平成30年度 防衛大学校卒業式 内閣総理大臣訓示

平成31年3月17日
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 本日、伝統ある防衛大学校の卒業式に当たり、これからの我が国の防衛の中枢を担う諸君に、心からのお祝いを申し上げます。
 卒業、おめでとう。諸君は、平成最後の卒業生となります。平成は、自衛隊への国民の信頼が揺るぎないものとなった時代でありました。
 地下鉄サリン事件、2度の大地震を始めとした相次ぐ自然災害。その過酷な現場での救助活動に、自衛隊の諸君は躊躇(ちゅうちょ)することなく、真っ先に飛び込んでくれました。未曽有(みぞう)の危機に直面した人々にとって、その姿は、正に大きな希望の光であったと思います。
 そして、平成は、世界を舞台に、その平和と安定のために、自衛隊が、大きな役割を果たした時代でありました。湾岸戦争、米国における同時多発テロ。冷戦終結によって平和な時代の到来を予想した世界は、地域紛争、テロの拡散といった新たな事態に直面することになりました。
 もはや、一国のみで、どの国も自国の安全を守ることはできない時代にあって、自衛隊は、その高い能力を存分にいかし、40を超える国と世界の海で、その平和と安定のために貢献してきました。
 灼熱(しゃくねつ)の南スーダンで整備したグラウンドは、アフリカの次の時代を担う子供たちの笑顔であふれています。東ティモールで、マラリアと闘いながら築きあげた道路は、首都ディリと各地方を結び、国家の自立と発展を支える大動脈となっています。
 他方、冷戦終結後の世界では、日米同盟について漂流しているとさえ言われたときがありました。しかし、助けあえる同盟は、その絆を強くする。平和安全法制の成立によって、日米同盟はこれまでになく強固なものとなり、地域の平和と安定に一層寄与するものとなりました。
 昭和が終わり、平成が始まったとき、誰もが予測できなかった変化がこの30年間で起こり、自衛隊はその変化にしっかりと対応し、進化を遂げてきた。
 適者生存という言葉があります。生存競争において、勝ち残ることができるのは、最も力がある者ではありません。その環境に最も適応した者。すなわち、環境の変化に柔軟かつ迅速に対応できた者であります。
 世の中は、私たちが望むと望まざるとにかかわらず、これからも、変化を続けていくでしょう。ですから、どうか、昨日までの常識を、常に、疑ってください。そして、時代に応じて変化することを恐れないでほしいと思います。
 国民のための自衛隊、世界の平和と安定に貢献する自衛隊。その更なる進化に向けて、時代の変化に目を凝らし、日々、自己研鑽(けんさん)に励んでほしいと思います。
 今、この瞬間も、これまでとは桁違いのスピードで、我が国の安全保障環境は、厳しさと不確実性を増しています。サイバー空間や宇宙空間における活動に、各国がしのぎを削る時代となりました。軍事技術は格段のイノベーションを遂げ、陸・海・空における対応を重視してきた国家の安全保障の在り方を根本から変えようとしています。
 もはや、今までの延長線では対応できない。陸、海、空。従来からの枠組みに捉われた発想のままでは、この国を守り抜くことはできません。激変する安全保障環境の中にあって必要なことは、我が国自身が、国民の命と平和な暮らし、領土・領海・領空、主権と独立を主体的・自主的な努力で守る体制を抜本的に強化する。そして、自らの果たし得る役割の拡大を図っていく。
 新しい防衛大綱の下、宇宙・サイバー・電磁波といった領域で我が国が優位性を保つことができるよう、次なる時代の防衛力の構築に向け、今までとは抜本的に異なる速度で、変革を推し進めていきます。
 どんなにすばらしい戦略も、作文それ自体には意味がありません。この戦略に魂を入れるのは、諸君です。その矜持(きょうじ)を持って、自衛官としての任務を全うしてください。
 本年は、9か国から30名の留学生諸君も卒業を迎えます。派遣国、卒業生の数、ともに過去最多です。留学生の諸君、卒業、おめでとう。君たちは、これからも、我が国のかけがえのない友人です。母国に戻っての活躍を大いに期待しています。ここ小原台での厳しい修練の日々は、必ずや今後の成長の糧となる。私は、そう確信しています。ここで育んだ仲間との絆(きずな)、そして、切磋琢磨(せっさたくま)し、寝食を共にした日々を胸に、母国の平和の実現に頑張ってください。
