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 トップ会議等一覧知的財産戦略本部権利保護基盤の強化に関する専門調査会 [印刷用(PDF)]


第1回 権利保護基盤の強化に関する専門調査会 議事録

1.日 時:15年10月8日(水)16:30〜18:30
2.場 所:知的財産戦略推進事務局 会議室
3.出席者:
【委員】阿部会長、伊藤委員、久保利委員、下坂委員、高林委員、竹田委員、中川委員、野間口委員、山田委員、吉野委員
【事務局】荒井事務局長
4.議事
(1)開会
(2)会長の選任
(3)専門調査会の運営について
(4)今後の進め方について
(5)自由討議
(6)閉会


○荒井事務局長 ただいまから、権利保護基盤の強化に関する専門調査会の第1回会合を開催させていただきます。本日は、御多忙のところを御参集いただき誠にありがとうございます。
 私は、内閣官房知的財産戦略推進事務局長の荒井でございます。後ほど委員の互選によりこの専門調査会の会長をお決めいただきますが、それまでの間、議事の進行を務めさせていただきます。
 まず、本専門調査会の設置に至りました経緯につきましては、お手元にお配りした資料1のとおりでございまして、知的財産戦略推進本部は本年3月1日に発足いたしまして、5回の本部会合と2回の有識者本部員会合を経て、7月8日にお手元の冊子にございます「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」を決定いたしました。
 資料2を御覧いただきたいと思います。7月8日の本部会合では、「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」に係る重要政策課題の調査のために、本専門調査会を含む3つの専門調査会を設置することが決定されました。本専門調査会につきましては、資料2の1の (3)に記載のとおりでございます。検討課題は広範に及びますが、よろしく御審議のほどをお願いしたいと思います。
 本日は初顔合わせの会合ですので、最初に委員の方々の御紹介をさせていただきます。資料3の委員名簿を御覧いただきたいと思います。順番に御紹介させていただきます。
 阿部博之委員でいらっしゃいます。
 伊藤眞委員でいらっしゃいます。
 久保利英明委員でいらっしゃいます。
 下坂スミ子委員でいらっしゃいます。
 高林龍委員でいらっしゃいます。
 竹田稔委員でいらっしゃいます。
 中川丈久委員でいらっしゃいます。
 野間口有委員でいらっしゃいます。
 山田眞次郎委員でいらっしゃいます。
 吉野浩行委員でいらっしゃいます。
 どうぞよろしくお願いいたします。
 次に、会長の選任をしていただきたいと思います。先ほどの資料2に戻っていただきまして、資料2の3に「専門調査会の会長は、委員の互選による。」となっております。どなたか推薦をお願いできますか。

○野間口委員 阿部先生が最適だと思いますので、推薦させていただきたいと思います。

○荒井事務局長 ただいま、阿部委員という御意見がございましたが、いかがですか。

(異議なし)

○荒井事務局長 それでは、阿部委員が会長と決定いたしました。
 ここからの議事進行は阿部会長にお願いいたします。

○阿部会長 ただいま御指名をいただきました阿部でございます。私は大学の工学部に長くいただけでございまして、極めて限られたことしか存じあげませんので、今日から委員をお務めいただく諸先生方のお知恵をお借りして何とか進行させていただきたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます。
 早速、議論に入らせていただきたいと思いますが、その前に、本調査会の運営について定めておかなければいけないことがございます。資料2の6を御覧いただきますと、「前各項に掲げるもののほか、専門調査会の運営に関する事項その他必要な事項は、会長が定める。」と書いてございます。そういうことで、具体的な運営についてですが、資料4を御覧いただきますと、ここにありますように、議事は原則公開とすることと、会議終了後は発言者名を付した議事録及び配付資料を公開すること、また、専門調査会の審議に必要があると認めるときには参考人を招致していろいろお話を伺う。その他必要な事項は会長が定めさせていただくこととさせていただきます。
 また、公開の手続につきましては、資料5に則って進めさせていただきたいと思いますので、よろしく御協力のほどお願い申し上げます。
 もう一つお願いですが、この会議の議論を実り多いものにすることから、事務局で今までいろいろ準備をしていただいておりまして、荒井事務局長をはじめ事務局からも積極的に発言、説明を求めたいと思いますので、この点もあわせて御了承いただきたいと思いますし、事務局、よろしくお願い申し上げます。
 以上ですが、何か御質問等がございますか。
 それでは、そういう方向で議事に入らせていただきたいと思います。
 最初に、専門調査会の進め方について、事務局から説明をいただきます。

○荒井事務局長 資料2に戻っていただきまして、資料2の1に、3つの専門調査会を置くとなっておりまして、「権利保護基盤の強化に関する専門調査会」、「模倣品・海賊版対策、知的財産の専門人材育成、知的財産権利化促進や司法制度等、知的財産の権利保護基盤の強化(エンフォースメント)に係る課題に関する調査・検討を行う」となっておりますので、資料6「今後の進め方」につきましては、このテーマのうち、国会の日程その他を考えたときに、こんな順番を案として書いてございます。

 資料6「今後の進め方について(案)」
1 .主な検討課題
 (1)司法制度
  ○知的財産高等裁判所の創設
 (2)権利化促進
  ○特許審査迅速化法(仮称)の制定
 (3)模倣品・海賊版対策
  ○水際での取締りの強化等
  ○外国市場対策の強化
 (4)知的財産の専門人材育成
  ○弁護士・弁理士の充実
  ○大学における知的財産教育の推進
2 .今後の進め方について
 専門調査会において上記の主要検討課題について検討を行い、とりまとまったものから
順次、その内容を公表することとし、来春を目途に全体について最終とりまとめを行う。
3 .当面の日程と議論の進め方
10月8日(水)16:30〜18:30 第1回専門調査会
 ・検討課題の確認
 ・自由討議
10月28日(火)16:00〜18:00 第2回専門調査会
 ・知的財産高等裁判所について
11月28日(金)10:00〜12:00 第3回専門調査会
 ・知的財産高等裁判所について
 ・特許審査迅速化法(仮称)について
12月11日(木)16:00〜18:00 第4回専門調査会
 ・特許審査迅速化法(仮称)について
 ・自由討議
 1月以降は引き続き、模倣品・海賊版対策、知的財産の専門人材育成について取り上げる。なお、議論の進捗状況等により、上記スケジュールの変更があり得る。

 以上が今後の進め方でございます。
 資料7、資料8は、今のうちの知的財産高等裁判所、特許審査迅速化法に関する推進計画における部分の抜粋でございます。御参考までにお付けいたしました。
 以上でございます。

○阿部会長 ありがとうございました。大変忙しいスケジュールのようでございますが、何か御質問等がございましたら伺いたいと思います。
 それでは、資料6のようなスケジュールに沿って検討を進めさせていただきますので、よろしくお願い申し上げます。
 さて、本日はどういう御議論を賜るかということですけれども、基本的には、本日は、皆々様から御自由な御意見を賜る機会にさせていただきたいと思います。検討のスケジュールは、今事務局長から説明があったとおりですけれども、実は、資料7の知的財産高等裁判所については、必要な法案を2004年の通常国会に提出することを目指し、そのあり方を含めて貴重な検討を行うということが推進計画の中に明記されております。それから、資料8の特許審査迅速化法につきましても、2004年の通常国会に提出するということですので、この2つについてはなるべく早くやらなければいけないということですので、本日はこの2つにつきまして御自由な御意見をちょうだいする機会にさせていただいてはいかがかと考えております。
 したがいまして、模倣品、海賊版、専門人材等、他の重要課題もございますが、それは後日改めて御議論を賜ることにさせていただきまして、本日は、知財高裁と特許審査迅速化法の2つについて御意見を賜ることにさせていただきます。
 ということで、どちらについてでも結構ですので、自由討論ということで御意見をいただきたいと思いますのでよろしくお願い申し上げます。どなたでも結構ですので、この2つの点についていろいろ御意見を賜れればと思います。

○久保利委員 弁護士の久保利でございます。知財高裁について意見を申し述べたいと思います。
 資料7に書いてあるとおり、2004年の通常国会ということもあって急ぐことだろうと思います。問題は、この構想、計画が発表された後、私が所属している日弁連でも反対論もあるようですが、私は賛成論です。様々な抵抗も予測されますけれども、私は、断固これを早く実現していただきたいと考えております。
 その際に幾つか議論のポイントがあるだろうと思います。一つは、高等裁判所がたくさんありますが、9番目の高等裁判所であることは譲りたくない。どこかをつぶしてやるということではよくない。9番目の高等裁判所であることに意味があると思います。
 もう一つは管轄の点です。これは専門家の先生がいらっしゃいますが、改正民事訴訟法における東京高裁の管轄と考えてはどうだろうか。
 それから、従来の議論で、本部の議論の中でも技術判事とかいろいろありましたけれども、やはり私は法曹資格を持った裁判官が、通常裁判と知財裁判の経験豊富な人材の方々を選んでここに充てていく。判事の構成はその方がいいのではないか。知財高裁が独自採用するのはいかがなものかと思っております。
 では、技術の専門性をどうするかという問題ですけれども、幸いなことに、調査官とか専門委員の制度ができて、この制度を大いに活用すれば可能ではないかと思うので、これは専門性の問題も議論しなければいけない。
 もう一つは、これは弁護士会の中でもあるのですが、地方のニーズに対してどう応えるかということ。これだけITがどんどん進んでいますし、司法についてもIT化、E司法といいますか、そういう形が進んでいくと思いますので、テレビ会議とか電話会議を最大限に活用するとして、やはりサーキットということが必要なのではないか。巡回裁判という制度も考慮に入れて導入する方向で検討してはどうかということも考えております。
 今申し上げたような点に十分議論を尽くして、ぜひ早期に、抵抗を排して実現させていただきたいと思います。以上でございます。

