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OECD50周年記念行事における菅総理スピーチ

2011年5月25日
パリ


 クリントン議長、フィヨン首相、バローゾ委員長、
グリア事務総長、ご列席の皆様。


1.冒頭挨拶

 経済協力開発機構(OECD)が、本年、設立50周年を迎えたことに、心からのお祝いを申し上げます。
 また、日本の総理大臣として、初めて、この伝統あるOECDを訪れることができ、大変嬉しく思います。


2-(1).OECDへの評価(日本の経験)

 議長、
 日本は、OECDの前身であるマーシャル・プランにより最も大きなメリット・利益を受けた国で、OECD設立の3年後である1964年に、最初の非欧米国として加盟を果たしました。当時の日本にとり、OECDの自由化規約に基づいた対外経済関係の自由化が大きな課題で、大変大きな乗り越えないといけないハードルでしたが、この重要な課題を推進したことで、高度成長の道が開けました。


2-(2).今後のOECDへの期待

 OECD設立から半世紀を経て、我々は、新興諸国の台頭などによる国際社会の構造変化という課題、気候変動をはじめとする地球的規模の課題、少子高齢化等、様々な新たな課題に直面しています。
 私は、これらの解決にこそ、OECDが半世紀にわたって蓄積してきた知見が大いに発揮されると考えます。
 近年、OECDが、G20への貢献を強化していることを歓迎します。今後、より多くの新興国を含めた非加盟国が、OECDとの関係を深め、OECDの分析・提言、成功事例やスタンダードの有用性を認識し、国内の諸政策に活用していくことを期待します。我が国としても、我が国自身の経験を踏まえ、これら諸外国に対し、OECDの有用性を説き続けていきたいと思います。


3.震災からの復旧・復興

 議長、ご列席の皆様、
 本年1月末のダボス会議において、私は、人と人とのつながり、すなわち、「絆」の重要性について語りました。
 そのとき、私は、それから一か月余り後に、この「絆」の有り難さを心の底から感じることになると、想像しておりませんでした。
 ご承知の通り、日本は、3月11日未曾有の大震災に見舞われました。それ以来、数多くの国々や国際機関、非政府組織などから、温かい激励や、力強い支援を頂きました。また、サルコジ大統領、クリントン国務長官、グリア事務総長は、災害直後の我が国を訪問し、力強いメッセージを発して頂きました。また、世界各地から、小さな子供たちまでが、僅かなお小遣いを削って寄付をしてくれました。日本国民を代表して心よりの謝意を表します。
 私たち日本国民は、この最も困難な時期に、世界の無数の方々が示してくださった「絆」の強さと、熱い連帯の気持ちを、生涯忘れることはありません。我が国は、示された世界との絆に恩返しをする観点からも、国際社会に開かれた復興を目指すとともに、世界の繁栄と発展のために、国際貢献をこれまでと変わらず続けていきたいと思います。
 議長、ご列席の皆様に、私は確信をもって申し上げます。日本経済の再生は、既に力強く始まっています。
 被災地の経済活動も、急速な回復に向けて動き出しており、エレクトロニクスなどの生産拠点も、6割強が復旧し、残り3割弱も夏までに復旧する見込みです。さらに、今年後半以降には、復興需要が日本経済を回復の方向に牽引すると予測されています。また、東京を始め、日本経済の中心的地域は、これまで通り完全に機能しています。そして、日本の殆どの観光地も、安心して訪問していただけます。


4.原子力安全

 議長、
 震災に伴って発生した原子力発電所の事故については、各国に多大のご心配をおかけしました。この場を借りて改めてお詫び申し上げます。また、各国から様々な技術的、情報的、人的な支援を頂きました。この場を借りて、改めて深い感謝の意を表したいと思います。
 現在、事態は、着実に安定してきておりますが、一日も早く事態を収束させるべく、国の総力を挙げて取り組んでおります。
 今回の事故を深く分析・検討し、原子力の安全性について、人類にとっての「新たな多くの教訓」を深く学び、それを世界の人々や、未来の世代に伝えていくことは、事故を起こした国として我が国の歴史的責務であると考えています。


