども、こういった議論のときにしばしばアメリカのモデルが規範として挙げられるわけですけれども、アメリカは確かに個々の医療技術で見ますと、非常に先端的なものである反面、例えば医療費という点では、GDPの13%を超えるというようなことで、日本の2倍ぐらいの水準で、片や健康水準という点から見とると、かなりWHOの評価などでも非常に低いものとなっておりますので、こういった医療技術の問題を見る場合には、個々のピンポイントの技術といいますか、それのみならず、システム全体といいますか、その費用対効果といった視点が一つ重要になってくるんではないかと思っております。
 もう一つは、個々の技術開発ということ自体を取り上げてみました場合でも、先ほどの田村先生のお話にもございましたけれども、果たして特許という方法が研究開発促進のための最も有効な手段なのかということで、例えば同じアメリカの例で挙げますと、圧倒的な基礎研究の公的な投資というのを行って、それが何といっても技術開発の推進力になっているわけで、特に医療分野、あるいは生命科学分野というのは、基礎研究が非常に重要かと思いますけれども、とりわけ基礎研究などに着目した場合に、特許保護が場合によってはかえって研究開発や、その成果の公表を妨げる場合がある。これは既にさまざまな議論があるところだと思います。
 したがって、技術開発の方策として、どういった政策手段が重要なのかというのを少し広い視点から見る中で、方向性を見出していくべき点ではないかと思っております。
 以上です。

○井村会長 ありがとうございました。一とおりいろいろ御意見をお伺いしたわけですが、お二人の参考人の方、今の時点で何かありますか。

○岩尾厚生労働省医政局長 厚生労働省として、医薬品医療機器の許認可を含めてやってきているわけですが、以前言われておったことで、特許の期間と医薬品の承認までの時間がかかり過ぎると、委員の方もおっしゃっていましたけれども、それについては、たしか日米欧の3国協議等々で、タイムクロック制度というものを導入して、時間を短縮していくということで、現在は、そのような不満も解消の方向に至っているというふうに聞いております。また、審査自体も新しい機構が来年からできるということですので、順調に進むと思っております。
 それから、研究開発の成果をどのように医療に生かすかということで、さまざまな研究等々にも厚生労働省として補助金を出してまいりました。その中で、当時の通産省の技術研究組合等とも一緒になって、幾つかの機器開発をしてきたものがございます。
 例えば、胸のCTを撮るときに、呼吸によって動くために、その呼吸に連動させて照射の位置を決めなければいけないというようなものも、多分1つの機器があり、またそれに付け加えることで新しい特許のようなものを取るわけですが、既存の機器に加えて改良したものが、そういう研究開発によって新しく出てきたという事例もございます。
 こういうようなものが、果たして追加的な特許ということで、多分企業としては新しい製品として出しているわけですが、それから先の技術としてどこまで、どのような医療技術というものが特許になるのかという御議論だと思いますので、許認可あるいは業振興という面も含めて、必要な意見を述べさせていただければありがたいというふうに思っております。

○井村会長 小野技監何かございますか。

○小野特許庁特許技監 特許庁の考え方でございますけれども、先ほど事務局から御紹介がございましたように、特に再生医療に関しまして、産業構造審議会の知的財産政策部会の特許制度小委員会で御議論をいただいたわけでございます。
 先ほど、澤委員の方から御紹介がございましたように、再生医療に関しましては、特に産業として育ってきたというところから、先ほど御紹介いただきましたように、その体外で培養するようなところは、基準で運用できるということをいただきまして、そういうようにしているわけでございます。
 ただ、一般のいわゆる治療行為、医療行為自体に関しましては、先ほど澤委員の方から御紹介がありましたように、安全性の問題、それから先ほどほかの委員からもございましたように、そもそも特許権を与えること自体が、研究開発、それから産業発展その他になるかという、いろんな問題が出されておりましたので、それに関しまして種々の議論があったということで、それに関しましては、ここの場で御議論をいただいた結果を受けた上で、我々としては対応していきたいというふうに思っております。
 先ほどございましたように、日米欧の比較にございますように、それぞれ考え方が違っておりますので、その辺は必要に応じて適宜考えというのを御説明したいと思います。

○井村会長 一とおりお話を伺い、医療行為の特許には、難しい要素があるとよくわかりました。
 1つは、できるだけよい医療を安く国民に提供するというのは、やはり国にとって極めて重要なことであります。
 しかし、他方では医療関係の産業、これが健全に育ちませんと、結局国民の医療費負担が増えてしまうという面もあります。
 総合科学技術会議もこの間、来年度の概算要求の調査をしたんですが、外国の予算と比べて、つくづく日本の研究費は高コスト構造だということを痛感しました。
 それは、結局、先端的な解析機器、あるいはそのための試薬、これはほとんど輸入に頼っている、それで大変コストが高いんです。このことは、医療関係のいろんな機器の場合にも同様でありまして、そこには流通の問題もあると思いますけれども、やはりどうしても輸入に頼るとなると、コストが高くなるという要素、これは避けがたいことであります。
 したがって、一方では、日本の医療関係産業が健全に育っていって、日本からも外国へどんどん輸出できるような技術が生まれてくるということも非常に重要であります。その辺りのバランスをどう取っていくのかということが難しい問題であります。
 もう一つは、やはりグローバリゼーションがものすごく進んでおりますから、国際的にある程度ハーモナイズされていないと、問題に対応できないところがあります。これが一番顕著に表われた一番初めは遺伝子です。機能のわからないものをどんどんアメリカが特許申請し出した。これはアメリカ国内でも大問題になりましたし、国際的にも非常に大きな問題になった。この点は、特許の専門家の会合で、おおむね解決できてきているように思います。ハーモナイズされてきている。
 あと、たんぱくとか、これからいろんなものが出てまいります。例えば、糖鎖の研究なんかも、かなり活発化しているわけですが、こういうものが次々出てまいりますと、やはりハーモナイゼーションをやっておかないと、日本の産業が不利になっても困るわけであります。この辺りは、生命科学の非常に難しいところで進歩が早いものですから、特許の対応がなかなか難しいということがございます。
 そういったいろんな背景がありますので、その辺りをこれからできるだけ議論をしていただいて、いい方向が出せればいいんではないかなと考えているわけです。 差し当たって、大変大きな問題になりそうなのが、1つは再生医療の問題、それから遺伝子治療とか、細胞治療とか、いろいろ新しい治療法が出てまいりますので、その辺りについて今日は少しお話を伺って、その上でまた議論をしていただくということにしたいと思います。
 最初に上田委員からお願いいたしますが、特許に対する先生の考え方も含めて話していただいて結構です。よろしくお願いします。

○上田委員 ちょっと場所を変えさせていただきます。
 再生医療というのは、現時点における先端医療の代表的な技術でございますけれども、この医療を端的に申しますと、体の中にある分化の増殖能が高い幹細胞と言われる細胞だけを選択的に増幅いたしまして、それを再び体内に補充することによって、その臓器ないしは組織の本当の意味での再生を図る、修復ではなく再生させるということも目指している医療であります。
 この細胞療法は、従来の臓器移植とも異なりますし、また人工臓器とも異なります。自分の免疫抑制を受けない、自家の細胞を増幅とその補充という形で臓器の再生を図るわけでありまして、従来の病気治療の根本的な概念を変える可能性があります。このように、再生医療というのは、一種の細胞の移植療法であると、これをまず覚えていただきたいと思います。
(スライド)
 再生医療の特徴をまとめますと、代表的な特徴としてこの2つがあるだろうと思います。つまり、対処療法ではなく根治療法なんだということと、それと非常な低侵襲手術が可能になるという点であります。
(スライド)
 そういった中で、根治療法であるということを、どういうふうな個人としての利益として解釈すればいいかといいますと、破線で書いている方が健常人のアクティビティー、社会的な生産性のカーブであるとしますと、ある一定の年齢に達しますと、徐々に下がってくるわけですけれども、おおむね活動期においては水平的なアクティビティーを維持しますが、病気やけがになりますと、その生産性は低下いたします。
 ここで、選択されるのが、根治療法なのか、対処療法なのかであって、対処療法をいたしますと、低下は止まりますけれども、元にはもどらずこのままずっと推移してします。しかし、根治療法をやれば、従来のアクティビティーに復帰することが可能である。という意味では、この幅が非常に大きな、治療後のQOLに影響してくることになります。
 この患者さんがお支払いになるコスト、損失と言ってもいいわけですけれども、病気になったときに、従来の治療法でありますと完全に直りませんので、ずっとある一定のコストを払い続けなければいけない。しかし、再生医療のような根治療法でありますと、健常人に近くなりますので、トータルで払わなければならないものに非常に大きな差が出てまいります。
(スライド)
 次に、低侵襲手術というところに医療の治療行為の特許のことと関係していくるわけですけれども、この低侵襲手術を説明するために事例を2つ御紹介したいと思います。
 1つは、骨の細胞を注入することで、体内に骨を再生させる方法と、スプレー型の培養皮膚というものが開発されておりまして、非常に端的な例かと思いましたので持ってまいりました。
(スライド)
 まず、注入型培養骨による骨粗鬆症の治療ということで説明しますけれども、この骨粗鬆症という病気は、特に女性に多い病気でございまして、骨の中の骨量が減ってまいります。
(スライド)
 ただ、骨粗鬆症という病気は、確かに全身骨に表われますが、二次的な骨折が一番問題になりますけれども、それは起こる部位が決まっております。おおよそこういった部位に起こりまして、トータルしますと15万ケースほどのフラクチャーが起きるというふうに言われております。
 したがって、ここの部分の骨を強化しておきますと、こういったものは防げる可能性もありますし、こういったところに細胞を障害後に移植すれば、限定された部分だけの治療だけで済むという可能性が出てまいります。
(スライド)
 従来どういったことが行われていたかといいますと、骨粗鬆症性の椎体骨折の治療は、圧倒的に保存的治療が多くて、一定期間安静をしていただいた後に、ギプスや装具による外固定を数か月行い、その後にリハビリを行います。非常に長い期間患者さんは、病院に通わなければいけない、そして入院もしなければいけないと、こういう問題がございます。したがって、高齢者の方ですと、寝た切りや痴呆という二次的な問題が生じます。
 一方、外科的な治療になりますと、連動的には固定術を行うわけですけれども、固定術を行う代わりに、最近、リン酸カルシウムの骨ペーストを注入するという方法が開発されました。
(スライド)
 ただ、外科的治療の欠点は、こういう骨の深部に入るために、その周辺の軟部組織に切開を加えなければいけないという問題があります。この軟部組織の切開、剥離のために非常に大きな障害が患者に加わります。
(スライド)
 そういう状況下で培養骨、再生医療の一つの例なんですけれども、骨芽細胞を注射器であるゲル状のマトリックスとともに、骨折部位に注入するという方法が開発されました。これですと、モニターをしながら注射針を骨折部位に導入すれば、注射で骨の細胞を欠損部に注入することができますので、軟部組織の剥離と切開が必要なくなります。そういたしますと、将来は外来手術すら可能になるという可能性が出てくるわけです。勿論、これが細胞ではなくても、成長因子だけで実現するという可能性もありますけれども、細胞を使うと更に効果的であるといえます。
 私の専門では、こういった領域の歯周病というのがあるんですけれども、この歯周病は、現在、3,700 万人ぐらいの方が歯周病にかかっておられるという推計がありますし、そういう方々が歯を失う確率は年間270 万、280 万人ぐらいおられます。そういう病気であります。
 非常に大きな出費を要する、患者さんにとっての高コストな疾患なんですけれども、これも先ほどの方法で直すことができます。歯周病によって歯を喪失される方は、1年間に280 万人と言われておりまして、この280 万人のうちの137 万人は一本も歯がなくなってしまうと、こういう非常にシリアスな病気であります。

