首相官邸 首相官邸 トップページ
首相官邸 カテゴリーなし
 トップ会議等一覧
標題画像

平成10年5月
薬物乱用対策推進本部

目次
薬物乱用防止五か年戦略 概要版
薬物乱用防止五か年戦略
用語の解説等

概要版:薬物乱用防止五か年戦略



基本目標 第三次覚せい剤乱用期の到来に対し、その早期終息に向けて緊急に対策を講ずるとともに、世界的な薬物乱用問題の解決に我が国も積極的に貢献する。

□問題状況:第三次覚せい剤乱用期の到来

 平成9年の覚せい剤検挙者数は1万9,937人と2万人の大台に肉迫。中・高校生の覚せい剤事犯が急増(平成9年は過去最高の262人)した点などを重くみて、昭和20年代後半、昭和50年代後半に続く第三次覚せい剤乱用期の到来と認識。

□基本戦略:供給遮断・需要削減両面からの緊急対策により乱用期を早期に終息

 関係省庁が緊密な連携の下に、供給遮断、需要削減の両面から総合的に対策を実施することにより、今後五年間の計画期間のできるだけ早い時期に第三次覚せい剤乱用期を終息させることを基本的な戦略目標として掲げる。供給遮断対策としては、密輸の水際での阻止と暴力団、一部不良外国人の密売組織の徹底取締りをはじめとする覚せい剤事犯取締りの緊急対策(本文(1))を実施。需要削減対策としては、青少年の乱用増加の根底にある規範意識の低下に対して啓発の強化により薬物乱用を拒絶する国民意識の醸成(本文(2))を図る。また、国際協力として、日本の経験を生かしつつ覚せい剤対策の分野で日本と世界の薬物乱用問題の解決に向けた国際貢献(本文(3))を行うことを明らかにする。

目標1 中・高校生を中心に薬物乱用の危険性を啓発し、青少年の薬物乱用傾向を阻止する。

□問題状況:青少年による覚せい剤乱用事犯の増加

 その要因として、少年を取り巻く社会環境の悪化とともに、薬物使用は個人の自由と回答する高校生が2割前後というアンケート調査結果が示すとおり青少年自身の薬物に対する警戒感、抵抗感の希薄化が指摘される。
 対策として、学校等における薬物乱用防止に関する指導の充実(本文(1))を図る。具体的には、初等中等教育段階での薬物乱用防止指導(小学校学習指導要領においても指導を明記)及び全中学・高校における薬物乱用防止教室の毎年開催を実施。他に街頭補導体制の強化とその協力体制の確保等(本文(2))、少年の再乱用防止対策の充実強化(本文(3))、関係機関等による相談体制の整備(本文(4))、広報啓発活動の推進(本文(5))を図る。

目標2 巧妙化する密売方法に的確に対処し、暴力団、一部不良外国人の密売組織の取締りを徹底する。

□問題状況:暴力団・一部不良外国人の密売組織の関与

 薬物犯罪には暴力団等犯罪組織の深い関与があるとともに、数年前から携帯電話等を利用しつつ街頭で公然と薬物密売を行う一部イラン人等の不良来日外国人事犯等の増加が指摘されている。この末端密売形態の革命的な変化が、一般市民、青少年の薬物入手を容易にし、今回の覚せい剤乱用期の要因となった。
 対策として、暴力団等の組織犯罪対策と不法収益のはく奪(本文(1))とともに、外国人密売組織壊滅に向けた徹底取締り(本文(2))を実施。ほかに、末端乱用者に対する取締りを重視(本文(3))するとともに、携帯電話利用等巧妙化する密売方法への対応(本文(4))を強化、大麻、コカイン、MDMA、向精神薬等多様化する乱用薬物への対応と正規流通の監督の徹底(本文(5))を図る。

目標3 密輸を水際でくい止め、薬物の密造地域における対策への支援などの国際協力を推進する。

□問題状況:国際的な密造と不正流通、我が国への薬物の密輸の増加

 中国で密造される覚せい剤をはじめ、国内で乱用される不正薬物は海外から流入したもの。国際的な密造と不正流通とともに、我が国への不正薬物の密輸の増加、密輸事件の大口化・巧妙化が進行。
 対策として、徹底した水際取締りによる密輸摘発のため、密輸等の情報収集の強化(本文(1))、共同捜査等の密輸取締体制等の強化(本文(2))を図る。また、対策の決め手となる薬物供給遮断の観点から密造地域対策としてアジア諸国等への取締協力を進めるとともに、ODAの活用等による国際協力活動を「覚せい剤乱用防止の国際協力プログラム」としてアピールするなど、国際的な不正薬物の供給阻止(本文(3))を図る。

目標4 薬物依存・中毒者の治療と社会復帰を支援し、再乱用を防止する。

□問題状況:薬物犯罪は再犯率が高く、薬物依存・中毒者問題は深刻な状況

 覚せい剤には中毒性精神病の危険性があり、依存に対する完全な治療法は確立していない。薬物依存・中毒者には薬物使用とそれにまつわる生活習慣から脱却させることが重要。
 対策として、専門病床確保等の医療提供体制の整備により薬物依存・中毒者に対する治療の充実(本文(1))を図るとともに、精神保健福祉センターを中核として医療機関、麻薬取締官事務所等の公的機関、相談員・ボランティア等による地域の相談・指導のネットワークを整備し、薬物依存・中毒者の社会復帰の支援(本文(2))を図る。


覚醒剤事犯検挙者の年次別推移の図表


中・高校生覚醒剤事犯検挙者及び未成年者の比率の図表


薬物乱用防止五か年戦略

平成10年5月26日
薬物乱用対策推進本部




はじめに

 平成9年4月18日、薬物乱用対策推進本部において、21世紀に向けた薬物乱用対策を検討するための国連総会麻薬特別会期の開催に向けて国内における長期的な総合計画を策定することが申し合わされた。これを受けて薬物乱用防止五か年戦略を作成し、最近の覚せい剤を中心とした薬物乱用の増加傾向等厳しい薬物情勢に対処するため、関係各省庁が緊密な連携の下に薬物乱用対策を総合的な戦略として再構築するとともに、国連総会麻薬特別会期の開催に向けて21世紀の世界的な薬物乱用問題の解決のために我が国が果たすべき役割を明確にすることとする。

 薬物乱用防止五か年戦略は、薬物乱用対策推進本部を構成する関係省庁が講ずるべき薬物乱用対策の目標を示すものである。同時に、問題の解決には国民及び関係者各位の自覚と協力が不可欠であることにかんがみ、薬物乱用の現状・特徴、原因・問題点、対策を分析、整理してわかりやすく示すことにより、行政機関のみならず国民全体が薬物乱用問題の解決に向けて行動するに当たって指針としうる具体的な目標を提示する。また、各都道府県において設置されている薬物乱用対策推進地方本部においても、関係行政機関等の協力により、薬物乱用防止五か年戦略の目標の実現に向けて、薬物乱用対策のより一層の強化を要請することとする。

 薬物乱用防止五か年戦略が想定する対策の期間は、平成9年1月に最近の厳しい薬物情勢にかんがみ薬物乱用対策推進本部が設置された経緯を踏まえると、現下の薬物乱用問題の解決に緊急に対処するものであると同時に、21世紀の薬物乱用対策を討議する国連総会特別会期に向けて我が国の果たすべき役割を明確にするものとして一定の長期的視点を有することが必要である。そこで想定する期間を平成10年から平成14年までの5年間とし、この間の薬物乱用対策の基本目標とより具体的な四つの目標を掲げて、それぞれについて現状と問題点及び対策を示すこととする。

基本目標 第三次覚せい剤乱用期の到来に対し、その早期終息に向けて緊急に対策を講ずるとともに、世界的な薬物乱用問題の解決に我が国も積極的に貢献する。

 我が国は現在、戦後第三回目の覚せい剤乱用期の到来という重大な局面に立たされている。今後五年間における我が国の薬物乱用防止の基本戦略は、この深刻な現下の薬物情勢の認識を踏まえ、この乱用状況に緊急に対処し早期にこれを克服するため、供給の遮断及び需要の削減の両面から、国内における薬物乱用対策及び国際協力を推進することである。
 すなわち、供給の遮断の観点からは、薬物密輸を阻止するための水際対策を強化するとともに、国内における暴力団等の密売組織の取締りを徹底すること、さらに供給遮断の決め手となる、我が国に対する乱用薬物の仕出し地である国や地域における対策の支援などの国際協力を行うことである。
 また、需要の削減の観点からは、末端乱用者の取締り強化とともに、薬物乱用の危険性有害性の啓発を強化することにより、青少年を中心にかげりが見られる薬物に係る規範意識の回復を図る一方で、薬物依存者・中毒者の再乱用防止に向けて、その治療と社会復帰の支援を行うことである。
 こうした薬物乱用対策を関係各省庁が緊密な連携の下に総合的に実施することにより、平成10年からの5年間の期間のできるだけ早い時期に、第三次覚せい剤乱用期を終息させることを基本的な戦略目標として掲げることとする。

