IT戦略本部(第9回)議事次第

資料3

既存の分譲マンションのIT化工事に関する区分所有法の考え方(ポイント

既存の分譲マンションのIT化工事に関する区分所有法の考え方

法務省民事局

1.はじめに

 政府は,情報通信技術(IT)による産業・社会構造の変革を目指し,IT戦略本部の設置,IT基本法(高度情報通信ネットワーク社会形成基本法)の制定等,国家的な取組を積極的に展開している。高度情報通信ネットワーク社会の実現は,こうした取組の骨格を形成するものであり,ブロードバンドと呼ばれる高速・超高速のインターネット回線を各世帯に接続することは,その必須の条件であって,社会的需要は飛躍的に増大している。
 ところで,分譲マンションの居住者がインターネット回線を自宅に接続するためには,その住戸の内部のみならず,パブリックスペースで工事を実施しなければならない場合がある。区分所有建物である分譲マンションでは,廊下,階段,機械室,管理人室等のパブリックスペースや支柱,屋根,外壁等の建物全体の基本的構造部分は,原則として,すべての区分所有者が共同で所有しており,各世帯の住戸部分のように,個々の区分所有者が自由に使用することはできない。その管理や使用の方法については,建物の区分所有等に関する法律(以下,「区分所有法」という。)が一定の規律を定めている。
 しかし,分譲マンションのIT化工事については,これまでにそれほど多くの実施例があったわけではないこと,区分所有法の解説書にIT化工事の実施を想定したものがなかったこと等の事情もあって,「IT化工事をする場合の必要な手続が分からない」,「住民の4分の3の賛成がないと,工事が実施できないのではないか」などの声を耳にすることがある。現在,分譲マンションは,我が国,特に都市部を中心に持家として定着し,重要な居住形態となっていることから,IT化工事を実施する場合の区分所有法上の手続について一般の理解が得られていないとすれば,高度情報通信ネットワーク社会実現の障害ともなりかねない。
 そこで,区分所有法を所管する法務省では,今回,総務省・国土交通省と連携をとりつつ,既存の集合住宅に関するIT化工事の実態を踏まえて,区分所有法の解釈の指針を明示し,工事を実施する場合に一般に必要となる手続を明らかにすることにした。IT化を検討している分譲マンションの管理組合や区分所有者にあっては,区分所有者間の円滑な意思形成に向け,これを十分に活用することを望みたい。

2.区分所有法の適用の対象となる建物

 区分所有法は,各世帯の住戸部分等,構造上・利用上の独立性を有し,個々の区分所有者が原則として自由に使用することができる専用部分と,パブリックスペースや建物全体の基本的構造部分等,区分所有者全員の共有に属する共用部分とから構成される建物(区分所有建物)について,その権利関係を規律するものである。分譲マンションが区分所有建物の典型である。
 いわゆる集合住宅には,分譲マンションのみならず,1棟全体を一人が単独で所有する賃貸マンションも含まれる。賃貸マンションの管理は,その所有者が自由に決定することができ,区分所有法の規律に服することはない。賃借人である居住者がインターネット回線を自宅に引き込む場合には,賃貸人である所有者と個別に交渉して,その承諾を得ることになる。賃貸方式の公営・公社・公団住宅等も,基本的には同様の扱いとなる。
 このため,ここでは,いわゆる集合住宅のうち,区分所有法の適用対象である区分所有建物(分譲マンション)について検討する。

