社会保障構造の在り方について考える有識者会議

21世紀に向けての社会保障

平成12年10月

社会保障構造の在り方について考える有識者会議


21世紀に向けての社会保障

はじめに

T 社会保障の役割

(社会保障の果たすべき機能)
(社会保障と経済)
(医学・医療の進歩と社会保障)

U 持続可能な社会保障

(世代間の公平の視点)
(持続可能な社会保障の構築に向けた方策)

1.支え手を増やす
(支え手を増やす)
(個人の選択に中立的な制度の構築
(健康づくり・予防の推進)
(子どもを産み育てやすい環境を整備する)

2.高齢者も能力に応じ負担を分かち合う
(負担を若い世代と高齢者で分かち合う)
(現在の現役世代と将来の現役世代)
(高齢者の資産の問題)

3.給付の見直しと効率化
(給付の基本的な考え方)
(給付の効率化と合理化)
(制度間の給付の調整)
(年金給付の在り方)
(高齢者医療の見直し)
(効率的で良質な医療の確保)
(介護・福祉について)

4 社会保障の財源の調達
(社会保障の財政方式)
(公費負担の在り方)

V 21世紀の社会保障に向けての国民の選択のために

(選択の幅)
(負担を増大させても給付を確保していく選択)
(負担を増大させずに給付を見直していく選択)
(社会保障の進むべき途)

W 21世紀の社会保障のために

(選択に当たって)
(政策運営の在り方について)

【補論1】世代間の公平をどのように考えるか

【補論2】個人の選択に中立的な社会保障の在り方

(個人単位化について)
(在職老齢年金制度について)

【補論3】少子化対策等

(少子化対策の推進)
(外国人労働者の受入れについて)

【補論4】積立方式への移行と二重の負担

【補論5】年金給付の在り方に関する議論

【補論6】新たな高齢者医療制度に関する意見

【補論7】社会保険方式と皆年金

脚注

【付 表】社会保障の給付と負担の見通し


21世紀に向けての社会保障

はじめに


 いうまでもなく人間は孤立して生きているのではなく、社会の中で生きてきた。すなわち様々な困難に遭った時には、家族や地域によって支えられてきた。社会連帯の形としては、古くから地域社会における相互扶助があり、最近ではNPOのようなネットワークが発展しつつあるところである。今日、社会保障は、社会の発展とともに社会連帯の中心として位置付けられるに至っている。
 社会保障の将来を考える際に、変化する社会の中で社会保障がどのような役割を果たすかを見定めなくてはならない。このためには、既に一世紀以上の歴史を経てきた社会保障システムがこれまで果たしてきた役割を、新しい社会環境の下で依然として有効に維持できるかという問題提起に答えなくてはならない。
 第二次世界大戦下でイギリスの国家戦略として採用されたベバリッジ報告は、その歴史的文脈を離れて社会保障のプロトタイプとみられてきた。すなわち、個人的には負担しえない幾つかのリスク(疾病、失業、老齢化、労働災害)を社会保険を通じて社会的リスクとしてプールし、人々の生活水準の低下を予防しようとしたのである。もっとも、オーストラリアやニュージーランドのように、公的扶助の仕組みを中心とした例外的なケースや、依然として民間保険を中心としたアメリカの医療保険制度があることは、頭にとどめておく必要があろう。
 社会保障システムを重視する見方は、やがて「福祉国家」(Welfare State)という国家観を支配的なものにし、1960年代には、先進諸国はすべて「福祉国家」であるという主張さえも受け入れられるに至ったのである。もっとも、「福祉国家」というときに、多くの人々が頭に描くのは、スウェーデンを中心とする北欧型の福祉国家、いわゆるスウェーデン・モデルである。
 しかし、1980年代以降、イギリスのサッチャー首相に典型的にみられるような福祉国家に対する批判が影響力を持つようになり、1990年代に入ってからは、スウェーデン・モデルの可否が議論されるようになった。端的には、手厚い福祉サービスを中心に、これを賄うための税負担と保険料負担が国民所得の50%を超え、このような大きな政府は、経済の効率性を害し、結果において経済成長を阻害し、最終的には、経済厚生を低下させる危険性があるというものである。このような主張がどこまで妥当するか否かは依然として争点ではあるが、いずれにしても、高福祉・高負担が経済活動に中立的ではなく、所得再分配の役割を持つとしても、今後の社会保障システムのモデルとはなりにくいのである。


