21世紀『環の国』づくり会議

平成13年7月10日

「21世紀『環の国』づくり会議」報告

 「21世紀『わ環の国』づくり会議」(以下「会議」という。)は、平成13年2月16日付け内閣総理大臣決裁により開催が決定されたものであり、「地球の世紀」たる21世紀において、「大量生産・大量消費・大量廃棄」の社会から「持続可能な簡素で質を重視する」社会への転換を図り、地球と共生する『環の国』日本を実現するため、『環の国』の基本的あり方や実現へ向けての施策を検討することを目的とするものです。

 会議は、内閣総理大臣が主宰し、全閣僚及び10名の有識者(別記)により構成されています。

 3月1日の第1回会議以来、4月9日、5月28日、6月13日、7月10日と計5回開催され、環境大臣の議事進行のもと、有識者委員が順次意見表明を行った上で、自由討議が行われました。

 この報告書は、会議での意見表明や討議及び会議に供された資料などに基づき、会議の概要を整理したものであり、今後の政府施策はもとより、国民、企業、地方公共団体等における環境保全のための取り組みの参考となるよう、取りまとめたものです。

(別記)

崎田 裕子ジャーナリスト、環境カウンセラー
桜井 正光株式会社リコー社長
末吉 興一北九州市長
福川 伸次株式会社電通 電通総研研究所長
前川 正雄株式会社前川製作所会長
森下 洋一松下電器産業株式会社会長
森嶌 昭夫財団法人地球環境戦略研究機関理事長
山本 良一東京大学国際・産学共同研究センター長
養老 孟司北里大学一般教育・基礎教育センター教授
鷲谷 いづみ東京大学大学院農学生命科学研究科教授

<はじめに>

○今を生きる人類の責務 −将来にわたって恵み豊かな地球環境を確保するために

 21世紀を迎えた今、地球温暖化問題をはじめとして、人間活動が地球の環境に与える影響の大きさが広く認識されるようになりました。これに対して、地球環境には限りがあり、自然の浄化能力を超える環境汚染、自然が再生産できない資源の枯渇、取り返しのつかない生物種の絶滅など、危機的な状況が明らかになっています。
 大気、水、土壌、多様な生物などから構成される地球の環境は、これらの微妙な均衡の上に成り立っており、そのような地球生態系の"環"の一部を損なうと、どのような波及的影響が生ずるか予想しがたいところがあります。そして、この地球生態系は、人類の生存の基盤であり、これを損なってしまっては、人類が将来にわたり地球上で生存していくことができなくなるかもしれません。
 私たち今を生きる人間は、21世紀、さらにはその先の世紀を生きる子孫、そして地球上に生きとし生ける物に対して、恵み豊かな地球環境を確実に引き継ぎ、人類が地球と末永く共生していけるように努力する責務があります。

○『環の国』づくりの趣旨

 21世紀の最初の年である2001年2月、「21世紀『環の国』づくり会議」が内閣総理大臣の主宰により開催されることとなりました。
 『環の国』とは、自然と共生する文化を育んできたわが国の歴史と伝統の心(和)を踏まえつつ、環境の環はもとより、資源をできるだけ無駄なく効率的に使う循環型社会の環、人を含む生態系の環、人々が協働して環境保全に取り組む環、日本を含む先進国、開発途上国が協力し合って地球環境保全に取り組む環、といった意味を込めた言葉であり、人間、文明、地球の新しい連環を作り上げていく趣旨を込めています。
 この「環の国づくり会議」においては、全閣僚と10名の有識者が、私たち今を生きる人間の責務を果たすため、世界に率先してわが国を地球と共生する『環の国』に作り変えていく方策を話し合いました。
 人類共同の事業である地球温暖化対策をどうやって推進するか、循環型社会を作り上げていくために市民、企業、行政等の社会を構成する主体はいかに行動すべきか、自然と共生する社会を実現するために何を改め、何をなすべきか、人々が共に協力し合って環境を保全し、改善する行動を継続していくために何が必要なのか、熱のこもった話し合いが行われました。

