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犯罪に強い社会の実現のための行動計画


−「世界一安全な国、日本」の復活を目指して−


平成15年12月
犯罪対策閣僚会議



序 「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」策定に当たって
1 治安水準の悪化と国民の不安感の増大
 今、治安は危険水域にある。
 戦後長い間、年間140万件前後で推移していた刑法犯の認知件数は、最近増加の一途をたどり、平成14年の刑法犯認知件数は約285万件と7年連続で戦後最多を記録し、刑法犯検挙率は過去最低の水準となった。本年は、やや増勢に歯止めがかかっているものの、依然として深刻な状況にある。
 特に、街頭犯罪や侵入犯罪の急増、凶悪な少年犯罪の多発、来日外国人犯罪の凶悪化・組織化と全国への拡散等が、治安水準の悪化を後押ししている。また、薬物・銃器犯罪のほか来日外国人犯罪の背後に暴力団等の内外の犯罪組織が暗躍するなど、組織犯罪の脅威も増大している。
 ある研究機関の調査によれば、犯罪に不安を感じる者の割合は平成9年から14年までの5年間に26パーセントから41パーセントに上昇した。また、内閣府の調査によると、今後良くなってほしい生活環境として、大都市及び中都市では治安のよさを回答した者が医療・福祉を回答した者に次いで多かった。安全なはずの自宅で白昼強盗の被害に遭ったり、路上でひったくりの被害に遭ったりするという例が後を絶たないことから、国民の体感治安が悪化しているのである。
 こうした治安の悪化の原因について、一概に論ずることは困難であるが、社会環境の変化、社会における規範意識の低下、国際化の影響、経済情勢等の様々な事情が複雑に絡み合っていると考えられる。
2 治安回復のための3つの視点
 こうした状況を踏まえ、内閣は、本年9月、犯罪対策閣僚会議を開催し、治安の回復を目指して行動計画を策定することとした。
 この際、犯罪対策閣僚会議においては、治安回復のため3つの視点が重要であることを確認した。
 1つは、「国民が自らの安全を確保するための活動の支援」である。
 良好な治安は、警察のパトロールや犯罪の取締りのみによって保たれるものではない。国民一人一人が地域において安全な生活の確保のための自発的な取組を推進することが求められている。既に、住民の力で犯罪の増加に歯止めをかけようとする取組も広がりつつあるが、さらに、「安全確保のために何かしたい」という住民の思いを具体的な行動に昇華させていくことが重要である。「自らの安全は自ら守る」との観点から、国民一人一人の防犯意識の向上を図るとともに、国民と行政機関が相携えて行動していくことが理想であり、そのための取組を情報の提供や防犯設備への理解の普及等を通じて国が支援していく必要がある。
 2つは、「犯罪の生じにくい社会環境の整備」である。
 かつて、我が国では、季節の祭礼や町内会の集まりなどの共同活動も活発で、現在よりも地域住民の間の意思疎通は濃密であった。そして、近隣で見知らぬ人物を見かければ声を掛け、大人が子供たちにして良いことと悪いことの区別を教えるということが自然に行われ、犯罪や少年非行を抑止する社会環境として機能していた。都市化や核家族化により希薄化した地域の連帯や家族の絆を取り戻し、こうした抑止力を再生することが必要である。また、道路、公園、建物の設計や外国人受入れの在り方等も、犯罪抑止の面で重要な視点となろう。このように、犯罪の生じにくい社会環境を整備していくため、国としてあらゆる観点からの取組を進める必要がある。
 共同体における秩序崩壊の図式を説明するものとして、米国では、「割れ窓理論」が提唱された。割れた窓を放置していれば、次いで別の窓が破られ、あるいは他の違反行為を誘発し、ついには建物全体、地域全体が荒廃する。このように、小さな違反行為を放置しておくと、次第に無秩序感が醸成され、それが大きな治安の悪化につながる、というものである。米国ニューヨーク市においては、治安回復のため、小さな違反行為を見逃さずに取り締まり、また、地下鉄の落書きを消すなどの活動が徹底された。これらはまさに犯罪の生じにくい社会環境整備の一環にほかならないが、こうした取組の下、同市の犯罪情勢は劇的に好転したのである。
 3つは、「水際対策を始めとした各種犯罪対策」である。
 以上の2点に加え、各行政機関において、犯罪の予防、取締り等各種犯罪対策を効果的に推進していくことが重要であることは言うまでもない。
 この際、死活的に重要なことは、法執行機関相互の円滑な連携と情報の有効活用である。跳梁跋扈する犯罪者や犯罪組織に対し、法執行機関は複数の組織に分かれている。これらの機関は、情報交換や合同取締り等により着実に連携を進めつつあるが、国際化・高度化する犯罪に的確に対応していくためには、従前以上に「省庁の壁」を越えた一層の連携と情報の有効活用が求められており、そのための枠組みの検討も視野に入れる必要がある。
 また、水際対策という観点からは、国境を越えて活動する犯罪者や犯罪組織との闘いに関し、外国機関との密接な連携が特に重要となる。
3 犯罪情勢に即した5つの重点課題
 以上の3つの視点を前提としつつ、犯罪対策閣僚会議では、今後5年間を目途に、国民の治安に対する不安感を解消し、犯罪の増勢に歯止めをかけ、治安の危機的状況を脱することを目標として、「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」を策定した。この行動計画では、現下の犯罪情勢の特徴的傾向に即した5つの重点課題を設定し、国民、事業者、地方公共団体等の協力を得つつ、下記の施策の着実な実現を図るとともに、必要に応じて検証・見直しを行うこととする。
 なお、国際的にも情勢が緊迫化しているテロ対策に関する事項については、その中心的役割を緊急テロ対策本部等における取組に委ねることとし、同本部等との連携を密にしていくこととする。
 第一は、「平穏な暮らしを脅かす身近な犯罪の抑止」である。
 路上でのひったくりや、侵入窃盗・侵入強盗等の被害に遭い、財産上の被害のみならず、身体的、精神的にも大きな被害を受ける無辜の市民が増加していることは憂慮に堪えない。
 このため、
 地域連帯の再生と安全で安心なまちづくりの実現
 犯罪防止に有効な製品、制度等の普及促進
 犯罪被害者の保護
の施策を推進することとし、具体的には、
 自主防犯活動に取り組む地域住民、ボランティア団体の支援
 「空き交番」の解消と交番機能の強化
 犯罪の発生しにくい道路、公園、駐車場等の整備・管理
 自動車盗難防止装置の普及
 被害者等に対する支援等の推進
等に積極的に取り組んでいくこととする。
 第二は、「社会全体で取り組む少年犯罪の抑止」である。
 現在、刑法犯検挙人員の約4割、街頭犯罪に限っては約7割を少年が占めるという深刻な状況が認められる。また、最近、社会を震撼させた重大少年事件も少なくない。こうした少年犯罪を抑止し、次代を担う者たちの健全育成を推進することは、国民すべての願いである。
 このため、青少年育成推進本部との連携を図りつつ、
 少年犯罪への厳正・的確な対応
 少年の非行防止につながる健やかな育成への取組
 少年を非行から守るための関係機関の連携強化
の施策を推進することとし、具体的には、
 非行少年の保護観察の在り方の見直し
 少年法制とその運用上の問題点に関する検討
 少年補導活動の強化による非行少年の早期発見・早期措置
 地域社会における教育と少年の居場所づくりの促進
 関係機関等の連携による少年サポートチームの普及促進
等に積極的に取り組んでいくこととする。
 第三は、「国境を越える脅威への対応」である。
 近年、外国人犯罪の深刻化が進み、その態様も、侵入強盗等の凶悪なものが増加しているほか、暴力団と連携して犯罪を敢行している例も多くみられるようになっている。我が国の不法滞在者は25万人程度と推計されているが、これら犯罪の温床となる不法滞在者を、今後5年間で半減させ、国民が安心して暮らすことができるようにし、また、平穏かつ適法に滞在している多くの外国人に対する無用の警戒感を払拭することが必要である。
 このため、国際組織犯罪等対策推進本部における成果を踏まえつつ、
 水際における監視、取締りの推進
 不法入国・不法滞在対策等の推進
 来日外国人犯罪捜査の強化
 外国関係機関との連携強化
の施策を推進することとし、具体的には、
 盗難自動車等の不正輸出の防止
 入国審査時における在留資格審査等の厳格化
 不法滞在者の摘発強化と退去強制の効率化
 留学生・就学生、研修生等の受入れに関する諸対策の推進
