国際的に脅威となる感染症対策の強化に関する基本方針

平成28年2月9日 改定
国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議
  今般のエボラ出血熱の西アフリカでの感染拡大については、欧米での感染も見られる中、感染拡大の防止への国際的な取組が進められた。我が国においても、国内で感染が確認された場合や海外で邦人が感染した場合の備えを進め、平成26年10月には内閣総理大臣を主宰とする「エボラ出血熱対策関係閣僚会議」を設置し政府一体となった取組を行った。また、国際的な取組の中で、我が国も直接又は国際機関との協力等を通じて西アフリカ諸国への支援を行ってきた。
  さらに、アラビア半島諸国を中心に発生が報告された中東呼吸器症候群(MERS)については、平成27年5月、韓国で感染者の確認及び感染拡大が見られ、我が国においても水際対策等の強化を行った。
  西アフリカにおけるエボラ出血熱については、当事国及び国際社会の取組により感染が防止されつつあり、また韓国におけるMERSについても当事国の取組により終息した。しかしながら、これらの事案は、流行国の国民生活及び経済活動への甚大な影響のみならず¹、国際社会にも大きな衝撃と不安を与えたところであり、これらと同様に国際的に脅威となる感染症²は、今後も発生する可能性がある。
  こうしたことから、今回の事案を教訓に、国際社会の動向も踏まえ、国際的に脅威となる感染症について、政府一体となった対策の強化を進めるため、以下のとおり、基本方針を取りまとめる。
  なお、本基本方針は、健康・医療戦略推進本部の決定による「平和と健康のための基本方針」とも相互に連携を図るものとする。

¹ 世界銀行は、エボラ出血熱がギニア、リベリア及びシエラレオネの流行3か国のGDPに与える損失額として、2014年の短期的影響は3億5,900万USD、2015年の中期的影響は1億2,900万〜8億1,500万USDとの内容を含む『The Economic Impact of the 2014 Ebola Epidemic Short- and Medium-Term Estimates for West Africa 』を2014年10月に発表した。
² エボラ出血熱、MERS等、国境を越えて感染が拡大し、我が国でも、国民の生命、健康はもとより広く国民生活、経済活動等に対して重大な影響を与えるおそれがある感染症。なお、新型インフルエンザ、新感染症(全国的かつ急速なまん延のおそれのあるものに限る)及び鳥インフルエンザ(鳥から人に感染したもの)については、新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成24年法律第31号)等に基づき対策を別途推進するが、本基本方針はこれらの対策にも資する。

1.背景・目的

(1)グローバリゼーションの進展等により国境を越えて国際社会全体に広がる感染症の脅威

  今般のエボラ出血熱については、平成26年3月、ギニアが世界保健機関(WHO)に対し、アウトブレイクの発生を報告し、西アフリカを中心に感染が拡大するとともに、欧米においても、2次感染も含め感染が確認された。この西アフリカにおけるエボラ出血熱の感染拡大について、平成26年8月8日、WHOは国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態「PHEIC(Public Health Emergency of International Concern)」を宣言しており、国際的に懸念される事態となった。
  また、MERSについては、平成24年9月以降、アラビア半島諸国を中心にその発生が報告され、その後、欧米、アジアにおいて散発的ではあるものの、感染が確認されている。そうした中で、平成27年5月、韓国において、MERSの感染者が確認され、その後、当該感染者との濃厚接触者に感染が拡大した。
  このように、感染症については、森林開発や気候変動等により動物等を媒介とする感染症のリスクが増大し、また交通等の発達に伴う人・物の交流・移動の増大によるグローバリゼーションの進展等により、限定的な地域での感染にとどまらず、国内での感染拡大、さらには国境を越えて国際社会全体に感染が拡大する事態が発生しやすくなっており、今後、エボラ出血熱やMERS以外にも様々な新興・再興感染症も国際的に脅威となるおそれがある。

