官報資料版 平成11年5月26日




                  ▽男女共同参画の現状と施策のあらまし………総  理  府

                  ▽平成十年平均家計収支…………………………総  務  庁

                  ▽原子力安全白書のあらまし……………………原子力安全委員会











男女共同参画の現状と施策のあらまし


総 理 府


 男女共同参画推進本部(本部長 内閣総理大臣)は、平成八年十二月、「男女共同参画二〇〇〇年プラン―男女共同参画社会の形成の促進に関する平成十二年(西暦二〇〇〇年)度までの国内行動計画―」(以下「プラン」という)を決定し、その着実な推進に努めているが、総理府は、男女共同参画推進本部構成省庁の協力を得て、プランに関する三回目の報告書である「男女共同参画の現状と施策」(いわゆる「男女共同参画白書」)を取りまとめ、四月二十三日に公表した。
 本書は、国内行動計画の報告書としては通算十二回目の報告書となる。
 第1部現状編においては、我が国の男女共同参画の状況を把握する際に、可能なものは諸外国の状況を盛り込んだ。第2部施策編においては、平成十年四月以降十一年一月までの状況を中心とした施策を、プランに掲げる目標におおむね沿ってまとめた。
 本報告書は、我が国における男女共同参画の現状と施策の進捗状況を明らかにすることによって、プランの推進状況のフォローアップに役立てようとするものである。
 報告書の概要は、以下のとおりである。

第1部 現 状

第1章 政策・方針決定過程への女性の参画
    公的分野における政策・方針決定過程への女性の参画

<男女共同参画が望まれる分野>
 全国の有識者三千人を対象にしたアンケート調査によると、「今後、男女共同参画社会の実現を進めていくにあたり、まず実現されることを望む分野は何ですか。」という問に対しては、「国・地方公共団体の政策・方針決定過程への男女の共同参画」を挙げた者の割合が四六・四%と最も高く、次いで「職場における男女均等待遇の確保」(四三・一%)等となっている。
<人間開発に関する指標で見る日本の状況>
 UNDP(国連開発計画)「人間開発報告書」(一九九八年)によると、UNDPが開発した人間開発に関する指標(注)であるHDI、GDI及びGEMの日本の順位は、HDIが八位、GDIが十三位、GEMが三十八位と、GEMがHDI、GDIの順位と比較して大きく落ち込んでいる。
(注) HDI 人間開発指数(Human Development Index)
    基本的な人間の能力が平均どこまで伸びたかを測るもので、その基礎となる「長寿を全うできる健康な生活」、「知識」及び「人並みの生活水準」の三つの側面の達成度の複合指数である。具体的には、平均寿命、教育水準(成人識字率と就学率)、調整済み一人当たり国民所得を用いて算出している。
    GDI ジェンダー開発指数(Gender‐Related Development Index)
    HDIと同じく基本的能力の達成度を測定するものであるが、その際、女性と男性の間で見られる達成度の不平等に着目したもの。
    HDIと同様に平均寿命、教育水準、国民所得を用いつつ、これらにおける男女間格差をペナルティーとして割り引くことにより算出しており、「ジェンダーの不平等を調整したHDI」と位置づけることができる。
    なお、「ジェンダー」とは、社会的・文化的に形成された性別。生物学的な性別であるセックスと区別して用いられる。
    GEM ジェンダー・エンパワーメント測定(Gender Empowerment Measure)
    女性が積極的に経済界や政治生活に参加し、意思決定に参加できるかどうかを測るもの。HDI、GDIが能力の拡大に焦点を当てているのに対して、GEMは、そのような能力を活用し、人生のあらゆる機会を活用できるかどうかに焦点を当てている。
    具体的には、国会議員に占める女性の割合、行政職及び管理職に占める女性の割合、専門職及び技術職に占める女性の割合、女性の稼得所得の割合を用いて算出している。
    なお、「エンパワーメント」とは「力をつけること」の意。具体的には、自ら意識と能力を高め、政治的、経済的、社会的及び文化的に力をもった存在となることを意味している。
 日本及び諸外国のHDI、GDI及びGEMの値の変化をみると、最も値が伸びたのはイギリスのGEM(+〇・一一〇ポイント)であり、次いでオーストラリアのGEM(+〇・〇九六ポイント)である(第1図参照)。日本は、HDI及びGEMについてはこれら諸外国の中で最も伸びが低かった。
 GEM値の算出の要素となる「国会議員に占める女性の割合」、「行政職及び管理職に占める女性の割合」、「専門職及び技術職に占める女性の割合」及び「女性の稼得所得の割合」の各国の値をみると、GEM値の高いスウェーデンやノルウェーでは四つの要素のバランスがとれ、グラフはひし形に近い形になっているが、GEM値の低いフランス、日本、韓国では、「国会議員に占める女性の割合」及び「行政職及び管理職に占める女性の割合」が低く、偏った台形に近い形になっている(第2図参照)。

第2章 職場、家庭、地域への男女の共同参画

1 就業の分野における男女の共同参画
<増加傾向にある女性の労働力率と雇用者比率>
 平成十年の女性の労働力率(十五歳以上人口に占める労働力人口の割合)及び雇用者比率(十五歳以上人口に占める雇用者数の割合)はそれぞれ五〇・一%、三八・五%であり、昭和五十年以降基調としては増加傾向にあったが、ここ数年は横ばいで推移し、雇用者比率については平成十年に初めて前年を下回った。一方、平成十年の男性の労働力率及び雇用者比率はそれぞれ七七・三%、六二・三%であり、雇用者比率は平成に入ってから横ばい、労働力率は昭和五十年代よりも低下している。
<四十歳代をピークに山型を描く女性のパートタイム労働者の割合>
 女性の労働力率を年齢別にみると、二十歳代前半と四十歳代後半をピークとし、三十歳代前半をボトムとするM字カーブを描く。女性の短時間就業者比率(短時間就業者が人口に占める割合)を年齢別にみると、四十歳代前半をピークとする山型を描いていることから、労働力率と雇用者(非農林業)比率のM字カーブの二度目のピーク時には、パートタイムのように短時間で働いている者の割合が高いことが考えられる。
<諸外国の労働力率の状況>
 男女の一九九七(平成九)年の年齢別労働力率についてみると、女性の労働力率が我が国と同様のM字カーブを描いているのは韓国のみで、他国は男性と同様に逆U字を描いている。また、約二十年前との比較では、女性の労働力率はすべての国で増加している。
<外国において進んでいる女性のサービス業化>
 全就業者が従事している産業の構成比を国別男女別にみると、女性は、サービス業に従事する者の割合が他産業と比較してかなり高くなっている。
<著しく低い我が国の管理的職業に従事する女性の割合>
 職業別に従事する者の男女比をみると、いずれの国でも、事務、サービスに従事する者の割合は、男性よりも女性の方が高くなっている。一方、管理的職業と生産・運輸等生産関係に従事する者の割合は、いずれの国においても男性の方が高いが、特に日本は管理的職業に占める女性の割合が九・三%と他国と比較して著しく低い(第3図参照)。
<農業、林業及び漁業に従事する女性の状況>
 我が国の農業に従事する女性の数は二百二十二万七千人(平成九年)で、全農業就業人口の五六・七%を占めており、林業については一万四千人(平成七年)、漁業については五万一千人(平成九年)で、それぞれ全林業、全漁業就業人口の一六・六%、一八・三%を占めている。
<従業上の地位に大きな男女差のある日本の農林水産業従事者>
 各国の農・狩猟・林・漁業就業者の従業上の地位を男女別に比較すると、日本においては「無給の家族従業者」が約七一%を占める一方で、男性においては「使用者及び自営業者」が約七五%を占めるなど、他国と比べて男女間で従業上の地位に大きな差がみられる。
<女性の経営内での位置付けがあいまいな日本の農林水産業>
 農・狩猟・林・漁業及び全産業それぞれの就業者全体に占める女性の割合を一〇〇とした場合の、それぞれの「使用者及び自営業者」に占める女性の割合の値をみたところ、日本では、農・狩猟・林・漁業が三七・七と全産業の七二・二を大きく下回り、また、各国中最も低い値となっている。したがって、日本の農林水産分野では、女性の経営責任への関わり方からすると、女性の経営内での位置付けがその働きに見合ったものとなっていないことが推察できる。

2 男女の家庭・地域生活
<初婚は遅くなりつつあるが、婚姻率は高い我が国>
 各国の婚姻率(国によって一九九四(平成六)年から一九九六(平成八)年の数値)を比較すると、日本は六・四で、アメリカの八・九、韓国の七・一に次いで高くなっている。なお、日本の一九九八(平成十)年(推計)における婚姻率は六・三となっている。
 各国の女性の平均初婚年齢の推移をみると、日本を含め、各国とも平均初婚年齢は年々上昇している。欧州諸国では、近年初婚年齢の上昇のペースが、日本を上回って推移している。
<極めて低い我が国の婚外子の割合>
 我が国を含め、各国とも婚外子の割合は増加傾向にあるが、結婚を同居の前提とする者の多い日本では、婚外子の割合は一・四%(一九九七(平成九)年)であり、諸外国と比較すると依然非常に低い割合となっている。
<低い我が国の離婚率>
 各国の離婚率(国によって一九九四(平成六)年から一九九六(平成八)年の数値)を比較すると、我が国は一・六六(一九九六年)で、韓国の一・一九に次ぐ低さとなっている。
 しかし、日本の一九九八(平成十)年(推計)の離婚件数、離婚率はそれぞれ二十四万三千組、一・九四で、ともに過去最高を記録しており、離婚率については欧米の水準に近づきつつある。
<働く女性は、四十歳代前半に最も長時間労働になる>
 女性の有業者は、三十歳代になって仕事時間が減少し、家事及び育児時間が大きく増加するが、その後は、家事時間及び仕事時間とも増加する。その結果、無償労働と有償労働を加えた労働時間は四十〜四十四歳に九時間四十一分と最も長くなる(第4図参照)。一方、男性の有業者は、家事、育児及び介護の時間について女性ほど大きな変動はみられず、仕事時間の増減に対応して労働時間が変化している。

