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次なる10年に向けた日印戦略的
グローバル・パートナーシップのビジョン (仮訳)


  1.  シン首相は、菅総理の招待を受け、年次首脳会談のため2010年10月24日から26日にわたり公式実務訪問を行っている。両首脳は、2010年10月25日に、二国間の課題及び利益を共有する地域的及び地球規模の課題について幅広く会談を行った。

  2.  両首脳は両国の価値観、利益及び優先事項は基本的に同一であると改めて強調した。両首脳は、党派の違いを超えた二国間関係の強化への政治的コミットメント及び両国民の願いを再確認するとともに、変化に富むアジア及び世界における持続的な平和と繁栄に向けた両国間の協力を評価した。これに関し両首脳は、両国間の戦略的グローバル・パートナーシップを21世紀の次なる10年に、一層強固なものとし、拡大・強化するとの共通の希望を表明した。

  3.  両首脳はあらゆるレベルにおいて要人往来や対話、政策協調が着実に進展していることに満足の意を表明した。両首脳は日本の外務大臣、防衛大臣、経済産業大臣とインドの外務大臣、国防大臣、商工大臣、計画委員会副委員長との間の、閣僚級の年次対話及び往来を前向きに評価し、こうした往来の全てが2010年に成功裡に実現したことに留意した。また、両首脳は地域的及びグローバルな文脈に留意しつつ、両国間の経済的取組に戦略的、長期的な政策的方向性を付与するとともに、インフラ整備及び資金を含む分野横断的な経済の諸課題を調整するための、日インド間の閣僚級経済対話の設立を支持した。両首脳は、外交政策・安全保障に関するより幅広い政策協議・調整のための次官級/高級実務者レベルの「2+2」対話及び事務レベルでのアフリカに関する協議が、2010年に開始されたことを歓迎した。

  4.  両首脳は均衡がとれた互恵的な日インド包括的経済連携協定(CEPA)交渉が、成功裡に完了したことを歓迎した。両首脳は同協定の早期発効及び円滑な実施に向けた作業を関係当局に指示した。両首脳はCEPAが物品・サービスの貿易、投資及び協力における両国間の経済的連結をより深め、相互の繁栄に寄与するとの期待を表明した。両首脳はアジアの2つの経済大国間のCEPAを、地域統合に向けた重要な一歩として歓迎した。両首脳は最近の日本の対印直接投資の拡大に満足の意をもって留意し、CEPA及び本日署名された査証手続簡素化に関する覚書により、日本人ビジネスマンのインドでの存在感がより一層高まることへの期待を表明した。

  5.  両首脳は、両国間のパートナーシップの強化において日本のインドへのODAや日インド特別経済パートナーシップ・イニシアチブを含む経済的な協力が極めて重要であることを強調した。シン首相は、日本政府及び日本国民がインドの発展のために寛大な役割を果たしてきたことに感謝の意を表した。両首脳は、日本の資金及び技術協力の下、インドにおける貨物専用鉄道建設計画(DFC)西回廊の2つのフェーズが同時並行的に早期に完成することをめざすとともに、第2フェーズに対するエンジニアリング・サービス借款に関する交換公文への署名が2010年7月に行われるなど、第2フェーズが進展していることに満足の意をもって留意した。両首脳はデリー・ムンバイ間産業大動脈構想(DMIC)計画の進展を加速するとの希望を表明した。また、菅総理はJETROやAOTS等の関係機関の努力を通じてDMIC開発公社に対する日本の関与を拡大させる意図を表明した。両首脳は「スマート・コミュニティー」という環境に優しい手法による回廊の開発に対する両国の取組を前向きに評価するとともに、都市開発分野における協力進展を歓迎した。両首脳は、アジアの物理的連結性の向上におけるDMICの潜在性に留意した。両首脳は、このビジョンを実現するため、今後10年においてインフラ部門を含む日本からの対印投資を拡大するよう促すとともに、それぞれの関係者に対し、DMICに関する官民連携対話を深めるよう要請した。シン首相は技術協力案件である製造業経営幹部育成計画(VLFM)の期間を延長するとの日本側の決定を評価した。両首脳はこの計画がインドの製造業部門の発展に寄与することへの期待を表明した。