(スライド)
 そこで、先ほどの細胞を歯周組織の周辺に注入することによって、元の歯骨、歯周組織を再生するという方法が開発されました。
(スライド)
 これは、その一例でございますけれども、この歯が非常に重度の歯周病にかかっておって、ぐらぐらしていて患者が痛みを訴えておりますけれども、細胞注入することによって、これと比較していただきますと、明らかにここに骨が再生していると、こういうふうな工夫によっては、低侵襲で効果が高いことができるようになります。
(スライド)
 つぎに、もっとシリアスな病気もございます。たとえばこれは全身熱傷であります。
(スライド)
 この全身熱傷といいますのは、70%を超えますとほとんど助からない、こういう病気であります。したがいまして、高齢者が70%を超えるような全身熱傷を受けますと、通常は保存療法に入っていって、なかなか救えないというふうに考えられているわけです。
(スライド)
 日本でも小さいケースまで含めますと、約七万人ぐらいの受傷者がおられて、うち約千人の方が亡くなっているという状況があります。
(スライド)
 そういう場合は、体表面を一刻も早く被覆することが必要です。そうでないとばい菌が入ってきますし、水が脱出してしまいますから、この方は重症の敗血症になって亡くなります。
(スライド)
 培養皮膚は、そういうものに対応できるものとして出てきたわけです。1980年代に再生医療の第1号成功例として培養皮膚が出てきて、全身熱傷でも、ほんのちょっと細胞から広い面積を覆うような技術が実用化されたのですが、現在で、これを更に進化するものが出てまいりました。
(スライド)
 ここで、再生医療のシステムを整理しておきますと、細胞を患者さん自身から取ってくる過程、それからそれを培養する過程、さまざまなグロースファクターや、マトリックスと混ぜるという過程はここにあるのかもしれません。
(スライド)
 更に移植するという過程があるわけですけれども、この移植するという段階が、仮にコンセプトとしての治療行為が権利化されますと、もっと簡単で低侵襲な移植方法を考えるというドライブがかかることになります。
 例えば、培養皮膚は非常に薄い膜を非常に注意深く移植しなければならない状況下で開発されたものですけれども、高圧炭酸ガスですけれども、これを噴射すると同時に、フィブリンとトロンビンと細胞の混ざったものを同時に両側のノズルから噴射いたします。 そうすると、霧状になったガスと、細胞とフィブリンが同時に噴射されますので、細胞移植としては、非常に画期的な移植方法ということになりまして、非常に短時間に全身に播種することができるようになります。
(スライド)
 このスプレー式と従来法の差を比較しますと、培養皮膚のような膜になっていますと、非常に細かい体表の表面のでこぼこを覆えずに、死腔ができるわけです。これを防ぐことができます。更に、極めて短時間に細胞を噴霧することができるという長所がありまして、これは移植方法の進歩といえます。道具としてはスプレードというのがあるわけです。
 更にもっと面白いことを考えた方がおられて、細胞はメスで取っていたわけですけれども、陰圧にすることによって、ここに人工的な水泡をつくってしまう。これは規定枠のところで剥すわけです。酵素でもなくて、圧力で剥して、そして細胞を取る。これでは出血いたしませんし、絆創膏を張っただけで返せるという長所があります。
 こういった方法も採取法というところに権利の保護が行われると考える人がたくさん出てくると思います。
 こういったことを総合いたしますと、再生医療という低侵襲手術という長所を最大限に生かすためには、採取から移植まで全過程に特許化が行われますと、大変大きな開発意欲がわいてくることになります。
 勿論それは、特許化することが権利を独占するという意味ではなくて、この治療システム全体が権利化されていればある人が低侵襲手術という徹底した長所を引き出すアイデアを考え出したときに公表する気になるわけです。そうでなければ、アイデアは死蔵されてしまうでしょう。公表されれば多くの方が低侵襲で移植、低侵襲で採取というところに、アイデアの参加が可能になってくるわけです。
 こういうこと全体が再生医療の特殊な分野だけかもしれませんが、大きな開発、改良というふうな意欲につながり、結果的には非常に患者さんにとっていい治療ができるように思います。
 以上が、私が再生医療ということを研究し、臨床に携わっているときに考えました全貌でございまして、ここの治療システム全体に特許化されることが、研究者にとって非常に好ましい状況だと思いますし、勿論、患者さんにとっても好ましいということでございます。
 以上でございます。

○井村会長 ありがとうございました。それでは、少し質問なり、御意見を伺いたいと思います。
 真ん中の過程として、さっき皮膚を移植して増やす方法をお話になりましたが、あそこは今度改定されて特許化できるようになっているわけですね。そうすると、その前の段階として採取のところもという話ですね。

○上田委員 そうですね、再生医療は、今の再生医療は申し上げるも大変あれですけれども、とにかく幹細胞をいかにして効率的に取ってきて増やすかというところは、技術の核になっているわけで、細胞に関連する技術というのは一つのつながりで初めて生きるものなんです。
 したがいまして、ある部分だけ取りますと、確かに医療行為みたいに見えますけれども、それは幹細胞を取るという意味があって取っているわけでありまして、一連のつながった行為として再生医療の意味が出てまいりますので、全体としての効果を上げるためには、全体の保護が必要ではないかと、そういうふうに考えまして、移植と採取というところにも一定のアイデアに関する保護が必要ではないかと思います。

○井村会長 何か御質問とかございますか。
 どうぞ。

○広井委員 最後におっしゃられた点に関しまして、特許化が必要だということで、特許化しないとかえって研究成果がうずもれてしまって、公表もされない可能性があるというふうにおっしゃられたんですが、ごく基本的な質問で、通常は研究者の方々は、むしろパブリッシュと言いますか、公に発表することがインセンティブで、それが一つの大きな動機づけになっているかと思いますが、これが特許化しないと発表されにくいおそれもあるというのは、なぜそのようになるのかということですけれども。

○上田委員 独自性は、これまで文献上の名誉で守られてきたわけです。そのことは現在も続くと思うんです。将来も続くと思うんです。
 ただ、それが産業とつながる部分であったり、あるいは大量生産を必要とするということが前提になりますと、お医者さんが自分の研究ラボに持って帰って、自分で工夫してつくるというようなレベルでは、非常にたくさんいる患者さんには提供できなくなるわけです。
 現在の先端医療というのは、産業界であるとか、企業の手を借りないと実行できないレベルに達しているんです。ですから、お医者さんが昔からの伝統技術のような部分でやっているのは、私は特許化の必要はないと思うんです。例えば、ある特殊な曲線を切るメスであるとか、そういうところに特許化を必要としているのではなくて、高度な産業的テクノロジーを使わないとできない医療が出てきたものだから、こういうことが必要なんだろうと思います。
 そうなりますと、それを開発している企業の権利を保護してあげないと、勿論、全然例外的にそういうことを度外視して、経営効率を無視してやる人もいるのかもしれませんが、一般的にはそういうことは起こらない。そうすると、そこの部分だけが抜け落ちてしまうということで、治療の全体的な長所が引き出せなくなると、そういうことです。

○広井委員 現在の機器とか、そういうものに着目したものでは、これはカバーできないということですか。

○上田委員 部分的にはできると思います。ただ、このアイデア全体を考えた方のアイデアにただ乗りする格好で、次の開発が行われるわけです。だから、一番肝心なところというのは、この治療システム全体を考えた人なんです。これは従来は文献のみ名誉が守られていたわけですが、そういうことだけでは、広範囲な一般医療には持っていけない段階に達していると、そういうことだと思います。

○井村会長 どうぞ。

○秋元委員 ちょっと関連して基礎的なデータをお話ししたいと思いますが、先ほど資料8の3ページで医薬品は輸入が大半だということですが、これはむしろ健闘している方ではないかと思います。
 医薬品というものとは違いまして、いわゆる治療法、診断法、手術方法、こういうものつきましては統計でございますが、1996年以降、アメリカにおいては3,600 件ほど特許になっております。
 先ほど、澤委員が言われたましたように、東芝であるとか、島津であるとか、これは特許の問題ですからグローバルに出願できることになりますが、そのうち日本からアメリカへ出願されている件数は、アメリカ3,500 〜3,600 件に対して日本は僅か150 件程度しかありません。医薬品そのものについては、研究開発の費用に関してみれば、かなり健闘しているということは言えますけれども、先ほど広井委員が言われましたように、研究開発投資が非常に多いことと、アメリカで治療法、診断法、そういうものについての特許が非常によく取れることとは相関関係がありますが、そういう権利の保護があるからこそ、やはり上田先生が言われたように、アメリカでの研究開発はインセンティブが与えられて発達するんだろうというふうに考えております。
 一方、ヨーロッパにつきましては、ほぼ日本の倍程度、300 件程度しかありませんから、アメリカの10分の1ぐらいしかアメリカおいて特許が取られていないという現状がございます。

○井村会長 どうぞ。

○森下委員 私も、ちょっとそれに関連してなんですけれども、確かに新しい方法の学問的な意味があることに関しては、論文としてかなり評価されるんですが、実際は、これを治療方法としていくためには、澤委員が言われたように、安全性とか、あるいは実際には安定性という、薬なり細胞なりの、どれぐらいの期間、ものとして正しいかというところが出てきます。これは実は論文としては全く評価されなくて、学問的には実はほとんど報われない。ただし、それを実際に患者さんに応用するときには、どうやって安全な方法でつくっていくか、どれぐらい長い期間、細胞なり遺伝子なりが安定かと。これを実証しない限りは患者さんには届かないわけです。そこに関しては、今、日本ではインセンティブが全くないと。そういうところが特許としてコンセプト内で認められてきますと、当然今度は産業上の恩恵が受けられますから、結果として、学問的には報われない領域で頑張る方がたくさん出てくる。
 今のアメリカの再生医療なり、あるいは遺伝子治療を含めて、先進医療が患者さんに早く届くところというのは、やはり従来の論文ではカバーし切れないような部分というのが、別の特許なり産業化の部分でカバーされていると。そうしたドライブがかからないと、当然ながら研究者の方は論文で出して、それで終わりと。残念ながら、今、日本の現状はほとんどそうだと思うんです。そこを変えていかないと、患者さんのところに新しい医療が届くという最後の答えのところへつながっていかないんではないかと。その意味では、先ほどの御指摘が非常に重要ではないかというふうに思います。

