日本経済団体連合会定時総会
令和7年5月29日、石破総理は、都内で開催された日本経済団体連合会定時総会に出席しました。
石破総理は、挨拶で次のように述べました。
「内閣総理大臣でございます。本日はお招きをいただき、誠にありがとうございます。日本経済団体連合会第14回定時総会に当たり、一言、御挨拶を申し上げます。
本日退任されます十倉会長におかれましては、新型コロナウイルスへの対応に始まり、不確実性を増す世界情勢、少子高齢化・人口減少、資源エネルギー制約。このような解決すべき課題が山積する中、経団連の代表として様々な御提言を頂き、それを確実に実行に移していただきました。
昨年は33年ぶりの高水準の賃上げとなりましたが、今年はそれを上回る賃上げが実現しつつあります。官民連携の下で、その成果は着実に実を結びつつあり、日本経済に明るい兆しが見え始めてまいりました。改めまして、十倉会長の指導力に心より敬意を表しますとともに、政府を代表して心より感謝を申し上げる次第であります。
本日就任される筒井新会長とは、一層複雑化する地政学的状況の下、この明るい兆しを逃すことなく、引き続き、官民で連携をして『賃上げと投資がけん引する成長型経済』への確実な移行を加速させていただきたいと考えております。どうぞよろしくお願いを申し上げます。
現在、我が国を取り巻く国際情勢は極めて厳しく、複雑さを増しております。米国の関税措置を受け、足下の対応として、約1,000か所の相談窓口の整備、特に影響を受ける可能性の高い中堅・中小企業等の資金繰り支援、4月に決定した緊急対応パッケージに基づき万全を期してまいりました。今後とも企業の皆様の将来に対する御懸念の声に耳を澄まし、政府全体でちゅうちょなく応えてまいります。
米国に対しましては引き続き一連の関税措置の見直しを強く求めてまいります。日本企業が投資や雇用創出を通じ、米国経済の発展に大きく貢献しておる事実を伝え、国内のさまざまな意見を集約しながら、粘り強く取り組んでまいります。
一言で申し上げれば、関税よりも投資ということであります。高い関税を張ることで、世界が繁栄するわけではございません。投資をして、それが雇用を生み出し、それがいかにして世界に大きな効果をもたらすかということでございまして、我が国としてはこの方針の下、粘り強く取り組んでまいりたいと考えております。
世界経済の不安定さが増す中、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序、WTO(世界貿易機関)を中核とする多角的貿易体制の維持・強化にコミットしている国・地域との連携は、地域の安定と繁栄に不可欠であります。
私もインドネシア、マレーシア、ベトナム、フィリピンを訪問し、今回の関税措置への対応を始め、半導体、脱炭素、エネルギーなど新たな分野での協力について議論をいたしてまいりました。アジアの国々を始め、引き続き関係の強化に取り組んでまいります。
我が日本国とASEAN(東南アジア諸国連合)諸国は自由貿易体制の下、経済的にも強く結びつき、今や同じ経済圏であると言っても過言ではございません。世界で保護主義や内向き志向が強まる今こそ、『世界の成長センター』であるアジア各国が手を携え、ルールに基づく自由で公正な世界経済秩序の重要性を示していくべきと考えております。
一つの取組がCPTTP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)でありまして、幅広い分野をカバーした高い水準の共通ルールであり、単なる経済的な利益を超え、世界の平和と繁栄にも貢献するものであります。我が国はアジアの一員としてこれを主導してきており、今後ともこの取組の拡大、アップグレードに取り組んでまいります。ASEAN、EU(欧州連合)との連携の可能性も模索をいたします。
国内的には一昨年、投資が100兆円を超えました。本年1月には十倉会長から2030年度に135兆円、2040年度に200兆円と、従来を上回る力強い国内投資目標を表明していただきました。
各国が大胆かつ積極的な産業政策を展開し、内外の不確実化、不確実性が一層高まっている中であらばこそ、この流れを定着・強化させるため、中小・中堅も含め多くの企業の皆様方に、持続的な賃上げと投資に取り組んでいただくことが可能になりますよう、環境整備を進めてまいります。
既に今国会でも、AI(人工知能)データセンターといったDX(デジタル・トランスフォーメーション)分野で50兆円超の大規模な経済成長投資を官民で実現するための法律を成立させました。昨日には、イノベーション促進とリスク対応を両立しながら、『世界で最もAIを開発・活用しやすい国』と、そうなりますことを目指す、AI法が成立をいたしました。
今後とも、GX(グリーン・トランスフォーメーション)・DX、経済安保等の戦略分野への高付加価値な成長投資や、AIや量子、宇宙等のフロンティア技術のイノベーションを促進すべく、制度整備、大胆なインセンティブ措置を講じます。
日本が成長型経済に移行するに当たっては、賃上げや成長の実感を地方へ波及させていかねばなりません。
