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APEC議長記者会見


平成22年11月14日
横浜・国際メディアセンター

【菅総理冒頭発言】

 まず国民の皆様に,横浜で行われ,私が議長を務めましたAPEC首脳会議が,大きな成果を得て成功裏に終了したことをお知らせ致します。

 APECは,米国,カナダ,あるいはチリ,ペルーといった太平洋の東側の国々と,ASEAN,中国,韓国,日本といった太平洋の西側にあるアジア,つまりはアジア太平洋の21の国と地方からなる経済を中心とした協議体であります。全体としてGDPの世界の約5割を占め,人口の約4割を占めております。このAPECのこの地域は,世界の成長センターとして世界経済を牽引しているということも決して言い過ぎではありません。

 今回の会合で採択をされました「横浜ビジョン」,これは,この地域の成長をさらに持続可能なものとして推し進め,そして世界経済に対しても牽引の力を発揮していくという方向で,そのためにいくつかのことを,合意を致しました。この大きな一つが,APEC全体で貿易圏FTAAPを2020年に向けて構築していくということであります。いろいろな横文字が並びますけれども,APECが全加入している国・地方が目指す方向としては,このFTAAPと言われるこの地域全体での経済連携であります。

 その前に,FTAAPに向かう道はいろいろとあります。二国間のFTAあるいはEPAといったものを積み重ね,あるいは多国間におけるASEAN+3,ASEAN+6,あるいはTPPという,そういった複数の国による協議,いろいろな道筋はありますけれども,いずれにしても最終的にアジア太平洋全体における自由貿易圏を目指す,そういういくつかの道筋についてそれぞれ積極的に進めていこうという,これが「横浜ビジョン」のまず大きな方向性での合意であります。

 そして我が国においては,このAPECの開催を前にして,包括的経済連携に関する基本方針というものを閣議決定を既に致しております。つまりは,日本の今弱くなっている農業を活性化する,そのことと同時に,他の国々に対して,やや立ち後れてきたこの経済連携自由化の一層の促進を,まさに新しい平成の開国という形で推し進める,農業の再生と開国の両立をこの基本方針で明確にしたところであります。

 そういった中で,大変実り多くのことをこの「横浜ビジョン」に盛り込み,来年は米国・オバマ大統領がハワイのホノルルで次回のAPECを主催されることになりますけれども,それに向けて着実な実現を行っていきたい,このように考えています。

 また,このAPECの期間の中でいくつかの国と首脳会談を行いました。米国,中国,ロシア,そして韓国,カナダ,またこの後もいくつかの国と二国間で首脳会談を行うことにいたしております。それぞれ意義深い会談でありました。

 米国とは,日米同盟関係を更に深化していこうという点で合意し,中国とは戦略的互恵関係の発展について合意し,ロシアとは領土問題の解決と経済協力について,2つのフィールドで話し合おうということで合意をし,それぞれ前進することができたと,このように思っております。

 今,我が国はアジアの中でもかつてのように圧倒的な経済力をもつ一つの国という立場から,今や多くの国々がかつての日本の高度成長のときと同じような勢いで,あるいはそれを凌駕するような勢いで発展をしてきているわけであります。そういった意味で,我が国がこれからこの地域において世界の中で活力を持った国として行動し生き抜いていくためには,まさにアジア,そして太平洋のこの地域と経済的にもしっかりと結びあって,ともに成長しそして共に発展していく関係を作っていかなければなりません。多くの国は若い人口構成を持ち,しかし一方では資金の不足,あるいはインフラの不足などにまだまだ色々な経済開発が難航しております。逆に我が国は高齢化が進んでおりますが,一方では高い技術力,さらには多くの資金的な蓄積も持っているところであります。

 そういった意味で,我が国とアジアの国々,さらには太平洋を挟む南米やカナダといった国々との連携は,まさに日本がこの平成の時代に改めて開国する,150年前,明治維新が始まった頃に開国に舵を切ってそして開かれた港がこの横浜であることを伺いますと,この横浜におけるAPECは,APECの歴史としても大きな1ページになると同時に,我が国の歴史においても大きな新しい1ページになる,このことを私は確信し,是非国民の皆様には色々な問題点があることはもちろんでありますけれど,そういう問題点を越えていくという,そういう勇気と力を共に振り絞って新しい日本を作っていく,そのことで皆さんのご理解とご支援を改めてお願いして,冒頭の私からの話とさせて頂きます。

ありがとうございました。

 

