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第2回 先端医療特許検討委員会 議事録

  1. 開 会 : 平成20年12月22日(月)13:00〜15:00
  2. 場 所 : 知的財産戦略推進事務局会議室
  3. 出席者 :
    【委 員】 金澤委員長、片倉委員、北川委員、小泉委員、佐藤委員、須田委員、永井委員、中内委員、羽生田委員、林委員、渡辺委員
    【参考人】 越智広島大学病院病院長、岡野慶應義塾大学医学部教授、岡野東京女子医科大学先端生命医科学研究所所長・教授、外口医政局長、南特許技監、田村審査基準室長
    【事務局】 素川事務局長、内山次長、小川参事官、高山参事官
  4. 議 事 :
    (1) 開  会
    (2) 先端医療分野における特許保護の現状と課題について
    (研究者からのプレゼンテーション)
    (3) 自由討議
    (4) 閉  会

○金澤委員長 時間になりましたので、まだお見えになっていらっしゃらない方もいらっしゃいますが、第2回目の先端医療特許検討委員会を開かせていただきます。暮れの押し迫ったところで、遠いところからもお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。
 本日は、白石委員と本田委員と長岡委員はご欠席とのご連絡を受けております。また、前回と同様に、厚生労働省から外口医政局長、それから特許庁から南特許技監、それから田村審査基準室長においでいただいておりますので、よろしくお願いいたします。
 それでは本日の議題に入りますが、その前に実は第1回目の会でちょっと質問があって、それにお答えできなかった部分があります。それについて、特許庁の南特許技監からご説明をお願いいたしますが、要するに、前の井村委員会でせっかく作っていただいたものが、なかなか利用されていないんじゃないかというような、そういう疑問だったと思います。どうぞよろしくお願いします。
○特許庁南特許技監 それでは、今、委員長からご紹介がありました前回いただいたご質問について、私のほうからご回答いたします。
 まずは、お手元の資料の一番下に1枚参考資料としておつけしております。「審査基準改訂後の運用状況について」、これに沿ってご説明をさせていただきます。
 まず1点目でございますけれども、平成17年の審査基準の改定で、保護対象を医療機器の作動方法まで拡大したところでございますけれども、前回これによる新たなこの保護対象領域における登録件数は76件とご紹介しました。この内訳についてご質問がございましたので、下の表のようにまとめてございます。全部で76件ですが、多い順にまとめております。
 まず放射線治療装置でございますけれども、日本出願が登録13件、外国出願1件の合計14件。それから、透析装置などの体外人工臓器について、日本が3件、外国9件の計12件。それから、磁気共鳴イメージング装置については、日本2件、外国10件の合計12件、その他として日本が21件、外国が17件の38件、合計の76件という内訳でございます。
 それから、2番目でございますけれども、特許請求の範囲に投与間隔・投与量などの治療の態様が記載された出願についてですけれども、前回これについてのこの観点で登録になったものは、平成17年4月から20年6月の間0件というふうにご紹介いたしました。出願はどのぐらいあったのですかというご質問だったと記憶しております。我々それについて調べたところ、この間に特許請求の範囲にこの投与間隔・投与量などの治療の態様が記載された出願、全部で66件ございました。ただ、そのうちでこの観点で特許性が認められて特許になったものは1件もございませんでした。治療態様以外の観点で特許になったものについては20件ございます。
 それから、特許が認められなかったものが29件、残りの17件についてはまだ現在審査中で結論が出ていないという状況でございます。
 簡単ですが、前回のご質問に対する回答は以上のとおりでございます。
○金澤委員長 どうもありがとうございました。
 何かスペシフィックなご質問などございますか。よろしいですか。
 では、どうもありがとうございました。
 それでは、本日の議題に移りたいと思いますが、1枚目の議事次第にございますように、本日は、前回予告いたしましたように、「先端医療分野における特許保護の現状と課題について」ということで、研究者の方々からプレゼンテーションをいただくことになっております。
 本日は特別ゲストをお招きいたしましたので、実際に研究なさっておられます分野の具体的なところをお伺いして、どういうところが特許に関して問題であるかというようなことをご紹介いただきたいと思います。
 まずは特別ゲストをご紹介いたしますが、広島大学の病院長の越智光夫先生でございます。よろしくお願いします。次は、慶應義塾大学の医学部教授の岡野栄之先生でございます。それから、もうひとかたは、東京女子医科大学の先端生命医科学研究所長の教授の岡野光夫先生でございます。どうぞよろしくお願いします。
 それでは、越智先生からプレゼンテーションをお願いいたします。
 資料1、2、3と3つあると思いますが、その資料1でご説明いただけるかと思います。よろしく。
○越智光夫広島大学病院病院長 広島大学の越智です。どうぞよろしくお願いいたします。座ったままで失礼いたします。
 私は臨床家でございまして、整形外科領域の特に膝を専門にしております。大学病院も法人化の後は収入を上げるということで、臨床家が研究をしたり、特許のことを考えたりする時間が少なくなってきたというのが実情です。私自身は一臨床家医として、手術のときにこういうふうなことを考えたら特許になるんじゃないかなというふうに考えながらやっております。しかし、さて新しいアイデアが思いついたときにどのようにするかというと、大学の知財部の方に相談する、あるいは共同研究をしている会社の方に来ていただいて相談するという程度でして、特別な知識があるわけでもございません。したがいまして、私が述べることは、ちょっと的外れな部分もあるのかもわかりませんけれども、ご容赦願いたいと思います。
 軟骨の再生医療というのに私はもう10年以上前から取り組んできました。特許として、治療に関する特許が取れればいいなというようなことが考えられる事例を2つご紹介させていただきたいと思います。
 まず最初に、3次元培養軟骨細胞移植というのをお話しさせていただきます。
 関節軟骨の再生医療、関節軟骨はどうして再生医療が要るのかというところからお話しさせていただきます。正常軟骨というのは非常につるつるした表面でございまして、簡単にいいますとアイススケートの10分の1の摩擦係数でございます。ただ、関節軟骨は血管を含みませんので、自己修復能力がないと考えられております。したがいまして、スライドの下にありますように、20歳の女性の大腿骨顆部の大きな軟骨欠損の場合には、自己修復能力がないわけですから、だんだん欠損部が広がる、あるいは相対する面、脛骨ですけれども―も破壊されてきて、最終的には変形性関節症に至ってしまいます。何らかの積極的な治療方法が必要ではないかと、20世紀の終わりごろに強く考えられてまいりました。
 1994年にスウェーデンのグループが、非荷重部、体重のかからない部分から、軟骨組織を採取して酵素処理をいたしまして、細胞を単離いたしました。ばらばらにして生体外で培養して増やした後に、10日から3週間ぐらいかけて増やし、細胞数を約10倍に増やした後に、欠損部に骨膜のパッチ、自分自身の脛骨、すねの前からとってきた骨膜パッチで覆って、そこに浮遊液の状態の細胞を打ち込むという方法を行いました。これが軟骨に関する世界で最初の細胞移植の臨床例であります。
 ところが、私自身はこの論文を読みまして、やはり問題点が幾つかあるというふうに考えました。最も重要な問題点は、パッチを糸で丁寧に周囲の正常関節軟骨に縫っているんですけれども、細胞はその隙間から漏れてくる可能性があります。したがいまして、10倍に増やしてもこの漏れが生じ、残る細胞が10分の1であれば、結局細胞の数は変わらないということになります。この点を何とかできないかと考えました。
それで、左側にありますように、軟骨細胞を浮遊液の状態で注入するのではなくて、3次元の足場の中で培養して軟骨様の組織を作って移植すれば、漏れなく問題がないのではないかと考えました。この足場として用いたのは、アテロコラーゲン、しわとりのコラーゲンとして既に臨床応用をされていたコラーゲンを足場に用いて培養しました。
 1996年、2年後に世界で最初の3次元培養移植を開始いたしました。ここにありますアテロコラーゲンの中で培養して、軟骨様組織を作り、骨膜のパッチでふたをするということをすれば細胞の漏れは全く関係なくなりますので、理想的ではないかということであります。
 このスライドが実際の手術の方法ですけれども、ここの部分に欠損部が生じます。一部が壊れていますので、正常に近い軟骨まできちっと掻爬をいたします。3週間かけて、非荷重部からとった少量の軟骨で軟骨様組織を作成します。培養して細胞数を大体15倍ぐらいまでに増やし、軟骨様組織にしまして、軟骨欠損部に移植をして、骨膜のパッチでふたをする。液体の状態で細胞を入れたわけではないので漏れることがないということになります。
 この症例は、初期の一例の13歳の男子の方で、右の大腿骨の内側顆の離断性骨軟骨炎です。この病気は軟骨と骨がはげる病気でありまして、はがれたところに欠損部があります。手術をして2年後の状態なんですが、非常にスムースな関節面ができ上がっております。
 続きまして、これも15歳の男児でして、スライドのこの節に欠損がございまして、同じような方法で移植して、骨膜のふたをいたしました。ビデオをご覧になっていただきます。術後5年ぐらいに関節鏡をさせていただく方は殆どないので、このビデオは非常にまれなケースなんです。別の病気で反対側の手術をさせていただいた際に関節鏡をいたしましたが、非常にきれいな関節面ができ上がっています。かたさも周囲の正常軟骨と同じで、ちょっと糸の跡が少し見えるかもわかりませんけれども、ほぼ完璧に近い状態です。
 我々の100例近くの臨床経験でも非常に良好な成績が得られましたので、厚生省認可の臨床治験を行いました。広島大学、北海道大学、東京医科歯科大学、島根大学、それと名古屋の三菱病院とで行いました。
 この治験では各々の病院で患者さんの軟骨を少量とったものを蒲郡にあるベンチャー企業に送りまして、ある大きさに、例えば患者さんの欠損の大きさが2平方センチメートルであれば、その大きさに作っていただいて1カ月後ぐらいに返していただく。そして患者さんに再入院していただいて手術をするという方法で治験を行いました。
 これは北海道大学の整形外科で手術された膝の一例ですけれども、移植前はこのような大きな欠損がございまして、ここの部分を治療いたしております。そういたしますと、12カ月後、糸は見えますけれども、非常に円滑な関節の面が形成されていることがおわかりになると思います。
 総合評価も30例中、有用であったと評価されたのが、極めて有用と有用を合わせますと93.3%で、非常に良好な成績が得られました。この方法は現在、製造承認と保険収載の準備を行っているところでございます。
 このアテロコラーゲンに関して、ちょっとご説明させていただきますと、今まで培養に使用されたコラーゲンにはたくさんの種類がございますけれども、アテロコラーゲンが唯一、その時代に人に使われているコラーゲンでした。したがいまして、そのアテロコラーゲンの中でヒトの軟骨細胞が増えるのかどうかという実験を行いまして、十分増えるということを確認した後に臨床応用いたしました。このアテロコラーゲンというのは、抗原性のあるテロペプタイドという部分を除去しており、美容外科の領域ではもうかなり使われているコラーゲンでして、安全性が担保されていました。我々自身、人工の神経の素材として1987年動物に使用した経験がありましたので、このコラーゲンを使おうということになりました。アテロコラーゲンそのものは既にしわとりコラーゲンとして臨床応用されておりまして、これそのものには新規性は全くございません。
 このアテロコラーゲンの中にヒトの軟骨細胞を入れて培養して、これがスカフォールド、足場として認可されるということになるかもわかりません。ある一定の条件、例えば濃度5〜7%では認可される可能性がありますけれども、濃度9%で同じような方法で別のパテントが申請された際には、無効といいますか、どういうふうになるのかというようなところが私自身はちょっとわかりません。
