知財紛争処理システム検討委員会(第4回))
議 事 録
日 時:平成27年12月18日(金)09:00〜11:00
場 所:中央合同庁舎4号館4階 第4特別会議室
出席者:
- 【委 員】
-
伊藤委員長、岡部委員、上山委員、小松委員、東海林委員、高林委員、
豊田委員、長谷川委員、二瀬委員、別所委員、森田委員、八島委員、
山本(和)委員、山本(敬)委員 - 【関係機関】
-
法務省 鈴木昭洋参事官
特許庁 仁科雅弘企画調査官
最高裁判所事務総局 品田幸男行政局第一課長
- 【事務局】
- 横尾局長、増田次長、田川参事官、北村参事官
- 開 会
- 証拠収集手続について
- 閉 会
○伊藤委員長 おはようございます。ただいまから、「知財紛争処理システム検討委員会」の第4回を開催いたしたいと存じます。本日は早朝から、また御多忙のところをお集まりいただきまして誠にありがとうございます。
初めに、横尾事務局長から御挨拶をお願いいたします。
○横尾局長 皆様おはようございます。今週15日に会ったばかりで、大変年末のお忙しい中、またまたお集まりいただきまして誠にありがとうございます。
今日から手続論のセッションに入っていきます。今回と、また来週の24日と2回にわたって証拠収集手続について議論をさせていただきたいと思います。論点は多岐にわたりますが、是非精力的、建設的に議論できればと思います。どうぞよろしくお願いしたいと思います。
○伊藤委員長 ありがとうございました。
本日、早稲田委員と渡辺委員は所用のため御欠席でございます。
議題に入りたいと存じます。今回と次回の2回にわたりまして、証拠収集手続について議論をいただきます。
初めに、その論点につきまして事務局から説明をお願いいたします。
○北村参事官 お手元の資料1を御覧ください。「知財紛争処理システムに関する論点整理(証拠収集手続の機能強化関連)」でございます。
めくっていただきまして2ページ目ですが、「これまでの証拠収集手続に関する制度改正の経緯」ということで参考までに載せております。
もう一枚めくっていただきまして3ページですけれども、侵害訴訟のフローについて書かせていただいております。まず、訴え提起前の段階での調査・証拠収集がありまして、その後、訴えの提起、その後は争点整理がありまして証拠調べという流れになっております。それぞれのところで論点が存在するというふうに理解をしております。
それをまとめたのが、その下の4ページでございます。特許の侵害訴訟の特徴といたしまして、証拠が被疑侵害者側に偏在しているということ、このあたりは改善の必要性があるのではないかという御指摘をいただいております。そういった特許権侵害の特殊性や民事訴訟制度との整合性を踏まえて、あとは営業秘密の保護とか内容防止にも考慮しながらどういった方策があるかということを検討いただければと思います。
その下に論点が幾つか書いてございますが、大きく4つに分けてございます。
まず、1つ目として提訴前の証拠収集手続としてどういったことがあるかということ。
2つ目ですが、提訴後として3つ挙げております。まず2−(1)として争点整理手続、特許法第104条の2の具体的態様の明示義務のところ、2−(2)として証拠収集のところ、あとは便宜的に提訴後のところに入れておりますけれども秘密保持命令のところ、またこれ以外にも検討すべき事項とか、ベストプラクティスの共有といったものもあるかということで論点として挙げさせていただいております。
次に5ページですけれども、証拠収集手続の全般的な観点ということでさまざまな御意見をいただいているところです。
まず左側ですが、手続を「改善すべき」という御意見をいろいろといただいております。その理由として、現行制度が機能していないという御指摘もございます。
他方、「留意すべき」といたしまして、改善するにしてもその攻守のバランスを取るべきであるとか、濫訴やトロールを警戒すべき、あとは営業秘密の探索にならないよう留意すべきといった御指摘もいただいているところです。
個別の論点ですけれども、次の6ページですが、まず訴え提起前の証拠収集でございます。一定の証拠がないと訴訟の提起が困難であるという一方で、証拠が被疑侵害者側に偏在しているということで証拠を集めにくいということですが、検討例@Aとして、訴え提起前における証拠収集の処分、あるいは証拠保全制度の改善という例と、あとはもう一つ、第三者による査察制度の導入ということで検討例として挙げさせていただいております。
1枚めくっていただきまして7ページですが、「訴えの提起前における証拠収集の処分等」について概説を載せてございます。提訴予告通知に基づいて提訴前照会、あるいは証拠収集処分という手続が民訴法に規定されてございますけれども、本文の最後に書いてございますように、制裁を伴う強制力を有するものではないということで、このあたりが使われにくい理由ではないかという御指摘もいただいているところです。
もう一枚めくっていただきまして9ページになりますが、「証拠保全」についても条文解説が載せてございます。こちらは、本来は証拠をあらかじめ保全しておくという趣旨のものですけれども、訴え提起前の証拠開示機能もこの証拠保全にはあるということで、このあたりに着目して何かできないかというところが考えられるかと思います。
この提訴前の証拠収集につきまして、種々の御意見を10ページに記載させていただいております。
まず「改善すべき」の方ですが、訴え提起前の文書提出制度の拡充をすべきということで、要は、強制力が働かないのでなかなか中途半端になってしまっているという御指摘でございます。あとは、第三者による査察等の制度を導入すべきとか、裁判所調査官の制度をうまく使えばよいのではないかといった御指摘もいただいております。
他方で右側、「留意すべき」点ですけれども、訴え提起前の文書提出制度を拡充するに当たっての留意点ということで、知財だけにこういうことが必要だという理由が必要であるという御意見もいただいておりますし、また、査察を行うとした場合に第三者は具体的にどういう人がいるのかというところが問題であるという御指摘もいただいております。あとは、証拠保全制度を参考にして対応できるのではないかというような御指摘もいただいているところです。
続きまして11ページ、提訴後の論点の1つ目ですが、「争点整理手続における具体的態様の明示義務」、特許法第104条の2の規定でございます。こちらについて十分機能していないという御指摘がございますけれども、具体的な検討例@、Aとしてこれを義務化するとか、あるいは何がしかの制裁を与える。こういったところも検討例かと考えております。
条文の資料がございますが、1ページめくっていただきまして13ページですけれども、「具体的態様の明示義務」のところで種々御意見をいただいております。
まず「改善すべき」というところですが、現行制度が機能していないということ、そこで提出義務を課すべきとか罰則規定を入れるべき、あるいは推定規定を入れるべき、こういった御意見をいただいております。
他方で、この証拠提出義務を課すことについての慎重論とか、特許法第105条との関係があるので現行の制度で十分であるという御意見とか、あとはその一番下にこれを改善するのであれば秘密保持命令も併せて見直さないといけないのではないかという御指摘をいただいております。
次に提訴後の証拠収集手続の2つ目の論点ですが、証拠収集手続、文書提出命令のところが次の14ページに書いてございます。こちらは、裁判所による命令の発出が保守的であるとか、事例が少ないとか、文書の特定が困難であるといったような御指摘をいただいております。
改善方策としまして、検討例を幾つか挙げさせていただいております。
まず検討例の@ですけれども、現行の制度の下で文書提出命令を見直すというアイデアです。具体的には@‐1、より広範な文書提出を義務付けるとか、@‐2のような文書の特定の要件を緩和するという考え方があろうかと考えております。
検討例Aとして当事者間における証拠の開示を義務づけるということで、アメリカのディスカバリーのようなもののイメージということでございます。
あとは、検討例Bとして、先ほどもございましたが、第三者が被疑侵害者に対して査察を行うという制度、ドイツではこういう制度があると承知しておりますけれども、こういった制度の導入ということを検討例として挙げさせていただいております。
資料を何枚かめくっていただきまして20ページになります。訴え提起後の証拠収集のところの御意見ですけれども、左側は「現行制度が機能していない」ということで、文書提出命令の運用が保守的、謙抑的であるとか、侵害立証のためにこういう命令が出されたことはほとんどなくて死文化しているのではないかという御意見もございます。
右側は「留意すべき」点ということで、現行でスムーズに進行している。任意で証拠は出されているので問題ないという御意見もありますし、あとは裁判所の訴訟指揮、あるいは裁量で対処すべきという御意見もいただいております。
めくっていただきまして21ページですが、意見の続きですけれども、義務規定への修正という考え方とか、あとは提出命令に従わない場合の制裁を強化すべきという御意見もいただいております。
その下ですが、文書提出を認めない場合にも不服申立てを認める。こういうアイデアもいただいておるところでございます。
右側ですけれども、文書提出命令は手間や費用、時間が掛かるという御意見とか、嫌がらせ的な文書提出命令の申立てが増えるのではないかとか、あとは先ほどもございましたが、秘密保持命令の改善も併せて行うべきではないかといった御意見もいただいているところです。
さらに22ページですが、こちらは査察関係についての意見を並べております。先ほどもありましたが、第三者による査察等の制度を導入すべきではないかとか、あとは左の一番下でその製法特許に関する特例ということで、特に問題があるのは製法特許に係るところなので、そういったところに限定して何か規定を設けるということもあり得るのではないか、そのような御意見もいただいております。
最後の論点ですが、1枚めくりまして23ページで「秘密保持命令」のところです。
課題としては、相手方企業担当者を閲覧対象者に含めるというところに抵抗感があるとか、技術的な知見を有する第三者に閲覧させることができないとなかなか機能しないのではないかとか、あとは刑事罰があることが躊躇する原因であるという御指摘をいただいております。
検討例としては@、Aとありますけれども、例えば@のような営業秘密を代理人のみに開示するような秘密保持命令を正面から規定するという考え方。Aとして、第三者の専門家を命令の名宛人として選択可能とする。こういったことも考えられるかと思います。
これについての御意見が、26ページにまとめてございます。「改善すべき」という御意見として、当事者への開示とか、あとは刑事罰があることには非常に抵抗があるというところで種々御意見をいただいておる一方で、右側ですが、代理人のみに開示するというのはなかなか機能しないのではないかというような御意見もいただいております。
続きで27ページですけれども、秘密保持契約で処理するというお話もございますが、これでは不十分ではあるというような御意見であるとか、代理人のみに開示をするということがいいのではないかとか、あるいは第三者の専門家への開示を前提にする制度、こういったものが提案されている一方で、右側の秘密保持契約を交わすのは負担が少ないとか、そういう御意見もいただいておるところでございます。
