日本経済団体連合会定時総会
令和元年5月30日、安倍総理は、都内で開催された日本経済団体連合会定時総会に出席しました。
安倍総理は、挨拶で次のように述べました。
「まず今週、中西会長が体調不良により検査入院され、本日も御欠席であると伺いました。お見舞いを申し上げますとともに、一日も早い御快癒をお祈りしております。
さて、本日はお招きいただきありがとうございます。令和になって初めてという、この歴史的な定時総会に出席できましたことを、大変光栄に存じます。
令和初と言えば、今週は、令和最初の国賓として、トランプ大統領御夫妻を日本にお迎えいたしました。いつも会談の中身よりも注目される大統領とのゴルフでございますが、大統領とのゴルフは今回で5回目になります。前回は、4月のワシントンでありましたが、ボールが勝手に転がり出すぐらいの強い風でございました。アメリカでゴルフをしたときには、日本では私が運転手を務めますが、米国ではトランプ大統領が運転していただくのですが、トランプ大統領は、風に向かって割と速いスピードで運転されるのですね。特に風が強いとかえってスピードを出したくなるタイプかもしれませんが、結果、風が強かったものですから、凍える状況ではありました。一方、今回は、5月とは思えない記録的な暑さの下でのゴルフでございましたが、こういうときは、風もあまり吹かないんですね。
風という言葉には、今、永田町も大変敏感なんですが、一つだけ言えることは、風というものは、気まぐれで、誰かがコントロールできるようなものではないということであります。マスコミが後ろで聞いておりますので、風の話はこれ以上は止めたいと思います。
ゴルフの後は、初めての大相撲観戦に、そして炉端焼きのじゃがバター。次の日は、たっぷりと時間を掛けて首脳会談を行いました。拉致被害者御家族のお話にも、大統領は大変熱心に耳を傾けていただきました。そして、宮中での晩さん会。最終日には、護衛艦『かが』で、二人並んで、自衛隊、米軍双方の隊員を激励いたしました。
世界で最も忙しい米国大統領が、一つの国で3泊もするのは、極めて異例なことであります。トランプ大統領と10時間以上を共にし、リラックスした打ち解けた雰囲気の中で、日米の二国間関係だけではなく、北朝鮮問題への今後の対応、そして来月のG20(金融世界経済に関する首脳会合)サミットに向けた協力、さらには、中東情勢など、世界の様々な課題について率直に話し合いました。日本と米国が、同盟の揺るぎないきずなの下に、真のグローバル・パートナーとして、世界の平和と繁栄のため、これまで以上に手を携えていく。新しい令和の時代の、日米同盟の更なる進化に向けた、大きな一歩を踏み出すことができたと考えています。
貿易交渉については、茂木大臣とライトハイザー通商代表との間の協議を、更に加速することで一致しました。TPP(環太平洋パートナーシップ)や、欧州とのEPA(経済連携協定)が、既に発効していますから、米国としては、交渉を急ぎたい。我が国にとっても、この中で、米国との貿易や米国への投資によって利益を得ていない会社はいないのではないでしょうか。日米の経済関係を更に発展させていくことは、国益にもかなうものであります。
これから、幅広い物品を対象に交渉を進めていきますから、そう簡単な作業ではありません。日米両国がウィン・ウィンとなる、いい成果をできるだけ早く出していきたいと考えています。その大前提は、昨年9月の日米共同声明です。協議中は、日本の自動車に、232条による関税が課されることはない。農産品については、過去の経済連携協定で約束したものが最大限である。私とトランプ大統領が合意した、この共同声明に沿って、日米双方にとって利益となるよう、交渉を進めていく考えです。
経済界の皆さんにとって最大の関心事は、米中の貿易摩擦であろうと思います。この点についても、実はかなりの時間を掛けて、トランプ大統領と意見交換を行いました。世界第1位と第2位の経済大国である、米国と中国との間に、安定的な経済関係を築いていくことが、世界経済にとって極めて重要であります。1か月後のG20サミットでは、トランプ大統領を再び日本にお迎えし、また、中国の習近平国家主席も来日されます。世界経済の先行きに不透明感が増す中で、両国が対話を通じて、建設的に問題を解決できるよう、日本として可能な限りの努力をする考えであります。
