社会保障構造の在り方について考える有識者会議
21世紀に向けての社会保障
平成12年10月
社会保障構造の在り方について考える有識者会議
21世紀に向けての社会保障
- (社会保障の果たすべき機能)
- (社会保障と経済)
- (医学・医療の進歩と社会保障)
- (世代間の公平の視点)
- (持続可能な社会保障の構築に向けた方策)
- 1.支え手を増やす
- (支え手を増やす)
- (個人の選択に中立的な制度の構築
- (健康づくり・予防の推進)
- (子どもを産み育てやすい環境を整備する)
- 2.高齢者も能力に応じ負担を分かち合う
- (負担を若い世代と高齢者で分かち合う)
- (現在の現役世代と将来の現役世代)
- (高齢者の資産の問題)
- 3.給付の見直しと効率化
- (給付の基本的な考え方)
- (給付の効率化と合理化)
- (制度間の給付の調整)
- (年金給付の在り方)
- (高齢者医療の見直し)
- (効率的で良質な医療の確保)
- (介護・福祉について)
- 4 社会保障の財源の調達
- (社会保障の財政方式)
- (公費負担の在り方)
- (選択の幅)
- (負担を増大させても給付を確保していく選択)
- (負担を増大させずに給付を見直していく選択)
- (社会保障の進むべき途)
- (選択に当たって)
- (政策運営の在り方について)
(個人単位化について)
(在職老齢年金制度について)
(少子化対策の推進)
(外国人労働者の受入れについて)
21世紀に向けての社会保障
はじめに
いうまでもなく人間は孤立して生きているのではなく、社会の中で生きてきた。すなわち様々な困難に遭った時には、家族や地域によって支えられてきた。社会連帯の形としては、古くから地域社会における相互扶助があり、最近ではNPOのようなネットワークが発展しつつあるところである。今日、社会保障は、社会の発展とともに社会連帯の中心として位置付けられるに至っている。
社会保障の将来を考える際に、変化する社会の中で社会保障がどのような役割を果たすかを見定めなくてはならない。このためには、既に一世紀以上の歴史を経てきた社会保障システムがこれまで果たしてきた役割を、新しい社会環境の下で依然として有効に維持できるかという問題提起に答えなくてはならない。
第二次世界大戦下でイギリスの国家戦略として採用されたベバリッジ報告は、その歴史的文脈を離れて社会保障のプロトタイプとみられてきた。すなわち、個人的には負担しえない幾つかのリスク(疾病、失業、老齢化、労働災害)を社会保険を通じて社会的リスクとしてプールし、人々の生活水準の低下を予防しようとしたのである。もっとも、オーストラリアやニュージーランドのように、公的扶助の仕組みを中心とした例外的なケースや、依然として民間保険を中心としたアメリカの医療保険制度があることは、頭にとどめておく必要があろう。
社会保障システムを重視する見方は、やがて「福祉国家」(Welfare State)という国家観を支配的なものにし、1960年代には、先進諸国はすべて「福祉国家」であるという主張さえも受け入れられるに至ったのである。もっとも、「福祉国家」というときに、多くの人々が頭に描くのは、スウェーデンを中心とする北欧型の福祉国家、いわゆるスウェーデン・モデルである。
しかし、1980年代以降、イギリスのサッチャー首相に典型的にみられるような福祉国家に対する批判が影響力を持つようになり、1990年代に入ってからは、スウェーデン・モデルの可否が議論されるようになった。端的には、手厚い福祉サービスを中心に、これを賄うための税負担と保険料負担が国民所得の50%を超え、このような大きな政府は、経済の効率性を害し、結果において経済成長を阻害し、最終的には、経済厚生を低下させる危険性があるというものである。このような主張がどこまで妥当するか否かは依然として争点ではあるが、いずれにしても、高福祉・高負担が経済活動に中立的ではなく、所得再分配の役割を持つとしても、今後の社会保障システムのモデルとはなりにくいのである。
*
我が国の社会保障制度の歴史を振り返ると、第二次大戦後に、本格的に社会保障制度の構築が進められた。急速な工業化や都市化、核家族化など、戦後の我が国の経済社会の変化の中で、伝統的な家族や地域社会による相互扶助の機能が低下し、国民生活の安定を支える社会的な安全装置(セーフティネット)である社会保障制度は、不可欠なものとなった。このような状況の中で、1961年には「国民皆保険、国民皆年金」が確立するとともに、制度の充実が図られていった。
しかし、1980年代、1990年代に入り、少子・高齢化の傾向は加速し、社会保障を維持するための負担が増加することは避けられなくなった。さらに、現在の推計では、現役世代(20歳以上65歳未満)と高齢者(65歳以上)の比率が、現在およそ4:1であるものが、2025年には2:1になると見込まれており、国民の間にも増加する費用を将来の世代が負担しきれるか強い危惧がある状況となっている。
*
21世紀の社会保障を展望する際に、これまでの社会保障制度が前提としてきた様々な条件が失われつつあることを留意しなければならない。それは、急速な人口の高齢化のほか、家族関係が脆弱になり、経済成長が鈍化し、雇用をめぐる状況が不安定になりつつあることである。
南ヨーロッパや日本においては、家計の核とみなされてきた男性労働者の地位が、低成長やIT技術の発展によって脅かされつつあるにもかかわらず、女性労働者の雇用条件は、改善されているようにはみえない。20世紀の南ヨーロッパや日本において、社会保障制度の暗黙の前提になっていた男性労働者中心の家計は崩れつつあり、新しいタイプの社会的リスクが登場しているのである。人口の高齢化が急速に進行しつつある国々が南ヨーロッパや日本であることは、今後の社会保障制度が新しいタイプの社会的リスクを軽減するように仕組まれるべきことを示している。
社会保障制度は、社会条件が変わりつつあることを考慮しながら、社会的リスクの軽減という不可欠な役割を果たすことにこそ、その本来の役割があろう。
*
このような状況の中で、平成12年1月に、社会保障制度が将来にわたり安定した効率的なものとなるよう、年金、医療、介護など総合的に、かつ、給付と負担を一体的に捉えて検討するため、本有識者会議が設置され、社会保障の基本的な考え方や、給付と負担の在り方、社会保障の財源等について、検討が求められることとなった。
本有識者会議では、少子高齢化、経済成長の鈍化、家族形態の変化、労働市場の変貌などの21世紀我が国社会の構造変化を展望し、国民の社会保障に対する不安を解消し、将来にわたり持続可能で国民が信頼できる社会保障制度の構築に向けて、議論を重ねてきた。
議論の過程においては、まず、委員間で自由な討議を行い、論点を整理し、その後は論点に沿って数名の委員からレポートを受け、それを基に自由な議論が繰り広げられた。また、これからの社会保障を実際に担っていく若い世代の意見を聞きたいという故小渕前総理の強い希望を受け、若い世代からのヒアリングも実施した。
このようにして、発足以来、12回にわたる議論を行い、20世紀の社会環境とは大きく異なると予想される21世紀の状況の下で、社会保障制度が、その給付と負担の急激な増加によって制度自体の存続を脅かされることなく、国民生活にとって重要な役割を持続して果たしていくためにはどうすればよいかについて、提案や問題提起をとりまとめるに至った。
議論に当たっては、個別制度を網羅的に取り上げるのではなく、現在各方面で問題が提起されている点を中心に社会保障全体の基本的な方向を探ることに努めた。
この提言は、長期的に安定的な社会保障制度の構築に向けた社会保障改革の方向性について、最終的な選択を行う国民に対して、その判断材料を示すという立場から、まとめたものである。
この提言によって、社会保障の将来についての方向性が見出せ、特に若い世代が納得し、進んで参画でき、安心を託すことのできる社会保障が構築されることを願うものである。
本報告をもとに、国民的な議論が行われ、賢明なる選択がなされることを期待したい。
T 社会保障の役割
(社会保障の果たすべき機能)
- 21世紀の我が国社会は、何よりもまず、個人が一人ひとりの能力を十分に発揮し、自立して尊厳を持って生きることのできる社会にしなければならない。
- このため、自らの生活を自らの責任で営むことができるよう、働く意欲のあるものには働く場が確保されるなど、個人が生活していく上での基本的条件を整備する必要がある。
- それとともに、広く国民を対象にして、個人の責任や自助努力では対応し難いリスクに対して、社会全体で支え合い、個人の自立や家庭の機能を支援し、健やかで安心できる生活を保障することを目的とする社会保障制度は、不可欠なものである。
- 社会保障は、これまで、国民の相互扶助と社会連帯の考え方に支えられ、その対象や範囲、給付内容等を拡大し、今日では、所得を保障する制度としての年金制度と生活保護制度、医療や介護のリスクに対応する医療保険制度と介護保険制度、障害者福祉や児童福祉等の現物給付サービス、公衆衛生サービス、失業や労働災害のリスクに対応する雇用保険や労災保険等の各制度が重層的に整備されている。とりわけ、生活保護制度については、他の社会保障の諸施策によっても最低限度の生活が維持できない場合に、国民を困窮から救う制度として位置付けられている。
- また、社会保障の規模は69.4兆円と、国民所得比17.8%の大きさに達し(1997(平成9)年度)、社会的な安全装置(セーフティネット)の役割をはじめとして所得の再分配、リスクの分散、社会の安定化と経済の安定・成長を支えるという機能を果たしている。
- このような機能を果たす社会保障なくして国民生活の安定は望めないし、21世紀において我が国が目指すべき社会を形作ることはできない。社会保障は、個人の自立、自助努力を基礎とした国民連帯の中心として位置付けられるものである。
- 我が国は、21世紀に向けて、少子高齢化、経済成長の鈍化、家族形態の変化、労働市場の変貌など急激な社会構造の変化の中にあるが、その中にあっても様々なリスクへの対応、困難に直面した人々への社会全体での支援という社会保障の機能は維持していかなければならない。それは、現行制度の維持ということではなく、むしろ不断の見直し、必要な改革を進めることを通じて、社会保障の果たすべき機能を保持していくということである。
(社会保障と経済)
- 今や、社会保障の規模は拡大し、年金等の給付やそれを賄うための社会保険料及び税による費用の調達が国民の消費活動にも大きな影響を及ぼす状況となってきた。また、年金資金は金融市場においてその影響力を増大させ、医療、福祉等が成長産業として経済発展や雇用の創出効果をもたらすなど、社会保障は多方面にわたり国民経済と密接なかかわりを持つに至っている。
- 特に、社会保障が、そのサービス領域の拡大に伴い、多くの雇用市場を創出しているほか、社会構造の変化(女性の社会進出、世帯構造の変化、雇用形態の変化等)に対応し、育児や介護などのサービスの「外部化」により、例えば育児や介護のために若年労働力が奪われるような事態を防ぐとともに、国民の「安心感」を醸成し、消費活動を支えており、特に経済が悪化した場合においては、消費を安定化させる効果がある。このように社会保障が我が国経済に寄与していることを考えると、社会保障を単にコストとしてのみ考えることには慎重でなければならないが、一方で、社会保障を過度に拡大することは、経済社会の活力を損ないかねないという問題もある。
- 我が国経済は、中長期的に潜在成長力の低下が懸念される中で、バブル崩壊後の長期にわたる景気低迷から、巨額の財政出動を余儀なくされている。その結果、国・地方の財政状況は極めて厳しい状況に陥っているとともに、歳出・歳入両面において構造的な問題を抱えており、経済成長のみで現在の巨額な歳出・歳入ギャップが著しく改善することは期待できない。社会保障制度を支えるべき経済及び財政基盤は、いま根底から大きく揺らいでいると言わざるを得ない。
