知財紛争処理システム検討委員会(第3回)
議 事 録
日 時:平成27年12月15日(火)10:00〜12:00
場 所:中央合同庁舎8号館6階 623会議室
出席者:
- 【委 員】
-
伊藤委員長、岡部委員、上山委員、小松委員、東海林委員、高林委員、
豊田委員、長谷川委員、二瀬委員、別所委員、森田委員、八島委員、
山本(和)委員、山本(敬)委員、早稲田委員 - 【関係機関】
-
法務省 鈴木昭洋参事官
特許庁 仁科雅弘企画調査官
最高裁判所事務総局 品田幸男行政局第一課長
- 【関係団体】
- 日本知的財産協会 別宮智徳常務理事
- 【事務局】
- 横尾局長、増田次長、田川参事官、北村参事官
- 開 会
- 権利の安定性について
- 各機関、団体等からのプレゼン
- 閉 会
○伊藤委員長 おはようございます。
ただいまから「知財紛争処理システム検討委員会」の第3回会合を開催いたしたいと存じます。
御多忙のところ、御参加いただきまして、ありがとうございます。
初めに、横尾事務局長から御挨拶をお願いいたします。
○横尾局長 知財事務局の横尾でございます。おはようございます。
今日は3回目になりますが、今日は前回の続きで、権利の安定性を、新たな論点も含めて一通り行った後、伊藤委員長とも御相談をいたしまして、実体的な権利の話から、これから証拠収集手続、損害賠償と、やや手続的な話に移っていきますので、その切れ目ということで、プレゼンを外の団体の方も含めてお願いをして、オーバーオールに話をいただいて、議論の題材にしたいと思っています。
前回から今日の間に、実は、今日、参考資料でお配りをしておりますが、TPPの国内対応について、ということで、参考資料1の知的財産分野におけるTPPへの政策対応というのを、知的財産戦略本部の開催を11月24日に決定しております。
翌日に政府全体のTPPの関連政策大綱が決定されておりまして、知財パートはそのまま要点が反映されたということでございます。
この中には、実は当委員会の検討にも関わります事項を盛り込んでございまして、最後のページ「知財紛争処理システムの総合的な検討」という項目が1項目盛り込まれておりまして、TPP協定の実施のために必要な知財制度の整備の状況等を踏まえつつ、御案内のとおり、商標と著作権についてはTPPの合意に基づいて、法定損害賠償又は追加的損害賠償を導入するというのが決まっております。それは前の方に盛り込まれておりますが、そういうことも踏まえつつ、知財紛争処理システムの一層の機能強化に向けた総合的な検討を進めるということを、改めて本部決定で書いてございますので、是非そのミッションがこの委員会にございますので、よろしくお願いしたいと思います。
○伊藤委員長 ありがとうございました
前回までの会合を御欠席でいらっしゃいました、別所弘和委員及び山本敬三委員は、本日の会合からの御出席になります。
○別所委員 皆さん、おはようございます。本田技研の別所でございます。
本委員会では大変期待しているところもございますが、当事者間の実務の面でどのように参加していくかといった部分も含めて、意見が出せるかなと思っております。
どうぞよろしくお願いいたします。
○山本(敬)委員 京都大学の山本敬三と申します。専門は民法です。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
○伊藤委員長 ありがとうございました。
また、渡部俊也委員につきましては、本日は所要のため御欠席でございます。
それから、関係機関といたしまして、法務省及び特許庁並びに最高裁判所から、関係団体といたしまして、日本知的財産協会から、別宮智徳様に御出席いただいております。
○別宮参考人 おはようございます。御紹介いただきました、知的財産教会で常務理事を務めております、日産自動車の別宮と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○伊藤委員長 よろしくお願い申し上げます。
それでは、議題に入りたいと思います。
まず、前回御議論いただきました権利の安定性につきまして、事務局に議論を整理してもらいましたので、事務局から説明をお願いいたします。
○北村参事官 お手元の資料1を御覧ください。「権利の安定性に関する整理(素案)」と書いてございます。
こちらは、前回の御議論を踏まえまして、事務局で整理できるところは整理させていただいて、また、本日引き続き御議論いただくところはペンディングということで、暫定的なものとして作成したものでございます。
めくっていただきまして2ページ「(2)紛争処理段階について」から御説明申し上げます。
「@特許権の有効性を信じた者の保護について」、こちらについて御議論いただきました。具体的な案としましては、3ページの冒頭にありますように、無効理由に除斥期間を設定するとか、無効理由を制限するというアイデアでございましたけれども、やはり監視負担が大きいとか、イノベーション促進をむしろ阻害するであろうということで、適当ではないということで、一応の整理をさせていただいております。
次の「A無効審判及び無効の抗弁の在り方の見直しについて」ですけれども、3ページの下の方にありますが、A−1、無効の抗弁を見直すこととか、A−2、侵害訴訟における技術的専門性を更に高めるための措置を講ずる、こういったところが議論となったところでございます。
もう少し詳しく見ていきます。4ページ目の冒頭「A−1 無効の抗弁の見直しについて」でございます。
前回は、この観点につきまして、(a)から(c)、(a)無効の抗弁の廃止、(b)無効の抗弁で利用できる無効理由の制限、(c)「明らか要件」ないし有効性推定規定の導入ということについて御議論をいただきました。
前者2つ、(a)無効の抗弁の廃止と(b)無効理由の制限につきましては、4ページ目から5ページ目に記載させていただいておりますが、やはり紛争の一回的解決という観点から、ユーザーニーズに適さないのではないかということで、これらの案は適当ではないと考えられるということで、一応の整理をさせていただいております。
もう一つの(c)の「明らか要件」あるいは有効性推定規定の導入につきましては、5ページに少し書かせていただいております。
「明らか要件」と言いましても、それぞれイメージするところが若干違うような気もいたしましたので、事務局で少し整理いたしまして、(c1)侵害訴訟と無効審判における基準が異なることを前提とする、「二重基準となる『明らか要件』」と便宜上呼ばせていただいていますが、こういった考え方と、当然、有効性が推定されるので、確認的に規定するという、「確認的な『明らか要件』」ということで、2つに便宜上分けさせていただいております。
本日は、これらにつきまして、更なる御議論をいただければと思っておりますが、5ページの中ほど「(c1)二重基準となる『明らか要件』」とございます。前回の議論では、こういった判断基準が異なるということは理論的にはあり得るという御意見もある一方で、特許庁と裁判所の判断基準が異なると使いにくいのではないかという御指摘もいただいたところです。こちらについては、結論は記載せずにペンディングとさせていただいております。
あと、この論点を考えるにあたりましては、特許法第104条の4、再審の制限規定についても考慮する必要があろうということで、5ページから6ページにかけて簡単に記載をさせていただいております。
あともう一つの「(c2)確認的な『明らか要件』」、6ページの中ほどになりますが、こちらについては前回の御議論では、権利の有効性の推定を明示することに意味があるという御指摘がある一方で、行政処分によって付与された特許権に有効性が推定されることは当然であるので、余り意味がないのではないかという、両方の御意見をいただいたところです。こちらについてもペンディングとさせていただいております。
6ページの下、「(d)訂正の再抗弁について」でございます。こちらは前回明示的には挙げてございませんでしたが、こういった御意見があったことも踏まえて、今回、新たな論点として提示をさせていただいております。
こちらですけれども、現在、侵害訴訟において、訂正の再抗弁を行うときには、適法な訂正審判又は訂正請求が特許庁に対して行われていることが要件になっている。これを示す裁判例が複数あって、原則としては、この訂正審判等を行わずに侵害訴訟で訂正の再抗弁を行うことはできないという運用がなされています。こちらについて、攻撃防御のバランスの観点から、訂正審判等を請求しなくても、裁判所で訂正の再抗弁ができるようにしてもよいのではないかということを論点として挙げて、御議論をいただきたいと考えております。
あと、2つ目の大きな塊ですが、7ページの中ほど「A−2 侵害訴訟における技術的専門性を更に高めるための措置」でございます。これについては前回、(a)(b)(c)ということで、(a)専門委員あるいは調査官の更なる充実という考え方、(b)人事交流の拡大、意見交換会などを実施するという考え方、(c)特許庁による有効性確認なり、求意見なりというレビュー機会の拡大という手続を設けるという考え方が出されておったかと思います。こちらについては、全般的にペンディングとさせていただいております。(a)の技術的専門性の向上であるとか、(b)の連携強化、こちらの2つはどちらかというと運用レベルの話になってございますが、次の8ページの冒頭にあります(c)のレビュー機会の拡大については、どちらかというと、有効、無効のところだけを専門官庁である特許庁に判断してもらうという、少し制度的な要素が入っているといったアイデアであろうかと思っております。
その次、A−3ですが、訂正審判制度の柔軟化という話もありましたので、こちらについても論点として引き続き挙げてございます。
「(3)権利付与段階について」、こちらについてもいろいろ御意見をいただいたところですが、本日のメインのところとはさせていただいておりません。
最後、方向性のところはペンディングということで、素案という形で提示をさせていただいております。
ペンディングのところにつきましては、本日の主たる議題ということで、資料2の方に書いてございます。資料2を御覧ください。「権利の安定性に関して更に検討すべき論点整理(案)」でございます。
1枚めくっていただきます。更に検討すべき論点ということで、最初の方の論点でございます「明らか要件」の導入であるとか、それが二重基準あるいは統一した要件であるという考え方。あと、訂正審判の請求等を伴わない訂正の再抗弁についてという点でございます。
論点表は2ページ目に書いてございます。まず、一番上の、二重基準となる「明らか要件」でございますが、こちらは期待される効果としては、侵害訴訟において権利無効とされるリスクを軽減できるという一方で、留意点としては、紛争の一回的解決というユーザーニーズを酌み取れない場合もあるというところかと思います。
その下の@−2、確認的な「明らか要件」ですけれども、これは特許権を無効にすることについて、より慎重な判断が行われることが期待できる一方で、現状でも有効性が推定されていることから、新たな規定を設けることの実効性が疑問であるというところは留意点であろうかと考えております。
一番下、@−3、訂正の再抗弁の法定化ですけれども、こちらですが、侵害訴訟において、訂正の可否についても判断される機会が拡大するので、紛争の一回的解決に資するということでありますとか、今、無効審判をしなくても無効の抗弁ができるということですので、同様に、その訂正審判をしなくても訂正の再抗弁ができるということであれば、手続的に均衡するのではないかというところも考えられます。他方、留意点としましては、右側ですが、訂正の再抗弁が濫用されるおそれがあるということ。あるいは、仮に権利者が訂正審判を請求しなくなると、当事者以外の第三者にとって訂正の範囲が分かりづらくなるのではないかというところが挙げられるかと思っております。
