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知財紛争処理システム検討委員会(第1回)



日 時:平成27年10月28日(水)10:00〜12:00

場 所:中央合同庁舎4号館12階 1208特別会議室

出席者:

【委 員】
伊藤委員長、岡部委員、上山委員、小松委員、東海林委員、高林委員、
豊田委員、長谷川委員、二瀬委員、森田委員、山本(和)委員、早稲田委員、
渡部委員
【関係機関】
公正取引委員会事務総局 松本博明相談指導室長
法務省         鈴木昭洋参事官
経済産業省       及川洋基準認証政策課長
特許庁         仁科雅弘企画調査官
            前田仁志企画調査課長
最高裁判所事務総局   品田幸男行政局第一課長
【事務局】
横尾局長、増田次長、田川参事官、北村参事官


  1. 開 会
  2. 知財紛争処理システムの検討全般について
  3. 差止請求権の在り方について
  4. 閉 会

○北村参事官 定刻になりましたので、ただいまから「知財紛争処理システム検討委員会」の第1回会合を開催させていただきます。

 私は、内閣官房知的財産戦略推進事務局の参事官の北村でございます。

 本日は、御多忙のところ、皆様、御参集いただきまして、誠にありがとうございます。

 本委員会は「知的財産推進計画2015」で定められた、知財紛争処理システムの機能強化に向けた検討を行うため、知的財産戦略本部の下に設置された検証・評価・企画委員会の枠組みの中で、重要な検討課題を専門的に取り扱う会合でございます。

 まず、議事に先立ちまして、知的財産戦略推進事務局長の横尾から、皆様に一言御挨拶を申し上げます。

○横尾局長 皆様、おはようございます。知財事務局長の横尾でございます。

 今日は、お忙しい中、お集まりいただきまして誠にありがとうございます。

 このテーマは、今年は、ちょうど知財高裁設立10年という節目の年にありまして、知財紛争処理タスクフォースの議論を踏まえまして、今年の知財計画の2015で重点3本柱の1つとして、このテーマを取り上げて、6月の本部会合でも総理から、知財紛争処理システムについて総合的な検討をするという取りまとめの発言がありまして、それを受けての検討委員会の開催でございます。

 実は、この本部会合で、本部委員であるカドカワの川上社長が、大変印象的な発言をされておられました。 知財の訴訟もグローバル化にどうやって対応していくのかというのを考えなければいけないが、日本の法務部というのは、戦おうとしない、実戦経験が不足しているというのが実情ではないかと。実際、権利行使をしたことがないので、いざ、訴訟になると、ちゃんとした権利取得ができていないというのが実情ではないかと。もっと訴訟を普通にやるような環境作りが必要だと思う、という御発言をされて、その本部会合は、なるほどなという雰囲気に包まれたというのが、その場にいた私の実感でございます。

 もちろん、川上本部員自身もおっしゃっていましたけれども、訴訟を奨励するようなことを言っているわけではないけれども、ある種、戦う文化といいますか、もちろん、交渉で決着すればよいわけですけれども、特許の侵害に対してしっかり訴訟の場で決着が付けられるような、そういうことを担保する制度環境というのが大事だろうということだろうと思います。

 とりわけ、グローバル時代において、主要国、お隣の中国も含めて、そういう文化が普遍的になる中で、日本としても、日本企業がしっかり戦うことに慣れ、加えて、それができる厚みのある専門家がちゃんといるような、そういう社会というのが大事だろうと思っております。それが、知財の価値を高めることにもつながるだろうというふうに思っております。

 私自身、今年9月にヨーロッパに行く機会がございましたので、ドイツとイギリスで知財訴訟の関係者と意見交換をする機会がありました。日本の制度の良さとともに、やはり、ドイツ、イギリスの状況を聞く意見交換をすると、制度環境として日本は改善しなければいけない点があるなというような率直な感想を持った次第でございます。

 折しも、先々週の日曜日の夜から「下町ロケット」がスタートして、これは、特許紛争をテーマにしたもので、時宜を得たというか、あれも大企業の提訴に対して中小企業の佃製作所が反訴に出るというところでありますが、70億円の損害賠償請求で56億円の和解金というのは果たしてあるのか、ちょっと考えにくいような気もしないでもないですが、あの場面で、実はものすごく簡単に済まされてしまって、もう終わってしまったのですが、果たして、あんなにうまく立証ができたのか。というか、その前に、あの立派な弁護士がなぜあんなに簡単に見つかるのかというのは、さすが小説だなというのが率直な印象でございます。やはり、特に中小企業にとって、日本で侵害に対して訴訟をして、ああやって勝っていくというのは、おそらくあんなに簡単なことではないのではないかという気がいたします。

 それも含めて、しっかり中小企業も含めた、侵害に対してしっかり戦えるような、そういう制度的な環境というものを整備していく必要があろうかと思います。

 この問題は、常に原告サイドと被告サイドが両方あって、私もいろんな方の意見を聞いてきましたけれども、どちらに付いたかによって、その個人の経験、意見が非常に分かれるというのが現状だろうと思います。是非、皆様には、それを超えていただいて、これから日本がイノベーションあるいはリスクテイクをして世界で勝っていくという、それを応援するような、将来を見通した制度を、是非一緒に考えていきたいと思いますので、どうぞ、よろしくお願いしたいと思います。

 どうもありがとうございます。

○北村参事官 では、初めに、本委員会の委員の方々を御紹介させていただきます。

 皆様から向かって中央、このたび、委員長に着任いただきました、伊藤眞委員長でございます。

○伊藤委員長 伊藤でございます。大任をお引き受けすることになりましたが、どうぞ、よろしくお願い申し上げます。

○北村参事官 皆様の右から順に御紹介申し上げます。

 岡部譲委員でございます。

○岡部委員 弁理士の岡部でございます。どうぞ、よろしくお願いいたします。

○北村参事官 上山浩委員でございます。

○上山委員 弁護士・弁理士の上山と申します。よろしくお願いいたします。

○北村参事官 小松陽一郎委員でございます。

○小松委員 弁護士知財ネットの理事長をしております。よろしくお願いいたします。

○北村参事官 東海林保委員でございます。

○東海林委員 東京地方裁判所の判事の東海林でございます。よろしくお願いいたします。

○北村参事官 高林龍委員でございます。

○高林委員 早稲田大学法学部の高林です。よろしくお願いいたします。

○北村参事官 豊田秀夫委員でございます。

○豊田委員 パナソニックで知財を担当しています、豊田でございます。よろしくお願いいたします。

○北村参事官 長谷川英生委員でございます。

○長谷川委員 木工機械メーカーの名南製作所と申しまして、100名足らずの会社なのですけれども、今回、ちょっと勉強も兼ねてやらせてもらいました。よろしくお願いします。

○北村参事官 二瀬克規委員でございます。

○二瀬委員 悠心の二瀬でございます。ちょうど8年前にベンチャーを興しまして、58で興して珍しいと言われながら一生懸命頑張っております。よろしくお願いいたします。

○北村参事官 森田拓委員でございます。

○森田委員 アステラス製薬の森田と申します。よろしくお願いいたします。

○北村参事官 山本和彦委員でございます。

○山本委員 一橋大学の山本でございます。よろしくお願いいたします。

○北村参事官 早稲田祐美子委員でございます。

○早稲田委員 今、日弁連知財センターの委員長をやっております、早稲田と申します。よろしくお願いします。

○北村参事官 渡部俊也委員でございます。

○渡部委員 渡部でございます。よろしくお願いいたします。

○北村参事官 なお、別所弘和委員、八島英彦委員及び山本敬三委員につきましては、本日は、所用のため御欠席をされております。

 委員の皆様には、お手元に大臣からの構成員指名書を配付させていただいております。

 それから、関係機関といたしまして、公正取引委員会、法務省、経済産業省及び特許庁並びに最高裁判所から御出席をいただいております。

 それでは、ここからの議事進行につきましては、伊藤委員長にお願いをさせていただきたいと思います。

○伊藤委員長 それでは、早速でございますけれども、議題に入りたいと存じます。

 まず、事務局から知財紛争処理システムの検討全般についての説明をお願いいたします。

○北村参事官 お手元の資料1を御覧ください。「知財紛争処理システム検討委員会の開催及び検討スケジュール(案)」でございます。

 先ほど、局長の横尾からも御案内がありましたが、今年の6月に知的財産戦略本部会合にて推進計画2015が決定され、その中で、知財紛争処理システムについての総合的な検討を行うというが記載されております。

 併せて、この会合において、総理から知財紛争処理システムの機能強化に向けて、総合的な検討を進めてまいりますという御発言がありました。

 こういったことを踏まえて、今般、開催させていただいているところでございます。

 検討スケジュールですが、本日、第1回、これまでの議論の概要と、今日のメインテーマである差止請求権の在り方について御議論いただきます。

 その後、第2回、第3回と、それぞれ、そこに記載のテーマについて御議論いただいて、年度末、来年2月頃に取りまとめの報告書案を御提出させていただくということでまとめていきたいと考えております。

 続きまして、お手元の資料2、パワーポイントの資料ですけれども、こちらを御覧ください。

 知的財産推進計画2015の概要と知財紛争処理システムの活性化に関する論点というペーパーでございます。

 最初の表紙に、論点を既に5つほど記載させていただいておりますが、こちらに関する御説明を申し上げます。

 1枚めくっていただきまして、1ページ、推進計画2015の全体の構成の中で、本件がどういう扱いかということを示しているところでございます。重点3本柱の1つという位置付けでございます。

 2ページ、推進計画2015の概要ということで、先ほどの説明とかぶりますので省略いたしますけれども、取り組むべき施策といたしまして、知財紛争処理システムの機能強化の総合的検討、@からCとありますが、このあたりを中心に本委員会で御検討いただきたいと考えております。

 具体的に検討する内容ですが、4ページ、知財紛争処理システムの活性化に関する論点一覧でございます。

 上から順に申し上げますと、まず「2−1.証拠収集手続に関する論点」ということで、こちらは、原告側の証拠が被告側に偏在するということが多うございますので、その証拠収集がより適切に行われるための、いかなる方策があるかという点。

 2点目、権利の安定性ですけれども、今、攻撃防御のバランスとして防御者側に有利になってしまっているのではないかという指摘でありますとか、進歩性判断等については、産業政策上、行政の側が行うべきではないかというような御指摘もあるところ、この問題をどう考えるかと。

 あと、紛争処理プロセスだけではなくて、権利付与の段階においても、どう考えるかというところも検討させていただきたいと思います。

 3点目、損害賠償ですが、総じて損害賠償額への不満というか、少し低いのではないかというような御意見もいただいているところ、これに対するいかなる方策があるかという点。