 したがいまして、アテロコラーゲンを用いる治療法として細胞の足場として使用し、治療ということでパテントがとれれば、パテントの領域をもう少し広くカバーできるのではないかと考えられます。
 続きまして、今現在やっております磁場を利用した軟骨再生治療ということをお話しさせていただきます。
 今までお話しした方法も臨床成績は非常に良好ですけれども、皮膚を大きく開けないといけないという欠点があります。最も簡便な方法は細胞を注射で注入する方法であり、皮膚切開は不要です。軟骨欠損があった場合に注射注入で治療しようとして実験を重ねております。注射された細胞の一部は、確かに欠損部に集まって治癒に働くということがわかりましたけれども、残りの細胞は正常な部分に広がり瘢痕を形成するということもわかりました。したがいまして、理想的には必要な部分に必要な数だけ持っていく、少量なものを注射して、欠損部に集積させ、正常な部分には細胞は広がらないのが一番理想的であります。
 この方法を考える上で、2つの方法があり、1つは骨髄の間葉系の幹細胞、幹の細胞の表面抗原を利用して、ここに磁気ビーズ、すなわち小さなナノレベルの鉄粉ですけれども、鉄粉をつけた場合と、もう一つ鉄粉を細胞に貪食をさせる、つまり鉄粉を食べさせる方法です。この鉄粉は、既にMRIで人に利用されている鉄粉であります。この食べさせた鉄粉も48時間ぐらいたつと細胞は放出していきます。こういう方法で細胞、磁気ビーズ化複合体というのを作っていくわけです。
 まず外磁場を用いた細胞デリバリーシステムというのをご紹介させていただきます。
 ここに欠損があった場合に外磁場、磁場を発生させる装置で、磁気がこの欠損部分に強く集まるようにしておきます。その上で、この磁気ビーズのついた細胞を関節注入いたします。そうすると、磁場によって、欠損部分に細胞がたくさん集まって、最終的には良好な修復が起こる。しかも、正常な部分には瘢痕形成がないということが期待されるのではないかと考えました。
 実際に新しい磁場の発生装置を製造していただきました。
 このマグネットのパワーですけれども、ご覧のように30cm離れた部分から鉄製のクリップを引きつけることができる程、極めて強力な磁場を発生させることができるわけです。
 このビデオは磁気ビーズでラベルされた細胞を注入いたしておりますけれども、磁場がありませんので、鉄を含んでいるせいで茶色く見える細胞は垂直に落下しています。一方このビデオでは磁場をこの方向にかけておりますので、フラスコの中で、細胞が磁力で引っ張られて、落下方向を変えています。装置で細胞の行く方向をコントロールすることができるということになります。
 これは豚の膝を内視鏡で見ている、関節鏡の像ですけれども、磁場がない場合は細胞を打っても生理食塩水の中ですぐに拡散します。ここの部分が欠損を人工的に作った部分です。この欠損部分に細胞を固着させたいわけですけれども、磁場のない状態ですと中で拡散してしまい、細胞を欠損部にくっつけることはできません。
 磁場をかけて打ちますと、ビデオのように細胞が欠損部に集積していきます。しかも、磁場をかけた状態で1時間ほど置いておきますと、生物学的にくっつきますので、磁場をはずしても細胞はくっついた状態を保ちます。この方法で必要なところに自由に細胞を持っていくことが十分できるのではないかというふうに思います。現在この実験を積み重ねております。
 自分で言うのも何ですが、この方法は非常に低侵襲的ということで高く評価されこの3年間に21回、国外で招待講演を行いました。ところが、細胞に磁気ビーズで標識する方法というのは、もう既にパテントがありまして、細胞集団をより分ける方法として、すでに一般的な方法です。スライドの様に表面マーカーのCD133に細胞を磁気ビーズでくっつけて、より分けてCD133陽性細胞群だけを取り出す方法というのは発表済みです。
 ところが、パテントとして考えた場合に、この治療方法において細胞に磁気ビーズを標識する方法はもう既に特許として押さえられておりますし、磁場の発生装置も全く新規性はありません。しかし、治療法そのものに関しては、これは全く新しいものであるということは言えます。したがって、治療法そのものがパテントとして認可されれば、非常に臨床家としても、夢が広がるのではないかと思っております。
 これが最後のスライドです。軟骨の再生医療において、治療技術あるいは医療に関する技術が特許として認可されれば望ましいと考えられる事例を述べさせていただきました。特許関係のプロの方の目から見ると、物質での特許の取得が可能かもしれませんけれども、その方法は再生医療に携わる通常の私たち臨床家の医師の視点からは極めてわかりにくいものだろうと思います。
 臨床医というのは、スライドにありますように、新規の物質を用いた再生医療における臨床応用のハードルは極めて高いので、できれば他の領域で臨床応用されている材料を組み合わせて、新しい再生医療というのを目指しているというのが実情で最も臨床応用の近道だろうと思っています。この意味からも、医療行為に対する特許が認められていると、特許申請が非常に行いやすいのではないかということで、ご紹介させていただきました。
 以上です。ありがとうございます。
○金澤委員長 どうもありがとうございました。
 後で自由討議はしていただきますが、今の先生のプレゼンテーションに、スペシフィックなご質問などありましたら。よろしいですか。それでは、後でまとめてご議論いただきましょう。どうもありがとうございました。
 それでは続きまして、岡野栄之教授からお話を伺いたいと思いますが、資料は2になるかと思います。
○岡野栄之慶應義塾大学医学部教授 慶應大学の岡野です。どうぞよろしくお願いいたします。
 私は基礎研究者です。臨床の研究者と同時に、我々の基礎研究成果を何とか臨床の現場に持っていきたいと考えまして、このような緊密な共同研究をしております。
 その過程で、色々な知財に、これは出願できる可能性があるものに関しましては積極的に出願しておりますが、越智先生のおっしゃるとおり、確かに医療行為そのものに関して相当の工夫をしていると。そこに関しまして、知財というものが現状ではなかなか難しいがゆえに、特殊な出願計画を行ってきたといったことに関してお話ししたいと思います。たまたま今日、私の審査をしてくださいました田村様がいらっしゃいますので、なかなかいいディスカッションができるのではないかと思います。
 この「傷付いた脳は蘇るのか?」ということで、これを命題に我々は何とか、よみがえらないと言われた脳を何とか科学の力を使ってよみがえらせようと、それはまさにこの幹細胞生物学の重要な使命と考えております。
 中枢神経系にも幹細胞がございまして、非常に再生しづらいと思われていますが、なぜしづらいと思われているかというのは、もうこの神経系における非常に重要な機能をしています神経細胞ニューロン、この細胞が分裂能が無いために、これが何らかの病気や事故で失われるともう再生しないと思われていたわけですけれども、これを作るもとの細胞、この神経幹細胞は増殖能力がありますので、ここからもう一度作ってやればよみがえらせることができるだろうというのが重要なコンセプトであります。
 そこで、この神経幹細胞に関しまして、ここ15年ぐらいの間に非常に研究の進展がございました。それは中枢神経系の中で、神経幹細胞の非常に重要なマーカー分子が開発されたということでありまして、一つは我々が見いだしてきました「Musashi」というRNA結合タンパク質です。これを使いまして、我々は成体の脳におきまして神経幹細胞が、これは大人ですね、成人です。神経幹細胞が存在するということを世界で先駆けて報告いたしました。このとき、まだ知財戦略云々というのが、我々のいただいているJSTでもそれほど、まだまだ言われていませんでしたので、これは後から気づいて出しておけばよかったということで、ちょっとこれはもう手遅れ、これ自身は出しておりませんが、その後こういったような細胞を有名なGFPを使って生け捕りにするという技術に関しましては、特許出願を行ってまいりましたし、色々な企業にライセンスアウトしてまいりました。これを使って神経幹細胞を生きたまま同定し、分離する技術が開発されました。
 一方、この細胞を選択的に培養する技術が、1992年にサミュエル・ワイスというカルガリー大学のグループがサイエンス誌に報告いたしております。これは無血清培地でEGFあるいはFGF2という増殖因子存在下でこのように、マリモのような細胞塊、Neurosphereと名づけますが、これを使って増殖するという技術です。
 これと同時に彼らは特許を出していまして、これを使うと色々な再生医療に使えるかもしれないというのが書いてありまして、これはあらゆる出願に関しまして後願排除となっていまして、これがあるがゆえに、その後の特許がいかに大変になるかということなんですが、色々な側面から、この幹細胞を増殖させるとか分離するということに関しましては、相当色々な特許出願というものが張りめぐらされております。ここにさらに新たな風を入れるというのは、相当な大きいブレークスルーが必要となります。
 それを覚悟で我々は研究しているわけでありますが、一方、医療関連技術の特許保護についての検討事項でありますが、治療法に関する特許について、そしてiPS細胞に関して、これはES細胞と似ているがゆえに、どこを今後考えていくべきか。あと画像診断技術について、これで時間のある限り、ちょっとお話ししたいと思います。
 治療法に関しましては、これまで例えば脊髄損傷に関しましては、損傷後、数日以内を我々は急性期と呼んでいます。それから数週間以内を亜急性期、そしてそれ以上を慢性期と呼んでおりますが、このように、怪我をしてからどれぐらい時間がたつかによって治療法が変わってくるということが明らかになりました。というのは、急性期の間は炎症が非常に強いということから、この炎症を抑える薬がこの時期に非常に治療効果があるということで、今年中外から認可されました抗IL−6受容体抗体、そして現在、我々前臨床研究をやっていますHGF、これが急性期において非常に治療効果があるということを既に動物実験、前臨床研究で明らかにしております。
 治療法に関しまして、これはなかなか、物質特許としては、もう既にそれぞれの会社が出していますので、治療法に関しまして、HGFに関しましてはちょっともう日本で難しいということもありましたので、いきなりこれは米国に出願いたしました。
 それから、さらに炎症が終わってしばらくしてから、しかも慢性期になりますと瘢痕組織は非常に激しくなりますので、損傷後9日目に移植するという治療法が一番治療効果が上がるということを我々基礎研究で明らかにいたしました。これ自身は非常に、引用回数が大きい論文になりましたけれども、これで特許をどういうふうにして取っていくかといったことに関しまして、ちょっとこれまで行ってきたことについてお話ししたいと思います。
 それから、さらにこの亜急性期から慢性期にかけまして、軸索を再生させるということで、Semaphorin 3A inhibitor、これは大日本住友製薬との共同で、これの物質特許を取っております。さらに、グリア瘢痕ができてくるわけです。グリア瘢痕を酵素学的に分解するコンドロイチナーゼABCというような要素、これに関しまして物質特許は生化学工業社が取っております。やはり、これに関する治療法がとれないというのが現状でありますが、では細胞治療をどう考えるかということなんですが、抗IL−6受容体、HGF、Semaphorin 3A 阻害剤、C−ABC、これは薬剤でありますので物質特許も取れますし、当然用途特許も取れます。
 一方、では神経幹細胞を使った細胞治療、これはどうやって特許を取るかということなんですけれども、当然、亜急性期において神経幹細胞を行うというのは、我々の重要なファインディングで、非常に論文も物すごい数を引用されている研究なんですけれども、特許としては残念ながら成立していないということで、ちょっと作戦を練りまして、脊髄再生治療薬としての神経幹細胞として出願しようということでやりましたが、ここは田村さんと何回もやりとりしまして、何回も拒絶理由と書かされて、そのたび落ち込みましたけれども、何とか色々考えまして、神経幹細胞自身の調整は、今言ったサミュエル・ワイス、米国特許、6497872、それからカーペンター、この2つの特許がありますので、要するに、脊髄再生治療薬としての神経幹細胞、この調整法はもう既にあるじゃないかと。だから、取れませんよと。非常にシンプルな理由だったんですけれども、彼らが書いている後願排除の中で、我々の中で新たな幾つかファインディングがありました。それは脊髄からとってきているといった、色々なところがあって、特殊な条件でやっているということで、非常にそこを突きまして何とか特許をついに取ることができました。