○環境の視点からの構造改革・意識転換

 地球温暖化や大量の廃棄物の発生など、現在の環境問題は、資源やエネルギーを大量に使用する現代社会のあり方そのものに根ざしています。このため、『環の国づくり』とは、現在の社会経済の構造、私たちの生活のあり方と価値観を環境の視点から変革していくことである、という共通認識が生まれました。
 特に、環境を保全しようとする様々な試みは、ともすれば経済発展と対立的に捉えられがちですが、この「環の国づくり会議」では、『環の国づくり』そのものが新たな経済発展の原動力となりうるものであり、また、世界に先駆けて『環の国』をつくることが長期的にわが国の国際競争力を高めることにつながる、との見解が示されました。
 もちろん、「新たな経済発展」といっても、従来型の大量生産、大量消費の経済発展を念頭に置いているわけではありません。今日、目覚しい進歩を遂げている情報や生命科学などについての技術やシステムを活用し、経済活動で使用される資源はできるだけ少なく、かつ循環的に使用し、経済発展の内実を量的拡大から質的向上に移していくべき、ということが議論されました。
 また、私たち一人ひとりの生活のあり方を改めていくことは、行政が強制して行うべきことではなく、一人ひとりが今を生きる人間の責務を深く理解し、そこで生まれる意識の転換から、自発的・主体的な行動が大きく広がっていくことが望まれます。行政は、そのような社会の条件整備に努めていく必要があると考えます。

○資源循環・自然共生型地域づくり

 自然に恵まれ、国民が安全で安心に暮らすことができ、資源をムダなく使う、地球と共生する『環の国』は、きれいな空気、豊かな緑、美しい水辺に包まれた経済的活力あふれる都市と、恵み豊かな自然の中でうるおいと安らぎのある生活ができる農山漁村を築くことを通じて実現することができます。
 このような地域づくりのためには、真に必要とされる社会資本を重点的に整備していく中で、環境の視点からもこれまでの事業・施策の見直しを進めなければなりません。
 その中で、廃棄物を大量に発生させている都市については、ゴミゼロ型都市に再構築するための都市再生を推進することが必要です。また、自然と共生する社会を実現し、わが国の生態系を健全なものに蘇らせていくために、都市、農山漁村を通じて、積極的に自然を再生する事業・施策等を推進することが必要です。
 このような資源循環・自然共生型地域づくりは、都市と農山漁村が共生し、対流しながら実施されることが必要であり、さらに、地域住民、企業、研究者、行政等の幅広い国民的協働作業により推進していくことが望まれます。こうして、ハードとソフトを適切に組み合わせ、パートナーシップによる『環の国』づくりを進めていく必要があります。
 こうした地域づくりにより、都市と農山漁村の間の人・モノ・情報の"循環"を促進し、「まちづくり」と「むらづくり」を共に進める『環の国』づくりとすることが望まれます。

○21世紀を見通した『環の国』づくり

 『環の国』づくりは、将来の世代に対する私たちの責務として行うべきことですが、もちろん一朝一夕に実現できるわけではありません。国づくりは、将来を見通した長期的ビジョンや目標を持って着実に進めていく必要があります。
 世界自然保護基金(WWF)が計算した世界の環境容量(地球が持続可能であるための環境負荷の最大値)によれば、世界全体の社会経済活動による環境負荷は、既に1970年代に地球全体の環境容量を超えたといわれています。これを地球の環境容量の範囲内に収めるためには、社会経済活動の"環境効率性"の飛躍的向上が必要であり、先進国と開発途上国の一人当たりの年間資源消費量を同一にするという前提に立てば、少なくとも約10倍の環境効率性の向上が必要、すなわちファクター10の達成を目指すべき、との意見が出されました。
 21世紀を見通し、このような目標を掲げて『環の国』づくりを推進することが望まれます。

<本 論>

1.地球の環 −地球と共生する『環の国』づくり−

(1)地球温暖化防止のための脱温暖化の社会づくり

 地球温暖化については、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)がまとめた報告書によれば、既に脆弱な生態系に影響を及ぼしている、とされており、21世紀末までには、最大5.8度の地球平均気温の上昇、最大88cmの平均海面水位の上昇が予測されるなど、人類の生存基盤を揺るがしかねない深刻な問題として顕在化しつつあります。
 わが国としては、1997年に採択された気候変動枠組条約京都議定書の2002年までの発効を目指し、関係国の幅広い参加が得られるよう国際的な連携を深めるとともに、京都議定書の目標を達成するための国内制度に総力で取り組んでいかなければなりません。
 さらに、地球温暖化を防止するためには、中長期的に大気中の温室効果ガス濃度を人類や生態系に危険を及ぼさないレベルに安定化することを目指す必要があり、京都議定書の第1約束期間(2008〜2012年)における6%削減目標を達成した後も、さらなる長期的、継続的な排出削減に導きます。
 このような見地から、気候変化の観測・予測や自然・経済・社会への影響の評価などに関する科学的知見の充実を図るとともに、わが国を含む先進諸国の社会経済構造を温室効果ガスの排出が少ないものに改めていく必要があります(脱温暖化の社会づくり)。また、開発途上国の経済発展スタイルが温室効果ガスの排出を増加させないものとなるよう支援していく必要があります。
 とりわけ、二酸化炭素の排出の大半は石油、石炭等の化石燃料の燃焼に伴うものであることに鑑みると、このような"消費型エネルギー"を原子力や、中長期的に太陽光、水・風力、バイオマス、水素等の自然が再生・吸収可能な"循環型エネルギー"に転換していくことが重要であり、そのための研究開発を長期的視野で進めていくことが必要です。
 また、二酸化炭素削減に資する技術開発は、様々な分野で進められており、エネルギー供給面のみならずその貯蔵や需要面(省エネルギー化)での技術開発や、二酸化炭素の回収・固定化・有効利用、IT活用による資源・エネルギー効率の改善などの技術開発を政府としても支援していくことが必要です。
 しかし、脱温暖化の社会づくりは、技術革新のみによって自ずから実現できるものではありません。開発された技術を現実の社会の中に組み込んでシステムとして機能させるためには、社会・経済的な条件整備が必要な場合があります。例えば、環境にやさしい自動車の開発・普及の促進など環境対策の一環として自動車税のグリーン化を創設したことなどは、その一例です。また、環境にやさしい自動車の導入に際し、交通需要マネジメント(TDM)実証実験も活用しています。
 さらに、ひたすらに利便性・効率性を追求してきた現在の社会経済・国民生活のあり方自体を見直し、心豊かで安らぎのある姿に改めていくという社会的合意を形成した上で、例えば、都心部の道路を緑豊かな歩道・自転車道優先の構造にするなど、技術革新に頼らない方法も考えられます。サマータイムの導入もその一例でしょう。このような社会経済の構造改革・国民の意識改革こそが脱温暖化の社会づくりであると考えます。

