21世紀『環の国』づくり会議

第1回 21世紀『環の国』づくり会議

議事要旨



日時:平成13年3月1日(木) 17:30〜18:40

場所:内閣総理大臣官邸大食堂

出席者:(別紙)

議題:環境問題の現状と課題

議事概要

  1. 開会挨拶

    (森内閣総理大臣)
     先の施政方針演説で、21世紀を迎えた今こそ、新たな国づくりに向け、この国に何が必要なのかという原点に立ち返って、日本の新生を図っていくと申し上げた。
     私たちは、日本の固有の伝統や文化、美しい自然を子や孫たちにしっかりと引き継ぐとともに、豊かな環境に恵まれた日本、そして、世界を築いていかなければならない。
     現在の環境問題は、廃棄物、リサイクル問題などの国民生活に密着した課題から、地球温暖化をはじめとする人類全体の生存を危うくしかねない問題にまで広がっている。これらの問題を解決するためには、現在の環境汚染の大きな要因であるとともに、将来の世代の取り分を先取りしているとも思える大量生産、大量消費、大量廃棄の社会の在り方の見直しなど、まさに原点に立ち返って国づくりに取り組まなければならない。
     我が国は古来、自然を単に利用する対象としてではなく、共感し、ともに生きるべきものとしてとらえる考え方を持っていた。また、物を大切にする心に支えられた循環的な経済システムの伝統を持っていた。私は、このような我が国の伝統を生かしつつ、世界第2位の経済力を有し、地球環境に大きな責任を持つ国として、世界の先頭に立って地球環境の維持、改善に力を尽くしてまいりたいと考える。人類が将来にわたって、地球上で生存していくためには、21世紀を地球の世紀としなければならない。そして、地球と共生する社会を、私は「環の国」と呼びたい。
     このような環の国を実現するため、今般、全閣僚及び環境問題について高い見識を有する10名の方々に御参集いただき、環境の視点からの国づくりについて幅広い御議論をお願いすることとした。環境問題は各府省のすべてが、環境の視点を織り込んで各般の施策を講ずることはもとより、国民、事業者、研究者などがそれぞれの立場から主体的に、かつ協力し合って取り組む必要がある。その意味で幅広い有識者の方々と全閣僚の参加を得た本会議は必ずや意義深いものになると確信する。委員各位及び各閣僚の御協力をお願いする。

  2. 議事内容の公表方法

    (川口環境大臣)
     会議の議事内容の公表の方法について、会議は非公開であるが、発言者名を記載した議事要旨を会議資料とともに官邸のホームページで公表してはどうか。

    (一同了承)

  3. 環境問題の現状と課題

    (川口環境大臣)
     「環の国」に込めた意味については、「和」という言葉は日本の伝統の心である。一方、環境問題では、環境の「環」、資源エネルギーを循環的に使う「環」、人々が協力をして環境問題に取り組む「環」、人と生き物の「環」、日本と世界の国々の「環」など、「環」(わ)という文字がキーワードになる。これらは、環境基本計画の「循環」、「共生」、「参加」、「国際的取組」という4つの目標に呼応する。日本の伝統を踏まえつつ、これらの「環」を重視する社会を「環の国」と呼びたい。
     環境問題の根本は「地球環境の有限性」であり、その認識を持ち、精妙な生態系の一部として人間が地球環境の中で矛盾なく暮らしていくこと、これが環の国の実現であろう。
     資料3中の循環型社会の形成については、総物質投入量20.2億t(東京ドーム1,630 杯分)のうち9割が新たな天然資源投入量であり、4割が消費・廃棄に回り、資源再生されるのは2.0 億tである。このため、廃棄物処理場が逼迫、廃棄物の不法投棄の小口化・多発化・悪質化が生じており、循環型社会の形成が課題である。
     地球温暖化問題については、21世紀末は1990年と比べ、最大で気温が5.8 ℃上昇、海面水位が88cm上昇すると予測。40cm海面が上昇すると、浸水被害が7,500 万人〜2億人増える。途上国の農業生産は大きな悪影響を被る。その対策については、気候変動枠組条約の京都議定書が97年に採択され、日本は90年の基準年に対し6%、2008年から2012年の時期に削減することを目標とする。しかし、1998年の温暖化ガスの総排出量は90年に比べ5%増加しており、大きな努力が必要。
     自然環境の問題については、里山、藻場、干潟の減少が続いており、日本国内で絶滅の恐れのある種が動物で668、植物で1,992あるなど、人間活動と自然環境との間でさまざまな問題が生じている。このため、IT技術等を活用して情報を提供して環境教育や自主的保全活動に活用する、地元の住民や利用者が協力をして自然環境や里山を維持、管理する仕組みを作る、失われた自然の回復・復元事業を推進するなどの対策が考えられる。また、国際的な協力の推進も重要。

