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次世代知財システム検討委員会(第5回)
議 事 録



日 時:平成28年2月8日(水)16:00〜18:30
場 所:中央合同庁舎4号館 1208特別会議室

出席者:

【委 員】
中村委員長、赤松委員、上野委員、喜連川委員、瀬尾委員、田村委員、
福井委員、水越委員、宮島委員、柳川委員、山口委員、後藤参考人
【事務局】
横尾局長、増田次長、磯谷次長、田川参事官、永山参事官、中野参事官補佐
  1. 開会
  2. 技術革新により新たに生じる情報の取扱い
    (1)AIによって生み出される創作物等の取扱い
    (2)3Dプリンティングによるものづくり革新と知財制度
  3. 国境を越えるインターネット上の知財侵害への対応
  4. 閉会

○中村委員長 時間が参りましたので、「次世代知財システム検討委員会」第5回の会合を開催いたします。
 本日は、最大で2時間半、時間を頂戴しています。
 御出席いただいています委員の方は、座席表のとおりです。
 また、「国境を越えるインターネット上の知財侵害対応」の議論に関しまして、一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構から後藤専務理事にお越しいただいております。また、関係省庁の担当の方々にも参加いただいているところです。
 では、議事に入りたいと思います。
 まず、事務局から配付資料の確認をお願いします。

○永山参事官 お手元の議事次第をご覧いただければと思います。
 本日の配付資料は、資料1が前回の本委員会における主な意見ということで、AIと3Dプリンティングについて、前回の御意見をまとめさせていただいた資料でございます。資料2が、インターネット上の知財侵害についての討議用の事務局作成資料。資料3がCODA様が提出の資料。資料4がスケジュールと議題ということになっております。参考資料として、資料1から資料3まで、資料2と資料3は、前回の本委員会で提出させていただいた資料でございます。
 参考資料1をご覧いただきたいと思います。ちょっと分厚い資料でございますが、知財事務局のほうで次の推進計画2016の策定に向けて、この1月にパブコメを実施いたしました。各団体・個人の方からさまざまな御意見をいただきましたけれども、お手元に配付させていただいているのは、そのいただいた御意見のうち、本委員会での検討課題であるコンテンツ分野についての御意見、また団体・企業からの御意見について、それぞれの項目ごとに整理させていただいたものでございます。
 本委員会での議論に関わるものは、その中の2番、デジタル・ネットワークの発達に対応した法制度等の基盤整備ということで、4ページ以下でございます。後ほど御参照いただきまして、今後の検討に生かしていただければ。また、私どもとしても、今後の検討に参考にさせていただきたいと考えております。
 私からは以上でございます。

○中村委員長 ありがとうございます。
 本日は、議事が大きく分けて2つ。1つが、前回の続きのAIと3Dプリンティングに関すること。もう一つが、国境を越えるインターネット上の知財侵害への対応ということでございます。
 では、最初の議題です。前回に引き続いて「AIによって生み出される創作物等の取扱い」、そして「3Dプリンティングによるものづくり革新と知財制度」についての議論を行います。
 まず、事務局から資料の説明をお願いします。

○中野参事官補佐 それでは、資料1の前半の部分に沿って説明させていただきます。お手元の資料1をご覧ください。こちらは、前回、第4回検討委員会における主な意見を整理させていただいたものでございます。本日は、こちらの資料と、前回の参考でおつけしています資料をもとに、さらにAI、3Dについて御意見を頂戴できればと考えております。
 最初のページ、AI創作物の取扱いについてということでございます。
 まず、1.AI創作物の取扱いをどう考えるか。
 (1)は基本的な考え方ということで、前回の御議論の中であった御意見ですが、AIが道具といえる範囲でつくったものは人間がつくったと言える。他方で、そうではないものについては、著作権では保護されない。現行の著作権法では、AIによって純粋に制作されたものについては保護されないという基本的な考え方を御意見として頂戴しております。
 では、そのようなAIによって創作されたものについて、今後、どのように取扱っていくかというところが(2)になりますが、権利を付与することの是非ということでございます。
 まず、基本的視点に関する御意見ということで、何らか権利を付与するのであれば、それは生活が豊かになり、新しいビジネスチャンスを抑制しないような権利にすべきであろう。あるいは、その価値を認めて、その部分についてインセンティブを促進するような権利とするべきであろうという基本的な御意見。
 また、権利を付与するのであれば、責任も明確にしなければならないという両方セットであろうといった御意見を基本的な視点として頂戴いたしました。
 次のAからは、少し御意見が分かれたところでございます。では、保護するのか、しないのかというところでございますが、現行の知財制度のままでよいのではないかという御意見が幾つかございました。今でも一見著作物に見えるものは存在するのであり、AI創作物に限った問題ではないということで、現状のまま、何かあれば裁判でやればいいのではないかという御意見。
 また、無数に出てくるとなると、それに権利を与えたとしてもワークしないのではないかといった御意見もいただきました。
 2ページ目に行っていただきまして、現状でいいのではないかという御意見と、ある意味逆の意見ということで、何らかの保護は必要ではないかという御意見も頂戴しております。AIの創作物だからフリーライドでいいのかという問題があるのではないかというところと、AI創作物がたくさんあるにしても、価値があるものは少ないので、権利を与えてもワークするのではないかといった視点を頂戴しております。
 また、仮に権利保護を与えるべきという立場に立ったとして、それをどういうやり方でやるかというところ、それに関連しての論点が2ポツ以下でございますが、保護のやり方についても大きく3つの意見が出てきているかなということで、(1)の@からBという形で整理させていただいております。
 1つは、著作権以外の新たな権利を付与する方法と書いてございますが、著作権に類するような、ただし人格権的なものではないという仕組みということが考えられるのではないかということでございます。これは、AI創作物については、同じような取扱いをする。できた段階で権利が生まれるような新しい仕組みというものをイメージされて、御発言いただいていたかと思います。
 @は、発生して権利が生まれるというイメージかと思いますが、Aはもう少し違うアプローチでの保護のやり方ということで、登録制というキーワードをいただいております。登録によって、プロモーションして認知してもらって、そこに価値が生まれるということであれば、その価値を商標のように登録することで保護するというやり方があるのではないかという御意見。
 これに関連して、AI創作物を仮に登録制にするのであれば、人間がつくったものも見た目では区別がつかないことになりますので、人間がつくったものについても登録制にしていかないと成り立たないといった御意見も頂戴しております。
 また、3つ目の方策として、AI創作物に着目するというよりは、その源流たるAIそのものに注目して権利を考えるという御意見をいただいております。AIそのものを例えば登録制にして、人格権的なものを与える。そこから生まれてきた創作物には、AIの権利が及ぶという考え方もあるのではないかという御意見と整理してございます。
 次のページに行かせていただきまして、3ページ目、(2)ですが、権利がAI創作物に何らかあるという時に、それとほかの権利との関係についての御指摘も幾つか頂戴しておりますので、整理させていただきました。
 @として、AI創作物において既存の著作物が複製されてしまう場合、AIに勉強させたインプットの一部が、AI創作物に出力されてしまうことがあり得るのではないかという御指摘。
 また、Aとしては、でき上がったものが既存のものと似てしまう。インプットしたものとは必ずしも一致しなくても、たまたまどこかにあったものができ上がったものと似てしまうこともあり得るのではないか。
 さらには、AI創作物をいろいろなAIがつくり出すと、それがどっちが先につくったのかといった前後関係も議論になるのではないかという御指摘。
 こういったことが続いていくと、差止請求権のあり方。全てに権利を認めると、社会が混乱するほど濫用的な状況になるということであれば、請求権のあり方も考える必要があるのではないかといった御指摘をいただいております。
 また、その他の考慮すべき点ということで、創作性の取扱いということで、人間がつくるにせよ、AIがつくるにせよ、創作性とはどういう価値なのかということを、改めて時代に合わせた検討が必要ではないかといった御意見。
 さらに、タイムスパンということで、どの段階を見て議論するべきかといったところについても、御指摘いただいたところでございます。
 事務局からの説明は以上になります。

○中村委員長 ありがとうございました。
 では、ひとまず、このAIについて議論をしましょう。
 事務局が整理してくれたところによりますと、大きく方向性として分けて2つ。1つ目が、何もしない。現行の知財制度のままでよいという整理。もう一つが、何らかの保護を与えるべきだという整理ですね。仮に何らかの保護を与えるべきとした場合には、ここでは案が3つ。1つが、著作権以外の新しい権利を付与する。あるいは、登録制による新たな権利を付与する。あるいは、AIそのものを登録制にするという選択肢があるのではないかというのが、前回の議論を踏まえた事務局のまとめということです。このうち、どういった方向性を目指したらよいのかという点を主眼に議論をいただければと思います。
 どなたからでも結構です。いかがでしょうか。
 どうぞ。

○瀬尾委員 また、最初の話ですけれども、基本的に今、この議論の一番大本に立つのは、これまでの著作権の考え方、人が創意工夫をもって物をつくるというのが基本だった時代が、全ての基本になっていると思います。
 まず、前提としてそういうものを対象にしたものが著作権法であるし、著作権の考え方だと。そこの創意工夫を守っていくということが前提になっているということがありますけれども、今、話題にしているものというのは、その時代は人しかつくれなかったものが、いわゆる自動化でつくれてしまう時代ということで、前提が全崩れてしまっている時代に我々は突入しているという現状認識がないと、これまでのいわゆる著作権の考え方で、これを考えていくとか、それに当てはめていくと多分混乱するだろうし、全く結論が出ないと思います。もともと違うものを目的につくっている保護体制だから。
 なので、私は守るべきものは守らなければいけないと思いますけれども、まず時代認識として、全く違う前提の時代にあって、さらにこれが急激に進んでいくのだということを前提にしないと、これまでの著作物と創作物の考え方をこれからに当てはめていくと、全くこれは結論が出ないことになってしまうのではないかなと思うのですね。だから、今までと、それから、これからのこととしては、新しいジャンル、新しい知覚されるような創作物について、我々が結論を出していかなければいけないということを、まず共通認識として確認するべきではないかと思います。
 また、それについての反論等、皆さんいろいろあると思いますが、その辺のところがまずずれていると、幾らやっても議論を繰り返してしまうので、最初にそういう時代認識について、皆さんで大体の合意が得られてから進めていくほうがいいのではないかと考えます。

○中村委員長 どうぞ、福井さん。

○福井委員 福井です。
 瀬尾さんの御意見に賛成です。時代認識、前提が大きく変わったことを前提として議論すべきである。あるいは、正確には物の創作のあり方が大きく変わってしまった場合に、知財制度はどうあるべきかという前提で、今のうちから議論を始めているというのがここでの意味合いではないかと思います。その意味で、AI創作というものの実態、それがどんなことができるのか。さらに、ビジネスモデルがどう変わっているのかということを把握する作業を、さらに継続することが大事ではないかと思います。
 そうした上で、従来、著作権の存在理由は、私が知る限り、次の2つの考え方が対立していたように思います。1つは、人格の保護的な考え方をより強調する自然権論と言われるような考え方です。田村先生などの前でこういうお話をするのは恥ずかしいのですけれど。もう一つは、言ってみれば、投資の促進としてのインセンティブ論と言われるような考え方であります。
 仮に自然権論的な立場に立つのであれば、人格というものが直接は化体していないAI創作物に知的財産権の保護を与えることは、不要という方向に針は振れやすいだろうと思います。
 次いで、インセンティブ論という考え方に立った時には、ビジネスモデルがどうなっているか。つまり、何を守るとどういうコンテンツの生業が守られ得るのかということを前提にしないと、恐らく議論できないだろうと思うのです。そして、この点で言うと、現在の著作権は、著作物と認めることは、その中に著作者人格権の保護も含むし、期間は長いし、また無方式主義で、ほぼあらゆる利用に対してノーと言う。これをAI創作物全部に認めるのは、仮に前提がインセンティブ、投資促進であるとするなら、恐らく強過ぎるのだろうなという感覚です。
 以上です。

○中村委員長 では、田村委員、お願いします。

○田村委員 今、福井先生からお話のあった流れでお話ししますと、著作権はおっしゃるとおり2つの考え方があります。
 もう一つの、私がとっているほうでない自然権的な考え方は上野先生が代表されているので、後から御発言があるのではないかと思いますが、それはそちらに任せまして、もう一つのインセンティブ論と言われている、文化の発展のために一定の保護が必要な場合に保護するという考え方に立ちますと、福井先生がおっしゃったような物の考え方で進めると思います。
 私の今のところの見立てですが、どなたでもAIを使えば、同じような、あるいは同じ創作物と言うのかどうかわかりませんけれども、そういったものが出てくるとすると、果たしてそこに何か保護しなければいけない必要があるのか。基本的には、知的財産権というのは、フリーライドがあるから、即違法とするものではなくて、フリーライドがあって、その結果、何らかの価値ある創作活動等が行われなくなってしまう時に、それを問題視するものでありますから、そういった問題視する状況が生じているのかというと、もう少しお話を聞かせていただきたいなという気がしております。今のところ、少し慎重に考えているということです。
 他方、AIによって創作物ができるまでの間に、人間の創作活動とか投資が莫大にかかっているところがどこにあるのか。むしろ、AIの創作というか、AIの構築にあると思っています。そうすると、事務局のほうの最後に出てきましたけれども、登録かどうかは別として、AIに何らかの権利という発想が出てくるのはよくわかるところです。ただ、他方で、そういう時もビジネスモデルと福井先生、おっしゃっていましたけれども、AIを販売するとか、AIに関して何らかのサービスを提供する時に、必ず対価獲得の機会があるはずなので、それで、もしかしたら十分かもしれない。
 逆に、何事も権利を与える時には、反面義務を負う人がいるわけですから、必要もないところに広範に、リーチがすごく広くなる、射程も非常に広くなるAIからできた創作物について権利を及ぼすようなことをしますと、余り必要もないところにいろいろと弊害が起きるのではないかという気がしております。
 以上です。