28ページですけれども、ドイツの査察制度を今回の議論の一つですので資料をつけさせていただきました。これは、EU指令を受けて2008年にドイツの特許法の中にできた規定で、同様に民訴法にもできている規定ですけれども、特許侵害に一定の蓋然性があるという場合で、なおかつ立証に必要とされる証拠が市場で入手できないということで、なかなか証拠収集ができないというような場合に限って認められるというふうに理解をしております。もともとドイツの民法には査察権という権利がございまして、これを一般規定に対する特則として認めたという整理になっております。
「要件」としてはそこにありますように、侵害行為が十分に確実であることという要件があります。
あとは、「手続」としては事前の通告なしにその鑑定人なる人が工場とか事務所に入れる。そして、査察の結果をまとめた報告書を作って裁判所へ出す。それで、裁判所が被疑侵害者側の申立て等を聞きながらその営業秘密をどうするかというところも考慮する。それを踏まえて公開するかどうかを決めるというものです。あとは、査察の請求によって生じた損害については賠償の請求が可能という仕組みになっております。
続きまして、資料2の方に移ります。こちらは、前回ちょっと暫定版をお配りしましたけれども、アンケート結果でございます。この証拠収集手続は損害賠償のところもそうなのですが、意外とデータがない。統計的なデータがないということで、こういったデータを採らせていただきました。
表紙に書いてございますが、こちらは訴訟経験のある企業、あるいは訴訟の経験を考えたことがある企業、訴訟することを検討したことがある企業の158社と、あとは弁護士27社、こちらから回答をいただいたものです。
アンケートの対象者についてはそこに書いてございますが、企業の方1,100社の中から523社御回答をいただいております。あとは、弁護士の方からは経験数が多い弁護士さん、52者の中から27者の御回答をいただいているところです。
1枚めくっていただきますと1ページ目ですが、これは全体に左側が企業の回答、右側が弁護士の回答となっております。
1ページ目の左下ですけれども、証拠収集の困難性を感じたことがあるという企業がその青い部分で79と書いてあるところ、これだけおられるということです。内訳はそこに書いてございますが、特に被疑侵害者側に証拠が偏っているとか、製品が入手できないとか、分析できないとか、こういったことが理由として挙げられてございます。
それから、その右側、弁護士の方もやはり同様に困難性を感じておるということが見てとれるかと思います。
あとは、その下で2ページ目ですけれども、訴え提起前の証拠収集です。黒い部分と白い部分、いずれもそうなのですが、この制度を知らないとか、知っているけれども経験はないというところが黒い部分、あるいは白い部分でございます。なかなか使われていないというところは見てとれるかと思います。
めくっていただきまして3ページですけれども、これは「具体的態様の明示義務」です。3ページ、4ページとありますが、3ページの上の方が特許権者側、下側が被疑侵害者側となっております。若干のデータのばらつきとか、ちょっと違いはございますけれども、傾向は割合似ていますので3ページの左側、企業のところを御覧いただきますと、その具体的な対応が明示されたというdの回答ですね。これが10社御回答がありますが、明示しなかったというのが7社ございます。
これに対して開示が十分だと感じたというのがその下、2社回答がございますが、不十分というのが12社回答がございます。
その後、文書提出命令の申立てを検討したけれども見送ったというのが9社ありますが、実効性に疑問があったとか、あるいは訴訟指揮で文書が任意で提出されたという御意見がそれぞれございます。
その下で、d2のところですけれども、文書提出命令を申し立てたとありますが、命令が出されたのが0件、出されなかったのが6件となっております。それで、任意で提出された、あるいはその理由がないと裁判官が判断したというのはそれぞれ2件、3件と書いてございます。
次に5ページですけれども、文書提出命令です。これも同様ですけれども、右側、弁護士の方の方がデータの数が多いですのでこちらを参照していただきますと、検討はしたけれども文書提出命令を申し立てなかったというのが13者から回答がございまして、実効性に疑問があった、あるいはその文書が任意で提出されたというのがそれぞれ8件ずつ理由として示されてございます。
あとは、その下の方のe、申し立てたが同命令は出されなかったというのが13者御回答がございますが、任意で提出されたものが9者、あるいは理由がなしと裁判官が判断したものが8者という結果が出てございます。
ちょっと時間もないので飛ばさせていただきますが、例えば9ページ、10ページは秘密保持命令について書いてございます。細かいデータはちょっと申し上げませんけれども、棒グラフの黒い部分、白い部分、この制度を知らないとか、知っているけれども使ったことがないという割合が非常に高いというのが特徴であろうかと思います。
あとは、資料2が終わりまして資料4ですけれども、本日御欠席の早稲田委員の方から御意見が出されています。ポイントだけ申し上げますと、最後の3ページに書いてございますけれども、訴え提起前の証拠収集手続について認めるべきではないかということで、その相手方の営業秘密にも注意しながらやる。例えば、外部代理人だけに開示する制度であるとか、同一型の査察制度のようなものとか、こういったところがアイデアではないかということで御意見をいただいているところでございます。
それから、本日委員の皆様の机上には論点の案という1枚紙を配付してございます。これは、先ほどの御説明の資料と内容的には同じですけれども、論点だけを抜き出した方が議論しやすいかということで配付をさせていただいているものでございます。事務局からは以上です。
○伊藤委員長 それでは、意見交換に移りたいと存じます。証拠収集手続の機能強化という視点からみますと、いずれも関連をしているわけでございますけれども、論点は多岐にわたっております。
しかし、基本的視点から考えますと、制度の特質、長短は相互に関連していると存じますので、あえてどの順番からということを申し上げませんが、ただいま説明がございました事務局による論点整理の順番も意識していただきまして御発言をお願いできればと存じます。御自由に御発言ください。
○豊田委員 論点の順番をある程度意識しながらということですけれども、総論としてこの証拠収集手続の機能強化についてはするべきではないかと思います。これが大きな最初の御意見です。
といいますのも、我々が経験した訴訟でも、例えば製法に関わるものですとなかなか相手方の状況というのはこちらとしては立証しにくい。それで、それを裏付けるための傍証、要は例えばこちら側で実験をしてみてある程度侵害性があるのではないかという立証をして、それを提出し、それに基づいて具体的に相手側に反論の具体的証拠なり何なりの提出をお願いするというようなこともしたことがあるんですけれども、これは見方によると思うのですが、明らかにその論点を回避したような証拠が出てきたとしても、その実態としての向こうの製造プロセスとか、製造情報を見るわけにはいかないので、ではそれを再度論破して証拠を集めて侵害を立証するというのはなかなか困難な状況がありました。
そういうことを考えると、その訴訟前の最初の対応、若ししくは手続、どこかは別にしたとしても全般として証拠手続の在り方については強化すべきではないかと思っています。
それで、これは言い方は悪いですけれども、比較的大きな企業をもってしてもなかなか細かいところの立証というのは難しいですから、中小の企業の皆さんからすると更にハードルが高いのではないかと思っています。
一方で、こういうことをやると濫用というのはよく出てくると思うんですけれども、特許権という一つの行政とはいえ認められた権利を行使する上での問題点を整理するという特殊性を考えると、証拠収集というのは強化すべきではないかということと、よくトロールの問題が出てくるのですが、トロールを常にここに入れてしまうとレアケースとしてその入ったときの弊害をどう取り除くかという論点でこの部分を整理しないと、いわゆる一般企業、正しい意味を持っている訴訟のケースとトロールのケースをごっちゃにして、トロールが心配だから前者を否定するような議論はやはり避けるべきではないか。トロールを排除するためには、例えばアメリカにあるように一気に多数の企業を訴えられないとか、最初から交渉せずに訴訟へ提出すべきだとか、いろいろと他にも排除する方法はあるので、それはそれのやり方で逃げながら本論の部分でどうするかという議論をしていくべきではないかと思っています。以上です。
○伊藤委員長 豊田委員からは、証拠収集手続の機能強化の基本的視点としては積極的に考えるべきである、それに関連して生ずる問題については個別的な検討を要するという姿勢が基本に据えられるべきではないかという御発言がございましたが、総論部分について他の委員の方はいかがでしょうか。御意見はございますか。
どうぞ、八島委員。
○八島委員 私も豊田委員と全く同じで、基本的にはやはりこれは強化すべきことであると思っております。私どもの化学会社としましては、特に製法特許の証拠収集は非常に難しいということがございます。そうしますと、なるべく我々は物で特許を取ろうという形ではしていますが、やはり方法で取らざるを得ない発明もあるということもありますし、さらに最近の最高裁のプロダクト・バイ・プロセスクレームの判示もありますので、そういう意味でいうとプロセスクレームが機能できるような証拠収集をうまくしてほしいということが基本であります。
ただし、提訴前をどうするかという議論と、提訴後をどうするかは多分議論が違っていて、提訴前の強化をすると、すべきなのでしょうけれども、それは非常に難しいかと思います。というのは、逆に情報収集のための手段が、意図している以上に提訴前という面で強まると思いますので、やはりどこかの段階で法的手続を執った後の段階で証拠収集手続を強化された方が良いのではないかというイメージは持っております。これは一般論ではありませんので、そういうことを考えています。以上です。
○伊藤委員長 確かに、おっしゃるように問題を考える場合の基本的立場として、提訴前後を区別して考えるかどうかという問題がありますが、どうぞ、他の委員の方お願いいたします。
それでは、岡部委員からお願いします。
○岡部委員 弁理士の岡部でございます。弁理士会で知財訴訟委員会の委員長をしております。今日は、提出の資料に基づいて弁理士会としての意見を述べさせていただきます。
「結論」は、前におっしゃった委員の方と同じでございます。証拠収集手続が容易にされるように制度を見直して、具体的には多分欧州型のような専門家による第三者が査察するというような制度が導入されるべきではないかと考えます。
それで、その際、現在活用されております専門委員制度というものを活用されてはいかがか。その中で弁理士も大きな役割を果たしておりますので、弁理士を活用していただいてはどうかということが意見の骨子でございます。
「理由」はここに述べられておりますけれども、ほぼ同じような議論でございます。なかなか証拠が侵害者側に偏在しているという状況があります。プロセスクレームについては現在のところ事実上、何が本当に行われているかを事前に見つけるというのはほぼ困難で、不可能といってもよいかもしれません。特に化学の方法特許のような場合には、実際に何が行われているかを見つけるのは非常に難しい。また、最高裁判決によってプロダクト・バイ・プロセスクレームに関する厳しい判決が出たということからも、方法特許の侵害の把握を行う施策を強化すべきであると考えております。
