郵政三事業の在り方について考える懇談会
第7回「郵政三事業の在り方について考える懇談会」
議 事 要 旨
1 日 時 平成14年2月25日(月)16:00〜17:00
2 場 所 内閣総理大臣官邸大客間
3 出席者 別紙
4 議事要旨
- (1) 開会
(田中座長)
- 「懇談会における当面の論点」に基づき、当懇談会及び有識者勉強会において検討を進めてきたが、資料1は、これまでお配りした「討議参考資料」について、その後の議論を踏まえ再整理した改訂版である。
- (2) 懇談会の今後の運営について
(田中座長)
- 「懇談会の今後の運営について」(資料2)に基づき、今後の検討手順を議論していきたい。7つの視点を例示しているが、視点を整理した上で、あるべき経営形態を議論したい。皆様方の意見をお聞かせ願いたい。
- なお、郵便局に是非足を運んでみたいとの要請もあったので、ご要望を事務局に提示していただければ、調整させていただく。
- (葛西委員)
- 2点ほど申し上げたい。鉄道や電力の経営形態について水平分割か地域分割かという議論があった。しかし、水平分割は極めて不適切と思うので、十分検討する必要がある。
- 実例として、イギリスの鉄道は水平分割を中心にして、全線路の保有、全資産の保有をするレール・トラックという会社と、その上で車両を保有する会社、それを借りて運行する会社に分割し、さらに地域分割という形で100 社近くに分けた。当初は大成功ともてはやされたが、レール・トラックは株主重視の経営ということで設備投資をせず、修繕費を削減し、資産の喰いつぶしを行った結果、1999年、2000年と2年連続して数十人の死傷者を出す事故のほか、年間何百回という事故を起こし、改善命令が出された。しかし、資金がなく昨年10月7日に破産した。市場に任せるならば当然列車運行を停止すべきだが、政府が資金を出して維持しながら生き返らせる方法を検討中というのが現在の状況。この原因は水平分割、すなわち責任が分割され、1つの施策を実施する上で統一的な意思決定ができなかったところにある。
- 郵政事業の場合、全く異質の三事業をどうするかという話になるので、国鉄の場合より遙かに難しい。
- 国鉄は、新幹線保有機構、貨物会社という形で水平分割を一部実施しているが、新幹線保有機構は、発足後3、4年を経ずして解体、廃止。それが今日うまくいっている原因。貨物はここ8年間連続で赤字を計上しており、早晩国にとって重要な問題になってくることは必至。
- 第2点として、トランジションをどのようにするかが非常に大事であるので、検討点に加えて欲しい。
- 郵貯の場合は、金融、財政の問題に連動するので、トランジションについては相当慎重かつ用心深く考えないと、非常に大きな問題を生ずる可能性がある。よほど確信ある検討を経た上で決断されるべき。
- (田中座長)
- イギリスの鉄道改革の弊害だが、資産を食いつぶしたということは、貸借対照表あるいは利益の表示が偽りであったというで、ごく初歩的な企業会計上の問題に起因する面もあったのではないか。
- (葛西委員)
- 問題が2つあった。1つは、イギリスの鉄道は昭和60年代からリストラの連続で設備投資をほとんどしておらず、民営化に当たり、もともと老朽劣化した資産を引き継いだこと。
- もう1つは分割の仕組み。レール・トラック社は列車運行会社からの固定賃料で収支を賄った。設備投資や修繕費などはコストが上がるので、一定期間内の戦略としては、資産を食いつぶすことがベストであるとして、株主に評価された。
- 当初、3ポンドで売り出した株式は18ポンドまで上昇したが、事故が続発したので、戦略鉄道庁を新設し分割民営化方式の再検討に入ることとなった。しかし、それも失敗に終わり倒産した。
- 結果的には、線路を保有する人間、車両を保有する人間、列車を運行する人間がばらばらになった。
- JR東海は1988年に「のぞみ」を走らせる決断をしたが、これには高速の車両をつくるだけではなく、線路・電源を強化し、騒音・振動のための防護柵を設け、地震の際の安全性も高める必要があった。垂直に、あらゆる要素を一括して検討して意思決定をする必要があった。
- 会社がばらばらで、しかもイギリスのように同一線路上に複数社が競合しない限り競争のインセンティブが働かないという経済的観念論をそのまま当てはめた場合、意思決定は不可能になる。
- (田中座長)
- 葛西委員のお話だが、B/S・P/Lの問題のほか、経営体の規律づけに関し、価格に介入をしたという規制上の問題もあった。