(2)エボラ出血熱の感染拡大により得られた主な教訓

○発生早期の段階からの流行国における感染封じ込めとガバナンスの重要性
  西アフリカにおけるエボラ出血熱の感染拡大については、国際機関及び世界各国による西アフリカの流行3か国における感染封じ込めの対策が遅れたことで、平成26年3月以降、流行の進行が明らかになった。その後、8月のWHOによるPHEIC宣言以降、9月の国連エボラ緊急対応ミッション(UN Mission for Ebola Emergency Response(UNMEER))の設置・派遣等をはじめ、国際社会が集中的な現地対策を強化した。こうした対策により、平成26年11月のピーク時には1週間当たり約730件の新規感染者が報告されていたが、現在は、ギニア及びリベリアについては、WHOによるエボラ出血熱の終息宣言が、それぞれ平成27年12月及び平成28年1月になされている状況である。一方で、平成27年11月に終息宣言がなされていたシエラレオネについては、平成28年1月に、再び新規感染者が報告されたところであり、引き続き警戒が必要である。³

³ WHOは7月9日にPHEICを維持する宣言を発表した。このPHEICは解除されていない(2015年8月末時点)。
  流行3か国における感染封じ込めを通じた国際協力については、人道的支援の観点のみならず、流行国から自国への波及を防止するとともに、国際社会の安全に対する脅威に対処したものであり、国際社会は当初からこうした認識の下で、迅速な現地対応を行うべきであった。また、その際、現地対策を行う国、国際機関、NGO間の連携が十分に取れず感染拡大を許したとの指摘も多くなされ、こういったグローバル・ヘルス・ガバナンスの課題も露呈した。
  ○流行国の脆弱な保健システムの強化を促す国際協力の必要性
  エボラ出血熱が感染拡大した西アフリカの流行3か国においては、基礎的な保健医療サービスの体制が脆弱であったことが、感染の拡大を知りながらも対応を遅らせた。また感染の拡大により、流行国における元来脆弱な保健システムは機能不全に陥り、感染症はもとよりそれ以外の疾患にも対応が困難となった。
  このようなことから、各国レベルでは、国際機関との連携等の下、感染症の予防を強化すると共に、中長期的視点に立って、強靱な保健システムの構築を支援することが重要である。具体的には、保健システム設計や国・地域及びコミュニティ・レベルでの保健人材の育成に関する協力、WHO国際保健規則(IHR)履行強化支援等の貢献を行う必要性が示された。また、緊急時においては、国際緊急援助隊の派遣を含む人的協力、物的協力、資金協力などを組み合わせ、他のドナー国、関係国際機関及びNGOと協調しつつ、効果的、効率的な支援を実施することも重要である。
  ○国内における感染防止対策の継続的強化の必要性
  エボラ出血熱の感染拡大の状況やWHOによるPHEIC宣言を踏まえ、国内においても、「エボラ出血熱対策関係閣僚会議」の設置による政府一体となった対応を行うとともに、感染症危険情報を発出し在外邦人に対する最新の情報提供及び注意喚起を行い、検疫所における水際対策の強化や感染症指定医療機関の整備など国内対策としての備えを行ってきた。ただし、未だに保健医療サービスの体制が脆弱な国も数多くあるため感染再拡大の可能性は否定できず、また、今後エボラ出血熱以外の国際的に脅威となる感染症が発生する可能性も否定できない。人の交流等が広がっている今日、国内にもこのような感染症が入って来得るという意識の下、今後とも水際対策を含む国内における感染防止対策を継続的に強化していく必要がある。
  ○国内における検査・研究体制の整備の必要性
  今回のエボラ出血熱の感染拡大を契機に、先進諸国においてはエボラ出血熱等の危険性の高い病原体(一種病原体等)の検査・研究体制が整備されているにもかかわらず、我が国においては特定一種病原体等所持施設がないことが再認識された。
  こうした中で、国立感染症研究所村山庁舎内の高度安全試験検査施設(バイオセーフティレベル4(BSL4))については、地元からの理解と協力を得られたことにより平成27年8月7日に厚生労働大臣が感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号。以下「感染症法」という。)に基づき特定一種病原体等所持施設として指定した。
  今後は、エボラ出血熱などの重篤な症状を引き起こす感染症の病原体等について、我が国全体として主として危機管理の観点から、万全の検査・研究体制の在り方の検討が必要である。
  ○国際協力も含めて感染症対策を担う人材育成の強化の必要性
  西アフリカにおけるエボラ出血熱の感染拡大に際して、我が国としても医療従事者等を派遣してきたところであるが、資金面での協力に比して人材面の協力が十分でなく、WHOを通じた医療関係者の派遣はのべ20名ほどに止まっている。このため、そうした人材の育成を強化し、国内の感染症対策のみならず、国際協力における感染症対策を担うことのできる人材を中長期的にも確保していく必要がある。

