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世界経済フォーラムグローバル・リスク・ワークショップへの
枝野官房長官メッセージ


平成23年5月18日

  政府インターネットテレビ

  1. 冒頭挨拶
    • 世界経済フォーラム、グローバル・リスク・ワークショップの我が国での開催を、歓迎します。
    • また、日本の真の友人であるクラウス・シュワブ世界経済フォーラム会長のご来日を、心より歓迎します。
    • 世界経済フォーラムが4月にニューヨークで開催したグローバルリスク会議の際には、ビデオ・メッセージをお送りし、原発やサプライ・チェーンへの影響の問題などにつき、その時点の我が国の現状をご説明させていただきました。
  2. 大震災が日本及び日本経済に与えた影響
    • 戦後最大の被害を我が国にもたらした東日本大震災から2か月が経ちました。
    • 大震災は、日本及び日本経済に3つの大きなショックをもたらしました。その3つとは、まず、地震、津波、原子力災害の複合災害による甚大な人的・物的被害と経済循環の寸断による供給ショック、2つ目には、発電施設の損壊による大きな電力の制約、そして3つ目は、原子力発電の安全性についての議論の惹起や、放射線の影響による日本製品・日本ブランドへの信頼性の動揺が生じてしまったことです。
    • 我が国はこうした状況を乗り越えて現在、復旧・復興、そして日本ブランドへの信頼性の回復に向けて総力を挙げて取り組んでいます。
  3. 原発に関する徹底的な検証及び迅速な情報発信
    • 福島第一原発の問題に関しましては、政府・事業者一体となって収束に向け全力を挙げています。4月17日に発表された「福島第一原子力発電所・事故の収束に向けた道筋」の改訂版が、昨日発表されました。政府としましても、この「道筋」に基づき一日も早い収束に向けて最大限努力してまいります。
    • また、今回の原発事故に関しては、その原因について徹底的に検証を行い、そこから得られた情報と教訓を世界と確実に共有することで、このような事故が世界から無くなるよう原子力発電の安全性向上に向けた国際的議論に積極的に貢献していきます。
    • 現在、原発事故の検証のため、原子力事故調査委員会を発足させる最終段階の準備を進めています。この原子力事故調査委員会の発足にあたっては、(1)徹底した独立性、(2)公開性、(3)包括性という3つの原則を基本的な考え方として、準備を進めています。つまり、
       (1)従来の原子力行政からの独立性
       (2)国内外に事実をしっかりと公表するという公開性
       (3)技術の分野だけでなく、制度や組織の過去のあり方も含め、今回の事故に影響を及ぼした様々な分野を検討するという包括性。
      以上の3点です。
    • 政府としましては、これまで、把握している情報は直ちに開示するよう努めてまいりました。今後も、関係機関を含めた透明性を確保する形でより一層積極的な情報発信に取り組んでいきたいと考えています。
    • 情報発信に際し、政府としては、リスク・コミュニケーションを重要な課題と考えています。
    • 原発を巡るリスクにつき正確な情報提供を行う必要があることは言うまでもありません。同時に、原発事故発生後の連鎖的リスクのなかで、事実と異なる風評による被害は深刻なもののひとつです。
    • 我が国の農水産品、工業製品は共に厳重な品質管理下にあり、市場の流通に関し、安全性が確保されるよう万全を期しています。もちろん輸出に関しても、まったく同様の品質管理を行っており、日本製品の安全は担保されています。
    • 政府としては引き続き、最大限の透明性をもって情報発信を行い、リスク・コミュニケーションの円滑化を図る所存であります。
    • 世界経済フォーラムコミュニティの皆様には、今回の会議を契機として、海外からの来日促進、日本からの輸出品の安全性や日本社会の現状についての正確な理解促進などへの支援をいただければ幸いです。
  4. エネルギー政策
    • 政府は、近い将来の地震発生の可能性に鑑み、先般、浜岡原子力発電所の運転停止要請を行いました。これは、原発事故のリスクを大幅に軽減し、国民の安全と安心を守るために、防潮堤の設置など中長期の対策が必要だと考えた結果です。
    • 我が国は、エネルギーシステムの脆弱性を是正し、安全・安定供給・効率・環境の要請に応える、短期・中期・長期それぞれの観点から革新的エネルギー・環境戦略を検討します。
