官報資料版 平成14年11月27日




                  ▽警察白書のあらまし………………警 察 庁

                  ▽毎月勤労統計調査(八月)………厚生労働省

                  ▽消費動向調査(九月)……………内 閣 府











警察白書のあらまし


我が国の治安回復に向けて〜厳しさを増す犯罪情勢への取組み


警 察 庁


第1章 我が国の治安回復に向けて〜厳しさを増す犯罪情勢への取組み

第1節 厳しさを増す犯罪情勢

1 統計でみる犯罪情勢
 平成十三年の刑法犯認知件数は戦後最高を記録した。また、過去十年間で路上強盗とひったくりの認知件数はそれぞれ四・五倍、三・六倍に増加するなど、路上犯罪の大幅な増加が目立っている。来日外国人(注)による凶悪犯や組織窃盗事件も増加し、来日外国人犯罪の全国への拡散化傾向がうかがえるとともに、少年非行の凶悪化、粗暴化が進展し、ひったくりの総検挙人員に占める少年の割合は七割を超えるなど、少年非行が深刻化している。
 (注) 来日外国人とは、我が国にいる外国人から定着居住者(永住者等)、在日米軍関係者及び在留資格不明の者を除いた者をいう。
(1) 過去十年間の刑法犯総数の認知・検挙状況の変化
 過去十年間の刑法犯認知件数は、平成四年以降、多少の起伏はあるものの増加を続けており、十三年には二百七十三万五千六百十二件と戦後最高を記録し、過去十年間で九十九万三千二百四十六件(五七・〇%)増加した。
 検挙件数は、四年以降十一年までの間、おおむね七十万件台で推移していたが、十三年は、五十四万二千百十五件となっている。また、検挙人員は、過去十年間、三十万人前後で推移していたが、十三年には、過去十年間で最高の三十二万五千二百九十二人を検挙している。
 検挙率は、四年以降十年までの間、四〇%前後で推移していたが、認知件数の増加等により、十三年は、一九・八%と戦後初めて二〇%を割った(第1図参照)。
 刑法犯認知件数に占める窃盗犯の割合は、九割近くとなっており、最近の窃盗犯の大幅な増加が、認知件数全体を押し上げる形となっている。
(2) 罪種別傾向
ア 重要犯罪
 重要犯罪の認知件数は、十三年には二万一千五百三十件に達し、四年の二・一倍となった。検挙件数は、十三年には一万一千四百十八件に達し、四年と比べて三千四百三十六件(四三・〇%)増加した。
(ア) 殺人
 殺人の過去十年間の推移をみると、認知件数は一千三百件前後で横ばいとなっている。検挙件数も一千二百件前後から一千三百件前後で推移している。
(イ) 強盗
 強盗の認知件数は、十三年は六千三百九十三件で四年と比べて二・九倍となった。検挙件数は、四年と比べて二・〇倍となっている。
(ウ) 強姦・強制わいせつ
 強姦の認知件数は、十三年は二千二百二十八件となった。また、強制わいせつの認知件数は、十三年には九千三百二十六件と四年と比べて二・七倍になっている。
イ 窃盗犯
(ア) 重要窃盗犯
 重要窃盗犯の認知件数は、十三年には四十四万三千五百二件と四年と比べて十三万四千六十二件(四三・三%)増加した。検挙件数は、十三年には十二万百八十三件となった。
a 侵入盗
 侵入盗の認知件数は、十三年は三十万三千六百九十八件にまで増加した。検挙件数は、七年以降減少傾向に転じ、十三年には八万九千四百五十六件となった。
b 自動車盗
 自動車盗の認知件数は、十三年には六万三千二百七十五件となり、四年と比べて一・八倍となっている。検挙件数は、十二年には一万一千四百十五件まで減少したが、十三年は一万三千三百九十件と六年ぶりに増加に転じた。
c ひったくり
 ひったくりの認知件数は、十三年には五万八百三十八件となり、四年の三・六倍となっている。検挙件数は、認知件数の増加に伴って増加を続け、十一年には二万五百九十七件を数えたが、十二年から減少に転じ、十三年には一万二千九百二十五件となっている。
(イ) その他の窃盗犯
 重要窃盗犯以外の窃盗犯の認知件数は、百八十九万七千九件と窃盗犯の全認知件数の八一・一%を占めている。
 主要な手口別の割合をみると、自転車盗が窃盗犯の全認知件数の二二・三%を占め、次いで車上ねらい(注1)が一八・五%、オートバイ盗が一〇・四%、自動販売機荒し(注2)が七・三%、部品盗(注3)が五・五%等の順になっている。このうち、過去十年間でみると、車上ねらい及び部品盗の増加が著しい。
 (注1) 車上ねらいとは、自動車等の積荷等を窃取するものである。
 (注2) 自動販売機荒しとは、自動販売機又はその中の現金若しくは物品を窃取するものである。
 (注3) 部品盗とは、自動車等に取り付けてあるナンバープレート、タイヤ等の部品、付属品を窃取するものである。
ウ 粗暴犯
(ア) 暴行
 暴行の認知件数は、十一年までは、六千件台から七千件台で推移していたが、十二年には一万三千二百二十五件と急増し、十三年も一万六千九百二十八件と増加傾向にある。検挙件数は、十一年までは五千件前後で推移していたが、十二年以降、認知件数の増加に伴って増加し、十三年は七千八百五十二件となった。
(イ) 傷害
 傷害の認知件数は、十一年までは、ほぼ横ばいで推移していたが、十二年に急増し三万件を超え、十三年は三万三千九百六十五件と、四年の一・八倍となった。検挙件数も、十二年、十三年ともに認知件数の増加に伴って増加している。
エ 少年犯罪
 刑法犯少年の検挙人員は、七年を底に増加傾向へ転じ、十三年には十三万八千六百五十四人となっている。
オ 来日外国人犯罪
 十三年中の来日外国人による犯罪の検挙状況は、検挙件数は二万七千七百六十三件、検挙人員は一万四千六百六十人となっている。過去十年間の来日外国人犯罪の検挙状況の推移をみると、検挙件数、検挙人員ともに増加傾向にあり、十三年は四年と比べてそれぞれ二・三倍、一・六倍となっている。
カ 薬物犯罪
 過去十年間の覚せい剤事犯の検挙状況をみると、検挙人員及び押収量は、特に七年以降いずれも高い水準で推移している。
 検挙人員は、七年以前は一万五千人前後であったが、八年以降二万人に迫る勢いで推移しており、特にピークの九年には、一万九千七百二十二人もの検挙人員があった。押収量については、十一年、十二年ともに一トンを超え、ピークを迎えたが、十三年は隠匿方法の巧妙化が進んだことなどから、押収量は減少した。
(3) 都道府県内における発生の状況
 これまで過去十年間の全国の犯罪情勢の変化をみてきたが、これが都市部のみに顕著にみられる問題であるのか、また、各都道府県内においても中心部と周辺部で犯罪の増加の程度が異なるのかなどを検証するため、青森県、群馬県、京都府を例示的に取り上げ、その犯罪情勢の推移を分析することとする。
 青森県における過去十年間の刑法犯認知件数の推移をみると、平成十三年の刑法犯認知件数は一万七千五十一件であり、四年と比べて六千七百四十件(六五・四%)増と大幅に増加している。青森県内の警察署を規模別に大規模警察署、中規模警察署及び小規模警察署に分類し(注)、それぞれの規模別の刑法犯認知件数をみた結果、犯罪の発生状況については、十一年からすべての規模の警察署において増加傾向にあるが、特に小規模警察署における犯罪の増加が顕著である。
 (注) 各警察署の警察職員定員を基準として、大規模警察署には、青森、八戸、弘前の三警察署、中規模警察署には、五所川原、十和田、三沢、黒石、むつの五警察署、小規模警察署には、野辺地、木造、三戸、鰺ヶ沢、金木、浪岡、七戸、大鰐、蟹田、五戸、板柳、大間の十二警察署をそれぞれ分類した。
 群馬県における過去十年間の刑法犯認知件数の推移をみると、十三年の刑法犯認知件数は三万二千五百四十四件であり、四年と比べて一万九百十一件(五〇・四%)増と大幅に増加している。群馬県内の警察署別の刑法犯認知件数について、各警察署における四年の認知件数を一〇〇としたときの十三年の認知件数を指数で表すと、指数が二〇〇以上の警察署は六署あった。その要因としては、当該警察署内が隣接の都市のベッドタウン化し、人口が増加していることや、高速道路の開通等により周辺都市から当該警察署内への人の流入が容易になったことが考えられる。
 京都府における過去十年間の刑法犯認知件数の推移をみると、十三年の刑法犯認知件数は六万三千五十一件であり、四年と比べて二万五千四百六十九件(六七・八%)増と大幅に増加している。京都府内の警察署別の刑法犯認知件数について、各警察署における四年の認知件数を一〇〇としたときの十三年の認知件数を指数で表すと、京都市に隣接する地域を管轄する警察署(亀岡警察署、宇治警察署等)で二倍以上の増加(指数二〇〇以上)となっており、京都市の隣接地域での犯罪の増加が顕著である。その要因としては、京都市周辺部がベッドタウン化していること、学校教育機関が市の周辺部に移転する傾向にあることなどにより、京都市周辺部の人口が増加していることや、幹線道路の整備等が進み、車両による人の移動が容易となったことなどが考えられる。
(4) 増加が目立つ犯罪に関する調査
 警察庁では、特に認知件数が目立つ罪種・手口について、恒常的な犯罪統計からは読み取ることができない詳細な事項を把握するため、平成十四年三月、各都道府県警察を対象に「認知件数の増加が目立つ犯罪に関する実態調査(認知事件)」(以下「認知事件に関する調査」という)(注1)及び「認知件数の増加が目立つ犯罪に関する実態調査(検挙被疑者)」(以下「検挙被疑者に関する調査」という)(注2)を実施した。
 (注1) 認知事件に関する調査は、各都道府県警察において十四年四月中に認知した強盗、強制わいせつ、自動車盗、車上ねらい、部品盗及び器物損壊の各事件について、その認知件数の多寡にかんがみ、罪種・手口ごとに一定期間(強盗及び強制わいせつは二週間、自動車盗は二日間、車上ねらい、部品盗及び器物損壊は一日間)を指定してこれを取り扱った警察官に対して調査票を記入させて調査したもの。回収数は、強盗が百九十一件、強制わいせつが二百六十九件、自動車盗が二百八十件、車上ねらいが九百五十七件、部品盗が三百二十三件、器物損壊が四百十件で、合計が二千四百三十件であった。
 (注2) 検挙被疑者に関する調査は、各都道府県警察において十四年四月中に検挙した強盗、自動車盗、車上ねらい、部品盗、暴行・傷害、器物損壊の各事件について、その検挙人員の多寡にかんがみ、罪種・手口ごとに一定期間(強盗、車上ねらい、部品盗及び器物損壊は四週間、自動車盗は二週間、暴行・傷害は一週間)を指定してその間に検挙した被疑者に対し、同意を得た上で、警察官が聞き取りを実施するなどにより調査したもの。回収数は、強盗が二百二十六人、自動車盗が百四十五人、車上ねらいが百七十一人、部品盗が百二十七人、暴行・傷害が四百二十七人、器物損壊が二百九十一人で、合計が一千三百八十七人であった。
ア 認知事件に関する調査
(ア) 強盗
 発生場所についての回答は、全体の六割近くが屋外であり、特に四割以上が路上での発生である。路上における強盗の八割以上が人通りがないところで発生していた。
(イ) 強制わいせつ
 被害を届け出た人のうち、「自ら進んで」届け出た人は百三十一人(四八・七%)、「人に勧められて」届け出た人は百三十二人(四九・一%)であり、約半数は人に勧められていた。届け出た主たる理由については、「早く犯人を捕まえてほしい」、「犯人を許せない」、「他の被害者が出ないように」という回答が多かった。また、届け出るに当たってためらいがあったか否かについては、五割弱の人がためらいを感じつつ届け出ていることがうかがえる。発生場所については、七割近くが屋外で発生しており、全体の四五・四%が路上における発生である。また、アパート等の共用部分における発生も一三・〇%を占めている。
(ウ) 自動車盗
 エンジンキーの有無については、「あり」が九十一件(三二・五%)、「なし」が百八十七件(六六・八%)であり、エンジンキーを抜き忘れるなどして被害に遭っている場合が三割以上であった。発生場所については、六割が駐車場であった。
(エ) 車上ねらい
 施錠の有無についての回答は、「施錠あり」が七百十四件(七四・六%)、「施錠なし」が二百四件(二一・三%)であり、七割以上が施錠していたにもかかわらず被害に遭っていた。発生場所については、七割以上が駐車(輪)場であった。
(オ) 部品盗
 被害品の具体的な品名については、「ナンバープレート(四輪)」が九十三件(二八・八%)と最も多かった。その他にも、「ナンバープレート(二輪)」、「カーオーディオ」、「タイヤ(四輪)」等の回答が多かった。発生場所については、八割近くが駐車(輪)場であった。
(カ) 器物損壊
 被害品については、「車」が二百四件(四九・八%)と最も多かった。その他には、「窓・ドア等のガラス」、「壁・塀」、「玄関ドア等の施錠設備」等の回答が多かった。
 届け出た理由については、「犯人を捕まえてほしかったから」が二百五十二人(六一・五%)、「保険手続きのために必要であったから」が百二十六人(三〇・七%)であった。また、届け出るに当たってためらいがあったか否かについての回答は、「ためらいはなかった」が三百四十七人(八四・六%)、「若干ためらいがあった」が五十七人(一三・九%)、「非常にためらいがあった」が二人(〇・五%)であった。発生場所については、四割以上が駐車(輪)場であった。
イ 検挙被疑者に関する調査
(ア) 被疑者の特性
 被疑者の性別についてみると、ほとんどの被疑者が男性であった。
 被疑者の年齢については、部品盗については、少年が占める割合が五割以上であった。暴行・傷害については、二十歳代及び三十歳代以上が占める割合が合わせて五割以上と高かった。
 被疑者の職業についてみると、自動車盗、車上ねらい、強盗については、「無職」(注)と回答した者が六割前後と高かった一方で、暴行・傷害については、「有職」と回答した者が約六割であった。
 (注) 職業の質問に対し、「無職」又は「主婦」と回答した者を無職に分類した。
 検挙歴については、自動車盗、車上ねらい及び強盗については、被疑者の六割以上が過去に検挙歴を有しており、これらについては常習的に犯罪を敢行している者が多いことがうかがえる。被疑者が少年の場合の補導歴の有無についてみると、強盗、自動車盗及び暴行・傷害については、検挙された少年の六割以上が過去に補導された経歴を有していた。
 暴力団との関係については、自動車盗で検挙された被疑者のうち二割以上が暴力団と関係を有している点に特徴があり、暴力団等による組織的な自動車盗が増加していることを裏付けている。
 共犯者人数については、強盗、自動車盗及び部品盗については、単独犯の被疑者よりも共犯者のいる被疑者の方が多く、組織的に敢行される強盗や自動車盗が増加していることを裏付けている。
(イ) 強盗被疑者による被害者の選定
 強盗被疑者の被害者の選定については、反抗されないように見える者、お金を持っているように見える者、女性等が強盗の被害に遭いやすいことがうかがえる。
(ウ) 犯行の動機・背景
 犯行の動機についてみると、強盗については、生活費目的よりも遊興費目的で敢行する者が多い。また、自動車盗、部品盗については、被害品そのものを目的とする者が最も多いほか、スリルや遊興費目的で敢行する者が生活費目的で敢行する者を上回っている。また、自動車盗については、職業的、常習的に敢行している者が他の罪種・手口に比べると目立っている。他方、車上ねらいについては、生活費目的で敢行する者が最も多く、次いで遊興費目的となっている。暴行・傷害や器物損壊については、「被害者に対しカッときたためやった」と回答した者が多く、衝動的に犯罪を敢行していることがうかがえる。
 犯行の背景についてみると、車上ねらい、強盗及び自動車盗については、「生活に困っている」被疑者の占める割合が比較的高いことがうかがえる。