 我が国の社会保障制度の歴史を振り返ると、第二次大戦後に、本格的に社会保障制度の構築が進められた。急速な工業化や都市化、核家族化など、戦後の我が国の経済社会の変化の中で、伝統的な家族や地域社会による相互扶助の機能が低下し、国民生活の安定を支える社会的な安全装置(セーフティネット)である社会保障制度は、不可欠なものとなった。このような状況の中で、1961年には「国民皆保険、国民皆年金」が確立するとともに、制度の充実が図られていった。
 しかし、1980年代、1990年代に入り、少子・高齢化の傾向は加速し、社会保障を維持するための負担が増加することは避けられなくなった。さらに、現在の推計では、現役世代(20歳以上65歳未満)と高齢者(65歳以上)の比率が、現在およそ4:1であるものが、2025年には2:1になると見込まれており、国民の間にも増加する費用を将来の世代が負担しきれるか強い危惧がある状況となっている。


 21世紀の社会保障を展望する際に、これまでの社会保障制度が前提としてきた様々な条件が失われつつあることを留意しなければならない。それは、急速な人口の高齢化のほか、家族関係が脆弱になり、経済成長が鈍化し、雇用をめぐる状況が不安定になりつつあることである。
 南ヨーロッパや日本においては、家計の核とみなされてきた男性労働者の地位が、低成長やIT技術の発展によって脅かされつつあるにもかかわらず、女性労働者の雇用条件は、改善されているようにはみえない。20世紀の南ヨーロッパや日本において、社会保障制度の暗黙の前提になっていた男性労働者中心の家計は崩れつつあり、新しいタイプの社会的リスクが登場しているのである。人口の高齢化が急速に進行しつつある国々が南ヨーロッパや日本であることは、今後の社会保障制度が新しいタイプの社会的リスクを軽減するように仕組まれるべきことを示している。
 社会保障制度は、社会条件が変わりつつあることを考慮しながら、社会的リスクの軽減という不可欠な役割を果たすことにこそ、その本来の役割があろう。


 このような状況の中で、平成12年1月に、社会保障制度が将来にわたり安定した効率的なものとなるよう、年金、医療、介護など総合的に、かつ、給付と負担を一体的に捉えて検討するため、本有識者会議が設置され、社会保障の基本的な考え方や、給付と負担の在り方、社会保障の財源等について、検討が求められることとなった。
 本有識者会議では、少子高齢化、経済成長の鈍化、家族形態の変化、労働市場の変貌などの21世紀我が国社会の構造変化を展望し、国民の社会保障に対する不安を解消し、将来にわたり持続可能で国民が信頼できる社会保障制度の構築に向けて、議論を重ねてきた。
 議論の過程においては、まず、委員間で自由な討議を行い、論点を整理し、その後は論点に沿って数名の委員からレポートを受け、それを基に自由な議論が繰り広げられた。また、これからの社会保障を実際に担っていく若い世代の意見を聞きたいという故小渕前総理の強い希望を受け、若い世代からのヒアリングも実施した。
 このようにして、発足以来、12回にわたる議論を行い、20世紀の社会環境とは大きく異なると予想される21世紀の状況の下で、社会保障制度が、その給付と負担の急激な増加によって制度自体の存続を脅かされることなく、国民生活にとって重要な役割を持続して果たしていくためにはどうすればよいかについて、提案や問題提起をとりまとめるに至った。
 議論に当たっては、個別制度を網羅的に取り上げるのではなく、現在各方面で問題が提起されている点を中心に社会保障全体の基本的な方向を探ることに努めた。
 この提言は、長期的に安定的な社会保障制度の構築に向けた社会保障改革の方向性について、最終的な選択を行う国民に対して、その判断材料を示すという立場から、まとめたものである。
 この提言によって、社会保障の将来についての方向性が見出せ、特に若い世代が納得し、進んで参画でき、安心を託すことのできる社会保障が構築されることを願うものである。
 本報告をもとに、国民的な議論が行われ、賢明なる選択がなされることを期待したい。