    • 今回の福島第一の事故については事故調査委員会においてしっかりと検証し、原発の安全性を確保していきます。同時に、政府としましては、エネルギー政策の観点から、地球温暖化の問題も踏まえ、化石燃料、原子力に加え、次の2つの柱も重要であると考えています。その柱とは、一つには、太陽、風力、バイオマスといった再生可能な自然エネルギーを基幹エネルギーの一つに加えていくこと、そして二つ目は、様々な工夫によって、あるいは様々な社会のあり方を選択することによって、エネルギーを今ほどは使わない省エネルギー社会を作っていくことです。
    • これらのエネルギーのベスト・ミックスを目指し、スマートグリットの導入も進め、新たなエネルギーシステムの構築に取り組んでいきます。
  5. 東日本の復興
    • 政府としてはこの災害を「日本の再生」のための重要な機会と捉え、(1)「自然災害に強い地域を築く」、(2)「地域環境と調和するシステムの構築」、(3)「人に優しい、弱者に優しい社会の構築」という3つの考え方を三本柱とする、最先端の復興計画を、東日本から世界に示したいと考えています。
    • 4月には、日本の英知とも言うべき有識者を中心に、また被災地の各県知事も加え、東日本大震災復興構想会議がスタートしました。6月には、復興の青写真となる第一次提言がこの復興構想会議より提出される予定です。
  6. 日本の再生
    • また、同時に昨日、「政策推進指針」を閣議決定しました。これは、復興構想に加え「日本再生」を目指した、日本の再スタートの決意表明であります。震災復興と並び、日本再生に向けて、財政・社会保障の持続可能性確保と、新たな成長に向けた再始動の方針を提示するものです。
    • 日本は、再生に向け、再始動を始めます。この再始動にあたっては、まず、「日本再生」によって、東日本の「復興」を支え、東日本の「復興」を「日本再生」の先駆けとすることを第1番目の基本原則とし、加えて、(2)巨大リスクに備えた強じんな経済社会構造を確立すること、(3)財政・社会保障及び日本ブランドの信認を維持すること、(4)国と国との絆の強化による開かれた経済再生を実現すること、(5)日本の再生に関する内外の理解を促進すること、などを基本原則としたいと考えています。
  7. 日本の決意
    • 我が国は、今回の大震災から得た教訓を基に、「リスクに強い社会」を築いていきます。つまり、常に様々なリスクをモニターし、最悪の事態も想定した十全の備えをすることによって、結果的にリスクを管理し、軽減する社会です。
    • リスクとは、単に自然災害によるリスクだけとは限りません。金融リスク、テロ活動によるリスク、感染症によるリスク、食品安全に関するリスクなど、地球上には様々なリスクが存在します。そしてそのリスクは一つの国の中にとどまらず、瞬時に伝搬していきます。また、リスクは複合します。今回我が国は、様々なリスクが絡み合って作用する、巨大リスクに直面しました。我が国が目指す「リスクに強い社会」とは、そのようなあらゆるリスクに対応可能な社会です。
    • この20年余り、日本は閉塞的な状況にありました。その中で発生した大震災、原発事故は、「危機に生じた危機」です。今後我が国は、復興と再生に全力で取り組んでいきます。震災で明らかになった弱点を克服し、傷ついた信頼を回復し、世界とのきずなを深めていきます。多くの犠牲を払った上でのこの経験をバネに、我が国が力強く再生し、「リスクに強い社会」として、リスク対応に関し世界各国をリードしていくことのできる国家になることをお約束したいと思います。
  8. 本日のワークショップへの期待
    • 本日のワークショップでは、日本の各界のリーダーの皆様に加え、世界各国からのリスク関連リーダーや識者の皆様が参加され、大震災に端を発する連鎖的リスクにつき討議されると伺っています。
    • 前回のリスク会議の際、私は、官と民の垣根を越えたリスクに関する専門家の集合体が今ほど必要になったことはない、と申し上げました。今回、リスクに関する専門家が東京に結集し、分野を超えて討議がなされることで、その知識とご経験がグローバルに共有され、地球規模でのリスクに対する新しい対応の在り方に関するアイディアが、まさにこの大震災に直面した時の東京から発信されることを期待しています。また、それらのアイディアが、我が国が今後築いていこうとする「リスクに強い社会」を、国際的な協力のネットワークの下で力強くサポートしてくれることを、心より期待しています。
  9. (了)