(2)国際環境協力と地球環境調査の推進

 わが国は、世界第2位の経済力を有し、地球に大きな環境負荷を与える一方、地球環境保全のための知識と技術を持っており、国際的な環境協力を進めることは、国家的な責務の一つということができます。
 特に、かつての激甚な産業公害を克服してきた経験と技術を開発途上国における公害対策に役立てることやその地域の自然環境の保全を支援することは、政府開発援助などにより、これまで政府、地方公共団体や民間団体において積極的に取り組まれてきましたが、地球と共生する『環の国』づくりの一環としても一層推進することが望まれます。
 また、国際協力の下、地球環境の状況の把握・評価に積極的に取り組むことも重要です。地球温暖化に関する調査のみならず、高度な海洋監視・観測システムにより全世界の海洋の状況を監視・観測し、その変動や気候への影響を解明すること、地球環境問題に対応するための基礎的地理情報データセットとなる「地球地図」を整備すること、持続可能な開発の実現に向けてアジア太平洋地域の統合的環境モニタリングとその評価を行い、環境戦略オプションを作成すること、広域的な生態系を形成しているアジアにおいて野生生物のモニタリングを行うこと、などを推進することが必要です。
 特に、地球の生態系が人類の社会経済にもたらす恵みの現状と将来の可能性を総合的に評価することは、世界各国の政府の環境政策に関する意思決定に対して、貴重な科学的基礎を提供するものとなります。このため、21世紀の始まりを記念し、2005年までの4年間をかけて、世界の多数の科学者が参加して、世界規模で地球生態系診断(ミレニアム エコシステム アセスメント)が実施されることとなりました。わが国としても、環境モニタリングデータの提供などにより地球生態系診断に協力していくことが望まれます。
 さらに、将来における環境問題の顕在化に備え、現在の地球環境の状況を適切に保存し、技術等が進歩した未来における分析評価等を可能にすることが極めて重要であるため、土壌等の環境試料や生物標本などを系統的に収集、蓄積していくこと(地球生態系タイムカプセル計画)が望まれます。
 健全な地球生態系は人類の資産であり、その確保は人類の安全保障の問題であることを、私たちはあらゆるレベルで世界に発信していかなければなりません。人類は、その英知と資源を結集して、健全な地球生態系を維持する活動を展開していくことが求められています。