(3)国際社会の動向

  西アフリカにおけるエボラ出血熱の感染拡大を教訓に、グローバル・ヘルス・ガバナンスの必要性が再認識され、WHO、世界銀行、国際連合等の国際機関において、平時及び有事における国際保健システムの構築及び対応力の強化に向けた議論が行われている。
  WHOにおいては、感染症のアウトブレイクや緊急事態への初期対応を迅速に行うための基金(Contingency Fund)の創設の決定及びWHOの準備・サーベイランス・対応等の分野における体制強化のための予算増額を含む平成28年-29年予算案が決定されている。また、エボラ出血熱対応についての第三者による暫定評価が平成27年7月に出され、今後、これを踏まえたWHOの対応が検討されることとなっている。
  また世界銀行においては、開発途上国におけるパンデミック発生時の機動的資金提供メカニズムの構築に向けてPandemic Emergency Facility(PEF)の立上げが検討されている。国際連合においても、事務総長の下におかれたハイレベルパネルでエボラ出血熱対応の教訓に立った今後の対応について議論が行われ近く報告が公表される予定である。
  さらに、平成27年6月のG7エルマウ・サミット首脳宣言においても、「保健システムの強化に焦点を当てて保健分野に引き続き関与」すること、「将来起き得る感染症の闘いのために協調し、共通のプラットフォームで調整される分野横断的な専門家の迅速な展開のためのメカニズムを設立又は強化する」ことが確認されている。これまでのG7/8サミットにおいても、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)の設立や国際保健に関する洞爺湖行動指針を発表するなど我が国は保健分野に関する議論及び取組を積極的に主導してきた。こうしたことから、平成28年のG7伊勢志摩サミットやG7神戸保健大臣会合などにおいて、我が国が以上のような動向を踏まえた対応を行い、その役割をさらに発揮していくことが期待されている。
  また、同首脳宣言では、これまで効果があった抗菌薬等が効かなくなる薬剤耐性(AMR) についても触れられ、平成27年5月にWHOで採択された薬剤耐性に関する世界行動計画(グローバルアクションプラン)を支持することが盛り込まれた。同年10月のG7ベルリン保健大臣会合においても、薬剤耐性(AMR)菌等は、国境を越えて急速に拡大し、感染症治療をより困難にしている一方、抗菌薬等の研究開発が停滞していることから、薬剤耐性(AMR)問題に対する対策の一層の強化が求められている。

(4)本基本方針の目的・位置付け

  上記(1)〜(3)のような背景を踏まえ、本基本方針において、国際的に脅威となる感染症対策の強化について、今後5年程度を目途として、基本的な方向性、重点的に強化すべき事項等を示し、関係行政機関等の取組及びその連携の強化を図ることにより、国民の安心・安全の確保を図るとともに、国際社会での我が国の責任・役割を果たしていくものとする。

2.基本的な方向性

(1)国際的に脅威となる感染症に係る国際的な対応と国内対策の一体的推進

  西アフリカにおけるエボラ出血熱の感染拡大に対し、我が国においては、危機管理の観点から、国内における感染防止対策を行う一方、主として流行国の国民の生命を救うという人道的支援の観点から、資金協力、物的協力及び人的協力等の国際的な対応を行ってきた。
  しかしながら、エボラ出血熱の感染拡大により得られた教訓として、欧米先進諸国においては、上記人道的支援の観点のみならず、自国への波及防止という観点から対応を行っており、その対応は自国の感染防止対策とも一体的に推進していたことが認識された。
  こうした認識を踏まえ、今後、国境を越えて広がり国際的に脅威となる感染症に対する国際的な協力については、人道的支援にとどまらず、我が国への波及を防止するものであるとして認識し、我が国としての海外の感染症のリスク評価の強化や、国際的な対応も担うことができる国内の感染症対策を担う人材の育成も含め、我が国における感染が確認された場合の備えとしての国内における感染防止対策と有機的な連携を図りながら一体的に推進していくものとする。