○中村委員長 柳川さん、お願いします。

○柳川委員 すみません、しばらく欠席でしたので、皆さんの議論と重なってしまう部分があるかと思うのですけれども、AIの創作物といった時には、先ほどお話が出てきたように、人間がそこにどこまでかかわっていて、AIがやっていることは何かということを幾つか段階に分けて整理する必要があるだろうと思うのですね。シンギュラリティとかいう言葉が出てきていますけれども、もしかすると全く人間がかかわらずに、AI自体が意思を持って何かをつくり出すような時代が来るかもしれないのですけれども、そこは可能性はあるにしても、そこを具体的な射程として、ここで議論するのはややSF的だろうと思うので、そういう状況がないとするところをまず考えたほうがいいだろうと思うのです。
 そういう状況がない時に、人格の保護というところで、AI格というものを我々が認識したり、考えたりすべきかというと、これは意思がない人に何らかの人格的なものを与えるという発想は、恐らく今の社会にはほとんどないだろうと思います。そういうことを考える人はいるかもしれませんが。そういう意味では、人格権的な考え方をとった時には、AIが本当につくったものに関して、何かそういう発想で権利を与えるということは出にくいだろうと思いますけれども、これはまた御専門の方に御意見を伺いたいところです。
 今、一連の何人かのお話がありましたインセンティブのことを考えた時ですけれども、これは経済学者の発想からしますと、インセンティブというのは、やる当事者の意思に基づいたインセンティブだと思うのです。ですので、意思が全くない中でのインセンティブはあり得なくて、意思があるかどうかということは、結局、保護される程度が小さいから、投資を少なくしようとか、開発を少なくしようとか、あるいはたくさん保護されてお金がもうかるようだから、投資をたくさんしようという意思の判断が、権利の保護の仕方によって、あるいはその裏側にある義務によって動く場合は、それを適切なレベルに操作しなければいけないという発想になるわけです。
 ところが、AI自体に意思がないという発想にいたしますと、結局、自動的にどんどんつくることはあり得ても、あるいは何らか別の事情でつくる量が変わることはあり得ても、その権利の保護の程度によって、自分で変えようとか変えまいということをすることは想定されないので、この面からも保護の必要はないという方向に行くのだろうと思います。
 問題は、先ほど冒頭の話ですけれども、AIの創作物とここで呼んでいるものも、実際は何らかの程度で人間が関与している部分があって、それはAIそのものがつくっているかもしれないし、プログラムをつくっている段階で人間がある程度関与していて、その先は相当AIがやっているということなのかもしれません。
 そうすると、何らかの形で関与している人の意思が、ここでAI創作物と呼ばれているものの権利の多寡によって、ある程度変わってくるのであれば、そこに関しては何らかの検討が必要だろう。私の頭の中では、そういう整理になってきているので、このあたりが冒頭申し上げたように、人がどのくらい関与しているのかというところにある程度立って、少し場合分けをしていかないと、AI創作物と呼んでしまうと、少し焦点がぼけてしまうかなという気がいたします。

○中村委員長 水越さん、お願いします。

○水越委員 AIが人間社会に役立つものを何かつくって、それが著作権法になじみがあるような創作をする場合もあるし、ここで発明という話もありますけれども、特許法になじむような作業を行うこともある。その場合に、何らかAIを使って人間社会に役立つものをつくる。田村先生がおっしゃったように、そこに対価獲得の機会があることが多いとすれば、契約で処理される場面もあるであろうと考えます。
 その上で、インセンティブというのは1つキーワードになるのではないかと思うのです。インセンティブ、もしくは刺激といいますか、他国との関係で、日本においてAIがつくったものについて何ら保護しない時に、創作活動というか、AIを使って人間社会に役立つものをつくるというものが十分に行われていくのか、それとも保護しないことによって、そこが後塵を拝するというか、遅れていくのかというところは検討すべきではないかと思います。
 1つ、余りに保護を与えると、情報のコントロールとか集中化とか、懸念もありますし、全く保護がないとすると、ビジネス機会を得るに当たって、フリーライドを含めて何ら保護がされないので、対価の獲得の機会がつくりにくいということがあるのであれば、何も先んじて保護しないと決める必要もないかなと思いますので、まだ新しいところなので、ビジネスモデルを十分に検討していくということも含めて、保護のデメリットもあるけれども、保護のメリットもあり得るのではないかと思いますので、そこをインセンティブの観点から含め、十分検討していくべきではないかと考えます。

○中村委員長 では、上野委員、お願いします。

○上野委員 冒頭、瀬尾委員から、AIという全く新しいものが出てきたという認識を共有すべきではないかというお話がございました。確かに著作権法はすぐに古くなるものですから、時代とか新しいニーズに対応しなければならないという事象がすぐ起きるわけですし、また本当に新しいことが起きたのであれば、それに対応しなければならないというのはおっしゃるとおりだと思います。
 ただ、ここで問題になりますのは、AIというものが本当に今までにない、全く新しいものなのかどうかというところではないかと思います。従来もニューメディア時代とか、マルチメディア時代とか、Web2.0とかユビキタスとか、出てくるたびにデジタル著作権をつくらなければいけないという話はあったわけですけれども、時間がたってみると、それは従来の延長でしかなかったかもしれない。私も「時代の流れと著作権法」という論文を「ジュリスト」に書いたことがあるのですけれども、そういう意味では、本当にAIというものが新しいものかどうかというのが問題になるところではないかと思います。
 ただ、こういうことを申しますと、私も自分の考えについては前回述べたのですけれども、冷めているのではないかとか、意思がないという話もさっきありましたけれども、人の法なのだから、著作物による保護というのはそもそも考えられないだろうということを言いがちなのですけれども、この委員会は次世代の知財システムということでありまして、前回、赤松先生からも、ちょっと真面目過ぎませんかという御発言があったので、赤松先生が前回おっしゃったことについてコメントしたいと思います。
 赤松先生の御提案は、本日も先ほど御紹介がありましたけれども、AIがキャラクターをつくるようになって、それがキャラ立ちした場合には、AIに著作者人格権を認める。そして、そのキャラクターの振興のために無税にして、プロデューサーが関与しなくてもフルオートでAIが創作できる時代になったら、AIに何らかの人権めいたものを認める。
 そういうふうになったAIは、もはや道具の延長ではないのだから、みずから責任を負うようになって、たとえ欠陥のある建築物を設計して事故に遭ったとしても、プロデューサーPには責任がなく、ただし収益は全てプロデューサーに贈与するという御提案でありました。AIがつくり出したキャラクターが、キャラ立ちによってプロデューサーと離れた存在として独立した場合に、著作者人格権とか人権を認める。非常に興味深い提案ではあります。
 ただ、人権を認めるとおっしゃるわりには、事故が起きた時はAIキャラクターに法的な責任を全部負わせて、しかも収益は全てPが吸い上げるというのは、搾取と言ったら少し問題があるかもしれませんけれども、人権の発想からやや遠いのかなと感じるところです。
 では、お前はどう考えるのだということになろうかと思うのですけれども、対案といたしましては、AIキャラクターがそれほどまでに人から独立したというのであれば、それが上げた収入というのはプロデューサーに帰属するというのではなくて、日本の文化予算として帰属するというのはどうだろうかと、考えてみた次第でございます。
 以上です。

○中村委員長 瀬尾さん。

○瀬尾委員 今、上野先生もおっしゃったのですけれども、私もAIによる著作物は、できたものが余りに人間がつくったものに近いので、みんなびっくりしていて、目くらまされている部分はあると思います。こんなものができてしまったのだという驚きで、人間が追いつかれてしまっているような感じなのですけれども、基本的には、この著作物が、例えば音楽であっても、文章であっても、単純にそれを享受する人が知識とかではなくて、感覚的に利益を享受するものであって、これまでのASPサービスの一つという形にも考えられるのです。
 例えば、私がムービーをつくりたい。その時に音楽が何か欲しいといった時に、権利処理するのではなくて、自分でつくってしまおうといって、ある音楽作成ASPサービスに頼んで、こういうイメージと入れていってでき上がる。そのでき上がったものを私のムービーに張りつけるという利用の仕方ができると思うのですけれどもね。
 単純にネットかコンピューターかは別にしても、ある特定のサービスの結果を享受するだけというところで考えると、それが知覚的に大分訴えるようになってきてしまったので問題があるけれども、基本的にはつくったプログラムは保護されるべきだけれども、でき上がったものについては、ただサービスの一環であって、保護とかの対象ではないと考えられるのではないかと私は思っているのです。ただ、それが人間に近くなってしまうことによって、人間のつくっているものが近いから埋もれてしまうのです。そうすると、保護しなくていいのか。俺のは、自分の手でつくったのだけれども、埋もれてしまって保護されなくなってしまったら困る。
 だから、今度は自然発生的に著作権はありますし、自分で固有のものだから、誰が見ても俺の作品だというものはいいでしょうけれども、もしかしたら埋もれてしまうかもしれないという危惧、もしくは裁判になった時に、自分がちゃんと主張できるかという危惧があったら、ボランタリーに登録する制度が出てくれば、そこに登録されていれば、ある程度著作物としての保護が認められるという形にすると、切り分けられてくるし、ボランタリーな登録というのは昔から言われていますけれども、それの本当の意味でのインセンティブが出てくるのではないかなと思います。
 万が一、AIに大量につくらせて、全部、自分の著作物として登録してしまうということだってあり得ると思うのですけれども、そういう形であれば、それだけすばらしいものをつくったAIと、その結果をやるのであれば、なりすましとは逆に言えないのかなという気もします。要するに、選別するためには、これまでの著作物については、何らかの著作者の意思表示がないと保護されにくくなる時代になってきたというのは、総論として言えるでしょうし、サービスの結果としてできてきた著作物については、余りできのよさに驚くことなく、淡々と対応するということも必要なのではないか。つまり、余り保護が必要ないのではないかと、感じています。

○中村委員長 では、赤松さん、次、お願いします。

○赤松委員 この委員会は、人間社会に役立つ文化の発展を重視するのか、それともインセンティブを与えてビジネス的なものを振興していくのか、どちらに振れているのか、わからなくなってきたのですけれども、AIを学習させる、判定とか素材のいい悪いを最初に決めるのはクリエーターなわけです。それで、ビッグデータなども、大なり小なり、我々クリエーターの作品の蓄積がもとになっている。
 AIが発展する途中、しばらくの間は我々クリエーターを保護していかないと、海外に逃げてしまうのではないかと私は恐れているのです。そういう危険性があるので、この委員会が人間社会に役立つためのものをやっていくのか、それともビジネスに注目していくのか、その辺をはっきりしないと進めないのではないかと考えるのですけれども、いかがでしょうか。

○中村委員長 それについては、何か事務局からありますか。ここは知財本部の場ですので、政府全体の政策の司令塔であり、取りまとめでもありますから、文化政策も産業政策も経済政策も全部バランスをとってやっていくというのが建前ではあります。一方で、知財戦略ないし知財計画というものが成長戦略の一環として捉えられているということなので、その中でもこれまで以上に経済の発展というところに重心を置いているというのも事実なのですが、どっちか一方でという議論には多分ならないと思います。その辺はいかがですか。
 それは、だけれども、皆さんの意思によって方向性とか計画というのは変わってきますので、今回のここの場では、こっちのほうに振れて議論しようということであれば、それでも全く構わないのですけれども、いかがですか。
 福井さん、どうですか。

○福井委員 私の考えを申し上げれば、現行著作権法は、文化とビジネスが二者択一的なものだという前提には立っていないと思うのですね。もともとが、いわば複製技術というものが生まれてきて、それでコピーを売ることがビジネスとして成り立つようになった。このビジネスを成立させることで、次なる創作を可能にしようというのが、恐らくは著作権制度が前提にしていることであり、それが1条に書いてあることである。よって、ここで我々は、文化とビジネス、ビジネスモデルを守ることというのは両立することであり、一致することであるという前提で恐らく著作権制度を議論しているのではないかと思うのです。これが1点です。
 次に、先ほど来の皆さんのお話の中で非常におもしろいと思ったところについて、少し申し上げます。
 上野先生にも、あるいは柳川先生の御発言にもありましたけれども、AIが生まれたことによって、創作という営みが果たしてそんなに変わっているのか。今のところ、生まれてくる作品で特にいいものというのは、人間の関与が大きいものではないか。これは、私は全く同感であります。現在、人間が十分関与したもののほうに大きなチャンスがある。しかし、それに関して言えば、人間の関与が大きいゆえに、次世代著作権を考える必要は恐らくないと思います。そういうものは、人間が関与しなければいけないから、人間のスピードの制約を受けますので、恐らく爆発的には増大しないはずであり、爆発的に増大しないものについて新しい制度を考える必要はないだろうと思います。
 我々が考えるべきは、そういう人間がボトルネックにならないようなペースやありようで、新しいコンテンツが生まれるようになった時に、次世代著作権というものを今のうちに構想しておくべきかどうかではないかと思いました。これが1点です。
 もう一点。田村先生あるいは水越先生のお話にありましたインセンティブということを考える時に、ビジネスモデルが重要ではないかということ。全くそのとおりだと思うのです。AI、それによる創作ということにあるビジネスモデルが存在していて、そこに知的財産権を認めない。AIそのものではなくて、成果物に対して、知的財産権、つまり排他権を認めない、あるいは何らかの権利を認めないと新しい創作が過少になってしまう。逆に、知的財産権を認めれば、新しい創作、豊かな創作というものが豊かに発達するだろうという時に、初めて恐らく知的財産権というものを議論する実益はあるのだろうと思います。
 そして、ここにはダウンサイドの議論もあって、それは瀬尾さんがおっしゃったとおり、今度は知的財産権を認めることで、人間の活動というものが萎縮してしまうのではないか、埋もれてしまうのではないかということも同時に考えるべきだろうと思います。その意味で、我々はプラットフォームや、それが流通させるコンテンツのビジネスモデルというものがどういうものであるかということを、もっと知る必要があると思うのです。
 ちょうどEUでは、昨年9月から今年1月までの予定でオンラインプラットフォームについての実態調査、意見募集ということを行ったはずです。その中では、ビジネスモデルがどうであるか、プラットフォームの社会経済的な影響はどうであるかということについて、かなり包括的な情報の集約や分析を行おうとしていて、視点としては、これは極めて正しいだろうと思うのです。ということで、そのようなこともまた課題として考えていくべきではなかろうか。
 最後に、柳川先生は、いささか話がSF的になるとおっしゃったことについて、現在、我々は極めてSF的な状況の中で生きているように現状を認識しておりまして、そういう議論の場に招かれたことをとても感謝しております。