 被退去強制者についての中国当局による管理の徹底の要請
等に積極的に取り組んでいくこととする。
 第四は、「組織犯罪等からの経済、社会の防護」である。
 市民の平穏な生活を脅かし、経済、社会の健全性を歪める暴力団等による組織犯罪の根絶が強く求められている。特に暴力団は、その存在が許されるべきものでないにもかかわらず、依然として、合法的な経済活動を装うなどして巧妙な資金獲得活動を行い、莫大な利益を得ている。また、薬物、銃器、ヤミ金融、産業廃棄物問題等にも深く関与している。このほか、社会に対する新たな脅威としてのサイバー犯罪の深刻化が懸念されている。
 このため、薬物乱用対策推進本部、銃器対策推進本部における成果を踏まえつつ、
 組織犯罪対策、暴力団対策の推進
 薬物乱用、銃器犯罪のない社会の実現
 組織的に敢行される各種事犯の対策の推進
 サイバー犯罪対策の推進
の施策を推進することとし、具体的には、
 組織犯罪に対する有効な捜査手法等の活用・検討
 暴力団排除活動と行政対象暴力対策の推進
 薬物・銃器密輸の水際での阻止
 ヤミ金融事犯の撲滅に向けた対策の推進
 国際組織犯罪防止条約及びサイバー犯罪条約の早期締結並びに関連法の整備
等に積極的に取り組んでいくこととする。
 第五は、「治安回復のための基盤整備」である。
 以上に掲げた施策を効果的に推進していくためには、治安対策に取り組む要員・施設の充実や法制の整備、研究の推進等多角的観点からの基盤整備が重要である。
 このため、
 警察官、検察官等の職員の増員
 出入国管理に係る体制・施設・装備等の充実強化
 産学官の技術力を結集した競争的資金等による研究開発の推進
 刑務所等矯正施設の過剰収容の解消と矯正処遇の強化
 更生保護制度の充実強化
等に積極的に取り組んでいくこととする。
 これら施策の具体的内容は、次頁以降に掲げたとおりである。
 安全で安心して暮らせる社会の実現は国民すべての願いであり、国の最も基本的な責務である。そして、安全な社会は、自由な生活、自由な経済活動の前提である。プロイセンの政治家であり人文学者でもあるカール・ヴィルヘルム・フォン・フンボルトは、「安全なくして自由なし」と述べ、安全がなければ、人は、その能力を向上させることができず、その結果得られる果実を享受することもできないとしている。国が国民に対して国内の安全を保障することによってはじめて、自由な諸活動が可能となり、社会の発展が実現するのである。
 犯罪対策閣僚会議は、「世界一安全な国、日本」の復活を目指し、ここに、「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」を策定し、その実現に向けた一歩を踏み出すものである。


第1 平穏な暮らしを脅かす身近な犯罪の抑止
1 地域連帯の再生と安全で安心なまちづくりの実現
(1) 自主防犯活動に取り組む地域住民、ボランティア団体の支援
 地域住民、ボランティア団体が自主的に行うパトロール、啓発活動、防犯灯の設置等の防犯活動やそれに必要な人材育成のための研修、実施主体のネットワーク化等の取組に関し、関係行政機関との連携強化を図りつつ、ノウハウや情報の提供、機材・装備、費用の一部負担等の支援措置を充実させること等により、その一層の活発化を図る。
(2) 自主防犯活動のノウハウの全国的共有
 各地で行われている様々な形態の自主防犯活動のうち参考となる事例を国が収集し、それを全国に紹介して活動の円滑な推進要領や官民の協力関係の構築の方法等を全国的に共有することによって、関心はあるが具体的な行動を起こすには至っていない地域住民、ボランティア団体が新たに自主防犯活動を始めてみようとするきっかけをつくり、また、既に行われている活動を一層実りあるものとする。
(3) 国民への犯罪情報・地域安全情報の提供
 犯罪情勢分析の結果を踏まえ、どこでどのような犯罪が発生しているか等の情報を、住民にとって身近な地域を単位とし、地理情報システム等の活用を図りながら、防犯対策上の留意点等に関する情報とともに、ホームページ、電子メール・携帯メール、CATV等の様々な媒体を活用して提供することにより、その自主防犯活動を促進する。
(4) 国民の防犯意識を向上させるための広報啓発活動の推進
 「全国地域安全運動」等を通じて、地域安全活動に携わる関係機関・団体が相互の連携を一層緊密化させ、パトロール、防犯診断、防犯のための広報啓発活動等を実施することにより、地域安全活動の浸透と定着を図る。また、犯罪や非行のない明るい社会を築くため、犯罪予防活動の一環としての「社会を明るくする運動」を推進するとともに、警察官、検察広報官等による移動教室等を通じて、犯罪情勢や刑事司法システムについての国民の理解を一層深める。
(5) 犯罪対策に関する条例制定の支援
 地方公共団体が犯罪対策・防犯活動の促進等に関する条例を制定しようとするときは、これらに関する専門的知見を有する関係機関が適切な助言等を行うとともに、制定された条例の厳正な運用に努める。
(6) 民間事業者との連携による防犯対策の推進
 錠前、ドア、ガラス等の建物部品、緊急通報装置、防犯カメラ、位置探知システム等を取り扱う防犯関連の民間事業者に対し、犯罪情勢の分析結果等の情報を提供することにより、その開発を支援するとともに、環境設計活動、防犯診断等に際し防犯設備士等の専門家の知識・経験の活用を図る。
(7) 生活安全産業としての警備業の育成と活用
 警備員の検定・教育制度の活性化等により、警備業務の種別に応じた専門的な知識及び能力の向上を図る。また、緊急地域雇用創出特別交付金(基金)の活用等により、警備業者等による防犯パトロール事業を推進する。
(8) 事業者、施設管理者による自主警備の促進
 大規模イベント施設、高層ビル、地下街等多数の者が来集する施設において各種犯罪が行われにくいようにするため、事業者や施設管理者が各種防犯設備の設置、警備員の配置、警備員による出入者の手荷物等の確認等の必要な安全確保措置を自主的に採ることを促進する。
(9) 「空き交番」の解消と交番機能の強化
 交番勤務員の増員や交番の配置見直しにより、交番勤務員の不在が常態化している「空き交番」の解消を目指すとともに、交番相談員やパトカー等の活用により、交番に対する支援機能を充実させ、さらに、交番勤務員不在時の来訪者等に対応するため、緊急通報装置、不在時転送電話、テレビ電話等を活用し、交番機能の強化を図る。
(10) 警察の街頭活動の強化と「見て見ぬふりをしない」社会気運の醸成
 犯罪の多発する時間帯・地域において警察による街頭活動を強化し、公然と行われている違反行為や軽微な犯罪を見逃さずに適切な指導取締りを行うとともに、地域住民の協力を得ながら、こうした行為に対し見て見ぬふりをしない社会気運を醸成する。
(11) 地域に密着した検察活動の推進
 検察の行う捜査活動・事件処理が地域の犯罪情勢等に即したものとなるよう、警察、海上保安庁等の捜査機関と検察との連携を一層緊密化するとともに、公判において地域の犯罪情勢等を十分に踏まえた厳正な科刑が実現されるよう努める。
(12) 緊急通報を行った携帯電話等の位置を特定するシステムの導入等
 通信事業者と連携し、携帯電話等を利用して緊急通報を行った場合でも、全地球測位システム(GPS)等を活用することによって受理側が発信位置を特定して迅速的確な現場への急行等の対応をとることのできるシステムを導入する。また、カーナビゲーション装置等の車載装置を活用した緊急通報時に位置情報を送信することのできるシステムの普及・高度化を図る。さらに、緊急車両が現場に到着するまでの時間の短縮と緊急走行に伴う事故防止を図るため、緊急車両の優先信号制御を行うシステムの整備を推進する。
(13) 放火・連続放火から我がまちを守るための対策の推進
 火災予防に関する地域への呼びかけ等の広報活動に加え、放火・連続放火が発生している地区の消防本部等と消防庁とが共同して放火対策機器の開発・運用を行い、蓄積されたノウハウを基に全国的な運用を実施することにより、ハード・ソフト両面からの放火・連続放火対策を推進する。
(14) 犯罪の発生しにくい道路、公園、駐車場等の整備・管理
 関係省庁が防犯まちづくり関係省庁協議会を設置してとりまとめた「防犯まちづくりにおける公共施設等の整備・管理に係る留意事項」(平成15年7月24日)の着実な実施を図ることにより、防犯に配慮した犯罪の発生しにくい道路や公園、駐車場等の公共施設等の整備・管理の普及を促進する。 
(15) 防犯灯の整備促進と機能の高度化
