岸田総理によるJAPAN Forwardへの寄稿文

更新日:令和5年12月13日 総理の指示・談話など

「信頼に基づき共に創るインド太平洋の未来」

  1. 本年は、日本ASEAN友好協力(東南アジア諸国連合)50周年の歴史的節目である。日本が世界に先んじて1973年にASEANとの対話を開始してから半世紀、ASEANは拡大し、統合し、飛躍的に発展した。今やASEANは世界の成長センターとなるまでに至っている。私自身、11年前に外務大臣に就任し、初外遊で東南アジアを訪れた後、今までのべ32回、各国の空港に降り立つ毎に、国の発展に驚き、同時に変わらぬ人の温かさに触れ、活力溢(あふ)れる地に戻ったことを心地よく感じてきた。長年にわたる、相互の理解と信頼に基づくパートナー、それが日本とASEANのパートナーシップの特徴だ。
     
  2. 日本は主要な貿易・投資のパートナーとしてのみならず、真の友人として、そのASEANの発展と統合の道のりを共に歩んできた。それは決して平坦(へいたん)な道ではなかったが、これまで様々な分野での開発協力を通じ、ASEAN地域の発展を支えてきた。また日本とASEANは互いに主要な貿易相手であり、日本はASEANにとって、米国に次ぐ第二の直接投資国である。近年、日本からASEAN諸国に対し、毎年平均して約2.8兆円規模の直接投資がなされている。ASEANにおける日本企業の事業所数は約1.5万を数え、成長著しいASEANの活力を日本経済にとりこむとともに、ASEAN各国で製品、サービスそして雇用を生み、経済発展に貢献している。
     
  3. 日本とASEANの関係はビジネスにとどまらない。日本とASEANの真の友人としての関係の基盤となっているのは、「心と心」のふれ合う相互信頼関係である。それは、広範な分野における人的交流によって長年にわたり育まれてきた。例えば、これまで日本はASEAN地域から、約4万人の国費留学生を受け入れ、科学技術分野で青少年交流を行う「さくらサイエンスプログラム」では約1.5万人、「アジア高校生架け橋プロジェクト」では約1千人を受け入れてきた。今やASEAN各国の元日本留学生会の評議会(ASCOJA)の会員総数は5万人を超え、貴重な友好のネットワークとなっている。また、これまで「東南アジア青年の船」には約1.3万人、青年交流プログラムJENESYSには、約4.7万人が参加して友情を育んだ。さらにJICA(国際協力機構)はこれまで8千人以上の海外協力隊員をASEAN諸国に派遣し、国際交流基金は「文化のWA」プロジェクトの下、約3千人の日本語パートナーズをアジアの教育現場に派遣してきた。この他、民間でも多くの交流事業が長年にわたり実施されてきた。
     
  4. また、日本とASEANは、1997年のアジア通貨危機、2004年のスマトラ沖大地震及びインド洋大津波、2011年の東日本大震災、2019年からの新型コロナのパンデミックなど、多くの試練を経験する中で、互いに手を差し伸べ合い、互いに「信頼できるパートナー」であることを示してきた。ASEANの著名なシンクタンクであるISEASーYusof Ishak InstituteによるASEAN諸国での世論調査では、日本は主要国のうち、ASEANにとって最も信頼できるパートナーとして5年連続で選ばれている。
     
  5. かたや現在、国際社会は歴史の転換点にあり、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序は重大な挑戦を受けている。ロシアによるウクライナ侵略は、欧州のみの問題ではなく、国際社会全体が依って立つ原則そのものへの挑戦である。インド太平洋地域でも、東シナ海・南シナ海における力による一方的な現状変更の試み、北朝鮮による核・ミサイル活動の活発化、ミャンマー情勢などの試練に直面している。また、我々は気候変動や格差、公衆衛生危機、デジタル化、AI(人工知能)ガバナンスなど、複雑で複合的な課題を抱えている。
     
  6. 世界の成長エンジンであるASEANの経済的繁栄は、地域の平和と安定が守られてこそ成り立つ。そして、ASEANの安定と繁栄は、世界の平和と繁栄に直結する。世界が多くの解決困難な課題を抱え、各地で分断と対立が深まる中、この地域で日本が日本らしさを発揮し、世界のために果たすことができる役割は何か。それは、ASEANとの長年の信頼に基づくこのように一貫した緊密な関係をこれからもさらに発展させ、ASEANと共に、諸課題への解決策を探し、共創し、インド太平洋地域の平和と安定に貢献し、すべての人が繁栄を享受し、人間の尊厳が守られる世界を作っていくことであると考える。私は、誰もが尊厳を持って生きられる平和で安定した世界、持続可能で繁栄した未来を「共創」するために、強固な「信頼」に基づき、これまで以上に緊密にASEANの皆様と協力していきたいと考える。
     
  7. 日本とASEANは、国際法に反する武力による威嚇や武力の行使の放棄、法の支配やグッド・ガバナンス、民主主義の原則、基本的自由や人権、社会正義等のASEAN憲章にも掲げられている本質的な原則を共有している。また、ASEANは我が国の掲げる「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現の要(かなめ)であり、日本は世界の分断によりASEANの分断が助長されないよう、ASEANの ASEAN中心性・一体性を一貫して強く支持するとともに、「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」の主流化を後押ししていく考えである。
     
  8. この1年、日本とASEANとの間では、特別に開催されたものも含め、13もの閣僚級会議が行われ、多くの共同の計画が打ち出された。民間でも双方の若手リーダーを含む経済人の会合や、記念イベントが各地で行われた。そして、友好協力50周年の締め括りとして、12月16-18日、東京にASEAN諸国の首脳をお迎えする特別首脳会議では、過去半世紀の日ASEAN関係を総括し、将来のための新たなビジョンと具体的な協力を打ち出したい。この歴史的な特別首脳会議を、我々の「輝ける友情」を次世代に繋(つな)げる「輝ける機会」としたい。