T 社会保障の役割

(社会保障の果たすべき機能)

(社会保障と経済)

(医学・医療の進歩と社会保障)

U 持続可能な社会保障

(世代間の公平の視点)

→【補論1】世代間の公平をどのように考えるか

(持続可能な社会保障の構築に向けた方策)

1.支え手を増やす

(支え手を増やす)

(個人の選択に中立的な制度の構築)

→【補論2】個人の選択に中立的な社会保障の在り方

(健康づくり・予防の推進)

(子どもを産み育てやすい環境を整備する)

→【補論3】少子化対策等

2.高齢者も能力に応じ負担を分かち合う

(負担を若い世代と高齢者で分かち合う)

(現在の現役世代と将来の現役世代)

→【補論4】積立方式への移行と二重の負担

(高齢者の資産の問題)

3.給付の見直しと効率化

(給付の基本的な考え方)

(給付の効率化と合理化)

(制度間の給付の調整)

(年金給付の在り方)

→【補論5】年金給付の在り方に関する議論

(高齢者医療の見直し)

→【補論6】新たな高齢者医療制度に関する意見

(効率的で良質な医療の確保)

(介護・福祉について)

4 社会保障の財源の調達

(社会保障の財政方式)

→【補論7】社会保険方式と皆年金

(公費負担の在り方)

V 21世紀の社会保障に向けての国民の選択のために

(選択の幅)

(負担を増大させても給付を確保していく選択)

(負担を増大させずに給付を見直していく選択)

(社会保障の進むべき途)

W 21世紀の社会保障のために

(選択に当たって)

(政策運営の在り方について)


【補論1】世代間の公平をどのように考えるか

厚生年金制度における世代毎の保険料拠出と年金給付の関係
(改正制度(国庫負担割合3分の1))
平成11(1999)年における 保険料
(元利合計)
@
給  付
A
倍率
A/@
年齢(夫)(生  年)
70歳(1929年生)600万円6,800万円10.8
60歳(1939年生)1,200万円6,500万円5.5
50歳(1949年生)1,700万円5,700万円3.3
40歳(1959年生)2,200万円5,100万円2.4
30歳(1969年生)2,600万円5,000万円1.9
20歳(1979年生)3,000万円4,900万円1.7
10歳(1989年生)3,200万円4,900万円1.5
0歳(1999年生)3,400万円4,900万円1.5
-10歳(2009年生)3,400万円4,900万円1.5

(注)
  1. 改正制度に基づき、国庫負担割合は1/3(最終保険料率は27.8%(標準報酬ベース))としている。
  2. 「夫と妻(2歳年下)」の場合を想定しており、夫、妻ともに20歳から厚生年金に加入、夫28歳、妻26歳から夫は厚生年金に加入、妻は専業主婦(58歳から59歳までは国民年金第1号被保険者)としている。なお、夫70、60歳については、その85、95%の期間のみの加入としている。平均標準報酬月額は、男367,000円、女220,000円(平成11(1999)年度価格)としている。
  3. 経済的要素の前提は、賃金上昇率2.5%、物価上昇率1.5%、運用利回り4.0%、年金改定率(新規裁定者分)年当たり2.5%(ただし、平成36年財政再計算期までは2.3%)としている。
  4. 保険料負担は、社会保険料控除を考慮した実質的な負担分を示している。
  5. 額はすべて1世帯当たり(平成11(1999)年度価格)を示している。
  6. 保険料負担のほかに、税負担のうち年金給付に充てられる分(国庫負担分)及び事業主負担分がある。

