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デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会(第5回)
議事録

  1. 日時:平成20年7月10日(木)15:00〜17:00
  2. 場所:知的財産戦略推進事務局内会議室
  3. 出席者
    【委員】 中山会長、上野委員、大谷委員、加藤委員、上山委員、北山委員、東倉委員、苗村委員、中村委員、宮川委員
    【参考人】 別所参考人
    【事務局】 素川事務局長、松村次長、吉田次長、山本参事官、大路参事官
  4. 議事:
    • 権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)の導入について
    • (参考人ヒアリング)
      ・別所 直哉 ヤフー株式会社 法務本部長
      ・上野 達弘 立教大学法学部准教授

○中山会長 それでは、ただいまから第5回のデジタル・ネット時代における知財制度専門調査会を開催いたします。
 本日は、ご多忙のところご参集いただきまして、誠にありがとうございます。
 本日は、権利制限の一般規定、いわゆる日本版フェアユース規定の導入に関する議論を進めてまいりたいと思います。
 まず、本日、参考人としてお呼びしている方々をご紹介申し上げます。
 ヤフー株式会社の別所法務本部長です。本日は上野委員にもご説明をお願いすることになっております。
 本日は、事務局から資料に基づいて前回までのフェアユース規定に関する議論について説明をちょうだいした後、別所参考人及び上野委員からそれぞれご説明をお願いしたいと思います。
 それでは、まず事務局から資料に基づいて説明をお願いいたします。

○吉田事務局次長 それでは資料1をご覧いただきたいと存じます。
 権利制限の一般規定、日本版フェアユース規定の導入に関する検討の視点というタイトルで整理をさせていただいております。
 2枚目につけておりますのは、第2回の会議で配布させていただきました資料でございまして、第1回から第2回にかけまして、議論の中ではフェアユースをテーマにした議論が活発に行われておりました。2ページのものはそれを整理したものでございます。これは、既に提出させていただいた資料でございます。
 そういったところも含めまして、1ページのところに、このフェアユース規定の議論をするに当たりまして、こういった視点を一つ踏まえてはどうだろうかということで書かせていただきました。
 まず、1.は権利制限の一般規定の必要性についてということでございます。これまでの議論の流れからいたしますと、事務局としてはこの権利制限の一般規定の導入について、大きな異論はないように受け止めておりますけれども、ただそこの@)からありますように、仮にこういうものを導入する場合には、こういう点に留意すべきではないかという点を幾つかまとめております。
 最初は、権利制限の個別規定の改正や裁判所の柔軟な法律解釈により対応できるのではないかというようなこと。
 あるいは、2番目は、日本人の法意識などに照らしリスクを内包した制度というのはうまく機能するのか。
 3番目に、様々な要素により社会全体のシステムが構成されている中で、このフェアユース規定の導入ということで、経済的効果について、あまり大きな課題をかけるべきではないではないかということ。
 それから、4つ目は、法体系全体との関係や諸外国の法制との間でバランスを欠くことはないだろうかということで、幾つかの点に留意しながら議論を進めていってはどうかということだと思います。
 2.は仮に一般規定を導入した場合の論点として挙げられるものとして、大きく4つに分けて整理をしてみました。
 最初は、この一般規定の趣旨でございますが、どういうものとしてこの規定を位置付けるかということでございますが、これまでに出されました意見を少し整理いたしますと、(ア)といたしまして、実質的な不利益はないにもかかわらず、形式的には権利侵害に当たる事例を解決するという趣旨です。それから、(イ)といたしまして、予想できなかった技術の進歩に迅速に対応するためという趣旨。(ウ)といたしまして、新たなビジネスに挑戦しやすい法的環境を整えるため。
 このような趣旨というのが、これまでの議論の中でも出てきたかと思います。
 それから、(2)は一般規定を導入した場合の条件整備ということでございますけれども、やはり紛争や利害調整のため、法制度だけではなくて、例えば業界での一種のガイドラインですとか、あるいはADRなどのような調整機能、そういった環境整備もあわせて考える必要があるのではないかというご意見もございました。
 また、(3)は、一般規定と従来からございますような個別の規定、この関係でございますけれども、必要な権利制限については、個別規定での対応を図りつつ、いわゆる「受け皿」規定として個別規定の末尾に一般条項を設けるという考え方でよいか。この考え方は、相当共有されていたのかなという感じがいたしますけれども、もう1つの論点として挙げております。
 それから、(4)は、一般規定の具体的な規定振りということでございまして、一般規定ということになりますと、考慮事項を書いていくということになりますけれども、そういうものにはどういうものが必要なのか。こういったあたりを一つ論点として考えながら議論していただいてはどうだろうかということでございます。
以上でございます。

○中山会長 ありがとうございました。
 次に参考人としてお越しいただいておりますヤフー株式会社法務本部長の別所様からお話を伺いたいと思います。
 別所様には、企業の立場からフェアユース規定の必要性等についてのご説明をお願いしたいと思います。
 それでは、よろしくお願いいたします。