○井村会長 ほかに何かございますか。どうぞ、北村委員、それから澤委員お願いします。○北村委員 おっしゃるとおり、治療システム全体の特許と、先ほども申しましたように、例えば上田先生の22ページの採取法、これを含めた特許ということになると、大変難しい問題があると思うんです。
 つまり、減圧して皮膚を吸引しながら切除する方法、例えばこの特許を取りますと、カップの形態を変える、圧力を変える、だれがするか、あるいは全処置にするのか、少し皮膚をスプレーしてからやるのか、そういった常にモディフィケーションが次々と実際の場では起こってきます。対象患者が、皮膚などは割方少ない方でしょうけれども、対象とする人の個体差の大きな問題もあって、そこに先ほどの医師の医療技術というものが加わってきたときに、どのように評価するのかということが実際には難しい問題です。我が国が全体像の特許を承認した場合、先ほどのハーモナイゼーションで米国のものを100 %認めて、特許料を払って行っていくのかというと、今、すぐそれをやるのが得策かどうか、国としても、ずっと払うことになっしまうんではないかということもあります。患者の生命維持ということと、産業とは、やはり少し一緒くたに考えてしまうと難しい。このカップを生み出す、これは勿論特許でいいんですね。しかし、特許を払いたくない人は、普通の吸引器を持ってきて何か工夫するかもしれませんね、しかし、それも特許侵害、だれが判断するのか、そんな大きな組織も現在はないし、特許庁にこれを持ち込んでも判定困難でしょう。全体として特許をほしいという研究者の気持ちはよくわかりますが、実際これを動かすのは、極めて難しい気がして仕方ないです。そこまでやると、結局、これは手術方法にも及びますね。手術方法の特許ということについては、日本はハーモナイゼーションをした場合は損をする。そこまで認めて日本が率先して、その代わり米国、ヨーロッパのものも認めて特許料を支払いますという形を取っていくと、産業医療費というものから見ると、今からつくって、今から出てくる新しいところだけを適応とし、従来のものは遡及はしないというようなものでもすれば、いいかもしれませんけれども、さかのぼりまで承認して、米国申請されたものをすべて我が国が認めていくということになると、これは大変な事態になるという気がしますが。

○井村会長 いかがですか、反論はありますか。

○森下委員 アメリカもそうですけれども、基本的に医療現場そのものには、特許の侵害が及ばないと、日本でも多分医者がやる部分に関しては除くと、そこはアメリカ式にした場合でも、実際上は特許侵害に当たらないということになると思いますね。

○北村委員 例えば、これはだれがするのかと、これが産業となる部分として特許として産業に必要なのが特許だから、どこが産業になるか、やはりこのカップをつくって、こういう装置でやりますというところ。しかし、その行為、皮膚を採取する方法ではなくて、この器具に対しての特許は当然今でも取れるわけですね。

○上田委員 そうなんですけれども、このカップは必ずしも皮膚を減圧して採取するためだけに使われるわけではないと思うんです。この理屈もいろんなところで適用可能になってくると思います。
 ただ、皮膚を取るためだけの特殊なカップというものがなければならないわけです。それはどういう方法でやろうと、皮膚を取るための最も効率的なカップがあるわけです。

○北村委員 そのカップは特許を取ったらいいですね。

○上田委員 そういう開発動機というのは、一連の概念の中で初めて動機が出てくるものであって、例えば最後のスプレーで皮膚を吹き付けるというものは、あれは殺虫剤と同じ原理ですね。物理で言ったらベルヌーイの原理というものです。だけど、あれをそのまま細胞を吹き付けるということには応用できないわけです。細胞をある程度冷しておかなければならないし、ノズルの直径の計算が必要になります。

○北村委員 だから、この器具にも特許を当然申請すればいいんですよ、しかし、これを吹き付けたら、その特許料を払えというわけにはいかないですね。

○上田員 だから、細胞を吹き付ける道具としての開発動機が必要ではないかということなんです。

○井村会長 どうぞ。

○澤委員 その議論なんですけれども、私はすごく不思議なんですけれども、インセンティブといって、新しい医療を患者さんのために考えるのに、我々医者にインセンティブが必要なんですか。それは例えば研究費も国からもらっているわけですよ、そうするとそれに対して、少なくともアメリカなんていうのは厳しくて、もらった場合の10倍はちゃんとした研究をやれというのが推進能力になっているわけで、少ないというのは井村先生に頑張ってもらうことにして、少ないながらみんなやっているところに、そこにインセンティブがもう既に働くんではないかなと思うんです。
 だから、特許に関してそれがないからインセンティブが乏しくなるという理論は、わかるんですけれども、ちょっと極端な言い方をなさっているんではないかなという気がしてなりません。

○上田委員 臨床をやっているお医者さんは、患者を治したいということがほとんどの動機で臨床していると思います。研究開発をしている人も、機器開発をしている人も、患者を楽にして治したいということは100 %そうだと思います。臨床医にとって別のインセンティブは必要はないと思います。
 だけど、この道具を開発するのは私らではないんです。この道具は必要なんですけれども産業界の方が開発される。そこの方々の研究動機というのは、医者のものとは少し違うんではないかと思います。

○森下委員 この後、私は遺伝子治療の話をさせてもらいますけれども、私自身が特許に興味を持ち始めたのは、実は、澤先生が言われたインセンティブの部分ではないんです。 インセンティブに関して言うと、医者は多分必要としていない。産業界の側は必要としているかもしれませんが、それは患者さんにとっては基本的には関係ないというのはおっしゃるとおりだと思うんです。
 最初私どもが開発してたベクターに関して、当時私どもの先生は、やはり特許は取るべきではないと。特許を取らないでたくさん皆さんに使ってもらった方がいいという意見だったんですね。その理屈の中で、新しいタイプの遺伝子を導入するベクターをつくられたんですけれども、特許を取らなかったんです。そのときにそれを使って患者さんを治そうとしたときに、何が起こったかというと、産業界の人が特許がないので、要するにそれに対して協力をしてくれないと。当然ながら、医者だけが開発できるんであれば、開発できるんですが、実際上は世の中の人に対して、広く安くどこにでも使えるようにするためには、やはり産業化されないといけないと。でも、産業化するためには、産業界の人はインセンティブが必要とするわけです。結果として起こったことは、その技術はいいかもしれませんけれども、だれ一人として手伝ってくれなかったと。今度私どもがやったことは、次は特許を取ると、今度は可能性がある、当然産業界の方もリターンが出てくるということで初めて協力してもらえたんです。
 その意味では、やはりインセンティブというのは、医者にとってではなくて、その技術を実用化するためには後押ししてくれるために必要なんではないかと。
 もう一つ言えることは、安全性に関しても、当然新しく特許を出して、それを基にして実際に患者さんに届けるために安全をどんどん確認していかなければいけないと。これは澤さんが言われたように、最も大事なことですし、患者さんが望んでいる一番大きなことだと思うんです。
 ただ、安全性にかかるというお金というのが、実は何十億に近いお金がかかると。最低限動物で安全を確かめて、それを患者さんに応用していく過程にかかるお金というのは、これは秋元委員ならよく御存じですけれども、最低でも数億、場合によっては10億単位で変わってくるわけです。これだけのお金をすべての医療に対して、国が保障してというのはあり得ない話だと思うんです。
 そうすると、その安全性を証明することによって、リターンがある方々が手伝ってもらって、そして早く患者さんに届けると。当然ながら、それに対しては安全性の問題が起これば、いろんな罰則的なことも起こってくるわけですけれども、それだけの費用を出すような仕組みをつくらない限り、やはり残念ながら患者さんのところに届かないんです。
 確かに、私ども一人ひとり患者を治すというのは非常に大事なんですけれども、一人を治せば、次を10人を治さなければいけないと、10人を治せば100 人を治さなければいけないわけです。北村先生の神の手をもっても日本中の全員の心臓の移植の方を救うことはできないわけです。

○北村委員 それと特許とは関係ない、それは医者の問題だね、特許があるとかえってそれができなくなる部分もあると思う。私がその技術を特許取ってしまうと、それこそ日本中の人はできなくなってしまう。

○森下委員 治療法ですね。今、話しているのは手術法ですね。

○北村委員 手術法ではなくて、方法論、手技、医者がやる手技の部分まで特許を及ぼそうとするということです。

○井村会長 手術の話はちょっと置いて、主として再生医療、これが当分の間は患者さんから細胞を取ってきて、そしてそれをまた患者さんに戻すという再生医療ですね。将来的にはもう少し違ったものが出てくるんでしょうけれども、その辺りが今、中心になっているわけです。それをシステム全体として特許にかけられるかどうかというのが一つの焦点になっているわけです。これは、もう少し議論を進めないといけない問題ではないかと思います。
 どうぞ。

○上田委員 細胞採取のところで、ちょっと誤解があるといけないと思ったんですが、その模式図に書いてありますと非常にわかりやすいですけれども、陰圧カップみたいなもの、これはどこでも使えそうなものに見えますけれども、実際は、細胞1個を最終的にねらっているんです。つまり、ものすごく先の細いチューブをナノテクでつくって、その細胞の直径に合わせたような形のノズルを当てて、それだけ取り出そうと考えているわけです。○北村委員 しかし、もしこれを認めていくとしますと、核移植をする卵を吸い付ける吸引のもの、そういうガラス管、あれを1回やるごとにすべて特許料払えと、包括的な特許になるのか、1回の使用についてすべてやるのか。
 そうしたら、恐らく、我が国の人は、こんなもの簡単な器具だからデザインを変えて、丸いところを三角にしたら特許が外れるのか、陰圧のかけ方を変えればいいのかといって非常に難解な特許になるんではないかということが1つあります。

○井村会長 どうぞ。

○秋元委員 個々のそういう議論はいろいろあると思うんですが、マクロで考えますと、先ほど私が申し上げましたように、アメリカでなぜそれだけ特許が多いか、なぜそれだけ研究開発費が出るのか、なぜ先端医療技術が存在して日本人がアメリカまで行かなければ治療できないのか、そういう点で考えれば、おのずと答えが出てくるんではないかと思うんです。 もう一つは、北村先生が言われたように、過去にも遡及して、全部とらえてしまうかというと、これは世界公知ということから考えれば、過去にさかのぼってとらえることはまずないと思います。これからの問題だと思うんです。
 日本が特許を取れるかどうかというこれからの問題ですが、確かに、今、同時にスタートしたら、恐らく日本は非常に苦しい立場になることは事実だと思います。しかしながら、昭和50年に特許法が製造法から物質特許に変わったときに、医薬品産業は壊滅するんではないかという危機感がございましたけれども、やはりそこで何とか努力しまして、現在、半分か3分の1か知りませんが、健闘するところまで来たわけです。
 そういう意味では、いつまで経ってもそれを放って置くと、やはり日本の産業というものの競争力がつきませんので、これについてはできるだけ早く産業政策としてライフサイエンス産業の競争力強化ということも含めて、実施していくべきではないかと考えます。