(2)国際的に脅威となる感染症の発生国・地域に対する我が国の貢献及び役割の強化

  西アフリカにおけるエボラ出血熱の感染拡大により得られた教訓として、公衆衛生危機時に国際社会が迅速に対応できるグローバル・ヘルス・ガバナンスの強化、発生早期段階の感染封じ込め、脆弱な保健システムの強化、他の重大な感染症への対応力の強化の必要性が認識された。
  こうした認識を踏まえ、今後、国境を越えて広がり国際的に脅威となる感染症に対し、国際協力を通じ、公衆衛生危機時に国際社会が迅速に対応できるグロ−バル・ヘルス・ガバナンスの再構築、海外における特定の感染症の発生早期の段階からの封じ込め、平時からの開発途上国における保健システムの強化(UHC)及び他の重大な感染症への対応など、それぞれに係る国際協力を強化するとともに、そうした国際協力に係る人的貢献のための日本国内の人材基盤の整備等を検討する。
  これらを通じて、国際社会の責任ある一員である我が国として、国際的に脅威となる感染症対策に積極的な貢献をし、国際的に我が国が主導的役割を果たすことを目指すものとする。

(3)国際的に脅威となる感染症に対する国内の対応能力の向上による危機管理体制の強化

  西アフリカにおけるエボラ出血熱の感染拡大により得られた教訓として、国内における感染防止対策の継続的強化、エボラ出血熱等の感染症の病原体等に関する我が国全体としての危機管理の観点からの万全の検査・研究体制の整備やエビデンスをもって国際社会を納得させる研究力等の必要性が認識された。
  こうした認識を踏まえ、今後、国境を越えて広がり国際的な脅威となりうる感染症に対し、水際対策や国内での感染が確認された場合への備えとしての対策の継続的な強化と共に、平時から、危険性の高い病原体等についての我が国の検査・研究体制の整備、国際協力も含めた感染症対策を担う人材育成の強化等を行っていくこととする。
  これらを通じて、感染症対策に関する平時及び感染症発生時の対応を組織的に行う体制を整備することにより、国際的に脅威となる感染症への国内の対応能力の向上を図り、今後とも危機管理体制を強化するものとする。

3.重点的に強化すべき事項(中長期的な取組を要する事項を含む)

  西アフリカにおけるエボラ出血熱の感染拡大の教訓等を受け、先進諸国等の対応や国際機関の動向も踏まえて、国際的に脅威となる感染症に係る国際協力及び海外情報収集等の強化、国内における検査・研究体制の整備、人的基盤の整備などの分野において、我が国として今後、以下のとおり重点的に取組を強化することが必要である。その際、以下の事項を意識したグローバル・ヘルス・ガバナンスの新たな仕組みについては、我が国をホスト国とする平成28年のG7伊勢志摩サミットに向けても重要であり、関係省庁等においてその検討を行っていくこととする。

(1)国際協力及び海外情報収集等の強化

  海外における特定の感染症の流行における封じ込め、平時からの開発途上国における保健システムの強化及び他の重大な感染症への対応に係る強化を行うとともに、緊急時に迅速に人材を派遣できる仕組みの構築、それらを支える人材育成の仕組みを整備する。その際、国際連合、WHO、G7等での国際的議論に国内の専門家等の意見も踏まえ参画し、その議論も踏まえつつ国際協力の強化を図り、グローバル・ヘルス・ガバナンスの構築に向け我が国として貢献するとともに、その議論の主導に努める。また、我が国における感染症リスク評価を強化するための海外情報収集・分析能力等の強化を検討する。
①  感染の発生国・地域での緊急対応のための国際機関等との協力強化による感染の発生国・地域での感染の拡大防止及び感染の予防
  海外における特定の感染症の流行時において、感染の発生国・地域での感染の拡大を防止するとともに感染を予防するため、以下のとおり、緊急対応のための国際機関等への協力の強化を検討する。
  ○WHOのIHR4の履行確保・強化、GOARN5の基盤強化の支援
  WHOの国際保健規則(IHR)に規定される、加盟国のWHOへの通報義務や感染症発生時の検疫や国内対応の手順の履行確保・強化を促すための専門人材の育成等に関する技術協力等を行う。また、GOARNの基盤強化に資する国内における人材の育成等の取組を進める。