○中村委員長 いかがでしょうか。
 宮島さん、お願いします。

○宮島委員 ありがとうございます。
 私、前回の議論には参加していないのですけれども、私自身は今、福井委員がおっしゃったような、むしろすごく先のことを考えた場合に、著作権の権利の形がついていけるのかと思っています。それは、AIがまさに人間のプログラムやどんな材料を与えるかということをはるかに超越して、自分で一種自立歩行に見えるぐらいに次々と物を生み出すことになった場合に、いろいろな材料でいろいろなことができて、それに全部著作権を認めていくということが、現実に物理的に可能なのかと、まず思います。
 さらに、それに著作権を認めた場合には、今度、著作権を認識して、それに触れないように気をつけようとする、次のクリエーティブの人は、今、どんなものがあるのかということを知ることがすごく難しいことになりかねない。今、商標でもそうだと思うのですけれども、どんどん登録が細かくなればなるほど、これが商標違反にならないかどうかということを調べるためのコストや負荷が物すごくかかってしまって、そのものもビジネス上、障壁になっている部分もあると思いますので、今の段階のまさに人間の手に係ることというよりも、AIが自分で何でも、あらゆることを生み出すような状況の時には、そもそもできるのかという疑問が私としてはあります。
 さらに、その場合に、人格権との関係があったのでけれども、話は少し違いますが、まさに自動運転の車が事故を起こした時にどうなるかということで議論がありますけれども、最終的にAIに何かの責任を負わせることができるのかというところを考えないと、机上で何かを考えていても、結局、責任を逃れるのだったら人間と同じではないので、その場合の責任の所在をどうするかというのも非常に気になります。という意味では、私も少し先のところに視点を置きながら議論するのがいいのではないかと思います。

○中村委員長 柳川委員、お願いします。

○柳川委員 先のことを見据えてというのは私も大賛成ですけれども、先の程度の話で、先ほど申し上げたかったことは、自動的にどんどんつくり出す。あたかも人間がつくっているかのようなものをどんどんコンピューターが、ほぼ自動的につくり出して、それが人間の著作物・制作物と同等あるいはそれを凌駕するようなものをどんどんつくり出していくような世界というのは、今はまだ実現していないかもしれませんけれども、多分、すぐそこにやってくるのだろう。そこは確実にSFの世界ではなく、十分考えるべき時代だろうと思います。
 私が先ほど申し上げたかったのは、そこでAIが意思を持つようになって、AIに責任を持たせるというのはどういうことか。AIを刑務所に入れて、AIに禁固10年してもらうということで、AIがすごくアンカンファタブルになるか。そういう時代がもし来るのであれば、それはそういうことを考えなければいけないけれども、それを考えるのはややSF的ではないかと申し上げただけのことであって、もしここにいらっしゃる皆さんが、それはもうすぐそこに来ているのだから、AIを禁固何年にするかを真剣に考えるべきだとおっしゃるのであれば、私はその議論に従いますけれども、恐らくそこまで考えていらっしゃる方はいないのではないか。
 あるいは、先ほどのお金の面に関しても、AIはお金を取れないからプロデューサーが取るのだという話がありましたけれども、なぜAIがお金を取ってはいけないのか。将来にわたって、AIがお金を取って、自分で飲み食いする。わからないですけれども、何かお金をもうけたいと思うかもしれないし、刑務所に入りたくないと思うかもしれないし。そういう意思を持つAIが仮に出てくることを前提にするべきだということであれば、それは多分違った議論が必要ではないかということを申し上げたかった。
 私自身は、それがいつ来るのかを判断する立場にないので、それは御専門の方に従いたいと思いますけれども、とりあえずこれからの発言は、そこは行かないだろう。ただし、どんどんつくり出す時代が来ることは間違いないだろうという前提でお話をします。
 それで、インセンティブというお話がありましたけれども、その意味では、そういうことでインセンティブが阻害されないかどうかということは、かなり重要なポイントだと思っています。御発言ありましたように、結局、排他権を認めることでインセンティブが高まるのか、あるいは阻害されるのかということですね。これは、一応念のため、経済学者としてメンションさせていただきますと、必ずしももうけるということだけではないと思っていまして、文化の発展に寄与するようなクリエーティブなものを生み出すインセンティブが出てくるということも重要だと思っていますので、そのこと自体がお金がもうかるか、もうからないかではない。
 でも、クリエーティブなものを生み出して、文化を高めることを生み出した人に対して、何もリターンがなければ、それは難しいだろうと思うので、私はそこの部分は余り対立したり、矛盾するとは思っていなくて、そこをできるだけ矛盾しない形で制度をつくっていくことが大事だと思っています。その上で、仮に文化を高めるにしても、ある程度ビジネス的に回るにしても、何らかの形で排他権を認めることで、それが阻害される要因と、プラスに働く要因とマイナスに働く要因と考えると、恐らく、皆さんの議論の繰り返しですけれども、3つぐらいの視点がある。
 1つは、AIがやるであろう当事者のインセンティブがどうなるかということでございます。それはAIが事実上やるにしても、その裏側にある人が何らかの関与をしているのであれば、AIがどんどんつくってくれるものが著作権として認められるのであれば、どんどんプログラムをつくろうとするかもしれないけれども、認められないのであれば、そういうAIの開発をしないという判断をしてしまうかもしれないという面があります。ただ、ここは皆さん、御議論あったように、それは結局のところ、今の著作権と余り変わらなくて、今の著作権法でプログラムのところを見ればいいのではないかという観点に落ち着くだろうと思います。
 2番目の観点は、出てきたものを利用する、その次のステップに対して、どういう効果が働くかということで、これは排他権を与えてしまうよりは、排他権を与えずにみんなが使えるように、みんなが見られるようにしたほうが、次のクリエーティブな活動にはプラスになるので、こちらからすると、どちらかというとこれは認めないほうがいいということになるのだろうと思います。
 難しいのは3番目のポイントで、結局、認めることで、経済学者は外部性という言葉を使うのですけれども、周りにいる人がどのくらいつくろうとするか、どのくらいつくる気を失うかということでございます。ここは議論が2種類あったように思うのです。
 1つは、そういうことでコンピューターが自動的につくったものも、全部著作権として認めてしまうと、人間のつくったものが埋もれてしまって、自分が本当に頭で必死になって考えたのだけれども、それは隣でコンピューターが何も考えずにつくったものとほぼ同じものであって、「お前、それはあれがつくったから、もうだめだよ」と言われる。
 この種のマイナス効果がどんどん出てきてしまうのではないかということがあって、それからすると、そういう埋もれない効果を及ぼすためには、これは現行法の著作権よりももう少し権利・保護を弱くしないと、現状でいくと、人間が何らかの関与をしているからという意味で埋もれてしまう、認められてしまうと、プログラムが大事なのだけれども、そこから出てきたものがどんどん認められてしまうと、かなり阻害してしまうようになるかもしれないと思います。ただ、ここは解釈の問題のような気もしますので、それは御専門の方にお任せしたいと思います。
 もう一つ、また逆の考え方があって、コンピューターに保護は全く認められないのだとすると、それを同じように人がやっても、そいつは認められないのではないかとなると、コンピューターはただでどんどん使える、読めるとなっているのに、人間が同じものをつくって、それをお金を取ります、排他権がありますと言っても、それは人間がむしろ、そんなものを使おうと見向きもしてくれなくなるのではないかというマイナス面があるというのが、多分何人かの方の御指摘の中にも可能性としてあったように思います。
 ですので、埋もれてしまうから、コンピューターのほうを保護しないほうがいいのだというのと、ライバルとしてのコンピューターの著作物を考えた場合に、そっちに保護を与えないと、人間のほうも保護してくれといっても実はマイナスになってしまうのではないかというのが、プラスマイナス、両方ある気がするのです。
 ただ、今のこのネガティブの効果のほうは、ちょっと仕方がないのかなという面はあって、法律でどこまで保護しようが、保護しまいが、悲しいことかもしれないですけれども、コンピューターが生み出してきたものと、人間がすごく努力しても同じものしか出てこないとすると、人間はそのコンピューターの著作物と競争せざるを得ないという問題があって、それは権利でどこまで保護しても、選ぶほうは別のことを考えてしまうので、これは悲しいことなので、別途考える必要があると思いますけれども、著作権の話では対処し切れないような気がいたします。

○中村委員長 瀬尾さん、お願いします。

○瀬尾委員 今のお話の中でも、確かに同じものしか人ができなくて、これは経済原則として使われなくなると思います。片方が高くて、片方がただとなれば、それはそれで仕方がないと思うのですけれども、近い未来、それこそ5年とか、近い将来、どういう影響があって、何か問題が起きるのかというところが、今、私は話し合うべき要点かと思うのです。どんなプラスが起きるのか、それとどんなマイナスが予想されるのか。
 プラスについては、ビジネスが広がっていくわけですから、これはその市場形成をもうちょっと待たなければならない気がするのですけれども、マイナスは何かといった時に、私が思うのは、AIでつくられたものが既存の創作物に似るということ。つまり、既存の創作物と同じようなものがどんどんできてしまう可能性があるというところが一番問題だと思うのですね。
 これによって、例えば悪意なき侵害ではないですけれども、全く同じような楽曲とか、そういったものがどんどん出てきてしまった時に、それは侵害なのだけれども、どうするのだ。使った人は、それによって著作権侵害になるのか。でも、これはAIに頼んだだけで、俺は何もしていないのだけれどもと言ったら、その人に侵害を問うのは酷だと思うのですね。
 ただ、さっきAIを捕まえてしまう話もありましたけれども、例えば非常に類似的で著作権侵害に相当するようなものがたくさん生まれるようなAIだったら、そのAIの機能を停止するという一番基本的な罰もあるかもしれないし、運用上、これはどういう解析をしているかわからないけれども、中のデータが非常にこれまでの類似のものの寄せ集めに近いし、できてくるものがかなり既存の創作物に似てしまう場合には、そのAIを停止させるようなことも必要になってくるかもしれない。
 だから、全く同じものができて、みんなが享受できて、人がつくったものとAIがつくったものが同等に競争する時代があれば、それはそれでいいと思うのです。これによって著作者は食える人間が少なくなるかもしれないけれども、これは技術の進歩をより広く、カスタムで、みんなが享受できるということで、仕方がないと思う。ただ、AIがつくったものが、いろいろなものを混ぜ合わせた中で、いわゆる侵害するような著作物が生まれていく可能性というのは、私は極めて高いと思います。
 特にシンプルなものになればなるほど似るというのはどうしようもないのは、某シンボルマークの例でもよくわかると思いますけれども、そういうことについてAIに責任をとらせられないとすると、基本的にはこれまでの著作権と、それから創作してきたものについては、重大な危機になるし、そこの部分については何らかの抑制が必要なのではないか。そこが一番問題点として、私は考えるところかなと思います。やたらと著作物を保護するとか、そういうことではなくて、客観的なリスクとして、そういうことは起きやすいのではないかと考えているということです。