2 国民の抱く不安感の実態調査等
 犯罪情勢の厳しさを把握するためには、関係する統計のみならず、地域の安全に関する国民の意識についても分析することが必要である。ここでは、(財)社会安全研究財団により実施された「犯罪に対する不安感等に関する世論調査」(平成十四年三月実施。以下「全国調査」という)(注1)の結果から、国民が犯罪に対して抱く不安感等について分析した。また、警察庁が実施した「治安に関する不安感等の調査」(十四年四月実施。以下「警察庁調査」という)(注2)の結果も併せて分析した。
 (注1) 全国調査は、全国の満二十歳以上の男女二千人(層化二段無作為抽出法、百五十地点)に対して犯罪の被害に遭う不安感や少年の非行・犯罪等に関するアンケート調査を行い、一千四百五十五人(七二・八%)の回答が得られたものである。
 (注2) 警察庁調査は、代表的な六十の警察署に勤務する警察職員に対して調査票による調査を行ったものである(調査項目は全国調査から抜粋)。調査の対象とした警察署は、犯罪の発生状況や都市の規模によって全国の警察署を分類した後、各グループから代表的な警察署を選定したものである。
(1) 治安について国民の抱く不安感
 全国調査において、自分が犯罪被害に遭いそうな不安を感じるかどうか住民に対して質問をしたところ、「不安を感じる」者の割合は四一・四%(「よくある」:三・六%+「たまにある」:三七・八%)、「不安を感じない」者の割合は五八・三%(「ほとんどない」:四〇・五%+「全くない」:一七・八%)となっており、平成九年に行った同じ質問(標本数は同じ)の結果と比べると、「不安を感じる」者の割合が高まっていることがわかる(第2図参照)。
 また、不安を感じる割合は、都市規模別にみると都市部で高く、地域別では関東、中部で高く、北海道は低くなっている。
 被害に遭う不安を感じる者に対してどのような犯罪に不安を感じるか質問をしたところ(複数回答)、「空き巣」と答えた者の割合が最も高く六三・五%であった。次に、「通り魔的犯罪」(三三・四%)、「すり・ひったくり」(三二・六%)、「車上ねらい」(三一・四%)、「自転車盗」(三〇・四%)が続いている。
 全国調査において、犯罪被害に遭う不安を感じる場所について質問をしたところ(複数回答)、「繁華街」と答えた者の割合が最も高く(二九・八%)、次いで、「駐車場」(一九・四%)、「駅」(一八・七%)、「通勤に使う道」(一四・一%)であった。「特に不安を感じる場所はない」と答えた者の割合は、三九・七%である。
(2) 少年の非行・犯罪についての国民の意識
 全国調査において、少年の非行・犯罪が増えていると思うか質問をしたところ、「増えている」と答えた者の割合が五四・六%と過半数を占めた。「減っている」と答えた者の割合はわずか一・二%であった。「変わらない」と答えた者の割合は二五・三%であり、「分からない」と答えた者の割合は一八・六%であった。
(3) 警察官からみた住民の不安感
 警察庁調査において、警察職員に対し、管轄区域の住民の間で犯罪の被害に遭う不安が高まっているかどうか質問をしたところ、「高まっている」と回答した者の割合は九二・二%(「大いに高まっている」:三一・七%+「まあまあ高まっている」:六〇・五%)、「高まっていない」と回答した者の割合は七・八%(「あまり高まっていない」:七・六%+「全く高まっていない」:〇・二%)となった。
 続いて、住民の間で不安が高まっていると回答した警察職員に対して、どのような犯罪に対する不安が高まっていると思うか質問をしたところ(複数回答)、「車上ねらい」、「自転車盗」、「少年による犯罪」、「すり・ひったくり」の割合が高かった。
 住民が犯罪被害に遭う不安を感じる場所について質問をしたところ(複数回答)、「繁華街」と答えた者の割合が最も高く(六二・六%)、次いで、「駐車場」(五四・一%)、「通勤等に使う道」(四三・一%)、「駅」(四一・一%)であった。