○別所参考人 ご紹介いただきましたヤフーの別所と申します。本日は、よろしくお願いいたします。
 私のほうからは、ビジネスをやっている立場から、フェアユースについて、どう考えているかというような話をさせていただければと思っております。
 ただ、今まで考えてきたことのお話をさせていただくことが中心になりますので、果たして私が適任かどうかということはちょっと自信がないところではあるんですけれども、問題意識がどこにあって、どういうふうに考えているのかということをご説明させていただけるとありがたいというふうに思っております。
 お手元の資料にそって、お話をさせていただければと思っております。
 2ページ目から、簡単にご説明させていただきます。
 ここに書いてありますことは、もう既にいろいろなところで言われていることではないかと思っております。
 ここでちょっと書いていないという部分について、若干補足させていただきますと、私どもは、インターネットという通信手段を使ってビジネスをしております。どんなことを今感じているかというと、産業振興ということを考えたときに、今の日本の著作権法は、やりにくい部分があるなというふうに思っていて、その結果、どんなことが起きているかというふうに思っているかというと、本来、国内にたまるべきデータとか、情報というのが、不完全なゆえに、国外に流出している、国外にたまりつつあるという感じを持っております。
 データの量が、すべて産業の規模をあらわしたり、財貨をあらわすものではないというふうにもちろん思っておりますけれども、やはり必要なデータとか豊富な情報というのが、国内できちんと蓄積されて、それが通信手段を通じて、流通をしていくということが極めて重要ではないかというふうに思っております。
 単なる数字のデータもありますけれども、インターネットを通じて流通しているデータの大半は創作物だという理解で私どもはおりますので、まさにその創作物の流出ということが、国外に対して起こっていかないように、国内できちんとそういうデータがたまって、国内での流通が盛んになり、そういうものを使った新しい創作物とか創造というものが増えていくということが日本の発展にとって極めて重要ではないかなというふうに問題意思としては持っております。
 検索というサービスを代表例として私どもは持っておりますので、主には検索ですとか、あるいは現在ですとビデオ、投稿サービスとかもやっているんですけれども、そういうものを通じて、日常そういうことを感じざるを得ないような状況にあるというふうに思っております。
 流れ出ているデータがどこにたまっていると考えているのかというと、第1には、アメリカ合衆国であって、検索でいうと、最近注目のロシアというのが伸びてきていて、両国とも世界中からあらゆるデータを収集して、分析して、いろいろな形で使っているということが起きていると思っております。
 こういう問題に対処していくときに、考えていただきたいのは、同じルールでビジネスとしては国外にいるコンペティターの方たちと競争しているというところでございます。
 今日の主題でありますフェアユースというところでいいますと、米国では、そのフェアユースという考え方があって、いいサービスができるにもかかわらず、日本ではなかなかできない。
 今まで国境を越えるというのはなかなか大変だったので、各国別の制度が多少ずれていても、それほど影響はなかったんだと思いますけれども、ご存じのように、検索でいうと、グーグルさん、あるいはマイクロソフトさんがありますけれども、両者ともすべて検索のサービスは、アメリカに本体があって、アメリカで開発して、日本語化もアメリカでやっているということです。
 ヤフーの場合には、日本にもそれなりのエンティティがありますので、開発協力はしているという形ですけれども、やはり本体はアメリカにあるということです。
 画像の投稿をしているユーチューブさんというサービス、これはちょっとフェアユースとは関係ない話ですけれども、追加させていただきますと、日本語でサービスしていますけれども、日本にエンティティなど持っているわけではなくて、アメリカに存在したままビジネスをしていると。
 つまり物理的な移動を伴う必要はない状態が、既にデジタルデータを使ったサービスといいますか、ビジネスについて、起きている状況ですので、そこで、国の間で制度に違いがあると、出遅れるというようなことが起こりかねない。その結果、先ほど言いましたように、本当は日本でちゃんと集積されて分析されて、あるいは再生産とか再創造のために使われるべきものが、外国の中で蓄積されつつあるということかと思います。
 もっともそれはどんな国にあったって、国内から利用できればいいじゃないかという意見はもちろんあると思うんですけれども、各国、それぞれのビジネスにあった、加工をしていくというのは、文化の差とかがありますので、それぞれの国にきちんとそういうエンティティが存在していくというのが最も望ましい姿だというふうに思っていますので、そこを何とかならないかというふうに思っています。
 その問題意識の1つが、フェアユースの導入ということであります。
 3ページ目に書かせていただきましたが、現行法は限定列挙型で、いろいろご努力いただいていて、大分できる部分もあるいは検討いただいているところが広まっているという意識は私どももちろんございます。
 検索についても大分検討していただいたりしていますし、通信途上における一時的固定ということも一定の方向での進みというのはあるんだというふうに思っております。
 リバース・エンジニアリングについても着手いただいているというところがあって、そういうことをきちんと検討していただいているという意識はあるんですけれども、ただ起きているものとか、他国で発生してしまっている新しいビジネス形態にすべて追いつけているのかというと、そこはかなり難しいのではないかと思っております。
 これを事前にすべて予測するというのは、かなり難しいというのは一方では事実だと思っています。インターネットというもので、検索がこれだけ使われるようになるだろうということを早いうちから予測できた人はかなり少ないと思っています。先ほど言いましたユーチューブみたいなサービスもこれだけいっぺんに普及するだろうということを予想できた方々はなかなかいないのではないかと思っています。
 インターネットオークションというものも私どもはやっておりますけれども、そういうサービスについてもそうで、そういうものをあらかじめ予測して、限定列挙型で対応していくというのは、事実上困難だというふうに思っていますので、限定列挙型を続ける以上、グレーエリアが出現して、それにどう対応しようかということをその都度時間的に遅れながら追いかけていかざるを得ないというところでございます。
 そこは、グレーエリアなんだけれども、ビジネスをやっているんだったら、挑戦しなさいというご意見をいただくことはあるんですけれども、私の肩書きも一応法務本部長ですし、法務的な見解はどうなんですかというふうに聞かれたときに、自信を持ってここは大丈夫ですというようになかなか言い切れないというところがあります。
 民事的な問題のみであれば、ある程度走れるところがあるのかもしれませんけれども、著作権法のように、民事規定であると同時に、刑事罰がついているようなものについて、先んじて走るというのは、なかなか難しいというのが正直なところで、そこはどうしてもきちんとしたコンプライアンスを考える会社であればあるほど、保守的にならざるを得ないというのが事実だというふうに思っています。
 これは、私どもだけではなくて、やはり何社か、いろいろな会社さんの法務の担当者とお話をさせていただくと、結局はそういうところに結論としてはならざるを得ないというところです。そこをきちんとしていただくためには、フェアユース、新規サービスの創出に対する萎縮効果がでないような、何らかの仕組みをご用意いただければ非常にありがたいというふうに思っております。
 4ページ目のところに、インターネットを例に、フェアユースのお話をちょっと書かせていただいておりますけれども、検索についていうと、データをためるのもそうなんですけれども、検索結果の表示をどうするかというと、サムネイルの部分はどうなるか、動画の検索が進んできていますので、アメリカの場合は、動画は、サムネイルにポインターを当てると、ある程度動画が動いたりとか、音声が動いたりとか、音楽が聞こえたりというところまで来ています。
 そういうものをどういうふうに考えていくのかというところを、向こうはフェアユースということで、いろいろなことを考えているんですけれども、そういうものを1つ1つ、考えながらやっていくためのバックグラウンドとしては、そのフェアユースというものがうまく機能しているのではないかというふうに思っております。
 次のページにも書かせていただきましたけれども、デジタル化・ネットワーク化社会の発展を促していくには、やはり規定というのが必要不可欠だというふうに思っています。
 これはもう既にお話することではないのかもしれませんけれども、インターネットというサービスが一方でもたらしているということは、著作物の利用に関する市場の失敗があちらこちらで起きているのではないかなと思って、そこのところをすべて網羅的にきちんとした対応をしようとすると、それもかなり困難であろうなというふうに思っています。
 ただ、一方で、フェアユースを考えていただくときに、権利者の方とのバランスというのは当然必要だと思っていますので、どこかでそのバランスを図っていただく必要があると思っていますけれども、市場の失敗というような状況を解決するようなスキームという1つの方法としてフェアユースということは、有用ではないかというふうに思っております。
 合法利用のルールができることで、違法な利用の減少とか、著作物の有償利用につながっていく可能性というのも増えていくのではないかというふうに期待をしているところでございます。
 6ページ目は、一番最初にお話しさせていただいたことをもう一度述べさせていただいているんですけれども、基本的に、このままいくとフェアユースというようなスキーム、あるいは著作物の利用について、より柔軟な法制を持つ国に、情報資産というのが移転してしまう可能性というのをきちんと考える必要がある時期に来ているのではないかという問題意識を持っているところです。
 インターネット上の情報収集と蓄積について、先ほども述べましたけれども、7ページ目に若干書かせていただきました。
 基本的に先ほどお話しさせていただいたテキストとか音声、画像の解析を行って新規サービスに適用したり、検索エンジンの情報処理のサービスのためのバックエンド処理ですとか、先ほど言いましたフロントエンド側でどう見せるか。あるいは、既に検討していただいていますけれども、通信途上の一時固定の話、あとデジタルアーカイブのようなものを、まさにこれは存在している創作物というものをどういうふうに記録して、どういうふうに管理していくのかということも1つではありますけれども、そういうものをどうしていくのかということも収集のあり方として、考えていく必要があるのではないかと思っております。
 次のページに行かせていただきますと、インターネットについて、アメリカの通信品位法に関する最高裁での判決の部分を持ってきたんですけれども、なかなか全体像がまだ見えないといいますか、いろいろな手段に使えるので、最終的にどのようなコミュニケーションの手段として存在しているのかわからないんですけれども、世界的な新しいコミュニケーション手段というのが登場している中で、それを使った表現とか、創作とか、情報の伝達行為というものをどういうふうに考えていくべきなのかということをいったん考えるべきなのかなというふうに思っております。
 ここには、先ほど言わなかったことも多少追加させていただいていますけれども、音声、画像、動画の「写りこみ」とか、それからオークションが代表例になりますけれども、販売目的での商品画像の掲載の問題。あるいはウェブ2.0というふうに言われて久しいですけれども、その中で起きてきている、いろいろな創作物のマッシュアップといわれている部分ですとか、パロディ等の二次創作についてどのような取扱いをするのかというところが、現在グレーなものに置かれてしまっているというふうに思っております。
 私ども、著作物についていうと、かなり慎重な取扱いをしておりますので、こちらで、動画の投稿サイトで怪しいものがあれば全部落としてしまうということをやっているんですけれども、著作権をきちんと大切にしてくださいというメッセージを利用者の方に伝えるには、やはりどうしてもなかなか難しいなと思っているのは、どこまでがよくて、どこまでが悪いかというメッセージを逆にいうと伝えにくいところがあって、一方で、同じ土俵で起きている外国の会社のやっているサービスと、日本の会社のやっているサービスで、できることが違いますという見え方が既にしていて、特にそれで誰かが捕まっているわけではないという状況の中で、何がよくて何が悪いんですかということの説明さえできない状況に今置かれつつあるのかなというのが、並行して感じているところであります。
 ここのメッセージもきちんと伝えていかないと、著作権を守っていくということもやりづらくなるというふうに思っていますので、利用者の方々にきちんとそこを伝えていくためにも、できるだけ明確なルール、利用者の一般的な利用感覚も含めて、あるいは著作権者の方々の満足も含めて、きちんとした納得ができる落としどころを探す必要があって、その落としどころを探す仕組みとしてフェアユースというのを考えていただければというふうに思っております。
 9ページ目のところに、フェアユースの流れ、ノーティスアンドテイクダウンのことを書かせていただいているんですけれども、これは、私どもの意見ですけれども、米国においてインターネット上で、いろいろなサービスが著作権という権利とどういうふうに向き合っているのかというと、フェアユースというものとノーティスアンドテイクダウンとこの2つの仕組みで、産業の均衡を図っているのではないかというふうに思っております。
 実は、一回アメリカの方からお聞きしたことがあって、それをちょっと文献的にサポートできるようなものがあれば、用意したかったんですけれども、随分前に聞いて、そのときに文献がなかったものですから、口頭でちょっとお話しさせていただいているんですけれども、ノーティスアンドテイクダウンというものもフェアユースと並んで、やはり産業のあり方を支えているんだというふうに思っています。
 ご案内のように、多分その部分が1つのコアなので、アメリカとしては、FTAと一緒にせっせとノーティスアンドテイクダウンの仕組みの輸出をしているというような実態になるのではないかというふうに思っております。
 既に、もう7、8年前、アメリカの国務省の方とお話をしていて、産業政策としては、特許から軸足を移して、DMCAなどで頑張っているという話を聞いていますので、そこでの産業政策のとり方、日本も少し遅れてでも、後追いをしていくというようなことが必要なのではないかというふうに思っております。
 ノーティスアンドテイクダウンとフェアユースの共通項として、どういうことを感じているかというと、両方とも、基本的な枠組みだけあって、実際の個別の事案についていうと、フェアユースの場合、最終的には裁判所ですけれども、裁判所での解決を図っていくというようなところ、カオスの状態を一定程度保持できる仕組みで、その中で、解決手段を探していこうという仕組みだと思っています。
 ノーティスアンドテイクダウンのほうは、その仕組みを採用することで、いろいろな問題が起きたときに、権利者の方々もその問題の民事的な対応に取り組まざるを得ない側面があって、そういう意味でいうと、民民での解決のためのモラトリアムといったらおかしいですけれども、そういうようなものをつくり出して、新しいビジネススキームを歩み寄って考えていくための1つの仕組みになっているのではないかなと考えているところでございます。
 そういう両者とも一種のモラトリアムを設けることで、よりよい解決方法をビジネス的に見つけていくというようなことを提供しているスキームということで、この組合せというのが有効に働いていくというふうに私どもとしては理解しております。
 こういうものを軸として、コンテンツ産業を中心に、情報の流通が活発になれば、大きな経済効果が生み出されるというふうに私どもとしては思っております。
 下に注釈を書かせていただきましたけれども、アメリカで、1つの文献なので、これが100パーセント正しいわけではないと思っていますけれども、参考としては、アメリカにおけるフェアユースの経済効果が4兆5,000億ドルと言われていますし、こういうような調査結果もありますので、一定のインパクトというのは期待することができるのではないかというふうに思っております。
 最後に、簡単にまとめの文章を置かせていただきましたけれども、先ほどもちょっとありましたけれども、何が起きてくるのかわからないし、いろいろなイノベーションが技術的に起きてくると、そういう中で、著作権というのをどういうふうに取り扱っていくのがいいのかということについて、やはり社会的なコンセンサスとか、権利者等の間の調整というのにかかわっていく時間が必要で、それをあらかじめ予見して、すべてをルール化するのは難しいと思っております。
 そういう意味でいうと、明確なルールを前提とするものから、できているものをどう取り扱っていくのかというルールを社会の中から、創設していくような枠組みを法律として提供していただくというような仕組みの展開というのを図っていただければ非常にありがたいというふうに思っています。
 その1つの方策が、フェアユースとノーティスアンドテイクダウンというふうに私どもとしては考えているということでございます。
 総論的なお話で、細かいデータとかをお示ししてお話できるようなものではなかったんですが、私ども、現実にビジネスをやりながら、日々何を感じていて、どういうふうになったら、より望ましいのかというところの思いをちょっとお話しさせていただきました。
 以上でございます。