3 高齢男女の暮らし
<二〇〇〇年には世界最高水準に達する日本の高齢者人口の割合>
 日本及び諸外国の高齢者(六十五歳以上)人口割合の推移をみると、各国とも今後中長期的には高齢化が進展していくものと見込まれているが、中でも日本は高齢化が急速に進展し、高齢者人口の割合は二〇〇〇(平成十二)年には一七・二%と世界最高水準に達し、さらに二〇五〇(平成六十二)年には三二・三%になるものと予測されている。

4 景気停滞と女性
<若い男女と高齢男性で伸びている失業率>
 我が国の完全失業率は平成五年以降上昇傾向にあり、特に十年以降は男性で過去最高の四・五%、女性で四・四%にまで上昇するなど、男女とも高水準で推移している。
 平成元年から十年にかけての完全失業率の年齢階層別の変化をみると、若い年齢層の男女と高年齢層の男性で伸びている。
<国によって異なる女性パートタイム労働者の状況>
 各国のパートタイム労働者が全従業者に占める割合を男女別、年齢別にみると、男性は、各国とも同年齢層の女性と比較すると割合が低く、また、U字型を描いている。女性については、男性のものと同様にU字型を描く国(アメリカ合衆国、カナダ)と、W字型を描く国(日本、イギリス等)に大きく分けられる(第5図参照)。後者のような型となるのは、育児や家事等の家庭責任を担うことの多い三十歳代から四十歳代の女性が、パートタイム労働という就業形態を選択する割合が高くなっているためと考えられる。
<こづかいの使い方にみる男女の違い>
 平成六年の一か月間のこづかい消費支出全体の平均金額は、女性が男性を上回っており、特に世帯員で三十歳未満の女性は八万六千六百八十二円と、他と比較して高くなっている。
 費目別にみると、男性は食料、教養娯楽などに支出する金額が比較的高いのに対し、女性は被服及び履物、家具・家事用品、保健医療などに支出する金額が比較的高くなっている。
 平成元年と六年とで比較すると、女性は男性と比較してこづかい消費支出全体の増加率が高く、被服及び履物、保健医療やその他の費目でも実質増加率が伸びているものが多い。

第3章 女性の人権

1 女性に対する暴力
<強姦、強制わいせつ事件の状況>
 過去約二十年間の強姦、強制わいせつ事件の認知件数及び検挙件数をみると、強姦は、認知、検挙件数ともゆるやかな減少傾向がみられるが、強制わいせつについては、認知、検挙件数とも平成二年を底に増加傾向にある。
 平成九年に検挙された強姦事件一千四百五十三件のうち一千百九十四件(八二・二%)が単独犯による犯行であり、また、強制わいせつ事件三千七百四十件のうち三千六百四十九件(九七・六%)が同じく単独犯による犯行である。
<性犯罪の被害者と被疑者との関係>
 平成元年から九年に検挙された強姦事件、強制わいせつ事件のうち、面識のある者による犯行は、それぞれ全体の件数の約四分の一、約一割を占めている。
<強姦、強制わいせつ事件の認知の端緒>
 単独犯による人を死傷させるに至らなかった強姦及び強制わいせつ事件の場合、犯人の処罰を求めるためには「告訴」(注1参照)が必要であり、その持つ意味は大きい。強姦事件及び強制わいせつ事件の端緒(注2参照)として最も多いのは、両者とも「被害者・被害関係者の届出」であり、次いで「告訴」となっている。
(注1) 「告訴」とは、被害者から、捜査機関に対して犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める旨の意思表示を行うことであり、単に被害の事実を申告する「届出」とは異なる。
(注2) 認知の端緒の区分は、警察が当該事案の認知に係る統計原票を作成した段階での区分に基づくものであり、「被害者・被害関係者の届出」に計上された事案の中には、後日、告訴が行われたものも含まれる場合がある。
<「援助交際」への対応方法>
 警察が性の逸脱行為で補導・保護した女子少年は、近年、年間四千人から五千人に上っている。中でも、「遊ぶ金欲しさ」を動機とする性の逸脱行為で補導・保護される女子少年の増加が目立っている。
 「援助交際」など青少年による性の非行への対応方法については、二十歳未満の者では、男女とも「青少年と援助交際などをした大人を厳しく処罰する」を挙げた者の割合が最も高くなっている。また、二十歳以上の者では、女性では「親が、子どもに対し性に関する教育をきちんと行う」が、男性では「青少年と援助交際などをした大人を厳しく処罰する」が、それぞれ最も高くなっている。
 いずれの年齢層でも、男女とも「青少年と援助交際などをした大人を厳しく処罰する」を挙げた者の割合が高くなっており、いわゆる「援助交際」については、一方の当事者である大人への処罰の必要性を強く感じていることがうかがえる。
<女性の三人に一人が何らかの身体的暴力を受けている>
 夫やパートナーから暴力を受けた経験については、「何度もあった」及び「一、二度あった」を合わせた割合が最も高いのは、精神的暴力に分類される「何を言っても無視する」で、半数近くの女性が経験があるとしている。
 「押したり、つかんだり、つねったり、こづいたりする」や「平手で打つ」など、身体的暴力については、約三人に一人の女性が経験があるとしている。
<暴力について相談しようと思わなかった者の割合は四割>
 夫やパートナーから暴力を受けたことについては、約四割の女性が誰にも「相談しようとは思わなかった」としているが、「相談しなかった理由」をみると、「相談するほどのことではないと思った」が六五・五%で最も多く、次いで「自分にも悪いところがあると思った」(三五・一%)、「相談してもむだだと思った」(一六・八%)等の順となっている。

2 メディアにおける女性の人権
<インターネット上のわいせつな情報への対応の仕方について>
 日本及び諸外国の青年(十八歳から二十四歳までの男女)に対し、インターネット上のわいせつな情報に対する対応として必要なことについて聞いたところ、日本では「青少年自身に判断できる力をつけさせるべきだ」と答えた者の割合が最も多く、次いで、「政府が何らかの規制をすべきだ」となっている。
<ポルノ画像への許容度は男女間、親子間で差>
 インターネットでポルノ画像を見ることの是非を、高校生及びその親に聞いたところ、男女の比較では、男性(父親及び男子高校生)の方が「構わない」とする割合が高く、また、親子の比較では、「いけない」と答えた者の割合は父親、母親とも六割を超え、高校生を上回っている。

3 生涯を通じた女性の健康
<国際的にも低水準にある我が国の合計特殊出生率>
 一九九七(平成九)年の日本の合計特殊出生率は一・三九で、長期的にみると低下傾向にあり、先進諸国と比較すると、ドイツと並んで低い水準にある。
<国際的にも低水準にある我が国の乳児死亡率>
 一九九七(平成九)年の日本の乳児死亡率は、出生千人に対し死亡数三・七となっており、先進諸国と比較しても低い水準にある。
<周産期死亡率>
 日本の周産期死亡率は年々低下しており、一九九七(平成九)年には四・二(出生千対)となっているが、これは、先進諸国と比較しても低い水準である。
<妊産婦死亡率>
 日本の妊産婦死亡率は、一九八六(昭和六十一)年には一三・五(出生十万対)と、先進諸国と比べて相当高い水準にあったが、その後着実に低下を続け、一九九七(平成九)年には六・五と、諸外国とほぼ同じ程度の水準になっている。
<高い我が国の中絶割合>
 我が国の全妊娠(出生数と人工妊娠中絶数の和)に対する人工妊娠中絶数の割合は一九九七(平成九)年では二二・一%であり、先進諸国と比較して高い水準にある。
<我が国の避妊実行率は六割>
 我が国の避妊実行率(現在配偶者がある十五歳から四十九歳の女性のうち、何らかの避妊を実行している女性の割合)は約六割と、先進諸国に比べて低くなっている。特に、「近代的方法」(不妊手術、経口避妊薬、子宮内避妊具(IUD)、コンドーム及びペッサリー等、医療機関、薬局などで入手可能な方法)による避妊実行率は五三%と、調査対象国の中では低い水準にある。

4 男女共同参画を推進する教育・学習
<学校種類別進学率の推移>
 女子の高校への進学率は上昇しており、平成十年では九七・〇%となっている。また、平成十年の女子の大学(学部)への進学率は二七・五%と、短期大学への進学率二一・九%を上回っており、両者の差は開いてきている。
<高等教育で低くなる我が国女子の在学率>
 各国の大学学部以上(ユネスコの定義における第三教育段階)の男女別の在学率をみると、他の先進国では女子の方が在学率が高いのに対し、ドイツ、韓国、日本においては、女子の在学率は男子の在学率を下回っている。我が国の水準は、男女とも諸外国と比較して必ずしも高くはないが、女子は特に低い水準にある。
<低い我が国の高等教育の女性教員比率>
 我が国の全本務教員に占める女性の割合は、初等・中等教育(公立)においては四四・四%であり、高等教育における一五・三%を大きく上回っている。
 諸外国と比較すると、我が国の女性本務教員は、初等・中等教育及び高等教育のいずれにおいても諸外国よりも割合が低く、特に高等教育においては諸外国の水準を下回っている。