3.共用部分で工事を行う場合の手続

(1) 共用部分の変更とそれに必要な手続
 区分所有建物の共用部分を変更する場合には,区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議(特別多数決議)を経る必要がある(区分所有法第17条)。これに対し,変更に当たらない共用部分の管理に関する事項は,集会における過半数の決議(普通決議)で決することになる(区分所有法第18条)。
 ここでいう共用部分は,原則として,区分所有者全員が共同で所有するものであり,廊下,階段,機械室,管理人室等のパブリックスペースと,支柱,屋根,外壁等の建物全体の基本的構造部分とを含んでいる。また,共用部分の変更とは,「共用部分の形状又は効用を著しく変えること」を意味している(法務省民事局参事官室編「新しいマンション法」81頁)。したがって,共用部分へ加工を施す場合であっても,形状又は効用のいずれかを著しく変えるものでない限り,普通決議で決することができ,特別多数決議を経る必要はない。
(2) 費用の多寡との関係
 共用部分への加工行為が著しく多額の費用を要する場合には,共用部分の変更として特別多数決議を要することがある(区分所有法第17条第1項括弧書き)。
 そこで,既存の分譲マンションにIT化工事を実施する場合にも,その費用が著しく多額であるか否かが問題となる。この点は,個々の区分所有者が負担すべき金額自体の多寡,当該工事の必要性の程度,区分所有権の価値(高級マンションかどうか),区分所有者の平均的資力等の諸般の事情を総合して判断される(前掲「新しいマンション法」84頁)のであって,工事の金額だけでは著しく多額の費用であるか否かを一律に決めることができないことを理解しておく必要がある。
 もっとも,著しく多額の費用を要することを理由として特別多数決議が必要になるのは,決議の反対者を含めた区分所有者全員に費用を負担させる場合であり,決議の反対者に費用の負担を求めないのであれば,工事に多額の費用を要するとしても,そのことは,特別多数決議という厳格な手続を要求する理由にはならないと考えられる。例えば,IT化工事の費用が相当多額にのぼるものの,導入する設備を利用する者が区分所有者全体の6割にとどまると見込まれる場合にあっては,設備の利用を予定する区分所有者のみで工事の費用を負担するのが公平にかなう場合が多いであろう。こうした取決めに基づいて費用を負担するのであれば,特別多数決議までは必要なく,普通決議を経れば,工事を実施することができるものと考えられる。