その際に、アメリカ型のディスカバリーというような制度もあるわけですけれども、アメリカの訴訟の実態を見ておりましても、あれだけ大変な人的、あるいは経済的な労力を要求される制度というのはいかがなものか。日本にはなじまないであろうし、無理だろうと思います。
そういうことで、ドイツで行われているような査察制度というものが考えられると思います。その際、事前に前触れもなくいくということが日本になじむのかどうかという議論はあろうかと思いますけれども、そういった点をよく検討した上で導入すべきではないかと思います。
専門委員、あるいは調査官といったものを活用して第三者による、あるいは裁判所による制度みたいな形で、当事者には知られないような形での情報収集というものがよいのではないか。これが、弁理士会の意見でございます。どうもありがとうございました。
○伊藤委員長 ありがとうございました。
岡部委員、念のための確認ですが、ここでの御意見は訴え提起の前後を特段区別することなく、おっしゃった趣旨の御意見と理解してよろしゅうございますか。
○岡部委員 はい。前に行うというのがいいのではないかという意見が弁理士会では強いのですけれども、難しいのではないかということも考えておりますので、その辺はより深い議論をお願いしたいということでございます。
○伊藤委員長 分かりました。
小松委員お願いします。
○小松委員 まず総論ですけれども、タスクフォースの委員会でも肯定的な御意見が出ておりましたし、それから日弁連の委員会等で議論をさせていただいたところでも、証拠収集制度の機能をより強化するという方向性について反対というようなスタンスの意見はございませんでした。そういう意味では、前向きに捉えていっていただきたい。特にグローバルにこの知財の在り方を考えていくというときに、典型例でいえばアメリカなどではディスカバリーがある。日本はない。そうすると、事例として挙げられているんですけれども、アメリカでディスカバリーで出てきた証拠を国外裁判所に提出できるというような利用のされ方もあるわけですが、ではひっくり返していえば日本ではそんなことはできないんじゃないか。
そういう意味で、国際的な標準に合うような制度改革をしていくというのは非常に重要である。特に知的創造サイクルにおける特許庁さんが頑張っておられて世界最速、最高品質を目指すという権利の保護のところで力を入れておられますので、その活用制度を世界的に恥ずかしくないように充実させていくことは非常に大事だと思います。
それで、提訴後につきましてはかなり制度が充実されていますので、それを更に発展させていくことはよろしかろうかと思うのですが、問題は提訴前です。提訴前について、一部、弁護士の中で、現行制度でいいんじゃないかという意見もあるのですが、多くの意見はやはりいろいろ考えて取り組んでいきましょう。前向きに考えていきましょうという意見です。
それで、問題は現行制度等で常に提訴前にこういう証拠収集をすると、相手方が営業秘密との関係で抵抗がある。提訴後であれば裁判所が積極的に関与してこられますので、保護に値する営業秘密と、値しない営業秘密が出てくる。侵害であれば保護に値しない営業秘密になっていくわけですが、提訴前だとそこの部分がないという点で、手続的にかなり充実させておかなければならない。
では、どういうふうにしたらいいのかということですが、早稲田委員の意見にもございますように、私も担保制度を充実させていくべきじゃないか。保全処分における立担保制度がございます。そして、不当執行があれば実務的には実質上、立証責任を転換して無過失責任的に損害賠償を認めているはずですので、そういうふうな発想で、立担保できちんと制度を設計していくということがよろしかろうかと思っております。
この制度をとっていくときには、やはり第三者を利用していくということになろうかと思います。それで、弁理士会はうちのところにお願いしますというお話でございまして、弁護士会の方は別に縄張り争いではないですけれども、日本知的財産仲裁センターで弁護士と弁理士がチームを組んでやっていく制度がございまして、これは多少利用の実績がございます。そういう仲裁センターの弁護士、弁理士をチームに組んだりということは一つのやり方ではないかと思います。
それから、調査官とか専門委員さんも当然考えていくべきではないかと思うのですが、現実的問題として費用をどうするかというのがあるんです。正直申し上げまして、私も仲裁センターの仲裁人とかの経験はございますけれども、あまり高額でないという費用ですので、相当な負担を掛けることなので、これは立法の話ではないのかもしれませんが、もし前向きに取り組んでいくのであれば、そういう第三者の方に対するきちんとした経済的な実りのあるフォロー、商事仲裁協会などはかなり費用を当事者に持たせているということがございますので、そういうことまで配慮して実質的により使いやすい制度設計をしていただきたいと思っております。以上です。
○伊藤委員長 ありがとうございました。
別所委員お願いいたします。
○別所委員 今まで皆さんの議論を聞いておりまして、一言申し上げなければということで御意見を申し上げさせていただきます。
まず、そもそもこの知財の紛争処理システムは誰のための制度だということを最初に申し上げたいと思います。イノベーションを継続的に起こしている人のための制度であると私は理解しております。
その前提に立ちまして、原告としての300件以上を超えるグローバルでの日、米、欧、中国での訴訟経験から申し上げれば、確かに日本の現在の証拠収集の手続については強化が必要という実感は持っております。例えば、フランスにおきます証拠保全の強力な手続によって、その後のドイツでありますとか、あるいはイギリスでの同じ特許権侵害の訴訟では非常に有利に進められて、良い制度だなということを実感している次第でございます。
しかし、一方、前回の議論でもございましたが、バランスが重要でございまして、今まで何人かの委員の中からも御指摘がありましたが、アメリカのようなディスカバリーの制度は当事者の負担、とりわけ被疑侵害者側の負担が異常に高いというような実感も持っております。これによりまして、これをうまく利用すればNPEですね、イノベーションを継続的に起こしているとは思えないようなものが訴訟の手段として、強い武器として利用することが可能なことは皆さん周知のことであろうと思いますので、このような者たちに利するような制度は作るべきではないと強く思います。
まとめますとバランスでございまして、強力な証拠収集手続は必要という実感を持っておりますが、そのバランスの中でアメリカ型のディスカバリーの導入というのは行き過ぎであると思っています。フランスの非常に良い例というふうに申し上げましたが、これも先ほどどなたかの委員からございましたけれども、突然工場にやってくるというのはいかがなものかという感じもございますので、一定の抑制をするような制度設計を強く望みます。以上でございます。
○伊藤委員長 ありがとうございました。
皆さんの御発言を伺っていますと、総論部分についてだけでなく、例えばディスカバリーについての評価とか、そういう各論部分についても適宜御発言いただいているように思いますので、いずれの点でも結構でございますので御発言をお願いいたします。
高林委員、どうぞ。
○高林委員 特に、提訴前の証拠収集というものは非常に大事なのではないかと私は思います。先ほど来、ドイツの査察制度の類似のものを導入してはどうかというお話がありましたが、民訴の先生もいらっしゃるのでお伺いしたいと思いますが、平成15年の民訴法改正のときにそこも検討された結果、導入されたのが提訴前の証拠収集処分という規定だと思います。
それで、これはその後の実態調査、裁判官等の協議会でも、調査嘱託とか送付嘱託は活用されているが、執行官による現況調査とか、専門家による意見嘱託というものは全く活用されていないとなっておりますが、実はこの条文を見てみますと、やはり民訴を改正していった方々の努力の結実かと私は思いますが、提訴前に提訴予告を行いまして、特に提訴前の証拠収集処分の場合は相手方と申立人が裁判所のところで協議をしながらその現況調査をする対象物等について決定していくような手続も用意されております。これは、条文に書かれております。
それで、その結果、現場に行く者は執行官となっておりますが、これは裁判官の協議会でも検討されているようですが、そこに前項にある専門的な立場の者の意見嘱託を併用して現場で専門家と執行官による、これは有体物の調査がもともと想定されているようですけれども、そのようなものをする術というものが一応用意されているわけです。
また、その結果、収集された証拠については閲覧手続、これは民事訴訟法に沿って行われるものであって、そこにおいて秘密保持命令とか閲覧制限というものを活用していくという手立ても用意されています。
ただ、これは早稲田委員がおっしゃっている意見書にもありますが、全く活用されていない。それは何故かというと、これは強制力がないからであると言われておりますが、しかし、裁判官が命じた執行官による現況調査ということですから、やはり受任義務はあると私は思います。応じなかったら申立人の主張している事実が認められるとか、文書提出命令と同じような意味での制裁はないということですし、拒む人に対して警察力を使ってこじ開けるというところまでできないということはあるでしょうけれども、裁判官が命ずるということで、相手方に受忍義務があるということですからこれを拒否するということは非常に制限されているということだと思います。
しかし、これは現実には全く使われていないと言われているわけですので、私はこの民訴から特別法として特許法の中に更にこれを改善したような形の査察制度類似のものとして取り込むということはできるのだろうと思います。
ただ、ドイツの査察制度は先ほど御説明にもありましたが、実体権としてそういう請求権があるというところから作られてきた制度ですから、民訴法の改正の中で平成15年の改正のときにも議論されつつ導入されなかったという経緯があるようです。しかし、民訴法の規定を更に特許法的にバージョンアップして特許法に民訴の特別規定を入れるという手法はこれまでも採用されてきた例はいくつもあるわけですから、私は何らかの証拠収集に関する措置が必要であるというのならば、特許法の中に特別規定を入れていくというような手続が一番乗りやすい手続ではないかと思っている次第です。
○伊藤委員長 ありがとうございました。私自身も民事訴訟の研究者なのですけれども、加齢のために記憶が弱くなっておりまして、平成15年当時のことはどういった議論をしてということは定かではありませんが、山本和彦委員はそのあたりについてしっかりした見識をお持ちだと思いますので、何か御発言がございましたらお願いいたします。
○山本(和)委員 加齢という点では私も基本的には同じで、それほどしっかりした記憶があるわけではないのですけれども、今の高林委員の御発言は誠にごもっともで、提訴前の問題について一つの手掛かりになるのは、やはりこの訴えの提起前の証拠収集処分というものがあるのだろうと思います。