- (松原委員)
- 郵貯改革については、金融全体の改革、再生という大きなステージの中の各論という面がある。その点をしっかり議論すべき。
- 郵貯だけ民営化して民間金融機関は国有化か、逆のベクトルではないか、という議論も当然ありえるが、逆に、郵貯や政府系金融機関をそのままにして、日本の金融全体の改革とか再生ができるかという問題がある。
- (清野委員)
- 既に既存の事業者、民間事業者と郵政三事業は競合している。既存の民間事業者と今後の郵政三事業の間における公正で透明な競争条件をいかに確保すべきか、どう制度的に担保すべきかが今後の問題点である。
- (樋口委員)
- 構造改革をしなければ駄目だということは国民にも分かってきている。しかし、何故郵政事業を民営化しなければいけないか。今は平時の改革であり多数派工作に成功する必要がある。例えば社会保障の制度も絶対改革せねばならないとの結論は分かっているが、問題は移行のプログラムと移行のシステムをどう作るかであり、郵政事業についても移行のシステムを明らかにする必要。
- (森下委員)
- 郵便にせよ、郵貯・簡保にせよ、移行イメージがないと、なかなか論議が交わらない。例えば、郵貯は最低でも7年くらいサイクルが回らないと資金はうまく収まらない。その間にどう持っていくかが問題。
- 公社化され郵便の民間参入が進めば、いい意味で競争が導入される。
- 最後は、人、人員の問題となる。効率化、コスト削減や、職員の配置転換、スキル変換等を考えると、1、2年では解決しない。例えば5年を軸に置いたらどうなるのか、7年を軸に置いたらどうかなどと、時間軸と並行した論議が必要。
- (翁委員)
- トランジションの問題については同感。特に郵貯、簡保に関しては規模の問題が非常に大きい。規模をどのように縮小していくのかという観点から、例えば分割または全国一体のナロー・バンク的なものなど、具体論に踏み込んだイメージをもとに議論していくことが重要。
- (若杉委員)
- 言うまでもないことであるが、われわれの目的は、21世紀を良い日本にするために、どういう金融システムをつくるか、どういう郵便のシステムを持つのかということ。座長に、構造改革のための構造改革とか民営化のための民営化の議論にならないように舵取りをお願いしたい。
- (風間委員)
- トランジションという視点から考えることの重要性は同感。
- しかし、市場主義がベストのものであるかどうかについては分からないところがある。例えば、アメリカ西海岸で起きた電力会社の破綻は、市場主義が破綻した危険な側面ではないか、というのが素人から見た感覚。
- (田中座長)
- 市場原理とは、競争を通じて資源配分を行うということ。競争の結果、市場から退出を迫られる仕事、業務があることが前提。部分的には不都合を起こすことがあるが、社会の背骨が崩れるようなことはない。
- 重要なことは、競争を通じてより大きな成果を得られる可能性が非常に高いということが、市場競争を通じて物事を考える基礎にあること。
- (風間委員)
- 効率という問題は、「個」ということを排除しないと成り立たない。例えば、機械化は均一化されたものでないと、機械自体が動かない。ところが、「個」を人間の本質として大事にしたいと考えたとき、効率をどうするかという問題との間にどうしても矛盾点がある。この問題を抑え切れないで走り出してしまうことは危険。
- (池尾委員)
- 新聞などには、しばしば、経済学者は市場に任せておけばすべてうまくいくと言っていると書いてあるが、そのようなことを言っている経済学者は一人もいない。「市場に任せておけばすべてうまくいく」という主張をしているのが経済学という理解はしていただきたくない。
- (田中座長)
- 常に社会に矛盾はある。問題は是正がどう行われるか、どうすれば社会の中から新しいイニシアチブを引き出せるのかということ。
- 競争の契機が極めて重要で、競争の契機のないところでは新しい芽を摘んでしまうことになる。大きなメカニズムと個人との間の矛盾はどのシステムでもあり得ることで、競争が矛盾の解消を阻んでいる訳ではない。
- (樋口委員)
- 英国のブレア首相は、確か「ディシジョン・ウィズ・コンパッション」と言っているが、要するに、いろいろな影響を受ける人に配慮した優先順位の決定が必要ということではないか。
- (田中座長)