第2部 施策の推進

第1章 男女共同参画を推進する社会システムの構築

1 政策・方針決定過程への女性の参画の拡大
 男女共同参画推進本部は、国の審議会等の女性委員の割合について、平成八年五月二十一日に決定した「当面、平成十二年度末までのできるだけ早い時期に二〇%を達成する」という目標の実現に向けて、審議会等の委員への女性の登用に努めている(十年九月末現在一八・三%)。

2 男女共同参画の視点に立った社会制度・慣行の見直し、意識の改革
 労働省では、毎年四月十日から十六日までの一週間を「婦人週間」と定め、女性の地位向上のための広報・啓発活動を展開している。平成十年度は「婦人週間」が五十年目に当たるのを機に、名称を「女性週間」に改称して実施した。
 総務庁では、無償労働に関する統計に関し、国際動向を踏まえつつ、その概念・定義や把握方法等の検討を行うため、「アンペイドワーク統計研究会」を十年度から開催した。

第2章 職場、家庭、地域における男女共同参画の実現

1 雇用等の分野における男女の均等な機会と待遇の確保
 労働省では、改正男女雇用機会均等法等について、平成十一年四月からの全面施行に向けて、事業主、労働者をはじめ関係者に対し、周知徹底のための啓発活動を展開している。改正後の男女雇用機会均等法の概要及び労働基準法、育児・介護休業法の改正内容は次のとおり。
<改正男女雇用機会均等法の概要>
○ 募集・採用、配置・昇進・教育訓練、福利厚生、定年・退職・解雇について、女性に対する差別を禁止
○ 男女労働者の間に事実上生じている格差を解消するための企業の積極的な取組みを講ずる事業主に対し、国は相談その他の援助を実施
○ 紛争が生じた場合の企業内における苦情の自主的解決、女性少年室長による紛争解決の援助、機会均等調停委員会による調停による救済
○ 法の施行に関し必要な行政指導として助言、指導、勧告を規定
○ 職場におけるセクシュアルハラスメントを防止するための雇用管理上必要な配慮を事業主に義務づけ
○ 妊娠中及び出産後の女性労働者の健康管理に関する措置を事業主に義務づけ
<労働基準法の一部改正>
○ 女性の職域の拡大を図り、男女の均等取扱いを一層促進する観点から、女性労働者に対する時間外・休日労働、深夜業の規制を解消
○ 母性保護の充実の一環として、多胎妊娠の場合の産前休業期間を十週間から十四週間に延長
<育児・介護休業法の一部改正>
○ 労働基準法の女性労働者に対する深夜業の規制の解消に伴い、育児や家族の介護を行う一定範囲の男女労働者について、深夜業の制限の制度を創設

2 農山漁村におけるパートナーシップの確立
 農林水産省では、女性の社会参画の促進を図る等農山漁村におけるパートナーシップの確立を目指して各種施策を行ってきたが、平成十年十二月に、今後の食料・農業・農村政策推進に当たっての指針となる農政改革大綱、農政改革プログラム、さらには女性の農村への定着を目指す「アグリウェルカムプラン」を取りまとめたが、これらの中で、@女性の社会参画への農業・農村面における支援、A女性の農業関連起業活動への支援、B女性の能力開発と農業経営参画等への取組みの推進が明示された。

3 男女の職業生活と家庭・地域生活の両立支援
 多様な保育需要に即応した質の高い保育サービスが柔軟に提供されるよう、保育所に関する情報に基づき保護者が希望する保育所を選択する仕組みに改めること、放課後児童健全育成事業を児童福祉法上明確に位置づけること、児童家庭支援センターの創設による地域の相談支援体制の強化を図ることなどを内容とした児童福祉法の改正法が平成十年四月に施行された。
 労働省では、十一年四月一日からの介護休業制度の義務化に向けて、集団説明会及び個別指導を計画的に実施し、育児・介護休業の規則の規定例による介護休業制度、勤務時間の短縮等の措置の定着を促進している。
 文部省では、男女の協力による新しい時代の家庭像について考える機会として「フォーラム家庭教育」を開設しているほか、家庭教育に関する資料「家庭教育手帳」、「家庭教育ノート」を作成・配布している。
 経済企画庁は、「特定非営利活動促進法」(NPO法)(平成十年十二月施行)の普及に努め、国内及び海外の市民活動団体等の活動実態や制度に関する調査、分析を行うなど、ボランティア活動を促進するための環境整備を図っている。

4 高齢者が安心して暮らせる条件の整備
 厚生省は、平成七年度より新・高齢者保健福祉推進十か年戦略(新ゴールドプラン)を実施し、在宅福祉サービスの主な柱であるホームヘルプサービス、ショートステイ、デイサービス(いわゆる「在宅三本柱」)等について、大幅な拡充を図っている。
 郵政省では、十年度から、高齢者・障害者の様々な障害に対応できる通信・放送システムの研究開発を進めている。また、高齢者・障害者の就業、社会参画への機会を拡大するため、これらの人々が最適な環境でテレワークを行うことを可能とする「情報バリアフリー・テレワークセンター施設」の整備を推進している。

第3章 女性の人権が推進・擁護される社会の形成

1 女性に対するあらゆる暴力の根絶
 近年、「援助交際」と称する女子の性非行が深刻な状況にあることから、警察では、その温床となっているテレホンクラブ営業等に対する指導取締りや、相手方となる大人等に対する取締りを徹底するとともに、悪質な売春の誘引行為には厳正に対処している。さらに、被害少女に対する継続的な支援等を実施しているほか、少年の規範意識の啓発と非行防止の世論形成を目的とした広報啓発活動の推進に努めている。
 総理府は、平成十年十月、「女性に対する暴力の根絶を考えるフォーラム」を開催した。同フォーラムは、女性に対する暴力の根絶に向けて社会の意識啓発を図ること及び関係機関・団体等の連携に向けての気運を醸成することを目的としたもので、女性に対する暴力の問題に取り組んでいる専門家や関係者による講演、シンポジウム及び会場との意見交換が行われた。また、男女共同参画審議会女性に対する暴力部会の「中間取りまとめ」が同フォーラムで公表された。同部会では、関係機関・団体や専門家等から寄せられた情報を参考にしつつ更に調査審議を進めている。

2 メディアにおける女性の人権の尊重
 郵政省では、青少年と放送の在り方についての基本的態度、施策の方向性について検討を行うため、「青少年と放送に関する調査研究会」を開催し、平成十年十二月の報告において、青少年向けの放送番組の充実、放送時間帯の配慮、Vチップ等について提言した。各提言の早期具体化を図ることを目的に、郵政省、日本放送協会、(社)日本民間放送連盟が共同で十一年一月から「青少年と放送に関する専門家会合」を開催し、六月を目途に具体的導入方策を取りまとめる予定である。
 警察庁では、九年三月から「ネットワーク上の少年に有害な環境に関する調査委員会」を開催し、十年十月、その報告書がまとめられた。同報告書においては、コンピュータ・ネットワーク上の少年に有害な情報に対する総合的な対策に関する提言がなされている。

3 生涯を通じた女性の健康支援
 女性は、その身体に妊娠や出産のための仕組みが備わっているため、思春期・更年期等ライフサイクルを通じて男性とは異なる健康上の問題に直面する。厚生省では、こうした問題の重要性について男性を含め、広く社会全体の認識が高まり、積極的な取組みが行われるよう気運の醸成を図っている。
 文部省は、平成十年六月に各都道府県教育委員会等に対し、全中・高等学校において薬物乱用防止教室の開催など、指導の一層の徹底を図るよう事務次官依命通知を発出した。さらに、中・高校生用パンフレットの作成・配布や、薬物乱用防止教育を担当する教職員の研修等を実施しており、これらの施策を通して薬物乱用防止教育の推進を図っている。

4 男女共同参画を推進し多様な選択を可能にする教育・学習の充実
 文部省では、平成八年度より、青年男女を対象に、大学等の高等教育機関や生涯学習関連施設等を拠点に、「青年男女の共同参画セミナー」を実施し、男女が多様な役割を担い、自らの人生を主体的に選択し、展開していく能力の育成を図ることとしている。
 国立婦人教育会館では、教師のための生涯学習の一環として、平成九年度より「教師のための男女平等教育セミナー」を実施している。

第4章 地球社会の「平等・開発・平和」への貢献

 第四十二回国連婦人の地位委員会(一九九八年三月)は、「婦人の地位向上のためのナイロビ将来戦略」及び「北京行動綱領」の実施状況を検討評価するとともに、今後の行動・イニシアティブを検討するためのハイレベル・レビューを、二〇〇〇年六月にニューヨークで開催することを決定した。これを受けて我が国は、同会議の準備の過程において広く民間団体等との情報及び意見の交換その他の連携を図るため、平成十年十二月に、「女性二〇〇〇年会議日本国内委員会」の開催を男女共同参画推進本部長決定し、同委員会の初めての会合を平成十一年一月に開催した。