我が国で初めて開催される、このG20大阪サミットには、その他にも、プーチン大統領やメルケル首相など、世界の主要なリーダーたちが顔をそろえます。このところ、国際社会では、ややもすると対立ばかりが強調されがちであります。しかし、私はG20サミットの議長として、各国の意見の違いではなく、共通点や一致点を粘り強く見いだしていく。そうした役割を果たしていく決意であります。
21世紀の石油とも呼ぶべき、デジタル・データについて、DFFT(データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト)の考え方に基づいて、新しい時代のルールづくりを進めていく。脱炭素化を目指し、世界の叡智(えいち)を結集し、非連続的なイノベーションを起こさなければなりません。海洋プラスチック問題でも、世界全体での取組を進めていくことが必要です。
世界的な課題に、しっかりと具体的な解決策を示す。未来に目を凝らしながら新しい時代に向かって、世界が共に大きな一歩を踏み出す。そうしたサミットにしたいと思います。
我が国の未来を見据えたときに、待ったなしの課題は少子高齢化です。令和の新しい時代を迎えて、今月、最初に成立した主要な法案が、幼児教育・保育の無償化と、真に必要な子供たちの高等教育の無償化のための法案でありました。
消費税を財源として、本年10月以降、教育の無償化が大きく進んでいく。小手先の対応では、もはや歯が立ちません。2兆円規模の予算を、子供たちに大胆に投資することで、少子高齢化に立ち向かっていきます。
同時に、経済界にも御協力いただきながら、70歳までの就業機会の確保にも取り組んでいく。意欲ある高齢者の皆さんに、生涯現役社会をつくりあげたいと考えています。
人生100年時代の到来を、ピンチではなくチャンスと捉え、我が国の社会保障制度を全世代型へと、大きく改革してまいります。
引き続き、経済最優先で、今後とも経済のかじ取りに万全を期すことは当然でありますが、同時に、令和の時代にふさわしい構造改革をしっかりと成し遂げていくことが、安倍内閣の歴史的な使命である。そう決意しています。
そのためにも、そのためにも、この夏の決戦は、負けるわけにはいきません。この座っている皆さん、そう来たかというふうに見ておられたかもしれませんが、 政治の安定なくして、経済の安定なし。社会保障改革も、国益を確保するための強い外交もありません。
選挙は常に厳しいものであります。本当に、一寸先は闇であります。12年前の参議院選挙、私が総理大臣でありましたが、残念ながら自民党は惨敗を喫しました。当時総裁であった私の責任であります。あの時の敗北は、今も、私の胸に深く刻まれています。国会にねじれが生じ、あそこから、当時の私を含めて毎年毎年ころころと総理大臣が代わるようになりました。そして、長引くデフレは放置されたまま、経済は低迷しました。悔やんでも悔やみきれない思いであります。12年前の深い反省が、今の私の政権運営の基盤になっています。あの混迷の時代に、二度と逆戻りさせてはならない。そう固く決意しています。
令和という元号は、まだ30日ですが、もう何年も経ったかのようにしっくりときている、というお話を多くの方から伺っています。新しい時代がつつがなくスタートしたことを、本当にうれしく思います。
しばしば、一旦立ち止まって考えよう、といった議論を耳にします。しかし我が国には、もはや立ち止まっている余裕はありません。過去を振り向いている暇はないんです。
新しい時代の日本を、皆様と共にしっかりと前へ進めていきたい。どうか、どうか、皆様の御理解と、力強い御支援を賜りますように。何よりも政治の安定を確保し、強い経済をつくっていく。また、強い外交力の下に、日本の国益を確保していかなければならないわけでありまして、力強い御支援を賜りますように、心よりお願い申し上げまして、私の御挨拶とさせていただきたいと思います。御清聴ありがとうございました。」