第2節 警察活動を取り巻く課題

1 群馬県伊勢崎市及びその周辺における犯罪情勢と不安感
(1) 犯罪情勢等の推移
 伊勢崎警察署管内における平成十三年の刑法犯認知件数は三千九百六十七件であり、四年の二・四倍に増加した。また、検挙状況をみると、検挙件数は、十三年には一千二十四件となり、四年と比べて三百四十六件(五一・〇%)増加し、検挙人員についても、十三年には三百五十九人となり、四年と比べて七十人(二四・二%)増加している。検挙率は、認知件数の急増に検挙が追い付かず、十三年には二五・八%となり、四年と比べて一五・三ポイント減少した。認知件数では、伊勢崎市内が最も多いものの、増加状況でみると、周辺の佐波郡玉村町、赤堀町、東村での犯罪の増加がより顕著であり、管轄区域内の中心部から周辺部への犯罪の拡散化傾向がうかがえる。
 過去十年間の重要犯罪の認知件数の推移については、十三年の認知件数は四十五件と四年と比べて三・八倍となっている。罪種別にみると、強盗及び強制わいせつが増加傾向にある。
(2) 警察官からみた住民の不安感
 伊勢崎警察署管内の犯罪情勢に対する住民の不安感を把握することを目的として、伊勢崎警察署職員(注)に対してアンケート調査を実施した。
 (注) アンケート調査は、刑事、生活安全、地域等各部門の計四十五人(伊勢崎警察署全職員の約四分の一)に対して実施した。
 まず、住民の間で犯罪の被害に遭う不安感が高まっているかどうか質問をしたところ、「高まっている」と回答した者の割合は八六・七%(「大いに高まっている」:二六・七%+「まあまあ高まっている」:六〇・〇%)、「高まっていない」と回答した者の割合は一三・三%(「あまり高まっていない」:一三・三%+「全く高まっていない」:〇・〇%)となった。
 次に、住民の不安感が高まっていると回答した警察職員に対して、どのような犯罪に対する不安感が高まっているのか質問をしたところ(複数回答)、「車上ねらい」、「空き巣」、「不良外国人による犯罪」、「少年による犯罪」の回答が多かった。
 さらに、不安感が高まっている場所について質問をしたところ(複数回答)、「駐車場」(五七・八%)、「繁華街」(五三・三%)が多く、交番・駐在所別では、「玉村町交番」(四八・九%)、「宮郷駐在所」(五三・三%)等の管轄区域を挙げる回答が多かった。
 少年の非行・犯罪について質問をしたところ、少年の非行・犯罪が「増えている」と回答した職員の割合が七七・三%、「減っている」と回答した職員は皆無であった。また、少年の非行・犯罪が「悪質になっていると思う」と回答した職員の割合は七九・五%であり、「悪質になっていると思わない」と回答した職員は皆無であった。

2 群馬県伊勢崎警察署における警察活動
(1) 警察官の活動
 地域警察官の活動は、事件・事故や一一〇番通報受理件数の増加に伴い極めて多忙となっている。また、刑事警察官の活動は、認知件数の増加に伴い極めて多忙となっており、また、捜査書類作成量の多さ、取調室をはじめとする施設の不足等様々な負担を抱えている。
(2) 厳しさを増す犯罪情勢と業務負担の増加
 伊勢崎警察署管内における刑法犯認知件数の増加、少年犯罪の深刻化、来日外国人犯罪の多発に伴い、警察官の業務負担は増加している。また、管轄区域内における平成十三年度の警察官一人当たりの負担人口は一千百六十七人であり、全国の平均負担人口の二倍以上と非常に高くなっている。さらに、十三年中に伊勢崎警察署で受理した一一〇番通報の件数は一万二千二百五十六件と四年の二・三倍となっており、過去十年間で同署の業務負担が著しく増加したことがうかがえる。

3 警察官一人当たりの業務負担の増加
 平成十三年度の警察官一人当たりの負担人口は五百五十二人であり、四年の五百五十九人に比べるとわずかに改善されているものの、なお米国の三百八十五人、英国の三百九十五人、ドイツの三百十五人、フランスの二百九十三人と比べ負担が大きい(注)。
 (注) 諸外国の負担人口は、国際刑事警察機構(ICPO)経由の各国資料により算出しており、米国は一九九六年、英国は一九九八年、ドイツは一九九九年、フランスは一九九九年の調査による数値である。
 また、十三年の刑法犯認知件数は二百七十三万五千六百十二件と四年の百七十四万二千三百六十六件に比べて一・六倍となっており、このような認知件数の大幅な増加に伴い、警察官の業務負担が増加している。このほか、一一〇番通報受理件数は八百七十一万六千九百二十二件と四年の四百八十五万六千三百九十件に比べて一・八倍、相談取扱件数は九十三万二百二十八件と四年の三十万九千六百五十二件に比べて三・〇倍とそれぞれ大幅に増加するなど、警察官一人当たりの業務負担の増加が著しい。
 警察庁では、刑事警察官及び地域警察官が捜査をはじめとする各種警察活動を遂行する中で、具体的に感じている負担や課題を的確に把握するため、十四年三月、各都道府県警察の大規模な警察署を選定し、警部以下の警察官約二千七百人を対象に「警察活動の負担に関するアンケート」(以下「負担調査」という)(注)を実施した。
 (注) 負担調査は、各都道府県警察から一署ずつ選定した警察署に勤務する刑事警察官及び地域警察官のうち、勤務年数が十年以上で、階級が警部以下の者(ただし、地域警察官については、いずれか一当務の警察官のみ)に対して調査票に記入させて調査したもの。調査対象者は二千六百六十九人で、刑事警察官からの回収数は一千三百六人(九五・〇%)、地域警察官からの回収数は九百九十一人(七六・六%)であった。
 負担調査によると、十年前に比べて犯罪が増えていると感じるかについては、九七・六%とほとんどの警察官が、犯罪が増加していると感じていると回答している。具体的にどのような犯罪が増えたと思うかについては、「凶悪犯」、「来日外国人犯罪」、「窃盗犯」、「少年犯罪」、「粗暴犯」と回答した警察官が多かった。また、犯罪発生状況に比して警察官の人数は足りているかについては、九八・四%とほとんどの警察官が、警察官の人数は足りていないと回答している。さらに、十年前に比べて一人当たりの仕事量は多いか少ないかについては、九五・五%とほとんどの警察官が、一人当たりの仕事量は多くなっていると回答している。