 夜間の照度が不足していたり、人通りが少ないなど、往来する住民が犯罪に巻き込まれる不安を感じている地域において、防犯灯を設置するなどして暗がりを少なくするとともに、街頭緊急通報システム(スーパー防犯灯)や子ども緊急通報装置の整備を促進し、住民の不安感の解消を図る。
(16) 金融機関、コンビニその他の犯罪に遭いやすい店舗、事業所の防護
 金融機関、コンビニその他の犯罪に遭いやすい店舗、事業所等の防犯対策を強化するため、防犯機器の設置等を促進するとともに、防犯管理者、従業員等に対する指導を充実させるなどソフト面での対策を強化する。併せて、防犯対策に係る負担軽減のための仕組みづくりなど、防犯対策を促進するための方策について検討する。
(17) 防犯性能の高い建物部品や設備の開発・普及
 民間事業者が行う防犯性能の高い建物部品や設備の開発を支援するとともに、防犯性能の評価、公表の方法を整備する。また、これらの設置、交換等に係る負担軽減のための仕組みづくり等の普及方策を検討する。
(18) 防犯に配慮した戸建住宅、マンション等の普及
 「共同住宅に係る防犯上の留意事項」や「防犯に配慮した共同住宅に係る設計指針」の普及等、戸建住宅、マンション等の防犯対策に関する情報の提供を進めるとともに、住宅の防犯性能を評価、表示する方法の検討等、防犯に配慮した住宅の普及を促進する方策を検討する。
(19) 学校等の安全対策の推進
 学校等における子どもの安全を確保するため、低学年教室や管理諸室等の配置換え、門やフェンス等の設置・改修、それに伴う防犯機器の設置、警察との間の情報伝達網の整備等の安全対策に要する経費を補助することにより、これらの整備を促進する。また、学校における危機管理マニュアルの作成、防犯や応急手当等の訓練等を行う防犯教室の開催、安全対策に関する教職員の意識や対応能力の向上等、学校の安全管理のための取組を継続的に推進する。さらに、学校施設の開放に当たっても、児童・生徒の安全確保が図られるよう周知徹底を行う。
2 犯罪防止に有効な製品、制度等の普及促進
(1) 自動車盗難防止装置の普及
 関係事業者団体等に対し自動車窃盗の手口実態等に関する情報を提供するなどして、イモビライザー等の自動車盗難防止装置の装着車種の拡大・標準装備化を促進するとともに、このような装置の装着義務付けの必要性について、利用者の意見を踏まえつつ検討を進める。
(2) 道路運送車両法に基づく審査、検査等の厳格な運用
 自動車盗難の防止に資するよう、道路運送車両法に基づく登録事項証明書の交付に当たり厳格な運用に努めるとともに、検査登録の審査業務を通じた不審案件への対応機能を強化する。
(3) ナンバープレートの盗難及び悪用の防止
 封印の改良を進めるなどして、自動車のナンバープレートの盗難及び悪用を防止する。また、盗難ナンバープレート等を備えた自動車の走行を不能にするなどの新たな技術的手法の検討を進める。
(4) 自動車ナンバー自動読取システムの整備活用
 盗難自動車の発見や自動車を利用した重要犯罪の捜査に高い効果を発揮する自動車ナンバー自動読取システムの整備を推進する。また、手配車両以外の車両が捜査の対象とされないようにするため、ナンバープレートの盗難に遭った被害者からナンバープレートの再交付申請がなされた場合には同一の登録番号の交付を行わないよう対応を強化する。
(5) 盗難車両に関する情報共有の推進・効率化
 盗難車両の不正な名義変更等の防止を徹底するため、警察に届出のなされる盗難車両に関するデータを国土交通省の自動車検査登録システムに反映させ、当該車両の登録事項を不正に変更しようとする登録申請があった場合等に的確な対応を図るとともに、現在、各市町村が管理している原動機付自転車に関する情報を犯罪捜査等に有効に活用できるような仕組み等について検討を進める。
(6) 自動二輪車・原動機付自転車の盗難の防止
 二輪車製造業者に車両盗難の実態や手口等に関する情報を提供すること等により、メインスイッチ部(キー部分)の破壊防止対策の一層の高度化、大型自動二輪車等に装備がされつつあるイモビライザー等の一層の普及を図る。また、販売店等の協力を得ながら利用者に対する広報啓発活動を推進し、二重ロックの励行やグッドライダー防犯登録の登録率の向上を図る。
(7) 自転車の盗難の防止と被害回復の促進
 自転車が容易に盗難されないようにするため、強靱な錠への改善とその標準装備化を図る。また、自転車防犯登録の登録率の向上を図るとともに、市町村が撤去した放置自転車について、市町村からの照会に対する情報提供の迅速化を図るなどして、盗難された自転車が被害者の手に戻りやすいようにする。
(8) 自動販売機荒し対策の推進
 自動販売機荒しはバール等により自動販売機そのものを破壊して敢行されることが多いことから、錠前部分の補強等による破壊・盗難に強い自動販売機の普及を図る。
(9) 万引きの防止
 万引きの防止対策、万引き発見時の対応等について、事業者その他の関係者と連携を図る。また、ICタグ等のIT技術を活用した信頼性の高い万引き防止用機器の開発と普及を促進する。
(10) クレジットカード、通貨、公文書等の偽造・変造対策の推進
 クレジットカードについて偽造されにくいICカード化の普及を促進するとともに、従来の磁気カードに係る対策として各種のチェックシステムの導入や会員向けの広報啓発活動等、業界、加盟店及び会員の三者一体となった対策の推進を指導する。また、関係業界等との連携強化を図って偽造通貨を行使しにくい環境の整備を進めるほか、官公署等が発行する各種証明書等の偽造防止対策を推進する。
(11) 盗難通帳等による払出し対策の推進
 不正に入手した預金通帳を使用して金品を騙し取る通帳詐欺を防ぐため、盗難等に遭った通帳の印影をスキャナー等で読み取り印鑑を偽造することのないよう、金融機関における通帳の副印鑑制度の廃止等の対策を促進する。
(12) 預金口座の不正利用防止対策の推進
 犯罪に利用される架空口座の開設、口座の不正売買等に対処するため、金融機関において適切に口座利用停止等の措置が講じられるよう連携を進めるほか、口座の不正売買を防止する方策について検討する。
(13) 本人確認の徹底
 犯罪の実行や犯罪収益の収受等を助ける文書、電話、金融サービスの匿名・偽名による利用を防止するため、官公署等の各種証明書等の発行時、プリペイド式携帯電話の販売時、金融機関での取引時における本人確認の徹底を図る。
(14) 犯罪に用いられるおそれのある各種物質の管理の徹底等
 犯罪に用いられるおそれのある爆発物、毒物、化学剤、生物剤その他の危険物を製造、管理、運搬等する事業者等に対し、その管理の徹底や基準の遵守を指導等するなどして、犯罪を企図する者による盗難、流出、悪用等を防止する。また、関係法令違反の指導取締りを推進する。
(15) 重要無線通信妨害対策の推進
 重要無線通信に対する混信・妨害は、人命の保護等国民生活に重大な影響を及ぼすものであることにかんがみ、これらの重要無線通信に対する混信・妨害の発信源を早急に排除するため、電波監視施設の性能向上、設備の更改を推進するとともに、重要無線通信に対する混信・妨害等の原因となっている不法無線局に対して、厳正な取締りを実施する。
3 犯罪被害者の保護
(1) 刑事手続における被害者対策の推進
 被害者やその遺族の立場や心情に十分配慮し、事情聴取その他の刑事手続における被害者等の保護、二次的被害の防止・軽減等を図るため、被害者等への情報提供、被害者支援要員等による付添い等及び事情聴取場所の配慮等を推進する。また、更なる被害者等のための施策の在り方についての調査研究を行い、関連施策の充実に努める。
(2) 被害者等に対する支援等の推進
 被害者やその遺族の抱える経済的損失、精神的苦痛その他の様々な問題に対処するため、犯罪被害給付制度の適切な運用等による経済的な支援、相談・カウンセリング体制の整備等による精神面での支援を推進する。また、被害者等の多様なニーズに対応するため、被害者支援ネットワークの構築及び民間の被害者支援組織への支援を推進する。
(3) 犯罪被害に対する啓発活動の推進
 被害者やその遺族へ適切に対応するため、被害者等に接する職員を対象とする教育・啓発の充実を図るとともに、国民の被害者等に対する理解を深めるための広報啓発活動を推進する。
(4) 被害者等の安全確保
 被害者等の再被害防止のため、被害者との間の緊密な連絡、防犯指導、パトロールの強化その他適切な措置を講ずる。
(5) ストーカー対策、配偶者からの暴力対策の推進
 女性への暴力を根絶するため、ストーカー事案や配偶者からの暴力事案に対して、被害者の立場に立って加害者への厳正かつ積極的な対処を行うとともに、関係機関が連携して被害者の保護や支援を推進する。また、被害者の転居先等を加害者に知られないようにするため、被害者保護のための住民票の閲覧や写しの交付の制限の在り方について検討を行い、ガイドラインを策定する。