【補論2】個人の選択に中立的な社会保障の在り方

(個人単位化について)

(在職老齢年金制度について)

【補論3】少子化対策等

(少子化対策の推進)

(外国人労働者の受入れについて)

【補論4】積立方式への移行と二重の負担

厚生年金の給付現価と財源構成の図挿入

【補論5】年金給付の在り方に関する議論

夫婦の現役時代の経歴類型別 夫婦の平均年金額・平均収入額
 平均年金額平均収入額
夫・給与所得者中心妻・仕事をしていない期間中心301万円415万円
夫・自営業中心妻・自営業中心151万円389万円
夫・給与所得者中心妻・給与所得者中心300万円482万円

資料:厚生省年金局「老齢年金受給者実態調査」(平成9年)

【補論6】新たな高齢者医療制度に関する意見

【補論7】社会保険方式と皆年金


脚注

(*1)
 1999(平成11)年1月に20代〜50代の男女を対象として実施された調査(「1999年1月社会保障制度に関する調査」)によれば、
@ 社会保障制度の将来について、約6割が「大いに不安を感じている」、約4割が「少し不安を感じている」と答えており、不安を感じていない人は5%に満たない。
A 不安を感じている理由については、「社会保険料を支払っていても将来確実に給付を受けられるかどうかわからないから」という人がもっとも多く(79.6%)、次いで「税金や社会保険料が引き上げられ、ますます負担が重くなっていくから」(75.5%)、「年金の給付水準が大幅に引き下げられたり、医療費の自己負担が一層重くなっていくから」(65.4%)、「低成長経済などのために、年金などの社会保障制度の維持が困難になってくるから」(53.7%)、「若い世代ほど負担が重くなり、世代間における不公平が拡大していくから」(49.4%)などとなっている。
B 20代、30代では、「社会保険料を支払っていても将来確実に給付を受けられるかどうかわからないから」(20代82.3%、30代86.4%)、「税金や社会保険料が引き上げられ、ますます負担が重くなっていくから」(20代78.1%、30代79.1%)、「若い世代ほど負担が重くなり、世代間における不公平が拡大していくから」(20代53.7%、30代49.9%)の理由が、40代、50代より多くあげられている。

(*2)
 このような考え方に対しては、
@ 所得がない者から保険料がとれないという点については、現行制度では年収が130万円までの者を所得がない被扶養配偶者として扱っており、所得があっても負担せず不公平が生じている
A 育児や介護に対する対応として、これに従事する期間について優遇するのであれば、第3号被保険者に限るのではなく、その期間を限定した上で、第1号被保険者や第2号被保険者にも適用する制度とするのが合理的である
との意見がある。

(*3)
 各国における少子化対策としては、
@ 子どもが誕生した後の一定の期間親が育児に専念できる時期を確保しながらその後も雇用継続することを可能とするための、育児休業の取得の促進や、弾力的な就業形態の導入促進、労働時間の短縮、労働市場の流動性の向上等の働き方に関する取組
A 育児休業しない場合やその終了後、親が就労している時間における子育てを担う保育サービス
B 子育ての経済的負担に対する社会的支援
が取り組まれている。

(*4)
 高齢者世帯(65歳以上の者のみで構成するか、又はこれに18歳未満の未婚の人が加わった世帯。全高齢者の約4割がこの類型に属する。)の78.7%が、公的年金・恩給の総所得に占める割合が60%以上となっている。また、高齢者の属する世帯全体の所得を世帯人員で割った1人当たりの所得をその高齢者の所得とみなして、所得の高低に応じ10区分に分けた所得分布と所得の種類をみた場合、第7分位以下(全体の70%)の層では、年金等の社会保障給付が所得に占める割合が、5割から7割を占める(「国民生活基礎調査」(平成10年)とその再集計結果による。)。

(*5)
 公的年金収入については、65歳以上の者に対して140万円(65歳未満は70万円)を最低保障額とする公的年金等控除(定額控除(65歳以上100万円、65歳未満50万円)と定率控除で構成)が適用となっているほか、合計所得金額が1,000万円以下の65歳以上の者に対しては、老年者控除(50万円)が適用となっている。

