ベトナム訪問に際しての石破総理によるトゥオイ・チェー紙への寄稿文
「日本はベトナムの発展とともに歩む」
ベトナムの皆様、こんにちは。日本国総理大臣の石破茂です。
2023年に日越関係が「アジアと世界における平和と繁栄のための包括的戦略的パートナーシップ」に格上げされて以降、日本国総理大臣として初めてベトナムを訪れることができ、大変光栄です。私自身としても久しぶりのベトナム訪問であり、妻とともにその飛躍的な発展ぶりを目の当たりにするのを楽しみにしています。
日本とベトナムは、地理的にも歴史的にも繋(つな)がりの深い国で、数世紀にわたって友好関係を築いています。16~17世紀には朱印船貿易によってホイアンで日本人町が形成されており、20世紀初頭には東遊運動によってファン・ボイ・チャウ氏が日本に留学するなど、外交関係を樹立する前から両国は深い絆(きずな)で結ばれていました。現在も日本人にとってベトナムは非常に親しみがある国で、2024年の訪越日本人は71万人にも至ります。また、約2000社の日本企業がベトナムに進出しており、ベトナムは日本にとって欠かせないパートナーです。日本に在留しているベトナムの方は63万人おり、観光等で訪日される方も62万人おられます。近年、日本の街中でベトナム語を耳にしたり、バインミーやフォーのレストランを見かけたりすることも多くなってきています。
こうした緊密な社会的・文化的繋がりを背景に、日越間でのハイレベルの意思疎通も緊密に行われてきました。ベトナムは「新たな時代」に向けて、戦略的インフラ、科学技術、DX(デジタル・トランスフォーメーション)、GX(グリーン・トランスフォーメーション)に注力して工業化・近代化を進めるとともに、中央・地方の行政改革に注力されていると承知しており、日本はこうした「新しい時代」の方向性を歓迎しています。昨年、私自身、ファム・ミン・チン首相、ルオン・クオン国家主席、チャン・タイン・マン国会議長との会談を実施したところ、今回の訪問においてもトー・ラム書記長をはじめとするベトナムの国家指導者とともに安全保障、経済、人的往来、地域情勢への対応といった各分野での日本とベトナムとの協力強化につき協議したいと考えています。日本は、高度経済成長を目指すベトナムのかけがえのないのパートナーとして、ベトナムの投資・経済協力の環境整備と推進に共に取り組んでいきます。また、半導体をはじめとするデジタル化を支える基盤産業やアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)を通じたアジアの脱炭素に向けた協力を進めていきます。これらの取組が世界の未来を担う日本とベトナムの若者同士の協力にもつながっていくことを望んでおります。
日本は、1995年のベトナムの市場経済への移行を支援した石川プロジェクト以来30年にわたり、ODA(政府開発援助)や民間投資を通じて日本の技術や知見を活(い)かしながら、ベトナムの経済発展のために、ベトナムの皆様と苦楽を共にして協力してきました。昨年開業したホーチミン市都市鉄道1号線を多くのホーチミン市民が利用されているとお聞きし嬉(うれ)しく思います。また、ベトナムの堅固な経済成長を支えるのに不可欠な強靱(きょうじん)性の向上や格差是正を後押しすべく、地方部を中心に、私のライフワークである防災分野で洪水や土砂災害対策を支援するほか、農産品の生産性や安全性の向上を支援します。
国際情勢に目を向ければ、国際社会は複合的な危機に直面しています。日本とベトナムが、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序や多角的自由貿易体制を維持・強化することを確認し、諸課題の対応についての連携を強化することは地域の安定と繁栄に資するものです。こうした分野での協力も一層具体化していく考えです。
最後に、日本では、今月13日から「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマで大阪・関西万博を開催しており、多くの来場者で賑(にぎ)わっています。ベトナムには「人々が中心の包摂的な社会」というテーマでパビリオンを出展していただいております。今回の万博を契機に多くのベトナムの方が訪日され、両国国民間の友情や相互理解を更に強くすること、また、その機会に日本の地方各地を訪問され、その魅力にふれていただくことを期待しています。
今回の私の訪越を通じ、協力を更に加速化し、日本とベトナム双方に裨益(ひえき)する、より強固な関係を築いていけると確信しています。