第5章 計画の推進

1 施策の積極的展開と定期的フォローアップ
 男女共同参画推進本部は、平成八年十二月に決定した「男女共同参画二〇〇〇年プラン―男女共同参画社会の形成の促進に関する平成十二年(西暦二〇〇〇年)度までの国内行動計画―」に基づき、総合的に諸施策を推進している。

2 調査研究、情報の収集・整備・提供
 総理府男女共同参画室では、インターネット上でホームページ「ジェンダー・インフォメーション・サイト」を開設し、国の男女共同参画社会の実現に関する取組みや関連データ等を、日本語及び英語で国内外に広く紹介・提供している。

3 国内本部機構の組織・機能強化
 平成十年六月に成立した中央省庁等改革基本法に基づき、中央省庁等改革による新たな体制への移行が開始されることとされており、その中で、内閣府に男女共同参画会議を設置することとされている。また、同法に基づき内閣に置かれている中央省庁等改革推進本部(本部長・内閣総理大臣、構成員・全国務大臣)において、新しく設置される内閣府に男女共同参画局(仮称)がおかれることが、十年十一月、本部長により決定され、本部において了承された。
 政府は、男女共同参画審議会からの答申を受け、男女共同参画社会基本法案について検討を行ってきたが、平成十一年二月二十六日、第一四五回国会に「男女共同参画社会基本法案」を提出した。

4 国、地方公共団体、NGOの連携強化、全国民的取組体制の強化
 総理府では、広く各界各層との情報・意見交換その他の必要な連携を図ることを目的として、平成八年九月より、男女共同参画推進連携会議(通称・えがりてネットワーク)を開催している。十年度は、全体会合を二回、企画委員会を二回開催しており、情報・意見交換を行ったほか、参加団体の目的、組織、事業概要、男女共同参画に関する活動状況についてまとめた資料集を作成した。


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消費支出(全世帯)は実質二・二%の減少


―平成十年平均家計収支―


総 務 庁


◇全世帯の家計

 全世帯の消費支出は、平成五年に実質減少に転じ、六年から九年にかけて実質減少が続いた後、十年は実質二・二%の減少となった。なお、消費支出の減少幅(実質二・二%減少)は、昭和四十九年(実質二・六%減少)に次ぐ減少幅であり、また、消費支出が実質で六年連続して減少となったのは、現行の調査開始(昭和三十八年)以来初めてである。

◇勤労者世帯の家計

 勤労者世帯の実収入は、平成七年以降三年連続の実質増加となったが、十年は実質一・八%の減少と、現行の調査開始(昭和三十八年)以来最大の減少幅となった。
 消費支出は、平成五年に実質減少に転じ、六年、七年と実質減少となった後、八年、九年は実質増加となったが、十年は実質一・八%の減少となった。なお、消費支出の減少幅(実質一・八%減少)は、昭和四十九年(実質二・四%減少)に次ぐ減少幅である。

◇勤労者以外の世帯の家計

 勤労者以外の世帯の消費支出は、一世帯当たり二十八万七千三百三十円。
 前年に比べ、名目二・一%の減少、実質二・八%の減少。












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原子力安全委員会


 平成十年版原子力安全白書は、第一編、第二編及び資料編から構成されており、第一編(特集編)では、原子力安全委員会(昭和五十三年発足)が昨年十月をもって二十周年を迎えたことを踏まえ、「原子力安全―この二十年の歩みとこれから―」をテーマとして、原子力安全委員会の発足以来の二十年間について、原子力安全委員会を中心とする安全規制体制のもとでの安全確保活動をとりまとめるとともに、原子力安全を巡る諸課題等を俯瞰しつつ、今後の原子力安全のあり方について紹介している。
 続く第二編では、原子力の安全確保の現状について実用発電用原子炉施設、核燃料施設などの分野ごとに詳述しているほか、原子力安全研究、環境放射能調査、国際協力等の安全確保への取組みを紹介している。
 また、資料編においては、原子力安全委員会に関する資料、原子力施設の運転状況などに関する各種資料等を掲載している。
 本白書の第一編の概要は以下のとおり。

第一編 原子力安全―この二十年の歩みとこれから―(特集)

―国民の信頼と期待に応え得る原子力安全を目指して―

はじめに

 原子力基本法の制定により我が国の原子力開発利用が始まって以来、およそ四十年余りの歳月を重ねた。原子力の開発利用にあたっては安全確保が大前提であることはいうまでもないが、この四十年余りにわたる我が国の原子力開発利用の歩みはそのまま安全確保に向けた努力の積み重ねの歴史といってよい。
 この歴史の中で、一九七八年(昭和五十三年)十月、原子力に関する安全確保体制の充実強化という役割を担って誕生した原子力安全委員会(以下、安全委員会という)は、一九九八年(平成十年)十月をもって発足二十年の節目を迎えた。
 安全委員会発足後のこの二十年の間、実用発電用原子炉の運転基数だけをみても、十九基から五十一基へと拡大するなど、原子力の開発利用は大きく進展した。この過程で、我が国においても、原子力の安全確保を巡る諸問題が少なからず起こったが、厳重な安全規制による安全確保と原子力の開発利用の発展に携わる関係者の努力があいまって、その解決をみた一方、新たに生じた問題に対しては、これに回答を与える真摯な努力が続けられている。このような中で、安全委員会はその課せられた重要な責務を適切に果たしてきたものと考えているが、もんじゅ事故に際して表明したように反省すべき点もあり、この発足二十年の節目を迎え、安全確保のためには不断の努力が必要であるとの認識の下、引き続き原子力の安全確保に全力を尽くしていくとの決意を新たにしたところである。
 折しも、現在行政改革が進められており、国の原子力の安全規制体制も変更されようとしている。この中で、安全委員会は、中央省庁等改革基本法(一九九八年(平成十年)六月)において、各省より一段高く位置づけられる内閣府に置かれ、「その機能を継続する」とされている。これを踏まえつつも、近年発生した一連の事故・不祥事によって原子力に対する不信感、不安感が高まり、安全委員会の機能強化を求める声が強まっていることを考えれば、原子力の安全確保の「かなめ」としての安全委員会の役割は、より一層重要性を増している。
 本白書では、安全委員会発足二十年という節目に当たり、原子力の安全確保を巡る諸問題に関して、この二十年間を総括するとともに、今後の安全確保に向けた諸課題を明らかにし、安全委員会に与えられた原子力の安全確保に関する包括的な責任を全うするために、今後何をなすべきかを示すよう努めた。

第一章 原子力安全のこの二十年の歩み

 本章では、安全委員会が発足して以来の二十年間にわたる我が国の原子力安全の歩みを振り返り、安全確保のための努力がいかに積み重ねられてきたかを総括する。
 第一節では、我が国の原子力開発利用における安全確保体制の大きな転換点となった、行政から独立し、国民の立場に立つ安全委員会の発足と安全規制行政の一貫化について述べる。第二節では、安全確保の「かなめ」としての安全委員会を中心として、我が国の原子力の安全確保がどのように展開されてきたのか、いかなる問題が生じたのか、そしていかなる成果が得られてきたのかについて述べ、原子力の開発利用の大幅な進展に応じつつ、環境に有意な影響を及ぼすような事故を起こすことなく、国際的にみても高い安全水準を達成してきたが、事故や不祥事などの問題が発生し、未だ国民の不安を払拭し切れていないなど、一層の努力を要する面があるとの認識を示す。

第一節 安全委員会の発足

一 原子力安全規制体制の構築

 (一) 安全委員会の設置以前の動き
 我が国の原子力開発利用の始まりは、安全委員会が設置されるよりさらに二十年以上前、昭和三十年代であり、この時期に我が国の原子力開発利用の基本的枠組みが整備された。一九五五年(昭和三十年)に、原子力基本法等の関係法令が制定され、翌三十一年には原子力委員会が設置された。また、一九五七年(昭和三十二年)には、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(以下、原子炉等規制法という)「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」が公布された。
 昭和四十年代は、原子力発電の実用化が本格化した時期に相当する。また高速増殖炉(FBR)や新型転換炉(ATR)など新型動力炉、ウラン濃縮や再処理などの核燃料サイクルに関する自主技術の確立を目指して研究開発が本格的に開始された時期でもある。
 昭和五十年代は、新型動力炉開発の分野においては、高速実験炉「常陽」が一九七七年(昭和五十二年)に、新型転換炉「ふげん」が一九七八年(昭和五十三年)にそれぞれ初臨界を迎え、また東海再処理施設の試運転が一九七七年(昭和五十二年)に開始されるなど、原子力の開発が幅広い分野に拡大した時代であった。同時に、我が国の基幹エネルギーと位置づけられた原子力発電の信頼性を向上させ、一層の安全確保を目指す努力がなされた。