(*6)
 高齢者(老人医療の受給対象者)の自己負担は若年者に比べ低額に抑えられている。昭和48年の老人医療費支給制度の創設により老人医療は無料化され、昭和58年の老人保健法施行により、外来1月400円、入院1日300円の自己負担が導入された。その後、逐次自己負担額が改定されるとともに、自己負担の物価スライド制の導入(平成7年度から)や医療費スライド制の導入(外来は平成11年度から)により、現在では、外来1日530円(月4回まで)、入院1日1,200円となっている。なお、今国会に月額上限付きの定率1割負担制を導入すること等を内容とする健康保険法等の改正案が提案されている。
 また、高齢者の保険料についても、被用者保険においては、多くの高齢者は被扶養者として保険料の負担をしておらず、年金受給者が多く加入する国民健康保険においては、高齢者も被保険者として保険料の負担をしているものの、保険料の所得割額の計算上税法上の総所得金額を使用し、公的年金の相当水準の額まで算定の基礎に含めていないため、保険料額が低く抑えられている。この結果、平成10年度における高齢者の医療費は、80.1万円と、30歳代(30〜34歳9.7万円、35〜39歳10.5万円)の約8倍の医療費となっているが、保険料、自己負担合わせた高齢者の負担は年額12.1万円と30歳代(30〜34歳20.5万円、35〜39歳22.8万円)の約半分程度に止まっている。

(*7)
 「国民生活基礎調査」(平成10年調査)によれば、平均所得金額については、全世帯平均で世帯当たり平均所得金額は658万円(世帯人員1人当たり平均所得金額は223万円、平均可処分所得金額は187万円)であるのに対し、65歳以上の単身女性世帯の世帯当たり(1人当たり)平均所得金額は173万円(平均可処分所得金額は156万円)となっており、総じて低所得の傾向となっている。なお、65歳以上の者2,062万人のうち、女性単独世帯の者は10.5%となっている。

(*8)
 高齢者の資産の実態については、現役世代に比べて、ストックの積み上げが見受けられる。世帯主の年齢階層ごとに家計資産(貯蓄・不動産)の全般的状況をみてみると、世帯主の年齢が高くなるにつれて家計資産額は増加している(ただし、この額の評価に当たっては、近年の地価の下落を考慮する必要がある。)。
・世帯主40〜49歳の世帯:4,582万円
・世帯主70歳以上の世帯 :9,260万円(「全国消費実態調査」(平成6年))
 このうち、貯蓄については、世帯主の年齢階層別の1世帯(2人以上の世帯)当たりの貯蓄をみると、高齢者ほど貯蓄は大きくなっている。
・世帯主40〜49歳の世帯:1,294.1万円
・世帯主60歳以上の世帯 :2,345.7万円(「貯蓄動向調査」(平成10年))
 また、高齢者のいる世帯の持家率は平均で8割を超えており、全世帯の持家率(60.3%)を上回る状況にある(「住宅・土地調査」(平成10年))。

(*9)
 高齢者の資産の内容をみると、1世帯当たり家計資産額の平均は、
・世帯主が60〜69歳の世帯:8,139万円、うち宅地資産は5,348万円
・世帯主が70歳以上の世帯 :9,260万円、うち宅地資産は6,563万円
となっており、宅地資産の占める割合が高い(ただし、この額の評価に当たっては、近年の地価の下落を考慮する必要がある。)。(「全国消費実態調査」(平成6年))