- そのような中で、経済成長が社会保障制度を支え、社会保障が需要創出を通じて経済成長に寄与するという相互の密接な依存関係を考えれば、将来にわたり持続可能な社会保障を維持していくため、望ましい社会保障制度を維持し得る活力ある経済の実現が求められる。一方で、社会保障は、民間活力の有効活用など官民の役割分担にも配慮しつつ、その活性化に寄与できるよう設計されなければならない。
(医学・医療の進歩と社会保障)
- 医療は社会保障の中で大きな位置を占め、これからの医療の在り方は、社会保障の将来を大きく左右する。人類と疾病の長い歴史を通じ、医療は多くの疾病を征圧してきた。経済成長に伴う国民の生活水準の向上や生活環境の改善とあいまって、我が国医療の進歩が、世界一の長寿国を実現してきたことを、我々は体験してきた。
- このような医学・医療の進歩の成果を国民に均霑する上で、皆保険制度が大きな役割を果たしてきた。
- 近年の遺伝子の解析等による新たな医療技術の開発は、個人の特徴に応じた個別的な医療・予防医学や遺伝子治療を可能にするなど、これからの医療の在り方を大きく変える可能性を持っている。21世紀には、特に、疾病の予防や健康づくりの分野で大きな成果が期待され、国民の健康寿命を伸ばし、明るく活力ある高齢社会の実現をより確実なものとするであろう。
- こうした医学・医療の進歩がもたらす効果は、将来の社会保障の姿を大きく塗り替える可能性を持つが、現時点においては予測しがたい面もある。また、社会保障にとっては、医学・医療の進歩の成果をどのように取り入れていくかが、大きな課題となるであろう。
U 持続可能な社会保障
(世代間の公平の視点)
- 社会保障の将来について、現役世代の9割以上が何らかの不安を感じており、特に若い世代においては、持続可能性や将来の負担増への懸念を理由としている者が多く、世代間の不公平感が強く意識されている状況にある(*1)。
- 年金給付の主たる対象者は高齢者であり、生涯の医療費の半分以上が高齢期に必要になる。その一方で、我々は、現役世代(20歳以上65歳未満)と高齢者(65歳以上)の比率が、2025年までの四半世紀の間に、4:1から2:1になるような、急速な人口構成の変化を前にしている。このような状況の中で、世代間に負担の違いが全くない支え合いのシステムを考えることは難しい。
- 世代間の不公平論議については、
@ 社会保障制度における世代間の不公平と指摘されているもののかなりの程度は、社会保障制度がなければ少子化に伴って家庭における老親の私的な扶養や介護の負担が増大したものを、結果的に社会保障制度が肩代わりしていると考えられること
A 世代間の不公平を論ずるのであれば、教育や相続など社会の営み全体で論じることが必要であり、前世代から受け継いでいるものもあることを考えると、一方的に負担増のみを負っているのではないこと
を、まず、出発点に考えなければならない。
→【補論1】世代間の公平をどのように考えるか
- しかしながら、増加する高齢者の社会保障に要する負担をそのときの現役世代のみに求めていけば、不公平感はますます強くなり、持続的なシステムは構築できない。持続可能なシステムを構築するためには、より世代間に公平なものとしていく努力は欠かせない。
- ここでは、給付と負担の在り方について、世代間の公平を論じたが、公平が求められるのは、世代間の公平だけでないことはいうまでもない。世代内の公平の観点も十分に配慮する必要がある。
(持続可能な社会保障の構築に向けた方策)
- 社会保障においては、負担なくして給付はあり得ず、打ち出の小槌はない。持続可能な社会保障としていくためには、給付と負担のバランスが重要である。人口構成が変化し、後代ほど負担が大きくなる構造にある中で、給付と負担のバランスをとっていくためには、負担の裾野を拡げることと、給付の増加を抑えることが考えられる。
- このために考えられる方策としては、
@ 増加する負担を担う支え手を増やすことや、
A 高齢者も能力に応じ負担を分かち合うこと、
B 給付の在り方を見直し効率化することにより給付全体の増加をできる限り抑えること
が必要であろう。また、どのような形で負担が行われるかという点では、社会保障の財政方式や財源の問題もある。
1.支え手を増やす
(支え手を増やす)
- 年齢や性別、障害の有無にかかわらず、国民誰もがその意欲に応じて社会に参画できるようにすること、働く意欲を持つ者が働くことができる社会としていくことが求められている。
- このため、性別や年齢、障害を理由に、働くことを妨げられることのないような環境整備を進める必要がある。女性の就労については、雇用機会の確保と男女の均等を徹底すると同時に、育児や介護などのために就労が阻害されないよう、保育、介護サービスの確保や育児休暇、介護休暇をとりやすく、職場復帰しやすい雇用環境の整備、雇用慣行の見直しなどの対策が必要である。
- また、高齢者の就労促進のためには、まず、65歳まで働くことを希望する者は働き続けられるよう、再雇用や継続雇用等雇用を確保していくとともに、就労促進の妨げになっている定年退職制度を見直すなど、雇用における年齢だけを理由とする不利な取扱いを改める必要がある。あわせて、バリアフリー化など高齢者が暮らしやすいまちづくりや通勤しやすい環境の整備なども高齢者が働き続けられるようにするために重要である。
- さらに、障害だけを理由とする雇用上の不利な取扱いの禁止、障害者が働きやすいバリアフリーの職場環境の整備を企業に求めることなども必要であろう。
- 21世紀初頭には我が国の総人口が減少に転じ、まさに21世紀が「人口減少の世紀」となる中で、意欲に応じ働くことができる社会としていくことは、社会保障の負担の担い手を増やし、給付と負担のバランスをとっていくことに寄与することになる。
(個人の選択に中立的な制度の構築)
- また、社会の諸制度は、就労に中立的であることが望ましく、少なくとも就労することで不利な扱いとなる制度については、その見直しが必要である。特に、社会保障制度や税制においては、この観点が重要である。
- 税制や社会保険で被扶養配偶者としての扱いを受ける収入の前後で、就業を調整する実態がみられる。
- 年金制度においては、現行の制度は世帯を単位とした考え方が組み込まれたものとなっているが、経済の担い手として自立して働く女性という視点で年金制度の在り方を考え、現行制度を個人単位に改めるべきであるとの要望があり、将来的には個人単位に改めるなど、必要に応じて見直しを行うべきである。
具体的には、被用者の被扶養配偶者が自身の保険料納付が不要な第3号被保険者と位置付けられていること、厚生年金の水準が世帯を単位に議論されてきたこと、遺族年金制度があることなどが指摘されている。
- 一方、実際に個人単位化を進めるとした場合には、所得のない専業主婦にも負担を求めることとなったり(*2)、遺族年金の廃止や給付設計の変更などを行うことになり、現実の女性の就労実態等を踏まえ、慎重に検討する必要があるとの指摘もある。
- 社会保障制度については、個人の選択に中立的な制度にしていくとの考え方に立って、より公平かつ合理的な制度の設計に向け、見直すべきである。その際、賃金が低い、ライフスタイルの変化が大きいなど現に女性のおかれている社会実態をも踏まえた検討が求められる。
→【補論2】個人の選択に中立的な社会保障の在り方
- さらに、パートタイマー、派遣労働者等就業形態は多様化してきているが、これらの者については、現在の社会保障制度においては、被用者保険の対象の外におかれることが多く、就業形態によって社会保障制度における取扱いに差が生じていることを考えると、これら雇用形態の多様化に対応できるよう、制度を見直すべきである。
(健康づくり・予防の推進)
- 加えて、生涯を通じて、健康で生きがいを持ち、できる限り自立し、要介護状態にならないことが重要である。健康づくり、疾病・介護予防に向けた個人の努力と行政や地域社会による支援、さらに医学・医療の進歩の成果がこの分野に活かされることを期待したい。
(子どもを産み育てやすい環境を整備する)
- この四半世紀における少子化の急速な進行によって、今日生産年齢人口の減少が現実のものとなっている。このまま現在の少子化状況が続くことになると、2025年以降の現役世代と高齢者の比率はさらに厳しいものとなる。
- 持続可能な社会保障制度の構築という視点に立てば、このような少子化状況の流れを変えるために、より積極的な対応策を採ることが望まれる(*3)。
- 今日の先進国の状況をみると、男女共同参画の進んだ国ほど出生率が高い傾向がみられることから、若い世代が仕事と子育てを両立できるよう、雇用環境の整備、利用者のニーズに対応した保育サービスの確保を図っていく必要がある。
- 現在、社会保障給付費の65%が高齢者関係給付であり、特に年金給付の規模の拡大が著しいことなどから、我が国では社会保障は高齢者のみに行われているととられがちである。社会保障が国民のライフコースを通じて全体としてバランスのとれた安全装置(セーフティネット)として若い世代の理解・信頼を得るためにも、真に少子化対策に有効な施策については、積極的に実施していく必要がある。
→【補論3】少子化対策等
2.高齢者も能力に応じ負担を分かち合う
(負担を若い世代と高齢者で分かち合う)
- 近年の社会保障の給付の増加の大半は高齢者を対象者とする給付の増加によるものとなっており、高齢者をどう捉えるかが、今後の給付と負担の在り方を考えていく上での中心課題となる。
- 今日の高齢者の経済状況は、フローにおいて、総じて現役世代と遜色ないものとなっており、ストックにおいても、若年世代より大きな資産を保有している状況にある。
- 高齢者全体の7割の者にとって、所得の半分以上を公的年金を中心とする社会保障給付が占める(*4)ことにみられるように、社会保障制度は、高齢者の生活の安定に大きな役割を果たしている。
- その一方で、現行の制度においては、高齢者を一律に弱者として捉え、優遇措置をとったり、支援の対象とみる考え方に基づく制度が存在している。
- 今後、社会保障の負担の増加が見込まれる中で、給付と負担のバランスをとっていくためには、このような考え方を転換し、高齢者であっても負担能力のある者には適切な負担を求めていくことが重要である。
- 具体的には、高齢者の所得課税については、老年者控除等に加えて、社会保障制度との関連では、公的年金収入に対して公的年金等控除が適用になっている。公的年金等支払金額34.3兆円のうち、源泉徴収の対象となっている部分は2.3兆円にすぎない(平成9年度調査)ことにみられるように、公的年金収入については実質的に課税されておらず、世代間の公平や高齢世代内の公平の視点に立った税負担の適正化を図っていくことが課題である(*5)。
- 医療保険制度においても、高齢者(老人医療の受給対象者)の医療費の自己負担は若年層に比べて低額に抑えられており、平成10年度における高齢者医療費約11兆円のうち、高齢者が負担しているのは、自己負担約0.8兆円と、高齢者が加入する医療保険制度が徴収する保険料約0.9兆円にとどまっている状況にある(*6)。
- もとより、高齢者の経済的実像は一様ではなく、例えば、高齢単身女性については総じて所得が低い(*7)との指摘もある。また、高齢になるほど心身の状態像は多様化するとともに、医療や介護のニーズは高まる。これらの点に配慮しつつ、高齢者であれば一律に優遇するのではなく、高齢者それぞれの経済的能力に見合った税負担や、社会保障制度における保険料負担、自己負担を求め、これから増加する負担を若い世代とともに分かち合うことが必要である。