 4点目、差止請求ですけれども、差止一般に関するところから、特殊事例であります、標準必須特許の話、あと、PAEによる権利行使の場についてどう考えるかという点。

 5点目、その他ですけれども、侵害訴訟の提起者の6割は中小企業が占めているというところで、しかしながら、なかなか勝訴率が大企業と比べると低いという現状を踏まえて、支援の在り方等をどう考えるか、あるいは、その他、何か論点がありますかということで提示をさせていただいておるところです。

 5ページ以降、各論点について若干細かめに書いてありますが、例えば、5ページ、証拠収集手続のところは、条文ベースで書いてありますけれども、そこに書いてある論点につきまして、どのような改善策がありますかということで提起をさせていただいております。

 6ページ、権利の安定性ですけれども、無効審判と無効の抗弁規定との関係、こういったところをどう考えるかという点。

 さらに、7ページ、損害賠償に関する論点ですが、特許法の規定の在り方とか、寄与率という考え方、こういったところについて、どういった考え方があり得るか。

 8ページ、差止請求権に関する論点ですけれども、標準必須特許の問題あるいはPAEによる権利行使、こういったときに、権利行使の在り方をどう考えるかという点でございます。

 最後、9ページ、その他の論点ということで、中小企業への支援という観点から、裁判に関する経費の検討であるとか、特に地方における知財専門家へのアクセスの支援、こういったところをどう考えるかということで、論点を提示させていただいております。

 内容を詳細には御説明申し上げませんが、参考資料2を御覧ください。一昨日、検証・評価・企画委員会の産業財産権分野・コンテンツ分野の合同会合がなされました。その中で、紛争処理について出た御意見を記載させていただいております。一つ一つ御紹介申し上げませんけれども、後ほど、参考にしていただければと思います。

 併せて、参考資料3でございます。TPP知的財産章の概要という紙も配付させていただいております。今月の初めに大筋合意ということでなされましたので、知的財産に関するところだけ抜粋させていただいております。こちらも特に御説明は申し上げません。

 事務局の方からは、以上でございます。

○伊藤委員長 ありがとうございました。

 それでは、ただいま説明がございました、紛争処理システムの検討全般につきましての意見交換に移りたいと存じます。御意見のある方、どうぞ、御自由に挙手をなさった上で御発言ください。

 いかがでしょうか、それぞれの論点につきましては、本日の後半も含めまして立ち入った議論をしていただくことになりますが、まず、その前提として、説明がございました論点などに関して御意見あるいは何か御要望があれば、忌憚のない御発言をお願いいたします。

 豊田委員、どうぞ。

○豊田委員 先ほど、局長の冒頭の御挨拶にもありましたけれども、知財紛争処理システムの議論をしていく上で、私は企業側ですけれども、是非、お願いしたいというか、私自身も気を付けていきたいなと思うのは、いわゆる紛争処理システムを議論するに当たっては、いわゆる法的な側面、いわゆる法律的にどうなのかとか、法システムとしてどうなのかといった議論は、いろんなところで、よく散見されますし、議論はされている。

 特に、推進計画2015概要が発表されて以降は、いろんな議論をされていると思いますけれども、せっかくこういう場で議論をするのであれば、経済的な側面といいますか、この紛争処理というのは、ある意味、企業間の争いでもありますし、また、今、もう一方で非常に問題になっているのは、従来は、日本国内企業同士というのが紛争の処理の問題として多かったと思うのですけれども、原告、被告のどちらかが国内企業ではないグローバルな企業である、場合によってはグローバル企業同士の紛争を処理しないといけないということになったときに、是非、そういう視点で見たときに、なかなか日本人的な側面、発想、常識で考えたときに、それが通用する相手なのかどうかという面、その法的な、いろんな意味での正当性とか、妥当性に加えて、いわゆる、そういう経済的な面なり、そういう国際的なグローバル化している面なり、そういった総合的な論点を論議して、この紛争処理システムがより良い方向に改善できるような議論を、この場でさせていただければなと思っていますし、そういう方向での、是非取りまとめをお願いしたいということでございます。参考としての意見です。よろしくお願いします。

○伊藤委員長 分かりました。紛争処理システムの在り方を考える上で、日本法の視点や側面と併せて、経済的な側面、国際的な視点や側面についても十分留意をするようにという趣旨の御発言と理解しまして、誠にごもっともかと思います。

 今の点に関連してでも、あるいは他の点についてでも結構でございますので、御発言をお願いいたします。

 小松委員、どうぞ。

○小松委員 4つのポイントについて、今後、議論させていただくわけですけれども、いつも、この種の議論をしているときに、例えば、損害賠償額の認定が日本は低いとか、それから、判決に至った場合の勝訴率が諸外国に比べて低いとか、そういう議論が前提になって問題が展開されていくのですけれども、実は、その前提事実のところの事実関係の共有というのが、私は、根本的に問題があるのではないかと。

 それが、なかなかデータ的にきちんと見えないわけですけれども、いろんな御発言を見ていると、御自身の、失礼ながら、ちょっとした御経験に基づいて、印象的なことをおっしゃられると、議論がそっちにいってしまうということもあるので、できるだけ、客観的なデータがあるのかどうか分かりませんが、それに基づいて、事実関係を共有した上で議論を進めていく必要があると。

 例えば、今日の話題ではないのですけれども、損害賠償額が低いという問題についても、日本は諸外国に比べて、アメリカをどう評価するのかというのはあるのですが、和解の率が極めて高いわけですね、四十数パーセントから50%、それで、勝訴的和解の分析も、今回も改めて、いろいろ裁判所御主導で出ているというふうなこともあるので、やはり、それも前提にきちんとした上でやっていく必要があると。使いやすい訴訟にするというのは、非常に大事なことだと、私など実務家も思うのですけれども、今の点、御留意いただけたらと思います。

○伊藤委員長 ただいま例としてお出しになりました勝訴率であるとか、損害賠償額につきまして、正におっしゃるとおりでございまして、御発言のお言葉を使いますと、客観的事実に基づいて、地に足のついた議論をこの場で、是非、展開していただくようにお願いいたします。

 他に、いかがでしょうか。

 森田委員、どうぞ。

○森田委員 ありがとうございます。

 先ほども豊田委員の方から御発言がありましたとおり、当社も日本では経験がないと言うか、現在、訴訟は係属しておりませんが、経験はあります。

 ただ、海外でも訴訟、特にアメリカ、カナダあるいはヨーロッパ、そして中国あたりでも訴訟経験がございます。先ほどの御案内いただいた参考資料のあたりにございますとおり、特に医薬品メーカーは、先発対後発という戦いの構図が非常に多いわけですけれども、特に途上国などでは、非常に知財制度を弱めようというような感じの動きが非常に出ております。

 ですので、それで、差止請求権を制限することについては、国際情勢を踏まえ、慎重にというお言葉が出ていますが、このあたりも国際情勢を見極めながら、一方で、日本にも非常に良い知財訴訟制度というのはあると思いますので、両方比較衡量しながら検討をいただければと思っております。

○伊藤委員長 ありがとうございました。

 御指摘のとおりかと思いますが、他にいかがでしょうか。

 渡部委員、どうぞ。

○渡部委員 先ほど、データの話とか、経済的な面からという話がございました。今回、委員の皆さんの中で、エコノミストがおられないようなので、私は、実は、経営戦略とか、経営組織の中で知財を扱っていますので、エコノミストではないのですけれども、そちらの観点から、少しお話をさせていただきたいと思います。

 先ほど、訴訟の勝訴率ですとか、認容額の多寡を単純に比較できないというのは、正しくそのとおりなのですけれども、ここ10年ぐらい、特にアメリカ、日本が、なかなかこの分野は弱いものですから、日本の研究は少ないのですけれども、行われてきた研究というのは、特許制度、特許システムから受ける経済的便益と、それから、訴訟等、いろんなコストがどうしても必要になります。そのコストとの差が、随分業界によっても違うし、変動もしてきている。

 特に2000年前後からコストがかなり大きくなって、これは、実はPAEなどの問題があります。

 それは、実は、アメリカで研究が多いのですが、日本は余りはっきりしたことは言えないのですが、明らかにそういう取り方をすると、日本の方が便益のところは小さいだろうと予想されます。

 問題は、どっちかを大きくすることではなくて、その差がないとインセンティブにならない。すなわちイノベーション促進のためのインセンティブにならないということなのです。

 今回の議論の立て付けで、例えば、差止請求をどうするかとか、一個一個やっていきますと、実は、それは、最後に便益とコストとの差のところが大事なので、実は、全部、本当は関係しているということは、少し留意する必要があるのではないかということです。

 それから、今、マクロ的な話をいたしましたけれども、紛争プロセスは、かなり個々の紛争のプロセスの結果によって、事業者に対して、イノベーション活動に影響します。

 例えば、原告の立場で訴訟して一審で負けて二審で勝つ、一審で勝って、二審で負けるとか、そういうようなことがイベントとしてありますと、その後、その企業のイノベーション活動に、やはり影響を与えます。

 大企業は、大して余り影響はございませんが、中小企業は、実は、影響がはっきり統計的にも出てまいりまして、これは、エンカレッジする面もケースによってはあります。

 頼みにする権利を使って、最終的に良い結果が出ますと、やはり、その後のイノベーション活動が活発になります。それが、うまくいかないと、ディスエンカレッジになるというような結果になります。

 これは、大企業と比べると、中小企業の方が、そういう予見可能性の影響というのは、非常に強いということは考える必要があるのではないか。イノベーションシステムの重要なパートであるということを意識する必要があると思います。

 そこの問題は、ちょっと後で、また個別のところでお話をしたいと思います。

○伊藤委員長 ありがとうございました。

 法的な議論の中で、ともすれば、見過ごしがちな経済学的な視点についての御指摘を是非とも、引き続きお願いいたします。

 他に、いかがでしょうか。

 今まで御発言のなかった方にも、最初でございますので、一言ずつお願いできればと存じますけれども、岡部委員、お願いいたします。

○岡部委員 岡部でございます。弁理士をしております。

 最近、特許の出願件数が、かなり減少しておりまして、うちの事務所でも大分少なくなってきてしまっているということ。

 特に、外国の出願人の方が、日本に出す意義が、余り感じられないというような発言をよくされるということを経験しております。

 その近くの中国という国が、非常に特許のことでは急激に伸びているということもありまして、アジアでは、まず、中国に出すことを考えると。それで、事案の重要性に応じて、次に日本かなと、その次が韓国かなというようなことをおっしゃっている向きもあるので、大変その辺のことは心配に思っております。

 その大きな理由の1つとして、日本の特許権の価値の問題があるのではないかと感じております。損害賠償が低いですとか、無効になりがちな訴訟制度とかということを言われていて、それが定性的には、本当にどうなのか、定量的にどうなのかというのはともかくとして、全体的に、日本において特許をきちんと取得して、いざとなったら、それが権利行使で十分に独占権としての価値があるのだと、是非、日本では特許が欲しいのだと、そういう気持ちになる制度なのかなというところを感じておりまして、今回のいろんな議論の中でも弁理士として思っているところを、是非、発言していきたいと思っております。よろしくお願いいたします。