  6.  両首脳は新エネルギー及び再生可能エネルギー、クリーン石炭技術の開発及びインドの電力部門のエネルギー効率向上等の分野における両国の協力を歓迎するとともに、エネルギー安全保障の更なる強化に向けた他の関連分野における実用的かつ互恵的な協力を促進するよう「日印閣僚級エネルギー対話」を慫慂した。これに関し、両首脳は2010年4月のエネルギー対話においてエネルギー、経済及び産業の観点から双方の原子力エネルギー政策についての見解及び情報交換のための「原子力に関するワーキンググループ」が発足したことを歓迎した。両首脳は更に、各々のビジネスミッションを通じて、両国の原子力産業の間での情報交換を歓迎した。両首脳は、NEDO等を通じた商業ベースのエネルギー協力を拡大する上で、産業間協力を促進することが重要と認識した。両首脳は、将来の産業にとってのレアアース及びレアメタルの重要性を認識し、レアアース及びレアメタルの開発、リサイクル及び再利用や代替品の研究及び開発における両国間の協力を追求することを決定した。

  7.  両首脳は2010年6月の日インド原子力協定交渉の開始を歓迎した。両首脳はこの分野における協力は、日インド戦略的グローバル・パートナーシップを更に発展させるための新たな機会を開くものであることを再確認した。両首脳は、民生用原子力協力に関し、早期に相互に満足できる合意に至るよう交渉関係者を促した。

  8.  両首脳は、両国間のハイテク貿易の促進における2010年の進展を歓迎した。両首脳は関係当局に対し、双方の輸出管理体制を含むハイテク貿易に関する対話を継続するとともに、両国間の戦略的パートナーシップに留意しつつ、その潜在性を最大限に引き出すよう求めた。

  9.  両首脳は、両国間の安全保障及び防衛における協力を着実に拡大すると決意した。両首脳は、特に二国間及び多国間の演習、情報共有、訓練及び対話を通じて、航行の安全及び自由、海賊対処を含む海上安全保障、人道的支援や災害救援・対応といった安全保障上の課題に対応するための能力の強化を協力して実施していくことを目指した。これに関し、両首脳は日印海運政策フォーラムの立ち上げや、アデン湾における自衛隊及びインド海軍の護衛活動スケジュールの交換を歓迎した。両首脳は、2009年に署名された日印間の「安全保障協力に関する共同宣言」に基づく安全保障協力を促進するための「行動計画」の潜在性を最大限実現するよう関係当局に指示した。

  10.  両首脳は、行った者や行われた場所、またその目的の如何を問わず、あらゆる形態のテロを批難した。菅総理は2010年2月13日のプネ及び、2010年2月26日のカブールにおける爆破事件などのインド人や他の国民を標的としたインド国内及びインドに対するテロ攻撃を非難した。両首脳は日印テロ協議の活用及び情報共有やテロ対策の訓練を通じて、テロとの闘いにおける協力を強化することを決意した。両首脳は国連包括テロ防止条約の交渉が完了し、採択されることの喫緊の必要性を認識するとともに、全ての国に重要課題を迅速に解決する上での協力を呼びかけた。日本はインドの金融活動作業部会(FATF)への加入を歓迎するとともに、インドは日本の支持に感謝の意を表明した。

  11.  両首脳は日インド科学協力プログラムを含む、科学技術分野における進展を歓迎した。また、科学技術分野において最大限に協力の潜在性を引き出すために、グリーン・イノベーションやライフ・イノベーションなどの戦略的及びハイテク分野における研究協力を促進していくよう関係者を促した。両首脳は日印ICT成長戦略委員会及び日印ICT規制政策対話の設立及び開催を歓迎した。両首脳は情報通信技術(ICT)分野におけるビジネス提携、共同研究開発活動及び政策協力を緊密な両国間の協力を通じて更に強化することで一致した。