(現在の現役世代と将来の現役世代)
- 同時代の若い世代と高齢者の間の関係とともに重要なのは、現在の現役世代と将来の現役世代との関係である。例えば、年金制度において、保険料引上げの速度を速め、高齢化率が安定するまでの間、積立要素を強めた制度運営を行うことは、より重い負担を負うこととなる将来世代に代わって、現在の現役世代がその負担を少しでも負うこととなり、より世代間に公平なシステムとすることができる。
- 逆に、保険料引上げを遅らせることは、世代間の公平の観点からはマイナスとなり、このような考え方に立てば、少なくとも、現在行われている、厚生年金、国民年金の保険料の引上げの凍結は、早期に解除することが必要である。
→【補論4】積立方式への移行と二重の負担
(高齢者の資産の問題)
- 高齢者は、若い世代と比較すると、資産を多く保有している(*8)が、主に若年の世代の負担で担われている社会保障給付が充実し、老後扶養をより社会的に支えることにより高齢者の資産の維持に寄与する一方、最終的な相続の時点では、ほとんどの場合社会的な負担を求められることがなく、その資産は私的に移転している現状にある。
- この点に着目すれば、社会保障制度の外側の問題ではあるが、資産の保有や相続に着目してより広く税負担を求めることは、給付と負担のバランスをとる方策の一つとなり得ると考えられる。
- また、高齢者の中には相当の資産を有しながら、フローの所得に乏しいため、負担能力がないとされている者がいる。
- しかしながら、高齢者の資産構成をみると、住宅宅地資産の占める割合が高く(*9)、その資産を活用して生活費用を賄い、社会的な負担を求めるためには、高齢者が住み続けながら、その住宅宅地資産を現金化する方法が求められる。このような需要に対応して、一部の金融機関と地方自治体によりリバース・モーゲージが行われているところであるが、その利用は限られたものとなっており、今後、本格的な普及に向け、法制面における検討も含めた必要な環境の整備が望まれる(*10)。
3.給付の見直しと効率化
(給付の基本的な考え方)
- 我々の社会においては、生計は、基本的には個々人の責任と努力に委ねられている。
- 社会保障は、このような個人の自立、自助努力を基礎とする我々の社会の在り方に適合したものでなくてはならず、個人が様々な困難に直面した場合に自助努力を補い、支える安全装置(セーフティネット)の役割を果たすべきものである。セーフティネットの役割を果たすために、必要な給付は確実に保障されなければならない。
- また、国民が直面する様々なリスクについては、社会保障に加え、企業年金や民間保険などの民間部門の活用など多様な手段の組合せによる対応も視野に入れる必要がある。
(給付の効率化と合理化)
- 社会保障は、ともすれば過剰給付やモラルハザードが発生しやすく、また、一旦始めた給付を引き下げたり、廃止することは困難であり、既得権益化しやすい側面がある。社会保障が社会全体の支え合いにより成り立つ以上、給付を受ける者と負担する者の公平に配慮し、効率的な制度となるよう不断の見直しが必要である。
- あわせて、社会保障制度が複雑になると、制度の理解が進まず、制度の内容を熟知したもののみが給付を受けられるという事態が生じやすい。できるだけわかりやすい仕組みであることが望ましい。
(制度間の給付の調整)
- 社会保障制度については、年金、医療等個別の制度ごとに制度改正が行われてきており、その相互間の調整が十分でなく、全体としての社会保障給付が効率的に提供されていないとの批判がある。
- もとより、年金、医療など個別制度はそれぞれ異なるリスクに応じて別建てされているものであるが、これまでも、老人医療・老人福祉制度の再編成による介護保険制度の創設など、社会保障制度を総合的・効果的に機能させる観点からの見直しが行われてきた。
- 今後とも、各社会保障によってカバーされていない分野で真に公的社会保障としての保障が必要なものがないか検証していくとともに、例えば、年金を受給しながら長期に入院・入所している者の生活保障(特に、いわゆるホテル・コストと呼ばれる住居相当費用部分)など、各社会保障制度の間に給付の重複がある部分については制度横断的な視点から整理していく必要がある。
(年金給付の在り方)
- 社会保障の給付の基本的な考え方を敷衍すれば、年金制度においては、公的年金を基本としつつ、勤労収入、私的年金や貯蓄等の自助努力とを組み合わせて老後生活に必要な費用を賄うことを想定しており、老後の生活すべてを公的年金により賄うという考え方はとり得ない。この観点から、高齢者の経済状況や男女の就業実態の変化なども踏まえつつ、公的年金の給付設計、高額所得者への年金給付の在り方など幅広く検討する必要がある。また、今後の就業構造の変化等に対応し、公的年金制度を安定的に運営できるよう制度の一元化の方向を目指すべきである。このことは、制度間の移動に伴う手続きの煩雑さの解消にも資する。
- なお、年金の水準については、
@ 現役世代、将来世代の負担を過重なものとしないため、経済的弱者への配慮を前提にした上で、給付水準の引下げを検討すべきという考え方が示される一方、
A 平成12年の改正により将来に向けた給付総額の伸びの調整が行われた結果、受給できる年金額は引き下げられており、さらに一律に給付水準の引下げを行うことは年金制度に対する信頼を失わせるおそれがあり、行うべきではないという考え方も示された。
この問題を考えるに当たっては、生涯に支給される年金の総額(例えば、支給開始年齢の設定の仕方によって変わり得る)で考えるのか、年金への課税を考慮した場合、課税される前と後のいずれで考えるのか、様々な考え方があり得ることに留意する必要がある。
→【補論5】年金給付の在り方に関する議論
(高齢者医療の見直し)
- 今日、老人医療費のために保険者が拠出している拠出金は、保険者の支出の3割を超えている(*11)。現行の老人保健制度は、このままの姿ではこれ以上立ち行かないという点で関係者の間には合意があるが、これに代わる姿を見出すには至っておらず、今後、早急にその見直しを具体化しなければならない(*12)。
- 老人医療費については、患者負担、保険料及び公費の組合せで賄うしかない。持続可能性のある安定的な制度とするために、世代間や制度間の負担の公平という観点から、高齢化が急速に進行する中で、増大する医療費をどのように負担していくか、患者負担、保険料負担、公費負担の在り方について考える必要がある。
- その際には、
@ 今後、医療リスクに比して保険料の負担能力の低い高齢者(*13)が急速に増加すること
A 老人医療費が増大する中で、特に、若年世代が中心となって負担している老人保健拠出金の負担が、保険者の財政に重くのしかかっていること
B 負担能力が低い被保険者を多数抱える国民健康保険は、今後の高齢化等に伴って一段と厳しい財政状況となることが見込まれること
C 高齢者にも負担能力に応じ適切な負担を求めるべきこと
D 国、地方の財政状況が危機的な状況にあること
を踏まえなければならない。
→【補論6】新たな高齢者医療制度に関する意見
- どのような負担の仕組みをとるにしても、医療費、特に伸びが著しい老人医療費については、経済の動向と大きく乖離しないよう、何らかの形でその伸びを抑制する枠組みをつくらなければならないのではないか。
- さらに、生涯を通じた健康づくりを進め、国民の健康寿命を延ばし、自立を支援する取組を進めるとともに、健康管理や生活指導等を重視した高齢者の心身の特性にふさわしい医療を確立していく必要がある。
- また、できる限り本人の意思を尊重し、尊厳をもって安らかに最期を迎えることのできる医療の在り方を模索していくことがこれからの課題である。
(効率的で良質な医療の確保)
- 医療費の地域間格差、国際的に見ても長い入院期間、人口当たり病床数の多さなど我が国の医療の現状について検討すべき事項は多い。医療に無駄、非効率がないかどうか、医療を提供する側、受ける側のコスト意識の喚起を含め、改めて点検し、見直していかなければならない。
- また、国民が良質で安心できる医療を受けられるためには、医師と患者との信頼関係が確立されるとともに、国民が医療に関する情報を得ることができるようにしていくことが求められる。このような観点から、カルテやレセプトなどの医療情報の開示、医療機関の第三者評価などを一層進めるとともに、ITなども活用しながら、科学的根拠に基づいた医療を確立していく。
(介護・福祉について)
- 介護・福祉については、NPO、企業などをサービスの担い手として最大限活用できるよう、多様な事業者の参入・競争等を通じた利用者の選択の拡大、規制の緩和、サービス内容の情報公開、利用者の権利擁護等を進め、サービスの質の向上と効率化を図っていくことが求められる。
- そのため、サービスの担い手たる人材の質量両面にわたる確保が必要である。人材には、対人サービスの特性から、サービス提供に必要な専門的な知識や技能のみならず、高い倫理性や豊かな感性が求められることから、今後とも養成・研修の充実を図ることが重要である。
- 発足間もない介護保険制度については、介護を必要とする高齢者の自立を、高齢者自身も制度の担い手としつつ、社会全体で支えるという制度の意義を踏まえ、その定着を図るとともに、今後の運営実態をよく見極めた上で、真に国民にとって必要な介護サービスが円滑に提供されるようにしていくことが求められる。その際には、地域住民の参画を通じて、地域の実情や利用者の希望が反映され、地域の創意工夫を活かした制度運営がなされることが重要である。また、介護保険制度下におけるサービスの提供状況を踏まえ、介護サービスの担い手でもある社会福祉法人の役割・在り方についても検討すべきである。
- あわせて、介護予防、生活支援の取組など、地域において高齢者の自立を支援する活動が、行政と、地域社会の相互扶助活動やNPOの活動とのパートナーシップにより充実していくことが期待される。ボランティアやNPOの活動の重要性はこれまで以上に大きくなり、社会保障を補完する大きな役割を担ってくることは確実である。
4 社会保障の財源の調達
(社会保障の財政方式)
- 現在、我が国の社会保障給付費は、69.4兆円に達しているが、その大部分を占める年金、医療制度は社会保険方式によって運営されている。社会保障給付費は、過去30年間、対国民所得比で約3倍となったが、その財源の過半は、社会保険料によって賄われてきている(*14)。
- 我が国の社会保障の歩みを振り返ると、終戦直後は、税を財源とする生活保護制度により、生活困窮者に対して資産、所得などに関して資力調査(ミーンズテスト)を行った上で最低限度の生活を保障することが社会保障の中心であった。その後、広く国民一般を対象として老齢や疾病等により貧困に陥ることを防止するため、公的年金、医療保険などの社会保険制度が導入され、1961年に「国民皆年金・皆保険」体制が確立された。
- このような特定の者を対象とする「救貧施策」から、国民一般を対象とする「普遍施策」へという流れは、多くの諸外国に共通するものであり、これに要する財源調達の方法としては、主要国では社会保険方式を採用する国が多く、我が国も同様の方法を採ってきた。
- これに対し、社会保険方式においては、特に国民年金において、未納、未加入等の問題があり(*15)、国民に普遍的に給付を保障することはできないので、税方式を採用すべきとの意見がある。
- また、現在の国民年金の定額保険料による負担は逆進的であり、今後、保険料の引上げによってさらに逆進性が強まることや、保険料徴収コストが増大すること、第3号被保険者の問題の解決に資することも理由と挙げられている。
