2.2 内閣の機能と運営

内閣の機能

 内閣が、憲法のほか各種法令に定められた職権を行い、その職権を行うのは、閣議によるものとされている(内閣法第4条)。

(1) 天皇の助言機関としての機能

 憲法第3条は、天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふと規定している。
 天皇の国事行為は、次に掲げるものとされている。

  • 国会の指名に基づく内閣総理大臣の任命
  • 内閣の指名に基づく最高裁判所の長たる裁判官の任命
  • 憲法改正、法律、政令及び条約の公布
  • 国会の召集
  • 衆議院の解散
  • 国会議員の総選挙の施行の公示
  • 国務大臣等の任免の認証
  • 全権委任状及び大使・公使の信任状の認証
  • 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権の認証
  • 栄典の授与
  • 条約の批准書及びその他の外交文書の認証
  • 外国の大使・公使の接受
  • 儀式の挙行
(2) 行政権の主体としての機能

 憲法第73条は、内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふとして、次の7つの行政事務を掲げている

  • 法律を誠実に執行し、国務を総理すること
  • 外交関係を処理すること
  • 条約を締結すること
  • 法律の定める基準に従い、官吏に関する事務を掌理すること
  • 予算を作成して国会に提出すること
  • 憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること
  • 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること

 なお、憲法第73条のほか、次のような内閣の権能を定めている。

  • 最高裁判所の長たる裁判官の指名(第6条)
  • 最高裁判所の長たる裁判官以外の裁判官及び下級裁判所の裁判官の任命(第79条、第80条)
  • 国会の臨時会の召集の決定(第53条)
  • 議案の国会への提出(第72条)
  • 参議院の緊急集会の請求(第54条)
  • 予備費の支出(第87条)
  • 決算の国会への提出(第90条)
  • 財政状況についての国会及び国民への報告(第91条)
国会の常会の召集、国会の特別会の召集

閣議

 内閣は、国会の指名に基づいて任命された首長たる内閣総理大臣及び内閣総理大臣により任命された国務大臣によって構成される合議体(内閣法第2条)であるから、その意思決定を行うに当たっては全大臣の合議、すなわち閣議によることとなっている(第4条)。

(1) 閣議の構成員等

 閣議は、内閣総理大臣及びその他の国務大臣で構成される。
  なお、閣議の案件について説明を行ったり、閣議運営上の庶務に従事したりする等のために、内閣官房副長官(政務担当と事務担当)と内閣法制局長官が陪席する。
 過去の例として、昭和23年1月27日付けの内閣官房長官通知「閣議等付議事項の取扱いについて」により、閣議に国務大臣が欠席するときはその代理者として政務次官又は次官(現在の各省庁の事務次官)を出席傍聴せしめ得ること。この他、閣議に関係官を主席せしめて説明せしめる場合は予め内閣官房長官の了解を得た場合に限るものとし、関係官は説明が終了したときは直ちに退席することとの例外的な取扱いをしていたときがあった。

閣議構成メンバーの推移

 内閣制度創設当時の閣議は、内閣総理大臣及び各省大臣の10人で構成されていた。その後、各省大臣の数については、省の統廃合・新設等によって変遷があった。これとは別に、内閣官制第10条の規定に基づき「特旨ニ依リ」国務大臣として内閣員に列せられる者がいた。いわゆる無任所大臣である。その無任所大臣については特段の定めはなかったが、昭和15年12月、勅令により3人以内と定められ、その後3回の改定を経て、内閣法施行時には6人以内となっていた。
 昭和22年の内閣法施行により、内閣は、首長たる内閣総理大臣及び国務大臣16人以内を以て組織されることとなったが、その後、数次の内閣法の改正により、現在は17人以内の国務大臣(ただし、特別に必要がある場合においては、3人を限度にその数を増加し、20人以内とすることができる。)を以て、これを組織するとなっている。

(推移)

明治18.12.22 10人 内閣総理大臣を含む。宮内大臣は内閣の組織外
昭和22.5.3 16人以内 内閣法施行、内閣総理大臣を除く
昭和40.5.19 17人以内 内閣法改正、総理府総務長官は国務大臣となる
昭和41.6.28 18人以内 内閣法改正、内閣官房長官は国務大臣となる
昭和46.7.9 19人以内 内閣法改正、環境庁長官を追加
昭和49.6.24 20人以内 内閣法改正、国土庁長官を追加
平成13.1.6 14人以内(ただし、特別に必要がある場合においては、3人を限度にその数を増加し、17人以内とすることができる。) 内閣法改正、中央省庁等改革
平成24.2.10 復興庁が廃止されるまでの間、15人以内(ただし、特別に必要がある場合においては、3人を限度にその数を増加し、18人以内とすることができる。) 復興庁設置法附則による内閣法改正
平成27.6.25 復興庁が廃止されるまでの間、16人以内(ただし、特別に必要がある場合においては、3人を限度にその数を増加し19人以内とすることができる。) 平成32年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法附則による内閣法改正
令和2.9.16 復興庁が廃止されるまでの間、17人以内(ただし、特別に必要がある場合においては、3人を限度にその数を増加し、20人以内とすることができる。) 平成37年に開催される国際博覧会の準備及び運営のために必要な特別措置に関する法律附則による内閣法改正
令和3.4.1 東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部が置かれている間、17人以内(ただし、特別に必要がある場合においては、3人を限度にその数を増加し、20人以内とすることができる。) 復興庁設置法等の一部を改正する法律附則による内閣法改正
(2) 閣議の開催