(6) 児童虐待への的確な対応
 児童虐待の発生を予防するため、孤立しがちな親等へ家庭教育及び子育てに関する情報や学習機会を提供するとともに、相談体制を整備する。また、身近な地域における幅広い関係機関・住民等が協力する虐待防止ネットワークを形成し、児童虐待又はそのリスクのある家庭の早期発見・早期対応に努める。児童虐待が発生したときには、虐待を受けた児童の適切な保護、支援等及び家族の再統合や養育機能の強化を図るほか、その態様に応じた厳正な捜査を行う。
(7) 子どもに対する防犯教育の推進
 学校において、特別活動や総合的な学習の時間等を活用するなどして、教師、警察官、自主防犯活動に取り組むボランティア団体の構成員等を講師とする参加体験型の防犯教室を開催し、子どもが自らの身を守り、犯罪に巻き込まれないようにするための危険予測能力や対応要領等を体得させる。
(8) 被害児童へのメンタルサポート等の推進
 大阪教育大学附属池田小学校において発生した児童殺傷事件を踏まえ、事件関係者へのメンタル・ケアを行うとともに、トラウマ回復のための研究、心の教育に関する学校の在り方の研究、学校危機管理体制の総合的研究を行い、その成果が共有できるよう全国に発信する。


第2 社会全体で取り組む少年犯罪の抑止
1 少年犯罪への厳正・的確な対応
(1) 少年犯罪対策のための体制の整備
 警察及び検察の少年事件捜査体制を整備・強化するとともに、少年院、少年鑑別所、留置場等の施設及び人的体制の整備を図り、少年事件の適正な処理及び適切な矯正・保護措置による非行少年の改善・更生を実現する。
(2) 厳正かつ迅速な少年事件捜査の推進
 少年事件の捜査を厳正かつ迅速なものとし、早期に送致することにより、少年の立直り、適切な被害者対策を推進する。また、捜査書類作成の簡素合理化等により捜査の迅速化を図るとともに、少年の健全育成の観点から軽微な少年事件の処理の在り方について検討する。
(3) 非行少年の保護観察の在り方の見直し
 少年保護観察における社会参加活動の多様化・積極化、集団処遇の充実を推進するとともに、対象者の問題性に応じた保護観察官の関与の重点化を図る。また、保護観察中の少年について、その遵守事項の遵守を確保し、指導を一層効果的にするための制度的措置につき検討する。
(4) 少年院における処遇の充実強化
 改善更生、社会復帰、再非行防止に高い効果を発揮する少年院における教育活動を充実強化するため、被収容者一人一人の特性に応じた処遇の個別化と多様化を推進する。特に、被害者の立場や心情を理解させ、罪障感や贖罪意識を涵養するための教育をより一層充実させる。
(5) 触法少年事案に関する調査権限等の明確化
 触法少年事案の事実解明を徹底し適切な処遇に結びつけるため、触法少年の審判の前提として必要な警察による事実関係の調査の権限及び手続を明確化するための法整備について検討する。
(6) 少年法制とその運用上の問題点に関する検討
 他の項目で述べたもののほか、非行を行った少年が真に反省し、更生する仕組みづくりのため、現行の少年法制とその運用上の問題点について、犯罪捜査、少年審判、保護、矯正の各段階を対象として検討し、問題点があれば所要の措置を講ずる。
2 少年の非行防止につながる健やかな育成への取組
(1) 少年補導活動の強化による非行少年の早期発見・早期措置
 不良行為の段階で少年の立直りを促し、犯罪の発生を未然に防止するため、少年補導センター、少年サポートセンター等の関係機関の連携を図り、家庭、学校、地域社会の協力を得て街頭補導活動を強化する。また、これに必要な関係機関等の連携の強化、民間ボランティアの拡充・活性化、補導の法的根拠の整備等を図る。
(2) 暴走族等の非行集団対策の推進
 少年の非行集団への加入阻止、非行集団の解体補導を推進する。特に暴走族については、「暴走族対策関係省庁会議における申合せ」(平成13年2月)を踏まえ、違法行為の指導取締りを徹底して行うほか、暴走族を追放する社会気運の高揚、暴走行為阻止のための道路交通環境の整備、車両の不正改造防止対策等を組み合わせた総合的な対策を推進する。
(3) 少年に対する暴力団の影響の排除
 児童買春、児童ポルノ、薬物乱用等に関わる少年の福祉を害する暴力団犯罪、少年への暴力団への加入強要や脱退妨害等の取締りを強化するとともに、少年を対象とした暴力団と関わることの危険性についての広報啓発活動を推進し、少年に対する暴力団の影響を排除する。
(4) 深夜徘徊や家出を抑制するための取組の推進
 家出や深夜徘徊をする少年が深夜から翌朝の時間帯にかけて営業する飲食店、カラオケ店、漫画喫茶等を利用している現状にかんがみ、当該時間帯の少年の利用をさせないような措置を講ずるよう、関係事業者に要請する。また、関係法令等の厳正な運用により、家出少年等を輩出する温床となる営業形態の是正を図る。
(5) 有害図書、ピンクビラ等の有害環境の浄化
 「青少年の非行問題に取り組む全国強調月間」や「全国青少年健全育成強調月間」において「有害環境の浄化活動の推進」を重点とするなど、関係機関、地域住民、ボランティアの連携により、有害図書の自動販売機の撤去運動、ピンクビラ等の違法広告物の回収等の環境浄化対策を推進する。また、販売店やマスコミ等に対し、暴力や性的逸脱行為を誘発・容認する風潮を生むおそれのある出版物等が少年の目に触れないような措置を講ずるよう要請する。
(6) インターネット上の有害コンテンツ対策の推進
 出会い系サイト対策の推進、民間事業者が主体となった「コンテンツ安心マーク」(仮称)制度の創設に関する検討・協力、携帯電話・PHS端末向けフィルタリング機能の実現、少年の情報活用能力(メディアリテラシー)等の育成、少年及び保護者に対する各種啓発活動の推進等により、少年をインターネット上の有害なコンテンツから保護する。
(7) 少年及び保護者に対する相談活動の強化
 少年非行の未然防止、非行等の問題を抱えた少年の立直り支援のため、各種行政機関、民間ボランティアによる相談活動を、電話やインターネットを活用するなど少年や保護者の相談のしやすさに配意しつつ、強化する。特に学校教育においては、外部専門家の協力を得たスクールカウンセラーの配置の推進等により、不登校や問題行動等の未然防止、早期発見・対応のための教育相談体制の充実を図る。
(8) 非行防止教室等の教育・啓発による少年の規範意識の向上
 学校における非行防止教室、薬物乱用防止教室、罪を犯した場合の刑罰・処分・民事責任に関する教育、啓発資材の作成・配布、地域の人材を活用した生徒指導の支援、学校担当保護司を活用した「中学生サポート・アクションプラン」の推進等により、少年の規範意識を向上させる。
(9) 学校における道徳教育の推進
 地域の人材や多様な専門分野の社会人を特別非常勤講師として学校に配置するほか、教師用指導資料の作成・配布、小・中学生への「心のノート」の配布、社会体験活動の活用等の取組により、子どもの心に響く道徳教育を行う。また、教育委員会と大学等の教員養成学部等との連携により、道徳教育の効果的指導方法等についての調査研究を行う。
(10) 家庭における教育・啓発の充実
 基本的倫理観や社会的マナー、自制心や自立心等を育成する上で重要な役割を果たす家庭教育を支援するため、家庭教育に関する学習の機会の提供、子育てやしつけに関する相談体制の整備、子育てのヒント集としての新家庭教育手帳の作成・配布、保護者向けの薬物乱用防止啓発読本の配布等を行う。
(11) 地域社会における教育と少年の居場所づくりの促進
 学校教育において、人や自然と触れあう体験活動の充実を図るほか、放課後や週末においても、地域の大人の教育力を結集し、学校等を活用するなどしたスポーツ・文化活動、社会奉仕活動、地域住民との交流活動、薬物問題に関する対話集会の開催等を促進し、少年の居場所づくりや社会性の育成を進める。また、こうした活動を活性化するため、フォーラムの実施、体験活動ボランティア活動支援センターの設置等を図る。
(12) 社会適応上支援を必要とする少年への積極的対応
 非行等の問題を抱える少年の立直り支援策として、地域住民の協力を得つつ、体験活動、スポーツ・文化活動、社会奉仕活動、地域住民との交流活動等の居場所づくりを推進する。無職少年に対しては、その就業・就学を支援し、社会参加を促す。
(13) 不登校、ひきこもりの少年に対する社会参加の支援