○中山会長 ありがとうございました。
 それでは、続きまして、上野委員からお願いいたします。

○上野委員 上野でございます。
 本日は、調査会の委員でありながら参考人としてプレゼンの機会をいただきまして、誠にありがとうございます。先ほどより、既に立ち入った内容のご報告がございましたし、私自身、本調査会の第2回の会合におきまして、コメントの機会をいただきましたので、若干重複もあるかもしれませんが、差し当たり確認の意味も含めまして、レジュメに沿ってお話しさせていただきたく存じます。
 まず、前提といたしまして、これは申すまでもございませんけれども、我が国の著作権法の著作権制限規定は、多数の個別規定が限定列挙されております。ただ、ここで看過できませんのは、従来の議論におきまして、この権利制限規定を厳格に解釈すべきとする見解が有力だったということであります。これは、著作権法というものは、そもそも「著作者の保護」を大原則としているのであるから、「権利の制限」というのはあくまで「例外」なのだという考え方に基づきます。
 しかしながら、理論的に考えますと、このように著作者の利益というものを利用者の利益に対してあらかじめ優越的地位に置くという考え方は、必ずしも自明のものではないのではないか、むしろ著作権法の目的は、著作物の保護と利用の調整にあるのではないかと考えまして、私自身これまでも著作権について、あるいは著作者人格権について、権利制限規定を厳格解釈することを批判的に検討してきたわけであります。
 このように、著作権法の目的を「保護と利用の調整」ととらえる方向性それ自体は、具体的な説明の仕方は論者によって異なるといたしましても、現在では一般化したと言っていいのではないかと思います。
 また、現実的に見ましても、もし権利制限規定の厳格解釈を貫きますと、形式的には権利侵害が世の中にあふれているということになりかねません。
 例を挙げればきりがないわけでありますけれども、例えば、企業内複製は著作権法30条の私的複製の適用を受けませんので、権利処理されていないコピーは基本的に複製権侵害になり得ます。また、いわゆる「写り込み」、これは例えばテレビ放送で画面の背景に絵が写り込んだというような場合ですけれども、これも形式的には著作権侵害となってしまいかねないというわけであります。
 ただ、たとえ形式的には侵害となってしまうという場合でありましても、解釈論で対応できる場合もあると考えられます。実際、従来の裁判例におきましても、市バスの車体事件ですとか、いわゆる雪月花事件と呼ばれているものなどがあり、これらは侵害を否定したものであります。
 また、他の解釈論といたしましては、既存の制限規定の類推適用も考えられます。確かに、従来の裁判例におきましては、これは先ほど述べた厳格解釈説の影響からかもしれませんけれども、著作権の制限規定を明示的に類推適用したものは見られないわけであります。しかし、今後は厳格解釈を放棄し、類推適用を活用するようにするだけでもそれなりの問題は解決できようかと思います。
 また、権利濫用によって侵害を否定するという解釈論もあり得ますけれども、これはやはり伝家の宝刀というイメージが強いのか、その活用というのは余り期待できないのではないかと思います。
 あるいは、黙示的許諾による解決も考えられます。例えば、他人のウェブサイトを社内でプリントアウトするということ、これはよくあることだと思うのですけれども、基本的にはウェブサイトの開設者による黙示的許諾の範囲内と言える場合が多いと考えられます。
 このように、さまざまな解釈論によって解決できるケースもそれなりにあると考えられます。しかし、たとえ最終的には裁判所が侵害を否定してくれるといたしましても、明文の規定および起草者の見解や通説に従えば権利侵害になってしまうという以上、やはり萎縮効果が生じるということは否定できないものと考えられます。
 このように、解釈論だけでは十分解決できないとすれば、これは立法によって対応すべきということになります。立法論といたしましては、まず個別規定の改正が考えられます。個別規定の改正は、一定の定型的な行為について明確な判断基準を獲得することができるというメリットがありますので、今後もこうした作業が意義を失うことはございません。
 しかし、たとえ審議会等による個別規定の見直しが機敏に行われたといたしましても、一連の個別規定だけで適切に解決し尽くすことのできない問題というものがやはりあるのではないかということが問題になります。それがあるとすれば、個別規定だけではなく、権利を制限する何らかの一般の条項を設けるという立法論があわせて検討されていいのではないかと、私自身このように考えまして、今日添付資料にさせていただきましたような講演を昨年9月にさせていただいたわけであります。
 なお、我が国著作権法にアメリカ法におけるようなフェアユース規定を設けるべきだという主張は、実はかなり以前からございました。しかし、それは法体系あるいは歴史的経緯の違いを理由に、これまでさほど支持を集めてこなかったように思います。確かに、アメリカ法におけるフェアユース規定と同様、我が国著作権法の権利制限規定の冒頭に一般条項を置くということに対しましては、これは単に条文の位置だけの問題なのかもしれないのですけれども、結論として抵抗が強いのではないかと思います。
 そこで、日本法に権利制限の一般条項を置くといたしましても、30条から49条という権利制限規定の末尾に、そこまでの個別規定によってカバーできなかった行為ではあるけれども、個別規定が定めている行為と同等のものについて拾う「受け皿規定」として一般条項を置くという立法論は、我が国でもあり得る話なのではないかと考えたわけであります。
 例えば、著作権法49の2として、「第30条から前条までの規定に掲げる行為のほか……」というような規定を設けるようなイメージであります。
 ただ、こうした立法論に対しましても、やはりこれは法体系の違いなどから違和感を覚える向きもあろうかと思います。ただ、ここで申し上げたいのは、こうした受け皿規定のような規定手法それ自体は、現行著作権法においても既に見られるということです。つまり、20条2項には、同一性保持権の侵害とならない改変といたしまして、1号から3号までの個別規定に加えて、4号が「前3号に掲げるもののほか、やむを得ないと認められる改変」というように、一般条項としての受け皿規定を定めているわけであります。
 しかも、同号の規定は、「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ない改変」というように、考慮すべき要素をあらかじめ明示した一般条項であります。これは、一般条項の柔軟性を基本的には維持しながらも、その適用に一定の縛りをかけたものと理解できます。
 そこで、我が国著作権法にもし著作権制限規定の一般条項を置くといたしましても、このように何らかの考慮要素を明示すべきではないかと思われます。では、具体的にどのような要素を掲げるか、そしてまた、それを限定列挙的なものにするのか否か、こういったことは現時点では全くの未知数でありまして、アメリカ法や条約上のスリー・ステップ・テストなども参考にしつつ、今後の検討に委ねられることになります。
 ただ、本日は全くのイメージということで、既に著作権法に見られる表現を借用した条文イメージといたしまして、「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様……に照らし」、「やむを得ない」とか「必要」とか「正当」とか、あるいは「公正」というのもあり得るかもしれませんけれども、そのようなものと「認められる場合は、その著作物を利用できる」と、こういうようなものを規定イメージとして載せておきました。もちろん、その後にただし書きをつけて、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない」と規定することも考えられます。
 このように、権利制限の一般条項を受け皿規定として設け、そこで考慮されるべき要素を明示するという立法論は、我が国においても現実的なものとして検討に値するのではないかと考えた次第であります。これまでも「日本版バイ・ドール」ですとか「日本版LLP」といったものがありましたので、これに倣って、私これを勝手に「日本版フェアユース」と呼んだわけでありますけれども、これは先ほどのような抵抗ないし違和感を少しでも回避できればと考えたことによります。
 その後、昨年10月に公表されました中山先生の体系書におきましては、本文ではフェアユースの導入に反対されつつ、脚注では受け皿条項と同様の「小さな一般条項」を設けることは「考えられる」としておられるのを拝読いたしました。私は性格がポジティブなのか、よくわかりませんけれども、むしろこの脚注のほうに着目いたしまして、中山先生は受け皿規定を否定しておられないと前向きに受けとめた次第でございます。ただ、その後はより明確に積極的なお考えを示され、これを受けて『知的財産推進計画2008』におきましても、「包括的な権利制限規定の導入も含めて……早急に検討を行」うこととされているわけでございます。
