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硫黄島戦没者追悼式 追悼の辞


 硫黄島戦没者追悼式を挙行するに当たり、この地で亡くなられた方々の御霊に対し、謹んで哀悼の誠を捧げます。

 御列席の皆様におかれましては、御高齢に達する御遺族もいらっしゃるところ、限られた機会に合わせて訪島いただきました。御不便をお詫びいたしますとともに、御遺族を始め、かくも多数の国会議員、関係者の皆様に御参列いただき、厚く御礼申し上げます。

 豊かな自然に包まれた今日の姿からは想像し難いことですが、昭和二十年、ここ硫黄島で一月以上にわたる熾烈な戦闘が行われ、日本軍二万二千、日米両軍で二万八千を超える命が失われました。祖国の安寧を祈願し、遠く離れた家族を案じつつ戦場に散った方々の御冥福を、心からお祈り申し上げます。また、御遺族の方々にとって、最愛の肉親を失った悲しみに耐えてこられた御労苦は、計り知れないものであったことと拝察いたします。

 激戦から六十五年の歳月が過ぎましたが、一万三千柱の御遺骨は、未だ故郷に帰ることなく、この地に眠っておられます。本日、火山灰の混じる土を手で掘り起こし、帰還を待つ方々を探し求めるうちに、痛切な感情が胸に込み上げてきました。

 硫黄島の戦いで日本軍を指揮した栗林忠道陸軍大将が、現地から御令嬢のたか子さんに宛てた手紙には、こう記されています。

 「たこちゃん。お父さんはたこちゃんが早く大きくなって、お母さんの力になれる人になる事許りを思っています。からだを丈夫にし、勉強もし、お母さんの言付をよく守り、お父さんに安心させる様にして下さい。」

 命果てるまで戦った方々は、軍人である前に家庭を守る父親であり、良き夫であり、期待を担う子息でした。国は、御家族にとってかけがえのない存在をお預かりしたのです。元気な姿で帰還いただくことができなかったならば、せめて御遺骨を、御家族の待つ地におかえししなければならない。これは国の責務であります。

 戦後、およそ八十回の遺骨収容が実施されましたが、この度、収容作業を更に徹底することとしました。米国の資料も、改めて丹念に調べ、御遺族や民間団体の御協力をいただき、政府と国民が一体となった取組を進めた結果、本日までに新たに三百柱に及ぶ御遺骨を収容しました。引き続き、滑走路の下を含め、埋設地点を精査してまいります。一粒一粒の砂まで確かめ、一人でも多くの方の御帰還につなげるよう全力を尽くすことを、ここに誓います。今暫くの御辛抱をいただくことを、どうかお許しください。そして、この島に眠る皆様が、寂しい想いをされないためにも、御遺族による慰霊巡拝の機会を増やしていきたいと思います。

 我々は、戦争の惨禍を繰り返さないためにも、この島で生じた悲痛な歴史を風化させることなく、若い世代に伝えていかなければなりません。

 また我々は、尊い命を賭して祖国をまもろうと硫黄島で奮闘された英霊に思いを致し、この国の平和と繁栄をしっかり築いていかなければなりません。このことを改めて胸に刻み、努めてまいります。

 御霊の安らかならんことをお祈りし、御遺族の今後の御平安を切に祈念いたしまして、追悼のことばといたします。


 平成二十二年十二月十四日


内閣総理大臣 菅 直人