訂正の再抗弁については、判決が幾つか出てございます。5ページにそれをまとめてあります。
訂正の再抗弁に関する裁判例等5つありますけれども、上4つはほぼ同じ内容を示しております。一番上の東京地裁の判決を例に申し上げますと、訂正の再抗弁が認められる要件として、そこに@からCと書いてございます。今回、論点となるのは「@当該請求項について訂正審判請求ないし訂正請求をしたこと」という、現にこういう請求がなされているということが、訴訟において訂正の再抗弁が認められる要件ということで、こういう判決が多く出されているという状況でございます。
他方、一番下、最高裁の裁判官の御意見ですけれども、訂正審判の請求は、訂正の再抗弁に当たって不要であるという御意見もありまして、こういった考え方もあるということを、参考までに提示をさせていただいております。
2つ目の大きな論点でございますのが7ページ、8ページ目にある侵害訴訟における技術的専門性の関連のところです。
下の8ページの表ですが、検討例A−1とA−2は前回同様ですので、説明は省略いたします。
一番下のA−3、侵害訴訟における求意見あるいは有効性を確認するための手続ですけれども、導入した場合には、特に進歩性判断等について、専門官庁によるレビューが得られるので、ユーザーの納得感が高まるであろうと、特に無効審判が請求されないような場合には、今までこういったニーズを救い上げるスキームがなかったということで、そういう一定のニーズを酌む手続になろうかと思います。他方で留意点ですが、この手続のありようによっては、侵害訴訟の遅延を招いたり、制度の作りによっては複雑化するとか、調査官や専門員制度との役割分担の整理というものがあろうかと思います。
こちら、制度の作りはいろいろあろうかと思いますけれども、例えば有効性の判断について、訴訟の場で論点となったら、必ず特許庁に行ってもらうか、あるいは当事者が望んだ場合にそうするかとか、そういう作りはありますし、特許庁の中でどういう手続で行うかというところもございます。あと、専門官庁の方で判断された結果が裁判所にどういうふうに参照されるのかと、そういったところの作り方でいろんな設計があろうかと考えております。
この意見を求めるという制度ですが、前回、独禁法の中でもあるのではないかという委員の御指摘もございました。参考までに14ページにそれを記載させていただいております。独禁法に関する差止請求訴訟において、裁判所がその対象となっている行為が独禁法に違反するかどうかというものを公正取引委員会に意見を求めるというのが制度として規定されているということを、参考までにお伝えさせていただきます。
最後、15ページ、16ページですけれども、補正・訂正等について段階的訂正とか、要件の緩和とか柔軟化というところも用語として出てございますので、16ページの方に表としてまとめさせていただいております。
簡単ではありますが、事務局からは以上です。
○伊藤委員長 ありがとうございました
前回の議論を事務局で整理をして、併せてそれぞれの提案について、期待される効果や留意点について整理してもらいました。
ただいま、お聞きいただいてお分かりのように、中心になりますのは(2)の紛争処理段階につきまして、特に無効の抗弁の関係など、本日の資料では(P)、ペンディングという表示がされているあたりかと存じますので、そのあたりを中心にして御意見を頂戴できればと思います。
どなたからでも御自由に御発言ください。
小松委員。
○小松委員 先にこの整理の素案について、これは最終段階で字句修正等の議論がなされるのではないかと思うのですけれども、今日はそのことについて何かコメントする場ではないのかどうかだけちょっと確認したいのです。もし、何でも好きなことを言えということなら、幾つか指摘させていただきたいと思うのですが。
○伊藤委員長 よろしくお願いいたします。
○小松委員 1枚目の出だしのところにいきなり「無主物先占等により原始的に権利を取得」と書いてありまして、正直、非常に違和感がございます。有体物と無体物とを分けてという意味ではないかと思うのですけれども、これについては何人か弁護士等に聞いてみたのですが、やはりみんな違和感があると。ちょっと御検討いただけたら。
もう一点、3ページのAの(B)のバランスのところですが「特許権者は直接的には反論のみが可能であろうが、間接的には無効化を防ぐための訂正審判の請求も可能である」と、これは正しいわけですけれども、実務上は侵害訴訟で大部分が無効審判をされていて、訂正請求で対応していくという訂正の再抗弁がいつも議論になるという実態がございますので、親切にするという点では、訂正審判だけではなくて、無効審判における訂正請求も加えていただくことを御検討いただけたら。
同じ内容が7ページとか8ページのところにも出てまいりますので、それも同じ文章の部分がございますので、御検討いただけたらということでございます。
とりあえずは形式的に。すみませんが。
○伊藤委員長 分かりました。
ただいまの小松委員からの御指摘については、事務局で検討をするということでよろしいですね。
それでは、引き続きお願いいたします。
○小松委員 中身の話をさせていただきます。
今日は論点がたくさんあろうかと思うのですけれども、整理していただいております、最初に検討すべき論点の@ですけれども、検討例@−1と@−2と@−3とございます。@−1については、再審制限を撤廃するということにも絡んでくるわけでございますけれども、新しく制度を検討していくプロセスで、いわゆる朝令暮改は恐れることなしということではいいと思うのですけれども、やはり再審制限をこのように入れていただいて、先に回収したものが、後で返さなければいけないという事態は、権利の安定性というところで根本的に問題だということで、特許法第104条の4ができたわけでございますので、そういう視点からしても、@−1という再審制限のところは、ちょっといかがなものかなという意見を持っております。
@−2が正に検討すべき課題ではないかと考えております。「明らか要件」については、前回、山本和彦委員から御指摘がございました、日本の立証レベルが証拠の優越を超えて考えられておるので、更に明らかと言ったらどうなるのという御指摘がございましたのですけれども、その後、ちょっといろいろ考えていたら、例えば行政処分の取消無効という議論が行政法の世界でございますけれども、御承知のとおり、最高裁の昭和31年7月18日判決以降なのですけれども、最高裁判決は、行政処分の瑕疵が重大かつ明白であれば、無効の主張ができるということもございます。したがって、立証責任のレベルの問題ではなくて、抗弁的なものについて一定のレベルを要求していくのは、立法的にもあり得るのではないかと。条文はないのですけれども、最高裁ではそういうのはもう通説・判例と言われているのではないかと思います。
そういう視点では、立証責任のレベルを超えて、「明らか要件」的なものを導入することは、私は良いのではないかと思っております。
米国特許法の282条に有効性の推定規定があるので、落ち付きとしては、有効性の推定というものを入れていくほうが良いのかなと。有効性の推定を入れて規定していくと、全体として整理できるような感じがいたしております。
訂正の再抗弁の法定化、@−3については、ちょっともう少し最高裁の平成20年4月24日判決の、5回も訂正審判をして、審理の遅延が著しいという問題もあるので、仮にこれを入れるとしたら、かなり時機制限とかを検討していく視点が必要ではないか。
とりあえず、そんな感想を持っております。
○伊藤委員長 分かりました。
ただいま、小松委員からは、検討例@−1ないし@−3につきましてそれぞれ、@−1については消極的な御意見、@−2の「明らか要件」の関係では有効性の推定規定も含めて積極的に検討すべき理由があるのではないか。@−3の訂正の再抗弁につきましては、これも検討すべきではあるけれども、いろいろ問題が多いのではないかという御指摘がございましたが、小松委員から御発言があった部分に関連して、他の委員の方々から御意見をお願いいたしたいと存じます。いかがでしょうか。
どうぞ、高林委員。
○高林委員 ちょっと確認したいのですが、この検討例@−2ですけれども、ここは表を見ますと「侵害訴訟と無効審判において統一した『明らか要件』を確認的な規定として導入する」とございます。
ただいまの小松委員の御発言は、侵害訴訟において権利の有効性推定規定があるような状況で、「明らか要件」を導入して、権利の無効を制限的に解釈するというお話は理解できましたが、また、アメリカでもそのようになっているということは前回のお話でした。
しかし、無効審判においては、アメリカにおいてもまだ権利を設定した機関がそれを見直すということですから、preponderance of evidenceということであって、通常の判断基準で見直しておるわけです。
この事務局の提案の趣旨は、無効審判においても明らかでなければ無効にできないというように仕分けしているのかを、ちょっと確認したいと思います。
○伊藤委員長 お願いします。
○北村参事官 今の御質問ですけれども、統一した要件ということを突き詰めていくと、訴訟のみならず、審判においてもこういう要件を課さなければいけないのではないかということで、一応の提案として書かせていただいております。
ただ、それについて、審判については違うのではないかという御意見ということであれば、そういったところも含めていろいろ御提案いただければと考えています。
○伊藤委員長 よろしいでしょうか。
そういう考え方があり得るということを前提にして、御議論いただければと存じます。
いかがでしょうか。
どうぞ、上山委員。
○上山委員 私も検討例@−2が妥当であると考えております。
事務局案のように、これは新しい考え方かとは思いますけれども、無効審判とレベルを合わせることは、実務上非常に重要なポイントだと考えております。「明らか要件」を入れても、既に最高レベルの証明が要求されているから、意味がないのではないかという点については、前から申し上げているように、実際上の効果があるのではないかと考えておりまして、その具体例として、5ページの3番目の知財高裁の平成26年9月17日判決、これは訂正の再抗弁が認められるためには、実際に訂正審判請求がなされていることが必要であるということを判示したものですけれども、その理由付けとして、ここの2段落目の2行目、無効理由の可否が確実に予測されるためには訂正審判請求をしている必要があるとされています。再抗弁が証明の域に達していると言えるためにはこういったハードルを課すことになるのは十分に納得できるのですが、明白に無効である場合に限って無効判断ができるということにすれば、訂正審判請求をしていなくても無効とならないと判断しうる余地が生じます。ですので、明白にという要件を入れることが全く意味がないということではなくて、やはり実務上、意味が出てくる部分も多々あるのではないかと考えております。
以上です。
○伊藤委員長 明白性の要件をつけ加えることに、実際上の意味があるという御意見がお二方から述べられておりますけれども、いかがでしょうか。
早稲田委員、どうぞ。
○早稲田委員 私は検討例の中では@−2を検討していくべきかなと思っているのですが、今の「明らか要件」のところなのですが、まず、特許で審査があって、その後、審判ということで、審査の場合は審査官がお一人で、その後、審判官というところで、そこの審判のところでも「明らか要件」が必要というのは、若干どうかなという気がいたします。審取等になりますと、また行政処分が取消ということになりますので、そこなのかなと思っていまして、今、事務局の方で、審判からというお話だったのですけれども、そこのところはどうなのかなというところが一つございます。