  4. 有識者委員の意見表明

    (桜井正光委員・(株)リコー社長)
     当社がどのように環境保全活動に取り組んでいるか、また、今後検討すべき課題についてお話する。
     当社は、地球市民としての使命感をもって環境保全に取り組んでいる。企業が継続的に環境保全に取り組むためには、それが利益活動に寄与するようにすることが重要。法規制より高いレベルの自己目標を置き、自主責任で実施。
     循環型企業活動を推進しており、製品材料のリサイクルではなく、自家再使用や製品の再使用といった、環境負荷が低く、経済効率がよい、ユーザー寄りのサークルで回すことを基本としている。
     i)事業所での環境保全活動、ii)環境にやさしい商品の開発と提供、iii)社会に対するボランティア活動、という3つの活動を進めている。特に、事業所における活動として、ごみゼロ活動のための「5R活動」(Reduce、Refuse、Return、Reuse、Recycle)を実施。また、「環境対応」や「環境保全」ではなく、環境保全活動で利益を創出する「環境経営」を目指している。
     今後の検討課題については、ビジョンと目標の設定、日本企業の積極的な取組みと競争力の強化のために技術開発のみならず全員参加の日常管理活動が重要、成果を出した企業が正当に評価され業績向上に結び付けられるような仕組みが必要、全員参加の国民的な活動が大事、と考える。

    (山本良一委員・東京大学教授)
     社会全体で資源・エネルギーの消費量を下げ、環境汚染物質の排出量を下げて、かつ、経済を発展させ、豊かなエコライフを実現する、これを国策の中心に置くべき。
     日本は高い資源生産性を誇るが、年率2%の経済成長を達成するためには総物質需要量を5,000 万トン増すことが必要。環境にとってこれはもう許されない。したがって、総物質需要量を減少させながら経済発展を目指すべき。昨年、グリーン購入法等の各種法律ができ、「使い捨て型社会・経済」から「循環型社会・経済」へ、明治維新に匹敵する大規模な社会変革が、今行われつつある。
     地球環境は、人口増加、温暖化、砂漠化等で危機的な状況を迎えており、このままでは世界経済の破産、生態系の破壊に至る。このため、先進国は「脱物質化」を図り、資源・エネルギーの消費を減らす必要がある。先進国は1/8まで下げ、途上国は2倍に増やしていい。そのためのキーが、環境に配慮した設計、生産、あるいは回収であり、エコデザインと省エネ・省資源技術を開発することで日本の国際競争力を強化し、更には国際貢献ができる。日本は年率2%ずつ脱物質化が進んでおり、これを加速することが必要。このため、エコプロダクツ・サービス、エコファンド等を普及させる政策が必要。
     また、環境外交への提言として、「ODAのグリーン化」、WTOに匹敵する「WEDO(世界環境開発機構)の設立」等を支援すべき。
     最終的には、教育が重要。「もったいない、ほどほど、中庸の精神等の教育」、「人間中心主義から生命中心主義へ」、「少欲知足、低処高思、忘己利他」、「私益から公益へ」という教育訓練が必要。
     NHKで朝夕地球環境情報を10分間放映してはどうか。最初の5分間は全世界の環境危機の実情を放映し、次の5分間はその修復・保全活動、環境経営、NGO活動、科学技術の進歩、政治の動向等を放映していただきたい。