2.環境と経済の環 −環境産業革命を目指して−

(1) 企業の環境経営の促進

 『環の国』づくりを進めていくためには、社会のあらゆる主体が自主的・積極的に環境保全に取り組むことが必要となりますが、とりわけ、経済活動の主たる担い手である企業が環境保全についての社会的責務を認識し、積極的な取り組みを進めることが望まれます。
 既に、環境についての意識の高い企業においては、ISO14001の取得をはじめとして、自ら高い環境目標を設定して積極的な環境保全活動を展開しています。このような活動が広く中小・零細企業にも広がっていくことが重要です。
 また、企業の環境保全活動が継続され、幅広く普及していくためには、環境保全活動が企業の利益創出に貢献することが必要であり、そのために政府としても施策を講ずることが必要です。
 具体的には、企業の環境パフォーマンスの評価、環境会計の実施、環境報告書の作成等について、行政が信頼性あるガイドラインを作成するとともに、それらの結果を広く国民に普及することを通じて、環境先進企業の製品や株式等を国民が自主的に選択することを促進することが重要です。このため、企業の環境保全活動等の状況を公表する環境報告書については、その制度化について検討することや政府が環境先進企業とのパートナーシップを強化し、その活動を奨励していくことも望まれます。
 企業が行う環境保全活動において、事業活動に伴う環境負荷の低減に努めることは重要ですが、特に波及的効果が大きいことは環境負荷がより少ない製品・サービスの提供に努めることです。企業は、エコデザイン(製品等のライフサイクル全体での環境負荷の最小化)を推進することにより、製品等の環境性能の差別化を図り、その市場競争力を高めるとともに、政府は、エコデザイン製品等を積極的に調達するグリーン購入について、その調達品目数の大幅な増加を図るなど、エコデザイン製品等の一層の普及促進を図ることが重要です。また、消費者がエコデザイン製品等を積極的に選択するよう、企業が情報提供に努めるとともに、政府も環境ラベル制度の充実や普及啓発活動を行うことが望まれます。
 環境共生住宅やゼロエネルギービル(断熱性能やエネルギー効率の向上、エネルギー マネジメント システムの導入、太陽光・太陽熱の利用など)、ビルの屋上・壁面緑化などが一層推進されるよう、関係府省が連携しつつ総合的な施策を進めることが重要です。

(2) 資源使用量を減らしつつ経済発展を

 人類が将来にわたって地球上で生きていくためには、有限な地球の資源を貪らず、将来の世代のために必要な資源が確保されるよう努めなければなりません。このため、私たちの生活や経済活動のあり方を、できるだけ地球の有限な資源をムダ使いしないようなものに改めていく必要があります。
 もちろん、現在の地球上には、今日の生活の糧にも困るような人々がたくさんいることを忘れてはいけません。その人たちが生活の基本的なニーズを満たすことができるよう、人類社会は引き続き経済的な発展と富の適切な分配に努める必要があります。このことと、地球の有限な資源をムダ使いしないということは、決して矛盾しません。従来型の大量生産・大量消費の経済発展を行うことは、確かに経験則上容易かもしれませんが、それでは地球が、ひいては人類が持たないことは明らかです。今、私たちは、経済発展の質を転換するとともに、現在の地球上での富の分配と将来の世代との資源の配分を考え直していく必要があります。
 わが国は、既に世界でも高いレベルの資源生産性(資源使用量1単位当たりの経済的付加価値生産額)を実現しているといわれていますが、同時に高い環境効率性(環境負荷発生量1単位当たりの経済的付加価値生産額)の実現に努め、資源・環境上の持続可能性を高めながら経済発展を行うことが望まれます。また、そのような経済発展のあり方を世界に広めていくことが必要です。
 そのためには、資源使用量・環境負荷量が少なく経済的付加価値が高い製品の開発普及、ITの活用などによるエネルギー使用量の少ない経済活動の実現、社会資本の整備による経済活動上のムダの削減などを一層進めることが望まれます。
 わが国は、モノづくりで経済を発展させ、今のような豊かな社会を築き上げました。このため、産業のサービス化を進めることによって資源生産性・環境効率性を高めるという考え方については十分な議論が必要です。人類のニーズを満たすために、世界のどこかでモノの生産が必要ならば、日本で、資源生産性・環境効率性・経済的付加価値の高いモノを作るべき、という考え方もあるでしょう。しかし、その場合であっても、いたずらに多くのモノを生産し、所有することに固執する必要はありません。むしろ、あるモノを大切にし、手入れしながら長く使う、あるいは皆で共有して使い回すというわが国の伝統的な生活の知恵を思い起こし、メンテナンス産業やレンタル産業の発展を図るとともに、国民にもそのような意識の転換を促すことが必要です。

(3) 環境制約を新たな成長要因に転換する技術開発等

 資源生産性・環境効率性を向上させるためには、そのための技術開発を促進することが必要です。
 政府は、科学技術基本計画において環境を重点分野の一つと規定し、重点的に研究開発投資を行うこととしています。今後、地球環境問題への対応、循環型社会の構築、自然共生型社会の構築、化学物質のリスク管理等のための研究・技術開発を関係府省が連携して推進することが望まれます。
 例えば、自動車、家電、容器包装、繊維、建設、船舶、有機性資源等の分野における革新的3R(リデュース、リユース、リサイクル)技術に係る基盤的研究開発や実用化開発、バイオプロセス等の環境にやさしい生産技術の開発、有害物質の分別・処理技術等の開発、太陽光発電・バイオマス・燃料電池・水素等の新エネルギーに関する技術開発、環境共生住宅やゼロエネルギービルの開発普及、環境負荷の少ない船舶の研究開発、道路交通流を積極的に管理する新交通管理システムの研究開発と整備、などを進めることが必要です。