 いつの日か、皆さんと自衛隊が一緒に活動する日が来るかもしれません。世界の平和と繁栄のため、共に、力を尽くしてまいりましょう。
 世界に自衛隊の名を知らしめたのは、ペルシャ湾への掃海部隊の派遣でした。落合指揮官率いる部隊が任務に当たった海域は、海底パイプラインが縦横に走り、ダイバーが手探りで機雷を探さなければならない。各国が手をつけなかった、最も厳しい難所でありました。そうした中でも、10年以上にわたる精緻な研究、あらゆる事態を想定した訓練、その全てを傾けて、自衛隊の掃海部隊は、見事に任務を完遂してくれました。
 部隊は呉港に無事帰還。半年にわたる活動を終え、充実感に包まれる隊員たちを前に、落合指揮官は、世界が称賛した自衛隊史に残る作戦の最後を、こう締めくくりました。実力は一日にしてつくものではない。不断の錬磨がなければ、いざというときの力の発揮にはつながらない。
 いつ、いかなる状況であろうとも、与えられた任務を、完璧に全うする。並大抵のことではありません。極度の重圧がかかる現場において、その瞬間がやって来た時には、必ずや、国民の期待に応える。その強い決意の下に、日頃から鍛錬を怠ることなく、地道な努力を重ねてほしいと思います。
 ソマリア沖・アデン湾での海賊対処、荒波に揉(も)まれながらの警戒監視、突如現れる国籍不明機へのスクランブル。これまでも、これからも、自衛隊が臨む任務には、常に危険を伴います。だからこそ、国民は、諸君を頼りにしている。国民の命と平和な暮らしを守る任務は、誠に、崇高なものであります。
 事に臨んでは危険を顧みず、もって国民の負託に応える。全国25万人、全ての自衛隊員が行うこの宣誓の重さを、私も、常に、心に刻んでいます。自ら進んで、自衛官としての道を選んだ諸君は、日本国民の誇りであります。
 本日は、昭和51年に卒業されたOBの皆さんもお集まりです。皆さんがこの小原台で学んでいた頃、裁判所で自衛隊を憲法違反とする判決が出たことを覚えておられる方も多いかもしれません。当時、自衛隊に対する視線はいまだ厳しいものがあった。皆さんも、心ない批判にさらされたかもしれません。
 しかし、皆さんは、歯を食いしばり、昭和から平成へと時代が変わる中、厳しさを増す安全保障環境に立ち向かい、数々の困難な現場にあって、国民の命と平和な暮らしを守り抜いてくれました。阪神・淡路大震災で懸命な救命救助に当たる自衛隊員の姿は、今も、多くの国民の瞼(まぶた)に焼き付いています。
 大きな仕事を遂げ、ここ小原台に戻ってこられた皆さんへ、心からの感謝と敬意を込めて、会場の皆さんと共に、大きな拍手を送りたいと思います。
 今や、自衛隊は、国民の9割から信頼を勝ち得ています。先人たちがたゆまぬ努力によって築き上げてきたこの成果を受け継ぐ卒業生諸君は、静かな誇りを持ちながら、更なる高みを目指して、それぞれの自衛官人生を歩んでほしいと思います。
 政治も、その責任をしっかりと果たさなければならない。次は、私たちが、自衛隊の諸君が強い誇りをもって職務を全うできるよう環境を整えるため、全力を尽くす決意です。
 御家族の皆様。彼らの凛々(りり)しくも、頼もしい姿を御覧ください。大切なお子様を自衛官として送り出していただくことに、心から御礼を申し上げます。皆様の温かい支援があって、彼らは厳しい訓練を乗り越え、日本の平和を担う立派な若者に成長しました。お子様が万全の態勢で任務を遂行できるよう、全力を尽くすことをお約束いたします。
 終わりに、全身全霊を持って学生の教育に当たって来られた國分(こくぶん)学校長、教職員の皆様に敬意を表しますとともに、平素から防衛大学校に御理解と御協力を頂いている御来賓の皆様に、感謝申し上げます。
 卒業生諸君の、今後益々の活躍、防衛大学校の一層の発展を祈念し、私からの訓示といたします。

平成三十一年三月十七日
自衛隊最高指揮官
内閣総理大臣 安倍 晋三

総理の演説・記者会見など