(*10)
 リバース・モーゲージとは、高齢者が、その保有する土地・建物等不動産を担保にして生活費等の融資を受け、死亡時や転居等で契約期間が終了したときにその担保不動産の売却処分によってそれまでの融資金を元利一括で返済する仕組み。居住用不動産等のストックは保有しているがフロー所得の少ない高齢者にとって、保有する住居に住み続けながら、その資産を活用し、公的年金を補完し、多様な資金ニーズに応えることのできる自助努力の一方策である。
 我が国では、1980年代より信託銀行や地方公共団体等で同制度を実施する動きが見られたが、不動産価格の下落に加え、不動産流通市場が未発達であること、担保切れリスクがあることや、担保不動産の売却処分時に相続人と融資側との間でトラブルが起こるおそれ(例:同居人の居住権をめぐる問題)等法制上の問題があること、担保不動産が売却できない場合に実施主体(民間金融機関、地方公共団体等)が不良資産を抱え込むおそれもあることなど難しい問題もあり、普及するには至っていない。

(*11)
 老人保健制度では、老人医療費については、老人の患者負担を除いた給付費について、その3割を公費で負担(国庫負担2割、地方負担1割)し、残りの7割を各保険者からの拠出金で賄っている。平成12年度(予算ベース)においては老人医療費は10.1兆円であり、このうち患者負担0.8兆円、公費負担2.8兆円、拠出金6.5兆円となっている。老人保健拠出金については、1983(昭和58)年度には2.3兆円であったものが、1998(平成10)年度には6.8兆円となり、例えば、組合管掌健康保険の老人保健拠出金の支出割合は、1983年度の16.0%から1998年度32.8%へと高まっている。

(*12)
 高齢者医療制度の見直しについては、2002(平成14)年度を目途に検討を進めることとされている。

(*13)
 高齢者(老人医療対象者)の1人当たり診療費は、一般(老人医療対象者以外)の5倍(老人73.7万円、若人14.6万円、いずれも平成9年度)となっている。

(*14)
 1970(昭和45)年度における社会保障給付費は3.5兆円で国民所得比5.8%であったものが、1997(平成9)年度には、69.4兆円で国民所得比17.8%となっている。また、1997(平成9)年度の社会保障財源の60.8%が、被保険者及び事業主からの拠出により賄われている。

(*15)
 現在、国民年金については、第1号被保険者となるべき人のうち加入手続を行っていない者(未加入者)が99万人(第1号被保険者総数の約5%)、制度には加入しているが保険料を納めていない者(未納者)が172万人(第1号被保険者総数の約9%)おり、これを国民年金の被保険者全体でみると、両者の合計で約4%程度(第1号被保険者総数に対しては約14%)となっている(「公的年金加入状況等調査」及び「国民年金被保険者実態調査」(社会保険庁))。

(*16)
 現在の公的年金制度において、国民年金の第3号被保険者(サラリーマンの専業主婦等;平成9年度末約1,200万人、国民年金被保険者総数の約17%)に対する年金給付や20歳前に障害者となった者に対する障害基礎年金(平成10年度末約80万人、障害給付受給者の約50%)については、「拠出なくして給付が行われている」との指摘がある。
 このうち、20歳前に障害になった者の障害基礎年金については、年金制度への加入年齢である20歳前から障害を有しているため、障害事故の生じる以前の保険料拠出が不可能であること、及び所得保障の必要性があることから、制度発足時より例外的に支給しているものである。
 また、第3号被保険者制度については、昭和60年の年金改正において、従前は専業主婦のうち約3割が任意加入せず無年金であったことから、自分自身の所得のない専業主婦から保険料は徴収せず、給付に要する費用については被用者年金制度全体で負担することで女性の年金権の確立を図ったものである。
 このような点を考慮すれば、生活困難リスクに備える仕組みである年金制度においては、原則は「拠出なくして給付はない」「拠出に応じて給付がなされる」ものと評価できる。
 さらに、現在の厚生年金における巨額な積立不足は、これまで給付に見合う負担を求めてこなかった結果であり、社会保険方式においても厳密な意味で「拠出に応じて給付がなされる」ことになっていない、との指摘がある。しかし、この点については、
@ 昭和48年に、物価や賃金の上昇に応じ、年金額の改定を行う仕組み(物価スライド、賃金再評価)が導入されたが、これ以降の財政再計算においては、保険料率を将来に向けて段階的に引き上げていくことをあらかじめ想定し、その将来見通しに基づいて当面の保険料を設定する財政方式をとってきたこと
A 後代の負担により、物価や賃金の上昇に応じた給付改善を行い、年金の実質的な価値を維持してきたこと
B 制度発足当初、高い年齢で制度に加入し、加入期間の短い者に対しても一定の水準の給付を支給してきたこと
などにより、完全な積立方式をとる場合に比べて積立水準は低くなっているものの、段階的な保険料の引上げにより、長期的に給付と負担のバランスをとってきているものである。