1 現状とその問題点の基本認識

(1)第三次覚せい剤乱用期の到来

(今回の乱用状況の特徴)
 平成9年における覚せい剤事犯の検挙者数は三年連続で増加し、速報値で19,937人と年間2万人の大台に肉迫した。昭和55年から63年までの前回の乱用期においては、検挙者数は2万人台を超える水準で推移していたが、平成に入って1万人台の半ばとなり、また、ピーク時には11%を超えた未成年者比率は5%台へと半減していた。これらの指標が平成7年以降増加に転じ、特に高校生の検挙者数が平成7年、8年と二年連続して倍増、9年には中学生が倍増と、中高生の検挙者数は前回の乱用期のピークを大きく上回るに至った。
 その内容を見ると、不良来日外国人の密売人組織が携帯電話を使い街頭で無差別に覚せい剤を販売し、これを中・高校生が好奇心やファッション感覚で購入し使用するといった事例が目立っている。過去の乱用期においても青少年等への波及は見られたが、今回の乱用期においては覚せい剤の乱用が、暴力団関係者やその周辺の一部に限らず、普通の学生・生徒や一般市民の日常生活の間近に忍び寄る傾向が一段と鮮明に現れてきたという質的変化が顕著である。このような新規乱用事犯の増加が、従来より根絶しきれないでいる常習者層による再犯に加わって、2万人に迫る検挙者という今日の事態を引き起こしたものである。これらを踏まえると、現下の薬物乱用状況は、昭和29年に最高5万5千人を記録した第一次乱用期、昭和59年に最高2万4千人を記録した第二次乱用期に続く、戦後第三回目の覚せい剤乱用期に突入したものと認められる。

(青少年への深刻な脅威)
 さらに現在、新たに乱用者となった青少年が仲間内で乱用を勧めたり、自らの薬物を購入する資金を得るため末端の密売に荷担するなどして新たな乱用者を拡大する乱用者層の増殖という深刻な事態が起こりつつある。こうした局面においては時機を逃さず的確に対策を講ずれば、新たに乱用者となった青少年も通常の社会生活に復帰することができ、社会全体における乱用防止にも大きな効果が期待できる。平成9年に実施された政府のアンケート調査結果によると、高等学校の教員、高校生の子供を持つ保護者とも9割近くが薬物乱用問題の現状を「深刻な状況」と的確に把握しており、青少年を身近に見る機会の多いこれらの人々の実感を踏まえて適切に対処することが緊急の課題である。

(2)青少年を中心とした規範意識の低下

(規範意識の低下)
 第三次覚せい剤乱用期に特徴的な要因として、青少年を中心とした規範意識の低下を指摘することができる。我が国の薬物乱用が戦後の一時期や近年の乱用期を除き他の先進諸国と比較して総じて低い水準で推移してきた主な理由として、我が国が薬物乱用を禁じ処罰する法制度を有し取締当局がこれを厳格に運用してきたことを挙げることができる。そしてその背景には国民の薬物を忌避する規範意識と遵法精神があったと考えられる。しかし近年、社会の一部に見られる退廃的、享楽的風潮や「薬物の使用は個人の自由」という海外の薬物解禁論等の影響により、若年層を中心に規制薬物への警戒感が薄れ、薬物犯罪に対する規範意識の低下が見られる。覚せい剤をはじめとする薬物について「他人に迷惑をかけていないので、使うかどうかは個人の自由である」といった誤った考え方に対して、社会全体で「ダメ。ゼッタイ。」と明確に否定することが重要である。

(薬物乱用の問題性の再確認)
 ここで薬物乱用の何が問題なのかを再確認しておくと、薬物のもつ依存性によって自分の意志でやめられなくなること、そして乱用の深みにはまって人間の脳に不可逆的な障害を与え、覚せい剤や大麻であれば被害妄想や幻覚といった精神病症状が現れることである。次に、乱用の弊害が個人の自由の問題に止まらないのは、凶悪な犯罪や社会的な悲劇につながることが多い点である。自分が狙われているといった被害妄想によりその場に居合わせた人に襲いかかるといった犯罪や薬物購入資金を得るための様々な犯罪が引き起こされている。さらに、家庭内暴力等により家庭を崩壊させ、またその収益が暴力団等犯罪組織の資金源となるなど、健全な社会生活に深刻な脅威となっている。こうした点を踏まえ、個人と社会の安全を守るために、我が国では覚せい剤の使用をはじめ薬物乱用に係わる一連の行為を犯罪として処罰することとしているのである。

(3)世界的な薬物乱用問題

(薬物乱用対策の各国協調)
 覚せい剤や他の乱用薬物のほぼ全量が外国で製造され密輸されたものであり、日本における第三次覚せい剤乱用期の到来は地球規模の世界的な薬物乱用状況の一環をなすものである。国際的な犯罪組織の最大の資金源の一つが薬物の密輸・密売であるといわれており、増え続ける薬物及び原材料の国境を越えた移動という組織犯罪には、各国が協調して対処し連携して取り締まることが重要であるが、その協力体制の整備は未だ不十分である。日本国内の覚せい剤の乱用問題の解決には、過去の乱用期において薬物の供給遮断が対策の決め手となったことにかんがみると、仕出し地であるアジア諸国等関係各国との連携した取締り等によって世界的な薬物乱用問題に対処することが不可欠である。

(覚せい剤分野での国際貢献)
 また、従来、日本特有の問題であった覚せい剤乱用が、近年、東南アジア諸国、米国等においても深刻な脅威となりつつある。覚せい剤は幻覚、妄想等の精神障害により直接犯罪に結びつく点において麻薬等の薬物とは異なる危険性を有しているが、覚せい剤精神病等の弊害に対する各国の認識は薄く取締体制も不十分である。国連麻薬委員会では平成10年6月に開催される国連総会麻薬特別会期に向けて覚せい剤(アンフェタミン型)対策を議題の一つとして取り上げている。覚せい剤乱用禍とその豊富な取締りの経験のある我が国が薬物乱用防止対策や薬物事犯の取締りにイニシァチブを取って、世界のとりわけアジア諸国の覚せい剤対策の協調を進める等の国際貢献を図っていくことが求められている。

2 対策の基本的考え方

 薬物乱用対策本部ではこうした乱用の現状及び問題点を踏まえ、「第三次覚せい剤乱用期の到来に対し、その早期終息に向けて緊急に対策を講ずるとともに、世界的な薬物乱用問題の解決に我が国も積極的に貢献する」という基本目標を掲げることとする。そしてこの基本目標を具体化するため、薬物乱用対策に需要の削減と供給の遮断の両面があり、それぞれ未然防止措置と事後措置、国内対策と国際対策とに分けられることから、次の四つの目標を掲げ、総合的な戦略の下に関係省庁が連携して対策の一層の強化を図ることとした。四つの目標とは、
目標1 中・高校生を中心に薬物乱用の危険性を啓発し、青少年の薬物乱用傾向を阻止する。
目標2 巧妙化する密売方法に的確に対処し、暴力団・一部不良外国人の密売組織の取締りを徹底する。
目標3 密輸を水際でくい止めるとともに、薬物の密造地域における対策への支援などの国際協力を推進する。
目標4 薬物依存・中毒者の治療と社会復帰を支援し、再乱用を防止する。
である。薬物乱用問題には人、物、環境の三要素が複合的に係わっていることから、対策を講ずるに当たっては犯罪取締り、薬物規制、人と物の国際間移動、教育等を担当する関係省庁が連携して、諸般の施策を多面的に検討し総合的に実施することが重要である。目標1から目標4までにおいて、これらの総合的な対策への取組みが示されるが、それらに共通する対策の基本的な考え方は、以下のとおりである。

(1)覚せい剤事犯取締りの緊急対策

中・高校生が街頭で一部の不良来日外国人から「スピード」や「S」と称する覚せい剤を気軽に購入するといったこれまでにない状況をもたらしている第三次覚せい剤乱用期の到来を、国民の安全な社会生活の維持にとって極めて憂慮すべき事態と受け止め、薬物乱用対策推進本部を構成する関係取締機関が連携して密輸・密売ルートの解明と末端乱用者の検挙に向けて取締体制の強化を図るとともに、取締機器の配備及び研究開発の推進、組織的な薬物犯罪に対処する捜査・取締手法、金融情報の分析、不法収益のはく奪等の積極的活用により組織的な密輸・密売や乱用等の防止に緊急に対処するなど、覚せい剤事犯の取締りに全力を上げることとする。