○井村会長 どうぞ。

○田村委員 少し確認なんですが、多分上田先生も法技術的にはともかくとして、最終的な結論として、もし低侵襲細胞採取法について特許があったとしても、個々のお医者様が採取するのには権利に及ぶべきでないとお考えなんですね。
 今、恐らく上田先生も北村先生もおわかりになって議論が対立しているのは、採取法に関して、何か特殊な機械が製造販売されたときに、それは特許になるだろうと、これは上田先生も北村先生も一致なさっていると。
 問題は次の点でして、要するに2番手の機械が出てきたときに、その2番手の機械を製造販売した人は別特許が取れると思いますが、それを取ったときに、その前の特許の方を侵害することになるのか、つまり法律的に説明するとごちゃごちゃしてしまうんですけれども、簡単に言えば、完全に別に独立の特許なので、2番手の機械を開発した方は一切コストをファーストランナーに払わなくてよいのか、それとも払った方がよいのかという問題だと思うんです。
 恐らく、上田先生は、やはり一番お金がかかっているのは、そもそも採取法を開発したところなんだから、その開発したところに基本的には多少の見返りがあった方がいいだろうとおっしゃっていると思われます。
 北村先生は逆に、そのようにお金を払うことによって、2番手以降の機械の方の製造が逆に困難になるんではないかということで、多分そこが対立しているんだと思うんです。 だから、それを法技術的に表現したのが、多分上田先生がおっしゃる採取法で一回特許を取っておけば、医療の現場には後で何回も措置通じて権利行使はさせないけれども、採取法の特許を取っておけば、2番手以降の機械に関しても特許が及ぶでしょうというお話だと思うんです。
 私は、法律家なので、そういう法律のところで対立しているなとわかるんですが、それ以降の話は、私は一切わからないところではあります。

○井村会長 まだ、いろいろ議論があると思いますが、今日はもう一人、森下委員からもこれから話をしていただきますので、それが済んだ後で、また十分議論をしていただければありがたいと思います。
 それでは、お願いします。

○森下委員 私の方は遺伝子医療の話をしたいと思うんですけれども、基本的なポイントとして、私自身も余り医者だと最近思われていませんが、医者なので、実際に患者さんを診ていますので、北村先生の御意見は非常によくわかるというか、現場の医者が迷惑することは困ると、それは最大限の問題だと思うんです。ただ、その確保をした上で、では、新しい治療方法を患者さんに届けていくにはどうしたらいいかと。
 私どもがやっておりますと、皆さんの一番の不満は、アメリカでの治療が日本で受けられないと。極端な例を言うと、岩尾局長に怒られるかもしれませんが、厚労省の班会議で推奨されている薬が日本で使えないとか、やはりそういうふうなことが実際に起こってきているわけです。それがすべて特許のせいではないと思うんですが、幾つかの面で早く医療を出すためのモチベーションというのが届かないとやはりでてこない。
 その一つ例が、私が今日お話ししようと思うような血管再生による治療ではないかというふうに思っております。
 私どもが、今、やっておりますのは閉塞性動脈硬化症という足の血管が狭窄して壊死になる病気です。これは軽症の間は日本でもいろんな薬がありますし、むしろ薬の面からいくと、日本の方がアメリカより進んでいる領域だと思います。
 ただ、最終的にこれが進んでいった場合には、残念ながら血管が完全に詰まってしまえば、実は治療する方法がない。足を切断するしかないわけです。
 一番有名な方は、歌手の村田英雄さんですね、昨年亡くなりましたけれども、8年前に右の足を切られまして、4年前に左足も切られたと。糖尿病が増えていることと、それから腎臓透析が年々増えてきていますことが原因でふえています。
 アメリカでは、年間20万人が足を切断されていますし、日本でもその10分の1程度が足を切断されております。
 この治療方法、1つの方法としては、やはり血管を再生する物質を入れて、患者さんの足のところで血管をつくっていこうという考え方が当然出てきます。勿論、細胞を使う方法というのも1つの方法してあるわけですが、もう一つは、血管を再生するような物質を体の中に遺伝子の形で入れてやって、そして局所で血管を再生しようという考え方が当然出てきます。