それから、先ほどの上山委員の明白にを入れると、実際上、かなり変わってくるというお話なのですが、前回もちょっと申し上げましたように、裁判官の心象的にはかなり違ってくるのかなと思うのですが、明白にという場合に、無効の抗弁でよく認められているのが、例えば新しい証拠が出てきた場合は認めやすいかなという気がしているのですが、それ以外に、例えば明白にというのは、どういうことをお考えになっているのか、ちょっと教えていただければと思うのですが。
○伊藤委員長 ただいまの早稲田委員の御質問は、上山委員や小松委員あたりに何かもし、想定されるようなものがあればということで、何かお考えはございますか。
では、豊田委員からお願いしましょう
○豊田委員 想定されるかどうか、ちょっと分かりませんけれども、うちが最近受けた判決で、かっか来ていますので、それを余りここで事例にするのは良くはないと思うのですけれども、前回も少しお話しさせていただいたのですけれども、審判とか、審決取消訴訟とで、一応最高裁まで行って、一応有効は確認された。ちょっと本文に触れますけれども、審判の方は、まだ先が幾つかありますので、そこにわざわざ明らか要件を付けなくても、いろいろ我々も抗弁できるし、被告側もいろいろ審決取消訴訟に行けば、いろいろ話はできるということで、それはないのですけれども、裁判の方に行くと、もう余りないわけです。地裁か高裁か。実質知財高裁で終わりで、最高裁は行ったとしてもなかなか難しい。今回、あった事例は、一応有効性が最高裁まで確認されて、地裁でも一応有効性は確認されました。高裁に行ったときに、被告側は一応こういう資料はありますよということは言っているのですけれども、この資料をどう組み合わせて、これは無効だとまだ言っていないのですよ。それを裁判所がわざわざ御丁寧に、ABCDEを組み合わせて、無効だよという新たな判断を示されて、最終的には特許無効になったのです。
そういうことが、常にではないと思いますけれども、やはり起こり得る可能性があるということなのですね。だから、そのときに、我々としては、それを判断するのだったら、もう少し論理的なバックグラウンドがないと駄目なのです。そこは飛び越えているわけですよ。AイコールB、BイコールC、CイコールD、DイコールE、だから、AとEとは一緒であるという論理構成に見えないことはない。
これは当事者側の話なので、被告側からしたら違うとか、あれも一応腹が立つので、セカンドオピニオンをとって、どうですかと言ったら、同じ意見ですということであったので、ちょっと話はしているのですけれども、そういうことも常にはないと思いますし、裁判所も真摯にいろいろ判断をしていただいていると思うのですけれども、やはり可能性としては起こり得るかもわからない。その時に一定のハードルがあるということは、意味があるのではないかということで、明らかとか、明白というのを付けていただくというのは、一つ、企業側としては権利の安定性という意味では、意味があるのではないかと、そのように思っているところでございます。少なくとも私はそう思っています。
○伊藤委員長 分かりました。
いかがでしょうか。
森田委員お願いします。
○森田委員 私は製薬業界におりますので、そういう観点から御報告申し上げます。前回、休んでしまいましたので、一言だけ申し上げます。
差止請求権に関しては、製薬業、やはり最も重要な権利と思っておりますので、その点に関しては、現状、制限する必要がないという、仮の整理ということをされたと思うのですけれども、その点に関しては、アグリーでございます。
今日の論点でございますけれども、「明らか要件」に関しましては、先ほど豊田委員がおっしゃったように、特許権者としては多分ありがたい要件かなと感じております。一方で、「明らか要件」というものが入ってくると、何が明らかなのかというあたりも、御質問がイシューとして当然上がってくるので、それを入れて得策かなというのはちょっと疑問があるところでございます。
日本の裁判所は、訴訟をやっていても、日本の判事さんは非常に優秀だと思いますので、御自身で明細書を読んで、心証形成されるのだと思うのです。その時点で特許の有効性というのがある程度判断されているのだと思いますので、余り余計なイシューを持ち込むより、現状でも十分判断されているのか、妥当な範囲で判断されているのではないかと感じております。
もう一つ、今日の論点の@−3の訂正の再抗弁に関してですけれども、この点に関しても、それ自体を否定するものではございませんけれども、今の訂正審判に関して、若干敷居が高いというか、権利者として若干使いづらい形になっているのではないかというのを感じます。このために、特許権者としても、やはり事前に訂正しておこうというあたりのモチベーションが下がっているのではないかと感じております。
それは、特許明細書というのが、特許請求の範囲が、権利書としての位置付けを持っているというのは理解しているところなのですけれども、余りにも、従来のプラクティスはよく理解しているのですけれども、実質的に拡張又は変更というあたりの判断が、非常にハードルが高くなっているような感じがします。
明細書全体の記載を考慮して、もうちょっとどういうあたりが訂正として認められてしかるべきものか、否かというのを判断していただければ、訂正の再抗弁より、もうちょっと運用の融通さというか、そのあたりを検討していただけければ良いのかなという感じがしております。
○伊藤委員長 分かりました。
森田委員からは、訂正の再抗弁については、訂正審判そのものの合理的運用の問題の方がむしろ重要なのではないか。「明らか要件」に関しては、現状に照らしても、果たして実際上、そういう要件をつけ加えることに意味があるのだろうとかいうことが提示されましたが、これ以外の点でも結構でございますが、いかがでしょうか。
先ほどの関係ですね。わかりました。では、上山委員に先にお願いします。
○上山委員 多分、御質問は私に対してだと思いますので。
念頭にあるのは、進歩性判断の部分なのです。新規性ですとか、記載要件不備に関しては、事実があるかないか、事実が認められるか否かですので、そこは明白性要件があろうとなかろうと、判断が変わることはないだろうと思っています。一方で、進歩性については組み合わせが容易と言えるかどうかという、本質的に主観的な評価の問題ですし、程度の問題であるという点で、事実の有無とは性質を異にしていると言えると思います。
私の印象に非常に残っているのが、後知恵排除の判決が出る少し前に、ある裁判官が講演で、以前はニュートラルなスタンスで進歩性の判断をしていた。ただ、今は権利の安定性が重要だという問題認識を持っているので、無効としない理由付けができるのであれば、極力そういう方向で判断するようにしているという御発言です。これに象徴されているように、進歩性判断というのは、証明を要する問題とはいっても、主観的価値程度の問題であるということで、実質的には明白性という要件が課されることで、かなり効果に違いが出てくる部分があるのではないかと考えています。
○伊藤委員長 ありがとうございました。
東海林委員、お願いします。
○東海林委員 今、上山委員がおっしゃったことも含めて、検討例の@−2につきまして、いろいろお話をいただいておりますし、豊田委員からも厳しい御指摘がございましたけれども、裁判官のマインドだけお話をさせていただこうと思っております。
「明らか要件」を入れるか入れないかということについて、特に反対するとか、そういうことではございませんが、前回にもお話が出ましたように、侵害訴訟において無効の抗弁が出たときの裁判官といたしましては、「明らか要件」が入っているか、入っていないかにかかわらず、かなり慎重に審理しているつもりであるということは御理解いただければと思っています。
前回もお話が出ましたけれども、どういう場合に無効の抗弁を認めるかという点につきましては、通常人が疑問を差し挟まない程度の高度の蓋然性、私たちはよく確信に至るという言葉を使うこともございますけれども、証明責任の関係もございますので、やはりかなりそこのところについては、もともと裁判官のマインドとしてハードルの高いものだと思っているということがあると思います。
もう一つは、無効の抗弁ですから、当然、請求原因において、被告製品、被告方法が特許の技術的範囲に属しているかどうかという判断も併せてしています。もちろん、技術的範囲に属さないというような心証を持っているときに、なおかつ無効にするかという問題もございますけれども、私たちが特に慎重になるのは、やはり技術的範囲には入っているという判断になったときに、果たしてこれは無効にしてよいのかということは、やはり重要な問題でございますので、明らか要件が入っているか、入っていないかにかかわらず、そこは慎重に判断しているというのが裁判官のマインドではないかと思っています。
○伊藤委員長 分かりました。
岡部委員、お願いします。
○岡部委員 弁理士として一言申し上げたいと思います。
先ほど、訂正審判の要件が厳しいのではないかということが出ましたけれども、賛成でございます。
今、権利の範囲を動かすなという制限が非常に強くて、例えば何でもよいのですけれども、一つの工程を加えれば、明らかな特許性が出る。温度の要件を加えれば、特許性は出るという場合でも、減縮に当たらない、変更に当たるということで、認めていただけないということがあります。ですから、侵害訴訟に先だって、権利の安定性を高めて訴訟するとか、そういったことをするときに、大変不自由を感じているところです。
もちろん、新たなサーチをかけなければいけないとか、いろんな要素が特許庁側にもあるのは理解しますけれども、その辺のことをもう少し柔軟な運用をしていただけると、かなり使いやすくなるということを思っております。
以上でございます。
○伊藤委員長 分かりました。
「明らか要件」に対しましては、実務の立場からの御意見がございましたが、学理的な方面から山本和彦委員や山本敬三委員、御発言ございましたら、お願いいたします。
まず、山本和彦委員からお願いいたします。
○山本(和)委員 学理的と言えるかどうか自信はありませんが、まず、資料1だと(c1)で、資料2だと@−1ですか。この点につきまして、前回、若干私がお話ししたことが整理されていることとの関係で、再審との関係につきましては、私の前回の発言、つまり、特許法第104条の4というのは、民事訴訟法第338条と整合的ではないと申し上げたのは、基本的にはその2つの手続に、侵害訴訟と無効審判と訴訟との基準が同一であることを前提にして、侵害訴訟で既に一回攻撃防御をしたので、再審は認める必要はないという意味で、整合すると申し上げたので、この@−1の考え方のように、ダブルスタンダードをとるのであれば、それは当然再審は必要になってくると思っています。そういう意味では、@−1の整理、この判断基準を異にした場合には再審制限を見直すとされていることは、私はそうだろうと思います。
@−1の考え方自体については、これは何人かの方の御指摘がありまして、私も前回、若干の懸念を申し上げました。
この報告書全体の整合性という観点からしても、2つの手続の基準を変えるという意味では、@−1の考え方というのは、資料1の方に出ているBの考え方、つまり、無効の抗弁で利用できる無効理由を制限するという考え方と同質のものだと理解をしています。
ただ、現在の整理では、(b)については適当でないという整理をされていることからすれば、私から見たところ、同じような理由がこの(c1)の考え方にも妥当するということになっているのではないか。
それから、(c2)、資料2では検討例@−2という統一した「明らか要件」という点につきましては、これは先ほど小松委員から、証明度の問題とは考えずに整理できるのではないかという御指摘がありました。そうであれば、私自身、民事訴訟の問題でないとすれば、コメントは特にないということにはなるのですが、行政訴訟の一般論からアプローチするという考え方をとるとすれば、行政訴訟理論との整合性は考えていかなければならないだろうと思います。