 全くこの方法で米国にPCT出願していますので、治療法として出していませんので、アメリカの特許出願で全く同じことを言いまして、これとどこが進歩性があるのかということで、今ちょっとPCT出願しているから非常に苦労をしているところがあります。ですから、最初から治療法という形でもし出せたら、そのままPCTで行けば、アメリカのやつもすっと行けたと思うんですけれども、そこら辺がこういったようなところがあると、あったというところが現状であります。
 ただ、こういったような形で、細胞そのものの調整法がもう既にあるとき、要するに薬剤としての、こういう作用を示すことを特徴とする神経幹細胞という形で、極めて特許が取りにくくなっているということで、細胞治療による知財戦略がかなり難しいというのが、私がここ数年で感じたところでございます。
 同じことはiPS細胞についても言えるんではないかと思っております。この多能性細胞でありますES細胞が万能細胞であるという、非常に有益であるという理由は、これは皆さん釈迦に説法でありますが、こういうふうにES細胞としての性質を持って、こういうふうに無限に増えるということと、体を構成するES細胞から神経細胞、それから心筋の細胞、そして内肺葉の細胞と、色々な細胞を作ることができるという、色々な特徴がございます。
 ヒトのES細胞に関しましては、ジェームス・トムソンが既に樹立しまして、色々な細胞への再生医療の応用がもう既に、このように言われています。このように言われていますので、こういったようなことをたとえこれで証明しても、もう公知の事実であるという範疇を超えるのは極めて難しくなっております。
 一方、ES細胞の臨床応用における問題点としましては、この倫理的問題、「生命の萌芽」であります初期胚を壊すということと免疫学的拒絶反応をするということであります。この2つをクリアするのが、いわゆるiPS細胞技術でありまして、これは少し入門的なスライドも入れてほしいというご要望がありましたので、知っている方に関しては全く聞く必要はございませんが、このように山中先生たちの研究によりまして、体細胞を4つの転写因子を導入することによって、ES細胞類似の細胞を作ったと。これはInduced pluripotent stem sellといったことで、これがマウスのiPS細胞で樹立されました。
 これを使いまして、これが結局、自分自身への細胞を移植する、自己移植を可能とします多能性幹細胞を可能とするということと、このiPS細胞を使うことによって、それぞれの病気の細胞の試験管の中で調節することができますので、病気の原因解明、薬効、副作用の評価をすることができると、こういう2つのすぐれた面が出てきます。
 これが知財戦略的に非常に宝庫になる可能性がありますが、ただiPS細胞の技術のすごいところとしては、このような発生学の常識を打破しているという点と、医療応用をこのような細胞治療、そして疾患モデル細胞ということで、このような学術的にも医療応用としても非常に利用価値のある技術であります。
 我々が目指していますのは、そこで患者さんから皮膚細胞からiPS細胞を樹立しまして、神経系の細胞へ誘導して、自分自身へ戻してあげるという、このような理想的な治療法を開発するということでありますが、それぞれのエレメントについて研究を進めてまいりました。
 iPS細胞から神経系の細胞に関してなんですけれども、ES細胞から我々神経系の細胞への誘導法はもう既に確立してまいりました。検討しますと、結果として、iPS細胞とES細胞の神経・分化の方法は全く同じ方法でいくということがわかりました。結構、これは時間を費やしまして、ここは容易に想像できると言われるとちょっとつらいところでありますけれども、結構やらない、やってみて初めてわかったというところでありまして、そこが研究者サイドと審査される方の、また今後ディスカッションがあるかと思います。
 一方、容易に想像できると言われてしまう根拠としまして、自分自身の特許があるわけです。もう既にES細胞から神経幹細胞、運動ニューロンの誘導法で、もう既に私は特許を既にとっております。これでES細胞とiPS細胞が非常に性質が似ている。一方、ES細胞についてはこのような公知の事実がある。よって、iPS細胞から神経系の細胞を誘導できるのは、これは容易に想像ができるというような拒絶理由が今にも来そうだというのがありまして、そこでまた考えまして、どのように考え方か、ちょっとまだこれは特許は公開していませんので、今日は言えませんけれども、色々違う点を明らかにして、またそこをねらった特許としております。
 一方、治療効果でありますけれども、このように、これは青でお示しししたのがiPS細胞由来の神経前駆細胞で、赤がES細胞由来の神経前駆細胞、非常に治療効果は似ております。どんな感じかといいますと、これは治療していない分でありまして、このように足を引きずって、損傷49日目でありますけれども、このように足を引きずっています。ところが、ES細胞由来の神経前駆細胞を移植しますと、このようにすたすたと歩けるようになります。iPS細胞を入れても同じ治療効果であります。
 よって、iPS細胞由来の神経前駆細胞は、適切なiPS細胞クローンを選択することによって安全性を担保でき、ES細胞由来の神経前駆細胞と同様の治療効果を示すことができるということでございます。
 この文書はあまり言いますと、ちょっと我々の新規性、進歩性というのが大分行間にありますからあまり言えませんけれども、そこで違いを見つけてねらっていくしかないというところでございます。
 それから、iPS細胞に関します特許としまして、ご存じのとおり京都大学のiPS細胞作成法について、国際特許から日本へ移行しまして、特許出願が2006年12月6日に行われました。この出願に基づきまして、慶應義塾大学と京都大学が幾つかの共同特許出願を行いました。これに関してはまだ公開されていませんので、ちょっと内容については失礼させていただきますが、結局簡単に言いますと、ES細胞とiPS細胞の違いをねらった出願をやっていったということでございますが、一方、この京都大学の特願、分割出願に関しまして、3カ国で国内で特許で出願されるに至りました。
 ちょっとこれは切れてしまいましたけれども、これはプリントにありませんので少し申し上げますと、大事なのは、このように4因子を使って樹立するという樹立法に関して今回認められたということと、そのiPS細胞そのものであるということであります。このようにOct4、Klf4、C-Myc及びSox2を体細胞に導入する工程を含む方法、そしてこの方法で製造されたiPS細胞というものが、これに関して認められたということであります。
 一方、これを使った治療法というのが今のところ、今の規則だと、これは知財として保護の対象外となりますが、先ほど申し上げましたように、iPS細胞とES細胞は非常に似たところがあります。ですから、ES細胞で既にわかっていることをiPS細胞でやったとしましても、非常に難しくなってくる。ところが、治療法でiPS細胞を使って新たにやれることはいっぱい出てくると思います。それについてどう考えるかといったことに関しましては、今後非常に重要な課題かと。ですから、非常にiPS細胞に関しまして注目されていますけれども、知財戦略というものも、かなり考えていくといいのではないかと思っています。
 最後に、画像診断技術の特許についてでございますけれども、幾つかこれに関しましてもMRIベースのやつ、それから色々な機械そのものを使った診断法、診断法そのものはなかなか保護しにくいということでございますけれども、どんなことができるようになったかということで、若干読みますと、拡散テンソルMRIという方法がありまして、これにつきまして、これを使いまして生体内におけます神経軸索、この軸索の走向を見る方法で神経系の可視化技術を我々は構築してきました。Diffusion Tensor Imagingそのものに関しましては、もう既に先行技術がありますが、それを組み合わせまして、これは別に容易じゃなかったんですけれども、本当にこのように脊髄の繊維の上下加工をする繊維をこのように可視化する技術を開発いたしました。
 これはもう既に原著論文となっておりますので、これに関しまして、もう既に30条適用も既に切れていますので、これについて特に我々は特許出願をする予定はありません。しかしながら、こういった方法はどういうことに使えるかということについてお話ししますと、これは脊髄損傷です。こちら側だけ損傷した猿でありますが、こちら側はこのようにインタクトです。これは今までのMRIですけれども、この方法を使いますと、このように繊維がここで途切れているというのは、動物を生きた状態でこのように見ることができます。
 そうしますと、この方法を使いますと、このように損傷後、2週間後、4週間後、15週間後と同一の動物を使いながら、リアルタイムにこのように軸索はどのように伸びていくかといったことを見ることができまして、さらにそれと症状を対応させることができます。
 さらにこの方法は、ヒトの患者さんに対しまして、倫理委員会の承認を得まして、普通の1.5テスラのMRIでやっていますけれども、このように軸索の繊維を脊髄を通って軸索をこのように可視化することができまして、これはまさに今言いましたように、同じ患者さんに対してずっとやりますので、非常に重要な診断技術として使えることができます。しかしながら、これは、かなり色々な医学系と工学系の相当かなり融合研究として英知の結集としてやっておりますが、残念ながら今のところこれを知財として保護することは難しいという現状であります。
 さらに、これはまだ論文等で未発表ですので、今日はちょっと取り扱いにご注意いただきたいんですけれども、また我々は神経の髄鞘ですね、ミエリンそのものを可視化する方法、これはQSIという方法で成体における、ある物質が占めている大きさというものを評価する方法によって、神経軸索の髄鞘を可視化する技術に成功いたしました。これはQSIという方法でありまして、これまでのMRIと同じマシーンででてきまして、このように、これはミエリンの組織染色ですけれども、これは全く同じように髄鞘をミエリンの巻いているところをこのように動物が生きた状態で、このようにミエリンの状態を見る、可視化する方法に成功いたしました。
 これを使いますと、本当に脳梗塞ですとか多発性硬化症など多くの疾患の診断はもちろんのこと、治療法、予後の判定、そして創薬の開発のその応用範囲ははかり知れないというものでありまして、これに関しましても、こういったような画像技術というのは今後かなり我が国が非常に強いところでありますので、これに関しましても何らかの形で我々は知財にしていきたいと思いますけれども、ちょっと我々としましては、どうやって知財として出していくか、なかなか難しいので、今日は皆様にお教えいただきたいと思っております。
 以上でございます。どうもありがとうございました。
○金澤委員長 どうもありがとうございました。
 先ほど申しましたように、自由討論は後にいたしますが、スペシフィックなご質問などありましたら。よろしいでしょうか。それでは岡野先生、どうもありがとうございました。後でまたディスカッションに加わってください。それでは、もう一方の岡野先生でございますが、東京女子医科大学の岡野光夫先生に資料3でご説明をいただきたいと思います。よろしくお願いします。
○岡野光夫東京女子医科大学先端生命医科学研究所所長・教授 ただいまご紹介いただきました東京女子医大の岡野です。よろしくお願いいたします。
 私が今日お話ししたいのは、ちょっとこれは今日つけ足したもので、今ありますこの低分子の医薬品というのは、これは20世紀に確立されたフィールドで、同じ物質を大量に作るという時代から、薬事法で支配されて規制できて、順調に発展してきて、そこに培養医薬が出てきて、今度、遺伝子、細胞、組織が使える対症療法から根本治療の時代に21世紀は移っていかなければならない時代になっています。
 ところが問題は、今薬事法でここをコントロールしているんですが、かつて自分たちで使った法律のために、この全く新しいコンセプトでやらなければいけないところに、必ずしも薬事法で対応できないために、今幾つかの齟齬が生じておりまして、そのあたりがこれからどういう形で、未来のためのテクノロジーをどういうふうに作っていくかという観点で考えていかなければいけない新しい局面を迎えております。
