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首相官邸 Prime Minister of Japan and His Cabinet
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平成28年3月19日海上保安学校卒業式 内閣総理大臣祝辞

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 本日、内閣総理大臣として初めて、この海上保安学校の卒業式に臨み、祝辞を述べる機会を得たことを、大変嬉しく思います。
 卒業、おめでとう。
 卒業生諸君の、誠に礼儀正しく、希望に満ちあふれた姿に接し、頼もしく感じております。本日は、諸君がここを巣立ち、海上保安官としてのスタートを切る良い機会ですので、一言申し上げます。
 台風が近づき、しける海の真ん中で、その事故は起きました。
 7年前、八丈島沖で、一隻の漁船が転覆しました。「船体発見」との知らせを受け、6人の潜水士が、現場へと急行しました。
 漁船が消息を絶って既に3日。しかし、潜水士たちは決して諦めませんでした。懸命の捜索作業を続け、船底のわずかな空気だまりに、3人の生存者がいることを発見しました。
 「よく生きていてくれた。必ず助けようと自分を奮い立たせた。」
 当時の榎木潜水士の言葉からは、その強い責任感が伝わってきます。
 転覆船での作業は、全員、初めての経験でありましたが、冷静、かつ、見事な連携プレーにより、船内から3人の乗組員を無事救出しました。
 救出されたお一人、鳰原さんの2人のお子さんは、当時、小学生でありました。
 「お父さんに会えて、良かった」
 こう言って、無事帰還したお父さんと抱き合ったまま、泣きじゃくっていたそうであります。
 人の命を守る。それは、家族の幸せな暮らしを守ることでもあります。その任務は、誠に崇高なものです。
 昨年の関東・東北豪雨の現場にも、諸君の先輩たちの姿がありました。
 洪水被害を受けた町では、多くの人たちが取り残されたまま、夜を迎えました。本当に不安な気持ちであったと思います。
 そうした中で、海上保安庁・特殊救難隊のヘリは、サーチライトを照らしながら、一晩中、救出活動を続けました。その姿は、濁流の中に取り残された人たちを、どれほど勇気づけたことでありましょう。
 海難事故や災害の現場で、大きな不安に駆られながら、諸君たちの救助を待っている人たちがいる。国民が、諸君を頼りにしています。その自信と誇りを胸に、いかに困難な現場であっても、立派に任務を全うしてほしいと思います。
 この3年間、私は、横浜や、那覇などで、大いに活躍する海上保安官たちの頼もしい雄姿を、目の当たりにしてきました。
 広大な南西の海を守る「最前線」、石垣海上保安部にも、足を運びました。
 私が訪れた日も、視察予定であった巡視船「えさん」が、早朝に緊急出港するなど、緊迫した空気が張りつめた「現場」でありました。尖閣諸島周辺海域から戻ったばかりの巡視船「いしがき」では、同海域の現状を耳にし、厳しい現実を改めて実感しました。
 領海侵犯船との距離は、わずか20メートル。
 それでも、巡視船「いしがき」は、迷うことなく、領海侵犯船と日本漁船の間に割って入った。高度な操船技術を駆使して、領海侵犯行為に毅然と立ち向かい、日本漁船を守り抜きました。
 国民を守る。そして、我が国の領土・領海は、断固として、守り抜く。その強い決意がもたらした結果であった、と思います。
 今、この瞬間も、日本を取り巻く広大な海を、諸君の先輩たちが、24時間365日体制で、警戒監視にあたっています。荒波も恐れず、極度の緊張感に耐え、「現場」での任務を立派に果たす彼らは、日本国民の誇りであります。
 諸君が、これから臨むのは、こうした厳しい「現場」であります。この困難な道を強い使命感を持って選び取った諸君に、心から敬意を表したいと思います。
 15年前の事件でも、諸君の先輩たちは、海上保安官としての揺るぎない使命感を、身を以て示してくれました。
 九州南西海域で、巡視船「あまみ」は、追跡していた不審船から突然、自動小銃により攻撃されました。
 「かがめ!」