小松委員は、行政処分の無効訴訟についての重大明白の判例を挙げられました。私が理解するところでは、それは要するに、行政処分取消訴訟における提訴の期間制限であるとか、あるいは、取消訴訟の排他的管轄、かつては公定力と言われていたものを、その部分をクリアするために、無効訴訟という概念があり、そこで取消訴訟とは異なる重大明白性という要件が特に付加されているものと理解しております。
そういう意味で、この局面がそれと同じと整理できるのかどうかというのは、慎重な検討が必要だと思いますし、行政処分、あるいはそれに対する取消の段階で、行政庁の側で慎重な審理手続がされているので、裁判所の審理範囲を制限するという考え方は、もちろん他の行政処分の場合にもあります。いわゆる実質的証拠法則と言われるものが認められる行政処分、公正取引委員会の審決とか、そういう類のものに対する裁判所の審理範囲を制限する、そういう制度は他にあると思います。
そういうものと、今回、仮にこの「明らか要件」を入れた場合に、明らかだというのが一体何を表しているのかということは、行政訴訟の一般論の中で慎重に検討されることだろうと思います。
ただ、私自身は行政法の専門家ではありませんので、これ以上のコメントはできないのですけれども、その点の検討は不可欠になるだろうということだけ申し上げたいと思います。
私からは以上です。
○伊藤委員長 ありがとうございました。
ただいまの山本和彦委員の御発言にもありましたが、「明らか要件」は、裁判所の無効についての心証の度合いに関係すると同時に、別の見方をすると、無効についての実体法上の要件と申しますか、それを考え直すところもございますが、山本敬三委員、ただいまのあたりについて、御発言ございましたら、お願いできますでしょうか。
○山本(敬)委員 前回、欠席していまして、議論がなかなか理解できなかったのですが、私も、「明らか」ということによって何が違ってくるのかということを確認したいと考えていました。
証明度の問題ではなく、実体規定として「明らか」を入れると、実体的な基準が変わってくるのではないかと推測していました。その意味では、今、山本和彦委員がおっしゃいましたように、無効の判断基準、無効の理由を一定の範囲に限定することにつながるのかなと思っていましたが、ただ、どうもこの場では、そのような考え方は採用しないことが前提になっているとしますと、「明らか」によって一体何が違ってくるのかということをもう少し確認した上で、判断しないといけないのではないかと思った次第です。
ほぼ同じ趣旨ですが、以上のとおりです。
○伊藤委員長 分かりました。
ただいまの点も含めまして、他に御発言ございますでしょうか。
小松委員、お願いいたします
○小松委員 私は行政処分の無効の例を挙げさせていただいたのは、そういう例もあるよという話だけでして、理論的な難しい話は学者の先生にお任せしたいと思います。
ただ、この委員会もそうなのですけれども、要するに、プロパテント方向にもっと軸足を傾けられないか、そういう目でいろんな改正事項も含めて検討しようということですので、ある制度をとったときに、直ちに数値的に実効性が出てくるという視点だけではなくて、我々実務の世界でよく言っているのですが、単純に元気になる、そういう方向も大事ではないか。だから、「明らか要件」を冗談で「明るい要件」にしようという、やはり明らかというのは入るだけで、訴訟の場面だけではなくて、紛争解決は日本では特に訴訟外でたくさん解決が行われているということがございます。そういうときに、条文上明らかあるいは推定というのが入っていると、なかなかそこから先を超えられないではないですかということで、相当な権利の安定性が実際に考慮されて、紛争解決に向かっていくということはあると思います。
余り実効性があるかないかの議論を続けてしまうと、たいていマイナスイメージに陥ってしまう。そういう大きな視点でまたお考えいただいたらありがたいということで、補足させていただきたいと思います。
○伊藤委員長 どうぞ、高林委員。
○高林委員 先ほど上山委員から、進歩性の判断は政策的な判断であるから、それが明らかでない限り、無効にしないとすべきであるという話が出ましたが、それは、餅は餅屋で言うならば、政策的な判断も可能な特許庁が進歩性の判断をすべきであるという御意見のように私は伺いました。
先ほど、山本委員からもお話がありましたが、行政処分の無効というのと、取消訴訟とは違うのであって、特許の無効審判というものは、特許庁が設定した権利を公的に見直すということですから、ここに行政処分の無効の場合と同様に「明らか要件」を入れるという意見に対しては、私はとても違和感があります。
ですから、異なる判断基準ではなく、確認的な意味での「明らか要件」とすべきであるという御意見と、進歩性については「明らか要件」といったある程度高い判断基準で審査すべきだという御意見は、特許庁における判断も慎重にやれという御趣旨だったのか、ちょっとそこをお伺いしたいと思います。
○伊藤委員長 どうぞ、上山委員、お願いします。
○上山委員 特許庁においても慎重にという考え方であります。
○伊藤委員長 いかがでしょうか。
どうぞ、別所委員。
○別所委員 明らかというようなこと、あるいは有効性の推定というのが、言葉が入って、先ほど御意見があったように、元気になるというのは、それはあるかなと思うのですが、あくまでも権利者側の話であって、ここで留意しなければいけないのは、NPE等のいわゆるパテントトロールのようなものに対して、本来と言いますか、我々、訴えられる、搾取される側からすれば、本来無効となるようなものについても強く推定が働くことによって、無効にならないという事態が、もしあるのだとすれば、そのような元気はいらないなと思います。
慎重にと出ておりますし、今、十分特許庁でも判断をされているということ。我々もそれを前提に、当事者解決していますので、それ以上必要なのかなという懸念はございます。
○伊藤委員長 分かりました。
「明らか要件」に関しましては、論点が幾つかございまして、統一的なものか、それとも、侵害訴訟に限定したものかという点、あるいは、証明度の話なのか、実体上の無効の主張そのものに関する議論なのか、さらに訴訟、裁判の世界を超えたいわば波及効果的なものをどう評価するか、それぞれに御意見が分かれておりまして、なかなかこれをまとめるのは難しいと思いますが、時間の関係もございますので、先ほどの訂正の再抗弁や求意見制度につきましても、御意見を承りたいと存じます。
どうぞ、東海林委員。
○東海林委員 訂正審判請求等を伴わない訂正の再抗弁につきまして、実務を運用している立場から一言申し上げたいと思います。
裁判実務において、訂正の再抗弁はどのように扱われるかということでございますが、資料の中にもあります裁判例が指摘しておりますとおり、私の認識する限り、基本的には訂正審判又は訂正請求をしてもらうことを要件の一つとしているのが裁判実務だと思います。
それが良いかどうかというのは別ですし、ここの資料にもございます最高裁判所、平成20年4月24日のいわゆるナイフ加工装置事件におきます泉裁判官の御意見もございますが、では、なぜ実務においてそれを要件として要求しているかと申しますと、ここの資料にもございます、知財高裁平成26年9月17日判決が指摘しているとおり、無効理由の回避が確実に予測される必要があるというのが多分実務の運用における感覚だと思います。これはなぜかと申しますと、私自身も訂正の再抗弁を出すという話になったときには、多くの場合、「訂正請求をしていますか、する予定ですか。」ということを確認いたします。
これがないとどういうことになるかということですが、もし、本当に訂正をするつもりがあるのであれば、訂正審判とか、訂正請求をすることにどれだけ障害があるのかということです。要するに、過去にまだキルビー抗弁だった時の経験なのですけれども、その時代も訂正の再抗弁は認められるということになっていましたので、無効になりそうになると、原告側が訂正の再抗弁を出すことになります。ところが、きちっとした訂正審判又は訂正請求をしていないと、審理中ちょっと議論していて負けそうになると、これは撤回しますということで、また違う形での訂正の再抗弁を出すことを何度か経験しています。中には主位的な訂正再抗弁、予備的訂正再抗弁といって、限りなく続くことがございました。
ところが、この裁判例にもございますように、訂正の再抗弁が出た以上は、その技術的範囲、特許請求の範囲が一応訂正後のものとして確定したことを前提にして、それについて訂正要件があるか、無効の理由が解消するか、そして、被告製品、被告方法が技術的範囲に入るかどうかということを、厳格に審理することになります。
ですから、そこがややふらふらした主張になると、かえって訴訟の遅延を招くということもあるのではないかと考えております。そういうこともあって、おそらく実務では、そこはやや厳格に訂正審判又は訂正請求をしていることを要求しているのではないかと思います。もちろん、これは解釈上の問題ですので、特に訂正審判、訂正請求を伴わない訂正の再抗弁を認めることに反対ということではございませんけれども、ただ、実務上はそういう問題もあるということは一つ議論の理由の中に付け加えさせていただいたらどうかと思っております。
以上です。
○伊藤委員長 どうぞ、八島委員、お願いします。
○八島委員 私は化学の立場から2点申し上げます。
1つは、訂正請求の再抗弁の点です。先ほど森田委員がおっしゃったように、訂正請求をしないとできません。だから、訂正請求をしなくてもやれるようにしたらいいではないか。それは無効の抗弁ではできるのと同じような構造になっているように聞こえるのですけれども、権利がどの範囲にあるかというのは、きちんとしないと議論はできないということで、訂正については議論をできるようにすればよいと思います。そういう意味で訂正請求は必ず必要なのではないかと実務的には思います。
ただし、訂正請求を行うことが前提であるというのであれば、先ほど森田委員がおっしゃったように、訂正請求を余りにも厳格に運用されることなくというか、もう少し緩和されるような形でやっていただきたいと思います。我々も請求の範囲を縮めようとしているつもりなのですけれども、それは見方によっては要旨変更になってしまうというようなところがありますので、運用を緩和していただいて実務的に対応できるのだったらよいのではないかと思っております。それが1点です。
2点目は先ほどの「明らか要件」です。皆さんのいろいろな議論を聞かせていただいたのですが、訴訟に入るというようなところの段階というのは、我々のような化学の会社ではそんなに多くの訴訟をすることがなく、警告状のやりとりの段階です。警告状のやり取りは専ら水面下でやるかというのが大半でございます。やはり訴訟に入るとなると、それなりの覚悟なり、会社の中でも結論というか、ある意味でいうと、決裁を取る必要がございます。その意味で言うと、やはり権利主張をやっている側としては、きちんと訴訟の過程で権利が確定されている、安定的なものだというものを担保しながらやりたいというのを、正直、思っております。
そういう意味で言うと、「明らか」要件の明らかをいれることはいろいろな議論があろうということは分かりますが、使い勝手の面では訴訟をするためにはそう簡単には潰れないよというところの心の担保と言うのですか、そういう必要があるので、やはり「明らか」要件を入れてもらった方が良いのではないかという気がします。
一方、侵害を訴えられるかというか、被告側に立つと非常に難しい問題がありますが、知的財産の価値という意味で言うと、権利を持って権利活用ができることが大事であるので、日本の国際競争力の強化ということを考えると、裁判を受ける側というよりも、行う側の立場が考えたときにこの要件をどのように考えるかといった方がよろしいのではないかと私は感じています。
以上でございます。
○伊藤委員長 ありがとうございました。
どうぞ、上山委員。