 (二) 安全委員会の設置
 一九七四年(昭和四十九年)九月、原子力船「むつ」において放射線漏れが起こったことから、原子力の安全性に対する国民の不安感が増大し、国の原子力安全確保体制、ひいては原子力行政全般に対する国民の不信を招くこととなった。
 このような情勢を背景に、一九七五年(昭和五十年)二月、内閣総理大臣のもとに原子力行政懇談会(座長:有澤広巳東京大学名誉教授)が開催され、原子力開発利用をめぐる全般的な行政体制の見直しが行われた。
 原子力行政懇談会は、一九七六年(昭和五十一年)七月、原子力行政体制の改革、強化に関する意見をとりまとめ、内閣総理大臣に提出した。この中で、
@ 原子力安全確保体制を強化するため、原子力委員会の機能のうち、安全確保に関する機能を分離し、これを所掌する安全委員会を新たに設置するとともに、同委員会が行政庁の行う安全審査をダブルチェックすること
A 原子炉の安全確保に関する行政庁の責任の明確化を図るため、実用発電用原子炉については通商産業大臣、実用舶用原子炉については運輸大臣、試験研究用原子炉及び研究開発段階にある原子炉については内閣総理大臣がそれぞれ一貫して規制を行うこと
B 国民の安全性に対する不安を払拭し、原子力開発に対する理解と協力を得るため、国は公開ヒアリングやシンポジウムを開催するなどの施策を講じるべきこと
等が提言された。
 政府は、この意見を踏まえ、一九七七年(昭和五十二年)二月に安全委員会の設置と原子炉の安全規制の一貫化を主たる内容とする「原子力基本法等の一部を改正する法律案」を国会に提出した。この法案は、国会審議の過程において、原子力基本法の基本方針の規定に「安全の確保を旨として」との文言を盛り込むとともに、原子力委員会と安全委員会からの報告に対する内閣総理大臣の尊重義務規定を「十分に尊重しなければならない」とするなど、法文修正が行われた後、一九七八年(昭和五十三年)六月に成立した。
 こうして一九七八年(昭和五十三年)十月四日、吹田徳雄(大阪大学名誉教授)氏を初代委員長として安全委員会が発足し、国民の立場に立って、科学技術的知見を拠り所として総合判断を行い、行政とは一線を画して原子力の安全確保に万全を期していくとの基本理念に基づく活動を開始した。
 新たに発足した安全委員会は、原子力の安全確保に関することについて企画し、審議し及び決定することとされ、その組織は、内閣総理大臣が国会の同意を得て任命する学識経験者の委員五名で構成されることとされた。
 また、内閣総理大臣は、安全委員会の決定を十分に尊重しなければならず、同委員会が必要と認めるときは、内閣総理大臣を通じて関係行政機関の長に勧告することができるなど他の審議会に比べて格段に強い権限が与えられており、この意味において、先に述べた原子力行政懇談会の意見に沿って、安全委員会は内閣総理大臣の単なる諮問委員会にとどまらず、原子力安全行政体制における中心的役割を担うこととなった。

二 安全委員会の活動の基本方針

 安全委員会は、任務遂行に当たっての基本方針を、一九七八年(昭和五十三年)十二月に定め、この基本方針に基づき、次節に述べるように、我が国の原子力の安全確保体制における「かなめ」の機関として安全確保のための諸施策を講じてきており、この基本方針は、二十年を経た現在においても堅持されている。

 (一) 安全審査及び指針類の整備
 安全委員会は、開発推進の任にもある行政庁とは異なる独自の立場から、行政庁の安全審査結果を再審査(ダブルチェック)するとともに、それぞれの行政庁の安全規制を統一的に評価することとした。安全委員会が行うダブルチェックは、対象となる原子力施設に関する安全上の重要事項を中心に行うこととしており、主として安全委員会の下部機関である審査会において、厳正な審査を行ってきた。
 また、安全審査の合理性、客観性を高めるとともに、行政庁間の安全規制の斉一化を図るために、最新の科学技術の知見を取り入れて指針類を整備していくこととしており、これらの定められた指針類には、最新の知見や経験の蓄積を踏まえて、適時に見直していく旨が明示されている。

 (二) 安全研究の推進
 原子力施設の安全規制を行うにあたり、常に最新の科学技術の成果を取り入れ、審査に反映させていくことの重要性にかんがみ、原子力安全研究年次計画を策定して安全研究を総合的かつ計画的に推進すると同時に、研究成果の評価及び活用を積極的に行っていくこととした。このため、安全委員会は、発足直後の一九七九年(昭和五十四年)一月、原子力施設等安全研究専門部会及び環境放射能安全研究専門部会を設置した。また、放射性廃棄物分野の安全研究の充実を図るため、一九八二年(昭和五十七年)十一月には放射性廃棄物安全技術専門部会(現在、放射性廃棄物安全規制専門部会)の審議事項を拡充して安全研究の計画を策定させることとし、それぞれの部会において原子力施設、環境放射能、放射性廃棄物の三分野にわたる幅広い安全研究を推進し、成果の評価を行う現在の体制に至っている。

第二節 安全委員会を中心とした安全確保活動

一 原子力施設の安全確保

 (一) 軽水炉による発電の信頼性向上
 (一―一) 発電用軽水炉に関する指針の策定
 我が国の原子力の安全確保、特に実用発電用原子炉の安全性を確保するための立地・設計上の基本的考え方は、多重防護、ALARAの原則及び基本的立地条件である。この基本的な考え方を踏まえて、安全審査を客観的かつ合理的なものとするため、目的に応じて指針が策定されている。
 (一―二) 設置許可時の安全審査
 発電用軽水炉については、一九七八年(昭和五十三年)の原子力安全規制体制の再編により、原子炉等規制法に基づいて通商産業省(以下、通産省という)が安全審査 (一次審査) を行い、これを安全委員会がダブルチェックすることとされた。
 安全委員会は、前述した指針類に基づいて、通産省が行った審査のダブルチェックを厳正に行ってきた。関西電力(株)高浜発電所三、四号炉の増設に関して最初の答申を行って以来、二十七基の発電用軽水炉の新増設及び施設の変更に際しては、安全性が十分に確保できるかを厳正に確認してきた。
 (一―三) 信頼性の向上
 安全委員会による指針類の策定とこれを踏まえた所要の法令、基準の整備による安全規制のもとで、事業者において少なからぬ努力がなされ、発電用軽水炉の安全性は着実に向上してきた。発電用軽水炉の安全性を評価する上で極めて重要な信頼性を定量的に示すデータとして、事故・故障の件数や設備利用率が挙げられる。我が国の事故・故障の報告件数は、二十年前の約一件/基に比べ、近年は〇・二〜〇・四件/基程度と極めて低いレベルで推移しており、設備利用率はここ十年をみても、おおむね増加の傾向にあり、近年は国際的にも極めて高い水準を維持している。
 (一―四) 放射線業務従事者の被ばく低減
 我が国の原子力施設における放射線業務従事者の放射線被ばくについては、被ばく線量を法令で定める限度(現行では、年間五十ミリシーベルト以下)を下回るようにすることはもちろん、一般公衆の場合と同様、合理的に達成可能な限り低くするように努めること(ALARAの原則)が必要である。
 放射線業務従事者の被ばく管理については、一九七七年(昭和五十二年)、(財)放射線影響協会に放射線従事者中央登録センターを設置し、以来一元的に被ばく管理が行われている。我が国の原子力施設全体における放射線業務従事者の被ばく状況の推移については、一人当たりの平均被ばく線量はこの二十年間に半分以下になっており、全体としても減少傾向にある。