(4) 地域からの環境産業革命

 以上述べてきたような"環境産業革命"を推進していくためには、地域からの視点も重要です。
 お互いの顔が見え、その成果を実感できる人口30万人程度の自己完結性の高い地域において、「農」・「食」・「住」の産業のハイテク化を進め、原料生産、加工、流通、消費を地域の中で一体化することにより、地域経済の発展を図りながら地域の資源循環を確立していくことが重要であり、これを全国に広げていくことにより、全国を変えることができる、との提言がありました。
 このような地域循環を実現するに当たっては、地域の個性を踏まえながら、地域住民、産業、研究者、行政等の多様な主体の参加の下、資本財産業が有する多品種少量生産技術や静脈産業技術などを活用して、地域の産業構造を転換していくことが必要であると考えられます。

3.物質循環の環 −ゴミゼロ作戦による循環型社会の実現−

(1) ゴミゼロ構想

 既に述べたとおり、私たちは、地球の資源をできるだけ大切に、循環的に使い、ゴミとして捨てるものをできるだけ少なくしていかなければなりません。
 ゴミとして出てくるものを減らす(リデュース)ためには、製品に使う資源の量そのものを減らすこと、製品の寿命を長くすること、製品のうちゴミになる部分を少なくすること、などが必要であり、これらは製品の生産者において努力する必要があります。また、メンテナンス産業の発展、住宅リフォーム市場の整備等により、製品の長期間使用を可能とする社会を作っていくことが必要です。一方、消費者は、このような省資源化・長寿命化設計をされた製品を選択するとともに、製品をなるべく長期間使用することが求められます。また、ゴミに大きな割合を占める容器包装のことを考えると、製品の購入者が過剰に包装されたものを買わない(リフューズ)といった購入者あるいは中間販売者の努力による部分もあり、そのような努力を支援する社会システムを整備することも重要です。
 次に、一度使った物をすぐに捨てずに何度も使うこと(リユース)が必要です。中古品市場の充実、中古住宅流通市場の整備、リユース可能な製品や容器の開発普及、部品のリユースシステムの整備等が重要であり、購入者側においても、使用後の容器はリターンするといった協力や新品を嗜好する意識を改めていくことが必要となります。
 さらに、使えなくなった物はもう一度資源として再生すること(リサイクル)が必要です。ただ、リサイクルするためには、新たなエネルギーが必要になることから、リサイクル、熱回収(サーマルリサイクル)、適正処理を優先順位の基本に置きつつ、環境にとってどれがいいかその物に応じて判断する必要があります。いずれにしても、大量生産・大量消費・大量リサイクルという、かえってエネルギーを大量に消費し、環境負荷を増やすことになりかねない事態に陥らないようにする必要があります。

(2) 循環型社会を担う市民と企業、行政の役割

 上に述べたようなゴミゼロ構想は、企業が事業活動を行う際に考慮すれば実現できるものではなく、併せて市民がその趣旨を理解して協力し、消費行動や暮らし方を見直すなど主体的な行動を起こすことが必要です。
 廃棄物の処理という側面を考えてみても、廃棄物の排出者としての責任を企業も市民も持っており、さらに拡大生産者責任という考え方で製造者たる企業等が一定の責任を果たす必要があります。社会を構成する様々な主体が、その立場に応じて責任を果たし、その協働作業によって循環型社会を実現していかなければなりません。
 行政、特に地方公共団体は、これまで、出てきたゴミを処理するという後始末役が主だったかもしれません。今後は、循環型社会を実現するために、不適正処理等の違反行為に対する規制の徹底など、ルールに基づく公正かつ適正な活動が可能となるようにしていかなければなりません。さらに、リデュース、リユース、リサイクルが円滑に行われるシステムづくりや主体的に行動する市民と企業のコーディネート役を担う必要があります。
 また、社会の各主体が、このように自主的・積極的に活動するためには、その基礎となる適切な情報の提供や人材の育成が必要です。行政や企業が有する情報の公開・提供に努めるとともに、環境教育・学習の機会や場の確保、市民や企業の主体的な行動を促す普及・啓発を図ることが必要です。
 一方、廃棄物処理・リサイクルについて住民等の安心感を確保するためには、情報公開を基本とした社会的合意の形成が重要であり、その基礎として科学に基づき多様な環境汚染物質のリスク管理が必要となります。