○阿部会長 ありがとうございました。
 では、竹田先生、どうぞ。

○竹田委員 私も知財高裁の設置に関しての意見を述べさせていただきます。
 私は弁護士ですけれども、裁判官を40年やっていまして、特に後半の15年は専ら東京高裁で知的財産事件を専門に担当してきましたので、その経験も踏まえてこの知財高裁問題について幾つかの所見を述べさせていただきたいと思います。
 まず第1に、知財高裁の設置問題と技術専門裁判官制度の導入をリンクさせるべきではないというのが私の意見です。つまり、裁判官は、具体的紛争について事実を認定し、法を解釈・適用して紛争の解決を図ることを使命とする者であって、それが裁判官の任務です。我が国における裁判官制度は、司法試験に合格し、司法修習を経て裁判官に任官する、いわゆるキャリアシステムを原則としております。ですから、技術的知識・経験を積んでその職務に当たるわけではありません。
 ところで、裁判官が扱う具体的事件、特に民事事件に限って申し上げますが、技術専門性の高い事案は少なくないわけです。知的財産権をめぐる紛争もその一つですけれども、公害や工場災害、医療過誤、自動車・飛行機・船舶などの交通機関による事故、これらに関連する損害賠償事件などはすべて技術専門的な知識と関連した事案になってまいります。しかし、現在のキャリアシステムのもとでは、当然のことに裁判官はこれらの技術専門的知識は持っていません。そこで、民事訴訟法は、高度に専門的な経験則を事実認定の証拠資料とするために鑑定という制度を採用していますし、調査官制度をはじめとする補助機関の活用によって適正な認定判断を得るように努めているわけです。
 私も、先ほど言ったような期間、東京高裁で知的財産事件の処理に当たってきましたが、特許庁の審判官等から出向した優秀な調査官に支えられて十分にその機能を果たすことができてきたと思っております。もとより裁判官が技術的知識を有しなくてもいいということではありません。むしろ、高度に技術が発展して紛争の解決に技術的判断の必要性が高くなっていると言えるわけで、そういう意味では、いわば21世紀型の裁判官は、高度に技術的紛争に対応できるだけの資質、知識、経験を備えた裁判官であることが求められると思います。
 そして、将来的には、そのような裁判官が知的財産事件の担当裁判官として育成される制度をとられることが望ましいわけですが、その制度的基盤はすでに出来上がっているのではないか。つまり、今度導入されますロースクール制度からいたしますと、多数の理工系の学部卒業者が司法試験を経て裁判官に任官してくることが可能であり、まさに技術的バックを持った法律専門家が育ってくる。その中から知財関係事件の処理能力に優れた裁判官を育成していけば、今、産業界から期待されている知的財産事件の処理体制は整ってくるであろうと考えております。そして、それまでの間は、個々の裁判官が具体的事件の処理と自己研鑽を通じて技術的基礎の習得に努めること、また、その補助機関としての調査官制度、今度、民訴改正によって新たに設けられる専門委員制度の活用等によって適正な知的財産事件の処理が行われることを期待したいと思います。
 第2に、今年の民訴法の改正によりまして、特許権などの訴えは東京高裁に集中することになりました。その意味で実質的な特許裁判所として機能することになります。しかし、これを司法行政の面から見た場合は、決して十分な体制が整ったとは言えないと思います。先ほど申しましたように、私は昭和58年から平成10年まで15年間東京高裁の知財部に勤務しまして、特に後半の5年余は、当時3か部ありましたけれども、知的財産部を代表しまして、特許庁や弁理士会などの対外的な交渉や審議会での制度改正等に当たってきましたし、その意味では、特許行政に関する問題では裁判所を代表する立場にあったと言えましょう。
 ただ、私は、知的財産部に配置される裁判官についての人事はもちろん、その研鑽、海外留学、国際会議の派遣などについては全く何の権限も持っておりませんし、知的財産事件の処理に優れていると評価できる裁判官の育成のためには全く無力でした。知財高裁が設立されて、高裁としての独立した機能を発揮するようになれば、この点はかなり改善されて、第1のところで述べた知的財産事件担当裁判官の育成・充実・強化には役に立つだろうと思っています。
 そのような理解に立って、さらに知財高裁を設置するかどうかの問題を考えてみた場合、これまでいろいろな問題点が指摘されていますけれども、職分管轄をどこまでの範囲にするかとか、移送の問題とか、地方で事業活動を行っている者に不利益を与えないような措置とかの問題は、多分に立法技術的に解決できる問題であって、その点についての手当を怠りなくすれば解決できる問題であり、本質的な問題だと思っていません。
 要するに、残された問題は、今まで控訴審の管轄はすべて土地管轄によって、先ほど久保利委員が言われましたように、8つの高等裁判所が土地管轄によって定められた管轄を持って事件を処理してきたわけですが、そういう裁判所の組織に知財事件のみを扱う職分管轄を持った新たな高裁を設置することが司法制度のあり方としていいのかどうかということにあると思います。
 それも国家的施策として必要であるというのであれば、私もそれを肯定することにやぶさかではありません。ただ、その場合、今後、知的財産権のみならず、先に述べた技術専門性の高い分野、あるいは、通常の民事事件と異なる色彩を持った行政事件、労働事件についての専門裁判所の設置も問題になってくるでしょう。そういう意味では、我が国の司法制度に大きな影響を与える可能性があることを十分に配慮して事に臨む必要があるのではないかと思います。
 そのような基本的な考え方に立って、今後皆さんと知財高裁の設置の是非について議論を重ねることができればと思っております。以上です。

○阿部会長 今、いろいろな課題についてもお話がありましたが、下坂先生、御指名で恐縮ですが、いかがでしょうか。

○下坂委員 会長、ありがとうございます。
 私は、戦略本部会合から一貫して主張してきていることですが、知財の紛争処理にかかわる人は、技術と法律の両方に精通していることが不可欠であるという信念の上にやっております。これは、裁判を行う側も、代理人も、裁判官も、補佐する人も同じです。これに関してはいろいろな御意見がおありのようですけれども、私どもが今何をやっているかということを考えると、当専門調査会の第1回の立ち上げに当たりまして、特にこのお部屋にいらっしゃる方々にお願いしたいのは、私どもは今、知財をてこにして、日本国を世界的な飛躍をさせようという改革を行うことに燃えて集まってまいりました。その意図のもとに、知財戦略本部でいろいろなことを検討してまいりました。それらを頭に入れておいていただきたいと考えております。
 このような、知財と法律の両方がわかる人が知財裁判に関与することによって、国民が信頼する裁判を行うことが大変大事だと思っております。今回、民訴法の改正によって専属管轄になりますけれども、それだけでは不十分であり、さらに知財高裁を設立し、適切な人材を配置して、国民の信頼に応える組織づくりを一日も早く実現していただきたいと思います。
 名は体をあらわすように、知財高裁を設立することにより、知財高裁において、裁判官も代理人も、調査官や専門委員も、知的財産に精通している者が、知的財産に関し適切に争い、適正に判断される体制が日本にはあることを国の内外に示すことが肝要であると考えております。推進計画では、来年の通常国会に法案提出を目指しているところであり、早期に具体化すべきであると考えます。特に日本の製品や知的財産と密接に関係を有するアジアの国々の間で、知的財産の紛争解決において共通の裁判制度の基盤をつくるべく努め、裁判官を含む組織、法律、国際的管轄、言語などについて先鞭をつけることが日本の国に課せられていると考えております。また、制度に不備がありましたら、いつもとりあえずそこだけを変更していくというような従来の取り組み方ではなく、我が国も将来を見据えた政策を積極的に打ち出していくべきであると考えております。
 法整備の面では、我が国はアジア諸国の中で一日の長があります。その利点を生かしまして、世界をリードする侵害訴訟の専門裁判所を構築し、アジア地域経済の発展にも寄与すること、貢献することなども視野に入れていくべきであると思います。日本が世界の知財政策をリードするためには、民事訴訟法改正による専属管轄化から極力短期間で知財高裁に移行することを強く希望しているものでございます。
 知財の紛争処理においては、技術についての理解が不可欠です。近年様々な改革が行われてまいりました。弁理士は、従来の補佐人から特定侵害訴訟代理人という立場での活動が可能にもなりました。裁判所も調査官の権限拡大や専門委員制度の導入によりまして技術に強い裁判所になる努力を行っておられます。専門性の高い訴訟につきましては、こういった改革の努力は継続していくべきであると考えます。しかし、世界をリードする知財裁判の情報提供機能など、さらなる改革を続けるためにも知財高裁の創設は重要な要素でございます。
 知財高裁は特定の地域をあらわす名称がない。すなわち「東京高裁」の「東京」が抜けております。地方の方々には、「東京」という文字にアレルギーを起こされる方もいらっしゃるのですが、この「東京」がないことによりまして、地方の人にとってもなじみやすい名前ではないかと考えております。裁判を身近なものとして感じることができるという感覚は大事にすべきであります。これを実質的にも地方の人が使いやすくするためには、先ほど出されておりましたような巡回裁判所の制度(サーキット)とか、テレビ会議の活用などもぜひ取り入れていただきたいと考えております。よろしくお願いいたします。

○阿部会長 法学部の先生方が3人おられるのですが、その前に産業界のお話を伺いたいと思いますので、吉野先生からどうぞ。

○吉野委員 いろいろ難しい議論がこれから行われる予感がいたします。私は実務の点で当然一部知財に関係してきた者ですが、このところの大きなトレンドの変化に注目する必要があると思います。それは幾つかありまして、一つは、大学の改革が行われようとしていることです。それによって大変多くの研究開発のアウトプットがどんどん出てくることになりそうです。これは当然知財に絡んでくる傾向であります。
 従来、私たちの認識は、海外のビジネスの人たちは、日本の官の特許を甘く見ていた。やっても大したことないよと。それは、チェックとかモニターを発明者側がしていないから、やっても問題ないみたいなことが海外の人たちの一般の認識でした。その傾向が続くと、これから大量に出ていくものに対しても同じようなことがあり得るということで、知財の量がどんどん増えていくことと、それが大学から大変大きく出るだろうということに対応する必要があるということが一つです。
 もう一つは、これはいつの時代でもそうですが、これからは特に先端技術の先鋭化がさらに進むだろうと思います。したがって、専門性がどんどん深くなっていくというトレンドがあります。
 3番目のトレンドは、知財の係争は世界的規模になっていくということ。特に中国を筆頭とするアジア諸国が勃興してくることに伴って、我々が持っている知財が侵害されることが非常に多く起きる。私はホンダですが、現に中国では相当やられています。それには反撃もしているのですが、これはやがて、中国だけではなくて、あるいは、アジア諸国の中でのマーケットでの攻撃ではなくて、日本に押し寄せてくることになるであろうということであります。それらは怒涛のごとく来ますので、機動性といいますか、スピードといいますか、迅速性といいますか、そういうものが大変重要になってくるだろうと思っております。
 そこで、日本はこの分野では確固たる姿勢を貫くということのために、体制の強化も必要ですし、むしろメッセージ性といいますか、きちんとやるんだということを発信できるような体制づくりが非常に重要だろうと思います。私どもは、実はアメリカでPL訴訟に洗礼を受けてまいりましたけれども、この世界でも、敵はちゃんとやるんだということだと大変な抑止力になっていきます。そういうことがこの知財の分野でも、日本はちゃんとした体制で、ちゃんとしたことをきちんとやっていくとなると、それは大変大きなメッセージを持ち、間接的なパワーを発揮することになるだろうと思います。
 したがいまして、具体的に知財高裁がいいかどうかはこれからいろいろな御意見を聞かせていただいて考えたいと思いますが、いずれにしても、そういうニーズといいますか、そういうものはどうしても必要だと思います。明らかなメッセージ性を持った強力な体制が迅速に。国際紛争がどんどん増えていくと私は考えております。
 以上です。