 その中で、今、慶應の岡野教授から細胞医薬のこの辺の話がありましたが、私はさらにこの細胞組織となりますと、この辺の組織工学とかこういうバイオマテリアルとか、全く新しいテクノロジーと一体化させてスタート、発展させなければならないような、そういうフィールドについて、これから少しお話ししたいと思います。
 細胞を培養した後、培養皿から取り出すという方法は全くなかったわけで、今まではこの酵素処理というのをやって取り出しておりました。この酵素処理は、ここに細胞がついているインテグリンを介した、接着タンパクというのがございますが、このタンパクを破壊してはがすという方法だったんですが、私たちはここにナノテクノロジーを導入しまして、温度で親水性から疎水性に変化するような表面、そういうのを作りますと、これは細胞が細胞の接着タンパクを残して、そしてこのジャンクションプロテンを残してはがせる、まさに構造と機能を保持する細胞シートが作れると。
 このものは特許でとれるわけでありますが、こういう構造と機能の保持をすることによって、今までできなかった治療ができるということで、そのできなかった治療に関して、特許はとれないというのが、幾つか問題があるので、その辺をちょっとご指摘していきたいと思うんです。
 私たちのコンセプトなんですが、こういう表面に20ナノメートルの分子が入っております。これは温度を下げますと、水和して親水性に変化します。これをまた37℃にしますと、また疎水性になるという、親水・疎水を可逆的に変化させるような表面に、37℃では疎水性になっていますので、シーディングした細胞がシート化します。これは温度を下げますと、この細胞のシートが破壊されることなく、ここから脱離してくるわけです。この細胞シートというのは、もう全くジャンクションがしっかりしているのと、ここのタンパクがあるという2つのポイントで非常におもしろいシートだというふうに考えております。
 実際に治療の具体例をお話ししますと、これの話が少しわかりやすいので、今口の口腔粘膜を2ミリとりまして、これで細胞のシートを作ります。この細胞のシートを37℃に落として、そしてこのステムセルの折損した角膜の上皮の、ステムセルを欠損した患者に張りつけて治療するということを今やっています。2平方ミリメートルの細胞を2週間培養して、ここに37℃から常温に戻していきます。そうすると、こういうふうに細胞シートがとれるわけであります。この細胞シートが切れないようにするために、こういうドーナツ型の支持膜を乗せて、そして温度を下げるとこういうように、細胞のシートがきれいにとれるわけであります。
 このとれた後に、こういう角膜のステムセルの欠損した患者の目を外科的にとってしまい、濁っていますので、結膜というのが入っていて、この濁った目をこういうふうに外科的に切開してしまいます。そうしますと、患者の中身はちゃんとしていて、表面が曇りガラスみたいになっちゃっているために見えなかった患者にとっては、透明ガラスにまた張りかえることができるわけで、こういうふうに外科的に切って、そして切った後に細胞シートを張りつけてしまう。この張りつけるのは糸で縫うことなく、通常角膜を移植するときは糸で縫ったりするんですが、こういうふうに上皮をはがした後に、今ここでとってきた、この細胞膜のシートをこの上に単に張りつけちゃうということで治療ができるわけでございます。
 ちょっとビデオが長くなっちゃっていますが、この上に今の細胞シートを乗せて、全然そのままで張りついてしまいます。それで治療完成でございます。今細胞シートを持ってきていますが、この目の上に張りつけてしまう。ですから、まるでテープを張るように乗っける。でもこの手術自身は、治療法は特許になりませんので、ですから、細胞シートがせっかくできて、特殊なこういう、今までできなかったようなことができるというものに関しては、治療法としては特許にならないということであります。
 今お見せしましたように、濁った目が透明な目に変えていける。現在、私たちは日本がちょっとなかなか、治験がスタートするのが確認申請制度というので、ちょっと非常に世界でも厳しい制度がありまして、なかなか治験が始められないんですが、フランス政府は、これは革命的な技術だというので、フランスがバックアップしてくれまして、フランスのリヨン国立病院のほうで今治験を開始しております。2007年9月より治験を開始して、現在16名の患者を治しております。非常にきれいに治せるということで、既にEMEAという欧州のほうの、こちらとフランスのアフサップスというところでやっているんですが、フランスの認証の後をにらんで、今欧州のEMEAというところと相談が開始されております。
 私たちは今、ごらんいただきましたように、一層の細胞シート、あるいはこれをちょっと多層にしたようなものを作って張りつけるようなので、角膜以外に、この歯根膜というのを張りつけられます。歯の周りに骨が再生してきまして、歯が抜けないようにできる。それから、食道がんのときに、食道がんを内視鏡でとって、ほうっておくと狭窄というのが起きちゃう。そのときに、口の粘膜細胞を張りつけておくと狭窄が起きないのと同時に、治癒が起きてしまいますので、今まで1カ月半とか2カ月入院していたのが、二、三日で退院できちゃうというような画期的な方法ができまして、これはもう既に女子医大の消化器の外科のグループで始めております。それ以外に肺とか皮膚とか、それから心臓は骨格筋の細胞をこの上に張りつけて、心臓移植でしか治せなかった患者を治したという例が去年出てきました。
 こういうように、色々な方法あるいは違う細胞同士、この接着タンパクがあるために、細胞間にコミュニケートができて、こういう肝臓なんかも小さな部分肝臓を皮下に作る等、色々なものができる可能性が出てきているんですが、細胞シートまではとれるんですが、治療に関しては特許が取れないという現状であります。
 少し振り返ってみて我が国の現状なんですが、アメリカは治療の先進医療機器で見てみますと、輸出が青なんですが、輸出のほうが輸入に対して大きいため黒字になっております。ところが、我が国は輸出が圧倒的に輸入より小さくなっています。したがいまして、少しずつ輸出は増えているものの、輸入のほうがもっと増えているために、赤字がどんどん拡大しているというフィールドでございます。ペースメーカーは全く輸出が、作れない。我が国では作れないと。それから人工弁も我が国では作れないと。それから、ステントも一部テルモで作り始めておりますが、殆ど輸入というような状況になって全く医療産業が育っておりません。
 これは幾つかの問題がありまして、ここについてちょっと今日は先生方にご議論をしていただきたいわけでありますが、私はこの患者を治すということ、この医療が医療で完結していることで、日本は今のようなテクノロジーが医療の中に持ち込まれない、ここに現在治すことのできない疾患を治すための、新治療の追究をハイテクを導入してやるというフィールドが日本は全く欠けてきてしまったわけであります。ですから、物が特許でとれる。これは物が特許で取れるところまではやるんですが、これを治療に使うところまで医工が、連携してやるというところがシステム的に欠落している問題があります。
 医療のほうでは、外科医が今までできない治療をやるために、自分がスーパーマンになることを目指すわけです。神の手を目指しますから、その先生は上手になってやれるんですが、1年に200例の患者を手術しても、10年で2,000人しか治せない。その先生と同じことを治療のハイテクをバックにしたようなハイテクを利用したら、例えば神経が30年たった人がぱっと見えるようなものが、ちょっとUVランプを当てるだけで見えたり、装置を使うことによって、外科10年の先生が30年の先生と同じことができるようになればいいわけですが、欧米はどんどん医療革命が今起きて、まさに産業革命とも言うべきフィールドが出てきているのに、日本は依然、こういうところに手当てできていないために、新しい治療ができておりません。事実、ロボット手術なんかは世界では数千、8,000とか9,000例が行われているのに対して、日本は殆どできないという国になってしまっているわけです。
 ですから、工学的な治療技術を多くの外科医へ提供する。いつも同じように多くの患者を効果的に治すということに向けて、我が国は何らかの手を打たなければならない現状にあるわけです。私はここにあります、プリントのほうはちゃんとしていると思います。特許が投資となっていますが、アカデミックからインダストリーにテクノロジーを渡していくようなフィールド。このテクノロジーとセラピーが一体になるような医工連携、これを促進するためにも、正常に投資が行われる社会にしていかなければいけない。そのためには、医療技術にテクノロジーが入ってこないのを、これは産業が動かない、他分野から支援が得られない、融合領域が停滞しているということで、この治療のブレークスルーを起こすためにも何らかの手を打たなければならないんですが、特許は一つの刺激策、これは特許がすべてとは言いませんが、特許が一つの刺激策だというふうに考えております。
 現在、トランスレーショナルということで、種があって双葉を出させて、それで大きく木を育てて、そして実をならせて収穫するわけでありますが、今トランスレーショナルということで、ここの大きく育てる、大きく成長させるというところには何かお金がつくようになってきているんですが、依然種を作る、あるいは双葉を出させる、ここをいかにトランスレーショナルにつなげて実を作らせるかという、ここのプロセスが作られていかないと、我が国はこの間に大きな壁がございまして、種を最後の治療まで持ち込むというところを一気通貫的にやっていかないといけないんですが、種は種を作った人が種はもう作ったから、これで特許で終わりと。この双葉を出させて、そして成長させるという、ここで殆ど特許は取れませんから、ここをやり抜くインセンティブがなかなか我が国には育っておりません。
 そのために、せっかくいい種があるんですが、大きな木にして実をとらすというところができないために、ここは殆ど欧米にやられてしまっている。日本の医療が旧態として新しい時代に乗りおくれております。
 現在、我が国では色々な形で手が打たれております。私もこのPMDAの評議員をやっておりますが、審査官の増員、制度の見直しと、それから今度、スーパー特区というのが始まりました。それから、技術で多くを治すために先端医療技術の特許保護という、この問題についてここでも検討が始まっておりますが、これは大きな支援になるんじゃないか。それから今、トランスレーショナルの体制整備というのは木を育てていくところなんですが、ここは種を育てるということと一体になっていかないといけないと思いますので、単に木を育ててもアメリカから持ってきた種を育てても、やはりこの国としては力強くなっていかないので、日本で作った種で双葉を出させて、そこで育てていくという、その仕組みを作っていかなければならないときに、この治療法の特許というのは非常に大きな問題だろうというふうに私は思っております。医工連携、産学連携の仕組みづくりこそが重要だろうと思います。
 技術で多くの患者を治すことを促進させなければ、我が国だけが治らないという状況が起きることなく、現在アメリカでしか治らないとか、そういうところ、スポーツの選手なんかは、投手や何かはアメリカのほうでやはり治療を受けるようなことが多いわけで、それは日本人ができないんじゃなくて、やはりハイテクがタイムリーに医療の中に入っているアメリカではできるというような問題も多くあるわけです。
 先進医療の研究開発費の確保、産業サイドでの投資、これを促進する施策が絶対必要であります。それから、先進医療の促進と国際競争力強化、これは我が国だけ特殊な環境に置いておいて、せっかく優秀な日本の医師たちにやらせないことで、世界に負けることなくグローバル競争のできる仕組みづくりこそが重要だと思います。
 そういう観点で、特許の考え方は議論されなければならないと思います。医工連携の促進、工学は工学で、そこで出た特許はそこで完結してしまいますと、実際に患者を治すところまでいかないわけですね。日本がこれだけ電気とか機械とか、強い国で、世界に誇れるロボットとかいっぱいあるわけです。にもかかわらず医療のところまでいかないというのは、それぞれを完結して終わっちゃっているために、医学にタイムリーにテクノロジーが入り込んでいかないためだろうというふうに思います。