(スライド)
 これは簡単に漫画にしたものなんですが、このような形で外から遺伝子を簡単に注射することによって、遺伝子を筋肉の中に取り込ませるということが可能になっています。そうしますと、従来は、筋肉の中でたんぱく質をつくらせるということができなかったわけですが、今まで大腸菌という形で、体の外でつくったものを投与したものではなくて、今度は体の中で遺伝子を使って血管を再生する物質をつくって血管を伸ばしていくということが可能になるわけです。これは勿論、いろいろな血管を再生する物質の遺伝子というのがありますから、その特許を取ることによって、いろんな方が分野に参入できる。
 ただ、重要なこととしては、血管を再生物質も後ほど御紹介しますが、遺伝子を持っている方が、必ずしもこの治療をやりたいと思っているケースばかりではないということです。
 このように血管を再生する物質が出てきますと、こういう形で新しい血管の枝が伸びていくわけです。このように血管の枝が伸びてきますと、詰っている場所を迂回する形で、バイパス道路のような形で血管ができ上がってくると。
(スライド)
 これが実際に、私どものところで、これは研究として行っているものです。HGFという名前の遺伝子、これはたまたま日本で見つかった遺伝子で、私どもは今その治療ができていますが、こういう潰瘍がある方が、潰瘍の治療することによって、足の切断を防ぐことができる。
(スライド)
 こうしたような治療を我々が行いたいということは、私どもの病院だけでしたいわけではないわけです。私どもの病院だけでしようと思いますと、当然ながら全国から来てもらわなければいけませんし、その方々に対してどうやってお金を取っていくのか。自費で負担してもらうということもありますけれども、もしこれを自費で負担しますと、当然大量生産もできない。したがって、値段としても1人100 万、200 万円という金額がかかると。しかも安全性は、我々医者としては保障できますけれども、薬としての保障にならないわけです。ですから、何か問題が起こった場合は、私どもが医師賠責で払うと。
 こういう状況が長く続くというのは、普通考えたらおかしいだろうと。一番いい方法は、やはり医薬品としてちゃんとした基準を満たした形で提供して、安全性の保障をして、どなたにも安く使えると、こういう形になるのが当然ベストだと思うんです。そうすれば、必要な方が北海道であれ、沖縄であれ、常に使うことができる。
 それをするためには、産業化が必要なわけです。その産業化のところでは、実は先ほどお話ししたように、特許がないと実はだれも手伝ってもらえない。当然ながら、うまくいけば、次の方が特許がなければ入ってきますから、そうするとお金がどこからも回収できないということが起こってきます。
 したがって、特許をたくさん押えていって、ある程度手伝ってくる方にリターンが出るようにしないことには、我々の持っている技術というのが世の中に出ていかないわけです。 そこで、特許の話になるわけなんですが、実は遺伝子医療に関する特許というのは、ここに書いていますように非常にたくさんあります。当然、血管を再生する遺伝子の特許というのもありますし、その遺伝子を発現させるためのプロモーターと言われますが、調節の特許もあるんです。あるいはベクターと言いますが、遺伝子を入れるための道具、この道具の特許、あるいは道具をつくる方法の特許、あるいはそれを製剤化する方法、保存方法、こうしたようなものがすべて重なって、初めて薬としてでき上がると。ただし、大事なものはそれほど多くありません。
 1つは、治療するための遺伝子の確立、どの物質が血管をつくるのか、ベクターに関していうと、これは入れるための道具ですから、あるものがだめでも次のものがあるというので代わりが効くわけです。当然、製造化方法、保存方法に関しても代わりが効いてきます。ただ、先ほども言いましたように、これは論文では評価されませんので、研究者だけでやりますと、この辺りはだれもしないということが起こります。
 その意味では、産業界の方が入ってくるためには、こうしたところの特許というのも当然重要になりますし、これは従来でも認められてきています。
 問題なのは最後のところで、ベクターを投与する方法の特許ですとか、実際に治療する特許、血管を再生することがこの病気を治せるんだと、そういう特許が取れないと、実はどうしょうもないわけです。先ほど言ったように、したくないというと、実はだれも実用化できないわけです。そのときに、何が起こり得るかと。
(スライド)
 私どもが、実際にHGFという物質を遺伝子としようと、遺伝子で血管を再生する薬として出そうと思ったときに、先ほどの遺伝子は、私どもが特許を持っていたわけではありませんでした。別の会社が既に特許を持たれていました。
 そこの会社の方は、残念ながら、この治療方法自体を薬にする気持ちは全くなかったと。そうすると、今までですとそこで終わってしまうわけなんですが、幸いにして私どもの場合は、この遺伝子が血管を再生する力を持っているという用途特許の方で、これは日本では非常に微妙なところなんですが、今日のお話に出ているように、アメリカでは認められますので、私どもはまずアメリカでまず特許化すると。アメリカで特許化されれば市場が大きいですから、彼ら自身がする気はなくても、ほかの方が勝手にやって薬にして、結果としてお金が入ってくれば、別に構わないわけです。何も使わないで一銭にもならないよりも、この最初の会社の方は、少しでもお金の回収の目途があれば、当然ながら用途特許という形で押さえているグループがあれば、そこへ出してくるわけです。
 逆に我々としては、特許を持っている部分によって、この会社がほかの会社に売ることができる。逆に言うと、どっちも面子が立たないで手を結ばなければ薬にならないわけです。そこで話し合いをしてどっちかが折れてくれれば、商品化へ進むわけです。幸いにして私どもの場合、これは多く場合、どちらかが折れるということに当然なりますので、折れたことによって、私どもの方に特許の使用の権利をもらっています。要するに、これは両方とも得するわけです。彼らも我々に渡さなければお金が入ってきませんし、我々も彼らから遺伝子をもらわなければ薬として患者さんに届けることができない。両方がそれぞれ譲ることによって、それぞれお互いに利益を得る、いわゆるWin−Winの関係になるわけです。
 結果として起こったことは、そこで薬としての権利が確保されましたので、今度は私どもが実際に、この薬を売ってみたいという会社の方にお渡しをすることによって、将来の利益の一部を前払いでもらって、そのお金で、先ほどお話が出たような安全性とか安定性の研究をしていって、医薬品としての開発を進めていくと。
 ほとんどアメリカで行われている遺伝子治療、再生医療もそうですが、こうしたような形の戦略で、複数の会社を結ぶ。
 当然ながら、遺伝子を持った人がすべての権利を押えるかというと、必ずしもそうではないですね。むしろ、アメリカの場合、いろんな分野で治療方法の特許が取れますから、むしろいろんなところにばらまかれている。そのばらまかれているのが、本当に薬にしたいと思っている方々が、それに対して交渉していって手に入れていくと、そういうふうな流れになっています。
(スライド)
 もう一つ大事なところでは、ゲノムで日本は敗北者というと井村さんに怒られるかもしれませんが、現在、一応6%しか日本は権利がないわけです。そうすると、日本は6%しか医薬品にする力がないのかというと決してそうではなくて、先ほど言いましたように、アメリカで見つかった遺伝子であっても、日本で治療方法の特許が押さえられていれば、当然我々は権利を持つわけです。場合によっては、日本だけで薬にする権利かもしれませんし、逆に向こうがやり気がなければ、アメリカで使った遺伝子でも、日本から世界中に対して、それを医薬品としてつくっていくこともあり得るんです。
 その意味からいくと、日本にとって必要なのは、むしろ後の部分で、患者さんにより近い部分で広く提供されると。大元が負けたわけたわけですから、むしろ下の方でたくさん取っていかなければいけないんですが、現状は、むしろ日本は取りづらいという状況になっております。そうしますと、むしろ勝ちづらい状況です。
 そうではなくて、やはり患者さんに近い部分こそ、実は日本人が得意なところだと思いますので、そこでもっと勝負できるような状況をつくっていかなければいけないんではないかと。
(スライド)
 これは、先ほど御紹介した私どもが血管を再生する薬をつくるときのビジネスモデルというか、どういう仕組みになっているかということです。
 大学とか、私どものような研究機関では、当然ながら基礎研究が行われます。どうも患者さんに対して効果はあるらしいと。実際に臨床研究という形で、今、トランスレート・リサーチということで、政府間でも大量にグランドが出ていますが、どんどん実用化を進めていこうと。ところが、実用化する最後の段階では、先ほど言ったような、安全性とか安定性とか、やはり多くの患者さんに届けるということになりますと、より高い水準をクリアーしなければいないと。
 そこのお金をどうやって得るのかというところでは、結果として製薬会社でもいいですし、ベンチャーという形でもいいんですが、特許を集約化していって、製薬会社からお金をもらっていかなければならないと。ここのポイントが、先ほど言いましたように、特に治療方法という形での一番最後の特許であると。
(スライド)
 幸いにして私どもは、そういうところの分野を押さえようという方針でやっていますので、いろんなところで現在提供して開発を進めているという状況です。
 実は一番最初に書いた、HVJエンベロープベクターと書いてありますが、これは遺伝子を入れるための道具なんです。これの前の世代、HVJというのは日本で見つけたウイルスで、Hemaglutinating Virus of Japanという、日本という名前が付いたウイルスなんですが、このウイルスを利用して治療しようという一番最初の方法は、先ほど言いましたように、実は特許を私ども出していませんでしたので、だれからも相手にされませんでした。それこそ数十社の方、アメリカも含めて行ったんですが、面白いとは皆さん言ってくれるんですけれども、特許がないという時点が交渉打ち切りなんです。だれでもできることは、だれもやらないという非常に矛盾した原理ができています。
 その反省で、今回はこの新しいタイプの更に改良版ですが、そちらの特許を取りまして、今度はその特許を基にして提携がまとまったと。その意味で、やはり世の中に出すためには、足場となるようなものが何か、そこがやはり特許だというふうに思っています。
(スライド)
 これと同じことが、先ほどお話のあった細胞治療の例でして、細胞の場合は中に遺伝子を入れるというケースも当然出てきます。先ほど上田先生は骨髄を入れたり、あるいは新しい細胞を入れるというお話がありましたから、その遺伝子の中によりつくりやすいような遺伝子を入れて細胞を戻すというケースもあるわけです。
 そうしますと、先ほどの細胞の加工処理の過程ですとか、細胞の再注入、こうしたところの特許というのが取れていかないと、なかなか全体でシステムを構築していって、新しい技術を世の中に出すということにはつながっていかないということになります。
(スライド)
 それから、費用の点なんですが、これはいろんな御意見があると思いますが、一般的には医療が高度になればなるほど費用は下がるというふうに言われております。確かに、中等度の段階、これはかなり古いものなんですが、どれぐらい技術の成熟度と費用がかかるかというのを示した論文なんですけれども、糖尿病とか脳梗塞には、治らない慢性病というのが一番費用が高いわけです。これは治らないですから、毎日薬を飲み続けなければいけないと。
 そうではなくて、むしろ画期的な治療方法が出てきて、完全に治ってしまうということになりますと、むしろ費用は安くなります。単体としては確かに高いんですが、1年、2年、あるいは5年という長いタームで見るとよくなるんです。それは先ほど上田先生がお話されたとおりなんですけれども。
 例えば足の切断で言えば、足を切断するということは切断の費用がかかります。大体今、600 万ぐらいだと思います。それから、リハビリ代があります。義足を付けなければいけませんし、あるいは車椅子の生活になります。更に身体障害者1級になりますから、一生涯の生活保障ができます。しかも、その方が本来かせぐお金というのはなくなるわけです。そうしますと、社会全体のコストは非常にたくさんかかりますし、医療コストだけ見ても、実は実際にかかる薬、これは100 万になるか200 万になるか、あるいは50万になるかわかりませんが、それに対して数十万のお金が実はかかってくると。その意味からいくと再生治療、あるいは新しい治療というものは必ずしも費用が高いわけではなくて、単独の薬の費用がかかるというふうに一見思われますが、実際には社会コストは非常に下げることができると。
 単独の費用も高いかどうか、私自身は疑問に思っております。例えば、コレステロールの薬を毎日朝1錠飲むわけです。それを30日、そして365 日飲むわけです。でも、それでもそれは治しているわけではなくて予防しているわけです。それがもし1回の治療で治るんであれば、1年間のコストよりも実は安いんではないかと。
 薬価はマジックのようなもので、1日1回の薬は安く見えても、実はそうではないというのはたくさんありますので、そういう観点からいけば決して技術の成熟度というのは、お金を押し上げるものではないと。むしろ画期的な特許で新しい技術ができれば、それは社会コストと、特に医療コストを下げる方につながるんではないかというふうに思っております。
(スライド)
 医療特許によって、どういうことが大事かと。私が一番大事だと思いますのは、患者さんに対して新たな医療技術を届ける。これは医者のすべての願いですし、特にそこの中で患者さんというのは、やはり今ある治療方法の中でしか見えないわけです。次にどんな治療方法が出るかはわからないわけです。その意味では、治療方法がないと言われている方が、非常に苦痛であるわけです。治る見込みがないと。そこに治せる見込みが、新しい治療方法を提供することは、当然ながら患者さんのとっては新しい希望になりますし、それを早く安全な形で届けてあげると。それは医者にとっては、自分たちの新しい医療技術を自由に使えると、そして自由にいろんな患者さんを治してあげることができると。結果として、それを手伝った産業界の方が利益を得ると。そういういい構図ができ上がるんじゃないかと思います。
 アメリカに行って治療を受けたいという方が、私どもでも非常に多いんですが、先ほど言いました治療は、アメリカでは既に数百人の患者さんがやられていますので、実際上は日本人がアメリカに行っても治療を受けることはほとんどできません。これはアメリカ自体のシステムの問題もありますし、薬として開発しているとなりますと、当然ながら治験に参加できないということで、薬が出るまではなかなかできない。あるいは、自分で輸入したらいいんじゃないかという話もありますけれども、実際上、そういうことができるケースは非常にまれであると。
 そうしますと、日本で新しい医療を出していくということが一番患者さんにとっては、幸せなことではないかと。そのためには、やはりそれに必要な土台というのをつくっておかなければいけないと。その一つが治療方法の特許ではないかと。
 そこでは、最初に言いましたように、医療現場で実際に医者が注射をしたら訴えられるということでは困りますので、そこはやはり完全に法的に除外していただくような、アメリカと同じような基準を設けておけばいいんじゃないかというふうに思っております。
 以上です。

○井村会長 ありがとうございました。
 医療費のコストに関する考え方は、私も森下先生に賛成であって、どうも日本は非常に近視眼的に目の前のコストだけを考えるけれども、やはりそうではなくて、社会全体が負担すべきコスト全体を考えていかないと、日本の医療は進歩しないと思っておりますが、これはちょっとまた別の問題なので、今日は特許の問題について議論をいただければと思います。
 いかがでしょうか。
 どうぞ。

○澤委員 この閉塞性動脈硬化症は、自己骨髄の細胞移植でかなり成績がよくて、高度先進医療に実際入っていますね。その中で、今、特許化をみんな頑張ろうとしているのは、骨髄から得られた細胞群から、いかに血管内皮前駆細胞、つまり血管を作る能力を持つ細胞をうまく寄り分けることができるか、その為の遠沈器を一生懸命つくろうとしている。やはり医療技術に対する特許がないとなかなか患者さん側に届かないというのは、先生がアメリカで苦労なさっているのはよくわかるんですけれども、現実的には、理解されにくい。先生の場合はさらに遺伝子治療を使うという点でどうしてもハードルが高くなる。もしこれで本当にベクターの新しいものが、きちんと安全性の高いものができれば、どこでも飛び付くような話じゃないかと思うんですけれども。

○森下委員 まず、自己骨髄に関して言うと、確かに一部先進医療で認められている病院も出てきています。ただ、先進医療と医薬品の基準は全然異なっておりまして、安全性に関しての検討等はやはりかなり異なるんです。先生が言われますようなポイントで言えば特に違いが大きいですね。
 もう一つのポイントは、現在、全身麻酔が必要になっています。特にお年寄り方は自己骨髄の再生力は当然ながら劣っていますから、本来はそれを増やして戻すということをしなければ、多分有効性を上げることはできないだろうと。これは上田先生がよく御存じだと思いますが。
 そうすると増やすところの技術というのが、また特許の話に戻ってきてしまうんですけれども、日本では十分保障がされないということで、皆さんそれを開発しようとしている方も、特許が取れるかどうかわからない中でかなり努力されていると。
 そうすると、特許が取れないということであれば、当然やっても無駄ですから、企業としては撤退するところも出てきて、結局として言うと先進医療の場合はそこの病院に行かなければいけないわけです。全国どこでも受けるということにはつながっていかないと。安全性に関しても、何か事故があった場合に、ではだれか保障するのかというと、当然現在は保障はありません。あくまでも、費用の一部が負担されるというだけです。
 安定性に関しても、毎回取った細胞がどれぐらいの間保存されているのか、直後に使えばいいという説もありますが、その中には何が混ざっているのか。これも実は検討はできていません。それは要求されないからです。
 その意味からすると、より患者さんにとって低侵襲で、高度なといいますか、安全性の高い医療を届けるためには、当然ながら技術的な開発が必要になってくると。その開発を可能にするために、やはり仕組みというのが必要になるというふうに考えています。