4.IT化工事の方式と必要な手続についての考え方

 既存の集合住宅に高速・超高速インターネットアクセスを可能とするためのIT化の方式としては,(1)各戸まで直接光ファイバケーブルを引き込む方式(FTTH),(2)区分所有建物の入口まで光ファイバ網を敷設し,同建物内の構内配線については,既存のメタル回線を活用する方式(VDSL,HomePNA),(3)構内LAN活用方式,(4)区分所有建物の入口(付近)まで光ファイバ網を敷設し,屋上から各戸まで無線を活用する方式,(5)区分所有建物においてケーブルインターネットを活用する方式等が実用化されている(別添「既存集合住宅に関するIT化工事の実態について〜必要となる工事及びその費用の例〜」参照)
 そこで,これらの方式で工事を実施する場合に必要な手続について検討する。
(1) 各戸まで直接光ファイバケーブルを引き込む方式(FTTH)の場合
 各戸まで直接光ファイバケーブルを引き込む場合,共用部分への加工行為としては,各戸への光ファイバの配線工事,MDF(Main Distribution Frame=配線分配装置)室等へ構内光キャビネットを設置する工事が必要となる。
 ア空き管路がある場合
 建物内に空き管路が既に存在する場合,光ファイバの配線工事としては,その管路内に光ファイバを敷設すれば足りる。また,MDF室等に設置する構内光キャビネットのプルボックスは,比較的小型(1棟50世帯とした場合の目安として横約50p・縦約50p・奥行約10p程度)であるため,設置場所であるMDF室等の機能効用を害することはないものと考えられる。こうした工事内容に照らすと,共用部分の形状又は効用を著しく変える場合に当たらないので,一般的には,普通決議で工事を実施することができるものと考えられる。
 イ空き管路がない場合
 建物内に空き管路が存在しない場合には,アに加えて,管路(縦系,横系)自体を新たに設置する工事が必要となる。このうち,柱や壁等の内部に管路を設ける場合には,その躯体部分に相当程度の加工を要するため,共用部分の形状を著しく変えるものである場合が多いものと考えられる。
 しかし,光ファイバの配管を建物の外周に沿って敷設し,各戸への引込みについては,ダクト口を利用するなどの工事例もある。こうした方法によるのであれば,建物の躯体部分に対する加工は最小限にとどまり,外周に敷設した配管に被覆・塗装を施して建物の外形を見苦しくない状態に復元するなど,工事方法を工夫すれば,共用部分の形状又は効用を著しく変える場合に当たらないので,普通決議で工事を実施することができるものと考えられる。ただし,光ファイバをどのように配置し,どのような復元工事を行うべきかは,建物の構造・外観に応じて個別的に判断する必要がある。いずれにしても,無用の紛争を避け,工事を円滑に実施するためには,外観の変更を最小限にとどめること,美観を損ねないこと等について十分な配慮が必要である。
(2) 区分所有建物の入口まで光ファイバ網を敷設し,同建物内の構内配線については,既存のメタル回線を活用する方式(VDSL,HomePNA)の場合
 区分所有建物の入口まで光ファイバ網を敷設し,同建物内の構内配線について電話線等の既存のメタル回線を活用する場合,共用部分への加工行為としては,センタ装置等共有設備の設置工事のみが必要となる。この場合のセンタ装置等(ONU,VDSLモデム親機又はHomePNA親機)の設置場所としては,MDF室等が想定されるが,それを収納するラックの大きさ(1棟50世帯とした場合の目安として縦約60p・横約60p・高さ約200p程度)からみて,通常であれば,MDF室等の効用を損なうことなく設置が可能であると考えられる(別添「(参考資料)インターネットマンション構築事例」のAHomePNA方式」の写真等参照)。したがって,一般的には,普通決議で工事を実施することができるものと考えられる。
(3) 構内LAN活用方式の場合
 構内LANを活用する場合,共用部分への加工行為としては,@MDF室等のセンタ設備の設置工事,A階段等への設備の設置工事,BLANケーブルの敷設工事が必要となる。このうち,@のセンタ装置の設置場所,その大きさは,(2)の場合(VDSL,HomePNA)と基本的に同様なものとなる(別添「(参考資料)インターネットマンション構築事例@構内LAN方式」の写真等参照)。また,各階の階段等に設けられるAの設備を収容するプルボックスの大きさは,比較的小型(縦約20p・横約20p・奥行約15p)である。さらに,BのLANケーブルの敷設については,(1)イの光ファイバと同様に,建物の躯体部分に対する加工を最小限にとどめ,外観を見苦しくない状態に復元することも可能である。このように工事方法を工夫すれば,共用部分の形状又は効用を著しく変える場合に当たらないので,普通決議で工事を実施することができるものと考えられる。ただし,外観の変更を最小限にとどめること,美観を損ねないこと等について,(1)イと同じく十分な配慮が必要である。
(4) 区分所有建物の入口(付近)まで光ファイバ網を敷設し,屋上から各戸まで無線を活用する方式の場合
 区分所有建物の入口(付近)まで光ファイバ網を敷設し,屋上から各戸まで無線を活用する場合,共用部分への加工行為としては,@MDF室等のセンタ装置,A屋上等への親機アンテナ装置,B各戸ベランダ等への子機アンテナ装置の設置工事及びC@とAの間の配管・同軸ケーブルの敷設工事が必要となる。このうち,@のセンタ装置を収容するラックは,比較的小型(1棟50世帯とした場合の目安として縦約50.5p・横約55p・高さ約60p)であり,また,A及びBのアンテナの設置並びにCのケーブルの敷設については,(1)イの光ファイバ及び(3)のLANケーブルと同様に,建物の躯体部分に対する加工を最小限にとどめ,外観を見苦しくない状態に復元することも可能である。このように工事方法を工夫すれば,共用部分の形状又は効用を著しく変える場合に当たらないので,普通決議で工事を実施することができるものと考えられる。ただし,外観の変更を最小限にとどめること,美観を損ねないこと等について,(1)イ,(3)と同じく十分な配慮が必要である。
(5) 区分所有建物においてケーブルインターネットを活用する方式の場合
 区分所有建物においてケーブルインターネットを活用する場合,共用部分への加工行為としては,@MDF室等のセンタ設備の設置工事,A階段等の設備の設置工事,B同軸ケーブルの建物内の配線工事が必要となる。
ア 空き管路がある場合
 @のセンタ装置,Aの設備ともに比較的小型(1棟50世帯とした場合の目安としていずれも縦約50p・横約50p・高さ約10p)であり,また,Bについては,建物内に既存の空き管路があれば,その中に同軸ケーブルを敷設すれば足り,共用部分を加工する必要はない。こうした工事内容に照らすと,共用部分の形状又は効用を著しく変える場合に当たらないので,一般的には,普通決議で工事を実施することができるものと考えられる。
イ 空き管路がない場合
 建物内に既存の空き管路がない場合には,アに加えて,管路(縦系,横系)自体を新たに設置する工事が必要となるが,このうち,柱や壁等の内部に管路を設ける場合には,その躯体部分に相当程度の加工を要するため,一般的には,共用部分の形状を著しく変えるものである場合が多いものと考えられる。
 しかし,同軸ケーブルの配管を外壁に沿って敷設し,建物の躯体部分に対する加工を最小限にとどめ,外形を見苦しくない状態に復元するなど,(1)イと同様に,工事方法を工夫すれば,共用部分の形状又は効用を著しく変える場合に当たらないので,普通決議で工事を実施することができるものと考えられる。この場合に,外観の変更を最小限にとどめること,美観を損ねないこと等について十分な配慮が必要であることは,(1)イと同様である。