○上山委員 先ほど東海林委員から御発言のありました、訂正審判請求をするためにどういう障碍があるのかということですけれども、権利者側からするとかなりハードルが高い場合があります。何故かというと、まず、地裁で無効の心証が開示された場合、その時点で速やかに訂正審判請求をすべきか否かの判断を迫られる場合があります。しかし、一旦訂正審判請求をしますと、早ければ1カ月、通常でも3カ月以内に訂正審判決定が出てしまいます。そうすると、そこから後に戻れない。
一方で、無効の心証を開示された当事者の立場からすると、控訴すれば控訴裁判所は逆の判断が出る可能性も十分あると考えられるケースがあります。
そういう可能性を踏まえると、権利者として可能な限り権利を確定的に減縮する時期を後ろにずらしたい。できる限り、減縮しない選択肢も残したまま戦いたい、という状況があります。これがなかなか実際に訂正審判請求をすることが困難である理由の一つ。
もう一つは、訂正審判請求ができるという状況は、相手方がまだ無効審判請求をしていないという状況なのですが、訂正審判請求をしますと、対抗手段として無効審判請求がなされることが多いといえます。そうすると、運用上、訂正審判請求の審理はストップされて、無効審判の中で訂正請求をして、無効審判の中で判断がなされることになるので、結局審決取消訴訟まで含めると数年間の時間が掛かかることになってしまう。権利者としては、なるべく早く解決をしたい、決着をしたいと考えて訴訟を遂行していって、無効審判が請求されていないから、早期解決が得られるという期待の下で訴訟追行している中で、あえて長期化するような行為をするという点でも、ハードルがある。これがなかなか訂正審判請求がしにくい理由です。
○伊藤委員長 訂正審判請求を経ない訂正の再抗弁を認めることに合理性があるか,これにつきましても、両論の御意見があるように承りましたので、整理をした上で、また議論をお願いしたいと思います。
もう一つ、求意見制度について何か御発言はございますか。
どうぞ、小松委員。
○小松委員 一つは、特許庁長官から、特許法第180条の2で意見を言えるという、裁判所からではなくて。その件数はちょっと私は知らないのでもし分かればお教え願いたいのですが、少なくとも政府として現行の特許法の中にもそういう役割分担とか求意見の制度がある。それから、ここの中で、先ほど御指摘ございました公取の関係、他に調べますと、関税法でも第69条の7とか17で、税関長が特許庁長官へ、これは技術的範囲ですけれども、求意見ができる。
それから、公害紛争処理法の第42条の32というので、中央委員会が原因裁定の嘱託ができるとか、独禁法等も含めていろんなものがあります。したがって、大事なことは求意見を求めて、そこで事件が寝てしまうのがいけませんので、きちっと2カ月以内なら2カ月以内で、こんなことがあったら早いこと結論を出せと、期限を切ってやっていただく。出てきた結果については、拘束されるのではなくて、私は参考にするということでもよろしかろうかと思います。義務的にやるのかどうかについては、当事者が希望したらというファクターを入れるのは良いと思うのですけれども、少なくとも任意でというイメージがよろしかろうかと考えております。
○伊藤委員長 他に求意見制度については御意見ございますか。
○仁科調査官 特許庁の企画調査官、仁科でございます。
今、小松委員から御指摘をいただきました求意見制度でございますが、特許法の第180条の2に規定がございます。こちらは、権利の有効性に関して照会するという制度ではありませんで、法律の適用に関する事項につきまして、裁判所から特許庁長官に意見を求めることができるという規定になっております。
こちらにつきまして、過去に何件事例がありましたかと申し上げますと、法律制定されてから、3件の適用事例がございます。
○伊藤委員長 そう致しますと、求意見制度につきましては、その必要性の判断が適切になされるか、あるいは、それに対する回答が適時に行われるかというような問題を検討しなければいけないとは存じますが、この場での皆さんでは、必要がある場合と裁判所が判断して行うこと自体に関しては検討に値するだろうという認識をお持ちだと理解してもよろしゅうございますか。
どうぞ、東海林委員。
○東海林委員 先ほど、特許庁の方からもお話がありましたが、どのぐらい利用されているかということだと思いますけれども、知財高裁では過去に数件程度特許庁長官に対して意見を求めたことがございます。有名なのは、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの大合議事件と同時に進行した審決取消訴訟において、知財高裁の方から特許庁長官に対して、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈、運用等についての意見を求めたことがございます。その意見は判決の中にも記載されております。裁判所にはもちろん調査官もおりますし、専門委員もおりますが、やはり裁判所としては、個々の事例において進歩性があるかないかという判断よりは、今、申し上げたような、学説上も二分されているような法律解釈について意見を求めることによって、特許庁等の運用も含めて判断の参考にさせていただくことについては、非常に有用だと思っています。
ただ、それ以上に義務化することにはならないと思いますし、御意見をいただいて、それに拘束力のようなものを持たせるようなこともあり得ないと思います。裁判所の判断の参考にさせていただくということであればよろしいとは思うのですけれども。
以上です。
○伊藤委員長 それでは、本日の御議論はまた事務局で整理した上で、皆様方に提示したいと存じます。
そこで、次の議題でございます「各機関、団体等からのプレゼン」に移りたいと存じます。
まず、主に大企業を代表する立場から、日本知的財産協会の別宮様から説明をお願い申し上げます。
○別宮参考人 それでは、日本知的財産協会の別宮より御説明させていただきます。
お手元の資料3になります。「知財紛争処理システム強化についての産業界意?」と題しております。
まず「1.総論」でございます。
「(1)知財紛争処理システムの現状について」、訴訟件数が少なく、勝訴率も低いから知財が活用できず、ひいては知財が産業発達に十分貢献できていないとの論理は短絡的であろうと考えております。実質勝訴に値する和解を勘案すれば、原告である特許権者の権利主張が認められたケースは4?5割に達するとの報告もございます。特許侵害訴訟は活用の?手段にすぎない。当事者間の交渉で解決する傾向の強い業界もございます。他方、故意侵害者等、交渉による解決が望めない場合は、裁判により公正な決定が速やかに下されることが望まれます。
損害賠償額につきましては侵害行為の規模に応じて算定されることからすれば、市場規模の異なる諸国間で損害賠償額の高低が生じるのは自然である、侵害行為の実態や市場規模を考慮せずに、単に損害賠償額の高低を問題視するのは危険ではなかろうかと考えております。
続きまして「(2)知財紛争処理システム強化の方向性」です。
知財紛争処理システムの改革は、日本の産業の発達に寄与するものであるべき。米国のパテントトロールに新たな市場を提供するようなシステムは、日本企業を疲弊させ、国際競争力の低下を招くだけで本末転倒であろうと思います。
続きまして「2.各論」に移ります。
「(1)証拠収集」。
@証拠収集力を強化するために米国のディスカバリーのような制度を導入すると、日本でのパテントトロールの活動を増長することになりかねないと思います。総じてこれまで日本にない新たな証拠収集制度を導入することは、訴訟リスクを増大させかねないことから、慎重であるべきだと考えます。皆さん、十分御存じと思いますけれども、米国特許訴訟では、証拠開示手続で膨大な時間と費用かが掛かっております。パテントトロールの中には、証拠開示手続の費用と同程度の金額で和解を提案してくる者も少なくございません。被告である事業会社は、たとえ非侵害や特許無効の抗弁が可能であっても、訴訟経済の観点から、こうしたパテントトロールの和解提案に応じてしまうケースもございます。パテントトロールは、和解金を原資に新たな標的(事業会社)に対して、特許侵害訴訟を提起します。つまるところ、米国の証拠開示手続が、パテントトロールの活動を活発化しているといっても過言ではないと思います。
A現状の日本の制度でも、裁判官の裁量である程度の証拠開示は担保できると思います。特許法105条第1項によれば、裁判所は当事者の申立てにより、他方当事者に対し、侵害行為について立証するため、または損害の計算をするため、必要と認められる情報又は方法の開示を命ずることができます。ただし、開示命令を受けた者は、正当な理由があればこれを拒否することができるという規定もございますので、当該拒否権により、侵害認定や損害の算定に支障をきたす状況が多いようであれば、証拠収集力強化を検討する余地はあると思います。
B訴訟前証拠収集手続については、平成15年の民事訴訟法改正により、同法132条の2に訴訟前収集手続が規定されております。ですので、まずはその活?を考えるべきではないかと思います。
続きまして「(2)権利の安定性」。
@審査、審判、訴訟での有効性判断基準の統?が望まれますが、他方、審査の質向上のために権利化が遅れる弊害も考慮する必要があるのではないかと思います。昨今、技術の進化が加速されまして、製品寿命が短くなるという環境下におきましては、特許の早期権利化は、ビジネスでの優位性を保つためには重要でございます。したがい、権利の安定性を重視するばかりに、権利化が遅延することは、特許権者にとってかえってマイナスとなるケースもございます。
特許法第104条の3、先ほど来、活発な意見交換がございましたけれども、これにつきましては、現状「キルビー判決」に沿った裁判実務がなされているのであれば、あえて追加する必要はないとの見方もできるかと思います。逆に、裁判実務を変更することを意図した追加であるならば、慎重な対応が必要ではないかと思います。
Aいずれにしましても、無効理由のある特許出願が登録になり、かつ、無効化が困難になるような施策は避けていただきたいと思います。
続きまして「(3)損害賠償額」。
@損害賠償とは、侵害?為により特許権者が被った損害を認定したもの。先ほども申し上げましたが、損害賠償額の算定に際しては、侵害?為の実態や市場規模を考慮すべき。
A訴訟のインセンティブ目的での懲罰賠償の導入はやるべきではないと思います。単に特許の存在を知っていたことのみをもって故意侵害とする、これは米国のプラクティスですけれども、こういったことで安易に懲罰賠償を認めるような制度は、パテントトロールに悪?されかねないと思います。
「(4)差?請求権」。
@差止めは、被告による特許侵害?為を即座に停止させないと、原告である特許権者が著しい損害をこうむる場合に認められるべきものであろうと。
A標準規格必須特許については、(F)RAND宣言がなされた場合は、当該特許による差止請求権の?使は制限されるべきであろうと思います。技術標準は、技術の普及を意図したものであるから、標準規格必須特許の権利者自らが(F)RAND宣?した場合は、そもそも差止請求はなじまないと思います。ただし、実施者の不誠実さ・悪質さ等に鑑みて、差止請求権の行使を認めるべき事案は存在すると考えます。差止請求権につきましては、前回の委員会で総括といいますか整理をされていると伺っております。当面、法改正は一律に制限することは行わず、個々の事案に応じて対応することが適当であろうと整理されておりますけれども、基本的には私どももそれに賛成でございます。特許権利者と実施者のバランスを考えて、慎重に検討すべきではないかと思います。
資料に戻りまして、「(5)情報公開、海外発信」でございます。
@世界の規範となる訴訟システムを?指す過程での情報公開や海外発信には異存はございません。ただいたずらに日本に訴訟を持ち込むような施策には賛成しかねます。
最後「(6)知財司法アクセス」です。