  12.  両首脳は、両国の戦略的パートナーシップ及び両国民の友好関係を表す形で両国間の文化、学術交流及び人の往来を強化することの重要性を認識した。両首脳は、査証手続きの簡素化に関する覚書への署名により、両国間の人的交流が更に促進されるとの期待を表明した。菅総理は、インドへの日本人旅行者に対する試験的な到着時の査証発給を2010年に実施したことを評価した。両首脳は、ODAを通じた協力を含む日本からの様々な貢献を通じ、インド工科大学ハイデラバード校(IITH)の発展に協力することへのコミットメントを再確認するとともに、IITHのインフラの早期整備に向けて取り組んでいくよう関係者に促した。両首脳は21世紀東アジア青少年大交流計画(JENESYS)の下での学生及び若手教授の訪問、地球規模課題対応国際科学技術協力事業(SATREPS)による自然災害の減災と復旧のための情報ネットワーク構築に関する研究の開始を含む、現在進行中のIITHと日本の学術機関及び産業関係者間の交流を歓迎した。また、両首脳はインド情報技術大学(設計・製造)ジャバルプール校の発展に向けた協力が日本の大学及び企業の協力の下で拡大していることを歓迎した。

  13.  両首脳は2012年の両国の外交関係樹立60周年を適切な形で祝うことを決定した。両首脳は事務方に対し、この重要な年を記念するために、両国間の緊密化を目的とした往来や行事の予定表を示すよう指示した。

  14.  両首脳は、東アジアにおける平和と安定及び繁栄を促進する上で、国際規範及び普遍的価値を強化し、開放的、包含的、透明かつ外部志向のフォーラムであり、且つ両国が主要な加盟国である東アジア首脳会議(EAS)に対する両国の支持を再確認した。これに関し、両首脳はASEANの外務大臣による米国とロシアのEAS加入についての最近の決定を歓迎した。また両首脳は東アジア包括的経済連携(CEPEA)及び地域協力に向けた三本柱のアプローチ等のこれまでの成果を支持した。両首脳は日本側のコンセプトペーパーである「東アジアにおける地域経済統合に向けたイニシャル・ステップス:漸進的なアプローチ」を歓迎した。また、東アジア・ASEAN地域研究センター(ERIA)による「アジア総合開発計画」を歓迎するとともに、関係当局及び団体の間で実施に関して更に議論しうるが、メコン・インド経済回廊研究における産業基盤インフラ及び産業政策の重要性を認識した。両首脳はERIAや東アジアのシンクタンクにより実施されたインドの半島地域の輸送・産業回廊発展に関連した研究を検討するよう促した。シン首相はインドが重要な役割を果たすことが期待されている日本の東アジア共同体構想を評価しつつ留意した。また、菅総理はナーランダ大学の再興のためのインドのイニシアチブを歓迎するとともに、アジア各国の文化・文明間の絆を強化するこのイニシアチブを引き続き支持すると表明した。

  15.  両首脳は、アフガニスタンがテロや過激主義のない安定的、民主的且つ多元的な国家となるよう支援することへのコミットメントを表明した。両首脳は、アフガニスタンが主導するイニシアチブへの国際社会からの一貫し且つ一致したコミットメントの重要性を強調した。菅総理はこれらのコミットメントにはアフガニスタン国家警察への支援を含む治安支援、過激派の再統合及び開発が含まれると表明した。シン首相はアフガニスタンの主権及び独立を守ることが出来るよう、アフガン国軍の強化や適切な訓練の重要性を強調した。両首脳は再統合プロセスがカブール国際会議で表明された原則から逸れるべきではないという点で一致した。両首脳は、アフガニスタンのリーダーシップやオーナーシップの向上及び民生部門の能力向上に対する、周辺諸国で実施するプロジェクトを含む、双方の民生支援プロジェクトに関し、協議及び調整の機会を追求することを約した。