(2)薬物乱用を拒絶する国民意識の醸成

(薬物汚染のない環境づくり)
 薬物乱用が深刻化し安全な社会生活に対する大きな脅威となっているのは、我が国も含めて先進諸国に共通する問題である。乱用が深刻化すればするほど、政府における対策にもかかわらず、根本的な問題の解決はより難しくなる。現段階で薬物乱用に抜本的な対策を講じて薬物汚染のない環境づくりを進めることは我が国の将来にとって極めて重要な課題であると認識することが必要である。

(薬物乱用を拒絶する意識の醸成)
 青少年が薬物の危険性、有害性について正確な認識を持つことができるよう、学校教育等の場を通じて青少年の啓発活動への取組をより一層強化するとともに、マスコミ等の協力を得て社会全体で薬物乱用を拒絶するような国民意識を醸成することが重要である。また、乱用の現実を追認して薬物の使用や自己使用目的の薬物の所持を非刑罰化しようとする一部の国における風潮に対しては、薬物を拒絶する若者の規範意識の回復をねらいとした啓発活動の重要性を国際会議等を通じて訴え、薬物乱用を拒否する国際世論の醸成を図ることも必要である。

(3)日本と世界の薬物乱用問題の解決に向けた国際貢献

(国際貢献の基本的考え方)
 海外からの薬物供給の遮断という観点からの対応として、我が国への覚せい剤の仕出し地となっている国や地域における密造者の取締りや密造工場の一掃等の対策を支援するとともに、それらの国や地域における薬物問題の解決に向けて我が国がイニシァチブをとって国際貢献を行うこととする。その際、関係諸国からの要請に応じ、我が国が世界に先駆けて実施した原料規制等の取締りや精神障害に対する医学上の対応等覚せい剤乱用対策に関する日本の経験を活用して国際的な役割を果たすことが適当である。

(覚せい剤乱用防止の国際協力)
 こうした観点から、日本の国際貢献として、覚せい剤乱用防止の国際協力プログラムを実施することとする。そのため、ODAの資金的な枠組みを活用し、アジア諸国等からの要請に応じ、国連薬物統制計画(UNDCP)と連携して、覚せい剤対策に関する国際協力のネットワークの中心となる組織の整備、覚せい剤の危険性等に関する研究成果と日本の経験を踏まえた取締対策に関する情報の提供、途上国に薬物乱用防止教育・啓発用の資機材の提供、アジアの関係諸国の捜査員・啓発指導者の研修・訓練活動の充実強化、代替作物栽培への支援等の施策を安全面に配慮しつつ総合的に講ずることとする。

目標1 中・高校生を中心に薬物乱用の危険性を啓発し、青少年の薬物乱用傾向を阻止する。

1 現状とその問題点

(1)青少年による覚せい剤乱用事犯の増加

(中・高校生の覚せい剤乱用事犯の増加)
青少年の薬物乱用の実態を見ると、シンナー等の乱用も依然見逃すことのできない問題であるが、最近では覚せい剤を乱用する事犯が増加しており、特に中・高校生においてその増加が顕著である。すなわち、高校生の覚せい剤事犯検挙者数は、平成6年には42人であったものが、平成7年には93人、平成8年には220人と2年連続して倍増、第二次覚せい剤乱用期のピークである昭和57年の143人を上回る数字を記録した。平成9年においては、高校生は219人と前年並みであったが、中学生の検挙者数が平成8年の21人から倍増して43人を数えるに至った。この検挙者数の急激な増加は、最近における覚せい剤乱用の中・高校生への浸透と薬物乱用の低年齢化が進行していることを示している。また、その乱用実態も友人同士仲間内で安易に乱用したり、学校内までもが薬物の譲受や乱用の場となるなど、極めて憂慮すべき状況となっている。

(高校生の覚せい剤に対する意識等)
 平成10年1月に公表されたアンケート調査結果によると、高校生の6.5%が薬物使用を誘われた経験を有し、高校生の約1割が好奇心や面白半分等の理由で薬物を使ってみたいと思ったことがあると回答している。そして、使ってみたい薬物は、覚せい剤が50.5%でシンナーの36.0%を上回っている。このことは、近年増加してきた高校生をはじめとする青少年の覚せい剤乱用事犯が、今後さらに飛躍的に増加することを危惧させる。

(2)少年を取り巻く社会環境の悪化

最近の少年非行情勢は、少年人口の急激な減少にもかかわらず、刑法犯少年の補導人員の増加傾向が続き、「戦後第4の上昇局面」に入ったといえるような厳しい状況となっている。このような状況の中で、薬物乱用少年の増加の要因としては、まず駅前や繁華街等にたむろし誰彼の区別なく声をかけ巧妙に薬物を密売している不良来日外国人密売人グループの出現により薬物の入手が容易となったことが挙げられる。このほかに、薬物乱用を興味本位的に捉えた情報の氾濫、少年の不良行為や問題行動を助長し乱用少年のたまり場となりやすいゲームセンター等の営業所の増加、性の問題行動を助長するような営業等の増加に加えて、核家族化の進展等に伴う家庭の教育力の低下、地域社会の非行防止機能の低下など複合的な要因が考えられ、地域社会、家庭、学校のそれぞれが抱えている問題が複雑に絡み合って少年の薬物乱用を助長しているといえる。

(3)薬物に対する警戒感、抵抗感の希薄化

(青少年の安易な乱用傾向)
薬物乱用少年の中には、薬物に対する好奇心や仲間意識といった軽い気持ちから安易に乱用しているケースが目立つ。そして、覚せい剤にダイエット効果があるなどと誤った認識の下に乱用したり、覚せい剤を「S」、「スピード」などと呼んでファッション感覚で乱用する傾向が見られる。また、従来一般的に行われていた注射器を使用した静脈注射によらずに、あぶった蒸気を吸引したり、液体状のものをジュースに混ぜるなど簡便な方法を用いることで、覚せい剤乱用に対する罪悪感を希薄化させている傾向も見られる。薬物乱用少年に薬物の危険性・有害性についての正確な認識が欠けているとともに、薬物に対する警戒感、抵抗感が希薄化していることが薬物乱用少年の実態において明らかに示されている。

(意識調査に見る警戒感の希薄化)
 平成9年10月に公表された児童生徒の薬物に対する意識調査の結果では、学年が上がるほど、児童生徒の薬物に関する学習経験が増え、薬物の使用・所持に対する法律に関する正しい知識や危険性・有害性に関する認識を持つようになる反面、薬物乱用について「他人に迷惑をかけていないので使うかどうかは個人の自由である」と回答する割合が、高校3年生男子では15.7%を示すなど非常に高い数値を示している。この傾向は平成10年1月に公表されたアンケート調査において高校生の約9割が薬物の所持、使用が法律で罰せられることを知っているものの、使用することについては約2割(男子では27%)が個人の自由と答えていることからも裏付けられる。また、平成9年11月に公表された青少年の薬物認識と非行に関する研究調査において「薬物は本人の考えにまかせればいい」と考える生徒の割合が年齢が上がるほど高くなっており、高学年になるほど規範意識の低下が見られる。これらのことから、薬物に対する警戒感、抵抗感の希薄化は、一般の青少年の間でも相当深刻な段階に至っていることがわかる。

2 対 策

(1)学校等における薬物乱用防止に関する指導の充実

(初等中等教育段階での薬物乱用防止指導)
 青少年期は、たばこ(ニコチン)、酒(アルコール)を含めた依存性薬物を使用するきっかけが起こりやすい時期であり、また、心身の発育・発達途上にあるため、依存状態に容易に移行しやすく、人格の形成が妨げられるなど薬物の影響が深刻なかたちで現れやすい。したがって、初等中等教育段階からの薬物乱用防止に関する指導が、極めて重要な意義を持つ。現行の学習指導要領は、高等学校及び中学校では教科「保健体育」において指導内容が明示されているが、小学校では教科「体育」の保健領域において指導内容として薬物乱用防止については示されていない。このため、学習指導要領の改訂に当たっては、小学校においても、薬物乱用防止について指導する方向で検討する。また、各学校段階を通じ、教育相談等の生徒指導の機能を一層活用するとともに、道徳や特別活動等において、各学校の創意工夫により、積極的に薬物乱用防止に関する指導を行うよう、指導の徹底を図る。
なお、意識調査結果に見られる青少年の薬物に対する警戒感・抵抗感の希薄化にかんがみ、学校における薬物乱用防止に関する指導は、児童生徒に単に薬物に対する知識を教えるだけではなく、現在及び将来にわたって薬物乱用は自分のために絶対に行うべきではないし、社会的にも許されることではないという規範意識を身に付けさせるという観点に立って指導の充実を図ることとする。