(*17)
 今回厚生省が行った新たな「社会保障の給付と負担の見通し」(付表)によれば、基礎年金の給付費は、現在の14兆円から2025年度には38兆円にまで増加すると見込まれる。
 さらに、現在、予算総則においては、基礎年金、高齢者医療、介護保険に要する費用が消費税の使途とされているが、この3経費について、2025年度における給付額は、次のとおりとなる。

<基礎年金・高齢者医療・介護保険に係る給付費>
 2000年度 → 2025年度
合計27兆円100兆円
基礎年金14兆円38兆円
高齢者医療9兆円42兆円
介護保険4兆円21兆円
 なお、仮に、これら3経費に係る給付の全額を消費税収によって賄うこととする場合、上記試算などを基に機械的に計算すれば、現行の消費税収(国分)に加えて消費税の税率引上げ分はすべてこれらの給付のみに充当したとしても、国・地方を合わせた消費税率は、平成12年度(2000年度)ベースで約13%、平成37年度(2025年度)ベースで約25%まで引き上げる必要があると試算される。
 また、この税率引上げ分についても現行の地方交付税制度(国の消費税収の29.5%を配分)が適用されると仮定した場合には、国・地方を合わせた消費税率は、平成12年度ベースで約16%、平成37年度ベースで約33%まで引上げる必要があると試算される。さらに、現行の地方消費税制度(国の消費税額の100分の25が地方消費税額)も適用されると仮定した場合には、国・地方合わせた消費税率はその分高くなる。
 なお、追加的な消費税負担が社会保障給付に与え得る影響(年金額の物価スライド等)や国・地方の歳出に含まれる消費税負担の増加などを勘案した場合、必要な税率の引上げ幅は更に大きくなることに留意する必要がある。

(*18)
 仮に、年金を全て税で賄う方式に替える場合には、拠出と給付の連動がなくなることとなるが、これまで社会保険料を納めてきた者とそうでない者との公平を確保する必要があり、これまで納められてきた保険料を各人に返還するか、過去の拠出実績を反映させながら制度を移行させるか、という問題がある。

(*19)
 例えば、国民年金制度を創設した際には、厚生年金制度(国民年金創設時は給付の15%(その後20%に引上げ)を国庫負担)に比して、拠出能力の低い者の存在が多いことに着目し、給付費用の3分の1(制度創設時は保険料負担の2分の1を保険料拠出時に国庫負担)と当時においては他の制度より高率の国庫負担割合とした(その後、基礎年金制度の導入により両者の国庫負担は、基礎年金費用の3分の1に統合されている。)。
 また、医療保険制度においては、主に中小企業に勤務する被用者が加入する政府管掌健康保険には給付費の13.0%(老人保健拠出金にかかる国庫負担は16.4%)、さらに所得の低い加入者が多い国民健康保険については給付費等の50%の国庫負担がなされている。
 なお、平成11年度及び12年度の予算総則においては、消費税の収入(地方交付税分を除く)を基礎年金、高齢者医療、介護に充てることとされている。

(*20)
 国庫負担割合の2分の1への引上げにより、厚生年金の最終保険料率は、27.8%から25.4%に、国民年金の最終保険料月額は25,200円から18,500円(平成11年度価格)に引上げが抑制される(いずれも2004(平成16)年度に国庫負担割合を2分の1に引き上げた場合の試算である。)。

(*21)
 基礎年金の国庫負担割合を2分の1に引き上げる場合、2001年度でも2.4兆円、2025年度では3.8兆円(いずれも平成11年度価格)が必要と見込まれる。