4 捜査の緻密化
 裁判所における各種令状の発付状況の推移をみると、平成十三年の逮捕状の発付数は十三万九千六百三十六人であり、全体的に多少の起伏はあるもののほぼ横ばいで推移しているのに対し、十三年の捜索、差押及び検証許可状の発付数は十八万五千二十七人であり、大幅な増加傾向にある。これは、捜査において物証を求める傾向が強くなっていることなどを示していると考えられる。
 被疑者の勾留期間の推移をみると、全体的に勾留期間が長期化していることがわかる。勾留期間の長期化の要因としては、捜査の緻密化による捜査事項の増大が考えられる。また、このような勾留期間の長期化に伴い、被疑者の護送、他署留置被疑者の取調べのための移動等、捜査以外の業務負担も増加している。
 一件の事件を処理するに当たり、逮捕時に作成する逮捕手続書、弁解録取書をはじめ、供述調書、捜索差押調書、各種捜査報告書等数多くの捜査書類を作成しなければならない。捜査書類の作成量の増加は、司法の精密化の傾向に伴い、より緻密な立証が求められてきたことに負うところが大きい。

5 来日外国人犯罪の増加に伴う業務負担の増加
 外国人入国者数の増加等社会の国際化を背景に来日外国人犯罪が増加している。来日外国人犯罪の捜査は、言語、習慣等を異にする外国人の被疑者や参考人を相手とするものであり、日本人のみを関係者とする犯罪の捜査とは異なる困難を伴う。

6 警察官の受傷事故等
 警察官の職務執行には常に危険が伴う。最近、警察官の職務質問等に対して凶器を用いて抵抗する事例等が散見されるなど、警察官が職務執行に伴い受傷事故に遭遇する事案が目立っている。平成十三年においては、警察官が自らの身の危険を顧みず犯人逮捕の職務を遂行し、四人の警察官が殉職した。

7 取調室・留置場等の不足
 犯罪の増加に伴い、取調室の不足が深刻化している。警察においては、警察本部及び警察署の新・増改築時における取調室の整備を進めている。
 平成十三年における被留置者の年間延べ人員は、約四百四十四万人(一日平均約一万二千人)で、二年以降増加を続けており、過去十年間でみると、四年の約二・一倍となっている。特に、十一年以降は、前年比一〇%以上の伸び率となっており、増加が著しい。

8 国民の意識の変化等
 従来は、近隣関係を中心とする地域社会において、強固な連帯意識が形成されていた。地域住民が互いに情報を交換し合い、地域の活動に共同して取り組む土壌が存在すると、犯罪や事故の発生を監視する機能、ぐ犯者の更生を促す機能、行政等の情報提供の受け皿としての機能等、地域の安全を確保する上で重要な機能が地域社会にもたらされる。
 しかし、近年の急激な社会環境の変化は、地域住民の価値観や生活様式を変化させ、地域社会の連帯意識を弱めている。具体的には、特に都市部において、他人への干渉を控える風潮が広まっていることなどから、近所付き合いの範囲が狭くなり、外出に当たって近隣に声を掛けることや他人の子どもを叱ることが減り、地域の行事等への参加が消極的になっていることなどが指摘されている。このように、地域住民の間の意思疎通や共同活動が減少するのに伴い、社会の犯罪抑止機能も低下しつつある。
 犯人検挙、事件解決のためには、犯罪捜査に対する国民の理解と協力が不可欠である。しかし、犯罪の巧妙化、社会構造の変化等が進む中、聞き込み捜査の困難性は増しており、聞き込み捜査を端緒に、主たる被疑者を特定した刑法犯検挙件数(余罪事件を除く)は、平成四年には一万一千四百七十件(余罪を除く刑法犯検挙件数(解決事件(注)を除く)の四・八%)であったのが、十三年には五千七百二十九件(二・〇%)と減少している。
 (注) 解決事件とは、刑法犯として認知され、既に統計に計上されている事件であって、これを捜査した結果、刑事責任無能力者の行為であること、基本事実がないことその他の理由により犯罪が成立しないこと又は訴訟条件・処罰条件を欠くことが確認された事件をいう。
 警察に対する要望の多くは警察の相談窓口に寄せられており、悪質商法、つきまとい、迷惑電話から家庭不和、騒音問題、生活困窮に至るまで様々な相談がなされている。相談取扱件数は最近数年で急増しており、平成十三年は九十三万二百二十八件と、前年に比べて十八万五千六百八十五件(二四・九%)増加した。このように相談取扱件数が増加している理由としては、警察が相談受理体制を強化し相談窓口の利用に関する広報を積極的に展開していることのほか、地域社会や家庭で本来解決されるべき問題が警察に持ち込まれる傾向が強まっていることも挙げられる。警察では、このような相談に誠実に応えるため、警察安全相談員や相談業務担当者の配置等を進めており、街頭活動や捜査活動における相談にも適切に対応しているところである。

9 大量生産・大量流通の著しい進展
 従来、犯罪現場及びその付近に残された犯人の凶器、侵入用具等犯行の用に供された物をはじめ、着衣、紙片等の遺留品について、その出所を確認して犯人を割り出す遺留品捜査や、被害品の移動経路を捜査することによって犯人を割り出す盗品等捜査といった物からの捜査が行われ、多くの事件の解決に寄与してきた。しかし、大量生産・大量流通の著しい進展、輸送手段の多様化・高速化、インターネットの普及、経済のグローバル化等に伴い、輸入品を含め、多種多様の物品を大量かつ容易に入手し、消費することができるようになり、物からの捜査は困難になってきている。

第3節 今後の警察の取組み

1 捜査力・執行力の充実・強化のための取組み
(1) 合理化の推進と警察力の運用
 各都道府県警察では、組織・人員の効率的運用を図るため、部門を越えた総合的な体制の確立、機動捜査隊・自動車警ら隊等の執行隊の統合、時差出勤制の導入等、組織・人員の配置の見直し、事案発生時の捜査力の集中投入・弾力的運用を行っている。
 犯罪情勢が年々厳しさを増す中、国民の間に治安に対する不安感が増大しており、パトロール強化や犯罪被害者対策の強化等、国民の身近な要望にこたえる活動が求められている一方で、犯罪の増加等に伴い、警察官一人当たりの負担が増大している。このような現状に適切に対応し、国民が真に求めている安全と安心を確保するため、各都道府県警察では徹底した合理化を推進している。全国警察では、平成十六年度までに一万二千人弱の人員を内部捻出して体制が不足する部署に配置することとしているが、これを行ってもなお不足する人員については地方警察官の増員を行うとの考えのもと、十四年度から三か年で全国で一万人の計画的増員を行うこととし、十四年度は四千五百人を措置した。
(2) 科学技術の活用
 警察庁では、走行中の自動車のナンバーを自動的に読み取り、手配車両ナンバーと照合する自動車ナンバー自動読取システムを開発し、整備を進めている。その結果、多くの自動車盗事件を解決しているほか、殺人、強盗等の凶悪犯罪等の重要犯罪の解決に多大な効果を挙げている。
 指紋・掌紋自動識別システムは、コンピュータによるパターン認識の技術を応用したシステムであり、犯罪現場に遺留された指紋等から犯人を特定する遺留指紋照合業務や、逮捕した被疑者の身元と余罪の確認業務等に活用している。
 警察庁では、限られた警察力をより効率的に運用するため、十四年度から、犯罪統計、犯罪手口、事件捜査等に係る各種情報をデータベース化し、各都道府県警察に設置される端末装置を全国的に通信回線で結ぶことにより、各種情報を有機的かつ多角的に活用するとともに、業務の合理化及び自動化を図る警察総合捜査情報システムの開発を進めている。また、組織犯罪グループに係る情報をデータベース化して全国的に共有し、組織犯罪グループの活動実態の解明と個別事件における内偵捜査の効率化及び検挙の推進を図るため、組織犯罪対策情報管理システムの開発を進めている。
(3) 捜査力・執行力の強化
 来日外国人犯罪の捜査に従事する警察官には、外国語はもとより、出入国管理、国際捜査共助、刑事手続等に関する条約その他内外の法制等極めて幅広い分野に関する特別の知識、手法が要求される。警察では、国際捜査官を体系的に養成するため、語学教育、海外研修等を実施しているほか、特に高い語学能力を備えた者を中途採用し、国際捜査力の確保に努めている。