(全中学・高校における薬物乱用防止教室の毎年開催)
 薬物乱用防止に関する指導に当たる教員の指導力の向上を図るため、国及び都道府県において開催する研修会の充実等教員の研修の機会を拡充するとともに、指導に当たって児童生徒に薬物乱用の危険性・有害性をわかりやすく、かつ、正しく理解させるため、ビデオテープ、パンフレットや副読本等の児童生徒用教材及び教師用指導資料の充実を図る。
 また、現在高校を中心に開催が進められている薬物乱用防止教室については、教師のみならず警察職員や麻薬取締官OB等の専門家が一体となって指導することによる効果が認められることから、関係機関等との密接な連携を図って積極的に開催を進めることとし、今後全ての高等学校及び中学校において年に1回は薬物乱用防止教室を開催するよう努めるとともに、地域の実情に応じて小学校においても薬物乱用防止教室の開催を推進することとする。
 さらに、学校のみならず家庭、地域社会が一体となって薬物について学ぶことができるよう、各教育委員会において学校への支援体制の強化・充実を図るとともに、社会教育施設等において地域住民を対象とした薬物乱用防止に関する講座の開設や相談窓口の設置を行うなど、その機会の提供や場の整備等に努める。また、PTAなど関係団体が積極的な役割を果たすよう協力を要請する。

(2)街頭補導体制の強化とその協力体制の確保等

少年の薬物乱用を未然に防止するためには、薬物事犯に巻き込まれるおそれのある少年や薬物を所持している少年を早期に発見し、指導・補導することが重要である。このため、少年非行の防止や少年の健全育成に取り組んでいる関係機関・団体等との緊密な連携により、こうした少年の早期発見や街頭補導体制の強化を図るとともに、少年のたまり場となりやすい駅前や繁華街等の営業場所の管理者や地域住民等の協力体制の確保に努める。また、関係機関や地域ボランティア等による相談体制の充実を図ることとし、地方公共団体が設置した少年補導センターの少年補導委員や少年警察ボランティア等の資質と事案対応能力の向上のための施策の充実を図る。
 少年による覚せい剤乱用事犯やこれに絡む凶悪事件等に対しては、徹底した捜査・調査を行い、的確に対処していく必要があり、このため、街頭補導体制の強化等少年に係る薬物乱用事犯への取組体制を強化する。また、これに加え、薬物乱用少年に対しては、継続補導の徹底、グループミーティングの実施等のきめ細かな対策を推進し、再乱用の防止に努める。さらに、少年の福祉を害する薬物譲渡事犯等に対しては、供給源に対する取締りの徹底強化を図る。

(3)少年の再乱用防止対策の充実強化

少年院においては、薬物非行などの共通の問題性を有する少年をグルーピングし、指導カリキュラムに基づいて継続的に指導を実施する「問題群別指導」をさらに充実させるため、処遇技法の研究及び指導者の育成、効果的な教材の開発、相談体制の充実を図る。薬物事犯で保護観察に付され、又は少年院を仮退院した少年については、薬物乱用への抵抗感の希薄さ、薬物を入手しやすい環境、生活状況の乱れや家族関係の問題などがきっかけとなり、再乱用に至る場合が多いことから、薬物に関する正しい知識をかん養するために薬害教育を充実させるとともに、生活状況や家族関係の調整に加えて、再乱用を防止するための個別指導の強化を図る。また、医療機関や薬物依存者のための自助グループなど民間組織を含めた関係機関等との連携を深め、薬物乱用防止の指導の充実を図る。さらに、シンナー等の薬物から覚せい剤乱用への移行を防止するため、警察、児童相談所、医療機関、保健所、教育委員会等関係機関の実務担当者が一体となって少年に対する個別指導を行うフォローアップ事業の拡大等を図る。

(4)関係機関等による相談体制の整備

 青少年が薬物乱用の問題に遭遇したときに、学校のみならず地域社会において、青少年やその家族をはじめ誰でもが、いつでも、どこでも、そしてどんな問題であっても気軽に相談できる人や場所が用意されていることが重要である。既に公的なものとして各都道府県の保健所、精神保健福祉センター、警察、さらには麻薬取締官事務所、児童相談所、福祉事務所等に相談窓口が設置されている。これらの相談機関の積極的な活用を図るため、全国の中学生に対し各都道府県の主要電話相談窓口の電話番号を記載した電話相談カードを配布するとともに、青少年向けの雑誌やポスター等の媒体により相談窓口を周知させ、その利用を呼びかける。また、担当者が青少年の相談に適切に応じられるよう、相談事例研究や情報交換を目的とする連絡会議の開催等を通じて相談機関間の一層の連携強化を図る。さらに公的な相談機関との連携を通じて民間人の予防啓発活動等を強化するため、都道府県知事の委嘱による約1万9000人の覚せい剤乱用防止推進員については、全国に協議会を組織化することとし、ボランティアについても予防啓発指導を行うための講習会の開催等を図り、多様な形態の相談体制の整備を図る。なお、少年鑑別所においては、臨床心理学の専門家が「一般少年鑑別」の一環として薬物問題の相談に応ずることにより、地域社会における青少年の健全育成に貢献する。

(5)広報啓発活動の推進

青少年への薬物汚染拡大を防止するためには、青少年自身の規範意識を高めることはもちろん、家庭や地域社会の理解と協力を得ることが不可欠であることから、関係方面の協力を得つつ、テレビ、新聞、雑誌等あらゆる広報媒体を積極的に活用し、薬物乱用の実態や相談機関の場所等の広報を展開し、国民の薬物根絶意識の醸成に努めることとする。国連麻薬乱用撲滅の10年の支援事業として行われている「『ダメ。ゼッタイ。』普及運動」をはじめ、「薬物乱用防止広報強化期間(6〜7月)」を中心として「少年の薬物乱用防止対策強化旬間(4月)」、「青少年の非行問題に取り組む全国強調月間(7月)」、「社会を明るくする運動(7月)」、「麻薬・覚せい剤禍撲滅運動(10月〜11月)」及び「全国青少年健全育成強調月間(11月)」等において、青少年及び青少年育成関係者に対し、薬物乱用の実態や危険性、薬物乱用防止のための指導方法等についての広報啓発活動をより一層積極的に展開する。
 なお、青少年に対する啓発活動を行う上で、薬物乱用防止啓発用ビデオ、図表やアニメを多用した小冊子、広報用パネル、小型コンピュータによるゲームなどの視聴覚に訴える資機材は効果的であることから、これらの整備充実を図る。また、これら資機材を大型バスに搭載した「薬物乱用防止キャラバンカー」や「薬物乱用防止広報車」の全国展開を図る。

目標2 巧妙化する密売方法に的確に対処し、暴力団、一部不良外国人の密売組織の取締りを徹底する。

1 現状とその問題点

(1)暴力団等犯罪組織の深い関与

(犯罪組織の資金源としての薬物密売)
薬物犯罪は仕入れ価格と末端価格の差が大きく莫大な収益を上げられるほか、薬物の依存性により安定した需要が保証される。加えて、海外の密造組織との交渉から密輸入、国内での運搬、小分け、末端密売等、複数の行程を結合して実行する必要があるため、薬物犯罪は組織的な犯罪集団により、組織維持・拡大等のための資金獲得手段として敢行されるという特徴がある。我が国においても、従来から薬物密売は暴力団の資金源とされてきた。暴力団に係る薬物の密輸・密売に関しては、系列の異なる暴力団同士が薬物の取引を行っている状況も一部に見られ、流通経路が拡大する一因となっている。さらに最近は、広域・迅速な物流サービスを利用して、複数県にまたがる複数の薬物密売組織が連携して薬物の仕入れ、卸、密売等を行うなど密売販路が広域化する傾向にある。

(海外の犯罪組織との連携)
 我が国で乱用される薬物のほとんどは海外から密輸されたものであり、現在覚せい剤については中国が主な仕出し国とみられている。我が国の暴力団は、香港、台湾等の薬物犯罪組織と密接に連携を取って密輸を敢行しており、薬物犯罪は典型的な国際組織犯罪としての性格を持つ。

