外交・安全保障

世界の活力の中心であるインド太平洋地域では、法の支配に基づき、主権、領土の一体性、紛争の平和的解決といった原則を擁護するとともに、包摂性、多様性、開放性を尊重し、地域全体の成長を実現することが極めて重要です。
米国、豪州、インド、韓国を始め、ＡＳＥＡＮ、欧州、太平洋島嶼国などの考え方を共有する国・地域との連携を進め、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた協力を深めていきます。

岸田内閣では、人権を始めとした普遍的価値を守り抜くことを重視しています。
国際情勢を踏まえ、我が国らしい人権外交を主体的かつ積極的に推進していきます。

政府は、2022年12月16日、国家安全保障会議及び閣議において国家安全保障に関する基本方針である国家安全保障戦略、国家防衛戦略及び防衛力整備計画を決定しました。今回の決定は、戦後の安全保障政策を大きく転換するものです。政府としては、外交力・防衛力を含む総合的な国力を最大限活用し、「国家安全保障戦略」等で示した施策に早急に取り組みます。

日米同盟の強化と合わせて、基地負担軽減にも引き続き取り組みます。
普天間飛行場については、辺野古への移設が唯一の解決策であるという方針に基づき、着実に工事を進めており、普天間飛行場の一日も早い全面返還を目指します。

拉致被害者御家族も御高齢となる中で、時間的制約のある拉致問題は、ひとときもゆるがせにできない人権問題です。全ての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべく、全力で果断に取り組みます。

海外で邦人等が危機に晒された際の輸送に万全を期すため、2022年の通常国会において、輸送手段を原則として政府専用機とする制限の廃止、実施に当たっての安全に係る要件の見直し及び主たる輸送対象者の範囲の拡大を内容とする自衛隊法の改正案を提出し、成立しました。
2023年4月、衝突の発生したスーダンに滞在していた約60名の在留邦人のうち退避を希望する全ての方が退避しましたが、このうち、邦人41名と外国籍家族4名を自衛隊機にてポートスーダンからジブチに輸送しました。

近隣国等との間でも、国益に基づき、地域の平和と安定を目指して、確固たる外交を推進していきます。
中国に対しては、東シナ海や南シナ海における力による一方的な現状変更の試みを含め、主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めていきます。そして、2023年が日中平和友好条約45周年であることも念頭に置きつつ、諸懸案を含め、首脳間を始めとする対話をしっかりと重ね、共通の課題については協力する、「建設的かつ安定的な関係」を日中双方の努力で構築していきます。
ロシアとの関係については、ロシアによるウクライナ侵略は、国際秩序の根幹を揺るがすものであり、引き続き毅然と対応していきます。同時に、漁業などの経済活動といった日露が隣国として対処する必要のある事項については、我が国の外交全体において、何が我が国の国益に資するかという観点もしっかり考えつつ、適切に対応していきます。その上で、北方領土問題に関しては、領土問題を解決して平和条約を締結するとの方針を堅持していきます。
韓国とは、3月の尹大統領訪日に始まり、5月までの2か月の間に3度の首脳会談を行い、また、7月のＮＡＴＯ首脳会合の際にも会談を実施しました。7月の首脳会談では、岸田総理大臣から、両国関係の新時代を共に切り開いていく中で、政府・民間の双方で幅広い分野の協力が進んでいることを歓迎する旨述べ、両首脳は、日韓関係の改善を両国国民が実感できるよう更に取組を進めていくことで一致しました。日韓関係を更に発展すべく、引き続き、韓国側と緊密に意思疎通していきます。
北朝鮮とは、日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、国交正常化の実現を目指しますが、とりわけ、拉致被害者御家族も御高齢となる中で、時間的制約のある拉致問題は、ひとときもゆるがせにできない人権問題であり、日朝間の懸案を解決し、両者がともに新しい時代を切り開いていくという観点から総理の決意を伝え続けるとともに、首脳会談を早期に実現すべく、総理直轄のハイレベルで協議を行っていきたいと考えています。

我が国の平和と安全や経済的な繁栄等の国益を経済面から確保するため、国家安全保障戦略等を踏まえ、経済安全保障の取組を強化してまいります。
具体的には、重要な物資のサプライチェーン強靭化、先端的な重要技術の育成に向けた強力な支援に取り組むとともに、基幹インフラの事前審査制度及び特許出願非公開制度の円滑な施行に取り組むなど、引き続き経済安全保障推進法の着実な実施と取組の更なる強化を行っていきます。
セキュリティ・クリアランスを含む我が国の情報保全の強化に向けた法制度等の検討についても速やかに結論を得られるようにしてまいります。