○伊藤委員長 ありがとうございました。

 上山委員、お願いいたします。

○上山委員 諸外国と比べて勝訴率が低いとか、賠償金額が低いという問題について、しばしば、例えば、勝訴率については、高ければ良いものではないという反論もありますけれども、そもそもこういった議論をしている根本的な問題意識というのは、日本では勝つべきものが勝てるシステムになっていないのではないかと、ここは感覚的な部分だと思うのですけれども。

 それから、損害賠償についても侵害し得になっているのではないか。権利を尊重してライセンスを受けるなり、設計回避をするよりも侵害で訴訟で負けても、その方が経済的合理性があるというふうなシステムになっているのではないか。そういった問題意識を客観的に裏付けるものとして、諸外国と比べたら、訴訟件数であるとか、勝訴率であると、そういったふうなデータが引用されているのであって、何が問題なのか、どういった方向を目指すべきなのかというところを常に意識して議論をしていく必要があるのだろうと思います。

 今回の検討課題の中でも、ビジネスの実態を踏まえた損害賠償額がいかにあるべきか。例えば、この点について言えば、著作権侵害、ソフトウエアの違法コピーであれば、業界団体が企業内の不正コピーを摘発したという場合、1倍の賠償で済ますことはあり得ないのです。通常、正規価格品の購入も含めれば、3倍の賠償でもって解決をするということが行われています。

 それに対して、裁判所の判決が、そういった考え方、実務の考え方を踏まえて判断をしているか、そういった観点で、今回、議論を行っていけば、実務的にも納得感の得られる方向性が見えてくるのではないかと思っております。

○伊藤委員長 小松委員は、よろしゅうございますか。

○小松委員 はい。

○伊藤委員長 それでは、東海林委員、お願いします。

○東海林委員 東京地裁の東海林でございます。

 まず、初めに、知財紛争処理システムの大幅な御検討ということで、その中核になるのは、言うまでもなく、裁判所が行っている侵害訴訟かなと思っております。

 ですから、東京地裁知財部の中で裁判をしております私としては、この問題については、大変重く受けとめておりまして、本日、御参加させていただいたことに大変謝意を表するものでございます。

 これから、幾つかのテーマで、裁判所の運用も含めて、いろいろ御批判なり、御意見があるかと思っておりますけれども、私たちは、あくまでも裁判官です。ですから、裁判官としては、訴訟手続については、基本的に民事訴訟法に則って、公正・中立な判断権者という立場で訴訟を見ているということでございます。

 ですから、時に額が少ないとか、差止めの問題とか、いろいろあるかとは思いますけれども、私たちは、あくまでも個々の、一つ一つの裁判に向き合って、その裁判が具体的に妥当な解決になっているかどうかということについて、常に考えながら事件を処理しているものですから、そのトータル的な、統計的な問題として、結果的にこうなったということは、もちろん、重く受け止めるべきものとは思っておりますけれども、それと、個々の裁判の処理というのは、あくまでも事件には一つ一つ顔があるということで考えていただくという視点も大事なのではないかと思っております。

 ただ、何分にも知財紛争ということでございますので、これから、たくさん議論があると思いますけれども、やはり、諸外国の制度とか、それから経済界に及ぼす影響、そういうものも考慮に入れながら、運用はどうあるべきかということを、私たちも考えながら事件を処理しているところではありますけれども、その実務の運用等、あるいはこのシステムの全般について見直すべきところは見直していただき、あるいは裁判官の立場から、そういう個々の事件についての処理について御発言させていただいて、この会議が実りあるものになることを祈っております。どうか、よろしくお願いいたします。

○伊藤委員長 ありがとうございました。

 高林委員、お願いいたします。

○高林委員 早稲田の高林です。

 この委員の中で、法学部の知的財産の担当教授は私しかおりませんので、私は、そのような立場から発言する役目を担っているのかなと思いますとともに、現在、知的財産研究所と特許庁で、これと同じテーマについて、やや先行しながら法学者、弁護士、弁理士とともに研究会を重ねており、私はそこで委員長をしておりますので、そこでの成果等を報告するのも役割なのかなと思って、ここに参っております。また、私は、元知的財産の裁判官もやっておりましたので、学者かつ裁判官的な立場から発言するべき役割なのかなとも思っております。

 ところで、私は、元裁判官でもありかつ現在は、保守的といえるかもしれない法律を専門に扱っておりますので、もろもろから聞こえてくる現行制度やその運用に対する批判に対しては、守りの姿勢に立っているかもしれませんが、知的財産高等裁判所設立から10年、ロースクールができてからも同様の年を経て、そのような大きな改革の中で育まれてきた制度であり運用であることを、忘れてはならないと思っております。

 ロースクール制度は、訴訟を気軽にやれる社会を求めて創られたのだろうと思うのですけれども、局長からお話がありましたけれども、現在の日本ではいまだ知的財産だけの問題ではなくて、社会全体が、訴訟をビジネスの戦略としてやっていこうという傾向とはなっていないのが事実ではないかと思います。

 そうは思いますが、例えば、この前の知的財産高等裁判所の10周年記念の行事として各国の裁判官が同一の問題について扱った模擬裁判が行われましたが、そこでは、アメリカであれ、ドイツあれ、イギリスであれ、今の裁判のシステムや、模擬裁判の結果においても、各国の裁判制度やその結果の共通性が実現されていることを知ることができました。

 なので、小松委員からもお話がありましたが、また、特許庁における委員会でも御意見がありましたけれども、やや、時流に乗った、日本の勝訴率は低いとか、損害賠償額が低いとか、そのような御意見ばかりではなく、もっと実態に即した議論をすべきだと思います。例えば、日本の知的財産の損害賠償制度に関していえば、私は制度として完璧に近いものであろうかと思っております。今度、TPPにおいて著作権侵害に対する法定損害賠償とかが俎上に乗ってくれば、新たな問題は生ずるかもしれませんが、現在は、法としては十分に整備されており、あとはその運用であり、弁護士の主張などにに大きく影響されているものと思っております。本委員会においては、単に外と比較して、隣の芝生は青いといったような議論にとどまらず、実態に即した議論が行われればと期待しております。

○伊藤委員長 ありがとうございました。

 豊田委員は、よろしゅうございますか。

○豊田委員 はい。

○伊藤委員長 では、長谷川委員、お願いいたします。

○長谷川委員 中小企業の立場ということで、私、テクニカルな部分は全く分かりませんので、弊社の創業者が開発主体の会社で、今、創業60数年経つのですけれども、とにかく「下町ロケット」ではないですけれども、自分たちで考えた新しい技術には必ず特許性があるということで、知財には、創業からずっと力を入れてやってきておりまして、それで、100人数名の会社ですけれども、特許室というものがありまして、4名ぐらい、そこに所属しております。

 その延長線上で知財、この特許紛争も経験させてもらって、原告の立場として、あのドラマにあるような、すばらしい代理人の先生が見つかればいいのですけれども、なかなか代理人の先生は、十分やってくれてすばらしいと思いますけれども、スーパー的な方が見えれば、勝訴に、勝率に影響するのかが、私としては、今、分かっていないのですけれども、そういうことがあれば、中小企業でも優遇された、そういう代理人の方が選べるようなシステムがあればいいとは思います。

 証拠に関してですけれども、私どもも書類送付嘱託請求とか、そういうことをどうしても被告側が持っている証拠が欲しいものですから、そういうのを何回かやったのですけれども、そういうのは、なかなか認められなくて、そういうものが出てくれば、裁判の展開もずっと早くなるのになと、納得性のある結果になるのではないかと思って、原告側はやるのですけれども、なかなかそういうものが認められなかったのはどうしてかなというのが、そこら辺も経験した身としては、ちょっと納得性がないまま終わったのですけれども、賠償額についても、お互い、全てが納得いくとは思いませんけれども、原告も被告もある程度終われば納得のいくような、中小企業でも、そういうような内容になればいいなと思って、今回、参加させてもらって機会があれば、言わせてもらおうかなと思って来ましたので、よろしくお願いします。

○伊藤委員長 ありがとうございました。

 では、二瀬委員、お願いします。

○二瀬委員 私どもの会社は、先ほども申し上げましたけれども、8年の会社なのですね。長谷川委員のところよりも、更に歴史が新しくて、小さな会社なのですけれども、開発型の会社なのです。そのために、特許戦略というのは非常に大事にしております。

 前職も実は小さな会社から一部上場までしたのですけれども、上場するとつまらなくなってやめて、新しくまた出直そうということで会社を作ったわけですけれども、そのとき思ったのは、特許というものの重要性というのは、我々は本当に深く認識しておりまして、また、それをどう活用するか。ただ、あくまでも特許は表彰状をもらうわけではなくて、これを経済効果にどう反映させるかということなのですね。小さな会社の場合は、特許経費でも、これは大変馬鹿にならなくて、大変小さな利益の中から、それを特許の経費に回していくわけですけれども、例えば、ちなみに、我々の会社でも本当に小さいのですけれども、大体6年ぐらいで2億円ぐらいの特許経費を支払ってきているのです。これは、もちろん、外国出願を含めてなのですけれども、これが、今後、どれだけ経済効果をもたらすかということを勘案しながら進めているわけですけれども、逆に特許でも主になる特許と、附帯的な特許というのを分けております。

 もう一つは、特許に出すべきではない、ノウハウの部分できっちり守っていかなければならないということもございます。

 それから、当然、海外に出すときは調査するのですけれども、事前に調査をして、どうもこの辺は後で障害になるなというものも、たまには見つかります。その場合は、隠さずに直接交渉します。交渉して、いかに海外は、そういうささいな権利であっても、こんなにふくらませて交渉に臨んでくるのだなと、大変時間もかかりますね。先ほどから出ておりますけれども、「下町ロケット」のモデルになった弁護士さんが、実は、うちの顧問弁護士なのですけれども、一生懸命やっていただいて1年掛かって、実は、ようやくまとまることができた。

 ただ、事業規模の小さなうちというのは、それほど相手も魅力のあるものだと思わないと思うのです。ささいな金額しか発生しませんから。

 ところが、これが、例えば将来的には大変な大きな金額になってくる、マーケットサイズが非常に大きいとなると、やはり、それだけのものを望んでくるだろうということで、今、小さなうちだからこそ、交渉ができるのだと思うのです。大きくなると、食いつかれると、そういうことも踏まえて、できる限り、しっかりした安定した特許を、これから出していきたいなと考えております。