それで、私の理解はそもそも平成8年の現行民事訴訟法を作るときに証拠保全の制度というもの、これはもともと強制力があるものだったわけですけれども、それについて要件を緩和して証拠収集的なもの、情報開示的なものとしても使えないかという議論が随分されたと思います。これは伊藤委員長が私の何倍も詳しいと思いますが、しかし、そこはやはりなかなか証拠保全という性質上、難しいということで、その当時はそれは断念されたということかと思います。
しかし、その後、司法制度改革を受けて平成15年の改正のときに、もう一度証拠収集的なものを提訴前に用意することが必要ではないかということが議論され、当時ドイツではやはり同じようなものとして独立証拠調べというものが作られていたこともあり、それで今度作られたのはこの提訴前証拠収集処分であったかと思います。
ただ、これを作るときは提訴前に相手方ないし第三者に証拠収集を受忍させることができるのかということが随分議論されて、その結果、提訴予告通知というものを前置して、そこに一定の提訴後に生じる当事者間の訴訟法律関係を少し前倒しして認めることはできないかということであったかと思います。
ただ、やはり強制力まで認めるということはなかなか難しいのではないかということになり、基本的にはこの資料の8ページに民訴法第132条の4という条文が掲げられておりますが、その1号から4号までのものというのは基本的には相手方の同意に基づいて、相手方の任意の応諾に基づいてなされるものに限るということで作られたものと承知をしております。
高林委員が御指摘のとおり、この4号のようなものについて相手方に対して一定の受忍義務というものを認めるべきである、あるいは認めてよいのではないかという議論はあり得るところだと思いますけれども、ただ、やはり立法の経緯からすれば基本的にはその相手方の任意の応諾に基づくものであるということが基本線なのだろうと考えております。
そういう意味で、これを知財の場面で強化するという選択肢が私はないとは思いませんし、その道もひとつ追求する可能性があってよいのだろうとは思います。ただ、その際にはかなり理論武装的なものが必要になってくるし、それなりのハードルというものはあるだろうと理解しております。
それで、その他の選択肢としては、ドイツ法は先ほど高林委員が適切に御指摘されたと思いますが、実体法上の請求権、情報請求権としてこの問題を処理する。それで、それを仮処分で実現するという立場をとっていて、これもなかなか魅力的な選択肢で、先ほど弁護士会等から立担保のお話が出ました。仮処分として整理すれば、これは担保を立てるということは比較的容易にできると思いますし、あるいは仮の地位を定める仮処分になると思いますので、その執行対応についても比較的緩やかにこの査察のようなものを仕組んでいくということもやりやすくなる可能性はあるかと思います。
ただ、いかんせんドイツは先ほど民法にあったという御紹介がありましたが、ドイツはこの情報請求権というものがかなり広範囲にいろいろなところで認められていて、この特許もその一環という整理がおそらくはされているのだろうと思いますが、日本は必ずしもこの実体法上の情報請求権というものがそんなにあちこちにあるわけではなくて、会社法とかにはあるのではないかと思いますし、幾つかのところにはあると思いますけれども、それほど多く存在することはなくて、この局面だけで実体法上の請求権というものが認められるかどうかというのは一つの問題としてあろうかと思いますが、これは実体法の先生の問題かと思います。とりあえずそういうことです。
○伊藤委員長 山本和彦委員の最後の発言に便乗するわけではありませんが、ドイツでは、実体法上、あるいは民法上、査察権とか情報請求権という概念、基礎があって、それに基づいて特許に関してこういう制度が仕組まれているというような理解なのかもしれませんが、山本敬三委員、もしその点で何か御発言がございましたらお願いいたします。
○山本(敬)委員 特に発言することはないのですが、ドイツ民法では、日本でいう債権法の規定の中に、今御指摘された実体法上の請求権の規定が定められています。
807条以下がその規定だと思いますけれども、これに対応する日本民法の規定は全く存在していませんので、日本でもこのようなドイツ法上の制度があり、それがどのような意味を持つかという点に関する研究は、少なくとも民法学者の側では対応する制度がないということもありまして全くしてこなかったように思います。
したがって、余り申し上げることはないのですが、規定の上では807条自体は占有している物に関する請求権の規定で、これが物以外のものに広げられていったという経緯があるように思います。ただ、その経緯に関しては、先ほど申し上げましたように、必ずしも十分に研究されているところではありませんので、これ以上申し上げられることはないということになります。申し訳ありません。
○伊藤委員長 ありがとうございました。どうぞ、他の委員の方、御自由に御発言ください。
八島委員お願いします。
○八島委員 提訴前の提議という証拠収集の件で、割と他の委員の方、特に岡部委員、若しくは小松委員は取り入れたらどうか、強化してはどうかということなのでしょうが、企業の立場で言わせていただくと、先ほども言いましたし、先ほど先生もおっしゃったんですけれども、やはり任意性が強いのであればそこでそんなに強くする必要はあるのかというのは少し気になります。
やはり訴訟、もしくは仮処分でもいいのですが、何らかの法律的な手続を執られてやるのであれば、それは仕方がないかと思ったりもするのですが、その前に何とか出せよと言われても、先ほど言いましたように特にノウハウの開示になること自体が非常に難しいというか、我々はものすごくそういう意味では恐れます。
営業秘密の中でも、多分その製造ノウハウが出されてしまうのが一番怖い部分がありますので、そうであればやはりちゃんと手続をとってくださいというイメージの方が企業は、少なくとも私の知っている経験からいうと妥当性というか、納得性が高いと思われます。特に訴訟になる前というか、訴訟をすることになるときはお互い特許権をどう考えるかということは十分検討しておりますので、圧倒的に明白にこれは侵害であるというものに対しては多分訴訟にはなりません。
そうすると、訴訟になるような案件では侵害者も特許権者もかなり微妙な線で議論をしています。したがって、もちろん悪意のあるところは置いておいて、善意の普通の会社であればきちんと考えていくだろうという立場に立って申し上げれば、そこはものすごく真面目に考えてやっている以上、任意で証拠を出せと言われてもやはり出したくないという方がかなり強くなります。そうであればきちんと法律的な手続をとって、仮処分申請でもいいですし何でもよいのですけれども、そういうようなものをやっていただく方が、証拠を出す方も出させる方も納得性が得られるのではないかという感じがします。
○伊藤委員長 では、先に森田委員からお願いします。
○森田委員 よろしくお願いします。先ほど来出ていますとおり、私も特許権の実効性を確保すべく証拠収集手続の改善というのは検討する余地があると考えております。
私も経験があるんですけれども、製法特許の権利行使に関しましては訴え提起前にやはりその製法特有の不純物と言えるかどうかというあたりが、私どもの内部の検討で問題となって、やはりちょっとそこまでは言いにくい、他の製法でも出てくるかなということがあったので、訴訟提起までは至らなかったという経験がございます。
ただ、薬業界においては薬事法での後発品承認という厚労省の手続もございますので、製法特許による権利行使というのがすごく多いわけじゃない。件数としては非常に少ないと考えております。
それで、先ほど来出ていますとおり米国型のディスカバリー、現在私どももやっておりますけれども、費用だけ、あるいは当事者間の負担が多いだけです。
それで、訴訟提起前の査察も含めてなんですけれども、相手方の企業なり、執行官なり、裁判官なりが突然弊社の工場、あるいは研究所に入ってきて相手方の企業も含めて全て見られてしまうというのはやはり非常に経営上のリスクがあろうかと思います。営業秘密保護の観点からも、やはり慎重な検討が必要だろうと思っております。
その際に弁護士先生、あるいは弁理士先生などの第三者ということが先ほど来出ているのかもしれませんけれども、私どもから見ても実際、事件になったケースで専門委員というのが裁判手続にもあろうかと思うのですが、やはり企業側が希望する専門性を発揮していただける方が非常に少ないのだろうと考えております。
ですので、そういう方々が入ってこられても、例えば企業内で使っている略語だとか、記号だとか、そういうようなことを適切に判断して、これが侵害だとか、侵害していないとか、適切に判断してくれるかどうかというところはちょっと危惧がございます。そういうことで、そのあたりで今は止めておきます。ありがとうございました。
○伊藤委員長 山本敬三委員、何か御発言があればお願いいたします。
○山本(敬)委員 単純な訂正でして、先ほどドイツ民法807条と言いましたが、809条でしたという訂正だけです。どうも申し訳ありません。
○伊藤委員長 分かりました。
小松委員お願いいたします。
○小松委員 先ほどの八島委員の御発言との関係なのですが、私どもドイツの制度的なものを取り入れたらどうかと申し上げているんですけれども、それは第三者の人に頼んで、ではちょっと行ってくるわというようなものではなくて、やはり裁判所の相手方の尋問は経なくても、審尋というスクリーニングを経た上で査察命令が出される。これを私どもは前提にしておりますので、裁判所が一切その査察をする前にも関与しないということではないという制度設計を前提にしております。
ただ、ドイツの要件である実体法上の十分な疑いを、私は例えば合理的な疑いとか、要件を緩めてはどうかと考えているところです。
それから、突然来られてえらいことだという問題についてですけれども、私なども例えば医療医事紛争の世界では原則として証拠保全で相手を訪問しているということがございますが、あれは基本的には30分前とか、1時間前とか、2時間前に行って、そしていろいろなことが行われないように事実上は代理人が責任者と対面しながらフォローしていくというやり方で、現に実務上かなり行われている。医事訴訟のかなりの部分は、事前の手続が行われているということがございます。
それから、孫引きで恐縮なのですけれども、ドイツのことはよく知らないんですが、文献等によれば、いきなり来られても法律顧問に相談したいというふうなことを言えば2時間ぐらいは時間がずらせるという制度もついているようですので、そういうことで周りをきちんと配慮していけば、いきなりぱっと来て全てのものが見られるということもない。
大昔、特許侵害訴訟で、証拠保全で弁護士だったか、弁理士だったか知りませんが、相手の工場の関係ないところを見て住居侵入罪で有罪になったということがございますけれども、そういう事態にはならないような制度設計は幾らでも可能である。
したがって、そこをリスクがあるという視点で制度そのものを飛ばしてしまうという発想はいかがかという意見を持っております。
○伊藤委員長 どうぞ、八島委員お願いします。
○八島委員 先ほどの件でもう少し補足させていただきたいのですけれども、要は訴訟を行うということを企業がどう考えているかというと、基本的には企業としては余り訴訟を起こしたくない、若しくは訴訟に巻き込まれたくないという考え方がまず多分本音です。もちろん我々化学メーカーみたいな場合はというふうに限定がつくのかもしれませんけれども、それが1つあります。