2023年5月に日本が議長国として開催したＧ７広島サミットでは、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持していくこと、また、いわゆるグローバル・サウスと呼ばれる国々を始め、Ｇ７を超えた国際的なパートナーへの関与を強化することを柱とし、当初の狙いどおりの成果を達成することができました。
具体的には、８か国の招待国と７つの国際機関を交え、食料、開発、保健、気候変動・エネルギー、環境といった国際社会が直面する諸課題について議論を行い、Ｇ７を超えた幅広いパートナーが協力してこれらの課題に取り組んでいくことを確認するとともに、今後我々がとるべき具体的な行動を含め認識の共有をはかることができました。
また、Ｇ７、招待国、ウクライナの首脳間で世界の平和と安定について議論を行い、法の支配や国連憲章の諸原則等の重要性について認識の一致を得ることができました。
日本のＧ７議長年は本年末まで続きます。今回のサミットで達成された成果も踏まえ、国際社会が直面する課題に全力で対処するべく、Ｇ７の議論を積極的に牽引していきます。

Ｇ７広島サミットでは、Ｇ７首脳に被爆の実相に触れていただき、その上で、胸襟を開いた議論が行われ、「核兵器のない世界」へのコミットメントが確認されました。また、核軍縮に関する初めてのＧ７首脳独立文書となる「Ｇ７首脳広島ビジョン」が発出され、「核兵器のない世界」の実現に向けた国際社会の機運を高めることができたと考えています。
今後、「Ｇ７首脳広島ビジョン」を強固なステップ台としつつ、「ヒロシマ・アクション・プラン」の下での取組を一つ一つ実行していくことで、現実的で実践的な取組を進めていきます。

我が国は、2023年から2024年に国連安保理非常任理事国を務めます。ロシアのウクライナ侵略や、北朝鮮の核・ミサイル活動に対し、安保理は有効に機能できていない現状にあり、試練の時とも言えます。
他方、安保理が、各地の紛争の解決などに一定の役割を果たしている面もあり、多くの国が安保理になお期待を寄せています。
日本として、各国との緊密な意思疎通と丁寧な対話を通じ、安保理が所期の役割を果たすよう協力していく中で、法の支配に基づく国際秩序の維持・強化を目指していきます。

ロシアのウクライナ侵略等により国際秩序の根幹が揺らいでいる中、国連憲章の理念と原則に立ち戻り、国連の信頼を回復するため、安保理改革を含む国連の機能強化にも取り組みます。

多角的貿易体制の中核を担うＷＴＯの改革、ＣＰＴＰＰ・ＲＣＥＰ等のＥＰＡ、ＩＰＥＦ等において主導的役割を果たし、我が国の安全と繁栄に不可欠な、自由で公正な経済秩序を構築し、世界経済の回復、新たな成長を後押しします。
また、デジタル時代の信頼性のある自由なデータ流通「ＤＦＦＴ: Data free flow with trust」を推進するため、国際的なルールづくりにおいて、積極的な役割を果たしていきます。

国境を越えて拡大する感染症への対応をはじめ、2022年5月に策定したグローバルヘルス戦略に基づき、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成も念頭に、途上国における感染症対策のための医療体制の整備・強化、ワクチン･診断薬･治療薬の開発及び公平なアクセスの実現等に貢献します。

Ｇ７広島サミットの成果を踏まえ、保健に関する国際社会の体制を強化し（グローバルヘルス・アーキテクチャー）、全ての人の健康を確保し（ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ）、イノベーションの力（ヘルス・イノベーション）を最大限活用していくべく、議論を主導していきます。具体的な取組として、例えば、感染症危機対応医薬品等（MCM）への公平なアクセスを実現するためのMCMに関するデリバリー・パートナーシップの推進や、国際保健における民間セクターの役割の重要性を踏まえたインパクト投資の推進に向けた国際連携の枠組み(Impact Investment Initiative for Global Health (Triple I for GH))の構築を目指します。

気候変動問題は人類共通の課題です。
我が国は、「新しい資本主義」の実現によって克服すべき最大の課題として気候変動対策を位置づけ、取組を進めており、2050年までのカーボンニュートラル実現に向け、2030年度に温室効果ガスを2013年度比で46％削減することを目指し、さらに50％の高みに向け挑戦を続けています。
再生可能エネルギー導入や、省エネを推進するとともに、火力発電のゼロエミッション化に向けた、水素やアンモニア、二酸化炭素回収・有効利用・貯留（ＣＣＵＳ）、バイオマスなど日本の技術、制度、ノウハウを活かし、世界、特にアジアの脱炭素化に向けたエネルギー移行支援と持続的な経済成長、エネルギー安定供給の確保に貢献し、技術標準や国際的なインフラ整備をアジア各国と共に主導していくことで、アジア有志国と力を合わせ、「アジア・ゼロエミッション共同体」構想を具体化することを目指しています。