 (二) 核燃料サイクルの技術開発の進展と事業化への対応
 昭和四十年代において、新型動力炉の開発を中核とする核燃料サイクルの確立が国の基本方針として定められ、関連の研究開発や施設の建設が進められてきた。安全委員会は、これらを踏まえつつ、核燃料サイクル事業が本格化していくことを念頭におき、新型動力炉や核燃料サイクル施設の安全審査に用いる指針類の整備を進めてきた。また、科学技術庁は、所要の法令整備とともに、当該法令に基づいて厳格な安全規制を行ってきた。
 (二―一) 再処理施設の建設、運転における安全確保
 我が国の原子力政策は、使用済核燃料を再処理してウラン、プルトニウムを取り出し、再び燃料として利用する核燃料サイクルの確立を基本方針としている。
 我が国における商業規模の再処理は、旧動燃がフランスから技術を導入して東海再処理施設を建設したことに始まる。同施設は、一九七七年(昭和五十二年)の試運転以降、再処理施設特有の機器におけるトラブルを経験しながらも、それらを克服しつつ、運転を行い、処理実績を積んできた。
 安全確保の観点からは、再処理施設では放射性物質の閉じ込めに加え、核燃料等の臨界を防止する対策が中心となるなど、異なる安全確保の考え方が求められる。安全委員会は、一九八六年(昭和六十一年)二月に「再処理施設安全審査指針」を策定した。
 この指針に基づいて、日本原燃(株)六ヶ所再処理施設の安全審査が行われ、一九九二年(平成四年)十二月事業指定がなされ、現在建設中である。
 (二―二) 新型炉の開発における安全確保
@高速増殖炉
 高速増殖炉は、高速実験炉「常陽」が一九七七年(昭和五十二年)に臨界を達成して順調に安全運転を重ねてきた。
 安全委員会は、一九八〇年(昭和五十五年)十一月「高速増殖炉の安全性の評価の考え方について」を決定し、高速増殖原型炉施設の安全性を評価する際の基本的考え方を示した。この考え方においては、軽水炉に関する安全審査指針のうち、高速増殖炉にも適用できるものに加え、高速増殖炉の特徴から特別の配慮が必要な事項を明示した。続けて、一九八一年(昭和五十六年)七月、安全委員会は、高速増殖炉開発の進捗に対応して、「プルトニウムを燃料とする原子炉の立地評価上必要なプルトニウムに関するめやす線量について」を策定した。
 これらの指針をもとに安全審査が行われ、一九八三年(昭和五十八年)五月にもんじゅの設置許可がなされ、一九九四年(平成六年)四月に臨界に達した。
A新型転換炉
 新型転換炉は我が国独自の技術で開発された重水炉であり、原型炉「ふげん」が一九七八年(昭和五十三年)五月、初臨界を達成し、おおむね順調な運転経験を積んできたが、経済性の悪化等により、一九九五年(平成七年)八月、原子力委員会は同計画の中止を決定した。
 (二―三) 軽水炉におけるプルトニウム利用への対応
 安全委員会は、軽水炉にMOX燃料を装荷することに係る安全審査の際の基本的考え方を作成する観点から、炉心装荷率が三分の一までの軽水炉を対象とした報告書「発電用軽水型原子炉に用いられる混合酸化物燃料について」を一九九五年(平成七年)六月に、さらに報告書「『プルトニウムを燃料とする原子炉の立地評価上必要なプルトニウムに関するめやす線量について』の適用方法などについて」を一九九八年(平成十年)十一月にとりまとめた。
 また、電源開発(株)が青森県に計画中の大間発電所は、全炉心にMOX燃料を装荷するABWR(以下、フルMOX―ABWRという)を予定している。この計画を念頭に置いて、通産省は、「混合酸化物燃料を全炉心に用いる改良型沸騰水型原子炉について」を一九九八年(平成十年)六月にとりまとめ、安全委員会に報告した。この報告書では、MOX燃料の特性を適切に取り込めば従来の軽水炉の安全設計手法、安全評価手法が適用可能であるとしている。安全委員会においては、この報告書の妥当性を含め、原子炉安全基準専門部会においてフルMOX―ABWRの安全設計手法、安全評価手法等について調査審議を行っているところである。
 (二―四) 放射性物質の輸送における安全確保
 放射性物質の輸送の基本となる我が国における現行の安全基準は、IAEAの放射性物質安全輸送規則(一九七三年版)に基づいて当時の原子力委員会が作成した「放射性物質等の輸送に関する安全基準について」(昭和五十年一月)をもとに、総理府令及び運輸省令により具体的に定められている。その後、放射性物質の輸送に関する安全基準、安全評価、安全対策に関する事項等を調査審議するため、安全委員会は放射性物質安全輸送専門部会を一九七八年(昭和五十三年)十二月に設置し、IAEA輸送規則(一九八五年版)の国内法令への取入れ等について検討、所要の見直しを行うなど輸送の安全確保における国際的な動向との整合性を取って安全確保を図ってきている。
 なお、一九九八年(平成十年)十月、使用済燃料輸送容器のデータ改ざん問題が発覚し、大きく報道されるなど社会問題となり、原子力に対する不信感を高めることとなった。安全委員会は、一九九八年(平成十年)十二月、この問題に関して委員長談話を発表し、関係者に対してセイフティカルチャーの醸成や再発防止に向けた努力を求めた。
 (二―五) 使用済燃料の中間貯蔵に関する取り組み
 今後の使用済燃料貯蔵量の増加に的確に対応するため、原子力発電所の敷地外における貯蔵について、科学技術庁、通産省及び総合エネルギー調査会原子力部会において検討が行われた。これらの検討を踏まえ、現在、使用済燃料の貯蔵の事業に係る関係法令の整備を進めることとして、原子炉等規制法の改正案が国会に提出され、審議が行われているところである。安全委員会としても、中間貯蔵施設の安全確保に関し適用すべき基本的考え方について検討を進めていくこととしている。

 (三) 放射性廃棄物の処理・処分への対応
 原子力施設から発生する放射性廃棄物は、再処理の過程で分離される高レベル放射性廃棄物とその他の低レベル放射性廃棄物とに大別される。
 低レベル放射性廃棄物は、原子力施設及び放射性同位元素を使用する施設から発生する。一方、高レベル放射性廃棄物は、再処理施設において、使用済燃料からウランやプルトニウムを分離する過程で発生し、核分裂生成物を多く含んだ濃縮廃液及びこれをガラス固化した固化体として存在する。
 (三―一) 低レベル放射性廃棄物の処理・処分
 安全委員会では、放射性廃棄物安全規制専門部会において、それまでの安全研究の成果などを踏まえ、一九八五年(昭和六十年)十月、報告書「低レベル放射性固体廃棄物の陸地処分の安全規制に関する基本的考え方について」をとりまとめた。これを受けて、安全委員会は、同報告の内容に沿って安全規制を行うべきであるとの方針を決定した。一九八六年(昭和六十一年)五月には、この決定に従って原子炉等規制法が改正され、低レベル放射性廃棄物の処分事業に関する規制体系が整備された。
 さらに安全委員会は、一九八七年(昭和六十二年)二月に「低レベル放射性固体廃棄物の陸地処分の安全規制に関する基準値について(中間報告)」を、一九八八年(昭和六十三年)三月には「放射性廃棄物埋設施設の安全審査の基本的考え方」をそれぞれ取りまとめた。
 これらの基本的考え方に従い安全審査を経て、日本原燃(株)により、青森県六ケ所村において低レベル放射性廃棄物の埋設事業が進められている。
 (三―二) 高レベル放射性廃棄物の貯蔵管理
 我が国における高レベル放射性廃棄物の処理処分に関しては、最終的には人間の生活圏から隔離することが必要との考え方に基づき、安定した形態にガラス固化し、三十〜五十年間程度冷却のために一時貯蔵した後、地下の深い地層中に安全に処分(地層処分)することを基本方針としている。
 安全委員会は、一九八九年(平成元年)三月、高レベル放射性廃棄物等の管理に関する安全性を評価する際の考え方を「廃棄物管理施設の安全性の評価の考え方」として決定した。現在、この考え方に従って、関係法令に基づく科学技術庁の審査及び安全委員会のダブルチェックを経て、日本原燃(株)が高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターを操業しており、ガラス固化体が三十年から五十年間、冷却のために貯蔵されることとなっている。

二 安全研究の推進

 原子力施設の安全確保は、原子力の開発利用上、必要不可欠であり、このため、安全性試験研究も開発研究の一環として原子力の開発当初から積極的に進められてきた。一九七八年(昭和五十三年)の安全委員会の設置を契機に、「ダブルチェック」など原子力施設の安全規制体系の刷新とあわせ、原子力安全研究の積極的推進が基本方針として決定された。
 安全委員会は、発足後直ちに原子力施設等安全研究専門部会、環境放射能安全研究専門部会、後に放射性廃棄物安全技術専門部会(現在の放射性廃棄物安全規制専門部会)を設置して、それまで原子力委員会のもとで進められてきた原子炉に係る安全研究計画(昭和五十一〜五十五年度)を統合して研究の成果の評価と活用を図ってきている。
 この安全研究年次計画は、五ヵ年計画としてこれまで四次にわたって策定され、現在は第四次計画(平成八〜十二年度)に基づいて安全研究が総合的、計画的に推進され、安全裕度の定量的な把握に活用するとともに、最新の技術的知見を指針類に反映するよう努めてきている。

三 国民との積極的な対話の推進

 国民の立場に立って安全規制行政に意見を述べていくという安全委員会の役割からすれば、国民との対話に積極的に努め、国民の意見を安全規制行政に反映していくことが不可欠である。この観点から、安全委員会は発足以来、公開ヒアリング等の開催に取り組むとともに、近年においては、原子力安全に対する国民の不安は払拭し切れていないとの認識等の下に、意見の募集等による国民の意見の把握や会議の議事及び資料の公開等による意思決定過程の透明性の向上等を目指した情報公開、対話の推進に積極的に取り組んできた。
 安全委員会として、情報公開に関連した施策を政府の他の審議会や行政庁に先駆けて実施しているのは、これらの施策が国民の理解を得る上で極めて重要な貢献をすると考えているからであり、引き続き国民の原子力安全に対する信頼感の醸成に不可欠の取り組みとして一層推進しているところである。

 (一) 公開ヒアリング等の開催
 安全委員会は発足に際して、主要な原子力施設のダブルチェックに当たって、その原子炉固有の安全性について地元住民の意見等を汲み取り、安全審査に参酌することを目的として、公開ヒアリングを開催する方針を定めた。(一九九八年(平成十年)末現在、二十三回開催)
 また、安全委員会は、原子力全般に共通する安全性に関する基本的問題等についての公開シンポジウムを開催する方針も定めており、これを受けて、一九七九年(昭和五十四年)十一月には、TMI事故をテーマに公開シンポジウムを日本学術会議と共同で開催した。また、年に一回程度公開で国際シンポジウムを開催しており、原子力安全と国際動向の理解促進を図ってきた。シンポジウム等の開催に当たっては、その時点における国民の関心が高いトピックを取り上げており、国民の意見を直接聴取して把握するとともに、安全委員会の考え方について理解を得るうえで貢献してきたものと考える。

 (二) 情報公開施策の展開
 安全委員会の活動については、定期的に原子力安全白書や安全委員会月報としてとりまとめ公表するとともに、委員会決定、見解、委員長談話などとして必要に応じてその都度安全委員会の考えを明らかにしてきた。これらに加え、もんじゅ事故等を機に、原子力安全に関する意思決定過程の透明性の向上などを目的として、一九九六年(平成八年)十二月に「原子力安全委員会における情報公開について」を決定し、本委員会や専門部会等会議の議事、資料の公開、主要な安全審査案件や専門部会報告書に対する意見募集など情報公開関連の施策をとりまとめ、情報公開を進めた。この施策については、さらにその後の実績を踏まえて、公開対象の会議を拡大するなどして、一九九八年(平成十年)四月に「原子力安全委員会の情報公開等の推進について」を決定し、情報公開の推進、対話の推進に努めている。