【質疑応答】

(毎日新聞 西岡記者)
 今回のAPEC首脳会議の成果についてお尋ねします。今回の首脳会談ではFTAAPの実現に向け,先程総理が言及されたとおり,TPP,ASEAN+3,ASEAN+6という3つの基礎を発展させると述べられました。今回は地域統合の実現に向けてどのような成果があったのか,総理の御所見をお願いします。また,TPP参加国の首脳会議がありまして,総理はオブザーバーとして参加されました。そこで総理はどのような立場を表明され,各国からは日本に対しどのような要望があったのか,具体的にやりとりを教えて下さい。

(菅総理)
 まず,地域統合を含む議論でありますけれども,全体として非常に前向きな意見が大部分でありました。もともとAPECはボゴール目標という形で,2010年までに先進国は貿易の自由化を徹底的に進める,2020年までには,他の参加国もそうしたことを実現するという目標を持って進んできたわけですが,2010年までに目標としていたことについては,十分にそうしたことが進んできたという評価で一致いたしました。その中で,さらにその地域的な統合をいかにして進めるか,そのことでそれぞれの議論を致したわけでありました。個々の問題では,もちろんそれぞれの国の立場がありますけれども,全ての国がそうした地域的な経済統合,場合によっては,WTO,ドーハラウンドという世界的な経済の連携をも含めて,積極的に進めていかなければならないというその認識において一致をしたと。このこと自体,私は大きな前進であると,このように思っております。

 それには,一つは,我が国が農業の再生と開国という基本方針を定めて,このAPECに対して臨み,そしてそのことを日本が表明したことが,他の国にとっても大変いい意味での刺激になったと,こんな言葉も多くのメンバーから頂きました。また,TPPの現在参加を表明している9カ国の首脳会議がこのAPECの期間に行われたわけであります。日本はまだ参加を表明している訳ではありませんけれども,APECの議長国という立場で,オブザーバーとして参加をして欲しいという要請を頂きました。その中では,現在我が国が進めている,これはまさにAPECの歩調と揃うわけでありますが,いろいろな二国間の協議は押し進めていく,さらにはそうした形をとれていない二国間のいろいろな協力・協議にも積極的に参加する,そして,TPPについてはいろいろな情報を取ることが必要でありますので,関係国との協議を開始するその姿勢を明確にしたところであります。

 TPPの多くの国からは,ぜひ参加をするということをできるだけ早い機会に決めることを誘われました。つまりは,9カ国にとっては,このTPPはある意味でのより経済の自由化を進めていくという意味での大きな旗印になってきているという感じが致しました。そういう中で,私としては,日本の立場は,まだ参加不参加は決める段階に来ていないけれども,積極的にこの9カ国の皆さんとも協議をして,その中で二国間,あるいはTPP以外のその他の国も含めて貿易の自由化を目指すという方向は一貫しているということを申し上げたところであります。

(DPA ラース・ニコライゼン東京支局長)
先程の質問のフォローアップになりますけれども,中国がASEAN+3の枠組みをFTAAPを中心として選好してきたことを考えますと,最終的に日本が,米国が支持をするTPPの枠組みに参加するという見込みはいかがでしょうか。それからTPPが最終的にFTAAPに向けた足がかりになるとお考えでしょうか。

(菅総理)
 今,すでに申し上げましたように,今の日本の立場というのは,色々な国ともう成立したEPAもありますし,今協議を進めているFTA・EPAもあります。それらはより積極的にやっていくという基本的立場と,TPPについては,先程来申し上げていますように,情報収集も含めて関係国との協議を開始すると,そういう立場であります。

 必ずしもASEAN+3は中国が中心で,TPPは米国中心と,そういう風に色分けしては見ておりません。我が国はもちろん,ASEAN+3の中にあるわけですし,あるいは,ASEAN+6という中にも,もちろんあるわけですので,そうした多国間の努力というものも並行して進めていく,その中から,FTAAPというAPEC全体を包含する,そういう自由貿易圏が次第に形作られていくと,このように期待しているところです。

(日本テレビ 野口記者)
 日中,日露関係についてお伺いいたします。まず今回行われた日中首脳会談で,総理は尖閣での漁船衝突事件につきまして,日本の確固たる立場を伝えたということですが,この確固たる立場の意味するところ,尖閣は日本固有の領土という思いはその中に込めたのでしょうか。また,確固たる立場を示したことで,中国は同種の事案の再発防止に努めると考えますでしょうか。

 また日露首脳会談におきまして日本とロシアの抱える領土問題の解決に向けて成果は今回得られたのでしょうか。今後,経済協力だけが進んで,領土は止まったまま,という懸念はないでしょうか。