 このように見てまいりますと、我が国においても権利制限の一般条項を日本版フェアユースとして設けることを検討すべきだという、昨年から私が主張してまいりましたその所期の目的は――これは勝手な思い込みかもしれませんけれども――今年に入ってから急速に展開された議論状況からいたしましても、あるいは本日このような機会をいただいたことからいたしましても、ある意味では既に達成されたということかもしれません。とは申しましても、検討が始まったというだけで自己満足して、あとは他人任せというのも無責任な話かもしれませんので、詳細な検討はなお今後の課題に委ねられるといたしましても、最後にいくつかの課題について触れておきたいと存じます。
 まず第一に、条約適合性についてでございます。これは国内法に権利制限を設ける条件として条約上定められているスリー・ステップ・テストに合致するかという問題であります。条約適合性に関しましては、本調査会の初回会合におきましても、中山先生のほうからエンフォースメントという観点から見れば、条約を国内法と同様に絶対視すべきではないというご指摘もございました。この点はともかくといたしましても、スリー・ステップ・テストのようなあいまいな基準があるにすぎない領域につきましては、もしかしたら条約違反になる可能性があるというだけで、本来であればできる可能性のある法改正を必要以上に自制してしまうことが仮にあるとすれば、これはいかにももったいない話であろうと思います。しかも、本日は詳しく述べられませんが、実際のところ、権利制限の一般条項を設けることが、少なくとも明らかにスリー・ステップ・テストに反するということはないと思います。
 第二に、一般条項を設けると侵害判断が不明確になってしまうという反論があり得ます。一般条項は個別規定に比べますとその適用範囲が不明確なのは確かであります。ですから、もし現状の限定列挙された制限規定が本当に厳格に適用されているというのであれば、明確性という観点からは、確かに現状の方が望ましい状況にあると言えるわけでありますけれども、既に近時の裁判例におきましては、さまざまな法律構成によるいわば「不文の権利制限」とでも言うべき解釈論が少なからず行われているわけでございます。その意味では、既に現状において侵害判断は不明確なのではないかと思われます。
 例えば、いわゆる雪月花事件におきましても、これは照明器具のカタログに掲載された和室の写真の中に書が小さく写り込んでしまったという事件でありますけれども、判決は原告の書が縮小されているために「筆の勢い」といった「特徴的部分を感得」できない、こういう理由で侵害を否定したわけでありますけれども、この判決に対しては、結論はこれでいいとしても、「特徴的部分を感得」できないというのが理由だとすれば、その書の部分だけを切り取ってキーホルダーに利用しても著作権侵害が否定されてしまうことになって不都合ではないかとか、あるいは、本件は書だったからこのような理由づけでよかったかもしれないけれども、これが書でなく絵画だったら同じ理由づけは妥当しないのではないかといった批判が考えられます。
 結局のところ、判決が「筆の勢い」といった「特徴的部分を感得」できないからという理由で侵害を否定したのは、結局、現行法に、いわゆる写り込みに関する制限規定やあるいは一般条項がないことから、やむなく採用されたいわば表向きの理由づけではないのかと思われます。
 判決がこの事件で侵害を否定した背景には、いわば価値判断として、おそらくもっとさまざまな事情が考慮されていたのではないかと思います。すなわち、本件著作物が絵画でなく書であったという「著作物の性質」に関する事情であるとか、本件被告は、キーホルダーのように原告著作物をメインに用いたわけではなく、照明器具のカタログに掲載された和室の写真の中に小さく写り込んでしまったにすぎないという「利用の態様」に関する事情、あるいは、被告は必ずしも意識的にこれを取り込んだわけではないという「目的」に関する事情、こういったものが総合的に考慮されて本件においては侵害が否定されるべきだという結論が導かれたのではないかと思われるわけであります。
 しかし、実際の判決は「筆の勢い」といった「特徴的部分を感得」できないから侵害にならないとかしか述べていませんので、いわば本音の理由と申しましょうか、価値判断は客観的に知り得ないままとなったわけであります。そうである以上、本判決の出した結論がその理由に照らして妥当だったのかどうかを検証することもできないわけであります。一般論として言えば、これでは裁判官によるアドホックな判決を抑止することができないおそれがあるわけでございます。
 そうであるならば、一般条項を設けて、そこに考慮すべき要素をあらかじめ明示しておけば、裁判官はこの一般条項を適用するに当たって、そこに掲げられた考慮要素に沿って判断することを強いられるわけでありますし、またそうした判断を裏付ける理由ないし価値判断が可視化されると申しましょうか、客観的に検証可能になることを期待できるのではないかというわけであります。
 さて、以上のように、私は結論といたしまして日本版フェアユースを積極的に検討すべきと考えてきたのでありますが、その適用範囲につきましては、広くも狭くもあり得ると思います。
 と申しますのも、日本版フェアユースというものによりまして、まずカバーされると考えられますのは、いわば防御的な場面ではないかと思います。つまり、著作権法の規定を厳密に読むと社会において権利侵害が常態化してしまうということになるので、既に現実の世界で行われている行為について過度に訴えられるおそれがないように、その侵害を否定する規定をつくるべきだというものであります。
 これに対して、言葉は余りよくないかもしれませんけれども、いわば攻撃的な場面といいましょうか、一般条項ができれば、従来はやってこなかった新しい活動を展開できることになるのではないかということも考えられます。具体的にはさまざまなものが含まれますけれども、例えばパロディがより許されやすくなるのではないかとか、あるいは研究目的のサイトを開設することがより許されやすくなるのではないかというものが挙げられます。
 この後者の例といたしまして、例えばアメリカには、現在UCLAに移ったのですけれども「Copyright Infringement Project」というサイトがあり、著作権侵害訴訟で問題となった原告・被告の楽曲等が比較できるように、楽曲等のファイルが掲載されているのであります。このウェブサイトは、研究教育を目的としていることなどから、結論としてアメリカではフェアユースに該当すると考えられているらしいのでありますが、もし現状の我が国でこのようなサイトを開設しますと、それがいくら研究教育目的だと言いましても著作権侵害になってしまう可能性が高いわけです。そこで、もし日本版フェアユース規定を導入すれば、もしかするとこうしたことも許されることになる可能性が出てくるわけであります。そうだとすると、一般条項を設けることがこうした活動を支援することになるかもしれないというわけでございます。
 以上のようなケースは余りビジネスというものではないわけですけれども、さらに日本版フェアユース規定に対しましては、これを設けることによる新規ビジネスの促進といった経済効果に期待する向きもかなりあるようであります。すなわち、一般条項ができれば、現状では著作権侵害のおそれがあるために実行されなかったネット関連のビジネスが新たに可能になり、これによって大きな経済効果が得られるのではないかという期待であります。むしろ本調査会のような場におきましては、この点が一般条項導入の主たる動機ないし目的となっているのかもしれません。
 では、日本版フェアユースを導入するといたしましても、果たしてどのようなケースにまで適用されるものと想定してこれを行うのか、これが大きな問題となるわけでございます。
 ただ、これは結局のところ、規定や文言のつくり方あるいは運用次第で決まってくることではないかと思います。そうした具体的内容によって最終的な適用範囲はかなり大きく変わってまいります。したがいまして、今後の課題といたしましては、どのような適用範囲が望ましいのかということを、幅広い選択肢の中から検討していくことになるだろうと思われます。
 最後に、今の問題とも関連するわけでありますけれども、特にいわば攻撃的な場面というものも適用範囲に含めるということになりますと、仮に日本版フェアユース規定ができたからといって、現実の社会がどれほど変わるのかという点は問題になります。すなわち、いくらベンチャー企業といえども、一般条項が適用されることを信じて、リスクを冒してでも新規ビジネスに挑戦する者が現実にどれほど出てくるのかという点であります。
 そこでは、既に指摘されておりますように、日本人の国民性とでも言うべきものや企業のコンプライアンスといった点が問題になります。また、結果として日本版フェアユースの規定の適用を受けず、結局のところ権利侵害だったということになりますと、損害賠償請求はともかくといたしましても、現行法上は差止請求を受けることになり、その事業は中止しなければならないことになります。また、著作権侵害には刑事罰も定められているわけでございます。
 このように見てまいりますと、仮にいわば攻撃的なものを含む広い適用範囲を持った日本版フェアユース規定を設けたからといって、直ちに今期待されているような経済効果が得られるのかどうかは、必ずしも定かではないように思われるわけでございます。その意味では、日本版フェアユースというものにいったいどれほどの期待をしてよいものなのかという点は、あらかじめ検討しておいてもよいのではないかと思うわけであります。
 以上、日本版フェアユースは積極的に検討されるべきでありますけれども、その具体的中身によっては、広くも狭くもなるということを申し上げた次第でございます。
 どうもありがとうございました。