○中村委員長 どうぞ。

○喜連川委員 前回はインフルエンザで出てこられなくて、本日は修士論文の審査があって遅れましたため、ぼけた意見になるといいますか、論点が今どういうふうにシフトしていっておられるのか、必ずしも十分理解できていないのですが。
 先ほど上野先生がおっしゃられた、もうニューメディアにはだまされないぞという御意見は、本当にそのとおりでして、AIというものが今、すごくシンボリックに語られているのですけれども、多分、研究者の間では、完璧に解析接続というか、なだらかな変化でありまして、極度に全然異質なものができたかというと、そうではないのではないかという気がします。そんな中で、どういう権利保護の対象・形態があるかというのも、もうちょっと広い世界観を見て、どんぶり勘定ではなく、世の中を一度整理しながら進めたほうがいいのかなという気がしております。
 どういうことがあるかといいますと、AIと呼ぶか呼ばないかは全然別として、例えばゲノムの解析というのが御案内のように非常に進んでくる中で、このゲノムがこの疾病の遺伝要因であるという特定がどんどんできてくる時に、そこの部位の知財登録というのがイグゾーシティブに進んでいるというのが現実問題としてあります。
 それから、ちょっと似た言葉として、最近、マテリアルゲノムという言い方をしているのですけれども、これは物質材料系ですが、空間デザインをする時に原子と原子の間をなるべくスパーズにすると物が軽くなる。軽くなるのですけれども、強度は維持するということから、材料のデザインというのが圧倒的に学習によって進歩しようとしています。この場合も、出てきたものは全部知財登録なされます。したがいまして、プログラムかプログラムのアウトプットかという面で言いますと、もちろんプログラムも権利が与えられるわけですが、出たものも与えられるというケースに相当するかなという気がいたします。
 ただ、それぞれが独立な場合でない場合もいろいろあるのではないかという気がいたしまして、先日来、将棋で、最近は碁ですけれども、将棋の新しい手というものが生まれているわけです。これは、人間が誰も今まで使ったことのないような手を、今度、プロの棋士が使うようになる。その手には、プログラムの名前が付与されているのです。つまり、プログラムと成果物がバインドして初めてできているのだということをあらわに示しているようなものもどんどんできているということで、出口だけではないものもあります。
 一方で、先ほど御意見がありましたように、サービスという捉え方をいたしますと、つまり、著作権の対象になるような、音楽のような作品でないようなものまで範囲を広めますと、気持ち的に創作物としての工夫があるというのとの線引きが微妙に難しくなってくるような気がいたしまして、対象物がいろいろある中で、どこの議論をするかというのは若干微妙に分けて議論しないとぐちゃぐちゃになってきているのではないかという気がします。
 申し上げたかどうかわからないですけれども、アメリカの刑務所はマシンラーニングを使っているのです。罪を犯した人を刑務所に入れるか、刑務所の外に置いておくか。つまり、刑務所の数のほうが犯罪を起こす人の数よりもはるかに小さいですから、原則、外に出さなければいけない。それは、プログラム化することよって圧倒的に精度が上がるというのがアメリカで報告されていることです。これは一体何なのかというと、AIを使ったサービスですけれども、創作物のような気も余りしないので、こういうものと限定的な創作物というのはどうなのかというのが、僕には頭が整理できないところがあります。
 先ほど、たくさん登録していくと調べるのが大変になるのではないかという御意見がありました。これは、この1年から1年半、沸騰している、先ほどのプラットフォームということがありましたが、まさにプラットフォーム化しながら沸騰している、論文盗用への対策であります。これはどういうビジネスモデルになっているかといいますと、CrossRefという団体があるのですけれども、ここが論文を盗作しているか、コピペしているかというサービスをしてあげますというサービスです。
 そうすると、ジャーナル、論文はどうなるかというと、過去、自分のものをみんな出しますというアグリーメントをとります。そうすると、各ジャーナルにサブミットされてきた論文は、全部そこを通して過去のものと一致検索をするというサービスをします。これによって圧倒的なプラットフォームになって、急成長して一極になってしまっています。
 これは、私が前回、著作権法の拡大制限規定をもっと機動的にと申し上げたつもりなのですけれども、こういうことが日本でできない中で、もたもたしているうちに、早くやったものが全部丸ごとできまして、大学におられる先生は多分わかっておられると思うのですけれども、学位論文は全部このソフトウエアをほぼかけています。それは難しそうに見えるのですけれども、今あるものとマッチングするのは難しそうに見えるのですけれども、コンピューターは意匠物をつくることができるぐらいですから、マッチングなど簡単にできてしまいますので、案外御安心いただいていいのではないかということもあります。
 こんなふうに論点がたくさんありまして、それと今の技術観がどんどんせめぎ合っていますので、どんぶり勘定で全部やると、どこを議論しているのかわからなくなってしまうので、少し整理しながら論点を絞っていったほうがいいのではないかなと思っています。
 以上でございます。

○福井委員 先ほど柳川先生のお話の中に、知財のあるなしにかかわらず起きそうなことと、そうでないことを整理したほうがいい。これは非常に同感でありまして、その視点は大事だと思うのです。もちろん知財のあるなしにかかわらず起きそうな萎縮とか、ビジネスモデルの阻害とか、こういうことも我々は感心を持つべきですけれども、ここでのテーマは、知財を与えることによって、あるいは与えないことによって、我々の文化やビジネスにどういう影響を与えるかということに最終的なまとめは集約されるべきだろうと改めて思いましたので、申し上げます。
 それから、もう一点、喜連川先生のお話が相変わらず大変面白くて、我々はここで主にAI創作物の話をしましたけれども、今のお話から幾つかヒントをいただいたとおり、AIは創作よりも恐らく先んじて、現行知財制度のエンフォースのあり方とか、そういうことにかなり大きな影響を与えるだろうということを感じました。例えば、似たものを探し出して検証するということは、現在もネット上では大変な人気コンテンツですけれども、こういうことというのはさらに大規模に行われていくであろうし、その延長上では、いわゆるトロールビジネスにこういうAI的なものは大いに活用され得るであろう。そうしたこと。
 田村先生がいつもおっしゃるトラレントユースですね。ある種の寛容的な利用というのは、発見されにくいし、エンフォースされにくいということが根底にあって、社会の中で守られてきた領域だと思うのです。AI的な技術あるいはプラットフォームビジネスの発達は、そういう社会の中の遊びの部分を、いい意味でも悪い意味でも狭めていく可能性はあるだろうということを感じました。これもまた、既に事務局の御発想の中には十分おありのような気はしましたけれども、今回、意識してもいいことかなと思いました。○中村委員長 ありがとうございました。
 本日は、冒頭、事務局から制度のポイントを整理してお出しいただいたのですけれども、それに対しては、皆さんからちょっと待てとクラッシュがかかったなと思っております。ただ、それは先ほど赤松さんがおっしゃったとおり、このままだと議論が進まないかなという面もあるのですが、仕方のないところかなと私自身、思っております。というのも、このような議論をきちんと政府で正面から取り組もうとしているのは、恐らく初めての挑戦でありますし、海外に指針のないことなので、白地に新しい世界を描かなければいけない。それは、来るべき社会をある種空想して政策に持ってくるという、ちょっと困難な作業であるということだからだろうと思います。
 その中で、冒頭、皆さんから指摘があったように、AIが創作というものを変えるのかどうかという時代認識が必要である。検証が必要である。これについても意見が分かれるところでありますし、またAIの可能性とか実態あるいは係数分類、さらなるビジネスモデルといったことを見きわめようというのも、これをタイムスパンとして5年後を考えるのか、2045年を考えるのかによっても変わってくるということだろうと思います。
 ただし、この次世代知財システムということで皆さん、お集まりいただいているので、次世代を構想する必要があるということは、恐らく一致していると思いますし、それはひょっとすると、現行法も含めて法体系全体を見直さなければいけないというところまで、我々、立ち入らなければいけないかと思うのですが、これをあと一、二ラウンドやっても、ぐるぐる回るかなという気もしておりますので、今回のこのラウンドでの議論をひとまず、このあたりにしたいと思います。
 もう一度整理させていただいて、これをより深掘りして、何らか我々としての方向性を定めようというのか、こういったさまざまな意見があったということにするのかというあたりを、事務局と一度相談した上でフィードバックさせていただくことにできればと思うのですけれども、いかがでしょうか。ひとまずよろしいでしょうか。
 本日は、あと2つテーマがあるものですから、そちらのほうにできれば移れればと思いますが、このAIのことで、何かこれだけは言っておかなければというのがありましたら。
 どうぞ。

○赤松委員 具体的にストーリーや絵柄を収集する。名前を出していいのかわからないけれども、Googleの支配を免れる方策を私は考えるべきだと思っていて、そのための権利とかを本当は考えたいと思っています。それを1個。このまま行くと、我々は負けるのではないかと思っています。

○中村委員長 ありがとうございます。
 またいずれ、これについて議論する機会は当然ありますので、もし本日、積み残しで、これがもっと必要だねということがあれば、後で事務局にお届けいただいても結構ですし、後ほどまた御発言いただいても結構ですが、ひとまず進んでみましょう。
 3Dプリンティングであります。これも事務局から資料の説明をお願いできますでしょうか。

○中野参事官補佐 それでは、資料1の続きでございます。4ページ、5ページと、3Dプリンティングに関する整理をしてございます。こちらに沿って御説明させていただきます。
 3Dプリンティングについては、御意見がある程度方向性が見えてきているかなというところを、整理する中で感じておりまして、意見を整理するとともに、それを踏まえると、まとめとして、こういうことではないかということを部分、部分でつけさせていただいております。こういった論点、まとめ方で過不足がないか、さらに検討すべき点があるかどうかというところを御議論いただければと思っております。
 それで、4ページ目の上からでございます。
 まず、分岐点として、最初にもともとのものに知財権がある場合とない場合ということで、2つ議論が分かれたかなと感じております。
 まず、もともと権利があるものを著作権であり、意匠権であり、保護されているものを3Dデータにした場合ということでございますが、基本的な考え方として、それについて、権利があるものをデータ化した時に、そのもとの権利が及んでいくということについては、余り違和感がないという大きな御意見の流れがあったかなと考えております。
 ただ、それを実際の法制度でどうするかといったところについては、引き続き検討が必要な点というところでございますが、意匠などの場合は、解釈上、3Dデータが物に当たるかどうかはっきりしないため、そういったところを今後明らかにしていく。必要なら立法的な手当てを検討していくということも必要ではないかといった御意見。
 あるいは、3Dデータに権利が及ぶとなった場合に、それが権利の対象の例外、例えば研究開発などについては、例外というところも検討が必要ではないかといった御意見があったかと思います。
 まとめというところで、矢印を書いた先でございますが、知財権で保護されている物を3Dデータ化した場合のデータの取扱いについては、現在の知財制度を前提とした保護を基本とする。特許法・意匠法については、どのようなデータがプログラム等に該当するのかは明らかにしていく必要があるのではないかといった方向であったと整理させていただいております。
 2ポツで、知財権がないもの、知財権で保護されていないものを3Dデータ化した場合でございます。
 こちらは、中で大きく2つに分かれているかなと考えておりまして、まず、実物を単にスキャンしてデジタル化しただけの場合ということでございます。こちらについては、単純な作業というか、単にコピーしただけということで、これについては、現時点で何らかの法的保護が必要とは考えにくいのではないかということが御意見の大半であったと整理させていただいております。
 5ページ目に行かせていただきまして、デジタル化する際に、単純なコピーではなく、工夫を加えた場合、あるいはゼロから3Dデータをつくった場合について、どのように考えるかというところでございます。
 ここについては、工夫を加えた、あるいはデータをつくった過程で何か創作性を加えたところについて、何らか付加価値が生じているということは、共通の御理解として御意見があったように整理してございます。その上で、もちろんそれを保護するかどうかというところは、明確な方向性までは出ておりませんが、仮に保護するとした場合については、プログラムと同視できることから著作物として保護する方法、あるいは隣接権等の新しい権利で保護する方法などの御提案をいただいたと整理してございます。
 また、3ポツ、4ポツについては少し各論になりますが、応用美術の取扱いについても御意見をいただいております。応用美術について、3Dプリンティングの世界で今より問題が出てくるのかどうかといったところの問題提起があったと整理してございます。
 また、プラットフォーマーについても、この場の影響に留意すべきというところでございまして、3Dプリンティングの普及等を念頭にプラットフォーマーの役割・責任のあり方について、今後検討していくことが必要ではないかという形でまとめを書かせていただいております。
 事務局からは以上でございます。

○中村委員長 ありがとうございました。
 では、この件について、コメント、意見などがありましたら、お出しいただければと思います。
 どうぞ。

○柳川委員 基本的なポイントはこれで結構かと思うのですけれども、1つ、デジタル化する際に工夫を加えた場合、又はゼロから3Dデータを制作した場合のことですけれども、これは、現行の延長線上、普通で考えると、プログラムと同視できるから、著作物として保護する方法というのが自然な形なのだろうと思います。ただ、先ほどから議論になったような次世代のということを考えますと、こういう新しいものが出てきた時には、新しいタイプの創作物に対して、それに合ったような適切な権利保護関係を付与していくということがこれからどんどん必要になってくると思うのです。
 それを、基本的に全部著作権で何とか中に入れられるからということでやってしまうと、結局そこを変えようとすると、全て著作権を変えられるのかどうかということになってしまって、機動力が落ちるというのでしょうか、それぞれにきめの細かい対応ができにくくなるのではないかと思いますので、立法作業として難しいかどうかというのは、また別問題なのですけれども、新しいものが出てきた時には、既存のものに何とか入れるという発想ではなくて、新しいものに合った権利をつくっていくという発想がこれからは必要ではないかと思います。

○中村委員長 ほかにいかがでしょうか。

○瀬尾委員 この整理で、私は今のところいいと思うのですけれども、基本的にこれはプリンターなのです。ここに書いてあることは、プリンターは、自分のコンピューターでつくった文書も出せるし、例えばスキャンした著作物もとれるし、全く平面の時と同じで、それが立体化されただけのような気がするのですよ。ただし、さらに立体になって応用範囲が広がりましたし、3Dスキャンということで、より緻密な複製ができるようになったというところに問題があるように思うのです。
 これは、余りに権利と義務で保護をかけてしまうと、逆に広範な利用については、市場とか新しいビジネスを阻害するような気が私はちょっとしています。非常に魅力的なツールなので、我々のこれまでの平面のコピーとかプリンターの概念と、管理とか著作権法的な扱いとかは行くような感じがしていて、さらにこんなにできてしまうから、今から何かしようかということについては、その保護も含めて、中間のデータをどこまで保護するかということも含めて、私は余り触らないほうがいい領域だと、前回も申し上げたかもしれないですけれども、そのような気がします。
 非常に個別にカスタムがつくれるわけですね。一人ずつの本当のカスタムがすぐにできるというのは、物すごい可能性があると思うので、これを著作権という非常に人の創意工夫をもとにした創作物みたいな枠にはめてしまうことの危険性というのを、感じます。
 もう少しこれの中で自由な利用というのが進んできた後に、何らかの権利保護と、それから利用の促進ということをもう少し突っ込んでいったほうがいいので、さっきのAIとは違って、これががんがん行くからといって、まずいことががんがん起きそうなことがあるとは私にはまだ思えないので、そのような扱いがいいのではないか。触らないというのも一つの判断かなと、積極的に触らないという判断もあるのではないかと、この件に関しては、私はそう思います。