(菅総理)
 まず,日中の首脳会談は,尖閣列島は我が国固有の領土であって,この地域に領土問題は存在しないという基本的立場を明確に伝えたところであります。その上で,再発防止についてのご質問を頂きましたが,今回はまさに首脳会談でありまして,基本的に,まずは認識を述べ,そして戦略的互恵関係を改めて進めていくことを確認する,基本的にはそういうある意味での大きな方向性を,改めて私の就任時の6月に戻すという,そういうことを実現することができたと,このように考えております。

 日露の首脳会談では,メドベージェフ大統領が国後を訪問されたことについて,抗議の意を明確に伝えました。その上で,この間,領土問題は,ご承知のように,これが解決をしないために今でも日露間に平和条約が結ばれておりません。そういった意味で,領土問題についても話し合っていこうと。同時に現在,ロシアは全体として東の方,太平洋の方に色々な可能性を求めていると認識をしております。そういった意味で,我が国にとっては,天然ガス等の資源の問題もあり,経済問題でもしっかり話し合っていこうと,この2つのことは,もちろん性格は異なりますけれども,やはり2つの国が経済的にも協力関係が深まる中で,領土問題においても,いい影響が出てくる,そういうことが十分あり得る訳でありますが,その2つの場を積極的に作り,そして話し合いを進めていきたいと,このように考えております。

(ロイター通信 リンダ・シーグ東京首席特派員)
 日中問題に関してフォローアップしたいと思いますけれども,もう少し問題を拡大いたしまして,明らかに,中国との関係は最近の東シナ海における事件によって緊張してきておりますけれども,今回は中国の胡錦涛国家主席と会談を開かれましたけれども,22分で全ての問題が解決できるとは誰も思っていないと思うのです。日中両国はこのような根深い問題をどのように克服することができるでしょうか。

 そしてまた経済安全保障という意味でこの問題の解決ができない場合には,アジア太平洋地域におけるリスクはどういうものでありましょうか。この関連に関してもう一つ伺いたいのは,中国がレアアースの輸出制限をとって日本は懸念を表明してこられましたけれども,解決できなければWTOに提訴なさいますか。

(菅総理)
 まず尖閣諸島の地域には領土問題は存在しないというのが我が国の立場であることは何度も申し上げました。そういう意味でいろいろな国の例,他国の例をみても,それぞれの国と国が接する地域では色々な問題が今なお多く残っております。しかし,そういった問題が残っているからその両国は経済的,あるいは文化的,あるいは人的交流が途絶えているかといえば,決してそうではありません。先日もインドのシン首相ともいろいろお話をしましたが,インドと中国は今大変経済的な関係を深めておりますけれども,色々な問題も残っているけれども,同時並行的に進めるべきことは進めていると,こういう国と国との関係はこれもまた多く存在しております。

 日本と中国の問題も,これまでも我が国が戦後においてODAや色々な形で協力をしてきたことも,中国の発展の大きな力となったことは中国の皆さんも落ち着いた話の中ではそうした見方で感謝の言葉を述べられる方もある訳であります。そういった意味で両国間の問題は色々な問題があろうともそれを乗り越えて,しっかりした関係を結んでいくというのがまさに戦略的互恵関係のもつ大きな意味だと思っておりますので,そういう立場で日中関係の更なる発展を期していきたいと,このように思っております。レアアースに関しては,これは関係大臣が色々努力をされておりますけれども,中国側の対応,決してそれを何かの手段として使うつもりではないんだという趣旨のことも言われているようでありますので,今後の対応を見極めた上で,この問題にも冷静に対処していきたいと思っております。

(東京新聞 竹内記者)
 日米関係,それから日米同盟の深化についてお尋ねします。昨日のオバマ米大統領との会談で来春の訪米を招請されまして,総理も応じる考えを示したと承知しています。来春の訪米時に仮にその同盟深化の共同声明をとりまとめるということだとすれば,現在懸案となっている普天間飛行場移設問題についてもそれまでに一定の前進が求められるのではないかと思います。同盟深化の共同声明の取り纏めに向けて,今後普天間問題も含めてどのように取り組まれていくお考えかお聞かせください。

(菅総理)
 まず私が総理に就任するほんの少し前,5月28日に鳩山総理の下で日米合意がなされました。私はもちろんその時点でも副総理という立場で責任を分かちあう立場にあったということもありますけれども,まず私が政権を担うことになった時に多少ぎくしゃくしてきていると言われてきた日米関係をしっかりとした日米関係にまず立て直すことが必要だと,こういう立場からいくつかの努力を行いました。その中で,第一には日米同盟を日本外交の基軸に据えるというその基本方針には些かの変わりもない,また,5月28日の日米合意もそれをしっかりと踏まえて,同時に沖縄の皆様の負担軽減ということにも努力すると,こういったところから,日米関係が次第に従来のような安定した形に戻って,今日に至っていると思っています。