○中山会長 ありがとうございました。
 それでは、事務局、別所参考人、それから上野委員のご発言を踏まえまして、これからご意見、ご質問をちょうだいしたいと思います。1人当たり時間に都合がありまして、五、六分ぐらいをめどにお願いいたします。どなたでもご自由にご質問、ご意見をお願いいたします。
 どうぞ、大谷委員。

○大谷委員 別所参考人にご質問させていただきたいと思います。
 米国のフェアユース規定を念頭に置かれて、それが米国の新規ビジネスの創出に現に役に立っているというご見解を示していただいたわけですが、その米国モデルであるフェアユースの規定というのが、著作権法の107条とか、あるいはもう少し広い意味での著作権法の権利制限全体の規定のことをおっしゃられているのかを教えてください。実際に著作権法の規定では、フェアユースが適用できる場面というのが目的においても限定されておりますし、それから、例えば市場に与える影響などについても、厳格な考慮要素などが盛り込まれておりまして、これのもとで、これがあるから本当に米国の市場も新規ビジネスも開かれてきたのかという因果関係から、いま一つわかるようでわからないでいるんですけれども、この点についてどういうふうな分析をされているかお聞かせできればと思います。

○別所参考人 多少抽象的な言い方になるかもしれませんけれども、基本的に、例えば検索とかに関して、私どもは日本の法人でありますけれども、米国にヤフーInc.というライセンサーがいますので、ライセンサーにいろいろな意見を聞いたり、本部同士でのやりとりをしているんですけれども、少なくともその本部同士のやりとりの中で、例えば検索の表示とかいろいろなものを集めてきてストアしたりすることについて、基本的にどういうふうに考えてやっているんですかと言うと、米国ではフェアユースの規定があるので、十分それでできるんですというような回答がほとんど戻ってきているというところで、そういう意味で言うと、個別にディテールをレポーティングをしてもらっているというわけではないんですけれども、ただ、私どもは、いろいろ話している同業の米国の会社ですとか、ヤフーInc.というところの基本的なリーガルの考え方としては、そういうものを持っているというふうに認識しています。

○大谷委員 ありがとうございます。
 個別の規定を分析をした結果を企業内で意見交換されているわけではないということであれば、フェアユースの規定は、新規ビジネスがある程度自由にできるという土壌づくりの役に立っているということであって、本当に厳密に、これはフェアユースの適用テストをした結果、問題ないんだという、条項の持っている個別具体的な適用結果というのとはまた違った要素が背景にあるのかなと思って、お話をお聞きしました。
 すみませんが、同じ点について、上野委員にも、ご質問させてください。どちらかといえば、フェアユースを推奨するというか、導入の効果に期待をかける立場でご説明をいただいたと思いますが、例えば米国の著作権保護の107条などについての評価は、そのまま日本に適用すべきということではなくて、日本版の別な形態でということをお話になったわけです。107条的なものを日本の土壌では受け入れがたいという考え方もお示しいただいたと思います。仮に107条をそのまま持ってこられたとして、それが役に立つものなのかどうかということについて、ご見解がいただければ幸いなんですが。

○上野委員 アメリカ著作権法の107条につきましても、これがどのような範囲にまで適用されるかというのは諸説あるようでありまして、例えば「市場の失敗」に対応するためのものだととらえるのか、それ以外の場合にも広く適用されるものととらえるのかなどいろいろ議論があるようです。最近の裁判例でも、例えば権利管理団体によって権利処理が可能になったのであれば、研究目的の企業内複製についても、もはやフェアユースの適用は受けないとしたものもあるわけです。
 そうすると、仮にアメリカ法におけるフェアユース規定をそのまま我が国に導入したといたしましても、実際に広い適用領域が期待できるかどうかは分からないということになろうかと思います。そうしたことを前提に、我が国としてどうあるべきかということは今後の課題でありまして、私も少し先ほど述べましたように、どちらがいいというより、さまざまな選択肢の中から選ぶ問題ではないかというふうに考えております。
 また、アメリカにおけるフェアユースの経済効果がどれほどなのかということにつきまして、先ほど出てまいりましたアメリカのCCIAのレポートで4兆5000億ドルというかなり大きな額が示されているのはたしかなのですけれども、あの報告書でいわれている「フェアユース」というのは、たしか107条の一般条項のみの効果というよりも、その他の権利制限規定や保護期間などを広く含めて、要するに著作物を自由利用できる規定全体の効果として算定されたものだったように記憶しております。

○中山会長 ほかに何かございませんでしょうか。
 どうぞ、苗村委員。

○苗村委員 お二人のお話が大変私にとってはわかりやすく、また非常に具体的な問題を指摘され、また具体的なご提案を含んだお話をいただいたので、大変私としてはよかったと思います。
 質問させていただきたいのは、上野委員のご説明に関して2点です。既に話が出ていることが1つですが、その1番目ですが、この資料の1の(2)で、問題点として、形式的に見れば権利侵害が常態化しているということが問題であると。その例として、企業内複製や写り込みの例を挙げられました。その後で、最後に、適用範囲として、防御的、攻撃的というお話をされたわけですが、どうも私が誤解をしていなければ、多分、別所参考人がお話しされたのは、どちらかというと攻撃的といいますか、そういうことについて、むしろ必要性があるんだという趣旨だったと思います。それを、この前のほうで特に問題点として挙げてられなかったというか、検討の前提として、現在常態化しているような権利侵害をむしろ許容するための解決策として提案されているように見えるんですが、1番目の質問の趣旨は、もし別所参考人がおっしゃったようなことが現実に日本の、特にインターネットビジネスであって、それを解決することが今回の目的だとしたときに、提案はやはり同じような形で、49条の2の形で入れるのがよろしいというふうにお考えなのかどうかというのが第1点の質問です。
 それから、第2点は、「30条から49条までの規定に掲げる行為のほか」と書かれている点で、私はこの考え方は個人的には全く賛成なんですが、そのときに、30条以降の条文の中には、確かに権利制限ではありますが、報酬請求権を残したり、補償金を条件としたりするものがあるわけですが、もしこの新しい49条の2をつくったときに、それは必ず無償で利用できるようにすべきなのか、あるいはあらかじめ補償金を何らかの形で支払う、または後に報酬請求権を、後にといいますか、報酬を支払う義務が負わされるのか、その2点についてお答えいただければと思います。

○上野委員 ご質問ありがとうございます。
 第1点目は、日本版フェアユース規定の適用範囲についてであります。私の当初の問題意識といたしましては、先生ご指摘のとおりでありまして、世の中に権利侵害が常態化していることになってはいないか、これを解決するにはどうしたらよいのか、というものでありましたので、確かに、最初に念頭に置いておりましたのは、いわば防御的なものが中心だったわけであります。ただ、私が書きましたものの中でも申し上げているのですが、新たに一般条項ができれば、今まではしなかったけれどもこれからできるようになるかもしれないというものもあり得てよいと考えております。
 ただ、この後者にはもしかすると2つのものが含まれるのかもしれません。1つは、フェアユース規定のようなものができれば、例えばパロディが許されることによって、新たな表現の自由が確保されるかもしれないですとか、あるいは、さきほどご紹介しました著作権侵害事件を研究したサイトのようなものが許されることによって、研究教育のプラスになるとか、そういう公共的利益を確保するために、今までは行われてこなかった行為があらたに可能になるかもしれないという意味でいわば攻撃的なものというのがまずは考えられようかと思います。
 もう1つは、今までは行われてこなかったけれども、新たなビジネスが可能になるという意味でいわば攻撃的なものが考えられまして、これは公共的利益を確保するためというよりは、経済効果があるのだから望ましいのだというものであります。
 その上で、私自身がどこまでを適用範囲に含めるべきだと考えているかということにつきましては、現在のところ確たる考え方は持っておりませんで、今のところ以上のような選択肢を示した上で今後の検討にゆだねたいと考えている次第でございます。
 そして次に、今の後者のようなものも適用範囲に含めるということであっても、49条の2というような規定でいいのかということもご質問いただきました。一般条項を設けるのであればいずれにしても49条の2というかたちでいいと思いますけれども、他方では、別に一般条項でなくてもいいのではないか、ネットビジネスを促進するためであっても個別規定でいいのではないかという考え方もあろうかと思います。例えば、検索サイトを促進すべきだというのであれば、それは検索サイトを対象にした個別規定をつくればいいのであって、何も一般条項を置く必要はないではないかと、こういう考え方もあろうかと思うわけであります。
 ただ、先ほどの別所参考人のお話の中にもありましたように、ネット社会において新しいビジネスがどんどん出てきて予想ができない、そういうことであれば、どうしても個別規定ですと後追い的になりがちですので、そういう意味では、あらかじめ一般条項的なものを用意しておくほうがいいのかもしれないという考え方もあろうかと思います。このように本当に一般条項が必要なのかどうかということも今後の検討次第だろうと考えております。
 以上が1点目です。
 2点目に、これも大変重要なご指摘でありまして、フェアユース規定が適用されますと権利侵害が否定されるということになりますので、適用されるか、適用されないかによってオール・オア・ナッシングな結論になってしまいます。他方、個別規定ですと、権利者の許諾を得ずに自由利用できるのだけれども、しかし一定の補償金を支払う義務は負うという、いわば中間的な解決というのができるわけですけれども、フェアユースの場合は権利侵害か全くの自由かのどちらかになってしまって、補償金請求権だけ残るというようなことはないというのはご指摘のとおりであります。
 確かに、仮にフェアユース規定のようなものをつくったといたしましても、例えば49条の2という規定に例えば2項という規定を設けて、一定の場合には何らかの補償金を支払う義務を負うというような規定を書くこともできなくはないかもしれませんけれども、こうなりますと裁判官は、当該行為が許されるべきかどうかだけではなく、許されるとしても一定の補償金を払わせるべきかということまで判断しなければならなくなります。そこでは、補償金をいくら払うべきということになるのかという問題も当然出てまいりますので、やはりこれはなかなか難しいように思うわけであります。
 そのように考えますと、権利制限の一般条項を設けて柔軟な判断が可能になったとしても、結論のほうがオール・オア・ナッシングになってしまうのは不都合ではないかというご指摘はもっともだろうと思われます。
 可能性といたしましては、フェアユースに当たるので著作権侵害にはならないけれども不法行為には当たるので損害賠償請求のみは可能であるというような判決を下すことも、ちょっとアクロバティックな解釈ではありますが、そのような可能性もなくはないと思います。ただ、最近の議論の傾向からしてもそれはちょっと苦しいのかなというわけでありますが、この点も重要な検討ポイントだろうと思います。