 不登校対策として、教員等の研修、家庭への訪問指導等不登校対策に関する中核的機能を充実し、学校・家庭・関係機関が連携した地域ぐるみのサポートシステムを整備する。「遊び・非行型」の不登校に関しては、学校外での支援の場の在り方等についての調査研究を行う。また、心身に悩みを抱え、屋内にひきこもりがちな青少年等が参加しやすい体験活動の機会を提供する。さらに、児童思春期の精神保健については、精神保健福祉センター、保健所、児童相談所等における専門相談及びケースマネジメントを推進するとともに、心のケアを行う専門家の養成研修を行う。加えて、ひきこもりに関する相談業務をより適切に実施するためのガイドラインの普及を図る。
(14) 児童自立支援施設の充実等
 非行少年の自立を支援し、児童が社会へ円滑に適応できるよう、児童自立支援施設においては専門職員の配置の充実等による指導力の強化を図り、個々の児童の状況に応じた指導を充実させる。また、児童自立支援施設を退所した児童の中には、家庭に戻ることが困難な者もあることから、これらの児童の自立を支援するため、児童に対し相談その他の援助・指導を行う児童自立生活援助事業の充実を図る。
3 少年を非行から守るための関係機関の連携強化
(1) 関係機関等の連携による少年サポートチームの普及促進
 非行や犯罪被害等の問題を抱えた個々の少年を支援するため、学校、教育委員会、児童相談所、警察、保護観察所等の関係機関とボランティアが少年サポートチームを形成し、それぞれの専門的知見を生かして問題の解決に当たることは、非行少年の立直り等の少年の健全育成に有効であることから、少年サポートチームの普及を促進し、その活動の活性化を図る。また、関係行政機関相互の情報共有や少年サポートチームの普及促進及び活動の活性化を図るため、必要に応じた法整備等の方策の検討を行う。
(2) 少年問題に関する共同研究
 関係省庁による共同研究チームを設置し、特異な少年事件の原因究明や前兆行動の把握を行うほか、少年サポートチームの効果的な運用方法を始めとする諸対策、地域社会への情報還元に資する仕組みづくりを検討する。


第3 国境を越える脅威への対応
1 水際における監視、取締りの推進
(1) 国際海空港における連携体制の確立
 関係行政機関等が参画する国際空港・港湾保安委員会の開催を促進、これを活用し、水際対策に関する連携体制を確立する。
(2) 海上警備・沿岸警備の強化
 船舶を利用する集団密航や薬物・銃器の密輸の水際阻止、さらには薬物等の密輸入、不法出入国等の重大犯罪に関与している疑いが濃い不審船・工作船に対する確実な対処等警備体制を万全とするため、警察、海上保安庁等が連携し、漁業協同組合や沿岸住民等の協力を得つつ、沿岸部におけるパトロール、検問等を強化するとともに、警戒活動を強化する。また、情報収集・分析、内偵活動、機動的な広域捜査等を積極的に行うほか、中国、東南アジア諸国等からの直航船を始めとする外国船舶への立入検査を強化する。
(3) 改正SOLAS条約への対応
 昨年12月に採択された海上人命安全条約(SOLAS条約)の改正が来年7月に発効することを踏まえ、同条約を担保する法令を制定するとともに、同条約に基づく対策を推進するため港湾保安設備の整備等を推進する。
(4) 物流セキュリティの強化
 諸外国や関係国際機関の動向、先進事例を参考に、コンテナ貨物等を対象としたセキュリティ強化と物流効率化の達成を図る施策の在り方を、関係者と協議しつつ推進する。
(5) 社会悪物品等の密輸入の防止
 税関における大型X線検査装置や麻薬探知犬等の取締機器の配備・高度化等、WCO等の国際ネットワークを活用するなどした情報収集・分析力の強化、税関、海上保安庁、警察、麻薬取締部等による合同取締り・合同訓練の実施等により、薬物、銃砲等のいわゆる社会悪物品等の密輸を水際において阻止する。
(6) 希少野生動植物の密輸入・違法取引の防止
 ワシントン条約により国際的に商取引が規制されている希少野生動植物の輸入管理を徹底し、かつ、密輸入と国内における違法取引を防止するため、ペット業者等への取引の監視体制を強化するとともに、指導・普及啓発活動を推進する。
(7) 国際郵便を利用した密輸入の防止
 薬物及び銃器の密輸仕出国並びに万国郵便連合全加盟国の郵政庁に対し、密輸防止のための引受検査の強化を要請する。また、国際郵便関係施設において税関による国際郵便物の検査が効果的に行われるよう、日本郵政公社に協力を要請する。
(8) 文化財の不法な輸出入の防止
 文化財不法輸出入等禁止条約の他の締約国の博物館等から盗取された文化財を特定外国文化財として指定し、輸入承認制の対象とするとともに、盗難等により所在が不明となった我が国の文化財の情報を国内外に広く提供するほか、重要有形民俗文化財等の輸出を許可・承認制とすることにより、文化財の不法な輸出入を防止する。
(9) 盗難自動車等の不正輸出の防止
 盗難自動車等の不正輸出を防止するため、通関時に道路運送車両法に基づく抹消登録証明書原本の提示を求め車台番号を確認するなど審査・検査を強化するほか、大型X線検査装置等の取締機器の配備を進める。また、警察の盗難自動車等に係る情報と国土交通省の登録情報の税関による電子的活用を推進する。さらに、自動車盗難等の防止に関する官民合同プロジェクトチームが策定したマニュアルに沿って埠頭管理関係者による管理強化策が講じられるよう働きかけを行う。
2 不法入国・不法滞在対策等の推進
(1) 出入国管理に係る体制・施設・装備等の充実強化
 出入国審査の一層の厳格化、不法入国者・不法滞在者の大幅な縮減等を図るため、入国警備官・入国審査官・査証官の所要の増員を含めた出入国管理体制の強化、収容施設及び装備・機材の整備等を推進する。
(2) 査証審査の厳格化と査証免除措置の見直し等
 査証審査時における提出書類の見直し、事実確認や旅券等の偽変造の有無の確認を行うなど審査の一層の厳格化を図る。また、不法滞在者や犯罪検挙者の多い国に係る査証免除措置の一時停止又は査証取得勧奨措置を検討する。査証手続の簡素化措置についても、不法滞在や犯罪の防止の観点にも留意した対応を行う。
(3) 査証広域ネットワーク(査証WAN)の導入
 高度な偽変造対策を施した機械読み取り査証作成システムを整備するとともに、外務省本省と在外公館及び関係省庁を情報通信ネットワークで結び、査証の審査及び発給に関する情報等の即時共有化を図る。
(4) 入国審査時における在留資格審査等の厳格化
 留学・就学、研修、興行、日本人の配偶者等の資格で入国する者の中には、在留資格は名目のみで、当初から不法就労を目的としている者が数多く存在しており、その手段も悪質巧妙化し、その資格審査が困難化してきているため、実態調査の強化を始めとする審査の厳格化を図るとともに、関係機関相互の情報交換を密にして関連事犯の取締りを強化する。
(5) 出入国関連情報の相互利活用の推進
 出入国管理の厳正な実施を確保するため、外国関係機関との連携を強化するなどして不審情報の収集を積極的に行うとともに、関係機関相互の情報交換を緊密化して出入国関連情報の一層の相互利活用を図る。
(6) 事前旅客情報システム(APIS)の導入・活用
 関係事業者の協力を得、航空機で来日する旅客及び乗員に関する情報と関係省庁が保有する要注意人物等に係る情報との入国前照合を可能とする事前旅客情報システム(APIS)を導入し、同システムの情報の活用による入国管理の厳正化及び国際犯罪等に係る捜査・調査の効率化を図る。
(7) 旅券等の偽変造対策及び不正受給対策の推進
 国際民間航空機関による国際標準策定作業の状況や諸外国政府の動向を見据えつつ、顔画像を前提とした生体情報をICチップ搭載の旅券に記録して発給する。これにより、他人による旅券の不正使用を防止するとともに、こうした旅券を活用した出入国審査手続や犯罪者発見等の方策の検討、そのための機材の導入を推進する。このほか、各種関係文書の偽変造発見のための機材の整備を推進する。また、本人確認の徹底、取締りの強化等により、日本人の名義を冒用して旅券を不正に取得する事案を防止する。
(8) 不法滞在者の摘発強化と退去強制の効率化
 不法滞在者等が集中する地域での摘発体制の強化や合同摘発の恒常化を図るなどして積極的な摘発を行う。また、出入国管理及び難民認定法第65条に基づく入国警備官への被疑者の引渡し制度の活用拡大等により、退去強制手続の効率化を図る。さらに、退去強制円滑化のため、現在行っている集団送還の枠組みの拡充を図るとともに、退去強制先の国における帰国用渡航文書の早期発給等円滑な退去実現のための交渉を実施する。
(9) 外国人登録制度の運用の厳格化
 外国人登録証明書の偽変造対策を推進するとともに、外国人登録に係る申請事項の確認、退去強制事由該当容疑者に係る情報の入国管理局への積極的通報等在留外国人の公正な管理を図るための措置を講ずる。また、「在留の資格」のない者に発給される外国人登録証明書が合法滞在を装うために悪用されることを防止するための対策を講ずる。