  5. 意見交換

    (森下洋一委員・松下電器産業(株)会長)
     COP6が成功しなかった原因は、先進国の問題、発展途上国の問題などいろいろあり、森林など難しい問題だが、世界の環を作るため日本がリーダーシップを発揮して取り組むことが重要。企業側としても、やるべきことをやり、その環を広げていきたい。

    (前川正雄委員・(株)前川製作所会長)
     「環」の考え方は、自然の中に人間が入っているということ。この時、環境問題が生活実感として迫って来る。志の高い住民の参加が必要となる。参加の意志を持った住民・市民は増えている。技術と連携させて、新しいコミュニティーを作っていくことが重要。

    (崎田裕子委員・ジャーナリスト)
     産業界の技術力とそれを実践する市民の力が大変重要になる。私は「市民がつくる循環型社会」と言っているが、市民が自覚と責任を持って社会に関わる、そういう気構えのある市民社会が必要である。市民が主体的に学び、参加し、実践するという状況や機会づくりが必要である。
     興味範囲や分野が違うと情報が交流せず、活動が広がらないので、環境学習の実践にあたり、コーディネーターの力や仕組みづくりが重要。今回、政府のトップが集まり、共に議論する機会ができたことは有意義。

    (末吉興一委員・北九州市長)
     地方公共団体は、日頃、廃棄物の処理、リサイクルの問題で苦吟している。問題の川上と川下が両輪となって対処することが必要。川下にいる者として直面する問題状況を情報提供し、議論に参加したい。
     環境で産業を興すという視点、雇用なども考慮して、仕組みを考える必要がある。また、環境で産業を興す場合、どうしても広域的にならざるを得ないので、輸送体系、コストの問題が出てくる。

    (森嶌昭夫委員・(財)地球環境戦略研究機関理事長)
     ここ10年くらいで、産業界の意識やシビル・ソサエティー・オーガニゼーションが相当変わってきている。
     しかし、環の国を作るならば、産業界では、中小・零細企業をどうやって取り込んでいくか、一般市民の一番後ろにいる人たちをどうやって取り込むかが課題となる。例えば、ISO14000の中小企業版を作る、ITを使って若い人たちが関心を持つような方法を考える。今まで熱心ではなかった人たちを組み込んでいかなければ、社会全体は変わらない。

    (橋本行政改革担当兼沖縄及び北方対策担当大臣)
     1971年に環境庁がスタートしたが、その時、後に環境庁の影響力が低下する原因を組み込んで設計してしまった。アブノーマルな現象と闘うために環境庁をつくったため、環境庁が仕事をすればするほど、その役割は小さくなってしまう。それを反省しながら、今回中央省庁を再編するときに、独立した省として環境省を設計した。しかし、今でも尾を引いているものが幾つかある。例えば、「ある程度手を加えながら守っていく自然」については、必ずしも十分な体制が取れていない。文化財保護法にもそのマイナス部分を残している。
     環境庁が生まれて20年経った時点で、過去の公害は何だったのか、生産に結びつかない資金を公害対策に投入したがそれは有効だったのか、当時の環境庁の諸君が分析した成果が、住民サイドの批判を含めて一冊の本にまとめられている。これを、この会の参考資料として提出してほしい。生産性に結び付かない投資であったはずなのに、それは経済発展のマイナスにならず、新たな技術を生み出す土壌になったという結論がでている。翌年の「環境白書」では、今日御出席いただいている企業の方にもデータをご提供いただき、企業はどういう姿勢で問題に取り組んだか、実験室段階で成功したものを市場に提供する商品に変えていくのにどういうインセンティブが働いたのか、等がまとめられ、非常に面白い中身となっている。
     しかし、そのような成功例ばかりでなく、例えばある市において地域社会で循環型社会を形成しようとして失敗した記録、あるいは中水道をつくろうとして失敗をした記録、など、我々は随分たくさんの失敗を重ねている。杉花粉の問題や水道の老朽管から膨大な量の水が漏れていることも、その例かもしれない。こうした失敗のデータをできるだけ集めて提供することはできないのか。そうしたものがあると、非常に地に付いた議論がしやすくなると思う。