 だから、治験のためのインセンティブ、企業を育てるというところに大量のお金がかかりますので、そこをやり抜くためのインセンティブを色々な形で考えないと、やれやれと言っていてもやれないと。実際に事実、日本ではやっていないわけですが、なぜやっていないのかを本気で考えなければいけない時期が来ているんじゃないかというふうに思います。先端医療の情報化、特にこの普及、啓蒙、患者に見える治療。
 特許の点について、ちょっと私の私見を述べさせていただきたいと思います。
 現在、物質特許が取れて、治療特許というのは取れません。ですから、私の先ほどご紹介しました細胞シートというのは、細胞シートでは取れますが、新しい治療法がわかっても保護されない、それから移植する場所が何か特定されるような研究をやっても、これは特許がとれない。同じ治療でも、細胞シートの種類が異なれば、新たな特許出願をしていかなければならないという、物質特許だけですとこうなるんですが、私はこの物質特許プラスこの医療特許というのを加えることによって、医療特許で新規な治療方法が保護され物質特許との組み合わせで医療技術が十分に保護されるようになれば、新規な治療方法が活発に研究開発され、そして多くの患者を治せる、こういう技術を早くに一般化したものへ発展させていくことができるだろうというふうに考えております。
 ですから、アメリカではこの医療特許が認められているわけですが、日本でも物質特許プラス医療特許の成立をご検討いただければと思います。これは医師の単なる手術的な工夫を特許にするとかそういうことじゃなくて、産業化させていくことの重要性を認められるものについては、そういうことをやっていったらいいんじゃないかというふうに考えております。まさに今申し上げましたことは、細胞をとってきてシートにするという、ここまでは特許になるんですが、これを入れて、目を治したり、食道を治したり、様々な治療ができるのですが、それぞれは特許が取れないという問題であります。
 その一つの例なんですが、非常に潰瘍の大きい、やけど等瘢痕組織が大きいところは、大きく削ると従来の人工表皮というのはディスパーゼというので処理しているために、同じ細胞のシートのように見えるんですが、張りつきません。それから、感染にも弱いです。細胞間のジャンクションが切れていると。ところが、我々が開発したこの細胞シートというのは、すぐについて、そしてきれいに治せると。こういうことが、なかなか場所を特定していくようなことが出てきても、なかなか特許になっていかない。
 それから、肝臓はご存じのように2,000種類以上の重要なタンパクを作っております。どの一つが欠損しても、作れなくなっても重篤な病気になってしまいます。そのときに肝臓を丸ごと全部変えるんじゃなくて、皮下に肝臓を作っちゃえば治療できるんじゃないかというのが、私たちの考え方で、去年ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスンというところに、部分的に皮下に肝臓のシートを入れると、長期に生きられるというのを見つけられるわけですが、こういう異所の移植とか、こういう問題がなかなか今のままでは特許になっていきません。
 それから、FGFで処理したようなところにこの細胞シートを移植しますと、肝臓の細胞等はずっと生き続けるということで、ここにありますように、ずっとマウスの皮下に人間の、ヒューマンのアルファー1−アンチトリプシンというのが発現するような肝臓の細胞のシートを入れると、ずっとこれは300日ぐらい、これは70なり150日以上、半年以上ずっとこのタンパクがマウスの中に出てきております。ということは、血友病の患者を治すときに、凝固因子の8番とか9番が出るような肝臓の細胞シートを皮下に作れば血友病の患者は治せるんじゃないかというふうに私たちは思っていまして、様々な新しい治療法ができるわけでありますが、これに関してはこの細胞シートで特許で作って終わりということで、新しい治療法が作れない問題があります。
 ここにありますように、動静脈の上にこの細胞シートを乗せますと、この動静脈とつながります。つながった後にまた、大体拡散でこの細胞シートの生かせる厚さというのは大体100ミクロンぐらいなんですが、100ミクロン以上厚くしても、酸素、栄養分が入っていかないために、それ以上の厚いシートというのはできません。ところが、こういう血管、体の中に入れますと、この体の血管とつながって、そしてつながった後にまた次の酸素を入れるというふうにして、だんだん厚い、我々は今何ミリという厚い心筋の組織を作ることができます。そういうものを、心臓を全部丸ごと変えるんじゃなくて、心臓の悪い筋肉をとって、その筋肉をばっとはめて手術しちゃうような、そういうことも考えているんですが、そういう治療法に関しては特許ができない。まさに体の中で操作して、そしてこういう組織を厚くしていくような、こういうところは特許がなっていかないと。
 それから、先ほどから何件か越智先生が、磁気ビーズで細胞を集めるという話がありましたが、体の中で特異的な場所に外部刺激を与えて、そこだけ抗がん剤をきかせるとか、何か細胞にあるシグナルを送って、そこだけホルモンを出させるとか、そういうものは一切特許になりません。
 先端医療の実現とその一般化のための特許制度に関しては、この1番にありますように、治療効果を高める支援技術の開発促進のために特許権を認めるのを、私は提案したいと思います。医師の手技ではなく、多くの患者を治す技術の一般化に特許権を認めることが、極めて有効だろうというふうに思います。
 2番なんですが、審査基準を明確にし具体的事例を豊富にしながら、わかりやすい審査基準であれば、研究者でも技術を的確に保護することができるようになると思いますので、この2点について、ぜひご検討いただければと思います。
 以上です。どうもありがとうございました。
○金澤委員長 どうもありがとうございました。
 何かスペシフィックなご質問ございませんか。よろしいでしょうか。では、どうもありがとうございました。
 これで、お三方から具体的なことを含めてお話をいただきましたが、女子医大の岡野先生の後半の話はかなり大事なことで、後でまたディスカッションするとして、できればそれぞれの事例について、まずは皆さん方からお話をいただければと思いますが、どうでしょうか。どなたからでも結構ですけれども。どうぞ、永井先生。
○永井委員 女子医大の岡野先生にお伺いしたいのですが、フランスで治験なさるときに、知財の扱いというのはどうだったのでしょうか。
○岡野光夫東京女子医科大学先端生命医科学研究所所長・教授 アメリカは治療法が認められていますが、フランスは日本と米国の間のような感じになっています。実際には治療法としては認められておりません。ただ、運用が非常に患者にとって何が本当に有効かということで、日本ではあるものが決まりますと例外なく、それにきっちりと、厳しく、なかなか始まらないんですが、アメリカはやはりメリットの高い治療法に関しては、できるだけ早くに患者に届けるという、そちらの力も大きく働いていますので、リスクとベネフィットのバランスの考え方が非常にフレキシブルに、前へ向いたやり方で対応しているんじゃないかというふうに思っております。
 必ずしも特許法に関しては、アメリカのようにはなっておりませんが、日本とアメリカのちょうど間ぐらいの形になっているというふうにご理解いただければいいんじゃないかなと思います。
○永井委員 ありがとうございました。
○金澤委員長 ありがとうございました。
 他にいかがでしょうか。今のようなご質問でも結構ですが。どうぞ、渡辺さん。
○渡辺委員 非常に興味深いお話というか、画期的な技術によって医療が進歩していくという好例を見せていただきまして、どうもありがとうございました。
 3人の先生にお聞きしたいんですけれども、やはり、ただ細胞を戻すといっただけじゃなくて、場所もそうですし、他の治療法との組み合わせとか、今簡単に見えているけれども、本当は相当色々な工夫をされて治療法というのはでき上がってくるんじゃないかというふうに思うんですけれども、確かにここではなかなかおしゃべりになられるというのは難しいかもしれないんですけれども、単に戻すだけじゃないよというようなことも含めて、少し何かご苦労のほどをちょっとお伺いできたらありがたいなと思うんですけれども。
○金澤委員長 どうでしょうか。
○越智光夫広島大学病院病院長 それでは私のほうから。
 一番最初に述べさせていただきました3次元培養に関しては、やはりアテロコラーゲンを使うというところに着眼して、どのくらいの濃度が適切であるのか、あまり濃度が低ければゲル状になりませんし、あまり濃度が高ければ少し細胞が増殖しにくいという問題がありました。どの程度の濃度がいいのかという実験を積み重ねてきましたし、二番目に関しましては、我々臨床家が行う基礎研究ですから、臨床応用を見据えた研究ということになります。したがいまして、既にヒトに使われている、他の分野で臨床応用されているものを用いて組み合わすということになります。例えば磁気ビーズも鉄粉で、ナノパーティクルなんですけれども、既に肝臓のMRIで使われているマグネティックビーズを使用する。その他のものも臨床応用の実績があるものを使用するなどといった工夫を行ってまいりました。
○岡野栄之慶應義塾大学医学部教授 結局色々なパラメータを考えなければ、これは研究になりませんので、まず我々が考えていますのは、やはり細胞の種類ということですね。細胞治療をする場合は細胞の種類で、細胞の種類というのは起源ですね。起源はES細胞を使うかiPS細胞を使うか、それぞれの組織由来の幹細胞を使うか。組織由来の幹細胞だとすると、どれぐらいの発生段階にある組織からとってくるかということ、それをどうやって調整するか、試験管の中で増やすか、それともセルソータを使って集めるかと。そして、それを試験管の中で分化させるかと、さらにその細胞を個数はどれぐらい必要かとか、色々なパラメータを検討いたします。
 そして、細胞を導入する段になりまして、細胞をそのまま入れるかと、あるいは静脈注射するか、局所に入れるか、そしてその場合スキャホール、いわゆるティッシュエンジニアリングの方法を使うか。そして、女子医大の岡野先生のお話にありましたように、シートにして入れるかと、そこが非常に重要な点であります。
 そして、まずそういったきき目を検討するためにどのような、例えば脊髄損傷なら脊髄損傷でも、マウスのモデルを使うのかラットでいいか、それとも猿でやるとか、色々なことを組み合わせながらやっておりますので、いやこれは本当に色々やっていますので、簡単に容易に想像できるというと、本当にもう、悲しくなりますので、なかなか非常に色々なものを集約した結果として我々はやっていますので、これまでの、それはそれぞれのエレメントはこれまでの技術で出ていたものかもしれない。ただ、その組み合わせで色々やる過程というのは決して容易ではないということがありますので、そこら辺は多少ご理解いただくとありがたいかなと。
 そして、その組み合わせというものは、例えば2掛ける2だけじゃ少なくて、10掛ける10掛ける10ぐらいになりますと、その中でやって一番いいものを集めていくというのは、それぞれの自由なエレメントに関してはわかっていたとしますと、順列組み合わせたり物すごいものになりますので、そこは我々、研究者は非常に苦労しているところではないかと思います。
 そして、11、12という新しいやつを作っていくというのも同時にやっているというところがありまして、そういったような組み合わせで一番いい治療法を、そのときにベストな治療法を出していこうと、そのような努力をしているということです。
○金澤委員長 どうぞ。
○岡野光夫東京女子医科大学先端生命医科学研究所所長・教授 よろしいですか。
 私は、この細胞シートがとれるようになったのが、もう20年ぐらい前であります。その間、細胞シートをとれても、人に実際に治療にするためには、100%シートが切れないように、患者の目を手術してあってシートが届けられなかったら、これは手術になりませんので、その100%成功するようにシートをとって動かすということの中に、物すごいノウハウとテクノロジー結集がございます。
 ちょっとビデオを見ていただきましたが、ドーナツ型のああいう支持膜みたいなものを作って、あれも色々な材料を使って、それで一番きれいにはがれて、それであれがやぶれないようにして持っていって、それで張るという。張った後、どうやってあれが縫わないでぴしっとつくわけですが、ソフトコンタクトみたいなものを1日乗っけるとか、幾つかこういう、それを100%成功するためのテクノロジー結集ができて、1臨床までいくわけです。