 同時に沖縄の問題について,私ももっと足を運びたいと思ったわけですけれども,まずは党内でも沖縄の仲間の皆さんとのいろいろな関係があるということで,しばらくはそういったことは党の方で対応するので,総理の行動は少しそういうものを踏まえてからにして欲しいという要請があり,また同時にいくつかの選挙,現在も知事選が行われておりますけれども,そういう選挙がありましたので,私自身が足を運ぶことは就任直後の戦争の慰霊の日に出掛けたところで,その後の動きは東京におけるいろいろな会議などを通して進めてまいりました。

 今回の日米首脳会談でもそうしたことは細々とは申し上げませんでしたけれども,そういう中で今月,来週には沖縄の知事選も一つの結論を得るわけであります。そういう中で私として改めて沖縄の皆さんに私の思いをしっかりと伝えると,そういう機会を積極的に作っていきたいと,また,オバマ大統領に対しては,大変沖縄の皆さんの5月28日の日米合意に対する見方は厳しいけれども,私とはしては,全力を挙げてこの問題に取り組んでいくと,こういうことを申し上げました。

 そういった意味では,かつて,今からいえば14年前になりますけれども,普天間基地の危険性を除去するというところで橋本政権とクリントン米政権の時に始まったこの問題,何とか前進をさせていきたいとこのように考えております。

(ビジネス・タイムズ(シンガポール) アンソニー・ローリー記者)
 総理は日本の開国を公約されました。そして農業部門の再生を対価とされるということですが,この点に関し,もしかすれば非現実的な期待感を貿易相手国に,特に農業に関しては与えることになりかねないのではないでしょうか。日本の農業従事者がTPPに対して強く反対しているということがあるからです。しかし一方,農業部門を開放するということがあった場合に,日本は製造品の輸出増加ということで十分な利益を得られるでしょうか。

(菅総理)
 現在の日本の農業は,ある部分では大変力強いものを持っております。今回のAPECでも日本の料理については大変高い評価を頂いております。そういう意味では,有機栽培の野菜や,あるいは,いろいろな見事に育ったいちごとか果物類,あるいは花なども非常に力強いそうした分野の成長があります。同時に,農業は一次産業というふうに言われておりますが,本来は農業で生まれたものをいろいろな形で加工する二次産業,そしてそれをレストラン等でみんなからある意味での喜びをもって迎えられるようなそういう三次産業,こういった形でそれらの付加価値を生産者も正当に分かち合うことができれば,あるいは,生産者自身が二次産業,三次産業にも関わるという,そういう形がとれれば,私は日本農業の再生の一つの道筋が見えてくると思っております。

 同時に,現在農業に従事しておられる皆さんの平均年齢は65.8歳,約66歳になろうといたしております。なぜこういう状態が続くのか,若い人が農業をみんな嫌っているのか。私はそうではないと思うのです。つまり,農業がやりたい,あるいは,農業ならやってみてもいいと,そういう思いを持っている若い人はたくさんおられると思うわけです。しかし,残念ながら,日本では農業をやっていなければ農地を買うことができないという農地法が,その後いくつか修正されましたけれども,現在も基本的には残っております。床屋になりたい,大工さんになりたいという時にはもちろんそれなりのトレーニングが必要ですが,そうした障壁がないわけですけれども,農業に関していえば戦後の小作制度をなくす時に,また,力のある人がたくさんの土地を買い占めて大地主になって小作制度が復活する,それを防ぐためということで基本的に自作農を守るという立場で作られた農地法が,その後の時代変化の中で,若い人が農業に自由に参画する,あるいは,いろいろな,現在でも農業法人は認められておりますけれども,一般法人が農業に乗り出すといったことにかなり制約になっております。そういった意味で,私は,若い人が,それこそベンチャー企業のような,起業家精神を持った人が日本の優れた農業の技術をしっかりと持って,そして先程申し上げたように,時に第二次,第三次産業を含めた形で展望して先導してもらえる形をとれれば,日本の農業の再生は可能だと考えております。

 もちろん改革にはいろいろな痛みを伴う場面もありますけれども,まず農業改革の方から具体的な作業を始めたいということで,既に農業の改革本部も早急に立ち上げられるように鹿野農林大臣,あるいは玄葉担当大臣に指示をしているところであります。なんとしてもこの農業の改革と活性化のため,そして日本の貿易やあるいは「ヒト・モノ・カネ」の動きをもっともっと自由にしていく「開国」を両立させるため,内閣一丸となってその道に向かってがんばりたいと,こう考えております。