4 International Health Regulations:国際保健規則
5 Global Outbreak Alert and Response Network:地球規模感染症に対する警戒と対応ネットワーク
  ○WHOの緊急対応基金等及び世界銀行によるパンデミック発生時の機動的資金提供メカニズムの構築についての整合性の取れた対応の検討
  WHOにおける感染症のアウトブレイクや緊急事態への初期対応を迅速に行うための基金(Contingency Fund(緊急対応基金))の創設の決定と具体的内容の検討や、世界銀行による開発途上国におけるパンデミック発生時の機動的資金提供メカニズム(Pandemic Emergency Facility(パンデミック緊急ファシリティ(PEF)))の構築に向けての検討を踏まえ、諸外国の動向も見ながら、我が国として、PEFの構築プロセスに積極的に貢献するとともに、緊急対応基金及びPEFについて、整合性の取れた対応の検討を行う。
  ○国際通貨基金(IMF)による大規模災害抑止・救済基金への対応の検討
  平成26年11月のG20ブリスベン・サミットにおける要請を受けて、平成27年2月に、IMFがパンデミック発生後に見込まれる当該国における経済の停滞に対処し、マクロ経済への影響を緩和することを目的として、災害及び感染症が発生した国に対する債務支払いを軽減するために創設した大規模災害抑止・救済基金への対応について、我が国として、パンデミック時における経済安定化への支援の観点から、検討を行う。
  ○UNDP, UNICEF, UNFPAなど実施機関との協力及び政策対話
  国連開発計画(UNDP)、国連児童基金(UNICEF)、国連人口基金
  (UNFPA)等の実施機関は、エボラ出血熱の流行3か国やその周辺国において、各機関の専門性を活かした支援活動を行っている。このため、これら機関との政策対話を通じ、より一層効果的な感染症対策に向けた連携を図る他、これら機関に関する協力の強化についても検討する。
②  重大な感染症への対策を支援する関連国際機関等との協力強化
  エボラ出血熱の感染拡大により、西アフリカの流行3か国において、脆弱であった保健システムが機能不全に陥ったことに伴い、他の公衆衛生上重大な感染症への対応が十分に行われなかったことも踏まえ、以下のとおり、他の公衆衛生上重大な感染症も含めた感染症対策のための国際機関等の協力を強化する。
  ○グローバルファンドによる三大感染症対策の支援6
  グローバルファンドは、エイズ、マラリア、結核という三大感染症対策の支援を行っており、エボラ出血熱以外にもこれらの感染症対策は引き続き重要である。このため、グローバルファンドを通じ、治療薬、診断キット、蚊帳等の購入、配布、予防啓発活動、研修等人材育成、データ収集及びモニタリングシステムの整備等を行うなど、開発途上国における三大感染症の予防、治療、ケア等の実現と促進をするための事業に対して、必要な支援を進める。
  ○Gaviワクチンアライアンス7による予防接種活動等の支援
  Gaviワクチンアライアンスを通じ、感染症対策を含め乳幼児死亡率の削減(MDG4)及び妊産婦死亡率の削減(MDG5)のため、麻しんワクチン、肺炎球菌ワクチン及びロタウィルスワクチン等の普及及び使用の促進を支援する。
  ○グローバルヘルス技術振興基金(GHIT)8等を通じた新薬開発等に関する活動の支援   GHIT等を通じ、開発途上国向けの医薬品(顧みられない熱帯病等:シャーガス病、リーシュマニア症等に対する医薬品)の研究開発、供給準備、供給支援に関する活動へ必要な関与・支援を進める。
  ○我が国における研究開発の成果についての国際協力への活用の支援
  エボラ出血熱等をはじめとする重大な感染症に対する医薬品、診断薬等について、我が国においても大学、民間企業等でも優れた研究開発が行われており、これらの成果が国際協力においても活用されるよう、必要な対応に努める。
③  開発途上国における感染症の拡大防止及び予防のための保健システムの強化
  エボラ出血熱が感染拡大した西アフリカの流行3か国においては、その基礎的な保健医療サービスの体制が脆弱であったことが、感染の拡大に拍車をかけたことを踏まえ、以下のとおり、平時から、開発途上国における感染症の拡大を防止するとともに予防するための保健システムの強化を行う。