○阿部会長 ありがとうございました。
 野間口先生、どうぞ。

○野間口委員 私も本部員としていろいろ議論をさせていただいた中で、知財高裁ということが出てきましたときに、知財のマネージメントに関する法体制のあり方に関する理論といいますか、哲学といいますか、この辺、私の手の届く範囲ではないなと思いながら参加していたのですが、実際に私どもが現実に直面している問題から考えてみますと、昨年になりますか、今年に入ってからになりますか、私ども、知財紛争が解決してやれやれとなったのですが、これが11年かかりました。スタートしたときの心意気といいますか、問題意識ももう風化しかけたころにやっと決着がつくということでは、何のための審判かなということがあります。したがいまして、こういったことをスピーディに専門性高くできるものがありますと、侵害は創造性の覇気を阻害することになりますので、ちゃんとした権利がきちんと保護されるとなりますと、創造する環境をサポートするという意味でも大変重要なことだと思いまして、そういった狙いでこの知財高裁の議論が出てきたと認識しておりますので、基本的には大賛成です。
 ただ、久保利委員をはじめ竹田委員もいろいろ御指摘がありましたが、いろいろ工夫するところがあると思っております。それは、現行の裁判体制のあり方プラス新しい、下坂委員の御指摘にありましたように、日本の競争力を強化するために知財という軸で考えようという取組みを我々はやっているわけですから、それに資するお立場はどうかということで、知財セントリックな審査のあり方も考えていただくことがいいのではないかと思っております。
 そうしますと、それに関するデータベース等が充実してきて、結果として、やればやるほど知財処理に関するノウハウが高度化する。これは結局日本のためにもなりますし、日本として世界をリードするようなことにもなるのではないかということで、今は大変期待しているというのが本音でございます。

○阿部会長 ありがとうございます。今お2人の委員からお話がありましたけれども、お2人も日本を代表する企業のトップであられたわけです。一方、山田先生から御覧になって、ベンチャーという立場と伺っておりましたので、今の件について御意見を賜れればと存じます。

○山田委員 今御紹介がありましたように、ベンチャーですが、知財紛争があったとかそういう経験がないのでわからないのですけれども、私たち自身が感じていることは、今から起きるのは、今までになかった新しい形の特許が出てくる。というのは、90年までは、日本は基本的な発明はほとんどしていないわけです。例えば、テレビをつくったとか、ビデオを発明したとか、そういった発明はなくて、アメリカその他の国で発明されたものに対しての周辺の特許が多く出願されました。となると、現在見てみますと、特許庁の審査官あるいは弁理士の方等を見て、改善に対する特許には非常に詳しい知識をお持ちですが、全く新しい概念の特許とかそういったものに対して対応する力は、私が勝手に感じることですが、ないように思います。
 90年代の10年間は、日本がこうなったのは、もうまねをするものがなくなって、新しい特許を自分で考えなければいけないのに、それをやってこなかったというのがこの10年間だと思います。ただ、やっとここに来て、こんなことを言うとあれですが、我々のような企業が、高度な教育を受けた社員がたくさんいまして、彼らが全く新しい概念の特許になるであろうと思われるものを出してくるのですけれども、まず1点は、全く新しい概念なので、なかなか言葉にできない、文字にできない、表現できないということがあります。2番目として、それは確かに現象としては新しいことが起きているのですけれども、文字にできない。それをまた、弁理士の方に頼んで、弁理士の方もそれが理解できない。今までに全く見たことがないものなので。ましてや、特許庁に行くと、特許庁の方もそれを見たことがない。
 今、日本にせっかく新しいものが生まれつつあって、先ほど吉野委員がおっしゃったように、大学からどんどん特許が生まれるというお話もありましたけれども、そういった企業からも、今から起きてくる若い企業からはすごい特許が生まれそうです。そういったものに対して対応するファンダメンタルというか土壌をつくっていく必要があると思います。特にここで言う権利にすべき特許は、やはり今から起きてくる新しい特許ではないかと思います。改善特許はもう既に十分ありますから、むしろ今から来てくる、アメリカなどにあるようなビジネスモデル特許とか概念特許、そういったものに対して対応できる力を早くつけなければいけないというのが一つです。
 2番目として、力をつけて特許を出しても、今現在の特許庁の特許のあり方、それは何かというと、特許を日本の国の財産にしようというよりも、まずは拒否しているところから始まるわけです。敷居を高くして3回くらい出したら、やっと受け付けてみようかというような形ですよね。かつ、その中で、本当に早く、せっかく日本の国から出ている特許を早く日本の財産にしようという体制ではなくて、何とか特許にしないようにしようとしていると感じるくらい、特許になかなかなりにくい。それよりもむしろ、せっかく日本が発明したものを早く財産にするは、こうした方がいいぞというくらいの教えをしながら、早く日本の財産にしてしまう。後でもし国際紛争が起きたら、さらにそれに対して日本の国が国際紛争に対して、特許庁なり裁判所なりが守ってやるというくらいの体制をつくっていただきたいと思います。
 先ほどの高等裁判所という話は、法的な話で私にはよくわからないのですけれども、今日のお話の中で2つのこと、高等裁判所と特許審査の迅速化ということが議題になっていますけれども、いずれにしても、迅速に特許にするかしないかを決めてしまう。いいものは早く日本の財産にすることが第一です。かつ、同じように、裁判所も、何かあったら、ここで言っているように、迅速に裁判をすることが必要だと思います。
 特に、今は、1年や2年でだめになってしまうような知識がたくさんあって、長い間裁判をしていて、結局はビジネスチャンスを失うことが起きてくる中で、知的財産高等裁判所について議論する場合は、本当に迅速に行うにはどうすればいいかということが一番の焦点で、私は、早く裁判が決着するためにはどうするかということを議論して、法的な問題とかいうよりも、そこが一番のポイントだと思います。日本がそういう体制になるためには、日本政府の方針でもあるわけですから、小泉首相の施政演説の中にも入っているように、知的財産立国を目指すわけですから、その整備を行うことが重要であることは、今日つくづく感じております。

○阿部会長 ありがとうございました。産業界の3人に共通しているのは、今、まさに時代がどんどん変わり始めているということだろうと思います。
 中川先生、お待たせしました。

○中川委員 自己紹介も兼ねて申し上げますと、私は行政法を専門にしております。これはどういう分野かといいますと、法律の執行は普通は裁判所がやるわけですが、行政機関にやらせようということが現代では非常に多い。行政法学では、役所が法律を執行する場面すべてを扱います。知財の場面でも、特許庁、あるいは、水際の関係で税関の話が出てくるかと思いますが、そこら辺、行政機関の活動をどのように仕組むことが一番合理的かといったことを法制度から研究することをやっております。それから、行政機関は法律を執行するためのものですから、違法なことをやると必ず裁判で是正されなければいけないという観点もあります。この2点が私の専門です。
 特に今申し上げたことの最初の方ですが、行政をどのように仕組むかに関して、最近、規制緩和であるとか、地方分権、情報公開、行政手続、さらに今は訴訟まで改正しようということで改革ラッシュです。改革をする場合に、私のような行政法の世界の人間から見ますと、最初に何をやるかといいますと、どういうニーズがあるのか、今は何がだめなのか、そして、どういう目標を達成すべきか。つまり、何がニーズであるかまず確定し、このニーズを満たすためには世の中の制度がどのような状態を達成しなければいけないのか。まず課題を認識するわけです。2番目に、課題達成のためにはどういう選択肢があるのか、論理的に考えられるあらゆる選択肢の組み合わせを全部出していく。3番目に、それぞれのメッリト・デメリットを考えて、最後に二、三、これはいいのではないかというものを選び出す。最後の二、三の中のどれにするかは、個人個人の哲学、その時々の財政状況、政治状況によって変わってきます。以上のような作法をすべての改革で踏んできたわけです。
 私はそういう世界で生きておりますので、この知財高裁の話にしましても、はっきり言って外野の者ですが、新聞報道などをちらちら見ていますと、どうも論者によって知財高裁のイメージが違うようで、私には今でもはっきりしない。ですから、賛成とか反対とか言いづらい。どのようなイメージなのかがはっきりしていないという問題があるように思います。私だけがわかっていないのかもしれませんけれども。
 今日もいきなり具体的な話になってしまいましたが、多くの委員の先生方はよく御存じの問題だと思いますけれども、これは重大な問題ですし、国民にとって理解できるということが必要だと思いますので、知財高裁について、何が達成すべき目標なのか。もちろん知財立国が目標ですけれども、もっと具体的に、さきほど幾つか吉野委員からニーズが具体的に出ていると思いますけれども、そういうことを挙げていただく必要があると思います。また、それを達成するためには知財高裁が必要だとしても、知財高裁の仕組み方にもいろいろなものがあると思います。
 例えば、今日は挙がっておりませんが、判例統一ということを挙げる新聞記事などもありましたけれども、判例統一が目的なのであれば、例えば知財高裁は法律審にしてはどうか、事実認定は地裁だけだという選択肢も論理的にはあり得ます。賢明かどうかはわかりませんが。
 それから、専門性であれば、そこで言う専門というのは、法的な専門性を言っているのか、あるいは、新しい技術が出てきてこれはなかなか理解されない、その技術をどうすれば理解できるかという、事実に関する専門性を言っているのか、どちらを議論するかによっても仕組み方が違ってくると思います。
 さらに、世界に対して日本は知財を守るのだという気概を示すのであれば、私は、「知財高裁」という名前よりも、これは常々思っていることで、裁判所に対する不満ですが、もっと裁判官にしゃべってほしい。個人の裁判官が、裁判所を代表してしゃべるのではなくて、裁判官の独立も保障されているわけですから、個人としての考えを外に向かってしゃべってほしい。たとえば、知財法で守るべき財産と守るべきではない財産とはどう違うのか、知財法に関する哲学を発信できるようになって初めて海外で聞いてくれると思います。海外経験豊富な委員もおられると思いますけれども、しゃべらなければだれも聞いてくれませんので。そういう知財高裁をつくるのであれば、その裁判官は自由にしゃべれという、何となくそういう雰囲気をつくってもらうとか、そういういろいろな選択肢があると思います。
 これは今思いつきを言っただけですので、私がどれかに賛成ということではありません。しかし、目的と、それに対する選択肢がこれだけあります、メリット・デメリットはこういう形です、ここら辺が一番いいというような全体の見取図といいますか、そういう議論のベースになるようなものをまずお示しいただかないと、少なくとも私はこれ以上議論についていけないと思います。賛成も反対も、イメージがはっきりしませんので。そういう必要があるのではないかと思って先ほど手を挙げました。それだけです。