2 犯罪の発生を抑止するための取組み
 犯罪の発生抑止に万全を期すには、警察のみによる努力では限界があり、国民、地域社会、様々な機関や団体が果たすべき役割は大きい。しかしながら、近年は、社会の犯罪抑止機能が低下しつつあり、加えて、少年をはじめとして国民の規範意識が低下していることがうかがえるなど、犯罪の発生を抑止するための社会環境は、非常に厳しいものとなっている。警察は、このような情勢を踏まえ、犯罪の発生を抑止するための自らの取組みを充実強化することに加え、国民一人一人や関係機関・団体による防犯行動を促進することなどにより、犯罪に強い新たな社会システムの構築に向けた施策を展開することとしている。
(1) 犯罪の発生を抑止するための新たな取組みの方向性
 これまで警察では、ソフト面の施策として、犯罪危険箇所におけるパトロールの実施、防犯懇談会の開催、防犯広報の実施等、生活に危険を及ぼす犯罪・事故・災害を未然に防止する「地域安全活動」を防犯協会、地域住民等と協力して推進するとともに、ハード面の施策として、平成十二年二月に制定した「安全・安心まちづくり推進要綱」に基づき、道路、公園等の公共施設や共同住宅の構造、設備、配置等について、犯罪防止に配慮した環境設計を行うなど、犯罪被害に遭いにくいまちづくりを推進してきた。
 犯罪の発生抑止を図るためには、警察は、前記施策の充実に継続的に取り組むことに加え、現状の犯罪の増加傾向を踏まえて、新たに、犯罪対策のマネジメント・サイクルの確立及び「犯罪に強い社会」の構築に取り組んでいく。
(2) 犯罪対策のマネジメント・サイクルの確立
 地域ごとに、警察総合捜査情報システムの活用、犯罪手口分析等により、罪種ごとに被害者類型の分類、発生場所、発生時間帯、発生曜日その他の詳細なデータに基づく緻密な犯罪の発生傾向の分析を迅速かつ適切に行い、警察が行う犯罪対策の内容を定めた地域ごとの犯罪対策計画を立案する。地域ごとの犯罪対策計画に基づき、警察は、実効ある街頭警察活動及び国民の自主防犯行動に関する施策を推進することとしている。
(3) 「犯罪に強い社会」の構築
 「犯罪に強い社会」を構築するために、警察は、都市計画、情報通信ネットワーク、保険契約等の犯罪の発生と関連の深い社会・経済の仕組みに、犯罪の発生抑止に資する「防犯システム」をその特性に応じて組み込むこととしている。

第2章 国際テロ情勢と警察の対応

第1節 国際テロ情勢

1 米国における同時多発テロ事件
(1) 事件の発生と米国等による軍事行動
 二〇〇一(平成十三)年九月十一日に発生した米国における同時多発テロ事件(以下「同時多発テロ事件」という)は、旅客機四機を同時にハイジャックし、乗員・乗客と共に標的に突入させるという前例のない手口により、テロ事件としては過去最悪の三千人を超える犠牲者(行方不明者を含む)を出し、世界に衝撃を与えた。その後、米国政府は、二〇〇一年十月八日(日本時間)、アフガニスタンを実効支配し、同時多発テロ事件の首謀者とされるオサマ・ビンラディンを庇護下に置いているといわれるタリバーン政権に対する軍事行動を開始した。
(2) 我が国の対応
 政府は、同時多発テロ事件発生後直ちに、首相官邸で安全保障会議を開催し、邦人の安否確認、国内の米国関連施設の警戒等六項目の政府対処方針を決定した。また、その後、在日米軍施設等の警備強化、自衛隊の艦艇派遣等による協力支援活動を実施するなど、引き続き米国及び国連等国際社会と協調して各種対策を推進した。
 警察庁では、事件発生後、警備対策本部を設置し、全国警察に対し、テロ関連情報の収集強化、米国関連施設及び原子力発電所等重要施設の警戒強化、ハイジャック防止対策、生物化学テロ対策等の警備諸対策の徹底を指示した。

2 日本赤軍、「よど号」犯人グループ
(1) 日本赤軍
 二〇〇〇(平成十二)年十一月、警察は、日本赤軍最高幹部重信房子を逮捕した。その後、二〇〇一(十三)年四月、重信房子は獄中から日本赤軍の解散を宣言し、日本赤軍も同年の「五・三〇声明」(日本赤軍が一九七二(昭和四十七)年五月三十日の「テルアビブ・ロッド空港事件」を記念して毎年五月三十日前後に発出している声明)で、組織としてこれを追認した。しかし、日本赤軍は過去のテロ行為について清算・総括を行っていないばかりか、解散宣言後に結成された「ムーブメント「連帯」」は、依然として多数の民間人を無差別に殺傷した「テルアビブ・ロッド空港事件」を高く評価するなど、従前と同様の主張を行っており、日本赤軍の本質や危険性に変化はない。
 警察は、日本赤軍による新たなテロの未然防止と組織の真の壊滅のため、今後とも関係機関や各国治安機関との連携を強化し、国際手配中のメンバー七人の早期発見、逮捕等に向け積極的な諸対策を推進していくこととしている。
(2) 「よど号」犯人グループ
 二〇〇一(平成十三)年、「よど号」犯人の元妻が、金日成(キムイルソン)・北朝鮮主席(当時)の「教示」(指示)に基づき、日本人の獲得工作に従事していた旨を明らかにした。これにより、「よど号」犯人グループが、金日成主義に基づく日本革命の中核を担う人物の獲得工作に従事し、獲得した日本人男性と結婚させるために日本人女性を拉致した疑いがあることが明らかになった。そして、「よど号」犯人グループが、朝鮮労働党の指導の下、金日成主義に基づく日本革命を目指していることも明らかになった。
 二〇〇二(十四)年三月、警察は、「よど号」犯人の元妻の供述を含め、これまでの捜査結果を総合的に検討した結果、一九八二(昭和五十七)年四月に英国留学のため出国した有本恵子さんが、その後欧州で消息を絶った事案について、北朝鮮による拉致の疑いがあると判断するに至った。

3 北朝鮮による国際テロ等
(1) 北朝鮮による過去の主なテロ事件
 北朝鮮は、朝鮮戦争以降、南北軍事境界線を挟んで韓国と軍事的対峙関係にあり、韓国に対する工作活動の一環として、これまでに、「韓国大統領官邸(青瓦台)襲撃未遂事件」(一九六八年)、「ビルマ・ラングーン事件」(一九八三年)、「大韓航空機爆破事件」(一九八七年)等の国際テロ事件を引き起こしている。
(2) 北朝鮮の我が国及びその周辺での活動
 我が国においては、戦後約五十件の北朝鮮関係の諜報事件が検挙されており、対韓国工作の拠点としての活動、在日米軍に関する情報収集活動等が行われているとみられる。
 一九九九(平成十一)年には、二隻の不審船が能登半島沖の我が国領海内で発見され、海上保安庁及び海上自衛隊による停船命令に応じず、警告射撃等を無視して逃走する事案が発生し、当該不審船は北朝鮮の工作船であったと判断された。
(3) 最近の北朝鮮の動向
 北朝鮮は、依然として「よど号」犯人グループを保護しており、米国国務省も継続して北朝鮮を「テロ支援国家(State Sponsors of Terrorism)」と認定している。
 一方、二〇〇一(十三)年十二月、九州南西海域において、船体特徴等が過去の北朝鮮工作船と酷似している不審船が海上保安庁の巡視船に対し、自動小銃及びロケットランチャー様のもので攻撃する事案が発生した。このような情勢の下、警察は、北朝鮮の動向が我が国の治安に及ぼす影響に、引き続き十分な注意を払っているところである。
(4) 日本人拉致容疑事案
 警察では、二〇〇二(平成十四)年三月、欧州において日本人女性が消息を絶った事案について、北朝鮮による拉致の疑いがあると判断した。これを含めて、北朝鮮による日本人拉致容疑事案は、これまでに八件発生し、十一人が行方不明になっている。北朝鮮による日本人拉致容疑事案について、その目的は必ずしも明らかではないが、諸情報を総合すると、北朝鮮工作員が日本人のごとく振る舞えるようにするための教育を行わせることや、北朝鮮工作員が日本に潜入して、拉致した者になりすまして活動できるようにすることなどがその主要な目的とみられる。
 日朝間で各種の協議が行われ、九月十七日に開催された日朝首脳会談の席上、金正日(キムジヨンイル)総書記は、拉致問題について、北朝鮮の特殊機関の一部の妄動主義者らが英雄主義に走ってかかる行為を行ってきたと考えているとの認識を示し、謝罪した。警察は、これらの北朝鮮による日本人拉致容疑事案については、外務省をはじめとする国内外の関係機関と連携しつつ、新たな情報の収集等所要の捜査を継続している。

第2節 テロ対策

1 国際的な取組み
(1) 国際協力の推進
 同時多発テロ事件にみられるとおり、近年の国際テロは、世界各地に散在した勢力による国際的ネットワークを利用して実行される例が多く、国際テロの未然防止には一国のみの努力では限界がある。
 このため、テロ組織やテロリストに関する情報交換を促進するなどの治安機関相互間の協力関係を一層緊密にしていくことに加え、G8や国連等において、国際テロ防止のための施策を世界的に進めるための議論も活発に行われている。
(2) テロ資金対策
 犯罪組織の根絶のためには、組織の活動に不可欠な資金を絶つことが極めて重要である。テロ対策においても、同時多発テロ事件以降、テロの未然防止のためにはテロ組織の根絶を目指さなければならないとの認識の下、国際的なテロ資金対策が格段に強化されている。

2 欧米諸国のテロ対策
 欧米諸国では、従来、各国の実情に応じて、テロ対策のため法制や組織が整備されてきたところであるが、今般の同時多発テロ事件の発生により、テロ対策に向けた国際的協調と各国のテロ対策の充実が一層求められることとなった。こうしたことを受けて、米国をはじめ、英国、フランス、ドイツ等主要国においては、捜査機関の権限・出入国管理・情報収集力の強化等、テロ防止に資する内容の法令が極めて短期間のうちに制定されている。