そういう中で、先ほど医療の部分についてはちょっと先ほど言いました立ち入りがあるとのことのようですが、それはかなりの確度の高い疑いがあるということがポイントだと思います。一方製法特許を行使する場合の部分について言うと、どこまでが分かっているかというのが分からないのに、いろいろ問題があるという気はいたします。やはりそういうような仮の証拠を取りにいくんだったら、その場合の高さというのを十分考えていただかなければいけないのかなということをちょっと危惧する。
先ほど言いましたように、訴訟を行ってしまえば訴訟するという形になりますから、証拠収集にはそういう何らかの手続が必要なんだろうと思うし、やはり納得性が必要なんじゃないかと僕は思っています。
もちろん、そういうことを担保してというふうになるのでしょうが、それはむしろ逆に言うとちゃんと訴訟を行った後に証拠が取れるようにしてほしい。若しくは、訴訟を行ってお互いに訴訟でやるんだという状況になった場合の証拠の取り方が不十分だからうまくいかないのではないかという気もしますし、そこのところを考えていただくのが大事かなという感じがいたします。
○伊藤委員長 いかがでしょうか。
上山委員お願いします。
○上山委員 今の御発言は、結果的に侵害でなかったにもかかわらず重要な情報を競合他社に知られることのリスクを問題視されているのだろうと思いますけれども、それについては先ほどからほかの委員からも意見が出ているように、担保を提供させる、あるいは査察で証拠に接することができるのを代理人と、裁判所が選任した専門家に限定するといった手当で十分対応が可能ではないかと思います。
それから、全く何でもかんでも関係のない証拠も見られるかというと、実際にはそのようなことになる可能性はないと思います。現在の証拠保全制度でもかなり高いレベルの侵害の可能性、条文上は疎明とはなっていますけれども、相当高い侵害の可能性を明らかにしない限り認められていませんし、私自身、実際に証拠保全で相手の工場に入った経験がありますが、どの範囲の資料を閲覧できるかということも、横に執行官の方、裁判官の方が付いておられて、「これは関連性が認められないので、見ないでください」というように運用されているので、関係のない情報が外部に漏えいするということを危惧する余り、発令の要件を高めるようなことがあっては、本末転倒だと思います。
それから、秘密を漏えいさせないための制度としては、既に秘密保持命令制度があるわけで、あれは実際に名宛人なってみると分かるのですけれども、非常に重たいペナルティーがある制度なのです。通常、代理人が名宛人に含まれますので、万が一情報漏えいがなされると、代理人も刑事罰が科されるおそれがある。そうなると弁護士の身分に関わってくるため、情報の管理は非常に慎重に行うことになります。また、米国でも広範なディスカバリーが認められていますけれども、開示された情報についてはプロテクティブオーダーという命令が発せられて、万が一情報漏えいした場合には非常に重い制裁が科されるということとのバランスで情報が開示されています。日本でもそのための制度として秘密保持命令制度があるのですから、情報の不必要な開示や漏えいに関するリスクは、現在でも既に相当程度抑止できる状況にあると考えております。
○八島委員 たびたび申し訳ございません。私の言いたいことは、アメリカの制度にディスカバリーがあると言っても、それは訴訟が始まった後の話ですよね。何回も言いますけれども、秘密保持制度があるとか、秘密を開示する義務が非常に限定されるとか、そういうことは確かにそうなのだろうとは思います。しかしながら、それ以上に大事なことは、悪用という言葉はちょっと変な言い方ですが、やはりそこは十分なる疑いが高くないと任意でやってこられても対応できないということだと私は思っているんです。
そういう意味で、証拠集めを行いやすくするために開示される証拠の範囲が狭いとか、見られる人間が少ないので秘密保持が高いとかというのは、もちろんそれは十分必要なんだろうと思いますが、むしろ訴訟を行った後にもっときちんと強力な、もっと広範囲に情報が取れるような手段がないと十分なる訴訟ができていないのではないかと思います。
だから、訴えをする前と訴えをする後というのは立場が違ってくるし、法律的な手続が変わってくるわけですから、そこのところが私は少し気になると思っているところです。
○伊藤委員長 どうぞ、豊田委員お願いします。
○豊田委員 これは八島委員と同じです。だんだん違いがよくわからなくなってくるんですね。訴えた後の証拠保全なり、証拠情報収集を強化すれば、なぜ訴える前にそこまで手間をかけて証拠収集をしないといけないのかという、そこの差が、申し訳ない。
私は法的な問題とかよく分かっていませんし、大企業ですから、ひょっとしたら裁判にかかる費用に対して余り抵抗感がないので、提訴前の証拠収集に対して必要性を余り感じていないのかもわからないですけれども、やはり開示する側もお互いに訴訟が起こってある程度争点がわかっているから、誠意をもって何を開示するべきか、何が営業秘密に属するかという整理もできますし、いろいろな対応はできますし、逆に我々が原告側になっても、ある意味、正々堂々とこの証拠が欲しいんだと言ってお願いすると思うんですけれども、提訴前というところを何故強化しないといけないのかがもう一つよく分からない。
要は、提訴後強化すれば、前であろうが後であろうが、はっきりしているのではないかというふうに私は思っています。だから、その前をやるために証拠保全のための仮処分をしないとか、ややこしい手続を踏めば踏むほど、それだったら提訴後に堂々とやればいいじゃないかと思っているところです。
○伊藤委員長 今の豊田委員の御発言で、訴え提起後の証拠収集手段を強化するというのが本筋であって、それを超えてといいますか、なぜ訴え提起前の証拠収集手段について機能強化が強く求められるのか。そのあたりのことがやはり問題ではないかという御指摘がございました。
どうぞ、小松委員。
○小松委員 すみません。ちょっと流れがおかしくなっているんじゃないかと思って整理させていただきたいと思います。
もともと、訴え提起後のいろいろな証拠の出し方、あるいは証拠収集の仕方について更に改良していこうということは当然のことでして、今、問題になっているのは現在の制度では裁判をするかどうか、提訴するかどうかの判断が非常に難しいんです。だから、より合理的に判断ができるようなツールを用意できないかという議論であります。
基本的には市場で入手できて、その侵害対象品の構造が分かるようなものであれば、これは除外される。それで、製法特許関係、それから、例えばインターネット絡みの特許の場合は、基地がどこにあるか、相手がどのようになっているかはなかなか分からない。
それから、化学物質についてはこのごろいろいろな分析方法があって、出発物質、中間物質、いろいろなものを分析していけばある程度の想像が付く段階になることもあるのですが、それでもなかなか分からない。コンピュータープログラムの場合、このごろソースについて、パスワードが付いていてなかなか内部が解析できない製品を入手する。そういうものすごく多い話じゃないんですけれども、そういうパターンについても訴訟しやすいようにする必要があるんじゃないか。それでどうしましょうということで、私はその部分については前向きに取り組んでいくべきではないか。
それから、実はこれは文書提出命令の改良との関係にも絡んでくるのですが、インカメラ手続が特許法で定められているんですけれども、あれは本来は裁判官の前でということになっているんですが、特許法では相手方にもその情報を見られるように、これは実は途中で改正されたんですね。最初は、もう民訴と全く一緒だったんです。
それで、私はどこかで評釈を書いたりしたことがあったのですが、カリクレイン事件とか、いろいろありまして特許事件、知財事件ではある証拠、例えば製造さえ見れば権利の侵害の有無、白黒がほとんど決せられるというイメージが強いわけですね。
通常の民事訴訟では、原子力の問題とかいろいろあるわけですけれども、間接事実になるようないろいろな情報を出せという部分がありますが、特許はもうかなり重要な証拠で結論が変わるという特色がある。そういう意味で、相手方代理人も見られるようにしてはどうですかという改正条文ができたんですけれども、それぐらい重要なエビデンスで、いろいろなものを探さなくてもあともう一点、何か見つかればかなりの確率で訴えていくかどうかの判断ができる。こういう特殊性がありますので、そこを考慮しながら制度改革を前向きに捉えていくべきだ。
リスクがいろいろあるのは分かっております。それは、命令の要件をチェックするとか、いろいろなところで十分サポートできることだと考えておりますので、ちょっと繰り返しになりましたけれども、よろしくお願いします。
○伊藤委員長 高林委員、お願いします。
○高林委員 小松委員に言っていただいたので、私はほとんどしゃべることはありませんが、現在、提訴するための要件として被告対象物件、被告方法というものをある程度訴状に記載していなければならないということがありますので、そこの要件を緩和してアメリカ的に、あとはディスカバリーで分かればよいでしょうということで、今はいい加減なもので提訴できるということにする制度選択の是非が論じられることになろうかと思います。
私はそれは良いことではないと思っております。そこで、まずは提訴できるような情報を事前に得られる制度が必要か否かが問われることになります。いまだ提訴していないのですから相手方にそれを見させるということは非常に困難ですので、今の提訴前の証拠収集処分では訴え提起の予告、それから処分をする際には事前の相手方の意見聴取などを裁判官が絡んでやっていくという制度となっているわけです、実際に、どこまで活用されているかはおぼつかない状況のようですが。
こういった制度ならば、その結果調べてみて、本当に相手方が、申立人が主張するような方法を実施しているかどうかが分かった結果、そういうものではないことが分かれば提訴を断念するし、これが侵害するかどうかは別として申立人が主張するようなものであることが分かれば提訴して、侵害の成否を本訴訟で争っていくことになるんだと思います。
そのときに、濫用的に証拠収集処分を請求してくるのではないかといった心配があるのであれば、そこには何らかの担保を積ませるといった制度はあり得るかもしれません。ただ、この担保というのは損害賠償の予定だと思いますが、見せてしまったことによる損害というもので一体幾ら積ませることができるのかというのは大変困難な問題だと私は思っております。1億円積ませれば濫用的な申立ては阻止できるかもしれませんが、何が1億円の損害なのか。一体、担保額は幾らにするのか。損害賠償額の予定として決める担保額というのは非常に判断が困難だろうと思います。
なので、そこは証拠の閲覧請求の際に、秘密保持命令を介した上で閲覧制限をして見させて提訴を諦めさせるなどといった選択もあっていいのだろうと思います。そのように濫用的な申立てに対する担保などといった手段はいろいろ考えないといけないとは思いますが、提訴前の段階で提訴できるかできないかを判断するための証拠収集処分であっても、訴訟提起を擬制するような状況をつくった上でならば、採用可能なのではないかと思っているということです。
○伊藤委員長 いかがでしょうか。
先に東海林委員からお願いいたします。