6 三大感染症による死者は年間約360万人
7 Gavi, the Vaccine Alliance: 5歳未満の子供への予防注射の推進を主に行う国際的枠組み
8 Global Health Innovative Technology Fund:グローバルヘルス技術振興基金
  ○開発協力を活用した保健システム強化、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の推進
  アフリカ及びアジアにおいて、無償資金協力、有償資金協力及び技術協力の有機的な連携により保健システムを強化するとともに、UHCの推進を図る。また、日本と世銀とのUHC共同研究の成果を踏まえ、世銀等によるUHCに資する活動への支援を進める。
  ○途上国におけるWHOのIHRの徹底に向けた検査能力・サーベイランス能力・検疫能力等の強化
  GHSA9の枠組みでの支援の強化や、これまで我が国が支援してきた研究所・拠点機関の能力の強化及びネットワーク化等により、途上国におけるWHOのIHRの徹底に向けた検査能力・サーベイランス能力・検疫能力等の強化に努める。
  ○グローバルファンドを通じた保健システムの支援
  グローバルファンドをはじめとした国際機関等や他ドナーとの連携を通じた開発途上国の保健システム強化の推進を図る。また、グローバルファンドによる特定の疾病対策に比重が置かれた垂直的プログラムで育成された人材のより広範な活用を図る。
  ○感染症発生後の保健システム回復支援
  緊急無償資金協力、緊急援助物資供与、国際機関への拠出金等資金・物資の供与と共に、専門家の派遣等人的支援により、感染症発生後の保健システムの回復に資する支援を行う。
④  感染の発生国・地域への迅速な人的支援のための仕組みの整備の検討
  エボラ出血熱の感染拡大に伴う西アフリカ流行3か国に対する先進諸国の人的支援の対応状況も踏まえ、国際緊急援助隊における新たな仕組み、国際機関との連携、条件整備等により、感染の発生国・地域等が求める人的支援を迅速に行うための仕組みの整備を検討する。

9 Global Health Security Agenda:米国が提唱し、世界各国での感染症対策の能力を向上させることを目的として、WHOのIHR(国際保健規則)を各国とFAO(国連食糧農業機関)及びOIE(国際獣疫事務局)等とも連携して強化する取組。
  ○国際緊急援助隊・感染症対策チーム派遣の仕組みの検討
  エボラ出血熱の感染拡大も踏まえ、国際緊急援助隊として、感染症対策チームを派遣する仕組みと併せて、そのチームに係る人材の確保及び研修や、そのチームの派遣に必要な資機材の確保及び維持・管理を含めて検討を行う。
  ○WHO等国際機関との連携
  エボラ出血熱の感染拡大においても、我が国はWHOの枠組みを通じた専門家の派遣を行ってきたが、引き続き、適時適切な人材の派遣が行えるようWHO等国際機関との連携を図る。
  ○派遣人材等の感染時の対応に係る仕組み構築の検討
  我が国より派遣した人材等が感染した場合に、派遣した人材等の健康被害を最小化し、その安全を確保するために、現地での対応や我が国への搬送等も含めた対応の仕組みを構築することを検討する。
⑤  我が国の感染症リスク評価の強化を図るための海外情報収集・分析能力の強化
  エボラ出血熱の感染拡大における先進諸国や国際機関の海外情報収集や分析等を参考にしつつ、我が国としての感染症リスク評価の強化を図るため、国際機関(WHO等)、他国の公衆衛生研究機関(米国CDC10等)との連携強化を通じた感染症情報等の収集の強化を図る。また、国立感染症研究所における検査能力等の強化、国際的に脅威となる感染症についての我が国の判断能力の更なる向上に係る方策を検討する。
⑥  グローバル・ヘルス・ガバナンスの新たな枠組みの構築への貢献
  WHO、世界銀行、他の国連機関、ドナー国、民間NGO等との連携・協力強化、IHRの履行強化支援等により、緊急時に即座に対応できる国際支援体制の構築について、平成28年のG7伊勢志摩サミットは日本がホスト国であることを踏まえ、我が国が積極的に貢献し、関連する議論の主導に努める。その際、望ましい役割分担のあり方については国連ハイレベルパネルにおける検討や様々な関連する議論にも貢献し、その成果も参考にする。