3 我が国のテロ対策に関する法制度
 我が国には、テロ対策を目的とした包括的な法律は存在せず、取締りに当たっては、刑法、刑事訴訟法の諸規定によることを基本としている。また、必要に応じ、ハイジャックの取締りのための、航空機の強取等の処罰に関する法律、爆発物の取締りのための、爆発物取締罰則及び火薬類取締法等の個別法の規定によって対応しているのが現状である。また、同時多発テロ事件を受け、国際的な協力の枠組みの下で、テロ根絶の対策を同一歩調で進めることが求められており、我が国としても、法整備の問題を含め、その対応に遺漏がないようにしなければならない。

4 テロに対する警察の取組み
(1) 情報収集と捜査の徹底等
 テロ対策の要諦は、未然防止のための情報収集及び捜査の徹底等にあり、とりわけ広範な情報収集と的確な分析が不可欠である。テロは極めて秘匿性の高い行為であり、テロに関する情報の多くは断片的で、個々の情報のみではその真偽や情報としての価値を判断できないものにとどまるため、その未然防止のためには総合的な分析が必要となる。
(2) テロ対処部隊の活動
ア 特殊部隊(SAT)
 警察では、一九七七(昭和五十二)年九月二十八日に発生した日本赤軍による「ダッカ事件」を契機として、警視庁及び大阪府警察に特殊部隊を設置した。平成八年四月、深刻さを増す銃器情勢等に的確に対応するために、警視庁、大阪府警察に加え、北海道、千葉、神奈川、愛知、福岡の五道県警察の機動隊等に特殊部隊を編成し、呼称を「SAT」(Special Assault Team)とした。SATは、全国で約二百人の体制で、ハイジャック、重要施設占拠事案等の重大テロ事件及び組織的な犯行や強力な武器が使用されている事件等の事案に出動し、被害者等の安全を確保しつつ、事態を鎮圧し、被疑者を検挙することをその主たる任務としている。
イ 銃器対策部隊
 SATと同様、八年四月に全国の機動隊に編成された銃器対策部隊は、合わせて一千数百名の体制であり、主な任務は、銃器等使用事案の制圧・検挙であるが、SATが出動するような重大事案発生時には、SATの到着までの第一次的な対応に当たるとともに、到着後は、その支援に当たることとしている。
(3) 重要施設の警戒警備
 警察では、組織の総合力を発揮して関連情報の収集・分析を行い、これらを基に情勢に対応した警備計画を立案の上、効果的かつ効率的な警戒警備を実施している。
(4) 生物化学テロ対策
 警察では、オウム真理教による地下鉄サリン事件及び同時多発テロ事件等を受け、生物化学テロ対処能力の更なる向上を図るため、NBCテロ対応専門部隊の六道県(北海道、宮城、神奈川、愛知、広島及び福岡)への増設及び全国警察への化学防護服や生物剤検知器等の増強配備を行った。
(5) ハイジャック防止対策
 警察では、平素からハイジャック防止のために関係機関との密接な連携の下、旅客機への危険物持込みの防止に努めるとともに、実際に航空機を使ってのハイジャック対応訓練を重ね、その発生に備えてきた。同時多発テロ事件発生後は、ハイジャックの未然防止の徹底を図るため、情報収集を強化するとともに、国土交通省、航空会社等の関係機関との連携を密にし、危険物の機内への持ち込み防止対策を強化した。
(6) 経空テロ対策
 小型航空機や無人ヘリコプター等を利用して上空から化学剤等を不法に散布する形態や、これらに爆発物を搭載して上空から対象に突入させる形態等で敢行されるいわゆる経空テロについては、小型航空機等の盗難防止対策を徹底するとともに、地方の飛行場等の警戒を強化すること等により、その未然防止に努めてきた。
(7) 国際テロ緊急展開チームの派遣
 警察では、国際テロ事件発生時に、専門知識を持つ要員を現地に派遣し、現地治安当局との連携、情報収集及び各国捜査機関への捜査支援活動等に当たらせるため、一九九七(平成九)年、警備局外事課に「国際テロ緊急展開チーム(TRT:Terrorism Response Team)」を設置した。同時多発テロ事件発生直後も、同チームを米国に派遣し、治安当局との情報交換を行うとともに、邦人保護活動の支援を推進した。
(8) サイバーテロ対策
 警察では、サイバーテロの未然防止、事案発生時の被害拡大防止及び事件検挙を目的として、サイバーテロに関する捜査体制及び情報収集体制の整備、サイバーテロ防止のためのセキュリティ情報の提供、緊急対処体制の整備・強化等の施策を講じてきた。
(9) 関係省庁との連携強化
 警察では、重大テロ等対策に関し、関係省庁と会議を通じた情報の交換や対応策の検討等を行っている。
(10) テロ対策のための技術移転等
 国際的なネットワークを有するテロ組織に対抗するためには、各国の治安機関がそれぞれの能力を高めるとともに、治安機関相互間のネットワークを構築する必要があり、警察では、政府開発援助(ODA)事業の一環として、一九九三(平成五)年以降「国際テロ対策技術協力セミナー」を開催しているほか、一九九五(平成七)年以降、国際協力事業団(JICA)との共催により、「国際テロ事件捜査セミナー」を開催し、開発途上国のテロ対策実務担当者等に対して、テロ事件の捜査技術に関するノウハウ等を積極的に提供している。
(11) 海外安全対策
 我が国企業の海外拠点や在外邦人等を標的としたテロ、誘拐等が世界各地で発生しているため、(財)公共政策調査会等は、関係機関の協力を得て、一九九三(平成五)年以降、毎年海外で「海外安全対策会議」を開催している。
(12) 国際会議への積極的参加
 国際テロ対策は、国際社会が直面する重要かつ緊急の課題であり、各国の連携、協力が不可欠との観点から、G8や国連等の場において、政府首脳間、治安等担当大臣間、警察機関相互間等による活発な討議がなされており、警察庁も、これらの国際会議に積極的に出席している。

5 警察におけるテロ対策の課題
 警察は、テロの発生を未然に防止するため、地道な方法ではあるが、これまで推進してきた情報収集活動を更に強化し、国際テロリストの動向等国内外のテロ情報をより広範に収集する必要がある。そして、得られた情報に多角的な分析を加え、重要施設警戒等の各種テロ対策に活かしていくほか、犯罪行為があれば必要な捜査を行い、容疑者を検挙するなどして、テロの未然防止を図っていくことが求められる。

第3章 生活安全の確保と警察活動

1 市民の安全と平穏の確保
 警察は、ストーカー事案・配偶者からの暴力事案への適切な対応、犯罪防止に配慮した環境設計活動、地域安全活動の推進、交番等の「生活安全センター」としての機能の強化等を推進している。また、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の適切な施行、悪質な生活経済事犯等の取締り等を行っている。

2 少年の健全育成を図るための総合的な取組み
 警察は、深刻な少年非行情勢に対処するため、少年事件捜査力の充実強化を図るとともに、少年サポートセンターを中心に少年相談活動や不良行為少年に対する継続補導、少年の社会参加活動をはじめとする居場所づくりの推進等の少年非行抑止対策を推進している。また、少年の保護対策として、犯罪等の被害を受けた少年に対する支援、児童虐待の早期発見と事件化、児童買春・児童ポルノ事犯の徹底した取締り等を行っている。

3 銃器・薬物対策の推進
 銃器・薬物対策については、「銃器対策推進本部」と「薬物乱用対策推進本部」を中心に関係機関が連携の上、政府を挙げて総合的に推進している。警察では、銃器対策については、暴力団等によるけん銃密輸・密売事件や武器庫等の摘発を重点とした取締り等を積極的に推進し、薬物対策については、薬物の密輸入・密売事犯の取締りの強化、薬物組織犯罪対策の推進、末端乱用者の徹底検挙等を重点推進事項とし、諸対策を推進している。

4 高度情報通信ネットワーク社会の安全性の確保
 高度情報通信ネットワークの安全性及び信頼性の確保が、高度情報通信ネットワーク社会形成基本法の「施策の策定に係る基本方針」や、e−Japan重点計画の「重点政策五分野」の一つとして掲げられるなど、「世界最先端のIT国家」の実現に向け情報セキュリティ対策の重要度が増していることから、ハイテク犯罪対策、サイバーテロ対策等を柱とした諸施策を推進している。

第4章 犯罪情勢と捜査活動

1 政治・行政とカネをめぐる不正事案
 国会議員の私設秘書が、議員の影響力を利用して官・業の間を取り持ち、不正に資金を得ている実態が明らかになる一方で、地方公共団体の長らによる贈収賄事件や買収等の選挙違反の摘発が依然として続いている。警察では、捜査体制の整備を図るとともに、専門的知識・技能を有する捜査員の育成強化に努め、これらの不正事案の解明を進めている。

