放射線から人を守る国際基準
〜国際放射線防護委員会(ICRP)の防護体系〜

平成23年4月27日

国際放射線防護委員会(ICRP)は、放射線から人や環境を守る仕組みを、専門家の立場で勧告する国際学術組織です。ICRPは、人が受ける放射線(被ばく)を、1.計画的に管理できる平常時(計画被ばく状況)/2.事故や核テロなどの非常事態(緊急時被ばく状況)/3.事故後の回復や復旧の時期等(現存被ばく状況)−−−の3つの状況に分けて、防護の基準を定めています。

平常時には、身体的障害(*1)を起こす可能性のある被ばくは、絶対にないように防護対策を計画します。その上で、《将来起こるかもしれないがんのリスク(*2)の増加もできるだけ低く抑える》ことを、放射線防護の目的としています。
そのため、放射線や放射性同位元素を扱う場所の管理をすることにより、一般人の被ばくは年間1ミリシーベルト以下になるようにしています(公衆の線量限度)。また、放射線を扱う業務に従事し、被ばく線量を常時観測できる人には、5年間に100ミリシーベルト(*3)という被ばく線量限度を定めています(職業被ばくの線量限度)。

一方、万一事故や核テロにより大量の放射性物質が環境に漏れるような非常事態が起こった場合には、緊急時被ばく状況として、《重大な身体的障害を防ぐ》ことに主眼をおいて対応します。
このため、上記の線量限度は適用せず、一般人の場合で年間20〜100ミリシーベルトの間に目安線量(参考レベル)を定め、それ以下に被ばくを抑えるように防護活動を実施します(*4)。また、緊急措置や人命救助に従事する人々については、状況に応じて、500〜1000 ミリシーベルトを制限の目安とすることもあり得ます。
平常時には起こり得ない身体的障害が、非常時には起こり得ます。そこで、その防護対策が、平常時の対策(将来起こるかもしれないがんのリスクの増加を抑えること)より優先して行われます。

その後、回復・復旧の時期に入ると、住民の防護目安は、緊急時の目安線量よりは低く平常時の線量限度よりは高い、年間1〜20 ミリシーベルトの間に設定することもあります。

佐々木 康人(社)日本アイソトープ協会 常務理事
 (前(独) 放射線医学総合研究所 理事長、前国際放射線防護委員会(ICRP)主委員会委員)



*1. 身体的障害:吐き気、頭痛、皮膚のやけど、下痢、脱毛などの放射線被ばくによって起こる症状で、1000ミリシーベルト以上の被ばくで起こり、それ以下の線量では起こらない。

*2.がんのリスク:高い線量を受けた場合、1000ミリシーベルト当たり10%(短期間の被ばく)または5%(何年にもわたる被ばく)程度、がん発生率の増加がある。なお、100ミリシーベルト以下では、科学的には確認されていないが、これと同じ割合でがん発生率が増加(=100 ミリシーベルトで1%または0.5%)するリスクがある、と放射線防護上想定している。

*3.ミリシーベルト:放射線による《人体への影響の程度》を表す、放射線防護のための単位。

*4. 今回の福島での事故に当たり、日本の原子力安全委員会は、このICRPの定める緊急時被ばく状況の国際的な目安の中から、最も厳しい(安全寄りの)数値=年間20ミリシーベルトを基準に選び、政府はそれに従って避難等の対策を決定した。