(2)国内における感染症に係る危険性の高い病原体等の検査・研究体制の整備

  今回のエボラ出血熱の感染拡大における対応を踏まえ、危険性の高い病原体等の検査・研究体制について、国立感染症研究所の体制整備、国内の大学等研究機関における基礎研究能力等の向上のための体制整備、今後の我が国におけるBSL4施設の在り方の検討等を踏まえ、我が国全体としての危機管理能力等の更なる向上を図る。

10 Centers for Disease Control and Prevention:アメリカ疾病管理予防センター
①  国立感染症研究所の検査体制の整備
  国立感染症研究所においては、積極的な情報開示や地域とのコミュニケーションを推進することにより周辺住民の不安や懸念の払拭に努め、高度安全試験検査施設(BSL4)における業務を安全に実施できる体制を整備する。
②  国内の大学等の研究機関における基礎研究能力及び人材育成向上のための体制の整備による感染症研究機能の強化
  国内の大学等の研究機関における基礎研究能力の向上及び危険性の高い病原体等の取扱いに精通した人材の育成・確保のため、病原体解析、動物実験、治療法・ワクチン開発等の研究開発が可能な最新の設備を備えたBSL4施設を中核とした感染症研究拠点を形成することにより、我が国における感染症研究機能の強化を図る。
③  我が国におけるBSL4施設の在り方の検討
  平成26年3月の日本学術会議の提言11等において、BSL4施設は科学的基盤が整備されている場所に設置されること、地震等自然災害による使用不能事態に備え、複数のBSL4施設を互いに地理的に離れた地域に建設すること、国が運営・管理に責任を持つこと等の必要性が指摘されている。
  我が国において望ましいBSL4施設の配置及び役割等については、先進諸国の動向や上記のような国内有識者の意見等も踏まえ、中長期的な視点で感染症発生時における安全の確保、検査体制の整備及び研究開発の推進の観点から検討を行うことにより、我が国全体としての感染症に対する危機管理能力の向上を図る。
④  感染症関係の研究開発の推進
  「医療分野研究開発推進計画(平成26年7月22日健康・医療戦略推進本部決定)」に基づき、国民の健康を守るために必要な疫学情報を収集し、リスクアセスメントを行うとともに、治療薬・診断薬・ワクチンの国内創出を図るべく、新興・再興感染症に関する基礎・臨床研究を推進するほか、国際科学技術協力の戦略的展開により、国際共同研究等を推進することにより、感染症対策に係る基盤強化を図る。

11 提言「我が国のバイオセーフティレベル(BSL-4)施設の必要性について」(平成26年年3月20日 日本学術会議基礎生物画学委員会・統合生物学委員会・農学委員会・基礎医学委員会・臨床医学員会合同総合微生物科学分科会)

(3)国際社会において活躍する我が国の感染症対策に係る人的基盤の充実方策

  エボラ出血熱の感染拡大における諸外国等の人材の派遣の状況も踏まえ、国際社会においても活躍することのできる感染症対策の人材について、中長期的な観点から人材基盤の質的・量的な充実方策を検討する。
①  感染症危機管理専門家養成プログラム等による人材育成の推進
  国立感染症研究所の実地疫学専門家養成コース(FETP-J)を引き続き進めるとともに、厚生労働省を中心に、感染症危機管理関係機関(検疫所、国立感染症研究所、国立国際医療研究センター等)がネットワークを構築し、平成27年4月に、新たに設置された感染症危機管理専門家養成プログラム等の着実な実施により、国際的に感染症制御のマネージメントを実施することができる専門能力を身に付けた感染症危機管理の専門家を養成し、人材の育成の推進を図る。
②  国際緊急援助隊・人材登録システムの構築の検討
  国際緊急援助隊において新設される感染症対策チームを派遣する仕組みについて、国際緊急援助隊医療チーム、WHOのGOARN登録者、厚生労働省の感染症危機管理専門家養成プログラム修了者等の人材等が、適切に登録されるシステムの構築を検討する。
③  自衛隊における感染症対応能力の向上のための人材の育成及び防衛医科大学校も含めた態勢の整備
  自衛隊の海外での活動に資するための専門性を有する人材の養成や、防衛医科大学校等を含めた態勢の整備を加速することにより、防衛省・自衛隊における感染症対応能力の向上を図る。
④  国際的に脅威となる感染症対策の国内人材の質的・量的充実方策の検討
  国際的に脅威となる感染症対策の国内人材としては、国内で発生した場合の対策に従事する人材及び海外で発生した場合に海外に派遣され得る人材(ロジティクスやエバキュエーション(退避)の調整・管理人材を含む)が必要であり、その現状の把握を行うとともに、中長期的な観点から、我が国が果たすべき役割も含め、その人材の質的及び量的充実の方策・戦略について、当該人材の育成・登録を含めて検討を行う。