- 樋口委員がおっしゃったことは検討の視点として必要。さもなくば小泉内閣における懇談会としては、説明責任を果たしたことにはならない。
- (樋口委員)
- 市場主義、競争主義にはむしろ賛成。市場原理主義と競争原理主義になると、どうかと思っているだけ。
- (清野委員)
- 経済学者は、制度改革をする場合、常に市場競争がいいと言っているわけではない。市場に任せた方がいいという結論が出る場合と、出ない場合がある。
- 今回の場合、なぜ官では民がしているようなサービスの向上ができないのか、また、サービス向上のインセンティブをつくり出すためには一体どうすればいいのか、ということが問題。少なくとも、経済学の産業組織論とか、企業規制の話からするとそうなる。
- (若杉委員)
- できるだけ競争原理を入れていくことは大前提。郵便については競争が十分に入れられていないので、競争をもっと入れていこうとしている。
- 我々は、いま議論すべきは競争原理が良いか否かではなく、市場競争を前提としたとき、プレーヤーとしての郵政事業について、公社が良いのか民営化が良いのかという議論をしている。是非その辺をきちんと整理して議論すべき。
- (葛西委員)
- 先ほど、イギリス国鉄の民営化の失敗の原因の1つとして、1つの線路の上に複数の会社が競争しなければいけないというミクロ理論をそのまま適用したことにあると申し上げた。競争が駄目と言ったわけではなく、競争をどの単位でどういう形でやるかについて相当緻密に考える必要があると言うこと。
- 一方、市場がすべてだということであれば、市場で負けたものは当然消えてなくなるべきだが、イギリスのレール・トラック社は破産したにもかかわらず、国が一般会計から資金を拠出して、それまでと同じように運行させている。消えてなくなっては困るサービス、機能があって、これが国の役割ということなのだと思う。
- 公共性と企業性はいつもジレンマである。この2つの座標軸で、どの辺りに座標を位置づけられるのかということについては、産業ごとに非常に違うと思う。
- (田中座長)
- 議論の前提として考えていただきたいのは、日本の政府債務あるいは政府保証が、ほとんど負い切れないほどに大きくなっているということ。
- ある時期までは、政府保証は母屋の軒を貸すものだから母屋に何の問題もないということだったが、今は暗黙の政府保証も含めて軒先にあふれ返り始め母屋に及んでくるかもしれないと色々な人が判断し始めている。母屋に踏み込まれたときは、日本の大黒柱、背骨が折れるかもしれない。今や政府の事務・事業について、相当思い切った見直しをしないと、日本社会の持続性そのものが問われ始めているということだけは忘れていただきたくない。
- (松原委員)
- 何人かの委員から5年とか7年というタイムスパンが示され、またトランジションに関し議論しようとのご意見があったが、5年とか7年というのは悠長過ぎるのではないか。
- 私も、日本の背骨が折れそうだという危機感を強く持っているが、それを回避するためは、公的金融の在り方の再検討なしにはあり得ない。
- (若杉委員)
- 政府保証が悪いのではなく、政府保証を付けた資金で「有償の資金でも採算が合うこと」という財投の大前提を満たさない投資を行ってきたことや、国債を発行して返済見込みのない事業をしていることが大問題。
- 一方で、民間は現在、非常に生産性が下がり、失業率は上がっており、株式、つまり会社の価値はどんどん下がっている。使い方を変えずに、国を通していたお金を民間に移行しても、本当の経済の活性化にはつながらないのではないか。
- そのようなことをきちんと議論せずに、政府保証が悪いなどと議論しても、本質的な問題を突いていることにならないのではないか。
- (田中座長)
- 政府の関与の比率が大きくなり、生産性を引き上げるような形の投資が行われないという仕組みが民間にもはね返ってきている。
- 全要素の生産性を引き上げるためには、政府・特殊法人の改革等も含めて、効率が極めて乏しい分野における資源配分を排すべきだというのは、ごく普通の結論と思う。
- (3) 事業環境の変化を視野に入れた郵便局ネットワークの活用について
(田中座長)
- 委員の問題意識を、ひとまず「郵便局のネットワークへの国民の信頼は高く、これをいかに有効活用するかが重要」と整理したが、こういう形で議論していただくことについてどうか。
- 郵政三事業については、事業環境変化が非常に大きい。総理も、物流と金融はイノベーションが極めて高い分野で、それに対応し得るような仕組みがなければ、とても無理だろうと表現されたこともある。