(3) 循環型社会のための社会システム・社会資本の整備、静脈産業等の育成

 循環型社会を実現するための社会システムとは、社会経済活動が市場経済原理に沿って行われるときに自ずからリデュース、リユース、リサイクル、廃棄物処理が円滑に行われるようにすることを目指すものであり、様々なシステムが考えられます。
 廃棄物処理やリサイクルのための費用負担、循環型社会形成のための経済的措置、効率的なリユース・リサイクルのための回収、リユース・リサイクルされた製品の販路などのシステムを整備・充実するため、循環型社会形成推進基本法に則り、個別の廃棄物処理・リサイクル関連法に基づき、対象に応じた施策を推進するとともに、必要に応じて制度・運用の見直しに努めることが重要です。
 さらに、このようなシステムに従って、製品製造産業等の"環境化"を進めるとともに、廃棄物処理・リサイクル産業の育成・振興を図り、民間活力による循環型社会の形成を進めていくことが重要です。特に、排出事業者責任を徹底することにより、不適正な処理業者を排除し、優良な処理業者が市場で優位に立つような自己責任徹底型の廃棄物処理体制を確立していかなければなりません。
 また、民間活力が十分発揮されるためにも、静脈の流れを円滑にする観点等からの基盤的な社会資本の整備を進めることが必要です。特に、廃棄物処理能力がひっ迫している大都市圏において必要な社会資本を整備することは喫緊の課題です。

(4)資源循環・環境モデル都市づくり

 循環型社会の実現に当たっては、特に廃棄物を大量に発生させている都市について、資源循環の考え方を織り込んだ都市再生を推進する必要があります。
 政府においては、都市再生プロジェクトとして、「大都市圏におけるゴミゼロ型都市への再構築」を決定したところであり、大都市圏内の広域連携の下に、高度な処理を行う廃棄物・リサイクル関連施設の複合的整備や水運等を活用した静脈物流システムの構築を推進することとしています。また、全国的な廃棄物処理・リサイクル体制を確立するために、民間の資金やノウハウなどの民間の力を引き出しながら、各地方においても必要な施設整備等の推進に向けた取り組みが望まれます。
 さらに、資源循環にとどまらず、環境負荷の少ない自然と共生する都市(環境モデル都市)づくりを推進するため、ヒートアイランド現象対策、ビルの省エネルギー対策や屋上・壁面緑化を進めるとともに、都市にふさわしい「自然再生型公共事業」(後述)を推進することが望まれます。

(5)20世紀の負の遺産の解消と不法投棄の撲滅

 循環型社会を形成していく上で、20世紀の大量生産・大量廃棄の社会経済活動が生み出してしまった廃棄物の"山"、「20世紀の負の遺産」の解消は、避けて通ることのできない私たちの課題です。
 20世紀に処理することができなかったPCB廃棄物の処理を強力に推進するとともに、廃棄物埋立跡地や不法投棄現場等の再生・浄化に向けて、技術開発、原状回復・環境修復に取り組むことが必要です。
 一方、循環型社会を実現するために課された各主体の義務を逃れ、不法に廃棄物を投棄する者には、厳正に対処することが必要です。IT技術を活用した監視システムの導入や行政・警察機関の連携により新たな不法投棄の予防を図るとともに、産業廃棄物不法投棄事犯に対する広域的な捜査体制の整備などを行い、不法投棄の撲滅を図る必要があります。

(6)安全で安心な国民生活を確保するための化学物質管理

 (1)〜(5)で述べたことは、基本的に人間社会の中における資源循環とそこから環境に排出される廃棄物に関することですが、地球上には、それを包含する自然の大きな物質循環があります。廃棄物はもとより、人間が生活していくためには、環境に様々な汚染物質を排出せざるを得ませんが、自然の大きな物質循環を汚さず、あるいはその環を断ち切らないためには、汚染物質の排出を自然の浄化能力の範囲内に収めることが必要です。
 特に化学物質については、人の健康や生態系に有害で、かつ自然によって浄化されにくいものがあるため、必要に応じて製造・使用の禁止・制限、排出削減などを行う必要があります。DDT等の残留性有機汚染物質(POPs)については、ストックホルム条約で、当面12物質を対象に必要な対策を講ずることが定められており、わが国としても、同条約を早期に締結できるよう国内体制の整備に取り組む必要があります。
 また、化学物質による環境汚染に対する国民の不安を解消するためには、行政、産業、市民が情報を共有し、共通認識を持って合理的な行動が取れるような社会的枠組みを作ることが必要です。このため、行政、産業、国民の代表による協議の場を設けるなどにより、化学物質による環境リスク低減のための国民的参加による取り組みを促進することが望まれます。