(2)不良来日外国人薬物密売事犯等の増加

(不良来日外国人薬物密売事犯の急増)
 近年の薬物問題の特徴として、暴力団に加えて不良来日外国人の薬物密売事犯が急増していることが挙げられる。来日外国人の薬物事犯検挙者数は平成9年には873人、国籍別に見るとイラン人が最も多く328人を数える。ちなみにイラン人の覚せい剤事犯検挙者数は、平成3年はなく平成4年に1人であったものが、平成9年には220人と激増している。また、他の来日外国人の薬物事犯と比較してイラン人の薬物事犯は、単なる薬物乱用事犯ではなく営利目的の所持・譲渡事犯等であることが多いのが、その特徴である。これまで暴力団員等は捜査機関に察知されないよう、密売相手の拡大には慎重だったため、薬物乱用経験のない一般市民が薬物を入手する機会は多くはなかった。しかし、数年前から不良来日外国人密売人が駅周辺や街頭で公然と無差別に薬物密売を行ったため、薬物の末端密売形態が革命的に変化し、一般市民の薬物の入手が容易となり、特に少年の薬物事犯増加の大きな要因の一つとなっている。これらの密売人は、近年では薬物の仕入れ、密売等において暴力団や他の来日外国人グループとの関係を深めていることが確認されている。
 イラン人組織犯罪の捜査については、頻繁に住居を変え、多人数で集団居住するため視察が困難、母国語で会話が行われるなどの理由により、その生活実態や周辺者からの情報収集は困難であり、薬物の仕入先、密売指示系統等、組織の活動実態の解明が不十分な状態にある。 さらに、来日外国人、特に少数言語の外国人については捜査機関内部に対応できる職員が十分でなく、部外通訳への委託を余儀なくされることが多いが、同国人の通訳人に対して密売組織が脅迫を行ったため通訳を辞退する事例等が認められ、通訳体制の確保に苦慮している。

(不法滞在・不法入国者の関与)
 我が国との経済格差等を原因として、アジア諸国等から来日し、そのまま不法に残留する外国人は依然として後を絶たず、その数は約28万人に上る。さらに、不法入国に成功した外国人も相当数に達していると推測され、我が国に潜在している不法滞在外国人はかなりの数に上るとみられる。一方、これら不法滞在外国人のほとんどに不法就労事実が確認されており、最近では多国籍化、長期潜在化、地方拡散化の傾向が認められる。また、偽造旅券等による不法入国や偽装結婚による滞在など悪質・巧妙な事例の発生とともに、不法滞在者が犯罪により検挙される例が増加しており、治安面での影響も深刻化するなど、不法滞在外国人が我が国の社会の各分野に及ぼす悪影響はますます重大なものとなっている。
 来日外国人による薬物事犯についても、その少なからぬ部分が不法滞在者によるものである。前述の組織犯罪に関わるイラン人は、観光者を装い我が国に入国した後、景気後退の影響により就労機会が次第に減少したにもかかわらず、引き続き我が国に不法滞在し、薬物の無差別密売を始めるようになった者が少なくないとみられる。在留期間内に出国することなく薬物密売を行うようになったこれらのイラン人は、次第に組織化し、密売場所を定期的に移動して広域化する一方、各地の組織間の連携を深め、また暴力団員等とも関係を持つなど、その悪質性を高めていった。また最近では薬物密売や不法残留等の入管法違反で警察、入管等の取締機関に逮捕、摘発され、本国に退去強制された者が、我が国で再び薬物密売を行うために他国籍の偽造旅券等により不法入国している事例もみられる。

(3)密売方法の巧妙化

(非対面販売方式の巧妙化)
 前述のように、暴力団等既存の薬物犯罪組織と関連の薄かった一般人の間に薬物乱用が拡大したほか、薬物を郵便等で送り、代金は銀行振込で支払うなどの手法による遠隔地間の取引きが行われ始めたため、取引者間の人的関連が把握しにくいなど、従来型の捜査方法で対処することが難しい状況が表れてきている。特に、密売人と買い手が顔を合わせないまま取引を行ういわゆる非対面方式の密売は、従来から行われていたものの、密売人が携帯電話、ポケットベル等を使用して頻繁に取引場所を変えるなど、近年の通信手段の進歩に伴ってその巧妙化が進んでおり、被疑者や密売現場の特定に困難を来すこととなっている。

(携帯電話、パソコン通信等新たな通信手段の利用)
 イラン人薬物密売人については、顧客のついた携帯電話(即ち密売組織と顧客の取引関係)そのものを密売人同士で売買の対象としており、一人の密売人が検挙され又は本国に帰国した後でも薬物取引関係は携帯電話の譲受人との間で継続され、薬物密売組織の存続を支えている。これら携帯電話を利用した密売人を検挙した場合、携帯電話を押収しても、組織の他の人間が電話会社に新たな他の電話機への番号付け替えを申請すればこの番号を引き続いて使用することが可能なため、この番号を通じての顧客と組織との取引関係が温存されるなど、捜査機関のみでは解決できない構造的な問題が見られる。
 また、平成6年頃からパソコン通信等を利用した薬物密売事例も見られ、通信機器、通信ネットワークの悪用により薬物乱用の拡大が助長されるおそれがある。さらに、パソコン通信、インターネットにおいては、薬物の入手方法や乱用方法等の犯罪を助長する情報、また薬理作用についての誤った情報等も多く流されているが、これについては規制が困難な状態にある。

(巧妙化する組織犯罪への的確な対策の必要性)
 薬物犯罪は、典型的な組織犯罪であり、複数の者があらかじめ十分な謀議を行って、罪証隠滅工作や犯人隠避工作など、犯罪の発覚や検挙を困難にする手段を講じることから、末端の密売人等が検挙されても組織の上位者等の氏名やその関与の状況など、組織や事犯の実態に関する供述を得ることがきわめて難しくなっている。さらに、以上のとおり、薬物犯罪の手段・方法は、携帯電話やインターネット等、次々に登場する新技術を巧みに活用しつつ、ますます巧妙化が進んでいる。加えて、不良来日外国人等の新たな犯罪主体の登場、一般人への乱用の拡大等もあり、この種の犯罪については従来の捜査手法のみによってはその解明が著しく困難になっているため、薬物犯罪を壊滅するためには新たな対策の確立と遂行が不可欠な状態にある。

(4)乱用薬物の多様化と向精神薬の盗難事例の増加

(乱用薬物の多様化)
 取締法による検挙者の数の点からいえば、覚せい剤とシンナーが昭和40年代中盤以降我が国の主要な乱用薬物である。しかしながら、最近の傾向として、覚せい剤に加えて密売者が大麻、コカイン、MDMAなど多種類の薬物を同時に扱うとともに、乱用者の側も多剤乱用の傾向が見られる。また、平成9年の向精神薬事犯では10種以上の薬物が扱われている。さらに、現在規制されていない物質で幻覚作用等を有するものの売買、使用も見られるようになっている。いわゆるドラッグ本やインターネットなどにより提供されるこれら薬物に関する情報もこれらの使用を助長している面があると思われる。
 多様化し新たに問題となる乱用薬物に関しては、鑑別のためのデータの蓄積や鑑定方法の確立など捜査を支える体制の整備が後手に回らないようにすることが重要である。規制対象外の物質については、当該物質自体が依存性や幻覚作用などの有害作用を有する場合があるとともに、他の規制薬物の乱用に繋がっていくおそれがある。また、これら物質については向精神条約などの国際条約での規制が追いつかない場合がある。

(向精神薬の盗難等)
 麻薬や向精神薬などは医療に必須のものであり大量に使用されている。医療における使用を確保しつつ不正ルートへの流出を防ぐため、製造、輸入、流通、販売、施用を免許制とし取扱施設への監視を実施するなどし、これら正規流通品の不正流通への流出は相当程度抑止されてきた。しかし、麻薬及び向精神薬取締法に基づき厚生省に報告される向精神薬の盗難件数は、平成5年以降増加傾向にあり、そのなかでも医療機関からの盗難が大部分を占める。盗難されたものが、パソコン通信を介して全国規模で密売される事件が平成8年に発生している。また、モルヒネ等医療用麻薬のがん疼痛緩和への使用が増加していることから、医療用麻薬の管理の徹底が今後一層重要な課題となっている。