 閣議は、原則として、毎週火曜日と金曜日に首相官邸の閣議室において午前10時から開催される。ただし、国会開会中は、午前9時から開催されることとなっている。このように原則として定例日に開催される閣議は「定例閣議」と呼ばれる。

閣議の歴史

 太政官時代には、今の閣議に当たる会議を内閣会議といい、太政官職制当時の明治6年6月には三八ノ日ニ限り、内閣ニ於テ午前第九時ヨリ同十二時マデ開催すると定めていた。明治14年10月には各内閣議官(参議)の参集日が火・金曜日と改められた。
 明治18年12月22日に内閣制度が創設されると同時に、内閣総理大臣から各省大臣に対して、閣議ヲ要スル儀有候ニ付明廿三日ヨリ當分ノ内日々午后一時ヨリ御参閣可有之候也との通達が出された。

 なお、緊急を要する場合には、日時にかかわらず臨時に開催されることがあり、これを「臨時閣議」という。
 また、早急な処理を要する案件については、電話連絡等により閣議が行われることがあり、これを「持ち回り閣議」という。

持ち回り閣議

 戦前の持ち回り閣議は、飴色に塗られ真中が赤く、そこに内閣総理大臣殿、内閣書記官長殿、内閣書記官殿と黒い漆で書かれてある箱と各省大臣の官名が連記されている箱の2種類の赤箱があり、内閣書記官が、この箱を持ち歩いて閣議書に署名(花押)を得ていた。

赤箱と矢立
(3) 閣議付議案件

 閣議に付議される案件は、憲法、法律等により内閣の職権とされているもの(いわゆる必要的付議事項)が多いが、その他にも、特に法令上の根拠がなくとも行政府内で一定の方針を確定しておくための、いわゆる任意的付議事項もある。これらが一般案件、法律・条約の公布、法律案、政令及び人事等の項目に区分されて処理される。
 一般案件とは、国政に関する基本的重要事項等であって内閣として意思決定を行うことが必要なものをいう。
 内閣法では、閣議は、内閣総理大臣がこれを主宰する。この場合において、内閣総理大臣は、内閣の重要政策に関する基本的な方針その他の案件を発議することができる。(第4条第2項)と規定し、また、各大臣は、案件の如何を問わず、内閣総理大臣に提出して、閣議を求めることができる(第4条第3項)と規定しており、この規定に基づき、各主任の大臣が内閣総理大臣に閣議を求める手続きをする。これを「閣議請議」という。
 また、閣議に付議される案件は、その内容により、「閣議決定」、「閣議了解」、「閣議報告」として処理される。
 「閣議決定」は、合議体である内閣の意思を決定するものについて行われる。
 「閣議了解」は、本来、ある主任の大臣の権限により決定し得る事項に属するものであるが、事柄の重要性にかんがみ、他の国務大臣の意向をも徴することが適当と判断されるものについて行われる。
 「閣議報告」は、主要な審議会の答申等を閣議に披露するような場合等に行われる。

(4) 閣議の運営

 内閣法には、閣議は、内閣総理大臣がこれを主宰する(第4条第2項)という規定が置かれているだけで、その他については特段の規定はない。具体的な運営方法は、長年の慣行により行われている。
 明治23年2月4日の閣議順序ヲ定ムルノ件の閣議決定によれば…通常ノ囘議書類ハ書記官ヲシテ之ヲ朗讀セシメ…と定められていた。
 議事の進行・整理等は、主宰者たる内閣総理大臣の意を受けて、内閣官房長官が行う。案件の説明は、陪席者である政務担当の内閣官房副長官から行われる。
 閣議の議決は、多数決の方式等を採用せず、全員一致によることとされている。これは、内閣は、行政権の行使について、全国民を代表する議員からなる国会に対し連帯して責任を負う(内閣法第1条第2項)ことに基づくものである。
 閣議で結論が得られた案件については、各国務大臣が閣議書に署名(花押)をし、意見の一致したことを確認する。

花押

 閣議書に閣僚の意思を表わす花押を毛筆で書くことが内閣制度創始以来の慣習となっている。花押は、別名「書き判」とも言われ、その形が花文様に似ていることから「花押」と呼ばれている。広く使われている花押は、そもそも中国の明時代に流行した形が、江戸時代初期に伝えられたもので、先ず天と地の両線(上下の二線)を横に引き、この天地の中間に自分で考えた文字を簡単な形にして作成している。

花押
(5) 議事内容の公表

 閣議において、各大臣の隔意のない意見の交換を望む関係上、閣議の議事は非公開とされている。
 なお、平成26年4月以降の閣議については、「閣議等の議事の記録の作成及び公表について(平成26年3月28日閣議決定)」により、議事の記録を作成し、閣議から概ね3週間後に首相官邸ホームページにおいて公開されている。
 また、閣議の概要については、内閣官房長官の記者会見において発表されることになっている。