○伊藤委員長 ありがとうございました。

 森田委員、よろしゅうございますか。

○森田委員 はい。

○伊藤委員長 では、山本和彦委員、お願いします。

○山本(和)委員 山本でございます。

 私は、伊藤委員長とともに民事訴訟法の研究者でございまして、私は、この知財の問題、必ずしも、今まで十分専門的に勉強をしたことがありませんでしたが、横から一手続法の研究者として見てきたところ、この10年、20年の間、知財訴訟というのは、かなり革新的な、正に局長はイノベーションと言われましたが、イノベーティブな訴訟制度というものを創ってこられたと思っていましたし、審理期間、その他の面を考えると、かなりの成果がそこで上がってきたということも言えるのではないかと思っていました。

 正にイノベーションというか、我々、通常訴訟学者の感覚からすると、果たしてこういう制度ができるのだろうかというような、例えば、秘密保持命令というような制度がありますけれども、果たしてこういう制度が日本でなじむのだろうか、うまくできるだろうかと思うような制度も知財の中では、それを取り入れてこられたということで、どうしても訴訟制度というのは、やむを得ないところがあるわけですが、ドラスティックなもので、また、保守的なものになりがちだと思いますけれども、この知財の分野というのは、そのグローバルなところと接し、そういうイノベーティブな試みをされる。

 我々から見ると、ちょっと言葉は悪いかもしれませんが、ある種一つの実験的な試みがなされるところであるという印象を持っています。

 そして、そこでいい成果が上がったような部分については、私などもそれを一般の民事訴訟法でももっと取り入れていくべきではないかというような議論をしたこともございます。

 そういう意味で、今回のテーマも非常に興味深いと思っていますが、特に、私自身は、やはり民事訴訟学者としては、証拠収集の問題というのが、知財の分野のみならず、民訴全体の中で、私、日本の民事訴訟の1つの欠点といいますか、弱点の部分なのではないかという認識を持っております。

 この20年ぐらい、かなりこの分野も、民事訴訟法の中で努力をして、さまざまなツールを作って、実務運用もあって、進展をしてきた部分ではありますが、なお、諸外国に比べて、もう一段何かあってもよいようなところではないかという印象を持っておるところでございます。

 先ほど局長も、よくあれだけの証拠が集まったと言われておりましたが、私も同じような印象をテレビを見ていて思いました。

 そういったようなところについて、もし、合理的なニーズがあって、合理的な制度が形成できるようなものであれば、既存の民事訴訟法の制度に拘泥することなく、正にイノベーティブにいろんなアイデアを出して考えていく必要があると思っていますし、そういうような観点から、私自身は取り組んでいきたいと思います。

 根っから訴訟学者として、伊藤先生とは違って、ドメスティックで保守的な人間なものですから、ブレーキをかけるような発言をしがちかもしれませんけれども、一応、私自身の心持ちとしては、そういう思いで取り組んでいきたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

○伊藤委員長 ありがとうございました。

 早稲田委員、お願いいたします。

○早稲田委員 弁護士の早稲田でございます。

 知財紛争処理システムと言うと、やはり、裁判が中心になると思うのですが、知財紛争というか、知財の全体的なところから見ると、裁判というのは、最後に近いようなところがあって、企業としては、最初にどういうことをやるかというところで特許を取っていくのか、ノウハウで守るのか、いろんなことを考えながらやっていくと、それで、しっかりとした出願をして、それが発展して最後に知財紛争処理の裁判になっていくのかなと思っております。

 私どもは、日弁連の知財センターでもいろいろと今回のことについては議論をしてきたのですけれども、必ずしも訴訟が多いとは言いませんけれども、この件数というところは、非常に弊害が出ているのかどうかという点については、必ずしもそうは思っていないというところがございます。

 やはり、強い特許等ですと、特に日本の大企業の場合には、お互いに内容証明を出したり、特許部の部長さん等でお話し合いをして、中で解決するというのは非常に多いというところもあるので、それは、それで特許の有効な使い方だと思っておりますので、一概に紛争が増えるというところが、企業とか、経済価値的に良いのかという点はあると思います。

 ただ、先ほど横尾局長がおっしゃったように、戦える場所というのは、それは作っておかなければいけないと思っておりまして、最後に話合いで決着がつかないときは、それはきちんとした権利主張をして、権利行使をして、それが実るようなシステムを作らなければいけないということも、そのとおりだと思っております。

 その意味では、やはり、私どもとしましては、先ほど来出ておりますけれども、証拠収集が少し弱いのかなと思っておりまして、特に私の方は、訴える前の証拠収集です。やはり、ある程度の証拠が出てこないとゴーサインが出ないと、社長さんの委任状をもらえないというところはあると思いますので、そういうところを議論させていただければ、特にありがたいかなと思っております。よろしくお願いいたします。

○伊藤委員長 ありがとうございました。

 渡部委員、よろしゅうございますか。

○渡部委員 はい。

○伊藤委員長 皆様方、これまでの御経験や知見に基づいて貴重な発言をいただいたと感じております。是非、これから本日の後半も含めまして、個別論点につきまして、積極的な御意見を賜ればと存じます。

 それでは、個別論点に移ることにいたしまして、本日は、差止請求権の在り方について議論いたしたいと存じます。

 そこで、事務局から差止請求権の在り方に関する論点についての説明をお願いいたします。

○北村参事官 お手元の資料3を御覧ください。

 知財紛争処理システムに関する論点整理、差止請求権の在り方関連というペーパーでございます。

 1ページ、推進計画の中での本件の位置付けが書いてございます。

 その下の2ページですが、差止請求権関連に関する論点整理ということで挙げてございます。

 差止請求権は、非常に特許権侵害に対する救済手段ということで意義を有するので、基本的には、その制限を行うべきではないと考えられるかと思いますけれども、特殊な事例といたしまして、標準必須特許の場合であるとか、PAEと言われる、実施はしないけれども、特許権を持って行使をするという人たちによる権利行使の場合に、何か高額なライセンス料とか、そういう懸念も指摘されるところ、こういったところについての行使の制限の在り方について、どのように考えるべきかという論点があろうかと思います。

 特許権の価値に与える影響も考慮しながら、このあたりについて御検討いただければと思っております。

 そもそも差止請求権とはということで、3ページに、特許法の条文ベースと、それの解説を加えてございます。

 特許権者は、侵害の停止又は侵害の予防を請求することができるということで、民法の特別規定として特許法の中に規定されているという権利が差止請求権でございます。

 日本では、こういった形で規定されておりますけれども、諸外国ではどうかというのが、次の下の4ページの方に書いてございます。

 例えば、アメリカですと、衡平の原則に従って差止命令を出すということが認められているということで、以前は原則、侵害があれば差止請求は認容されるという運用でしたけれども、2006年にeBay判決というのが出て、そこに記載されている4つの要素を考慮して判断されるというふうに運用の変更がございました。

 あと、欧州、英、独、仏も概略、そこに書いてあるとおりですけれども、特許権の侵害が認められれば、通常は差止めの請求が認められるというのがざっくり申し上げて欧州の状況として理解しているところでございます。

 その差止請求権、場合によっては制限したほうがよろしかろうということで、幾つかの手当てがなされている、それが、次の5ページと6ページに書いてございます。

 3つ現行制度であろうかと思いますが、まず、1つは、裁定実施権制度と言われるもの。これは、特許庁長官とか、経済産業大臣の裁定によって、他人の発明について通常実施権を設定することができるという規定ですけれども、こういう裁定実施権が設定されたときには、差止請求をすることはできないと解されております。

 2つ目の制限としまして、権利濫用に当たる場合ということで、民法の一般則でもって権利の濫用に当たるということに該当すると、差止請求が認められない場合があるというのが、2つ目の考え方でございます。

 あと、差止請求の制限として3つ目といたしまして、その下のページ、競争法との関係、独占禁止法との関係がございます。

 こちらとの関係で問題あるというふうに認定された場合には、制限される場合があるというのが競争法に基づく制限の在り方でございます。

 こちらについては、後ほど、また、御紹介を公取の方からさせていただくことになろうかと思います。

 差止請求権一般論としてどうあるべきかというところを、次の7ページに、関係者の御意見としてまとめさせていただいております。

 こちら、知財本部で、今年前半に紛争処理についてタスクフォースという会合を開催させていただきまして、その中で出た御意見でありますとか、あと、我々の方で、いろんな有識者の方に個別にヒアリングをさせていただいたりして、そういったところの中から抽出してきた意見でございます。

 左側、緑のところが制限に積極的な意見、右側、青いところが差止請求の制限は慎重であるべきという意見でございます。

 ざっくり申し上げると、一般論としては慎重であるべきという御意見の方が多かったのかなと考えております。

 積極的な意見としましては、権利濫用法理だけだと、裁判所が運用し辛かろうということで、そういう規定を設けてもいいのではないかというのが意見の概要でございます。

 他方、慎重な意見としましては、やはり、差止請求権や特許権の根幹であるので、ここを制限するというのは、いかがなものかというのが、御意見のエッセンスであります。

 以上が差止請求の総論的なところですけれども、では、個別の論点についてどうかというのが、次の8ページ以降になります。

 まず、個別論点1としまして、標準必須特許の問題がございます。

 こちら、標準必須特許ですが、事業者として、その技術を回避できないという性質のものと理解されております。

 この中でも、FRAND宣言と言われる、公平、リーズナブルで非差別的な使用を許諾すると、そういう宣言がされているという場合もございますけれども、こういったFRAND宣言がされている標準必須特許については、何がしか法改正でもって一律手当てをすべきではないかというような御指摘もありますが、その一方で、権利の濫用論によるアプローチが良いのではないか。昨年、知財高裁の大合議判決も出ましたけれども、こういったアプローチが良いのではないかという考え方とか、あと、競争法からのアプローチということも考えられると、このあたりも含めてどう考えるべきかというところかと思います。

 検討例を@ABと中ほどに書いてございますけれども、FRAND宣言をされているものについて手当てをするとか、FRAND宣言の有無にかかわらず、標準必須特許であれば制限するという考え方もあれば、信義則違反、競争法での対応も可能なので、いろんな技術標準化とか、産業の発達に与える影響等々を考えて、運用状況を当面は注視したほうがいいのではないかと、そういう御意見もいただいているところでございます。

 こういった検討に当たって、参考までにということで、次の9ページ、10ページに、判決を2つ載せてございます。

 まず、9ページですが、昨年5月に知財高裁大合議判決で出されたアップルとサムソンの事件でございます。

 判決要旨の1.のところですけれども、差止請求権の行使ですが、本件の事案において、FRAND宣言をしている特許権に基づく差止請求権の行使は、権利の濫用に当たるということで行使が認められなかったという事例でございます。

 これは、あくまでも、1つのこの事件における事例ということでありますが、重要な判決ですので、御紹介をさせていただいております。

 その下、10ページですが、欧州連合の司法裁判所(CJEU)での判決が、今年の夏に出されました。

 これは、反トラスト法、日本で言うところの競争法との関係での判決でございますけれども、こちらの要旨は、その下に書いておりますけれども、標準必須特許の権利者がきちんと、事前に警告していたと。それに対して、被疑侵害者側が真摯な応答とか、誠実な応答をしていないと、こういった場合には、標準必須特許であっても差止めを求めることは、市場の支配的地位の濫用には当たらないということで、この事例においては制限すべきではないということが判示されているものでございます。