@専門裁判所の分散は質の低下が危惧されると思います。地方の方々の利便性が問われていますが、まずはICTの活?によって利便性向上を検討する余地があるのではないかと思います。
以上でございます。
○伊藤委員長 ありがとうございました。
続きまして、中小企業等の代理人経験のある上山委員から説明をお願いいたします。
○上山委員 では、私の方から御説明させていただきます。
配付資料は「損害賠償額に関する知財紛争処理システムの問題点」ということで、損害賠償の問題だけにフォーカスしてありますけれども、その前に、総論として全体について申し上げたいと思います。
私は弁護士として知財訴訟以外の通常事件も多く扱っていますが、その経験からしまして、知財訴訟、中でも特許訴訟は原告が勝訴することが難しいと感じております。
実質勝訴の和解を含めれば、原告勝訴率が4から5割という御意見もありますが、聞くところによりますと、その割合というのはいわゆる金銭給付条項が入っているものの割合ということですけれども、権利者の実質敗訴の場合でも、解決金名目でわずかの金銭を被告から原告に払って和解をするというケースもありますので、そういったものがあるのだとすると、この数字がそのまま実質的勝訴の割合として評価できるのかなというのも疑問に感じているところです。
では、何故なかなか勝つことが難しいかというと、その理由の一つは立証の困難さにあります。通常の企業間の事件であれば、多くの場合は訴訟提起の前の段階で取引関係の書類ですとか、関係者間のメールなどがあるため、そういったさまざまな証拠で相当程度の立証が可能です。それに対して、特許侵害の場合は、必要な証拠はほとんど被告の内部に偏在している。第三者が入手することが極めて困難である。あるいは、製品の構造のように、分解して分析することが可能なものもあるとはいえ、最近の製品は非常に複雑で、しかもかなりの機能が組込みソフトウエアで実現されているといったものもあるために、実際上、分析は極めて困難ですし、仮に何らかの分析ができるとしても、その費用が非常に高額化している。したがって、中小企業の代理人の立場としては、中小企業がそういった費用を支弁することが実際上、不可能であるということで、立証手段が限られてしまう。そういった特徴が特に特許侵害訴訟の場合には言えます。
また、権利の不安定性も、権利者にとっては非常に大きな特許訴訟特有の問題です。これについては、一定の信頼に基づく投資をしてきた、さらには、相当程度の労力を費やして、訴訟提起した、そういった権利者の利益、保護もやはり十分考慮する必要があると思います。
証拠収集手段については、文書提出命令であるとか、インカメラであるとか、メニューとしては非常に品揃えが豊富な状況にあります。逆に言えば、何故それだけたくさんのメニューが法改正で次々と追加されていたかというと、やはり既存の制度が実効性のあるものとして使えていないという実感があったためだと思います。私自身、権利者の側に立って文書提出命令の申立てが認められたという経験はありません。制度としては用意されていても、非常にハードルが高い制度になっているということで、もう少し実際に活用できるような制度にしていくことが必要ではないかと思います。
それ以上に、代理人として感じる重要な問題は、損害賠償額の低さです。通常の事件と比べても、原告の満足度はかなり低いと感じています。その理由としては、実務界で事業に携わっている当時者の感覚として、判決で認容される額がたったこれだけかという程度の水準にとどまっている、そういった感覚で捉えられるような水準になっているところが大きな問題だと思います。
損害賠償額が高いか低いかということに関しては、よく諸外国との比較がされますが、それは余り意味がない議論だと思います。もともと市場規模も違いますし、対象の製品も違うため、損害賠償額の絶対額を比較する議論は説得力を欠くと思います。
そこで、私が最近経験した事案を踏まえて、特許法第102条3項の相当実施料率について検討してみてはどうかということで、お手元に配付してある資料を御説明したいと思います。
相当実施料率については、絶対額ではなくて、どの程度の実施料率に基づく賠償を支払わせることが妥当かという実施料率で比較できますので、横並びでの比較が可能であるという点で、この問題の検討には適しているのではないかと思います。
配付資料の1ページ目、まず1番、我が国の裁判例における損害賠償額、ここで具体的に検討するのは、実施料率ですけれども、これが低いのかどうかというと、低いと考えております。
1番目は、まず、かなり古い資料で平成9年のものです。
米国では平均11%。米国は非常に高過ぎて、ここと比較すること自体がナンセンスだという意見はよく聞かれますけれども、ドイツやフランスはどうかというと、ドイツは8〜10%、フランスは8%で、この当時の調査で我が国で認容された実施料率の平均、これは判決の平均ですけれども、4%ということで、2倍以上の開きがあるという結果になっています。
2番目、平成19年度特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書の研究報告では、米国では20%〜30%が認定される事件も少なくないことが報告されています。
3番目、21年度、文章が長いので省略しますけれども、この報告ですと、2004年〜2008年の46件の判例を分析した結果、民間における実施料率よりも司法決定実施料率の方が低いことが判明したということが報告されています。
私は、諸外国の比較よりも、むしろこの民間で任意の形でライセンス契約で設定される料率よりも、侵害訴訟において勝訴判決を得た権利者に対して認められる料率の方が低いということがより重大な問題ではないかと考えております。
2番目、特許法第102条3項の判例の判断に関する問題点ということですけれども、まずは2ページ目、裁判例の相当実施料率の算定の考え方というのは、まず基準となる料率を認定した上で、それに個別具体的な事案の事情を加味して増減をするという形になっています。
この2つに分けて御説明しますと、まず、2)「同種の特許の実施料率の平均値」についてですけれども、判例では、ライセンス実績がある場合には実績値、ない場合には同一技術分野の特許の平均値あるいは国有特許のライセンス料率を用いることが一般的です。
しかし、任意のライセンス交渉で契約で設定した料率と、侵害訴訟にまで至って勝訴した当事者に認められる料率が同一というのは、権利者の立場からすれば非常に不合理だと感じられることは言うまでもないと思います。
ちなみに、フランスでは、判例で認められるものは業界で慣習的に認められているものの1.5倍であるということが報告されていまする。理由としては、侵害者である被告は、自分に課された条件を拒める立場にないからであるといったことが挙げられています。
率も、例えばここに挙げているように、LTE特許プールであるとか、その他の特許プール、あるいは個別の特許のライセンス交渉でも、早期にライセンス契約を締結してくれれば、これぐらいの料率でいいです。ただ、3カ月以内に交渉がまとまらない場合には、1.5倍にしますとか、そういった形で時期が後ろにずれればずれるほど高い料率でなければ合意しないということが通常ですし、それから、著作権侵害の事案になりますが、ソフトウエアの企業内の違法コピーが内部通報などによって発見された場合、権利者団体は、和解で決着させる場合は、正規品の購入分に加えて、数倍程度の賠償金を支払わせることを条件とすることが一般的です。公表されているところですと、某市役所が不正コピーを認めたということで、1.5倍の賠償金を支払ったことが報道されています。正規品の購入と合わせると2.5倍ということになるわけです。
何故こういうことをやっているかというと、正規品の購入分だけ支払えば済むというのであれば、見つからなければやり得ですから、まともに買おうという人間は誰もいなくなってしまう。したがって、訴訟に持ち込むのではなく、任意で決着するのであれば、賠償金を痛みを感じる額に設定する必要がある、ということになるわけです。
したがって、フランスの考え方にあるように、基本となる料率そのものが通常のライセンス契約で設定される料率よりも高くなければ、不合理であるということがいえると思います。
3ページ、今度は具体的事情に基づく加減に関する評価についてですけれども、分析をすると、減額方向に判断される場合が非常に多いという偏りが見てとれると考えております。
3ページの真中に表がありますけれども、これは日本弁理士会特許委員会の答申書に掲載されているものですけれども、145件の判例を分析した結果、さまざまなファクターが増加方向、減少方向、どちらで考慮されているかという統計をとったものです。
この表の下の法改正前と書いてありますけれども、平成10年改正で、当時の特許法は第102条2項、現在は3項ですけれども、当時は通常受けるべき相当な実施料率という「通常」という文言があったのを、個別具体的な事案の事情を考慮して、より高額な認定も可能にするということで、「通常」の文言が削除されたというのがこの法改正ですけれども、法改正前は「通常」があったせいか、ほとんど個別具体的な事案が考慮されていなかった。それに対して、法改正後は考慮するものが非常に増えているのですけれども、このマイナスというのは、増額要因をプラス1、減額要因をマイナス1ということで、挙げられている要因の数を積み上げたものですけれども、それを積み上げると、特許発明の技術内容や重要性はマイナス6というように、軒並みマイナスになっている。特に「その他」ということで、さまざまな事情についてはマイナス14となっており、全体的にプラス方向に考慮される事情はなかなか認定されづらく、減額方向の事情が積極的に認定されている傾向があるということがいえます。
時間の関係もありますので、個別具体的な判例の内容は割愛しますけれども、1つだけ挙げますと、技術的な重要度という点では、判例の中にはこの特許発現は非常にシンブルで、技術的には難易度が高くないということを、減額方向で考慮しているものがかなりあります。
しかし、実用化の容易性やコストの観点から言えば、シンプルなものであるということはいわゆる基本特許ということで、強い権利であるという場合があります。かつ、シンプルであれば実用化した際も品質が高くなる、コストが低減できる場合があり、産業上の利用価値は高いということが言える場合もあります。しかし、裁判例を見ると、ある要素を減額方向で考慮することが十分な裏付けがあるのかということについて、疑問があるものも少なからず見受けられます。
個々の判例の内容を具体的に検討しても、裁判例は様々な事情を減額方向で考慮する、そういったマインドに支配されているように見受けられます。
ということで、4ページの下から2つ目のところですけれども、先ほどの報告にあったとおり、個々の裁判例の中を見ても、民間における実施料率よりも司法決定実施料率の方が低い傾向ということが確認できることになります。
4ページの一番下に書いてあるのは、平成10年改正法に関する工業所有権法逐条解説の文章ですけれども、「侵害が発見されなければ、実施料すら払う必要がなく、仮に侵害が発見されたとしても、支払うべき実施料相当額が誠実にライセンスをうけた者と同じ実施料では、他人の権利を尊重し、事前にライセンスを申し込むというインセンティブが働かず、侵害を助長しかねない。」、これは平成10年に改正法の際に指摘されていた問題点なのですけれども、今、御覧いただいたように、最近の裁判例では、侵害が発見されたとしても、支払うべき実施料相当額が誠実にライセンスを受けた者と同じどころか、それよりも低くて済むという状況になっている。これは非常に大きな問題であると考えております。
5ページでは、平成10年改正の前後で裁判例に変化はなかったのかといいますと、これも細かい紹介は割愛しますけれども、一個一個の判例を見ますと、平成10年改正のしばらく後は、先ほどフランスの考え方を御紹介しましたが、通常のライセンス契約よりも高めの料率とすることが当事者間の合理的意思であるという考え方に基づいて、高めの料率を認定しているものが数件ありましたが、時を経るに従って、そういった判例は見られなくなってしまっているという状況です。