○中山会長 フェアユースの規定を設けても、仮にその行為に対して対価を払うのがよければ、それはまた個別列挙でつくればよいと思います。仮に対価を払う場合であっても、直接払う場合もあれば、権利者団体を通じて払う場合もあるので、そんなことは裁判所で判断できないでしょうから、もしフェアユースに当たるが対価が必要なものは立法、それも個別立法ということになるかと思います。
 ほかに何かございましたら。どうぞ、加藤委員。

○加藤委員 私も受け皿的規定としての一般的なフェアユースの規定があったほうがいいという意見ですけれども、そういう前提で、まず別所参考人にお伺いしたいんですけれども、現在の日本の著作権法のような限定列挙で、本当にビジネスに今何が問題なのかという点について、もう少し具体的に伺いたいと思います。
 先ほどのスライドの中の7ページ目、8ページ目のあたりで、いろいろとインターネット上の問題をご指摘いただきましたけれども、例えば7ページの蓄積・収集に関連して、3つ目のポツで、一時的固定の話、バックアップの話、サイトがダウンしたり、ネットワークの不通の際の一時的措置等、こういうような例を挙げていただいておりますけれども、これらも限定列挙で十分現実にカバーできるような問題ではないかというふうに思います。そういう意味で、どのような分野が現実に今の法律で不十分かというものは、もう少し詰めていく必要があるという観点から伺いたいと思います。
 それと、その前の6ページに、日本の著作権法の欠陥の結果、国として大変な問題になるというような具体的な例がビジネスとして本当にあるのかどうかについても、もし差しさわりない程度でご披露いただければお願いしたいと思います。特に蓄積に当たっては、先ほど米国の幾つかの検索の会社の例をお示しいただきましたけれども、そういう場合について、こういう制度的な理由も当然あるとは思いますけれども、それ以上に、例えば電力が安いとか、最近では大きなそういうデータセンターは寒いところにつくって、なるべく電力を消費しないようにするとか、地震がないとか、そういうことも含めたいろいろな要素があって、ビジネス的に判断していると思います。そういう例からして、こういう制度が変えられることによって、ビジネス的にどういうインパクトがあるかということを伺いたいと思います。
 私の個人的な意見を申し上げますと、現在のように、フェアユース規定がない日本においては、むしろ7ページの場合よりも8ページ的な、ユーザー側、利用者側の問題が大きく、そこに萎縮効果があり、新しい利用方法が生まれてこない面が強調されるべきじゃないかなと思います。
 それから、フェアユース規定がないと、新しい技術が今見えないけれども、それを発掘していく、全く将来違ったビジネスをやるという目を摘まれてしまうということに関係するのかなというふうに思っております。それが別所参考人への質問でございます。
 上野先生への質問ですけれども、これはちょっと質問の傾向を変えまして、事務局の資料1の中に、一般規定を導入した場合の条件整備ということで、2の(2)にご質問がありました。私も非常に興味がありますけれども、もしフェアユースの一般規定が導入された場合、ガイドラインがつくれるのか、つくることがよいのかということ。先ほどいろいろ法的な分析をいただいた中で、ガイドラインをつくっていくとしたら、それはだんだん限定列挙的な方式に近づいていくかもしれないというふうにも思えます。どのようなものをつくり、それをどういう位置付けにするかという点が1つ。
 それから、ADR等の環境整備が必要であるかという点、これも日本では、残念ながらADRというのはなかなか浸透しないし、使われていないというのが国際的に見るとあるのではないかと思いますが、もし仮にフェアユースの規定ができた場合に、紛争解決の方法がドラスチックに変えられるべきなのか。それとも、今までの制度の中で解決していけるのかという点についてお伺いしたいと思います。
 以上です。

○中山会長 では、別所さんのほうからお願いします。

○別所参考人 最初のご質問のほうなんですけれども、先ほど私もお話しさせていただきましたように、現状全く、いろいろなところで対応していただいていないという理解ではない。ただ、対応していただいているスピードが十分かどうかというのが問題だと思っていますので、先ほどちょっと例に出されましたが、例えば一時的固定のところは今議論はされていますけれども、まだ結論として法律が変わっているわけではなくて、そういう意味で言うと、中途半端な状態に今置かれていますというところで、それはもともと先ほど言いましたように、スピードをカバーしていくためには包括的な規定が必要なものもあるのかなと。
 今わかっているのは、日本についての対応はもちろんできますけれども、先ほど言いましたように、予見できないものがまだたくさんあるというふうに思っていますので、そういうものまですべて、例えば一時的な通信途上における位置付けの固定のところも、今の技術のところしか見ていないと。では新しい技術のところがカバーできるのかというと、全くわからないというのが実情だと思っていますので、そこはどうしても必要かなというふうに思っております。 
 それから、6ページ目でいただいたご質問なんですけれども、確かにいろいろな企業がどこに蓄積をしていくのかというのは、必ずしも著作権だけの問題ではなくて、いろいろな要素があるというふうに思っています。ただ、例えば今の著作権法を前提にして、では日本の会社がアメリカに物理的にサーバーを置けば、日本の著作権の問題は関係ないのかというと、実はそうではなくて、物理的に選ぶ場所と適用される著作権法の問題はまた別ですので、そこは私どもの会社がサービスを提供するために、アメリカに置いたから、では問題ないですと、フェアユースが適用されますというふうにはならないので、そういう意味で言うと、やはり日本の国にある企業がビジネスをしていくということを考えたときには、自分たちのコントロール下にそういうものがない状態に、物理的にはなり得るというふうに思っております。
 検索のサービスを例にお話ししますと、多分技術の方はよくおわかりだと思いますけれども、太平洋を行って帰ってくるというのが、やはり時間がかかるものなんですね。そういうものについて、現在の利用者の人たちの体感値から言うと、やはり影響が私どもとしてはあるというふうに思っていて、そういう意味で言うと、やはり現状は国内にいろいろなものを置きたいというのがあります。 
 それから、情報を集めるという意味で言うと、先ほど例を出しましたデジタルアーカイブみたいなものがまだ解決されないまま残っているというふうには思っております。ここも、やはり一つの大きな課題ではないかなというふうに思っていますので、そういうことを考えていくと、やはりそこの解決手段が必要だと。
 おっしゃるように、利用される方々に対する安全という観点からももちろん必要だと思っていまして、先ほど一つ例がありましたけれども、インターネットのオークションで、販売物についての写真をたくさん載せられているんです。ぬいぐるみを売りたい人がぬいぐるみの写真を撮って載せましたと、ぬいぐるみが著作物であれば、それは複製ですねというような話になってしまうと、そこを解決しなければならないと。私どもとしては、なかなか現行の著作権法では難しいので、いろいろな方にお願いして引用だという形でオピニオンを書いていただくとか、いろいろなことをやっているんですけれども、では、引用だと書いていただいたからといって、それで完全に大丈夫ですという状態ではなかなかないのかもしれないんですけれども、ただそこは、やはり解決策を何も示さないまま、ご利用者の方に使っていただくのもかなり難しいと思って、かなり苦しい中でやっているというのが実情です。そこはぜひ何らかの解決が欲しいというふうに思っております。

