高度情報通信社会推進本部

資料2

2000.03.27
個人情報保護法制化専門委員会ヒアリング資料

地域がん登録の必要性と個人情報保護の現状


地域がん登録全国協議会理事長  大島 明
(大阪府立成人病センター調査部長)


  1. 地域がん登録の現状と仕組み

    地域がん登録は、「特定人口集団におけるがん患者のすべてを把握し、罹患から治癒もしくは死亡に至る全経過の情報を集め、保管、整理、解析すること」と定義される。1999年度には、日本全国で34道府県市で地域がん登録事業が実施されている(表1)。図1には、大阪府がん登録を例として、地域がん登録の仕組みを示した。

    表1.日本における地域がん登録実施道府県市(1999年度)
    地方地域がん登録実施府県市名
    北海道北海道
    東北青森、岩手、宮城、山形
    関東・甲信越 茨城、栃木、群馬、千葉、神奈川、新潟
    中部・北陸富山、石川、福井、愛知、岐阜
    近畿滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山
    中国鳥取、岡山、広島市、山口
    四国香川、愛媛、高知
    九州佐賀、長崎、熊本、鹿児島、沖縄
    注:太字の6登録のデータは、「5大陸のがん罹患」第7巻(1997)に収載された。
      (地域がん登録全国協議会調べ)


    図1. 大阪府がん登録の仕組み

    登録の仕組み

  2. 地域がん登録が保有するファイルの種類と形態

    大阪府がん登録の場合を例として、末尾に届出票、がん死亡票、統計ファイルのレイアウトを示した。

    地域がん登録では、漏れを出来るだけ防ぐために、多数の情報源から、異なる時期にデータを収集する。これを同一人に由来するものか否かを正しく判断するためには、個人同定情報をあわせて収集することが必須である。また、これらのデータを長期間保管し、整理することにより、同一人における複数の種類のがんの発生(多重がん)の分析が可能となる。さらに、がん患者の予後調査をおこなうためにも、個人同定情報が必要である。

    しかし、がん登録データの集計・解析にあたっては、個人同定情報は不要であり、がん登録において、特定の個人が同定可能な形で公表されることはない。

  3. 地域がん登録の役割とその成果

    地域がん登録は、下記のような役割を果たすことにより、わが国のがん予防・がん診療レベルの向上に努め、国民の公衆衛生の向上に貢献してきた(参考資料1)。

    1) がんの実態把握…がん罹患率とがん患者の生存率の計測
    2) 対がん活動の企画と評価
    3) 医療機関への情報還元と対がん医療の向上
    4) 疫学研究への応用
    5) がん検診の有効性評価と精度管理

    (注)国際協同研究への参加
    がん罹患率:「5大陸のがん罹患」(Cancer Incidence in Five Continents)への参加(第7巻では、宮城、山形、大阪、広島市、長崎、佐賀の6登録が参加)
    がん患者の生存率: Eurocare study, SEER programなどと比較する国際協同研究への参加(大阪が参加)

  4. 自主規制等取り組みの現状

    1982年度老人保健法の施行以降、府県のがん登録事業は、厚生省による「健康診査管理指導事業実施要綱」(1998年度以降は「健康診査管理指導事業実施のための指針」)にもとづき実施されてきた。
    一方、厚生省がん研究助成金による「地域がん登録」研究班では、欧米諸国の経験や国際がん登録協議会の作成したガイドライン(1992年)に学び、1996年3月「がん登録における情報保護ガイドライン」(参考資料2)をまとめ、各登録室に配布した。各登録室では、このガイドラインに沿って、個人情報の安全保護の措置を講じている。

  5. 個人情報保護部会中間報告に対する意見

    「中間報告」の個人情報保有者の責務の5つの基本原則がそのまま基本法に取り入れられると、地域がん登録には、「本人の同意を得ないでデータを収集している」、「本人の同意を得ないでデータを利用している」、「開示の請求に応じない」などの問題点が指摘され、このままでは、地域がん登録事業の存立が危うくなるおそれがある(参考資料3)。

    地域がん登録には上記の3に示した役割を果たすことにより公衆衛生の向上に貢献してきた。一方、記録に基づいて届出がおこなわれる地域がん登録では、本人に身体的、経済的、時間的な負担をかけることはない。また、個人情報の安全保護については、上記のガイドラインに沿った措置を講じており、これまで問題が生じたことはない。

    「中間報告」の中でも、「個人情報の保護の必要性とその利用の有用性の双方に配慮した、バランスの取れたものとして構築する必要がある」)との記述があり(p.6の個人情報保護の目的)、また、「(学術・研究など)個別法等に規定のない分野については、(1)から(5)の基本原則のそれぞれについて具体的にどのような支障が生じるかを検証した上で、憲法上の考え方を踏まえつつ、それぞれの分野における個人情報の利用の程度と保護の現状のバランスをも考慮しながら、各原則の適用除外の要否について、法制的に検討する必要がある」と記述されている(p.12の注ア)。

    欧米諸国では、地域がん登録はがん対策を実施する上での必須の仕組みと位置づけて、個人情報保護の高まりの中においても、地域がん登録について、公衆衛生上の必要性から、適切な個人情報保護の安全保護措置のもとで、本人の同意をとらなくてもデータの収集と利用がおこなえるよう法的に整備している(参考資料4)。

    以上のことから、地域がん登録事業を含む公衆衛生活動に関しては、「中間報告」に示されている個人情報保有者の責務5つの基本原則に除外規定を設け、医療分野における個人情報保護に関する個別法のなかでがんをreportable diseaseとするとともに、国における地域がん登録の位置づけを法制化により明確にし、その上で府県では府県がん登録事業条例を制定するなど、地域がん登録の法的整備を図っていくべきだと考える。

  6. 参考資料

    1) わが国における地域がん登録の現状と課題(大島 明)
    2) 地域がん登録における情報保護(厚生省がん研究助成金による「地域がん登録の精度向上と活用に関する」研究班、1996年3月)
    3) 「個人情報保護基本法」が、地域がん登録事業に及ぼす影響とそれへの対応(案)(藤本伊三郎)
    4) 諸外国のがん登録システム(花井 彩)

    上記の1)、3),4)の資料は、いずれも、2000年3月16日のシンポジウム「がん登録等疫学研究における個人情報保護」の報告・資料集用として作成されたものである。


    大阪府がん登録の届出票、がん死亡票、統計ファイル

    死亡票

    統計レコード

    統計ファイル