- この意見の中には、特に、その財源として、国民全体で広く支え合うことができ、経済活動に比較的中立的な消費税を検討すべきという意見があり、さらに、これを目的税とすべきとの意見もある。
- このような指摘がある中で、改めて社会保険方式の意義について考えてみたい。
- 社会保険方式は、個人が保険料を拠出する形で、将来の生活困難リスク(所得喪失、医療・介護ニーズの発生)に対する「事前の備え」を相互扶助により行う仕組みであり、あらかじめリスクに備えるという予防的性格を持つ。また、それは自立した個人による自助努力を前提にいわば「自助を共同化した」仕組み(共助)といえる。
- また、社会保険方式は原則「拠出なくして給付はない」「拠出に応じて給付がなされる」仕組みであり、給付と負担が連動することから、そのバランスを踏まえ国民が給付と負担を選択できる。さらに、一旦拠出された保険料は給付の根拠となり、給付はその負担に基づく権利として確定されることから、国民に安心感を与え、負担に対する理解を得やすいことを特徴として挙げることができる(*16)。
- 社会保険方式と比較して、基礎年金を全額税により賄う場合においては、
@ 税財源により原則として年齢要件のみで給付が受けられるという制度は、社会的リスクに対して共同して事前に備えるという考え方に逆行しないか、
A 税財源であるが故に配分の公平性がより強く求められることにより、あるいは、財政制約により、給付の水準や対象者が限定され、普遍的な給付の確保にならないのではないか、
B 給付に必要とされる巨額の財源を税により確保できるか(*17)、
C 現在事業主が負担している社会保険料が、個人の税負担に置き換わることについて、どのように考えるか、
D 現行方式からの円滑な移行が可能か(*18)、
等の点が指摘されている。
- 以上のような諸点を考慮した場合、各人の自助努力を補う社会保障制度の費用を賄う方法としては、生活困難のリスクに対する事前の備えを共同で行い、制度への貢献に応じて給付が行われる社会保険方式を主としていくのがふさわしいと考えられる。
- 社会保険方式を主としていくことがふさわしいとしても、現在の基礎年金制度では当年度の給付に必要な費用は、現在の被保険者により支えられる仕組みになっているため、当年度に未納・未加入によって支払われなかった保険料の分、他の者の保険料負担が重くなる構図となっており、この点では、給付と負担の連動が徹底されていないという問題がある。国民が公平に費用を負担し、必要な給付を受けられる仕組みとしていく必要がある。
→【補論7】社会保険方式と皆年金
- この観点から、未納、未加入の問題に対しては、社会保険方式は強制加入の枠組みを前提に成り立つものであることから、納付しやすい工夫や厳正な適用と保険料徴収の推進を図ることが必要である。
- なお、個々の制度設計に際しては、その目的と実態にあわせて、社会保険料と公費負担の適切な組合せを図る必要がある。
- 社会保険を運営する事務機構は、一層その効率化を求められることはいうまでもなく、被保険者カードの導入、事務処理のIT化の促進など事務処理の効率化や情報提供の充実など国民へのサービスの向上を進める必要がある。
(公費負担の在り方)
- 現行の社会保険制度では、国民が選択した給付の水準を賄う財源については、保険料と公費により賄われており、一種の混合方式の面もある。社会保険制度における公費負担の機能、位置付けをどのように考え、それに対応した公費負担の在り方をどのように考えるかが議論となる。
- これまでも、社会保険制度において公費の負担が投入されてきたが、これは、主に拠出が困難な者も保険制度においてカバーして適切な保障を及ぼすという観点などから行われてきたと整理できる(*19)。
- これまでの考え方を敷衍すれば、今後、所得水準の上昇以上に保険料水準の上昇が避けられないならば、相対的に拠出が困難な者が増えることとなり、これらに着目した公費負担の必要性も高まることとなる。
- また、保険料負担は、拠出と負担の関係が明確という利点を有するものの、所得税や住民税のかからないような低収入の世帯や、赤字企業からも負担を求める構造になっており、保険料水準の上昇は、制度の不安定を増すことになる。
- 今後、保険料水準の上昇幅が大きいと見込まれる年金制度に関し、平成12年の年金改正法附則第2条では、「基礎年金については、給付水準及び財政方式を含めてその在り方を幅広く検討し、当面平成16年までの間に、安定した財源を確保し、国庫負担の割合の2分の1への引上げを図るものとする」とされており、これをどのように行っていくかが課題となっている(*20)。
- 国庫負担割合の引上げについては、多額の安定財源の確保が必要であり、さらに高齢化の進展に伴い所要財源が増加するという問題があるが、その財源として国民が薄く広く負担し、経済活動に比較的中立的な消費税をどのように活用すべきか検討する必要があるとの意見がある。
- また、国庫負担割合の引上げについては、将来の負担軽減の観点からは、
@ 社会保険料負担と税負担とをあわせてみた場合全体の国民負担は変わらないこと、
A 消費税を財源として国庫負担を引き上げた場合、あらゆる世帯がそれを負担することになること、高齢者の受け取る年金額が物価スライドすることから、その負担の大部分は若年世代に帰着すること、
B 国庫負担引上げのための財源は財政全体の歳入・歳出ギャップの解消にはつながらないこと
に留意が必要である(*21)。
V 21世紀の社会保障に向けての国民の選択のために
(選択の幅)
- 持続可能な社会保障としていくためには、給付と負担のバランスを考えていかなければならない。
- 今日、給付と負担に関して、我々が置かれている状況を分かりやすく示すと、将来に向かって我々がとり得る選択は、
@ 負担を増大させても、現行のままの給付を確保していく
A 負担を増大させずに、給付を見直していく
という2つの極の幅の中のいずれかにある。
(負担を増大させても給付を確保していく選択)
- @の選択が意味することは、社会保障に係る給付が国民所得比で、2025年に現在の約1.5倍にまで増加し、それを賄う負担も現在のドイツ・フランスとイギリスの間の水準に上昇するということである(*22)。
→【付 表】社会保障の給付と負担の見通し
- 2025年にかけてこのように増加する負担について、将来の負担の中核を担う若い世代の理解を得ることができるのか、将来世代の現実的な負担能力を前提として給付の在り方を考えていくべきではないか、という点について考える必要がある。
- また、従来から、社会保障と経済の関係について、個人のレベルでは、勤労意欲を削ぐ程の過度な負担や過大な給付となった場合などに、また、マクロ経済レベルでは、公的部門の拡大によって民間部門を圧迫した場合などに、経済社会の活力を損なうおそれがあることが懸念されている。
- なお、年金制度については、平成12年の改正により、将来世代の負担を過重なものとしないという観点から、将来に向けた給付総額の伸びを抑え、改正前における将来の給付総額を2割程度削減する措置をとり、報酬比例部分の支給開始年齢の65歳への段階的な引上げ、65歳以降の年金額の物価スライドのみの改定、報酬比例部分の給付の5%適正化、60代後半の在職中の年金額の調整が実施されることとなっており、既に、2025年に向けて給付の見直しが行われていることに留意が必要である。
(負担を増大させずに給付を見直していく選択)
- 次に、Aの選択が意味するものを具体的な制度に即して考えてみたい。
- 年金については、平成12年の改正により、保険料率を最終的には27.8%まで引き上げることとなっている。負担を現在の水準より増大させない場合にどのような姿になるかを明らかにするため、仮に、厚生年金の保険料を現行の水準(17.35%)にとどめる前提で試算すると、将来に向けた給付総額の伸びをさらに抑え、平成12年改正により縮減した給付総額をさらに4分の1程度削減することが必要となる。これは機械的な試算であり、現行制度からの円滑な移行を含め、無理のない形で制度が設計し得るか検討を要する。
- また、現在、自営業者等に賦課される国民年金の保険料は13,300円となっているが、負担増を抑えるため、保険料額の改定を実質価格の推移にとどめた場合、基礎年金の水準は現行の6割程度となる。
- 医療については、今回の厚生省推計によれば(*23)、医療給付費は平成12年度24兆円から平成37年度には71兆円となる見込みであり、年率4.4%の伸びとなっている。これを、患者の自己負担を含めた医療費でみると、平成12年度29兆円から平成37年度には81兆円となる。
- 仮に、医療に関する国民負担を増加させない、すなわち、この医療給付費の伸びを国民所得の伸びの見込み年率2.2%に抑えるとすると、平成37年度には医療給付費を42兆円に抑える必要があるが、この場合、医療費が従来と同様の伸びを示す場合の医療費81兆円と医療給付費42兆円の差額おおよそ40兆円は、患者が負担するか、あるいは医療費の伸びの減少といった形で吸収される必要がある。
- また、昭和36年に国民皆保険が達成されて以来、ほとんど全ての病気やけがなどについて、自由に医療機関を選択できる仕組み(フリーアクセス)のもと、比較的低い自己負担で医療が受けられる仕組みとなっており、国民の健康に大きく寄与したものと評価できる。皆保険導入以来、これまで医療費の伸びは趨勢として国民所得を上回ってきたが、医療に関する国民負担を増加させないため、人口高齢化がさらに進む中で公的制度からの医療給付費を国民所得の伸びにとどめるとした場合、医療機関等から提供される医療サービスが全体として国民にとって適切な水準・内容となるかどうか、自己負担の水準が適切なものとなるかどうか議論があるところである。
- Aを選択する場合には、これまで年金や医療を例にとってみたような給付の抑制を行ってもなお、社会保障が、国民生活の「安全装置(セーフティネット)」としての重要な機能を果たし続けられるのか、問題が生じる。
- なお、社会保障には経済全体にプラスに作用する側面や、必要な社会保障給付が行われなければ、経済に悪影響を及ぼす可能性があることを忘れてはならない。
(社会保障の進むべき途)
- 今、我々がおかれている状況は、国民生活に不可欠な社会保障を21世紀に向けて持続的に機能させていくため、@、Aの幅の中に進むべき途を見出し、着実に歩んでいくことである。
- 本有識者会議としては、将来世代の現実的な負担能力を前提として、給付について、その水準を含めて在り方を考えることが必要であり、将来に向けてある程度負担の増加は避けられないものの、できる限り負担増、特に、現役の負担の上昇を抑えるべく、Uに述べたような「支え手を増やす」「高齢者も能力に応じ負担を分かち合う」「給付の見直しと効率化」という方策を実施していくべきと考える。
- 年金、医療保険など各制度において、給付の増加を抑える見直しを行ったとしても、なお急激な高齢化に伴い増加する負担については、保険料及び公費負担を求めることが必要になる。
そのうち、公費負担については、社会保障、地方財政、公共事業等をはじめとする各歳出分野の不断の見直しと併せて、公的サービスの受益と負担の在り方など財政全体を見直していく中で、検討する必要がある。その際には、税制の在り方についても課題になると考えるが、所得課税、消費課税、資産課税等それぞれの機能や役割を活かしながら、社会共通の費用を広く分かち合うという観点に立ち、21世紀の経済社会にふさわしい税体系の在り方について検討する必要がある。
- これらのことにより、若い世代の理解と納得を得ることが可能となり、世代間の共感が生まれ、持続可能な社会保障への展望が開けるものと考える。