○中村委員長 田村さん、お願いします。

○田村委員 今の瀬尾先生の御意見に大体賛成ですけれども、1つ、次世代。余り既存のことばかり言っていると怒られるような意見を。あえて少し長期的に、しかし、すごく長期でもない話で、事務局の本日のペーパーで抜けているところがあるとすると、3Dのプリンティングというものが普及することによって模倣が極めて容易になった時に、むしろ既存の知財の保護が十分かどうかということはあり得ると思います。
 具体的に言うと、例えば不正競争防止法2条1項3号の商品形態のデッドコピー規制は、現在、例えば3年ですけれども、もう少し保護を強化したほうがいいのか。それから、例えば意匠権の保護についても、保護期間は十分だと思いますけれども、サンクションを少し考えたほうがいいのかとか。僕は、今のところ、実証的なデータが出てこない限りは動かなくていいと思っていますけれども、もし次世代ということであれば、そのような既存の知財の保護に、保護する話ばかりではなくて、模倣のツールが促進したことによって、何か影響を与えるかということは、多分考えたほうがいいテーマだというのがまず1点です。
 次に、本日の事務局の話の流れで内在的な話をしますと、現在の知的財産法の建前というのは、ベースが全ての創作物で保護しているのではなくて、ぽつぽつと必要がある時に保護している。
 しかし、保護した時も、基本は例えば特許法でいきますと、特許権の対象である特許発明を利用する行為の全てが違法になっているわけではなくて、例えば69条で試験・研究、俗にリバースエンジニアリングと呼ばれているものは特許法ではセーフになっていますから、特許法の世界では従来、既存の市販されている製品を自分のライバル会社が研究所内で再構築してみて、それがどのようなつくりであるのか、どのような問題点があるのかということを研究所内でやる分には全くセーフだった。ただ、それの同じものを外に出すと、市場に出すと、そこで侵害になるという建前になっていたわけです。
 この3Dプリンティングというのは、そういう場面でも十分使われる可能性のあるものですね。だから、一律に3Dプリンティングを保護するという話をしますと、従来、試験・研究は自由にしていたところについて、ぽつっと大きな障害が出てくる。なぜか3Dプリンティングだけを避けた真似をしなければいけないというのは、非効率だろうと思うわけです。
 同じように、全く特許法が気にしていなかった分野というものがありまして、それは学術的に設計図が利用されることです。3Dプリンティングは、ある意味では設計図だと思いますけれども、その設計図自体に関して、事務局の前回の資料だったか、私の記憶が定かではありませんが、基本的には特許法に間接侵害という規定がありますけれども、従来の解釈ですと、特許発明、特許製品をつくるための設計図というのは、特許法の規制は及ばない。
 そこでは、1つは試験研究に使うことができるし、あるいは学術的に使う余地もあるので、基本的には、そこは特許法は考えない。ただ、それが著作物に当たる場合は、また別の話だよということになっていたと思うわけです。
 なので、3Dというのがあった時に、何か独自に保護するとしますと、そういったさまざまなところに支障が出てくることが大きな問題だと思います。そうなりますと、何が一番喫緊の課題かといいますと、結局、設計図などと違って、非常に迅速に再現することができる。
 だから、目的はいろいろとあるのですが、市販するという、特許法でも違法にしているような、あるいはデッドコピーとされているような、その目的に資するところに使えまして、しかもその使えた時に極めて迅速なツールで、それが何か侵害の範囲を広げたほうがいいのではないか。そっちの話だと思います。だから、3Dを保護するというよりは、既存の知財の中での保護を広げたほうがいいのではないかということになろうかと思います。ただ、その場合も、先ほどから申し上げたようにさまざまな用途があるので、侵害が容易になってくる。それに合わせた制度設計をしていく、あるいは主観的要件を加えるとか、何らかの必要があるのではないかと思います。
 また、最後になりますけれども、既存枠組みでいくと、基本的には侵害者のところに3Dデータが置いてあるところは、間接侵害の規定を広げるとか、何か必要でしょうから、あるいは主観目的がいろいろと要るかもしれませんが、かなり保護したほうがいいという話が出てくると思うのですけれども、問題はそのデータだけが流通するような場合で、そこのところは1つ、行った先で侵害されるのを待ってから抑えるのは、余りにもうろだとすると、何かの保護は多分必要だと思いますけれども、その時も、とにかくさっきから申し上げているように、さまざまな用途があることを勘案したほうがいいと思います。

○中村委員長 いかがでしょうか。よろしいでしょうか。ありがとうございます。
 では、この件については、今、いろいろと意見をいただきましたので、それも踏まえて、もう一段の検討を事務局のほうで加えていただいて、取りまとめの方向性を定めていただければと思います。これもまた、皆さんのほうにフィードバックをいたします。
 では、次の議題であります「国境を越えるインターネット上の知財侵害への対応について」に移りたいと思います。
 事務局から論点について説明をお願いします。

○永山参事官 それでは、お手元資料の資料2、横長のパワポの資料をご覧いただけますでしょうか。
 2ページ、3ページは第1回目に提出させていただいた資料で、2ページ目のほうは、インターネット上の不正流通が急増していること。また、リーチサイトのサーバが国外に置かれている場合などについては、現在の国を基本とした制度では対応が難しいという事例が顕在化・拡大していることを示した資料でございます。
 3ページは、知財侵害についてもさまざまな形態が出てきている。それぞれにどういう対応をしていくのかということでございます。
 4ページの2番がこのテーマに関する主な意見ということ。また、3番目が検討のポイントということで、論点をまとめさせていただいております。
 4ページの2.このテーマに関する主な意見。総論としては5つございます。
 諸外国同様、我が国も対応を強化すべきということ。また、著作権だけではなく、知財全体の問題であること。国外での対応をどうするのか。下の2つは課題ということで、膨大なコストの問題。また、規制が行き過ぎた場合の弊害の指摘というものもございます。
 5ページから、各論についての御意見ということで、1番は海外サーバの侵害コンテンツへの削除要請ということで、エンフォースを強化するために情報提供のあり方。また仕組みの整備について、必要ではないかという御意見がございます。
 2番、リーチサイトについては、取り締まることは極めて効果が高い。一方で、現行法制上の位置づけが明確でないことから、法的整理が必要ではないかという御意見がございます。
 6ページがサイトブロッキングについての御意見でございます。
 必要性に関する意見としては、自主的な解決では限界があること。また、削除だけではとても対応し切れないということから、有効な手段という意見がございます。
 また、下のほう、導入に対し慎重な御意見としては、通信の秘密、また名誉毀損・プライバシーなど、他の法益とのバランスをどうとっていくのか。また、費用対効果の問題。また、運営体制をどうするのか。一番下ですが、ブロッキングの対象となるサイトの判断というものが難しいのではないかという観点から、検討が必要という御意見がございます。
 7ページがそれ以外の各論ということで、4がユーザーへの啓発を進めるべき。
 5番がプラットフォーマーによる自主的な対応を進めるという御意見。
 6がそれ以外ということで、プロバイダによる情報開示を推進していくべきではないか。一番下が、米国型のノーティスアンドテイクダウンのような仕組みを検討すべきではないかということが、このテーマに関する主な御意見ということでいただいているものでございます。
 めくっていただいて、8ページ、ここからが検討のポイントということで、論点を5つに分けて、先ほど御説明した主な意見に対応する形で整理させていただいております。
 論点@が総論ということで、更なる対策の必要性と対象について、どう考えていくのかということで、これまでも対策は講じてきたわけですが、現時点で改めて対策のあり方を検討する必要性についてどのように考えるかという点。2つ目のポツが、対策を強化する場合、何をターゲットに考えていく必要があるのかということが総論としての論点でございます。
 論点A以下が各論ということで、論点Aが、海外サーバ上の侵害対策対応ということで、海外にサーバが設置されている場合の権利行使について、より効果的に実施していくために必要と考えられる方策は何かということで、例として2つ挙げていますが、1つが国内法の適用関係の明確化。2つ目が、海外サイトに対する申立ての仕組みの整備ということでございます。
 国内法の適用明確化の関係の資料として、9ページに不正競争防止法の例。また、個人情報保護法の例を挙げさせていただいております。
 また8ページに戻っていただきまして、リーチサイト対策につきましては、リーチサイトへの対応について、どのように考えるのかということで、※印にございますが、現行法上は著作権侵害として法的措置を取れるかどうか必ずしも明確ではないということで、10ページをご覧いただけると、リーチサイトに関する判例ということで、@、Aの2つがリーチサイトによる侵害を肯定した事例ということで、@が名誉毀損、Aが児童ポルノということで、リーチサイトについて権利侵害を認めた例というのがございます。
 また、一方で否定した例ということで、これは著作権で実際の侵害の対応に照らしてということだと思います。著作権だから否定されたということではないと思いますけれども、著作権に関するリーチサイトについて、侵害を否定した例。本人の対応に照らして、幇助には当たらないとした例がございます。こういうことで、裁判などで認められている例がありますけれども、法的には現行法上の取扱いというものは必ずしも明確ではないということを踏まえて、どう対応していくのかということが論点の3つ目でございます。
 11ページ、論点Cはサイトブロッキングについてでございます。これについては、導入が必要という意見もありますけれども、それについてどのように考えるのかということで、12ページが現在、児童ポルノについて、サイトブロッキングの枠組みが整備されておりますが、その関係の資料。右下のほうがブロッキングの対象にするかどうかの判断基準ということで、目的、数量、同一性、代替手段の不存在という3点から、ブロッキングの対象にするかどうかというのが現行では判断されているということでございます。
 一方、13ページでは海外の動向ということで、2001年、これは欧州著作権指令がございまして、それを受けて、イギリスでは2つ目の◎にございますが、2003年にサービスプロバイダへの差止め命令の制度化が行われております。
 ただ、2つ目のポツにありますように、民事裁判所への申し立てが必要とされているということでございます。
 3つ目の◎、アメリカでございますが、アメリカでは2010年から、侵害サイトのドメインについて差し押さえをすることによって、アクセスができなくなるようにするという取り組みが行われているわけでございます。
 11ページにもう一度戻っていただきまして、そういった諸外国の状況を踏まえて、我が国としてどう考えていくのかということでございますが、その際、論点として、先ほど慎重な意見ということで御紹介いただきましたが、ブロッキングの実効性について、どう考えるか。実施体制をどうしていくのか。対象となる侵害行為をどう特定していくのか。また、法的な位置づけ、他の法益とのバランスについて、どう考えていくのかという点から検討する必要があるのではないかと考えております。
 論点Dは、その他の対策ということで、それ以外、取り組む対策として何かあるのではないかということで、例としてインターネット広告の抑制。そういうことによって抑止効果、負のインセンティブを課す。また、啓発の促進、プラットフォーマーによる自主的な対応促進を図っていくということが考えられるのではないかと考えております。
 資料の14ページ以下が現行制度上の取り組みということで、この後、CODAのほうから御説明いただきますので、資料の説明は省略させていただきます。
 事務局からは以上でございます。