2 対 策

(1)組織犯罪対策と不法収益のはく奪

(組織犯罪に対応する捜査手法の積極的活用と法制度の確立)
 薬物犯罪の根絶のためには、薬物の押収や薬物犯罪組織の末端構成員のみならず組織の中枢に位置する者の検挙が不可欠である。そのためには、薬物組織犯罪の構成員に対する厳正な処分・科刑を図って、業として行う薬物密売等を重く罰する麻薬特例法第8条等に該当する事犯の摘発に努めるとともに、コントロールド・デリバリー等の捜査手法を一層有効に活用して組織全体の解明と壊滅に力を注ぐ必要がある。しかしながら、この種の組織的な薬物犯罪の実情にかんがみると、従来の捜査手法のみでは犯罪の全容解明に十分な効果を期待できない点があるので、薬物犯罪においても用いられることが多い電気通信の傍受制度の導入が求められており、その導入に係る法案が、現在、国会に提出されている。

(不法収益のはく奪の強化と金融機関提供情報の分析体制強化)
 組織的な薬物犯罪根絶のためには、組織の存立目的であり、その力の源泉である不法収益を的確にはく奪することにより、組織の資金源を断つことが重要である。このため、薬物犯罪にかかる不法収益の隠匿・仮装の処罰、無体物を含む不法収益の没収、没収・追徴のための保全措置等を規定する麻薬特例法を積極的に活用して不法収益を徹底的にはく奪していく。
 また、不法収益のはく奪のためには、金融機関が取り扱った資金から不法収益を発見、追跡して捜査に結びつけることが必要である。これまでは麻薬特例法により、金融機関等が不法収益等と疑われる取引を監督官庁に届け出ることとされていたが、現在、金融監督庁に対してこれらの情報を集積し、その整理・分析を行い、必要に応じて捜査機関等に提供するいわゆる金融情報ユニット(FIU)としての機能を持たせることを盛り込んだ関係法案が国会に提出されている。

(2)イラン人等外国人密売組織壊滅に向けた徹底取締り

(外国人犯罪組織に対する捜査手法の確立等)
 イラン人等外国人密売組織は、海外の薬物犯罪組織が我が国を市場として取り込むために進出したものではなく、国内で次第に組織化されたもので、我が国における歴史も浅いため、我が国に深く根づく前に徹底的な取締りによって壊滅することが可能であると考えられる。このため、今後、外国人犯罪組織についての手法を再検討し、組織実態に関する情報の入手に努めるほか、証拠収集等におけるきめ細かい捜査を展開し、イラン人等外国人密売組織の実態の解明を行う。特に、暴力団とイラン人等外国人密売組織との連携動向について関連情報の収集及び関連事件の検挙を推進していく。また、捜査機関内での語学研修の強化、民間通訳人の確保などにより、積極的な捜査の推進を支える通訳体制を改善する。さらに、海外の捜査機関等との情報交換や捜査協力のための体制を強化し、外国人犯罪組織の動向を把握しつつ密輸等の動きに迅速に対応していく。

(不法入国・不法滞在外国人等に対する取締りの強化)
 外国人犯罪組織壊滅のための捜査と並行して、不法入国・不法滞在の外国人に対する取締りを強化し、薬物密売組織の拡大を未然に防止することも必要である。このため、上陸審査体制の充実を図るとともに、不法滞在外国人に対する迅速な退去強制手続きを行うなど、その入国防止と定着化阻止を行いつつ、その着実な減少を図る。

(3)末端乱用者に対する取締りの重視

 諸外国の中には、薬物の末端乱用者を犯罪者ではなく患者とみなし、薬物の使用や自己使用目的の薬物の所持を非犯罪化する動きが見られるところもある。しかし、我が国においては昭和20年代の第1次覚せい剤乱用期以来、「薬物乱用は悪である」という規範意識を国民共通のものとして、薬物の乱用を犯罪として厳しく取り締まることとしてきた。最近、国民の一部において薬物を拒絶する規範意識の低下が見られることにかんがみ、末端乱用者に対する取締りを重視し、これを薬物乱用対策の柱の一つとして各取締機関において的確に対応する。

(4)巧妙化する密売方法への対応

 携帯電話、インターネット等の新たな通信手段を利用した密売や不正情報の流通については、押収した顧客付きの携帯電話の電話番号の付け替えを防止する措置や、パソコン通信、インターネットを通じて流される、犯罪を誘発・助長するような薬物情報の規制措置等について電気通信事業者、プロバイダー等関係者の協力を得て、新しい情報通信手段の性質に応じた対策を講じていく必要がある。特に、コンピュータ・ネットワークを利用した薬物犯罪や不正情報の流布については、ネットワーク上の悪質な情報の早期発見・監視が重要である。さらに、コンピュータ・ネットワーク等を利用した薬物犯罪を徹底解明し、これを的確に処罰することを可能とするため、最新のコンピュータ技術を備えた捜査体制を整備するとともに、この種の事犯に関する外国捜査機関との情報交換を迅速に行うために必要な体制整備等に努める。

(5)多様化する乱用薬物への対応と正規流通の監督の徹底

 向精神薬、幻覚剤などの乱用の拡がりに対しては、社会全体の警戒感を高めるため、その有害性、危険性に関する情報を提供するなどの啓発活動を充実させるとともに、医療関係者に対しても一層の適正使用への協力を要請する。また、取締機関において多様化する薬物への対応を強化するため、分析方法の開発、機器の整備、鑑定官の資質向上(内外留学等)、国際交流などにより鑑定機能の強化を図るとともに、内外の向精神薬等の正規医薬品や押収品等の剤型や名称の鑑別のためのデータベースの整備を図る。なお、国際条約により規制されていないものであっても、国内法で既存の規制物質と同等以上の依存性、有害性が確認される等のものについては、適宜規制を検討する。
 また、盗難等不正流通が見られる向精神薬等については、適正な管理の徹底を図るため、医療機関、薬局、卸売業等に取扱者に対する指導の強化とともに、管理マニュアル等の作製普及を図り、かつ関係者の警戒感を高める。医療用の麻薬についても、在宅医療の進展を配慮し、薬局における取扱いのマニュアルを作成し、適正な管理の周知を図る。

目標3 密輸を水際でくい止めるとともに、薬物の密造地域における対策への支援などの国際協力を推進する。

1 現状とその問題点

(1)薬物の密輸の増加

 我が国においては、国内での薬物製造を厳しい管理下に置いていることから、覚せい剤をはじめ国内で乱用されている薬物のほとんどは海外から流入したものと考えられる。近年の水際における薬物押収量も高水準で推移しており、国内の薬物需要拡大を供給面で支えている薬物の密輸の増加は深刻な状況に至っている。

(2)覚せい剤密造と乱用の拡大

 覚せい剤は、第一次乱用期においては我が国内で製造・密造されたものであったが、徹底取締りによりほぼ途絶した。70年代には韓国、80年代には台湾が、日本向け覚せい剤の密造・密輸の主役となったが、それぞれ密造工場はほぼ壊滅された。代わって、90年代には中国における密造が盛んになり、近年の水際での覚せい剤押収量の9割以上は中国仕出しのものである。中国の当局は密造工場の取締りに力を入れ、既にかなりの数の工場を摘発しているが、壊滅には至っていない。また、平成9年には、中国仕出しと見られる大量の覚せい剤が北朝鮮船舶により密輸された事件も摘発されている。
 また、90年代後半に入り、ヘロイン密造で知られるミャンマー、タイ、ラオスの「ゴールデン・トライアングル」及びその周辺地域に加えフィリピンにおいても、覚せい剤の密造が始まっている。同時に、かつて我が国に特有な問題であった覚せい剤乱用が広がりを見せつつあり、近年、韓国、フィリピン、タイ等においては覚せい剤が主要な乱用薬物となっている。
 このように、我が国の覚せい剤問題は、アジアの薬物問題の環の一つである。新たな密造場所、密輸ルートに俊敏に対応した取締りとともに、アジア各国における効果的な薬物対策が望まれる。

(3)原料物質の不正流通

 国際的な薬物の供給の背後には、その原料物質の国際的な不正流通があると考えられる。国際麻薬統制委員会(INCB)によれば、1994年9月から12月までの間に、60億回使用分の覚せい剤(メタンフェタミン)密造に供されうる原料物質が世界で押収され又は出荷停止されている。現在、アジア諸国の三分の一は原料物質を規制する国際条約に加盟しておらず、また、加盟国であっても国内法制が必ずしも整備されていないのが実状である。したがって、国際的な原料物質の不正流通の追跡は困難であり、早急に不正流通防止対策の実施が求められる。

(4)密輸事件の大口化・巧妙化

 近年の薬物の密輸は、国内の密売ルートの拡大、各種の技術進歩等を背景に、犯罪組織等が「より大量の薬物を」「より発覚されにくい手法で」密輸を図る傾向が顕著である。具体的には、以下のような特徴がある。