○上野委員 ガイドラインやADRなどの環境整備が必要ではないかという点につきましてご質問をいただきありがとうございました。
 私自身はこの点について余り考えたことがないのですけれども、前者のガイドラインにつきましては、確かに法的拘束力がないので、どれほど意味があるのかという指摘もあろうかと思います。ただ、従来の著作権法改正におきましても、その立法趣旨ですとか、立法過程における議論状況ですとかを、役所がかなり詳しく解説したものがよく公表されておりまして、そうした立法趣旨は一般にもかなり参照されているのではないかと思います。そして、たとえ法的拘束力はなくても、実際の社会ではそれがある意味では浸透しているように思います。そういう意味では、もしガイドラインができれば、それはそれなりに意味のあるものになるのではないかと思います。
 もっとも、ガイドラインが詳しくなってくると結局は個別規定を設けることに近づくのではないかというご指摘をいただきました。ただ、個別規定とは異なりまして、一般条項のガイドラインを書くということになりますと、例えば、明示された考慮要素はそれぞれどのような方向で解釈されるのかということ、例えば「利用の目的」という考慮要素があったとしますと、どういうふうな目的であればより侵害が肯定されやすい方向に働くとか、逆に、どのような目的であれば侵害が否定されやすい方向に働くとか、そのようなことを具体化することになろうかと思います。これは、やはり個別規定で明確に定めるのとは異なり、なお一般条項が存在する意味はあるのではないかと思います。
 2点目はADRについてでありまして、日本版フェアユース規定みたいなものができれば、紛争解決の方法は今までどおりでよいのかというご指摘かと思います。これはかなり実務的な問題でありまして、私にお答えできる能力はないのですけれども、ただ著作権紛争というのは、訴訟における損害賠償の認容額も低いようでありまして、なかなか裁判にもならないようでありますので、その意味ではADRといったもののニーズもあるのかもしれないなどと想像いたします。
 ただ、現状でも著作権法の中に著作権紛争解決あっせん委員の規定があり、私などはこれがもっと活用されればいいのではないかと思うのですけれども、実際にはほとんど用いられておりませんので、ADRというものがうまくいくかどうかということも私にはよくわかりません。

○中山会長 加藤委員の今の新しいビジネスにどういう支障があるのかという点につきまして、上山委員とか宮川委員、もし何か事例等ご存じでご意見ございましたら、お願いします。

○上山委員 その点は別所参考人がおっしゃられたとおりだと思います。
 つけ足すならば、第1回のところで問題になった通信サーバーのキャッシュの問題ですが、具体的に問題になったのは、アメリカのあるニュースサイトがあるときから有料講読に切りかえたのに、その後もグーグルの検索結果のキャッシュにアクセスすれば無償で閲覧できるようになっていたというケースで、このケースはフェアユースの規定の適用によることなく当事者間の対応で解決されていますけれども、このような場合まで考えたらば、限定列挙で対処するというのは、インターネットの世界では無理だろうと思います。

○中山会長 宮川先生、何かよろしいですか。
 それでは、北山委員どうぞ。

○北山委員別所参考人に1点だけちょっと教えてください。
 レジュメの3ページのところなんですが、現行の限定列挙型の場合には、技術革新のスピードに法改正が追いつかないと、こういう不都合があるんだということはよくわかるんですが、その2番目のこういう状態のもとでは、裁判所で法の創造が行われている現状では、かえって予測可能性が失われているのではないかと、ここはクエスチョンマークがついているんですが、こういう指摘がされています。
 現在の限定列挙のもとでは、形式上は侵害だけれども実質上は侵害でないという場合に、現在フェアユースの規定がないものですから、いろいろ裁判所のほうで理屈をつけて正義にかなうような判断をしているんだというように私は理解しておりますが、それがかえって予測可能性、当事者にとって、利用する者にとっては予測可能性が失われているんだと、こういう指摘なんだと思います。
 この場合にフェアユースの規定をもし置いた場合、その場合は、この上野委員の例にもありますように、やはりこういう、例えば著作物の性質等という非常に抽象的な規定にならざるを得ないわけですね、規定するにしても。そうしますと、その中ではやはり裁判所としては法創造を行っていかざるを得ないということになるんだと思うんですよ。そういう面から言うと、それは限定列挙型であろうと、フェアユース規定を新たに置いた場合であろうと同じではないかというように私は思うんですが、その点をどのように思われるかということが1点です。
 それから、それにちょっと関連してですが、フェアユースの規定がないと企業は突っ走れないんだと、こういうふうにおっしゃるわけですが、そうしたらフェアユースの規定があったら突っ走れるのかということをお聞きしたいんですが、今言ったように規定を置いても、結局そういう抽象的規定しか考えられない現状のもとにおいて、そういう規定があるから突っ走れるかということも、ちょっと教えてください。

○別所参考人 裁判所で法創造が行われている現状と、それでかえって予測可能性が失われているということを書かせていただいておりますけれども、先ほどもちょっと出てきましたけれども、「はたらくじどうしゃ」とか「雪月花」の事件とかもあって、そういうものの判例を読むと射程がなかなかわからない。どちらに振れるのか、何を基準にしているのかというのが、やはりそこでは読み切れないんだというふうに思っています。抽象的ではあったとしても、やはり法文にきちんとしたものが書かれるというのは、やはり解釈の基準というのが成り立つと思っていますので、そういう意味で言うと大分違うんだろうなというふうに思います。
 現状は、その例外規定でいくか、あるいは無理やり権利濫用みたいなところで相当飛び越えなければならないと。フェアユースが仮にできたとして、できた規定の書きぶりにはなると思いますけれども、やはり手がかりがきちんとできるのはありがたいと。
 どこの会社も多分そうだと思いますけれども、経営陣が勝手に考えて走っているわけではなくて、一応、法務部門なり、あるいは社外の法律事務所なり、きちんと使って判断をしておりますので、手がかりがあれば、その手がかりをもとにきちんと法務サイドで判断した上で、それをもとにビジネスイニシアチブを通していくというふうに考えております。今は、ビジネスジャッジメントをしてもらうためのレポーティングが、ほとんどできていないというのが実情なので、やはりそこは手がかりがあれば大分変わってくるだろうというふうに思っております。
 蛇足ですけれども、IT系の企業は、かなり小さいところでも、どちらかというといろいろなことをやるのにオピニオンレターは、ほかの企業に比べるとかなりもらっているという認識でおりますので、そこはもしそれがあればきちんともらった上で進めるところが出てくるというふうに考えております。

○中山会長上山委員、どうぞ。

○上山委員 別所参考人の発言に補足しますけれども、上野委員のご報告にもあったように、日本の著作権法解釈は例外規定を非常に厳格に解釈していますので、弁護士がオピニオンレターの作成を依頼された場合に「これは違法となるおそれが高いです」という見解を書かざるを得ません。それに対して特許法とか他の法律等で、もう少し緩やかな解釈ができる場合には「こういった事情やああいった事情を考慮すれば適法と考えられます」という、前提条件つきではありながら、白に近いグレーのオピニオンを書くことができます。企業としては、ビジネスを前に進めたい場合には、そういう判断をもとにして前に進めるんですね。ただ、黒という意見が出た場合にはやりたくてもできない、それが今、別所参考人がおっしゃっていることなんだろうと思います。
 それからもう一つ、エンフォースメントというか、実際に訴訟になる可能性がどの程度あるかという考慮も実務では重要です。自分たちが侵害の可能性がある行為をやったときに、実際に相手方がどこまで責めてくるかということを考える場合、フェアユースは、文言上は侵害だけれども、社会一般の人から見たならばこれは許されていいだろうと思われるような、例えば現状で企業内で行われている書籍の複製行為だけではなく、インターネット上で広く行われているような行為についても、一般人からすればこれは許されてしかるべきだろうというふうに思える行為については、フェアユースの適用を受けられる可能性が高い、そうすると権利者が訴訟まで提起するリスクは小さい、というビジネス判断ができるようになると思います。それは実際上、非常に大きな違いだろうと思います。

○北山委員 そういうのは別に規定がなくても、公正な使用、要するに一般人が常識的に考えて公正な使用だと思うものは、当然法律専門家が考えても正当な使用だというようにならないとおかしいんじゃないんですか。だから、それは規定があろうがなかろうが、法律の専門家としては、当然そういうのは許されるんだというようにジャッジすればいいんです。

○中山会長 どうぞ、上山委員。

○上山委員 ただ、判例を前提に解釈をしますと、上野委員の論文を私は裁判の証拠として使わしていいだいているんですが、非常に厳格に、例外規定として明文規定で定められているものに当たらない限りは違法であるというのが判例の立場ですので、なかなか北山委員がおっしゃられたようなオピニオン、もしくは判断をするのは難しいのが実情だと思います。

○中山会長 先ほどの雪月花事件等の例がありますが、勘定をするとそんなに多くないんですね。判例の数としては極めて少ない、全体の数からすると極めて少ないので、裁判官が本当に公正なものならフェアと認めてくれるかというと、企業はかなり危ないなと思うでしょうし、弁護士は、かなり黒に近いようなオピニオンを出すという気はするんですけれども。だから、フェアユース規定があってもなくても同じかと言われると、どうもやはりマインドとしてはあったほうが、ずっと前に進みやすいという感じがします。

○北山委員 それはそうでしょう。それはあるほうが、ないよりはいいのはそうだと、当然そうだと思いますよ。ただ、あったら金科玉条のように最初から言われるから、それは僕はおかしいんじゃないかと。法律家としてはもっと自信をもって、公正な使用なんというのは要するに正義ですから、正義にかなう行為は許されていると言っているのと同じですから、それは裁判所が認めないなら、裁判所がおかしいんじゃないんですか。実質的にみて、公正な使用に該当すると判断した場合には裁判所は何かと理由をつけて違法ではないと判示すると思いますよ。