(10) 留学生・就学生、研修生等の受入れに関する諸対策の推進
 真に勉学を目的とした留学生・就学生を受け入れるため、大学、日本語教育機関等において安易な受入れを慎むよう適切な入学者選考の実施、出席状況の確認等在籍管理の適正化がなされるよう指導するとともに、関係機関が情報や意見の交換等を行い、質の高い留学生等の確保に向けた方策等を検討する。また、留学生が学習意欲を高め、安心して勉学に専念できるよう、奨学金の給付や宿舎の確保による留学環境の整備充実を図る。さらに、関係機関や企業等が連携し、増加している外国人研修生等の失踪事案対策等の充実を図る。
(11) 日系外国人の就労・就学の支援
 長期滞在を認められた日系青少年による犯罪が多発しているが、これらの多くが無就業、無就学の者によるものであることにかんがみ、これらの者が多く集住する地域において、職業ガイダンス、日系人コミュニティへの訪問相談、日系青少年に対するキャリア形成相談及びハローワーク内に通訳を配置した「外国人雇用サービスコーナー」の拡充等を行うとともに、生活習慣や文化の異なる外国人少年を対象に、学校への早期の適応や特性の伸長を目的として、母語の分かる指導協力者を派遣したり、個に応じた特色ある教育指導の在り方及び帰国・外国人児童生徒とその他の児童生徒との相互啓発を通じた国際理解教育の推進の在り方等について実践研究を行ったりするなど、地域社会に溶け込めるようにするために必要な支援を行う。
(12) 在留資格取消し制度の新設
 偽りその他不正の行為により在留を画策するなど継続して滞在させることが好ましくないと認められる外国人について、在留期間途中で在留資格を失わせることができるよう、出入国管理及び難民認定法の改正を行う。
(13) 外国人の就労、宿泊時の身分確認の厳格化等
 不法滞在・不法就労を継続しにくい環境をつくるため、外国人が就労する際の雇用主による外国人登録証明書のチェック等による身分確認や外国人が宿泊施設に宿泊する際の宿泊名簿への国籍及び旅券番号の正確な記載による身元確認を徹底するとともに、これらの事業者等による警察官等の職務遂行に関する必要な協力を確保する。
(14) 不法滞在・不法就労防止のための広報啓発活動の推進
 不法滞在・不法就労の防止と外国人労働者の適正な雇用・労働条件の確保を図るため、パンフレット等を作成して事業主に対する広報啓発活動をより一層推進する。また、不法滞在・不法就労目的の入国を防止するため、不法滞在・不法就労外国人等が多い送出国において、我が国における出入国管理制度及び外国人労働者の受入れ方針等に関する広報活動を実施する。
(15) 悪質ブローカー、雇用主等の摘発・指導の強化
 風俗営業者等に対する不法就労外国人の受入れ防止のための行政指導を徹底しつつ、関係機関が緊密に連携し、不法就労をあっせんする悪質なブローカーや雇用主の摘発を強化するほか、不法就労や不法滞在を助長する各種の行為を積極的に摘発・指導する。また、外国関係機関と連携し、人身取引等に係る組織の摘発を促進する。
(16) 人身取引等に係る行為を処罰するための法整備に関する検討
 国際組織犯罪防止条約人身取引補足議定書及び同条約密入国補足議定書の締結に向け、同条約で定める人身取引(トラフィッキング)及び密入国させること(スマグリング)等の処罰を確保できるよう、必要な検討を進める。
(17) 不法滞在外国人を減少させるための法整備
 我が国に不法に滞在する外国人を大幅に減少させるため、不法滞在外国人に係る罰則の強化その他所要の法整備を行うべく検討する。
(18) 犯罪情勢を見据えた外国人受入れ方策の検討
 今後新たな局面において旅行者、労働者等の外国人受入れ方策を検討する際には、現在、我が国においては、大半の外国人が適法かつ平穏に滞在する一方で、依然として極めて多数の不法滞在者が存在し、これが温床となって来日外国人犯罪が多発するとともに、その凶悪化・組織化、全国への拡散が進展していることが国民に多大な不安を抱かせていること等を踏まえた、治安に影響を及ぼさないための措置を併せて検討する。
3 来日外国人犯罪捜査の強化
(1) 来日外国人犯罪の取締りと適切な刑事処分の推進
 凶悪化・組織化が進展し、首都圏から全国への拡散傾向もみられる来日外国人犯罪に対し、警察組織の見直しを進めつつ捜査力を重点的に投入し、個別の事案やその背景にある犯罪組織の全容の解明に努め、関係法令を駆使して関与者を的確に検挙・処罰するとともに、犯罪収益の徹底した剥奪に努める。
(2) 通訳体制の確立
 外国人被疑者等との意思疎通の困難性が円滑な捜査活動の妨げとなっている現状にかんがみ、多様な言語に対応した通訳担当職員の育成、有能な民間通訳人の確保等を積極的に推進する。
4 外国関係機関との連携強化
(1) 国際捜査共助の充実化と条約締結の検討
 日米刑事共助条約の実施に当たり、外交ルートを経由せずに捜査・司法当局を中央当局として指定し、その中央当局間の共助の授受を行いその迅速化を図るとともに、要件の緩和等により共助の強化を図る(同条約を担保するため国際捜査共助法を改正する。)。その後、アジア諸国を始め米国以外との同種条約締結の可能性について検討を進める。また、中央当局制度は多国間条約においても採用されていることから、かかる条約の実施に当たっても中央当局間による共助の実施を検討する。
(2) 外国関係機関との連携の強化
 ICPOルートや外交ルート、国際機関との協議や個別協議の場等を通じて、外国関係機関との間における国際的な犯罪に係る情報交換や国際間捜査協力を積極的に推進する。特に中国公安部との間においては、かかる取組を一層推進する。
(3) 被退去強制者についての中国当局による管理の徹底の要請
 我が国において罪を犯し、又は不法滞在をしたことにより退去強制された中国人について、中国当局が中国国内法に基づき管理を徹底することを要請し、我が国への不法再入国を阻止する。
(4) 日中間における領事関係国際約束の早期締結
 中国との間において交渉中の領事関係国際約束において、相手国国民を拘禁した際の領事機関への義務的通報その他の我が国における中国人による犯罪の減少に寄与し得る措置(被拘禁者の身分事項の確認等)を確保しつつ、その早期締結を目指し、協議を進める。
(5) 日中間における受刑者移送条約の早期締結等
 我が国の刑務所等の過剰収容の一因となっている中国人受刑者の母国への移送の道を開くため、中国との間において、領事関係国際約束の締結に目途が立った段階で、受刑者移送に関する国際約束について協議を開始する。それに当たり、欧州評議会受刑者移送条約への中国の加入についても協議する。
(6) 日中間における税関相互支援協定締結の検討
 日中間における関税法令違反の効率的な取締り等を図るため、税関当局間で情報交換等の支援の促進を内容とする日中税関相互支援協定の締結について検討を進める。


第4 組織犯罪等からの経済、社会の防護
1 組織犯罪対策、暴力団対策の推進
(1) 組織犯罪情報の集約、相互利活用等の推進
 組織犯罪に的確に対処していくため、警察組織、取締体制の在り方を見直しつつ関係機関相互の連携体制を構築するなどして、暴力団、来日外国人犯罪組織、銃器・薬物の密輸・密売組織等に関する情報の収集、集約、分析、相互利活用を推進し、取締りを一層効率的かつ効果的なものとする。
(2) 組織犯罪の取締り強化と厳正な処分
 組織犯罪に対しては、コントロールド・デリバリーや通信傍受等の様々な捜査手法を駆使して組織の中枢に至るまでの摘発に努めるとともに、組織的犯罪処罰法の組織的な犯罪の加重処罰に係る規定を積極的に活用するなどして、厳正な科刑が実現されるよう努める。
(3) 組織犯罪に対する有効な捜査手法等の活用・検討
 効率的かつ効果的な組織犯罪情報の収集や、組織の中枢に至る摘発の徹底を図るため、組織犯罪に対し、あらゆる捜査手法等を積極的に活用するとともに、通信傍受、おとり捜査、コントロールド・デリバリー、潜入捜査等の高度な捜査技術・捜査手法、犯罪収益規制の拡大を具体的に研究し、その導入・活用に向けた制度や捜査運営の在り方を検討する。
(4) 犯罪収益の剥奪
 犯罪組織の資金基盤に打撃を与え、その弱体化・壊滅を図るため、資金獲得活動に関わる違法行為を徹底的に検挙するほか、組織的犯罪処罰法や麻薬特例法の犯罪収益の没収、追徴等に係る規定を積極的に活用していくこと等により、犯罪組織が保有する犯罪収益の剥奪に努める。
(5) マネー・ローンダリング対策の推進