四 国際協力の推進

 「原子力安全に国境はない」との考え方は、一九八六年(昭和六十一年)のチェルノブイリ原子力発電所四号炉事故(以下、チェルノブイリ事故という)により、一層強く認識されることとなった。我が国では、統一的な安全基準の策定、国際協力による安全研究の推進など国際協力の重要性は原子力開発の当初から認識されており、国際協力が進められてきた。
 我が国における原子力安全に関する国際協力としては、国際原子力機関(IAEA)、経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)などの国際機関を通じた多国間協力と、米国、フランス等との二国間協力による情報の交換などの活動がある。また、特に近年は国際協力の対象が、欧米先進諸国のみならず、アジアを中心とした国にも広がるなど、協力関係が進展、多様化してきており、このような活発な国際協力活動に対応して、国内関係機関の意見集約や情報流通の促進が図られている。

五 国内外の事故への対応

 (一) 国外の主な事故
 原子力の開発利用の歴史において、極めて残念ではあるが、世界は大きな二つの事故を経験している。それは、米国スリーマイルアイランド原子力発電所二号炉の事故(以下、TMI事故という)と旧ソ連チェルノブイリ原子力発電所四号炉の事故であり、IAEAが示している原子力施設の事象の国際評価尺度(INES)によれば前者はレベル五、後者は最高レベルの七とされている。安全委員会は、これらの事故に対し、現地に安全委員等を派遣するなどして、その原因究明、再発防止対策等の所要の検討を行い、原子力施設の安全性の向上に役立ててきた。

 (二) 国内の主な事故
 我が国では、環境に有意な影響を及ぼすような事故はこれまで皆無であるが、関西電力(株)美浜発電所二号炉における蒸気発生器伝熱管損傷事故(INESレベル二。以下、美浜事故という)、高速増殖原型炉もんじゅ二次系ナトリウム漏えい事故(同レベル一。以下、もんじゅ事故という)、東海再処理施設アスファルト固化処理施設における火災爆発事故(同レベル三。以下、アスファルト施設事故という)等を経験している。これらの事故については、徹底した原因究明と再発防止対策が重要であることはもちろんのこととして、事故から得られた教訓を安全確保対策に的確に反映していくことが重要であると考え、安全委員会としても事故調査結果を報告書等としてとりまとめて公表するとともに、安全確保対策の向上を図ってきた。

六 原子力防災対策の整備

 原子力発電所等については、従来から厳重に安全規制がなされてきているが、それでもなお万一の場合に備え、災害対策基本法の法体系のもと、放射性物質の大量の放出による影響をできる限り低減するための対策を講じることとされている。
 一九七九年(昭和五十四年)のTMI事故は、結果的には放射線被ばくの面からは周辺住民の退避措置は必要なかったものと評価されているが、原子力防災対策の充実を要請する契機となった。安全委員会は、事故直後、我が国における原子力防災対策の強化を図るべきであるとする委員会決定を行い、内閣総理大臣はこれを踏まえて、閣議において原子力施設に係る防災体制の再点検を指示し、防災体制の見直し、整備の作業が開始された。これらの検討結果により、内閣総理大臣を会長とする中央防災会議において一九七九年(昭和五十四年)七月「原子力発電所等に係る防災対策上当面とるべき措置について」が決定され、原子力防災対策の充実が図られた。また、安全委員会においては、一九七九年(昭和五十四年)四月に、原子力発電所等周辺防災対策専門部会を設置し、原子力施設周辺の防災活動のより円滑な実施を図るために必要な専門的事項について調査審議を行わせることとした。また、万一の場合に国に対して技術的助言を行うため、緊急技術助言組織を設置した。原子力発電所等周辺防災対策専門部会は、TMI事故の教訓として摘出された五十二項目のうち、防災関係の十項目を踏まえて調査審議を行い、その調査審議結果を受けて、安全委員会は、一九八〇年(昭和五十五年)六月に「原子力発電所等周辺の防災対策について」を決定した。

第二章 国民の信頼と期待に応え得る原子力安全を目指して

第一節 原子力安全を巡る諸課題への対応

一 総合的課題

(一) 「安全目標」の策定
 原子力の分野においては、「どの程度安全であれば十分に安全といえるのか(How safe is safe enough?)」ということが繰り返し問われてきたが、原子力発電や核燃料リサイクルといった活動によって発生するリスクを定量的に示し、どこまでなら許容されるかを示す、いわゆる「安全目標(Safety Goals)」について、他の社会的活動等のリスクも念頭におきつつ、総合的な視野から検討することが重要である。国際的には、IAEA国際原子力安全諮問グループ(INSAG)がとりまとめた報告書「原子力発電所のための基本安全原則 (Basic Safety Principles for Nuclear Power Plants)」の中において、安全目標として、シビアアクシデント(炉心損傷)の発生確率として既設炉は十―四/炉年以下(新設炉は十―五/炉年以下)とする定量的な目標を示していることが注目される。また、米、仏等においては、これらに類する定量的な目標を含めた安全目標を定めている。我が国においては、次項に述べるように、シビアアクシデントに関する検討において、その発生確率はINSAGが示した値を下回っていることなどが確認されているものの、明示的な安全目標を示すに至っていない。安全委員会としては、今後、各国の動向やPSAの研究成果も踏まえつつ、総合的な視野に立って安全目標の策定に向けた検討を進めていく。

 (二) シビアアクシデント対策
 我が国の原子力発電所の安全性は、設計、建設及び運転の各段階において、厳格な安全確保対策を行うことにより十分確保されており、これによってシビアアクシデントが現実に発生するとは考えられないほど発生の可能性は十分小さいものとなっている。
 しかしながら、安全委員会は、このように低いリスクをさらに一層低減するため、一九九二年(平成四年)五月に「原子炉設置者において効果的なアクシデントマネージメントを自主的に整備し、万一の場合にこれを的確に実施できるようにすることは強く奨励されるべきである」などとする委員会決定を発表した。
 この安全委員会決定を受け、一九九四年(平成六年)十月には、当時運転中及び建設中であった五十一基の原子力発電所に対するアクシデントマネージメントの整備について、原子炉設置者及び通産省による検討結果が安全委員会に報告された。
 安全委員会は、原子炉安全総合検討会において、上記報告書を踏まえ、検討を行い、一九九五年(平成七年)十二月に安全委員会として「軽水型原子力発電所におけるアクシデントマネージメントの整備について」をとりまとめた。今後とも、安全委員会としては、シビアアクシデントについて、最新の知見を踏まえつつ、アクシデントマネージメントに関する施策について必要に応じて行政庁から報告を受けるとともに、所要の検討を行っていく。

 (三) セイフティカルチャーの醸成
 セイフティカルチャーは、「原子力の安全問題に、その重要性にふさわしい注意が必ず最優先で払われるようにするために、組織と個人が備えるべき一連の気風や気質」とされており、施設の設計から運転に至るまで一貫して安全確保を支える根本理念の一つである。特に近年では旧動燃の一連の事故等が起きたことを踏まえると、セイフティカルチャーの醸成に向けた一層の取り組みが不可欠であると痛感せざるを得ない。安全委員会としては、これまでセイフティカルチャーをテーマとして国際シンポジウムを開催するとともに原子力安全白書(平成六年版)においてセイフティカルチャーを特集するなどその重要性を訴え、浸透を図ってきた。安全委員会としては、今後とも、あらゆる機会を通じてセイフティカルチャーの重要性を訴えていくこととしている。

二 放射性廃棄物の処分に係る安全基準等の整備

 (一) クリアランスレベルの設定への取り組み
 安全委員会は、一九八五年(昭和六十年)にクリアランスレベルの基本となる考え方を示したが、具体的なレベルについての結論は得られていなかった。原子力利用に伴う廃棄物等の安全かつ合理的な処理、処分及び再利用が行われるためには、クリアランスレベルの設定を行う必要があり、このため一九九七年(平成九年)五月から放射性廃棄物安全基準専門部会において、クリアランスレベルの具体的数値を算出するため、調査審議を行ってきた。同専門部会は、報告書案「主な原子炉施設におけるクリアランスレベルについて」を一九九八年(平成十年)十二月にとりまとめ、安全委員会に報告した。安全委員会としては、一般からの意見募集を行ったうえで、確定する本報告書を踏まえて、クリアランスレベルに関する制度化の方針を検討していくこととしている。

 (二) 高レベル放射性廃棄物の処分への取り組み
 安全委員会では、安全研究の成果を踏まえつつ、原子力委員会原子力バックエンド対策専門部会でとりまとめられた報告を受けて、放射性廃棄物安全規制専門部会において、高レベル放射性廃棄物の処分に係る安全規制の基本的考え方について調査審議を行っている。今後、慎重に調査審議を行い、国民の意見を反映するなど所要の手続きを経て、まず安全規制の基本的考え方を示すこととし、順次、立地条件、安全設計、安全評価等に関する具体的な指針類を策定していくこととしている。