    (鷲谷いづみ委員・東京大学教授)
     失われた自然の回復・復元事業の必要性を強く感じる。
     日本列島は、豊かな、人と共存しやすい自然に恵まれており、私たちの祖先は、自然の恵みを持続的に利用する知恵を磨き、四季折々の自然を慈しむ文化をはぐくんできた。自然の災害に対しても、しなやかに対処する心と技を鍛えてきた。持続可能な人類社会を築く上で、このような知恵やモラルは極めて重要。
     しかし、ここ数十年間でこのようなものがかなり失われ、人と自然が厳しく対立する状況が広がっている。このままでは、経済大国にはなったが、風土と文化を失った根無し草になる心配がある。今なら、まだ取り戻すことができると思う。
     地域の自然の特徴を理解した上での、たくさんの人が協力する共同の事業が必要。

    (荒木外務副大臣)
     河野外務大臣からのメッセージをお伝えする。
     外務省は環境外交も柱としており、既に援助の34%は環境関係。COP6については、河野大臣自らがリーダーシップを取って7月の再開会合に臨む。京都議定書は、早期に、できれば2002年までに発効させるという姿勢で、最重要課題として取り組む。

  6. 閉会

    (川口環境大臣)
     本日の議論をまとめると、5つ程度挙げられる。

    1)地球に負荷をかけない形での環境経済立国。
    2)企業の取り組みの重要性、特に中小・零細企業をどう取り込むか。
    3)環の中に自分が入るような市民の参加、情報交流。
    4)地球環境問題で日本のイニシアティブの必要性。
    5)自然環境の重要性とその回復。

     次回以降の会議では、このような課題を踏まえつつ、また皆様に自由な議論をいただいて「環の国」づくりの具体的なイメージを膨らませたい。
     各閣僚においては、「環の国」づくりの視点からの検討を進められるようお願いする。

(別紙)

第1回21世紀『環の国』づくり会議出席者一覧

【閣僚】
森  喜朗内閣総理大臣(主催)
川口 順子環境大臣(議事進行)
片山 虎之助総務大臣
(※山名靖英総務大臣政務官代理出席)
高村 正彦法務大臣
河野 洋平外務大臣
(※荒木清寛外務副大臣代理出席)
宮澤 喜一財務大臣
町村 信孝文部科学大臣
(※池坊保子文部科学大臣政務官代理出席)
平沼 赳夫経済産業大臣
(※竹本直一経済産業大臣政務官代理出席)
扇  千景国土交通大臣
(※高橋一郎国土交通副大臣代理出席)
伊吹 文明国家公安委員会委員長兼防災担当大臣
斎藤 斗志二防衛庁長官
橋本 龍太郎行政改革担当兼沖縄及び北方対策担当大臣
麻生 太郎経済財政政策担当大臣
(※坂井隆憲内閣府副大臣代理出席)
笹川  尭 科学技術政策担当大臣
(※坂井隆憲内閣府副大臣代理出席)
安部 晋三内閣官房副長官(政務・衆)
上野 公成内閣官房副長官(政務・参)
古川 貞二郎内閣官房副長官(事務)

【有識者】
崎田 裕子ジャーナリスト、環境カウンセラー
桜井  正光株式会社リコー社長
末吉 興一北九州市長
福川 伸次株式会社電通 電通総研研究所長
前川 正雄株式会社前川製作所会長
森下 洋一松下電器産業株式会社会長
森嶌 昭夫財団法人地球環境戦略研究機関理事長
山本 良一東京大学国際・産学共同研究センター教授
養老 孟司北里大学一般教育・基礎教育センター教授
鷲谷 いづみ東京大学大学院農学生命科学研究科教授
(敬称略)