 マネー・ローンダリング犯罪及びその前提犯罪の摘発を徹底することにより、犯罪収益が犯罪組織の維持拡大に利用されることや将来の犯罪活動へ再投資されること、又はこれらが事業活動に投資されることによって生じる合法的経済活動への悪影響を防止する。これに当たっては、組織的犯罪処罰法に基づき金融機関等から届出された疑わしい取引の情報を金融庁において的確に集約・整理・分析するとともに、その情報を捜査機関等が効果的に活用する。
(6) 都道府県警察の行う国際組織犯罪捜査への積極的関与
 都道府県警察の行う国際組織犯罪捜査に関して、国の機関である警察庁がより積極的な役割を果たすとともに、それに関する外国警察機関との連絡調整を一層推進することにより、事案解明や被疑者検挙に必要な情報交換の円滑化等を図る。
(7) 国際組織犯罪防止条約の早期締結及び関連法の整備
 国際社会と協調して組織犯罪に効果的に対処していくため、本年5月に承認された国際組織犯罪防止条約(国際的な組織犯罪を防止し、これと戦うための国際的な法的枠組みを創設するための国連条約)を早期に締結するとともに、これに伴い必要となる組織的な犯罪の共謀罪及び証人等買収罪の新設や、犯罪収益規制関係の規定の整備等を行う。
(8) 執行妨害犯罪及び倒産犯罪に関する罰則の整備
 暴力団等が組織的に関与する執行手続や倒産処理手続を妨害する犯罪に的確に対処するため、執行妨害犯罪については、現行刑法で処罰困難な妨害行為等を新たに処罰対象とするとともに、組織的に行われる場合等には刑を加重することとし、倒産犯罪については、構成要件・法定刑を現在の経済社会の実勢等に照らし再構成する。
(9) 暴力団排除活動と行政対象暴力対策の推進
 関係機関・団体が緊密な連携を確保するとともに、国民の参加を得ながら、積極的な広報啓発活動を実施すること等により、社会における暴力団排除意識の高揚・定着を図り、暴力団等による各種業界や商取引への介入を阻止する。特に、近年顕著となっている行政対象暴力(暴力団等又は右翼が不正な利益を得る目的で行政機関又はその職員を対象として行う違法又は不当な行為)への取組を強力に推進する。
(10) 暴力団の代表者等に対する責任追及の徹底
 暴力団員の違法行為について当該暴力団の代表者等の責任を追及し、暴力団被害者の救済を充実させるため、弁護士会民事介入暴力対策委員会等との連携を更に強化するとともに、必要となる法制の整備について検討する。
2 薬物乱用、銃器犯罪のない社会の実現
(1) 啓発の充実等による青少年の薬物乱用の根絶
 薬物乱用防止教室の開催及び地域や家庭における啓発活動の推進等により、児童・生徒を始めとする青少年に対する薬物乱用防止教育を充実するとともに、各種啓発活動の全国展開等薬物乱用の根絶等を訴える広報啓発活動を効果的に推進する。
(2) 薬物密売組織の壊滅
 視察内偵活動の強化や薬物犯罪等に係る疑わしい金融取引等の情報の収集・整理・分析の強化により、薬物密売組織の実態を解明するとともに、麻薬特例法等を活用して、組織中枢に位置する者に対する取締り、厳正な科刑の獲得、薬物犯罪収益の剥奪等に取り組むなど、総合的な組織犯罪対策を推進することにより、暴力団や外国人の薬物密売組織を壊滅する。また、インターネットの利用等密売手口の巧妙化に適切に対処するための対策を講じる。
(3) 末端薬物乱用者の取締りの徹底
 薬物の密売を支える需要を生み出している末端乱用者に対する取締りを徹底するとともに、相談活動を充実するなど末端乱用者の薬物への依存を断たせるための取組を強化する。
(4) 薬物密輸の水際での阻止
 官民一体となった情報収集を強化するなど情報収集・分析体制を強化するとともに、関係機関が連携して、海空港等における監視体制の強化、密輸組織・密輸ルートの解明等に取り組むことにより、薬物の密輸を水際で阻止する。また、麻薬等の不正な製造に流用されるおそれのある化学物質及び正規流通麻薬等の輸出入において、麻薬密造業者等への横流れ防止を目的とした審査、監視を行う。
(5) 薬物対策に関する国際協力の推進
 我が国への薬物の供給源となっている薬物の密造地域等における取組への支援を強化するとともに、国際機関への協力、先進国間協議及び二国間経済協力の推進等により、世界的な薬物乱用問題の解決に積極的に貢献する。
(6) 治療、社会復帰支援による薬物再乱用の防止等
 薬物中毒者等の治療、相談体制の充実、保護観察対象者に対する事案に応じた簡易尿検査の実施等により薬物中毒者等の社会復帰を支援するとともに、その家族を対象とした相談体制等を充実させるなど、再乱用の防止のための取組を強化する。
(7) いわゆる脱法ドラッグ対策の推進
 麻薬等に指定されていないため、使用しても法令に抵触しないとして堂々と販売されているいわゆる脱法ドラッグについて、インターネットの広告監視、製品の買上げ分析調査を実施し、必要なものについて麻薬等への指定を行う。
(8) 水際対策を始めとする銃器事犯捜査等の徹底
 暴力団を始めとする犯罪組織等による銃器事犯等の摘発及び違法銃器の押収を徹底し、厳正な科刑が実現されるよう努める。特に、銃器密輸・密売組織及びルートを解明し摘発するため、取締関係機関において、情報交換・データベースの充実、合同訓練及び共同捜査の実施、外国関係機関との国際共同オペレーションを促進するとともに、クリーン・コントロールド・デリバリー等の捜査手法を積極的に活用する。また、社会への銃器拡散を防止するため、インターネット上の銃器取引に関する情報の収集及び取締りを推進する。
(9) 適正な銃砲・火薬行政の推進
 猟銃等の所持許可に当たっては厳格な審査を徹底するとともに、事後も検査等を通じて、許可後に取消事由の生じた者を着実に把握、排除する。また、事故・盗難を防止するため、所持者に対し、適切に使用・保管するよう継続的に指導を行い、その徹底を図る。さらに、適正な銃砲管理の効率化のため、銃砲登録照会業務の高度化を図る。
(10) 銃器対策に関する国民の理解と協力の確保等
 銃器対策に関する国民の理解と協力を確保するため、民間ボランティア団体との連携を図り、官民一体となった広報啓発活動等を推進する。また、関係法令の遵守を徹底するため、猟銃等の製造・販売事業者を対象とした保安対策等に関する講習会を実施するとともに、モデルガン等の製造・販売事業者に対し、生産及び販売における慎重な対応、消費者への啓発活動の推進等を要請する。
(11) 銃器対策に関する国際協力の推進
 銃器対策に関する国際協力を推進するため、国際組織犯罪防止条約補足銃器議定書の早期締結に向けて、同議定書が義務付けた銃器への刻印、記録保管、輸出入管理等に関する制度を確立すべく、国内関係法令等の整備を図る。
3 組織的に敢行される各種事犯の対策の推進
(1) 消費者保護対策の強化
 消費者被害に係る生活経済事犯に対応するため、集中的な取締りや「消費者月間」等の機会を通じた関係機関・団体が一体となった消費者問題に関する広報啓発活動等を推進し、消費者の防犯意識の啓発を図る。
(2) 改正貸金業法の厳正・適正な運用
 貸金業の適正な運営を確保し、借り手の保護を図るため、登録要件の厳格化、取立て行為規制の強化、罰則の強化、広告・勧誘に関する規制の強化等を内容とする改正貸金業法(ヤミ金融対策法)の規定を厳正かつ適正に運用する。
(3) ヤミ金融事犯の徹底した取締り
 ヤミ金融の撲滅を図るため、ヤミ金融事犯に係る「集中取締本部」の設置による専従取締体制の確立、情報収集の強化、広域的に敢行される事犯に対する合同捜査体制の確立等により、ヤミ金融事犯の徹底した取締りを推進する。
(4) ヤミ金融被害対策の推進
 ヤミ金融の被害を未然に防止するとともに、被害者の救済を図るため、関係機関が連携し、「ヤミ金融被害対策会議」の設置等による情報の共有等を推進するほか、広告掲載関係団体に対するヤミ金融業者の広告掲載自粛要請、金融機関に対する不正利用の疑いのある口座情報の提供を行い、適切に口座利用停止措置等の措置が行われるよう連携を進める。
(5) 模倣品・海賊版対策の推進
 模倣品・海賊版の販売による不当な資金獲得活動等、知的財産権侵害を阻止するため、「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」(平成15年7月8日知的財産戦略本部決定)に基づき、外国市場対策の強化、水際及び国内における取締りの強化、官民の対策推進体制の強化等を進める。
(6) 不法投棄の撲滅と環境犯罪の取締りの強化
 循環型社会の形成を阻害する不法投棄を撲滅するため、広域的な廃棄物処理に係る紛争への国の積極的関与、優良事業者の育成、受け皿となる最終処分場の整備を推進する。このほか、関係機関等の連携の下、国民の協力を確保しつつ、環境犯罪のうち、特に硫酸ピッチ等産業廃棄物の不法投棄事犯、野外焼却事犯、海域への不法投棄事犯、特定事業場からの不法排出事犯等を重点対象として、組織的・広域的な事犯、暴力団が関与する事犯、行政指導・命令を無視して行われる事犯等を中心に取締りを強化する。