- このようにして再構築される21世紀の社会保障は、このままで推移する姿に比べ、規模の増大は抑制されるものの、持続可能で、必要な給付が確実に行われる強固な社会保障となると考える。
W 21世紀の社会保障のために
(選択に当たって)
- これまで述べてきたとおり、今後、我々は、給付と負担に関する国民的な選択を行い、社会保障を21世紀においても持続的に機能させていく途を見出し、21世紀の社会保障を形作っていかなければならない。
- 選択に当たっては、我々の社会における社会保障の意義、機能を十分理解し、この制度が歴史の歩みの中で形づくられ、今日我々が引き継ぎ、次の世代にバトンタッチしていくものであることを銘記すべきである。そのためにも、社会保障に関する積極的な情報提供や、若い世代に対する教育等により、社会保障に対する理解を深めるよう取り組んでいく必要がある。また、社会保障に関する意思決定に際して、将来の社会保障を支えることとなる若い世代の意見が積極的に反映されるような工夫が必要である。
- また、殊更世代間の利害対立を強調するのではなく、いずれの世代も自助努力を尽くしつつ、同時代に生きる人として共に支え合って生きる精神に立つことが求められる。
- 本有識者会議は、これらの点について、国民が十分理解した上で、選択がなされることを希望する。
- 国民の選択は、民主主義国家においては、政治システムを通じて行われることとなるが、社会保障は長期的な視点で検討される必要があり、党派を超えた国民的合意が必要な問題である。なぜならば、国民の生活設計は、長期的な視点で約束されなければならないからである。本有識者会議は、政治において、この点を十分に理解され、その選択が行われることを希望する。
- また、経済を支える企業には、社会保障の意義を十分理解し、今後とも雇用や社会保障の負担の面で、社会的責任を果たすことが求められる。
(政策運営の在り方について)
- なお、この際、特に政府に対して望みたいことがある。
- 平成13年1月に発足し、年金、医療、福祉に加えて、雇用、労働保険を一元的に所管することとなる厚生労働省に対しては、社会保障の総合的な推進のため、さらに政策調整機能の強化を求めたい。
- 加えて、社会保障と密接に関連する住宅、教育等の分野についても、一層の連携が不可欠であり、各省庁の枠を超えた対応が図られる必要がある。
- あわせて、共に個人と政府の間の移転の仕組みである税と社会保障については、より総合的にとらえて、世代間、世代内の公平を確保していくことが必要である。
- また、本論では十分触れられなかったが、今日、社会保障制度は、国と地方公共団体との間の役割分担のもとで進められており、社会保障の総合的な推進に当たっては、この観点も十分留意が必要である、
- 現在、我が国は、急速な少子・高齢化の真っ直中にあり、改革の速度が重要である。できるだけ早急に、これまで述べてきたような持続可能な社会保障の構築に向けた改革に取り組むべきである。
- 今後、政府においては、改革の早期実施の必要性を認識し、実効ある体制を整備し、社会保障制度について税制など関連する諸制度の検討を含め総合的・包括的な改革に取り組み、国民の根強い将来不安の解消と、諸制度への信頼回復に努めるべきである。
【補論1】世代間の公平をどのように考えるか
- 世代間の不公平論議に対しては、
@ 社会保障は本来「損得論」で論じるべきものではなく、これまで世代間、世代内の連帯を基本に成り立ってきた社会保障制度について連帯の在り方の問題として議論することが重要である、
A 世代間の公平を論ずるのであれば、社会保障制度の外側で行われている教育や相続等も考慮に入れる必要がある
との指摘がある。
- 老親の扶養を考えると、社会保障制度が未発達だった時代には、その機能は主に家庭によって果たされていた。今日、仮に社会保障がなければ、老親の扶養についての家庭の負担は、少子化に伴って増大している。社会保障における世代間の不公平として指摘されているものは、このような家庭の負担増が社会保障に結果的に反映されたものとも言える。
- 世代間の不公平がもっとも強く意識されている年金制度について考えると、厚生年金、国民年金ともに、高齢化により人口構成が変化する中で、現在の財政再計算においては、将来の保険料の引上げが必要となり、結果として、世代間の給付と負担の関係は、後世代ほど拠出した保険料に対する給付の割合が小さくなる構造にある。
厚生年金制度における世代毎の保険料拠出と年金給付の関係
(改正制度(国庫負担割合3分の1))
| 平成11(1999)年における |
保険料 (元利合計) @ |
給 付 A |
倍率 A/@ |
| 年齢(夫) | (生 年) |
| 70歳 | (1929年生) | 600万円 | 6,800万円 | 10.8 |
| 60歳 | (1939年生) | 1,200万円 | 6,500万円 | 5.5 |
| 50歳 | (1949年生) | 1,700万円 | 5,700万円 | 3.3 |
| 40歳 | (1959年生) | 2,200万円 | 5,100万円 | 2.4 |
| 30歳 | (1969年生) | 2,600万円 | 5,000万円 | 1.9 |
| 20歳 | (1979年生) | 3,000万円 | 4,900万円 | 1.7 |
| 10歳 | (1989年生) | 3,200万円 | 4,900万円 | 1.5 |
| 0歳 | (1999年生) | 3,400万円 | 4,900万円 | 1.5 |
| -10歳 | (2009年生) | 3,400万円 | 4,900万円 | 1.5 |
(注)
- 改正制度に基づき、国庫負担割合は1/3(最終保険料率は27.8%(標準報酬ベース))としている。
- 「夫と妻(2歳年下)」の場合を想定しており、夫、妻ともに20歳から厚生年金に加入、夫28歳、妻26歳から夫は厚生年金に加入、妻は専業主婦(58歳から59歳までは国民年金第1号被保険者)としている。なお、夫70、60歳については、その85、95%の期間のみの加入としている。平均標準報酬月額は、男367,000円、女220,000円(平成11(1999)年度価格)としている。
- 経済的要素の前提は、賃金上昇率2.5%、物価上昇率1.5%、運用利回り4.0%、年金改定率(新規裁定者分)年当たり2.5%(ただし、平成36年財政再計算期までは2.3%)としている。
- 保険料負担は、社会保険料控除を考慮した実質的な負担分を示している。
- 額はすべて1世帯当たり(平成11(1999)年度価格)を示している。
- 保険料負担のほかに、税負担のうち年金給付に充てられる分(国庫負担分)及び事業主負担分がある。
- 他方、仮に、若い世代が強く公平を主張し、年金制度において世代間の給付と負担の関係を全く公平なものとすると考えると、既に裁定された、あるいは今後裁定する年金の水準を実際に支払われた保険料に見合ったものに引き下げることが必要となる。
- 一般的に言って、既裁定年金額の削減は現に年金によって暮らしている人々の生活への影響が大きいことに留意する必要がある。
- 仮に、既に裁定された、あるいは今後裁定する年金の水準を実際に支払われた保険料に見合ったものに引き下げるとすれば、年金の実質的な額は著しく下がり、高齢者の生活や中高年の老後の生活設計は成り立たない場合があり得る。
- また、社会保障制度の存在によって老親の扶養や介護などの負担が軽減されていることを考えると、社会保障給付による受益は、直接給付を受ける者以外にも及んでおり、若い世代も一方的に負担のみを負っているのではないことに留意する必要がある(*24)。
- このような、社会保障の外側における世代間の移転や、社会保障給付の間接的な受益の点について理解を求めることは、将来世代に増加する負担を受け入れてもらう上で必要であり、この点について十分説明のできるデータの整備や研究が求められる。
【補論2】個人の選択に中立的な社会保障の在り方
(個人単位化について)
- 社会保障の給付と負担の設計に関して、世帯を単位とすべきか、個人を単位とすべきかという議論がある。
- 現行の社会保障制度のうち、社会保険の各制度は、基本的には、個人を単位として適用されているが、
@ 基礎年金において、被用者の被扶養配偶者(第3号被保険者)は自ら保険料を負担せず、被用者本人の加入する保険制度が負担する
A 年金制度において、配偶者や子などを対象とした遺族年金制度がある(*25)
B 医療保険において、被用者に扶養される配偶者や子等は、被用者本人が加入する保険制度において、家族療養給付を受ける
C 介護保険において、第2号被保険者(40〜64歳)のうち、被用者の被扶養配偶者は、自ら保険料を負担せず、被用者本人の加入する保険制度が負担する
など、世帯を単位とした考え方が組み込まれたものとなっている(*26)。
- この取扱いに対し、特に年金制度について、第3号被保険者制度や遺族年金に関して、片働き世帯と共働き世帯、単身世帯との間に不公平が生じており、制度を個人単位化して、第3号被保険者から保険料を徴収し、遺族年金を廃止すべきとの主張がなされている(*27)。
- また、別の考え方として、
@ 現役時代から夫婦の賃金を2分割し、夫婦同額の保険料を納め、夫婦同額の被用者年金をそれぞれ受給するようにすれば、給付と負担の単位が個人となり、かつ、遺族年金も必要なくなるという主張や、
A 基礎年金の財源を全額消費税に求めれば、各人がその消費に応じて負担することとなるという主張
もなされている。
- これに対し、これらの措置は、賃金が低い場合が多い、ライフスタイルの変化が大きいといった女性のおかれた実態を踏まえると、多くの女性が不利益を被るおそれがあり、社会保障制度としては社会の実態を踏まえた慎重な対応が必要であるとの意見がある。
- また、現在の制度は、老齢年金で考えた場合、片働き世帯、共働き世帯ともに、所得が同一であれば同一の負担をし、負担が同一であればそれに応じて同一の給付となることから合理的であり(*28)、逆に、第3号被保険者に負担を求めた場合、世帯の合計でみれば同一の所得であるにもかかわらず、片働き世帯の負担が共働き世帯の負担より増加することになるという問題が生ずるとの考え方もある。
- 医療に要する費用は、世帯の中には子など収入がなく扶養される存在があり、これら被扶養家族を含めた世帯員の医療に要する費用は、収入のある被用者本人が負担せざるを得ず、現行の健康保険における家族療養給付制度は、このような観点から設けられている。
- このように、被用者の被扶養配偶者自身には収入がない(*29)以上、保険料負担を求めるとしても、多くは被用者本人の収入の中から負担することとなるが、個人単位化の提案は、世帯の収入を何らかのルールによって夫婦間で分割し、それぞれ個人の所得とみなして、あるいは、実際には収入のない被扶養配偶者に対しても収入が帰属するという考え方に立ち、保険料を賦課するというものである。
- 女性の社会進出やライフスタイルの多様化を踏まえると、社会保障制度についても、個人の選択に中立的に設計されることが望ましく、その方策として個人単位化するなど、個人の選択に中立的な制度となるよう見直しが求められている。具体的な制度としては、より公平かつ合理的な制度に向け、見直すべきである。
(在職老齢年金制度について)
- 厚生年金については、在職老齢年金制度の仕組みがあり、69歳までは在職中賃金に応じて年金(報酬比例部分)の一部又は全部が支給停止されることとなっている。この制度については、就業に対する抑制効果を持つことが指摘されている。
- この制度を就労に中立的なものとするためには、例えば、在職中賃金の有無にかかわらず年金は全額給付し、一方で現行低い水準にある年金に対する税負担の適正化を図るという方法が考えられる。
