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放射線の健康影響
~ 「風評被害」について再び、福島の高校生のフランスでの発表 ~

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 原発事故の後、残念ながら様々な風評被害が福島県の住民を悩ませてきました。本コラムでもこれまで放射線・放射能に対する不安を払しょくし、風評被害を乗り越えるためにはどうしたらいいか、私なりに真剣に考えてきました()。風評被害のひとつに、放射線と健康に関するものがあります。今回も、このことについて考えてみたいと思います。

 私たちは、世界中どこにいても、大地、建物、植物、そして大気、という身の回りの環境すべてに存在している放射線から被ばくしています。いいかえれば、全ての人が放射線源に取り囲まれて生活しています。加えて、全ての人の体内には、約4,000ベクレルの放射線カリウムを含む約7,000ベクレルの放射性物質が存在しています。ホールボディカウンターを使えば、体内に存在する放射線量を簡単に測定できます。放射線の無い世界は、どこを探してもありませんし、人間の体も放射線源のひとつです。

 放射線の影響は、受けた放射線量に大きく依存します。そのことを、これから外部被ばくと内部被ばくに分けて、お話してみたいと思います。

外部被ばくの影響

 原発事故を契機に、福島県を始め各自治体では、空間放射線量マップを公表しています()。この空間線量を発生させている代表的な要因として、放射性微粒子があります。放射性微粒子が体の外にある場合は、外部被ばく、また体内に取り込まれた場合は、内部被ばくとなります。

 問題は、こうした外部被ばく・内部被ばくが、健康に影響するほどの放射線量に達しているかです。放射性微粒子を測定した研究もなされています()。これは、ごくわずかの放射線でも検出できる非常に感度の高い技術を用いて行われたものです。現状においては、福島の原発事故に関して、外部被ばくにしても、内部被ばくについても、住民の健康に影響を与えるとは、考えにくいのです。

 さらに、先ごろ、文部科学省からスーパーサイエンスハイスクールに指定された福島県立福島高等学校 の生徒たちが、フランスで開催された国際高校生放射線防護会議で、福島と他の国内外の地域との外部被ばく線量比較について、発表がありました()。同発表では、福島県内と県外(神奈川県、岐阜県、奈良県、兵庫県、広島県)、外国(フランス、ベラルーシ、ポーランド)の高校生など215人に同じ個人線量計をつけてもらって、外部被ばく線量を測定しましたところ、福島県内でうける線量が0.63~0.97ミリシーベルト/年だったのに対し、県外では0.55~0.87ミリシーベルト/年、海外では0.51~1.10ミリシーベルト/年と大きな差がなかったとのことです。

呼吸や飲食による内部被ばく

 内部被ばくの要因として、呼吸や飲食を通して、放射性物質を取り込むことが考えられます()。

 呼吸による内部被ばくですが、上記したように放射性微粒子は、健康に影響を与えるほどの放射線量ではありません。大気中の放射性物質が健康影響を与える放射線量には、達しないものと思われます。もし放射性微粒子が鼻粘膜に沈着したとしても、速やかに体外に排出されます。つまり鼻粘膜に障害を与えるような、鼻血を来すような放射線量に達しないのです。

 次に食べ物による内部被ばくですが、これは、大きな風評被害となっています。日本生活協同組合連合会が、原発事故後、毎年、一般家庭の日々の食事に含まれる放射性物質の量について、調査しています()。平成26年度には福島の100世帯を含む全国256世帯の食べ物に含まれる放射線量を測定しましたが、測定した全ての食べ物から、放射性セシウムは検出されなくなっています。これは、福島産の食べ物も安心して、美味しく食べられることを示しています。

 なお上記測定した全ての検体から14~59ベクレル/kg程度の放射性カリウムが検出されました。これは原発事故とは関係ありません。というのは、①放射性カリウムは大昔から自然界に存在しており、人工的には原子炉などで生成されないものであり、②上記の測定された放射性カリウムの数値は、福島県内と他府県とで変わりませんし、その数値は平成23年度から現在に至るまで毎年変化がなかったからです。

 放射性カリウム濃度は、食べ物によって異なりますが、米には30ベクレル/kg、牛肉には100ベクレル/kg存在しています。カリウムは、窒素、リン酸とともに植物の3大栄養素のひとつとして知られており、カリウムの0.0117%は常に半減期13億年の放射性カリウムですので、放射性カリウムを避けて生活することは出来ません。食べ物を通して放射性カリウムを体内に取り込む一方、尿中に排泄することによって、成人では体内量を約4,000ベクレルという一定の値に保っています。

 ホールボディカウンターを用いて、福島県南相馬市や三春町の子どもの体内放射線量の測定も行われています。いずれも体内に放射性セシウムが検出されないことから、放射性セシウムによる内部被ばくは心配ないことを示しています()。もちろん放射性カリウムは、子どもにおいても体重1kgあたり50~60ベクレル測定されていますが、これは原発事故とは関係なく、自然界に存在するものなのです。

放射線の影響を科学的に認識することが大切

 繰り返しになりますが、放射線の影響は、受けた放射線量に大きく依存します。個人線量計を用いると外部被ばく線量を、ホールボディカウンターを用いると内部被ばく線量を知ることができます。まずは「放射線の影響」についての科学的な知識を踏まえた上で、ご自分、ご家族の放射線被ばく線量を知ることが、放射線の影響を考える際に、引き続き大変重要なのではないかと考えています。

 福島には、温泉をはじめ魅力的な観光地、おいしい食べ物がたくさんあります。福島の復興を信じる国民のひとりとして、これからも風評被害に対する最新の科学的知見をお伝えしつつ、福島の魅力を探訪してみたいと、思っています。


遠藤 啓吾
京都医療科学大学学長
群馬大学名誉教授
元(公社)日本医学放射線学会理事長
元(一社)日本核医学会理事長


(放射線の単位は、ミリシーベルトに統一しています)


参考文献

  1. 第七十回 風評被害を乗り越えるために①~不安を払しょくするための正しい情報とは~
  2. 第七十一回 風評被害を乗り越えるために②~不安を払しょくするための正しい情報とは~
  3. データベース・放射線測定マップ(原子力規制委員会ホームページ)
  4. Adachi K, Kajino M, Zaizen Y, Igarashi Y. Emission of spherical cesium-bearing particles from an early stage of the Fukushima nuclear accident. Sci Rep 2013; 3: 2554.
  5. 福島県立福島高等学校 スーパーサイエンスハイスクール通信
  6. 科学技術振興機構 2015年3月19日 福島県立福島高等学校 平成26年度SSH生徒研究発表会
  7. 第三十九回 福島における「内部被ばく」の現況について~最近の調査から~
  8. 食品中の放射性物質問題への日本生協連の対応について(日本生活協同組合連合会ホームページ)
  9. ホールボディカウンターによる内部被ばく検査 検査の結果について(福島県ホームページ)
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