○澤委員 先生がおっしゃるのは、このベクターを投与するときに、今、自己骨髄細胞は患部に1センチごとに打っていますね。

○森下委員 骨髄では50か所ぐらいですね。

○澤委員 そうじゃなくて、例えば安定した、あるいは極端に言えば、飲めるようなお薬でも効き目があればということを、製品化というのはそういうことですか。

○森下委員 私どもの場合には、今は4か所から8か所、内来で筋肉注射をするだけです。それは、最終的には先生が言われたように、本当は飲んで、そこの患部にだけ届くような薬が出ればベストだと思います。残念ながら今はそこまでいっておりませんので、我々はその前段、直接患者さんに注射をして治せないかと。ただ、そこでは全身麻酔の必要もありませんし、当然ながら患者さんから骨髄を取るということもありませんので、ある意味では、例えば麻酔に耐えられないような高齢者の方とか、手術そのものができないようなケースでもできるんじゃないかと。
 もし将来的にこういう治療が認められてくれば、当然先生言われるように、今度は飲んで治してやろうという方もたくさん出てくると思うんです。それが出てくれば、もっと患者さんにとっては有利になります。ただ、そこでもDDS、ドラッグ・デリバリーの手段が要るんですが、それは先ほどの図でわかりますように、アメリカでは特許になりますが、日本では特許になりにくい分野になっています。4ページの薬物送達システムです。ここのところも認めてもらわないと、逆に言うと開発が進んでいかないと。
 ある技術は、それで終わりではなくて、やはり次から次に新しいものを生み出していくと思うんです。そのための仕組み、サイクルというのを回すことが必要なんだと。その一つが薬なり、あるいは治療方法なりの特許というのがその歯車の一つに成り得るんじゃないかと。
 逆にその歯車を入れることによって、安全性とか安定性とかに対して、多くの方が真剣に努力をするような方向性が、むしろ出てくるんじゃないかと私自身は思っております。

○井村会長 どうぞ。

○北村委員 これは、ベクターの特許から黄色で書いてあるところの特許、これはすべて問題ないですね。先生が書いた「日本の最も大事な問題」と書いておられるところの、これを具体的に言うならば、HGFのプラスミッド代を、特許の取れたお薬、遺伝子薬を足を注射するという、この治療方法全体にかける特許ということになるんですか。

○森下委員 そうです。

○北村委員 そうしたら、その足に6か所注射するのか、12か所するのか、そういうことも全部含めて、どこが特許という形になるわけですか。

○森下委員 基本的には、HGFという遺伝子を打つことによる血管再生の部分です。

○北村委員 常にこれはモディフィケーションがあり、対象の患者によって変わりますね。

○森下委員 変わります。

○北村委員 しかし、筋肉に注射する行為に対する特許ということも含めるということで、しかも患者対象は個々であると、そして何かの規制、つまり足の筋肉に注射するとか、病巣に近い部分の筋肉に入れるということですね。

○森下委員 我々がアメリカで所有した特許も、用途の部分で打つ回数ではありません。

○北村委員 具体的には、なんの部分、こういう特許は今まであるんですか。

○森下委員 HGFの遺伝子を患者さんの筋肉に注射して、血管再生が起こって治療につながるというのは特許になります。ただ、先生が言われるような、4か所か6か所だというのは、実は特許としては成り立ちません。
 これは特許の条件が、これは小野技監が一番よく御存じなので、御説明していただいた方がいいと思いますが、再現性というのが当然出ますので、普遍的な要素というのがありますので、ですからそういうところは逆に特許化できませんので、そういうところを除いた特許ということになります。

○北村委員 しかも、医師はそれから外すと。そしたら、具体的には足にプラスミッド薬を注射する行為に対する特許というのは、だれが特許侵害になるわけですか、どういう点で。

○森下委員 それは、例えばHGFの遺伝子をもともと持っている会社があるとします。その会社の方が薬として出そうしたときに、初めて引っかかってきます。

○北村委員 薬には特許料を含めた薬価が付いているかどうか知りませんが、付ける形に動きますね。それが勿論特許で、まねした製法は別の会社はできませんね。しかし、それを買って、足に注射する行為も特許があるとなれば、それで医師がそれは省かれるという形になれば、その行う病院が特許を取得しなければならないという形になるんですか。

○森下委員 そうじゃなくて、例えばHGFの遺伝子が別の用途で売られているとします。例えば、肝臓を治すための薬としてある特許を、我々医者が勝手に患者さんに打って血管を生やしたとしても、それは特許侵害じゃないんです。
 そうじゃなくて、こういう薬を使って、例えば血管を治す薬として、我々の特許があるにもかかわらずもとの会社が売り出そうとすると、我々の特許が初めて侵害されるわけです。ですから、業としてという条件が付いているので、業としてやらなければ特許侵害にはならないです。
 例えば、HGFの遺伝子を病院で勝手につくって打っても、それは特許侵害じゃないんです。ただし、もし薬としてそういうものが出ていれば、当然ながらそれを使った方が安全性も高いですし、安定性もあるということで、皆さんが使ってくれるだろうという期待のもとに売り出すわけです。

○井村会長 ちょっと小野技監から、もうちょっと説明していただきたいと思います。

○小野技監 まずHGFの遺伝子そのものが特許になるかどうかという点でございますが、遺伝子そのものが特定の用途、治療に使われるというような有用な機能を有すれば、遺伝子そのもの自体で特許になります。その例は、先ほどごらんいただいたHGFの特許でございます。
 今、議論になっておりますHGFは、肝臓の治療に使われる機能があるということで、特許になっていますが、それをよく研究開発した結果、例えば今回のように血管再生に使えるという場合、つまり、当初考えられたものではない特定の用途を見つけて使うという場合は、用途発明という考え方がございます。これは普通の薬でも同じでございますけれども、ある特定の薬、特定の化合物が、こういう別の薬になりましたということができます。それが従来の知られていた用途と違うものに使用され、さらにそれが非常にいいという場合には、その用途発明という形で新たに特許を取ることができます。
 ですから、HGFをいわゆる血管再生に使うという用途発明というのが成立いたします。
 問題は、ここにもございますように、患者さんに投与するというところは、我々は医療行為ということではまだ特許しておりません。普通ございますのは、HGFが、例えばそういう再生治療に使われることが発見されて用途発明で特許を取ると同時に、それをアメリカのように治療方法が特許可能とされる場合には、それを使った治療方法として特許が認められることでございます。
 一方、日本と欧州は用途発明までで止まっているというのが現実の姿でございます。

○井村会長 どうぞ。


○澤委員 実際、今、現実でアメリカにしても、96年の4月に特許法が変わっていますね。現場で実際に医療行為がどんどん特許申請されていたような状況と変わっているんじゃないかと私は実感しているんですけれども。 要するに、医療行為そのものというのが、今、実際は特許化から失効化しているという現実はないですか。

○井村会長 手術法とか、主としてそういうものの話ですか。

○澤委員 そうですね。ですから、手術法もそうなんですけれども、もともとそれは93年に白内障手術法に関する訴訟が起こって、96年に全部変わっていますね。あれからがたんと下がっているんですね。医療行為に関する発明、申請そのものも実際にアメリカで下がっていますね。

○小野技監 アメリカの場合ですと、私どもの現在ありますデータでは、年間に医療行為関連出願の審査処理件数は手術、治療、診断のみで大体600 件ぐらいです。

○澤委員 それは何年ですか。

○小野技監 これは近年ということで、ちょっと年代は書いてございませんけれども、恐らくこの2、3年で1年当たり大体この程度というふうに承知しております。

○井村会長 こういうシステム全体の特許とか、あるいは今の森下先生が言われたように、閉塞性動脈疾患の治療のために足に注射することへの特許とかいうものの概念が、我々としてはまだわかりにくいところがあるんですね。それは医師の行為にはかからぬわけですから、結局他社が後に出てくるときに問題になるということなんですね。

○小野技監 今の600 件といいますのは、治療方法を含む出願ということでございますので、例えば医薬品などで、それを特定の治療に使うとか、その場合は、先ほども申し上げましたように、一緒に新しいHGFを再生治療と使用するという用途発明と一緒に書かれているものは、更に数的には多くなります。これは非常にカウントが難しいと理解しております。

○井村会長 それから、日本では用途特許は取りにくいということを言われたのは。

○小野技監 それはむしろ日本の場合は、ある意味では欧米に比べて、用途発明は取りやすいといいますか、いろいろ認めております。
 例えば、薬の場合は、第2用途、第3用途というところも認めております。これはやはり先ほど秋元委員から御紹介がございましたように、医薬特許が導入されたのは非常に遅うございましたので、むしろいろいろ既存のものの研究をやるということもありました。第2、第3用途等のところまで拡大しているという意味では、我が国は非常に欧米には引けを取らないという理解でございます。

○森下委員 既存のものに関しては、言われるように非常に特許が取りやすいです。ところが、基本のところがあやふやな新しい技術のところになると、がぜん難しくなってきます。
 もう一つ言いたいことは、これから大学なり、あるいは研究機関の先生方の発明が増えるわけです。そうすると、特許とわかってない方がほとんどだと思うんです。そのときに、特許になるかならないかわからないものを出すかというと、皆さん多分出さないんです。でも特許としては広く認められるから出した方がいいという話になれば、皆さん出してくると思うんです。
 現状は、自分たちのものが特許になると思っている方は、ほとんどいらっしゃらないので、結局もう出さずに終わっているというのが、多分90%を占めているんではないかと。それは実は非常に損といいますか、今、多いのは学会で発表して、なぜ特許に出してなかったのかと後から言われて、結構困っている先生がたくさんいらっしゃるというのが実情だと思うんです。
 たまたまTLOの人がいたり、弁理士の先生がいて、これは当然特許に出していますねと聞かれて、こんなのも特許になるんですかというのがかなりのケースを占めていますし、我々のところもそういう相談が多いんですけれども、非常に特許自体がわかりづらいというのがそういう原因につながっているんじゃないかと。そこはやはりわかりやすくした方が、せっかくいろんな国からの補助が産業界、あるいは患者さんのために使われるために必要なんじゃないかと。

○秋元委員 小野技監の方がよく御存じだと思うんですが、日本は従来から治療法というのは導入していないと、産業にあらずということで導入しておりませんが、その代わりとして用途、あるいはそういう治療方法を有する、いわゆる剤、製剤という形で認められているわけです。
 そうしますと、どういうことになるかといいますと、そういう剤で特許は取っておりますが、後でもっといい、本当に最適な治療法が見つかったとしても、今度は治療法としては特許が取れないんです。もともとそういう治療するような剤という変則的な形で既に取っておりますから、また治療法も認められませんから、本当にいい治療方法が今度見出されても、これについてはもう的確な特許を取れないという状況になります。それが実際の日本におけるプラクティスになってしまっているということです。

○井村会長 今の用途特許とまた違ったものと。

○秋元委員 用途は用途なんですけれども、第2用途、第3用途まで認めていただいているんですが、治療法に関してはそういう治療法を有する剤という形でしか取れないという状況です。