- しかしながら、この方法には、就労促進的ではあっても、
@ これまで年金の支給を停止されていた者が、これまでより手取り額が増えることになり、高齢世代内の再分配効果を弱めることになるのではないか、
A 勤労所得のある比較的豊かな高齢者世帯への年金併給を行うために、現役世代の保険料等の負担が増加するのは、世代間の不公平を助長するのではないか、
といった問題がある。
【補論3】少子化対策等
(少子化対策の推進)
- 年間出生数が第2次ベビーブーム時の約200万人から約120万人に減少し、合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に生む子どもの数)も低下を続け、人口を維持できる水準(2.08)を大きく下まわる1.34(平成11年)となるなど、少子化が急速に進行している。
- こうした少子化の進行は、生産年齢人口・労働力人口の減少や社会保障制度における現役世代の負担の増加、子どもの社会性が育ちにくいなど、経済面、社会面で広く影響を与えることが懸念されており、この問題への対応が求められている。
- 少子化の要因は、主として、未婚化、晩婚化の進行であるが、その背景には、男女の固定的な役割分担や職場優先の企業風土のため、家事、出産、育児の負担や仕事と育児等の両立の負担が大きいこと、また、結婚に対する個人の意識が変化してきていることがあると考えられる。
- 結婚や出産は、当事者の自由な選択に委ねられるべきものであり、社会が個人に押し付けてはいけない。しかしながら、個人の本来の希望が上述のような仕事と育児の両立の負担等によって妨げられている面があり、これに対しては、政府や社会全体として、出産、子育て、教育等の負担を軽減するともに、家庭生活と職業生活などの両立を図るための環境整備を行っていくことが必要である。
- また、出産や子育てを社会全体で支援していくことを明確にメッセージとして示していくとともに、具体的に、ニーズに合った多様な保育サービスの提供、育児不安の解消など具体的な子育て支援策の推進が必要である。
- なお、子育てに対する経済的支援については、現在、児童手当、企業福祉としての扶養手当等が、同様の側面を有するものとして税制における扶養控除があるが、近年の少子化は未婚率の上昇によるものであり、これらの少子化対策としての効果を疑問視する考え方など様々な意見があることを踏まえ、その有効性や少子化対策全体の中での施策の優先順位、その財源をどこに求めるかを含めて、さらに、十分な議論を行っていく必要がある。
(外国人労働者の受入れについて)
- 今後、一層の生産年齢人口の減少が予想される中、少子化対策に積極的に取り組むことは当然としても、中長期的には外国人労働者を受け入れていくことは避けられないのではないか、との意見がある。
- これに対しては、21世紀初頭までを念頭に置けば労働力人口の減少は小さく(*30)、まず、高齢者や女性等が活躍できるような雇用環境の改善、省力化、効率化、雇用管理の改善等を推進していくことが重要であること、外国人労働者の受入れは、我が国の経済社会や国民生活に多大な影響を及ぼすとともに、送り出し国や外国人労働者本人にとっての影響も極めて大きいと予想されることなど、慎重な対応が不可欠であることなどが指摘されている。
- また、経済のグローバル化の中で、多様で異質な才能の積極的活用や創造的な発想に基づく経済活動の拡大が不可欠であることから、現在でも、専門的、技術的分野の労働者の受入れについては進めてきたところであるが、国際的に我が国が就職先として魅力的であるかどうかについて疑問視する意見もあり、内外の人材にとって魅力の高い就労、生活環境を作る必要性が指摘されている。
- 社会保障との関係でも、正規に受け入れた外国人労働者が社会保障の支え手となることが期待できる反面、受け入れた外国人労働者が十分に活躍できるような社会的な条件が整わない場合には、社会的なコストの増加を招くことが懸念されている。
- このように、外国人労働者受入れの問題は、人口減少に伴う労働力の減少を外国人労働者で補うという観点のみで考えることはできず、受け入れる分野や条件とともに、雇用や教育、地域コミュニティなど我が国経済社会に与える大きな影響をも考慮した検討が必要である。
【補論4】積立方式への移行と二重の負担
- 世代間の不公平は、高齢化により人口構成が変化する中で、毎年度の年金給付をそのときの保険料で賄うやり方(賦課方式)を基本に財政運営を行っていることに起因するところが大きいので、特に厚生年金の報酬比例部分について、人口構成の変化に影響されない積立方式へ移行すべきとの意見や、確定拠出型とすべきとの意見がある。
- 確かに完全な積立方式の採用は、世代間の給付と負担の関係を等しいものとするが、確定給付の制度とすることが難しく、老後の生活設計が立ちにくいという問題をはらむ。確定拠出型についても同様である。また、制度の初期においては積立方式を原則として運営されてきた制度が、徐々に賦課方式に傾斜した運営となり、このことにより、積立要素が減少することになった反面、経済的な変動に対応して給付の実質的な価値を維持し、高齢者の生活の安定に寄与してきたことを忘れてはならない。
- さらに、現行の制度を完全な積立方式に切り替える際には、「二重の負担」の問題が生じ、これを解決しなければならない。これは、既に保険料を納めたことに対応する年金給付債務のうち、将来の保険料の引上げにより賄われることとなっている部分が厚生年金の報酬比例部分で330兆円存在していることに由来する問題であり、完全な積立方式に直ちに移行するためには、現役世代は、これから、この330兆円を負担しながら、自己の年金分についても積み立てるという二重の負担をしなければならない。
- もちろん、この負担は賦課方式を採用する場合においても賄っていかなければならないものであるが、積立方式への移行は、この負担を一時に顕在化させる点が問題となる。330兆円の負担は、一時金換算で被保険者一人当たり1,000万円、一定の保険料率で永久償却しても保険料率5%、30年間で償却する場合は保険料率11%又は毎年18兆円という多額に上ることを考えると、これを一時に顕在化させることは現実的な選択肢ではない。
- しかしながら、公的年金制度の中に積立要素を増やすことは、少子化の中で後世代の負担を軽減するためには不可欠であり、政治的に合意可能な範囲内で積立を増やしていくことは重要である。
【補論5】年金給付の在り方に関する議論
- 基礎年金については、昭和60年の年金改正で創設されて以来、老後生活の基礎的費用を賄うものと説明されてきた。今日、基礎年金の給付水準(夫婦2人で13.4万円)は基礎的消費支出(全国平均12.1万円。ただし地域差が大きい)を上回っている。
- 基礎年金制度は、産業構造の変化等に対応し国民全体で安定した保険集団を構成し、その費用を国民全体で公平に負担する仕組みとして導入されたが、自営業者等の第1号被保険者の未納・未加入問題や、被用者の被扶養配偶者(第3号被保険者)の位置付けをめぐる議論等があり、基礎年金の給付設計の在り方について、検討が必要となっている。
- また、被用者に対する年金は、そもそも現役勤労者の賃金(所得)の一部を強制的に徴収し、老後の賃金(所得)の喪失に備える仕組みであり、その水準は、ILO条約にも見られるように、従前所得の一定割合の給付を確保するという考え方に立ち、現役勤労者の賃金(所得)の一定割合を目安に定めてきた。
- 厚生年金については、昭和48年に物価スライド制の導入、標準報酬の再評価(賃金スライド)等を行って以来、現役世代の賃金との間で一定の割合(おおむね60%)を保障する考え方に立って、水準が設定されてきた。この考え方は、昭和60年の改正において基礎年金が導入されてからも基礎年金と厚生年金(報酬比例部分)を合わせた水準の考え方として引き継がれている(*31)。他方、現在の厚生年金のモデルの給付水準(夫婦2人で、23.8万円)を高齢無業世帯の消費支出(平均25.7万円)と比べると、そのほとんどをカバーする程度になっている(*32)。
- 現役世代に被用者であった高齢者は、自営業者と比較して年金以外の収入が少なく、被用者に対する2階建ての年金制度は、これらの高齢者の生活水準の維持に大きな役割を果たしている。このことから、被用者世帯の老後生活設計において、2階建ての年金制度の必要性は大きいと考えられる。
夫婦の現役時代の経歴類型別 夫婦の平均年金額・平均収入額
| | 平均年金額 | 平均収入額 |
| 夫・給与所得者中心 | 妻・仕事をしていない期間中心 | 301万円 | 415万円 |
| 夫・自営業中心 | 妻・自営業中心 | 151万円 | 389万円 |
| 夫・給与所得者中心 | 妻・給与所得者中心 | 300万円 | 482万円 |
資料:厚生省年金局「老齢年金受給者実態調査」(平成9年)
- これに対し、公的年金は基礎年金部分に限定し、報酬比例部分については、公的な関与を廃し民営化すべきという議論がある。
- しかしながら、企業年金の普及が困難な中小零細企業の被用者の老後の所得保障が基礎年金だけとなりかねないという問題があるほか、民営化に伴う積立方式への移行により、過去期間の保険料納付に対応した給付債務330兆円(2階部分)のいわゆる「二重の負担」が一時に顕在化することとなるため、民営化するのであれば、この負担をどのように賄っていくかという点についての合意が必要である。
【補論6】新たな高齢者医療制度に関する意見
- 新たな高齢者医療制度については、大きく分けて、@高齢者医療をその他の医療から区分し独立の仕組みとすべきとする考え方と、A国民健康保険グループと被用者保険グループの各グループごとにそれぞれ医療費を負担すべきとの考え方、Bリスク構造調整を行う考え方、C医療保険制度を一本化する考え方、という4つの考え方がある。
- @のいわゆる独立型は、平均寿命の延び等に着目して、高齢者の範囲を75歳以上の者とした上で、若年者とは別に高齢者のみを対象とした新たな高齢者医療保険制度を設けるものである。
これは、高齢者は医療内容が若年者とは異なることや一般に疾病にかかるリスクが極めて高いという特性を有していることなどに着目し、高齢者にふさわしい医療を提供するとともに、高齢者の医療に重点的に公費を投入しようとする考え方にたつ。
この考え方に対しては、高齢者は弱者であるという発想にたつものであり、高齢者も社会・経済の担い手であるべき成熟社会の下での医療制度としてふさわしくない、大部分を公費に依存する制度では、保険者に医療費効率化の誘因が働きにくい、保険者をどうするかなどの指摘がなされている。
- Aのいわゆる突き抜け型は、被用者年金の加入期間が一定期間以上の被用者保険OBのみを対象とする新たな医療保険制度を創設するものである。
これは、保険者機能を発揮し健康づくり、予防・リハビリなどを生涯を通じて実施していくとともに、国保グループOBと被用者保険OBの高齢者とでは年金の水準や生活実態等が異なることを踏まえ、より連帯感のある保険制度としようとする考え方にたつ。
この考え方に対しては、就業構造が流動化している中で、高齢期になってからも被用者と非被用者を区分して医療費を賄うことは、社会連帯の理念から見て、現行の老人保健制度より後退する、被用者年金の加入期間が一定期間以上の者のみ新たな制度の対象とするのは公平に反するなどの指摘がなされている。
- Bのいわゆるリスク構造調整型は、現行の保険者を前提としつつ、全年齢を通じたリスク構造調整を行うものである。
これは、現行の老人保健制度は70歳以上の高齢者の加入割合のみに着目して制度間の負担の不均衡の調整を行う制度となっているが、これに代わり、全年齢を対象として各保険者間の年齢構成の相違による負担の不均衡を調整することにより、年齢構成の相違による負担の格差を是正しようとする考え方にたつ。
