本文へ移動

首相官邸 Prime Minister of Japan and His Cabinet
言語選択
English
中文
表示選択
PC
モバイル
文字サイズの変更
中
大

有識者懇談会
~原子力被災者等との、健康についてのコミュニケーション~

  • 印刷

 現在も、原子力災害の被災者の方々だけでなく、日本社会全体が放射線の健康影響に大きな不安を感じています。こうした状況で被災者を中心によりきめ細やかに対応していくため、「原子力被災者等との健康についてのコミュニケーションにかかる有識者懇談会[1]」が開催されています。
 この懇談会には、原発事故の収束及び再発防止担当大臣をはじめ、政治家、政府関係者、専門家、市民代表が参加しています。これまで現場で活動してこられた各分野の方々に、その活動や体験等を個人の立場からご紹介いただくとともに、放射線の健康への影響にまつわる不安や住民の声について、また情報発信・共有のあり方などについて議論をしていただいています。

 最初の3回の懇談会は、東京で行いました。毎回、発表や議論の内容に基づいて次回以降のテーマを決めるスタイルで進めておりますが、その中で「住民の方との信頼関係を形成していく上では、長期にわたる健康状態の追跡や、健康管理調査などを通じての住民との対話が必要である」、さらには「被災者と思いを共有して議論をすべきである」「より被災地に近いところで開催すべきである」といった声も聞かれました。

 そういったご意見も踏まえ、第4回は福島県立医科大学で開催[2]しました。まずは大学関係者から、県民健康管理調査[3]について発表していただいた上で、その目的や、調査結果を県民に伝える際のコミュニケーションに関して議論を行いました。さらに委員の一人である福島県住民の方からは、3月11日からの1週間、どこからも情報が来ないことで、とてつもなく苦難な状況にあったことや、その後の心の葛藤など、コミュニケーションがいかに重要であるかということをお話しいただきました。
 福島県立医科大学の方々は、県と協力しながら、県民健康管理調査を中心となって進めておられ、限られた予算・人員の中で、常に被災者の目線で県民のための対応に努力しておられることがよくわかりました。
 この調査では、基本調査と4つの詳細調査(甲状腺検査、健康診査、こころの健康度・生活習慣に関する調査、妊産婦に関する調査)など、きめ細かい調査が行われています[4]。県民の健康を長期にわたって見守るための、非常に重要な調査です。懇談会の最後にも、「今後も、住民の方々の健康状況の把握・早期対応に真摯に向き合い、長期にわたる“健康の見守り”に取組んでいく」とのお話があり、たいへん感銘を受けました。
また大臣からは、今後、国が県民健康管理調査を全般的に支援するとの心強いお話もいただきました。

 この県民健康調査では、個々の被災者の健康管理はもちろん、被災者の方々の健康に放射線の影響があるかどうか、包括的な調査結果を取りまとめて調べることに意義があります。放射線の影響を調べる上では、被ばく線量の評価と疾患との相関関係を、より正確に調べることが重要になるからです。
 たとえば広島・長崎の原爆被爆者の場合、一人一人の行動や建物による放射線の遮蔽効果など、被ばく線量の推定に関わることが詳細に調べられ、記録として整備されています。
 1999年に起きたJCO事故の際にも、行動調査にもとづいた周辺住民個々人の被ばく線量が正確に推定されています。
 こうした記録があることによって、物理的な線量評価法の見直しなど、のちに新たな知見が発見されて変更するべき事項が出てきた場合でも、被ばく線量の修正が可能となるのです。

 福島の場合においても、基本調査の一つである行動記録は、個人の「外部被ばく線量」評価の基礎になります。今後、事故後の放射性プルーム(放射性雲)の動態に関する詳細な解析が進むことで、個人の「内部被ばく線量」の評価への利用も期待されます。しかし現在のところ、行動記録の回答率は全県レベルで20%台、先行調査地区でも50%台に過ぎません[5]。より正確な線量を推定するために、回答率をどうやって上げるか、さらなる工夫が必要です。

 また、子どもを対象とした甲状腺検査は、世界で初めての調査であり、引き続き注意深く見守る必要があります。この調査でも、被ばく線量と疾患の相関関係を、環境要因も含めて科学的に検討することが重要です。より正確な被ばく線量の推定のために、検査の際に行動記録を必ず記入していただくようにすることや、推定の手助けになる新たな調査項目を設けることなどを検討することも必要ではないかと思います。

 この有識者懇談会は、これまでの低線量ワーキンググループの会合と同様にネット上で公開されており、どなたでも視聴できます[6]。今後の開催についてもネット上で公開される予定です。
このほか「低線量被ばくのリスク管理ワーキンググループ」では、国内外の専門家などの意見や、最新の科学的知見も踏まえて報告書を作成しています[7]。

 これからも、低線量被ばくによる健康影響や、子どもや妊婦が配慮すべき事項、リスクコミュニケーションの在り方などについて、国民の皆さまに正確な情報をご提供するための活動を続けて参ります。


(長瀧 重信・長崎大学名誉教授
 元(財)放射線影響研究所理事長、国際被ばく医療協会名誉会長)





  1. [1] 原子力被災者等との健康についてのコミュニケーションにかかる有識者懇談会開催要綱
  2. [2] 「原子力被災者等との健康についてのコミュニケーションにかかる有識者懇談会(第4回)の開催及び動画配信について
  3. [3] 福島県 県民健康管理調査
  4. [4]福島県立医科大学放射線医学県民健康管理センター
  5. [5] 福島県 県民健康管理調査検討委員会報告書
  6. [6] 第4回原子力被災者等との健康についてのコミュニケーションにかかる有識者懇談会
  7. [7] 低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループホームページ
内閣官房内閣広報室
〒100-8968 東京都千代田区永田町1-6-1

Copyright © Cabinet Public Relations Office, Cabinet Secretariat. All Rights Reserved.