○阿部会長 私の方にイメージがあるわけではありませんので、これもいろいろ議論していかなければいけないのですが、高林先生は最高裁に長くおられたと伺っていましたのでお願いします。

○高林委員 私は今、大学で知的財産権法を教えておりますけれども、昔、17年間ほど裁判官をやっておりまして、竹田委員よりも短い経験ですが、知的財産訴訟も担当しておりました。ですから、半分学者、半分裁判官のような立場かと思います。
 知的財産訴訟のユーザーといいますか、知的財産訴訟を活用する方は原告と被告ですが,私の裁判官をやっていた経験から見ますと、知的財産訴訟には他の専門的分野の訴訟にはない特色があるように思います。というのは、技術を開発して権利化していく人は特許権者になりますけれども、同じ人が技術開発していく途中では侵害者になってしまう可能性もあるわけです。ですから、知的財産訴訟においては,原告の立場に立つ同じ会社が被告の立場に立つことがよくあります。これは、医療過誤訴訟などでは通常はあり得ないことであって、常に医者が被告で患者が原告になるということで制度設計すればいいのですが,知的財産訴訟の制度設計に当たっては,ユーザーである原告と被告が入れ代わるような立場にあることに留意する必要があると思います。
 ですから,知財立国のために知的財産訴訟を活用することは一つの政策だと思いますが、原告の立場をあまり強調すると,その会社が被告になってしまう場合もあって、たとえば,営業上の秘密を訴訟の場面で証拠開示をさせるという問題でも,ノウハウを持っている会社であれば証拠開示はしてもらいたくないでしょうし、攻める側であれば証拠開示させたいとなるわけですから、原告であり、被告であり、侵害者であると言われる人、権利者であると言われる人、双方が納得できる制度設計をやらなければならないだろうと思います。
 今までに話が出ているのは特許訴訟のことが主だったように思いますが、知的財産訴訟には著作権の事案も多く登場します。現代は,1億総クリエーターといわれるように、だれでもが著作物を生み出していきますから,だれでもがその過程で著作権の侵害者になりかねず,被告になる可能性もあります。したがって,知的財産訴訟という広い意味で言うならば、多くの人が原告にもなり得るし被告にもなり得るような著作権をも専門裁判所のテリトリーに入れるのか入れないのかという問題も,政策論としては重要なのではないかと思います。
 竹田委員から,細かい話は何らかの方策によってカバーできるという話もありましたけれども、久保利委員がおっしゃったこと、竹田委員もおっしゃったこと、下坂委員がおっしゃったことも,いずれも主として技術上の問題の登場する特許訴訟のことを念頭に置いたご発言だったように思います。私も主として特許訴訟に関与してきた人間ですから、特許訴訟は裁判官に技術的な知識が必要であるし、技術的なアドバイザーが必要であることは十分にわかるわけですが、著作権の事件であるとか、不正競争の事件とか、それこそ美術の事件であれば、技術的な面は全くないという事件もあるわけですから、これらをすべて包含した意味で知財高裁をつくるのか、今回、民訴法が改正されて東京高裁の専属管轄になった事件だけに限定した、いわば特許高裁だと思いますが,そういうものをつくるのかという問題は,技術的な問題かもしれませんけれども、やはり大きな問題になるのではないかと思います。この辺をどのように切り分けていくのかということは、政策立案する者にとっては、常に原告の立場、被告の立場に目を配りながら決めていくべきことなので、これからその辺がどのように議論されていくのか、推移を見たいと思います。
 それから、やはり竹田委員がおっしゃったことですけれども、特許高裁であれ、知的財産高裁であれ、それをつくったことによって国の訴訟制度にとっていいことがあるべきだろうと思います。その一つが,先ほど竹田委員もおっしゃったのですが、知的財産高裁独特の予算立案ができるとか、裁判官の人事などに関してある程度の力を持つことができるのかということだと思います。現行法でできないならば法改正しろということになのかもしれませんが,知的財産高裁をつくったことによって、裁判官の養成という意味でも非常によろしいし、ユーザーとしての立場から見ても、先ほど来出ているように、訴訟が迅速化されるなどのメリットがないと、単に新しい裁判所をつくりましたよというだけでは、ちょっとやるせないなというのが、私の今のところの気持ちです。ですから、その辺もこれから十分に議論していただきたいと思います。
 今までもこれらの問題点はいろいろなところで議論されていると思います。特に、伊藤委員が座長をやっておられる会議等もあるようですから、そちらで蓄積された議論をお伺いしてからと考えております。
 以上です。

○阿部会長 お名前が出ましたが、伊藤先生は法制審議会の方でも知財の御担当をされていると伺っておりましたし、今そういうリクエストもありましたので、あわせてよろしくお願いいたします。

○伊藤委員 今までのお話の流れがございますので、知財高裁の問題につきまして私の意見を申し述べさせていただきたいと存じます。
 ただいま高林委員からも言及していただきましたが、司法制度改革推進本部の知的財産訴訟検討会において、知財高裁の創設に関する検討を行っております。私は検討会の座長をさせていただいておりますので、その検討状況につきまして、その立場からお話をさせていただいて、それから若干、民事手続法の研究者としての意見を付け加えて申し上げたいと思います。
 検討会では、司法制度改革審議会の意見書及び知的財産戦略大綱を踏まえて、知財訴訟のさらなる充実、迅速化についての方策を検討しております。昨年10月から始めまして、これまで12回の会合を開いてまいりました。
 具体的な検討課題は、いずれも産業界から要望の強いものでございまして、かつ、戦略本部が7月8日に決定した推進計画の中に盛り込まれているものでございます。一つは、特許権等の侵害訴訟における無効の判断と、無効審判の関係等に関する検討でございます。推進計画では、特許権等の侵害をめぐる紛争の合理的な解決を図るために、2004年末までに侵害訴訟と重複的に係属する、特許庁における無効審判等の関係を整理することについて検討を行って、所要の措置を講ずるとされているわけでございます。
 2点目は、先ほども専門委員等のことでお話が出ましたが、専門家が裁判官をサポートするための訴訟手続への新たな参加制度の検討でございます。推進計画では、知財訴訟における専門的知見を充実するための体制を整備するというところから、裁判所調査官の役割を拡大あるいは明確化するなどの方策について検討して、2003年末までに結論を得るとされております。
 3点目は、侵害行為の立証容易化のための方策の検討でございます。推進計画の中では、知財訴訟における証拠収集手続の機能を強化するために、2004年の末までに、営業秘密を含む文書について、文書提出義務の例外となる文書の範囲の見直しとか、文書の開示を受ける者の守秘義務、憲法上の裁判公開原則のもとでの営業秘密が問題となる事件につきまして、非公開審理を実現できるかどうかなどについての検討を行って所要の措置を講ずるということでございます。
 4点目が知財訴訟のあり方で、推進計画の中では、先ほど来言及がございました知的財産高等裁判所の創設について、そのあり方を含めて必要な検討を行うとされているところでございます。
 先ほど来のお話との関係で、最後の問題について検討会の検討状況を御紹介させていただくことをお許しいただければと存じます。
 本年4月の検討会におきまして、知的財産裁判所の導入の効果に関して、一つは、判断の高等裁判所レベルでの早期統一を図り、判決の予見可能性を向上させる必要がある、技術判事導入を考える場合の基盤となる、第3番目に、我が国の技術立国、知財立国としての姿勢を形として示すことが重要であるという、知的財産裁判所の創設について積極的な意見がございました。
 これに対しまして、民訴法改正、これも先ほど来言及していただいておりますけれども、その中では、戦略大綱の提言を立法化したものとして、東京、大阪、両地裁の専属管轄、実質的な知財高裁の機能をつくりだすための控訴事件についての東京高裁の専属管轄が実現したので、それで十分ではないか、さらに制度改革を考える場合には、その運用、実績を見て考えるべきだという慎重論もございました。
 この点につきましては、諸外国の裁判制度についてもしばしば議論されるところですので、私どもとしても5月に、中堅、若手の、民事訴訟法、知財法の学者に、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス等欧米の主要国における裁判制度について、約半年ほど研究調査をしてもらいまして、その結果の報告を受け、すでに公刊されております。その後、先ほど申し上げましたとおり、7月8日に推進計画が決定されたわけでございます。
 そこで、それを踏まえまして、7月の検討会で知的財産高等裁判所を創設した場合に期待される効果とか課題について検討を行ったわけでございます。委員の間からは、判例統一の機能については、法律的にはこれは最高裁が行うことであって、高裁レベルとしては民訴法改正によって実現されるところで十分ではないかという意見もあります。また、技術判事の導入についても、積極・消極の両意見がございます。知的財産高等裁判所を創設することが国家戦略としての知財重視の姿勢を示すために、いわばアナウンスメント効果があるという意見もございました。
 他方、特別の裁判所の設立は司法の根幹にかかわることですし、一旦決めると、それをまた再び変えることは困難であることから慎重な検討が必要だという意見もありました。それから、創設することについての問題として、裁判官を知財のスペシャリストとしますと、そのことがかえって裁判官としての視野を狭くするおそれがあるのではないかという意見もございました。さらに、他の専門訴訟の分野、労働事件とか医療関係事件などがございますが、こういったものについても専門の裁判所を創設する方向に行くおそれはないかという意見もあったわけでございます。
 また、これも先ほど来御指摘があったところですが、職分管轄について、知財高裁という国法上の組織としての裁判所をつくることが、かえって管轄の点で柔軟な対応ができなくなるのではないか、あるいは、著作権や商標権等の事件について、柔軟な取扱いができなくなるのではないかという懸念を表明する意見もございました。こういったことについては、既に議事録がホームページに掲載されておりますので、御参照いただければ、より正確なところがおわかりいただけるかと思います。
 私どもの検討会は、知的財産が適正かつ迅速に保護されるように、知財訴訟のあるべき姿について積極的かつ総合的に検討していくことを考えております。特に知的財産裁判所につきましては、この専門調査会での議論との関係が深いものですが、知的財産検討会においても、これまでお話ししましたように検討中ですので、私が知財高裁のあり方について断定的な結論を申し上げることは、今回は差し控えさせていただきたいと思います。
 ただ、若干、民事手続法の研究者としての意見ということで申し上げますと、裁判所の組織は、裁判が果たすべき役割と密接不可分の関係でございます。最高裁判所を頂点とする我が国の裁判制度全体を適正に機能させるためにどのような組織が望ましいかという視点で考えていかなければいけないと、私は信ずるところであります。また、組織を設計するに当たりまして、まず、利用者である訴訟当事者の利便を重視すべきであることは当然かと思います。同時に、裁判制度設営の最終的負担は国民が負うわけですが、その制度設営の最終的な負担を引き受ける国民にとって十分に納得できるものかどうか、これを、あり方を含めて検証しなければいけないというのが私の考え方でございます。
 いずれにいたしましても、私としていたしましては、推進本部と知的財産戦略本部の橋渡しとしての役割が期待されていると思いますので、この場の議論を法案を提出する役割を担う推進本部に的確に伝えて、立案作業に十分反映できるように努めたいと考えております。
 お時間をいただきまして、どうもありがとうございました。