この考え方に対しては、現行の老人保健拠出金による調整の拡大であり、生活実態の異なる国保グループと被用者保険グループの間で調整を行うことは、拠出金を負担する保険者の納得を得られないとの指摘がなされている。
- Cの医療保険制度の一本化は、市町村、都道府県又は国を新たな保険者として現行制度を一本化し、すべての者を対象とした新たな医療保険制度を設けるものである。
これは、就業構造の変化や急速な高齢化の進行等により一層深刻化する被用者保険と国保の給付と負担の両面にわたる不均衡を完全に解消しようという考え方にたつ。
この考え方に対しては、新たな保険者をどうするか、所得形態や所得捕捉の実態等が異なる被用者と自営業者に同じ保険料基準を適用するのが適当か、構成員の連帯感や保険制度運営の効率性という観点から問題がないかなどの指摘がなされている。
- いずれの場合においても、新たな高齢者医療制度の創設に当たっては、高齢者の負担能力に応じた適切な自己負担や、できるだけ世代内の相互扶助を織り込んだ制度設計を基本とすべきであり、特に一定の所得水準以上の者については、現役世代と同水準の自己負担を求めるべきである、との意見がある。
- このように、新たな高齢者医療制度については、関係者の間で、その具体的な在り方を見い出すに至っていないが、具体的な制度設計に当たっては、本論にあるように、老人医療費の伸びの抑制や、老人医療費の負担をいかに公平に分担していくかという視点、さらに、医療全体の問題として、医療保険の守備範囲をどうするかという視点、診療報酬体系や薬価制度の見直し、医療提供体制の見直し、コスト意識喚起のための自己負担の在り方など制度の効率化の視点が重要である。
【補論7】社会保険方式と皆年金
- 国民年金の保険料については、第1号被保険者に関して定額保険料の仕組みがとられているが、現に未納・未加入者が存在し、今後、保険料の引上げによって定額保険料の逆進性が強まっていくことから、現行の保険料水準は負担可能な上限に達しており、現行の費用負担方法では、今後基礎年金の費用を適切に賄っていくことはできないのではないかとの指摘がある。
- さらに、社会保障の財源を全額税により賄う主張の中で、特に年金制度について、拠出を前提に給付する社会保険方式では、現実に保険料を拠出していない者に対して保障がなく、「皆年金」を実質的なものとし、強制徴収が難しい集団に対しても給付を確保するためには税財源による制度とする必要があるとの指摘がある。
- これについては、「皆年金」をどのような意味で捉えるのかが問題となる。現在でも、拠出能力の低い者に対しては免除制度を設けるなど、すべての者に対して何らかの保障を受ける機会は確保している。機会は与えられているがその権利と義務を行使しない人について、その保障が欠けることをどこまで社会的に対応していかなければならないのか、が問われなければならない(*33)。
- 現行の基礎年金制度においては、当年度の給付に必要な費用は、現在の被保険者により支えられる仕組みになっているため、当年度に未納・未加入によって支払われなかった保険料は、その者の将来の給付につながらないだけでなく、その分他の者の保険料負担が重くなる構図となっている。もとより、公的年金制度がいわゆる逆選択を認めない強制加入の社会保険であることから、未納・未加入者の増加は放置できない。
- 「拠出が困難な者」に対しても一定の保障を確保する仕組みとしては、一律全額税を財源とする仕組みに変える以外にも、必要な者に対して公的扶助等の補足的方法により対応することも可能であり、長期的に安定した年金制度の確立のため、制度の見直しに取り組んでいく必要がある。
脚注
(*1)
1999(平成11)年1月に20代〜50代の男女を対象として実施された調査(「1999年1月社会保障制度に関する調査」)によれば、
@ 社会保障制度の将来について、約6割が「大いに不安を感じている」、約4割が「少し不安を感じている」と答えており、不安を感じていない人は5%に満たない。
A 不安を感じている理由については、「社会保険料を支払っていても将来確実に給付を受けられるかどうかわからないから」という人がもっとも多く(79.6%)、次いで「税金や社会保険料が引き上げられ、ますます負担が重くなっていくから」(75.5%)、「年金の給付水準が大幅に引き下げられたり、医療費の自己負担が一層重くなっていくから」(65.4%)、「低成長経済などのために、年金などの社会保障制度の維持が困難になってくるから」(53.7%)、「若い世代ほど負担が重くなり、世代間における不公平が拡大していくから」(49.4%)などとなっている。
B 20代、30代では、「社会保険料を支払っていても将来確実に給付を受けられるかどうかわからないから」(20代82.3%、30代86.4%)、「税金や社会保険料が引き上げられ、ますます負担が重くなっていくから」(20代78.1%、30代79.1%)、「若い世代ほど負担が重くなり、世代間における不公平が拡大していくから」(20代53.7%、30代49.9%)の理由が、40代、50代より多くあげられている。
(*2)
このような考え方に対しては、
@ 所得がない者から保険料がとれないという点については、現行制度では年収が130万円までの者を所得がない被扶養配偶者として扱っており、所得があっても負担せず不公平が生じている
A 育児や介護に対する対応として、これに従事する期間について優遇するのであれば、第3号被保険者に限るのではなく、その期間を限定した上で、第1号被保険者や第2号被保険者にも適用する制度とするのが合理的である
との意見がある。
(*3)
各国における少子化対策としては、
@ 子どもが誕生した後の一定の期間親が育児に専念できる時期を確保しながらその後も雇用継続することを可能とするための、育児休業の取得の促進や、弾力的な就業形態の導入促進、労働時間の短縮、労働市場の流動性の向上等の働き方に関する取組
A 育児休業しない場合やその終了後、親が就労している時間における子育てを担う保育サービス
B 子育ての経済的負担に対する社会的支援
が取り組まれている。
(*4)
高齢者世帯(65歳以上の者のみで構成するか、又はこれに18歳未満の未婚の人が加わった世帯。全高齢者の約4割がこの類型に属する。)の78.7%が、公的年金・恩給の総所得に占める割合が60%以上となっている。また、高齢者の属する世帯全体の所得を世帯人員で割った1人当たりの所得をその高齢者の所得とみなして、所得の高低に応じ10区分に分けた所得分布と所得の種類をみた場合、第7分位以下(全体の70%)の層では、年金等の社会保障給付が所得に占める割合が、5割から7割を占める(「国民生活基礎調査」(平成10年)とその再集計結果による。)。
(*5)
公的年金収入については、65歳以上の者に対して140万円(65歳未満は70万円)を最低保障額とする公的年金等控除(定額控除(65歳以上100万円、65歳未満50万円)と定率控除で構成)が適用となっているほか、合計所得金額が1,000万円以下の65歳以上の者に対しては、老年者控除(50万円)が適用となっている。
(*6)
高齢者(老人医療の受給対象者)の自己負担は若年者に比べ低額に抑えられている。昭和48年の老人医療費支給制度の創設により老人医療は無料化され、昭和58年の老人保健法施行により、外来1月400円、入院1日300円の自己負担が導入された。その後、逐次自己負担額が改定されるとともに、自己負担の物価スライド制の導入(平成7年度から)や医療費スライド制の導入(外来は平成11年度から)により、現在では、外来1日530円(月4回まで)、入院1日1,200円となっている。なお、今国会に月額上限付きの定率1割負担制を導入すること等を内容とする健康保険法等の改正案が提案されている。
また、高齢者の保険料についても、被用者保険においては、多くの高齢者は被扶養者として保険料の負担をしておらず、年金受給者が多く加入する国民健康保険においては、高齢者も被保険者として保険料の負担をしているものの、保険料の所得割額の計算上税法上の総所得金額を使用し、公的年金の相当水準の額まで算定の基礎に含めていないため、保険料額が低く抑えられている。この結果、平成10年度における高齢者の医療費は、80.1万円と、30歳代(30〜34歳9.7万円、35〜39歳10.5万円)の約8倍の医療費となっているが、保険料、自己負担合わせた高齢者の負担は年額12.1万円と30歳代(30〜34歳20.5万円、35〜39歳22.8万円)の約半分程度に止まっている。
(*7)
「国民生活基礎調査」(平成10年調査)によれば、平均所得金額については、全世帯平均で世帯当たり平均所得金額は658万円(世帯人員1人当たり平均所得金額は223万円、平均可処分所得金額は187万円)であるのに対し、65歳以上の単身女性世帯の世帯当たり(1人当たり)平均所得金額は173万円(平均可処分所得金額は156万円)となっており、総じて低所得の傾向となっている。なお、65歳以上の者2,062万人のうち、女性単独世帯の者は10.5%となっている。
(*8)
高齢者の資産の実態については、現役世代に比べて、ストックの積み上げが見受けられる。世帯主の年齢階層ごとに家計資産(貯蓄・不動産)の全般的状況をみてみると、世帯主の年齢が高くなるにつれて家計資産額は増加している(ただし、この額の評価に当たっては、近年の地価の下落を考慮する必要がある。)。
・世帯主40〜49歳の世帯:4,582万円
・世帯主70歳以上の世帯 :9,260万円(「全国消費実態調査」(平成6年))
このうち、貯蓄については、世帯主の年齢階層別の1世帯(2人以上の世帯)当たりの貯蓄をみると、高齢者ほど貯蓄は大きくなっている。
・世帯主40〜49歳の世帯:1,294.1万円
・世帯主60歳以上の世帯 :2,345.7万円(「貯蓄動向調査」(平成10年))
また、高齢者のいる世帯の持家率は平均で8割を超えており、全世帯の持家率(60.3%)を上回る状況にある(「住宅・土地調査」(平成10年))。
(*9)
高齢者の資産の内容をみると、1世帯当たり家計資産額の平均は、
・世帯主が60〜69歳の世帯:8,139万円、うち宅地資産は5,348万円
・世帯主が70歳以上の世帯 :9,260万円、うち宅地資産は6,563万円
となっており、宅地資産の占める割合が高い(ただし、この額の評価に当たっては、近年の地価の下落を考慮する必要がある。)。(「全国消費実態調査」(平成6年))
(*10)
リバース・モーゲージとは、高齢者が、その保有する土地・建物等不動産を担保にして生活費等の融資を受け、死亡時や転居等で契約期間が終了したときにその担保不動産の売却処分によってそれまでの融資金を元利一括で返済する仕組み。居住用不動産等のストックは保有しているがフロー所得の少ない高齢者にとって、保有する住居に住み続けながら、その資産を活用し、公的年金を補完し、多様な資金ニーズに応えることのできる自助努力の一方策である。
我が国では、1980年代より信託銀行や地方公共団体等で同制度を実施する動きが見られたが、不動産価格の下落に加え、不動産流通市場が未発達であること、担保切れリスクがあることや、担保不動産の売却処分時に相続人と融資側との間でトラブルが起こるおそれ(例:同居人の居住権をめぐる問題)等法制上の問題があること、担保不動産が売却できない場合に実施主体(民間金融機関、地方公共団体等)が不良資産を抱え込むおそれもあることなど難しい問題もあり、普及するには至っていない。
(*11)