○中村委員長 続いて、この論点に関連して、今、御紹介ありましたCODAの後藤専務理事にお越しいただいていますので、プレゼンをお願いしたいと思います。

○後藤参考人 後藤でございます。本日は、貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございます。
 それでは、早速でございますけれども、「国境を越えるインターネット上の知財侵害への対応に関して」ということで、CODAのこれまでの対策。それを踏まえまして、政府への御提案というのをさせていただければと思います。
 まず、CODAのオンライン侵害対策についてでございますが、「一定の成果を挙げるが……」としております。
 これがCODAで実施しております、CODA自動コンテンツ監視・削除センターでございます。プレーヤーが3ついます。一番左に権利者、真ん中にCODAの監視・削除センター、そして動画共有サイトになります。いわゆる動画共有サイトに侵害の動画がアップされるというのは、こちらにサイト名がyoukuからずっと書いてあります。これを対象にしております。中国、韓国、フランス、アメリカのサイトがあります。
 これらのサイトには、大体、テレビ放送から動画が抜かれて、テレビドラマ、バラエティー、音楽、アニメが無許可にアップされるところであります。それに対しまして、権利者が違法動画を削除したいという作品に関して、その作品の動画のデータをCODAに御提供いただきます。CODAは、その映像データに基づきまして、照合用のシステムをつくります。それはフィンガープリントと呼ばれるもので、いわゆる画像の特徴を抽出するわけであります。
 一方、CODAは、さらにこちらのサイトを対象に、当該コンテンツの違法動画をキーワードで検索して探しています。例えば「NARUTO−ナルト−疾風伝」とキーワード検索します。それでヒットした動画を全て持ってきます。それで、先ほどのフィンガープリントと、それらの動画をマッチングさせます。それで、それらがヒットしたものについては、権利者のほうにお戻しして、「これが、あなたたちが消したかった動画で、これを消すのですね」ということで確認を求めます。権利者のほうは、「そうです、これを消してください、削除してください」という意思のものとで動画サイトに削除を要請します。
 CODAは権利者から削除要請をもらいまして、各サイト別に仕分けをいたします。仕分けをいたしまして、動画サイト別に削除要請をお渡しして、動画サイトは要請の対象となった違法動画を削除するということであります。おかげさまで、経済産業省様、文化庁様等々の御支援もいただきまして、国同士の政府機関とのお話し合いもありまして、このような形で98.15%の削除率で削除が行われているという状況でございます。
 一方で、被害の現状でございますけれども、「より早く!より巧妙!より潜在的!そして営利目的に進化!!」と、次のフェーズに移りつつあるということであります。
 皆さん、御承知のように、日本の地デジ、BS、CSといったデジタル放送は、いわゆる暗号化技術が施されているところでございます。しかし、今日は、様々な方法を使って、簡単に暗号が外されて、すぐにオンライン環境にアップされる状況にございます。いわゆるサイマル放送も可能です。若干遅れるだけで、すぐに放送されます。将来、ワールドカップラクビー、オリンピックの時になりましたら、この問題がまた大きく顕在化するのでしょうが、現況においてもいたちごっこであり、ブロックをかければ、それをすり抜ける方法が出てくるというのが現状でございます。要は、より早くなっているということです。
 次に、より巧妙ということで、先ほどフィンガープリントで照合すると申しましたが、そのフィンガープリントの特徴を逆手に取り、フィンガープリントをすり抜けてしまうという状況がございます。
 そして、次により潜在的ということで、先ほど私は、キーワード検索で違法動画を発見するというお話をしました。キーワードに「NARUTO−疾風伝」とかですね。しかし、このサイトのケースでありますと、題名、そのキーワードに当たるものが存在しないということになります。
 では、なぜ一般ユーザーがこれを見られる、見つけられるのかということですが、リーチサイトの存在であります。「アニメ 無料」とか、それをキーワードに検索をかけますと、ここに「アニメ無料動画」とありますけれども、FC2のブログですが、リーチサイトです。字が小さくて見えにくいのですが、そこに題目が書いてあるのです。「NARUTO−疾風伝193話」とか。それをクリックすると、次に動画がある場所に飛びます。それで、先ほどのキーワードのついていない動画を見ることができるという形です。すぐに見つけられます。
 これらは何で運営していけるのかというと、リーチサイトは侵害動画を蔵置はしていません。彼らはリーチしてくるだけなのです。そして、広告でお金もうけをしているサイトであります。営利目的ということであります。
 このリーチサイトでございますけれども、2012年に電気通信大学が調査した結果によると、リーチサイト経由の侵害動画とリーチサイトが張られていない侵害動画ということで、一番上を見ますと、データ数でリーチ経由が976でございまして、下が5,364です。ただ、こっちを見ていただきまして、視聴数、見た実数ということになると、上が4万2,924ということで、62倍。その下に行きますと311倍ということで、今やリーチサイトを介して侵害動画を視聴するという流れになっているということです。
 さらに、iPhone等々におきましてはアプリがございます。アプリをインストールすることによりまして、それを開きますと、アニメの題名があり、それをクリックすると、すぐ侵害動画に行き着くということです。このアプリについても、下に掲載されています広告で収益を得ているということであります。営利を目的にアプリなりリーチサイトが運営されているというところです。
 CODAの対策の限界事例の御紹介ということで、無法状態が蔓延するオンライン環境ということであります。
 先ほど来、リーチサイトの話をさせていただいておりますけれども、このリーチサイトに対しまして、リンクを切除しろと私どもも削除の要請をしているところでございますけれども、一例として4サイトを見ますと、ほとんど無視されるという状況です。まず、何も反応がない。たまに回答はしてきますけれども、「何の根拠ですか?」という回答ですね。法的な裏づけがないと日本の場合、無視されてしまうのが現実ということです。
 次に、国境をまたがる侵害サイトの例でございます。オンラインの公衆送信権侵害の例示もございますけれども、今回はちょっと古い形態ですが、単純かつ大胆な犯罪ということの一例でeコマースを御案内させていただきたいと思います。この当該サイトは、商品の発送元は中国から発送されます。サーバは中国国外で、銀行口座は日本です。いわゆる日本の消費者向けのeコマースサイトです。
 これが今日でございますけれども、一例として、日本のテレビドラマというのをクリックしますと、このような画面が出てまいりまして、テレビ放送が終わったら、クールが終わったら、それがパッケージとなってボックスとして発売される。さらに、日本で正規品が発売される1カ月以上前から発売されているという状況です。
 このほかにもありますけれども、みんな日本の消費者向けですから、日本人向けのコンテンツということになります。
 ここにございますように、現況も開設していますので、さらに、さきほど例示したコンテンツは売り切れということで、非常に売れていると思っていますので、相当な額が入っているのだろうなと思っているところであります。
 それに対しまして、私どものアクションですが、2012年に中国の剣網行動というのがございます。これは中国政府の関係4機関でインターネット上の知的財産権侵害を取り締まるキャンペーンでございますが、先ほどのサイトについては2012年に情報提供を行っております。さらに、2013年6月の第9回においては、中国の代理人弁護士を介しまして、正式に行政処罰の申し立てをしているところであります。
 その後、現在までですが、3カ月に一度ほど、中国を訪問しまして、この件はどうなりましたかということで、私どもから早期捜査をしてくださいというお願いを都度しています。しかし行政処罰には至っていないという状況でございます。非常に弱った、まいったなと、単純かつ大胆な犯罪がこうやって成り立ってしまっているという状況でございます。
 こういった経験も踏まえまして、政府への御提案でございます。3つございます。
 まず1つが、リーチサイトへの対応ということで、違法コンテンツの拡散を助長する目的をもって、著作権・著作隣接権を侵害するコンテンツであることの情を知りながら、当該コンテンツにリンクを貼って公衆を誘導する行為を、著作権法を改正して、113条のみなし侵害として、著作権等侵害行為であることをはっきりしてくださいということです。最初に、違法コンテンツの拡散を助長する目的ということで、明確な目的を持っている。SNS等で軽くつぶやいたというのは対象にせずに、先ほどお見せしたような、誰が見ても目的を持っているというものを対象にします。
 これに対して、著作権・著作隣接権を侵害するコンテンツであることの情を知りながらということで、私どもから当該リンクサイトに警告をします。それにもかかわらず、リーチサイト行為を続けるサイトにつきましては、みなし侵害ということで明確に立法化をしていただきたいというお願いであります。
 これがもし仮に文化庁様の御尽力によって法改正となった暁には、権利者としても広報・啓発をしたいと思っています。それで、日本の運営者というのはかなり減ると思います。さらに、警告を幾らやってもらちが明かないものについては、警察庁様の御指導をいただいて、都道府県警察に検挙していただくということになれば、リーチサイトの日本における運営者というのはほぼいなくなると私は思っております。
 次でございますが、国境を越える悪質侵害サイト対策ということで、サイトブロッキングの運用であります。日本コンテンツの著作権・著作隣接権を大量に侵害しており、権利者からの削除要請に応じることがなく、かつ権利者にとって有効・適切な法的措置を講じる手段のない海外サイトに対しては、サイトブロッキングを運用するということで、運用のお願いでございます。
 サイトブロッキングにつきましては、法制面・運用面等々、いろいろ議論のあるところでございまして、法制面につきましては、先ほど例にございました児童ポルノの件で、政府及び関係者の皆様に非常に御尽力いただいたところでございますので尊重し、法制面とは別に、次に私どもが考えなければいけないのは運用面・効果面であろうかと思います。
 ISPさんの協力を得られるような運用ができるのか否か。ISPさんの場合はインターネットコンテンツセーフティ協会等々をおつくりになって、それぞれのガイドラインづくり等々、御苦労されているところでございまして、コンテンツホルダーとしてもそれができるのか否かという面がございます。
 また、効果面・実効面ということに関して言えば、サイトブロッキングは伝家の宝刀ではないということもございます。例えばドメインを変更した場合とか、IPアドレスを直打ちした場合はつながってしまうという問題があります。したがいまして、この運用面・効果面・実効面を含めまして、関係省庁様、文化庁様、総務省様含めまして、さらにはISPの皆様と今後議論ができまして、運用というものが進められればと私は思っております。
 最後でございますけれども、オンラインの広告の問題であります。権利侵害動画の配信は、いまや無償の愉快犯ではなく、広告収入を見越した営利目的だと言われています。このため一歩間違えれば犯罪者・犯罪組織への資金提供に繋がるオンライン広告の実態について調査し、必要な対策について検討するということで、先ほど来申していますように、侵害サイト、今や非営利無償ではございませんで、広告により営利を追求しているというのが顕在化しております。これで犯罪の組織への資金提供等々にもなり得ます。
 さらには、産業の育成といった面からもゆゆしき問題だと思っておりますので、この点につきまして、警察庁様を初め、経済産業省様、関係省庁の皆様にこの実態を調査していただいたうえで、必要な対策といったものについて御検討いただきたく、お願い申し上げたいという点でございます。
 以上3点でございますが、政府の皆様への御提案ということをさせていただければと思います。以上でございます。

○中村委員長 どうもありがとうございました。
 本件は、本日と次回、2回にわたって議論することにされているのですけれども、本日のところ、事務局から説明があった論点とか、今、後藤さんから問題提起いただいたことなどについて、疑問点、論点などをお出しいただければと思います。いかがでしょうか。質問でも、コメントでも結構です。
 では、瀬尾さん。

○瀬尾委員 CODAさんの活動については、私も十分認識しています。マンガ・アニメ・ガーディンアズという経済産業省さんのものがあって、これもリーチサイトを撲滅するということで、私が関係しているJAPACONでもしているのです。ただ、基本的に海外での侵害対策というのは、もぐらたたきももちろん必要なのだけれども、必ずまず流通促進を強く押すというところが非常に重要だと思っています。
 ただ、そうは言っても、こういう侵害対策をしなくてはどうにもならないので、両方をセットでやっているということなのですが、特にこれまでのパッケージの侵害から、いわゆるネットの侵害に移った時に、いわゆるリーチサイト、つまり、これまでは侵害サイト1個があって、コンテンツが載っていたのが、インデックスと中身が分かれているような状態ですね。つまり、リーチサイトはインデックスだけだから、別に名前が書いてあるだけです、リンクだけです。本体は別に置いてあるわけですね。でも、これによって逃れている。
 マンガ・アニメ・ガーディアンズをやった時に、このリーチサイト対策というのは非常に効果があったと私は認識しています。ただ、これはいわゆる抜け穴なので、私はこれはかなり強く進めていかないと、こういうふうにいろいろなことを組み合わせていって、世界中に散らばしていくと、もうどうにもならなくなるというのが、本当に現実としてあると思いますので、これについては進めるべきと思います。
 2つ目のサイトブロッキングですけれども、これについて、ネットの本質的な方向性。つまり、世界中とつながって、世界中といろいろなものを共有していくというネットの基本的な方向性と、ややバッティングする手段だと思います。効いた場合には、すごく効くのだけれども、なかなか効かない場合もある。ただ、これは最終兵器的な考え方で、本当に効くような方法があれば考えられると思いますけれども、表現の自由とか、いろいろな問題がありますので、個別に判断していくべきと思います。
 3つ目の広告ですが、これについてはたくさんあるのだけれども、実態がわからないというのが正直なところです。私は、広告については、かなりブラックな部分だと思うので、これについては本当に調査や何かを進めて実態を把握することが、まず重要かなと。私も正直、たくさんあるのは知っていますけれども、実態はよくわからない。誰がもうけているのかがわからない。これが誰がもうけているのかがわからないと、基本的には絶対なくならないということがあるので、インターネットの対策については、ともかくリーチサイト中心に複雑に組み合わせていくところを今やっていかないと相当厳しいというのが、私もかかわらせていただいた実感です。
 ただ、正直、これと同時に、正規版をいかに早く流すかということも一緒にやっていかないと、侵害対策だけでは、これは半分というのも正直なところです。これはクールジャパンの重要な施策ですので、両方、バランスのとれた形でやっていくことが重要だというのは実感としてありますので、後藤さんのつけ加えみたいになりますけれども、最初にその辺のところを申し上げておきます。

○中村委員長 福井さん、お願いします。

○福井委員 瀬尾さんのおっしゃることに、とても同感なのです。私もこう見えましても、海賊版対策はかなり日常的に業務で行っておりますが、リーチサイト、確かに極めて深刻です。そして、情報開示を求めても、これになかなか応じてもらえず、切歯扼腕するということは日常茶飯事。また、流通する海賊版の量も、恐らく我々全ての想像力を上回るような規模で行われていることがまた実態だと思います。その意味で、CODAさんの御提案、事務局の精緻なまとめ、ともに大変感じ入って聞きました。
 御提案のその1、リーチサイトへの対応ということで、みなし侵害の導入ですけれども、当然ながら、恐らくこれは非常に大きな論点になるだろうと思うのです。一方においては、ここに書いていらっしゃるような要件を全て満たすならば、それは極めて実際目の当たりにしている悪質な行為の典型そのものですので、こうした対策の必要性というのはよくわかるところです。
 しかし、他方において、率直に言えばこのメニューは炎上するだろう。いわばリンクは自由である。なぜならば、情報を照会したのみであるからという、これまでの著作権法の根幹に大きく触れてしまい、実際、書かれたとおりの要件で本当に運用できるのかという批判を招くことは、恐らくは間違いないだろう。その意味で、非常に難しい判断だなと思います。
 ここで申し上げたいのは、この政策が仮にうまく機能するとしても、国内リーチサイトにしか直接的には効果を持たないものであり、より本質的で、より重要なのは、現在、情報開示に必ずしも積極的に応じてくれない各プロバイダに、情報開示への積極的な協力を国内外挙げて求めること、あるいは捜査への積極的な協力を、国内外を含めて求めていくこと、こういう運用面であろうといことを、まず第1に感じました。
 2つ目です。瀬尾さんがおっしゃったマンガ・アニメ・ガーディアンズ、MAGにおいても、3つの柱の一つに挙げられていた正規版の流通ということです。仮にある国から海賊版を一掃したとしても、それだけでは別にめでたいことでも何でもないのです。その国のユーザーたちが、単にその作品に触れる機会を損失するというだけのことです。恐らく、他の安価でアクセスしやすいコンテンツに日本コンテンツは座を奪われてしまうでしょう。よって、同時にリーズナブルな価格で高質な正規版が提供されなければ、海賊版退治というのは虚しいわけであります。よって、正規版の促進。
 そのためには、権利処理の容易化。この場でも何度も議論されている著作権における権利処理コストの低下、このことに真剣に早急に取り組むべきだと思います。
 最後に、オンライン広告問題に関連して、広告の実態を知ることが重要だというのは、全くそのとおりだと思うのですね。これまでの海賊版対策の議論を全て飛ばしてしまうかもしれないほど、プラットフォームビジネスの変化というのは早い。これは、まさに赤松さんが先ほど第1部の終わりにおっしゃったこと、全くそのとおりであります。昨年10月、You TubeはYou Tube REDという新しいサービスをアメリカでローンチいたしました。これは、それ以前、Music Keyと言われた、いわゆるYou Tube有料化プログラムです。
 どういうものかというと、You Tube上の全ての動画を対象にして、これを広告抜きで自由に視聴することを、有料の契約を結んだユーザーには許す。そして、そのコンテンツは全てダウンロードも可能にする。さらには、3,500万曲と言われるGoogle Play Musicの曲も全て聞き放題とするという、有料サブスクリプションサービスですけれども、特徴は、これを行うためには、各コンテンツホルダー、権利者との間で契約を当然You Tubeは交わすわけですけれども、その契約においては、アップされた動画の削除というのが極めて困難な条項になっています。
 つまり、サブスクリプションサービスに参加して、動画をYou Tubeで流す。そのかわり、ユーザーがアップした動画、人々がアップした動画に対しては、マネタイズすることは許すけれども、削除することは許さない。これが新しいGoogle、You Tubeの打ち立てたルールです。そして、現在、このYou Tube REDへの契約参加率は、全コンテンツホルダーの99%とAPでは報道されています。間もなく日本でもローンチの予定と言われており、現に日本の音楽レーベルなどは、この契約を突きつけられています。
 ちなみに、この有料化プログラム、You Tube REDのプログラムに参加しない場合、何が起こるかというと、公式動画は全て削除されます。つまり、You Tubeからは締め出しです。プラットフォームは、基本的にこのようなビジネスモデルをとりますので、その力は大変強いものがあります。つまり、海賊版というものはもう存在しないというレベルのビジネスを、既に構想し、実行に移しているという時代への対応も同時に考えていかなければいけないのではないかと思います。