○阿部会長 今、伊藤先生の御説明で一渡り御意見をちょうだいしたわけですが、最後に伊藤先生からおっしゃっていただいたように、まさに伊藤先生の方の検討会が非常に大きいイニシアチブを持っておられるところがございますので、私どもとしても、ぜひできる限りの意思の疎通ができればありがたいと思っておりますので、よろしくお願い申し上げます。
 今日は、迅速化についてもいろいろ御意見をいただきましたが、迅速化も知財高裁と密接に関係があるという御説明もいただきましたし、また、知財高裁にお話が集中しておりましたけれども、これに対してどういう視点で臨むかということで様々な御意見をちょうだいしました。
 今日はフリーディスカッションということで、以後はまさにお手をお挙げになった方どなたでも結構でございますので、反論も含めていろいろ御発言をいただければと思います。

○野間口委員 反論というわけではないのですが、先ほど高林先生が知財裁判の特殊性といいますか、被告人になることもある、原告になることもあるというお話がありました。私どももまさにそのとおりだと思っておりまして、今までにもいっぱい権利行使されたことがありますし、私どもが権利行使したこともあります。件数で言いますと、私どもが権利行使して、我が社の特許に触れていますよという数よりも、我が社がそういうアピールを受ける方が、世界が相手ですからはるかに多いわけです。
 ただ、そのときに、私どもとしては、まさにそういう性格のものだと思っておりまして、相手の言うことに納得すれば適切なる契約をして使わせてもらうということをやっておりまして、決して攻めるためだけ、日本が、アジアとかああいうところに対して、攻撃の道具としてこういう環境を整えましょうというよりも、恐らくホンダさんもそうだろうと思うのですが、正当なる競争環境を確立する意味で産業界は言っているわけでありまして、決して独りよがりで、知財活動をよくやっているところが主張しているというものではございませんので、誤解のないようにお願いしたいと思います。

○高林委員 私はそういう趣旨で申し上げたわけではなく、訴訟制度は、通常は角突き合わせる関係ではあるけれども、今おっしゃったとおりで、知的財産訴訟というのは、むしろ原告の立場、被告の立場がよく理解し合える訴訟の形態なのだと。ですから和解も成功率が高い訴訟でもあります。私は、原告と被告が同じ土壌に立ち得る、理解し合える訴訟類型なので、そこを考えながら制度設計をしていくべきであると申し上げただけであって、ちょっと誤解を生じたならば、そこはおわびしたいと思います。

○阿部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。

○下坂委員 今の高林先生の制度設計というのは、いわゆる訴訟の手法ではなくて、制度そのものの何か基盤的なものでございますか。

○高林委員 私は、知的財産法制一般に関してそのような考えを持っていますので、あらゆる知的財産関係の解釈論や立法論もそのような観点からやるべきだと思っております。たとえば,特許発明の技術的範囲の解釈論であっても,発明の成立要件であっても、攻める側と攻められる側が常に逆転し得るところから、調和のとれる解釈や立法をすべきだと思います。また,知的財産訴訟制度も知的財産制度の中の一つですから,知的財産訴訟制度も同様なものとして位置付けられるものだと思っております。ですから、知的財産訴訟制度における管轄の問題,特に職分管轄の問題もそうですし,また、証拠開示の手続についてもそうでしょうが,あらゆる面で原告,被告双方の立場を勘案しながら制度として設計すべきではないかと申し上げたつもりでおります。

○荒井事務局長 今出た御意見の関係で、資料7で経緯を補足説明させていただきたいと思います。
 本部員の先生方は皆さん御存じですが、資料7は大変議論があった部分でございまして、産業界が中心でございますが、ユーザーである経団連あるいは知的財産協会とかいろいろなところから実際に知的財産の訴訟を利用する立場からすると、知的財産高等裁判所をつくってほしいと、利用者からはそういう御要望がございました。それを踏まえて、知的財産本部では、何回か議論がございまして、ここに御出席の本部員の方は皆さん御存じのとおりですが、御出席の方以外の先生からも、こういうものはつくるべきだという御議論がございました。それから、閣僚の大臣からもいろいろな御発言がございまして、ぜひつくるべきだという御発言をなされた大臣も何人もいらっしゃいます。もちろん、担当される大臣からは、総合的に判断すべきとか、いろいろな御発言もございました。
 そういうことを踏まえて、まさにここにございますが、最終的には、「今回の民事訴訟法改正により、特許権等の知的財産訴訟の管轄が東京高裁に集中されることは高く評価できる」と。判例の統一とか専門委員とか、そういうことは非常にいいことではないかということでございますが、これだけでは十分ではないということが次に続いておりまして、日本経済の国際的な優位性を引き続き保つ上で決定的に重要な知的財産の保護を強化するためにはさらに工夫が要るのではないかということでございますし、内外に対して知的財産重視という国家政策を明確にする観点、これは御発言の中でアナウンスメント効果とかいろいろ御紹介がございました。これは、アメリカにおいてCAFCという形でできたり、あるいは、今年、EUが統一特許裁判所をつくると決定したりして、各国が、自分の国は知的財産重視だということで国際的なメッセージを発信し合っているのが全体の流れだということで、日本としてもそういうことをしっかり言うというのがここでございます。
 結論としては、「知的財産高等裁判所の創設につき、必要な法案を2004年の通常国会に提出することを目指し、その在り方を含めて必要な検討を行う」ということでございまして、必ずしも私ども事務的にこの経緯を、今回新しく委員になっていただいた方に十分御説明しておりませんし、どんなオプションの中からこういうものが出てきたかということを十分に御説明してありませんので、追ってまた御説明させていただきます。是非についてではなくて、そのあり方を含めて必要な検討を行うということになりました。政府としては、総理大臣のもとでこういう決定をしたという経緯を御紹介させていただきました。さらにこれを踏まえまして、9月26日に臨時国会が招集され、そこで総理大臣が所信表明演説をされましたが、そこにおいて、特許裁判の改革を図っていくということをおっしゃっています。そのほかには、特許審査の迅速化と偽物対策、この3つを特にメンションして、特許裁判の改革、特許審査の迅速化、偽物対策を踏まえて知財立国を進めていくというのが今の政府の方針になっていることも補足説明させていただきます。

○阿部会長 全部ここの専門調査会ですね。

○荒井事務局長 そうです。どうぞよろしくお願いいたします。

○阿部会長 それでは、ほかにどうぞ。

○中川委員 私が先ほど申しましたのは、まさにその「あり方」の部分について幾つかの選択肢が各委員の中でちょっとずつ違うバージョンが出てきているのではないかということです。例えば9番目の高裁と考えるのか、それとも、今回の平成15年の民訴法改正でできた東京高裁に集中したものを知財高裁と呼ぶという話なのか。これは実は法科大学院でやっている手法ですが、一専攻だけど、対外的には法科大学院と言われている。そのほかにも、行政法の世界の例で、自治体の話をしますと、消防局という一部局だけれども、対外的にはそこの局長は消防長ということで、消防組織法ではまた独立の権限を持ったものとする。2枚看板と言うと語弊があるかもしれませんけれども、そういうテクニックは法律ではよく使いますので。だから、まずここで2つの選択肢があるわけですよね。
 もう一つは、いかなる専門性が必要なのか。法的に海外の法律家とやり合うような法的な専門性が必要なのか、技術がわかるという方の専門性が必要なのか。そこもどちらを年頭におかれているのか。そこら辺がばらばらな感じがいたしました。
 それぞれを、A案、B案、C案、D案として、どれについて賛成か反対か、どういうメリットがあるのか、まさにそのあり方についてもう少しわかりやすくしていただくと、議論が生産的になるのではないかと思いました。

○竹田委員 今、中川委員がおっしゃった最初の点については、荒井事務局長が言われた資料7にあるように、知財高裁の創設について必要な法案を提出するということだから、何も東京高裁の知財部をそのまま一つの知財高裁と見ようという問題では全然ないと思いますし、今までそういう形で議論が行われてきたことはないと私は認識していますが、それでよろしいでしょうか。
 そこは、9番目の高裁を設立する問題だというのが、この知財高裁の問題であると私は理解していますし、そういうことでこの議論は進められているのだろうと思います。

