東京発、グリーンバードがパリで羽ばたく!(2019年冬号)

雨上がりの曇天にも関わらず、40人近くが集まった11月のお掃除デー。

 土曜日の朝10時前。雨上りの空の下、パリ14区の公園前のベンチに稲井佳子の姿があった。集合場所のベンチの上には、グリーンのベストと軍手、ゴミ袋と大型トングの掃除道具一式が置かれている。今日は、月に一度のお掃除日。ホームページの告知を見て、あるいはSNSで拡散される情報を見てやってくる人の中には、数年来の常連もいれば、おっかなびっくり声をかけてくる初参加者もいる。活動は1時間。参加者は周辺を自在に歩きながら、目についたゴミを拾う。本日は40人近くが集まった。

 グリーンバードは、2003年に東京で生まれた、街のゴミを拾うボランティア団体。「きれいな街は、人の心もきれいにする」をコンセプトに始まった運動は日本全国だけでなく、世界にも広まっている。パリチームの誕生は2007年。稲井は、2009年にインターネットで記事を見つけて初参加、2013年からリーダーを務めている。「街で見かけるポイ捨てを残念に思っていた時に、活動を知り、飛び入りで参加しました。掃除をするときれいになる。結果が見えるからでしょうか、気持ちがいいんです。街に貢献している、という小さな満足感もあります」

 リーダーの重要な仕事は、日本の本部との連絡役となり、月々の活動報告をブログの形でホームページにアップすること。更に月1回の清掃場所を決めるのも大事な任務だ。場所選びの基準は、人通りが多くて、ゴミも多い場所だそう。そこには理由がある。掃除をしていると、通行人が声をかけてくる。税金を払っているから町の清掃は役所の仕事、という考えが浸透しているパリジャンにとって、市の職員以外の人が掃除をするのは見慣れない光景なのだ。

「人の仕事を奪っているのでは、とか、誰かに雇われているのか、といった質問が多いのですが、ボランティアだと説明すると好意的な言葉をかけてくれる」と稲井は言う。そしてこう続けた。「ゴミは毎日捨てられ続けています。月に一度の清掃で街をきれいに保つなんて出来ません。私たちの活動の目的は、街を清掃することではないんです」

 きれいな街はうれしい、ポイ捨ては恥ずかしい。その気持ちを多くの人が持って、少しずつ毎日の行動を変えていく。それが街を変えてゆくのだと稲井は言う。その考えが広まるきっかけとして、自分たちが鏡になる。それが稲井の、そしてグリーンバードの活動の意義だと語る。

 10年前は大半が日本人だった参加者は、今では日本人以外がほとんど。参加人数は年々増加し最近は50人越えも珍しくない。「思いが通じている、と嬉しい反面、以前より参加者同士の横のつながりが薄くなったのが悩みです」と稲井。悩みはつきないようだ。「今後は後継者育成のためにも、参加者同士のコミュニケーション作りが課題です」と話す。

 パリチームには、近隣諸国からの問い合わせも舞い込む。彼女のアドバイスで、ドイツのシュトットガルトやカメルーン、モロッコでは“アクション・カーサ”の名のもとに運動が広がっている。「パリが頑張ることで、ヨーロッパやフランス語圏の国に運動が広がっていくのが嬉しいですね」。日本で生まれた活動は10年を経てパリに根づき、その成果は今、パリから周辺国へとふたたび羽ばたいている。


東京から届くお揃いの軍手やベストがユニフォーム。

1時間で集めたゴミは1箇所にまとめて。事前に清掃局に連絡し、活動後、速やかに回収されるよう連携している。

吸い殻やキャンディの包み紙も丁寧に回収。街ゆく人も興味津々で、話しかけられることが多い。

稲井佳子

 1975年日本生まれ。0~2歳をアルジェリア、 8歳~17歳をフランスで過ごす。日本の大学で比較文化学を学ぶ。日系企業に6年間勤務の後2004年にフランスへ。2009年よりグリーンバード・パリに参加。2013年以来、パリチームのリーダーを務める。

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