○井村会長 どうぞ。

○上田委員 実は、再生医療の3つのプロセスの一番最初の細胞を取るというのが、一番医療行為らしくて、典型的なコンフリクトする場所だと思うんです。
 私のプレゼンでは、非常に簡単な図でちょっと誤解を与えてしまったかもしれませんが、工学部の人とナノチューブを使って、細胞一つひとつの表面性状に合ったようなものをつくって、それを引っ張り出すというのを開発しているわけです。これは日本独自のものでどこもやってないわけです。そのとき、工学部に相談に行きますと、それは技術的には可能だというわけです。でも、それは到底工学部の工場でつくれるようなものではなくて、やはり相当大きなそういうことを常にやっている会社でこそできるようなところがありまして、彼らのところに相談にまいります。そうすると、当然特許の話が出てくるわけです。これは何のためにつくる道具なんですかと。そうすると、低侵襲に細胞を取るというところにあるんですよということを言って、それは何のために使われますかというと、再生医療の部分ですということを話すと、全体像がやった見えてきて、彼らは乗ってくる。そうでないと、恐らくこの製品は出てこないと思うんです。そうすると、やはり麻酔してメスで切るということを、ずっと続けていかなければならないという、患者にとって一番損なことが起こるので、やはり是非そういったところの全体の保護が必要ではないかと思います。

○井村会長 どうぞ。

○広井委員 特許とは一回り広い議論で、先ほど医療費の話が出ましたので、医療経済という関係をやっているあれで申しますと、森下先生は留保付きながらも、ブレイクスルーで医療費が減るという議論をされておりまして、確かにそういう面は、つまり医療技術革新と医療費がどういう関係があるかというのはいろんな議論があって、一方でそういう研究開発は最終的には医療費を、根治療法が開発されて減らすという議論は一方であるわけですけれども、私自身もどちらかというと以前そっちの方にかなり力点を置いて見ていたんですが、やはり慢性疾患とか高齢者ケアの比重が大きくなっていく時代になっていくと、果たしてそういうふうに言い切れるのかなという面が、むしろブレイクスルーの効果というのは低減していくという場面が、かなり出てきているような感じもします。
 したがいまして、少なくともこの技術開発でブレークスルーで医療費が減るというのは、私もできればそう思いたいところなんですが、必ずしもそうはならない局面もかなりあるということで、これは多少留保付きで考えるべき議論ではないかというふうに思います。 それから、もう一つ私が若干気になりますのは、こういう議論のときに常にアメリカの医療システムが一つのモデルといいますか、場合によっては理想のように言われることがあるんですけれども、冒頭にもちょっと言いましたように、個々のピンポイントの技術だと非常に優れている反面、医療システム全体として見るとパフォーマンスは決していいとは言えないわけで、直接特許に直結する話ではないにしても、医療の資源配分をどこに配分するのが全体として費用対効果の高い医療を生み出すのかという、ちょっと広い視点もこの議論を考える場合には必要で、一見費用対効果が高く見えて、特許とかそういったところに資源を導入することで、かえって何か別の弊害も出てきて、結果的にコストが上がるということも十分あり得るような気がしますので、そういう大局的な視点も必要ではないかというふうに思います。

○井村会長 やや間接的な問題になりますが、勿論そのことも考えていかないといけないと思いますけれども、主として特許の在り方について議論をしていただくというのを中心にしたいと思っております。
 今日は、お二人の方から、大変有益な御発言をいただきまして、医療特許の在り方と、その難しさというのがわかってきたんじゃないかというふうに思います。
 どうぞ。

○見城委員 ずっと伺っておりまして感じたのは、この特許に関してのポイントを置くとしましたら、先生方にとっては機器をとにかくつくってもらうということ、何かイノベーションしてとにかくつくってもらうということが一番ポイントなんでしょうか。

○上田委員 現代の高度医療はお医者さんの役割の部分だけで済むような医療の範囲を超えてしまうほど高度化しておりますので、企業の方の手を借りないと特殊医療が一般医療に持っていけないのです。だから、企業の人の動機を高めるために特許が必要だということです。だから、器具が必要だというのは、今おっしゃったとおりです。

○見城委員 それと、私のように素人ですと、同じ先端医療と言われましても、全く治すところが違いますし、方法論も違いますし、医療技術の在り方も違いますし、そういったものを全部一度に各先生方の欲しいと言われることで、要望のように出されていますと、どういうふうにこの委員会で、限られた時間の中で特許の在り方を方向づけていいのか、本当にせっかく委員としてここにおりますけれども、ある意味では散漫になってしまいまして、ある意味では専門分野にだけ限りますと、ほかの分野の医療の先生にとっては全く意味のないことになるので、その辺のところも次回に少し議論すべきでは。

○井村会長 それは、先端分野に限って議論をしていただこうと思っております。

○見城委員 先端分野なんですが、私が伺うとそれぞれがまたそれぞれ違うような気がするんです。おっしゃっていることもです。ですから、今、あえて共通している言えることは、それぞれ同じ専門分野でもまた違ったそれぞれの専門でいらして、でも共通することは産業界に機器をつくってもらいたいという、結局ここに集約されると受け止めてよろしいんでしょうか。

○井村会長 機器だけではないですね。だから、森下委員の言われたのは機器だけではなくて、しかし産業界がインセンティブを持って、こういう遺伝子治療に乗り出してくるためには、もう少し広いポイントが必要だということなんで、機器ではないですね。

○見城委員 産業界は、こういうものがないと本当に動かないのでしょうか。

○井村会長 それは秋元委員が、産業界の代表ですから。

○秋元委員 産業界は社会貢献もしなければいけませんけれども、それだけをしていてはサイクルが回らなくなり企業としてはつぶれてしまうものです。

○見城委員 やはり特許があった方が。

○秋元委員 特許がないところでは、基本的にはやりません。

○見城委員 動かないと、そうとらえてよろしいでしょうか。

○秋元委員 はい。

○井村会長 今まで、日本の国立大学の特許は国の特許になってしまうと、ほとんど全部死蔵しているんです。それはすべての企業に公開しないといけませんから、そうするとどこも手を出してこないという状況になってしまっているというのが、その一例だろうと思います。
 それでは、今日はいろいろお話を伺ってまた次回以降に議論を重ねたいと思っております。これからのやり方ですけれども、次回は、1つは北村委員にプレゼンテーションをしていただくということをお願いしたいと思いますが、同時に日本で特許保護の対象になっていないもので、やはりいろいろ必要なものがありますね。例えば、DDSなんかも、今度政府としてもナノバイオロジーのプロジェクトとして、かなりの研究費を付けようとしているわけです。このDDSの特許の在り方というのが、やはりこれから問題になる。今の森下先生の話なんかも、DDSがうまくいけば飲んでもいけることになるわけで、あるいは末梢血に一遍注射したら終わりだという形のものですから、やはりこれも少し議論をしておかないといけないのではないかと思いますし、心臓の埋め込み型のデファイブリレーターとか、そういうのはまた北村先生がお話になるかもしれませんが、ちょっとだれか選んで、そういう必要な分野について発言をしていただくということをしたいと思いますが。
 今、DDS以外に特にございますでしょうか。

○北村委員 今日のお話で、一つ明確になってないのが、産業界へのインセンティブを高めるために治療全体のシステムに特許を与えることによって、それに必要な器具の開発が促進させられるという点と思います。例えば薬剤会の方であればも、もうほとんどが薬としての特許は問題ないわけで、今、大きな問題はむしろ米国との治験の在り方、あるいは同時発売の在り方、そういったところで、今一番問題になっている。この会が開かれている趣旨は、森下委員、上田委員が言われたような、システム全体として、医療行為を含めた特許というものが成立するのか、米国は確かにそういう形を持ってきているけれども実働はしていない。それは医師というものについては免除するということで、その医師を免除した場合に一体何で、産業界としては特許が必要なのか、そのシステムが成り立つことは当然必要なんですけれども、そのために医師が一生懸命それを率いていくと、開発して普及させる方が広く早く進むという考え方もある。
 そのときになぜ産が特許が要るかということが、もう一つわかりにくい。やはり産はものが売れることが大切。そのためには広く普及させる。それをさせるのが医師であると。医師の場合の行為には制限を加えない。そうすれば、なぜ特許が要るかというところの明確なアンサーはまだもらっていないような気がいたしまして、医師以外が一体だれがするのか。あるいは、そうしますと、今、関係は余りないかもしれませんが、先端医療のところの株式会社の参入というところまで影響が来るかどうかちょっとわかりませんが、先端医療に対しては保健医療は扱わないとか。そしてその部位には、やはり株式会社が入って来ると、これと特許の在り方というのが、どのようにつながるかということも将来問題になりうる気がします。少々問題を広げ過ぎですけれども。

○井村会長 そこまで行くと、日本の医療制度全体をどうするかが問題になって、それは今のところ、ちょっと広過ぎると思います。

○見城委員 先にそういうものが。

○北村委員 システム全体で取る意義というのは、もう一つわからぬ。

○上田委員 確かに、お医者さんが自分が工夫して、似たようなコンセプトの中にある器材を開発して売り出すと、それは特許侵害だと。だから、それはされないですけれども、実際そんなことをする医者はまずないですね。そうすると、どこかでつくった高度な製品を使うしかないわけで、やはり産業界には産業として成り立つという可能性が大いにあるわけです。

○北村委員 だから、ものをつくって売ればいいわけでしょう。

○上田委員 そうです。そのときの開発する動機としては、それが特許として保護されないと、みんながやってしまうわけですから。

○北村委員 余りそれをやると、医師の裁量権というのがどこになるのかなと、産業に押されてしまわないかなという気もするんですが。

○森下委員 確かに現場では裁量権がありますから、医師の裁量権に全く影響はないでしょうね。

○北村委員 ないわけでしょう。

○森下委員 だから、例えば医者の裁量権は影響ないですけれども、その医者が株式会社をつくって何かをやるということであれば、これは業ですね。それは引っかかってきます。だけど、個人で個々の患者さんを治している限りにおいては、全く関係ない話ですね。

○北村委員 そうしたら、どこにそれが絶対必要だと先生は、「産」がそれだけインセンティブを求めているんですか。

○上田委員 求めていると思います。

○森下委員 ですから、なければ出てこないだけの話なんです。広ければ広いほど。

○北村委員 それは医工連携でできるんじゃないですか。

○森下委員 連携をしても、連携だけで終わってしまって。

○北村委員 システムの特許ということを取ってしまうと。判定も難しいし、毎日のように対象患者が違うのに、どんどんモディフィケーションをかけているわけです。

○森下委員 逆に、先生が言われている分野は、この制度になっても特許にならないんですね。それは個々の患者で変わる話は特許になりませんから、だからそこに関しては関係ありません。

