難民の生きる力を支え、コミュニティーの自立を目指す(2018年冬号)

黒木明日丘

特定非営利活動法人ジェン(JEN)事務局長。大学卒業後、民間企業勤務を経て、民間非営利のシンクタンク兼コンサルティングファームに転職。妊娠・出産を機に離職後、2012年より2年間外務省の経済協力専門員となる。2014年4月、JENに入職し、ヨルダンのシリア難民支援、イラクでの支援活動を担当する。グローバル事業部課長を経て2016年4月より現職

 JEN(Japan Emergency NGO)は1994年、内戦状態に陥ったユーゴスラビアで緊急人道支援を行うために発足した日本の国際 NGOだ。その後も、アフガニスタンやイラク、南スーダンなど紛争や災害が発生した地域に、いち早く人員を派遣し、食料や水・物資の配給、衛生管理、教育、心のケア、職業訓練などを行っている。

 高校時代から国際NGOの活動に参加し、貧困の問題に取り組んできた黒木明日丘氏は、「将来的にNGOで働きたいと考えていたが、社会経験や専門性を身につける必要がある」と、大学卒業後に民間企業に就職。2014年からJENに加わり、現在はJENの事務局長としてヨルダンやイラク等での支援活動に従事している。組織運営のために日々奔走する黒木氏は、JENの活動方針を「生きる力を支えていく」と表現する。「単に食料や物資を支援するのではなく、厳しい生活を余儀なくされた難民や避難民に、尊厳を持って再び前に進める力を回復してもらうことを意識している」と黒木氏は語る。

 JENは人々が持つ底力を信じており、避難民に支援事業の運営に参加してもらうことで、その信念を実行に移している。自分たちはマネジメントに徹し、当事者である難民に事業の積極的な運営をうながすスタイルだ。

ヨルダンでのプロジェクト

シリアの内戦を逃れ、500万人以上が祖国を離れた。ヨルダンに逃れてきた難民は66万人にのぼる。JENは、シリア国境から13㎞ほどの砂漠地帯に設けられたザータリ難民キャンプ(マフラック近郊)のほか、難民を受け入れたアンマンやイルビットなどの都市部でも支援活動を展開している。

JENのプロジェクトマップ

JENの活動は、すでに14のプロジェクトが終了。現在は、ヨルダン、アフガニスタン、パキスタン、イラク、日本(東北と熊本)で支援活動を展開している。

 JENの活動のひとつにヨルダンのザータリ難民キャンプでの人道支援がある。シリア騒乱を逃れてきた8万人が暮らす砂漠地帯に造られた。このキャンプは12区画に分かれ、JENは3区画の水衛生分野の担当団体として給水管理等を任されている。難民からボランティアを募って、トイレ、シャワー、洗濯場といったキャンプの衛生施設を自分たち自身で管理する仕組みを作った。これにより、難民の間では自分たちで住みよい環境にしていこうという機運が高まった。また、人口が過密なキャンプでは、感染症や水を媒介とする病気が広がりやすいため、日々衛生的な状態を保つことが欠かせない状況があった。その状況への対応のためにもJENは志望する難民から衛生プロモーターを育成し、住民や子どもたちに手洗いや歯磨きを指導して感染症を防止する衛生促進活動に発展した。

 「衛生プロモーターの一人から、『JENの活動に参加することがキャンプの生活での心のよりどころになっている。コミュニティーに貢献できるのがうれしい。新たな友人もできた』という言葉をかけられ励まされた」と黒木氏は言う。

 また黒木氏らは、キャンプ生活が長期化する中でも若者たちに将来への希望をもってもらおうと職業訓練としてジャーナリスト養成ワークショップを開催。この取り組みは、キャンプ内で役に立つ情報をまとめて避難民に配信する月刊誌『THE ROAD』の発行という形で実を結んでいる。

 「この雑誌の読者も、発行している若者も戦火を逃れてきた難民。多くの難民が発行を楽しみにしていることが、若きジャーナリストの生きがいになった。コミュニティーが抱えるニーズと人々の精神状態を敏感に感じ取り、自立に向かう努力を支援していくことが私たちの存在意義だ。生きる意味として自らの役割を確認したいのは誰も同じ。国籍や宗教、立場は異なっても人間としての悩みは共感でき、希望も共有できる。活動を通じて得られる、世界は一つになれるという実感が私を支える強い力だ」と黒木氏は語る。

JENのメディア・プロジェクトでは雑誌制作のほか、難民が製作した映像作品を世界に発信する。『砂漠に咲いた花』は、2016年国際平和映像祭のファイナリストにノミネートされた。©Kenichi Tanaka

「私の家族ともう一つの家族」というスローガンで、女性の難民がキャンプ内の弱い立場に置かれた世帯に食事を届けるなどの助け合いの活動を始めた。「シリア人の助け合いの精神は、日本人のおもてなし精神に通じるものがある」とJENの現地スタッフは言う。©JEN

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