(4)国内における感染防止対策及び在外邦人の安全対策の強化

  西アフリカにおけるエボラ出血熱の感染拡大等を踏まえ、我が国として、危機管理の観点から、引き続き、国内における感染防止対策及び在外邦人の安全対策の強化に取り組む。
①  国内の感染症情報の国民への情報提供の推進
  平成26年11月に成立した改正感染症法により、都道府県知事等は、全ての感染症の患者等に対し検体の採取等に応じること、また、医療機関等に保有する検体を提出すること等を要請できることとするなど、感染症に関する情報収集体制を強化した。この改正感染症法が平成28年4月1日に施行されることを踏まえ、国内の感染症情報の収集、分析を行うとともに、感染が確認された場合の対応を含め各種媒体を活用した国民への情報提供を推進する。
②  検疫所等関係機関の対処能力の向上
  エボラ出血熱の感染拡大を踏まえ、検疫所、自治体、保健所、地方衛生研究所、医療機関、警察、消防等において、引き続き、研修や訓練の継続的な実施や必要な機器等の整備により、それぞれの機関の対処能力の向上を図る。
③  感染症指定医療機関の整備
  国内で発生した感染症に対応するためには、適切な医療体制を整備することが重要である。このため、一類及び二類感染症に対する感染症指定医療機関の運営に対する補助を引き続き行うとともに、第一種感染症指定医療機関が未整備の県の解消を図る。
④  一類感染症に対する医療機関及び行政機関等における対応指針の整備
  一類感染症については、我が国ではほとんど経験がないことから、診断や治療に関する対応方針をあらかじめ医療関係者等が共有しておく必要がある。このため、西アフリカにおけるエボラ出血熱の感染拡大における我が国の対応を踏まえ、一類感染症についての行政機関等における対応方針を整備する。
⑤  検疫所の検疫体制及び国内で感染(疑いを含む)が確認された場合の対応の確保
  これまでの検疫及び国内における疑い患者の確認時の対応の経験ももとに、引き続き、水際対策としての検疫所の検疫体制を確保するとともに、国内で感染が確認された場合に備え、訓練の実施等により患者の医療機関への移送や検体の搬送等関係機関が連携した対応の確保を図る。
⑥  在外邦人に対する海外で発生している感染症に関する適時適切な情報提供及び注意喚起の徹底
  在外邦人に対し、在外公館よりホームページや領事メール等で適時適切な注意喚起を図り、感染症の発生状況によって、感染症危険情報等を発出することで、邦人保護の観点から、在外邦人に対する安全対策の実施や退避検討を促すとともに、渡航者に対する渡航の延期を呼びかける。
⑦  在外邦人感染時の緊急搬送など在外邦人の安全確保のための対策の強化
  在外邦人が万が一感染した場合には、現地での治療、第三国または我が国への緊急搬送など、医師の判断や患者等の意思等を総合的に勘案し、在外邦人が最善の治療を受けられるように、関係省庁が連携し、あらゆる手段を講じて在外邦人の安全を確保するための体制を強化する。

(5)薬剤耐性(AMR)に関する取組の推進

  薬剤耐性(AMR)に係る国内対策及び国際協力を促進・強化するため、関係省庁の連携の下、包括的なアクションプランを策定し、政府一体となってその推進を図る。

4.今後の推進体制

  本基本方針に掲げる事項については、本閣僚会議の下に、関係省庁による連絡調整を行う体制を設け、関係省庁間の連携を強化して取組を進めるとともに、今後、本基本方針に基づき、工程表を含む基本計画を本閣僚会議にて策定することとする。
  基本計画の策定に当たっては、有識者等の専門的な見地からの助言等を得つつ、戦略的に進めていくこととする。
  また、今後の基本計画等の策定に当たっては、平成28年のG7伊勢志摩サミット等を見据えて内容の検討を行うこととする。
以上