○東海林委員 今、高林委員がおっしゃった提訴前証拠収集処分の点について、裁判所の立場から今、実態はどうなっているかということをお話ししたいと思います。
提訴前証拠収集処分が設けられた経緯については先ほどお話があったとおりだと思っておりますけれども、現実問題として先ほど来お話が出ていますように、ほとんど使われていない状況にあるというのが実情かと思います。
送付嘱託、調査嘱託については時々案件が見られるのですけれども、執行官の現況調査、それから専門委員の意見陳述の嘱託というのはそれほどないということです。裁判所の方でも、それは何故なのだろうか、何故代理人の先生方が利用しないのかということをいろいろ検討したりもしているのですけれども、おそらく制度として提訴前であるにもかかわらず簡単には使えないような手続に思われているのではないかと思います。
確かに条文を見ますと、まず提訴後の立証に必要であることの明白性、証拠収集の困難性、相手方に対する意見聴取、それから、阻却事由として挙げられている要件が、多分一番ネックになっているかと思うのですけれども、要するに時間が掛かったり、あるいは相手方に対して不相当な負担を強いるような場合には阻却されるというような要件になっていることだと思います。
そういうことを考えますと、当初の想定では、例えば執行官の現況調査においても先ほど来話の出ている、特許の製法で工場内に立ち入って現況を保全するということも想定されていたのではないかと思うのですけれども、そのような一般的な要件の制約があることによってなかなか使い勝手がよくない。ましてや、お話が出ていますように強制力はございませんので、なかなかやりにくい。それから、使い方といたしまして、執行官の現況調査というのはもともと例えば建築瑕疵があったような場合、その瑕疵の状況といいましょうか、その建物の状況を保全するとか、それから境界確定において争いになっている境界の状況を保全するということが想定されていますので、もとより執行官は専門的知識がありませんから、そのような制度の利用の仕方として特許権侵害訴訟においてどのように利用するかというのはなかなか難しい問題だと思います。
利用の仕方としましては、先ほど高林委員がおっしゃったように、それに専門家の意見陳述の嘱託をプラスして執行官とともに専門家も選任して行ってもらうということも当然想定されるわけですけれども、ではその際にどのような専門家を選任するかということもなかなか難しい問題になっていることから、特許権侵害訴訟等に関しては利用されていないのが実情ではないかと思います。
ですから、そこをもう少し使い勝手のいいように改善するという方法はありだとは思うのですが、その際に今申し上げたような要件の緩和と、片や相手方の営業秘密をどのように保護していくかということについては、提訴前の状態でもございますのでよく考えなければいけない点ではないかと思います。以上です。
○伊藤委員長 どうぞ、八島委員お願いします。
○八島委員 たびたびすみません。私が今ふと思っているのは、提訴前の手続を強めようという御主張の委員の方は、どちらかというと弁護士さんとか、いわゆるアカデミックな方で、多分企業側の方々はそんなに思っていないんじゃないかと思っております。
もちろん、手続を強める方が良いという人がいらっしゃれば私は構いませんけれども、日本における裁判に対する日本企業の考え方というのは、裁判が起こる前には警告状が来て、その警告状のやり取りをする間にいろいろなディスカッションをしていることが結構ございます。裁判ではそれが普通のケースだと考えていただければよいと思います。そこで割といろいろな議論はされているわけですね。
そういう中で、提訴される前の状態で証拠収集を更に容認するということは、少し変な言い方かもしれませんけれども、濫用を引き出すような方向になるような気がします。
というのは、提訴前に証拠を収集する場合も提訴後での証拠収集と同じような負担も掛かりますし、費用も掛かります。そういう意味でいうと、きちんと法律手続を執ってほしいというのは会社としてというか、少なくとも私個人としてはそういうふうにしていただいた方が会社の中でも合議もとれるだろうし、納得感が高くなるのではないかという思いがあります。そういうことでございます。
今日は、途中で私は抜けますので申し訳ございません。
○伊藤委員長 では、森田委員からお願いします。
○森田委員 私も企業の立場からでございますけれども、提訴しようかというときにはやはり相手方さん企業なりがある話でございますので、それなりの客観的な証拠を詰めていかないと、やはりそこまでの話はできない状況でございます。したがって、証拠が相手方にあることが最終的なポイントになるかもしれないんですけれども、そこに依拠して提訴しようか、しないかということは絶対やってはならない判断だと私は個人的には考えております。
したがいまして、先ほど来、八島委員が言われていることは基本的には賛成でございます。そういうことで、被疑侵害者の方でもある程度の強制力、あるいはある程度の判断というものが裁判所の判断がない限り、資料を提出してくれということを会社に対しては要求できない、あるいは納得させることができないという状況かと思います。
そういうところで、一方で査察などの話も出ておりますけれども、今後は薬関係ですと再生医療等で、あれは物質として権利が取れないケースが多いので製法、あるいは方法として成立する特許権ということになろうかと思いますけれども、それに関して細胞とか、たんぱくとか、遺伝子とか、それにかかわる弁護士、あるいは弁理士に関してはその高度な専門性が必要とされると考えます。
○伊藤委員長 どうぞ、別所委員お願いします。
○別所委員 私も八島委員、森田委員とほぼ同趣旨でございますが、企業での知財ケースの実態面からいたしますと、訴訟前に正に前置されている提訴前の予告通知のようなものが警告状等で行われているのが通常でございまして、その中で正に相手方に任意の応諾をもって権利侵害を主張していますが、これこれこうで侵害でありますなどというやりとりが通常されるわけであります。
したがって、その間で十分にとはいえ、クレームの解釈等で納得いかないということになって初めて提訴するわけでありまして、その範囲において十分に提訴前に証拠の収集ということがされているのが実態ではないかと思います。
一方で、先ほどの資料にもございましたし、意見で申し上げましたが、ここの手続のハードルを下げて利用しやすいように、これは一見良いように感じるのですが、やはり使い方で悪意を持ったものが使ってくる強力な武器にもなり得ると思います。
これは、弊社が欧州で経験した強力な制度を逆にうまく使えれば、特許権のライセンスといいますか、訴訟の脅しによって事業を成り立たせるものにとっては非常にいい制度になりかねない。ここについては、抑制的にすべき工夫が必要である。担保の話がございましたが、幾らにするかというのは非常に難しいとは思いますけれども、このようなことで一定の歯止めをかけておくのが望ましいのではないかと思います。
○伊藤委員長 他にいかがですか。
豊田委員お願いします。
○豊田委員 企業側の中で違うことを言って申し訳ないんですけれども、確かにデータのやりとりとか、訴訟前のいろいろな交渉等があって、先ほど小松委員がおっしゃったようにもう一歩資料があるはずだけれども我々として手に入らないといったとき、今、訴訟前手続のところで御提案いただいているのは、例えば今の場合ですと裁判所に予告前通知云々とあるんですけれども、もう一歩、強制力を強めるために仮処分か何かの申請をして、その処分に対して裁判所が一定程度認めて、その前提のもとに何らかの査察なり、証拠保全のための開示命令が出てくる。
そのときに、その営業秘密の問題があるならば、そこはアメリカ流のプロテクティブオーダーなのか、第三者にするのか、開示対象を限定するのか、そういう保護手段を執る。そういうステップの中で出てきて、その結果としてなければ当然取下げになるでしょうし、あれば次のステップに進んでいく。こういうステップで流れていくというふうに理解してよろしいですか。
それならば、仮処分という一つのハードルがあって証拠前手続をしていくというのも、企業側の中では全員が賛成するかどうか自信はないですけれども、一つあるのかなという気はします。
ただ、先ほどからちょっと気にしているのは、その証拠前の例えば仮処分のところの濫用を避けるためにハードルを上げれば上げるほど、結局後ろとの差がどうなのかなという問題は常に残るんじゃないかと思うですけれども、それをやることによって、一方で本訴が減るとか、逆に埋もれている中堅中小なり個人家の発明者が提訴しにくい問題について道が開けるというのであれば、ひとつ考えてみる余地はあるのではないか。
ただ、他の委員からありましたように、濫用を防ぐための仮処分として何を要件とするのかということと、営業秘密のところの部分をどう担保するのかというところはしていきたい。
ただ、余り急に来ても結局、工場は広いので見られないので、その手続はきちんとしておいた方が私はいいんじゃないかなという気はします。以上です。
○伊藤委員長 他にいかがでしょうか。
どうぞ、長谷川委員お願いします。
○長谷川委員 中小企業の利用者という立場で、今まで聞いていたことと併せて意見を言わせてもらいます。
弊社は木工機械メーカーなんですけれども、合板をつくる産業機械を製造販売しておりまして、かつては合板の機械はすごく小さかったのですが、今は高速化、大型化しており、長さが100メートルぐらいのラインで100トンぐらいのものが工場にどんと置いてあるような状態で、車やテレビやパソコンという一般品とは全く違って、工場の中に機械が収まっているような状態ですので、例えば弊社の特許を侵害していると思われるところがあるとしても、そこの工場に入ることはまずできない状況ですし、仮に入れたとしても一瞬で侵害しているかどうかを判断するというのはほとんど不可能に近いので、材質であるとか、機械の動きであるとか、そういうところを判断しようと思ったら不定期なり、時間を掛けて測らなければいけないので、ほとんどの場合は証拠を得ることができないと思っています。
それで、今、私も不勉強で提訴前における証拠収集という手続があるのを知らなかったんですけれども、箱の中に、工場の中にあるからまず見つからないからやってしまっていいだろうと思っている人がもしいるとするならば、こういう手続があればそういうことを思わせるものの抑止力にもなるんじゃないかという気もしますし、いろいろな難しい点はわかりませんけれども、今、聞いていてそういう良い面もあるんじゃないかと思いました。
そういう証拠がなかなか集まらない中で、弊社も訴訟をやって文書提出命令とか、そういうことを経験したことはあるのですけれども、うちは何回かやったうち残念ながら全て却下されてしまったんです。そのときは、裁判官の方の心証が既に形成されて、おそらく見る必要がないというふうに判断されたと思っていますけれども、私どもとしてはもしその提出命令の文書が手に入ったら、たとえうちに不利なものであったとしても、その判決が出てきた結果として非常に納得性のあるもので終わったんじゃないかとそのとき強く思いましたので、できればこういう要になるような文書は採用して出してもらったほうが、訴訟を起こす方としても、結果が駄目でも非常に両者納得のあるもので終わるんじゃないかという思いがそのときしました。
あとは、こういう文書提出命令が難しい状況において素晴らしい発明をしたとしても、訴訟で侵害の証拠を集めることが難しいと思われる場合、権利行使をすることが難しくなると思っております。
