G7広島サミットに向けた世界人口開発議員会議(GCPPD)2023 岸田総理基調講演

更新日:令和5年4月25日 総理の演説・記者会見など

 アジア人口・開発協会の福田康夫理事長、そして人口と開発に関するアジア議員フォーラムの武見敬三議長、御列席の皆様方、おはようございます。日本の総理大臣の岸田文雄です。
 人口開発問題に取り組む世界各国の議員の皆様が、G7広島サミット開催前のこの時期に訪日されたことを、心から歓迎申し上げます。世界人口開発議員会議の開会に当たり、発言の機会を得られたことを大変うれしく思います。
2016年にも日本でこの会議が開催されましたが、その前年には、2030年を達成期限とする持続可能な開発目標(SDGs)が国連総会で採択されました。本年はその中間年に当たります。国際社会は、気候変動、感染症を始めとする国際保健、食料・エネルギー等の複合的な地球規模課題に直面しており、SDGsは2030年までの達成が危ぶまれています。今こそ、世界の変革の実現に向けて、取組を加速化させなければなりません。
 昨年11月、世界人口が80億人に達しました。人口問題は、人間、社会、経済の発展のあらゆる側面に影響を与え、社会の在り方に直結する問題であり、持続可能な開発を達成する上での基盤ともなります。そのため、人口問題はSDGsの全ての目標と関連し、SDGsの達成に向けては、人口の観点を取り入れることが不可欠です。
 ただし、一口に人口問題と言っても、状況は様々です。サブサハラ・アフリカの国々は、高い出生率への対応が迫られています。一方で、特にアジアやラテンアメリカは、人口ボーナスをどう活(い)かすか、例えば、雇用を含む若者のエンパワーメントが課題です。さらに、少子化と高齢化が進展する国が先進国のみならず、途上国においても増加しつつあります。
 また、国際的な人口移動、人口の偏在等にも対応が必要です。例えば、難民や国際労働力の課題、人口の都市集中に伴う社会サービスの供給等への対応も課題となっています。さらに、女性が妊娠や出産に関して十分な情報を得て自ら決定できるという、性と生殖に関する健康と権利や、女性のエンパワーメントに関する取組を進めていくことが重要な課題となっています。母子保健サービス、栄養、慢性疾患対策などへのアクセスを確保することも重要であり、一国ではなく、世界全体での取組が重要となっています。
 このように様々な切り口が求められる人口問題への対応に際して、基本的な視座となるのが、日本が開発協力の指導理念と位置付け、国際的に主導してきた人間の安全保障だと考えます。言い換えれば、人間一人一人、特に最も脆弱(ぜいじゃく)な立場の人々へのまなざしが重要です。単なる人口の増減だけでなく、個々の人間の生活の質に着目する必要があります。
 この観点から、様々な人口問題へのアプローチの中でも、最も重要なものの一つが、グローバル・ヘルスの取組であり、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成であると考えます。
 私は本年一月、医学雑誌ランセット誌への寄稿で、「UHCへのコミットメントが、世界の中でも最も健康的な社会を実現した日本のやり方である」として、日本政府としての立場を改めて表明いたしました。
 これまでも、日本は、日本がホストするサミットの機会に、グローバル・ヘルスの議論を主導してきました。2008年の北海道洞爺湖(とうやこ)サミットでは、正に福田総理がイニシアティブをとられ、国際保健に関する洞爺湖行動指針が策定され、保健システム強化、母子保健など5つの分野で採るべき行動が提示されました。
 2016年の伊勢志摩サミットでは、グローバルヘルス・アーキテクチャーの強化とUHC達成のために、国際保健のためのG7伊勢志摩ビジョンが首脳のコミットメントとして打ち出されました。
 そして、現在、ロシアによるウクライナ侵略や、それがもたらした食料安全保障やエネルギー安全保障への影響、インフレや気候変動などの問題、が相互に結びつき、これまでになく多くの人々の安全が脅かされ、貧困と疾病が深刻化しています。また、新型コロナウイルス感染症が、これまでのグローバルヘルス・アーキテクチャーの脆弱性を露呈し、UHCの必要性を改めて浮き彫りにしています。
 こうして世界が歴史的な転換点に立つ今、本年の広島サミットにおける国際保健の議論では、これまでのG7における議論も踏まえ、人間の安全保障を強調しつつ、以下3つの分野に主に焦点を当てたいと考えています。
 第1に、公衆衛生危機への予防・備え・対応のためのより良いガバナンス及びファイナンスを含むグローバルヘルス・アーキテクチャーの構築・強化です。G7として、国際的なガバナンスの向上、持続可能な資金の確保、国際的な規範の強化のための取組に積極的かつ建設的に貢献していくことが重要であると考えています。
 第2に、保健システムの強化を通じた、より強靱(きょうじん)、より公平、より持続可能なユニバーサル・ヘルス・カバレッジ達成への貢献です。HIV(ヒト免疫不全ウイルス)・AIDS(後天性免疫不全症候群)、結核、マラリア、顧みられない熱帯病といった感染症や薬剤耐性(AMR)、メンタルヘルスを含む非感染性疾患、リプロダクティブ・母子・新生児・思春期保健、健康で活動的な高齢化といったライフコース・アプローチなどの国際保健上の諸課題に対し、効果的に対応するべく、保健システムを強化する必要があります。
 第3に、様々な健康課題に対応するためのヘルス・イノベーションの促進です。感染症危機対応医薬品等の迅速な研究開発や公平なアクセスの確保を可能とするための仕組みの構築を促進していきます。ヘルス・イノベーションの一層の推進は、高齢化社会を支え、UHC達成にも資するものです。
 これらの課題への取組は、先進国、新興国、途上国を含む国際社会の幅広いパートナーとの関係を強化する観点からも重要です。また、これらの取組の実現のためには、全ての国・政府のみならず、市民社会を始め、全てのステークホルダーと共に取り組んでいくことが不可欠であるということは言うまでもありません。そのためには、正に本日集まられている各国国会議員の皆様の役割、これが非常に重要であります。
 御列席の皆様、来年は、1994年にカイロで開催され、人口問題において個人のライフスタイルや生活状況の改善を基本理念においた国際人口開発会議から30年を迎え、新たな人口政策の在り方が議論されることになるでしょう。
 今回の会議では、女性や若者の活躍、活力ある高齢化など、様々な課題が議論されるとお聞きしております。この機会を捉え、ネットワーク作りと議員外交を促進し、皆様がそれぞれの国のリーダーとして地球規模課題の解決に取り組み、新たな時代の人口問題、そしてポストコロナ時代を共に切り拓(ひら)いていくことを切に期待して、私の御挨拶とさせていただきます。御清聴、誠にありがとうございました。

関連リンク

これまでの総理の演説・記者会見など