○中川委員 そこは重要なところですよね。

○久保利委員 結局、中川先生がおっしゃるとおり、今までの戦略本部の議論で、野間口さんや僕、下坂さんは関与していたからそういうものだと思っていますけど、新しくこの専門調査会にお入りになると、今おっしゃったような疑問が当然出てくる。まして行政法規の専門家でいらっしゃる方から見れば、そのように見えると思います。
 したがって、事務局長にお願いですが、今、中川先生がおっしゃったこと、あるいは、竹田先生がおっしゃったことを含めて、知財高裁とはどういうものとして我々は考えて議論していくのか、その選択肢が全くないわけではなくて幾つかあり方があるわけですから、こういう選択肢もある、こういう選択肢もあるという部分もあると思います。ただ、9番目の高裁ということについてはあまり異論はなかったかなと私も思いますけれども、少なくともそういうものを整理していただいて、次回までに事務局でまとめてペーパーを出していただくと、議論のスタートポイントがみんな一緒になって、そこは違っていた、これはこうだということが、計画との整合性ができるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

○阿部会長 非常にいい御提案だと私は思いますが、事務局は大変かもしれませんが、がんばっていただきたいと思います。

○荒井事務局長 はい。

○阿部会長 もう少し時間がありますから、事務局が整理する論点について、もう少しいろいろ御意見をいただければと思います。

○高林委員 最初に久保利委員は,今回改正された新しい民事訴訟法で言う東京高裁を知財高裁という第9番目の高等裁判所として位置付けるとご提案されましたが,そのご提案では、裁判官の技術的、専門的知識を補強する調査官制度などにも言及されたわけですので,ここで言われた知財高裁は,今回東京高裁の専属管轄となった特許とか意匠、半導体チップ保護法あるいはプログラムの著作権についてだけ扱うということでよろしいのでしょうか。

○久保利委員 プログラムの著作権は入るけれども、いわゆる美術とかそういうものは含まないということでいいのではないかという私の意見を申し上げただけです。これは必ずしも、どこまでどうなるかということがリジッドに決まっているわけではないと思いますけれども、基本的には、今申し上げたような管轄という意味で申し上げました。

○竹田委員 今の点は非常に問題があるところで、知財高裁を9番目の高裁として設置する。しかし、その職分管轄は、今度専属管轄になった特許等の部分に限って、商標や著作権は入らないとなった場合、現実を考えてもらいたいのですが、今、東京高裁の知財部はそういうもの全部含めて担当しているわけですね。そうすると、今まで東京高裁管内の事件は全部東京高裁の知財で担当していた部分が知財高裁ではなく、東京高裁の通常部に行くことになります。それでは何のために知財高裁をつくるのか非常に疑問です。
 つまり、今よりも権限の小さい知財高裁を高裁として独立してつくるのか。それは象徴的な意味以外にない。それよりは、実質的に考えれば、今の高裁の知財部が担当していることをそのまま維持した方が、判例統一機能があるのかどうか問題ですけど、よほど意味があるので、職分管轄をそれだけ狭めてしまって、それで9番目の高裁ですという意味は、対外的なアピール、象徴的な意味だけになってしまうのではないか。その点が非常に疑問です。

○久保利委員 そこは議論の対象になる部分だと思います。
 かといって、音楽著作権から何から全部入れるのか入れないのか、どこで線切りするかという問題だと思うので、竹田先生がおっしゃる議論は十分にあり得る議論だろうと思います。ただ、私の考えとしては、そういう方が整合性というか、せっかく民訴法を改正したのにというお立場もそれぞれあると思いましたので、そのあたりは尊重した上で、職分管轄はそう決めた上で全国区に広げるのは一つの考え方かなと思ったわけでありますけれども、必ずしもそれでなければいけないとは思っていませんし、それはあり方の議論として十分、A案、B案としてあり得ると思います。

○阿部会長 そこは整理が必要ですね。わかりました。

○伊藤委員 私、今回初めてこの場の議論に参加するわけですので、従来の議論の経緯を必ずしも正確に把握しているとは思いません。そういう意味で、先ほど会長が事務局に指示して、どういう考え方があるのか整理してもらうことについては、ぜひお願いをしたいと思います。
 ただ、私の理解で、先ほど荒井局長から御説明がございましたが、知財高裁の創設について、そのあり方を含めて必要な検討を行うといった場合に、国法上の高等裁判所として第9番目の高等裁判所をつくることももちろん一つの考え方でしょう。しかし、それ以外に、民訴法改正によって実質的に東京高裁に知財高裁の役割が集中され、それをもう一歩進めて知財高裁としての機能・役割を充実させ、かつ、知財の保護という政策目的が明らかになるためには、どういう制度設計がいいのか、そういうかなり広い含みのある意味で、そのあり方を含めて必要な検討を行うと私は理解していたものですから、そこをここで議論するべきではないかと考えております。ぜひそのあたりも含めて議論を整理していただければと思います。

○中川委員 先ほど竹田先生から、9番目の高裁はもう決まっているというお話でしたが、そうであれば、ここで議論することはほとんどないのですが。

○竹田委員 決まっているというのではなくて、それを設立することが是か非かの議論をここですると。

○中川委員 是非も選択肢ですか。

○竹田委員 もちろんそうです。

○中川委員 非もありですか。

○竹田委員 非もありだと思います。

○中川委員 それならよろしいんですが。

○竹田委員 そういう意味で言っているので、つくらなければならないということを言っているわけではないんです。それは誤解です。

○中川委員 わかりました。失礼しました。

○久保利委員 ただ、「創設を図る」と書いてあるから、図る方向で議論して、その結果、図るべきではないとなったときにどういうことになるのかわかりませんが、少なくとも戦略本部での認識は、そういう9番目の高等裁判所という理解が議論が進んでいたことは事実ですね。そういうものをつくろうよということであって、それは竹田先生がおっしゃったような認識で。ただ、問題は、9番目のものをつくるときに、今のような、本当の意味の職分管轄をどこにどうしていくのがいいのか、あるいは、そうではないのかという議論はもちろんするべきだと思いますが、基本的には図る計画でこの計画自体はつくられている。創設の方向でつくられていることはそのとおりだと思います。

○中川委員 その場合の選択肢として、9番目の高裁か、何もないかの中間項ということが先ほど私がちょっと申し上げたことですけれども、そういうものもあり得ると。

○久保利委員 あり得るのではないでしょうか。
 あり得るという点ではあり得るのですが。

○竹田委員 言葉ではあるかもしれないけど、実態としてそういうものがあり得るはずがないと。どういうものがあるでしょうか。

○久保利委員 先ほどの議論ではありませんけど、高林先生もおっしゃっていた、じゃ、商標の部分についてどうするか。そうすると、それについては東京高裁のあれに置いていくという意味では、新しい9番目の高裁だけれども、細かい部分についてはどっちに振るかということは、議論としてはあり得るのではないか。しかし、それは、竹田先生もおっしゃるように、そんなものを置いていったら意味がないじゃないかとおっしゃられれば、それはたぶんだめということになるでしょうし、逆に、そうしないと商標とかそういう問題については地方の問題があるから、それはむしろ置いていった方がいいというお話があるかもしれないし、巡回でやるからそれも全部できるからいいんだという議論になるかもしれないし、たぶんそういう議論になっていくと思います。だから、議論の対象にはなるけど、最終的には、9番目の高等裁判所というところに、論理必然的に行くかどうかはわかりませんが、たぶんそれが一番座りがいいことになるのかなと私自身は思っていますが、それはむしろ座長のもとで議論すべきテーマなのかもしれません。

○阿部会長 知財高裁がどういう役割を負うかとか、どういう性格であるかとか、そういうあり方の問題は、ここで鋭意御議論いただかなければいけなくて、そのための専門調査会ですので、そのためにも、先ほど久保利委員がおっしゃったように、どういう論点があるか。つまり、知財高裁といっても、中川委員がおっしゃったように、イメージがかなり統一されてきたとはいえ、まだ、ここは違うのではないかとか、いろいろな選択肢があると思いますので、その辺も整理していただいて議論がしやすいように。

○荒井事務局長 はい。

○阿部会長 こんなものだったらやめた方がいいということも出てくるかもしれませんけど、そこはまさに資料7のような方向で御議論いただくということだろうと思いますので、よろしくお願いします。
 それでは、迅速化法についても何人かの方からそれに触れる御発言がありましたけれども、あまり触れておられない方もおられますので、あわせて御意見をちょうだいできればと思います。

○伊藤委員 私はまだ十分に内容を理解していないのですが、私の専門との関係で申しますと、裁判迅速化法ができまして、若干、発想が似たところがあるのかなという印象を受けております。ただ、先ほどもいろいろ御発言がございましたが、訴訟の迅速化を考えるとき、これはあくまでも両当事者がいろいろな訴訟上の行為をする主体であり、裁判所はそれを整理し、判断する役割を担うものですが、そこが特許審査の迅速化とは持っている意味合いが違うのではないかという気がいたします。当事者対立構造などと申しますけれども、訴訟、裁判と特許の審査の手続との質的な違いを整理していただいて、その上でどういう形で迅速化を図るのか、その方策として何が最も適切かということを、今後ぜひ議論させていただければと存じます。

○阿部会長 資料8にありますけれども、裁判の迅速化はもちろん大切ですが、それとともに、特許庁にかかわる文言がたくさん書いてあるように思いますので、ちょっと説明していただけますか。

