G20ビジネス・サミット
貿易・投資(貿易の再活性化)セッション
総理発言


平成22年11月11日
ソウル

 ご列席のCEOの皆様、

 本日は、世界経済を牽引されている皆様とお会いでき光栄に思います。この機会に、今回のG20首脳会議に臨む私の考え方を、本日のテーマであります貿易の再活性化に則して述べさせていただきます。

 貿易は、強くかつ持続的な成長のために不可欠であることは言うまでもありません。東アジア諸国の奇跡的な成長とその後のアジア通貨危機の克服がこのことを証明しております。歴史の中では、ご承知のとおり、1929年に発生した世界恐慌への対応において、各国は自国製品の販路拡大のためと思って、ブロック経済化を進めるとともに保護主義的措置の導入や競争的な通貨切り下げを行い、自国経済の浮揚を企図しました。しかし、現実には世界の貿易量はむしろ大幅に減少し、長期の恐慌に陥った歴史は皆の共有するところです。

 2008年の世界経済危機においても、やはり貿易が受けた打撃は甚大であり、2009年の世界全体の貿易量は10%も縮小しました。しかし、1929年とは異なった動きがそれ以上の打撃を防ぎました。G20に集まった皆さんの叡智により保護主義の抑止という成果を達成しました。危機直後にワシントンで開催された初のサミットにおいて、保護主義抑止を宣言し、WTOなど国際機関に対し、監視を行うよう要請しました。第2回サミットでは、貿易金融の収縮に対応するため、2年間で2500億ドルが利用可能となるよう合意し、貿易金融を拡充してきました。これらの取組みは世界の市場に安心感を与え、貿易の回復に大きく貢献いたしました。貿易量は、危機発生からおよそ1年でほぼ危機前の水準をうまく回復し、世界経済は脆弱性を内包しつつも回復を続けています。

 このように我々G20は、世界恐慌の再来という事態を回避し、貿易を回復に導くことができました。しかしながら、最近では、資源や食料分野を含め、貿易に新たな障壁を設けたり、輸出規制を課すなど、これまでのG20の成果に逆行するような動きも見られます。また、競争的通貨切り下げを危惧する声もあり、世界恐慌を想起させる動きが出てきています。
 世界経済の成長及び開発の増進のためには、貿易がますます重大であり、G20各国は、保護主義を抑止し、貿易金融の拡充を続けるとともに、通貨の競争的切り下げを回避するとの決意を具体的行動で示していくことが求められております。当然のことながら、貿易が拡大するためには世界経済の成長が前提となります。G20は強固で持続可能かつ均衡ある成長のための共通の枠組みに従って、財政健全化、金融セクター改革、構造改革などを進めていくことが重要です。

 私はこのG20サミットの直後に開催されるAPEC首脳会議の議長を務めます。
 世界経済・金融危機を経て、アジア太平洋地域は改めて世界の成長センターとして期待されております。世界の成長をリードするアジア太平洋地域の着実な成長を実現させるため、貿易・投資の自由化・円滑化を更に掘り下げることが重要であります。この地域をより自由で開かれたものにするべく、多角的貿易体制の支持と保護主義の抑止をAPECとしても明確に打ち出すことを含め、APECの取組を一層強化することに合意したいと考えています。
 我が国も、国をもっと積極的に開いていく決意をします。今般、我が国としても、特に大きな利益をもたらすEPAや広域経済連携について、高いレベルの経済連携を目指すことを閣議で決定しました。その中で、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定については、国内の環境整備を早急に進めるとともに、関係国との協議を開始します。我が国も貿易の再活性化ということを同時に行いながら、こうした経済連携をいろいろな形で積極的に進めていきたいと思います。

 皆様からは、 WTOドーハ・ラウンドの2011年中の妥結という提言もいただきました。交渉の妥結には、G20各国が、世界経済における地位に応じた責任を果たしていくことが重要であります。2011年という機会を逃せば交渉の更なる停滞を招く恐れがあります。ラウンドの早期妥結を実現するため、G20として交渉の終局に入る明確なコミットメントを示し、各国の交渉代表に実質的な交渉を行って最終合意案をまとめる政治的指示を与えることが重要であると考えます。このWTOドーハ・ラウンドが2011年に大きく進展するようにG20の皆様のご協力を得て、我々も含め、取り組まなければならないと思います。貿易・投資について、このG20の中で大きな成果を上げられることを祈念して私の発言とさせていただきます。