 こちらについても、次の11ページに各方面の有識者からいろいろ聞いた意見を、そこにまとめさせていただいております。

 これもざっくり申し上げると、右側の青い部分、標準必須特許において、差止請求について制限は慎重であるべきという御意見の方が非常に多かったのかなというのが相対的な印象でございます。

 標準必須特許は、制限が必要という御意見は、そこに書いておりますけれども、何がしか手当てが必要ということですが、やはり、慎重な意見としては、個別の事案にもよりますので、競争法とか、権利濫用論によってケース・バイ・ケースで対応することがよろしいのではないかというのが、御意見のエッセンスであると理解しております。

 続きまして、個別論点の2つ目、PAE、特許主張主体による権利行使の在り方でございます。

 こちらは、アメリカではパテント・トロールとかいう問題がありますけれども、そういったところも踏まえて、どういうふうに考えるかというところですが、論点として、PAEによる差止請求権の行使を一律に制限するか、あるいは権利濫用あるいは信義則違反のような一般条項での解決に委ねるかと、ここに尽きるのかなと思っております。

 これについても、13ページに、各方面の識者の御意見を並べさせていただきました。

 これも先ほどと同様、制限することは慎重であるべきではないかというような御意見を多くいただいておるところでございます。

 以上、簡単ではございますが、事務局からの説明でございます。こちらを基に、また御議論いただければと思います。

○伊藤委員長 ありがとうございました。

 続きまして、差止請求権の在り方に関連して、公正取引委員会におきまして、独占禁止法上の考え方についての検討が行われていると聞いておりますので、公正取引委員会の方から説明をお願いいたします。

○松本室長 公正取引委員会相談指導室長の松本でございます。本日は、よろしくお願いします。

 公正取引委員会では、いわゆる標準必須特許に関連した事業者の行動につきまして、独占禁止法の観点から関心を持っておりまして、その取組として御説明したいと思います。

 資料は、4番になります。

 独占禁止法は、具体的にどのような行為が違反になるのかということについて、条文だけでは一般に分かりづらいということもありまして、行為類型ですとか、事業分野に応じて、法運用に当たっての解釈、具体的な考え方をガイドラインとして公表しております。

 そのガイドラインの中の1つとして、知的財産の利用に関する独占禁止法上の考え方を公表しているところでございます。

 申し上げるまでもなく、知的財産に関しましては、その権利の行使と認められる行為には、独占禁止法の適用はございません。

 一方で、知的財産と関連しているけれども、そもそも権利の行使とは認められないものですとか、あるいは、外形上は権利の行使に見えるけれども、実質的に権利の行使とは評価できない、あるいは知的財産制度の趣旨を逸脱しているようなもの、こういうようなものに関しては、事業者間の公正・自由な取引、競争というものを阻害する要因になりますので、独占禁止法を適用するということで、こういった観点からガイドラインを示すものとなっております。

 資料1枚目の背景の部分でございますが、特に我々が独占禁止法の観点から注視しているという背景ですけれども、情報通信分野などの技術革新が進んでいる中で、既存のガイドラインには考え方を示していない行為が見られている。そういった観点から、国内外の動向を注視してまいりました。

 昨年の4月以降、企業の方ですとか、団体の方に聴き取り調査をする、あるいは海外競争当局と意見交換をするなどによりまして、標準必須特許に基づく差止請求訴訟の状況の把握に努めてまいりました。

 そして、今般、既存のガイドラインに追加する内容として案をまとめて公表した次第でございます。

 資料の青い部分になりますけれども、具体的にどういった行為を対象にするかということでございますが、規格、標準、スタンダードを定める、こういったことを行う標準化機関がございますけれども、こちらが規格を策定する際に、規格に参加する者に対しまして、各標準化機関が知財の取扱いを定めたIPRポリシーというものに基づいて、いわゆるFRAND宣言、公平で、妥当で、差別的ではない条件でライセンス許諾をするということを宣言してもらう。それによりまして、その宣言をもとに規格に採用する。そうしますと、規格の必須特許を有する特許権者というものが登場するわけでございます。

 その者が、その後になりまして、こうしたFRAND条件でライセンスを受ける意思があるものに対して、ライセンスを拒絶したりですとか、差止請求訴訟を提起するということがございます。

 こうした行為につきましては、製品サービスの規格に採用されている技術を使わせないという行為でございますので、事業者の取引の仕方として不当であると、知的財産制度の趣旨を逸脱するものとして、具体的には独占禁止法上の私的独占あるいは不公正な取引方法というものに該当してくる場合があるというものでございます。

 赤い部分でございますが、具体的なメルクマールとしまして、FRAND条件でライセンスを受ける意思を有する者に対しての差止請求訴訟の提起ということに関して、このライセンスを受ける意思を有するかどうかという判断で、意思を有する者ではないという認定については、個別の事案に照らして厳格になされるべきであるということを示しているところでございます。

 原案につきましては、パブリックコメントを行いまして、国内外、多方面から御意見を頂戴しているところでございます。

 このいただいた御意見の中には、建設的な内容、御指摘が少なくありませんので、そうした御意見を踏まえてガイドラインとしてより良いものにしていきたいということで、現在、成案の取りまとめに向けた検討作業を進めているところでございます。

 参考までに資料の2ページ、3ページ目を御紹介したいと思います。時間もありますので詳細は省略いたしますが、海外の競争当局などにおきまして対応が執られている状況でございます。

 2ページ目のアメリカの競争当局FTC、欧州委員会の競争当局が、具体的な競争法上の事件としましてFRAND宣言が行われた必須特許による差止請求の問題を取り上げております。そして、競争法に違反するという判断が、個別具体的な判断として示されているものがございます。

 また、3ページ、海外の競争当局がそれぞれ持っているガイドライン、こちらで考え方を示しているというものもございます。

 具体的には、韓国の公正取引委員会、中国の競争当局ですけれども、それぞれのガイドラインにおきまして、このFRAND宣言をした標準必須特許の差止請求訴訟、これが、権利の行使の範囲を逸脱するものとして、競争法上の観点から捉えるということを公表しております。

 また、カナダの競争当局も、今年の6月にカナダ当局のガイドラインの改正案を公表しておりまして、成案はまだですけれども、同じような考え方を示している、こういうような状況にございます。

 我々としては、事業者間の競争への影響と、取引の仕方の不当性という観点から着目して、こうした考え方を示すことによって、事業者の方への予測可能性を高めていきたいと考えているところでございます。

 以上です。

○伊藤委員長 ありがとうございました。

 それでは、ただいまの説明も踏まえまして、差止請求権の在り方につきましての意見交換に移りたいと存じます。どなたからでも御自由に御発言ください。

 豊田委員、どうぞ。

○豊田委員 差止請求権の全般的な制限については、やはり、特許権の基本の根幹になる部分ですから、制限というものは、加えるべきではないと思っています。

 これは、多分、ここのヒアリングの資料において、慎重な意見が大半を占めているということも含めて、事務局の提案どおりが、我々少なくとも委員としては、賛成をしていきたい、是非この方向で議論を進めていただきたいと思っております。

 それから、必須特許についてですけれども、多分、この部分がいろいろ大きいので、この差止請求権について議論が及んでいるのではないかと思っています。

 この必須特許について、少し企業として携わってきた立場から、少し意見を2つ、3つ言わせていただきたいと思います。

 FRAND宣言そのものは、我々自身もしておりますし、かつてはRAND宣言、そのあとはFRAND宣言というふうにして規格必須でやっています。

 それは、あくまでも規格特許を独占して相手に使わせないということはしませんよと言っているだけであって、それは規格である以上は、その特許を出した以上は、それを一企業として独占をして、使わせないということは言いませんよと言っているだけであって、その規格を使っていて、適正なリーズナブルですね、費用を払わない、ライセンスを受けない人に対してまで、それを許諾して、何もしませんということを決して言っているわけではありません。そこが、どうも少し誤解があるというか、ごっちゃになっているのではないかと思っています。

 規格特許を作成するに当たって、何もそれが自然発生的に生まれるわけではなくて、規格特許を作成する上での研究開発なり、また、それを策定する上での、いろんな意味での貢献と、我々は貢献と呼んでいるのですけれども、努力があって、その結果として、規格特許が生まれていると。ただ、公益性を考えて、それを許諾を受ける意思のある人に対しては、許諾しますよということを言っているわけでございます。

 ところが、現実の姿で言うと、この経済の中で言うと、1つの事例で申しわけないのですけれども、映像の信号を圧縮する1つの規格があって、比較的これは初期にできた特許の規格であったために、比較的ライセンサーですね、特許を持っている人も、ほとんどその規格団体の中に参加して共同して運営をし出すと。

 一方で、受ける側も比較的順調に受ける人がおられたのですけれども、ある特定の業種の方だけは、どうしても我々としては、それを受ける気はないということで、入られなかったです。

 やはり、そうなると、これは交渉を、幾ら話し合いをしても彼らは受けないと言っている以上は手立てがない。そうなると、裁判を起こしてやると。

 このとき、損害賠償があるではないかということになりますけれども、現実的に言うと、商品というのは旬といいますか、時間的なものもあって、裁判が遅滞されると、その産業そのものがなくなる、経済的意味がなくなるということでありますから、どうしてもある差止請求権という、彼らにとってはリスクのあるものを背景に交渉せざるを得ない。

 その結果として、ある業種全体としては、ライセンスを受けるという、最終的には意思を示されたということはあります。

 したがって、先ほども少し述べましたが、グローバルの中で、なかなか話し合いだけでとか、そういうことだけでは、この特許を受けるという人が、今、大勢は占めていない。むしろ、できれば、受けずに逃げ回ればラッキーという人が、残念ながら多いという1つの事実の中で、それが規格特許であろうが、何であろうが、差止請求権云々というのは、私はすべきではないなと思っております。

 では、そうは言っても権利濫用の云々と言うのであれば、それは、権利を持っている人と、持っていない人の間のバランスをいかにとっていくかというところをよく考えるべきではないかなと思っています。

 そういう意味でいうと、今、公正取引委員会の方のガイドライン案が出ておりますけれども、そのガイドライン案は、非常に使用者側、使う側の人にとって、これは権利者側から見ると、偏っているのではないかと、当然、権利者側にもいろんな意味でのガイドラインを作成する必要があるのであれば、権利者側として守るべきものは書かれていても、ある意味、守るべきだと思いますけれども、一方で、先ほどのような実態にありますから、使用者側として守るべきこと、やるべきことをきちんと明記して、そのバランスの中で、個々の事案ごとにどう判断するかとしていただかないと、今の文面だけを見ますと、見た瞬間に、これは使用者側が権利濫用ですね、独禁法に当たると読めないこともないので、そういったところを是非今後、引き続き検討されるのであるとすれば、その部分は是非反映を考えていただきたいと思っております。