老人保健制度では、老人医療費については、老人の患者負担を除いた給付費について、その3割を公費で負担(国庫負担2割、地方負担1割)し、残りの7割を各保険者からの拠出金で賄っている。平成12年度(予算ベース)においては老人医療費は10.1兆円であり、このうち患者負担0.8兆円、公費負担2.8兆円、拠出金6.5兆円となっている。老人保健拠出金については、1983(昭和58)年度には2.3兆円であったものが、1998(平成10)年度には6.8兆円となり、例えば、組合管掌健康保険の老人保健拠出金の支出割合は、1983年度の16.0%から1998年度32.8%へと高まっている。
(*12)
高齢者医療制度の見直しについては、2002(平成14)年度を目途に検討を進めることとされている。
(*13)
高齢者(老人医療対象者)の1人当たり診療費は、一般(老人医療対象者以外)の5倍(老人73.7万円、若人14.6万円、いずれも平成9年度)となっている。
(*14)
1970(昭和45)年度における社会保障給付費は3.5兆円で国民所得比5.8%であったものが、1997(平成9)年度には、69.4兆円で国民所得比17.8%となっている。また、1997(平成9)年度の社会保障財源の60.8%が、被保険者及び事業主からの拠出により賄われている。
(*15)
現在、国民年金については、第1号被保険者となるべき人のうち加入手続を行っていない者(未加入者)が99万人(第1号被保険者総数の約5%)、制度には加入しているが保険料を納めていない者(未納者)が172万人(第1号被保険者総数の約9%)おり、これを国民年金の被保険者全体でみると、両者の合計で約4%程度(第1号被保険者総数に対しては約14%)となっている(「公的年金加入状況等調査」及び「国民年金被保険者実態調査」(社会保険庁))。
(*16)
現在の公的年金制度において、国民年金の第3号被保険者(サラリーマンの専業主婦等;平成9年度末約1,200万人、国民年金被保険者総数の約17%)に対する年金給付や20歳前に障害者となった者に対する障害基礎年金(平成10年度末約80万人、障害給付受給者の約50%)については、「拠出なくして給付が行われている」との指摘がある。
このうち、20歳前に障害になった者の障害基礎年金については、年金制度への加入年齢である20歳前から障害を有しているため、障害事故の生じる以前の保険料拠出が不可能であること、及び所得保障の必要性があることから、制度発足時より例外的に支給しているものである。
また、第3号被保険者制度については、昭和60年の年金改正において、従前は専業主婦のうち約3割が任意加入せず無年金であったことから、自分自身の所得のない専業主婦から保険料は徴収せず、給付に要する費用については被用者年金制度全体で負担することで女性の年金権の確立を図ったものである。
このような点を考慮すれば、生活困難リスクに備える仕組みである年金制度においては、原則は「拠出なくして給付はない」「拠出に応じて給付がなされる」ものと評価できる。
さらに、現在の厚生年金における巨額な積立不足は、これまで給付に見合う負担を求めてこなかった結果であり、社会保険方式においても厳密な意味で「拠出に応じて給付がなされる」ことになっていない、との指摘がある。しかし、この点については、
@ 昭和48年に、物価や賃金の上昇に応じ、年金額の改定を行う仕組み(物価スライド、賃金再評価)が導入されたが、これ以降の財政再計算においては、保険料率を将来に向けて段階的に引き上げていくことをあらかじめ想定し、その将来見通しに基づいて当面の保険料を設定する財政方式をとってきたこと
A 後代の負担により、物価や賃金の上昇に応じた給付改善を行い、年金の実質的な価値を維持してきたこと
B 制度発足当初、高い年齢で制度に加入し、加入期間の短い者に対しても一定の水準の給付を支給してきたこと
などにより、完全な積立方式をとる場合に比べて積立水準は低くなっているものの、段階的な保険料の引上げにより、長期的に給付と負担のバランスをとってきているものである。
(*17)
今回厚生省が行った新たな「社会保障の給付と負担の見通し」(付表)によれば、基礎年金の給付費は、現在の14兆円から2025年度には38兆円にまで増加すると見込まれる。
さらに、現在、予算総則においては、基礎年金、高齢者医療、介護保険に要する費用が消費税の使途とされているが、この3経費について、2025年度における給付額は、次のとおりとなる。
<基礎年金・高齢者医療・介護保険に係る給付費>
| | 2000年度 | → | 2025年度 |
| 合計 | 27兆円 | 100兆円 |
| 基礎年金 | 14兆円 | 38兆円 |
| 高齢者医療 | 9兆円 | 42兆円 |
| 介護保険 | 4兆円 | 21兆円 |
なお、仮に、これら3経費に係る給付の全額を消費税収によって賄うこととする場合、上記試算などを基に機械的に計算すれば、現行の消費税収(国分)に加えて消費税の税率引上げ分はすべてこれらの給付のみに充当したとしても、国・地方を合わせた消費税率は、平成12年度(2000年度)ベースで約13%、平成37年度(2025年度)ベースで約25%まで引き上げる必要があると試算される。
また、この税率引上げ分についても現行の地方交付税制度(国の消費税収の29.5%を配分)が適用されると仮定した場合には、国・地方を合わせた消費税率は、平成12年度ベースで約16%、平成37年度ベースで約33%まで引上げる必要があると試算される。さらに、現行の地方消費税制度(国の消費税額の100分の25が地方消費税額)も適用されると仮定した場合には、国・地方合わせた消費税率はその分高くなる。
なお、追加的な消費税負担が社会保障給付に与え得る影響(年金額の物価スライド等)や国・地方の歳出に含まれる消費税負担の増加などを勘案した場合、必要な税率の引上げ幅は更に大きくなることに留意する必要がある。
(*18)
仮に、年金を全て税で賄う方式に替える場合には、拠出と給付の連動がなくなることとなるが、これまで社会保険料を納めてきた者とそうでない者との公平を確保する必要があり、これまで納められてきた保険料を各人に返還するか、過去の拠出実績を反映させながら制度を移行させるか、という問題がある。
(*19)
例えば、国民年金制度を創設した際には、厚生年金制度(国民年金創設時は給付の15%(その後20%に引上げ)を国庫負担)に比して、拠出能力の低い者の存在が多いことに着目し、給付費用の3分の1(制度創設時は保険料負担の2分の1を保険料拠出時に国庫負担)と当時においては他の制度より高率の国庫負担割合とした(その後、基礎年金制度の導入により両者の国庫負担は、基礎年金費用の3分の1に統合されている。)。
また、医療保険制度においては、主に中小企業に勤務する被用者が加入する政府管掌健康保険には給付費の13.0%(老人保健拠出金にかかる国庫負担は16.4%)、さらに所得の低い加入者が多い国民健康保険については給付費等の50%の国庫負担がなされている。
なお、平成11年度及び12年度の予算総則においては、消費税の収入(地方交付税分を除く)を基礎年金、高齢者医療、介護に充てることとされている。
(*20)
国庫負担割合の2分の1への引上げにより、厚生年金の最終保険料率は、27.8%から25.4%に、国民年金の最終保険料月額は25,200円から18,500円(平成11年度価格)に引上げが抑制される(いずれも2004(平成16)年度に国庫負担割合を2分の1に引き上げた場合の試算である。)。
(*21)
基礎年金の国庫負担割合を2分の1に引き上げる場合、2001年度でも2.4兆円、2025年度では3.8兆円(いずれも平成11年度価格)が必要と見込まれる。
(*22)
社会保障給付費の国民所得比と国民負担率の国際比較
(*23)
このパラグラフと次のパラグラフの記述における医療費は、国民医療費ベースである。
(*24)
家族の介護・看護を理由に離職した雇用者は年間約11万人にものぼっている(平成9年就業構造基本調査)。介護保険による介護サービスの充実により、要介護高齢者に適切なケアが行われることにとどまらず、これらの離職を余儀なくされていた人の介護負担が軽減され、仕事を続けられる可能性が生まれるなど現役世代に対しても具体的なメリットがある。
(*25)
遺族年金は、年金受給者や被保険者が死亡した場合、その人に生計を維持されていた遺族(死亡した人と生計を同じくし、恒常的な収入が将来にわたって年額850万円にならないと認められる遺族で、遺族基礎年金は子のいる妻又は子、遺族厚生年金は配偶者又は子、父母、孫、祖父母が対象(先順位のものから受給)。)に支給される。
(*26)
社会保険の仕組みをとる制度以外の社会保障制度においても、例えば、生活保護制度においては、原則として世帯を単位として保護の要否及び程度を定めるものとされているなど、世帯を単位とした考え方が組み込まれている。
(*27)
遺族年金については、廃止するという提案のほか、希望する者のみに追加的な保険料を求めるオプションとして残すという提案もなされている。
(*28)
このような考え方に対しては、世帯収入が同じであれば負担も給付も同じ水準となっているのは老齢年金については当てはまるが、遺族年金を考えた場合妥当しないとの意見がある。
(*29)
注2参照
(*30)
我が国の労働力人口は、1998(平成10)年の6,793万人から、2005(平成17)年までに約60万人増加し、その後2010(平成22)年までに約120万人減少するものと見込まれている(「第9次雇用対策基本計画」(平成11年8月))。
(*31)
平成12年改正においても、基礎年金と厚生年金(報酬比例部分)とを合わせて現役世代の手取り年収のおおむね6割を確保すると説明されている。
(*32)
モデル年金額は平均的な賃金で40年加入の場合のサラリーマン夫婦の受け取る年金額であり、実際には加入期間が短い場合や年金の繰上げ支給を受けている場合などがあり、現実に支給されている平均年金額(老齢年金)は、基礎年金で5.4万円、厚生年金(基礎年金を含む)で17.8万円(いずれも新法分のみ、男女平均1人分、平成10年度)となっている。
(*33)
未納・未加入者と納付者の所得分布には大きな差はなく、また、未加入者の6割、未納者の7割弱が個人年金又は生命保険のいずれかに加入していることにみられるように、未納・未加入者は、必ずしも経済的な理由で生じているわけではない。
【付表】
社会保障の給付と負担の見通し
平成12年10月
厚生省
[推計の前提]
- (1) 経済前提
-
| 名目賃金上昇率 | 年率 2.5% |
| 物価上昇率 | 年率 1.5% |
| 運用利回り | 年率 4.0% |
| 名目国民所得の伸び率 | 2010年度まで 年率 2.5% 2011年度以降 年率 2.0% |
注:本推計は2025年度までの長期推計として、年金の平成11年財政再計算の前提に基づき、さらに労働力人口減を勘案して経済前提を設定している。
- (2) 人口推計
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(平成9年1月推計)の中位推計による。
- (3) 年金
- 平成11年財政再計算に基づき推計(平成12年改正制度)。
- (4) 医療
- 平成10年度実績を足下とし、最近の1人当たり医療費の伸び(3%程度 平成2〜11年度実績平均)を前提に、人口変動(人口高齢化及び人口増減)の影響を考慮して医療費を伸ばして推計。
- (5) 福祉等
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- a.介護
- 各市町村における介護保険事業計画及び平成12年度予算に基づき、賃金上昇率(年率2.5%)を勘案して推計。
- b.介護以外
- 人口や経済の伸び率を勘案して推計。