(密輸手段の傾向)
 商業貨物等による密輸は、一度に大量の薬物の持込みが可能なため、密売ルートの拡大等と相まって、大口化が顕著であり、近年、数十キログラム単位の不正薬物が押収される事件が相次いでいる。また、検査困難な重量貨物や仏像をくり抜いた中に隠匿するなど、隠蔽工作が巧妙化している。
 航空機旅客による密輸は、乱用者の裾野拡大に伴い、いわゆる「一見普通の」旅行者による犯罪が多発しており、また、犯罪組織が関与したと見られる密輸については、大口化が進むとともに、東南アジア等から白人を運び屋とした飲み込みによる密輸を行う、OLを運び屋に利用する等、巧妙化が進んでいる。
 また、近年、向精神薬を中心に国際郵便を使った薬物の押収件数が大幅に増加している。これは、密輸グループにおいて刑罰を避ける上で有効な手段と捉えられていること等が背景にあると考えられる。

(地方港・不開港での密輸の続発)
 船舶乗組員による密輸については、近年、取締体制が比較的手薄な地方港等を舞台とした事件が相次いでいる。また、かつて我が国を薬物流入から守っていた面のある「海」を舞台とした密輸手口である「洋上取引」が続発している。洋上取引とは、海外からの運搬船と日本側の引取船が、公海等の洋上で接触して荷渡しを行い、あるいは運搬船が浮体を付けた薬物を海上に投下して去った後、引取船が回収し離島や地方港等を中継して移送するものであり、取締網を巧妙に避け大口の取引も可能な極めて悪質な手法である。

2 対 策

 薬物乱用対策においては、薬物の国内での不正な需要・流通を抑えるとともに、その供給を阻止することが不可欠であり、このためには、徹底した水際取締りにより密輸を阻止しなければならない。こうした認識の下に、取締機関は一丸となって密輸摘発に取り組んでおり、国内で押収される薬物の6割以上、覚せい剤については約7割を水際で摘発するなど成果を上げている。しかしながら、覚せい剤等の乱用状況が悪化していること等から、その背景には相当量の密輸が行われていると考えられ、その根絶のために情報収集の強化や取締体制の強化等対策の充実を図る必要がある。
 また、我が国の薬物の密輸問題は、世界的な薬物乱用問題を背景とするものであり、我が国の薬物問題の根本的な解決のためにも、諸外国における薬物の密造や流通を根絶するための国際協力等を進める必要がある。

(1)密輸等の情報収集の強化

 大口・巧妙化し、また、ルートが多様化する密輸を有効に取り締まるためには、犯罪組織の動きを先読みするべく、関係取締機関が一体となり、密輸の手口・ルート、犯罪組織等の解明を進める必要がある。このため、過去の摘発実績等の情報を集積・分析や、目標2に述べた組織犯罪対策等に加え、以下のような取組みが必要である。

(民間からの情報収集の強化)
 密輸情報の収集・分析に当たっては、関係取締機関間の協力のみならず、各種の民間団体等との間の協力関係の強化が重要と考えられる。具体的には、フリーダイヤル等を通じて広く市民から密輸情報を提供してもらうほか、国際貨物運送等に携わる業界等から不審貨物等に係る情報を、地方港・離島等の漁協等から不審船舶・不審人物等に係る情報を、それぞれ関係取締機関等に通報してもらう体制を作るべく、覚書(MOU)の締結、協力員の設置等を通じて協力関係を拡大・強化していく。

(国際的な情報収集の強化)
 薬物の密輸取締りの分野においては、迅速な情報交換等、各国取締機関との間での協力を強化することが重要である。関税協力理事会(WCO)を通じて、薬物の密輸の摘発状況等、密輸情報の収集強化に努める。WCOは各国からこれらの情報を収集・整理し加盟国に送付しているが、一部の国が情報を迅速に提供していない等の問題もみられ、我が国からも各国に対してWCOへの迅速な情報提供を働きかけ、情報収集の強化を図っていく。また、国連薬物統制計画(UNDCP)のアジア・太平洋海上薬物取締研修セミナーにおいて、海上薬物取締情報ネットワークの創設が決定されたが、これを設立し有効活用するために、我が国も必要な貢献を行う。

(シグニチャー・アナリシスのネットワーク構築)
 覚せい剤等は密造組織や密造地域により、合成経路、反応条件や原料物質が異なることから、押収品に含有される微量の不純物や副生成物等から当該品の密造地域等を推定すること(シグニチャー・アナリシス)が可能であり、このことは密輸対策上有意義な情報を提供するものである。現在、UNDCPや我が国を含む幾つかの国においてこの分野の研究が進められ、また実際の捜査への活用も行われつつある。この手法は大量のデータ蓄積により、より精度の高い推定が可能となるので、今後、国連や関係国の捜査機関、研究機関とのネットワークづくりによるデータ共有を通して、さらに効果的な手法として整備を図っていく。

(原料物質の輸出入対策の充実)
 アジアをはじめとする世界各国に対し原料物質規制をうたう1988年の国連条約への加盟、国内法制整備を呼びかけているINCBや、国際的な原料物質対策を進める米国、EUに対する協力を継続する。特に、INCB、米国等との情報交換、情報共有を推進し、薬物密造に関する国際動向の把握に努める。また、原料物質の輸出に先立ち輸出先政府に対して行う事前通報制度について、薬物密造対策の効果的な手段となるよう、国際的な連携の下、適切な運用に努める。

(2)密輸取締体制等の強化

 情報等に基づき密輸を確実に阻止しうる取締体制を構築するため、以下のような取組が必要である。

(取締体制の整備)
 取締要員等の配置については、密輸リスクの変化に迅速に対応し、不断の見直しを行う。このため、地方港等の密輸リスクに対応し、水際取締体制を強化する。また、近年の洋上取引の続発を踏まえ、洋上で薬物の受渡しが行われる可能性の高い離島や地方港周辺の海域における海上監視体制を強化する。また、ハイリスクな取締対象に所要のマンパワーを集中投入できるよう、各取締機関において内部の相互応援体制等を構築するとともに、取締機関間の共同取り締まりを積極的に実施する。

(取締機器等の増強)
 航空機旅客や商業貨物の取締りに有効な麻薬探知犬、X線機器等、海港取締りに効果的な監視カメラシステム等、海上取締りに係る資機材等について、所要の増強・配備を図るとともに、研究開発を進める。

(コントロールド・デリバリーの活用)
 国際郵便事犯等に適切に対応するため、関係機関の強固な連携の下、コントロールド・デリバリーの積極的な活用により、国外から我が国に流入する薬物の不正取引に関与する人物を、いわゆる黒幕まで特定して一網打尽にすることにより、薬物密輸・密売ルートを解明し、その根絶を図るよう努める。

(3)国際的な不正薬物の供給阻止

 アジア諸国をはじめとする国際的な不正薬物の密造・不正流通を阻止するため、以下のような取組みが必要である。

(アジア諸国等への取締協力)
 我が国への薬物供給を遮断するという観点から、覚せい剤の仕出し地である国や地域において効果的な取締りが展開されることが重要な課題であり、アジア諸国等に対して取締りの分野で国際協力を行うことは、供給源を遮断するという観点から有効であり、かつ、時宜を得た国際貢献策として国際社会でも歓迎されるものであろう。セミナー、ワークショップの開催、研修員受入れを行うとともに、ゴールデン・トライアングル及びその周辺諸国(ミャンマー、タイ、ラオス、中国、カンボジア、ベトナム)において薬物関連情報の収集を行うなど、これら諸国の取締機関等との連携を強化する。また、アジア諸国の取締機関の職員の技量向上に貢献するため、海上薬物取締能力向上促進事業、税関技術協力事業その他の研修活動を行う。

(国際機関への協力強化)
 国際的な薬物対策は、UNDCPを中心として、INCB、世界保健機関(WHO)、WCO、ICPO等が担っている。我が国はこれらUNDCP等の組織に対し、資金的な面のみならず、人的な面からも協力を継続、充実させる。また、WCOの地域協力の一環として設立されたアジア・大洋州地域の不正薬物の水際摘発情報等の集積・分析・配布を行う地域情報連絡事務所(RILO)が平成11年に我が国に移転することとなっており、移転を機にその活動の一層の強化に向けて協力する。

