岸田総理によるオーストラリアン紙への寄稿文

更新日:令和4年10月21日 総理の指示・談話など

 問1.総理は、特にQUAD(日米豪印)における安全保障協力との関連で、日豪関係をどのように捉えているか。また、今後の二国間関係はどのような可能性があると考えるか。

 日豪両国は、今やインド太平洋地域における同志国連携の中核となっている。アルバニージー首相との首脳会談を始めとする一連の日程を通じて、基本的価値及び戦略的利益を共有する豪州との間で、安全保障・防衛協力、「自由で開かれたインド太平洋」、資源・エネルギーの3つの分野における協力強化を深め、日豪関係を新たな段階に進めたい。
 特に安全保障・防衛協力については、我々の地域における戦略環境の変化を踏まえ、2007年の日豪安保協力共同宣言以来、日豪両国は、情報保護協定、物品役務相互提供協定及び本年1月署名の円滑化協定の署名など、協力の枠組みを整備しつつ、具体的な協力を着実に実施してきている。今回の訪豪では、その基盤の上に立ち、アルバニージー首相との間で、日豪安保関係の今後10年の方向性を示したいと考えている。
 一方で、日米豪印は、安全保障協力のための枠組みではなく、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた幅広い実践的協力を進めるもの。日豪両国で、日米豪印を含めた地域の取組をリードしていくとともに、太平洋島嶼(しょ)国との協力など様々な課題について一層連携を強化してきたい。
 石炭、鉄鉱石、LNG(液化天然ガス)といった資源・エネルギーの豪州から日本への輸出、それらの分野への日本からの投資は、日豪経済関係の土台を支えてきた。日本は、安定的供給国、信頼できる投資先としての豪州の役割を高く評価している。また、GX(グリーン・トランスフォーメーション)の一翼を担う水素・アンモニアを含む脱炭素分野は、日豪経済関係の新たなフロンティアである。私は、「デジタル田園都市国家構想」を推進してきているが、デジタル技術を活用した日豪協力も進めていきたい。これらの分野でも、日豪の協力関係が深化していくことを確信している。

 問2.中国が繰り返し日本の領空及び領海に侵入し、また台湾との関係でも同様の行動をとっていることに対し、総理はいかなる懸念を有しているか。

 中国による東シナ海・南シナ海における一方的な現状変更の試みや、我が国周辺における軍事活動の拡大・活発化は、我が国を含む地域と国際社会の安全保障上の強い懸念。
 我が国の平和と安定、尖閣諸島を含めた我が国の領土、領海、領空、さらには、自由で開かれた国際秩序を、日米同盟を基軸としつつ、しっかりと守り抜いていくと同時に、中国に対しては、主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めていく。
 また、8月の中国による台湾周辺での一連の軍事活動、特に、我が国の排他的経済水域を含む我が国近海への弾道ミサイル発射は、我が国の安全保障及び国民の安全に関わる重大な問題であり、中国に対し、強く非難し、抗議するとともに、今般の中国側の行動は、国際社会の平和と安定に深刻な影響を与えるものであるとして、軍事訓練の即刻中止を求めた。
 台湾海峡の平和と安定は、我が国の安全保障はもとより、国際社会の安定にとっても重要である。台湾をめぐる問題が、対話により平和的に解決されることを期待するというのが従来から一貫した立場である。この点、これまでも日豪やG7で台湾海峡の平和と安定の重要性について一致している。

 問3.総理は、ロシアとウクライナ間の紛争における核兵器使用の可能性についていかなる懸念を有しているか。同様に、総理は最近の北朝鮮によるミサイル発射についてもいかなる懸念を有しているか。

 ロシアによるウクライナ侵略は、国際社会が長きにわたる懸命な努力と多くの犠牲の上に築き上げてきた国際秩序の根幹を脅かすもの。
 その中で、核による威嚇が行われ、核兵器の惨禍が再び繰り返されるのではないかと世界が深刻に懸念している。
 ロシアによる核兵器による威嚇、ましてや使用はあってはならない。長崎を最後の被爆地にしなければならない。
 自分もNPT(核兵器不拡散条約)運用検討会議や国連総会の場を含め繰り返し訴えてきたが、唯一の戦争被爆国として、引き続き様々な国際場裡(じょうり)において、こうした日本の立場を強く訴えていきたい。
 北朝鮮が、10月4日、我が国上空を通過する形で弾道ミサイルを発射したことを始め、一連の北朝鮮の行動は、我が国の安全保障にとって重大かつ差し迫った脅威であるとともに、地域及び国際社会全体の平和と安全を脅かすものであり、断じて容認できない。
 10月4日の弾道ミサイル発射を受け、私は、バイデン米国大統領及び尹錫悦(ユン・ソンニョル)韓国大統領との間で電話会談を行うなど、米国及び韓国との間で、様々なレベルで、緊密な連携を確認した。
 一方で、北朝鮮が安保理決議違反を繰り返す中で、一部の国々の消極的な姿勢により、北朝鮮による深刻な挑発行動と度重なる決議違反に対して行動できていないことは大変遺憾である。
 このような状況の中、我が国としては、10月18日に北朝鮮の核・ミサイル開発に関与した5団体を資産凍結等の対象として追加指定した。
 今後、北朝鮮が核実験を含め、更なる挑発行動に出る可能性がある。米国や豪州を始めとする国際社会とも協力しながら、関連する安保理決議の完全な履行を進め、北朝鮮の非核化を目指していきたい。

 問4.総理は、世界経済のインフレと世界的な景気後退にいかなる懸念を有しているか。また、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)のような貿易枠組みは、これらの経済下振れ圧力に対抗できると考えるか。

 ロシアによるウクライナ侵略等を受けて世界的に物価が上昇し、各国で金融引き締めが進む中、世界の景気後退懸念が、日本経済の大きなリスク要因となっている。
 世界経済におけるインフレや景気後退などの経済の下振れ圧力への対処については、TPP11(イレブン)においても重要な問題として認識されている。
 そのような中で、今月8日にシンガポールで開催されたTPP11の最高意思決定機関である閣僚級のTPP委員会でも、世界経済に対する協定の顕著な貢献が確認された。また、TPP11における強力なパートナーシップを活用し、貿易や投資の流れについてより良い環境の醸成に取り組むとともに、域内のサプライチェーンの強靭化に向けたレビューを行うなどとされたところである。
 我が国としては、英国の新規加入プロセスも含め本協定の推進を通じた自由貿易体制の強化やサプライチェーンの強靭化に向け、豪を含む他の参加国と協力しつつ、より一層、リーダーシップを発揮していく。