○荒井事務局長 背景を説明させていただきます。先ほど山田委員からもお話がございましたし、吉野委員からも御発言がございましたが、技術開発がスピードアップしてきて、早く決めて、特許になるなら、きちんとそれに基づいて製品を売るとか事業化する。ならないのであればもっといい研究開発をするということで、技術開発と特許審査のスピード感が大事ではないかと。それから、吉野委員から御発言がございましたように、今、大学をはじめ、こういうことについての関心が高まってきたときに、新しい分野、基本的な分野について、しっかり早く判断できる体制をつくっていかないと、せっかく科学技術の振興をやっていただいても申し訳ないということからこういう議論が出てきているわけでございます。
 表現は、「特許審査迅速化法」というのは、伊藤先生からも御指摘のとおり、裁判迅速化法に近い発想でございます。その意味は、確かに特許庁が早く審査すればいいのかもしれませんが、同時に出願人が事前に十分調べて、こういうものを調べてデータを付けて、こういうものだから大丈夫ですよときちんと先行技術調査のようなものをしていただくとか、そういう意味で、別に対立構造ではございませんけれども、当事者の御協力が要るという点が似ています。
 もう一つは、裁判のときに弁護士の御協力が要るのと同じように、弁理士も、ただ出せばいいということではなくて、こういうものは特許になるとしっかり見て、これは無理だから出さない方がいいとか、これは出してもいいとか、そのように弁理士の方の協力も必要になってきます。これも裁判迅速化法に似ている面があると思います。そういうことで、全体として、特許庁ももちろん一番がんばらなければいけないわけですが、同時に、関係者の御協力も要る。そういう意味では、国を挙げて取り組むことが必要ではないかということがこの背景にございます。
 それから、こういうことを申し上げていいかどうかわかりませんが、実は、特許庁の人は、世界の特許庁の中でも能率がよくて、1人当たりの処理は一番能率がいいんです。しかし、結果として、出願から特許として成立するのはアメリカが一番早く、その次がヨーロッパで、日本が一番遅いのは、これは特許庁が悪いわけでも何でもなくて、審査請求制度がありますので、今までは7年間会社に待っていてもらったということがございまして、トータルでは結果として一番遅いということなので、技術を日本から発信するという観点からすると、みんなで御協力して、日本人の発明はまず日本で認めて世界に発信しようと、仕組みを変えるには相当な取組みが要るというのが背景でございます。
 ですから、御指摘のとおり、似ている点と違う点がございますので、そこはよく整理してまたお話しさせていただきたいと思います。

○阿部会長 かなりお金のかかることも書いてありますね。

○荒井事務局長 と思います。これは、お金をかけて日本の仕組みを、先ほど山田委員からもお話がございましたように、特許について、できるだけ受けさせないようにするのか、そうではなくて、いいものは合格させて、これで世界中で活躍してもらうように応援するようにするのか、姿勢も変えていかなければいけないので、たぶんお金も人もかかると思います。

○竹田委員 私は、東京高裁時代から弁護士時代まで10年余、この特許行政に関する法制度の改正問題等に、審議会や知財研、その他もろもろのことで関与してきましたけれども、確かに、特許を出願した人の立場、特に現在のように技術が高速度に進歩していく時代に、ゆっくりやっていればいいというものでないことはだれにも明らかなことだし、現実に特許庁に審査の請求をされてから相当な滞貨があることは客観的事実だと思います。
 ただ、私は、こういう誤解をしてもらいたくないと思うのは、いわゆるプロパテント時代だといい、特許権者の場合、非常に強い権利として動いていくというのは、それはそのとおりだと思いますけれども、それであれば、権利は広くとればいい、審査はできるだけ簡便に済ませればいい、そういうものではない。むしろ逆に、そういう排他的な独占的権利として強い権利であればこそ審査は適正に行われなければならないと思います。
 適正と迅速は両立し難いところがあるかもしれませんけれども、そこの視点をしっかり持って、本当にいい特許を早く成立させる。そのためには何が必要かという視点でこの迅速化法案も考えないと、ただ早ければいい、あとは制度の有効性については無効審判制度とかあるからそれに任せればいいというものではないと思います。また機会があったら意見を申し上げますが。

○久保利委員 今の点についても、実は、本部のときに私は聞いたのだと思いますが、遅い、滞留しているというけど、実は審査をしているのは1日だとかおっしゃっていましたよね。実は、2年間でしたか3年間でしたか、寝て待っている時間がすごく長い。裁判というのは、遅くとも、とりあえず毎月やって転がって動いてはいるけど、これだけは実は寝ているんだということがあって、寝ているものを早く滞貨一掃しなければいけないというところに一番の問題があって、そのためにはお金もかかるというお話を聞いて、それはとんでもない話だ、早くどんどんやってほしいということでこの迅速化が出たと記憶しております。決して、充実した審査をなしにして早くやれということではなくて、寝ている部分を早く起こしてとっとと始末しろという話だと理解しておりました。間違いだったら訂正してください。

○荒井事務局長 特許審査迅速化法は、決して拙速という意味ではないわけでございまして、確かにそこのところの誤解を解くのに私どもも必要な努力はしたいと思いますが、同時に、今の久保利先生のお話は、実は日本の特許庁の人は、さっき、世界でもよく働いていると申し上げましたが、年間で平均 200件審査していますので、 250日働くとすると1日に大体1件です。平均です。もちろん、長くて時間のかかるものもありますが、多くのものはもっと短くできているわけです。もちろん、何度もやりとりしたり、難しいものもございますが、平均すると1日1件。
 ただし、今までは審査請求期間は7年です。プラス審査請求をいただいてから2年間ぐらいお待ちいただいたので、実質は出願から9年間ぐらい今までは待っていてもらいました。それで1日というと、やはり待ち時間が長い。決して個別の案件の審査にかける時間を短くするのではなくて、何とか工夫して、待っていていただく時間を短くしたらどうかと。できれば、待っている人が減れば、むしろ一つの案件にもっと精力を集中できるということで、病院で言うと、3時間待って3分診療と非常に評判が悪いのですが、9年待って1日というのはもっと評判が悪いのではないかというところがございまして、ぜひ工夫をして、個別個別についてはもっともっと充実した的確な審査をする。しかし、今までは大量出願で滞貨がたまってしまいましたので、こういうものは早くなくして、早く結果を出すように全体の中で仕組みを変えたらどうかということでございます。ちょっと補足させていただきました。

○阿部会長 下坂先生、いかがでしょうか。

○下坂委員 この部分は、言えば言うほどこちらの身にも降りかかる点がございますけれども、やはりスピードの時代でもありますので、早期権利化は非常に大事だと思っておりまして、これが24か月待ちというのは由々しき問題であると考えております。
 今回、特許庁は、任期付審査官を5年間で 500人配置するという対応をしていただけるということで、その点は期待しております。ただ、私どもは、特許庁が審査官を増やすということだけでは不十分であろうと考えておりまして、特許庁の審査負担を軽減するための工夫もいろいろな角度から行っていくべきではないかと考えます。
 例えば、先ほど出たようですが、効率的な先行技術調査への出願人代理人サイドの協力や、審査官が起案する前の判断段階で審査官と弁理士がコミュニケーションを図れるような運用上の工夫をしてもらえないかということ。それから、審査促進に向けた制度上の工夫など、いろいろな工夫が運用上考えられると思っております。
 日本弁理士会では、特許庁との間で、既にワーキンググループをつくりまして、いろいろな運用面での検討を始めております。私どもが1点希望しておりますのは、特許庁だけに負担を負わせるのではなくて、出願人も、弁理士も、関係者全員が協力しながら迅速に審査できる体制をつくっていきたいということでございます。

○野間口委員 私は、この表現を見てちょっと心配になったのですが、特許審査迅速化法ではなくて、特許審査迅速化の方法を検討しようと、産業界の立場で見ますと、滞貨が50万件もあって遅れているのは非常に問題だということで、そういうことからこういう形で進んできたかなと思います。先ほどの伊藤先生のお話にありましたように、法としてこれをどのように定めるか、あるいは、法が対象としない範囲をどうするかという議論をやっていると、本当の迅速化が遅れてしまうのではないか。だから、例えば、任期付審査官を増強するということは、今のルールでもできるのではないかと思いますし、今のルールでできるものはどんどんやっていく。それでどうしても、日本の国のシステムとしてちゃんと位置付けようというものは法で定めるとか、何か工夫をしながらプライオリティをつけてやっていただきたい。そういう議論を、ぜひこのワーキンググループの中で含めてやっていただかないと、これが整備されるまで待ちましょうでは遅れてしまいます。ですから、その辺はぜひないようになっていただきたい。
 それから、もう一つは違う観点からの話ですが、下から3行目に「知的財産人材として活用する」という文言がありますが、先ほどいろいろ言われましたけれども、大企業は知的人材は結構いる。しかし、ベンチャーまで広げて考えたら、日本の層はまだ薄いという認識をすべきではないかと思います。そういう面でも、こういうところで活躍した人は、任期が終わっても、日本の知的財産の層を厚くする人材として広く活用できるわけですから、私は非常にいい取組みではないかと思います。いいところを伸ばす、伸ばすところは早めに手が打てるようにやってほしいと考えております。法律の専門家の先生方の手にかかると時間がかかってしようがないから。

○吉野委員 私も、さっきからこれを読んでいて、よくわからないなと。かなりオペレーショナルなイシューが多いでしょう。何と何が法律というか、それが絡むのかということが、これを読んでいてもわからない。やればいいじゃないかと思う項目が非常に多いんですよね。

○阿部会長 荒井さん、資料8は、法律のことだけがクローズアップされていますが、実際は、特許審査を迅速化するというタイトルの中にこの迅速化法があって、そのほかにも (2)、 (3)というものがあるわけで、これは本当はすべて我々のテリトリーですよね。

○荒井事務局長 そうです。

○阿部会長 ですから、法律を制定することだけではないと思いますし、本部で決めていただいたものも、そういう文言になっていますが、「知的財産権利化促進」と書いてありますので、法律も大切ですが、法律以外のことも大切ですので。

○荒井事務局長 その辺、整理してみます。

○中川委員 法律にかかわることだと思うのですが、先ほどから、幅広に選択肢をとってはどうかということを申し上げております。なかなか難しいかもしれませんけれども、人が少ないので審査官を増やすという話が挙がっておりますが、別の一つのあり得る工夫として、民間開放ということもあると思います。ここに「先行技術調査の外部発注」ということがありますけど、査定そのものも外に出してしまう選択肢もありうるのかなと。実例では、建築基準法の建築確認は民間開放されています。行政もやるけど、民間の会社でもやるという形でやっています。
 行政活動をどこまでこのように、行政もやるし民間もやるということが法理論的に大丈夫なのかということが、私自身も含めてなかなか判断がつきにくい難しい問題ですけれども、一つの選択肢として考えてもいいのではないか。ただ、検討していくうちに、どうも法的に理屈付けが難しいということで頓挫する可能性もあるわけですが、一つのアイデアとしてはあるのではないかと思っております。