4.生態系の環 −自然と共生する社会の実現のために−

(1) 日本の伝統的自然観の伝承と最新科学との融合

 日本列島に暮らした人々は、古来、豊かな自然の恵みを享受してきており、自然を持続的に利用する知恵と技、自然の風物を慈しむ文化を育んできました。
 こうして育まれた日本の伝統的自然観は、自然を単に利用する対象ではなく、共感すべきもの、共に生きるものと捉えるものであり、変転する自然の存在を認め、それに手を入れながら付き合っていくという自然に対する態度の基底となっています。
 このような自然観により、かつてわが国では、里地・里山の管理のような模範的な生態系管理が行われていましたが、自然征服的・非循環型の社会経済や生活のあり方が支配的となった20世紀において、わが国の自然生態系は衰弱してきています。残された自然生態系をこれ以上衰弱させないことはもとより、これからは、わが国伝統の知恵と技に最新の科学を融合させ、自然共存・循環型の社会経済や生活へ転換することにより、自然生態系を蘇らせる21世紀にしていく必要があります。
 このため、多様な生物の生息地、水源のかん養、環境の浄化など、生態系が持つ様々な機能とそれを支える水・物質循環系の機能を明らかにして、これを再生・回復させるためのデータ整備や問題対応型の統合的な研究開発を進める必要があります。
 また、鎮守の森や植樹祭のようなわが国の伝統的遺産や緑化行事は、自然環境を守るバックボーンとなっており、大切に伝承していくことが望まれます。

(2) 順応的な生態系管理の推進

 近年、北米や豪州では、森林や河川の生態系管理において、自然の長期的持続可能性を最優先し、生態系のひろがりとつながりを重視し、多様な主体の参加の下、自然の不確実性を踏まえた順応的な方法で管理するという「順応的生態系管理」の手法が使われるようになってきました。一方、わが国の伝統的な里地・里山の管理の方法は、生態系の適度なかく乱を通じて、豊かな生物の生息・生育空間(ビオトープ;ドイツ語で「生命を育む場所」の意)を生み出してきました。
 このようなわが国の伝統的な知恵と技に学びつつ、新たな技術を取り入れることにより、順応的生態系管理の手法を確立して、生物多様性を確保する生態系管理を推進することが望まれます。
 例えば、地域における豊かなビオトープの保全・再生・創出や里地保全・学習活動の場としての活用などに取り組むこと、希少野生動植物の生息・生育環境を維持・回復するために農業・林業・農山村整備のあり方を生態系保全型に転換していくこと、在来の生態系をかく乱する移入種への対応、などが重要です。
 また、わが国の国土面積の七割近くを占める森林については、国土の保全・水源のかん養・自然生態系の維持という観点からも適正な整備・保全を行い、森林の有する多面的な機能が持続的に発揮されるようにすることが必要です。

(3)自然再生型公共事業を国民の協力を得て展開

 衰弱しつつあるわが国の自然生態系を健全なものに蘇らせていくためには、環境の視点からこれまでの事業・施策を見直す一方、順応的生態系管理の手法を取り入れて積極的に自然を再生する公共事業、すなわち「自然再生型公共事業」を、都市と農山漁村のそれぞれにおいて推進することが必要です。
 その際、自然環境の観点に立った事前の十分な調査検討を行うとともに、ハードの整備にとどまらず、市民、企業、研究者、NPO、行政等の多様な主体の参加によって、自然を再生していくことが望まれます。
 自然再生型公共事業としては、例えば、人々に安らぎを与え各種の環境保全機能を有する都市における森づくり、水と緑のネットワークづくり、豊かな海を再生するための干潟や藻場の保全・再生、海域・海岸・河川・森林・農地等における豊かな生態系と自然景観等を保全・回復するための事業など、各種の事業を一体的にあるいは連携して実施することにより、自然と共生する地域づくりを進めることが考えられます。
 このような事業を推進する中で、再生された自然を環境学習やグリーンツーリズム等の場として活用することなどにより、都市と農山漁村の共生と対流を促進することが望まれます。

(4)社会資本整備における環境配慮の徹底

 国や地方公共団体、あるいは民間が行う公共性の高いインフラストラクチャーである社会資本の整備は、『環の国』づくりにあっても重要な役割を果たします。既に述べてきたように、地球温暖化の防止、循環型社会の構築、環境負荷の低減、自然との共生等のために必要な各種の社会資本を整備していくことが望まれます。
 さらに、様々な社会資本整備に当たり、その資材の調達、工法や機材の選択について環境への負荷の少ないものにする、建設廃棄物のゼロエミッションを推進する、建築物の構造や附帯施設を自然と調和したものにする、などの環境配慮を徹底することが重要です。
 一方、国民生活、産業活動に必要な各種の社会資本を整備する場合に、どうしても環境に影響を与えてしまう事態が生ずることがあります。環境に著しい影響を及ぼすおそれのある各種事業の実施に当たっては、事前に環境への影響を評価し、事業に反映させる環境影響評価法があり、環境の保全について適切な配慮をするための仕組みが整備されています。
 また、上位計画や政策における環境配慮のあり方について、現状での課題を整理した上で、内容、手法などの具体的な検討を行うとともに、国や地方公共団体における取り組みの実例を積み重ね、それを踏まえて、環境配慮のあり方に関するガイドラインの作成を図ることが必要です。上位計画や政策に対する環境配慮として、内容や制度に差異はありますが、諸外国で「戦略的環境アセスメント」と呼ばれる仕組みや、わが国の一部地方公共団体において上位計画等における環境配慮の取り組みが開始されており、これらも参考にして検討を行うことが必要です。
 このようにして各種の社会資本整備に環境への配慮を組み込み、自然共生型等の環境と調和した社会資本や環境への負荷ができる限り低減された社会資本の整備に努めることが必要です。