権利行使が難しくなるということは、どんな素晴らしい発明を企業がしたとしても、これを発明として出願するのはやめようというようなマイナスの向きが私どもみたいな小さい中小だと働きますので、これは産業が発達することを推進するという特許法の本来の目的に反する方向にいってしまうんじゃないかと思って非常に危惧しております。
前回、パテントトロールなどの新しい話題が出ておりまして、そういうことは私も認知していますけれども、そういうものに引っ張られて特許権者が十分に保護されないというのは中小企業としても大きくマイナスになりますので、できればそういうところをパテントトロールは寄せつけないような何か良い策をこの場で出してもらってやって、良い方向に行けば中小としても非常にやりやすい、利用しやすいものになると思います。以上です。
○伊藤委員長 他にいかがですか。
二瀬委員お願いします。
○二瀬委員 この証拠手続の根底には特許権を強めるか、弱めるかというところがあると思うんですね。特許が排他的な権利であるからこそ、その価値があるのであって、効果が弱まるということは特許そのものの価値が余りなくなってしまうということになると思います。
例えば、私どもの会社などでは目に見えるものはできるだけ特許を出します。これは、明らかに分析すればわかる場合です。
ところが、製法特許とか、製造に関わるノウハウに関係するような特許はできるだけ出さないようにしようということでずっとやってきました。ところが、この証拠収集ということで工場内に入って来て作り方を全部見せろというような、もしそれを参考にしてノウハウを盗み取ろうといいますか、そういう勢力が出現した場合は非常に困ることになるんです。ですから、特許戦略自体を考え直さなければいけないと思います。
製法特許とか、製造に関わる特許というのは真似をしながらどんどん発展していくものです。ですから、良いヒントを相手に与えてしまうのは、できる限り避けたいというのが、物を作る側の立場だと思います。
先ほども出ましたけれども、パテントトロールはディスカバリーなどの特別な条件下で行われる特異な例だと思うんです。これを、先ほどもお話ありましたように余り重く見て恐れることは多分、日本ではないんだろうと思います。
ただし、海外で日本の会社がパテントトロールにひっかかるということはこれからも十分あるでしょうし、それに対する対策はその国の法律ですから、これは日本でどうにでもなる話ではないんですね。ですから、その辺は個々に対策をとるしかないんでしょうけれども、日本においては裁判所を信頼して是非正当な評価をしていただけるものだと考えています。以上です。
○伊藤委員長 どうぞ、別所委員お願いします。
○別所委員 パテントトロールの話が幾つか出ていましたので、先ほど私はNPEという言い方をしていましたが、いわゆるパテントトロールの被害については一言ここで申し上げておきたいと思います。
パテントトロールは、国際的に活躍しています。市場を求めています。従来は、アメリカのディスカバリー制度に乗ずる形でパテントトロールという事業を発展させ、イノベーションには貢献していないということでやっておりましたが、昨今は欧州の訴訟制度の改正をにらみ、欧州にも進出し、彼らの事業を拡大しよう。つまり、企業から特許を武器に損害賠償金をむしり取るという拡大をしており、かつ、本年からは中国においても活動を広めている状況です。
日本は、私から見ますと知財の訴訟制度が非常に現状よくできている点が多い。改善の余地があると思いますが、彼らの活躍の場が制限されていると思います。私もトロール側の弁護士と会うことが多いんですけれども、彼らは私どもを攻めるのであれば日本が適当だと思うんですが、やれておりません。
このような環境でありますから、日本の訴訟制度を下手にいじることで彼らに新たな市場を提供することは絶対に避けなければならないと思います。以上です。
○伊藤委員長 他にいかがでしょうか。
どうぞ、山本和彦委員お願いします。
○山本(和)委員 基本的には提訴前の部分で御議論が続いていると思うのですが、申し訳ありません。私は次週欠席するものですから、提訴後の部分のこの論点について、一応私なりの意見を申し上げたいと思います。
まず、論点2−(1)として挙がっている「具体的態様の明示義務」の問題ですけれども、この明示義務に対して独立の制裁を科すというのは考え方としてはあり得るだろうと思います。ドイツではそういう議論はあると思いますけれども、明示がされない場合に擬制自白を認めるとか、あるいは証明責任を転換するような議論というのはあり得ないことではないとは思います。
ただ、これは現在、民事訴訟法の一般理論からすれば、ドイツはその主張段階の規制は非常に強いですけれども、日本は現行法で積極否認の規定を入れましたが、それはあくまでも訓示的な趣旨で入れられているにとどまっております。そういう意味では、正に独立の義務として独立の制裁を科すという制度構成は、今の民事訴訟法の一般理論からするとかなり距離がある。そういう意味で、ハードルが高い可能性はあるだろうとは認識しております。
それで、もう少しハードルが低そうなのは、この義務に違反した場合に証拠調べをもう少し緩やかに考えていくということで、先ほど来、八島委員が繰り返し言われておりました提訴した後の証拠調べの対応、証拠収集をもう少し緩やかに認めていく。アメリカのディスカバリーではもちろんないわけですけれども、そこのハードルを下げるという考え方はあり得るように思います。
この文書提出命令が現状で活用されていないという理由がどこにあるかというのは、私自身は実務家ではありませんし、この御意見を見ても必ずしもどこが一番のネックになっているかというのは私には把握できないところがありますけれども、一つの理由として当事者側がなかなか具体的な主張が難しく、相手方もこの具体的な対応の明示義務というのが十分果たされない結果、争点が深まらず、そしてその証拠が本当に必要かどうかということを裁判所が十分確信できない。その証拠の必要性というものが十分説得的に認められないという点に一つの問題があるのだとすれば、この「具体的態様の明示義務」というのがうまく働かない場合には、証拠調べにおける要証事実の特定を少し緩めて考える。ディスカバリーほどではないのかもしれませんが、そこを少し緩めて考える。これは、ドイツでは模索的証明と言われる議論で、一般的にそれは禁止されているわけですけれども、ただ、相手方が一種、信義則に反したような主張態様、訴訟態様をする場合には、一定の範囲で模索的証明的なものを認めるというような制度的選択肢というのはなくはなかろうという感じがしているところであります。
それから、査察の話です。先ほどは仮処分という対応策を申し上げましたが、証拠調べとしてこれを作る場合には、私が理解しているところ、日本の民事訴訟で一番近いのは検証の際の鑑定という制度があります。民事訴訟法第233条ですが、裁判所が検証をする際に、ただ裁判所には専門的知識がないので、検証をしてみても自分ではよく分からないという状況においては専門的知識を持つ鑑定人を連れて行って検証するという制度で、例えば医療過誤が問題になって患者の身体を検証するという場合、裁判官が患者の身体を見てもよく分かりませんので医者の鑑定を伴って検証するとか、あるいは列車事故があった場合、その列車を操作させてどこに不具合があるかを見る場合に、裁判官は列車を運転できませんので、運転できる人を連れて行ってその検証の際に鑑定を命じるというようなものが存在します。
シチュエーションとしてはこういう場面が一番近いのかなという印象を持っておりまして、この制度は多分余り使われていないと思うんですが、そのまま使えるかどうかということはよく分かりませんけれども、知財の方で何か使いやすくするのであれば、これを一つの基礎として何かその特則みたいなものを考えるということが選択肢としてはあり得ないだろうかということを思いました。
最後に、秘密保持命令の関係です。これは私自身、問題状況を必ずしも十分つかめていないのですが、この第三者の専門家を名宛人とするという、この第三者というのは何がイメージされているかということです。
全く中立な第三者だとすれば、これはやはり一種の鑑定人、あるいは専門委員という裁判所側の人なのかなという印象を持ちまして、そうだとすればそれは鑑定人とか専門委員の守秘義務という問題になっていくのかと思います。あるいは、これを代理人だけが見てもわからないので第三者の専門家がそれを補佐するということであるとすれば、これは現行法上の補佐人という枠組みの制度なのだろうと思いますが、その場合に今の補佐人というものが知財のところでは使いにくいということなのかどうかということが問題になってくるかと思います。
そのあたり、私は問題状況を十分把握できていないので誤解があるかもしれませんが、そのような印象を受けました。とりあえず、以上です。
○伊藤委員長 ありがとうございました。他に、御意見はいかがでしょうか。
小松委員お願いいたします。
○小松委員 では、また提訴前の問題に戻って全体の議論を整理させていただきたいと思うんですけれども、私などがイメージしておりますのは繰り返しの部分がありますが、提訴前にドイツ風の査察制度を実現してはどうか。
それで、査察制度を実現するということですけれども、査察命令というものは裁判所を介して発令される。それの前提での手続である。かつ、査察命令が出されるには一定の要件が必要だ。ドイツでは、侵害についての十分な疑いという実体法とリンクした要件があるのですが、そこまでハードルを上げるのか。
しかし、全然外してしまえということは誰も考えていない。全く探索的な査察ということは考えていないわけで、日本の文書提出命令における我々の大体の実務感覚でいえば、7〜8割ぐらいの疑わしさをいろいろな傍証で立証していったら裁判所も、では金型図面を出せとか、そういうふうになっていく。そこら辺までは、我々としては要件として提示すべきだと思っています。
用語としてそれが合理的な疑いというのか、十分な疑いというのか、いろいろな表現はあろうかと思いますが、その要件論はしっかりと押さえていただきたいと思います。そして、スタートしたときは一応、第三者である誰にするのかは別にしても、その方々が相手方へ登場するわけですが、相手方の営業秘密を守るために、一つは弁護士さんに相談する時間が必要だったらその手続は積極的に守る。それから、申立人側が行ったり、いろいろなことでその情報に接したときは、いわゆるプロテクティブオーダーできちんと担保する。
変な話、弁護士は秘密を洩らしたら特許法の刑罰とともに刑法にもひっかかってしまいますので、それで身分を失うのか。そんなことで、身分を喪失するような馬鹿なことはしないという、それこそ担保があります。
そういうプロセスの中でもうちょっと、あとは2割、3割部分のエビデンスをゲットできれば、ここでまた元へ戻ってこれは1〜2割しか無理だという判断をするのか、これだったら9割ぐらいいけそうだから訴訟をするのかの判断ができる。そんなスキームを描いているのであって、それを前提にしたときにPAEが、パテントロールなどがそういう制度のもとで日本でも暗躍するのか。つまり、それぐらい6割、7割、8割の可能性がある前提でトロールが来るんだったら、それはそれで対応していけばいいわけですね。