○阿部会長 ほかにいかがでしょうか。

○山田委員 次回までに事務局の方で、知財高裁のあり方としていろいろな方法があるというものを整理してこられるということですけれども、その中で、知財立国ということでいっているわけですから、知財をもって日本を豊かにしようということが目的だと思います。そうなると、日本を豊かにする知財とは何かということを、あまり大きく知財全部に広げてやっていくと焦点がぼけてくると思います。日本を豊かにする知財は何か、明確に切れないかもわからないですけれども、個々の知財をこういうふうにやるんだということ、この知財を守っていく、この範囲を守っていく、そこの定義をある程度していただきたいと思います。
 そうすると、それは恐らく非常に高度で専門的知識、あるいは、専門的な新しい概念の知識とか、そういったものが必要で、これは何を言っているかというと、発明者であれ、弁理士であれ、弁護士であれ、あるいは裁判所でもそうですけれども、非常に高度なものを判断する知識が必要になってくるようなものになっていくのではないかと思います。とりわけ日本が守るべき知財は。そこに対してどうあるべきかということをぜひ見ていただくと、もし新しい裁判所が必要であれば、そういうものがどういうものかということが出てくるのではないかと思います。

○阿部会長 極めて重要なことですが、難しい点もいろいろございまして、私も素人ですけれども、知的財産と知的財産権は違っているわけですが、知的財産権も年代とともに随分広がってきているということもありますので、その辺を弾力的に対応できないと、あまり固定化しないようにしないといけないということも一つの性格ではないかなと思います。

○高林委員 今のお話を聞いていて、ちょっとした質問をしたいのですが,例えばコンテンツ産業とかの分野は、日本が守るべき知的財産ではありますけれども、技術的な面というのはあまりないわけですよね。

○山田委員 そうですね。

○高林委員 アニメーションとか技術的側面のないコンテンツ産業も日本が守るべき知的財産であるわけですが,今の御提言は、知的財産高裁で扱うべきものからこれらの分野は切り分けろというご趣旨なのか、その辺はいかがなのでしょうか。

○山田委員 基本的な姿勢として、そこはあまり明確に、私は政治的なことはよくわからないのですが、全部を語ると、非常に小さい部分で全体を語る場合もあるわけです。ですから、そうではなくて、基本的には、こういう範囲のところ、この辺の財産を守ろうよというものである程度定義してほしいというので、そこは今、コンテンツ産業がどうなのかということは、今ここで発言すると皆さんがいらっしゃるからあれですけど、それほど大きな産業にはなり得ないかもわからないですね。そういうものと、ものすごく大きな、日本を支えるような産業になるようなものと、両方の知財を一緒に語ることはなかなか難しいのではないかというのが私の感じです。

○高林委員 今回の検討テーマ中の第3分野の模倣品・海賊版対策のところでは,商標商品とか海賊版の音楽CDとかの水際取締りなどの問題も出てくると思います。ですから、ここで扱う知的財産としても、知財高裁問題や特許審査迅速化法の問題でしたならば,技術的,専門的なものですが、それ以外の知的財産全般をも結局は扱わざるを得ない状況なのかなと思っています。

○山田委員 そうであればそれを明確にしていただきたいと思います。

○高林委員 それと、裁判の迅速化法については私は十分な知識がないのですが,私が裁判官として過ごしている間にも、裁判を迅速化するためにいろいろな方策が裁判官仲間から提案されていましたし,それに沿って民事訴訟法が逐次改正されていって、裁判官のツールとしていろいろなものが用意されてきて、当事者の協力もあって裁判の迅速化がある程度達成されてきて,そのような素地ができた後になって迅速化法が成立したのだろうと思います。しかし,今回の特許審査迅速化法は、トップダウンで迅速化法をつくって、迅速化法があるのだから迅速にしろというスタンスで提案されているのか、もしくは、下坂委員がおっしゃるように、特許審査手続も共同作業的なものがあるので、出願人も審査官も、外国の調査機関も,お互いさまで協力していきなさいよという趣旨を込めて,そのような素地を今回の法律で作っていこうとするものなのか,いずれなのでしょうか。

○荒井事務局長 まさに裁判と同じだと思います。裁判の方も、迅速にという国民からの要望があって、いろいろな工夫はされたけど、日本の司法全体のカルチャーというか、そういうものを変えようということで、文化、風土、カルチャーが変われば、関係者の意識も変わる、進め方も変わる、あるいは、必要があれば、それに基づいていろいろな手当をさらに行うということでできたのだと思います。
 ここで出てきた議論は、特許の審査につきましても、もちろん的確にやるという前提で、待ち時間を短くする、早くするということで、阿部会長からも御指摘をいただきましたが、推進計画の50ページと51ページにも、迅速化法以外にも書いてございます。今までも関係者の間で努力はしてきているのですが、特許の一つの特色から言いますと、ある面から言うと、自分の方は遅めで、人のものを先に見てからやりたいとか、そういう駆け引きも当然のことながら行われたりする面もありますので、じゃ、みんなで、ここは今までのように、外国から基本的なものが来る、それに対して迎え撃つとかいう考え方ではなくて、日本からいいものを出していく。
 それから、前から野間口委員がおっしゃっているように、標準のときに、特許を取ってしっかりリードするということになってくると、もちろん的確を前提にした上で早いものが大事ということだとすると、全体の関係者の雰囲気を変えていかないと。ゆっくりやるルールでやっているものか、そうではなくて、もっと早くやるということで、日本全体として、科学技術立国であり知財立国なら、全体の関係者の心構え、雰囲気を変えて、それに基づいたいろいろな体制なり仕組みを、あるいは、必要があれば法的な手当をやっていこうじゃないかということで出てきたわけです。
 ですから、そこは裁判の迅速化法の議論と似ているのではないかと思っています。

○竹田委員 今の点に関連して言いますと、裁判の迅速化に関する法律は、どちらかといえば、裁判をするに当たっては、裁判手続を運営する裁判所も、当事者も、代理人も、皆が協力してできるだけ早く審理をして紛争が解決できるようにいたしましょうという、一種の精神規定的なものですよね。
 こちらの資料8には具体的なことがいろいろ書いてあるのですが、これは私が関係している特許制度小委員会その他でも、こういう問題についてはいろいろ取り組んでやっていますし、具体的な方策もいろいろ出ているわけですけれども、結局のところ、迅速化法という法律をつくるとすると、こういう中身をそこに盛り込んで、こうすると言ってみたところで、実際上、それを実現するためには予算措置も必要なら具体的な法律改正も必要となるわけです。そうすると、今まさに事務局長がおっしゃったように、裁判の迅速化に関する法律と同じような一つの精神規定で、みんなが協力して早くやるようにいたしましょうということになるわけですね。それにどれだけ意味があるかなということは、実際問題としては企業の側にも問題があって、防衛出願的なものや何かも含めて膨大な出願がされている。
 そういう問題もありますし、弁理士の特許事務所の運営のあり方やいろいろな問題もありますし、その上に乗ってまた特許庁の審査制度のあり方もあります。それを解決するためには、やはり具体的な措置に行かなければならないですね。それに行くためには、こういう法律がある方が有用だという趣旨だと理解していいのでしょうか。

○荒井事務局長 この考え方は、風土全体の気持ちを変えるというときに、行政府の人が集まって、政府の方針はこうだと決めるのか、あるいは、国家として国民の代表が国会で決めるのとは、国のいろいろな手当のときにやはり違うだろうと思います。それから、政府が決めたから、ぜひ会社の人も協力してくださいとか、大学の先生も協力してくださいと言っても、それは政府の仕事だということになるので、やはり今の議院内閣制のもとで国民の意思として決めるか、そうではなくて、行政府の意向として決めるかは、まず質的な違いがあるのではないかと、理屈の面ではそう思います。
 それから、実際に、そうやって国会で決まるようになれば、会社の方ももう少し社内でもよく審査してくださいとお願いできるようになる。裁判迅速化法のときも同じだったと思いますが、そういう点においては、実際には違いが出てくるのではないかと思います。
 ただ、本当に法律に書くときには、何と書くかによって相当変わります。

○阿部会長 私も法律は知りませんので難しいことだと思いますが、やはり法律を制定するのとあわせていろいろな仕組みをつくっていかないと、先ほど下坂委員がおっしゃった協力体制も含めて進めないと、単なるお説教文で終わるのでは、あまりかんばしくないということにもなります。
 実は、そろそろ予定の時間が参りました。今日はフリートーキングということで、極めて有意義な御意見をいただきました。特に、次回は知財高裁に特化した御議論を集中的にやっていただきたいという予定になっておりますので、先ほど久保利委員から御提案がありました論点整理を、特に知財高裁については次回までにやっていただくことをお願いしたいと思います。

○荒井事務局長 わかりました。

○阿部会長 ということですが、何か特に御発言がございますか。
 そういうことでよろしゅうございますか。
 それではそうさせていただきますが、知財高裁に関する議論をより深めていただくために、参考人をお呼びしたいと考えております。現在のところ、例えば裁判所であるとか、司法制度改革推進本部事務局、司法のユーザーなどから参考人として来ていただいて御説明をいただきたいと思いますので、具体的に人選をさせていただきまして、決まりましたら、先生方にも事務局から御連絡を申し上げるということで、短い時間をなるべく有効に使わせていただきたいと思いますので、そのようにさせていただきたいと思いますが、よろしゅうございますか。

(異議なし)

○阿部会長 ありがとうございました。
 それから、今日御議論いただきました知財高裁と特許審査迅速化法につきましては、幅広く世間の御意見を伺うためにパブリックコメントの手続を並行して進めさせていただきたいと思います。そこから出てきた意見もこの専門調査会の参考にしていただければと考えておりますので、その点も御了承いただければ大変ありがたいと思います。
 よろしゅうございますか。少し並行的な進め方になります。
 以上でございますが、何かございますか。
 よろしゅうございますか。
 それではこれにて閉会させていただきますが、次回は10月28日、火曜日、午後4時から、本日と同じこの場所で開催いたしますので、よろしくお願い申し上げます。
 事務局から何か補足していただくことはありませんか。

○荒井事務局長 特にございません。

○阿部会長 それでは、どうもありがとうございました。

○荒井事務局長 ありがとうございました。