 振り返って、物ができたら、例えば私はネイチャーとかサイエンスの論文を書くというので、日本の研究はみんな終わっちゃうわけですね。ところが、そこからの後がまさに、人のところまで行くところに物すごいエネルギーと頭脳、技術結集を行われないといけないんですが、そこは今、日本の医療の中ではあまり力を入れていかないフィールドでして、そのためにお金がまず動かない。まず1臨床やるためには、厚労省はCPCをつくって、GMP準拠でやれと言うんですが、これをやりますと膨大なお金がかかります。
 ところが、そこにそれをやるためのお金というのはなかなかとれないというのが現状でありまして、そうしますとやはり産業から資金が流れてこないと、なかなか1臨床を実行していくための研究のところがスタートしていけないということが、私が最も危惧しているところであります。
 ですから、日本にはいいテクノロジーがあるんですが、臨床のところまで持っていくまでのプロセスを、大学の中、それからこういう行政、規制の問題、特許の問題、色々な問題を総合的に、特許だけを見直すんじゃなくて、やはり私は規制の問題とも関連していまして、総合的に、もう一度見直しをかけるべき時代が来ているんじゃないかというふうに思います。
○金澤委員長 どうもありがとうございました。
 渡辺さん、今のどうでしょうか。
○渡辺委員 ありがとうございました。
○金澤委員長 色々なところに厚生省の話が出てきましたし、特許庁の話も出てきました。どこかでお答えいただこうと思いますけれども、とりあえずは委員の先生方から、何か。どうぞ、北川委員。
○北川委員 最後の皆さんのお考えの中で、結局この特許を取得する目的というのは、ある程度早い段階の基礎研究に研究費になり、要はインセンティブということは、そういう研究を促進するための研究費をとるということが主眼だと思うんですけれども、そうすると、前回の会議の席でも私申し上げましたとおり、どのステージまで行ったら、これが要するに回収のステージに上がるのかというと、やはり研究が終了したところではなくて、まさに産業として成立した段階であると。最後に、岡野先生がフランスへ行ってスピードを変えて早くやっているというのは、やはり最終的に回収が早いから、そこへ持っていっているわけですね。日本は圧倒的にそこが弱くて、ですから、特許と言っていますが、総合的にというふうにお話があったのは、まさに私も前回申し上げたように非常に同感で、この特許をここで押さえるとか、例えばアメリカの治療方法について特許を押さえていると言っていますが、ではそれがあったからといって、アメリカの基礎研究は、そのパテントでもってお金をがばがば研究日を取れているかというと、必ずしも私はそうではないと思うんですね。やはりそこから先、承認をとってものに出ていって、回収が早くなっているんだろうと想定しているんですけれども、そういう仕組みのところの中で、これはむしろ先生方のお伺いしたいのは、今私が言ったことが、まさにそういうことだということなのか。それともアメリカのように、まず治療の段階、治療方法みたいなものでパテントをとると、そこである程度、研究費が得られるような仕組みというのが別途あるのかどうかというところが、ちょっとお伺いしたいところなんですけれども。
○金澤委員長 どうぞ。
○岡野栄之慶應義塾大学医学部教授 後ほど女子医の岡野先生からもお話があると思いますけれども、やはり大事なのは、それぞれの医療行為に対して、それをやりにくくするための特許ではなくて、そのシステムを作るための医療であると。ということは非常に、これは大学でやるのは多分、非常に難病に対する先端医療というのは、まず一例目を成功させるということはすごく大事なことなんですけれども、それが一般医療になるところが、本当に産業というものがない限り、これはいかないわけで、その産業に対するインセンティブが、それは産業として成り立たないと。
 ですから、そういうところのインセンティブが入るような特許があれば、それぞれの臨床医のその臨床行為そのものを邪魔するというような、多分恐らく医師会の方が考えているような危惧は、恐らく除けるんじゃないかと思います。ですから、また議論する場合、そういったところを強調して、我々はこの問題をとらえていきたいなと思っております。
○金澤委員長 どうぞ。
○岡野光夫東京女子医科大学先端生命医科学研究所所長・教授 私、ちょっとヨーロッパのほうと最近始めて、今年も数回行ってきたんですが、ヨーロッパでは既に27カ国が1国で認可が取れると全部が取れるような仕組みがほぼでき上がってきております。
 それはどういうことかというと、ヨーロッパの患者は最もいいテクノロジーを最も早く届けられる、そういうコミュニティーにしたいんだというふうに言っていました。ということは、各国がドイツで取った認可が、またフランスが取ってとやっていくうちにお金もかかりますし、それから届けられる時間もかかってしまうので、いいテクノロジーが、いい治療法ができたら、それはいち早く患者に届けられる仕組み、しかもその中で安くできれば一番超したことはないと。
 その経済的な面が、先ほど北川さんのほうでは強調されましたが、私はむしろ、いい治療法が患者に、いち早く届けられる仕組みをどういうふうに作るという観点で考えるべきで、必ずしも産業が回収するという観点で、今日申し上げておりません。したがいまして、医学と工学が、これは必ずしも産業だけではなくて医工が連携するという新しい問題に関しましても、それを支援するような特許制度というのはあると思いますし、それを国として、やはり政策としてこれを支援して、新しい治療法を作って、日本の患者は早く治せるようにすると。しかも、クオリティーの高い治療ができるという観点で、むしろ考えるべきで、その中で産業がより早く入ってこれるべき課題に関しては、北川さんのご指摘のように、できるだけ産業をも支援する。それは産業を支援するということは、患者が早く治せてクオリティーの高い治療が届けられるという意味で、産業を支援するんであって、無謀に設けたり内外価格差でもうかるようなことをやると、そういう観点ではなくて、もうかるとかそういうことではなくて、いい治療が患者に届けられるという観点で、そこに貢献する産業はちゃんと支援していくというふうに考えたらいいんじゃないかというふうに思っております。
○金澤委員長 どうぞ。
○越智光夫広島大学病院病院長 私もそのとおりだと思うんですね。
 大きく考えて2つの考え方があって、1つはシステムとして、この医療に関する特許が認められたら、もう少し早く進む可能性があるんじゃないかという点と、さっきお話ししましたように、今の臨床家が幾つかの既存のものを組み合わせて、サムシングニューを創ったものに関して特許を認めていただければ、全く特許のことを考えておりません臨床家も、もう少しエネルギーを投入するのではないかと思います。今は医療特許が認められていない為、新しいものを思いついても、せいぜい論文にするだけで終わっています。
 しかし、今後日本でも医療特許というのが認められるということがわかれば、手術中や治療中にこの方法はどうだろうかと考え、知財の人と相談するようなことが起こってくる可能性があります。数多くいる臨床家のアイディアをより有効に利用すべきだろうと思っています。そういう2点からも、この特許は考えていただきたいというふうに思っています。
○金澤委員長 どうぞ、須田先生。
○須田委員 ちょっとあまり、自分の頭でも整理できていないんですが、先端医療というときに、岡野光夫先生が最初のスライドで示されたように、製薬、お薬を作るという時代から、これから細胞治療、組織治療になっていくと。先端医療の中でもペースメーカーを作るとか人工心臓弁を作るという、もう少し純粋に工学的なものとは違って、細胞組織といったときには、やはり今までの薬と大分違うところがあるというのも認識しておくべきだと思うんですね。
 それは一つは、対象が一気に最初から何万人、何十万人というのが対象ではなくて、今日の提示にもありましたように、殆どは自分の細胞をとってきて増やしてという、そういう医事法でもできるようなベースであったということが、一気には拡大しない理由だと思います。
 もう一つは、幾らHLを合わせようとして、大量にその組織を用意しようとしても、それは恐らく公共の機関、セルバンクみたいなものが動かない限りは、一企業が思い切り骨を多数集めますよといっても、それはちょっとコンセンサスでは成り立たないんじゃないかなというふうに思いますので、細胞治療あるいは組織治療というのは、先端医療の中でも、さらに特殊なものだという考え方が要るのかなというふうに思います。
 もっと言えば、やはり今、細胞治療の安全性ということから言うと、できるだけ細胞は試験管の中で操作を少なくしたほうがいいという考え方がありますね。さわればさわるほど危なくなるという危険性もあるので、そういった面がそう簡単に今までの薬事法の考えが入ってこないんだろうというふうに思います。
 この細胞治療の先駆者としては、輸血があり骨髄移植があるんですが、そこのときどういう特許が成立しているか見ていると、輸血そのものにかかったり、骨髄移植の技術というものにはかからないけれども、例えば細胞をとってきて、それをボールで遠心するという、ヘモネティクス社の何でもない遠心分離器が、あれは殆ど非常に高価な機械ですけれども、特許の塊のようなものだと思うんですね。
 それはちょうど、今日岡野光夫先生が言われたような、細胞分離というところでは細胞シートを使うと。これはもう完璧、ヘモネティクスに相当する技術だというふうに思われるんですが、なかなかそれを全部、細胞治療というプロセス全体にかけていくのは、やはり特許戦略としては難しいのではないかなというふうに思いました。
○金澤委員長 ありがとうございます。
 どうでしょうか。今のお話についてでも結構ですが。
 わかりました。では小泉さん、それから片倉さん。
○小泉委員 大変興味深いお話ありがとうございました。
 まず感想を一言申し述べさせていただきますと、これまで、お医者様のほうで治療方法の特許について消極的なご意見が強いということで、特許法では物の発明としていかに権利を取るかということをずっと工夫してきたわけですけれども、今日の3先生のお話では、物としての権利取得について、非常にわかりにくいとか、あるいは不十分だということで、方法特許を与えるべきではないかというようなご意見であり、非常に興味深いと思いました。
 ただ、これは今後の議論の問題ですので、本日のところはとりあえず事務局あるいは特許庁さんに、今日のお話の中にあった技術について、現状で、どの部分が特許が取れていて、取れなかったのか、確認しておきたいと思います。
 第1番目に、越智先生のスライドの29ページ、それから女子医大の岡野先生のスライドの20ページで、ある種共通している問題かと思ったのですが、細胞などの生化学的な手段と磁場の照射といったような物理的な手段の組み合わせ、こういうものに特許が成立するのか、これは物としてという意味だと思うんですけれども、このあたりはどうかという点がまず1つございます。
 第2番目に慶應の岡野先生のスライドの7ページにありました、投与等のタイミングですね。9日目でしたでしょうか、タイミングというのが用途発明として認められる余地があるのかという点があったように思います。
 それから、3番目には、これは慶應の岡野先生の5ページにありましたけれども、MRIを使った新しい技術ですが、従来、一般に、診断方法に当たると特許とされないとされてきました。測定方法ですと特許されるのですが、ただし、測定方法でも、人体への作用が伴うと特許できないということだったと思うんですけれども、今日ご紹介があったようなMRIの使い方というのは、現行の基準でどういうふうに考えるかのという点ですね。
 この3つについて、お答えいただければと思います。
○金澤委員長 ありがとうございました。大変大事なポイントを述べていただきました。
 とりあえず、この辺をきっかけに、特許庁の方々のご意見を伺いたいと思いますが、田村さん、どうぞ。
○特許庁田村審査基準室長 それでは、まず1点目のところでございますが、磁気ビーズで標識した細胞と磁場発生装置の組み合わせに特徴があるというような発明ということでございますが、特許法の場合は、技術思想を保護するという観点でございますので、その細胞をビーズで標識したところと、その磁場発生装置の組み合わせたところに技術的思想、特徴点があるということであれば、そこを特許保護をするということも可能であるかというふうに考えてございます。多分、書き方といたしましては、そういう細胞と装置を組み合わせたシステムというような形で記載するということがあり得るのではないかと思われます。