 以上です。

○伊藤委員長 ありがとうございました。

 小松委員、お願いします。

○小松委員 何か、さっきからパターンが決まっていますが、すみません、関西がしゃべり過ぎて邪魔かもしれませんが、議論の素材ということで、差止請求権の制限という問題設定、法改正を伴うような問題設定というのは、本当にびっくりしてしまうような感覚を持っておりまして、えっと正直思います。

 それは、知的財産権の差止請求権は、当然に準物権ですし、準物権に基づく物権的な請求権というのは存在するわけです。損害賠償だけで代替できる場面はないと思います。

 それから、例えば、最高裁平成17年6月17日判決は、特許権者が地上権みたいな、専用実施権を設定したら、本来は、空虚な権利なのに、やはり、妨害状態があるときは、妨害排除請求権は残っていますよというふうなこともあります。

 もう一つは、日本の損害賠償額の価値が低いとか、いろんなことがあるわけですが、それとのセットで考えても、基本的な差止請求権の持つ機能というのは、思いっきり強くあっていいと。

 だから、例外事象として制限することは結構なのですけれども、それの明文化を試みるというのは、とてもではないですけれども、受け入れがたいというのが、多数の意見ではないかと思います。

 あと、2つ、例えば、PAEについてどうしますかと。これも、そもそもパテント・トロール、あるいはPAEの具体的な定義付けはできないと言われているわけですね。いろんなパターンがあるわけです。

 では、ベンチャー企業だったらどうするのということもあるわけですので、それを余りディテールに規定していこうとしても、私は無駄と言っては語弊があるかもしれませんが、余り意味がないのではないかと思っております。

 そういう意味では、個別事案で、例えば商標権の権利行使については、権利濫用の判例はいっぱいあるわけですね。商標の場合は、当然、商標の使用ということを前提にしていくものですから、権利行使をするために譲り受けて訴訟を起こすという、古くは有名な東京高判昭和30年6月28日天の川事件みたいな、そういうのはあって、やはり、その思想は、私は創作法のほうでも活用されてもいいのではないかと思ったりはしておるので、やはり、最終的に裁判所の御判断で、余りにも大阪弁で言う、善人を目当てにするような、ああいうやつですね、やつというか、というように評価されるような団体については、それは制限されていいという場面はあると思いますが、それを超えてというのは反対です。

 あと、FRAND宣言も、大合議が出まして、最高裁には、結局、最終的には係属をしなかったわけですので、大合議の価値がどうなるのというのはあると思うのです。この頃、最高裁の大合議を否定するようなものも出たりしていて、いろんな意味で微妙なところがあるのですけれども。

 あの事案も、たくさんの事情を、特に一審などを見たそうなのですけれども、交渉の経過のいろんな事情を参酌して、それで権利濫用という判断をしている。やはり、我々、法律実務家としては、非常になじみやすいところがある。

 それを、やはり、これも類型化して明文化するということは、とてもではないけれども、難しい。特に、公取さんのパブコメでありました、パブコメで御提案されている総論は、私は、大部分賛成だと思うのです。我々日弁連あるいは弁護士知財ネット、これは、1,000名の弁護士がおるのですが、みんなで議論をしても、良いなという感じは持っているわけです。

 各論のところが、特に不公正な取引、私的独占に当たらない場合に、あと、不公正な取引になるよというところが、非常に形式的に終わってしまっていると、それは、ヨーロッパとかのいろんな判断を見ていっても、誠実に交渉をしているのかというところは、そんなもの条文化になじまないわけです。あるいは、公取さんのガイドラインができてしまうと、かなり走ってしまうというところがあると思うのです。やはり、もし、規定されるなら例外規定とか、当たり得るとか、原則とか、そういうので許容する範囲をちゃんと持たせたガイドラインにしていただく必要があるのではないかと思います。

 実務をやっていますと、ライセンス交渉であるとか、それ以外の交渉で、常に知的財産のガイドラインを重視しております。

 昔、白条項と、黒条項と、灰色条項とあったではないですか。今は、それを使っていませんけれども、ああいうふうに分けていくと、何か実務で交渉していくときに、非常に使いやすいわけですね。

 ところが、この頃、もう少しフワッとなってしまったので、余計にひょっとしたら、公取、これが上がったら文句を言われるのではないかというふうな、かえってかなり制限効果が出ているのが、公取さんのガイドラインなのです。それが良いか、悪いかは別にして、そういう意味では、非常に力をお持ちのガイドラインになり得ると思いますので、私としては、この御提案については、知財ネットでも反対というか、慎重にやってくださいと、例外も設けるようなニュアンスで意見を言わせていただきましたので、それは、是非とも御配慮いただきたいと思います。

 以上です。

○伊藤委員長 ただいまの御意見は、特許権の権利としての性質あるいは侵害に対する救済の視点から損害賠償と差止めとの関係、さらにFRAND宣言の意義、役割などの点を踏まえまして、一般的規律として差止請求権の行使を制限する記述を設けることについては、消極ないしは反対のお立場の御意見と承りましたが、同じ方向でも結構ですし、また、制限を設けることに積極論も有力と聞いておりますので、違った視点からでも、積極的に御意見をお願いいたします。

 高林委員、どうぞ。

○高林委員 隣の芝生は青いという話を先ほどしたので、アメリカのeBay判決のことについて述べたいと思います。アメリカにおける知的財産権侵害に対する差止めは、エクイティ上の救済として認めるか認めないかを裁判官が判断できる制度ですが、これは、オンゴーイングロイヤルティーという制度とも絡んでおりまして、差止めは認めないけれども、オンゴーイングなロイヤルティーですね、これは、通常のライセンスフィーとは違うオンゴーイングなロイヤルティーですが、これを裁判所が認定することができるとされています。そのような制度をFRAND宣言の事件などでも活用しておりますが、これは、日本で考えると裁定実施権に近似しているといえます。というのも裁定実施権のライセンスフィーは、必ずしも通常のライセンスフィーではなく、公共的なものであれば安くなるでしょうし、そうでなければ高くなるとか、その辺を行政庁の方が決めることになっているわけですが、これはいうなれば将来的なライセンスフィーということもできると思います。

 ところが、日本では差止請求を棄却してしまうと、過去の損害賠償は認められるかもしれませんが、将来の損害賠償は認められないわけで、そのたびに訴訟を起こさなければいけなくなるかもしれません。

 そのような現行の日本の制度の下においては、差止請求を棄却してしまって、その代わりに過去の損害賠償だけで満足すればよいでしょうという論は、私は成り立たないと思います。

 個別的なFRANDとかのパテント・トロールとかという問題は、また、後の問題といたしまして、一般的に、差止請求権をそのように過去の損害賠償請求権に代替することによって、制度を制限していいのだろうというのは、アメリカと制度が違うところにおいては、私は賛成できません。

○伊藤委員長 早稲田委員、どうぞ。

○早稲田委員 私も差止請求権は、原則として制限すべきではないという立場でございます。

 やはり、知的財産というか、無体財産権にとって、やはり、差止めというのは非常に重要な権利でございまして、これがないと、他者との交渉もできないというところもありますし、事業的に、やはり、自分が独占したいというような、いろんなバランスから考えて差止請求権を行使するということは十分あり得ると思いますので、これは、制限すべきではないと思っております。

 それで、いろいろな個別の問題につきましては、日本の裁判所というのは、やはり個別事例をきちんと判断して判決をするという裁判所だと思っておりますので、権利濫用法理も、そんなにハードルが高いというわけではなくて、やはり、権利濫用も法理でやらざるを得ないというところは、結構すぱっと裁判官が出されると、私自身は思っておりますので、これでよろしいのではないかと思っております。

○伊藤委員長 森田委員、お願いします。

○森田委員 私も差止請求権に関しましては、例外を設けるべきではないということに賛成です。

 医薬品業界におきましては、やはり、損害賠償請求よりも差止めができるかどうかというのが非常に大きなところだろうと思います。

 一方で、PAEとかパテント・トロール、そういうものは知財の、いわば悪用ということで、やはり、健全な産業発達には、全く寄与していないなと思います。

 パテント・トロールにしても、一方では医薬品業界、余りケースとしては少ないという実情にございます。

 ですので、そういうまれなケースをもとに、差止請求権全体に関して制限は設けるべきではないと考えております。

 ちょっと話はずれるのですけれども、イノベーションの促進とか、そういうところに関しましても、やはり、知財訴訟も1つの要素としてあるのかもしれないのですけれども、医薬品業界、今、低分子の最終製品からバイオ製品に変わってきているというところもございます。そういうところもあって、多分、出願件数もちょっと下火になっているのかなというところがあるかもしれない、今後は伸びていくかもしれません。

 ですので、そういうところの新しい保護対象とか、再生医療も含めて、そのあたりも、これは別の機会かもしれませんけれども、そういうところに関しても興味があるところでございます。

 以上です。

○伊藤委員長 東海林委員、お願いします。

○東海林委員 裁判を運用する立場から一言、裁判の実情をちょっとお話ししておきたいと思います。

 これは、個人的な意見なのですけれども、私も知財に関しては、差止めは非常に重要なものだと思っておりますので、特に法文で制限を認めなければ、適切な運用ができないとは考えておりませんが、実務の運用といたしまして、先ほど来、出ております権利濫用、本来、これは、民法的に権利濫用というのは非常にハードルが高くて、多分、普通の事件でめったに認められるものではないという感覚だと思いますが、殊、知財に関しましては、いわゆるキルビー抗弁も含めて権利濫用というのは、一種の調整弁といったらちょっと語弊があるかもしれませんが、そういう形で適切に行使されているのではないかと思っております。

 今回、知財高裁が判決を出しましたFRANDの事件につきましても、差止めのみならず、一部の損害賠償についても、権利濫用という論理を使っていますけれども、あれも、基本的には、判決文の中、あるいは一審の事件の判決を見ていただければ分かりますように、単にFRAND宣言をしただけで直ちに権利濫用になるということではなく、その交渉経過も詳細に認定した上で、総合的に判断しているのではないかと思っております。

 PAEにつきましても、これは、実際、私の知る限り、PAEについて権利濫用の抗弁として認められた例は今のところないと思っておりますけれども、実際の訴訟では、たまにそういう抗弁が主張されることがございます。

 もちろん、今、申し上げたように、実際には判断されていないのでけれども、裁判所としては、権利濫用の抗弁として主張された場合には、それについて、本当にそういう抗弁が立つかどうかも含めて、慎重に、個別の具体的な事案を見て判断するということになると思っております。