2 金融・不良債権関連事犯をはじめとする企業犯罪
 長引く不況の影響を受け、数多くの企業が経営破たんに至ったが、破たんに至る過程又は破たん処理の過程における企業経営陣による経済取引の健全性・公正性を大きく害する不正事案が顕在化した。警察では、融資過程又は債権回収過程における詐欺、背任、競売入札妨害等の金融・不良債権関連事犯の捜査を徹底的に行い、これらの不正事案の摘発及び防止に努めている。

第5章 暴力団総合対策の推進

 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下「暴力団対策法」という)の施行を契機とした、暴力団排除気運の高まりと取締りの一層の強化により、暴力団は社会的に孤立しつつあるが、民事介入暴力、金融・不良債権関連事犯を多数引き起こすなど、その資金獲得活動は、社会経済情勢の変化に対応して、一層多様化・巧妙化しつつある。
 また、暴力団は、けん銃を使用した凶悪な犯罪や薬物犯罪を多数引き起こすなど、市民社会にとって大きな脅威になっており、このような情勢の下、警察は、暴力団犯罪の徹底検挙、暴力団対策法の適正かつ効果的な運用、暴力団排除活動の積極的推進を三本の柱として暴力団総合対策を強力に推進している。

第6章 安全かつ快適な交通の確保

 平成十三年に発生した交通事故は、発生件数及び負傷者数が増加し過去最悪を更新したが、死者数は減少し、昭和五十六年以来二十年ぶりに九千人を下回った。警察では、交通安全教育指針に基づく段階的かつ体系的な交通安全教育の推進、悪質・危険性、迷惑性の高い違反に対する取締りの強化等、交通事故を防止し、その被害軽減を図るための施策を総合的に展開している。また、交通渋滞や交通公害、地球温暖化が大きな社会問題となっていることから、ITS(高度道路交通システム)の推進を図るなど、快適な交通の確保のための諸施策を推進している。

第7章 公安の維持

1 オウム真理教対策の推進
 地下鉄サリン事件をはじめとする凶悪な事件を引き起こしたオウム真理教の本質に変わりはなく、警察は、依然逃走している特別手配被疑者三人の発見検挙に全力を尽くすとともに、教団信者による違法行為に対する厳正な捜査を推進している。また、教団施設周辺の住民の平穏な生活を守るため、必要な警戒警備活動等を行っている。

2 各種テロ対策の強化及び各種違法事案の未然防圧、徹底検挙
 警察は、極左暴力集団による凶悪な「テロ、ゲリラ」事件及び各種違法事案の未然防圧と取締りを推進している。また、右翼によるテロ等重大事件の未然防圧に向け、銃器摘発や資金獲得を目的とした犯罪の取締りを強化するとともに、悪質な街頭宣伝活動に対する諸対策を推進している。

3 二〇〇二年ワールドカップサッカー大会警備
 平成十四年五月三十一日から六月三十日までの間に開催された二〇〇二年ワールドカップサッカー大会に際し、警察は、各国治安機関及び国内関係機関と連携し、フーリガン対策、テロ対策等を実施した。

第8章 災害、事故と警察活動

 平成十三年中は、芸予地震、台風等による風水害が発生した。警察では、災害の発生に際して、災害警備本部を迅速に設置して所要の体制を確立し、現場に広域緊急援助隊をはじめとする警察部隊、ヘリコプター等を派遣して情報の収集、救出活動・行方不明者の捜索、住民の避難誘導、交通規制等所要の災害警備活動を実施している。

第9章 国際化社会と警察活動

 社会・経済のグローバリゼーションの進展に伴い、犯罪のグローバリゼーションともいうべき問題が発生しており、なかでも国際組織犯罪の深刻化が進んでいる。さらに、我が国と近隣諸国との賃金格差を背景として、多数の不法就労を目的とした外国人が我が国に流入し、定着化する問題が生じている。これらの者の中には、我が国国内で犯罪グループを形成し、あるいは我が国の暴力団や外国に本拠を置く国際犯罪組織と連携をとるものがある。
 警察は、このような犯罪に対応するため、捜査能力と語学能力を兼ね備えた国際捜査官の育成、通訳体制の整備等国際捜査力を強化するとともに、関係行政機関や地域住民との連携を強化するほか、外国捜査機関等との協力や国際社会における国際犯罪対策に積極的に取り組み、総合的な国際犯罪対策に取り組んでいる。

第10章 公安委員会制度と警察活動のささえ

1 適正な警察活動の確保
 公安委員会の管理機能の充実・活性化、警察における監察機能の充実・強化、警察職員の職務執行に対する苦情の適正な処理、警察署協議会の適切な運営による地域住民の要望・意見の把握、情報公開の推進、職務執行による責任の明確化により、警察活動の一層の適正化を図っている。

2 警察活動をささえる基盤の強化
 組織、人員の効率的運用、教育の充実による職員の実務能力と資質の向上、業務推進方法の見直し、装備資機材の高度化等を更に推進するとともに、人的体制の整備を図る。また、職員の高い士気を維持するため、福祉・厚生の充実、勤務制度の改善等に努めるとともに、今後の警察を担う優秀な人材を確保するため、人物重視の採用方法、中途採用等の採用の複線化等を積極的に推進している。

3 警察の情報通信システムの充実及び事案に即応する体制の強化
 事件、事故及び災害に迅速かつ的確に対応するため、各種情報通信システムの充実強化を図るとともに、機動警察通信隊の体制強化に努めている。

4 被害者対策の推進
 被害者への支援をより充実させるため、犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律の適正な運用を図るとともに、被害者に対する情報提供、相談・カウンセリング体制の整備、捜査過程における被害者の負担の軽減及び関係機関・団体等との連携等の各種施策を一層推進している。





歳時記


冬支度

 南北に長く、複雑な地形の日本では、冬の訪れにも時間差があります。北海道や東北地方では、十月の中ごろになると初霜や初氷が観測され、そろそろ冬が近いことがうかがわれます。
 十一月に入ると、西高東低のいわゆる冬型気圧配置が現れるようになり、比較的温暖な地方からも木枯らしの便りが届き始めます。
 暖房器具が欲しくなるのは、一般的に朝の最低気温が八度に下がるころからといわれます。東京を例にとると、最低気温の平均が八度ぐらいになるのは十一月二十日過ぎ。昭和の中ごろは十一月三、四日には八度になっていたといいますから、やはり温暖化は進んでいるようです。
 十一月も下旬になると、ストーブやこたつの準備をしたり、暖かいコートやマフラーなどの防寒具を取り出したりと、冬支度も本格的に。雪の多い地方では、草木などをわらやむしろで覆う雪囲いや、木の枝をつり上げる雪吊りの用意をして雪害に備えます。
 自動車のタイヤをスタッドレスタイヤにはきかえるのも、雪国ならではの冬支度です。
 冬に備えての漬物づくりも盛んに行われます。東北地方では農山村地域を中心に、今でも自家製の漬物を作る家庭が多く、春まで食べるのに十分なだけの漬物の仕込みをするこの時期は大忙しです。信州では、野沢菜漬けにする菜を洗う光景があちこちで見られます。冬の訪れを実感させる風物詩です。




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賃金、労働時間、雇用の動き


毎月勤労統計調査平成十四年八月分結果速報


厚生労働省


 「毎月勤労統計調査」平成十四年八月分結果の主な特徴点は次のとおりである。

◇賃金の動き

 八月の調査産業計の常用労働者一人平均月間現金給与総額は二十九万八千四百六十八円、前年同月比三・七%減であった。現金給与総額のうち、きまって支給する給与は二十七万八千二百八十八円、前年同月比〇・七%減であった。これを所定内給与と所定外給与とに分けてみると、所定内給与は二十六万九百四十八円、前年同月比〇・八%減、所定外給与は一万七千三百四十円、前年同月比は〇・八%増であった。
 また、特別に支払われた給与は二万百八十円、前年同月比は三〇・六%減であった。
 実質賃金は、二・七%減であった。
 きまって支給する給与の動きを産業別に前年同月比によってみると、伸びの高い順に製造業〇・六%増、不動産業〇・一%増、電気・ガス・熱供給・水道業〇・四%減、卸売・小売業,飲食店〇・九%減、サービス業一・三%減、建設業一・五%減、運輸・通信業及び金融・保険業一・六%減、鉱業九・六%減であった。

◇労働時間の動き

 八月の調査産業計の常用労働者一人平均月間総実労働時間は百四十九・〇時間、前年同月と同水準であった。
 総実労働時間のうち、所定内労働時間は百三十九・八時間、前年同月比〇・二%減、所定外労働時間は九・二時間、前年同月比一・五%増、所定外労働時間の季節調整値の前月比は〇・五%増であった。
 製造業の所定外労働時間は十三・四時間、前年同月比一一・〇%増、季節調整値の前月比は一・二%増であった。