 あと2点目のところでございますが、慶應大学の岡野先生の9日目に脊髄損傷の患者さんに神経幹細胞を移植されるというタイミングの点でございますが、こちらにつきましては、移植する細胞に特に特徴がないようであれば、さらにあと移植するときに一緒に投与するような、薬品又は医薬品というものがもしあれば、例えばそういう細胞増殖因子のようなものを一緒に加えるとか、そんなところがあれば、その組み合わせで特徴を出して特許化することも可能でございますが、通常の細胞を移植するのと同じような形での移植ということになりますと、まさに外科手術の延長というような形になりますので、現行では方法的なところにしか特徴がないということで、特許化は難しいかなというふうに考えてございます。
 あと、同じ慶應大学の岡野先生から、MRIの可視化するような技術というところでございますが、ちょっと特徴点がまだよくわかってはございませんが、もしMRIの設定とかをうまく工夫されて可視化されたということであれば、作動方法として特許化することも可能かなと思われます。
 あと、このMRIで撮影する際に、何がしかの造影剤のようなものを使われているということであれば、その造影剤とこのMRIの装置の組み合わせ、こちらは先ほどの細胞と磁気発生装置の組み合わせと同じような形でのシステムとして特許化するということも可能かと思われます。
 あと、ご質問にはございませんでしたが、1点だけ補足させていただいてよろしいでしょうか。今日プレゼンテーションしていただいたご3名の先生方に共通した点でございますが、生体外での医療材料の製造方法、調整方法につきましては、前回の委員会でもご説明させていただきましたように、平成15年の基準改定以後は特許化が可能になってございますので、例えば越智先生の軟骨細胞をアテロコラーゲンのスカフォルドの上で培養するというようなものが生体外、すなわちインビトロ系で培養されるような技術ということでございましたら、そちらにつきましては医療材料の製造方法として、特許化が可能であるというふうに考えられます。
 あと、女子医大の岡野先生の細胞シートのほうにつきましても、生体外で医療材料としての細胞シートを製造するという技術でございましたら、そちらのほうも現在特許可能という形になってございます。
 あと、慶應大学の岡野先生の神経幹細胞なども、結局生体外で培養するというところに特徴があるような発明であれば、それも特許可能ということでございますので、現在特許庁で方法の発明で特許できないというのは、あくまでも生体内でそういう処置をするという、いわゆる外科的手術とか、そういうふうなものに近いものが、特許にならないということでございますので、その辺をご確認させていただきましたので、どうぞご議論にお役立ていただければと思います。
○金澤委員長 どうもありがとうございました。
 今「天の声」があったわけですけれども、お三方にそれぞれ声がかかりましたので、ご感想などを、越智先生あたりからどうですか。
○越智光夫広島大学病院病院長 最後のスライドにもちょっと書かせていただきましたが、本日お越しの特許のプロの方が先程のように明確に言っていただけると、そういうふうなパテントのとり方もあるのかなと、分かります。細胞と装置の組み合わせ、システムで特許が取れる可能性もあるかもしれませんが、ただ臨床家がいつもいつも、そのようなことを考えてやっているわけでもなく、またすぐそばに知財の方がいつもいるわけでない状態で臨床を行っています。この分かりにくいところを今からどういうふうに臨床家に啓蒙していくかわかりませんけれども、臨床家の殆どの人は、物質のシステムの組み合わせで特許が取れるとは、思っていない。それそのものが大きな問題じゃないかと思います。これがもし治療法に関する特許がとれますよというのが、ひとつ明確になれば、治療のパテントを考えられる方はたくさんいるんじゃないかと思っております。臨床家の力も国の為大いに利用すべきと考えます。
○金澤委員長 どうもありがとうございました。
 慶應の岡野先生どうですか。
○岡野栄之慶應義塾大学医学部教授 確かに田村先生おっしゃるとおりで、生体外での調整する方法に関してはお認めいただけるということがありましたので、恐らく我々のを通していただけたと私は理解しております。しかし、やはりそれを使って9日目に移植するという全部のプロセスになると難しいということになると思いますので、そこでやはりPCT出願すると、非常に特徴を出しづらいということになってしまいます。生体外の調整法だと、本当に少しずつ、色々な人が比較的類似な方法がありますので、それの特徴を出していくというのは、自分たちとして理解しているつもりですですけれども、特にアメリカの審査官を理解させるのは、なかなか難しいと。そうすると全体として、インビボなところまで合わせたシステムとして我々は研究をしているわけですから、それをそのまま、ある程度ある発明として認められないと、なかなか現場としてつらいなというところでございまして、別に今のシステムに基づいて審査されていますので、特にそれに関しては何という問題はないですけれども、やはり現場としてはそういうところが認められると、格段とやりやすくなるなと思っているというのは、実際の我々のインプレッションです。現在の決まりというのはよくわかりました。
○金澤委員長 ありがとうございました。何かございますか。どうぞ。
○岡野光夫東京女子医科大学先端生命医科学研究所所長・教授 恐れ入ります。
 今日、私は生体外でやれるというのはよく存じ上げていまして、細胞シートではそういうのはとっております。ポイントは、今までの人工物を体に使うとか、そういう仕組みから近年、遺伝子とか細胞とか、組織を体に入れて治療しちゃうという、全く新しいテクノロジーが出てきたんですね。そのときに、かつて体の中で何かをやる作業に関しては、特許にしませんという考え方が、未来を縛っていいんでしょうかというのが、私の今日の問いかけであったわけであります。
 まさにお答えいただいたポイントに対して、私は細胞とか組織で治療しなくちゃいけない時代に対して、もう一度考え方を変えないと、現実に細胞というのは、自分の細胞をとってきて何かやって、そしてまたこれを入れて、この中で何か成長させたり変化させたり、そういうこと自身が新しい治療になると。
 今まで治せなかった病気が治せるような局面ができるのを、かつての人工物を使ったときの考え方で新しいテクノロジーをとめてしまう、あるいは特許化をとめてしまうために、それが一般的な治療法になり得ないということは、少し議論すべきじゃないかなということだろうというふうに思いますが。
○金澤委員長 ありがとうございました。
 片倉さん、どうぞ。
○片倉委員 今の議論で一つ確認だけしたいことがまた追加で出てきましたので、それを先にちょっとお話しさせていただきたい。
 田村さんのお話で、細胞と装置を組み合わせたシステムといったようなとり方は、あるんではないかというお話があったんですけれども、先ほど女子医の岡野先生がお話ししたような内容とか、ちょっと私のほうで事務局に事前に入れた内容で、同じようなことがあるんですけれども、実際にいわゆる体外の新種のああいう物理的刺激装置と細胞との組み合わせで、システムとして特許出願しているような事例はもうございますかというのが一つの確認です。
 というのは、学会レベルでそういう話はもう出ているんですけれども、私も去年は医工の中でしか実証できないような、エビデンスとして有用性が実証できないようなものについて、どうやってとり方があるのかというのがちょっとわからなかったので、そういう質問をしているということです。それはちょっと後ほどお話しいただくとして。
 もう一つは、やはり先端医療の特許の考え方として、やはりもう一つ、ちょっと軸で考えなきゃいけないのは、日本で新しい医療を生むためのインセンティブ、やはりそれは、その中の一つとして考えていかないといけないのではないかと。産業の軸で考えますと、日本のマーケットだけだとかなり、特に保険の問題もあって価格の縛りもきついというところの中で、厳しいところもありますし、よくわかりやすい事例で出てきますのは、オリンパスさんの内視鏡ですね。グローバルスタンダードとなっている日本初の医療機器でよく言われるのは内視鏡です。
 これは、うちの会社とも共同でやっていますので、色々お話を伺う機会があるんですけれども、やはり東大の先生の消化管の中をカメラでのぞきたいという切なる願いを何とか具現化したというのが、あの技術だと思うんですね。やはり医療現場のそういう、新しい要望とか声を、先ほどから出ていますが、産学連携の中で、日本で物として作るということが、やはり必要だと思うんですね。だから、そこは医療現場はやはりエンジニアリングということではなくて、要望として出てくると。それと産業側は、あるインセンティブの働くものの保護という形で、それが共同でできれば、やはり日本から新しいものを生み出せると。
 先ほどの話の中でも、女子医の岡野先生の中にも、とにかく輸入超過というお話がございました。あれは殆ど日本で生んだ機械はないです。やはりそこを医療現場のインセンティブを働かせつつ、やはり産業がそれにかかわっていくと。そういうやり方を作っていかないと、なかなかできないんではないかと。そういう意味で、特許についても、あり方としてそこまでちょっと考えていく必要があるのではないかというように思っています。
 以上です。
○金澤委員長 ありがとうございました。どうだろう、田村さん。問いかけがあったんですが。
○特許庁田村審査基準室長 細胞と装置を組み合わせたようなシステムの出願につきましては具体例はまだ把握しておりませんので、こちらのほうで検討をさせていただきたいと思います。
○金澤委員長 どうぞ、佐藤先生。
○佐藤委員 先ほど田村審査基準室長から、磁気ビーズと装置とのシステムであれば特許になるというお話がありましたけれども、このとき対象として、関節内に幹細胞をビーズで持ち込んで、それで磁場によって集中させるというふうに、対象物を人体に特定した場合には、システムであっても特許になるんでしょうか。
○特許庁田村審査基準室長 そこは人体が特許請求の範囲に構成として特定されるような規定の仕方では、多分だめだと思いますので、そこは磁気ビーズで標識された細胞を、医薬用途発明のような形で規定していただいて、特定の疾病の治療薬のような形で書いていただいて、それと装置との組み合わせというような書き方になろうかと思います。
○佐藤委員 ということは、結局人体を対象とした形では、システムとして書いてもだめということですよね。
○特許庁田村審査基準室長 そこは、やはり人体が特許請求の範囲内に入ってまいりますと、そこはだめということになろうかと思います。
○佐藤委員 そこが今回のこの委員会の一番大きなテーマだろうと思うんですね。書き方をかえれば何らかの形で特許がとれるというのは今までもあるわけで、ただ実際に人体を対象としたときには、取れない。それをどうするかというのがこの委員会のテーマなので、そこでやはりそこをとれないということをはっきりおっしゃっていただかないと、いかにもとれるような話になってしまうので、そこは明確にしていただいたほうがいいのではないかというふうに思います。
 それからもう1点ですけれども、やはり今回の問題は、医療行為が先生方のお医者さんの行為だけにとどまらず、様々な技術が入ってきて初めて成立する時代になったということでしょう。それをさらに発展させないと、新しい医療技術が進まないという新しい時代に入ったということが、まずこの問題の大きな前提じゃなかろうかと思います。
 従来、医療行為を特許にするかどうかというと、先生の手術行為を特許にするのはいかがかというような、そういう議論になってしまっているんですけれども、実は今、議論されるべきなのは、そういう話ではなくて、やはり医工連携のような形で新しい医療技術を発展させていくためには、特許制度がどうかかわるのかと、かかわるべきなのかということを真正面にテーマとしてとらえて議論していかないと、単に一部のところでできる、できないという議論になってしまうと、今回の議論はあまり実がなくなってしまうんじゃないかということを申し上げたいと思います。
○金澤委員長 ありがとうございました。大変大事なご議論をいただきました。
 他にいかがでしょうか。どうぞ、須田先生。
○須田委員 今のコメントに関連するのですが、岡野光夫先生が、例えば8ページに日本の先進医療機器産業の国際力低下ということを言われていますが、特にこのペースメーカー、人工心臓弁、ステントというのは殆ど輸出していない。これはどういう理由によるんですか。これは例えば特許の問題があって発展していないのか。それとも、もっと別の問題なのか、ちょっと議論していただければと思いますが。