次、5ページの5)クリックホイール搭載のiPodの特許侵害に当たると判断された事例。これは私が権利者の代理人を務めた事案ですけれども、この事案はいわゆる部品特許ではなくて、5ページの一番下の写真にあるように、iPodの全面の下半分の丸いタッチセンサーの部分の構造そのものが特許発明の対象であるということで、製品の中核部分が発明の特徴的部分であると判断された事案です。6ページ、囲みの中が損害額の認定に関する判決分の抜粋です。実施料率第5版によれば、この分野の平均値は5.7%であるということで、先ほどの基準値が5.7%であるという認定がされました。
その下が個別具体的な事案に関する判断の部分ですけれども「証拠によれば、アップル自身、クリックホイールを原告各製品の操作性の要として位置付け、新機能、セールスポイントとしてこれを積極的に宣伝し、好評を博してきたことが認められる」ということで、増加方向の事情を認定しています。
これに対して「また」以下が減額方向の判断になるのですけれども、証拠によれば、「アップル」のブランドの価値は非常に高く、原告各製品のデザイン、カラーバリエーション等々の訴求力はかなり強いものであり、iPodの圏内シェア60%に達しているが、それは原告の販売努力が相当程度貢献していることが認められると。
この評価自体は権利者の代理人の私としてももっともだとは思います。ただ、問題はその次で、「相当な実施料率は、○%と認めるのが相当である」ということで、この部分は秘密保持の対象になっていますので、具体的な数字は開示できませんが、5.7%の数十分の一という料率が認定されています。その数十分の一にしている理由としては、ここの数行の部分だけです。ということで、問題は、これらの料率の設定に関する判断の部分が、損害額の評価の問題であるということで、裁判所の裁量的な判断に委ねられているのですが、その評価に対する権利者の納得度が低いということだと思います。
最後、7ページですが、重要なのは民間の任意のライセンス契約よりも裁判例で認められている率が低いということで、これは1項と2項についても、同様の傾向が認められると考えております。
これでは、中小・ベンチャー企業にとって、特許を取得しようというインセンティブが働かない。それから、よく知財の有効活用ということで、知的財産権を担保として銀行融資を受けるということも議論されるところですけれども、こういった状況では経済的価値が認められず、利活用ができないというのは当然の結果であろうと思います。
以上で説明を終わらせていただきます。
○伊藤委員長 ありがとうございました。
最後に、特許制度を所管する特許庁からの説明をお願いいたします。
○仁科調査官 委員長、ありがとうございます。
お手元にございます資料5「知財紛争処理に関する現状と特許庁の取組」について、御説明させていただきます。各スライド右下の方にページ番号がございますので、ページ番号を指定しながら御説明させていただきたいと思います。
スライド1ですが、真ん中に図2という表がございます。御覧いただきますと、下の方に黄色いひげのようなものが記載されておりまして、200件という表示をしておりますけれども、これが日本における訴訟件数の推移を表しておりまして、御案内のとおり、横ばいの状況でございます。
このような横ばいの状況になりますと、日本では研究開発が進まなくなるとか、あるいは海外の企業から見て、日本に出願することに魅力がなくなるという指摘がありますので、この点につきまして、確認したいと思います。御覧いただいております、同じ図2に、赤い折れ線グラフと青い折れ線グラフがございます。赤い折れ線グラフは企業における研究開発費を表しております。青い折れ線グラフは出願件数を表しておりまして、訴訟件数が横ばいであるにもかかわらず、日本の企業は非常に研究開発に注力されておられまして、研究開発費はしっかり伸びていますし、出願につきましても同様に右肩上がりの状況でございます。
ただ、出願につきましては、近年、若干下降傾向にございまして、この原因を探りたいと思います。お隣にございます図3を御覧いただきますと、国際出願の件数を表しております。御覧のとおり、国際出願の件数は非常に増えておりまして、企業の皆様は限られたリソースの中で、国際出願にリソースを振り分けていらっしゃる様子が確認できるかと思います。
また、一番左の図1を御覧いただきますと、棒グラフがございまして、特許の出願件数と登録率を表しております。ピンクのところは登録の件数を表しております。登録の件数を御覧いただきますと、近年、増加傾向にあることが御確認いただけるかと思います。また、青い折れ線グラフは登録率でございますが、こちらも上昇傾向にあることが御確認いただけるかと思います。
このように、近年の出願の減少につきましては、国際出願へのリソースの振り分けですとか、あるいは企業の皆様が特許の量から質への転換を図られた結果ではないかと考えております。
1ページの下の方に表がございますけれども、その一番下のところに、外国人による出願の件数を記載してございます。こちらを御覧いただきますと、リーマンショック以降、増加傾向にございまして、決して日本の特許システム、特許出願が外国人から選ばれていないということはないのではないかと考えております。
次のスライド2、こちらはトムソン・ロイター社が行っております特許を指標とした企業のランキングでございます。
こちらには2015年と2014年とデータを重ねて表記しておりますけれども、日本企業は、世界の上位100社の中で40社が、2015年ですとランキングに入っておりまして、2年連続で世界1位になっております。こういった特許を指標にした競争力からも、日本の企業の研究開発の成果が出ている様子が読み取れるかと思います。
次に、スライド3に移っていただきまして、先ほど御覧いただきましたスライド1のアメリカ版でございます。先ほどと同様、真ん中にございます図2を御覧いただきますと、アメリカの場合には、訴訟件数もR&D費も出願件数も、全て右肩上がりのように見えるかと存じます。ただ、出願件数につきましては、右側にございます図3を御覧いただきますと分かりますように、アメリカの特許制度では、出願の中に新規の出願と再度出願する出願とが混ざっておりまして、赤い線で描いてございます新規の出願につきましては、2000年以降、ほぼ横ばいの状況でございます。訴訟件数が増えたからといいまして、新しい出願が増えることはないということを表しているのではないかと考えております。
また、一番左の図1を御覧いただきますと、アメリカの場合は、ピンクで表しております登録件数も近年、減少傾向でございますし、登録率も青い折れ線グラフで表しておりますが、減少傾向であることが読み取れるかと存じます。
次のスライド4ですが、少し話題を変えまして、技術の変化が特許にどういった影響を及ぼすかという観点で作った資料になっております。
こちらでは、IT技術を紹介させていただいておりますけれども、IT技術の進歩によりまして、ソフトウエアと組み合わせられた出願が非常に増えていると認識しております。
こういったIT技術を利用する製品につきましては、膨大な特許が関与することになりまして、また、それら関連する特許を有する権利者も多様化していると認識しております。
スライド4では、プリンターの例とカメラの例を示してございますが、こちらの図に示したとおり、非常に多くの特許が絡んでいるということを御確認いただけるかと思います。
スライド5、このような産業構造の変化が知財に及ぼす影響でございますが、IT技術が活用されることによりまして、先ほど御説明したとおり、一製品の中に占める特許の数は飛躍的に増大しております。
こういったIT技術は、我が国が非常に競争力を持っております製造業ですとかインフラ産業にも、今後広がることが予想されております。
こういった産業構造の変化に伴い、近時では、ITだけではなくてIoTという言葉も話題になっておりますけれども、訴訟として顕在化しないものを含む知財紛争処理のためのコストの増大が見込まれるのではないかと考えております。
このコストの増大が技術の進展に合わせた適正なものであれば、全く問題はないわけでございますけれども、これが過大なコストの増大ということになりますと、イノベーションを阻害するおそれもあるのではないかと考えておりまして、一番下に記載しましたとおり、紛争処理問題の検討に当たりましては、産業構造の変化がもたらす影響も視野に入れた議論が重要ではないかと考えております。
次、スライド6に移りまして、こちらの検討委員会で御検討いただいております各論点につきまして、現状の御説明をさせていただきます。
まず、スライド6は権利の安定性についてでございます。こちらはスライドに記載しておりますような経緯を経まして法改正がなされてきております。一番下にございますとおり、平成26年改正によりまして、異議の申立制度を創設しております。特許庁としましては、この創設の目的が権利の早期の安定化ということでございますので、その動向を注視したいと考えております。
次、スライド7は証拠収集手続につきましてまとめたものでございます。下に表でまとめてございますが、表に記載のとおり、特許法は平成11年、16年にいろいろ法改正をさせていただいておりますけれども、いずれも民事訴訟法あるいは民事訴訟法規則の特則という形で規定を制定させていただいているところでございます。
このように、特許法における証拠収集手続の在り方を検討するにあたりましては、民事訴訟法との整合性ですとか、バランスについて考慮していく必要があるのではないかと考えております。
また、現在の証拠収集手続につきまして、いろいろ議論がなされているところでございますが、特許権につきましては、権利が無効になり得るという特殊性がございますので、こういったところも考慮していただく必要があるのではないかと考えております。
さらに、証拠収集手続が有します利益と制度の悪用のおそれにつきましても、その両面から検討が必要ではないかと考えております。
次にスライド8番、こちらは先ほど上山委員からも、外国との比較におきまして、損害賠償額を絶対額で比較することは意味がないのではないかという御指摘がございましたが、それを説明するものになっております。
スライド8にございますグラフは、アメリカと日本における知財訴訟において認定されました損害賠償額の中央値を比較したものでございます。3つの区間に分かれておりまして、一番左側が2000年から2004年に日本で認められた損害賠償額の中央値を表しております。その右側が、アメリカで同じ期間において認められた損害賠償額の中央値。その右隣が、アメリカにおいて陪審のみを抽出したもの、さらにその右隣がアメリカにおいて裁判官により認容された損害賠償額を抽出したものになっております。
この3つを比較していただきますと、アメリカにおきましても、緑色の中央値につきましては、近年、右肩下がりの傾向にあることが御確認いただけるかと思います。
また、日本とアメリカを比較するに当たりましては、多くの方はアメリカにおける陪審で認められた損害賠償額との対比で日本の賠償額が少ないという議論をされていると思いますけれども、やはりこういった賠償額の絶対額を比較するに当たりましては、法制度の違いにも留意していただく必要があるのではないかと考えております。
次にスライド9、こちらは知財訴訟におきまして、アメリカを除いたものでございますけれども、過去に認容されました損害賠償額の最高値を表したものでございます。最高値でございますので、特異値ということになりまして、いろいろと異論はあるかと思いますけれども、これをお示ししている趣旨は、その国の紛争処理システムの中でどこまで賠償額が認められ得るのかという限界値を示すという意味で提示してございます。