5.人と人との環 −人々が協働する『環の国』づくり−

(1) 環境教育・学習の推進、環境倫理の確立

 環境の視点からの社会経済の構造改革、国民生活のあり方の改革を進める上で、国民、企業等の環境意識の向上は、必須の要件です。このために、あらゆる世代や社会グループについての環境教育・学習を推進していくことが必要であり、そのための場の設定、機会の創出、人材の育成、教材・情報の提供などを総合的に行う必要があります。環境教育・学習は、行政からの一方的な発信ではなく、社会の様々な主体の自発的な行動による幅広い交流の中で進められることが望ましく、行政は、そのような動きを支援する役割を果たしていくことが必要です。
 また、環境教育・学習の効果を挙げるためには、自然から学ぶことが重要であり、海、森、川、田んぼ、里地、公園等の豊かな自然を活用し、少年自然の家等の教育関連施設とも連携しながら環境教育・学習の実施に取り組むことが望まれます。
 環境教育・学習は、持続可能な社会の実現に向けて、一人ひとりが環境倫理を体得し、実践につなげることを目指すものです。モノの豊かさから心の豊かさへ、公共の精神・中庸の精神のかん養、人間中心から生命中心へ、少欲知足、次世代にツケを回さない、このような環境倫理が社会の共通認識となるよう努めていくことが必要です。
 なお、このような『環の国』づくりの思想と施策の方向を環境に関する基本法制に位置付けることを検討してはどうか、との意見がありました。

(2)主体的な市民活動・NPO活動の支援、企業との連携

 環境の視点からの社会経済の構造改革、国民生活のあり方の改革は、幅広い国民の自発的活動として進められることが必要です。
 このためには、日常生活における環境保全活動や身近な地域づくりの活動として一人ひとりの実践活動を積み上げていくことが望まれます。その場合、一人ひとりが孤立していては、活動を幅広く展開することができないので、人々の連携を促す地域コミュニティやNPOの活動が重要となります。また、地域住民と企業との連携により、企業の能力を活用して活動の幅を広げていくことも重要です。
 このように住民、企業、NPO、研究者、行政等が連携して、地域から環境保全活動の環を広げていくことが望まれ、行政としても、NPOの活動や企業の社会貢献活動を支援する施策を推進しながら、国民一人ひとりとのパートナーシップにより、よりよい環境を"共創"していくことが必要です。
 ゴミゼロ社会に向けた国民的運動、地球温暖化防止のための普及啓発、省資源・省エネルギー型生活の普及促進、河川流域が一体となった住民参加の水辺クリーンアップ作戦、下流域の住民や漁民によるブナの植林など、幅広いパートナーシップにより進めていくことが必要です。また、地域住民のマンパワーを活用して国立公園等の貴重な自然を保護すること、住民、事業者、行政等が協力して国立公園地域の内外にまたがって生ずる環境問題の解決を図ること、などが望まれます。

(3)政府の率先実行

 国づくりは、やはり政府が先頭に立って進めていかなければなりません。小泉内閣では、既に一般公用車の低公害車への切り替え、中央官庁庁舎への太陽光発電設備の導入など、率先実行を開始しています。
 さらに、各府省における環境管理システムの導入、官庁施設についてグリーン庁舎の整備等の総合的な環境負荷低減対策や省エネルギー診断等の省エネルギー対策の推進、直轄公共工事における建設廃棄物のゼロエミッションの推進や建設施工時の排出ガス対策に取り組むこととしています。

<おわりに>

 以上述べたような『環の国』づくりを実際に推進していくためには、国民的な議論の上で具体的な目標を設定し、目標達成のための戦略的プログラムを策定して、実施していくことが必要です。
 政府においては、既に環境基本計画を策定し、今後、循環型社会形成推進基本計画の策定や生物多様性国家戦略の改訂が予定されているところであり、このような場を活用しつつ、個別の具体的目標の設定、戦略的な実施プログラムの策定、推進状況のフォローアップなどを行うことが望まれます。