私どもの内閣で取り組んでおります『地方創生2.0』は、10年前の『1.0』ではなく、これを全く新しいものにすると、そのような意味を込めて名付けておるものでございます。
地方創生2.0では、これまでの10年間に本格的に取り組めてこなかった点、例えば、魅力ある職場づくり、人づくりを起点にした社会の変革により、楽しく働き、楽しく暮らせる場所として、『若者・女性にも選ばれる地方』をつくる、新しい技術をいかし、農林水産業や観光産業をスマート化し、自然や文化・芸術など各地域の資源を活用した高付加価値型の産業・事業を生み出す。
AI・データセンターや脱酸素エネルギーをつなぐGX・DXインフラの整備をワットビット連携で進めることにより、地方の強みである各種産業の潜在力を最大化するなど、『民』の力を最大限にいかしながら、『令和の日本列島改造』を実現してまいります。
人口減少下におきましては、都道府県・市町村といった枠を超えて、官民を始めとする多様な主体が連携して課題解決に取り組まねばなりません。十倉会長にお示しいただきました、FUTURE DESIGN(フューチャー デザイン)2040の『道州圏域構想』は、こうした問題意識からお示しいただいたものと考えております。政府といたしましても、『広域リージョン連携』を省庁横断的に強力に進めてまいります。
地方におきましても、若者や女性がそのスキルを発揮して生き生きと活躍していただくとともに、地方の企業の経営や輸出等の専門的な知見を持つ都市の人材を活用し、成長していただけるように取り組んでまいります。
企業の皆様方におかれましては、レビキャリ(REVICareer)など政府のマッチング支援制度や地方拠点強化税制等を御活用いただきながら、都市部の企業人材の地方での活躍や本社機能の移転・拡充に御協力をいただきたいと存じます。
大阪・関西万博につきましては、多くの方々がおいでになり、手応えを感じております。これまで、博覧会協会の会長として、先頭に立って取り組んでこられました十倉会長を始め、経済界の皆様方には、心より感謝を申し上げます。
世界がさまざまな『分断』の危機に直面する今、万博会場は世界中から人々が集まり、『いのち』というテーマに向き合い、世界最先端の技術、多様な考え方、そして文化に触れることができます。
本日御参加の皆様方が、御自身も何度でも訪れていただき、その魅力を発信していただくことで、より多くの方に御来訪いただければと存じます。
改めて十倉会長のこれまでの御尽力に心からの敬意と感謝を申し上げますとともに、筒井新会長におかれましては、今後も一層の御協力をお願い申し上げる次第でございます。
万博に参加している国は158か国でございます。ほとんどの国から、首相、大統領がお見えになります。今朝一番はタンザニアの首相でした。その次はラオスの(国家)主席でした。さっきまでクウェートの皇太子殿下がお見えでありました。これ全部お迎えをし、全部とお話をするのはなかなか大変なことでございますが、十倉会長の御尽力に報いるためにも、私どもは精一杯努めてまいりたいと考えております。
前の万博は、昭和45年、1970年、55年前のことでございました。私は鳥取の中学2年生でありました。3回行きました。3時間並んで月の石を見ました。5分。ただの石でしたが。その時の経団連会長は、石坂泰三さんであったと記憶をいたしております。東京芝浦電気の石坂泰三会長、財界総理という名前が定着したのは、その頃からと聞いております。時の総理は、佐藤栄作総理でありました。齢(よわい)69歳だったそうであります。
あれから55年がたちました。もう一度日本とは何か、世界とは何か。これから日本は何をすべきか。政治は、民間は、地方は何をすべきかということを考える、本当にそういう機会であると承知をいたしております。十倉会長とは色々なことで御一緒させていただきました。この万博、色々なことを言われましたが、これ何としても成功させよう。そういう思いで色々な御指導いただきながら、力を合わせてまいりました。私にとって素晴らしい体験であります。
まだまだ万博は続きます。十倉会長の御尽力に報いるためにも、私どもは精一杯取り組んでまいりたいと思っておりますので、是非とも皆様先ほど申し上げましたが、3回行っていただいても、5回行っていただいても、10回行っていただいても結構です。
いらっしゃるたびに新しい発見がある、大阪・関西万博であります。是非ともよろしくお願いを申し上げます。また、筒井会長におかれましては、初めての金融、それも生命保険業界からの会長御就任であります。私どもは、これから先の社会保障をどうしていくのかということについて、明確にこれを示していかなければなりません。
次の選挙も大事です。しかし、同時に次の時代を考える責任が私どもにはございます。どうか経済界の皆様と共に、今さえ良ければいいとか、そういうことではなくて、自分たちさえ良ければいいとか、そういうことではなくて。次の時代のために、世界のために共に力を合わせ、筒井会長のお知恵・お力、心からお願いいたしますとともに、経団連並びに日本経済界、更なる発展を、会員の皆様方、役職員の皆様方、御家族の皆様方の幸せ、御発展を心からお祈りして御挨拶といたします。ありがとうございました。」