○中山会長 どうぞ、苗村委員。

○苗村委員 ただいまのお二人のご発言に関連して、ちょっと私のただいま所属しております駒澤大学の周辺のことをちょっと申し上げますが、たまたま私の近くには外国籍の教員がたくさんおりまして、その中でアイデアを出してビジネスを始めようという人たちがいるんですが、彼らが異口同音に言うのは、これは日本人の弁護士であれアメリカ人の弁護士であれ、聞くと、ネット上のビジネスは日本ではできないと。アメリカでやれと言われて、現実に私ども近くの同僚が考えたあるビジネスを、アイデアは日本で出したわけですが、アメリカの企業に売り込んでアメリカで始めているというのがあります。また、今そういうことを検討しているところもあります。
 ですから、実態がどうであるにせよ、どうも日本の権利制限規定の解釈、特に判例等で非常に厳しく運用されているということが、やはりこの法律の専門家の間で一般的に知られて、日本だけではなくて、アメリカの弁護士もそのように言っていると。したがって、日本の中で新しいビジネスを始めようとすると、不利益をかけられる。その結果、アメリカに流出してしまうという、これも先ほど最初のほうで別所さんの資料の6ページにあったようなことが、現実にどうも起きてしまっていると。では、それを日本もアメリカと同じにしたら直ちに日本でビジネスが展開するかというと、これはわからないんですが、ただ少なくとも言いわけをなくすことはできるだろうと。それが、今回のこの調査会で検討することを要求されたことなんだろうと思いますので、特にデジタル・ネットワーク時代に対応したコンテンツ産業の振興を図るための障壁となっているものを、少しでも外せないかと。外してみたら、実は障壁はそこではなくて、日本のそれこそ気温が高過ぎるからだというのであれば、これは外れませんけれども、少なくとも著作権制度に関する障壁は外そうというのが趣旨だと思いますので、そういった意味で、私は今日のお二人のお話は大変役に立つ、私自身勉強になりましたし、ぜひ前向きにご検討いただけたらと思います。

○中山会長 どうぞ、中村委員。

○中村委員 別所さんと上野さん両方に伺いたいんですけれども、簡単なことなんですが、フェアユース規定を設けることによって、新しいビジネスが開拓されるとか産業が拡張するとか文化が充実するといった、プラス面の認識というのはよくわかったんですけれども、逆にそのフェアユースを設けることによって、どこかのセクターが不利益をこうむるとか何らかの活動が縮小するといった、マイナスの影響は何か考えられないでしょうか。あるいはそのあたりはどのようにとらえておけばいいでしょうか。

○別所参考人 これを直ちにマイナスというかどうか、ちょっと評価が分かれるところだと思いますけれども、フェアユース規定は、抽象的な規定にならざるを得ないと思いますので、置いたからといって、すべての問題が直ちに解決するわけではないんですね。ただ、手がかりがあるので、ビジネスが進めやすくなる一方で、先ほどもちょっと触れましたけれども、混沌とした状態が続く部分というのがあると思うんですね、カオスというんでしょうか。多分、決着がつかないで、両方が、権利者の人と使っている側とお見合いをしている領域というのがふえるのかなと思っていて、そこが社会的な軋轢になるかどうかというのはちょっとわからない。ただ、一方では多分そういうカオスの状態をきちんと乗り越えられる世の中にしていかないと、多分国際競争に勝てないという認識でいますので、そ このところは価値判断としては、そういうカオスの状態が発生しても、それは許容すべきなんだろうというふうには考えております。

○中山会長 もし損害をこうむる可能性があるとすれば権利者のほうなんでしょうけれども、仮にアメリカの場合ですと、マーケットで競合するというのが、フェアユースが成立しないかなり大きな考慮要素ですので、多分大きな損失をこうむるセクターというのはないと思いますけれども。
 北山委員のような裁判官がすべてですと非常にやりやすいんですけれども、実際は新しいネットビジネスでも結構訴訟になっていまして、しかも負けている例がかなり多いですね。負けていることが必ずしもアンフェアだとは言いませんけれども、かなり日本のネットベンチャーにとっては、著作権法があるからできないという意識は、かなり定着しているような感じはします。逆に言うと重しがとれれば、大企業のマインドは知りませんけれども、少なくともベンチャーは冒険するところは出るんじゃないかという感じがします。
 4月から弁護士をやっていますけれども、学者時代はそういうのがわからなくて、日本というのは、やはり企業は訴訟リスク、法的リスクをとりたがらないから、フェアユースというのは設けても利用する人はいないのではないかと思ったんですけれども、どうもいろいろ、いろいろなベンチャーとか何とか聞いていますと、フェアユースがあればやるんだと、やりたいんだというところが現にかなりいるということがわかるようになってきました。これは本当のところはやってみなければわからないところがありますけれども、今はベンチャービジネスマンのマインドというのは、かなりアグレッシブなんじゃないかという気はいたします。
 どうぞ、上山委員。

○上山委員 今の点について言いますと、ベンチャーにとってはファンドから出資を受けることも重要なんですが、ファンドからすれば、投資候補の企業のビジネスのコアになっている部分についての適法性がどうかということは重要なポイントになります。特にネットビジネスの場合だと、先ほどから皆さんおっしゃっているように、日本は非常に厳しいということは外人も知っていますから、そこで意見書を求められたときにOKですと言えない状況なんです。それも現実問題としては大きな障碍になっていると思います。
 それから、私自身が権利者側に立って事件をやっているときに、結論としてはこちらを勝たせていただく場合でも、審理の途中で裁判官が結論の妥当性について非常に頭を悩ませながら、本当にこの結論でいいんだろうか、何とか判決ではなく和解で終わらせたいと、そんな苦悩の中で判決を出されているのではないかと感じるケースもあります。

○中山会長 ほかに何か。
 はいどうぞ、加藤委員。

○加藤委員 フェアユースの規定について、否定的ではなくて、ぜひ肯定的に考えていることを、確認のために再度申し上げたいと思います。企業、特に大企業にとってもリスクをとるかという点のときに、この規定があれば、やはりさらにリスクをとる可能性が高くなるというのは本当に思います。その場合に、企業というのは法律の議論だけを考えてリスクをとるわけではない点も重要です。いろいろな要素、これをもし実行してしまった場合にだれかがクレームをするかという可能性まで考えて、いろいろな現実の判断をする。そのときに、きちっとした理由があってこう判断したというものがあって、それでリスクをとったということが説明できることが重要です。そういう場合に、法的には問題があり、現在の法律解釈では黒としか言わざるを得ないけれども、リスクをとったというのは全く違うわけです。これは株主に対する責任とか社会に対する責任という意味でも大変重要です。我々のビジネスというのは、常にどこかぎりぎりの線で判断するわけですけれども、それは法律解釈でも当然そういう具体的な判断があるわけで、そういうものをすべて考慮しなければいけない時に、このフェアユースの規定を入れるというのは非常に大きな変化の要素になるというふうに思います。

○中山会長 ほかにご意見ございますでしょうか。
 どうぞ、宮川委員。

○宮川委員 本日は上野先生が非常にわかりやすく、日本版フェアユースの可能性についてまとめてくださいましたし、ヤフー株式会社からはビジネスに携わっていらっしゃる方々のフェアユースに対する期待というか気持ちというものが非常によくわかりまして、とても参考になりました。
 私がアメリカのフェアユースのことを勉強していたころ、ベータマックス事件でしたか、大きな事件があった際に、双方の立場で非常に長い間裁判が続いたわけですが、その際に非常に興味深く思いましたのは、この裁判は当事者だけの問題ではなくて、まさにそれぞれの業界、権利者団体、そして多くの関係者の人たちがこの裁判に参加して、一つの私的な紛争というよりは法律とかルールを作っていくための、一つの手段になっているんだなということです。
 アメリカでは当事者ではない方たちがアミカス・ブリーフ(第三者意見書)という、自分たちが一方の当事者をサポートする、いろいろな意見を出しておりますので、そういう意味ではこれから日本もこういうフェアユース規定というものが導入されれば、裁判は、当事者だけの紛争ではなくて、いろいろな方たちの意見の発言の場あるいはルールを作っていくきっかけになっていくのではないかと感じた次第です。
 そして、上野先生がいろいろまとめてくださった資料を見ながら、アメリカのようなフェアユース規定というよりも、日本版フェアユース、つまり受け皿規定としての一般条項という方向、それから検討すべき要素ですね、「考慮要素の明示」というふうに書いてくださった、そのような部分があることによって、日本版フェアユース規定というものが、日本人にとっては受け入れやすく使いやすい規定になるのではないかと、今日感じた次第なので意見を述べさせていただきます。

○中山会長 ありがとうございます。
 ほかにご意見やご質問ございましたら。よろしいでしょうか。
 どうも今までの議論では、フェアユースそのもの、フェアユースの規定の設置そのものには反対というご意見はないようで、あとは上野委員のおっしゃったとおり、要件とか条文の書き方あるいは条文の位置をどこに置くかという、そういう問題になってくるだろうと思いますけれども、大体そういうコンセンサスがあったということでよろしいでしょうか。
 ありがとうございます。ほかにご意見なければ、若干時間は残ってはおりますけれども、ただいまちょうだいいたしましたご意見をもとに、次回も引き続いてフェアユース規定の導入についての議論を深めてまいりたいと思っております。
 それでは予定の時間は少し残しておりますけれども、本日の会合はこれで閉会にしたいと思います。
 デジタル・ネット時代における知的財産制度専門調査会の第6回会合は、7月29日火曜日、15時から本日と同じ知財事務局会議室で開催する予定でございます。
 本日はご多忙中のところ、ありがとうございました。