 久留主船長の声が、船橋に響きました。百発を超える銃弾を受ける中で、長友航海士、金城航海長が、次々に負傷しました。ロケットランチャーによる攻撃まで行われました。
 しかし、そうした過酷な状況のもとでも、諸君の先輩たちは、たじろぐことなく任務を継続し、不審船の逃亡を決して許しませんでした。
 任務終了後、この海上保安学校の卒業生でもある、久留主船長は、銃撃戦が行われた「現場」の状況を振り返り、こう語っています。
 「みな一致団結して、当たり前のことのようにやっていた。」
 いかなる状況にあっても、「当たり前のことのように」、任務をこなす。これは、並大抵のことではありません。しかし、これから海上保安官となる諸君には、その心構えを常に持って、これからも鍛錬を積み重ねてほしいと思います。
 時には、辛く、苦しい、と感じることも、あるかもしれません。
 しかし、そうした時には、この海上保安学校での学びの日々を、どうか思い出してほしい。
 厳しい訓練についていけず悔し涙を流した夜、皆で助け合って乗り切った3海里の遠泳、船酔いに苦しんだ乗船実習。全てが、諸君の血となり、肉となっています。
 練習船「みうら」での厳しい実習を終え、達成感・充実感の中で食べた、あの「万願寺カレー」の味を思い出して、いかなる困難も乗り越えていってほしいと願います。
 鎖国・日本の中で、いち早く「海」の重要性に着目した、林子平が、その著書「海国兵談」の中で、海の守りを強化すべきだ、と訴えたのは、220年ほど前のことであります。
 航海技術が格段に進歩し、欧米の船舶が、日本へと度々訪れるようになった。その現状に、こう警鐘を鳴らしました。
 「江戸の日本橋より 唐(カラ)、阿蘭陀(オランダ)迄 境なしの水路也」。
 日本の四方を取り囲む「海」は、技術進歩の前には、もはや外敵を防ぐ「砦」とはならない。江戸から、中国、ヨーロッパまで、簡単に行き来できる時代にあって、海の守りを固めなければならない、と説きました。
 しかし、鎖国政策を堅持する江戸幕府は、こうした現実から目を背けてしまった。時代の変化に対応できず、幕府は、半世紀後、滅亡することとなります。
 現代においても、私たちが、望むと望まざるとにかかわらず、テクノロジーは、日々、進化しています。国際情勢も、大きく激変している。こうした時代の変化に、私たちは常に、しっかりと目を凝らしていかなければなりません。
 海の底に眠る様々な資源は、将来、我が国に、大きな恵みをもたらす可能性を秘めている。海洋権益を守るための調査は、極めて重要であります。豊かな海を守るためには、海洋環境を保全する努力も怠ってはなりません。
 グローバル化が一層加速する中で、自由な海、平和で安全な海を守るためには、国際的な協力を深めることが、不可欠であります。
 今も、世界の大動脈・アデン湾では、海上自衛隊と共に、海上保安官の諸君が、海賊対処に汗を流してくれています。東南アジアの国々の海上保安機関との二国間協力も、マラッカ海峡から南シナ海、東シナ海へとのびる海上交通路の安全を確保するため、欠かすことはできません。
 平和で、豊かな、海を守る。海上保安庁の役割は、これからも変化し、その重要性を一層増していくことでありましょう。しかし、それは、時代の要請であります。
 卒業生諸君。諸君には、どうか、広い視野を持ち続けてほしい。それぞれの現場において、柔軟な発想で、時代の変化に即応し、全力を尽くしてほしいと思います。
 御家族の皆様。この晴れの日にあたり、心からのお祝いを申し上げたいと思います。
 御覧のように、皆、立派な若武者となりました。入学前とは見違えるような、たくましく成長した姿を目の当たりにされて、感激もひとしおかと存じます。
 彼らを海上保安官として送り出してくださったことに、内閣総理大臣として、心から感謝します。お預かりする以上、しっかりと任務が遂行できるよう、万全を期すことをお約束いたします。
 最後となりましたが、学生の教育に尽力されてこられた教職員の方々に敬意を表するとともに、日頃から海上保安学校に御理解と御協力を頂いている御来賓の方々に感謝申し上げ、私の祝辞といたします。

平成28年3月19日
内閣総理大臣 安倍 晋三

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