OECD閣僚理事会開会式における議長国基調演説

更新日:令和6年5月2日 総理の演説・記者会見など

 コーマン事務総長、そして御列席の皆様、日本がOECD(経済協力開発機構)加盟60周年を迎える節目の年に、閣僚理事会の議長国を担えることを光栄に思います。
 私たちは、今なお続くロシアによるウクライナ侵略に加え、昨年来、中東をめぐる新たな課題を目の当たりにし、そしてその他の地域でも多くの紛争が起こっています。同時に、新興国の台頭など国際社会の多様化が進み、一致した意見を持つことがますます困難になっています。
 深刻化する気候変動や相次ぐ自然災害も大きな課題です。日本では、本年初めに能登半島において大きな災害がありました。コーマン事務総長始め多くの国や機関からお見舞いの言葉を頂き、心温まる思いです。
 こうした国際社会の変化は世界経済にも大きな影響を及ぼしています。世界中で起こったインフレ、エネルギーや食料の供給途絶、サプライチェーン分断のリスクなどに直面しており、世界を再び安定成長の軌道に乗せるための岐路にあります。
 同時に、この歴史の転換点において、我々が目にする時代の変化や困難は、より豊かな暮らしを実現するためのチャンスでもあります。本日は、「変化の流れの共創」の精神の下に結束し、国際社会が直面する危機を乗り越える重要性について、お話しさせていただきます。
 OECDの強みは、2,000人を超えるエコノミストを擁し、その豊富なデータと分析力をいかし、各国の政策形成に貢献していることです。
 日本も、本年1月に公表された「対日経済審査報告書」を始め、OECDの専門性と知見をいかし、諸課題の解決を新たな成長のエンジンに変えていくべく取り組んでいます。
 日本は、新しい資本主義を提唱し、コストカット型から成長型経済への移行を目指しています。約30年ぶりの高水準となった力強い賃上げや、史上最高水準の設備投資は強い追い風であり、これを一層加速させ、日本の稼ぐ力を復活させる必要があります。
 また、日本はOECDの提言も踏まえ、生産性向上の取組を強めています。科学技術は、産業構造転換の鍵であり、未来を切りひらく礎でもあります。AI(人工知能)、自動運転、宇宙、中小企業の海外展開などの新しいフロンティアやイノベーションへの取組、スタートアップへの支援を強化いたします。
 エネルギー安定供給、経済成長、そして脱炭素の同時実現を目指すグリーン・トランスフォーメーション(GX)の推進も重視しております。新たに「GX国家戦略」を定めています。「アジア・ゼロエミッション共同体」の枠組みの下での協力を通じ、イノベーションと多様な道筋を通じてネット・ゼロという共通目標を実現するエネルギー移行モデルを国際社会に発信しています。
 日本は、他のOECD加盟国と同様に人口減少の課題にも直面しています。少子化トレンドを反転させるとともに、女性や高齢者に対する雇用の障害を取り除き、持続可能な成長を実現していきます。
 日本は今後もより良い政策形成に向け、OECDと効果的に連携していきます。OECDやその加盟国と共に、大きな変化の流れを創っていきます。
 御列席の皆様、閣僚理事会は、価値観を共有する国々が集い、グローバルで先進的な課題を議論するまたとない機会です。
 本日から2日間、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の形成に向けて、議論を深め、皆様と共通の認識を得たいと考えています。日本としても、昨年G7議長国として得た経験や成果も踏まえ貢献してまいります。
 WTO(世界貿易機関)を中核とした、ルールに基づく自由で公正な経済秩序の維持・拡大は国際社会の重要課題です。その基盤である自由で開かれた貿易と投資が直面する課題、そして貿易における持続可能性と包摂性の実現について、議論を深めていくことが必要です。
 また、近年、経済的威圧や非市場的政策・慣行への対応、サプライチェーン強靱(きょうじん)化、重要技術や基幹インフラの保護等を通じて、経済的強靱性と経済安全保障を確保するための協力の強化が必要になっています。OECDは、客観的な分析・評価を通じてグローバルなスタンダードを形成し、各国の取組に貢献することができます。日本は、G7前議長国として広島サミットでの成果を共有し、また同志国・機関との連携を推進していきます。今回の閣僚理事会ではこの経済的強靱性と経済安全保障について独立のセッションを作って議論します。
 気候危機は人類共通の待ったなしの挑戦であり、全ての国が一丸となって取り組むべき課題です。気候変動、生物多様性、環境汚染に一体的に取り組む必要があります。ネット・ゼロで、循環型かつネイチャーポジティブな経済への移行を追求する中で、これらの取組の間のシナジーを強化すべく議論を進めてまいりましょう。
 開発をめぐる状況が激変する中、加盟国は非加盟国や様々な国際機関と共に、官民の枠を超えて、様々な叡智(えいち)を結集し、持続可能な開発の実現に尽力することが不可欠です。ODA(政府開発援助)に関するOECDのデータと分析力、そしてOECDスタンダードの促進は、民間投資を呼び込み、途上国が抱える開発資金の需要に応え、国際社会の平和と安定につながります。
 デジタルはOECDが最も強みを発揮できる分野の一つであり、今後も中心的な役割を果たすことを期待いたします。AIに関しても、OECDは、AI原則の策定など国際的議論を主導してきました。広島AIプロセスの成果も踏まえながら、安心、安全で信頼できるAIの実現に向けた議論を進めます。
 私は、先ほど、広島AIプロセス・フレンズグループの立ち上げを発表いたしました。AIによってもたらされる人類共通の機会とリスクについて、共通の志を持つ国々で連携し、安全、安心で信頼できるAIを実現してまいりましょう。また、その基盤ともなる信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)の具体化についても着実に前進させていきます。
 御列席の皆様、日本は60年前、GATT(関税及び貿易に関する一般協定)や国連への加盟に続く、国際社会への復帰を象徴する大きなステップとして、アジアで初めてOECDに加盟いたしました。
 それから60年、国際社会が大きく変化し、多極化、分断や紛争に直面し、不確実さと不透明さが増大する中、OECDにも変化が求められています。「共通の価値」を持つOECDが、世界の多様な地域の非加盟国へアウトリーチしていくことが一層重要となっています。
 価値観の一方的な押し付けではなく、OECDが成果・発展に向けた「伴走者」となるべく、「共創」の考えに基づき相手に寄り添うことが重要です。
 この観点から、中南米、中・東欧、そして東南アジアの国々が、OECDと手を携え、加盟への道のりを進んでいることを歓迎いたします。
 アフリカとOECDとの協力の枠組みが立ち上がるなど前向きな動きをうれしく思います。アジェンダ2063を始めとするアフリカ自身の取組の推進にOECDの知見が効果的に活用され、将来、アフリカからOECDへの加盟に手が上がることを楽しみにしています。
 今年は、アルゼンチン及びインドネシアの加盟ロードマップの採択、タイの加盟申請など、歴史的な動きが続いています。重要性を増す各地域との連携強化は、OECDが進むべき未来です。
 日本は、数少ないアジアの加盟国として、これからもOECDとアジア地域の架け橋となり、OECDが将来にわたって世界経済を主導するための貢献を果たしていきます。
 御列席の皆様、60周年は、日本では「還暦」と呼び、新たな人生の始まりを意味する重要な節目です。
 新たな60年をより豊かな未来にするために、変化の流れを皆様と共に創りあげていきたいと思います。
 御清聴誠にありがとうございました。

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