○中村委員長 赤松さん、お願いします。

○赤松委員 漫画家の赤松です。
 政府への御提案のところですけれども、リーチサイトへの対応でMAGプロジェクトと言うのですけれども、これの知っているところは1個も潰れていないですね。
 国境を越えるサイトブロッキングに関しては、IPとか、いろいろなドメインはすぐ変えるので、効果はないですけれども、私は3番の2次創作同人誌などのダウンロードサイトは、オンライン広告、昔、DMMがほとんどだったのですけれども、これはなくなりましたね。これは効くのです。広告を出さなくなると、やれなくなってしまうから、現場ではすごく効果があったのです。
 もし、この上にさらに4番があるとすれば、「マガジン」の海賊版。「マガジン」は水曜日発売なのですけれども、その前の週の土曜日に中国語版があるのです。正規版というものは、「マガジン」は水曜日だから、水曜日にしか出せない。だから、海賊版には永久に勝てないのです。海賊版のほうが4日先に出るから。これに関して、私が考えているのは、海賊版をスキャンしてトランスレーションするスキャンレーションに関しては、意外と彼らは翻訳に愛があるのです。プロの翻訳者よりも、前の作品を読んでいたりして伏線を使っていたりして、結構翻訳に愛があって、前作との関わりとか、いろいろな訳がうまいことがある。
 Crunchyrollなどは、もともと海賊版サイトだったと思うのですけれども、たたくばかりではなくて、彼らと手を組んで利用するという形で仲間になっていくというのが、4番があるとすれば、そんな感じかと思います。あと、広告と手を組む。潰すばかりではなくて、そういう形で回り道していく手もあると思います。
 以上です。

○中村委員長 田村さん、お願いします。

○田村委員 既に各委員からの御意見でほぼ重要なことが尽きていると思うので、ちょっと細かなことで。
 事務局から配付された資料について、10ページですか、「リーチサイトに関する判例等」ということで、先ほども少し福井先生の議論がありましたけれども、リーチサイトという言葉が非常に多義的に使われて過ぎていると思うのですね。それは要らぬ不平というか、批判を何か提案すると浴びるという状況になっていると思います。
 ここでも少し心配なのが、後ろのほうに「リーチサイト(知情性なし)による侵害を否定した事例」。「知情性なし」と入れることで、少し射程を限定しようと思われているのではないかと思うのですけれども、実際の事案は普通で言う意味でのリーチサイトでは全然なくて、リンクを1つか2つ、とにかく1カ所についてリンクを張っただけで、しかも目的は、こんな変な行為をしているやつがいるではないか。しかも、アップされているものも、御本人が撮った動画が、認定は入れているみたいですけれども、ストリーミングは御本人がしていたのを、誰かがそれを恒常的にアップロードしたケースで、外から違法とは全然わからない。むしろ、適用ではないかと思われるケースです。
 だから、さまざまな意味で、これをリーチサイトという名前で出すと、こんなところまでリーチサイトにしている資料なのかという批判を浴びるような気がします。これは、あくまで普通のリンクについて、しかも違法ともわからないリンクですね。裁判所もそのようにきちんと名言されているので、絞る必要がかなりあるのではないか。
 その上で、あとは必要性ももちろんありますから、福井さんがおっしゃるとおりで、ターゲットに従っているものを捉えるような形での要件化の、法技術的な問題だという気がします。単純なリンクは、いろいろな意味でセーフにすべきだと私は思います。仮にそれが違法なコンテンツであっても、一つ二つのリンクでは、このインターネット上の違法著作物は幾らでもあるわけで、個人著作物を含めて、過去の、誰も、CODAさんも含めて権利行使を考えていないようなものについてのリンクまで一網打尽にするようなことは、これは大きな問題だと思います。だから、何かの定義の問題で、そこは法技術の問題だという気がしています。
 さらに、サイトブロッキングも、インターネットが世界中からアクセス可能な状況で、著作権法は、原則は属地主義にどうしてもなっている。もちろん、それにしても、知財学会ではどうかわかりません。最近のはやりの国際私法の通説では、日本向けであることが明らかなコンテンツのものは、海外サーバによっても日本著作権適用と普通考えると思いますけれども、適用できても絵に描いた餅になるというのは、もちろん執行にところの問題ですから、サイトブロッキングはもちろん必要だと思います。だから、あとは、ほかにもう手がない。外国にあって、実行するためにはそれしかないのだといった要件化の問題のような気がしています。
 以上です。

○中村委員長 水越委員。

○水越委員 田村先生に大分言っていただいたのですけれども、私もリーチサイトのところで、今までの議論はリンクというところとの、福井先生も御指摘でしたけれども、要件化のところで、話が広くなり過ぎてしまって、単にリンクを張るという行為まで違法にするのかということと。
 本日御提案があったものについて、田村先生は法技術的なお話ということをおっしゃっていましたけれども、真っ黒なものについて、その必要性が明らかにあるという被害実態について対応するために、どういう要件にするかという検討が引き続き必要ではないかと思います。
 あと、オンライン広告のところでも、被害、特に悪質なところにお金が流れているのかとか、それについて、事業的に考えて、どういうふうにとめたり、とめなかったりということが有効なのかという検討が必要だと思いますので、相手側ももうかるからやっているというところに対して、どういうところをとめていくのかという検討をしていくことが必要ではないかと思います。
 以上です。

○中村委員長 柳川委員。

○柳川委員 皆さんがお話になったことと重なるのですけれども、この話の難しいところは、真っ黒な悪質なものだけうまくたたくようにしなければいけないのだけれども、下手をすると、そういう小さな案件までたたくことになってしまう。逆に真っ黒だったり、本当に悪質なものは実はたたけなくて、そこはかなり抜け穴になってしまうという、本来の目的がうまく達成できない可能性が結構高いので、そこは非常に悩ましい問題だと思います。
 小さなところというお話は、今、続けてお話があったので、私は先ほど福井先生のほうからお話があった、グローバルな国境をまたいだ話になってくると、今のところは、実はどの政府よりもプラットフォーマーのほうが、執行エンフォースメントがうまくできてしまうという構造が、とりあえず次世代の話を考えた時は大きなポイントになる気がいたします。
 そこの問題をどういうふうに考えるのかというのは、政府としてもかなり考えるべき大きなポイントだという気がいたしますので、現状、日本において、グローバルなプラットフォームはないという実態を、このままと考えるのか、あるいは育成するのかということも含めて考えないと、グローバルを本質的につかまえる、あるいはうまくコントロールことが日本としてできなくなってしまうおそれもあるだろうと思います。ここは、答えがある話ではないと思いますけれども、私はポイントとしてぜひ挙げていただきたい点です。

○山口委員 先ほどのAIの話も3Dプリンティングの話も、また、この「国境を越えるインターネット上の知財侵害の対応」の話に関しても、本委員会で繰り返し出てくる論点は、現行法の延長線上で考えるだけでよいのだろうか、ということです。本委員会は、次世代の知財システムという「大きな話」を構想しようという意図を組み込んで設定された議論の場であると存じますので、そうした次世代のシステムとして何があり得るのかというアイデアを積極的に出していくことが、極めて重要と思います。
 そこで、まずは「国境を越えるインターネット上の知財侵害の対応」に関して申し上げますと、今まで先生方がおっしゃったように、基本的に、この分野では一部の悪質な知財侵害の事案についてより一層踏み込んだ対応が必要であるということ自体は、一般論では特に異論はないと思います。例えば、ここでの資料には「リーチサイト」と書かれていますが、いわゆるリンクの話、それからブロッキングの話に関しても、ある意味では、より実効的な対応手段として今後にとり得る選択肢のメニュー自体は、現行法の延長線上ですでに論じられてきたと言えます。ただ、繰り返し指摘されているように、例えばブロッキングの措置でしたら、そこで互いに対立する諸利益間の調整において難しい問題もあります。また、そうした対抗利益間の調整における具体的なバランスのとり方をめぐっては、ここ20年程のスパンで見ても、トレンドないし波があるように思います。それだけに、ここに書かれている措置をさらに一歩進めることには、なかなか難しい諸利益間の調整が必要になるかと思います。
 特に、事務局からご用意いただいた資料2の中でも、本委員会の第1回資料でもある3ページ目に関して、仮に、今後、悪質なサイトに対してより一層強い対応措置を講じるという際に、その要件を論じるにあたって、コアになる対象範囲をどこに設定するかによって、議論の結論はかなり違ってくるように思います。例えば、この3ページの右下の「二次創作」や「パロディ」の話なども、ここでの対応措置の対象になり得るとなると、例のTPPの非親告罪化の関係で、対抗利益間の調整が前に進まないということになりかねません。
 ここで改めて、先ほど申し上げました、本委員会での新しいアイデアとして何が出せるかを考えますと、具体的には難しいのですけれども、より広い視野をもって関係領域の議論と結びつける形で、特に新しい技術開発やグローバル競争の中での制度設計に向けて、日本政府がいかにして先見的ないしプロアクティブな措置をとり得るかということについて、少し私の考えを述べたいと思います。
 例えば、先ほどのAIの話と今回のネット上の知財侵害への対応策の話を結びつけて考えてみますと、AIの話については、タイムスパンをこれから遥かに先の未来の話として設定して、権利主体のみならず責任主体ともなりうるかといった議論をしても具体的な結論は出しようがないのですが、ここ数年間のスパンで政府がとり得る措置に焦点を当てるとすれば、議論の射程に入り得るものの一つして、検索エンジンのアルゴリズムが挙げられると思います。検索エンジンのサイト上で何らかの検索語をユーザーが入力して、アルゴリズムに基づいて最適なものを出すというサービスは、入力の内容によって自己学習して、どんどん最適化していくという意味では、前回からのAIの話に割合近い形ですでに現実となっているビジネスモデルの例であるように思います。こうした検索エンジンのサービスを提供する事業者やプラットフォーマーに関して、前回の本委員会で触れた、AIに関する権利・利益を享受する主体と責任を負う主体は基本的にセットとして論じられるということで言えば、一部の諸外国においては、これまでのプロバイダやISPの責任の論点よりもさらに一歩踏み込んで、例えばEU法における「忘れられる権利」ないしは検索エンジン事業者の個人データ削除義務の論点についても、諸々の対応が進んでいるところです。
 ちなみに、例えば、資料3の3ページの「オンライン対策」の左側の図の真ん中にある「海賊版動画照合システム」も、ある意味では、先のようなアルゴリズムの応用例と言えるかもしれません。かなり技術の発達した段階では、入力した内容をしかるべきものと照合して、自動的にしかもチューンアップの精度の高い形で判断が行われるでしょうから、一部の悪質なものは明確かつ即時に判断できるかもしれませんが、例えばパロディを機械的に判断することには難しい問題もあるように思います。
 先ほどの検索エンジンに関して言えば、海外の関連分野の研究者等と話をしていますと、画像を判断する技術が急速に進んでいること、そして、そこでは技術それ自体が進歩したというよりもむしろ、そこでのチューンアップの精度向上のための自己学習を支える照合データを、どれだけ大量にバックに囲い込むことができるかが重要となること、などが窺えます。先に喜連川先生がおっしゃったように、論文盗用・剽窃について判断する上でも、いかにしてそのバックに関連するデータを抱え込めるかによって、ある意味ではその技術の出来映えが決まってくるという面もありますので、そうしたデータをどこまで集められるかといったことは、著作権等の知財の話のみならず個人情報保護の話なども複雑に関連してくると言えます。
 さらに加えて、資料3の16ページの「オンライン広告」に関連して、いま少し私見を述べますと、先に触れたEU法の下での「忘れられる権利」と検索エンジン事業者の個人データ削除義務に関しては、広告によって経済的な利益を得ているといったことも考慮しながら、それ相応の責任について論じられているところですので、今後、日本でも、ネット上でのcookieに関するユーザーの同意や行動ターゲティング広告をめぐる制度的対応のあり方などといった、知財のみならず他の関連領域での議論動向にも目配りしておく必要があると思います。
 このようなEUなどでのネット関係の議論の動きも踏まえつつ、前回から議論しているAIに関する権利・責任主体のあり方や、今回の知財侵害への対応のあり方を考えるにあたっては、特に、先ほどのような新しい技術開発を後押しするとともに、グローバル競争の中での日本の次世代の制度環境やシステムをつくるために、この委員会らしいアイデア、ないしはここでの議論を進めていく上での基本的なスタンスを、より前面的に打ち出せるとよいと思います。

○中村委員長 上野さん、お願いします。

○上野委員 後藤さんがいらっしゃる時に、2つお伺いしたいことがございます。
 1つは、リーチサイトに対して削除依頼をなさっているというお話がございましたけれども、我々が目にしているリーチサイトというのは、どこにあるものだと理解すればよろしいのでしょうか。サーバとか運営者というのは、国内にいるのかということです。これによって、法的な対応も変わってき得るからお聞きする次第です。
 2点目は、最初にお話になった自動コンテンツ監視・削除センターというところで、マッチングして権利者に照合して結果をレポートした後に、削除依頼要請があれば削除依頼するということかと思いますけれども、権利者の中には、このコンテンツは削除しなくてもいいということがあるようにも思うわけですけれども、そのようなことがあるかどうかについて、お伺いしたいと思います。