  16.  両首脳は核兵器の全面的な廃絶に向けた共通のコミットメントを再確認した。菅総理は、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効の重要性を強調した。シン首相は、一方的かつ自主的な核爆発実験モラトリアムに対するインドのコミットメントを改めて表明した。両首脳は核テロリズムや秘密裏の拡散といった課題に対処するための国際協力の強化を支持するとともに、2010年4月に開催された日本に設立予定のアジア核不拡散・核セキュリティ総合支援センターとインドの原子力パートナーシップ国際センターの設立を含む核セキュリティ・サミットの成果に満足の意を表明した。両首脳は軍縮会議において無差別で、多国間による、国際的かつ効果的に検証可能な兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約:FMCT)に関する交渉の即時開始及び早期妥結に向けて協働するとのコミットメントを再確認した。更に両首脳は、核軍縮及び核不拡散への取組は相互に補強し合うプロセスである旨を強調した。また、両首脳は原子力の平和利用及び核不拡散に向けた取組を更に強化することの重要性を強調した。両首脳は、 定期的に開催される二国間核軍縮・不拡散協議及び軍縮会議における協議を含む緊密な対話を通じ、両国が核軍縮・不拡散における協力を強化していくことを決定した。

  17.  両首脳は、メキシコでの国際連合気候変動枠組条約の次期会議において、現下の気候変動交渉にとって積極的な成果が得られることの重要性を改めて表明するとともに、この会議に向けて協働していく決意を再確認した。両首脳は、包括的かつ透明性のある形で結論に至ること、及び国連気候変動枠組条約の原則及び規定に則って気候変動の課題に効果的に対処すべきことを強調した。両首脳は、コペンハーゲン合意がそのような成果に積極的に貢献すべきであることを決定した。また、両首脳は、包括的な二国間協力の枠組みのあり得べき構築も含め、様々な機会において気候変動に関する二国間の議論を強化することの重要性を再確認した。

  18.  シン首相は、2010年10月18日から29日の生物多様性条約第10回締約国会議の日本での開催を祝うとともに、遺伝資源へのアクセスと利益配分に関する議定書の採択を含む成功を収めることを希望した。2012年の次回生物多様性条約締約国会議の開催国と予想されるインドは、議長国である日本との間で名古屋以降も緊密な協力を期待した。

  19.  両首脳は国連安全保障理事会の包括的改革、特に国連総会での文書に基づいた政府間交渉において国連加盟国から多くの支持を集めた常任及び非常任理事国の双方の拡大を実現するとの決意を再確認した。両首脳は、これらの交渉に両国が積極的に参加していくことで一致するとともに、安全保障理事会を代表性、正統性、実効性が備わったものにし、21世紀の国際社会の現実により応えたものにするため、今国連総会会期中に意義のある成果を達成すべく、G4及び他の考えを同じくする国々との緊密な協力に加え、二国間でも取組を加速することを決意した。

  20.  両首脳はWTOドーハ開発アジェンダ(DDA)の前向きな成果は経済の回復の有効な手段であることを認識した。両首脳はDDAの早期で、野心的かつバランスのとれた成功裡の妥結は多角的貿易体制の信頼性を強化すると改めて確認した。両首脳はDDA交渉再開へのモメンタムを評価し、残された交渉上の相違を埋めるために協働することを決意した。

  21.  両首脳はG20が国際経済協力の第一のフォーラムとしての役割を果たすことを再確認するとともに、他のパートナーと共に、両国はG20首脳会議での決定の迅速かつ効果的な実施を追求するとのコミットメントを改めて表明した。特に、両首脳は強力、持続可能かつバランスのとれた成長のための枠組みの構築に向けた協力の重要性を再確認した。両首脳は金融危機の再発を防止するために、金融部門改革へのコミットメントを表明した。両首脳は、国際的に認められた期間の中で、正当性、信頼性及び実効性を強化するためのIMFを含む国際金融機関改革を支持すると表明した。両首脳は、投資、資金の流れ及び物品・サービスの貿易におけるあらゆる形態の保護貿易主義を控えるとのコミットメントを再確認した。

  22.  シン首相は、菅総理の温かい歓迎及びもてなしに謝意を表した。シン首相は、外交ルートを通じて調整される2011年の双方にとり都合のよい時期にインドで次回年次首脳会談を行うため、菅総理を招待した。菅総理は招待を喜んで受諾した。

   2010年10月25日、東京
日本国内閣総理大臣 インド共和国首相
  菅直人 マンモハン・シン