 それから、独占禁止法のお話も出たのですけれども、これも現実問題といたしまして、特許侵害訴訟の中で、独占禁止法、私的独占あるいは不公正な取引方法に当たるというような場合に、まれではありますけれども、被告の側から独占禁止法違反の抗弁という、内容的には権利濫用の抗弁でございますが、現実に、そういう訴訟もございまして、そういうようなことで、権利濫用というのは、知財の分野では、比較的抗弁としてよく主張されていると、裁判所といたしましては、権利濫用ですから、法的に言うと、規範的な要件事実ということで、評価根拠事実と、評価障害事実をそれぞれの当事者が出し合って、その個別の具体的な内容に応じた、適正、妥当な判断をするという意味では、非常に柔軟性に富んでいる抗弁と思っておりますので、私の個人的な意見としては、今の状態のままでも権利濫用の抗弁という形で審理すれば、事案的には適正な方向に持っていくことが可能なのではないかと思っております。

 以上です。

○伊藤委員長 ありがとうございました。いかがでしょうか。

 二瀬委員、どうぞ。

○二瀬委員 中小企業にとって、やはり、長期間にわたる裁判というのは、大変な負担になるのです。これは、経費の問題、それから、人員も数が限られていますので、専門家もおりません。

 そういう中で、裁判で結審を待つというのは、大変な負担になる。場合によっては会社が潰れてしまうようなこともあると思います。

 そういう点では、差止請求権の権利というのは、これは是非伝家の宝刀として残しておきたいと思います。

 それから、標準必須特許もしくはPAEですけれども、これは個別案件で裁判所の方で御判断いただければいいのではないかと思います。

○伊藤委員長 ありがとうございました。他に、いかがでしょうか。

 上山委員、どうぞ。

○上山委員 私も差止請求権を原則制限すべきではないという立場です。

 先ほど、豊田委員の方から、公取さんのガイドライン案について、ちょっと違和感があるという指摘があったのですけれども、これは、ガイドライン案の書き方が、アップルとサムスンの事件を念頭に、ライセンスを受ける意思を有する者に対して、権利を行使すると、制限されるという書き方になっていて、標準必須特許を持っている方にとって違和感があるのは、ライセンスを合理的な条件で提案しているのに応じようとしないという場合が、ガイドライン案に書かれていない。

 それなので、この案の書き方だけだと、権利の行使が制限される場合に当たるのではないかというふうに判断されるおそれがあるという部分だと思うのです。

 ですので、この資料で例示されているドイツの判例は、逆に特許権者の側が合理的な条件でライセンスを申し出したのに、相手型が、それに応じようとしないというふうなケースですので、それを併せて書いておけば、バランスが取れるのかなと思います。

 あと、実務的な観点での差止請求権の行使は、もう皆さんがおっしゃったとおりで、実際にライセンスの申し入れを受けた時点あるいは侵害警告を受けた時点で、対応方針を検討する上で、差止請求権があと何年残っているのか、それによって対応方針を変えるというのは、大企業の側で相談を受ける場合も、中小企業の側で相談を受ける場合も、共に一番重要な問題として最初に検討するポイントですので、損害賠償額の問題等も含めて、現状、差止請求権を制限する方向で改正するということはあり得ないのではないかと思っております。

○伊藤委員長 ありがとうございます。他に、いかがでしょうか。

 岡部委員、どうぞ。

○岡部委員 私も差止請求権を今制限するという考え方は、ちょっとおかしいのではないかと思っております。

 アメリカでは、いろんな判決が出て、特許を弱める方向というような感じを受けたりもしておるのですけれども、かなり混乱をしているようにも見受けられまして、その中でも、やはりPAEといったような活動が目立つということから、そういった方向性が出ているのではないかと思いますけれども、日本の場合は、そういった活動が極めて目立つというような状況にもありませんし、とにかく日本における特許の価値が低いのではないかという発想で、私は考えていますので、その中で、更に特許の価値を弱めるような話が前面に出てくるというのはおかしいのではないかと思います。

 アップル、サムスンの事案などでも、十分裁判所は、事情を認定された上で権利濫用という判断をされていると思いますので、ああいった形での判断で十分なのではないかと思います。

 以上です。

○伊藤委員長 皆様の御意見を伺っておりますと、先ほども申しましたけれども、差止請求権の行使が制限されるべき事例がないとは言えないけれども、それは、あくまで例外的な場合であって、そういうものに対処するために、一般的な規律として差止請求権の行使事態を制限する趣旨の規定を設けることは合理性がないとの御発言が多かったように存じます。先ほど、東海林委員からは、権利濫用という私法の一般的な法理を柔軟に適用することで足りるのではないかという御指摘もございましたが、従来から多様な議論がある論点ですので、どなたか、更に御発言があればお願いしたいと思います。

 渡部委員あるいは山本和彦委員、いかがでしょうか。

○渡部委員 皆さん、ほとんど意見が同じなので、付け加える必要もないかなと思うのですが、先ほど少しコメントがありましたが、アメリカがそういう方向だというのは、先ほどもちょっと申し上げましたけれども、基本的に、その制度が与えている便益との兼ね合いで決まるわけですが、アメリカの場合は、それに対してPAEの問題とかで、コストの方が、特にIT業界などの場合は、ほとんどコンパラか、場合によってはマイナスになってしまっているという、そういう状況があって、そこで差止めの制限をする話と、それから、日本とか韓国でやる差止めの制限をする話は、全然効果が違うと考えられます。

 韓国は韓国で、最近、この件だけではなくて、結構、この独禁法当局の発言と思われるものの中で、それこそ、標準必須特許、デジュールだけではなくてデファクトにも何か及ぶのではないかとか、そんなような意見も出たりしていて、それは、逆に言うと、これは、韓国の産業政策としての反映ではないかなと思うわけです。日本は、そことはちょっと違うのだろうと思いますので、その構造が違う中で同じことをすることにはならないという話が1点です。

 もう一つは、実は、差止請求権がない権利というのは、実は知財ではライセンス・オブ・ライトというのが、ドイツあるいはイギリスではあって、一時期、標準技術については、ライセンス・オブ・ライトでもいいのではないかと、そういう制度は日本でもあった方が良いのではないかというような意見も、ITメーカーから少し出ていた時期もあります。

 ただ、これは、前は、フランスも実はライセンス・オブ・ライト制度を持っていたのですけれども、余り人気がなくてやめてしまった。

 ドイツ、イギリスに関しても、我々がちょっと分析する限り、もともと技術移転促進の趣旨で作られている制度だと思いますが、その効果は、ほとんどありませんで、結局、安いから使っていると、そういうようなことであります。

 やはり、その業界の人たちでも差止請求権がないと、先ほどの逃げ回っているケースみたいなものは対処できないということですから、そこは一般的な形で規定するというは、おそらく余り賛成される方もおられないのだろうと推定しています。

 ただ、それでもなおかつ、これを導入したいという方は、ちょっと別の観点がある可能性があるので、今日は、そこは出てきていないので、それについては、この議論の中では、少なくとも先ほどの意見のところに、賛成だという方もおられるわけです。そこの観点は、どういう観点なのかというのは、ちょっと押さえておく必要はあるかなと思います。

 以上でございます。

○伊藤委員長 山本委員、どうぞ。

○山本(和)委員 私、この問題について、特に手続法学者として定見を持っているわけではありませんが、皆さんの御意見を伺った感想を申し上げたいと思います。

 権利濫用の法理について、私の認識では、先ほど、正に東海林委員が言われたように、既に法理が固まった分野で権利濫用というものが使われるときは、それは非常に極端な場合の個別的な例外として適用されるということだと思います。

 ただ、このような新しい分野で、法理自体が、かなり流動的な分野で、この権利濫用というものが使われる場面においては、先ほど、調整弁という言葉を使われたと思いますけれども、そういう利害のある一定の調整を図るために、他に適当な方法がないので、一種の欠缺を補充するルールとしての一般条項という形で使われるという場面があって、ここは、そういう形で使われているのだろうという認識を持っています。

 将来において、あるいは一般的な法理というものが、そこから具体例の積み重ねの中で抽出されていく可能性というのは、私はあるところなのかなと思っていますけれども、ただ、このFRANDの問題に標準必須特許の問題、まだ、知財高裁の判決が1つ出たということで、ただ、その射程についてもいろいろな御議論があるようですし、個別の事案の認定に基づいた判断ということですので、今後、それがどういう形で発展していくかというのは、まだ、かなり流動的なように思いますし、また、パテント・トロールというか、PAEの問題も、私、いろいろ聞いていて、どこがいけないのかというのが、必ずしもよく分からないところがありまして、既に使っている人が、多大な投資をしているところに、一種のホールドアップ的に来て、それを差し止めて、本来は、取れないような多額の賠償を取ろうというふうにしているところ、既にそれを使っている人がいるというところに問題があるのか、あるいは、自分が実施していなくて、その特許が死蔵されてしまうというところに問題があるのか、それであれば、しかし、裁定実施権という制度が、それを念頭に置いて作られた制度と思いますので、そちらで対応するのかという感じがします。

 本当に悪意を持って、そういうことをやって、要するに悪い人だという話だとすれば、それは、やはり固有の権利濫用の問題になっていくのだろうと思いますし、まだ、それがどこに問題があるのか、日本ではまだそれほど多くの事例がないというようなお話も伺いますし、まだ、規律を設けるとしても時期尚早なのかなという印象を持っております。

 以上で。

○伊藤委員長 皆様方から、ひととおり御意見をいただいたように思いますが、豊田委員、お願いします。

○豊田委員 公正取引委員会のガイドラインのところなのですけれども、内容もそうなのですけれども、私としては、時期尚早のところもあるのではないかと思っています。

 それは、アメリカは、使用者が非常に多くて、いろんな意味で紛争が多いと、ヨーロッパはヨーロッパで権利者が非常に多くて、それはそれでいろんな経済的な背景もあると、おそらく、韓国も使用者としての大きなトップメーカーが2つあって、いろいろ側面があると。そういったいろんな経済的側面もあって、いろんなガイドラインとか、先ほどのFRAND宣言した必須特許のガイドラインが出ているのではないかと思っています。

 では、日本はというと、必ずしも、そこは具体事例があるわけでもないし、まだ、時期的にも状況的にも非常に微妙なところではないかと思って、そういう中で、必ずしも予見性を高めるような、予見性を高める必要があるということで、ガイドラインを出そうとされているのですけれども、それを今する時期かどうかという意味でいうと、もう少しよく検討すべき点もあるのではないかと思っています。

 要は、ガイドラインが出て、それをどうするかという議論の以前に、今すべきかどうかというところも、是非、慎重に検討をお願いしたいということでございます。

 以上です。

○伊藤委員長 小松委員、お願いします。

○小松委員 日弁連の方で、2010年の3月に公表しているのですけれども、特許庁さんの方で出されました、特許制度研究会報告書の特許制度に関する論点整理に関する中間意見書というのを、先ほど申し上げた2010年の3月に公表しております。