◇雇用の動き

 八月の調査産業計の雇用の動きを前年同月比によってみると、常用労働者全体で〇・八%減、常用労働者のうち一般労働者では一・五%減、パートタイム労働者では一・八%増であった。
 常用労働者全体の雇用の動きを産業別に前年同月比によってみると、前年同月を上回ったものはサービス業二・一%増であった。建設業、運輸・通信業及び不動産業は前年同月と同水準であった。前年同月を下回ったものは電気・ガス・熱供給・水道業〇・八%減、卸売・小売業,飲食店一・三%減、金融・保険業二・八%減、製造業四・四%減、鉱業九・四%減であった。
 主な産業の雇用の動きを一般労働者・パートタイム労働者別に前年同月比によってみると、製造業では一般労働者四・三%減、パートタイム労働者五・二%減、卸売・小売業,飲食店では一般労働者四・七%減、パートタイム労働者三・六%増、サービス業では一般労働者一・八%増、パートタイム労働者四・一%増であった。











暮らしのワンポイント


低温やけど

暖房具の使い方に注意

 こたつや電気毛布、カイロなどがありがたい冬。でも、暖房具の使い方によっては「低温やけど」になってしまうこともあり、要注意です。
 触っていると温かく気持ちのよい六〇度くらいの温度でも、一分間、皮膚に圧迫して使い続けるとやけどをします。これが「低温やけど」です。接触時間によっては、さらに低い温度でもやけどになることがあります。
 国民生活センターに寄せられた報告によると、低温やけどを最も引き起こしている暖房具は、使い捨てカイロ。以下、湯たんぽ、あんか、こたつ、電気カーペット、電気毛布などが続きます。高齢者や体の不自由な人、病気やケガをした人に起きやすく、酔って眠り込んでやけどを負ったという例も。
 低温やけどは、皮膚の表面ではわずかなやけどに見えても、内部が壊死(えし)(体の組織の一部が死ぬこと)してしまうこともあります。ひどい場合は手術が必要になるなど症状は深刻です。
 低温やけどを防ぐには、まずそれぞれの暖房具の注意表示をよく見て使用方法などを守り、さらに使用中は圧迫しないようにしたり、こまめに体の姿勢を変えたりすることが大切です。
 使い捨てカイロは長時間体の一か所に固定せず、睡眠中は使わないように注意しましょう。湯たんぽや電気あんか、電気毛布などは、なるべく低温で使用するか、体から離して使うようにしましょう。
 電気カーペットは、乗ったときに温かいと感じるようでは温度が高すぎます。座ると徐々に温かくなる程度が適温だと覚えておきましょう。
 低温やけどになってしまったら、水で冷やしても効果はありません。見た目より重傷の場合が多いので、早めに医師の診察を受けてください。




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消費動向調査


―平成十四年九月実施調査結果―


内 閣 府


 消費動向調査は、家計消費の動向を迅速に把握し、景気動向判断の基礎資料とするために、全国の普通世帯(単身世帯及び外国人世帯を除いた約三千万世帯)を対象に、約五千世帯を抽出して、消費者の意識、主要耐久消費財等の購入状況、旅行の実績・予定、サービス等の支出予定について、四半期ごとに調査している。また、年度末に当たる三月調査時には、主要耐久消費財等の保有状況、住宅の総床面積についても併せて調査している。
 今回の報告は、平成十四年九月に実施した調査結果の概要である。

一 調査世帯の特性

 平成十四年九月の調査世帯の世帯主の平均年齢は五三・二歳(全世帯、以下同じ)、平均世帯人員は三・五人、うち就業者数は一・七人、平均持家率は七五・一%となっている。また、有効回答率は九九・九%(有効回答世帯数は五千三十八世帯)となっている。

二 消費者の意識

(1) 消費者態度指数(季節調整値)の調査結果
  消費者意識指標七項目中五項目を総合した消費者態度指数は、「雇用環境」、「収入の増え方」、「暮らし向き」に関する意識が悪化したものの、「物価の上がり方」及び「耐久消費財の買い時判断」に関する意識が改善し、前期差〇・三ポイント上昇の三九・六となった(第1図参照)。
(2) 各調査項目ごとの消費者意識指標(季節調整値)の調査結果
  各消費者意識指標について十四年九月の動向を前期差でみると、「雇用環境」に関する意識(一・六ポイント低下)、「収入の増え方」に関する意識(〇・九ポイント低下)、「暮らし向き」に関する意識(〇・二ポイント低下)が悪化したものの、「物価の上がり方」に関する意識(三・五ポイント上昇)及び「耐久消費財の買い時判断」に関する意識(〇・二ポイント上昇)が改善を示した(第1表参照)。

三 サービス等の支出予定(季節調整値)

 十四年十〜十二月期のサービス等の支出予定八項目の動きを「今より増やす予定と回答した世帯割合」から「今より減らす予定と回答した世帯割合」を控除した数値(サービス支出D.I.)でみると、以下のとおりである(第2図参照)。
(1)高額ファッション関連支出D.I.は、マイナスが続いており、前期がマイナス九・一%のところ、今期はマイナス八・六%となっている。
(2)学習塾等補習教育費D.I.は、他の支出D.I.と比較して高い水準にあり、前期が六・七%のところ、今期は五・九%となっている。
(3)けいこ事等の月謝類D.I.は、他の支出D.I.と比較して高い水準にあり、前期が〇・七%のところ、今期は一・四%となっている。
(4)スポーツ活動費D.I.は、このところマイナスとなっており、前期がマイナス〇・七%のところ、今期はマイナス〇・八%となっている。
(5)コンサート等の入場料D.I.は、プラスに転じ、前期が〇・四%のところ、今期は〇・九%となっている。
(6)遊園地等娯楽費D.I.は、マイナスが続いており、前期がマイナス一〇・五%のところ、今期はマイナス一一・三%となっている。
(7)レストラン等外食費D.I.は、マイナスが続いており、前期がマイナス一八・九%のところ、今期はマイナス二〇・三%となっている。
(8)家事代行サービスD.I.は、おおむね安定した動きが続いており、前期がマイナス一・七%のところ、今期はマイナス二・一%となっている。

四 旅行の実績・予定(季節調整値)

(1) 国内旅行
  十四年七〜九月期に国内旅行(日帰り旅行を含む)をした世帯割合は、前期差で二・〇ポイント上昇し三四・七%となった。旅行をした世帯当たりの平均人数は、前期差で横ばいの二・九人となった。
  十四年十〜十二月期に国内旅行をする予定の世帯割合は、十四年七〜九月期計画(以下「前期計画」)差で一・五ポイント上昇し三一・〇%、その平均人数は、前期計画差で横ばいの二・九人となっている。
(2) 海外旅行
  十四年七〜九月期に海外旅行をした世帯割合は、前期差で〇・四ポイント上昇し四・八%となった。その平均人数は、前期差で横ばいの一・七人となった。
 十四年十〜十二月期に海外旅行をする予定の世帯割合は、前期計画差で〇・五ポイント上昇し四・三%、その平均人数は、前期計画差で〇・一人減少し一・八人となっている。

(参考)

一 消費者意識指標(季節調整値)(レジャー時間、資産価値)

 十四年九月の「レジャー時間」に関する意識は、前期差で〇・二ポイント低下し四一・九となった。
 「資産価値」に関する意識は、前期差で二・三ポイント低下し三七・二となった。

二 主要耐久消費財等の購入状況・品目別購入世帯割合の動き(原数値)

 十四年七〜九月期実績は、三十品目中十六品目の購入世帯割合が前年同期に比べて減少し、八品目が増加した。なお、六品目が横ばいとなった。
 十四年十〜十二月期実績見込みは、三十品目中十五品目の購入世帯割合が前年同期に比べて減少し、十品目が増加している。なお、五品目が横ばいとなっている(第2表参照)。

三 主要耐久消費財の買替え状況

 十四年七〜九月期に買替えをした世帯について買替え前に使用していたものの平均使用年数をみると、普及率の高い電気冷蔵庫、電気洗たく機などは八〜十二年となっており、その理由については故障が多い。また、「上位品目への移行」による買替えが多いものとしてパソコン、ビデオカメラ、「住居の変更」による買替えが多いものとしては、電気洗たく機があげられる。





言葉の履歴書


ソーラーシステム

 太陽エネルギーの利用方法には、大きく分けて、太陽の光を電力として利用する太陽光エネルギーと、太陽の熱を給湯や冷暖房に利用する太陽熱エネルギーの二つがあります。ソーラーシステムは、家の屋根などに集熱器、地上に貯湯槽を設置し、太陽熱エネルギーを集めて温水を作り、給湯に利用したり、その温水を家の中で循環させて暖房などに利用したりするシステムです。
 標準的な住宅用ソーラーシステム一台当たりのエネルギー節約量は、原油に換算すると年間約三百四十リットルとなり、太陽熱エネルギーは二酸化炭素(CO)の排出量を削減し、地球温暖化の改善に貢献する、環境にやさしいエネルギーといえます。
 ソーラーシステムは住宅を中心に学校や福祉施設、産業用などで幅広く利用されており、日本の太陽熱利用システムの普及台数は世界のトップクラスとなっています。最近では、太陽光エネルギーと太陽熱エネルギーの両方を組み合わせたシステムも開発されています。






    <12月4日号の主な予定>

 ▽公益法人に関する年次報告………総 務 省 




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