○後藤参考人 まず、1点目ですが、事務局の討議資料の2ページです。サーバにおきましては、アメリカが49.2%、日本は25.9%というのが電気通信大学2012年の調査で出ているところであります。一方、運営者は日本人が多いと思います。多分、このパーセンテージからいけば、要は日本語でリーチサイトを構成していますので、日本人の運営者というのがこれよりも単純に増えると私は思っています。
 それと、2つ目の自動コンテンツ監視・削除センターの件でございますけれども、権利者が保護したいコンテンツについて、私どもに映像データを提供してくるという流れになっていますので、それに基づいてクロールをかけるということでございますので、権利者が削除を希望するものを我々が探してきて、探してきたものについて権利者に確認いただいて削除要請するという流れです。

○喜連川委員 私も教えていただきたいのですが、ここで言っているリーチサイトそのものをGoogleで検索するのはどれぐらい簡単なのですか。すぐ出てくるのか、下のほうに入っているのか。

○後藤参考人 簡単に、例えばGoogleで「アニメ 無料」ということで検索をかけますと、ばっと出てきます。すぐ出てきます。それらをクリックしますと、先ほどのリーチサイトが出ています。

○喜連川委員 わかりました。
 それで、世の中で一番ポルノ画像の検出されるアルゴリズムを圧倒的に強力にしたのはGoogleで、人間煩悩検出アルゴリズムというので、我々画像処理の業界では有名ですけれども。Googleのいいところもと言うと語弊があるのですけれども、社会に呼応するところがありまして、もし、僕が違法動画サイトを運営しているとしますと、僕がリーチサイトをつくると思うのです。ビジネスモデルがわかっていないのですけれども、リーチサイトをつくるのはめちゃくちゃ簡単なので、1個潰されても、100個でも1万個でも、何ぼでもつくれてしまう。自動制作できます。
 なので、それをブロックしようと思うと、そもそもリーチサイトにリーチしなくなることが重要なのです。それの権限を持っているのは検索エンジンしかないので、Googleに言って、こんな不具合は余りに失礼ではないですかみたいに話して、削除要求というのをなされたことはあるのですか。すみません、すごくナイーブな質問です。

○後藤参考人 Googleとは話し合いをしておりまして、こういったゆゆしき行為について検索結果表示から削除してほしいというお願いをしています。ただ、Googleさんはさすがでありまして、まとめサイト、リーチサイトについては削除に応じてくれません。それはなぜかというと、法的根拠がしっかり定まっていないものですから、それについては法的論拠がないので御協力できませんという回答であります。
 したがって、今回、限定しておりますけれども、この「助長する目的をもって」と、軽微なものは置いておいて、はっきり真っ黒で警告してもやめないものについては、みなし侵害としてくださいというお願いです。

○喜連川委員 だとすると、1は非常に有効で、何度も言いますけれども、技術論的には、要するにリーチサイトにリーチしないようにするしかないのです。それは、今は法的に白か黒かわからないからとGoogleがおっしゃるのであれば。つまり、何が言いたいかというと、今、Googleはもうけているわけです。そんなに上のほうに来るのは、ランキングアップするためのビジネスモデルがバックヤードで動いているわけです。ですから、そこの根を絶とうと思うと、今、御指摘になられたようなことを明確にして、根っこを絶つというのが一番妥当で、それ以外にないのではないかという気が一方でいたします。この話は、多分これで終わりではないかと思います。
 先ほど、軽微云々のことがありましたが、真っ黒だろうが、軽微だろうが、とにかく変なリンクを入れているわけですから、そのリンクを取ってくださいということを言えばいいだけですので、そんなものはどこかのしきい値で、こっちがいいとか、こっちが悪いという話でも何でもない。そんなものはアルゴリズムを全部超えてしまうと思います。
 さて、ややこしいのはフィンガープリントのほうで、この技術は非常に古典的な技術で、我が国ではすごく有効利用されているところ。特にコマーシャルなどの配信のコンファメーションには極めてエフェクティブにつくっているところですけれども、ナルトのような、ちょっとデフォルメしたものに対して、ちょっとしんどいかもしれないですね。この辺は、まさに山口先生がおっしゃられた次世代のマッチングという意味ではチャレンジングで、通信大学さんにサイト数なんか調べていただく以前に、このアルゴリズムをインプルーブするのを頼まれたほうがずっといいのではないかと言うと怒られるかもしれませんけれども、十分リーチできる領域ではないかと思います。
 以上です。

○瀬尾委員 海賊版を皆さんは取り締まらなければいけないのは当然なのですけれども、根本的な話は、違法対策というのは、先ほど自動マッチングのあれがありましたけれども、お金の問題なのです。対策するのにお金がかかるわけではないですか。一部の違法コンテンツをやるためにお金をやって、見せしめでどんどん落としていかなければいけないわけですけれども、どんどん税金を使って落とさなければいけないわけですよ。向こうもそれによってお金をもうけているわけなので、その経済効果が両方にあって、でも、その中で、長期的には違法対策ではなくて、流通のほうで採算をとらないと、幾らやってもお金がもうからないのです。落としてゼロになって、ゼロじゃないですか。
 そうすると、それを国でかけ続けるというのも、かけ続けないといけないと私は今は思っていますけれども、たたくというのは応急なのです。それをいかに採算ベースに持ってくるかというところが、多分、この違法対策の一番重要なところで、今はリーチサイトから、サイトブロッキングから、いろいろな手法を織り混ぜてでも徹底的に潰さなければいけない。ただ、向こうがもうからないようにするということ。それと、日本の利益を最大にするということが目的なので、そこにやらないと、とめること自体が目的になってしまうと、お金をさんざん注ぎ込んでも結局ただ、全然もうからないということになってしまうのが、この違法対策の一番肝ですね。
 なので、今、言ったような効果的な手段を使って、お金をかけてとめる。そして、向こう側はお金がもうからないように、向こうの経済的リソースをできるだけ速やかに絶っていく。そういうことをしながら、最後はきちんとそれによって流通で日本がもうかるように流通を促進する。そして、長期的なものをミックスさせて、目的を失わないようにしないと、いつもある議論は、一部のコンテンツを守るために、なぜそんなにお金をかけるの。それは国の税金ではないかと言って、途中で予算が減ったり、いろいろなことがあるわけですね。
 だけれども、その長期的な意味と戦略的なスパンの中で、どれだけ強くやっていくかということをきちんと出していけば採算が見えてくると思うので、そういうことをきちんと、例えばここで違法対策をするのであれば、みんなで違法対策をやったほうがいいねと言って、もうオーケーで終わりではなくて、いかに最終的にこれに対して効果を出すかということは、ここで考えるべきことだと思うのです。
 本日は非常にいろいろな意見が出てよかったのですけれども、次に考える論点としては、お金をかける、向こうのお金を潰す。そして、最後に日本がきちんとこれによって違法を抑えることで、経済効果を生み出せるというところまで指針を考えていくところが、多分、私はこの会議の目的じゃないかと思います。ですので、せっかくいい議論になってきているので、1つ先のところまで、最後はちょっと蛇足かもしれませんけれども、つけ加えさせていただきました。
 以上です。

○中村委員長 上野さん。

○上野委員 先ほど喜連川先生がリーチサイトにリーチするのが重要じゃないかという御指摘があって、そのとおりですけれども、検索結果の削除というのはちょっとハードルが高いかもしれないですけれども、リーチサイトがあるから侵害サイトにアクセスできるという現実があると思いますし、それで大きな収益を得ているサイトだということも言えようと思います。これは単なるリンクなので、送信ではないじゃないかとか、あるいは視聴という適法行為を助長しているだけだから、侵害・幇助でないじゃないかと言おうと思ったら言えるのですけれども、これで放置してよいかというのは課題になると思います。
 とはいえ、他方でリンクとかエンベッドという形で、さまざまな技術が一般ユーザーにもなされているところからいたしますと、そうした広く行われているリンクやエンベッドを過度に制約することになるのも、また問題であろうかと思います。
 私自身は、これは昔、文化審議会のワーキングチームでも議題になっていて、長いこと議論したのですけれども、私個人は、一定の要件を定めて悪質なリーチサイトのみを限定して、みなし侵害とすることが一案だと考えていた者です。要件の限定の仕方が難しくて、どこまで、どうやって限定するかということになるわけですけれども、例えば営利目的とか大量とか、業として反復・継続しているとか侵害の情を知っている。
 そういった形で一定の限定を画すことができれば、先ほど福井先生は炎上するのではないかということをおっしゃいましたけれども、私はそのセンスがないので、実際には炎上してしまうかもしれないですけれども、そんなことはないのではないか。これは、田村先生からの、リーチサイトという定義をちゃんとすればいいのではないかということとつながると思います。その意味では、そうしたことを再び検討してみる。もう一回仕切り直して検討し直してみるというのは、この論点に限ってやるというのは意義があるのではないかと思っております。
 以上です。

○福井委員 炎上しても、やるべき時にはやればいいと思います。これは、1点補足しておきます。

○中村委員長 ほか、いかがでしょうか。
 喜連川さん、お願いします。

○喜連川委員 私もそのとおりです。原則、国益をベースラインにするべきであって、炎上云々の話とは全然次元が違うと思います。
 それから、よくわからないのですけれども、コストがかかるという御議論があったのですけれども、そんなにかかるものではないのではないかと思っていまして、多分、フィンガープリントとマッチングのところで、ほとんど自動的に動きますので。もちろん、電話をかけてどうのこうのというウエットな部分はかかるかもしれないですけれども、ランニングはそんなに大層なものではありませんし、日本はYahoo!のアンダーラインはGoogleが動いているわけですけれども、そこが先ほどのように違法的にということであれば、バックリンクはあっという間にとれますので、全然安くできるのではないかと思います。

○福井委員 私も、Google検索結果からの削除について、大いに検討すべきだと思うのですが、恐らく一、二点補足しておいたほうがいいだろうと思うのは、本当の海賊版サイトのヘビーなユーザーは、Google検索からは必ずしも来ません。彼らは、どういうリーチサイトが一番おいしいものを持っているかというのを、もう知っているからです。これが1点。
 それから、Google検索結果から削除してしまうと、そういうリーチサイトを発見するほうもちょっと大変になるということも、恐らく指摘できようかと思います。だからといって、メニューから外してしまえということではないのですけれども、対策はもう少し包括的なところから出てくるものかなという気もいたしますので、1点補足でした。

○中村委員長 喜連川さん。

○喜連川委員 それはおっしゃるとおりですけれども、それをやると、こういうところで余り申し上げるべきではないかもしれないですけれども、麻薬売買サイトと結構似た、非常に根源的な話になってしまいます。つまり、ネットのクローリングというのは原則、コネクテッドグラフを使うわけですけれども、アイソレーテッドグラフをどうやってとるかというのも、微妙にはできなくはないので、正義をもって闘うのだということをここで決めるということは、先生がおっしゃられている難しさはわかりますけれども、それはこの問題に限らず、山のようにあるわけですので、一緒に頑張って一緒に撲滅しようというエモーションは通じるのではないかと思います。

○宮島委員 ほとんど皆さんがおっしゃったとおりだと思うのですけれども、改めて、いろいろな意見があるテーマで、しかも制限のつけ方というか、どこを判断基準にするかというところに現実的には非常に問題があると思うので、それぞれの被害の大きさについて、あるいは例えば手法の効果について、あるいはそもそも著作権という問題に関して、意識が高いというか、みんなが同じような意識を持っているわけではないので、やる上では、炎上を防ぐ上でもというか、できる限りの材料を集めて丁寧に説明しながらやるのが一番いいかなと思います。

○中村委員長 どうもありがとうございました。炎上してもやるべきことはやるという皆さんの覚悟を了解いたしました。
 ということで、そろそろ予定時間が参りましたので、本日の議論、ここまでにしたいと思います。
 最後に、横尾局長から一言いただきたいと思います。

○横尾局長 本日は、長時間ありがとうございました。
 最後の議題は、まとめやすい議論になっているかなと思いますので、ちょっとまとめて、次回議論いただきたいと思います。
 前回の続きで、前回は3Dプリンティング、AIの順番でやったせいか、3Dの話はこちらの事務局のまとめ、現行のある意味延長のところで考えればいい。本日御指摘いただいたことも踏まえて、これもまあまあ見えてきたかなという印象ですが、AIは前回いらっしゃらなかった4人の先生方、実は前回の議論を資料1でまとめましたけれども、ちょっと単純化したかなという気もしながらまとめました。あえて単純化した面もあるのですけれども、これですまないだろうと思って、本日臨んだら、かなり幅のある議論をしていただいたので、まとめるほうはより大変になったのですが、より本質に近づいているという意味では、よかったかなと思っています。
 AIのパートの最後に喜連川先生と福井先生からございましたように、AIの当面の話というのは、まさにこの次世代の検討委員会の最初のパートが、まさに当面というのですか、AIの創作物より前のエンフォースメントにかかわる部分が最初の関心で、その延長にAIがつくる創作物という、そこはある種連続的な議論だと思って、今回、設計したのですが、確かにトロールみたいな話までは前段のところでは及んでいなかったので、エンフォースの話と創作物の話と連続しながら、どう整理するか、もう一度我々でも議論して、次回、全体のまとめの議論になるかもしれませんけれども、御議論いただきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いしたいと思います。

○中村委員長 事務局から、次回以降の会合について、お願いします。

○永山参事官 次回の会合につきましては、今月25日木曜日の10時から12時までとなっております。
 どうぞよろしくお願いいたします。

○中村委員長 では、閉会といたします。どうもありがとうございました。


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