 そこの中で、差止請求権の制限について、できるだけ類型化してみようと、みんなで一生懸命考えたわけです。

 類型化のパターンとしては、今、PAEなどで問題になっている、特許権者の属性という視点から、1つの類型を捉えると。

 それから、別の視点でいくと、発明の内容に注目して、それで、これに属するのが、FRAND宣言に関するもの、それから、リサーチツールの問題、さらに国民の健康とかに関する問題、裁定制度があったりしますけれども、こういう論点もある。

 もう一つは、本来的に差止請求の対象についてです。これは、那覇地判平成20年9月24日の判決がありますけれども、著作権の事件ですけれども、この中の1ページか知りませんけれども、一部だけが著作権法違反で、それで本を全部出版差止めはひどいではないですかと、そんな類型もある。

 つまり、ある程度の類型はあるのですが、なかなかうまく条文化していくということは難しいということもあるので、やはり、一般法理に属すべきではないかと。

 それから、公取さんのFRANDの、今回のガイドライン案についても、ごく一部のFRANDの問題だけ取り上げておられるのですが、では、リサーチツール的なものはどうするのとか、場合によるとリサーチツールもかなり共通項があるような感じもするわけですね。

 だから、そういう大きな視点で、もう一度見ていただくということも大事ではないかということを補足させていただきます。

○伊藤委員長 ありがとうございました。

 それでは、大変充実した議論をしていただきましたが、ほぼ予定の時間に参っておりますので、更に追加の特段の御発言がないようでしたら、御関係の府省で、ただいまの議論などを踏まえまして、何か御発言がございましたら、お願いいたします。いかがでしょうか。

○前田課長 特許庁の前田でございます。御発言の機会をいただきましてありがとうございます。

 まず、冒頭に、事実に基づいて、きちんと丁寧に議論すべきという御発言があったかと思います。私どもは、種々の統計情報でございますとか、分析の情報を持ってございますので、適時、事務局の方に御提供させていただければと思ってございます。

 2点目、公取のガイドライン案についてですが、やはり、ライセンサーとライセンシーのバランスについてきちんと配慮するべきだろうと思ってございます。

 そういった意味で、ユーザーの御意見を丁寧に慎重にお聞きいただきながら、対応いただければと思ってございます。

 以上でございます。

○伊藤委員長 ありがとうございました。

 どうぞ。

○及川課長 経済産業省基準認証政策課長でございます。御発言の機会をいただきましてありがとうございます。

 私、今回の議論には、正に標準、必須特許の前段階の標準の部分との関係で参加させていただいております。皆様方の御意見、本当にごもっともだと思って聞いていたのですが、今日、議論に出なかった前段のところで、私の職務との関係で申し上げさせていただきますと、標準必須特許の定義といいますか、それをどう考えるかというのが、差止請求権の行使ができるかどうかという議論の前段階で、もし、御示唆をいただければと思ってございます。

 という心は、御案内のとおりで、必須特許のところは、我が国の場合は、JISCのパテントポリシーで決まっていまして、規格を実施、使用するために必要な特許を持っている場合は、それをFRAND宣言しないと、規格にしませんと、それだけを決めているものでございます。

 他方で、今日、議論もありました公取のガイドラインというのは、そこから出発しまして、差止請求権をどこまで行使できるかという話になっていくものでございまして、よくよく見ますと、単純に規格を使用するに当たって、必須な特許というのに加えて、例えば、公取のガイドラインの原案あるいは過去のパテントプールに関する規定などですと、そこに若干の違い、価値観の違いのようなものがございます。

 そういうところをどう考えていくか、多分、それを使われる方、企業の方々にとってみれば、自分たちの権利ないしは義務というのはどこに及ぶのかの範囲が変わってくるように見えていまして、まず、そういうことを定義で見た場合に、もし、我々の標準当局、これもガイドライン的なものなのでございますけれども、パテントポリシーというのは、何かしら対応する必要があるのか、ちょっと順序が違うような気もしていて、なかなか整理はつかないのですが、そういうところでも、この議論の中で、もし、できれば御示唆をいただければと思ってございます。ありがとうございました。

○伊藤委員長 他にいかがでしょうか。

○豊田委員 質問の趣旨というのは、IPRポリシーを何か変えるというか、定義をしたいということですか、ちょっとそこの部分がよく分からなかったのですが。

○及川課長 すみません、ちょっと回りくどい言い方で、別に変えたいと思っているわけではございませんで、端的に言うと、パテントポリシーで書かれている標準必須特許の定義と、例えば、端的に言えば、公正取引委員会のガイドラインの原案で言うところの標準必須特許の定義に違いがあると、つまり、違うものを見て話をしていることにならないかと、端的に申し上げますと、JISCのパテントポリシーは、規格を使用するに当たって必須の特許と書いてあって、公取の方のガイドラインの方で言うと、規格で規定される機能及び効用の実現に必須の特許と書いてあって、多分、同じようなことを言っているのですけれども、厳密に言うと、極めて我々の方は、ただ、テクニカルに使うために必須かどうかだけを言っていて、もう一つの方は、さっきの差止請求権も含めて、価値観が若干違うところがあって、これを同じ議論、我々としてどう考えるべきかというところが、我々自身も定見がないということを申し上げたに過ぎません。

○豊田委員 広く当たるのでしょうね、多分、必須特許の方が対象として狭くて、今、ガイドラインの方が、多分、議論しているわけではないので、我々は文面だけを読むと、かなり広いと、外縁として、その周辺まで入ってしまうのではないかと。本来ですと、規格必須ではなくて、もう少し違う意味で使えるかも分からないところも含めて、規格特許に読める可能性は、その部分に関してはあるのかなと。ただ、すみません、我々もそこまで議論していなくて、そこの定義については、社内で余り強く議論していなくて、今の印象だと、そうなのかなという気がします。

○伊藤委員長 今の定義の問題につきましては、いろいろ問題があることは、私にも何となく分かってまいりますけれども、続けて御検討いただければと思います。

 それでは、局長、よろしくお願いいたします。

○横尾局長 今日は、いろいろ御議論いただきましてありがとうございます。

 最初にお礼を申し上げなければいけないのは、豊田委員と小松委員に口火を切っていただいて、最初は静かなので、どうなることやらと思いましたが、大体こういう会議を開くと東京の人が集まってしまうので、今回は、なるべく地方、大阪を地方と言ったら、本当は怒られるかもしれませんが、今、地方創生と言われている中で、大阪、名古屋、あと、二瀬さんの新潟、私も田舎の出身でございますが、地方の人にも参加をいただいて、そういう意味で、なるべくオールジャパンをカバーできるような体裁で開催をさせていただきまして、正に、非常に良かったなと思っております。誠にありがとうございました。

 そういう意味では、前半はやや静かだったかなという印象がございますが、後半は、大変活発な御議論をいただきましてありがとうございます。

 冒頭申し上げるべきだったのですが、前回、タスクフォースは非公開、タスクフォースというフォーマットは非公開の場で自由に行うということでやっていたので、簡単な要旨だけで議事録自体は公開をしておりませんでした。

 今回は、いわば総理の指示もあり、計画にしっかり書いて、総合的な検討を行うということですので、検証・評価・企画委員会の枠組みで公開の場ということにさせていただいております。そういう意味では、議事録も確認をした後、公開をするということで、その心は、やはり、一定の勉強は済んだわけでありますので、ある種の国民的議論というか、しっかりパブリックな場で議論をして、制度をより良くしていきたいという本格的な議論をしていくという、そういう場でありますので、個別事例等、言いにくいことはあろうかと思いますが、是非率直な御議論をいただきたいと思います。

 そういう意味では、今日の後半は大変率直に御議論いただきまして、誠にありがとうございます。

 それと、山本委員のお話にもありましたが、ある種知財は全体にも及び得る、そういう意味では、イノベーティブな議論をお願いしたいと思います。

 特許の特に侵害訴訟というのを念頭に置きつつの議論ではありますけれども、これは、特許に限らない知財全般に及び得ることでもありますし、さらには、民事訴訟全体にも御参考になるというか、先駆的な議論をし得る場だと思いますので、そういう観点でお願いできればと思います。

 それと、渡部委員からありましたイノベーションシステムの1つとしてというのは、まさに、私も冒頭申し上げましたが、そのとおりだと思いまして、これは、ある種、訴訟の局面というのは、早稲田委員からもありました、最後のところなのですが、最後がどうなっているかによって、この一連の知財のシステム全体にかかわってくる。つまり、最後どうなるかで、権利の取得の仕方がどうあるべきか。それから、取得した後のライセンス交渉、このときには、知財の価値というのは、ものすごい大きい意味を持つわけですが、交渉も左右するという意味では、最後のところというのは、全体を左右する非常に重要なかなめだと思っています。

 そういう点で、制度全体というのを見渡しながら、システム全体を見渡しながら今後考えていきたいと思っておりますので、その点も併せてよろしくお願いしたいと思います。

 今日、個別論点で差止請求を最初に取り上げまして、冒頭、北村から御説明申し上げましたが、個別の論点を2回に分けて1回議論して、2回目でラップアップして小括をすると、基本的にそういうやり方でやっていきますけれども、これも、渡部委員からありましたとおり、やはり全体としてのシステムの在り方というのを考えながらということでありますので、最後に総括は設けていますが、常に全体のシステムの在りようというのを考えながら個別の論点を掘っていくというやり方にしたいと思います。

 この差止請求の議論については、今日の議論を踏まえて、次回、その議論の整理と小括をさせていただきたいと思います。今日は、そんなに幅のあるというか、賛否にものすごく分かれるというようなことは余りなかったという印象でありますので、比較的、次回は、この点は楽かなと思いますが、今日は、この紛争処理システム全体に関わるということで、公正取引委員会のガイドライン案も御紹介をさせていただきました。

 政府全体として、知財、特に紛争処理、差止めの問題というのは、全体と整合していく必要があるという観点から、今日の議論を踏まえて、公正取引委員会におかれても、しっかり御検討いただければというふうに思います。

 ということで、次回以降も、かなりインテンシブな日程を想定しております。お忙しい委員の皆様方には、特に東京ではない方には御苦労をお掛けするかと思いますが、先ほどのような趣旨でございますので、是非、よろしくお願いしたいと思います。

 今日は、誠にありがとうございました。

○伊藤委員長 ありがとうございました。

 最後に次回以降の会合につきまして、事務局から説明をお願いいたします。

○北村参事官 年内の会合につきましては、先ほどの資料1のとおりですけれども、第2回会合は、11月18日水曜日の13時からになっております。

 年明けの会合につきましては、また、委員の皆様と調整させていただいて、決まり次第御連絡を差し上げます。

○伊藤委員長 本日は、御多忙のところありがとうございました。また、次回、どうぞ、よろしくお願い申し上げます。


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