高度情報通信社会推進本部

資料1別添

わが国における脳卒中の疫学とその成果

 脳卒中は、1951年(昭和26年)から1980年(昭和55年)までにわたって、死因の第1位を占め、世界各国と比較しても、抜群の第1位であった。その後も死因の第3位以内に入り、今日に至っている。特に、実年期といわれる35〜69歳で多発していた。このことから、脳卒中の多発している“原因”が疫学により追究された。

 脳卒中多発地域と低い地域との比較、すなわち、横断研究により、多発地域の特徴が把握された。高血圧の割合が高いが、血中コレステロ−ルの高い者、肥満者の少ないことが示された。食生活では、ごはん、みそ汁、漬物で代表される高食塩・糖質、低脂肪・動物性蛋白質、そして、重労働、飲酒が関連している可能性が示された。

 これら仮説を検証するために、3000〜5000人の住民を対象にして、10〜30年間の追跡が行われ、仮説検証に成功した。

 その成果を受けて、また、追跡期間中にも、倫理的な配慮から、積極的な予防活動も研究者により実践された。デ−タ還元は、個人レベルのみならず集団レベルでも行われ、いわば、医師、患者(住民)関係の成立した研究、予防活動であった。予防効果が確認されたことから、1982年(昭和57年)に老人保健法が施行され、全国的規模で集団検診、その後の事後管理(健康教育・指導、薬物療法)が行われた。

 その結果、脳卒中死亡率は激減し、1/3となっており、世界各国から高い評価を受けている。このことが平均寿命の延長に大きく寄与した。また、寝たきり高齢者数の減少にも貢献した。

 このような研究は、当初、脳卒中のみを対象としていたが、各種疾病、例えば、心筋梗塞、突然死、主要がん、さらに平均余命、健康寿命との関連性をみることにも拡張され、多くの情報を得た。脳卒中患者とその病態の把握は、在宅ケア、リハビリテ−ション等の場でも有効利用された。

 このような世界的評価の高い疫学は、住民の転出入、死亡、罹患(脳卒中および他疾患)に関するデ−タの収集とリンケ−ジにより実施可能となった。転出入に関するデ−タは、住民登録、死亡に関するデ−タは、死亡小票、罹患に関するデ−タは、脳卒中登録、診療記録(カルテ)の閲覧、救急車出動記録、国民保険レセプト等から得られた。

 個人情報は、研究者のみが取り扱い、個人同定情報は、主任研究者のみの管理下に置かれた。その後の疫学的、統計学的デ−タ解析も研究者に限られ、集団レベルでの学会発表、論文発表とした。


わが国における疫学が果たした役割(その他の部門)

1.腸管出血性O157感染症
 幼稚園における井戸水からの発生(埼玉県,1990年),小学校での学校給食からの発生(岐阜県,1996年),同(大阪府堺市,1996年),等において,詳細な疫学調査により感染経路(原因食品)を明らかにした.

2.クロイツフェルト・ヤコブ病
 全国疫学調査を行うことにより,英国で観察された狂牛病と関連があるとされる新変異型がわが国では現在まで発生していないことを確認した.硬膜移植の既往があるものが65人確認され,その相対危険が症例対照研究によって明らかにされている.また,現段階では輸血が危険因子になっていないことも確認されている.現在も監視(サーベイランス)が続けられている.

3.ヘリコバクター・ピロリ感染と消化器疾患
 主として症例対照研究により,胃がん,萎縮性胃炎,消化性潰瘍との関連を明らかにし,従来の病態に対する考え方や予防について,パラダイムの転換が行われた.また,これらの新事実により,新しい早期発見方法なども開発されつつある.

4.川崎病
 日本人に多い本疾患は過去30年間にわたって全国疫学調査が実施されている.また,全国調査で報告された例を追跡することにより,長期予後も明らかになってきている.残念ながら原因は未だに明らかではないが,わが国で行われている疫学調査は,世界中の川崎病研究者の注目を集めており,「この疫学像を説明できない原因論は採用できない」とされており.

5.イタイイタイ病
 富山県神通川流域で発生した本疾患については,疫学調査により環境中のカドミウム濃度と罹患率,米のカドミウム濃度と罹患率,尿有所見率と罹患率などの関係が明らかにされ,本疾患が環境中のカドミウム曝露による慢性カドミウム中毒症であることが行政的,あるいは司法的に認められている.

6.水俣病
 水俣病(熊本県),新潟水俣病ともに,詳細な記述疫学によりメチル水銀の曝露レベルと時期が推計された.また,これらのデータを元に摂取許容量も示されている.

7.油症
 1968年に福岡,長崎を中心に発生した皮疹を主訴とする疾患は,診断基準の作成,記述疫学研究,症例対照研究と,教科書的な疫学研究手法が進められ,K社製造のライスオイルがその原因であることが判明した.当初はライスオイルに混入したPCBが原因とされたが,今日ではダイオキシン類の1種であるフランが原因であるとされている.患者は追跡調査によって肝疾患による死亡率が高いことなどが確認され,その後の健康管理体制に対する指針を示している.

以上