平成22年度 防衛大学校卒業式 内閣総理大臣訓示


平成23年3月20日(日)

 訓示に先立ち、今月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震によってお亡くなりになられた方々に深く哀悼の意を表しますとともに、御遺族と被害に遭われた方々に心からのお見舞いを申し上げます。

 今回の地震と津波は、我が国に未曾有の被害をもたらしました。政府は、自然のもたらしたすさまじい被害からなんとしても国民を守るべく、現在も必死の戦いを続けています。この大災害に直面し、自衛隊は全組織をあげて、過去にない規模で救援活動・支援活動を展開しています。孤立した人々を救出し、支援物資を運び、原子力発電所に命がけで放水をする。私はまずもって、危険を顧みず、死力を尽くして活動を続ける自衛隊員諸君を誇りに思うとともに、彼らを支える御家族の皆様に心からの敬意を表したいと思います。同時に、全ての国民に対して、この試練の先に日本の明るい未来を築くべく、力を合わせてこの国難を克服しようではありませんかと、呼びかけたいと思います。

 さて、本日、防衛大学校を卒業する諸君、卒業おめでとう。

 厳しい訓練に打ち克ち本日を迎えた充実感にあふれた表情、新たな挑戦に挑まんとする凛々しい姿に接し、誠に頼もしく、そして心強く感じます。真摯に教育と訓練を授けた五百籏頭学校長を始めとする教職員の皆様に敬意を表すとともに、防衛大学校に様々な形で御協力と御支援を賜っております来賓の方々に、改めて御礼を申し上げます。

 幹部候補生として羽ばたく諸君にまず求められるのは、「国を守る」という我が国の根幹を支える役目を果たすことです。今日の国際社会は、新興国の台頭、テロ活動の蔓延など、「地殻変動」とも呼ぶべき大きな変化の中にあります。特に、我が国の周辺においては、北朝鮮の核・ミサイル問題、中国による急速な軍事力の近代化など、不安定さが顕在化しています。こうした「新たな現実」に対応するためには、日米同盟を基軸としながら、これまで以上に高い構想力と対応力を備えた安全保障政策を実践することが必要です。昨年末に策定した新防衛大綱では、防衛力の運用を重視し、即応性や機動性を備えた「動的防衛力」を構築することとしました。諸君には、この新たな方針に沿って、いかなる危機にも迅速に対応できる体制の整備に努めることが求められます。ここ小原台で身につけた知恵と技能を総動員して取り組んでもらいたいと思います。

 二番目に諸君に期待される役目は、地域や世界の平和と安定への積極的な貢献です。自分の国だけが安全なら良いという一国平和主義は成り立ちません。平成三年にペルシャ湾において機雷掃海活動を行って以来、自衛隊は数々の国際活動に従事してきました。その成果は各国から高く評価されています。私もかつて、カンボジアのタケオを訪れ、我が国PKO活動の原点となった自衛隊の活動を直接視察し、現地の方々が自衛隊の真摯な活動と規律正しさを賞賛する様を目にしました。現在も、ハイチやゴラン高原でのPKO活動、ソマリア沖の海賊対処活動など、世界各地で自衛隊が活躍しています。諸君が培った技能を、是非、こうした活動で発揮してください。それが日本の国益にもつながるのです。

 三番目に諸君に期待する役目は、災害などにより困難に陥った国民を支援することです。国の防衛は、国民一人ひとりに支えられて成り立つものです。自衛隊は「国民とともにある」という原点を常日頃から率先し、国民の理解と信頼を勝ち取らなくてはなりません。冒頭申し上げた通り、今日のまさに国難というべき状況のなかにあって、諸君の先輩は、被災者の救援・支援をはじめ、ありとあらゆる活動に懸命に当たっています。中には、家族が被災しながらも、国民を助けるために任務を遂行している隊員もいると聞いております。こうした献身的な活動を通じ、国民の期待にしっかり応えることで、自衛隊への信頼はゆるぎないものとなります。先輩が築き上げてきた「国民とともにある」、この伝統を受け継ぎ、さらに発展させるべく励んでください。

 これらの役目を果たすに当たって、諸君には、「軍事専門家である前に、立派な社会人たれ」という初代防衛大学校長槇智雄さんの言葉をかみしめてもらいたいと思います。硫黄島の戦いで戦死した栗林大将の名前は、諸君の多くがご存知と思いますが、彼もまた、比類なき武人でありながら、家庭においては、良き夫であり、良き父親でありました。専門家としての能力を発揮する確かな土台として、豊かな人間性を身に着けるよう精進してください。そして、真に国を守る使命感を持った自衛官たることを目指してほしいと思います。このメッセージは、防衛大学校で学んだ留学生の皆さまにも、贈りたいと思います。皆さんが、小原台での経験と日本での日々を忘れず、母国で活躍されることを祈っています。

 卒業生の御親族に申し上げます。皆さまが大切に育ててこられた若者は、こうして逞しく成長しました。そして、我が国だけではなく、世界の安全を築く重要な任務に就きます。大事な若者をお預かりする政府は、自衛隊がしっかりと任務を遂行できるよう万全を期してまいります。どうか誇り高き彼らを温かく送り出していただきたいと思います。卒業生諸君は、御家族、御親族の応援があって今日を迎えられたことを決して忘れずに、常に感謝の気持ちをもってこれからの人生を歩んで下さい。

 歴史の分水嶺に立ち、同時に戦後最大ともいえる試練の真っただ中での卒業を迎えた諸君には、大変大きな期待と責任が課せられています。諸君がこのことを自覚し、新しい時代を切り拓いてくれることを願い、私の訓示とします。

 卒業、本当におめでとう。

平成二十三年三月二十日       
 内閣総理大臣  菅  直 人