○金澤委員長 片倉さん、どうぞ。
○片倉委員 私が答えるしかないようなご質問だと思いますので。
 基本的には、分野によって幾つかあると思うんですが、ペースメーカーについては、確かに特許的にかなりきついということは聞いています。それで調べていただければ分かると思うんですけれども、このペースメーカーにしろ、人工心臓弁、ステントは少しあると思うんですけれども、特許の出願状況で年次の報告を見ても、日本からの出願は殆どないような状況だと思います。ですから、日本の国内自体がなかなか機器に取り組んでいないというのが、これは事実でございます。
 それは、さっきの先発の折といいますか、初めて世に出すときに、非常に権利は押さえられますから、特にペースメーカーは非常に強い1社がアメリカで電気刺激についてかかわる特許をかなり広範に押さえている会社さんがありますので、そこがかなり広範な特許を出されているということが大きな理由であろうことは事実ですね。
 それ以外にも、やはり日本の場合は、なかなかこういう治療用の医療機器について、医療機器メーカーのほうもなかなか腰を上げないというところもあって、その両方の原因があると思います。
○金澤委員長 どうぞ。
○岡野光夫東京女子医科大学先端生命医科学研究所所長・教授 今の日本の医学自身が、こういうテクノロジーを伴う治療のフィールドまで包含してございませんので、そういうことを考える部署が日本はないんですね。アメリカはやはりバイオメディカルエンジニアリングとか、バイオエンジニアリングというのが、1980年代でもう50大学以上スタートしております。
 ですから、医学と工学を両方勉強させるような教育制度があるということは、そこで生きている研究者がいるということで、やはりそういうフィールドを作っていったら、産業を作っていくことによってお金が回っていきます。そのことによって、人とお金が回って、場所を作っておりますので、翻って、日本では医学部でペースメーカーの電気回路が出てきた、これはうちの専門じゃないですよと、医学部は必ず言うわけですね。
 工学部のほうは、体で使うような、そういうものはうちはやりませんと、それはうちの仕事じゃありませんと。今、日本の縦割りの社会の中で、医学とか工学というふうに分けられていたその間に、巨大な新しい産業領域と巨大な学問領域ができているのに、依然みんなで「ここはおれの仕事じゃない」と言っているわけですから、どうしようもないわけですね。ですから、ここにどういう手当てをしていくかということを総合的にやはり考えていかないと、この問題は解決していかないんじゃないかというふうに思います。ぜひ、その辺は特許だけではなくて、大きな形で、その中の一つとして特許法を考えられたらいいんじゃないかというふうに思いますが。
○金澤委員長 大変大事なご議論をいただきました。
 永井さん、どうぞ。
○永井委員 今の開発の問題ですが、私が聞いているのは、ペースメーカーの場合にはリスクが大きいためと言われています。事故があった場合は企業イメージにかかわります。人工弁やステントについては、安全性、毒性を大型動物で長期実験をしようと思うと億単位の費用がかかり、日本にはそれを行える施設は簡単には使えません。日本にはそういうインフラがないという問題があるということです。
○金澤委員長 なるほどね。
 妙なことを伺いますけれども、ペースメーカーにしても人工心臓弁にしても、新しいものを作る意味はあるわけですね、日本で。その余地はあるのですね。
○永井委員 もちろんあります。
○金澤委員長 そこを確認しておかないと、みんな外国にとられていて、もうそれで十分だと言われたら終わりなので。
 どうぞ、北川さん。
○北川委員 今、永井先生がおっしゃったように、多分心臓弁だとかそういったものは既にあるんですけれども、今多分、先進医療と言っているのは、全く世界にない、新しい日本で出てきているものなわけです。ですから、ここでイニシアチブをとれるかどうかというのは、もうペースメーカーを見て分かるように、ここでどこまで基礎的なパテントを日本で今押さえにかかるかというところに集約していると思うんですけれども、その観点からすると、私は物であったりとか、そういうところでしっかり押さえられる、iPSもそうですけれども、そういったところで押さえられる手当ては、ある程度済んでいるのではないかという理解をちょっとしていて、どうもちょっと、私は医療との連携といいますか、実際のここで根本的なことをちょっと投げかけるようですけれども、もの以外の方法を包括としてとれるという、方法論としてとれるということもひとつ、一気通貫で、治療方法まで全部含めるというのはあるかもしれませんが、材料としてパテントがとれないので、何か投与方法でとかというところに特許を日本で認めた場合に、具体的にどういうインセンティブが働くのかということが、ちょっと私はイメージがわかないので、先生方に伺いたいところなんですけれども。
 多分、慶應の岡野先生が一番近いのかなと思うんですけれども。
○金澤委員長 そうですね、そうですね。とりあえずね。
○岡野栄之慶應義塾大学医学部教授 投与法はもちろんのことで、やはりこれは多くの機器を使って診断して、そして総合的にどれだけ治療効果が上がるか、こういったものは一個一個のパテントがまた総合して大きな知財になっていくんですね。そうすると、やはり診療システム全体ということになると思います。ですから、そこが本当に、多分医療行為そのものが、例えば外科のうまい手術の方に特許が成立したら、そんなものはとんでもないというのは、それは分かるわけですけれども、そうではなくて、これだけの学際的な共同研究の中でできてきたシステムですから、そこは十分インセンティブがあっていいかと思うんですね。例えば細胞をこの時期にやって、このMRIでこのように診断して、このように出たらこのようにこうやるといった、このシステム一括というのは、やはりこれは十分ビジネスになるだろうし、医師だけができる問題ではないので、そこにはやはり産業というのは入ってくるというのは十分あり得ると思いますので、こういったような再生医療システム一括といったようなことが、こういったような再生医療を一般医療にするために、いわゆる医師とこういった企業が共同してやっていかなきゃいけない。そこにはやはり特許としてのインセンティブがないと、なかなか難しいんじゃないかと。つらつら、そこはよく聞かれますので、そういうふうに考えます。
 ですから、本当に神の手に対してやるのではなくて、このシステム全体としてのインセンティブと。出てきた場合は、本当にこういったものが、それが今日議論したようなことに特許が取れると、かなり大きなアドバンテージになってくると、そのように考えております。
○北川委員 システムとおっしゃっているのは、例えば再生に限ったことではなくてですか。例えば、がんをそういうことも全部含めてということですよね。
○岡野栄之慶應義塾大学医学部教授 がんの集約療法だってそうすると思いますし。パテント製剤でこのようにやって、これがこうなった場合にこういった治療法をやるというのは、一括した関連した技術ですから、これはある特定の企業ということは、研究を進めていくと、かなり強いものになってくると、私はそのように思っていますので。そうしますと、やはり知財というものは大きな力になっていくと思いますし、先ほど女子医の岡野先生が言ったように、本当に我々がやっている研究は、本当にいかに多くの人の役に立てるようにするかということに立てば、決して医療費の高騰とかそういう問題ではなくて、先端医療を多くの人という意味においては、精神論ですが、そういったようなことで治療の役に立つと思います。
○金澤委員長 どうぞ、簡潔にお願いします。
○岡野光夫東京女子医科大学先端生命医科学研究所所長・教授 何回か申し上げているんですが、工学的あるいはものとしてのテクノロジーが出て、これが実際に新しい治療法につなげるまでというのは、かなり大きなハードルを越えていかなければいけないです。このハードルを越えていくこと、この治療法だけをとっても、誰かがこれを使ってやってくれるというのを待っていて、それで産業が起きるというのは殆どなくて、やはりこれをちゃんと治療につなげていくまでの仕組みを作っていかなくちゃいけないわけです。それをケアする産業界なり人が、あるいは研究者がいないとなかなかいかない。
 それから、医学と治療というときには、ユーザーサイドの医学サイドがどこまでしっかりと、今までの従来法に比べてアドバンテージがあるかですね。それをやり抜けるだけのものがあるかどうかという検討をやるわけですね。そこは、かなり投資も必要ですし、人も必要ですし、新しい仕組みも必要ですよね。そういうのが始まらないで、自分はここで特許をとって終わりというふうになったら、いつまでたってもこれは届かない。事実、日本から治療法で、世界の患者を救ったということが今までどれだけあるかなんですね。これはやはり日本が、体制の整備が不十分だったんじゃないかというふうに思うんです。
 ですから、治療法のところに行くということができれば、医工連携とか産学連携とか、新しいフィールドにもう一度体制整備をするというインセンティブになるんじゃないかというふうに考えています。
○金澤委員長 どうもありがとうございました。
 先ほど女子医大の岡野先生がおっしゃいましたように、新しいアイデアを出してから、それを患者さんに届けるまでの間にはさまざまなプロセスがあるわけで、その一つにはもちろんはじめに技術開発がありますけれども、それから特許の問題もありますが、規制のこともあろうかと思うんですね。ですから、恐らく総合的にとおっしゃったんだと思いますが、先ほどもちょっと予告しましたが、外口局長から何か最後にコメントでもいただければと思いますが、どうでしょうか。
○厚生労働省外口医政局長 まずよいテクノロジーを早く患者さんに、これはもうみんなの共通の認識だと思うんですね。それから特許だけでなく規制も含めて見直すと、これも大体みんな、というか我々に一番プレッシャーがかかっていますけれども、そういうのはあると思います。
 それで、ただこの議論をするときに必ず出てくるのが、外科医の手術の話が例示にありましたけれども、能力のある医療機関であれば、だれでもその技術を使うことが阻害されないように、これとどう両立していくかということだと思うんですね。
 それで、色々な技術が進歩して、なかなか例示が難しいんですけれども、やはり阻害されないというところをどう説明していくかというのが、やはりひとつポイントになるんじゃないかと思うので、私も今日聞いていて、幾つか後でまたお聞きしたいなと思ったのは、フランスが日本とアメリカの間とおっしゃいましたけれども、考え方がですね。それで必要なものであれば運用で随分やっているんだみたいなお話があったので、そこでどういう工夫をフランスが日本以上にしているかというのをお聞きしたいなというのが1つと。
 それからあと、何か人体を対象とした、あるいはシステムのものとか、そういうものに今度いったときに、ではどういうふうにすれば阻害されないんだというのを、そこをもうちょっと、お考えを後でお聞きできればと思います。
○金澤委員長 そのお答えを……
○岡野光夫東京女子医科大学先端生命医科学研究所所長・教授 資料を後でお出しいたしますので。
○金澤委員長 そうですね、ありがとうございました。
 まだまだご議論があるんだろうと思いますけれども、大体時間になってしまいましたので、今回はここまでということにさせていただきたいと思います。今回の研究者の方々にお話を伺ったことは大変大事なことだったと思いますので、次回の会合では、それ以外の方々からも、特許保護の検討が必要だと考えられる発明、あるいはご研究の内容について、プレゼンテーションをお願いしたいと思っています。また似たような議論になるかもしれませんが。
 またインターネット調査を今やっているわけですが、その時に、その結果についても報告をしてもらうことにしたいと思います。どなたにおいでいただくかについては、ちょっと色々ご意見はいただきますけれども、最終的にはご一任いただけたらと思います。
 それでは、最後に次回の日程等について、事務局から。
○内山事務局次長 次回でございますけれども、ご案内しておりますとおり来年の1月26日月曜日、夕方17時からでございます。本日と同じこの場所で開催をいたしますので、よろしくお願いいたします。
○金澤委員長 どうも、それではちょっと延びてしまいましたけれども、これで本日の会を終わりにいたします。ありがとうございました。
 どうも特別ゲストの先生方、ありがとうございました。