御覧のとおり、日本は左から3番目に位置しておりまして、よく比較の対象とされます韓国、中国、イギリス、ドイツより多い額になっております。ただ、こちらも先ほど申し上げましたとおり、各国の法制度の違いをしっかり認識した上で比較する必要がございますので、そういった観点から御覧いただければと思います。
また、賠償額が多くなるとイノベーションは促進されるのかという議論もございますが、具体的な国の名前を挙げると差し支えがあるかもしれませんけれども、日本よりも左側にございます2カ国が、日本よりもイノベーションが促進された国かと考えますと、そこはどうかなという考え方もございまして、賠償額とイノベーションとの関係というものも、余りないのではないかと考えております。
スライド10、11番は御参考までに提示したものでございます。先ほど委員の皆様の中からもアメリカにおけるパテントトロールの動きの御紹介がありましたけれども、アメリカではパテントトロールによる訴訟が急増しておりまして、これを規制するような制度の改正が提言されているところでございます。
11番目のスライドには、訴訟件数につきまして、アメリカでは増加傾向を示したものが、2014年から減少していること、また、減少を図るため、当事者レビューのような制度が導入されたりですとか、あるいは特許適格性の要件の厳格化がなされたりですとかというところを御紹介しております。
スライド12が特許庁における検討につきまして御紹介するものでございます。こちらの検討委員会の方でも紛争処理システムにつきまして、いろいろ御議論いただいているところでございますが、特許庁としましても、特許庁の立場でこちらの枠囲いの中に記載しますような観点で紛争処理システムの高度化ですとか、あるいは特許の権利の安定化、あるいは質の向上を図るための施策を検討していきたいと考えております。
1番目は、中小企業ですとか、地方企業の紛争処理システムのアクセス性の向上、次が審査・審判の体制の一層の充実、3番目が先ほどからいろいろニーズを承っておりますけれども、そういった産業界の皆様のニーズに応えるようなサービスの向上、さらに、技術と法務との双方について通じた知財人材の育成、また、我が国の知財制度をアジア諸国に展開しまして、企業の皆様が活動しやすい環境を整備すべしという御意見がございますので、そういった取組につきましても、検討していきたいと考えております。
枠囲いの下に記載しましたように、こちらの検討委員会の委員でもいらっしゃいます、高林先生に特許庁で開催しております調査研究の委員会の委員長になっていただいておりまして、権利の安定性、証拠収集、損害賠償の在り方につきまして、法制面から御検討いただいているところでございます。
こちらの情報につきましては、知財事務局にも提供させていただいているところでございます。
また、権利の安定性の議論、これはそもそも権利を設定する段階でしっかりとした権利を設定することが肝要かと存じますので、下に書いてございますとおり、産業構造審議会の中に昨年から審査品質管理小委員会というものを設けまして、審査の質の向上に向けた取組を実施しているところでございます。
12ページ目の一番下の枠囲みでございますが、来年度以降、これまでに御紹介した産業構造の変化ですとか、特許庁で行っております調査検討の結果、あるいはこちらの検討委員会での御検討の結果を踏まえまして、必要に応じまして、特許庁の産業構造審議会の中で審議をしていきたいと考えております。
最後につけておりますスライド13でございますが、先ほど御紹介しました産業構造審議会の中にございます審査品質管理小委員会で行っております議論と、特許庁おける品質管理の取組の関係を説明したものでございます。御参照いただければ幸いでございます。
特許庁からの御説明は以上でございます。
○伊藤委員長 ありがとうございました。時間の制約がございますけれども、ただいまお三方からいただきました報告について、何か御発言があればお願いしたいと存じます。いかがでしょうか。
どうぞ、早稲田委員。
○早稲田委員 貴重な御意見、プレゼン、ありがとうございました。別宮参考人のペーパーの2ページ目の証拠収集のB、訴訟前の証拠収集手続についてというところでございますが、民訴法改正により第132条の2に訴訟前収集手続ができたというのは、それは御指摘のとおりなのですが、これは私ども弁護士がだらしがないのかもしれませんけれども、非常に使い勝手が悪い、使われていないということで、その一番の理由が、やはりサンクンションがない、強制力がないという点ではないかと言われているのですが、ここのBの「まずはその活用を考えるべき」ということは、これは現制度のままということなのか、それともある程度法改正をお考えになっているのかという点をお聞きしたいと思います。よろしくお願いします。
○伊藤委員長 どうぞ、別宮参考人、お願いします。
○別宮参考人 御質問ありがとうございます。この点につきましては、当協会、知的財産協会の会員の中でも、こういった第132条の2に基づく証拠収集というのができたという具体的な例は私も実際のところ聞けておりません。
ですので、ここでの趣旨は、なぜ活用できていないのか、なぜ利用できていないのか、まずその原因を議論する必要があるのではないかという趣旨でございます。ですから、法改正ありきと言うつもりはございません。まずは原因の究明かなと考えております。
○伊藤委員長 原因の一つとして、早稲田委員から御指摘があったようなこともあるのかもしれませんが、そこはまた別途検討をしたいと思います。
他にいかがでしょうか。どうぞ、東海林委員。
○東海林委員 1つだけ確認をさせていただきたいと思います。
先ほど、上山委員の方から、裁判所の勝訴率の関係で、日本の場合、和解を含めた場合4割ないし5割というお話の中で、実は非常に敗訴的なのだけれども、少額の損害賠償金を含めているのではないかという御指摘がございましたけれども、私の認識している限り、知的財産研究所の方で統計をまとめた際には、いわゆる手切れ金的なもの、あるいは原告の負けではあるが、円満解決するという目的で訴訟費用程度の金額を被告が支払うというようなこともあるのですけれども、それらは統計の中には入っていないのではないかと思います。あくまで勝訴的な和解ということですので、裁判所の方は心証を開示しており、そのときは侵害という前提で和解を勧めますので、そういう少額の和解というのは勝訴的和解とは言わないと認識しております。
○伊藤委員長 ありがとうございました。
他にはよろしいでしょうか。八島委員。
○八島委員 知的財産協会のこのまとめに対して反論するようなことになって、嫌だなと思ったりするのですけれども、基本的にはこの考え方なのでしょうけれども、もう少しポジティブにというか、ちょっとネガティブ感が強いのがいかがなものかなと思います。
いろいろな問題は確かにありますし、特にパテントトロールという問題もあるでしょうけれども、これは多分業界によって考え方が違ってくると思っているのです。例えば、正に製造メーカーでも組立型のところはかなり影響があるというか、特に米国で盛んに行われていることから、同じような形にならないようにしたいと思うのでしょうが、部材とか部品というか、化合物というか、素材産業ではそんなに違うというようなイメージはないのですね。その意味で言うと、いろいろな御意見があってこのようになったのだと思うのですけれども、もう少しポジティブな意見があってもいいかなという気がいたします。失礼しました。
○伊藤委員長 参考人からいただいた御意見を踏まえて、私どもでまた議論を重ねるということにしたいと存じます。
他に御発言はございますか。どうぞ、二瀬委員。
○二瀬委員 中小企業の立場で述べさせていただきます。中小企業にとって特許とその経済効果というのは大きな関係にあるのです。商業的に役に立たないような特許を、中小企業は出さないと思うのですね。ですから、数打ちゃというような調子では特許は出しません。商品の付加価値を高める。若しくは、特許によって排他的な権利を得て商品を売る際に高く売れる。そういうことによって、また開発にお金をつぎ込むことができる。そういう循環のために特許を出願することが多いと思うのです。
その場合、例えば侵害されたときに余り防御が効かない場合に、裁判するということは、中小企業にとってはとても大変なことなんです。中小企業が裁判で勝てる、勝訴率は極めて低いと聞いておりますし、また先ほどお話がありましたように、仮に訴訟をしても幾ばくかの金額で決着してしまうということになりますと、中小企業が特許を出す意味がなくなってしまうということになるかと思います。
ですから、例えば損害賠償請求に関しても若干懲罰的なものがあれば、それが盾になって侵害されるおそれが少し低くなるということも考えられますので、その辺も御配慮をいただきながら、こういう問題を検討していただければと思います。
○伊藤委員長 また、次回以降の議論の中で、その点も検討してまいりたいと思います。
他にはいかがでしょうか。よろしゅうございますか。
次回の会合は証拠収集の手続になりますが、これにつきましては、また次回に御審議をいただくことにいたしまして、本日の会合をこのあたりで閉じたいと存じますが、最後に知財事務局長から総括をお願いしたいと存じます。
○横尾局長 今日は、2時間ありがとうございました。前半の権利の安定性はひとわたり議論を聞かせていただいたので、総括というか、まとめの整理して、次回以降に提示をさせていただきたいと思います。
次回以降、今日後半の議論もございましたけれども、具体的な証拠収集、損害賠償の手続論に入っていきたいと思います。
今日の議論の印象ですけれども、最初に申し上げたかもしれないのですが、この議論は常に両方のサイドがありまして、原告のサイドに立つか、被告のサイドに立つかということがあって、知財計画にも書いたのですけれども、やはりそのバランスが大事であるというのが前提だろうと思います。ただ、そのどっちのサイドに立ちやすいかというのが大企業と中小企業では若干違いがあって、大企業の中でも、先ほど八島委員が御指摘のあったように、場合によっては業種によって違いがあるかもしれないということだろうと思います。
ただ、総じて、困っている人に対して何か手立てをしてあげるというのが基本の発想ではないかなということだろうと思いますので、それでもって制度の運用の話なのか、あるいは制度そのものの話なのか、両面ありますけれども、実際困って使えないという人が使えるようにするための手立てで、それを余りやり過ぎると、さっき日本知的財産協会の指摘にもありましたけれども、トロールの問題というのもあるので、そこの弊害は起こらないようにという必要はもちろんあるのですが、そういうバランスの中で考えていく。
それによって、結局、特許、知財というのが一つの価値を持ったものであって、その価値を持つべきものが持てないという状態というのは健全な状態ではないということで、諸外国もその価値を持つべくいろいろな工夫をしている中で、日本としてどうするかということをこれから手続論の中で更に考えていきたいと思いますので、どうぞ引き続きよろしくお願いしたいと思います。
○伊藤委員長 ありがとうございました。
最後に、次回以降の会合について事務局から説明をお願いいたします。
○北村参事官 次回以降につきましては、第4回会合は12月18日金曜日の9時からです。第5回の会合は、来週24日木曜日の15時からとなっております。年明けの会合につきましては、それぞれ資料6のとおりとなっております。
また、今日御説明できなかったのですが、本日の資料の最後に、国内アンケート結果の暫定版を机上配付のみで配付させていただいております。証拠収集のところですので、また次回に御説明申し上げますけれども、参考までに配付をさせていただいております。
事務局からは以上です。
○伊藤委員長 本日も長時間にわたりまして、熱心な御議論をありがとうございました。どうぞ次回もよろしくお願い申し上げます。