- (葛西委員)
- 「有効活用」という言葉は、幅広い意味に捉えるべきという感じがする。例えば電力について、発電、送電、配電を別々の会社に任せて、送電はフリーアクセスにすることにより、効率化が図れるという考え方がある。しかし、これは観念論。イギリスの国鉄と電力は、ともに失敗している。
- (田中座長)
- 葛西委員の論点を私なりに理解すると、誰の成果に帰すかわからない、誰の費用に帰すかわからないようでは必ず問題が起きるから、インセンティブの設計がきちんとできる形で問題の整頓を図るべきということか。
- (葛西委員)
- もっと本質的に、ワンサイクルの仕事について一元的に事実を検証し意思決定を行い実施をするシステムが必要ということ。
- 鉄道の例では、相互乗り入れ実現のため上下分割というEU指令が出されている。しかし、フランスやドイツでは上下別々に意思決定すると鉄道の近代化ができないので一体で意思決定できるようにする必要があると考え、組織は分けた形になっているが、同じ試験で採用した人間の配属替えによって連担性を保つ仕掛けが取られていると聞いている。
- 郵便局のネットワークについて、民間企業も使えばいいという考え方は議論としてはあり得ると思うが、本当に成立し得るかは慎重に検証しないと無責任体制になり、結果的には機能の老朽劣化につながると思う。
- また、市場だけでは環境変化に対応することはできない。アメリカ、イギリス、フランスでは、市場という軸と国家戦略という軸で事を決めていこうとしていることが、昨年9月11日のテロ以来明確になっている。
- 事業の変革について、国も戦略的に意思決定をし、市場に委ねるべき点は委ねるという2つの軸の上に座標を位置づけることが必要。
- (田中座長)
- 国家戦略は重要だが、主体としての政府や公社が必要であることとは違う。日本国債の償還リスクを念頭に戦略的に議論いただけていると思う。
- (葛西委員)
- 国の関与の仕方にはいろいろある。フランスの鉄道、金融、郵便に対する関与の仕方は、イギリスのそれとは全く違う。どれを参考にするかについては、日本の歴史、成り立ちを考えて、バリエーションがあり得る。
- (池尾委員)
- 葛西委員の水平分割論に対する批判については、共感する部分が多い。他人のものを借りて使うときの使い方と自分の元にあるときの使い方では、使い方自体が変わるということは当然あるから、資産の保有主体と利用主体は同一である方が、むしろ効率的であるというケースが多い。
- したがって、郵便局ネットワークの運営は、ある種の事業体、例えば郵便事業体が担わなければいけない。
- しかし、そのことと郵貯、簡保という金融勘定を分けられないかということとは違う。ある特定の事業体が資産保有も含めて責任を持つべき体制を確立するという点については賛成だが、金融勘定について分けて考えられる可能性について留意する必要。
- (田中座長)
- 我々は、まさに今日出たようなテーマについて説明責任を負っている。今日の議論を踏まえて、今後も更に検討を続けていきたい。
- (総務大臣)
- 郵便局を見ていただくのは結構だと思う。
- 幅広く議論をしていただき、意見をうまく集約していければ一番いい。
- (総理大臣)
- いよいよ本質論に入ってきて、着々と議論が進展している御努力に感謝している。単なる郵便局のサービスの問題ではなく、財政、行政、全般に関する大改革であるので、いい結論を得ていただきたい。
(別紙)
第7回郵政三事業の在り方について考える懇談会 出席者
| (政府側) |
| 小泉純一郎 | 内閣総理大臣 |
| 福田 康夫 | 内閣官房長官 |
| 片山虎之助 | 総務大臣 |
| 上野 公成 | 内閣官房副長官(政務・参) |
| 古川貞二郎 | 内閣官房副長官(事務) |
| (委員) |
| 田中 直毅 | 座長・経済評論家 |
| 池尾 和人 | 慶應義塾大学経済学部教授 |
| 翁 百合 | 株式会社日本総合研究所調査部主席研究員 |
| 葛西 敬之 | 東海旅客鉄道株式会社代表取締役社長 |
| 風間 晴子 | 国際基督教大学教授 |
| 清野 一治 | 早稲田大学政治経済学部教授 |
| 樋口 恵子 | 東京家政大学教授 |
| 松原 聡 | 東洋大学経済学部教授 |
| 森下 洋一 | 松下電器産業株式会社代表取締役会長 |
| 若杉 敬明 | 東京大学大学院経済学研究科教授 |