5.エネルギー政策

 議長、
 日本はこれから、エネルギー基本計画を基本的に見直し、新たな挑戦を開始します。
 我が国は、これまでの「原子力エネルギー」と「化石エネルギー」という「二つの柱」に加え、「自然エネルギー」と「省エネルギー」という「新たな二つの柱」を育てていかなければならないと考えています。そのために、日本は、国家の総力をあげた「四つの挑戦」を行っていきます。

 まず第一は、原子力エネルギーの「安全性」への挑戦です。今回の事故を教訓に、我々は「最高度の原子力安全」を実現していきます。そのために、まず事故調査・検証委員会を立ち上げました。単なる技術的検討だけでなく、人材、組織、制度、そして安全文化の在り方まで包括的に見直していきます。

 第二が、化石エネルギーの「環境性」への挑戦です。
 最先端の技術を用いて、化石燃料の徹底した効率的利用を進め、二酸化炭素の排出削減を極限にまで図っていくことは、大きな意義ある挑戦であると考えています。

 第三は、自然エネルギーの「実用性」への挑戦です。
 技術面やコスト面などの大きな「実用化の壁」を打ち破り、自然エネルギーを社会の「基幹エネルギー」にまで高めていくことに、我が国は、総力をあげて挑戦したいと考えています。発電電力量に占める自然エネルギーの割合を2020年代のできるだけ早い時期に少なくとも20%を超える水準となるよう大胆な技術革新に取り組みます。その第一歩として、太陽電池の発電コストを2020年には現在の3分の1、2030年には6分の1にまで引き下げることを目指します。そして、日本の設置可能な1000万戸の屋根のすべてに太陽光パネルの設置を目指します。

 第四は、省エネルギーの「可能性」への挑戦です。
 我が国は、産業部門の省エネルギーについては、世界の最先端を走っています。次なる挑戦は、家庭とコミュニティにおいて、「生活の快適さを失わずに省エネルギーを実現する」ことです。それは、「エネルギー消費についての新たな文化を創る」という意味での「社会のイノベーション」を行わなければなりません。
 この変革は、これから極めて重要なテーマになっていくでしょう。
 なぜなら、将来いかなるエネルギー政策をとっていくにしても、我々が自らに問うべきは、「エネルギー消費を際限なく増大させる社会が適切か」という問いだからです。
 日本には、昔から「足るを知る」(知足)という言葉があります。この言葉が教えているのは、自らの欲望をどこまでも増大させるのではなく、適切な欲望の水準を知ることの大切さです。
 人類全体が、地球環境問題に直面し、エネルギー問題が様々な紛争の原因となっている今日、我々地球に住む者に深く問われているのは、実は、この問いに他ならないのではないでしょうか。


6.結び

 議長、
 私は、いま、過去50年間を振り返り、更なる50年先に思いを致します。そして、その視野においてOECDに期待される役割を考えるとき、これからOECDが経済分析と政策提言において果たす役割を一層強化し、世界最大の「行動する」シンクタンクとして世界から信頼され頼りにされる存在であり続けることが重要であると、私は信じます。
 先般、震災からわずか一か月あまり後に、グリア事務総長が訪日され、復旧への支援に関する具体的提言を頂きました。それは、まさに、頼りになるOECDの姿でありました。
 3月11日に起こった震災は、多くの村や町を破壊しました。しかし、それは、日本の人々の心まで破壊することはできませんでした。いま、我が国は、復興に向け、国民が心を一つにして取り組んでいます。この国民のエネルギーを、私は、必ず、日本という国の変革の力に、そして新生の力に結びつけていきます。
 日本は、「日本の再生」と「新たな世界的課題」に立ち向かうにあたり、今後ともOECDと共に歩んでいく覚悟です。

ご清聴、有り難うございました。