(7) 不正軽油の撲滅
 軽油引取税の脱税を目的とする不正軽油の製造・販売及びその製造過程で生成される硫酸ピッチの不法投棄を撲滅するため、各都道府県における不正軽油対策協議会等の設置を促進し、税務、消防、警察、環境等の関係機関・部門の連携を強化するとともに、罰則の引上げを検討するなど、軽油引取税に係る脱税対策の強化を図る。
(8) 密漁事犯の根絶
 暴力団関係者や外国人等による悪質巧妙な密漁事犯の根絶を図るため、地域住民や漁業協同組合、国内外の取締機関と連携して情報収集体制の強化を図るとともに、船舶や航空機、捕捉資器材等による監視・捕捉能力や現場鑑識能力を充実強化する。
4 サイバー犯罪対策の推進
(1) 情報セキュリティに関する知識及び対策の普及啓発
 セミナーの開催、ホームページの充実、相談窓口の設置等を通じ、国民や事業者等の情報セキュリティ対策に関する意識を向上させ、サイバー犯罪による被害発生の防止に必要な知識及び対策の普及を図る。
(2) インターネット上の防犯技術の開発・普及
 不正アクセス行為により他人になりすましてインターネット・オークションで詐欺を行うなどの事案が多発していることを踏まえ、官民連携の下、低コストで利用できるより高度な本人確認技術その他の防犯技術の開発を行い、その普及を図る。
(3) 情報通信ネットワーク等の安全性及び信頼性の確保
 産学官の連携の下、サイバー攻撃の予防、検知、分析等に関する技術、認証技術、暗号技術、タイムスタンプ・プラットフォーム技術等に関する総合的な研究開発を推進するとともに、コンピュータウイルスや不正アクセスに対する情報システム・IT製品の脆弱性を低減させるための技術開発等を実施し、情報通信ネットワーク等の安全性及び信頼性を向上させる。
(4) 重要インフラを標的としたサイバー攻撃への的確な対応
 国民生活を支える重要インフラを標的としたサイバー攻撃に的確に対処するため、こうしたサイバー攻撃に関する情報収集・分析能力を向上させるとともに、関係する公益事業者、公共交通機関、金融機関、行政機関等との連携及び連絡体制を強化する。また、サイバー攻撃からの重要インフラ防護に関する国際的な協力体制を拡充する。
(5) サイバー犯罪の徹底検挙と捜査の高度化
 サイバー犯罪の捜査に携わる警察職員の技能水準の向上や警察組織の見直し、体制の強化を図るとともに、捜査に用いられる装備資機材を最新のIT技術を駆使した犯行にも対応可能なものとすることにより、複雑・高度化するサイバー犯罪を徹底検挙する。また、先進各国の捜査技術、証拠化手法、技術基準等を参考にしながら、サイバー犯罪捜査の高度化を推進する。
(6) サイバー犯罪条約の早期締結及び関連刑事法の整備
 世界的に形成されたコンピュータネットワークを利用して敢行される犯罪等のサイバー犯罪に的確に対処するとともに、サイバー犯罪条約を早期に締結し、国際間協力の下にサイバー犯罪の防圧を図るため、コンピュータウイルスの作成・供用等の罪の新設、わいせつ物頒布罪の構成要件の拡充、電磁的記録に係る記録媒体に関する証拠の収集、電磁的記録の没収等に関する国内法の整備を行う。


第5 治安回復のための基盤整備
(1) 地方警察官等の増員
 街頭犯罪の抑止、各種犯罪に対する捜査力の充実等国民の要望に的確に対応するため、警察力の更なる強化を目指した地方警察官の増員を図るとともに、警察庁職員の所要の増員を図る。
(2) 検察官等、税関職員、海上保安官等、麻薬取締官の増員
 迅速な捜査処理のため、検察官及び検察事務官の所要の増員を図る。また、水際対策の強化等のため、税関職員、海上保安官等、麻薬取締官の所要の増員を図る。
(3) 出入国管理に係る体制・施設・装備等の充実強化(再掲)
 出入国審査の一層の厳格化、不法入国者・不法滞在者の大幅な縮減等を図るため、入国警備官・入国審査官・査証官の所要の増員を含めた出入国管理体制の強化、収容施設及び装備・機材の整備等を推進する。
(4) 迅速・的確な犯罪捜査への協力の確保
 捜査に必要不可欠な情報をより迅速・的確に収集することができるよう、関係機関・事業者に対し、捜査関係事項照会への迅速・的確な対応を促す。また、携帯電話やIP電話が犯罪に使用されたときに捜査への的確な協力が得られるよう、関係事業者に対し必要な働きかけを行う。このほか、犯罪捜査への国民や事業者等の協力を確保するための方策について検討を進める。
(5) 組織犯罪等の取締りのための関係機関の連携強化
 組織犯罪、外国人犯罪等について、その取締りを的確かつ効率的に行えるよう、関係機関が保有する関連情報を相互に有効活用するための方策について検討する。また、様々な権限及び情報を有する関係機関が必要に応じて一体的に取締りが行えるような連携強化等の方策について検討する。
(6) 先進的な捜査技術の確立
 犯罪捜査をより効率的に行うことができるよう、過去の犯罪者に関する情報の分析結果やDNA型鑑定結果の捜査への活用に向けた必要な検討・制度整備を進めるとともに、画像の高度解析技術、顔認証技術等の先進的な技術の開発や犯罪捜査への活用を推進する。
(7) 産学官の技術力を結集した競争的資金等による研究開発の推進
 安全・安心な社会の構築に資する認証技術・センサー技術を始めとする科学技術の強化のため、省庁間協力を図りつつ、科学技術振興調整費を始めとした競争的資金等を活用して、大学・研究機関や民間事業者等の技術力を結集した研究開発を総合的・横断的に推進する。
(8) 留置施設の過剰収容の解消と留置管理業務の効率化
 円滑な捜査活動の遂行等の妨げとなっている留置場の過剰収容を緩和・解消するため、留置場・留置施設の整備を推進する。また、留置管理業務を効率化するため、集中護送制度の積極的な導入、これに必要な検察庁等における待機場所の確保等を図る。
(9) 刑務所等矯正施設の過剰収容の解消と矯正処遇の強化
 犯罪情勢の悪化に伴う刑務所、拘置所、少年院等の矯正施設の著しい高率収容ないし過剰収容状態やそれによる処遇環境の悪化等を速やかに緩和・解消し、適正な収容を確保するため、緊急的に所要の施設拡充整備を行う。また、治安確保のためにはこれら施設の被収容者に対してきめ細かな処遇を実施する必要があることを踏まえ、所要の要員を確保するほか、民間委託等による業務負担の軽減、保安警備体制・刑務作業運営体制の強化、医療体制の充実、職員の意識改革等をより一層推進する。
(10) 更生保護制度の充実強化
 年々増加する収容保護希望者に対応し、その処遇環境を改善するため、更生保護施設の計画的な整備を推進する。また、増大する仮釈放審理事件等に対応するための体制の強化、長期刑受刑者及び覚せい剤事犯者等再犯危険性が高い者への処遇の強化、更生保護制度の充実強化のための要員の確保、施設職員や保護司の研修の充実、幅広い層からの保護司の適任者の確保等を推進する。さらに、薬物事犯者、精神障害者、生活困窮者の処遇に関し、医療機関、福祉機関との連携を強化する。
(11) 治安関係施設等の整備
 取扱事案数の急増等に伴い、取調べ室や証拠品の保管場所等の確保が重要な問題となっており、これらが確保されなければ適正・迅速な捜査活動や事件処理が困難となることから、警察署、検察庁庁舎等各治安関係機関の拠点施設の整備を推進する。また、悪質・巧妙化、組織化等が進展する各種犯罪に迅速かつ的確に対応するため、車両、船舶等の高機能化等、各種監視装置、受傷事故防止資機材その他各種資機材の整備・開発、情報通信システムの拡充・高度化等を推進する。
(12) 充実・迅速な公判審理の実現
 迅速かつ適切な刑罰権の実現への国民の期待、裁判の迅速化に関する法律の施行に的確に対応するため、集中的審理を積極的に推進するなど充実・迅速な公判審理の実現に努める。また、これに従事する検察官や検察事務官の所要の増員、能力向上を図る。
(13) 凶悪犯罪等に関する罰則整備
 凶悪犯罪の法定刑の引上げ、現在20年とされている有期刑の上限の引上げ等を含めた、凶悪犯罪等に関する罰則の整備について検討する。
(14) 犯罪の発生原因の総合的分析の推進
 真に効果的な犯罪対策に係る政策形成を促進するための基礎情報を得るため、先進諸国で行われている犯罪問題研究の内容を参考にしつつ、犯罪被害調査の反復・継続的実施、関係研究機関による犯罪情勢に関する情報の共有化、犯罪対策の効果に関する評価研究、統計分析や地理分析に基づくプロファイリングシステムの構築等の取組を総合的に推進する。