(ODAの活用等による国際協力活動の推進)
 我が国は昭和20年代の大規模な覚せい剤乱用の鎮静化に成功するなど覚せい剤対策に豊富な経験と知見を有しており、その分野は法制整備、取締体制、原料物質対策、乱用防止の啓発活動、覚せい剤等による中毒性精神病への医学的対策及びこれらに関する研究、技術開発等と多岐にわたる。それぞれの分野において我が国の中核機関に集積されている知見、ノウハウ等を、現在覚せい剤乱用問題に直面しているアジアの諸国に対して提供していくこととする。具体的には、我が国の覚せい剤対策の歴史や中毒性精神病の医学的知見等に関する海外の言語による資料の作成と提供、行政官、取締官、鑑定職員、医療関係者の養成、啓発資材の提供などを我が国の中核機関(行政庁、取締機関、大学、研究所等)において、主にアジア諸国からの要請に応じ、検討の上実施する。また、これらのODAの活用等による国際協力活動全体を覚せい剤乱用防止の国際協力プログラムとして、国際社会にアピールすることにより、覚せい剤対策分野の国際協力に向けた我が国の明確な意志表示を行う。

目標4 薬物依存・中毒者の治療と社会復帰を支援し、再乱用を防止する。

1 現状とその問題点

(1)薬物依存・中毒の実態

(薬物犯罪の再犯率の高さ)
 薬物犯罪の大きな特徴の一つは再犯が多いことである。例えば、覚せい剤取締法違反による検挙者のうち再犯者の占める割合(再犯率)は、第二次覚せい剤乱用期のピークを過ぎた昭和60年以降50%台で推移してきた。平成7年以降青少年の新規乱用者の増加により再犯率は低下し50%を切ったが、実数は増加している。薬物犯罪の再犯率が高いのは、刑罰の効果云々以前の問題として、乱用薬物には程度の差こそあれ共通して使用者に対し依存を形成する特性があり、その結果として乱用者が自己の制御をはるかに超える薬物への欲求に支配されるためである。

(薬物中毒症状の危険性)
 薬物中毒者(薬物の摂取によって体に何らかの危険な状態を呈している者)においては、幻覚・妄想等の症状が現れることがある。過去における数々の殺人事件を含む重大事件においても、犯人が覚せい剤等の乱用者であった例が見られる(昭和29年の「鏡子ちゃん事件」、昭和56年の「東京深川通り魔事件」、平成5年の「新幹線内殺人事件」等)。また、薬物使用を中止しても症状が持続すること、そして消失したかに見えても突然症状が現れること(再燃現象・フラッシュバック)が知られており、薬物中毒者に対しては継続的な医学的管理が必要である。

(2)薬物依存の治療と社会復帰

(完全な治療方法のない薬物依存)
 医療機関において治療が行われ薬物中毒症状が消失したとしても、薬物依存(薬物摂取を自らの意志で止められない状態)そのものを完全に治療することは困難である。覚せい剤をはじめとする各種薬物依存については、未だその発現の機序(メカニズム)が十分に解明されておらず、医学的に治療方法が確立されていないのが現状である。このため、現時点では、薬物と縁を切り、薬物への渇望を抑えながら、薬物を必要としない生活習慣を作ることを目指した幅広い取組みが重要である。これには例えば、薬物からの隔離、薬物使用に係わる人間関係の清算、規則正しい生活と社会参加、そしてそれらを可能にするためのカウンセリング、精神療法等が含まれる。したがって、薬物依存・中毒者対策に当たっては医療のみならず、家庭、教育、取締り、保健、福祉等あらゆる領域の有機的連携が必要である。そのための効果的な取組みについて、研究はまだ緒についたばかりである。

(薬物依存・中毒者の社会復帰)
 薬物依存・中毒者の完全な治療が極めて難しいことから、まず薬物を一度たりとも使用しないことが重要であるのはいうまでもない。しかし、一旦乱用が行われて依存が形成された者については、依存を消失・軽減させ、再び薬物を使用することを防ぐこと、すなわちアフターケアと社会復帰のための支援を行うことが必要である。薬物依存症例の分析によると、乱用後に職を失い、離婚する者が多いなど職業生活、家庭生活において薬物乱用が極めて深刻な結果をもたらすことが示されている。そしてこのことが覚せい剤依存・中毒者の社会復帰を困難なものとしている。薬物使用の大半は薬物乱用者に誘われてというきっかけで始められることから、社会復帰に対する支援は、本人の再乱用の防止のみならず、新たな薬物乱用者を作らないという意味でも重要である。

2 対 策

 薬物依存・中毒者に対しては、治療とともに薬物使用とそれにまつわる生活習慣からの脱却が重要であり、医療機関、矯正施設、地域等のそれぞれにおいて、次のような治療と社会復帰の取組みを行い、再乱用の防止を図ることとする。

(1)薬物依存・中毒者に対する治療の充実

(医療提供体制の整備)
 覚せい剤等の薬物中毒者に対する治療を充実させるため、医療提供体制を整備していくこととする。特に覚せい剤等による中毒性精神病患者(薬物の急性又は慢性の使用により生じた幻覚・妄想状態等の精神病状態を呈している者)に対しては、その症状発生の態様や患者の特性にかんがみ、治療施設において特別の環境整備を行うなどの配慮が必要である。このため、急性中毒患者に対する救急医療体制の充実を図るとともに、中毒性精神病患者を専門的に治療するための病床の確保等施設面における改善措置を講ずる。また、現在、医師に対して実施されている薬物依存に関する研修を拡充し、看護スタッフ等に対しても適切な講習の機会を設ける。なお、施設内で問題行動を起こす患者があれば、必要に応じて取締機関の協力を得ることを含めて適切な対応を図る。

(薬物依存、中毒性精神病の研究推進と情報提供)
 薬物依存の形成や中毒性精神病の発現の機序(メカニズム)の分子レベルにおける解明は、極めて困難とされてきた薬物依存の治療や再燃現象(フラッシュバック)への対応に途を開くものである。このため、関連分野における基礎的研究への支援を一層充実し、治療薬の開発など完全な治療方法の確立を目指す。世界的に見ても第二次大戦後いち早く覚せい剤乱用期を経験した我が国において最も中毒性精神病の研究の蓄積が進んでいることから、近年その脅威に晒されているアジア諸国等に対する国際貢献として、研究成果等の情報提供を積極的に推進する。

(2)薬物依存者・中毒者の社会復帰の支援

 社会復帰の支援には、薬物事犯に対する矯正施設等における対応から、薬物依存者の社会生活を支える民間の自発的な活動まで、様々な態様のものがあるが、それぞれにおいて施策や活動の充実を図ることが重要である。

(矯正施設等における対応)
 矯正施設においては、施設毎の特性に適した指導が行えるよう処遇技法の研究を行い、各種の研究を充実させることによって有能な指導者の育成を図る。また、被収容者に対する薬物乱用防止教育を行うにあたって、依存性薬物の健康面からの有害性と同時に、反社会性について理解させ、薬物乱用時の生活を真摯に反省させることによって、薬物使用断絶の強い意志を固めさせる。また、そのために効果的な教材を開発し、その整備に努める。同時に薬物依存の原因となったそもそもの原因の解決を図る観点から、指導者や民間協力者による面接等の相談体制を充実させる。児童自立支援施設においても、これ準じた対応を行う。

(保護観察による対応)
 仮釈放や保護観察付執行猶予に付された薬物事犯者については、薬物乱用への抵抗感の希薄さ、薬物乱用者仲間との付き合い、生活状況の乱れなどが引き金となって再乱用に至ることが多いことから、薬物乱用防止教育を一層強化するとともに、個々の状況に応じ、就労指導、家族援助等を行うことにより、生活の安定を図り、再乱用の防止を図る。

(地域における相談業務の充実)
 地域においては、薬物乱用・依存の早期発見と早期対応(相談、指導、教育、治療等)、さらには再乱用防止のために、薬物依存・中毒者のアフターケアと社会復帰を支援するための施策の充実が必要である。このため、警察、麻薬取締官事務所、保健所、精神保健福祉センター、児童相談所、福祉事務所等の公的機関における相談窓口の利用を促進するために連絡先等の周知を図る。また、精神保健福祉センターを中核として薬物乱用・依存に関する相談・指導業務のネットワークの整備を図り、関係機関相互の連携を確保する。さらに相談業務に従事する職員に対する研修を充実させるとともに、覚せい剤乱用防止推進員をはじめ民間のボランティアなど薬物乱用防止を支援する人的資源の活用を図る。

(依存からの離脱のための組織)
 薬物依存・中毒者の社会復帰を図る上で、薬物を使用しない規則正しい自立した生活習慣を身につけることが重要であり、通寮・入寮による共同生活が効果を有するものと諸外国において指摘されている。薬物依存・中毒者が依存からの離脱と社会復帰を目指して行う自発的な組織の活動に対して、社会全体としてこれを積極的に支援していくことが必要である。

薬物乱用防止五か年戦略用語の解説等