○北村委員 だから、先生の場合であれば、遺伝子薬を用いた筋肉内注入による血管再生療法と。それに使うものではなくて、そのもの全部の特許を取ろうということでしょう。○森下委員 そうです。例えばそうすると、ベクターを別のものに変えても、一応我々の特許に引っかかりますから、そうすると普及しやすくできます。

○北村委員 それがなぜ普及に促進的になるんですか。

○森下委員 当然ながら、ほかの人が入ってくれば利益は減りますから。

○北村委員 それが、いい医療を早く広めるのに役立つんですか。

○森下委員 役立ちます。それは早くものを出そうというインセンティブでしょうね。

○北村委員 自由競争の場を与えた方がいいのではないですか。

○森下委員 いやいや、先ほどの見城委員の言われるのと一緒で、非常に逆説的なんです。みんながやることはだれもやらないわけです。非常にわかりにくいんですけれども、みんながやるということはだれ一人得をしないということなんです。ある人が得をするから初めてものをつくろうと思うんです。

○北村委員 そのインセンティブは既に十分あるじゃないですか。

○森下委員 それは皆さんが参入できるんであれば、リターンは出ないですよ。

○北村委員 その遺伝子薬をつくって、それを発売していくということで、大きな利益につながるというのは、今の薬のままでもいいわけでしょう。

○森下委員 例えば、そこのところに100 社出てくれば、当然だれもつくりませんね。

○北村委員 それは特許で抑えて100 社つくれないじゃないですか。

○森下委員 そこのところが結局広ければ広いほど、参入は当然減るわけです。

○北村委員 システム全体として、ほかの参入を抑えるということが、医師の裁量権を抑えることにならないかということです。

○森下委員 医師の裁量権は現場での治療なんで、そこはもう全然関係ないです。例えば、先生が御自分でつくって使っても、それは全然関係ない話なんです。

○北村委員 関係ない。そのシステムの特許を侵しているわけですね。

○森下委員 ですから、それは除外されますから。

○井村会長 それは除外規定で除外するわけです。

○森下委員 ただ、先生が会社をつくられてやれば当然これは引っかかります。

○北村委員 それから、ほかのところは一切、HGF遺伝子薬を用いてやってはいけないということになるわけですね。

○森下委員 会社としてですよ。

○北村委員 それは当然です。今でもそれは実質的にはできないでしょう。

○森下委員 できません。ただ、そのときに例えばちょっと一部を変えてやるとか。例えば、HGFは今、特許があるからわかりやすいですけれども。

○北村委員 変えてやるというのは、足に投与するのを、別のところから投与してもだめということになるわけですか。

○森下委員 いや、そうじゃないです。例えば、特許がHGFの遺伝子が20年経っていて、もう特許がないとします。そうしますと、血管を再生するという特許だけが残っているわけでしょう。そのときには、HGFの遺伝子を使って他の方法でもできるようになります。

○北村委員 それはもう特許期限が来るだろうと。

○森下委員 だから、それ以降は自由参加になります。

○北村委員 薬の方が短いんですか。

○森下委員 普通薬の方が短いですね。特許としては20年ですけれども。

○北村委員 日本にはまだそういう医療行為全体を包含するような特許はないんです。

○森下委員 ですから、逆に言うと20年間のうち薬をつくるのにかかるのが大体十五年かかりますから。

○北村委員 そこまで入ればね。だけど、特許を申請してから13年か何年か。

○森下委員 今、20年ですね。

○北村委員 そういうシステムを日本で構築して。

○井村会長 今すぐに結論が出ないと思いますので、また。

○澤委員 ここでDDSの特許云々やるのもいいんですけれども、一番最初に戻るようですけれども、医療とは医者と患者さんの間で行われることなんですね。当たり前のようなんですけれども、今ここで話されていることは、まず産業界にインセンティブを与えて、最終的には患者さんにいい医療が届けられるというのは、非常に遠回りなアプローチでしかない。北村先生がおっしゃりたいことも同じだと思うんですけれども、包括的にそういう部分の中で日本では本当にいろいろなことが現状と合っているか、アメリカ式のやり方が合っているのかということを含めて、議論を進めていくべきではないかと思います。今後は技術論になってしまうんですかね。

○井村会長 いや、技術論だけではないと思っています。やはり患者対医師という関係は非常に重要であって、それは動かないわけです。ただ、それを巡るいわゆる医療産業が発展するかしないかという辺りで特許のことが問題になっているわけで、医師の行為というのは特許の対象には今の場合ならないわけですから、医師対患者の関係は、それか変わらないと思っているんですけれども、そのシステムに対して特許がかかっても、かからなくても、問題はそれを巡る医療産業がどうなるかという辺りが、まだ我々には十分わからないと。だから、もうちょっとそれは議論しないといけないと思います。

○見城委員 ただ、1つ懸念がありますのは、今、日本というのは財政がいろいろ難しいと言われながらも、皆保険で私たちは安心して安全な、ときどきミスもありますけれども、基本的に安心して安全で、だれでも医療を受けられるという状況がございます。こういった日本の培ってきた、今後問題はあるとはいえ基本的に信頼できる保険を含めて医療のシステムが、このアメリカ型の特許社会というものを取り入れていくということで、響いたら困ると、これは響いてからでは困りますので、あえて先に申し上げておくのは、何でもアメリカのシステムというところに私も引っかかっていますのは、決してアメリカの医療で皆さんが安心しているわけではありませんので。

○井村会長 それは、結局いろんな特許で新しい技術が出てくるとかありますけれども、それが保険に採用されるかされないかは、また別の問題になりますね。だから、国全体の保険制度というのは、日本は今まで非常にうまくやってきたしよかった。それはこれからもできるだけ守らなければいけないというのは、皆さん考えていると思います。
 ただ、今、新しい技術がどんどん出てきますから、それとどのように調和させていくのかというのが非常に難しい問題になってきて、さっき医療費の問題が出てきたのも、結局はそういうところですね。

○見城委員 ですから、むしろ特許を推進していって、産業界もうまくいって、逆に患者の側にすれば、安い治療というか、そのことがそういうふうに巡り巡って質もよく、医療費も上がらないということになるように。

○井村会長 そうなってほしいと思うんですがね。

○森下委員 保険制度については見城委員の意見に大賛成なんですけれども、一番大事なのは患者さんにとって不幸なのは、治療方法がないという状況なんです。要するに、特許がうまくいかなくて薬が出てこない。だから、助からないという状況が患者さんにとって一番不幸な状況で、出る値段がどれぐらいかとか、医療コストというのはものが出て、助かるのがわかってから今度は下げていけばいい議論じゃないかと。
 それで、基本的に言うと患者さんが欲しいのは、やはり自分たちが助かる治療方法がどれだけたくさん出てくるか。そのために、特許制度はそれに合ったような形に変わることで、医者も満足できますし、患者さんも喜んでもらえるというのが一番ベストだと思います。
 あとは、それをいかに安くするかと。そこに関しては、多分別のお話になってしまうと思うので、今の制度をどれだけ維持しながらやるかというのは、恐らくここでの議論というよりも、多分またそういうのがあるのかないのか知りませんけれども。ただやはり早く薬が出ないと。私がよく言われるのは、薬があって治療法が出てもいいんですけれども、私の足がある間に出てほしいと。皆さん言われることは同じなんです。来年、3年後に出る薬は全く興味がないと。恐らく上田先生もそうだと思いますけれども、やはり生きている間に欲しいというのが、皆さんの希望なわけです。

○澤委員 先生、高度先進医療になったと言いましたでしょう。なったということは、要するに、一般財源化というか保険化されるわけですよ。そうすると、今のところはできるようになるわけですね。

○森下委員 高度先進医療は、各施設の病院での治療方法ですから。

○澤委員 あれは何のためにやっているかというと、そこで安全性を確認すると保険化になるわけです。内視鏡の手術だって全部そうですね。今、全国的にやられているから逆にああいう問題が起こっているわけで、自家骨髄のものはそんな難しい技術じゃないじゃないですか。

○森下委員 いや、できない方もたくさんいらっしゃるのが事実なんです。

○澤委員 それは全部ができるとは思わないけれども、今よりは窓口は広がるでしょう。○森下委員 それから、安全性のお話を含めて、やはりかなりルートが違いますので、そこのところは同じ議論は難しいと思います。

○井村会長 幾つかの方法があって、自家骨髄もその一つですけれども、今の遺伝子治療もあるし、それから浅原さんがやっているような、末梢血から血管前駆細胞を取ってきてやるというのもある。いろいろ方法があって、どれが一番いいのかというのは、まだわからない状況ですね。

○澤委員 先生、一つ具現化しているのは、自家骨髄じゃないですか。実際に行われている例数も多い。そういう意味で、もし本当に患者さんが困っているんであれば、既存の技術をきちんとディスクロージャーしてあげるべき。

○森下委員 それは、実際上その効果がどこまであるかということを含めて、今、言いましたように、まだまだこれからの分野なので、そこは混同していただくと困ります。

○見城委員 次回には今まで日本が特許を認めないかわりに逆に使うことができた技術が、今後特許を日本も推進していくことによって使えなくなる。アメリカの特許に対する状況とどういうふうに対応していくのかという、プラスマイナスの部分、メリット、デメリットもあると思いますので、できましたら次回その辺りのところも詳しく御説明をいただいて、いろいろな判断をさせていただきたいと思います。

○井村会長 それはやっていただける人はいますか。

○荒井事務局長 ちょっと検討させていただきます。

○見城委員 ある程度は伺っているんですけれども、結局これは公開されますので、私がレクチャーで伺ってわかっていましても、実際にこの場でしっかりメリット、デメリットが出ませんと、ディスクロージャーできませんので、取材にいらしている皆さんも含めて、きちんとお書きになれる方がよろしいと思います。

○井村会長 それは当然非常に重要な問題ですからね。だれか適切な方にまた意見を述べていただいて、十分議論をしないといけないと思います。何しろ医療は国民のために存在するわけですから、そこは非常に重要なポイントです。しかし、我々としてはできるだけ新しい、いい医療を、できるだけ多くの国民に提供するために何をやるべきかということを議論しないといけないわけなので、特許もそれに関連して議論をしているというふうに、私は考えております。
 それでは、予定の時間を過ぎてしまいましたので、また次回適切な演者で、こういう医療システム全体に特許をかけることの問題点と長所、そういったことを議論していただくことにします。
 それから、北村先生からは、医療機器についてですか。どういう辺りについて。

○北村委員 そうですね。どういたしましょうか。実際、現在のところ循環器病センターもNCVCを商標マークにしてやっているぐらいの、「産」との連携をやっていますが、どういう領域でやられているのか、皆さん一緒かもしれませんけれども、どういう特許を取っているかというようなことを御説明して、それから最終的に医療行為包括的なことは、多少個人的な意見になるかもしれませんけれども。

○井村会長 それは個人的な意見として述べていただいたらいいわけで、多分なかなか簡単には一致しないと思います。
 それでは、本日はこれで終わります。どうもありがとうございました。