 (三) RI・研究所等廃棄物等の処理・処分への取り組み
 低レベル放射性廃棄物のうち、病院・大学・研究機関等から発生するRI・研究所等廃棄物、原子力発電所等から発生する現行の政令濃度上限値を超える低レベル放射性廃棄物(炉内構造物、使用済制御棒等)については、原子力委員会原子力バックエンド対策専門部会において、処分方策の基本的考え方がそれぞれ一九九八年(平成十年)五月、同年十月に報告書としてまとめられており、安全委員会にも報告された。安全委員会では、この報告書を受けて、処分事業に関するスケジュールを踏まえつつ、現在、安全規制の基本的考え方について調査審議を行っているところであり、順次具体的な指針類の策定を進めていくこととしている。

三 原子力防災対策の一層の実効性向上

 前述のように、原子力防災対策については、円滑な防災対策の実施のための一定の法的枠組みと体制はすでに整っているといえる。しかしながら、近年の一連の事故や原子力施設の立地自治体を中心とした原子力防災対策の充実強化の要望等を踏まえ、さらなる実効性の向上を目指した取り組みが要請されている。
 原子力発電所等周辺防災対策専門部会においては、防災指針に関して、IAEAにおける基本安全基準の策定等の諸情勢を踏まえて一九九六年(平成八年)からワーキンググループを設置して同指針の改訂に関する具体的検討を行っている。このうち、「飲食物摂取制限に関する指標」については検討を終了し、一般からの意見公募を行った上で、一九九八年(平成十年)十一月に防災指針の改訂を行った。
 さらに一九九八年(平成十年)三月からは、上記の他の項目についての見直しの継続に加えて、原子力防災対策の実効性を向上させる観点から、重要事項について総合的・体系的な視点に立った検討を行っており、安全委員会としては、これらの検討結果を適宜防災指針に反映していくことにより、原子力防災体制の充実強化に努めていくこととしている。

四 その他の主要課題への取り組み

 我が国では、原子力の安全を確保するため、事業者において自主保安活動が行われ、さらに常に最新の科学技術的知見に基づいて国が厳重かつ適切な規制を行ってきている。
 特に、近年、原子力発電所の高経年化対策、実用発電用原子炉の廃止措置等について検討を深める必要が生じており、安全委員会及び行政庁において、これらに対する取り組みが進められている。

 (一) 高経年化対策についての検討
 安全委員会は、通商産業省が一九九六年(平成八年)四月に取りまとめた報告書「高経年化に関する基本的な考え方」を踏まえ、原子炉安全総合検討会において調査審議を行った結果、その内容は妥当であるとの結論を得て、一般からの意見募集を行った上で、一九九八年(平成十年)十一月「発電用軽水型原子炉施設の高経年化対策について」をとりまとめた。
 これらにより、発電用軽水炉の高経年化対策については、その基本的考え方が整備されたと考えるが、今後高経年炉が増えてくることから、具体的施策が有効に機能するよう事業者及び行政庁における取り組みは時間の経過とともに重要性が増してくる。安全委員会としても、事業者が行う定期安全レビューについて通産省から報告を受け、高経年化対策の具体的施策も念頭に置きつつ、必要に応じて調査審議を深めていく。

 (二) 実用発電用原子炉の廃止措置
 安全委員会は、将来の原子炉の廃止に伴う安全確保の考え方について調査審議を行わせるため、原子炉施設解体安全専門部会を一九八四年(昭和五十九年)十二月に設置した。同専門部会では、解体の届出が出され、具体的に解体が予定されていた原研の動力試験炉(JPDR)を念頭に置いて、「原子炉施設の解体に係る安全確保の基本的考え方―JPDRの解体に当たって―」を一九八五年(昭和六十年)十一月にとりまとめ、原子炉の機能停止措置のあり方、解体作業における安全確保のあり方等からなる基本的考え方を示した。
 これに基づいて、JPDRは一九八六年(昭和六十一年)度から本格的な解体が行われ、一九九六年(平成八年)三月解体を完了した。「原子炉施設の解体に係る安全確保の基本的考え方」においては、将来の実用発電用原子炉等の解体に伴う安全確保の基本的考え方について、原子炉施設解体安全専門部会において、JPDRの解体の経験、解体技術の進展、国際的動向等を踏まえつつ、今後、必要に応じ検討していくこととしている。安全委員会としては、放射性廃棄物の処分に関する検討について着実に進めてきたことは既に述べたとおりであり、今後とも、実用発電用原子炉の解体に伴って発生する廃棄物等の処分に係る安全基準の整備等に向け、適時に所要の検討を進めていく。

第二節 原子力の安全確保体制の再編と安全委員会のあり方

 (一) 安全規制体制の再編
 政府が行政のスリム化、効率化を目的として進めてきた行政改革に関して、その基本的方向を規定した中央省庁等改革基本法(一九九八年(平成十年)六月)によれば、安全委員会は、「内閣府に置かれ、その機能を継続すること」とされており、再編後は、安全委員会は内閣府へ移行することとなる。これは、安全委員会の独立性を一層明確に国民に示していくためにも、また原子力安全条約等における安全規制の効果的な分離の確保という国際的な要請にも応えるためにも意義深いことと考える。また、安全規制行政の再編に伴い、行政庁の安全規制体制の一層の充実と機能強化が進むことを期待するものである。

 (二) 有識者等ヒアリングを通じた調査審議
 安全委員会は、発足二十年を迎えるに当たり、これまでの二十年間の活動、安全確保の実績と今後の諸課題を踏まえつつ、今後のあるべき姿を積極的に議論してきた。
 この議論を行うに当たっては、外部の学識経験者等に意見を伺いつつ検討を進めることとし、一九九八年(平成十年)六月から九月にわたり安全委員会の本会議において、一般から公募した意見発表者を含めた計十九名と意見交換を実施してきた。

 (三) 今後の安全委員会のあり方
 行政改革の進められる中、有識者等ヒアリングを通じた意見聴取及び委員会における継続的な検討を踏まえ、今後の安全委員会のあり方について昨年十月委員長談話を公表したが、その後の議論も含めてまとめれば以下のとおりである。
 (三―一) 原子力の安全確保と国民の安心感の醸成
 原子力発電が国民生活の基盤を支える不可欠のエネルギー源となり、核燃料サイクル施設の建設・運転が着実に進められている状況の中で、近年、原子力の安全に対する信頼に疑念を呈されるような事故、不祥事が続いた。このため、従来にも増して安全の実績を積み上げるとともに、その実績や安全確保の仕組みと実態、放射線の影響などについて国民の理解を得ることを通じて国民の安心感を醸成することが喫緊の課題である。
 (三―二) 行政改革を踏まえた安全委員会の位置付け
 すでに述べたように、安全委員会は、今般の行政改革によって新しく「内閣府に置き、その機能を維持する」とされており、現在の諮問機関としての位置付けと役割は従前と基本的に変わらないとされる。これを踏まえつつも、内閣府が新たな行政機構の中でも特に重要な地位を占めること、また今日の原子力安全を巡る諸情勢を踏まえれば、単なる継続ではなく、原子力の安全確保という課題により一層主導的な役割を果たすこととなり、諮問機関としての活動の柔軟性を活かしつつ、原子力の安全性の向上と国民の安心感の醸成に寄与し得るよう、その活動を一層充実・強化しなければならない。
 (三―三) 安全委員会の基本的任務
 原子力の安全確保に万全を期するため、国民の信頼と支持を基礎とし、国民の立場に立って、行政庁とは独自の立場から、科学的・客観的知見を拠り所としつつ総合判断を行い、所要の政策の企画や行政庁の行う安全規制業務を適切に監視し、行政庁に対し、必要な意見を述べるなどの活動を行っていく。

おわりに

 この二十年間の原子力安全を巡る動きを俯瞰し、今後の原子力安全確保の中で安全委員会が果たしていくべき姿を論じ、その中で、原子力の安全確保に携わる関係者が様々な努力を重ねた結果、国際的に見ても極めて高い安全水準を達成するに至っているということを具体的に示した。その一方において、特に最近の一連の事故等により、原子力の安全確保に対する不信感、不安感は未だ完全には拭い去られていない。この点について、安全委員会は、昨年六月に公表した平成九年版原子力安全白書において、一連の事故の原因究明等に関する調査審議状況を概説するとともに、情報公開の推進を中心とする信頼回復に向けた施策を詳説した。その中では、全ての原子力関係者に対して改めてセイフティカルチャーを問い直し、信頼回復に向けて努力するよう呼びかけた。
 安全委員会としては、原子力安全を取り巻く情勢の中で、原子力の安全確保に携わる全ての関係者と組織に対し、自らの日々の業務に当たって、それが国民生活の基盤を支えるエネルギーを生み出している原子力の安全確保という極めて重要な仕事であること、その重要性にふさわしい誇りと責任感を持って励むべきであることを再認識するよう訴え、最大限努力するよう再度要請するものである。
 安全委員会は、発足二十年の重みをしっかりと受け止めるとともに、原子力安全に携わる全ての関係者の協力も得つつ、一層の安全性向上に全力を尽くしてまいりたい。こうした努力を通じて国民の期待に応え得る安全確保の実績を積み重ね、原子力の安全確保に対する信頼回復に向けて着実な歩みを進めていくことができるよう切望してやまない。安全委員会として、関係者がこれまで到達した地平からさらに一歩ずつ着実に前進できるよう、全力を傾注していくとの決意を新たにし、同時に国民の理解を求めるものである。



    <6月2日号の主な予定>

 ▽中小企業白書のあらまし…………中小企業庁 

 ▽月例経済報告(五月報告)………経済企画庁 




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