1点だけ残る問題は、特許の有効無効の議論はそこではなされていないというリスクも更にオンしてくるのは事実です。したがって、やはり何らかの立担保で計算は難しいというのは高林委員のとおりですので、そこは更に詰めていかなければいけないとは思うんですけれども、いろいろな形でのそういった担保をやっていけば、全体のストーリーとしてはそんなに現行制度から極端に濫用が起こるようなものにはならない。このような理解で、お話をさせていただいております。
○伊藤委員長 大分議論を深めていただきましたが、他に御発言はございますでしょうか。
本日は提訴前のことについて基本的な視点から、また具体的な仕組みまでさまざまな角度から御発言がありましたが、先ほど山本和彦委員からは、提訴後の問題について、主張の具体的な態様についての明示義務、そしてそれが履行されない場合の制裁、あるいは不利益を課することや、それから文書提出命令制度の活性化や、提訴後における第三者の査察の在り方などに関しても御発言がございましたが、提訴後の問題について何か更に御発言があれば承りたいと思います。
どうぞ、東海林委員お願いします。
○東海林委員 山本和彦委員の方から文書提出命令の件で、余り活用されていないという御指摘がありましたので、裁判所の立場からこの文書提出命令を実際運用するに当たって、どのようなことを考えているのかということを御紹介させていただきます。
文書提出命令と具体的態様の明示義務の関係につきまして、裁判所は特許権侵害訴訟等については具体的態様の明示義務があるということで、民訴法の単なる積極否認とは違うという前提で当然運用しておりまして、具体的態様の明示義務があることを理由に、初めは強く相手方の製品、製法の構造等について任意に開示するように求めるわけです。
それでも、基本的に相手方は、それは営業秘密である、当社は特許侵害していないということを主張しますので、そうなったときにその次のステップとして文書提出命令、民訴法の文書提出命令と区別する意味で書類提出命令と言わせていただきますけれども、この書類提出命令の申立てをするか、しないかという段階になるわけです。
実際、特に侵害行為の立証のための申立てについては先ほどのアンケートにもございましたように、申立てもそんなにはありません。その事情はアンケートにあるとおりかと思いますが、申し立てられたときに裁判所はどうするかということですが、一言で申し上げますと、裁判所といたしましては、要するにその証拠が果たして本当に必要なのかという証拠の必要性と、それから相手方の営業秘密の保護についてバランスを取るために非常に難しいかじ取りをしているということは御理解いただけるとありがたいと思っています。
つまり、特許権侵害訴訟において、書類提出命令の対象になるのは当然のことながら相手方の製品の構造や製法ですので、それはほとんどの場合、営業秘密に当たります。しかも、営業秘密に当たるというだけではなくて、原告、被告は双方ともその技術分野における競合会社であるということです。
すなわち、相手の競合会社に知られたくない秘密を出せという話になるわけですから、やはりそこはなかなか難しい問題があろうかと思います。ですから、裁判所としては、その判断に必要な証拠なのかどうかというところを慎重に吟味せざるを得ないということでありまして、探索的、濫用的な申立てではないのかどうかというのを、相手方の営業秘密の保護を図りながら検討していることになるわけです。
どうしてそういうことで悩んでいるかと申しますと、現行の文書提出命令の場合は、一旦これが発令ということになりますと、相手方の秘密を、普通は原告ですけれども、原告側の代理人のみならず、会社も全部見ることになるというところがやはり問題かと思います。ですから、裁判所としては、本当に必要性がない限りは相手方の営業秘密の保護ということを十分に考慮した上で判断せざるを得ないというのが「難しいかじ取り」という意味でございます。
ですから、制度改正について特に申し上げるわけではございませんが、文書提出命令の問題点はそこだと思います。一旦、発令されたら相手方が全部見れてしまう。だからこそ、探索的、濫用的な申立ても増えるということなのではないかと思いますので、例えば先ほどお話が出ていたドイツの査察制度みたいに、第三者が守秘義務を負った上で、証拠の改ざんとか隠ぺいを避ける意味で、その製法などを保全しておく。そして、例えば裁判所がその保全された証拠を状況に応じて見ながら、それで本当に特許権を侵害しているということであれば、当然のことながらそれは秘密に値しないものですから、それを見せるが、逆に侵害になっていないという判断になったときには、見せずに済むというような制度があれば裁判所が今、申し上げた悩みも解消するのではないかと思っております。以上でございます。
○伊藤委員長 ありがとうございました。
それでは、どうぞ上山委員。
○上山委員 代理人の立場から申し上げますと、裁判所が書類提出命令をなかなか認めていただけないというのは、今の東海林裁判官の御説明のとおりだと思います。
ただ、現在既に秘密保持命令制度があって、書類を提出する側が相手方の閲覧者を誰と誰に限定すべきだということを要望すれば、その者を名宛人として閲覧できる者を制限する、ということが現行法でも可能です。
ところで、今、秘密保持命令がどういう形で使われているかというと、被告の側が侵害していないことの証明に使える資料を積極的に出す、権利者の方は「そんなものは要らないよ」というものを、被告の方が自ら提出する場合に利用する、という使い方が多いように思います。
ですので、書類提出命令については、発令のハードルをもっと下げていただく代わりに、秘密保持命令制度をうまく組み合わせて使うことで、現在の法制度でもかなり柔軟な開示が可能になるのではないかと思います。
それから、書類提出命令の申立てをしている件数が少ないというのは、申立てを把握できる事件が少ないというだけの可能性があると思います。というのは、現在の制度では、書類提出命令の申立てがなされた場合でも、裁判所が独立してそれについての判断を示す必要がないとされています。判決の中で判断を示せば足り、あるいは明示的に判断を示すまでもなく黙示的に採用しないということでも構わないというのが最高裁判例ですので、判決を見ても実際に書類提出命令の申立てがなされているのかが必ずしも表れてこないのです。書類提出命令の申立てが認められるか否かについて独立した判断がなされなくともよいという点は、問題だと思います。
そういうことで、代理人の立場からすれば、訴訟提起前の証拠収集制度も重要ですけれども、侵害訴訟において最も重要なのは、105条の発令のハードルを下げていただくということで、それが実効性が一番大きいのではないかと考えております。
○伊藤委員長 そろそろ予定の時間になりましたが、小松委員お願いします。
○小松委員 すみません。東海林委員から、裁判実務のお話を先ほど御説明いただきました。我々、実務家として日ごろ、特に具体的態様の平たく言ったら積極否認の問題に直面しております。原告側であれ、被告側であれ、侵害の可否に関わる認否をどうするのかというところで、いつもこの問題に直面してなかなか前へ進みそうもないのですが、実務上は非常に裁判所がうまくリードしておられる。
つまり、構成要件が例えばA、B、C、D、Eと5つあって、自分は侵害していないんだ。トータルに否認してきても、裁判所は営業秘密でない部分でどこか違うところは出せないんですかとリードしたり、いろいろな形でやっておられますので、この具体的態様の明示義務のところは運用上、非常にうまくいっているんじゃないかと思います。
したがって、もし裁判所が訴訟指揮をなさってもちゃんとレールに乗ってくれない、それこそ不誠実な対応があれば、先ほど山本和彦委員がおっしゃったような次の手段、証拠調べのところで訴訟上の信義則という観点から緩やかにしていくのが非常に理解しやすい感じではないかと思っております。
○伊藤委員長 ありがとうございました。
本日は、いろいろな角度から御議論いただきました。特許権の保護を実効的ならしめるために、証拠収集手続の機能の強化の必要があるという点では、おそらく大方の委員の御意見が一致しているものと思います。
ただ、本日の主たる議論の対象になりました提訴前の証拠収集手段の強化につきましては、ディスカバリーのような制度というのが当事者に過度の負担を課すおそれがあり、かえって紛争の適正な解決を阻害するという認識は一致しているように承りましたが、欧州型と申しますか、中立的第三者が訴え提起前に一定の手続を経て査察して、その結果として得た専門的知見を裁判所に報告する仕組みについては、一方ではそれを積極的に検討すべきだという御意見があり、他方ではパテントロールなどの実態を見ると、慎重に考えなければいけないという御意見もございました。
結局、そういったものを考えるについては、誰がどういう手続で判断して、損害を受けるおそれのあるものに対してどういう担保を提供するかというようなことになるかと思いますが、次回また引き続き議論をお願いしたいと存じます。
また、提訴後の問題についても後半部分で御議論をいただきまして、具体的態様の明示義務などについて、現在でも合理的に運用されていることを前提にして、しかしなお、一定の場合についてそれを強化することを考えなければいけないのではないか、あるいは、文書提出命令の運用についても、提出命令の結果として得られる情報についての保護という視点から検討すべき問題があるのではないかという御意見を承りました。
そこで、私がただいま、多少余計なことを申しましたけれども、総括ということで横尾局長、よろしくお願いをいたします。
○横尾局長 今日は、ありがとうございます。議論は途中なので次回また、特に提訴後の方をメインに取り上げながら、次回は3時間コースですので、もう一回提訴前後、全体にわたった議論をやらせていただきたいと思います。
冒頭の総論のお話で、何人かの委員の方からグローバルな視点でというお話があって、確かにそれはそうだなと思っておりまして、先進国の中でアメリカ、ヨーロッパ、日本を並べてみたときに、ある程度同じような効果が、その正当な特許権を持っている人が特許の権利行使をするに当たって同等のレベルの訴訟ができるような証拠収集手続の在り方というのを、やり方はいろいろお国柄があると思いますけれども、追求すべきだろうと思っています。
これは伝聞なのであれですけれども、あるケース、各国で訴訟をされていて、日本での証拠が最も少なかったということらしいんですけれども、その中で日本の裁判所は判断を下したということかもしれませんし、もう一つ、某大企業はこれもいろいろなところで訴訟をして、さっきもどなたかの御発言にありましたけれども、アメリカのディスカバリーで得た資料でもって日本で勝ったという訴訟戦術も非常に巧みだと思います。大企業だからそれはできるかもしれませんけれども、中小企業にはそんな芸当はできないという意味では、ある種の不公平感というんですか、そこの制約もある中で日本の在り様というのを引き続き深めていきたいと思いますので、是非よろしくお願いしたいと思います。
○伊藤委員長 ありがとうございました。
それでは、最後に次回以降の会合について事務局から説明をお願いいたします。
○北村参事官 次回の会合は12月24日来週、木曜日15時から3時間コースで、本日に引き続いて証拠収集手続について御議論いただきます。
第6回会合以降につきましては、資料5に記載のとおりでございます。以上です。
○伊藤委員長 本日は、早朝から御多忙のところありがとうございました。また、次回よろしくお願いいたします。