(*22)
 社会保障給付費の国民所得比と国民負担率の国際比較

社会保障給付費の国民所得比と国民負担率の国際比較の図挿入

(*23)
 このパラグラフと次のパラグラフの記述における医療費は、国民医療費ベースである。

(*24)
 家族の介護・看護を理由に離職した雇用者は年間約11万人にものぼっている(平成9年就業構造基本調査)。介護保険による介護サービスの充実により、要介護高齢者に適切なケアが行われることにとどまらず、これらの離職を余儀なくされていた人の介護負担が軽減され、仕事を続けられる可能性が生まれるなど現役世代に対しても具体的なメリットがある。

(*25)
 遺族年金は、年金受給者や被保険者が死亡した場合、その人に生計を維持されていた遺族(死亡した人と生計を同じくし、恒常的な収入が将来にわたって年額850万円にならないと認められる遺族で、遺族基礎年金は子のいる妻又は子、遺族厚生年金は配偶者又は子、父母、孫、祖父母が対象(先順位のものから受給)。)に支給される。

(*26)
 社会保険の仕組みをとる制度以外の社会保障制度においても、例えば、生活保護制度においては、原則として世帯を単位として保護の要否及び程度を定めるものとされているなど、世帯を単位とした考え方が組み込まれている。

(*27)
 遺族年金については、廃止するという提案のほか、希望する者のみに追加的な保険料を求めるオプションとして残すという提案もなされている。

(*28)
 このような考え方に対しては、世帯収入が同じであれば負担も給付も同じ水準となっているのは老齢年金については当てはまるが、遺族年金を考えた場合妥当しないとの意見がある。

(*29)
 注2参照

(*30)
 我が国の労働力人口は、1998(平成10)年の6,793万人から、2005(平成17)年までに約60万人増加し、その後2010(平成22)年までに約120万人減少するものと見込まれている(「第9次雇用対策基本計画」(平成11年8月))。

(*31)
 平成12年改正においても、基礎年金と厚生年金(報酬比例部分)とを合わせて現役世代の手取り年収のおおむね6割を確保すると説明されている。

(*32)
 モデル年金額は平均的な賃金で40年加入の場合のサラリーマン夫婦の受け取る年金額であり、実際には加入期間が短い場合や年金の繰上げ支給を受けている場合などがあり、現実に支給されている平均年金額(老齢年金)は、基礎年金で5.4万円、厚生年金(基礎年金を含む)で17.8万円(いずれも新法分のみ、男女平均1人分、平成10年度)となっている。

(*33)
 未納・未加入者と納付者の所得分布には大きな差はなく、また、未加入者の6割、未納者の7割弱が個人年金又は生命保険のいずれかに加入していることにみられるように、未納・未加入者は、必ずしも経済的な理由で生じているわけではない。


【付表】

社会保障の給付と負担の見通し

平成12年10月

厚生省

[推計の前提]

(1) 経済前提
名目賃金上昇率年率 2.5%
物価上昇率年率 1.5%
運用利回り年率 4.0%
名目国民所得の伸び率2010年度まで 年率 2.5%
2011年度以降 年率 2.0%

注:本推計は2025年度までの長期推計として、年金の平成11年財政再計算の前提に基づき、さらに労働力人口減を勘案して経済前提を設定している。

(2) 人口推計
国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(平成9年1月推計)の中位推計による。

(3) 年金
平成11年財政再計算に基づき推計(平成12年改正制度)。

(4) 医療
平成10年度実績を足下とし、最近の1人当たり医療費の伸び(3%程度 平成2〜11年度実績平均)を前提に、人口変動(人口高齢化及び人口増減)の影響を考慮して医療費を伸ばして推計。

(5) 福祉等
a.介護
各市町村における介護保険事業計画及び平成12年度予算に基づき、賃金上昇率(年率2.5%)を勘案して推計。
b.介護以外
人口や経済の伸び率を勘案して推計。
社会保障の給付と負担の見通し」を図として挿入